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ア ニ リン製 造技 術 の進 歩 に つ いて
上 仲 博*
Hiroshi KAMINAKA*
The first commercial manufacturing process of aniline was developed by Bechamp and Perkin based on the
reduction of nitrobenzene under the presence of iron powder and acid in the 1850's.
Generally speaking, we may well say that what sort of manufactuning processes are employed at a certain
era depends on various factors such as market size of the product which influences the scale of the produc-
tion facilities, the availability of raw materials, equipment and the control system at such time.
In the field of aniline production technology, the amination process of chlorobenzene was developed in
the 1930's which was followed by the invention of the catalytic hydrogenation of nitrobenzene in 1950's
after world war II.
The latter is an innovative technology and was applied to a number of commercial plants in the form of
various reaction technologies such as vapour phase, liquid phase, fixed catalyst-bed, fluidized catalyst-bed.
In the 1960's, the amination process of phenol was invented and the first commercial plant in the world
based on such process was built in Japan.
However, it appears that for the manufacture of aniline, born old and new processes are utilized in the
world today as is evidenced by the fact that all the above mentioned processes except the amination process
of chlorobenzene are still used. The basic reason for this phenomenon is that each process has its own
advantages either in raw material supply sources or reaction conditions or utilization of by-products and all
of them can be competitive in one way or another with respect to the yields, product quality, etc.
Thus, aniline manufactures today can choose, out of the three processes, the most advantageous process
which suit best their local conditions such as available raw material sources and product quality requirements
and marketing capability.
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(67) アニ リン製造技術の進歩 について 759
く販 売 して い る。
3. ア ニ リ ン製造 技 術 本 法 は一 般 に特 殊 鋼撹 伴器,耐 酸 レン ガ張 り容 器 中 で
実 施 され る。 この 容 器 ヘ ニ トロベ ン ゼ ン,塩 酸,鉄 粉
ア ニ リンの 製 造 法 に つ い て は,古 くか ら多 数 の方 法 が
(鋳鉄 旋 盤 くず な ど)を 投 入 す る。 反 応熱 を利 用 して昇
知 られ て い るが,工 業 的 製 造 法 に 関 して は 下記 の6種 に
温 せ しめ,還 流 状 態 で反 応 を進 め る。5な い し8時 間 で
大 別 す る こ とが で き る 。
反応 は 完 了す る 。 な お,こ の反 応 は 液 ・固 相 反 応 で あ る
① ニ トロベ ンぜ ンの 鉄 粉 還 元 法
た め 混 合状 態 が反 応 に重 要 な影 響 を与 え る し,ま た 鉄 粉
② ニ トロベ ンゼ ンの 接 触 還 元 法
の粒 度 や 多 孔性 の影 響 も大 きい 。
i) 気相固定床方式
反 応 終 了 後 静 置 して ア ニ リン層 を分 離 し,中 和 後 精 溜
ii) 気 相 流 動 層 方 式
に よ って 精 製 す る。一 方,鉄 泥 は水 蒸 気 蒸 溜 に よ って 付
iii) 液 相 方 式
着 ア ニ リンが 除 去 され た後,洗 浄,乾 燥,蝦 焼 に よ って
③ ク ロル ベ ン ゼ ン の ア ミノ化 法
顔 料 に調 整 され る。 な お,顔 料 の色 合 い,濃 度 を決 定 す
④ フ ェ ノール の ア ミノ化 法
る た め還 元 反 応 へ 塩 化 ア ル ミ,リ ン酸,硫 酸 の添 加,あ
以 下 に 各方 法 に つ い て説 明 を加 え る こ ととす る。
るい は鉄 粉 粒 度 の調 整 が 行 わ れ る。
3.1. 鉄粉還元法 約120年 前 Bechamp, Perkin
し か し,こ の反 応 で は酸 性 で鉄 粉 を使 用 す るた め,反
に よ って 見 出 され た この方 法 が今 な お ア ニ リン の工 業 的
応 装 置 の物 理 的,化 学 的 損 傷 が 激 し く,製 造 費 用 中 に し
製 造 法 の一 つ と して そ の 生 命 を保 っ て い る 。 そ の理 由 は
め る補 修 費 の割 合 が大 きい 。 また,大 量 の 鉄 粉 を取 扱 う
入 手 お よび 取 扱 い の 容 易 な原 料 を利 用 し,ま た通 常 よ く
た め,そ の粉 砕,輸 送 にか な りの 設 備 を必 要 と し,さ ら
使 用 され る装 置 を用い て95ない98%の 高 い 収率 で ア ニ
に,反 応 の連 続 化 が 困難 で あ る問 題 点 を有 して い る。 加
リン を製 造 し うるか らで あ る。
え て,鉄 系 顔料 の需 要 量 に も限 度 が あ り,こ れ らの 問 題
こ の反 応 の機 構 は複 雑 で,種 々 の説 が 提 出 され て い る
点 が 増大 す るア ニ リン需 要 量 の全 て を鉄 粉 還 元 法 で まか
が,結 局,塩 酸 を使 用 し た場 合 〔1〕式 に示 す 反 応 で 生じ
な うこ と を大 き く制 約 して い る の で あ る。
た第 一 塩 化 鉄 が 〔2〕,〔3〕
式 に示 す よ う な 触 媒 的 作 用 を
3。2. 接 触 還 元 法 前 述 した ご と く,鉄 粉 還 元 法 の
示 して 反 応 を進 め て い く もの と考 え られ,塩 酸 必 要 量 は
本 来 有 して い る制約 が 増大 す る ア ニ リン需 要 に対 処 す る
〔1〕式 で 示 され る必 要 量 の3%以 下 で充 分 反 応 は進 行 す
こ と を困 難 に して い た が,こ れ らの 問題 に対 処 す べ く,
る。
ニ トロベ ンゼ ン を触 媒 の 存 在 下水 素 で還 元 す るい わ ゆ る
(ニ ト繋ベ ンゼ ン)
接 触 還 元 法 の開 発 が進 め られ た 。 接 触 還 元 法 に よる ア ニ
〔1〕 リン の合 成 は古 く1871年Saytzeffに よ って 実 施 され た
(ア ニ ジ ン) が,第 二 次大 戦後 急 激 に成 長 した 石 油 化 学 か ら,ま た 急
激 に成 長 す る塩化 ビニ ー ル と とも に拡 大 す る電 解 工 業 か
(2〕 ら安 価,大 量 に入 手 し うる水 素 が ニ トロベ ン ゼ ン の触 媒
存 在 下 での 接 触 還元 反応 の 工 業 化 を 可 能 に し た の で あ
〔3〕 る。
総 括 す れ ば 〔4〕式 に示 され る量 的 関 係 と な り,ニ トロ こ の反 応 は 〔5〕式 の ご と くあ らわ され,こ の 反応 を 実
基1モ ル に対 し,鉄2.25原 子 が 必 要 で あ り,ア ニ リン 施 す る に 当 り,ア ニ リン1モ ル 当 り130Kca1も の大 き
の ほ ぼ2倍 量 の 四三 酸 化 鉄 が副 生 す る。 〔5〕
ΔH=130 kcal/mole
(4〕 な発 熱 が あ り,こ の発 熱 をい か に除 去 して 有 効 利 用 す る
こ の副 生 物 か ら赤,黄,黒 色 の 鉄 系 顔料 を製 造 す る こ か,さ らに は触 媒 の調 整 な どに よ り核 還 元 反 応 な どの 副
とが可 能 で あ り,顔 料 に 関 しそ の 製 造 技術 と販 売 ル ー ト 反応 を い か に防 止 す るか につ い て 各 社 が そ れ ぞれ 独 特 の
れ が ま た本 法 が長 い生 命 を有 す る も う一 つ の 理 由 と して 3.2.1. 気相固定床方式 固定 さ れ た触 媒 層 を ガ ス状
あ げ う るの で あ る 。 現 にBayerは ア ニ リン の 一 部 を本 の ニ トロベ ンゼ ン と水 素 を通 過 せ しめ て 反応 さ せ る こ の
Chemicalに よ って 初 めて 工 業 化 され た7)。触 媒 は ア ル い る。
ミナ を担 体 と し,こ れ に ニ ッケ ル化 合 物 を沈 着 させ た 後 ま た,こ の 方 式 で は 触媒 活 性 が 失 なわ れ る と触 媒 入換
350ない し500℃ で硫 化 水 素,あ るい は二 硫 化 炭 素 と反 え の た め装 置 の 運 転 を休 止 させ ね ば な らな い 。 な お,こ
応 させ,硫 化 ニ ッケ ル に変 え て触 媒 として い る。 この 触 れ に対 し水 素 に炭 酸 ガ ス を 混 入 させ る と触 媒 寿 命 の 延 長
媒 上 を300な い し475℃ で水 素 とニ トロベ ンゼ ン蒸 気 を が 可 能 とい わ れ て い る9)。
通 過 させ て,ア ニ リンに変 化 さ せ る 。触 媒 活 性 が 低 下 す 本 反 応 は前 述 の ご と く,か な りの 発 熱 を伴 うが,反 応
る と反 応 温 度 を上 昇 せ しめ る 演,475℃ 付 近 に達 し た場 熱 を た くみ に回 収 す れ ば 反 応 装 置 各 部 の保 温 は お ろ か ア
合 反 応 を停 止 し,250℃ 付 近 で 空 気 を 吹込 み,つ い で水 ニ リン精 溜 の た め の熱 量 の 全 て を ま か な う と と もに他 工
に加 熱 して活 性 化 した触 媒 を用 い る。 こ の 触 媒 は表 面 積
ご
200m2/9,細 孔容 積0.25cm3/9,平 均 細 孔 直 径20A以
混 合 して 反応 器 下部 よ り多 孔 板 を通 して 吹 込 み 触 媒 を流
動 させ る 。反 応 は250な い し300℃ で実 施 され るが,触
Fig. 1 Lonza Process8) 媒 層 に冷 却 管 を設 置 して反 応 熱 を除 去 す るが,流 動 層 で
Vapour Phase Hydrogenation of Nitrobenzene
あ るた め 反応 温 度 は数 ℃ の範 囲内 に保 持 され 局 部 的 な過
with Fixed Bed Cataylst
熱 の 生 じる こ とは な い 。 こ の結 果,ア ニ リン収 率 は99.
で あ る8)。 触 媒 と して は軽 石 上 に銅 を付 着 し
た もの を 使用 してい る。 水 素 中 に ニ トロベ ン
ゼ ンを 噴霧 し,さ らに未 反 応 循 還 水 素 と混 合
して ニ トロベ ン ゼ ン対 水 素 のモ ル 比 を1:2.5
な い し1:6の 範 囲 に保 持 しつ つ 反 応 を実 施
す るこ とに よっ て反 応 器 の均 一 な加 熱 が 可 能
と な り触 媒活 性 を 長期 間保 持 す る こ とが 可 能
に な った 。 反 応生 成 物 は未 反 応 水 素 と熱 交 換
して冷 却 し,凝 縮 生 成 した ア ニ リン水 を分 液
して え られ た 粗 ア ニ リン を精 溜 にか け,ま ず
Fig. 2 ACC Process",")
脱 水 した 後 精 製 して製 品 とし てい る。
Vapour Phase Hydrogenation of Nitrobenzene with
気 相 固定 床方 式 で の ア ニ リン 収 率 は99% Fluidized Bed Catalyst
を う る。 こ の 触 媒 の寿 命 は 長 くニ トロベ ン ゼ ン 中 の チオ で あ り,気 相 法 と併 立 し う る興 味 あ る 方法 とい い うる 。
フエ ン 含 有 量 が10ppm以 下 の も の を 用 い る と,触 媒 3.3. ク ロル ベ ンゼ ンの ア ミノ化 法 〔6〕式 に示 す ク
Lg当 りア ニ リ ン1500gの 製 造 が可 能 とい われ て い る。 ロル ベ ンゼ ン と ア ンモ ニ ア との 反応 に よる ア ニ リン の製
しか し,長 期 間 使 用 に よっ て活 性 が低 下 し た場 合 に は ニ 造 は ア ンモ ニ ア合 成,食 塩 電 解 工業 が よ うや く本 格 化 す
トロベ ンゼ ンの 供給 を止 め,つい で250な い し350℃ に る1930年 前 後 よ り,現 在 世 界 最大 の塩 素 メ ー カ ー の一
気の 混 合 物,つ い で 空 気 の み を 吹込 ん で触 媒 の再 生 を行 〔6)
クロ ル ペ ンゼ ン ア ニ ジン
う。
BASF8)で もシ リカ 上 に 銅15%,ク ロ ム0.3%,バ タ ー ビ ン撹 梓 翼 をつ け た オ ー トク レー プ 中,200な い
実施 す る例 も知 られ て い る。 られ て い る 。
チル シ ク ロヘ キセ ンを 共 存 させ パ ラジ ウム触 媒 の 存 在 的 に み て も割 高 な電 力 料 金 に苦 しん で い る こ と を考 え る
低い た めス チー ム と して有 効 に熱 回収 す る に は反 応 温 度 って よい で あ ろ う。
3.4. フ ェ ノー ル の ア ミ ノ化 法 〔7)式 に示す フェノ
が低 く く,む しろ 反応 熱 除 去 の た め冷 凍 機 を使 用 し な け
ー ル の ア ミ ノ 化 反 応 はHalconに よ っ て1962年 に開発
れば な らず,ま た,加 圧 反応 で は設 備 費 の上 昇 と,加 圧
用動力 費 が必 要 とな り,さ らに は ア ニ リン と溶 媒 とを 分 さ れ た20,21)。
離す るた め の費 用 な ど工 業 的 製 法 として は気 相 方 式 に比 〔7〕
縮分液 させ た後 水 層 を反 応 系 外 に除 去 せ しめ な が ら反 応 この 方 法 の 問 題 点 は 触 媒 活性 低 下 が生 じや す く,工 業
を進 め てい る 。使 用 触 媒 は安 価 な ニ ッケ ル ・ケ イ ソ ウ土 化 当 初100時 間 毎 にア ニ リ ン,ア ン モ ニ ア の 供 給 を止
工 業 的 製 造 法 として,反 応 熱 回 収 利 用 に や や難 点 が あ 共 存 せ しめ る方 法23),ア ル ミナ ・シ リカ に マ グ ネ シ ヤ,
るもの の特 別 復 雑 な装 置 を必 要 とせ ず,反 応 条 件 も緩和 あ るい は ボ リヤ を加 え た 触 媒24),ア ル ミナ 含有 率33な
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を お よ ぼ し なが ら,よ り経 済 的 な 方 法 を め ざ
して,ア ニ リン製 造 法 が 変 遷 して い った の で
あ る。
しか し,ア ニ リ ンに お い て は,新 製 造 法 が
掴法 を完 全 に駆 逐 す る例 が 余 りみ られ な い 。
一般 に化 学 工i業に お け る製 造 法発 展 の歴 史 を
大 を基 礎 に ニ トロベ ンゼ ン の水 素 還 元 法 の 工 業化 が具 体 用 して い る が,こ れ は ア ニ リン を原 料 とす る染 料 と と も
化 し,ま た約10年 前 石 油 化 学 の大 型 化 が 可 能 に した安 価 に副 生 す る 酸化 鉄 を原 料 とす る顔 料 とを組 合 せ て 世 界的
な原 料 の 安定 供 給 を足 場 に フ ェノー ル の ア ミ ノ化 法 の工 な染 顔 料戦 略展 開 の 一手 段 と して鉄 粉 還 元 法 を採 用 して
業 化 が現 実 の もの とな って,ア ニ リンの 増大 す る需 要 に い るの で あ り,ま た 日本 ポ リウ レタ ンやMobayで は食
応 ず る と と もに,ま た新 しい 需 要 分 野 を 開 い て い った の 塩 電 解 工 業 と組 合 せ,水 素 を利 用 して ア ニ リン を製 造 す
764 有機合成化学 第34巻 第10号(1976) (72)
者 を組 合 せ る こ とに よ ってMDIな どの イ ソシ ア ネ ー ト (昭和51年6月28日 受 理)
を製 造 して,イ ソシ アネ ー ト工 業展 開 へ の重 要 な ス テ ッ 文 献
プ と して接 触 還 元 法 を採 用 し,三 井 石 油 化 学 に おい て は 1) 内外 化 学 品資 料,75,9,B 5911
2) 通 産省,化 学 工 業 統 計
石 油 化 学 大 型 化 へ の 展 開 の一 つ と して,年 産10万 トン
3)フ ァイ ン ケ ミ カ ル,(1975),8月15目 号,p.39
の フ ェノ ール 工 場 を建 設 す る と とも に,そ れ を さ らに有 4) Standford Research Institute, Chemical Infor-
利 に展 開 さ せ るべ く,ア ンモ ニ ア と組 合 せ て フ ェ ノー ル mation Service, (1976), 420
ア ミ ノ化 法 の世 界 初 の工 業 化 へ と進 ん で い った もの と考 5) Chem. Mark., Rep., (1973), Dec. 31
6) Chem. Information Service, Directory of West
え られ る 。以 上 説 明 した ご と く,各 社 が そ の 持 て る諸 要
Europ, Chem. Producer (1973)
素 を ア ニ リン の各 種 の製 造 法 とた くみ に組 合 せ て 展 開 し 7) USP 2,716,135 (Allied Chem.)
て い っ た姿 が こ こ み られ る の で あ る。 8) Ullmanns, Encyklopodie der technische Che-
従 来,や や もす る と画 一 的 な考 え に流 れ,単 に量 的 な mie (1974), Band 7, 567
9) 目特 公36-16,419 (住 友 化 学)
拡 大 や,技 術 導 入 に走 る こ との多 か っ た わ が 国化 学 工 業
10) 日特 公36-5,974 (ACC)
界 は 今 後種 々 の 制約 か ら,か つ て の 高 度 成 長 は望 み え 11) 日特 公36-21,723 (ACC)
ず,ま た 保 護 の 傘 は と りは らわ れ て世 界 の大 化 学会 社 と 12) 日特 公35-15,357 (Bayer)