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連載講座 2006
[No. 221] 61 -68
― 新 しく炭 素 材 料 実 験 を始 め る人 の た め に―
人造黒鉛電極
Artificial graphite electrode
黒 田孝二
Koji Kuroda
1. は じめ に
黒 鉛 化 お よび機 械 加 工 を行 っ たブ ロ ック状 の 製 品 が古 くか ら知
られ てい る が,そ の後 ニ ュ ー カー ボ ン と呼 ば れ る製 品1),2),例 え
ば ガ ラス状 炭 素,炭 素 繊維/炭 素 複 合 材料 な ど も加 わ り,形 態 も 写真1 押 出 し成 形 の様 子
ブロ ック状 以 外 に シー ト状,フ ィルム状,フ ォーム状,粉 状 と多 種
多様 であ る 。
人造 黒 鉛 材 料 の具 体 的 な製 品 で は,使 用 量 で圧 倒 的 に多 い製 鋼
用 黒鉛 電 極 をは じめ と して アル ミ製 錬 用 や その他 電解 炉(槽)用
黒鉛 電極(カ ソー ドあ るい はア ノー ド),放電加 工 用電 極,シ リコ ン
半 導体 や光 フ ァ イバ ー な どの製 造 用 治 具,リ チ ウ ム イオ ンニ次 電
池 負 極 材用 黒 鉛 粉 な ど従 来用 途 か ら先 端 分 野 に至 る まで の あ ら
ゆる ところ で使 われ てい る。 図1 押 出 し成 形
こ こで は 人造 黒 鉛 材 の うち,押 出 し成 形 法 に よ る製 鋼 用 黒鉛 電
図1の よ う に成 形 方 向 に配 向 す る た め,成 形 方 向 と垂 直 方 向 で は物
2. 成 形 方 法 の 種 類 と特 徴3)
性 に 異 方 性 が 生 じ,成 形 方 向 は 垂 直 方 向 に 比 べ 強 度,熱 伝 導 率 や
特 徴 を述 べ る。 原 理 」を 利 用 し た 成 形 方 法 で,配 向 性 の な い 緻 密 な 成 形 体 が で き
電極 や ブ イラー粒 子 の細 か い電 解 用電 極 他 ヒー ター材,各 種 治具 圧 力 媒 体 を通 し あ ら ゆ る 方 向 か ら ケ ー ス に均 一 な 圧 力 を加 え る
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炭 素TANSO 連載講座
図2 CIP成 形
図3 型 込 め成 形
な る。 この 方 法 で成 形 され た 製 品 は等 方 性 で,高 密 度,高 強度 の
特 徴 を示 し,CIP成 形 法 は大型 かつ緻 密 な材 料 を造 るの に適 して
い る。
2.3 型 込 め成 形 法 図4 製鋼 用 黒 鉛 電 極 の製 造 工程
型込 め成形 材 は混 ねつ 物 を一 定形 状 の 型 に詰 め て加 圧 し,所 定
の形 状 に成 形 され る。通 常 はCIP成 形 材 と同様 に粉砕,分 級 され, 形 した もの を,焼 成,黒 鉛 化 して製 造 す る。 製 造 法 の フ ロー と主
混 ね つ物 粉 を金 型 に入 れ て,約100MPaで 一 軸 方 向 に加 圧 す る。 要 機 器 の イ メ ージ を図4に 示 す。
主 流 をな して いた 。 で は コ ール ター ル ピ ッチ の高 温(約500℃)熱 分 解 に よっ て得 ら
製鋼 用 黒 鉛 電 極 は コー ク スで あ る フ ィ ラ ー に コー ル ター ル ピ 写 真2に 示 す 。 製鋼 用 大型 黒 鉛電 極 には針状 コー クス の採 用 は必
ッチ をバ イ ンダー と して加 え,混 ねつ の後,所 定 の寸 法,形 状 に成 須 であ り,コー クス特性 として,か さ比重,真 比 重,熱 膨張係 数 灰分,
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人造黒鉛電極 2006 [No.221]
針 状 コ ークス 塊 状 コー クス
(a)
外観
図5 ダ ブ ル ロ ー ル ク ラ ッ シ ャー
(b)
顕 微鏡写 真
写 真2 コー クス の外 観 お よび顕微 鏡 写真
黒 鉛 化性 な どは品 質設 計 を行 う うえで重 要 な尺 度 とな る。
一 方 バ イン ダー用 ピ ッチ は
,粗 ター ルの蒸 留 残 さ と して得 られ,
適 当 な軟 化 点(90∼110℃)を もち,炭 素 化収 率 が 高 く,結 合成 分
(βレジ ン)の 多 い ものが 適 して いる。 また,焼 成 品 な どへ の含 浸
用 ピ ッチは微 細 気 孔 に十分 に浸透 させ る必 要 が あ るた め,バ イ ン
ダー用 ピッチ に タール を添 加 して軟化 点 を低 くした り,浸 透 を阻害
粗 粒,中 粒,細 粒 に節 い分 け られ る。
粉砕 は微 粒 用 と微 粉砕 用 に区 分 され,前 者 は ハ ンマ ー ク ラ ッシ
ャー,ロ ール ク ラ ッシ ャーや ダブル ロー ル ク ラ ッシ ャー(図5)が ,
後 者 は ロ ー ラー ミル(図6)や チ ュ ー ブボ ー ル ミル な どが使 用 さ
れ,分 級 に は各種 の風 力 分級 機 が使 用 され る。 この工 程 で は特 に 図7 ニ ー ダ ー(混 ね つ 機)の 例 。(こ の タ イ プ の ニ ー ダ ー で は2
本 の ブ レ ー ド(羽 根)相 互 間 お よ び ブ レ ー ド と胴 体 問 に 生
微 粉 粒 度 の管 理 が重 要 で あ る。調 整 され た粒 や微 粉 は ビ ン(タ ン
じる せ ん 断 力 に よ っ て 混 ね つ さ れ る 。 羽 根 の 形 状 と して は
ク)に 搬 送,貯 蔵 され る。
Σ型 やZ型 な どが あ り,容 量 と して は,1000∼4000L程 度で
3.3 配 合 あ る 。)
要 求 品 質特 性 に も とつ い て粒 度配 合 が 決 め られ て いる ので,各
種 粒 度 に調 整 され た コー クスは所 定 量 が ビ ンか ら切 り出 され る。 し成 形 の 場 合 の ピ ッチ 量 は,吸 油 量 な どで 求 め ら れ る 値 よ り少 な
た とえ ば,大 型 製 鋼 用 黒 鉛 電 極 の場 合 は,バ イ ン ダーか らの揮 発 め で,フ ィ ラ ー 粒 子 を お お む ね 濡 ら し,成 形 時 の 流 動 性 が 確 保 で
分 が 系 外 へ 放 出 され る の を容 易 にす る た め に も粗 い(10mm以 き る 程 度 を 目 安 と し て い る 。 製 鋼 用 黒 鉛 電 極 の 場 合,コ ー ク ス
上)粒 子 とフ ィラ ーの充 填 密 度 を考 慮 して 中粒 子 ,微 粒子 や数 十 100に 対 して ピ ッ チ は20∼30程 度 であ る。
ミク ロ ンの微粉 が配 合 され る。 3.4 混 ね つ
バ イ ンダー と しての ピッチの量 は コー ク スの種 類 や粒 度 配 合 に 配 合 さ れ た フ ィ ラ ー は,乾 燥 の 後,加 熱 式 混 ね つ 機(図7)に 投
応 じて調 整 し,粒度 が細 かい ほ ど多 くの ピ ッチが必 要 となる。押 出 入 さ れ,よ く混 合 さ れ る 。 つ い で ピ ッ チ が 投 入 さ れ,加 熱 下 で混
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炭 素TANSO 連載講座
ら押 出 され,せ いぜ い10MPa程 度 で あ る。 ノズ ルか ら押 出 され た
成形 体 は シ ャワー水 や ポ ン ド中で所 定 の温度 まで冷 却 され る。押
出 し成 形 におけ る成 形 体 の流 動性 は,ノ ズル形 状,ピ ッチ量,成 形
速 度,成 形 体 の温 度 な どに支 配 され る。 なお,ノ ズ ル形 状 は成形
工 程 に とって大 変 重 要 で あ り,絞 り部 の 流 入 角 度 お よび形 状,先
成 形 品 は,焼 成 と呼 ば れ る700∼1000℃ の熱 処 理 工 程 を経 て
熱 的安 定 性 と機 械 的 強 度 が付 与 され る。 製 鋼 用 黒鉛 電極 の骨 格
をつ くる意味 で大 切 な工 程 で あ る 。昇 温 は重 油 や ガス燃 焼 に よ
って行 わ れ,成 形 体 の 変形 や 酸 化 を防 ぐた め,コ ー ク ス粒子 や け
い砂 な どの詰 粉 で 周 りを囲 む。 成形 体 は昇 温 初 期 に軟 化 し,200
∼500℃ でバ イ ンダ ー ピ ッチ の熱 分解,重 縮 合 に よる多 量 の 分解
体 にな るほ ど,成 形 体 の 中心 部 か ら表 面 まで の揮 発 分 の輸 送 距離 図8 リー ドハ ンマ ー炉
が 長 く,気孔 の表 面 近 くで の気 孔 が 詰 まって,系 外 へ の ガ ス放 出
が 妨 げ られ る,成 形 体 中 の温度 分 布 が必 ず し も一 様 で は な く焼 成 焼 室 に重油 あ るい は可燃 性 ガス を天 井 か ら吹 き込 ん で,冷 却 ゾ ー
焼 成工 程 は冷 却 に も長 時 間 要す る ので,成 形 品 の炉 詰 か ら炉 出 よ く,生産性 に も優 れ てい る。
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人造黒鉛電極 2006 [No.221]
写 真4 LWG炉 を上 か ら撮 っ た写 真
図9 結 晶成 長 図
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表1 工 程 間 の体 積 質量 お よびか さ比 重 の 変化
電 極 本 体(ポ ー ル) 継 手(ニ ップ ル)
写真5 製品外観写真
4. 構 造 と特 性
*200∼400℃
以 上,製 鋼 用 黒 鉛 電 極 製 法 の要 点 を述 べ た。 こ こで,成 形 品が //:押 出 し方向 ⊥:押 出 し方向 に垂直
黒 鉛 化 品 にいた る まで に構 造 は変化 す るが,そ の変 化 の現 れ の例
と して,工 程 間 の マ クロの体 積 質 量 お よび か さ比 重 の 変化 状 況 電 解用 電極 や発 熱 体 お よび冶 金 用 な どの一 般 加 工 材 に用 い ら
比べ 成 形 方 向 の電 気 比 抵 抗 や熱 膨 張係 数 は低 くな る。 電 気 製 鋼 炉 とは,電 極 と鉄 ス クラ ップ との 問 にア ー ク を とば し
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人造黒鉛電極 2006 [No.221]
その 熱 を利 用 して溶 解,精 錬 す る炉 で,そ の電極 と して 人 造 黒鉛 くケー スが あ るので,耐熱 衝撃 性 に優れ た品質 が要求 される。耐 熱
材 料 が使 用 され,押 出 し成 形 品 の代 表 的 製 品 となっ てい る。 衝撃 性 ではセ ラ ミックスで よ く用 い られ る指 数(強 度 ・熱伝 導率/
写 真7,図12に 従 来 か らあ る三相 交流 アー ク炉,写 真8,図13に ヤ ン グ率 ・熱膨 張係 数)が あ るが,実 炉 での使 用 成 績 とは必 ず し
最 近 開発 され普 及 しつ つあ る直 流 アー ク炉 の構 造 モ デ ル を示す 。 も一 致せ ず,適 当 な指 標 を求 めて 各種 の熱 衝 撃試 験 が 行 われ てい
炉 の大 型 化 や直 流 炉 の導 入 な どに よ り電 極 も太 い サ イズ を使 用 る6)の。耐 熱衝撃性 か らは,適度 な密度 と強度 を有 し,熱膨張係数 が
写 真8 直 流 ア ー ク炉 の外 観
写 真7 三 相 交 流 ア ー ク炉 作 動 時 の様 子
図12 三 相 交 流 ア ー ク炉 図13 直 流 ア ー ク炉
図14 ア ル ミニ ウ ム 電 解 炉
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炭 素TANSO 連載講座
法へ の転換 を経 て,現 在主流 の イオ ン交換 膜法へ と移 行 し,一方,高 1000℃ まで可能 な,汎用の温 度 コ ン トロー ル付電 気焼 成炉 を使用
験 的 には次 の よう な考 え方 で準 備 す れ ば よい と思 われ る。 鉛 化 をす る場 合 もあ る。
成 形 体 の寸 法 を決 め,こ れ を熱処 理 す る,焼 成 炉 や 黒 鉛 化炉 設 4) H. Marsh and J. Griffiths, Int. Symp. on Carbon, Toyohashi, Japan,
け れば な らない 。 (1983).
8) 望 月 文 男, TANSO1970 [No.61] 69-75.
6.2 成 形 体 の製 作
9) 特 公 昭49-41006.
押 出 し方 向 だ け で な く,垂 直 方 向 の テ ス トピー ス を採 取 測 定
10) 高 尾 順 三, 高 橋 洋 一, 向 坊 隆, TANSO1979 [No.97] 61-65.
す る必 要が あ る とき も考 慮す る と,少 な くと も70mmφ ×150Lの 成 11) 辰 巳 国 昭, 尾 崎 千 尋, Light Metals64 (1992) 759.
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