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構想設計の基礎知識3

構想設計の進め方

もくじ
1. 擦り合わせ型開発のおける構想設計の手順 …2
2. モジュール構成 …5
3. フロントローディング開発と、その効果 …6

株式会社イプロス
Tech Note 編集部
前回は、擦り合わせ型開発の基本的な考え方を示しました。基本的な
考え方が分かったところで、今回は、構想設計の具体的な手順を学び
ましょう。

1. 擦り合わせ型開発のおける
構想設計の手順
開発初期段階の構想設計全体フローを図 1 に示します。品質表の作成、
技術手段抽出表の作成、全体構想のまとめ、モジュール開発目標の設定、
モジュール開発計画という流れです。各ステップについて説明していき
ます。

図1:構想設計のフロ 品質表の作成 要求品質と設計特性の関連付け



技術手段抽出表の作成 達成方法のアイデア出しと評価

抽出アイデアの統合
全体構想のまとめ 制約条件の考慮
モジュール構成の決定

各モジュールの目標設定 設計思想に基づく課題の配分

各モジュールの開発計画 目標達成のための立案

1:品質表の作成
品質機能展開(QFD:Quality Function Deployment)
という手法を用いて、
顧客の要求品質と設計の特性を対応させ、技術的な課題を整理します。
そのために品質表と呼ばれるマトリクスを作成します。ここでは詳細な
説明は省きますが、顧客要求と技術的特性をそれぞれ要素に展開し、
両者をマトリクスの軸にしてその対応関係を記述します。レーザープリ
ンタの例の一部を表 1 に示します。

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表1:品質表の一部の 技術品質の展開 紙搬送 レーザー系 現像 定着

給紙安定性
速度安定性
方向安定性
位置安定性
光量制御
書込み密度
階調再現性
解像力
非ノイズ性
熱伝導
温度制御
離型性

要求品質の展開
字が読みやすい 線がにじまない
曲線が滑らか
十分な濃度である
たくさんの色が ディスプレイと同じ色が出る
出せる 微妙な色分けができる
環境にやさしい 消費電力が小さい
廃棄物が少ない
多数枚印刷でき 途中で止まらない
る 画像が安定している
◎:関連有(大)  ○:関連有

2:技術手段抽出表の作成
品質表を作成すると、各技術特性が相反したり、単独では決められな
い特性がかなり出てきます。それをどうするかが課題になります。そこ
で表 2 のような技術手段抽出法を作成します。

表2:技術手段抽出表 対応する
評価
要求品質 要求レベル 現状 達成方法 要求に対 製品コスト 開発工数 判断
技術品質 副作用
する効果 への影響 (人数、期間)

・要求品質・要求レベル・現状
要求品質を定量化可能なレベルまで展開し、要求レベルと現状を記載
します。

・対応する技術品質
品質表から要求品質に対応する技術品質を全て転記し、要求レベルの
達成方法を記載します。この場合、複数の技術品質の組み合わせが必
要な場合はそれも同時に記載します。またできるだけ多くのアイデアを
上げ、並行して記載します。

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・評価
要求に対する効果、副作用、製品コストへの影響、開発工数の評価を
行います。出されたアイデアに対して、技術的な難易度、要求項目に
対する効果、副作用、製品コスト、開発工数を点数化します。ここでは
推測しかできないので、新たな検討結果や情報などがあった場合は柔
軟に見直します。

・判断
各評価点を参考に、開発を進めるかどうかの判断をします。この場合、
例えば、単純に合計点で決めたりしないようにしましょう。各点数は現
時点でのものであり、今後どのように変化するかは不明です。また難易
度が非常に高く、多くの開発工数が必要なものであっても、代替手段
がない場合はあえて採用する場合も出てきます。

3:全体構想のまとめ
抽出されたアイデア(技術手段)を選択・統合し、目標どおりの性能が
得られるか、副作用が発生しないかなどを確認します。製品開発上の
制約条件を考慮ながら、技術手段を組み合わせてシステム構想としてま
とめます。その組み合わせにより、複数のシステム構想が作成される場
合もあります。さらに多くの場合、モジュール(サブシステム)構成に
分割します。モジュール構成については後述します。

4:各モジュールの開発目標の設定
システムの仕様とシステム構想に基づいて、
システムの課題を各モジュー
ルに配分して、それぞれの開発目標を設定します。これは構想設計の
重要な項目です。擦り合わせ型のシステムにおいては、1 つのモジュー
ルに対する目標が決めにくく、
逆にいえばいくつものやり方がありえます。
その場合でも、元々の設計思想や技術手段抽出表、あるいはその他の
情報に基づいて、技術目標を決める必要があります。

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5:各モジュールの開発計画を立てる
システム構想を受けて、手段などを具体化して基本設計を行っていきま
す。すなわち、抽出された達成手段を組み合わせることにより、モジュー
ルとしての目標が満足できるか、副作用などの障害はないかなどの
チェックを行います。

基本的な流れは以上のとおりです。開発する製品や状況に応じて柔軟
に運用していきます。例えば後工程で検討した結果を前工程にフィード
バックし、部分的に見直すことは積極的に行うべきです。

2. モジュール構成
ここでモジュールについて触れておきます。製品システムがある規模以
上の構成数になると、分業化が必要になります。そのため、表 3 のよ
うな基準でモジュールと呼ばれるサブシステムに分割し開発の効率化を
図ります。

表3:モジュール化の 目的 説明
開発のしやすさ 利用する技術で分割する
目的
生産のしやすさ 部品のまとまりやすさ、全体システムの組み立てやすさなどに基づいて分割する
保守のしやすさ 取り外しやすさ、交換のしやすさ、清掃にしやすさなどに基づいて分割する

モジュールが単一の機能を担っている場合は、全体構成が単純になり、
組み合わせ型のシステムになります(表 4 の a)
。それに対してモジュー
ルと機能が一対一に対応していない構成になっていることも少なくあり
ません。この場合は 1 つの機能に複数のモジュールが関わっており、
擦り合わせ型のシステムになります(表 4 の b)
。特にこのような擦り合
わせ型のシステムで、構想設計が重要になります。

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表4:モジュールと機 (a) 組合せ型システムの対応関係 (b) 擦り合わせ型システムの対応関係
能の関係 機能 機能
1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6
A A

モジュール

モジュール
B B
C C
D D
E E
F F

3. フロントローディング開発と、その効果
製品開発では、後半になるほど、設計の自由度が小さくなっていきます。
開発の後半段階になって品質問題や安全上の問題が出てきた場合、多
くの制約条件の中で問題解決しなければならず、非常に多くのリソース
(ヒト・モノ・カネ)を投入することになってしまいます。それに対し、
フロントローディング開発は、自由度の大きい開発初期段階にリソース
を集中させる手法で、
開発後半に増加するトラブルを未然に防ぎます
(図
2)

図2:従来型開発とフ 開発リソース

ロントローディング開
発 フロントローディング開発 従来型開発

構想設計 基本設計 詳細設計 生産 時間

ここで紹介した方法は、事前に明らかにできる問題を導き出し、設計思
想によってそれを回避するものです。これだけで 100% トラブルを防止

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できるわけではありません。他にもロバスト設計のような手法を取り入
れることで、フロントローディングを実践し、製品開発で具体的に成果
を上げることができるようになります。

今回は、構想設計の進め方を解説しました。次回は、もう一つの重要
な視点、コストを取り上げます。お楽しみに!

構想設計の基礎知識 3:
構想設計の進め方
初版 2017 年 3 月 8 日

著者: 庄司技術士事務所 庄司 尚史

発行元: 株式会社イプロス Tech Note編集部


E-mail:media@ipros.jp
URL:https://www.ipros.jp/technote/

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