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データでみるラジオの聞かれ方

世論調査部 星 暁子

1925 年のラジオ放送開始から90 年。 表 1 ラジオ聴取率高位番組


この間,NHK では,ラジオ聴取者の実態 番 組 放送時刻 聴取率
1) お父さんはお人好し  月  後 8:00〜8:30 30%
を調査した結果を蓄積してきている 。
三つの歌  月  後 7:30〜8:00 26
ラジオはどのように聞かれているのか。過去 午前7時ニュース 毎曜日 前 7:00〜7:15 23
の調査結果にも触れながら,簡単に紹介した 私は誰でしょう  月  後 8:30〜9:00 23

い。 午前6時ニュース 毎曜日 前 6:00〜6:15 20


のど自慢素人演芸会  日  後 0:15〜1:00 20
私たちのことば 月〜土 前 6:50〜7:00 17

1 これまでのラジオ聴取 2) 特別番組
「安保体制のゆくえ」
 日  後 7:20〜8:00 17

花の星座  日  後 8:00〜8:40 16


日本において1925 年に放送が始まったラジ
とんち教室  土  後 8:30〜9:00 16
オは,徐々に人々の間に普及していき,1940
「ラジオ番組全国聴取率調査」1960 年 6月~ 7月
年には受信契約数は 500万を超えた。契約数 ラジオ受信契約世帯の12 歳~ 69 歳

は1944 年には 747 万となり,戦後の混乱期に


538万まで 減 少したが, その 後再び増 加し, のラジオの機能は,1953 年に始まったテレビ
1949 年には 800万に達した。1950 年代には民 放送に取って代わられることになる。テレビ受
放ラジオが次々と開局し,1958 年に受信契約 信機の価格の低下や東京オリンピックなどのビ
数がピークに達する(1,481万件)
。この頃のラ ッグイベントにより,1950 年代後半から1960
ジオは報道,教養,娯楽,スポーツなどを総 年代前半に受信機が急速に普及したことに加
合的に編成しており,茶の間に置かれた受信 え,テレビの編成,番組内容の充実により,
機に,家族が耳を傾けた。 人々がテレビを見る時間自体も増えたのである。
特によく聞かれたのは歌や演芸などをはじめ 図 1 は,NHK 国民生活時間調査からみた平
とする娯楽番組だが,ニュースなどもよく聞か 日1日あたりのテレビとラジオの視聴時間の推
3)
れた(表 1 ) 。 移である。1960 年には1時間 34分だったラジ
しかし,この家庭における総合メディアとして オ聴取時間は,1965 年には 27分と大幅に減

7
図1 テレビ視聴時間量とラジオ聴取時間量の変化(平日,国民全体)
時間
4:00
3:32
3:19 3:17
3:05 2:59 3:00
2:52 3:25 3:27 3:28
3:19
3:00
テレビ

2:00
1:34

ラジオ
1:00
0:56 0:35 0:39 0:32 0:33
0:28 0:26 0:21 0:23 0:20
0:27 0:26
0:00
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 年

注)1960~1965年(面接法・アフターコード方式),1970~1995年(配付回収法・アフターコード方式),1995~2010年(配付回収法・プリコード方式)のそ
れぞれは,調査方法が異なるため,グラフをつなげていない。
「国民生活時間調査」各年とも10月,全国10歳以上

少し,テレビとラジオの視聴時間量が逆転し け付け,曲の人気投票を盛り込んだ「電話リク
た。 エスト」と呼ばれる音楽番組など,聴取者が参
ラジオ聴取時間にはその後大きな変化はな 加できる番組が人気となったのもこの頃である。
いが,ラジオの聞かれ方には変化が表れた。 1969 年にはFMの本放送が開始され,若者
その1つとして,1955 年のトランジスタラジオ たちは高音質で音楽を楽しむようになった。し
の出現によるラジオの小型化は,ラジオの役割 かし1980 年代以降はテープやCDが普及した
や機能に変化をもたらした。ラジオは「茶の間 影響もあり,若者たちはしだいにラジオから遠
で家族で聞く」家族聴取から,
「好きなところ ざかっていった。
でひとりで聞く」個人聴取のメディアとなったの 1990 年,NHKラジオ第 1で『ラジオ深夜便』
である。 の放送が始まると,大人が聞ける静かな番組と
こうした変化に合わせ,1960 年代中頃から, して,高年層を中心とした人々から支持される
ラジオはオーディエンス・セグメンテーション(聴 ようになった。
取者細分化)編成を行うようになり,ラジオ各 このように,家族聴取の中心的存在であった
局は 21時以降の番組を若者向けとした。民放 ラジオは,テレビにその役割を譲ったものの,
ラジオの深夜番組は,最新の音楽情報や聴取 オーディエンス・セグメンテーション編成により
者の投書,人気パーソナリティーのトークなど 若者の主要な音楽メディア,参加型メディアとな
が,深夜にラジオを聞きながら勉強する中高生 り,その後,高年層中心に聞かれるメディアへ
をはじめとする若者たちに親しまれた。 と変遷してきたのである。
聴取者が投書や電話でパーソナリティーとや
り取りする双方向番組,電話でリクエストを受

8 │ NHK 放送文化研究所年報 2016


データでみるラジオの聞かれ方

2 ラジオ聴取の現状
と比べると,ラジオが若者のメディアから高年層
のメディアへと変化していることがわかる(図 3 )

ここでは,ラジオの現状についてデータから 職業別では,無職,自営業と主婦によく聞
みていきたい。 かれている(図 4 )。
家にラジオがあるという人は1978 年以降 95
%を超える高い水準を保っていたが,2010 年 図3 週間接触者率の推移(年層別)
に90%を切った。2015 年は 85%である(「全 %
70
国個人視聴率調査」の付帯調査結果による)。
60 61
66
かつての高水準にはないものの,大多数の人が 60
54
53 53
ラジオを受信できる環境にあるといえる。
50
52
では,どれくらいの人がラジオを聞いているの 49 48
44

であろうか。2015 年 6月の「全国個人視聴率調 40 41 43
4) 38 37
査」 によると,ラジオ全体の週間接触者率(1 30
30
週間に5 分以上ラジオを聞いた人の割合)は 37 31
21 25
%である。NHKラジオの第1,第2,FMを合わ 20
1975年
1995年
せた全体の週間接触者率は 21%,民放ラジオ 16 17
10 13 2015年
各局を合わせた全体では 24%である(図 2 )

0
7~12歳 13~19歳 20代 30代 40代 50代 60歳以上
図2 週間接触者率の推移 「全国個人視聴率調査」各年とも6月,全国7歳以上

50

41
図4 週間接触者率(職業別)
40 39
38 37 38 37 %
60
30 29
26 27 26 50
25 24 50
45
20 42
21 21 20 21 20 21 40 39 39 38
32 33
ラジオ計
10
民放ラジオ計 30
NHKラジオ計
0 20
2010 2011 2012 2013 2014 2015年
10
「全国個人視聴率調査」各年とも6月,全国7歳以上

0
農・林・漁業者

自営業者

経営者・管理職

事務・技術職

技能・作業職

販売・サービス業

主婦

無職

年層別にみると,ラジオ全体では60 代 51%,
70 歳以上 53%と,60 歳以上を中心によく聞か
れている。なお,年層別のデータを1975 年当時 「全国個人視聴率調査」2015年6月,全国7歳以上

9
接触者率を曜日ごとにみると,平日が土曜, 表 2 各メディアの行為者率と時間量(平日)
(単位:行為者率は%,時間量は時間:分)
日曜よりも高くなっている(図 5 )。また時間帯
行為者率 89
別にみると午前(5:00 ~12:00 )で 29%とほ テレビ 行為者平均時間 3:54
全員平均時間 3:28
かの時間帯よりも高くなっている(図 6 )。
行為者率 13
ラジオ 行為者平均時間 2:36
全員平均時間 0:20
図5 曜日別接触者率 行為者率 41
% 新聞 行為者平均時間 0:46
30 全員平均時間 0:19
22 行為者率 18
20 17 雑誌・マンガ・本 行為者平均時間 1:12
16
全員平均時間 0:13
10 行為者率 8
CD・テープ 行為者平均時間 1:31
0
全員平均時間 0:07
平日平均 土曜日 日曜日 行為者率 11
「全国個人視聴率調査」2015年6月,全国7歳以上
ビデオ・HDD・DVD 行為者平均時間 1:49
全員平均時間 0:13
行為者率 20
インターネット 行為者平均時間 1:53
図6 時間帯別週間接触者率 全員平均時間 0:23

% 「国民生活時間調査」2010 年 10月,全国 10 歳以上


30 29

21
20
20 また,何かほかのことをしながらラジオを聞く
「ながら」聴取がテレビや新聞,雑誌などの活
10 6
字メディアに比べて多いのが,ラジオの大きな
0 特性の1つである。国民全体の1日のラジオ聴
午前 午後 夜間 深夜
(5:00~12:00) (12:00~18:00) (18:00~24:00) (24:00~29:00) 取時間(20 分・平日)のうち7 割(14分)が「な
「全国個人視聴率調査」2015年6月,全国7歳以上
がら聴取」である。仕事や家事をしながら聞か
れることが多い 6 )。
2010 年国民生活時間調査 5 )によると,平日 さらに,自宅外で聞く割合が 4 割(8 分)と比
1日のなかでラジオを聞いている(15 分以上) 較的高いのもラジオの特徴である(表 3 )。
人の率(1日の行為者率)は 13%でほかのメデ
表 3 ながら接触,自宅外接触の割合(平日)
ィアと比べて多くはないが,聞いている人に限
ながらの割合 自宅外の割合
った平均聴取時間量(行為者平均時間)は平
テレビ 39% 6%
日2 時間 36 分とテレビの 3 時間 54 分に次いで ラジオ 70 40
長い(表 2 )。ラジオは,聞いている人はテレビ 新聞 58 11

や新聞に比べると多くはないが,聞く人は長い 雑誌・マンガ・本 31 15
CD・テープ※
71 43
時間聞いているという特性があるメディアだと
※デジタル・オーディオプレーヤーも含む
いえる。 「国民生活時間調査」2010 年 10月,全国 10 歳以上

10 │ NHK 放送文化研究所年報 2016


データでみるラジオの聞かれ方

「日本人とテレビ・2015」調査 7 )で接触頻度 その後の,2013 年11月の「防災とエネルギー


を尋ねた結果によれば,週 1回以上ラジオを利 調査」9 )でも,災害時に情報をどこから得るかを
用している人は 34%おり,その半数以上にあ 複数回答で尋ねたところ,最も多いテレビの77
たる19%は毎日接触している。長期的にみると %に次いで,ラジオは71%であった(図 7 )
。こ
減少傾向にはあるが,2010 年から2015 年にか のようにラジオは,いざという時に頼りにされて
けてテレビや新聞の毎日接触者が減少するなか いるメディアであり,これからも「安心ラジオ」と
で,ラジオを毎日利用する人は減っていない。 しての役割を担っていくことになろう。
また同調査で「欠かせないメディア」として1
番目と2 番目に各メディアを選んだ人の割合を 図7 災害情報入手手段(複数回答)
合わせると,テレビ(76%)
,インターネット(40 テレビ 77

%),新聞(34%)が上位を占めているが,ラジ ラジオ 71

オは本(13%)と同程度の11%であった。ラジ 家族や知人 47
自治体の防災無線や 42
オを欠かせないという人は,概ね 1割で長期的 広報車
防災関連のメール 35
に推移していて,変化がない。
インターネットの 28
ウェブサイト
以上のデータから,テレビ出現以降のラジオ
ワンセグ 17
は,利用する人の数はほかのマスメディアに比
ソーシャルメディア 14
べて多くはないが,時間量は大きな変化がなく, 0 10 20 30 40 50 60 70 80%
利用者にとっては仕事や家事などその日常に寄 「防災とエネルギー調査」2013年11月,全国16歳以上

り添い,欠かせないものとして,安定して利用
されているといえるであろう。 インターネットを介してラジオ放送を聞くこと
ができるIP サイマルラジオ放送は,
「radiko」が
最後に,今後のラジオについて考えてみたい。 2010 年,
「らじる★らじる」が2011年からサービ
ラジオは,小型化により持ち運びがたやす スを開始した。
「2015 年 6月全国放送サービス
く,いろいろな場所で聞くことができることか 接触動向調査」10 )によると,週間接触者率(1
ら,これまでも災害時に役立つメディアとしてそ 週間に5 分以上利用した人の率)はインターネッ
の特性が評価されてきたが,2011年 3月の東日 トラジオ全体で4%と高くはないが,
「radiko」の
本大震災を経て,非常時の情報入手手段とし 利用経験率(利用したことがある人の率)は増
て改めて評価されている。 加傾向にある(2013 年2%→2015 年 5%)

東日本大震災直後の「防災・エネルギー・生 「radiko」
「らじる★らじる」の定着は現在ラ
8)
活に関する世論調査」
(2011年12月) によれ ジオを聞いていない人たちがラジオを聞く機会
ば,災害に対する備えとして自宅に携帯ラジオ につながる可能性があり,高年層中心の聴取
を準備している人は 59%で,懐中電灯に次い 者層が少しずつ拡大していく契機となるかもし
で多い。そしてこの中には,東日本大震災を機 れない。今後の動きが注目される。
に準備している人 23%が含まれている。  (ほし あきこ)

11
注:
1)ランダム・サンプリングによる調査は 1948 年に実施
した「第 1 回放送番組世論調査」以後のものであ
る。それ以前は,有意に調査相手を選ぶもので,
必ずしも科学的とはいえないものであった。
2)この項は『20 世紀 放送史 』2001年(日本放送協
会) ,三矢惠子(2012)第 1部Ⅱ-4「視聴者」藤竹
暁編著『図説 日本のメディア』 (NHK 出版)を参
考に記した。
3)
「 ラジオ聴取状況の推移と現状-35 年 6 ~7月調
査 結 果 を 中 心 に-」NHK 放 送 文 化 研 究 所 編
「NHK 文研月報」1960 年 9月号
4)舟越雅,星暁子,塚本恭子,林田将来(2015) 「テ
レビ・ラジオ視聴の現況~2015 年 6月全国個人視
聴率調査から~」NHK 放送文化研究所編『放送
研究と調査』2015 年 9月号(NHK 出版)
5)NHK 放送文化研究所編「2010 年国民生活時間調
査報告書」2011年(NHK 放送文化研究所)
6)14 分のながら聴取のうち,仕事との「ながら」が 6
分,家事との「ながら」が 3 分である。
7)木 村義子,関根智江,行木麻衣(2015) 「テレビ
視 聴とメディア利用の現 在~「日本人とテレビ・
2015」調査から~」NHK 放送文化研究所編『放送
研究と調査』2015 年 8月号(NHK 出版)
8)高橋幸市,政木みき(2012) 「東日本大震災で日本
人はどう変わったか~『防災・エネルギー・生活に
関する世論調査』から~」NHK 放送文化研究所編
『放送研究と調査』2012 年 6月号(NHK 出版)
9)河野啓,政木みき(2014) 「震災 3 年『防災とエネ
ルギー』調 査 ~ 国 民と被 災者 の意 識を探る~」
NHK 放送文化研究所編『放送研究と調査』2014
年 4月号(NHK 出版)
10)鶴島瑞穂,木 村義子,小島博(2015) 「人々は放
送局のコンテンツ,サービスにどのように接してい
るのか~「2015 年 6月全国放送サービス接触動向
調査」の結果から~」NHK 放送文化研究所編『放
送研究と調査』  2015 年10月号(NHK 出版)

12 │ NHK 放送文化研究所年報 2016

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