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Memories Are

Memories Are
Made of This
Made of This
<日本語版>

サイモン・アロンソンの

メモライズド・デック・マジックへのいざない

V e r s i1o n 1 . 2
2022.0315
Memories Are
Made of This
-メモライズド・デック・マジックへのいざない-

原著 : サイモン・アロンソン
原著デザイン : アンディ・グラッドウィン
日本語版 : 富山 達也

Original Edition : Copyright 1999 by Simon Aronson


Revised Edition : Copyright 2002 by Simon Aronson
Third Edition : Copyright 2009 by Simon Aronson
All rights Reserved.

 本資料は保護されており、権利者の書面による明示的な許可なく、部分的であるかを
問わずいかなる複製も禁じます。
 本書は、著作者のサイモン・アロンソン氏亡きあと、彼の著作物の権利を保有している
ジニー・アロンソン氏の許諾を得て日本語訳として頒布しています(2022)。
内容
はじめに .................................................................................................... 2

I. 始めるにあたり ........................................................................................ 5
どのスタック、どの並びを憶えるべきでしょうか? ............................................... 10
他に必要なものはありますか? .................................................................... 13
暗記の代わりになるものはありますか?.......................................................... 15
II. メモライズド・デック実践:基本原理 ............................................................. 17
1. 秘密のグループ ................................................................................. 18
2. カウンティング .................................................................................... 20
3. 端点 ............................................................................................... 22
4. 数理的原理 ...................................................................................... 25
5. オープン・インデックス .......................................................................... 28
III. スタックを憶えるにはどうしたらいいですか? ................................................ 31

むすびに .................................................................................................. 37

補足 ....................................................................................................... 39
補足 A:メモライズド・デック関連文献 ............................................................ 40
補足 B:アロンソン・スタック........................................................................ 43

2009 Bonus “Shuffle Tracking” ............................................................. 45

日本語版参考資料紹介 ............................................................................... 54

1
はじめに

『事前に準備しておいたデックを使うことなくして、

カード奇術師のレパートリーは決して完成には至らない』
S・W・アードネス

2
[2002 年 5 月・追記]
このノートは元々、3 年ほど前に私が行ったメモライズド・デック・マジックのプライベート・ワ
ークショップで使うために書いたものです。それ以降、メモライズド・スタックの使用がより人
気を博すようになる多くの出来事がありました。2001 年、私は『Try the Impossible』とい
う本を出版しました。同書には、アロンソン・スタックの詳細な研究と、このノートのオリジナル
版に含まれていた 2 つのトリックが含まれています。また、私のウェブサイト
(www.simonaronson.com)では、マジック全般について、それから特にメモライズド・デッ
ク・マジックについての私の考えを、より最新の状態で共有しています。本ノートで改訂したの
は、参考文献の更新、指摘された誤りの修正、提示されたアイディアを明確にしたり拡張した
りするためのわずかな箇所だけです。

この 20 年ほどのあいだに、非常に多くの変化がありました。私は最初の本『The Card
Ideas of Simon Aronson』(1978)で、自分がメモライズド・デックを使って開発した多
くの『世に出ていないもの』を紹介しました。その章の序文で私は、上級のカーディシャンの
中でメモライズド・デックを使おうと考えた人が(当時は)ほとんどいなかったことについて、
『後ろめたくも喜びを感じることがある』と述べました。

とはいえ、いまはもう、そのような後ろめたさを感じることはできません。というのも、メモラ
イズド・デックの時代がやってきたからです。実際にここ数年、世界でもっとも尊敬されてい
る奇術の理論家やパフォーマーたちのあいだで、この由緒あるツールへの関心が高まって
います。国内のマジック・クラブの講師も、メモライズド・デックによる奇跡を紹介しています。
しかし、この熱気はプロだけに限ったものではありません。インターネットのマジック・チャッ
ト・ルームや、マジック・コンベンションでは、熱心で独創的なアマチュアの人たちが、メモライ
ズド・デックを使った自分の最新の工夫や成果を見てくれと、いつも私の前に群がっている
のです――そしてその多くは非常に良いのです!この勢いはどんどん増して伝染していき、
いまではメモライズド・デックを使っているカーディシャンの数が非常に多くなったことで、相
乗効果で現象・コツ・バリエーション・新原理の数は指数関数的に増えています。

このルネサンスのインスピレーションの一端を担えたことを嬉しく思いますが、それだけで
終わらせる道理はありません。私は常に新しいメモライズド・デックの現象を追求しています。
だから、そろそろ良いんじゃないでしょうか。あなたも、こちらの仲間入りをされては。
3
「はじめに」について
この冊子の目的は、タイトルからも分かるように、メモライズド・デックを使い始めるために
知っておくべき基本的な原理と応用法を紹介することです。セクション I では、いくつかの基
本的な用語を定義し、よくある質問に答えています。セクション II では、メモライズド・デック
の応用でよく使われる 5 つの原理を説明することで、メモライズド・デックの力と有効範囲
を実感してもらおうと思います。これらの諸原理は、いくつか簡単な、それでいながら非常に
魅力的なロケーション・トリックを使って説明します。セクション III では、どのようにしてメモ
ライズド・スタックを学ぶのが一番良いのか、いくつかの考えを述べます。また、様々な場面
で私のお気に入りの『メモライズド・デックによる奇跡の数々』や著書を紹介していますので、
それらの文献にあたるのに便利なように、補足 A には、メモライズド・デック・マジックに関す
る私の全出版物の書誌情報を掲載しています。最後に、補足 B では、あなたが学びたい場
合に備えて、アロンソン・スタックの並びを示しました。

本書の簡単な紹介から、あなたがメモライズド・デックのマジックに触れて慣れ親しみ、さ
らなる探求心をも掻き立ててくれることを願っています。

なお、この「はじめに」は何ものでもないことはご理解ください。メモライズド・デックについ
て知るべきすべての『概要』を示したものではありませんし、それどころか、表面をちょっぴり
引っ掻いた程度です。また、私の著書を読む代わりになるものでもありません。私は 1972
年以来、メモライズド・デックに関する資料を出版してきました。私の著書をご存知の方は、
私が各トリックの基本原理、トレードオフ、数々の導入法、クリーンアップ法、バリエーション、
クレジット、その他の参考資料について、かなり詳細に(友人曰く『徹底的に』)解説してい
ることもご存知でしょう。しかしながら、この「はじめに」では、その逆を行っています。検討は
意図的に省略しており、内容をさらに探求したり議論したりするためには、私の著作に向か
ってくれるようにと、はっきり意図した上で作っています(そのため、すでに私の著書をすべて
読まれている方には、この「はじめに」はまったく不要です)。

4
I. 始めるにあたり

5
始めるにあたり

さて、『メモライズド・デック』(『メモライズド・スタック』と呼ばれることもあります)とは何
でしょうか?実際にメモライズド・デック・マジックを演じているカード・マンたちのあいだでは
こう言われています。メモライズド・デックとは、52 枚のトランプが特定の順番に並んでいて、
その 52 枚のカードのそれぞれの位置(1 から 52 まで)がしっかりと記憶されていること
(committed to memory)を意味する。以上です。

重要なのは、『しっかりと記憶されている』という言葉です。もしあなたが 52 枚のカード
の位置を本当に記憶していて、その記憶した特定の順番通りにデックが組まれていたら、以
下の 2 つのことができるようになるでしょう。

A) 誰かが 1 から 52 までの任意の数字を挙げれば、その数字の位置に何のカードが
あるか即座に分かる。
B) 誰かがトランプの名前を言えば、それがデックの何枚目にあるかが即座に分かる。

デックを記憶するというのは一言で言えばそれだけのことですが、憶えるというたったひと
つの単純な事柄から、数多くの不思議な可能性が生まれてきます。同時に、メモライズド・デ
ックによるマジックの難解な本質もすぐに感じ取れるでしょう。52 個の抽象的な数字の関
係を憶えることの難しさを考えた普通のマジシャンは、このツールを時間や努力に見合わな
いものとしてすぐに捨ててしまいます(メモライズド・デックを実践している多くのマジシャン
はそのことを内心喜んでいるのですが、この入門書が、あなたの第一歩の躊躇いややる気
の出なさを克服する助けになることを願っています)。

では、前述の定義をもう少し検討してみましょう。

『即座に』とはこの場合、位置からカードへ、あるいはその逆へと、数式や計算、時間を必
要とせずに到達できることを意味します。たとえば誰かが#38 と言えば、あなたはそれがハ
ートの 10(またはあなたが憶えた特定のデックの並びで 38 番目の位置にある特定のカ
ード)であることが本能的に分かります。あるいは誰かがスペードの A と言えば、#6(また

6
は別の番号)という位置がすぐにあなたの意識に浮かびます。これは、特定のカードとその
枚数目という 52 個の相関関係があらかじめ記憶に定着しているため、瞑想や思考、規則
や公式に当てはめて計算するなど一切なしに、即座に思い浮かぶのです。

まず、52 枚のカードを『記憶する』というコンセプトは、ほとんどの初心者にとって不安な
ものです。この段階では、初心者の方にはそのまま受け入れていただくしかないのですが、
いくつかのアドバイスをさせていただきます。信じてください、スタックを記憶することは、あな
たが想像するよりもはるかに、とても簡単です。実際、スタックの習得は想像以上に早くでき
るだけでなく、その過程は楽しくもあります。なぜなら、マジックの中でも外でも、あなたの精
神的な力を高める、強力で新たなツールを学ぶことになるからです。スタックを憶えることの
困難さを語る人は、本気で憶えようとしたことのない人ばかりです。

カードの『スタック・ナンバー』とは、暗記した並びの中で各カードが占める位置の番号を
指します。たとえば私が憶えているデックの順番では、スタック・ナンバー#1(トップ・カード)
がスペードのジャックで、スタック・ナンバー#52(ボトム・カード)がダイヤの 9 となっていま
す。スタック・ナンバーはそれぞれのカードに固有のものであり、定義上は、特定のデックが
どのような並びであっても、そのスタック・ナンバーはそのカードのままです。つまり、メモライ
ズド・デックをシャッフルした場合、スペードのジャックはどこかに来るでしょうが、それが何
枚目にあったとしても、スタック・ナンバーとしては#1 のまま、ということです。

スタック・ナンバーを習得すると、各カードに 2 つ目の『名前』が、つまり『新しい』秘密の
アイデンティティがあるかのようになります。『クラブの 10』というカードの通常の名前は誰
もが知っていますが、そのカードのもう 1 つのアイデンティティである『スタック・ナンバー
#35』はあなただけが知っています。カードの普通の名前には、そのカードを分類したり整
理したりするための特徴があります。たとえば『クラブの 10』は黒であり、クラブであり、数
札であり、偶数カードである、などです。

各カードが秘密のアイデンティティを持つということは、この新しいアイデンティティに基づ
いた分類・整理ができるということを意味します。そして、この『秘密の』分類・組織化の原
理はあなただけが知っていて、他の誰もそんな組織や順序が存在することに気づかないの
です。ここまでの話が少々観念的に思えるようなら、具体的な例を挙げて説明しましょう。

7
Divided Deck Location ―分割したデックでのロケーション・トリック―
ロケーション・トリックを演じる初期のツールの 1 つとして誰もが知っている方法が、デ
ックを密かに赤と黒に分けておく、というものです。デックを赤と黒に分けておき、一方か
らカードを抜き出してもう一方に戻すと、反対側のカード群の中でその 1 枚だけが違う色
なので簡単に発見することができます。観客がデックの分割された性質に気づかない限
り、本当の意味での不思議になりますが、当然、赤/黒の原理を使ったままカードを表向
きで広げることはできません。赤/黒による分割は視覚的にあまりに見え見えなので、マ
ジシャンはカードを色ではなく、他の特徴で分割することで、それを少しでも隠そうとしま
す。たとえば、『偶数』のカードと『奇数』のカードで分けたり、『クラブ&ダイヤ』と『スペ
ード&ハート』で分けたりするでしょう。ただ、このようなデックの分割の基準には、いずれ
も欠点があります。観客が並びに秩序を見出そうとしている場合には、それを見つけるこ
とができてしまうかも知れない、ということです。

しかし、もしデックをカードの秘密のアイデンティティの特徴に基づいて半分ずつに分
割・整理した場合はどうでしょう。秘密のアイデンティティであるスタック・ナンバーはあな
たしか知りませんから、観客がどんなに長時間観察しても何も分かりません。このように、
スタック・ナンバーの低いカード(#1〜#26)がデックの半分に、スタック・ナンバーの高
いカード(#27〜#52)が残りの半分というかたちになっていれば、上述したのと同じロ
ケーション・トリックを行うことができます。デックを表向きに広げても、その編成原理は、あ
なたが記憶した特定のスタックを知らない人には判別しようがありません。

心に留めておいていただきたいのですが、自身の必要に応じ、整理の原理や手段として
スタック・ナンバーの特徴(上位/下位、偶数/奇数、4 枚目ごと、30〜40 枚目だけなど)
を利用することができます。また当然のことながら、これはデックを 2 つに分けることに限定
されるものではありません。同じ秘密のアイデンティティの原理を、1 つまたは複数の小さな
グループやパケットのカードに適用することができます。自分では分類がわかっていても、観
客から見る限りカードはランダムです。上記の例を一般化すると、次のようなルールや原則
と言えます:なにがしかカードの分割、整理、配置を行ってその配置を秘密のツールとして
使用し、かつこれを最終的に観客に明らかにしたり暴露したりしないのであれば、その配置
の仕方は、カードのスタック・ナンバーに基づいた別の配置の仕方に置き換えることが可能
である。

8
エド・マーローはとあるメモライズド・デックを使用していましたが、彼は『マーク付きカード』
を使う場合、裏に『マーク』するのはそのカードを示すスートやバリューそのものではなく、ス
タック・ナンバーのほうが簡単だと考えました(『Pallbearers Review』, Jan. 1968, p.
152, “Marked Memory” )。このようなかたちでマークを使うと、マークに気づかれたり
調べられたりしても、当然そのカードの正体を知る手がかりや証拠にはなりません。なぜな
らそのマークは、演者だけが知っているカードの秘密のアイデンティティを示しているからで
す。私のエッセイ「General Observations on the Memorized Deck」(メモライズド・デ
ックに関する一般的考察)では、カードの秘密のアイデンティティ、すなわちスタック・ナンバ
ーを『組織化原理』として利用するための、他の多くの例や提案、アイディアを紹介していま
す。

最後に、私は『メモライズド・デック・マジック』という言葉を厳密に用います。カード・マジ
ックの中でも、演者がカードのスタック・ナンバーを記憶していて、部分的にであってもそれ
を秘密の手口として利用している分野にのみ使っています。これは、この言葉の微妙ですが
重要な違いです。多くの場合、記憶された特定のカードの並びには、1 つまたは複数の特別
な機能が組み込まれており、その順番でなければできない特別なトリックを行うことができ
ます(たとえば、アロンソン・スタックには、3 つのポーカー・ディール、1つの完璧なブリッジの
手札、1つのスペリング・トリック(メモライズド・デックと巧妙にスイッチできるように作ってあ
ります)、任意のポーカーの役を作る、ブラックジャック、フォー・オブ・ア・カインドを取り出す、
嘘発見器トリック、その他多くのトリックが含まれています)。これらは並び自体に備わってい
る特別な機能であり、デックの並び順を憶えていなくても、それぞれ特定の現象を演じるこ
とはできます。言い換えると、もしデックの順番を憶えていたとしても、特定の現象を演じる
ためにそのような記憶が必要でない場合 1、私は一般的にそれを『メモライズド・デック・マ
ジック』とは呼びません。

1
訳注:こう配ればこういうポーカーのハンドが作れる、それをこういう順番で回収すると赤
/黒に分かれるのでロケーション・トリックができる、のような、トリックを行うにあたりカード
の順序を記憶している必要は特にないものを、メモライズド・デック・マジックとは(アロンソ
ンは)言わない、ということです。
9
どのスタック、どの並びを憶えるべきでしょうか?

メモライズド・デックを使った現象の大半は、どのようなスタックの順番を記憶しているか
とは関係ありません。重要なのは、カードの位置を『冷静に』分かっていることです。記憶す
るデックの順番というものはそれぞれ、完全にランダムであったり規則性がよく分からない
方法で並べられていたり(例:ファロのステイスタック・オーダー)、周期的または反復的な
パターンを持っていたり(例:サイ・ステビンスやエイト・キングス)、その他の特定のトリック
や目的のために設計されたものであったりします。唯一の『絶対的』条件は、カードを並べ
たときに、フェイス面がランダムに見えること、つまり、ざっと見ただけでは計画的特徴や事
前に用意されたような特徴が見られないことです(伝統的なサイ・ステビンスやエイト・キン
グスのセットだと、CHaSeD 順の規則的な赤と黒の交互のパターンとなり、事前に準備さ
れたことが明白になってしまうことがよくありますが、これは私のスート偽装法「Running
Without Being CHaSeD」(『The Aronson Approach』、p. 163, Comment 9)で簡
単に対応できます)。

そうは言っても、特定のデックの順番を憶えるために時間を費やし、その憶えた順番でセ
ットしたデックを定期的に、あるいは頻繁に持ち歩こうとするのであれば、それはあなたにと
って特別な利点をもたらす配置でなければならないのは明らかです。それがどのような利
点であるかは、自分がどのような現象を好むか、あるいは求められているか、自分がどのよ
うな状況で演じているか、一度にどれだけのカード・トリックを演じているかなど、ご自身の
状況によって異なります。たとえば私の場合、自分はギャンブルのデモンストレーションを咄
嗟の状況でも演じられることに感激を覚える性質があると気づいたので、様々なポーカー
の役を作ったり完璧なブリッジ・ハンドを作ったりできるスタックを構築しました。そのため、
突然依頼されてもすぐに演じることができます。また、先にシャッフルしたデックを使ったトリ
ックを行いながら、同じデザインのメモライズド・デックを密かに『リング・イン』させられる、ル
ーティーンの仕切りとなる別のトリックもあったらいいなと思いました。そのため、メンタルの
奇跡を演じているあいだに、観客に気づかれずにメモライズド・デックとスイッチできる、特
別なスペリング手順をスタックに組み込みました。ただ、これは私の話、私の好みに過ぎませ
ん。

10
また、自分の好きなトリックに合わせて、自分だけのセットを作りたいと考える人もいるで
しょう。たとえば、様々なカードを組み合わせて、様々なパケット・トリックを演じる方なら、自
分だけのメモライズド・デックに他のパケット・トリックや、デックの一部だけを使ったトリック
(例:テン・カード・ポーカー・ディール、オイル&ウォーター、エース・アセンブリなど)を組み
込めるかも知れません。いつでも、お好きなパケット・トリックの箇所をデックのトップにカット
して演じ、憶えた順番に注意しながら、それらのカードをトップ(あるいはボトム)に戻してい
くことができます。このようにしてメモライズド・スタックは、あなたのお気に入りのパケット・ト
リック『貯蔵庫』としても機能するのです。

演者の中には、毎回新品のデックを開けて演技を始める人がいます。彼らにとっては、新
品のデックの並びから、記憶した並びをその場で簡単かつ効率的に作れる、というメリット
があるかもしれませんが、他の『内蔵された』機能を犠牲にするという代償、つまりなにがし
かのトレードオフがあるかもしれません。私はそれほど頻繁に新品のデックを開けることはあ
りませんし、使うときにはある程度『使い込んで』からにしたいと思っていますが、これは明ら
かに個人の好みの問題です。重要なのは、自分の使用習慣を現実的に評価し、現実的な
利益をもたらす機能、つまり自らの特定の現実状況で実際に使用する機能を取り入れるこ
とです。

最後に、もしあなたが他のマジシャンとセッションをしたり、一緒になって演技をしたりする
ことが多いのであれば、仲間の何人かが憶えている並びを自分も憶えておくと大きなメリッ
トがあります。これにより、奇跡的な『サクラ』現象を演じることが可能になりますし、また、他
人の(密かに事前に並べ直してある)デックを『借りて』も、メモライズド・デックを用いた意
図した通りの奇跡を起こせる機会が多くなります。この記事を書いている時点(2002 年)
でもっとも人気のあるメモライズド・スタックは、ヨーロッパでやや優勢のホァン・タマリッツの
スタックと、アメリカで流行していると思われる私のスタックです(ホァンのスタックは、彼のビ
デオ・テープ、『 Lessons Vol. 2 』(A-1 Multimedia, 1997)の最後や、彼の著書
『Sinfonia en Mnemonica Mayor』(2000)の中でも紹介されており、近々ハーメティッ
ク・プレスより英語版が出版される予定です 2。アロンソン・スタックはもともと単体の小冊子

2
訳注:英語版は無事出版されました。『 MNEMONICA -Symphony in Mnemonica
Major-』(ホァン・タマリッツ著, ラファエル・ベナター訳, Hermetic Press, 2004)です。
11
『A Stack to Remember』(1979)に掲載されており 3、その全文は私の著書『Bound
to Please』にも収録されています。このスタックの多くの組み込み済み機能については、前
述の本や『Try the Impossible』で詳しく述べています。皆さんの便利のため、アロンソ
ン・スタックの並びはこの「はじめに」の補足 B に掲載しておきました。

あなたがどんなスタック順を記憶するかをお決めになるかに関わらず、私の個人的な意
見を 2 つ述べさせていただきます。1 つ目。実際に演じてみると、メモライズド・デック・マジッ
クの大部分は『スタック・インディペンデント』、つまりどのスタックでも演じられるということ
が分かります。そのため、どのスタックを学んだのかということは、ほとんどの場合何の問題
にもなりません。2 つ目。私はあまりにも多くの方たちに会いました――完璧なスタックが開
発されるのを『待って』いて、そのスタックこそが『究極』だと分かったら必ず暗記すると誓っ
ているカーディシャンたちに。皆さんはそんな言い訳をして、先延ばしにしてはいけません。
始めるなら今しかありませんし、結局大事なのは、あなたの記憶している並びにおいてスペ
ードの A が 6 番目なのか 7 番目なのかではなく、順番をすべて暗記しているかどうかなの
です。

3
訳注:日本語では完訳版である『サイモン・アーロンソンのスタック・トゥ・リメン
バー』(サイモン・アーロンソン著, 高本崇編・監修, ミスターマジシャン, 2002) があり、
こちらには日本語の語呂合わせでの記憶法も収録されています。
12
他に必要なものはありますか?

スタックしたデックを使用する際には(メモライズド・デックだけでなく、デック全体をスタッ
クしている場合も)、いくつかのフォールス・シャッフルと、1 つか 2 つ、良いデック・スイッチを
知っておくのが有用です。

フォールス・シャッフルは、ちょっとしたオフビートの瞬間にさりげなく行うことで、デックに
事前のセットがなされていたのではないかという観客の疑念を払拭します。マジックの文献
には様々な技法や解説が載っていますので、ここでは、異なった場面に適したフォールス・シ
ャッフルを知っておくことが実用的であるとだけお伝えしておきます。テーブルについている
状況では、ザロー・シャッフルや、私が考案したアロンソン・ストリップアウト(『 Simply
Simon』, p.65)が良いでしょう。立った状態では、オーバーハンド系のフォールス・シャッフ
ル(私はアードネスのファースト・メソッド 4
(『 Expert at the Card Table 』, 1902,
p.159)が好きです)と、両手の中で行うフォールス・リフル・シャッフル(私はレナート・グリ
ーンのシャッフルの自分なりのバリエーションを使っていますが、他にも数多くの素晴らしい
手法が発表されています。『Vernon Chronicles Vol. 3』(1989)の p. 44、“On the
Hay False Dovetail Shuffle”、タマリッツ『 Sonata 』の p. 77 の“The Cascade
Shuffle”、ロベルト・ジョビー『Card College Vol. 3』の p. 651 の“An In-the-hands
False Shuffle” 5、ガイ・ホリングワース『Drawing Room Deceptions』(1999)の p.
169 の素晴らしい技法、それからカール・ハインのハインシュタイン・シャッフル(『Genii』,
April 2001)など。また、メモライズド・デック・マジックの中には、部分的なスタックしか利用
しないものもあります。そのようなトリックでは、デックの影響のない部分だけを本当にシャッ
フルすることで、説得力のあるイリュージョンを作り出せることも憶えておくとよいでしょう。

4
訳注:日本語版は 2 種あり、それぞれ『The Expert at The Card Table プロがあかす
カードマジック・テクニック』(S. W. アードネス著, 浜野明千宏訳, 東京堂出版,
1989)の p. 165、および『The Expert at The Card Table』(S. W. Erdnase 著, Majil
訳, 2020)の p. 157 です。
5
訳注:日本語版では『ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ 第 3 巻』(ロベルト・
ジョビー著, 壽里竜訳, 東京堂出版, 2006)の p. 173、イン・ザ・ハンド・フォースル・シャ
ッフル です。
13
また、デック・スイッチを使うことで、長めのルーティーンの途中にメモライズド・スタックを
持ち込むことができます。ただ、デック・スイッチは便利ですが必須ではありません。メモライ
ズド・デックを用いたトリックを最初に演じるようにルーティーンを組むことは充分可能です
からね。パフォーマーの中には、ルーティーン全体を通してスタックの順番を崩さない一連の
手順を持っている人もいます(マイク・クロースの『Workers #5 』(1996)の p. 122、
「On the Memorized Deck」という章をご参照ください)。『Try the Impossible』には、
アロンソン・スタックに組み込み済みのたくさんの現象を収録していますが、載っているほと
んどの手順ではスタックの順番が崩れません。

デック・スイッチは大いなる柔軟性をもたらしてくれますし、しかもたいていのデック・スイッ
チは簡単です。私もカードを使わないトリックを行う際に、シンプルにデックを他の小道具の
手前やポケットに入れるだけで、大変簡単にスイッチできるという便利さに気づきました。メ
ル・ブラウンのジョーカー・デック・スイッチも素晴らしい策略です。これは、ジョーカーをケー
スに戻すのをうっかり忘れたと見せかけて、トリックとトリックのあいだでデックをスイッチで
きる、というもので、『M-U-M』(August 1958)の p.96 に掲載されており、また、私の
『Bound to Please』の p.61 にも収録されています。カード・トリックの中には、実際にデッ
クをポケットに入れたり、テーブルの下に置いたりするものがありますが、こういった手順に
はデック・スイッチを含められることが多いのです。私自身、自分の商品である“Side-
Swiped”でそういったスイッチを行っています。トリックの中には、レギュラー・デックからメモ
ライズド・デックへの入れ替えを目的としたものもありますが、それ自体が強力な現象となっ
ています(『 Bound to Please』の p. 128 の“Mental Spell”、あるいは“Bait and
Switch”などを参照)。また、デックを『消失』させたあとに再び出現させることがあるなら、
ボーナスとして再出現したデックがスイッチされている、といった構成にしてもいいかも知れ
ません。以上のように、演技の最中にメモライズド・スタックを持ち込むことはかなり簡単だと
いうことが分かりました。また実際に、観客の目の前で、演技中にいつでも、借りたシャッフ
ルしたデックから、憶えたスタックの並びを巧妙に作り出すことができる古典的なトリックも
あります(ジーン・ヒューガードの『Encyclopedia of Card Tricks』の第 20 章に収録さ
れているニコラ・カード・システム(1927)の“A Subtle Game”を参照してください)。

14
暗記の代わりになるものはありますか?

ありません。

私が、(各スタック・ナンバーとそれぞれのカードのあいだの)52 個の繋がりを『即座に』
『本能的に』出るよう『暗記する』必要があると繰り返し述べてきたのは、どこかにずっと寄
りかかっていられるなにがしかの『支え』があれば、スタックしたカードを記憶せずに済むの
ではないかという、魅力的ですが幻の如き願望を抱くのをやめさせるためです。そんなもの
はありません。

発明好きな人たちは、デックの順序を憶えなくても済むように、複数の数学的な公式を使
ってカードの並びを考えています。このような公式を適用することで、任意の位置番号をそ
れぞれのカードに、あるいはその逆に(うまくいけば簡単に)『変換』することができます。こ
のような『公式』は、メモライズド・デックの代わりになるのでしょうか?端的で現実的で、た
だひとつの真の答えはこうです。「なるわけがない!」

たとえば、先ほど(p. 8)紹介した、非常にシンプルな「Divided Deck Location ―分


割したデックでのロケーション・トリック―」で考えてみましょう。デックは密かにスタック・ナン
バーの『ハイ』と『ロー』とで分けられているので、分割されたデックの中から『見知らぬ』カ
ード、つまりスタック・ナンバーが『別範囲の』カードを探すことで目的のカードを見つけ出す
ことができる、というものです。しかし、『公式』を使った方法では、『ハイ』か『ロー』か判断
するのに、一枚一枚のカードに対して計算を行う必要があります。お話になりません!しかも
この問題は、カードの『グループ』の中で、なにかひとつの特徴(例:そのグループの中で
『もっともハイ』のスタック・ナンバー)を見分けようと思ったら毎回発生してしまうのです。

色やスートが目に飛び込んでくるのと同じレベルで、スタック・ナンバーがすぐに出るので
あれば、このような検索作業は何の問題もないでしょう。ですが高度な応用となるとどうで
しょうか。グループ内の各カードでいちいち個別に計算をする時間は取れません。

しかも、ほとんどのメモライズド・デック・マジックを演じる際には、必要な『公式』を適用す

15
るときにはすでに他のことで頭がいっぱいになっているはずです。多くのメモライズド・デッ
ク・マジックでは、カードのスタック・ナンバーに簡単な数学的計算をしなければなりません。
そうなると、スタック・ナンバーは即座に分かることから始めたいところでしょう。しかし数式
を使うと頭の体操が増えてしまい、どうしてもスピードが落ちてしまいます。躊躇しているうち
に頭がオーバードライブしてしまうのです。これでは、観客を楽しませるどころか、騙すことも
できなくなってしまうでしょう。考えていることが表に出てしまうのは、自身のショーを台無し
にしてしまうくらい悪いことです。

マジックの世界には、公式を使うスタックもあり、中には非常に独創的なものもあります。
仮に、公式からなるスタックに他の属性もあって、それ自体を記憶する価値があるとしたら、
ご自分の選んだ『公式からなるスタック』を暗記することに何の問題もないと思います。もし
スタック・ナンバーを忘れてしまっても、この公式を使えば大丈夫という安心感も得られるか
も知れません。ただ、公式はいくつかの非常に単純なトリックでは暗記に代わる有効な手段
となるかもしれませんが、それ以外のすべての複雑なトリックや高度なトリックでは理屈の上
でしか利用できません。

16
II. メモライズド・デック実践:

基本原理

メモライズド・デックを秘密の『ツール』や役立つものとして
使うことは古くから行われており、様々な応用が編み出されてい
るのは当然のことです。ということで私は、この「はじめに」の
一環として、メモライズド・デックの現象を強力にしたり、騙し
の威力を高めたりするのに特に役立つと思われる 5 つの原理を簡
単にまとめてみました。また、各項目でこれらの原理をうまく利
用していると思われる私自身のトリックも紹介します。

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1. 秘密のグループ
このアイディアはここまでも、スタック・ナンバーによって、それぞれのカードに新たな秘密
のアイデンティティが与えられるという話の中で、すでに触れましたね。p. 8 では、デックを
スタック・ナンバーのハイとローによって密かに分割することでロケーション・トリックができ
るという例を紹介しました。しかし、これは表面上のことに過ぎません。

多くの優れたロケーション・トリックでは、デックを密かに 2 種類以上のグループに分けま
す(赤/黒、偶/奇、4 種類のスート、平/丸 6、数札/絵札など)。デックをこのように分け
て密かに管理することで、マジシャンは驚くべきロケーション・トリックやカードを見つけ出す
トリックを演じることができます。通常は、特定のグループに属さない『場違い』なカードを見
つけたり、グループ間の『境目』(あるグループの一番下のカード、または次のグループの
一番上のカード)を秘密の鍵として使用したりします。このような『グループ』は、シャッフル
がそれぞれのグループ内だけで行われる限り秘密の手口としては保たれます。そのため、説
得力のあるシャッフルをすることができるのです。

カードのスタック・ナンバーに基づいた秘密のグループを構成した場合、メモライズド・デ
ックがこのようなトリックにもたらす利点を考えてみましょう。第一に、そのグループ化は、定
義上完全に目に見えず、見分けがつかないものになります。なぜならその組織化の原理は、
カード自体のあきらかな特徴ではなく、その(秘密の)スタック・ナンバーのみに基づいてい
るからです。

第二に、デックを任意の数の独立したグループに分けることができ、その各グループも任
意の大きさにすることができます。つまり、赤と黒きっかり 26 枚ずつのグループにするとか、
1 つのスートの枚数である 13 枚にするとか、その他カードの物理的特性による固定的な
制限はないのです。デックの中のカードを好きなだけ使い、不均等な量のグループをどれだ
けたくさん(あるいはどれだけ少なく)作ってもいいのです。

6
訳注:flat/round カードのバリュー(の上部)が直線主体か曲線主体かで分ける方
法。[A・4・5・7・J・K]/[2・3・6・8・9・10・Q]ですが、10 をいずれに含めるかはまちまち
です。
18
第三に、グループ間の分割点は『流動的』でもよく、事前に決めておく必要もありません。
例を挙げて説明しましょう。伝統的な赤と黒の分け方であれば、各グループには 26 枚のカ
ードが必要です。しかし、スタック・ナンバーのハイとローでの分割を用いる場合は、分割点
はちょうど真ん中である必要はありません。好きな場所で構わないのです!観客にも「半分
くらいカットしてください」とお願いすることができるので、ハンドリングの自由度が高まりま
す。観客に「半分くらいカットしてください」とお願いして、カットしてもらったところのカード
(上半分のフェイスのカードか、下半分のトップ・カード)をグリンプスなりその他の手法で
知れば、観客のカットしたところをキーとして、それを元に分割したグループを作ることがで
きます。たとえば、キー・カードによると、彼がカットしたのが#23 のカードのところだった場
合、『ロー』のスタックはスタック・ナンバー#1~#23、『ハイ』は#24~#52 となります。こ
の流動的な分割はその数を拡張することができます。こんな状況を想像してみてください。
あなたは観客その 1 に「4 分の 1 ほどカットしてください」と言ってカードを取り上げさせ、
そのまま取り上げたパケットをシャッフルしてもらいます。その間にあなたは残りのカードの
一番上のカードをグリンプスします。今度は、観客その 2 に、さらに 4 分の 1 をカットしても
らい、また同じ作業を繰り返します。このようにデックを分割すると、それぞれのパケットに含
まれる枚数が分かり、その知識を使えば驚くべきロケーション・トリックを演じることができる
ようになります(たとえば、私の“High Class Location”、“Four Stop Intersection”、
“S-D Plus”、“Shuffle-bored”など)。流動的な分割点は、多くのロケーション・トリック
に柔軟性を与えることができるのです。

第四に、スタック・ナンバーで組織したグループは、従来では出来なかった方法で、記憶
や心の中での操作を可能にします。私の“Histed Heisted”では、デックを 10 人の観客
に配り分け、各人に 5 枚の『ランダム』なカードを渡します。観客は知らないのですが、実際
には 1 人目の観客はスタック・ナンバーが 1 で終わる 5 枚のカードを手にし、2 人目の観
客はスタック・ナンバーが 2 で終わる 5 枚のカード(つまり、#2、#12、#22、#32、#42)
を手にしている、といった具合です。この方法では各観客に配られたカードが即座に分かる
だけでなく、メモライズド・デックを 10 枚ずつのグループに分けて暗唱するだけで、クロスマ
トリックス・エリミネーションの原理をさりげなく、しかも簡単に応用することができます!(初
読の方には、ここで指摘しているニュアンスのすべてを理解していただけるとは思っていま
せんが、トリックの全容をお読みになれば、スタック・ナンバーに基づいた巧妙な秘密のグル
ープ分けによって達成される驚くべき読心術に、きっと感銘を受けることでしょう)。

19
2. カウンティング
あるカードとそのスタック・ナンバーの関係というのは、デックのトップからパケットをカット
した際、そこのカードが分かればカットされたパケットに含まれるカードの正確な枚数も自
動的に分かる、ということです。この点を利用したのが、最初期のメモライズド・デック・マジ
ックのひとつである“Weighing the Cards”(前述の Nikola Card System より)です。

この数字の関係を逆に応用すると、これがまた面白いことが分かりました。つまり、カット
されたパケットの枚数を密かに数えることができれば、そのカットされたパケットの元々のフ
ェイス・カードが自動的に分かる、ということです。

Pulse Reading ―脈拍を読む―


簡単ですが、とても不思議なトリックを紹介しましょう。観客にテーブル上のデックのト
ップからパケットを持ち上げてもらい、そこのカード(持ち上げたパケットのフェイス・カー
ド)を見て憶えてもらってから、パケットをシャッフルしてもらいます。そうしたら、シャッフル
したパケットをマジシャンの前に、表向きでリボン・スプレッドしてもらいます。マジシャン
は、観客の手首を取ってその脈拍を感じながら、彼女にはカードのことだけを考えてもら
いつつ、スプレッドの上で行ったり来たりさせます。観客の手をゆっくりと下げていき、1 枚
のカードの上に――ここではダイヤの7に着地させたとしましょう。そして、もちろん、これ
が正しい選ばれたカードなのです。どうやったのか?スプレッド上で彼女の手を移動させ
ながら、スプレッド全体の枚数を黙って密かに数えたのです。たとえば、数えた結果が 15
枚だったとしましょう。すると、観客はもともと 15 枚目のカード(アロンソン・スタックでは
ダイヤの 7)のところでカットしていたことになります。あとは、彼女の脈拍を読んで、それ
に『導かれている』かのような演技をするだけです。かなり説得力のあるデモンストレーシ
ョンになります。

別の方法として、私は上述の演技を、スプレッドが裏向きの状態で行ったことだってあ
るのです!上の流れの通りに進めますが、今回はシャッフルされたパケットをテーブル上
に裏向きでスプレッドしてもらいます。それから彼女の手首を取り、観客から特定のカード
に発される拍動を感じているように演じ、彼女の指を裏向きのカードへと下ろします。その
カードの隅をそっと持ち上げて覗き込み、少しためらいがちに「あなたのカードはダイヤの

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7 ですか」と尋ねます。ここでもまた、裏向きのカードの総数を数えており、あなたはすで
に彼女のカードが何か分かっているのです。あとは大胆なハッタリです。どのカードに触
れようが、結局あなたしか覗き込まないので違いはありません。あなたはそれをダイヤの
7(あるいは記憶した順番で#15 のスタック・ナンバー)とミスコールします。

いずれにしても、このシンプルなトリックは、人を欺き、楽しませることができます。それも
必要なのはパケットの枚数を密かに数えることだけなのです。数えた総数から、元々どの
カードのところでカットされたかが分かる、というお話でした。

密かにカウントするというこの単純な原理は、上記のトリックだけでなく、もっと幅広い応
用が可能なのだと理解していただくことが重要です。所与のパケットの枚数を秘密裏に数
える方法には、巧妙で工夫を凝らしたものがたくさんあり、そのどれもが不可解なロケーシ
ョン・トリックを生み出し、発展させるのに利用できます。オーバーハンド・シャッフルを何度か
行いながら、その中でカードを 1 枚ずつランしていくことで密かに数えることができるかも
知れません。観客に、自分の目の前で少枚数パケットをファンにしてもらい、このタイミング
で何枚あるのかを密かに数えることもできるでしょう。また、観客にカードを配ってもらう場
合(「配っていって、お好きな時に止めてください」や、「カードを 2 つの山に配ってください」
など)、カードが配られるたびに演者はその数を密かに数えることができます。

この密かに数えるという原理は、どのような手続きを採用したにしても、そこに自然な理
由がある限り、知識のあるマジシャンも含め、事実上誰にも気づかれないことが分かりまし
た。このカウンティングの原理は、“Two Card No Touch Location”、“Past, Present,
Future”、“Madness in Our Methods”など、私のお気に入りのメモライズド・デックのト
リックでも使っており、さらに発展させています。

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3. 端点
上記のカウントというアイディアは、数える起点(通常はデックのトップ)がある場合には
非常に便利です。しかし、そのような起点さえ分からなかったとしたら?そんなときはどうす
ればいいのでしょうか?

Center Cut Location ―センター・カットのロケーション・トリック―


こんなシナリオを想像してみてください。デックがテーブル上にあります。観客がその中
ほどからカードをかたまりで抜き取り、取ったところ(抜き取ったパケットのフェイス)のカ
ードを見て憶え、それからそのパケットをシャッフルします。この条件で、どうやったら彼の
選んだカードを見つけることができるでしょうか?さらに難しくしてみましょう。観客は自分
のパケットをシャッフルしたあと、自分のパケットの一部だけ(全部ではありません)をあ
なたに渡します。しかも、何枚、どのカードをあなたに渡すか(ただし、その中には彼の選
んだカードは含まれるとします)は、彼自身が決めます。信じられないかもしれませんが、
スタック・ナンバーの特性を利用して、あなたは彼に手渡されたカードを素早く調べ、何一
つ質問もせず、キー・カードも使わず、数えることもなしに、自信を持って彼の選んだカー
ドを見つけることができます!

どうやって?それは、ブロックの『端点』という概念を使うのです。選ばせる手続き(デッ
クの中央からかたまりを引き出す)をイメージしてみてください。少し考えれば、中央のか
たまりに含まれるカードのうち、フェイス面にあるカード(選ばれたカード)は、中央のかた
まりに含まれる全カード中、もっとも高いスタック・ナンバーを持つものだと分かります(デ
ックの中で一番下にあるからです)。あなたは、彼が手渡してくれたすべてのカードのスタ
ック・ナンバーを心の中で思っていき、その中でもっともナンバーの大きなカードを選べば
いいのです。それが選ばれたカードです。

私は“Center Cut Location”でこの端点の概念を提唱しましたが、上述したシンプル


なロケーション手順は、あくまでも原理を説明するためのものであることを強調したいと思
います。端点の原理は、様々な工夫を凝らして拡張することができます。複数の選択を、しか
も同じかたまりの中からでもさせることができます。そのパケットのトップ・カードを使うので
す。それはいつでもそのグループの中で最も低いスタック・ナンバーのカードになります。ま

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た、連続したかたまりのカードを使い、それぞれのかたまりで端点を使うこともできます!端
点の原理は、条件が厳しい状況でも使えるので非常に有用です。

実際、この端点の『原理』は、特定のグループやかたまりの中の極端な端点に限定され
るものではありません――なぜなら、『連続した』かたまりを必要としないからです!選ばれ
たカードの端点からの相対的な位置が分かってさえいれば、どのグループのカードにでも
使えます。この『相対的』という考え方そのものは同じですが、もうひとつ、全く異なる使い方
を紹介しましょう。

Five Card Location ―ファイブ・カード・ロケーション―


メモライズド・デックをテーブルに裏向きでリボン・スプレッドし、観客に任意の 5 枚のカ
ードを裏向きのままスプレッドから半分だけ突き出してもらいます。2 人目の観客に、あな
たにやっていただきたいのは 5 枚のカードの中から 1 枚に絞ることですと説明し、突き出
た 5 枚のカードの中から任意の 1 枚を指差してもらいます。決めてもらったら、マジシャン
はうしろを向いたまま、彼に選んだカードを抜き出し皆に見せてもらいます。そして、他の 4
枚の突き出たカードも抜き出してもらい、選んだカードをその 4 枚の中に入れてシャッフ
ルしてもらいます。そして、彼から 5 枚のカードをすべて受け取ります。

このような状況にもかかわらず、端点の原理を巧妙に利用することで、5 枚のカードの
うちどれが彼の選んだものであるかを即座に判断することができます。観客その 2 がス
プレッドから突き出た 5 枚のうちの 1 枚を指差したとき、そのカードがデックのボトムから
見て 1 番目、2 番目、3 番目、4 番目、5 番目、どの位置にあるか、心の中で注目するだ
けです。

その『相対的な位置』だけを憶えておけばいいのです。デックの残りのカードのことは
忘れて構いませんし、5 枚の候補が『ひとまとまり』になっていなくても気にする必要はあ
りません。5 枚のカードを受け取ったら、これをスタック・ナンバーの低いほうから高いほう
へと並べ替えるだけです(実際に 5 枚のカードの物理的な位置調整はせず、頭の中でこ
の『配置』を行うこともできます)。あなたが最初に憶えた『相対的な位置』が、5 枚のう
ちどのカードが選ばれたかを教えてくれます。たとえば、観客が 5 枚のカードのうち『2 番
目』(元々の並びのボトム、つまりフェイス・カードから見たときの順番)を指していた場合

23
なら、5 枚の中でスタック・ナンバーが 2 番目に大きいものが選ばれたカードなのだと分
かるのです。

もし、端点の原理を使って何ができるかを見たいのであれば、特にこれまでに検討してき
た 他 の ア イ デ ィ ア と 合 わ せ 、 私 の “ Center Cut Location ” に 加 え て 、 “ Four Part
Harmony”と“Topsy Turvy”もチェックしてみてください。

24
4. 数理的原理
初心者の方は、メモライズド・デックのマジックというと、頭の中でたくさんの数理的な計
算をしなければならないのではないかと想像して、怖くなってしまうことがあります。しかしこ
こまでの例のように、そのようなことはありません。これまでに紹介した原理を使えば、カード
の枚数を数えたり、何枚かの中でもっとも大きいスタック・ナンバーのものを見つけたりする
だけで、驚くようなロケーション・トリックを創り出すことができます。

これはあくまでも『入門編』です。皆さんのほとんどはこのテキストを、メモライズド・デッ
ク・マジックとは何か、そしてそれが『わざわざ使う価値があるのか』という好奇心からお読
みになっていることを、私は充分に理解しています。私は、メモライズド・デック・マジックが複
雑であると思わせることで、あなたを怯えさせたくはありませんし、なにより複雑であるとも
限りません。ただ、カード・マジックに適用される他の数理的原理の数々(あなたもすでにご
存知のものかと思いますが)と関連して、メモライズド・デックがもたらすいくつかの利点も
指摘しないわけにはいきません。メモライズド・デックは、なにがしか分かっている番号順に
並んでいて、あなたはそれぞれのカードの位置を暗記しているので、他の数理的原理を使
うことが非常に容易になり、実際にそれを単純化することができます。

以前、私は「Memorized Math」というエッセイを書きました。その中でこれらのトピック
について詳しく述べています。ここではその内容を繰り返しませんが、後々、メモライズド・デ
ックを使いこなせるようになったら、そのエッセイをお読みになって、数理的なものについて
考え始めてみるのも良いかもしれません。私はなにも、メモライズド・デックのマジックをすべ
て複雑な数学の問題にしましょうという話をしているわけではありません。そうではなく、た
だ、メモライズド・デックを使えば、別種のカード・マジックを作ることができるようになると知
っていただきたいのです。秘密のメモライズド・デックによって新たな次元が加わることで、よ
り数理を活用できるようになり、その習熟が増すほどに、より不思議なものが作れるように
なるのです。

メモライズド・デックが提供してくれる主な数理的ツールは、各カードすべてに、番号付き
の位置がもたらされることです。特定の位置に既知のキー・カードを配置したい(たとえば、
クロック・トリックのための 13 枚目であるとか、デックをちょうど半分に分けるための 26 枚

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目など)と思ったことがある人ならすぐに、スタック・ナンバーを考えれば 52 枚のキー・カー
ド、そのすべてが分かることに気づくでしょう。しかし、そこからほんの一歩進むだけで、つま
り実際にはデックを 1 回カットするだけで、特定のカードを好きな位置に配置することだって
できると分かるはずです。必要なのは、どこでデックをカットするかということだけです。これ
はたった 1 回の些細な数理的な計算で分かるでしょう(前述したように、この「はじめに」で
は数々の計算式の説明には踏み込みません。いまこの時点ではまったく必要ではありませ
んからね。しかし、53 から何か数字を引くことができれば、それだけで、数理を使ったトリッ
クのおそらく 90%には充分でしょう)。また、デックをカットするのに精密なエスティメーショ
ン技術は必要ありませんし、『見えない』パスを密かに行う必要もありません。このような数
理的なカットや調整は、カードを表向きで広げて『よくシャッフルされている』ことを示したり、
ジョーカーを取り除いたりすることで達成可能です。目的のカードを見つけたら、そこでさり
げなくカットすればよいだけです。

キー・カードを知ることと配置することは基本です。もし、あなたが並びを知っているスタッ
クをファロ・シャッフルするとして、公式を使ったらどんなことができるか想像してみてくださ
い。デックを 1 回、あるいは複数回以上ファロ・シャッフルしたあとでも、追跡したいカードが
来る位置を知ることができます。先述の「Memorized Math」で私は、メモライズド・デック
がいかに『自動的に』ステイスタックになるかを説明しています。ステイスタック・デックとい
うのは、何度ファロ・シャッフルをしても、上半分と下半分が一定の関係を保つデックの状態
のことです。

また、2-4-8-16-32 のような『2 進法』の位置関係を利用したトリックを行う方は、メモ


ライズド・デックのどのカードがその 2 進法におけるキーの位置を占めているかという情報
があれば、より柔軟な対応ができるでしょう。『ダック・アンド・ディール』タイプのトリックがお
好きな方には、どんな枚数のパケットでも、最後に残るカードが何であるかを導く公式を知
れば有用です。このように数理的な繋がりの可能性はまだまだありますが、「入門編」として
はこれで充分です。

最後に、数理的な原理を使うことについて少しだけ述べさせていただきます。たとえトリッ
クが実際には数理によって成り立つものであっても、観客にとってそれの『見た目』や『感じ』
が、パズルや算数のようなものであってはなりません。数理は、観客の気づかない、秘密の

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要素として使うのが一番です。つまり、プレゼンテーション、台詞、そして進める速さをよく考
え、あなたの心の中のプロセスを隠して、明らかにならないようにする必要があります。解決
策の一つは、必要な数理的計算を行うための適切なタイミングが明示的に作れるように手
順を設計することです。たとえば、観客の一人に何かやるべき指示を与えれば、皆の注目は
彼に集まるでしょう。彼がそれにかかりっきりになっているあいだに、こちらは計算を行うこと
ができるのです。

私の個人的な意見ですが、一部の数理的計算を利用するトリックのほとんどは、実際に
は難しくも怖くもありません――スタックを冷静に把握できてさえいれば。私が(いままでで)
一番気に入っているメモライズド・デックのトリックは、“Everybody’s Lazy”です。これに必
要なのは、いくつかの簡単な足し算ないし引き算を、異なるタイミングで行うことだけです。
この、さして難しくもない手続きから、嬉しいことにカード・マジックの中でも『クラシック』と
評される現象を生み出しています。お読みになり、少しの計算にその価値があるか、ご自身
で判断してみてください。

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5. オープン・インデックス
これまで検討してきた原理は、主にロケーション・トリック、つまり選ばれたカードを挑戦的
な条件で見つけ出すのに有用でした。ですがこの最後の『原理』は、かなり方向性が違い
ます。

基本的な考え方は、メモライズド・デックを使っているときには、52 枚のカードすべてを本
当に自分のコントロール下に置いているような感覚になる、というものです。もし、52 枚のカ
ードのうちの 1 枚を言われても、その正確な位置は分かっている――ということは、言われ
たカードを今ある場所から密かにパームに持っていったり、フォースしたり、魔法のようにプ
ロダクションなりなんなりする、といった手順を、ほとんど苦労せずに編みだすことができる
のです。この種の手続きでは、一般的にはせいぜい、デックをエスティメーションしながらカ
ットし、そのボトム・カードをグリンプスして、先ほどのエスティメーションがどの程度近かった
かを確認するだけです。数枚『ずれた』としても、グリンプスしたボトム・カードから、目的の
カードのトップ(あるいはボトム)からの正確な位置が分かるので、あと少しの調整(たとえ
ば、1 枚か 2 枚のダブル・アンダーカット)で、目的のカードをトップ(あるいはお好きな場
所)に持ってくることができます。これはかなり強力なものです。なにげない会話の中で観客
が好きなカードの名前を言っただけで、あなたはそのカードをポケットから取り出すことがで
きます(あるいは、あなたのコントロール下に置くことができます)――しかもカードを広げて
表を見る必要なしに!

まるで、52 枚のカードの秘密のポケット・インデックスを持っているかのように、目的のカ
ードを簡単かつ効率的に自分のコントロール下に置くことができるのです。しかし、この場
合、秘密のインデックスはオープンになっています。なぜならそれは、あなたが堂々と持って
いるデックそのものなのですから。このデックには、密かに記憶している順序により、目的の
カードがどれであっても素早くたどり着ける、組織的な配置とメカニズムが備わっているわ
けです。このようにメモライズド・デックは、『オープン』であるにもかかわらず、『インデックス』
として機能することから、私はこのコンセプトを『オープン・インデックス』と呼んでいます。

私は『オープン・インデックス』と題した詳細なエッセイの中で、このコンセプトをさらに詳
しく掘り下げています。そこでは、エスティメーション、カット、グリンプスのテクニックや、エス

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ティメーションが少しずれた場合に必要な調整を行う巧妙な方法についても述べています。
また、この有用なツールを最大限に活用するためのプロットやトリックなど、『オープン・イン
デックス』の応用や使い方についても提案しています。よく理解していただきたいポイントは、
スライト、パーム、コントロール、魔法のようなカードのプロダクション、フォースの方法など、
カード・マジックの他の側面を知れば知るほど、オープン・インデックスをより有効に活用す
ることができる、ということです。オープン・インデックスは、それ自体がトリックでもなければ、
『手法』でもありません。そうではなく、自由に言われたり指定されたりしたカードを使って
別次元の作業ができるようになることで、他のトリックを大きく前進させるチャンスとなるの
です。

オープン・インデックスというコンセプトの名人 2 人といえば、ホァン・タマリッツとマイク・ク
ロースであり、彼らの成果には細心の注意を払う価値があります。マイクは『Workers Vol.
5』の中で、オープン・インデックスに焦点を当てた「On the Memorized Deck」(メモライ
ズド・デックについて)を書いており、このコンセプトに真剣に取り組んでいる人にとってこれ
は必読です。そこでは、オープン・インデックスを使った数々の具体的なトリックが紹介されて
いるほか、オープン・インデックスを使った『ジャズ』についても言及されています。つまり、オ
ープン・インデックスを使って、手順の最中に考えて、即興で流れを変えながら演じていくと
いうものです。あなたが手にしたのは驚異的な秘密兵器です。欲しいカードは(何かしらの
方法で)手にできる――さあ、この可能性を活かすにはどうすればいいのでしょうか?

ヴァーノンの傑作“The Trick That Can’t Be Explained”をご存知の方は、その場そ


の場の状況に対応し、偶然を利用したり、逆に不利な状況では別の現象を作ったりして、自
分でトリックを作り上げることがあるのをご存知でしょう。自分のスタックに慣れれば慣れる
ほど、より多くの可能性を見出すことができ、リスクを冒してでも奇跡を手に入れる可能性
に手を伸ばすことができるようになります。自信に満ち溢れて度胸満点、複数のアウトを持
って創造的思考で演じる才能あるマジシャンの手にかかれば、このツールがどんなパワー
と柔軟性を発揮するのか、ホァン・タマリッツの演技を見たことがある人なら理解できるでし
ょう。

私は、自分のお気に入りのオープン・インデックスのトリックである“Two Beginnings”と
“The Invisible Card”の 2 つを『Try the Impossible』に収録しました。これらは、メモ

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ライズド・デックをロケーション・トリックの枠から出して、『あなたのカードを見つけます』タイ
プの現象をはるかに超えた、ビジュアルで楽しい魔法のプロットを作り上げていることがお
分かりになると思います。

上記の 5 つの原理を議論するにあたり、私が多少恣意的にならざるを得なかったことを
ご理解いただきたいと思います。この 5 つを選んだのは、ある程度、メモライズド・デック・マ
ジックに特有のものだからです。もちろん、他の種類の『スタック』や『事前に順序をセットし
ておくデック』に適用できる原理はまだまだたくさんありますし、メモライズド・スタックにも有
利に働くことがあります。また、上記の議論は、これらの原理を賢く応用したときに達成でき
ることの表面を撫でただけであることを憶えておいてください。それに、これらの原理を互い
に組み合わせて使用する方法についてはまだ検討していませんしね。ある局面である原理
を使い、別の局面では別の原理を使って方法を変えることで、悪魔的なマルチ・フェイズ現
象を生み出すことができます。これらの原理はお互いに打ち消し合うことができ、無力な観
客は、あなたの魔法の力に驚嘆する以外になすすべもありません。このように、メモライズド・
デック・マジックの研究を続けていくと、メモライズド・デックがいかに独創的なものであるか、
お気づきになると思います。

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III. ス タ ック を 憶えるには

どうしたらいいですか?

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スタックを憶えるにはどうしたらいいですか?

端的に言うと、「自分にとって快適な方法なら何でも OK」です。

修得のために
長年にわたり、私は世界中のマジシャンと多くの議論を交わしてきました。彼らはスタック
を記憶する方法について、それぞれの見方、コツ、アプローチ、個性的な見解を示してくれま
した。彼らの方法は実に様々ですが、憶えることや記憶術を研究したことのある人なら誰で
も、何かを憶えるのに『正しい』方法などないと言うでしょう。ある人にとってはうまくいく方
法でも、他の人にとってはうまくいかないかもしれません。

単に自分の憶えるべきスタックを、毎日数枚ずつカードを憶えていく『機械的な手順』で
『丸暗記』している人もいるでしょう。考えてみれば、52 個の項目というのはそれほど多くは
ありません。私たちの多くは、友人や親戚、仕事仲間の電話番号を 50 以上知っているでし
ょうし、電話番号はトランプよりもはるかに抽象的で複雑です。

他の多くの人々(私も含めて)は、よりしっかりとした整った仕組みを使ってスタックを憶え
たいと思うでしょうし、そういうものは実際に記憶を助けるように構成されています。私が好
きなのは、ニーモニック/フォネティック・アルファベット(アルファベットの音を活用して記憶
を助ける)と、視覚的な想像や連想をしてイメージを『リンク』させる能力に基づいた、世界
的に認められている暗記方法です。そんなもの聞いたことがない、という人がいたら、ハリ
ー・ロレインなどはひどくがっかりするでしょうが、これは本当に効果があることが試行錯誤
の上で証明された仕組みなのです。その解説は、記憶に関する多くの一般の書籍に載って
います。ブルーノ・ファースト『The Practical Way to a Better Memory』(Grosset &
Dunlop, 1946)、ハリー・ロレイン『How to Develop a Super Power Memory』(Fell,
1957)などですが、ここではそれを説明するつもりはありません(長くなりすぎますし、全体
の仕組みついてはすでに『A Stack To Remember』の pp. 19-29 や、『Bound to
Please』の pp. 129-139 で詳しく説明しています)。この一般的な記憶術の仕組みは、
いくつかの重要なことを達成するための、その基礎構造となります。まず、この記憶術の仕

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組みでは、面白みのない、未分化で抽象的な数字やトランプを、鮮明で記憶に残る独創的
な視覚イメージに変換します。この変換はすべて、たった 10 個の基本的な『音』の単位か
らなるシンプルなリストに基づいて行います。実際に憶えなければならないのは、この基本
的な 10 個の構成要素のリストだけですが、これは 15 分以内に簡単に憶えられます。他の
すべては、この 10 個の基本的な音単位に依存し、それに接続され、その上に構築されます。
ひとたび 10 個の音単位を頭の中に固定してしまえば、それらを組み合わせて心の中に上
部構造全体を形成できるようになるのですが、その速さにはきっとご自分でも驚くことでし
ょう。

第二に、この仕組みは、2 つの別々の視覚的イメージを結びつけた心象風景を、あなたの
心が素早く、そして簡単に作り出せるようにしてくれます。この組み合わされた心象風景や
関連性が、心の目や想像力、そして記憶に残るのです。

このような記憶の仕組みの話を聞いて、最初は怖気づく人もいます――ですが、それは
実際にとりかかってみるまでの話です。私はこれまで、この必要な 10 ページ程度(完全な
説明はそれで全部です)を読んだあと、仕組みがいかにシンプルで、すっきりしていて、エレ
ガントで、使いやすいかを知って、実際に笑顔にならなかった人を知りません。あまりにも簡
単すぎて、何か『トリック』があるのではないかと思ってしまうほどですが本当です。冗談抜
きで、この仕組みを応用すれば、あなたの頭の中でカードと位置を結びつけて憶えることが
できるのです。

第三に、これは私からお伝えできるもっとも重要な勇気づけなのですが、最初にメモライ
ズド・デックを憶えるためにどれだけ記憶法に頼ったとしても、いったん熟練してしまえば、音、
単語、イメージ、連想といった、心の中の下部構造全体はすぐに完全に消えてしまいます。1
ヶ月後には、カードを見たときにそのスタック・ナンバーが(あるいはその逆も)、即座に自動
的に分かるようになります。この仕組みは最終的に、メモライズド・デックを直接、意識的、か
つ補助なしの記憶のリンクとして確立してくれるのです。信じてください。

私はこの記憶法を強く支持しており、少なくともそれを、デックを完全に記憶するという具
体的な作業に用いました。このテーマで書かれた最良の資料として、私は恥ずかしながら、
上記の自分の著作を推薦します(他のものはほとんどすべて、プロの記憶専門家が一般の

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人向けに、「買い物リストや人の顔、日付など、あらゆるものを憶えられるように訓練しましょ
う」ということで書かれたものですが、一方で私が『A Stack to Remember』を書いたニ
ッチで唯一の目的は、マジシャンが 52 枚のカードを憶えるための最良の方法に焦点を当
てることでした)。しかし、この記憶法を知るために私の本を買う必要はありません。多くの
方は、すでにご自身の書架に所蔵されていることでしょう。たとえば、『Greater Magic』の
pp. 902-906 には、H・エイドリアン・スミスの「Mnemonics with Cards」(カードの記憶
法)についての簡単な説明があります(私が初めて学んだのもそれでした。10 代の頃で
す)。

最後に強調しておきたいのですが、上記の記憶法は、アロンソン・スタック(または他の特
定のスタック)だけに限定されたものではありませんし、またそのためだけに設計されたもの
でもありません。この記憶法は、どのようなスタック順序の記憶に用いてもそのお役に立つ
でしょう。

ここで、もう一つのヒントを。一部の方からは、『スタックは“順番に”憶えないほうがいい』
という意見がありました。つまり、ある実践者は、最初にスタック・ナンバー#1、次にスタック・
ナンバー#2……と連続して憶えるのではなく、まず、4 枚の A の位置を憶えることにしまし
た。そして、4 枚の A の位置を(記憶法などを使って)記憶したら、次に 4 枚の 2 の位置を
憶える、というようにしたのです。そうすることで、『あるカードの直前/直後』という危険なイ
メージから解放されると考えたのです。それぞれのバリューを1セットとして憶えておけば、数
字の順番や並びに縛られることはありません(彼は非常に短期間でデックを憶え、それをし
っかりと理解しています)。このようなアプローチは参考になるかもしれませんし、このコンセ
プトを変えて、たとえばクラブの 13 枚を最初に憶え、次にハートの 13 枚を憶える、というよ
うにしてもいいでしょう。

練習
頭の中でうまく整理された心的構造物は、当初はスタックの並びを示してくれて、それを
使うことで、一歩先へと踏み出す際の自信と安心感を与えてくれます。とはいえ最初は、スタ
ックを練習する方法や全体を通しての訓練方法、ちょっとした記憶の取っ掛かりから頭を働
かせるための方法についても知りたいと思われるでしょう。これまでに実践者たちから提案

34
された多くのコツがあるのでご紹介します。たとえばフラッシュ・カードは簡単に作れます。こ
れは、使い古しのデックを用意して、カードの裏に太字のペンでスタック・ナンバーを書き込
んだものです。フラッシュ・カードを準備できたらいろいろな練習ができます。すぐに思いつく
課題としては、カードをシャッフルして配り、その中でいくつのカードが言えるかを確認する
(カード自体が何かとそのスタック・ナンバーの両方)という当たり前なものの他にも、様々
な組み合わせを試すことができます。たとえば、裏(スタック・ナンバー側)向きのままシャッ
フルして、どれだけ早く赤と黒に配り分けられるかを試してみましょう。また、表向きにして、い
かに早くスタック・ナンバーの高い低いで分けられるか、という練習もいいでしょう。このよう
に、分類の組み合わせ(スート、奇数のスタック・ナンバー、絵札など)を使った練習なら、な
んだってできます。

もちろん目的は頭の体操ですから、練習のとき、手元に物としてのフラッシュ・カードを置
いておく必要はありません。これはつまり、メモライズド・スタックを暗唱する機会はたくさん
あるということです。言うなれば、心が動いていない『死んでいる』時間や待ち時間、あるい
は私が『Moments to Remember』(思い出すための時間)と呼んでいる、特に何も思考
力を使っていないときなど。シャワーを浴びているとき、電車やタクシーを待っているとき、レ
ジの列に並んでいるとき、芝刈りをしているとき、カクテル・パーティーの退屈な会話や食後
のスピーチを聞いているときなど、いつでもメモライズド・デックを心の中で練習するのです。
逆順で暗唱してもいいですし、クラブ、ハート、スペード、ダイヤの順に暗唱してもいいし、そ
の他のお好きな組み合わせで構いません。

また、多くのマジシャンはコンピューターに精通していますから、スタックに関するクイズや
訓練を行うためのコンピューター・プログラムを簡単に(そして楽しく)作ることができます。
コンピューターは、カードやスタック・ナンバーをランダムに表示することができ、飽きること
がありません。マーク・ハリスはコンピューターで、先ほどのフラッシュ・カードとして機能する、
シンプルで非常に効果的な『Quizzer』を考案しました。これは、各カードとその位置や、『A
Stack to Remember』で説明している様々な記憶法のキー・ワードなど、あらゆることをク
イズにしてくれるものです。マークは私のウェブサイト www. simonaronson.com に
『Quizzer』を掲載することを快諾してくれたので、アロンソン・スタックを憶える場合、ちょっ
とした時間の練習に便利です。ぜひお試しください。

35
前述しましたが、難しいのは『始めること』だけです――すぐに、いまから始めましょう。そ
うすれば、自分でも驚くほどの進歩が得られるはずです。

どのくらいの時間がかかるのでしょうか?
20 年前、私は『Card Ideas』の中で、「自分のスタックを本当に分かっていると自信を
持てるようになるには、1 日 45 分程度の練習を 1 ヶ月ほど続ける必要がある」と書きまし
た。当時の私の経験は、私自身の学習曲線と、私のスタックを習得した友人数名の学習曲
線に基づいていました。そして現在、デックを記憶したことのある何百人もの人々と話をした
今では、私の最初の見積もりは、どちらかというとやや控えめだったと言えるでしょう。1 日
45 分、学習し、練習し、そして記憶のリンクを強化するためのエクササイズに真剣に取り組
めば、2・3 週間で使えるようになるはずです。これまでに報告された最速記録は僅か 3 日
ですが、その人はすべての時間をそれに費やしたそうです(その記憶マラソンの 3 日間、彼
のルームメイトになるのは遠慮したいところです)。要は、努力とバランスが大事で、それが
できれば何も問題ありません。一度、自分のスタックを頭に入れてしまえば、たとえメモライ
ズド・デックのトリックを定期的に演じていなくても、心の『休止時間』があるときに、上述し
た心の中での暗唱をときどき行うことで、記憶が『錆びつく』のを防ぐことができます。

私はこう思うのです。スタックの記憶に成功しない人、それは単にやろうとしていないだけ
である、と。

36
むすびに

37
むすびに

この「はじめに」を締めくくるにあたり、重要な注意点を付け加えたいと思います。私は、
皆さんがご自身の道を切り開くため、メモライズド・デック・マジックの中心となる基本的な
概念、原理、テーマを説明しようとしてきましたが、この理論的な検討には『プレゼンテーシ
ョン』についてがほとんどありませんでした。骨組みだけを紹介することを目的とした「はじ
めに」では、こういった省略は許されるでしょう。しかし、良いメモライズド・デック・マジックが、
単なる『小道具の冒険』や、困難な状況下でカードを見つけるものだけから成るわけでも
ありません。メモライズド・デック・マジックには、他のマジックと同様に、これまでに発掘した
骨組みの上に、面白いプロット、楽しい台詞、サプライズ、カモフラージュなどを肉付けして
いくことが必要です。コンセプトや原理に興味を持って取り組んでいただければ幸いですが、
それらに相応しいプレゼンテーションを行い、観客があなたの演じる奇跡を楽しみ、彼らの
記憶に残る、そんな演出を心がけてください。

38
補足

39
補足 A:メモライズド・デック関連文献

メモライズド・デック・マジックに関する、サイモン・アロンソンの文献を紹介します。(2002
年 5 月時点)

主要な出版物と略号
 KAB:『Kabbala』 (1973 年 4 月号にサイモン・アロンソンの記事あり)
 CI:『The Card Ideas of Simon Aronson』(1978)
 STR:『A Stack to Remember』(1979)
 SB:『Shuffle-bored』(1980)
 AA:『The Aronson Approach』(1990)
 BTP:『Bound to Please』(1994) (アロンソンの初期作品のコンピレーション
版で、KAB, CI, STR, SB その他が含まれています)
 SS:『Simply Simon』(1995)
 TII:『Try the Impossible』(2001)

エッセイ
 General Observations on the Memorized Deck (CI p. 88, BTP p. 84)
 Memorized Math (AA p. 113)
 The Open Index (SS p. 222)

トリック
 “Some People Think” (KAB p. 57, BTP p. 3)
 “Lie Sleuth” (KAB p. 58, BTP p. 5)
 “Group Shuffle” (KAB p. 59, BTP p. 8)
 “Two Card 'No Touch' Location” (CI p. 95, BTP p. 88)
 “Four Stop Intersection” (CI p. 100, BTP p. 92)

40
 “Histed Heisted” (CI p. 104, BTP p. 95)
 “S-D Plus” (CI p. 111, BTP p. 100)
 “Center Cut Location” (CI p. 117, BTP p. 105)
 “Shuffle-bored” (memorized deck applications) (SB p. 14ff, BTP p.
160ff)
 “Bait and Switch” (AA p. 85)
 “Any Card, Then Any Number” (AA p. 93)
 “Four Part Harmony” (AA p. 101)
 “Past-Present-Future” (SS p. 153)
 “Lazy Memory” (SS p. 162)
 “Everybody’s Lazy” (SS p. 167)
 “Two Wrongs Make It Right” (SS p. 173)
 “Taking Advantage of One’s Position” (SS p. 179)
 “Self-Centered” (SS p. 187)
 “Madness in Our Methods” (SS p. 194)
 “Topsy Turvy” (SS p. 203)
 “High Class Location” (SS p. 216)
 “Twice as Hard” (TII p. 46)
 “Two Beginnings” (TII p. 171)
 “The Invisible Card” (TII p. 175)

アロンソン・スタックについて
 『A Stack to Remember』 (BTP には 1994 年の追記を含めて再録)
The Aronson Stack
Features of the Aronson Stack:
Draw Poker Deal
Stud Poker Deal
Ten Card Poker Deal
Poker Routines
Perfect Bridge Hand

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Spelling
Any Poker Hand Called For
Mental Spell Pocket Deck Switch
Small Packet Trick Pocket Deck Switch
Blackjack Demonstration
Memorizing the Aronson Stack
 “Unpacking the Aronson Stack “ (TII の pp. 193 – 266 収録分)
Introduction: Stalking the Stack
Aces Awry (Producing the Aces)
Four on a Match (Producing the Fours)
Jack Coincidence (Producing the Jacks)
The Mind Reading Deck, Part 6 (Producing the Sixes)
The Mind Reading Deck, Part 9 (Producing the Nines)
The Mind Reading Deck, Part 7 (Producing the Sevens)
Two by Four (Producing the Twos)
Fit Four a King (Producing the Kings)
Joshing With The Threes (Producing the Threes)
Routine Maintenance (Poker Deal Restoration)
Truth-Sayer (Four Lie Detector sequences)
Deal and Duck Poker Reciprocal Spell Pairs
Threespell (using UnDo Influence)
Built for Two (using UnDo Influence)
Triple Trick Tip
Sequence Spells
 “The Aronson Stack Makes Good”(『MAGIC magazine』, April 2002,
p. 79)

そ の 他 、 ア ロ ン ソ ン ・ ス タ ッ ク に 特 化 し た 現 象 が 、 www.simonaronson.com の
「Aronson Stack Page」に掲載されています。

42
補足 B:アロンソン・スタック
表1

アロンソン・スタック(番号順)
1 - JS 14 - KD 27 - 5D 40 - 3C
2 - KC 15 - 7D 28 - 7C 41 - 2S
3 - 5C 16 - 8C 29 - 4H 42 - 9H
4 - 2H 17 - 3S 30 - KH 43 - KS
5 - 9S 18 - AD 31 - 4D 44 - 6S
6 - AS 19 - 7S 32 - 10D 45 - 4C
7 - 3H 20 - 5S 33 - JC 46 - 8H
8 - 6C 21 - QD 34 - JH 47 - 9C
9 - 8D 22 - AH 35 - 10C 48 - QS
10 - AC 23 - 8S 36 - JD 49 - 6D
11 - 10S 24 - 3D 37 - 4S 50 - QC
12 - 5H 25 - 7H 38 - 10H 51 - 2C
13 - 2D 26 - QH 39 - 6H 52 - 9D

デックをアロンソン・スタック順に並べて表向きでリボン・スプレッドしてみると、よくシャッ
フルされたランダムな並びのデックのように見え、特定のバリュー、スート、色がかたまりにな
っているように見えることはありません。以下の表 2 は、同じアロンソン・スタックを、今度はカ
ードのスートとバリューから表したものですが、やはり特定の数字順ではないことが分かり
ます。

43
表2

アロンソン・スタック(カード順)
AC - 10 AH - 22 AS - 6 AD - 18
2C - 51 2H - 4 2S - 41 2D - 13
3C - 40 3H - 7 3S - 17 3D - 24
4C - 45 4H - 29 4S - 37 4D - 31
5C - 3 5H - 12 5S - 20 5D - 27
6C - 8 6H - 39 6S - 44 6D - 49
7C - 28 7H - 25 7S - 19 7D - 15
8C - 16 8H - 46 8S - 23 8D - 9
9C - 47 9H - 42 9S - 5 9D - 52
10C - 35 10H - 38 10S - 11 10D - 32
JC - 33 JH - 34 JS - 1 JD - 36
QC - 50 QH - 26 QS - 48 QD - 21
KC - 2 KH - 30 KS - 43 KD - 14

サイモンの著書: サイモンの販売商品:
『Bound to Please』 『Red See Passover』
『The Aronson Approach』 『Ad-jacent』
『Simply Simon』 『Aronson’s Aces』
『Try the Impossible』 『Side-Swiped』

サイモンのウェブサイト(www.simonaronson.com)をご覧ください。サイトは定期的に
更新され、アロンソン・スタックを使った最新の現象や、その他のサイモンのマジック作品が
掲載されています。

44
2009 Bonus

“Shuffle Tracking”

45
2009 年ボーナス

“Shuffle Tracking”
by サイモン・アロンソン

デック・スイッチはメモライズド・デックを使う上で重要なツールです。ということは、トリ
ックそれ自体がきわめて強力で面白いだけでなく、メモライズド・スタックを密かに導入し
て次なるトリックに使えるようにすることもできる――そんなトリックがあったら効率的です
ね(ちなみに、『The Aronson Approach』に載っている“Bait and Switch”、および
『Try the Impossible』に載っている“Decipher”は、私のお気に入りのトリックです)。

“Shuffle Tracking”はこの条件を見事にクリアしています。秘密の『ギャンブルのス
キル』を説明している風なので、興味をそそる、いかにももっともらしい取っ掛かりがあり、
洗練されたカード・テクニシャンであるとの評価を得ることができるかもしれません。また、
デックがよくシャッフルされていることもさりげなく強調しています。

必要なテクニック
良いグリンプスが要ります。スティーブ・ドラウンの『ファン・グリンプス』 7 (Kaufman,
『Secrets Draun from Underground』, 1993, p.31)は、この現象に理想的な技法だ
と思います(実際、カード・マジックの中でももっとも便利でもっとも欺瞞的なムーブのひと
つです)。とはいうものの、自由に選ばれたカードが何かを密かに知ることができるグリンプ
スであれば、どんなものでもこの現象に使うことができます。

あるいは、良いグリンプスを知らなくても、同じ効果を得るための別の方法もあります(コ
メント 3 参照)。

7
訳注:日本語で読める資料として、『The Peek Book』(Nathan Kranzo 著, 富山達也
訳, 小石川文庫, 2021, p. 32)や、『ジョン・バノン カードマジック -Dear Mr.
Fantasy-』(ジョン・バノン著, 富山達也訳, 東京堂出版, 2013, p. 44)があります。
46
準備
“Shuffle Tracking”はカードのルーティーンの中で、いつでも行うことができます。唯
一必要なのは、それまでに使っているのと同じデザインで、メモライズド・オーダーにしたデッ
クをルーズな状態で(つまり、カード・ケースから出した状態で)、かつボトム・カードが体に
近い側に来るようにポケットに入れておくことだけです。ボトム・カードの側に仕切りをセット
しておくと便利だと思います(厚紙でも良いですし、窮地の際はクシでも良いでしょう)。ル
ーティーンの最中、通常のデックをこのポケットに入れることになりますが、仕切りがあること
で、2 つのデックを分けておくことができます。

私の台本・台詞を手順に沿って紹介します。

手順
① 観客のジニーにデックをシャッフルしてもらいます。「ギャンブラーとマジシャンの大きな
違いは、ギャンブラーはチャンスを逃さないことです。マジシャンは、毎回トリックを成功
させたいと思っていますが、ギャンブラーは確率で勝負します。ギャンブラーのスキルと
いうのは、絶対に勝てるというわけではないのですが、勝率を上げることができるので
す。お見せしましょう」

② デックを返してもらいます。「1 枚だけをターゲットにしてみましょう。こうやってカードを
見せていきます。色々なカードがあるのが分かりますね?……では送っていきますので、
ストップと言ってください。そのカードを憶えておいてください」カードを自由にピークし
て憶えてもらいますが、選ばれたカードの下に密かにブレイクを取ります。そうしたら、す
ぐに観客を見ながらプレッシャー・ファンをしますが、ここでドラウンの『ファン・グリンプ
ス』を行って、選ばれたカードをグリンプスします。これですべての『仕事』は済みました。
あとは演出です。

ひとつ注意しておきたいことがあります。通常、カードを『ピークしてもらう』ときには、演
者である自分は『何も見えない』ように顔を背けるようにしています。しかし、ここでは
顔を背けません。その理由は、このあとの台詞で説明します。

47
③ 「ギャンブラーはあなたのカードについて何も分からないと思うかもしれませんが、それ
は違うのです。確かにギャンブラーはあなたのカードが何であるかは知りませんが、デ
ックの中でのおおよその位置を、時にはきわめて正確な位置を、推測することができま
す。そしてその推測は、彼を優位に立たせるのに充分です。私はまだ、あなたのカードの
だいたいの位置は把握しています」ジニーの前にデックを置き、その長辺が自分に向く
ようにします。

「もう一歩踏み込んでみましょう。2 つ目のスキルは、シャッフルのときにカードの行方を
追う『シャッフル・トラッキング』と呼ばれるものです。私はまだ初心者ですけどね。デッ
クを半分にカットして、それから 1 回だけリフル・シャッフルしてください。デックの側面を
監視させてもらいます」ジニーにデックをリフル・シャッフルしてもらい、その際、デックの
側面に目を凝らします。「そして、私が見ている前で、1 回カットをしてください」と言い
ますが、ここでもデックに集中しているふりをします。「これで可能性を狭い範囲に絞り
込むことができました。厳密ではありませんが、完全にランダムでもない」

④ 「最初の 2 つのスキルは視覚的なものでした。3 つ目のスキルは触知能力、つまり触


覚のことです。デックを常に見つめているわけにもいきませんので、ギャンブラーはカー
ドを見ず、指の感度を高めていくのです」そう言ってデックを取り、ポケットの仕切りの
手前側に入れます。

ここからが本番です。見たところ、あなたはこれからジニーの選んだカードを、触覚を頼
りに見つけようとしています。要するに、ポケットからカードを何枚かまとめて取り出して
いき、『ターゲット』となる観客のカードを絞り込もうとしていきます。実際には、メモライ
ズド・デックの一番上から小グループ(一度に 10 枚程度)を取り出していくだけです。
各グループを取り出す際には、カードをファンに広げて持ち、フェイス面をジニーに向け
て、彼女から各カードが見えるようにします(つまり、演者からはフェイス面は見えませ
ん)。あなたは、シャッフル・トラッキング能力と推測力を頼りに、各回のグループにター
ゲットが含まれていないことを判断していきます。各グループで、彼女が自分のカード
が入っていないことを確認したら、あなたは、そのグループを表向きで、カジュアルに広
がった状態になるようにテーブルに落とします。あるタイミングで、あなたは躊躇いなが

48
らポケットから 1 枚のカードを裏向きで取り出し、テーブル上のスプレッドに裏向きのま
ま置きます。そして、あとはこれまでと同じく、パケットを取り出し、表向きでテーブルのス
プレッド上に放り……と、デックがなくなるまで続けます。ジニーはここまでターゲット・
カードを見ていないので、サスペンスと伏線で盛り上がります。

もちろん、あなたは観客のカードをすでに知っているので、メモライズド・デックのどこに
あるか正確に分かっています。そのため、特定の 1 枚を裏向きのまま取り出すタイミン
グを正確に把握し、その通りに行動することができるのです。

⑤ 具体的な例で見ていきましょう。あなたが密かにグリンプスしたカードが、たとえばハー
トの K(アロンソン・スタックで言えばスタック・ナンバー#30)だったとします。この例で
は、メモライズド・デックのトップからカードの束を素早く手に取り、ポケットからフェイス
面を観客に向けた状態で取り出し、「ギャンブラーは確率で勝負します」などと言いま
す。「もし、あなたのカードのおおよその位置が正しければ、最初の一束は簡単です。見
てください。あなたのカードが何かは言わないで、確認してもらえますか?あなたのカー
ドはこのグループにはありませんね?」ジニーが全部を見られるようにカードをファンに
して、彼女が真剣に見るのを待ちます。私はこれを、あたかも絞り込もうとする試みが
『本気』であるかのように演じます。彼女が「ない」と確認したら、初めてこのファンを表
向きにして、広げたままテーブルに落とします。

⑥ テーブルに並べられたグループのフェイス・カードは、自分のスタックの位置を正確に
教えてくれるので、数えたり計算したりする必要は(まだ)ありません。たとえば、フェイ
ス・カードがスタック・ナンバー#11 だったとしましょう。#30 に到達するまでには、まだ
充分な余裕があるということです。続けて、もう一束、おそらく十数枚のカードをスタック
の一番上から取り出します。その際、フェイス面は観客のほうに向けて、「ここにもない
はずです。確認してください、ここにはないですよね?」と言い、彼女が確認したら、その
ファンにしたカードを表向きでテーブルのスプレッド上に放り、テーブルに粗く揃った山
を作っていきます。このグループのフェイス・カードがたまたまスタック・ナンバー#23 だ
ったとします。

⑦ いま、あなたは#30 に近づいていることを知っています。ということで、ここで簡単な

49
(唯一の)計算をして、次の取り出すグループを何枚にしたらいいかを決めます(30-
23-1=6 ということで 6 枚です)。そこで、ポケットに手を入れて 6 枚のカードを数え
て、次なる一束として出します。台詞がここの迷いを隠してくれている(実際、そう示唆し
ています)ので、数えることは急がないで大丈夫です。「あなたのシャッフルをきちんと
追えていれば、私は近づきつつあると思います。でも、この中のどれかではないと思う
んですよね」この 6 枚のカードのフェイス面をジニーに見せ、ジニーが「この中にもあり
ません」と確認したら、再び表向きで、伸びてきた表向きのスプレッドの上に放ります。
ここで視覚的な確認ができます。正しくできていれば、スタック・ナンバー#29(ターゲ
ットの直前のスタック・ナンバー)のフェイスが見えるはずです。

⑧ 次の 1 枚を表を見せずに取り出し、「これはよく分からないですね」と言いながらスプ
レッドに裏向きのまま放ります(もちろん、これが選ばれたカードです)。

⑨ 続けて残りのデックからさらにパケットを取り出しては、ジニーに見せ、表向きのままス
プレッドに載せていきます。最終的に、51 枚の表向きのカードの中に 1 枚裏向きのカ
ードがある、少し粗めのスプレッドができました。これで、レベレーションの舞台は整いま
した。

私が好きなのは以下のような見せ方です。スプレッドの数カ所でカードをなぞりながら、
何かを確認するようにチラッと見て、「最後のギャンブラーのスキルは記憶力の良さで
す。もし私が正しければ、これまでにキングを 3 枚しか見ていません。ということは、この
最後のカードはキングのはずです」のようなことを言います。そして、裏向きのカードを
スプレッドから抜き出し、自分だけに見えるようにします。「ハートのキングを選んだので
はないですか?」カードをひっくり返し、強烈なクライマックスです。

選ばれたカードをさりげなくデックの元の位置に戻せば、デックはさらなる奇跡のため
のメモライズド・デックの状態になりました。

50
コメント

1. クレジット
“Shuffle Tracking”は、マーティン・ナッシュのオブザベーション・アクトのデック・スイッ
チに着想を得ました(A-1 Multimedia 社の彼のビデオ・テープ/DVD を参照)。実際、
私の主たる貢献は、マーティン・ナッシュのトリックをメモライズド・デックに適応させただけの
ことです。マーティンは、コールド・デックのトップ・カードをフォースしていましたが、メモライ
ズド・デックを使えば、自由に選ばれたカードで同じ現象を演じ、デック・スイッチを実現する
ことができます。観客にカードをピークさせる演出なら、明らかに未知のカードを使ったプレ
ゼンテーションが可能なのです。ランブ ラーの“Cards from Pocket Stop Trick”
(Tamariz, 『 Mnemonica 』 , p. 147) や 、 ロ ー リ ー ・ ア イ ア ラ ン ド の “ Producing
Selected Card at Any Number At the Same Time Cold Packing “ (『Ireland
Writes A Book』, p. 19)と手続きの類似性はありますが、演出は似ていません。

2. 位置の変更
選ばれたカードがあなたの記憶した順序のどこに位置するかによって、それを裏向きで
ポケットから取り出すのが早くなるか遅くなるかが決まります。確かに、そのカードがスタック
のトップに近い位置にある場合は、最初の一束に入っているかもしれません。もちろん、この
ような事態になっても対処可能です。そのカードの正確な位置は分かっているので、トップ
からの段階で早速カードを数え始めればいいだけです。

しかし、演出上および見え方の綺麗さの理由から、裏向きの選ばれたカードを出すのは
あまり早い段階ではないほうが良いと思います。こうするためには、メモライズド・デックを
『心の中でカット』して、選ばれたカードをおおよそ望む位置に再配置すればよいのです。ポ
ケットの中で実際にデックをカットする必要はありません。

私のやり方を紹介しましょう。対象となるカードが、たとえばスタックの上から 15 枚ほど
の中にある場合、スタックの一番上から一束取り出すのではなく、スタックの一番下から 10
数枚を取り出すことから始めます。そして、また戻って一番上の束を取り出し、そこから先に

51
進みます。何も正確にする必要はありません。選ばれたカードに『近づけば』、常にスタック
があなたに知らせてくれるからです。簡単な実験でとても簡単であることが分かるでしょう。
つまり、最初の一束をデックのフェイス側から取り出すことは、すべてのカードが 10 数枚下
に移動する、ということです。もちろんクライマックスでも、デックの循環的な順序は崩れてい
ません。

3. 代わりの方法
観客が選んだカードが何かをマジシャンが密かに知ることができるのであれば、どのよう
な方法でも“Shuffle Tracking”の演出に適用できます。つまり、ナッシュがカードをフォー
スする方法を、スタックのトップ・カードという制約なしで使うことができるのです。これにより、
スプレッド内の最適な位置にフォースしたいカードを持ってくることができるようになります
(上記コメント 2 参照)。

理論的には、選ばれたカードが何かを密かに知る簡単なロケーション・トリックやコントロ
ールを演じることもできます。ただ、選ばれたカードが何なのか分かったことをそのまま現象
にしたりはせず、代わりにシャッフル・トラッキングで使った台詞で進めていくといいでしょう。

また以下のような極端な提案もできます。理論的には、グリンプスやフォース、コントロー
ル等、『秘密』の方法を一切使わないことも可能なのです!たとえば、シャッフル・トラッキン
グの話をして、観客に任意のカードを抜き出してもらい、それをみんな(あなたも含めて!)に
見せてもらいます。そのカードがターゲット・カードであることを説明し、あなたが注意深く見
つめる中、観客にテーブルに置かれたデックのどこかにカードを戻してもらいます。その後、
先述の説明通りに進めていき、シャッフルとカットを通じてターゲット・カードの行方を追うよ
うにします。そして、これまた書いてある通りに進めれば、カードを見つけることができ、しか
もデック・スイッチも達成できるのです(もちろん、最後に書いた『ギャンブラーは記憶力が
いい』云々という台詞はここでは使えません)。

しかし、何をするにしても同じですが、基本的なプロットがとっ散らからないよう、手続きは
できるだけシンプルであるべきだと強く思っています。ということで、グリンプスを使うのが私
の好みです。マーローのブック・ブレイク・グリンプスや、デイビッド・ウィリアムソンの手から手

52
へカードをスプリングしながらのグリンプス、タマリッツのデック中央からのグリンプス等も、
余計な手続きを増やさない瞬間的なグリンプス手法です。

4. 他のレベレーション方法
いろいろなレベレーション方法を試してみてはいかがでしょうか。たとえば、ポケットからカ
ードを取り出す際に異なるタイミングで 2〜3 回、1 枚の裏向きのカードをあたかもどれが
選ばれたカードか分からないよう、躊躇しながら取り出しておくと説得力があります(「先ほ
どのあのカットでちょっと混乱しました。これかもしれない……いや、(さらに数束のあと)こ
れかもしれないです」そして、最終的に 1 枚のカードに絞り込んで、レベレーションとするこ
とができます。ここで注意です。たとえば、裏向きのカードを 4 枚出して、「確信が持てなか
ったので、リスクヘッジをしてみたんですが――4 枚ともキングでした!」などとやる誘惑に
負けてはいけません。もちろん、このようなことをするのは簡単です(すべてのカードの位置
を知っているのですから)。ですがそれは単にやり過ぎと言うだけではなく、デック・スイッチ
を明かしてしまうようなものです。過ぎたるは猶及ばざるが如し。

また、ポケットの中から選ばれたカードを取り出す際、それをデックの最後まで我慢すると
いうのも試してみました。選ばれたカードまで来たら、それをデックの残りと直交するように
向きだけ変えてポケットに残したまま、さらに一束ずつ取り出していきます。最後に、ラスト 2
枚のカード(選ばれたカードとラストの X カード)を取り出し、観客のほうに裏面を向けて、
「確証はありませんが、きっとこのどちらかでしょう」と言います。そして、X カードのほうを表
向きにしてテーブルにそっと放り、最後の 1 枚に絞るのです。

―了―

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日本語版参考資料紹介

メモライズド・デック(スタック)について、主に日本語で解説されているものをご紹介いた
します。検索すればたどり着けるものですが念のため挙げておきます。

書籍:
 『Art Deco』(Simon Aronson, 2014)
いきなり英語の本ですが、本書の作者であるサイモンの主要 5 冊の最後の 1 冊で
す。この小冊子の Bonus“Shuffle Tracking”含め、メモライズド・デックのトリックに
関する一章が設けられています。
 『In Order To Amaze』(Pit Hartling 著, 富山達也訳, 小石川文庫, 2020)
ドイツのマジシャン、ピット・ハートリングによるメモライズド・デックを使った作品集で
す。難度高めですが、ご本人の演技は軽快で楽しく震えるほど不思議で、彼のレパート
リーを収録した本書もメモライズド・デックを用いたマジックのマスターピース揃いです。
作品はほとんどスタック・インディペンデントであり、壮大なタイプの作品は、アロンソン
でもタマリッツのでもできるように解説されている素敵仕様。序文はピットがメモライズ
ド・スタックを使うきっかけとなった、尊敬するマジシャン、そう、サイモン・アロンソンが寄
せている胸熱展開です。なお豆知識ですが、アロンソンはタマリッツの『Mnemonica』
英語版の序文も書いています。
 『ネモニカ学習帳』(富山達也, 小石川文庫, 2019)
日本語版『ア・スタック・トゥ・リメンバー』の語呂合わせでアロンソン・スタックを憶え
た著者が、ネモニカでも語呂合わせで憶えたいということで探したものの、市販されて
いるものが見つからなかったので、自分で作った一品。なお自分で作っただけあって、
3 時間で一通りさらえるようになりました。あとダジャレを公表するのが思ったより恥ず
かしかったです。
 『タマリッツ漫画事典(メモライズドデック暗記法)』
こちらもタマリッツ・スタックの暗記法。各カードとスタック・ナンバーの組み合わせを
52 種の絵のイメージで憶えるものです。

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映像:
 『ネモニカ・ミラクルズ』(ホァン・タマリッツ, リアライズ・ユア・マジック, 2015)
本書でもその名が出てきたメモライズド・スタック使いの雄、スペインのホァン・タマリ
ッツによる、タマリッツ・スタック(ネモニカ)に関する 3 枚組 DVD。その日本語字幕付
き版です。とても分かりやすいです。
 『マジック・フロム・マイ・ハート』(ホァン・タマリッツ, リアライズ・ユア・マジック, 2019)
ネモニカの発展的な新システムが解説されています。こちらも『ネモニカ・ミラクルズ』
と同じく、元の商品は DVD5 枚組ですが、日本語版は 2 層 DVD で 3 枚組にギュッと
凝縮されてしかも字幕付きでグッドです。
 『Sessions With Simon: The Impossible Magic Of Simon Aronson - Volume
3 (Memorized Deck)』
これは英語ですが、サイモンの作品集の中で特にメモライズド・デックの作品に焦点
を当てた巻です。解説の冒頭は『メモライズド・デックとは』といったところからですので、
本書の内容も多く含まれています。いつかスクリプト・マヌーヴァさんの日本語訳付き
版が出ると良いのですが。

アプリ:
Android や iPhone のアプリで、メモライズド・スタックの練習ができるものも安価で頒
布されています(無料のものもあります)。カードからスタック・ナンバー、その逆(いずれも順
番通り、逆順、ランダム)、スタック・ナンバーのハイかローかで分ける、フォー・オブ・ア・カイ
ンドのスタック・ナンバーを問われる、等の機能が備わっていることが多いです。また、アロン
ソン・スタックだけではなく、タマリッツ・スタックやその他複数のメモライズド・スタックの並び
に対応しているものも多いように思います。本稿の筆者は『全部憶えてからアプリを買う』と
いうちょっと変な順序で入ってしまいましたが、暇つぶしがてら練習にもなりますので良いか
と思います。

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