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公益社団法人全国老人福祉施設協議会

老施協総研
平成 30 年度 調査研究助成事業

介護の場面別声掛けデータを活用した、非日本語母語話者の

介護職の声掛けの習得支援

研究報告書

2019 年 3 月

岐阜大学 田辺 淳子
老施協総研 平成30年度調査研究助成 報告書
報告者:田辺淳子
国立大学法人岐阜大学 日本語・日本文化教育センター 非常勤講師
研究テーマ:自由研究
課題テーマ:介護の場面別声掛けデータを活用した、非日本語母語話者の介護職
の声掛けの習得支援

1. 研究の背景
今後、日本の介護施設で働く非日本語母語話者の介護職の数はさらに増加することが予
想されている。日本の介護施設での就業を希望している・就業が決まっている・既に就業し
ている非日本語母語話者にとって介護の声掛けの習得は必須である。そのために、介護現場
で実際使われている声掛けのデータを活用し、複数の支援方法を提供することは、非日本語
母語者の介護職のみならず、指導的立場の日本人介護職・共に働く同僚の日本人介護職・施
設の利用者・介護の日本語教育担当や日本語教師にとっても有意義である。
平成28・29年度に老施協総研の調査研究助成を受けて実施したアンケート結果(以下、
アンケート結果)によると、就業前に日本語研修期間が約1年あるEPAの介護福祉士候補
者でさえ、介護の声掛けに慣れて自分から声掛けができるようになるまで 1 か月~半年要
したと約70%が答えている。就業開始前、施設での声掛けに対し、少しまたはとても不安
だったと95%が答えている。
また、アンケート結果から、日本人介護職は、声掛けを施設で上司や担当者から教えても
らい学んだと答えた人がもっとも多かったことがわかった。非日本語母語話者の介護職も
介護技術を日本人指導者や先輩から教えらもらう際に声掛け表現も同時に習ったと答えた
人がもっとも多かった。しかし、日々多忙な業務に追われている日本人介護職が、介護技術
と声掛けを指導する際に前もって声掛けの指導資料を準備するのは負担が高く、現実的で
はないといえる。非日本語母語話者の介護職にとっても、就業後、間もない時期に介護技術
を習いながら、日本人介護職が言う声掛け表現をメモするのは非常に負担が高い。介護技術
と声掛けを同時に習うというもっとも自然で効果的な方法が、非日本語母語話者の介護職
の場合、十分な効果が発揮できないおそれがある。ほかにも、アンケートで日本語教師は、
介護の日本語を教える際に困難な点として、実際にどんな声掛けが施設で使われているか
わからなないことを挙げている。
このような問題は、場面別にさまざまな声掛け表現を無料で検索できるデータバンクが
インターネット上にあれば、解決に近づくと考えられる。声掛け教材で基本的な声掛け表現
を習得した非日本語母語話者の介護職がさらに学習を進めたい場合や、新人の日本人介護
職が声掛けについて調べたい場合にもデータバンクを活用できると予測される。
以上のことから、平成28・29年度の老施協の調査研究助成により開発・作成した声掛
け音声教材の効果的な使用・学習方法を確立することと、介護の声掛けデータバンク(試作
版 *注 1)を構築することにより、非日本語母語話者の介護職の声掛けの習得を支援すること
にした。
*注1:試作版を一般公開するより先に作成することにしたのは、一旦仕様を決めてプログラミングして

サイトを作成すると、大きな変更をする場合に、費用・時間がかかり、変更内容によっては始めか

らプログラミングし直す必要があるためである。機能を確認するための試作版を作成し、動作や

使い勝手を十分検証し、聞き取り調査を行った上で、見た目のデザインを整え、全データを載せた

公開版を作成することにした。

2. 声掛け音声教材の使用・学習方法の確立に関する研究方法・手段と実績・成果
平成28・29年度の老施協総研の調査研究助成で開発・作成した教材を基に出版された
教材『シャドーイングで学ぶ 介護の日本語 場面別声かけ表現集』
(凡人社)を実際に介
護の日本語教育で使用し、アンケートや聞き取り調査により効果的な学習方法を確立する
予定であった *注 2。しかし、出版に関わる編集・追加翻訳等に時間がかかり、出版が 11 月
に遅れたことにより、平成30年度の EPA 介護福祉士候補者の来日後研修期間中に使用す
る時間がとれなかった。そのため、EPA の介護福祉士候補者が就業後に受ける日本語教育で
上記教材を使用している教師より感想の聞き取り調査を行った。聞き取り調査の対象数が
少ないが、聞き取り結果は以下の通りである。
・声掛け表現の1文が短いため、受講者の日本語能力に差があっても使いやすい
・独学を中心に、授業の始めにウォーミングアップを兼ねて使えるので便利だ
・発音やイントネーションが向上できる
・音声データがあるので学習しやすい
・「日本人スタッフに対応を変わってもらう際の表現などはそのまま使えばいいので助かり
ます」と候補者が言っていた
・場面別なので、どこからでも使えて便利だ
・短い「つらいですね」のような表現を使って、どんな状況がつらいと思うかなど考えさせ
ることができる
・終助詞の使い分けや語彙(懐かしい、つらい等)を確認しながら、
(介護の声掛けのみな
らず)良い日本語学習ができる
・各章始めのポイントを読解練習として使うこともできるのが良い
・敬語や家族の呼称など便利な情報がまとまっているのが良い
*注2:
『シャドーイングで学ぶ 介護の日本語 場面別声かけ表現集』は市販書籍のため、聞き取り調査

には助成金を使用しなかった。

3. 声掛けデータバンクの試作版の構築に関する研究方法・手段と実績・成果
3-1.声掛けデータバンクの試作版の構築に関する研究方法・手段
平成28・29年度の老施協総研の調査研究助成で収集した①市販の介護の書籍、および
介護の日本語教材から声掛け表現、②全国11の介護施設で収録した日本人介護スタッフ
の声掛け音声データ以外に、平成 31 年 3 月末までに出版された介護の日本語教材からの声
掛け表現を収集した。(別添1)また、新たに今まで収録を行っていなかった東京、新潟、
岐阜、佐賀の6つの介護施設において日本人介護職の声掛けデータを収録した。
声掛けデータバンクのデザインについては、デザイン案をパワーポイントで作成し、WEB
デザイナーの角南北斗氏に声掛けデータバンクの試作版の構築を依頼した。角南氏に依頼
した理由としては、角南氏が「日本語でケアナビ」
(https://www.nihongodecarenavi.jp/)、
「 介 護 の こ と ば サ ー チ 」( http://kaigo-kotoba.com/ )、「 介 護 の 漢 字 サ ポ ー タ ー 」
(http://kaigo-kanji.com/)、
「かいごのご!」
(https://kaigonogo.com/)の開発を担当し
た経歴があるからである。また、6つの介護施設において指導者の立場にある介護職からデ
ータバンクについて意見・助言の聞き取り調査を行った。その結果を基に別添2の通りデザ
イン案を作成しなおし、試作版構築に向け角南氏との打ち合わせを重ねた。

3-2.声掛けデータバンクの試作版の構築に関する実績・成果
声掛けデータバンクと声掛け音声教材の違いは以下のとおりである。
介護の場面別 『シャドーイングで学ぶ 介護の

声掛けデータバンク 日本語 場面別声かけ表現集』

フォーマット インターネット上のサイト 書籍

主な使用目的 声掛け指導資料 声掛け学習教材

主な 介護の技術・声掛けの指導者 非日本語母語話者の介護スタッフ、

推奨ユーザー または就業に向け勉強している人

音声 なし あり

*実践会話練習のみあり *ダウンロード

金額 無料 1600 円+税

翻訳 多言語(予定)*注3 英語、インドネシア語、ベトナム語

メリット ・声掛けデータが豊富である ・基本的な声掛けが厳選されている

・技術と声掛け指導の際に教材が手軽 ・音声をシャドーイングすることで声か

に作れる けが覚えられる

・インターネット環境下で PC、携帯 ・英語、インドネシア語、ベトナム語の

タブレットで見ることができる 翻訳が全てに付いている

・カスタマイズできる(予定) ・書き込みができる

・内容の増加が可能である ・持ち運びが容易である

*注3:多言語訳は予算の関係上、今回はつけていない。

以下、試作版の声掛けデータバンクについて説明すると、声掛けデータバンクは「声かけ
表現」と「そのほか」の2つに大別される。トップ画面(http://design719.org/koekake/)
はパソコン使用にあまり慣れていない人でも使いやすいようにシンプルなデザインにした。
声掛け表現の場合は、まずトップ画面から相手を選ぶ。書籍では、施設での声掛けの主な対
象は介護サービスの利用者(以下、利用者)のため、利用者のみ声掛けの対象として扱った。
しかし、施設での業務を考えると、利用者の家族や同僚も対象として必要であると考え、新
たに加えた。そのため、本データバンクでは、①利用者、②利用者の家族、③同僚の3者を
声掛け対象として選択できる。次に、介護場面は教材より場面を増やし16場面とした。ト
ップ画面で相手に利用者を選び、介護場面を選ぶと、次の画面に進む。試作版の「声かけ表
現」では移乗を例に作成してある。
次の画面(http://design719.org/koekake/cat.html)では、詳細条件を設定できるようにな
っている。詳細な介護場面、利用者の自立度、麻痺の有無などを選ぶことにより、莫大な声
掛け表現バンクからリストを絞り込めるようになっている。また、リストの左にあるチェッ
クボックス(初期設定でチェックが入った☑の状態になっている)のチェックを外すと、印
、印刷時にはその表現が除外
刷プレビュー時(http://design719.org/koekake/preview.html)
される。表現リストの各項目(表現のそれぞれのセル)をドラッグすることで順序の入れ替
えも可能である。
トップ画面で相手に利用者の家族、または同僚を選び、場面を選んだ場合は、詳細条件選
択画面にはならず、場面に応じた表現リストが現れるようになっている。選択項目にある丁
寧度に関しては、相手に①~③のどれを選んでも、ため語(普通体)は選べず、敬語を含む
かどうかのみ選べる設定にした。
画面下の「印刷する」の項目では、漢字のフリガナ、翻訳、イラストの有無が選択できる
*注4
。印刷時には、リストに通し番号がつくため、指導の際にどの声掛けについて話してい
るかわかりやすく、便利である。指導の際の資料・教材として使い勝手がいいように、リス
トの下にメモ欄を設けた。今回は予算の都合で実装を見送ったが、将来的には表現を施設で
よく使わるものや方言を入れたものに変更・編集ができ、施設に合わせたカスタマイズが可
能で、施設のコンピューターに保存できるようにしたいと考えている。そのような機能があ
れば、指導資料として保存でき、次に同じ内容で指導する際に、指導者の負担を減らすこと
になるであろう。
「そのほか」は①実践会話練習、②コラム、③マニュアル、④FQA(よくある質問)
、⑤こ
のサイトについての5つからなる。①実践会話練習は、教材作成の際に、短い声掛けリスト
だけではなく、場面や利用者に合わせた実践的な会話練習を各場面3つほど作成したが、
『シャドーイングで学ぶ 介護の日本語 場面別声かけ表現集』
(凡人社)ではページの都
合で各場面1つまたは2つしか入れることができなかった。音声データをスタジオで録音
する際に、書籍に入れない会話練習の音声データも出版社の厚意で録音することができた。
出版社の同意のもと、今回データバンクに入れることができた *注 5。②コラムについては、
今後増やしていく予定である。③マニュアルについては、インターネット上の声掛けデータ
バンクを載せる際(公開版作成時)に、その仕様に合わせ作成する予定であるため、今回は
。そのため、本試作版では、
「作成中」とした(http://design719.org/koekake/manual.html)
①実践会話練習を1つ(http://design719.org/koekake/practice.html)
「着脱(軽度右片麻痺、
柵あり)」、②コラムを1つ(http://design719.org/koekake/column.html)
「どんな言葉を使
ったらいいの?」をそれぞれ例として挙げた。④FQA(http://design719.org/koekake/fqa.html)
と⑤このサイトについて(http://design719.org/koekake/about.html)は、試作版と公開版
(多言語翻訳やイラストをつけていないもの)に共通すると思われるもののみ掲載した。
*注4:多言語訳とイラストは予算の関係上、今回はつけていない。

*注5:試作版は音声データの細かい編集がしていないため、スピードや発話の間については公開版と

若干異なる可能性がある。

4. 今後の展望
声掛け音声教材については、今後も聞き取り調査を進め、効果的な学習方法の確立に努め、
効果的な学習方法を広めていきたい。
声掛けデータバンクについては、試作版に対する聞き取り調査を行い、公開版に向けた作
業を進めていきたい。今回は予算の関係で実装を見送った多言語訳やイラストについては、
今後、専門学校や大学で介護を学ぶ非日本語母語話者や技能実習生として来日する非日本
語母語話者の増加を考えると、EPA の介護福祉士候補者や定住者の介護職よりさらに多国籍
化が予想される。そのため、多言語訳は必須であるが、どんな言語訳をつけるべきか検討が
必要である。また、本データバンクを介護技術と声掛けの指導教材として配布できる資料の
作成に使うためには、イラストも不可欠である。翻訳とイラストには言うまでもなくプロフ
ェッショナルの力が必要だが、介護の専門的な内容に合っているか確認する人材・時間・費
用も必要である。施設で使われている表現や方言などに書き換え、カスタマイズができ、施
設のコンピューターに保存し、繰り返し使える機能も需要が高いと考えられる。今後は、予
算獲得、さらなる使い勝手の良いデータバンクの構築に向けた調査も行いたい。構築後は紹
介・普及活動にも力を入れたいと考えている。

<平成 30 年度助成調査研究のご協力施設:50 音順、敬称省略>


・特別養護老人ホーム 済昭園(佐賀県)
・特別養護老人ホーム シャローム東久留米(東京都)
・特別養護老人ホーム シャローム横須賀(神奈川県)
・特別養護老人ホーム ジェロントピア(新潟県)
・特別養護老人ホーム 清涼館(佐賀県)
・特別養護老人ホーム 高浜安立(愛知県)
・特別養護老人ホーム 中山ちどり(兵庫県)
・特別養護老人ホーム パサーダ(岐阜県)
・特別養護老人ホーム るぴなすビラ(岐阜県)

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