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透析療法とは?

• 腎臓の機能が低下・廃絶した人(腎不全
患者)に行われる治療で、血液をきれい
にする治療(血液浄化法)のひとつ
• 腎臓の機能を部分的に代償する治療~
腎臓の働きを補う治療である
– 腎代替療法/人工腎臓/人工透析ともよぶ
• 腎臓病を治す治療ではない
– これからずっと続けることになる

透析は腎臓の働きを補う治療法
腎臓の働き(%) 腎機能の推移と透析療法
20
腎機能 透析で
15 透析 補う
「保存期」
10
「導入期」
5 経過(年)
「透析期」 徐々に
無尿に
時間経過(年・月)

透析は腎機能が一定のレベル以下にならない様に補う
腎臓の働き
1. 尿毒素(蛋白代謝の廃棄物)などの排泄
2. 体液(体の水分)の量の調節(排泄と保持)
3. 体液の性状(電解質・酸性度など)を、一定
範囲に保つ(恒常性の維持)
4. 内分泌(ホルモン)・代謝機能 人間の体の、
約60%は水分で
血圧の調節 体液と呼ばれる
腎臓は体液の
造血ホルモンの分泌 量と性状を調節
ビタミンDの活性化 している

低分子蛋白質等の代謝・排泄
体液(体の水分)の分布と性状

細胞外液
体液分画の体重に対する割合
血漿(約5%) 細胞外液 細胞内液
間質液 (mEq/L) (mEq/L)
(約15%) 陽 Na+ 140 Na+ 15
イ K+ 4 K+ 140
オ Ca++ 5 Ca++ 2

細胞内液

Mg++ 2 Mg++ 27
細胞内液
(約40%) Cl- 103 Cl- 1
陰 Hco3- 24 Hco3- 10
イ PO4-- 2 PO4-- 100
オ SO3-- 1 SO3-- 20

有機酸 5 有機酸 -
細胞外液は血漿と間質液に
分かれ、若干成分が異なる 蛋白質 16 蛋白質 63
主な慢性腎不全(尿毒症)の症状
• むくみ、夜間の尿回数多い、尿が多い/少ない
• 疲れやすい、だるい(体調不良)、やせる
• 食欲がない、吐き気(吐く)、下痢、便秘
• 記憶力や思考力低下、不眠、怒りっぽい
• こむら返り、足のイライラ、手足のしびれ
• かゆみ、皮膚が黒ずむ、口臭(尿臭)がする
• 生理不順、性欲低下、視力低下
• 息切れ、動悸、胸痛、息苦しい(呼吸困難)
体調不良などの全身症状が多く、腎臓自体・尿の症状は少ない
尿毒症でみられる異常検査結果
認められる異常 主な原因
尿素(尿毒素)の高値 尿毒素の排泄機能の低下
カリウムの高値 カリウムの排泄量が減少
カルシウムの低値 ビタミンD不足のためCa吸収量が減少
リンの高値 リンの排泄量の減少
pHの低下 有機酸など酸の排泄量の減少
重炭酸イオンの低値 酸血症の修整ために消費される
貧血 造血ホルモン不足・赤血球寿命短縮
うっ血所見(胸部X線等) 水分・塩分の排泄力低下と貯留
透析導入の基準(part 1)
‡残存腎機能が10%以下となった時に、身体的要因・
社会的要因などを考慮して開始する
Ⅰ:末期腎不全に基づく臨床症状
1.体液貯留(全身性浮腫、胸水、腹水、肺水腫など)
2.体液異常(電解質異常、酸塩基平衡異常)
3.消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振、下痢など)
4.循環器症状(重篤な高血圧、心不全、心包炎など)
5.神経症状(中枢・末梢神経障害、精神障害など)
6.血液異常(高度の貧血症状、出血傾向など)
7.視力障害(糖尿病性網膜症、尿毒症性網膜症)
1~7の小項目のうち3個以上当てはまるものを高度
(30点)、2個を中等度(20点)、軽度1個(10点)
透析導入の基準(part 2)
Ⅱ:腎機能障害
持続的に血清クレアチニン(SCr):8 (mg/dl)以上又はクレアチ
ニンクリアランス(CCr):10 (ml/min)以下を30点、SCr:5~8
又はCCr:10~20を20点、SCr:3~5又はCCr:20~30を10点
Ⅲ:日常生活能力の障害
尿毒症で起床できないもの(高度:30点)、日常生活が著しく
制限されるもの(中等度:20点)、通勤・通学・家内労働が困難
(軽度:10点)
補:10歳以下/60歳以上、糖尿病、膠原病、全身性血管
合併症では10点加算
<Ⅰ~Ⅲの二項目以上該当、合計点数が60点以上>
(川口良人 1993)

患者をよく診て、適切な時期に導入する
血液透析の実際
-血液の流れ、透析液の流れ-
抗凝固剤
血液の流れ : 動脈側
血液ポンプ
血液回路
透析液の流れ:

動脈側
ドリップチャンバー
コンソール

動脈側穿刺針

ダイアライザー 静脈側
穿刺針

静脈側 シャント
ドリップチャンバー

静脈側
透析液 血液回路
血液透析で何が起きているのか
-透析で抜けるもの・入るもの-

<透析液>
水(ろ過・逆ろ過) ナトリウム・カルシウム

尿毒素(尿素・β2MG等)

カリウム・リン・アミノ酸等 赤血球・蛋白質等

<血液>
エンドトキシン 細菌・ウイルス等
血液透析の原理
‹拡散~尿毒素の除去
血液と透析液の尿毒素の濃度差を利用して、
尿毒素を取り除く原理で、濃度の高い血液から
濃度の低い透析液へ、尿毒素が移動する
‹ろ過(水・塩・尿毒素)の除去
透析膜をはさむ圧力の差で水分を取り除く原理
で、血液側の圧を相対的に高くすることで、透
析液側へ水分(水・塩・尿毒素)を移動させる
‹吸着~尿毒素の除去
透析膜の物理・化学的性質により、尿毒素を膜
表面や細孔に吸着して取り除く原理
拡散の原理
透析膜 • 一般的な尿毒素が、透
(半透膜) 析で取り除かれる原理
• 溶質が濃度差の方向に、
一般的な尿毒素

双方が同じ濃度になる
まで移動する
• 溶質の濃度差が大きい
と移動する力が大きい
• 溶質のサイズが小さい
ほど移動速度が速い
– 溶質ではなく、水が移動
血液側 透析液側 して濃度のバランスをと
る場合は「浸透」とよぶ
ろ過の原理
透析膜
• 透析で水分や濃度差の
(半透膜)
少ない物質(ナトリウム
等)が取り除かれる原理
ナトリウムの様な物質

• 圧力の高い方から低い
方へ、水と溶質が移動
する
• 濾過圧が高いほど移動
する力が大きい
• 血液側を陽圧にする方
法と透析液側を陰圧に
血液側 透析液側
する方法がある
逆拡散・逆ろ過現象
• 透析液中の濃度が高い
物質は、拡散により血液
血液側の圧変化

透析液側の圧変化
中に入る(逆拡散)
• 血液と透析液が向流なの
で、ダイアライザー内部
でろ過圧の逆転現象が
起きて、透析液が血液中
に入る(逆ろ過)
• 透析液中に有害物質が
あると、「逆拡散」・「逆ろ
過」で、血液中へ容易に
ろ過 逆ろ過 進入する
腎機能をどう補っているのか(1)
1. 尿毒素の排泄
拡散・ろ過・吸着による除去
比較的分子量の大きなものは抜けない
2. 体水分(体液)の調節
ろ過による除去
点滴・置換液などによる補充
3. 体液の性状・成分のバランスを保つ
拡散・ろ過による過剰物の除去
透析液からの不足物の逆拡散・逆ろ過
腎機能をどう補っているのか(2)
4. 内分泌・代謝機能

透析はこの機能を代替できていない
” 血圧の調節
ろ過による過剰水分・塩分の除去
降圧剤(昇圧剤)の服用
” 造血機能
エリスロポエチンの注射、鉄剤の補充
” カルシウム・リン代謝の調節
拡散・逆拡散による補正
活性型ビタミンD剤・リン吸着剤の服用
” 低分子蛋白質等の代謝・排泄
拡散・ろ過による除去
腎機能を十分に補っているか
‡「一回4時間×週三回」のHDで、Kt/V urea:0.9~1.9
は、糸球体ろ過10~20 ml/分に相当(木村玄次郎 1995)
‡単純に治療時間で比較すれば、約7%(12/168時間)
にすぎない(金田浩 2003)
‡EKR(equivalent renal clearance)でも、尿素で十数%、
分子量の大きなものでは、もっと低い(Clark WR 1999)

溶質 尿素 Creatinine イヌリン β2MG


EKR(ml/分) 13.4 10.8 3.7 4.8

腎機能の一部は代替不可、間欠的治療という点も問題
不十分な腎代替療法と透析生活
z現在の透析療法は、腎臓の働きを部分的に
補っている不完全な代替治療であり、また本
来の腎臓とは異なる間歇的な治療法である
‹つまり腎臓の働きを十分に補うことができて
いないから、透析生活には食事・水分などの
制限が必要となるし、また長く透析を受けて
いる間に、合併症などが生じてしまう
‡従って少しでも余裕のある透析生活を過ご
すためには、十分に腎臓の働きを補う(透析
をする)必要がある
血液透析の問題点
‡治療法としての問題
9間欠的な治療法であり、治療頻度が低い
9一回あたりの治療時間が短い
9時間あたりの治療の効率が高いため、体液の
性状や量が急に変化する
‡人工腎臓としての問題
9補えていない腎臓の働きがある
9腎機能相当量が、現実的には不十分である
‡治療費用(コスト)がかかる
‡一人で全行程を行うことは難しい
生体腎と人工腎の大きな違い
<生体腎>24時間連続的に働き、尿毒素濃度・体液の
性状や量などの変化が少ない
<血液透析(人工腎臓)>比較的短時間(3~5時間)の
間欠的な治療なので、尿毒素濃度・体液の性状や量な
どが、透析前後で急に変化する 短い時間に尿毒素濃度
尿毒素濃度や体重

や体重が急に変化する

人工腎

生体腎

透析 透析 透析
尿毒素濃度や体重 腎臓に近い透析~頻度を高く

透析頻度を
高くする

<透析><透析><透析><透析><透析><透析> 時間(日)

‹治療頻度を高く(週当たりの回数を多く)して、
透析一回ごとの変化を小さくする
‡変動の幅を小さくすることが期待できる
☆連続>毎日>隔日>週3回>週2回
尿毒素濃度や体重 腎臓に近い透析~時間を長く

透析時間を
長くする

<透析> <透析> <透析> 時間(日)

‹十分な時間をかけてじっくり行うことで、単位時
間あたりの変化を緩やかにする
‡変動の速度を緩やかにすることが期待できる
☆連続>8時間>5時間>4時間>3時間
透析条件
-透析の内容を決めるもの-
1. ダイアライザー(膜の種類・性能・大きさなど)
2. 血流量
3. 透析液流量、透析液組成(種類)
4. 透析時間、頻度(週あたりの回数)
5. ろ過量/除水量
(ろ過量・ろ過法・希釈法・置換液など)
6. 基礎体重(目標体重)
血液透析を実施す
7. 抗凝固剤(種類・量・投与法) るためには、1~8
8. その他(点滴・注射など) の様な条件を決め
ることが必要
平均的な血液透析条件*
1. ダイアライザー(膜面積1.54m2の高性能膜)
2. 血流量(192 ml/分)
3. 透析液流量(485 ml/分)
4. 透析時間(3時間59分×週三回)
5. 限外ろ過量(4.6% DW)
<患者の基礎体重:52.6 kg>
*「わが国の慢性透析療法の現況 2002年12月31日」

平均的な透析が一番いい透析とは限らない
よい透析を受けるために大事なことを考えてみよう
望ましい透析条件・データ
1. 透析時間が長い(4.5~5時間以上)
2. 十分な透析量の確保(Kt/V urea:1.4~1.8)
3. β2マイクログロブリンの十分な除去(≦30 mg/L)
4. 透析間体重増加が基礎体重の2~6%以内
5. 心胸比が小さい(CTR≦50%)
6. 高血圧の十分な治療(平均血圧80~120mmHg)
7. 良好な栄養状態の維持(血清アルブミン≧3.5g/dl)
8. 筋肉量の維持(%クレアチニン産生速度:100%≦)
9. 適切・十分な蛋白質摂取(nPCR:0.9~1.3 g/kg)
10. 貧血の改善(ヘマトクリット:30~35%)
11. リンの管理(4.0~6.0 mg/dl) 98年~00年の「わが国の慢性
透析療法の現況」より抜粋
よりよい透析生活ために大切なこと
1. 十二分に尿毒素を取り除く
体液の成分・性状の異常を修正する
2. 体液量を適切な範囲に保つ
過剰な水分・塩分を、きちんと取り除く
3. 十分な食事をとり、栄養状態を良くする
適度な運動もして、筋肉量を維持する
4. 透析の合併症・全身の合併症(糖尿病や
高血圧)などを、適切に治療しておく

1~11のデータの意味するところをまとめるとこうなる
尿毒素除去で大事なこと
<透析時間と頻度>
腎機能代替量(透析量)を決める最重要因子
患者によらず十分な治療時間の確保が必要
<尿毒素除去効率>
患者の体格や病状等に応じて、適切なダイアラ
イザーの選択や血流量の設定などを行う
<ろ過型治療(血液透析ろ過)>
患者の病態などにより、血液透析ろ過(HDF)を
選択し、尿毒素の除去効率・除去量を改善する
尿毒素の除去~透析量
• 透析は「腎臓の働きを補う治療」である
• 「透析で補った腎臓の働き(腎代替量)」は
「尿毒素を除去した(浄化した)体液の量」
で表され、これを「透析量」とよぶ
• 一回の透析での透析量(浄化体液量)は、
「透析効率(K)×時間(T)」で表される
透析量 透析効率 治療時間
(仕事量) = (作業能率) × (労働時間)
透析時間と頻度(回数)
「一回4時間×週三回」は当たり前か?
• 透析時間は長ければ長いほどよい
– 腎臓は24時間働いていることを考えると、たとえ30
分であっても、延長した方がよい
– 除水が終わっても最後の数分を省略しない
– 反復される水引(ECUM)は時間の無駄であるから、
その分透析時間を15分でも延長する
• 頻度は高ければ高いほどよい
– 週三回は、次の透析までに尿毒症症状が出ないた
めの最低限の回数として選ばれただけで、医学的
に「適正」である根拠はない
尿素毒素の除去効率
‡血液透析(HD)での、効率への影響因子
9ダイアライザーの性能・膜面積(1.5m2以上)
9血流量(200~300 ml/分)
9透析液流量(500 ml/分以上)
9ろ過量(除水量~原則的に体重増加量)
‡血液透析ろ過(HDF)での、効率への影響因子
9補液量(置換液量)~ろ過量
9ろ過速度と補液方法など
¾患者の体格、病状、食事摂取状況、透析時間な
どを勘案して、十分に高く設定する
ダイアライザー

相対的な差が大きい
• 血液透析で血液を浄化 <膜面積と除去効率>
200
する心臓部である ml/分
• 透析膜の種類や構造な 150
どで分類される
• 透析膜の素材の持つ化 100
0.6
学的な特性、厚さ、細孔 1
50 1.3
の大きさ・数・分布など 1.6
により、性能が決まる 1.9
0
• 透析膜は血液と濃厚に 尿素 VB12 ミオグロビン
MW:60 MW:1355 MW:17500
接触するので、高い生
体適合性が求められる 分子量が大きな物質ほど、
– 生体適合性は26頁参照 膜面積の影響を受ける
ダイアライザーの選択(膜面積)
9 中~大分子の尿毒素除 <体重と膜面積の目安>
去のためには、膜面積を 基礎体重 膜面積
大きくすることが必要
9 筋肉量の多い人、十分に 60 kg以上 2.1 m2以上
食べる人、元気な人(活 50~60 kg 1.8 m2以上
力のある人)などでは、よ
り大型を選択する 40~50 kg 1.5 m2以上
9 体調等をみながら、1クラ
40 kg以下 1.2 m2以上
スずつ大きくする
9 HDF(後述)では、目的と 可能なら生体適合性が高く、
する尿毒素除去に相応し 膜面積が大きいものの方が、
い膜を選択する 十分な効率が得られる
クリアランス( 血流量と透析液流量
200 ml/分 500 ml/分 尿素
尿素
VB12
VB12
除去効率)

ミオグロビン
ミオグロビン

血流量 透析液流量

‡分子の小さな尿毒素は血流量と透析液流量の影響を
強く受けるが、分子の大きな尿毒素は、ダイアライザー
の性能(篩係数など)や大きさ(膜面積)の影響を強く
受ける(前頁参照:図は峰島三千男 1997改変)
‡高性能ダイアライザーの力を十分に引き出すためには、
血流量・透析液流量を多くすることが必要
血液量と透析液流量の設定
„血流量
• ダイアライザーの性能を十分に引き出すため
には、少なくとも250 ml/分程度は必要
• 特に筋肉量の多い人、十分に食べる人、元気
な人(活力のある人)では、十二分な血流量を
確保する(上限は個人により異なる)
• 1~4週で10 ml/分程度ずつ増加するとよい
„透析液流量
• 一般に「血流量×2」(500 ml/分以上)が目安
• 高血流量の場合やon-line HDFの場合は、
500 ml/分以上の透析液流量を確保したい
ろ過型治療(HDF)とは?
‹尿毒素の除去量を増やすために、積極的
に補液をしながら、ろ過量を増加した治療
→血液透析ろ過(hemodiafiltration:HDF)
増加水分

増加水分
補液分の
除水量

ろ過量
+除水量
(尿毒素の
補液
除去量も
増加する)

<血液透析:HD> <血液透析ろ過:HDF>
ろ過型治療(HDF)の特徴
0.9
β2MGの 0.8 HF* HDF
除去率 0.7
0.6 HD
0.5 尿素の
除去率
*HF:血液ろ過 0.4 0.6 0.8 1.0
„ 「ろ過」は生来の腎臓と同じ血液浄化の原理であり、
それを積極的に取り入れたHDFは、HDよりも生理的
な治療法と考えられる
„ HDFでは分子量が小さい尿毒素の除去効率を落とす
ことなく、比較的大きな尿毒素(β2-MGなど)をHDよ
り効率よく除去できる(図は佐藤威 1996 改変)
HDFの適応症状・病態
-通常HDでは改善され難い症状が対象-
• 透析アミロイドーシスの骨・関節症状
• 皮膚そう痒症、皮膚乾燥症、色素沈着
• いらいら感、不眠
• むずむず足症候群(Restless legs syndrome)
• 末梢神経障害
合併症の発症遅
• エリスロポエチン不応性貧血
延や生命予後の
• 尿毒症性心外膜炎 改善も期待される
• 透析時低血圧
• その他(動脈硬化、栄養障害、易感染性など)
– 中分子・大分子尿毒素の関与が推定される病態
HDFの治療目標と注意点
β2MG除去率 >80%
治療目標
α1MG除去率 30~40%
(金成泰 2000) アルブミン損失量 2~4 g以内
‡HDFの治療効果を上げるためには、十分なろ過量(補
液量)を確保すると同時に、基本的な透析条件(時間・
血流量など)も上げることが大事である
‡透析液を補液として使用するon-line HDFでは、清浄化
した透析液の使用が必須である(29頁参照)
‡ダイアライザー(透析膜)によっては、アルブミンなどの
損失にも注意が必要である
‡倦怠感などのHDF不均衡症状やHDFリバウンド症状
(翌日)が認められた時には、治療条件を緩める
適正な透析をどう評価するか
-尿毒素の代表:尿素の濃度変化からみる-
前値? Urea
BUN( mg/dl

Kinetics

平均値?

後値?

HD HD
„ 尿素窒素(BUN)値は一回ごとの変動が大きく、HD前
値は透析以外の要素(次表)の影響を、HD後値は採
血(リバウンド:23頁参照)の影響を受けやすい
„ 平均値は、Time Averaged Concentration of BUN:
TAC BUN(タックビーユーエヌ)と呼ばれ、異なる治療
条件での治療効果の比較にも使える
尿素窒素(BUN)への影響因子
濃度変化 透析量 蛋白質摂取量 その他の理由
BUN上昇 不足 多い(増加) 異化亢進
消化管出血
脱水など
BUN低下 十分 少ない(減少)

• 尿素窒素(BUN)の値は、透析量の多寡以外の理由
でも、変化(上昇・低下)する
• 尿素は蛋白質の代謝産物なので、特に蛋白質摂取量
の影響を強く受けるが、その他にも影響因子がある
• 比較的均一な「一回4時間×週三回」の条件下では、
食事摂取量の影響が最も大きいともいえる
透析でどれだけ抜いたかみる
• 透析前と透析後の濃度 前値
の変化から、除去程度 逐次測定する
を計算する

前後値で計算する
on-line monitor
– 除去率
– 標準化透析量(Kt/V)
• 透析排液を貯めて測定
する(全量または除水
の分の排液を使う)
– クリアスペース(除去量
÷治療前濃度)
• 逐次で監視・測定する 透析排液
(on-line monitor) を貯める
– 専用の機器が必要 後値
Urea
尿素除去の目標値 Kinetics
¾尿素窒素(BUN):50~80 mg/dl(透析前)
¾TAC BUN:30~50 mg/dl
(週1回目透析後BUN+週2回目透析前BUN)÷2
BUN値は透析効率と食事摂取量のバランスで変化する
¾尿素除去率:75% 以上
{1ー(透析後BUN÷透析前BUN)}×100
¾KT/V urea:1.6以上
透析前後のBUN濃度と自然対数を用いて計算する
KT/V = -ln(BUN後値÷BUN前値)が基本
実際には数種類の計算式があるが、上述の目安の値は、
透析医学会の用いる式(新里 1994)による場合
Urea
標準化透析量の意味 Kinetics

K:効率 T:透析時間
ダイアライザーの性能 K・T
血流量、透析液流量
ろ過量(除水量) V V:体液量

‡KT/V(ケイティーオーバーブイ)とは、透析量(KT:
効率×時間)を、患者の体液量(基本的に体格に依
存する)で割ることで、標準化している(相互に比較
できる様にしている)
‡「KT/V=1.0」とは、理論的に「全体液を一度きれい
にしたこと」を意味する
標準化透析量の問題点 Urea
Kinetics
‹ カタログデータ等から求める場合
‡ K(効率):治療中の効率は一定ではない
• ダイアライザーの性能は使用中に変化する
• 血流量は一定とは限らず、また除水(ろ過)量は透析ごとに異なる
‡ T(時間):治療途中での停止などがありうる
‡ V(体液量):血流の不均等分布などがあると、計算値(尿素の
分布容積)と実際の体液量が合致しなくなる
‹ 透析前後のBUN値から計算式で求める場合
‡ 計算式には、尿素の体液への分布や移動に、仮定した条件が
入る(体液の1プールモデル、2プールモデルなど)
‡ 透析後BUN値の影響が大きい(標準的採血法の遵守を)
• 体の組織への血流量の不均等分布などがあるため、リバウンド現象な
どの影響を受け、正確な値が求めにくい(23頁参照)

KT/Vの大小にはKT(透析量)の多寡だけでなく、V(体液量/体格)
の大小が大きな影響を与えうるので、評価には注意が必要
リバウンド現象とは? Urea
Kinetics
尿素窒素( BUN
正しい透析後の
BUN値はこちら? 除去率や
Kt/V urea
等のデータ
リバウンド を過信して

はいけない

<透析> <透析終了後>
‡ BUN値は透析終了後、短時間で急上昇する現象が知られてい
て、これをリバウンド(現象)と呼ぶ
‡ リバウンドの原因として、シャント再循環や心臓・肺の再循環
(ダイアライザーを巡らない血液循環)、および内臓と手足(筋
肉)の血流の不均等分布(血液循環の偏り)などが考えられる
‡ リバウンドが大きいと、透析後データは不正確になる
‡ 望ましい採血は透析後45~60分程度とされるが実際的でない
体の組織への血流の不均等分布

不均等分布
透析中に、

内臓
心臓
下肢の運

筋肉
動をすると、
透析効率
が向上する
という研究
もある

‡ 血圧低下時などには、内臓の血流を維持するために、尿毒素
のプールとでも言うべき筋肉の血流が減少するので、血流の
不均等な分布が起きて(悪化して)、透析効率が低下する
‡ 末梢の血管を収縮させて血圧を上げるタイプの薬は、手足
(筋肉)の血流をさらに減らす可能性がある
‡ 適切な基礎体重を決め、安全な透析間体重増加範囲を守り、
除水をうまく行って、血圧低下と昇圧剤の使用を避けたい
尿素以外の尿毒素除去は?
• 尿素は分子が小さく、体液中に一様に分布し、
移動も速やかであると考えられているため、
尿毒素除去の指標として用いられている
• 尿毒素には分子の小さいものから大きいもの
まで、また同定されていないものもある
• リンの様に分子が比較的小さくても、尿素とは
異なった動きをするものがある他、β2マイク
ログロブリン(β2-MG)の様に分子の大きな
尿毒素の動きも尿素とは異なる
‡十分な尿毒素除去ができているかどうかは、
リンやβ2-MGなど、他の尿毒素のデータも併
せて、総合的にみる必要がある
その他の尿毒素の評価
¾リン:3.5~6.0 mg/dl
– 食事摂取量が少なくても低くなるので注意が必要
¾クレアチニン:男12~15 mg/dl以下
女10~13 mg/dl以下
– 筋肉量と関連するので、除去量だけを反映しない
– 適正な筋肉量(%クレアチニン産生速度など)が維
持されている状況下では、低いほどよいといえる
¾β2マイクログロブリン:20~30 mg/L以下
– 除去量だけに影響されるのではなく、体に炎症が
あったりすると高値を示すので、判定には注意
体液分画と物質の移動と分布
-細胞内の尿毒素除去には時間がかかる-

細胞内液
間質液
透析液

血漿 細胞内の尿
毒素の除去
には時間が
必要

透析膜: 基底膜: 細胞膜:


物質の 物質の 物質の 高効率・短時間の透析で、
移動は 移動は 移動は きれいになるのは血漿だけ
速やか 早い 遅い
透析は腎臓の働きを補う治療
‹一番大事なことは、「十分に腎臓の働きを補
うこと」、すなわち「十分に透析をすること」
• 合併症の治療においても、薬などの対策だけ
でなく、「十分な透析」が重要である
‡透析量(効率×時間)を増加させるためには、
効率も高く、時間も長く、両者を大きくする
‹「一回4時間×週三回」は「最低限の透析」と
認識して、少しでも透析量を大きくしよう

「透析のやりすぎ」よりも「透析不足」の心配しよう
透析治療と生体適合性
1. 血液・透析膜間反応
– 透析膜の水酸基(OH基)、陰性荷電、表面
構造、透過性、蛋白質の吸着性
2. 透析液の組成や汚染
– 酢酸、エンドトキシン混入など 体に優しい
性質とも、
3. 回路や透析膜からの溶出物 表現できる
4. 滅菌法、残留消毒薬(EOGなど)
5. その他
生体適合性が高い:からだの生理機能(補体系、免疫
系、凝固・線溶系など)に与える影響が少ない性質
血液透析の生体系への影響
生体のしくみ 主な作用
血液凝固・線溶系 血小板の活性化、凝固系の活性化、血
栓形成の促進など
補体系 補体系(Alternative pathway)の活性化と
それに伴う白血球活性化、炎症反応の
惹起、組織の傷害など
キニン・カリクレイン系 ブラジキニン産生亢進など
免疫系(白血球) サイトカインや接着因子の放出、炎症反
応の惹起、酸化・カルボニルストレスの増
加、免疫能低下など

血液透析は体の多くの生理機能に影響を及ぼす治療
抗凝固剤
• 血液が透析膜(ダイアライザー)や回路に接触する
と、凝固系(主に内因系)が活性化される
• 血液凝固を阻止する薬が必要(作用部位:下図)
• 作用時間や病態(出血の危険性など)を考えて、種
類・量・投与法などを決める
活性化
ヘパリン
内因系
凝固 Ⅹ プロトロンビン フィブリノーゲン

外因系 Ⅹa トロンビン フィブリン


凝固
低分子ヘパリン アルガトロバン
抗凝固剤の種類と特徴
ヘパリン 安価で一般的、作用時間1~2時間、ATⅢと共に
抗Ⅹa因子・抗トロンビン作用を示す、プロタミンで
中和可能である
副作用は、出血を助長しやすい他、血小板減少・
脂質代謝異常・骨軟化症などが懸念される
低分子 やや高価、作用時間2~4時間、ATⅢと共に抗
ヘパリン Ⅹa因子作用を示すが、抗トロンビン作用は弱く、
プロタミンで中和できない
出血を助長し難く、ヘパリンより副作用が少い
アルガトロバン やや高価、作用時間40分程度、抗トロンビン作用
FUT(フサン) 高価、短時間作用(約23分)、種々の蛋白分解酵
素阻害作用により凝固系の活性化を抑制する、
出血時でも使用可能、希にショックを起こす
透析液とその主な成分
• 尿毒素を効率よく除去しつつ、体液の乱れた性状(電
解質や酸塩基平衡)を修整できる組成となっている
• 透析液は、透析膜を介して、血液中に直接入りうるも
のなので、きれいな透析液が必須

成分 Na K Ca Cl HCO3-
透析液 138~143 2.0 2.5/3.0 100 25~30
mEq/L mEq/L mEq/L mEq/L mEq/L
正常血漿 135~145 3.5~4.5 約2.5 96~108 21~27
透析効果 不変・ 低下 不変・ 不変・ 上昇
上昇 上昇 低下
透析液成分の調整・選択
成分 考慮すべき点
Na+ 血圧低下傾向がある場合などは、やや高い濃度(143~
138~ 145 mEq/L)設定がよい
143 意図的にNa濃度を高くして、それに併せて除水量を多く
mEq/L 設定する高Na透析(SUGM)という方法もある
K+ 透析効率を上げた時や食事摂取が少ない時は、透析後
2.0 低K傾向になり、不整脈・脱力感などの原因となりうる
mEq/L 従来の2.0 mEq/Lより高めの設定が必要な場合がある
Ca++ 3.0 mEq/LはCaの負荷に、2.5 mEq/LはCaの除去になる
3.0/2.5 2.5 mEq/Lは、副甲状腺機能低下症、異所性石灰化、高
mEq/L Ca血症などの病態や活性型VD製剤のパルス療法時に
有用だが、PTH分泌刺激にもなるので注意が必要
透析液調整システムの概観
水道水 活性炭濾過
軟水化装置
(原水) (吸着)装置

プレフィルター
逆浸透(RO)
装置
ETフィルター

透析液調整 エンドトキシン
コンソール
装置 (ET)フィルター

透析液を補液とするon-line HDFではもちろん、通常の
HDでも、逆ろ過現象により、透析液は血液中に入る
ETなどで汚染されていない清浄化透析液が必須である
透析液のET除去の効果
¾ EPO不応性貧血(腎性貧血)の改善
– EPO使用量の低減
– 貧血の改善(RBC寿命延長、造血能改善?)
¾ 透析アミロイドーシスの進展抑制
– CTSの発症頻度の低下
– β2MG濃度の低下(β2MG産生低下)
¾ 動脈硬化や栄養障害の低減(軽症化)
– 慢性炎症/体蛋白異化/透析時低血圧の改善
¾ 生命予後の改善?

基準 ET:測定感度以下、細菌数:0.1 CFU/ml以下
体液量管理で大事なこと
<基礎体重(ドライウェイト:DW)>
体水分を適切な状態に維持するために、
透析の時に管理目標とする体重
<透析間体重増加(ΔBW)>
透析間に基礎体重から増加した分をさす
基礎体重(kg)に対して、一日あたり1.5%程
度が増加する体重の量の目安
<除水の工夫>
循環血液量の急な減少を避ける対策
適正な基礎体重(DW)とは?
‡体水分が過剰である症状(むくみ・体腔液貯留・
心不全症状などの溢水兆候)や、過少である症
状(HD時の血圧低下・筋痙攣・透析後疲労感な
どの脱水兆候)が無く、血圧も良好な体重
→「患者の体調が最もよい体重」
¾算出する一定の公式はなく、患者の体調、臨床
所見(血圧など)、補助的な検査(胸部X線写真
など)を参考に決定される
¾実際の運用上は曖昧な部分がある
¾透析生活を通じて一定ではなく、必ず変動する
基礎体重を上げる時・下げる時
‡基礎体重を下げる検討をする時
• 透析前に息切れなど心不全症状がある時
• 透析後にも浮腫やうっ血肝などが認められる時
• 風邪や下痢などで体調を崩した後や大きな手術の後
• 日頃の血圧が高い時(高血圧の管理が難しい時)
‡基礎体重を上げる検討をする時
• 透析終盤で血圧が下がる(収縮期圧100 mmHg程度)
• 透析終盤で足がつったり、声が嗄れたりする
• 透析後の疲労感が強い時
透析者も太ったり、
• 日頃の血圧が低い時 痩せたりする
基礎体重の調整の実際
‡基礎体重の調整はこまめに行う
‡基礎体重の0.5~1.0%程度ずつ変更する
• 透析経過記録で透析中の血圧変動、透析間体
重増加量、実際の透析終了時体重などが、体
重増減のヒントになる
• 基礎体重(DW)を評価する検査は、できれば複
数のものを活用するのが望ましい
– 胸部X線写真(心胸比)、心臓超音波検査(下大静
脈径)、HANP、体成分分析(浮腫率:細胞外液量/
体液量比)、循環血液量変化、血液濃縮率など
DW評価:心胸比(CTR)
• 心臓の影の大きさと、胸の幅(胸郭)の比率
• 一般的には男性50%以下、女性55%以下(透析後)
• 個人(心肥大の有無等)により適正な範囲がある

1kgの体液貯留で
心横径が4mm、心
胸比が1.5%増加す
るという説もある

吸気の程度、写
真の計測法等で
誤差が出うる
心嚢液貯留 心筋の肥大 内腔の拡張
DW評価:下大静脈径測定
<IVCe> <IVCi>

吸気径( mm
呼気径( mm

肝臓 肝臓 下大静脈径は中心静脈圧
を反映し、体液量の指標
Bモード・矢状断・肝静脈合

) 流部の遠位2cmで測定
IVC IVC
(安藤康宏 1991)
z IVC径と虚脱指数(CI)=(IVCe-IVCi)÷IVCeで判定
‡透析患者の管理目標
透析後のIVCe = 6~10 mm、CI>0.8 心疾患やIVCの
‡心不全の兆候 観察が困難な例
には向かない
透析前:IVCe≧22 mm、かつCI≦0.22
DW評価:HANP/浮腫率/血液濃縮
‹HANP(透析後)
¾ HANPの正常値は20~40 pg/mlだが、
HANPと浮腫率も、
20~60 pg/ml程度を管理目標とする
患者により適正な
‹浮腫率(透析後) 値の範囲がある
¾ 浮腫率(細胞外液量/総体液量)の 経時的な観察が
正常値は0.350以下だが、0.300~0.360 望ましい
程度を管理目標とする
‹血液濃縮の程度:%BV(血漿量)変化÷%体重変化
¾ 循環血液量モニター(クリットライン)での血液量(BV)変化、
透析前後のHctやTP変化から計算した血漿濃縮率を用いる
¾ 血液濃縮の程度は、その時の除水量によって異なるので、
基礎体重の1%除水に対し、2~4倍程度の範囲のBV変化が
適切と考えられる
浮腫率( HANPと浮腫率によるDW決定法
高め・低 心不全の
高め
細胞外液量/総体液量)

栄養など 危険性
0.360

0.350 心疾患・心
高め・心
低め 適正 不全の危
疾患など 心房性
険性など
利尿ペ
プタイド
0.300 (HANP)
20 60 100 pg/ml
浮腫率を体水分量の指標、HANPを血管内水分の指標と考え、
両者の組み合わせで、適正な基礎体重を評価する方法
透析間の体重増加(ΔBW)
• 透析と透析の間に、食事や飲みのものを摂取
すると、当然体重が増加する
• 透析と透析の間の体重増加は、多すぎない方
が楽に透析が受けられるし、心臓などへの負担
も少なくなる(長生きできる)
• 透析間体重増加(ΔBW)の目標
¾透析間が一日の時:基礎体重の3%以内
¾透析間が二日の時:基礎体重の5%以内

透析間の水分過剰は、心不全の原因となる
体重増加を抑えるには
-まず塩分制限より始めよ-
• 適正体液量の維持には、塩分・水分摂取を控える
‡塩分摂取量:5~6 g程度
‡水分摂取量:基礎体重(kg)×15 ml以内
¾特に塩分の摂取を抑えないと、必ずのどが渇く
¾塩分摂取量と水分摂取量は、強く関連する
• 糖尿病の人は、血糖の管理をきちんとする 体重測定の
高血糖ものどが渇く原因になる 習慣を!

• 塩分量を「基礎体重(kg)×0.15(g)」とする意見もある

食事を抜いて体重を調節してはいけない
水分の出納をもう一度考えてみる
摂取される水分

排泄される水分
不感蒸泄:
食事の水分:
700~800 ml
1000~1200 ml

体に溜まる水分:
飲水:500~600 ml 800~1000 ml

代謝水:200 ml 便の水分:100~200 ml

• 食事中の水分、尿量、発汗等で、割合は変化する
• 透析患者の体重増加は、主に水分摂取量と食事の水
分含有量によって決まる
• 多少の便秘があっても、それが透析間体重増加の主
な原因となる可能性は極めて低い
ΔBWと塩分摂取量の推定
• 透析間のナトリウム(Na)摂取量は、以下の式で
求められる(木村玄次郎 1986)
‡透析間Na摂取量=「週2回目透析前Na濃度×
(基礎体重×0.6+体重増加量)」-「週一回目
透析後Na濃度×基礎体重×0.6 」(mmol)
‡透析間塩分摂取量
=透析間Na摂取量(mmol)×58.5÷1000(g)
– 体液量を基礎体重の60%で計算しているが、実際には女性や
高齢者の体液量は少い(例:中年男55%、中年女47%)
– 「除水量1L≒塩分8 g」とする考え方もあるが、実際の塩分摂
取量より、やや多く見積もる傾向がある
除水(水分の除去)とろ過
• 「除水」とは、基礎体重から増加した分の水分(体重)
を、「ろ過」の原理で取り除くこと
• 「除水」により、透析前後で体重が変化する
‡透析現場で決める「設定除水量」=
「基礎体重からの増加分(前体重ー基礎体重)
+透析中の食事量(と水分量)
+点滴や補液の量
+開始・返血操作に伴う生食の調整分」
9 「設定除水量」には、体重変化の無いものも含まれる
9 最大除水速度を決定したり、運用したりする時には、
体重変化の無い点滴等は除外して考える
除水の実際
点滴・補液
除水(ろ過)

食事
血液

透析間の増加水分
(血漿)

(主に間質液)
血漿再充填
血液量の変化は、主に除水速度と血
漿再充填の速度のバランスで決まる
水分の除去(除水)と血液量(BV)
0 1 2 3 4 時間
血液量減少率

0%
-5% BVは透析の
-10% 経過に伴い
減少する
-15%

‡ 透析では血液中から水分を除去するが、その水分は間質液
(細胞外液)からの水分移行(血漿再充填)で部分的に補わ
れるものの、循環血液量(BV)は徐々に減少する
‡ 循環血液量モニター(クリットライン)では、BVの減少量や
BV減少速度などを観察することができ、血圧が低下する原
因を考える参考になる
点滴(補液)と食事(水分)の違い
• 点滴(補液)は直接血管
内に補われる
点滴 血管 • 血液量の変化は無く、体
重変化も無い

• 食事は一旦消化管に入
食事 血管 り、消化・吸収されてから、
血管内に戻る
• 血液量が一時的に(15~
120分)減少して、血圧が
消化管 低下する可能性がある

透析中の点滴で血液量変化は起きず、血圧は低下しない
透析で血圧が下がる時
• 除水量が多すぎる時(ΔBWが多い場合など)
• (時間あたりの)除水速度が速すぎる時
• 基礎体重(除水の目標体重)が低すぎる時
• 心臓の働きが低下していて、除水による血液量
の減少に、心臓が対応できない時
• 血管の収縮性を調節する自律神経の働きがよ
くない時(血圧がうまく調節できない場合)
• 透析中の食事(や飲み物)の摂取
• 透析中の体温上昇
血圧低下の原因をよく探り、
• その他
適切な対応を検討しよう
透析中の血圧低下への対策
‡ 循環血液(血漿)量減少への対策
z 基礎体重・透析間体重増加の再検討
z 除水の工夫(プログラム除水・血漿再充填の改善など)
‡ 心拍出量低下、循環不全への対策
z 強心剤(ドブタミン、ジギタリスなど)の投与
z 除水の工夫、HDFへの変更
‡ 自律神経の調節の異常への対策
z 昇圧剤(エホチール等)の投与
z 透析液温度の低下(56頁参照) どの様な原因でも、
z 除水の工夫、HDFへの変更 「除水の工夫」は試み
る価値のある対策
‡ 食事・飲水への対策
除水の工夫(その1)
‡水分と塩分の摂取を抑え、透析間の体重増加を少なく
して、除水量を少なく抑える
‡時間あたりの除水速度を均等にするのではなく、血漿
再充填は「透析前半が多く、後半になるに従い減少す
る性質」を考えて、時間ごとに除水量を配分する
除水配分 1時間目 2時間目 3時間目 4時間目
3%シフト 30% 27% 23% 20%
5%シフト 33% 28% 22% 17%
7%シフト 36% 29% 21% 14%
10%シフト 40% 30% 20% 10%
(4時間透析での例)
除水の工夫(その2)
‡血漿再充填を改善させる
‹透析液Na濃度の調節の例
—透析後半(終了2~3時間前から)の透析液Na濃度
を正常上限値(Na:145 mEq/L)程度まで上げる
—透析開始時から透析液Na濃度を高く設定して、終
了時までに徐々に低下させる(同時に除水量も最初
に多く、以後徐々に少なくする:SUGM 28頁参照)
‹浸透圧物質(グリセオールなど)の点滴
‡HDによる電解質変化等を避けながら、除水を
達成したい時には、「水引き(ECUM)」を行う
‡その他(食事の時間・量など)
—食事は透析の前半にとるか、終了後にする
よい栄養状態の維持に重要なこと
<適正な透析>
• 適正な透析と十分な食事の摂取は、表と裏
の関係にある
<適切で十分な量の栄養摂取>
• 透析患者は栄養不足となりやすいので、制限
はあるけれども、十分な食事の摂取が必要
<栄養状態の評価>
• 栄養状態を的確に把握する
<適度な運動>
• 体を動かす習慣をつけて、筋肉量を維持する
透析患者は栄養障害になりやすい
‡尿毒症による食欲低下
尿毒症(レプチン高値など)による食欲低下、不適切
な食事療法(量の不足と質の低下)など
‡蛋白代謝異常による障害
アミノ酸代謝異常、酸血症、透析に伴う慢性的「炎症」
状態による異化亢進(MIA症候群)など
‡エネルギー代謝異常による障害
内分泌異常(インスリン抵抗性など)、脂質代謝異常
‡透析による栄養素の喪失など
アミノ酸やビタミン類の除去、エネルギー消費量増加
透析不足と栄養障害の悪循環
悪循環を断つには、
まず適正な透析を 透析前
尿素低値

透析不足 蛋白質
(透析量不変) 摂取不足

食欲不振は
食欲不振 尿毒症の症
(Man NK, Zingraff J, 状のひとつ
Jungers P 1995 改変)

十分に透析すること(よく抜き)、十分に栄養を摂取
すること(よく食べる)が、最も重要である
MIA症候群(低栄養/炎症/動脈硬化症)
サイトカイン
TNF-α、IL-6など

Malnutrition:低栄養 Inflammation:炎症
尿毒症病態、酸血症、 慢性感染症、心不全、
食事制限や摂取不良、 機器の生体「非」適合性、
エネルギー消費亢進など 異化作用亢進など

Atherosclerosis:動脈硬化
カルシウム・リン代謝異常、
脂質代謝異常、凝固能異常、 (Stenvinkel P
高血圧・糖尿病・高尿酸血症など 2003 改変)
透析食の目安
‹蛋白質・熱量は標準体重あたりで計算
標準体重=身長(m)×身長(m)×22
‡蛋白質は一日1.0~1.2 g/kg 程度
‡熱量は一日35 kcal/kg 程度を標準とする
肥満・糖尿病の人は、30 kcal/kg とする
‡塩分の摂取量は一日5~6 g程度
水分摂取量は一日基礎体重×15 ml以内
‡カリウムは一日1500 mg程度
カリウム・リン
‡リンは一日700~800 mg程度 は個人差あり
食生活の工夫
„食品成分表を利用する
食事の中身(含まれる栄養素など)を知ること
で、食事療法がやりやすくなる
„カロリーを高める調理の工夫をする
熱量不足となることが多いので、脂質・糖質
をうまく使って熱量を上げる(同じ食材でも油
を使った調理法に変えるなど)
„治療用特殊食品を利用する
蛋白質やリン・カリウムを抑え、エネルギーを
増加した食品などがあるので、うまく利用する
カリウム(K)のミニ知識
-K過剰は不整脈を起こす-
• 一回透析でのK除去量は3000 mg程度
• 高K血症の原因:透析不足、Kの摂取過多、
摂取熱量不足による異化亢進、便秘など
• Kの多い食品:生野菜、いも類、果物、豆類、
海藻類など
– 調理の工夫:野菜類は小さく切って水にさらすこと、
イモ類や根菜類は小さく切って茹でることにより、
Kを減らせる
• 高K血症の対策:十分な透析、イオン交換樹
脂の服用、下剤で便秘を防ぐなど
リン(P)のミニ知識
-P過剰は骨や血管を傷める-
• 一回透析での除去量は1000 mg程度
• 高P血症の原因:透析不足、Pの摂取過多、P
吸着剤の不足や不適切な服用など
• Pの多い食品:乳製品、魚介類、加工食品、総
菜や弁当類の添加物などに多いが、基本は蛋
白質摂取量(食事量)に比例する
– 蛋白質10 gあたり、Pは約130 mg(目安)
• 高P血症の対策:十分な透析、P吸着剤の適切
な服用(食事量に合わせて適量を、また食事と
よく混ざるタイミングで:62頁参照)
栄養評価:身体計測と体成分分析
‡身長と体重の測定(体格を知る基本)
• BMI(Body Mass Index):体重÷(身長)2
‡上肢や下肢の周囲径や皮下脂肪厚
• 上腕部や大腿部の周囲径や、上腕三頭筋部や肩甲
骨下端部の皮下脂肪の厚さを計る
9 測定者や測定ごとのばらつきがでやすい
‡体成分分析(電気インピーダンス法:INBODY)
• 弱い電流を使って筋肉量・脂肪量などの他、体水分
量を細胞内液・外液に分けて、定量的に推定できる
9 他に2種類のX線を用いるDEXA法などもある
栄養評価:血液検査
‡クレアチニン産生速度(筋肉量を表す)
• クレアチニンは筋肉内に存在するクレアチンから非酵
素的に産生されるので、クレアチニンの産生速度は、
主に筋肉量(体蛋白量)を反映すると考えられる
• 透析前後のクレアチニン値などから計算する
• 平均的な筋肉量は性別・年齢などによる異なるので、
非糖尿病透析患者の平均値を基準として、相対的な
割合「%クレアチニン産生速度」で表す
‡血液検査
• 血漿蛋白質(アルブミン、プレアルブミン、トランスフェリ
ンなど)、IGF-1、アミノ酸、脂質、リンパ球数など
栄養評価:SGAと食事調査など
‡ SGA(subjective global assessment)
• 患者の最近の病歴と理学所見による評価
• スクリーニングとして有用である
‡ 食事調査
• 摂取量の変動や食品の多様性があり難しい
• 調査日数は3~7日間程度
• 正確な情報を得るには患者・家族の協力が必要
‡ 食事摂取量の推定
• 蛋白質摂取量~蛋白異化率から推定
• 体重変動、BUN、Na等から推算(木村玄次郎 1986)
栄養状態の目標値
¾身体計測と体成分分析
9 筋肉量:標準範囲またはそれ以上
9 脂肪量:標準範囲またはやや多め
¾%クレアチニン産生速度:100%以上
¾クレアチニン:男12~15 mg/dl クレアチニン値は
女10~13 mg/dl 透析条件を考慮
して判定する
¾アルブミン:3.5 g/dl以上
¾プレアルブミン:25~30 mg/dl以上
¾標準化蛋白異化率(nPCR):0.9~1.3 g/kg
¾食事調査
9 各自の必要栄養摂取量(熱量や蛋白質)が望ましい
尿素産生速度(Gu) Urea
Kinetics
urea generation rate
• 尿素は蛋白質代謝の最終的な産物であり、尿
素(尿素窒素:BUN)の増加は、体の蛋白質が
異化(分解)されたことを示す
• 透析と透析の間に上昇する尿素窒素の濃度変
化(20頁参照)から、尿素の産生量や尿素産生
速度(Gu)がわかる
• 体液量に変動が無いと仮定すれば、以下の式
でGu(mg尿素窒素/分)を求める
Gu=(DWでの水分量)×(週2回目前値
-週1回目後値)÷(透析間の時間)
(式:木村玄次郎 1986)
蛋白異化率(PCR) Urea
Kinetics
protein catabolic rate
• 尿素産生速度(Gu)から、蛋白異化率(分解さ
れる速度)を計算する式はいくつかあるが、代
表的なものは以下のとおり
PCR=(Gu+1.2)×9.35 (g/日)
• PCRを体重1 kgあたりの量で示したものが、標
準化PCR(nPCR:エヌピーシーアール)である
• 状態が安定した無尿の維持透析患者では、「蛋
白の異化と同化との均衡が保たれている」と仮
定できるので、「蛋白異化率は蛋白摂取量に等
しい」と考えてよい (式:木村玄次郎 1986)
尿素の動きからわかることのまとめ

「尿素の動き」
を「尿素カイネ
ティクス」:urea
kineticsと呼ぶ

• Kt/V urea(尿素除去/透析効率)、TAC BUN(平


均BUN濃度/尿素除去結果)、 nPCR(尿素産生/
蛋白異化率≒蛋白摂取量)は、総合的に評価する
• 特にnPCRとTAC BUNを、同時にみることが重要
TAC BUNとnPCRの関連
-食べたら抜く、抜いたら食べられる-
尿毒素の平均値 1980年代の米国の
(TAC BUN) 研究(NCDS)
透析不足 短命 (Lowrie EG 1981)

65 mg/dl

透析十分 長生き
蛋白質摂取量
摂取不足 0.8 g/kg 摂取十分 (nPCR)

4群の患者のうち、よく抜いて(十分な透析でTAC BUNが低い)、
よく食べた(蛋白摂取量が多く nPCRが高い)人が長生きしている
慢性腎不全の栄養障害の治療
‡適正で十分な量の透析
→食欲不振・酸血症などを改善する
‡必要十分な蛋白質・熱量の摂取
→制限を意識させるより、まず食べてもらう
‡生体適合性の高い器材(特に透析膜・透析
液)の使用
→慢性的「炎症」状態を改善する
‡不足栄養素などの補充療法
‡その他(成長因子・蛋白同化ホルモンなど)
栄養障害への補充療法
‹IDPN(Intradialysis parenteral nutrition)
– 透析中にアミノ酸製剤、脂肪乳剤、高張ブドウ糖液などを、
単独または併用で点滴する
‹経口、経管栄養
– 目的に応じて熱量や蛋白質などを調整した食品を補充
‹水溶性ビタミン類
– ビタミンB群、C、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビチオン
などの欠乏症が知られている
‹L-カルニチン
– 脂肪酸代謝に関与するアミンで、筋肉の痙攣や筋力低下な
どの筋症状や、一部の心機能低下や貧血にも効果がある
‹微量元素
– 亜鉛(味覚障害)、セレン(筋肉痛や筋力低下)などの不足
が起きうる
運動(療法)の効果
z筋肉量の増加・運動能力の改善
z脂質代謝の改善(HDL増加・中性脂肪減少)
z骨塩量の増加(骨萎縮の予防)
z血圧を下げる
z精神的、心理的効果 最も簡単な運動は歩く
ことで、非透析日だけ
z発汗作用の促進 の運動でも効果がある
zその他

筋肉を増やすためには、食べるだけでなく、運動も必要
十分透析して、十分食べる
• 適切で十分な透析をする
良好な 透析により、尿毒症状態を
栄養状態
十分に改善することが、栄
養状態をよくするための
適切な透析

適度な運動
十分な食事

「第一歩」である
• 制限を意識しすぎるのでは
なく、まず十分な食事(栄
養摂取)を摂取する
• 適度な運動をして、筋肉量
を増やす(維持する)
体を支える三本の柱
栄養状態と生命予後は直結
透析導入期に大切なこと
„透析治療がどういう治療であるか、大切な点
は何であるかを、十分に理解してもらう
„実際の透析治療が恐ろしいものではなく、安
全で苦痛なく受けられることを実感してもらう
„透析生活を長くうまく過ごすためには、患者
自身の協力(ある程度の自己管理)も大事で
あることを、よく説明して納得してもらう
„透析療法が患者の身体を良好に維持するた
めに必要なものであることを受け止めてもら
い、ポジティブに生活できる様に援助する
透析導入期のHDの注意事項
‡短時間・頻回透析の方が患者の負担が少ない
– 緊急事態を除き、少しずつ慣らす(時間延長など)
‡透析条件は緩めに設定して、不均衡症状など
を予防する
– 小型のダイアライザー(膜面積を小さく)で血流量を
抑えて(100~150 ml/分程度)透析する
‡透析での除水量を少なく、除水速度を緩やかに
して、急な血圧低下を予防する
– 大量/急速な除水は、血管内が脱水となり、血圧が
下がりやすくなるだけでなく、腎循環も悪化する
維持期の血液透析条件への移行目標は3ヶ月程度
尿量温存するために
• 毎回の透析での除水量を少なく抑えて、腎循環
に悪影響を与える血管内脱水を回避する
– 利尿剤の併用、減塩食の徹底など
• 十分な透析をする(腎傷害性の尿毒素を除去)
• 生体適合性の高い器材を用いる
– 生体適合性の高いダイアライザー/きれいな透析液
• 腎臓を傷害する様な薬剤を避ける
• 感染その他の合併症をできるだけ予防する

尿量が保たれていても、十分な透析は必要である
導入期から維持期へ
‡患者が透析治療スケジュールを実際の生活の中に
取り入れていくのには時間がかかる
‡患者が透析治療を受容し、新しい自己を認識してい
くのにも時間がかかる
‡それまでの期間は、身体の変調を少なく抑えながら
透析を施行していくことが大切
‡透析条件の整備、薬剤の調節、食事療法や自己管
理の徹底などを、少しずつ整えていく
‡この時期は尿毒症の改善に伴い食欲も回復するの
で、太る(基礎体重が上がる)ことが多いので注意

透析生活への適応には半年~1年程度の時間が必要
透析と心の問題
‹透析生活はストレスの多い生活なので、精神
(心)の負担が大きくなって、それがいろいろな
形で表現されてくることがある
– 子供の様に甘えたり、不安を訴えたくなる
– 病気を認めたくなくなる(自己管理ができなくなる)
– 透析治療が受けたくなくなる(通院拒否・自殺願望)
– 怒りっぽくなったり、八つ当たりをしたりする(家族
やスタッフに攻撃的になる、生活が乱れてくる)
– 身体の変調が起きる(食欲の低下、不眠など)

透析生活には、多くのストレスがある
透析治療に伴うストレッサー
z 心理的負担
死そのもの、将来への不安
半永久的に透析治療を余儀なくされる負担
z 社会的負担
社会的、家庭内における地位・立場の低下
経済的圧迫
z 生活習慣上の負担
透析スケジュールによる行動制限
食事や水分の制限など生活習慣の変化
z 身体的負担
透析治療・合併症による身体的苦痛
透析受容までのプロセス(福西勇夫 1991)

透析受容までの道のりは長い
透析治療や新しい
透析導入の必要性
自己の受容
の告知

透析治療の うつ状態など、
必要性の否認 さまざまな
情緒不安定の露出

死ぬことや 自己の運命に対する
将来への不安 怒りや憤り
ストレスを回避し、積極的な生活を
‡早くよくしようと焦らないで、最低限の透析生活
の注意を守りながら、透析治療が安定して受け
られる様に見守る
‡家族や同じ病気をもった仲間やスタッフと、話を
したり、話を聞かせたりする
‡仕事や趣味の世界などに、何かうちこめるもの
を見つけて、それに取り組む様に勧める
‡適度な運動、行事への参加、旅行などで気分転
換を図ってもらう
‡専門の医師による診療や薬物使用を検討する
透析は人生の終わりではなく、新しい生活の始まりである
血液透析の急性合併症と事故
‡不均衡症候群(Disequilibrium syndrome:DES)
‡筋肉の痙攣(こむら返り)
‡血圧低下 急性合併症は、
‡発熱(透析中~透析後) 透析による体液
の性状や量の、
• 血腫形成、凝血、血流不足 急な変化が原因
• 空気誤入、血液リーク
• 透析液濃度異常、温度異常
• その他
急性合併症の治療の原則は、穏やかな
透析効率の選択と緩やかな除水速度
不均衡症候群
-Disequiribum syndrome:DES-

脳が浮腫む
尿毒素除去が
脳組織 脳組織 脳組織

遅れる
血液 血液 血液
BBB

透析前 透析 透析後

z 脳組織には、血液中から物質が移動しにくい様にバリア(Blood
Brain Barrier)があり、透析時の尿毒素除去が遅れる
z このため透析後半から透析後にかけて、脳組織が血液より、相
対的に高浸透圧となるため、水分が脳組織に移動して浮腫が
生じるのが原因とされている
不均衡症候群の症状と治療
‹透析後半~透析後に、頭痛・吐き気・違和感な
どの症状が出現し、翌朝までには消失する
9症状には個人差がある
‡緩徐な透析とする(透析効率を下げる:血流量
を低くし、ダイアライザーの膜面積を小さくする)
9血液透析による急な血液の性状の変化を抑える
‡短時間透析とする(2~3時間程度)
93時間以内の透析では、治療中に症状が出現する
ことはまずない
‡グリセオールなどの浸透圧低下を軽減する薬
剤を、透析中に点滴する
筋肉の痙攣(筋痙攣)
z 透析に伴う浸透圧の変化などで筋肉の脱水が起きた
時や血液のアルカリ化に伴うCa++の減少等で発症する
‡絶対的・相対的な除水過多の修整
→基礎体重を上げる、除水速度・量の調節
‡透析による血漿浸透圧の低下の軽減
→透析液Na濃度の調節(高め)、浸透圧物質の投与、
50%ブドウ糖や10%NaClの注入
‡透析液のCa++濃度を高めのもの(3.0 mEq/L)とする
‡薬剤やその他の対策
→保温(筋肉の循環をよくする)
→薬剤(キニーネ、オキサゼパム、芍薬甘草湯、カル
ニチン、ビタミンE、塩化カルシウムなど)
透析中の(急な)低血圧
‹HD開始期の低血圧
z 透析液濃度(組成)の異常、透析液汚染、薬剤や器材
へのアレルギー、出血や失血、心機能低下など
‡個別の対策、心肺蘇生、透析開始時の工夫など
‹HD後半の低血圧
z 主に循環血液量の減少による
‡患者を臥位(+下肢挙上)に、除水停止・速度減少
‡生食100~200 ml/や10%食塩水10~20 mlの注入
‡昇圧剤やアルブミン製剤の投与
¾ 適正体重や透析間体重増加の管理の再検討
¾ 適性な透析液温度の検討(過度の低温透析ではない)
発熱(透析中~透析後)
‹透析液の汚染による発熱
„ 透析液作製工程や配管・タンクなどの、細菌やエンドト
キシン(ET)による汚染→透析液清浄化を徹底する
‹透析液温度による発熱
• 従来透析液温度は、健常人の核体温を考えて、37~
37.5度程度に設定されている場合が多い
• 体温は患者ごとに異なる(低めの人が多い)ほか、透
析中には放熱が減少し、かつ産熱が亢進する
• このため一部の患者では、体温上昇が臨界点を越え、
急な血管拡張が起きて、血圧低下の原因となりうる
‡患者毎に適正な透析液温度の設定・調整が望ましい
9 過度の低温透析は、エネルギー消費量の増加や末梢血管
の収縮で血流不均等分布の悪化(23頁)などの懸念がある
透析療法の慢性合併症
-尿毒症や透析生活で生じる病気-
„ 腎性貧血
„ カルシウム・リン代謝異常(CKD-MBD)
腎性骨異栄養症・二次性副甲状腺機能亢進
症・低回転骨・異所性石灰化など
„ 透析アミロイドーシス(手根管症候群など)
„ 高血圧・心不全・不整脈・心嚢炎
„ 動脈硬化症・虚血性心疾患・脳血管障害
„ 栄養障害(MIA症候群)・感染症・悪性腫瘍
„ その他
慢性合併症の原因と治療
‹慢性合併症の原因
• 慢性腎不全(尿毒症)の病態、透析による腎機能の代
替量が不十分なこと、透析治療の生体「非」適合性、
不適切な食事など
溜まってしまった尿毒素を、後
‡慢性合併症の治療
から除去することは困難である
„ 基本は十分な透析
9 常に十分な透析を心がけることが何よりも大切である
9 早期から十分な透析(HDFも含む)を行うことで、透析
合併症の予防もしくは発症遅延、さらには「生活の質」
や「生命予後の改善」も期待できる可能性がある

十年後、二十年後の患者の状態を考えて透析をしよう
腎性貧血
‹ 症状:動悸や息切れ(歩いた時など)、疲れやすい、
だるい、脈が速い
貧血管理は患者の
z 腎性貧血の原因
QOLに直結する
• 赤血球産生の障害
– 造血ホルモン(エリスロポイエチン:EPO)の不足
– 造血器質(鉄、葉酸、VB12、アミノ酸等)の不足
– 造血抑制因子(アルミニウム、PTH、尿毒素など)
• 赤血球寿命の短縮や喪失
– 赤血球の代謝障害・膜の変化(尿毒素、活性酸素など)
– 透析での採血・残血・赤血球破壊、出血性の病気

最も重要な原因は、腎臓での造血ホルモンの産生低下
貧血治療の目標
¾ 赤血球数(RBC):300~330(360)×104 /μl
¾ ヘモグロビン濃度(Hb):10~11(12) g/dl
¾ ヘマトクリット(赤血球容積/Hct):30~33(36)%
‡EPOは一回1500単位×週三回で開始して、一週間
にHbで0.3~0.4 g/dl(Hctで1%)程度の速度で、
ゆっくりと貧血が改善する様に治療する
‡上記のレベルが維持できる様に、適宜使用量を増
減する(若く活動的な人では目標は少し高めに)
9 EPOの副作用としては、高血圧の悪化に注意
9 EPOの効果を十分に引き出すためには、鉄不足が
無いか調べ、必要な場合には鉄剤も併用する
鉄補充の重要性と鉄関連検査
¾ 血清鉄(Fe):男60~210/女50~170μg/dl
¾ 総鉄結合能(TIBC):200~300μg/dl
¾ トランスフェリン飽和率(TSAT):Fe/TIBC:30~70%
¾ フェリチン:100~300 ng/ml
z 透析患者は食事摂取不十分や失血などにより鉄欠乏
になり易い他、EPO治療下では造血が亢進するため、
相対的に鉄が不足しやすい
9 鉄欠乏はTSAT≦20%、フェリチン≦100 ng/mlで判定
9 鉄分は正常よりもやや多いくらいの状態に維持する
9 鉄不足が無いのに、鉄が有効に利用され難い病態
(フェリチンが目標範囲以上で、TSATが低い状態)が
あり、ビタミンC(静注)が有効な場合がある
EPO治療への反応が悪い時
• 栄養・代謝障害
– アミノ酸の不足など、全般的な栄養不足
– 鉄・葉酸・VB12・VB6・カルニチンなどの欠乏
• 透析不足(尿毒症の改善が不十分)
– 尿毒素には、赤血球寿命の短縮をもたらしたり、骨髄で
の造血抑制をするものがある
• 感染や炎症
– 感染や炎症はEPOの作用減弱・鉄の利用障害を起こす
• 出血や溶血、透析操作に関連した失血
• 薬剤やアルミニウムによる造血障害
• 二次性副甲状腺機能亢進症
• その他:妊娠(女性患者)、抗EPO抗体など
腎不全のカルシウム・リン代謝異常
z 慢性腎不全では、腎臓でのビタミンD(VD)の活性化
が障害されて活性型VDが不足する
z 活性型VDの骨への作用が不十分となったり、腸管か
らのカルシウム(Ca)の吸収が減少したりする
z 腎臓からのリン(P)の排泄能が低下する
z その結果、低Ca血症、高P血症などが認められる
• この腎不全のCa・P代謝異常に起因する骨の病気を
腎性骨異栄養症(renal osteodystrophy:ROD)という
• 最近は全身性疾患として、「慢性腎臓病に伴う骨ミネ
ラル代謝異常(Chronic Kidney Disease-Mineral and
Bone Disorder:CKD-MBD)」という概念が提唱された
腎性骨異栄養症(ROD)
<症状>
‹腰椎、股関節、膝関節、踵など体重が負荷される
部位の骨痛、関節痛
‹(病的)骨折、骨格変形、成長障害
‹筋力低下、腱断裂、かゆみ(掻痒症)
‹異所性石灰化(骨以外への石灰沈着)
‹副甲状腺ホルモン(PTH)高値による諸症状
<骨の病態>
• 骨病変は繊維性骨炎(二次性副甲状腺機能亢進
症)や骨軟化症、両者の混在した形、無回転骨(無
形性骨)などがみられる
生体の主なCa・P調節因子の役割
調節 腎臓 血清 血清 骨塩 腸管 腸管P 腎臓 腎臓
因子 機能 Ca値 P値 溶出 Caの の吸 Ca再 P再
変動 変動 吸収 収 吸収 吸収
PTH 正常 上昇 低下 亢進 (↑*) (↑*) 増加 減少
CRF 上昇 上昇 亢進 (-) (-) (-) (-)
CT☆ 正常 低下 低下 抑制 減少 不変 増加 減少
CRF 低下 不変 抑制 減少 不変 (-) (-)
活性 正常 上昇 上昇 亢進 増加 増加 増加 減少
型VD
CRF 上昇 上昇 亢進 増加 増加 (-) (-)

☆CT:カルシトニン、*:VD活性化を介してのPTHの作用
Ca値/P値/PTH分泌と薬剤の作用
薬剤・透析液 Ca値 P値 PTH分泌

活性型VD製剤 上昇 上昇 抑制(大量)

炭酸カルシウム 上昇 低下 抑制(Ca↑)

塩酸セベラマー 不変/低下 低下 抑制(P↓)

カルシトニン製剤 低下 不変 不変

Ca3.0mEq/L透析液 上昇/不変 低下 不変/抑制

Ca2.5mEq/L透析液 不変/低下 低下 刺激/不変

ROD治療にはビタミンK、ビスフォスフォネートなども用いられる
活性型ビタミンD製剤の役割
z 慢性腎不全では、ビタミンD(VD)の水酸化が障害が
あり、活性型VDが不足するので、透析患者に活性型
VD製剤は、基本的に必要な薬である
z 生体の調節因子や薬剤の、相互の作用を考えながら、
活性型VD製剤で低Ca血症を是正する(61頁参照)
z 活性型VD製剤には、骨の代謝・回転を促す作用や細
胞の分化を誘導する作用などもある
z 活性型VD製剤は、腸管からのCaとPの吸収を促進す
るので、Ca値とP値の両方が上昇する可能性がある
パルス療法:通常量より大量の活性型VD製剤を、間欠
的に(透析後)投与することで、活性型VDの血中濃度
を高くして、副甲状腺細胞のPTH分泌を抑制する治療
二次性副甲状腺機能亢進症の治療として行われる
リンの管理について
1. 透析を十分に受けて、リン除去量を増やす
2. リンの摂取量の管理(リンのミニ知識:43頁参照)
3. リン吸着剤の適正な使用
‡ 食事とよく混ざる様に服用する
– 食事直前・食中・食直後の服用タイミングを指導
‡ 食事の摂取量に併せて服用量を調整する
– 朝・昼・夕の食事量が異なる人もいるので、例えばリン吸着
剤が6Tの場合、2-2-2、1-2-3、1-3-2などとして服用する
‡ 間食・夜食時も服用、外食時は増量して服用
– リン吸着剤が不足する人には、追加して処方する

高リン血症の管理はCKD-MBD治療の最重要事項
カルシウム・リンの目標値
¾ カルシウム(Ca):8.4~(9.5)10.0 mg/dl
¾ リン(P):3.5~(5.5)6.0 mg/dl
¾ カルシウム・リン積(Ca×P):<(55)70 mg2/dl2
9 ()で示すのは、米国のDOQIの基準
‡カルシウム値を上昇させるためには、活性型ビタミン
D製剤の投与を行うが、リン吸着剤として炭酸カルシ
ウムを併用した場合、高Ca血症になりやすい
‡リン値を低下させるためには、リン吸着剤の使用が
中心となるが、リン吸着剤にはCaを含まない塩酸セ
ベラマーと、Caを含む炭酸Ca・酢酸Caを使い分ける

高カルシウム・リン積は、異所性石灰化の危険因子
Ca値/P値と薬剤の調整方針
Ca 低値/適正 低値/適正 適正/高値 適正/高値
P 高値 低値 高値 低値
活性型VD 不変/減量 増量 減量/間欠 減量
炭酸Ca 増量 不変/食間 不変/増量 減量
セベラマー 増量 不変/減量 増量 不変/減量
高リン血症 PB*不足 VD剤不足 VD剤過剰 PB*過剰
の原因 服薬不良 摂取不足 SHPT☆ 摂取不足
摂取過多 摂取過多
*PB:リン吸着剤 ☆SHPT:二次性副甲状腺機能亢進症

P値が適正範囲なら、Ca値に応じてVD剤を調整する
骨は活動している(骨の代謝・回転)
骨芽細胞
前駆細胞 休止

活性 骨形成
破骨細胞 単球

骨吸収 逆転

• 骨は一見変化がない様に見えるが、常に古い骨を新
しい骨に置き換える活動(代謝・回転)をしている
• 骨の代謝・回転は「休止期~活性期~骨吸収期~逆
転期~骨形成期」からなるサイクルを形成する
„ 骨の代謝・回転は、CaやPなどの調節に役立っている
副甲状腺ホルモンとその管理目標
-骨の代謝・回転をよい状態に保つには-
¾ Intact PTH:60~180(100~300) pg/ml ( )はDOQIによる
• 副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)は、通
常は骨と腎臓に作用して、Ca濃度を上昇させると共に、
腎臓からリンを排泄させる働きをする(61頁参照)
• PTHには骨の代謝・回転(骨吸収)を活発にする働きも
あるので、腎不全状態ではPTH分泌を抑制しすぎない
方が望ましいとする考えもある
9 PTHの測定法には、活性型をみるもの(intact、whole)
/非活性型をみるもの(m、c)などがあるので、特徴を
知って使いわける (完全な形の活性型PTHはwhole PTH)
9 骨代謝の評価には、骨型ALP(BAP)、NTx(Ⅰ型コラー
ゲン架橋 N-テロペプチド)などのマーカーも用いる
PTH分泌の調節因子と治療方針
PTH分泌促進 PTH分泌抑制
血清Ca濃度(Ca++) 低値 高値
血清P濃度 高値 低値
活性型VD濃度 低値 高値
‡慢性腎不全で認められる低Ca血症、高リン血症、低
活性型VD血症などの異常を適切に修正して、目標範
囲にintact PTH(iPTH)を維持する
‡CaとPが目標範囲にあて、かつiPTHが高値の場合、
VDの静注製剤を用いること(パルス療法)が望ましい
‡CKD-MBD治療では、CaとP濃度を適正範囲に管理す
ることの方が、iPTH濃度の管理より優先する
二次性副甲状腺機能亢進症
Secondary Hyperparathyroidism :SHPT
z 低Ca血症、高P血症、低活性型VD血症などの刺激で、
副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌される病態
‹PTH(intact PTH:iPTH)が300 pg/ml以上
• PTHの作用で、骨吸収(脱灰)が促進され、骨の高代
謝回転状態が生じて、骨は繊維性骨炎となる
• 重症のSHPTでは骨吸収が亢進し、高Ca血症・高P血
症が生じてCaとPの管理が難しくなり、異所性石灰化
の危険性が高くなる
• 高PTH血症の骨外作用として、貧血、かゆみ、心機能
障害、末梢神経障害、性機能障害などが知られる
SHPTの治療
‹治療の重点は、「PTH濃度を低下させること」と、「腫大
した副甲状腺の『量』を少なくすること」の両者が必要
‡内科的治療(Ca/P管理でPTH分泌調節~一般療法)
‡活性型VD のパルス療法(VDの間欠大量投与)
活性型VDの血中濃度を上げ、PTH分泌を抑制する
‡副甲状腺局所注入療法(PIT、PEIT)
エタノール等を副甲状腺に直接注入して細胞を潰す
‡副甲状腺摘除術(+自己移植)
手術的に副甲状腺を全部取り、一部を再移植する
9 活性型VD製剤による治療(パルス療法を含む)で、Ca、
P、intact-PTHの三者を目標範囲に、同時に維持でき
ない場合、副甲状腺インターベンション治療(局所注入
療法または摘除)を考慮する
副甲状腺の腫大とPITと摘除術
副甲状腺の腫大 副甲状腺細胞が種々の刺
激により、瀰漫性の増殖を
び漫性腫大

結節性腫大
起こす(び漫性腫大)
その一部の細胞が遺伝的
変異により、結節性過形成
となる(結節性腫大)
結節性となった副甲状腺細
胞は、薬剤に反応し難い
(富永芳博 1997 改変)
• 内科治療抵抗サイズ(結節性腫大の可能性が大きい)とは、
大きさが長径10 mm以上、または推定容積500 mm3以上の腺
• 副甲状腺局所注入療法(PIT)は、intact PTH≧300 pg/ml以上
で、内科治療抵抗サイズの腺が1個の場合によい適応
• 副甲状腺摘除術は、intact PTH≧500 pg/ml以上で、内科治
療抵抗サイズの腺が複数認められる場合に考慮する
無回転骨(無形成骨)
z 骨の代謝・回転が著しく低下した状態(intact PTH<60
ng/ml)で、PTHの相対的不足が主な原因
– 腎不全では、骨の代謝・回転を維持するためには、ある程度
のPTH分泌が必要と考えられるが、活性型VD製剤や炭酸Ca
の投与過剰などにより、PTH分泌が抑制される
• その他の原因として、骨のPTH感受性の低下、骨形成
因子欠乏、骨形成抑制因子の存在などによる骨産生
速度の低下も考えられている
‹高Ca血症や異所性石灰化が生じやすい他、骨折する
と治りにくくなるとされる
‡治療は活性型VD剤や炭酸Caの中止(Ca値の低下)、
Ca++2.5 mEq/Lの透析液、ビスフォスフォネート製剤等
異所性石灰化
z 骨以外の組織にCaとPの結合物が沈着する現象で、
血液中のCaとP濃度が過剰(Ca×P≧70が目安)となっ
た場合に起きやすい
‹血管壁、内臓(心臓・肺・腎臓・結膜等)、関節周囲など
に、しばしば沈着する
‹関節や皮下の沈着は痛みを伴って赤く腫れる
z 背景因子として、SHPT(高Ca血症+高P血症)、副甲
状腺機能低下症(骨代謝の低下)、活性型VD製剤や
Ca含有P吸着剤の過剰投与、高P血症、高Mg血症、ア
ルカローシス(透析後)などが考えられる
‡治療は透析での十分なリンの除去、高Ca/高P血症の
回避(Ca・P積の低下)、ビスフォスフォネート製剤など
透析アミロイドーシスの背景
9 アミロイドとは蛋白繊維である
9 透析患者にみられるアミロイドーシス(アミロイドの
溜まる病気)では、尿毒素のひとつであるβ2マイク
ログロブリン(β2MG)という蛋白質がアミロイドの素
になっている
z 透析患者ではβ2MGの蓄積に加え、透析膜自体や
透析液の不純物などの刺激によって惹起される慢
性炎症(リンパ球からのサイトカインの分泌など)や
尿毒症の酸化ストレス・カルボニルストレスが、アミ
ロイドーシスの原因として考えられている
9 この他、高齢の人に発症しやすいことや遺伝的素因
が関与する可能性などが指摘されている
透析と慢性炎症とアミロイドーシス

関節の滑膜・
透析膜・
好中球 活性酸素・カルボニルストレス
透析液からの刺激

β2MGの変

腱・
成・沈着・組

骨の炎症
織破壊

炎症性サイトカインの分泌
単球
透析膜の素材や透析液の細菌毒素などの刺激により、免疫担当
細胞が活性化されて、その結果慢性的な炎症反応が引き起こさ
れると、それが関節の滑膜・腱などに、蓄積しているβ2MGを変成
させながら沈着させ、関節組織の破壊が進む
透析アミロイドーシスの診断
• アミロイドが沈着しやすい部位としては、関節、骨、
腱、内臓、皮膚などがある
• 組織検査でアミロイドが証明されることにより、診断
は確定するが、実際上は典型的な症状やX線所見
などから診断する
• よく認められるアミロイドーシスは以下のとおり
– 手根管症候群
– バネ指 関節などへのアミロイド沈着
– 破壊性脊椎関節症 は、透析の早期から認めら
– 透析性肩関節症 れるが、アミロイドーシスの
– 膝関節、股関節障害 発症は、透析開始後、数年
– その他 ~十数年後となることが多い
透析アミロイドーシスの治療(総論)
‡「きれいな」透析液(透析液清浄化)
• 細菌毒素などを含まない「きれいな」透析液が不可欠
‡十分な透析
• β2MGなど分子の大きな尿毒素が積極的に除去でき
て、かつ生体適合性の高いダイアライザーの選択
• ろ過型治療(HDFなど)を行う
• β2MGの吸着カラム(リクセル)の併用
‡薬物療法
• 痛みや炎症が強い時は少量のステロイド剤
• その他の消炎鎮痛剤など
‡手術療法
手根管症候群(CTS)
z 手根管(手関節)の部分で、蓄積したアミロイドのた
めに、正中神経が圧迫されることによる
‹症状:親指~中指まで、あるいは薬指の親指側半
分(小指は含まれない)までの指の痺れ・痛み・感覚
の異常、さらに進行すると筋力低下が起きてくる
• 診察では、「親指と人差し指」あるいは「親指と小指」
で輪を作ることができない、手を屈曲させることで痛
みが増す、親指の基部の筋肉の萎縮、正中神経を
叩くと指先へ痛みがはしるなどが認められる
‡治療:手術的に手根管を切開して広げる手根管開
放術で、最近は内視鏡的な手術も広まってきている
バネ指(弾発指)
z手の屈筋(指を曲げる働きをする筋肉)の腱
や腱鞘にアミロイドが沈着することによって起
きる病態
‹症状:指をなめらかに曲げたり・伸ばしたりで
きなくなり、重症になると指の曲げ伸ばしを、
反対側の手で補助しないとできなくなる
• 透析患者ではどの指にも、また同時期に複数
の指に発症することが、一般患者と異なる
‡治療:手術的に症状のある指の腱鞘を切開
する
破壊性脊椎関節炎
z 脊椎骨の前/後縦靱帯にβ2MGのアミロイドが沈着して、
靱帯・椎体・椎間板などが変成した結果、脊椎の関節
の破壊が起きる
‹症状:頸椎病変では局所症状あまり強くなく、腕~手の
痺れ・痛み・知覚異常などの他、脊髄が圧迫されると
箸使い・書字・ボタン動作などができなくなったり、つま
ずく・よろける・階段昇降困難などの歩行障害がおきる
‹症状:腰椎病変では腰痛、脚の痺れ・痛み、起立困難
や歩行困難などがみられる
• 骨X線写真、MRI、CTなどで診断する
‡治療:ポリネック型カラーやコルセットなどの装着による
外固定、手術(椎体固定術や椎弓切除術など)による
内固定
透析性肩関節症
z肩関節の滑液包や肩関節部の滑膜・靱帯な
どへのアミロイド沈着と関節の破壊
‹症状:臥位で透析中や夜間睡眠中によくおき
る肩から上腕の痛みで、上体を起こしたり、
肩関節を温めたりすると改善する
• 骨X線写真、MRI、CTなどで診断する
‡治療:薬物療法、滑液包内などへのステロイ
ド注射、ホットパック、手術(靱帯切除など)
– 股関節や膝関節障害でも、同様な滑膜・靱帯な
どへのアミロイド沈着と関節の破壊が原因と考え
られている
高血圧の原因
血圧=心拍出量×末梢血管抵抗
z心拍出量の増加
←体液量の増加(水分・塩分の貯留)
←その他(貧血、内シャントなどによる心負荷)
z末梢血管抵抗の増加
←調節の異常(過度の収縮・拡張の抑制)
レニン・アンギオテンシン系や交感神経系等の亢進、
血管拡張系(NO系)の抑制など
←血管の柔らかさの減少(動脈硬化)
←その他:ストレス、薬剤(EPOの副作用)など
透析患者の高血圧の特徴
9 健常人で認められる夜間(睡眠時)の降圧の程度が
弱いことや認められないことが多い
9 夜間や早朝に高血圧となることがしばしばある
9 透析日・非透析日で血圧が変動することがある
9 透析中の血圧は一般的に透析前は高く、透析の経
過とともに低下するが、時には透析後半にかけて上
昇することもある
‹透析患者の血圧の状態を知るためには、透析前後
の血圧だけでは不十分であり、必ず家庭血圧を測
定して、血圧変動のパターンを把握することが大切
である(治療効果もよくわかる)
高血圧の治療
‡適正な水分量・塩分量の維持
– 適正な基礎体重(DW)を決める
– 適正な透析間体重増加(ΔBW)を守る
‡食事療法(水分・塩分摂取量の制限)
‡降圧剤の投与 最も重要なのは、
‡十分な透析(長時間透析) 適正な体液量を
維持すること
‡運動療法
‡その他(EPOの適正使用など)
血圧管理の目標
¾血圧:140~90 mmHg以下
¾平均血圧:100~120 mmHg
平均血圧=拡張期圧(下)+
{収縮期圧(上)-拡張期圧(下)}÷3
例:140/90の時:90+{140-90}÷3=106.7
• 日頃の家庭血圧(座位測定)や透析前の血圧
も、基準内であることが望ましい
• 高血圧は脳内出血のリスクファクターである
• 逆に低すぎる血圧(平均血圧80 mmHg未満)も
死亡リスクが高くなる
心不全の症状と背景
‹症状:息切れ、動悸、咳、呼吸困難、喘鳴
など(特に活動した時に症状がひどくなる)
<腎不全で心不全が起きやすい理由>
z心臓への負担(負荷)の増加
– 体液貯留・貧血・シャント血流などによる容量
負荷の増加
– 高血圧による圧負荷の増加
z心機能の低下
– 虚血性心疾患、尿毒症性心筋症など
z不整脈(心拍数の変動)
– 既存の心疾患/透析療法による悪化
心臓の状態を評価する検査
• 胸部X線写真
– 心陰影の大きさや形の変化、肺うっ血などを評価
• 心電図
– 不整脈、心肥大、虚血性変化などを評価
• 心臓超音波検査(心エコー)
– 心肥大、心機能(収縮性など)、心嚢液貯留、石灰化、弁膜
症などを評価
• 血液・内分泌検査(血液ガス、HANP、BNPなど)
– 低酸素血症の程度、容量負荷の程度、心機能などを評価
• 血行動態評価(SGカテ、中心静脈圧など)
• その他(心臓核医学検査、冠動脈造影など)
心臓の評価と透析の関係
タイミング 主な検査とその目的とする評価
透析前 胸部X線写真・心電図・心エコー・血液ガス等で、心不
全や心機能異常を評価(負荷のある状態での検査)
透析中 心電図(ホルター心電図)・心エコー・循環血液量モニ
ター・非観血的心機能モニター等での リアルタイム
な循環動態や不整脈などの評価

透析後 胸部X線写真・心エコー・心臓利尿ホルモン(HANP)・
体成分分析などで基礎体重(DW)を評価
透析間 心機能などをスクリーニングする検査や冠動脈造影・
心筋シンチ等のベッドサイド以外での精査

透析前後で体液量等が異なるので、評価のタイミングが重要
透析患者の心不全の治療
‡基礎心疾患(狭心症・弁膜症など)の治療
‡心負荷の軽減
– 容量負荷の軽減:透析で基礎体重を低下させる、
透析間体重増加を抑える、利尿剤の服用など
– 圧負荷の軽減:降圧剤・血管拡張剤の服用など
– シャント流量の低減(動脈表在化への変更を含む)
‡心収縮性の向上
– 強心剤(ジギタリスなど)の服用など
‡不整脈の管理
– 抗不整脈薬の服用、心臓ペースメーカーなど
– 透析の検討(除水の工夫や電解質異常補正など)
透析患者で動脈硬化が進む背景
z基礎疾患(高血圧、糖尿病、痛風、高齢など)
z腎不全に伴うCa・P代謝異常
– 異所性石灰化や二次性副甲状腺機能亢進症など
z腎不全に伴う脂質代謝異常
– 高中性脂肪血症、HDLの減少、VLDL・LDLの増加、
リポプロテイン(a)の増加など
z腎不全に伴うアミノ酸代謝異常 MIAについては、
41頁参照
– 高ホモシスチン血症など
z血小板機能異常や凝固・線溶系の異常
z腎不全・透析治療に伴う慢性炎症状態(MIA)
狭心症・心筋梗塞
‹症状:胸痛、胸部重苦感、胸部拘灼感、動悸など
– 透析前の体重が増加した時や透析中に発作がおきやすい
– 発作が無痛性であり、血圧低下や心不全症状で表現され
ることがある
– 貧血の程度や除水などの影響を受ける
– 冠動脈の石灰化が強く、病変も重症であることが多い
• 検査:心電図、運動/薬物負荷心電図、ホルター心電
図、心筋シンチ、冠動脈造影(CAG)など
‡治療:薬物療法(亜硝酸剤など)、カテーテルによる経
皮的冠動脈治療(PCI)、心臓バイパス手術(CABG)、
適正な透析と透析方法の工夫など
閉塞性動脈硬化症
‹症状:足のしびれや冷感、歩いた時の足の痛み(ふ
くらはぎや太もも)、安静にしている時の足の痛み、
足の潰瘍や壊死など
– 症状は片側のことが多く、徐々に進行する
– 痛みは歩くのをやめると、10分以内くらいで消失
– 透析患者では、透析の時に症状がでることもある
– 足の症状で気づかれることが多いが、腕でもおきる
• 検査:脈の触診、超音波による血流測定、脈波伝搬
速度(PWV)、MRA、血管造影など
‡治療:薬物療法(血管拡張薬、抗血小板剤など)、カ
テーテルによる経皮的血管拡張術(PTA)、バイパス
手術など
脳血管障害
‹症状:突然の頭痛・吐き気・嘔吐、片側の手足のしび
れや麻痺、言語障害や嚥下障害、けいれん、意識障
害など
– 突然発症するので、早期の診断と治療が重要だが、脳梗塞
では、朝起きた時に(異常に)気づくことがある
– 高齢者や糖尿病者では、しばしば多発性の小梗塞を検査で
認めるが、症状には乏しい場合が多い
– 透析時低血圧は、無症候性脳梗塞の危険因子とされる
• 検査:麻痺や感覚異常等の診察、頭部CT、頭部MRI、
脳血管造影など
‡治療:脳梗塞:薬物療法(血栓溶解など)
脳内出血:手術による血腫除去、薬物療法
くも膜下出血:手術による動脈瘤のクリッピング、カ
テーテルによる動脈瘤の塞栓手術(破裂前)
透析患者が感染症に弱い背景
z 尿毒症による抵抗力の低下
– 尿毒症の免疫機能異常(リンパ球や単球の機能異常、特
異抗体の産生能低下、好中球機能異常など)
– 栄養障害(食欲低下、不適切な食事、栄養素の喪失など)
– 抵抗力の低い原疾患(糖尿病・膠原病など)
– 薬剤(免疫抑制剤など)
– 透析治療による免疫系への反復性の刺激(慢性炎症状態)
– その他(鉄分の過剰沈着など)
z 細菌などの侵入経路・機会が多い
透析患者は
– 皮膚や粘膜の防御機構の異常
感染症に罹り
– シャント穿刺やカテーテルからの進入
やすい
– その他(集団での治療や輸血など)
注意が必要な感染症(1)
• ウイルス性肝炎(B型、C型など)
– 造血ホルモンが登場する以前に、貧血治療や手術
のため、輸血をしたことが主な原因
– 血液感染の危険が強いので、厳格な感染対策と、
定期的な肝炎ウイルス検査が必須
‡治療:インターフェロン治療(C型)、抗ウイルス剤(B、
C型)など
• シャント感染
– 皮膚にいる常在菌が原因のことが多く、細菌が容易
に血中に入るので注意が必要
– シャント(穿刺)部の赤み・腫れ・熱感などを認める
‡治療:抗生剤投与、切開などの外科的処置
注意が必要な感染症(2)
• 結核症
– 新たに感染するのではなく、既に体内にいる菌が、
活動を再開することによる感染が多い
– 肺以外に感染源がある場合も多く、発熱・盗汗・リ
ンパ腺腫大などで気づかれることが多い
‡治療:抗結核剤が基本だが、長期間の服用が必要
なので副作用にも注意
• 尿路感染症
– 尿量が少なくなっていて、細菌を排出できないため
膀胱炎などになりやすい
• 腸炎
– 慢性的な便秘や下痢などにより、腸内細菌の量や
種類の変化がおき、腸炎を起こしやすい
注意が必要な感染症(3)
• 風邪や流感(インフルエンザ)など
– 多くの患者が狭い透析室で同時に治療を受けて
いるため、感染経路として、空気感染や飛沫感染
が想定される病気は罹りやすい
– 流行する季節にはマスク・うがいなどの個人の予
防対策が勧められる
‡全般的な注意事項
– 栄養状態をよくして、体の抵抗力をつける
– 日頃から、うがいや手洗いなどを行う習慣をつけ、
細菌やウイルスの侵入を防ぐ努力が大事である
– 予防接種が有効な病気もあるが、腎不全の免疫
異常により、抗体ができない場合もある
透析患者と悪性腫瘍
z 尿毒症による免疫不全、腸内細菌の変化に伴う腐
敗産物の蓄積、腎障害・便秘などによる発ガン物質
の体内停留などが背景として考えられている
9 一部の透析定期検査が、悪性腫瘍の健診の役割を
果たしうる(胸部X線検査→肺癌)が、発生頻度の高
い腎臓癌・胃癌・大腸癌・乳癌などは、定期検査で
は調べることができない
‡定期的なスクリーニング検査を行うか、一般人と同
様に住民健診などを受診することが必要
9 腫瘍マーカー(癌細胞が作る糖タンパクなど)では、
早期診断は難しく、腎不全では基準値が通常と異な
るもの(CEA、CA19-9、CA50など)もある
透析患者の癌スクリーニング(例)
対象 頻度 検査
(年)
胃癌など 1回 内視鏡/消化管造影

肺癌 6回* 胸部X線写真

大腸癌(消化管の癌) 2回 便潜血(免疫法:2検体/回)

腎臓癌・肝臓癌 1回 腹部超音波/腹部CT

乳癌・子宮癌 1回 (それぞれの健診)

卵巣癌・前立腺癌など 1回 CA125、PSAなど腫瘍マーカー

*定期検査として2ヶ月に一回した場合 (伊丹儀友 2001 改変)


後天性腎嚢胞と腎癌
• 透析を長期間受けていると、腎臓にだんだん多数の嚢
胞(後天性腎嚢胞)が形成されてくるが、この様になっ
た腎臓を多嚢胞化萎縮腎(ACDK)と呼ぶ
• 後天性の嚢胞形成には、尿毒症の環境が関与してい
ると思われるが、詳細な原因は不明
• 腎癌はこの後天性嚢胞から発生するが、その発生頻度
は一般人口の9.5~12.5倍くらいと推定され、両側の腎
臓に、同時に癌ができることも希ではない(約15%)
‹症状:血尿・腰痛・発熱などが見られることもあるが、無
症状でエコー検査の結果発見されることも多い
‡治療:小さいものでは手術を急ぐ必要性は高くないが、
定期的に検査し、大きくなる(2~3 cm以上)なら、腎臓
を摘出する
透析の慢性合併症の治療(まとめ)
z 透析患者に種々の慢性合併症が起きる原因は、尿
毒症の病態改善が不十分であること、透析治療の非
生体適合性(透析液、ダイアライザー、溶出物など)、
体液の貯留、栄養障害などの結果と考えられる
‡従って合併症治療に際しても、①生体適合性の高い
器材を使ってしっかり透析をすること、②適正な範囲
に体液量を管理すること、③十分な食事摂取をして
栄養状態を改善することが大切である
‡さらに透析生活の初期から上記①~③を実践して、
合併症を予防する(または発症を遅延させる)ことが、
生命予後の改善に結びつくものと考えられる
シャントの使い方と血管の変化
‡広い範囲の穿刺をして、
穿刺で使った部分の血
管の全体が、緩やかに
拡張したシャント
(右上図 )
‡多少の屈曲があっても、
十分に穿刺可能である
„ 狭い範囲を穿刺し続け、
穿刺部がラクダの瘤の
様になったシャント
(右下図 )
三つのシャントの使い方(穿刺法)
血管が全 穿刺孔の 血管の変
体的に緩 集まる部 化がほと
やかに拡 分が瘤に んどおき
張する なる ない

(Krönung G 1983)

縄ばしご法 ふたこぶラクダ法 ボタン穴法


Rope-ladder法 Area法 Buttonhole法

最も広まっているのは「ふたこぶラクダ法」だが‥‥
「ふたこぶラクダ」の成り立ち
拡張

狭窄形成 (Krönung G 1983)

• シャントの特定部位に穿刺が反復されると、静脈壁
が破壊されて弱くなり、徐々に血管の異常な拡張を
きたす
• 拡張部の前後は、血流が乱流や高流速となり、血
管内皮の肥厚を起こして、狭窄することが多い
「ふたこぶラクダ」法の功罪
‡現在最も広まっているのが、脱血側と返血側の穿刺範
囲が、何となく狭い領域に限定される穿刺法である
~「ふたこぶラクダ」法(area穿刺法)
<よくない点>
9 特定部位の血管の拡張が明らかになると、皮膚や皮
下組織などが薄く瘢痕化し、弾力性を失って傷む
9 しばしば止血が難しくなる(皮膚変化のため)
9 「ふたこぶラクダ」状となると、拡張部の前後の穿刺は、
狭窄のために難しくなり、修整が困難となる
<よい点>
9 皮膚と血管の癒着がすすみ、その部分の血管内腔が
拡張するので、穿刺がしやすくなり、穿刺に伴う疼痛も
軽減することがある
穿刺部位は広くとる
• どの教科書にも、「特定の場所ばかり使用しないで、穿
刺部位は万遍なく広くとる」とあり、最も適切なシャント
の穿刺法は、「縄ばしご」法と考えられる
• 「縄ばしご」法では、比較的広い範囲の血管が緩やか
に拡張するので、穿刺できる範囲を多く確保できる様
になり、シャントの寿命を延ばすことが期待される
• 広く穿刺する際には、血管の真上だけでなく、穿刺方
向ずらして、血管の左右からも穿刺をするとよい
• ペンレス(麻酔のシール)を、次に穿刺する方向にずら
して貼ることで、穿刺範囲を広げることが容易になる

一回の穿刺成功だけでなく、シャントの将来も考えよう
縄ばしご法の実際
脱血側の穿刺範囲(例)
脱血側穿刺の例
返血側穿刺の例

吻合部

返血側の穿刺範囲(例)

• 脱血(動脈)側は肩(中枢)よりから使い、徐々に手
(末梢/吻合部)の方へ穿刺口を移動する
• 返血(静脈)側は手(末梢/吻合部)よりから使い、
徐々に肩(中枢)の方へ穿刺口を移動する
• 穿刺口の間隔は5~10 mm程度とする
• 穿刺予定範囲の端まで到達したら、再び開始位置に
戻って、同様の手順で広く穿刺に使用する
縄ばしご法の局麻テープの張り方
前回の穿刺孔
穿刺孔をずら
(痂皮) していく方向

今回の穿刺の予定位置

前回の穿刺孔が、ずらしていく方向と反対側の
隅にくる様に、局麻テープの中心をずらして貼る
ボタン穴法とは
‹1977年にTwardowskiらが発表した方法で、シャントの
同一部位(正確に同じ経路の穴)を繰り返し穿刺するこ
とで、固定した穿刺ルートを作ると、シャントに経年的
な変化を来すことなく使用できるとされる
• 以前は、穿刺ルートが完成されるまで数ヶ月間、熟練
した穿刺者による反復穿刺が必要とされた
• 新里・當間らにより、ピンを用いた簡易作製法が考案さ
れ、キットとして発売された(二週間程度で作製でき、
穿刺は先が少し鈍な専用針を使う)
• 現在のところ対応可能な施設は限られるが、患者自身
が穿刺する家庭透析などでは有用な方法と考えられる
バスキュラーアクセスの合併症
‡狭窄/閉塞
‡瘤形成(拡張)/石灰化
‡感染/菌血症(敗血症)
‡スティール(盗血)症候群
9 シャントのために吻合部より末梢への血流量が減少して、手
指の冷感、痺れ、痛み等が出現する
‡シャント肢の浮腫/静脈高血圧
9 末梢側に向かう血流量が増加し、手指などに浮腫、血管の
怒張、変色などが出現する
‡シャント過剰流/心不全
9 シャント血流の増加により、頻拍、動悸、心不全症状などが
出現する(心機能低下があると起きやすい)
‡出血/止血困難/血腫形成
シャントの観察をしよう
• シャントは見た目の異常がないか観察し、かつ手で
触って血流が「ザーザーと流れる感じ(スリル:thrill)」
や良好な流れを示す低調な雑音(聴診)を確認する
– シャントでは、圧の高い動脈から圧の低い静脈に、血液が
勢いよく流れ込むために乱流が発生して、それが血管壁を
振動させることにより、スリルや雑音が発生する
– シャントの狭窄部では、スリルは弱くなり、雑音は高調となる
• 患者を臥位にして診察した方がわかりやすい
– 吻合部を心臓より高い位置にすると、血流が弱まり、雑音や
スリルが分かり難くなるので、異常かどうか判定しづらくなる
• 「脱血不良」は、シャント吻合部の狭窄、または吻合部
と穿刺部間の狭窄の重要な兆候である
• 「スリルの消失」「静脈圧(返血圧)の上昇」は、シャント
の流出路狭窄の兆候である
絵でみるシャント観察のポイント
吻合部から流出路まで 手~腕の浮腫・変色
部位別のシャント音やスリル 手背の血管の拡張
血管の拡張や蛇行等の変化

両腕を
比較

穿刺部の皮膚の変化、 手指の冷感・しびれ・
感染兆候、静脈圧上昇 痛み・チアノーゼ
拡張(瘤)の陰に狭窄あり
狭窄部
狭窄部の後も乱
流により拡張する

流出路に狭窄部があると、
圧が高まり拡張して瘤を
形成する

まず血管アクセスをよく見るこ 異常拡張部(穿刺瘤)の前後
とで、血管に問題のありそうな は、狭窄を来してくる
ところがわかる
スリル/雑音/血流の変化(その1)
-脱血側の吻合側の狭窄の場合-
血流が不足 吻合部:
拡張してくる スリルは弱く、
場合もある 拍動を触れる

脱血側の穿刺部:
多くの場合スリル 狭窄部:
はあり、低調な雑 高調な雑音(狭窄を
音が聞こえる 示す)が聞こえる
スリル/雑音/血流の変化(その2)
-脱血側の中枢の狭窄の場合-

スリルを触れる 血流は十分 吻合部:


こともある 時に止血困難 スリルは弱く、
拍動を触れる

狭窄部:
脱血側の穿刺部:
高調な雑音(狭窄
多くの場合スリルが
を示す)が聞こえる
なく、雑音は弱い
スリル/雑音/血流の変化(その3)
-人工血管の静脈側狭窄の場合-
高調な 静脈圧が 血流は
狭窄音 上昇する 十分

静脈 動脈
静脈へ戻り難くなっ
た血液は、脱血側へ

• 人工血管と静脈の吻合部や静脈の流出路には、血流の影響で
狭窄ができやすく、その結果静脈圧が上昇することが多い
• 人工血管では側枝が無いので、狭窄の状況によっては流れや
すい方(脱血側)に血流が引かれて再循環を起こしうる(この場
合、見かけ上静脈圧は低下することもある)
シャント閉塞の危険な前兆
‹危険な徴候
zシャントのスリルやシャント音の微弱化
z脱血(血流)の不良
zシャントのスリルの消失
→脱血できても拍動のみになる
z静脈圧の上昇や止血困難
‹危険な全身状態の変化
z下痢や嘔吐など(脱水を生じさせる状況)
z透析時低血圧/起立性低血圧/慢性低血圧
→基礎体重が低すぎないか常に注意する
シャントの保護(一般的注意) 患者
指導

• 毎日シャントの血流(音)を確かめる
– 吻合部の近くに手を当て流れ(thrill)を確認
• 広い範囲を穿刺に使用する
• きちんと血を止める(止血する)
• 翌日には必ずガーゼ類を取り除く
• シャントの圧迫を避ける
– 物をぶら下げない、叩かない、時計・腕輪をしない、
止血時に過度・長時間の圧迫をしない
• シャントの腕の運動をして、血管を発達させる
• シャントの腕を冷やさない(保温する)
シャントの保護(感染対策) 患者
指導

• 穿刺時・返血時の清潔操作を徹底する
• シャントの腕(からだ)をきれいに保つ
• 透析後は、十分に注意して入浴する
– 透析当日は針穴(穿刺孔)を濡らさない
– 下半身浴(腰湯程度)にとどめる
– 入浴後の低血圧にも気をつける
• 穿刺孔を濡らしたら、消毒をしなおす
• 発疹やかぶれ等の異常に、早期に対処する
• かき傷などを作らない様に気を付ける
• よく食べ、よく透析して、抵抗力をつける
人工血管シャントでの注意
• 術後一時的に、移植側の腕が腫れることが多いので、
穿刺開始は浮腫の消退後が望ましい
• 人工血管は感染を起こすと治りにくく、抜去が必要と
なるので、穿刺前観察・消毒・清潔操作に気をつける
• 人工血管自体は再生しないので、穿刺が同一部位に
ならない様に、少しずつずらすことを徹底する
• 分枝がないので、止血時に強く圧迫しすぎない
• 静脈側の吻合部が狭窄を来たしやすいので、人工血
管に返血している場合は、静脈圧の変動やHD中の
血流の再循環に十分に注意する
• シャント流量が多く、心臓への負担が大きくなるので、
心機能の変化、体重や血圧の管理に留意
表在化動脈での注意点
• 「動脈→静脈」の短絡路が無いので、心臓への
負担がないのが特徴である
• 手術の傷が大きくなるので、癒着・治癒に時間
がかかる(穿刺は術後3~4週間が目安)
• 穿刺範囲を広くとって動脈瘤化を防止しないと、
血管アクセスとしての寿命が短くなる
• 止血をきちんと行なわないと、大きな血腫を形
成して、仮性動脈瘤を形成することがある
• 反復穿刺により血管が傷み、穿刺部の末梢の
血流が不良となったり、閉塞することもある
バスキュラーアクセスの修復
• 長い透析生活の間には、シャントの血管が徐々
に変化してきて、膨れたり(拡張・瘤)、細くなっ
たり(狭窄や閉塞)、硬くなったり(血管壁の肥
厚・石灰化)するので、修復が必要となる
‡通常の外科手術による修復
‡血管内手術による修復
• 修復に際しては、日頃のアクセス(血管)の状態
(診察・シャント地図など)、超音波検査や血管
造影の所見などの血管情報が重要である
• バスキュラーアクセスをよく見て、異常を早期に
発見して、適切な時期に修復する
血管内手術:放射線科的治療
Interventional Radiology (IVR)

風船で 血栓を
血管を 吸引し
拡張 て除去

• 専用のカテーテルを用いて血管内部から治療
• 狭窄を解除すること(左側→中央)をPTA*と呼び、
血栓を除去(右側)・溶解することをPTR☆という
*PTA:Percutaneous Transluminal Angioplasty
☆PTR:Percutaneous Transluminal Recanalization
血管内手術の長所・短所
z長所
‡血管を「消費しない」ので、ひとつのシャントの
使用期間を延長できる
‡同じ部位に繰り返し治療できる
‡比較的短時間で済み、患者への侵襲も少ない
z短所
‡「手術」効果が長期間持続しないことがある
‡治療に使われる器材の価格が高い
‡ステントが留置されると、穿刺や手術的修復で
使用できる部位を限定してしまうことがある
通常の手術か、血管内手術か
‹考察要件:患者の血管の状態、これまでの手術
歴、希望、コスト、年齢など
z通常の手術による修復
異常拡張(瘤)/静脈弁/側枝による引きつれ/石
灰化などを伴う狭窄、シャント瘤、短期間頻回の
IVR例など
z血管内手術による修復
単純な狭窄(特に複数ある場合)、シャントの心
臓より(流出路)の狭窄、多数回の手術例、利用
可能血管が少ない人、比較的若年者など
除水が終了したら透析も終わり
• 狭い意味での透析(透析量で表されるもの)は、
腎臓の働きのうち「尿毒素を排泄する機能」を
補っているが、「除水」は「体液量を調節する機
能」を補っている
• 両者は腎臓の働きの異なる面を補っており、
片方が十分なら、もう一方も十分であるという
ことにはならない
• 従って、透析の量を決める重要な因子である
「透析時間」は、除水が終了したからといって、
絶対に短縮してはならない
除水完了を透析終了時間に合わせて設定し、時短しない
効率を上げれば時間を短くできる
• 「透析量=透析効率×透析時間」であるので、
透析効率を上げれば、透析時間が短くても同じ
透析量が得られると考えがちである
• しかし、透析効率を上げても時間を短くすれば、
きれいになるのは血液(血漿)だけで、細胞内
の毒素が十分に抜けないうちに、透析を終えて
しまうことになる(25頁参照)
• 平均的透析(4時間×週三回)の腎代替量は不
十分であり、透析時間の短縮は勧められない
透析量を増加するには、効率も高く、時間も長くする
血流量を上げると血圧が下がる
• 一般的に内シャントの血流量は500~1000 ml/
分程度(人工血管シャントは1000 ml/分以上)
であり、それは心拍出量の8~13%に相当する
• 透析の回路を流れる血液は、シャントを流れる
血液の一部であり、血流量を上げても、シャント
を流れる血液の量は、ほとんど変化しない
• 但し、透析効率を上げることによる浸透圧や電
解質の急な変化や、シャント自体の心臓への負
担には注意が必要である
血圧に影響するのは血流量でなく、除水速度(量)である
透析中は飲み食い自由である
• 飲食物は、一旦消化管の中で消化液と混ざり、
その後15~120分程度で消化・吸収される
• 4時間透析を仮定すると、透析前半の飲食物
は透析中に吸収され、その透析で「抜ける」と
思われるが、透析後半の場合は全部が吸収さ
れる前に透析が終わる可能性が高く、摂取量
(特にカリウムの多い食品)には注意が必要
• また飲食物の分の除水量が増加するし、飲食
により一時的に血液量が減少して、血圧が下
がりやすくなるので、その点にも留意する
透析中の飲み食いにも、若干の配慮が必要である
体重が増えた時は食事を抜く
• 透析間の体重増加を気にして、透析に来る前の
食事を一回抜いて(少なくして)はいけない
• 透析前の食事を抜いて、一日が二食になったり
すれば、間違いなくカロリー不足となり、結果と
して痩せてしまう
• 推奨された範囲(透析間が1日ならDWの3%以内、
2日ならDWの5%以内)の体重増加量であること
は理想的だが、これを多少超えたとしても、十分
に食べる方が、より重要である
「よく食べて、よく抜く(透析する)」のが長生きの秘訣
便秘をすると体重が増える
• 透析患者の水分のバランスを考えると、体重
増加は主に水分摂取量と食事量により決まる
• 糞便中の約75%は水分であるが、もともと水分
の排泄経路としての役割は小さい(35頁参照)
• 便秘があっても、それが「kg」単位での体重増
加の原因となる可能性は極めて低い
• 但し、下痢の場合には失われる水分が多く、
体重が増加しなかったり、減少したりすることも
あるので、脱水や低血圧に注意が必要
水分の出納を考えれば、便秘で体重は増加しない
透析後の食事分を先に引いておく
• 基礎体重(DW)は、体の水分が適正な量になる
様に決められるので、除水してDWに近づくと、
血液量(BV)は最小になり、血圧も低くなる
• この様な状況で、透析後の食事分を先に除水
することは、望ましい基礎体重よりも体重を下げ
ることと同じで、血圧低下の危険性が高まる
• 基礎体重の設定状況によっては、除水が実行
できる場合もあるが、適切な方法ではない
• また透析後に食事をとっても、次回の体重増加
には、ほとんど影響を与えない
透析後の食事分の「先取り」除水は血圧低下の危険あり
透析後は疲れる
• 透析後に疲れやだるさを訴える患者は多いが、
その症状の主因は血管内脱水が考えられる
• 本来、基礎体重は「患者の体調が最もよい体
重」であり、透析後に愁訴があるのはおかしい
• 一回除水量が著しく多い場合を除けば、透析後
疲労感など体調不良が認められるのは、基礎
体重が低すぎる兆候である可能性が高い
• また「除水量の多い患者」は、しばしば「よく食
べる患者」であるから、「太る可能性が高い」こ
とも考慮しなければならない
透析後の体調不良は、基礎体重が低すぎる兆候
患者
日常生活の注意点(家庭で) 指導

• 血圧[血糖]や体重を測定する習慣をつける
• 一日三回、制限はあるけれども、必要かつ十分
な食事を摂る
• くすりは指示どおり、正しく服用する
• 毎日シャントの状態をみる(86~89頁参照)
• 運動(歩くこと)で筋肉量を維持する
→非透析日だけの運動でも効果が得られる
• 透析後は、感染や血圧低下の危険があるので、
十分に中止しながら入浴する
患者
日常生活の注意点(透析室で) 指導

<開始時の注意>
• 体調は正しく報告する、特に具合の悪い時は透析開始
前にスタッフに申告する
• 穿刺時など、スタッフを急かさない
<透析中の注意>
• 無理に(急に)姿勢を変えたりしない(抜針に注意)
• 気分の変化は、すぐに報告する
<透析後の注意>
• 血管アクセスの止血が確実であるか確認する
• 終了時の血圧が低かった人は、帰宅するまでケアを
– 再度低血圧が起きていないか必ず確認する
– 透析後の異常(含シャントの状態)も、必ず記録に残す
来院時の患者観察の留意点
• 食欲があり、体調がよいか(食事摂取量把握)
• 血圧や脈拍などは安定しているか(VS測定)
• 浮腫や心不全の症状はないか(体重測定)
• 高Kの症状(しびれ、脱力感など)はないか
• 発熱、痛み、腫れなど感染の徴候がないか
• 薬剤は正しく服用・注射しているか
• バスキュラーアクセスの状態はどうか

同じ作業の繰り返しでマンネリ化し易い職場
「確認する」という基本を忘れてはいけない
透析患者への社会的援助
„医療費軽減のための制度
特定疾病療養費(マル長)、更生医療、重度障
害者医療費助成制度(マル障)など
„所得保障のための制度
障害年金、傷病手当金、生活保護など
„生活支援のための制度
身体障害者手帳、介護保険、ホームヘルパー
やボランティアの利用など
受給資格・申請手続き等は、ソーシャルワーカーに相談
透析療法と医療経済
• 透析患者の医療費は一ヶ月あたり約40万円、
一年あたり約500万円
• 全医療費(約30兆円)に占める透析医療費の割
合は3~4%程度(約1兆円)
• 現在の透析医療費は、処置料(透析液・抗凝固
剤・EPOなどを含む)、特定治療材料(ダイアラ
イザーなど)、外来医学管理料(各種検査)、薬
剤費などから構成される
• 将来的には包括化される可能性が強い

限られた診療報酬の中で最善の透析が求められている
医療費が決める治療内容
‡透析技術料は月14回まで認められる(1998年~)
9 15回目以降は、特定治療材料や薬剤等の実費の請求可能
‡2002年3月までは透析時間により、透析処置料(技術
料)の保険点数が異なったが、実際上「4時間透析」の
コストパフォーマンスが最もよかった
‡2002年4月からは時間区分が撤廃された(*)
‡2006年からは造血ホルモンの価格が包括化された(☆)
時間区分 4時間未満 4以上~5未満 5時間以上
1997年 1630 2110 2210
2002年 1960* 1960* 1960*
2006年 2250☆ 2250☆ 2250☆
慢性透析患者の現況
‡患者数は2005年末で約26万人
‡2005年の導入者:36063人、死亡者:23983人
‡高齢化が進んでいる(60歳以上)
¾平均年齢は患者全体:63.9歳(導入患者:66.2歳)
¾50.0 %(1991年末)→64.3 %(2005年末)
‡糖尿病患者が増加している(導入最多原因)
¾16.4 %(1991年末)→32.5 %(2005年末)
‡長期透析患者が増加している(透析20年以上)
¾0.5 %(1991年末)→6.8 %(2005年末)
「わが国の慢性透析療法の現況 2005年12月31日現在」
透析患者の平均余命
「わが国の慢性透析療法の現況 2005年12月31日現在」
平均余命

60
50
40
30
20
10
0

年齢
30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90
一般男性 一般女性 透析男性 透析女性

透析患者の平均余命は一般人口の45%程度で、十分とはいえない
透析療法の目標と透析量
‹生命の維持
‡低下・廃絶した腎機能を補う
→生命の危機を回避する量の透析
‹高い生存率とQOLを提供
‡健常な人に近い生活を送ることができる
‡社会的な役割を果たすことができる
→十分に腎機能を補う量の透析
→「至適透析」の実現
腎機能をどこまで補えば十分か?
腎機能

30% 目標の水準?
20%
現在の水準
10%

• 慢性腎不全が進行する過程で、腎機能が30%以下に
なってくると、全身への影響が出現し始める
• 透析により腎機能で30%程度補うことができれば、患者
の生命予後を大きく改善できる可能性がある
十二分な透析量を確保して、至適透析を実現しよう
「至適透析」をめざして
☆「至適透析」とは、医療者からみて適正な透析である
こと(適正透析)だけでなく、患者からみても満足でき
る状態にあること(満足透析?)
<適正透析(必要条件)>
現代の水準にあった良質な透析が、適切な量きちん
と行われて、検査結果もよい状態
<満足透析(十分条件)>
尿毒症の症状・合併症が最小限であり、かつ身体
的・精神的・社会的にも良好な状態
(高い生存率と高いQOLが得られた状態)

検査結果がよいだけでは、患者が良好な状態だとはいえない
より高い生存率とQOLのために
-どういった改善方法がありうるのか-
① 連続的治療にする →携行型人工腎臓
② 透析の頻度を高くする →家庭透析
③ 透析時間を長くする →家庭透析・深夜透析
④ 濾過を主体にする →on-line HDFなど
⑤ 生体適合性を高める →機器の改善
⑥ 透析を早期に開始する →導入基準の検討
⑦ 残腎機能を維持する?→透析の工夫?

もっと自由な発想で、十二分な透析を実現しよう
血液透析と腎臓の比較
-透析は腎臓にまだまだ追いつけない-
<血液透析(人工腎)> <生体の腎臓>
• 間欠的な治療法 • 休み無く働いている
• 週あたり9~15時間 • 週あたり168時間
• 拡散の原理が主体で、ろ • ろ過の原理による
過が少し加わる • 分子の大きな尿毒素も
• 分子の大きな尿毒素は 抜ける
抜けにくい • 必要なものは尿細管で
再吸収・代謝する
透析で補うことのできる
腎臓の働きは、「量・質」 「一回4時間×週三回」は
ともに不十分である 「最低限の透析」
透析は腎臓の働きを補う治療
‹一番大事なことは「腎臓の働きを多く補うこと」、
すなわち「十分な透析」である
• 慢性の透析合併症の予防や治療においても、
「十分な透析」が重要である
• また「十分な透析」をすれば、食事などの制限
が緩くなり、透析生活に余裕が生まれる
‡患者をよく診て、適正かつ高い効率で、十分な
時間の透析を心がけよう

透析生活では「十分な透析」がすべての基本

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