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技術発達史

ア ニ リン製 造技 術 の進 歩 に つ いて

上 仲 博*

Development of Manufacturing Process of Aniline

Hiroshi KAMINAKA*

The first commercial manufacturing process of aniline was developed by Bechamp and Perkin based on the
reduction of nitrobenzene under the presence of iron powder and acid in the 1850's.
Generally speaking, we may well say that what sort of manufactuning processes are employed at a certain

era depends on various factors such as market size of the product which influences the scale of the produc-
tion facilities, the availability of raw materials, equipment and the control system at such time.
In the field of aniline production technology, the amination process of chlorobenzene was developed in
the 1930's which was followed by the invention of the catalytic hydrogenation of nitrobenzene in 1950's
after world war II.
The latter is an innovative technology and was applied to a number of commercial plants in the form of
various reaction technologies such as vapour phase, liquid phase, fixed catalyst-bed, fluidized catalyst-bed.
In the 1960's, the amination process of phenol was invented and the first commercial plant in the world
based on such process was built in Japan.
However, it appears that for the manufacture of aniline, born old and new processes are utilized in the
world today as is evidenced by the fact that all the above mentioned processes except the amination process
of chlorobenzene are still used. The basic reason for this phenomenon is that each process has its own

advantages either in raw material supply sources or reaction conditions or utilization of by-products and all
of them can be competitive in one way or another with respect to the yields, product quality, etc.
Thus, aniline manufactures today can choose, out of the three processes, the most advantageous process
which suit best their local conditions such as available raw material sources and product quality requirements
and marketing capability.

以 来,す で に150年 をへ て い るが,そ の 工 業 的 製造 の歴


1. は じ め に
史 も古 く,1854年Bechampに よ って 鉄 粉,酸 の存 在 下
こ の小 文 に 眼 を とお され る人 々 の 中 に は,そ の 学生 実 に ニ トロベ ンゼ ン を還 元 す る方 法 の 基 礎 が 確 立 され,
験 で ニ ト ロベ ンゼ ン に鉄 粉 と酸 を作 用 せ しめ て ア ニ リン 1857年Perkinに よ って こ の方 法 が工 業 的 規模 に ま で発
を合 成 し た経 験 を お持 ちの方 も多 い こ と と思 わ れ る 。 こ 展 させ られ,こ こに アニ リンの 工業 的 製造 の歴 史 力弐
始っ
9) ア ニ リン は1826年Unverdorbenに よ って 見 出 さ れ て た の で あ る。
こ の小 文 に おい て は,ま ず ア ニ リン製 造 の 現状 に つ い
播 住友化学工業株式会社化 成品事業部大 阪製造所研究
部 て概 観 し,つ い で,そ の 工業 的 製造 技術 の進 歩 に つ い て
* Sumitomo Chemical Co ., Fine Chemical Div., 考 察 を加 え る こ と と した い 。
Osaka Works, Research Dept.
2. ア ニ リ ン製造 の現 状

758
(67) アニ リン製造技術の進歩 について 759

Table 1 Aniline Producers in Japan')

Table 2 Production of Aniline in Japan"

Table 3 Change of Demand of Aniline in Japan"

ア ニ リン の年 間生 産 量 は世 界 で数 十 万 トン に達 して い Table 4 Aniline Producers in USA')

る が,わ が国 に おい て は 表1に 示 す 如 く,5社 によっ


て製 造 され てい る.生 産 状 況 は 表2に,需 要分野別の

推 稠 ま 表3に 示 し た。 国内 需 要 は昭 和48年 まで順調に


伸 長 した が,他 の化 学 製 品 と同 様 オ イ ル シ ョ ックに よ り
急 激 に減 少 し,販 路 を海 外 に も と めた もの の,そ れ も短
時 日の間 に限 界 に達 し,50年 度 の生 産 は45な い し46年
度 の水 準 まで 後 退 して い る 。
国 内 で は ゴ ム 薬 品,MDI(4,4-ジ イ ソシ ア ネ ー トジ
フ ェニル メ タ ン)に そ の大 半 が 消 費 され て い る が,と く
西 欧 で は20社 に達 す る メ ー カ ーが 知 られ て い るが,残
に後 者 は構 造 材 料,包 装 材 料,接 着 剤,塗 料 等 に 広 く需
念 な が ら生 産 能 力 は不 明 であ る。 主 要 なメ ー カー を 表5
要 分 野 を拡 大 しつ つ あ る 。49な い し50年 度 はオイルシ に示 した6)。
ョ ック に続 く世 界 的 不 況 に よっ て生 産,需 要 と もに減 退
して い るが,景 気 回 復 に と もな い今 後 年 率5な い し10% Table 5 Main Aniline Producers in West Europe"
の 伸 び が 予 想 され て い るの で あ る 。

米 国 は 表4に 示 す ご と く,年 間 生 産量 約30万 トン に


達 す る能 力 を有 してい る が,さ らに1977年 にか けて 能
力 増 強 が 進 め られ て い る 。 な お,米 国 で の1973年 の消
費 量5)は19万5千 トン で あ り,そ の40%が ゴ ム薬 品 に
33%がMDI類 に 使 用 され てい る 。
760 有機合成化 学 第34巻 第10号(1976) (68)

く販 売 して い る。
3. ア ニ リ ン製造 技 術 本 法 は一 般 に特 殊 鋼撹 伴器,耐 酸 レン ガ張 り容 器 中 で
実 施 され る。 この 容 器 ヘ ニ トロベ ン ゼ ン,塩 酸,鉄 粉
ア ニ リンの 製 造 法 に つ い て は,古 くか ら多 数 の方 法 が
(鋳鉄 旋 盤 くず な ど)を 投 入 す る。 反 応熱 を利 用 して昇
知 られ て い るが,工 業 的 製 造 法 に 関 して は 下記 の6種 に
温 せ しめ,還 流 状 態 で反 応 を進 め る。5な い し8時 間 で
大 別 す る こ とが で き る 。
反応 は 完 了す る 。 な お,こ の反 応 は 液 ・固 相 反 応 で あ る
① ニ トロベ ンぜ ンの 鉄 粉 還 元 法
た め 混 合状 態 が反 応 に重 要 な影 響 を与 え る し,ま た 鉄 粉
② ニ トロベ ンゼ ンの 接 触 還 元 法
の粒 度 や 多 孔性 の影 響 も大 きい 。
i) 気相固定床方式
反 応 終 了 後 静 置 して ア ニ リン層 を分 離 し,中 和 後 精 溜
ii) 気 相 流 動 層 方 式
に よ って 精 製 す る。一 方,鉄 泥 は水 蒸 気 蒸 溜 に よ って 付
iii) 液 相 方 式
着 ア ニ リンが 除 去 され た後,洗 浄,乾 燥,蝦 焼 に よ って
③ ク ロル ベ ン ゼ ン の ア ミノ化 法
顔 料 に調 整 され る。 な お,顔 料 の色 合 い,濃 度 を決 定 す
④ フ ェ ノール の ア ミノ化 法
る た め還 元 反 応 へ 塩 化 ア ル ミ,リ ン酸,硫 酸 の添 加,あ
以 下 に 各方 法 に つ い て説 明 を加 え る こ ととす る。
るい は鉄 粉 粒 度 の調 整 が 行 わ れ る。
3.1. 鉄粉還元法 約120年 前 Bechamp, Perkin
し か し,こ の反 応 で は酸 性 で鉄 粉 を使 用 す るた め,反
に よ って 見 出 され た この方 法 が今 な お ア ニ リン の工 業 的
応 装 置 の物 理 的,化 学 的 損 傷 が 激 し く,製 造 費 用 中 に し
製 造 法 の一 つ と して そ の 生 命 を保 っ て い る 。 そ の理 由 は
め る補 修 費 の割 合 が大 きい 。 また,大 量 の 鉄 粉 を取 扱 う
入 手 お よび 取 扱 い の 容 易 な原 料 を利 用 し,ま た通 常 よ く
た め,そ の粉 砕,輸 送 にか な りの 設 備 を必 要 と し,さ ら
使 用 され る装 置 を用い て95ない98%の 高 い 収率 で ア ニ
に,反 応 の連 続 化 が 困難 で あ る問 題 点 を有 して い る。 加
リン を製 造 し うるか らで あ る。
え て,鉄 系 顔料 の需 要 量 に も限 度 が あ り,こ れ らの 問 題
こ の反 応 の機 構 は複 雑 で,種 々 の説 が 提 出 され て い る
点 が 増大 す るア ニ リン需 要 量 の全 て を鉄 粉 還 元 法 で まか
が,結 局,塩 酸 を使 用 し た場 合 〔1〕式 に示 す 反 応 で 生じ
な うこ と を大 き く制 約 して い る の で あ る。
た第 一 塩 化 鉄 が 〔2〕,〔3〕
式 に示 す よ う な 触 媒 的 作 用 を
3。2. 接 触 還 元 法 前 述 した ご と く,鉄 粉 還 元 法 の
示 して 反 応 を進 め て い く もの と考 え られ,塩 酸 必 要 量 は
本 来 有 して い る制約 が 増大 す る ア ニ リン需 要 に対 処 す る
〔1〕式 で 示 され る必 要 量 の3%以 下 で充 分 反 応 は進 行 す
こ と を困 難 に して い た が,こ れ らの 問題 に対 処 す べ く,
る。
ニ トロベ ンゼ ン を触 媒 の 存 在 下水 素 で還 元 す るい わ ゆ る

(ニ ト繋ベ ンゼ ン)
接 触 還 元 法 の開 発 が進 め られ た 。 接 触 還 元 法 に よる ア ニ

〔1〕 リン の合 成 は古 く1871年Saytzeffに よ って 実 施 され た
(ア ニ ジ ン) が,第 二 次大 戦後 急 激 に成 長 した 石 油 化 学 か ら,ま た 急

激 に成 長 す る塩化 ビニ ー ル と とも に拡 大 す る電 解 工 業 か
(2〕 ら安 価,大 量 に入 手 し うる水 素 が ニ トロベ ン ゼ ン の触 媒

存 在 下 での 接 触 還元 反応 の 工 業 化 を 可 能 に し た の で あ
〔3〕 る。
総 括 す れ ば 〔4〕式 に示 され る量 的 関 係 と な り,ニ トロ こ の反 応 は 〔5〕式 の ご と くあ らわ され,こ の 反応 を 実
基1モ ル に対 し,鉄2.25原 子 が 必 要 で あ り,ア ニ リン 施 す る に 当 り,ア ニ リン1モ ル 当 り130Kca1も の大 き
の ほ ぼ2倍 量 の 四三 酸 化 鉄 が副 生 す る。 〔5〕
ΔH=130 kcal/mole

(4〕 な発 熱 が あ り,こ の発 熱 をい か に除 去 して 有 効 利 用 す る
こ の副 生 物 か ら赤,黄,黒 色 の 鉄 系 顔料 を製 造 す る こ か,さ らに は触 媒 の調 整 な どに よ り核 還 元 反 応 な どの 副

とが可 能 で あ り,顔 料 に 関 しそ の 製 造 技術 と販 売 ル ー ト 反応 を い か に防 止 す るか につ い て 各 社 が そ れ ぞれ 独 特 の

を有 す る会 社 に とって は 鉄 粉 還 元法 は ア ニ リ ン と顔料 と 方 法 を開発 して い っ た の で あ る。 以 下 各 方 法 につ い て 説

を併 産 し うる方 法 として 強 力 な競 走 力 を 有 して お り,こ 明 を加 え る 。

れ が ま た本 法 が長 い生 命 を有 す る も う一 つ の 理 由 と して 3.2.1. 気相固定床方式 固定 さ れ た触 媒 層 を ガ ス状

あ げ う るの で あ る 。 現 にBayerは ア ニ リン の 一 部 を本 の ニ トロベ ンゼ ン と水 素 を通 過 せ しめ て 反応 さ せ る こ の

法 に よ って 製 造 して い る とい わ れ て お り,鉄 系 顔 料 を広 方 式 に つい て は1954年 硫 化 ニ ッケ ル 触 媒 を用い てAllied


(69) アニ リン製造技術の進歩について 761

Chemicalに よ って 初 めて 工 業 化 され た7)。触 媒 は ア ル い る。
ミナ を担 体 と し,こ れ に ニ ッケ ル化 合 物 を沈 着 させ た 後 ま た,こ の 方 式 で は 触媒 活 性 が 失 なわ れ る と触 媒 入換
350ない し500℃ で硫 化 水 素,あ るい は二 硫 化 炭 素 と反 え の た め装 置 の 運 転 を休 止 させ ね ば な らな い 。 な お,こ
応 させ,硫 化 ニ ッケ ル に変 え て触 媒 として い る。 この 触 れ に対 し水 素 に炭 酸 ガ ス を 混 入 させ る と触 媒 寿 命 の 延 長
媒 上 を300な い し475℃ で水 素 とニ トロベ ンゼ ン蒸 気 を が 可 能 とい わ れ て い る9)。
通 過 させ て,ア ニ リンに変 化 さ せ る 。触 媒 活 性 が 低 下 す 本 反 応 は前 述 の ご と く,か な りの 発 熱 を伴 うが,反 応
る と反 応 温 度 を上 昇 せ しめ る 演,475℃ 付 近 に達 し た場 熱 を た くみ に回 収 す れ ば 反 応 装 置 各 部 の保 温 は お ろ か ア
合 反 応 を停 止 し,250℃ 付 近 で 空 気 を 吹込 み,つ い で水 ニ リン精 溜 の た め の熱 量 の 全 て を ま か な う と と もに他 工

素 を吹 込 ん で再 生 を行 う。再 生 は10回 は可 能 で6ケ 月 な 場 ヘ ス チ ー ム を供 給 す るこ と も可 能 で あ り,こ の点 をい


い し1年 間 継 続 使 用 が 可能 で あ る 。 か に配 慮 す るか はエ ネ ル ギー高 価 格 時代 の今 日ます ます
Bayer8)は ニ ッケ ル,銅,ク ロム 硫 化 物 を触 媒 と し, そ の重 要 性 をま して い る とい え る 。
ICI8)は 軽石 を担 体 と し 銀 ・マ ン ガ ン,銅 ・マ ンガ ン な 3.2.1. 気 相 流 動 層方 式 前 項 の 固 定 床方 式 で は 触 媒
ど混 合 触 媒 を用 い て 反 応 を実 施 して い る 。 こ のICI触 媒 層 の局 部 的 な過 熱 は さ け えず,そ れ ゆ えに 副生 物 の発 生
は硫 黄 化 合 物 に よ って被 毒 しに くい とい われ てい る。 もさ け えず,さ らに触 媒 の 失 活 をは や めそ の 入 換 えの た
Lonzaは 米 国First Chemicalか ら技 術 導 入 して ア ニ め の装 置 停 止 に か な りの時 間 を要 す る。 こ れ らの解 決策
リン を製 造 して い るが 製 造 工 程 の概 略 は 図 蓄に示 す 通 り と して流 動 層 方 式 が開 発 され た の で あ る。
こ の方 法 の最 初 の工 業 化 成 功 の 例 と して1958年 に稼 動

したAmerican Cyanamidの 方 式10,11)をあ げ る こ とが


で き る 。 こ の方 法 で は シ リカゲ ル 担 体上 に銅 を10な い し
20%保 持 さ せ た後,水 素 雰 囲 気 中 で250な い し300℃

に加 熱 して活 性 化 した触 媒 を用 い る。 こ の 触 媒 は表 面 積

200m2/9,細 孔容 積0.25cm3/9,平 均 細 孔 直 径20A以

上 の物 性 を有 し,直 径20な い し150μ の粒 状 の もの で


あ り,気 流 中 で の激 しい 流 動 に耐 え る機 械 的強 度 を有 し
て い る 。製 造 工 程 図 は 図2の 通 りで あ る 。 ま ず,ニ ト
Ptベ ンゼ ン を気 化 させ,水 素 とモ ル 比1対4な い し9で

混 合 して 反応 器 下部 よ り多 孔 板 を通 して 吹 込 み 触 媒 を流
動 させ る 。反 応 は250な い し300℃ で実 施 され るが,触
Fig. 1 Lonza Process8) 媒 層 に冷 却 管 を設 置 して反 応 熱 を除 去 す るが,流 動 層 で
Vapour Phase Hydrogenation of Nitrobenzene
あ るた め 反応 温 度 は数 ℃ の範 囲内 に保 持 され 局 部 的 な過
with Fixed Bed Cataylst
熱 の 生 じる こ とは な い 。 こ の結 果,ア ニ リン収 率 は99.
で あ る8)。 触 媒 と して は軽 石 上 に銅 を付 着 し
た もの を 使用 してい る。 水 素 中 に ニ トロベ ン
ゼ ンを 噴霧 し,さ らに未 反 応 循 還 水 素 と混 合

して ニ トロベ ン ゼ ン対 水 素 のモ ル 比 を1:2.5
な い し1:6の 範 囲 に保 持 しつ つ 反 応 を実 施
す るこ とに よっ て反 応 器 の均 一 な加 熱 が 可 能
と な り触 媒活 性 を 長期 間保 持 す る こ とが 可 能
に な った 。 反 応生 成 物 は未 反 応 水 素 と熱 交 換
して冷 却 し,凝 縮 生 成 した ア ニ リン水 を分 液
して え られ た 粗 ア ニ リン を精 溜 にか け,ま ず
Fig. 2 ACC Process",")
脱 水 した 後 精 製 して製 品 とし てい る。
Vapour Phase Hydrogenation of Nitrobenzene with
気 相 固定 床方 式 で の ア ニ リン 収 率 は99% Fluidized Bed Catalyst

前 後 で あ り,ジ フ ェニ ル ア ミン,シ ク ロヘ キ シ ル ア ミ 5%に 達 する。反応生成物は冷却後未反応水素ガス と分


ン,N-シ ク ロヘ キシ ル アニ リンな どの 副 生 が 知 られ て 離 した後精溜 によ り水,高 沸物 を分離 して製品アニ リン
762 有機合成化学 第34巻 第10号(1976) (70)

を う る。 こ の 触 媒 の寿 命 は 長 くニ トロベ ン ゼ ン 中 の チオ で あ り,気 相 法 と併 立 し う る興 味 あ る 方法 とい い うる 。
フエ ン 含 有 量 が10ppm以 下 の も の を 用 い る と,触 媒 3.3. ク ロル ベ ンゼ ンの ア ミノ化 法 〔6〕式 に示 す ク
Lg当 りア ニ リ ン1500gの 製 造 が可 能 とい われ て い る。 ロル ベ ンゼ ン と ア ンモ ニ ア との 反応 に よる ア ニ リン の製

しか し,長 期 間 使 用 に よっ て活 性 が低 下 し た場 合 に は ニ 造 は ア ンモ ニ ア合 成,食 塩 電 解 工業 が よ うや く本 格 化 す
トロベ ンゼ ンの 供給 を止 め,つい で250な い し350℃ に る1930年 前 後 よ り,現 在 世 界 最大 の塩 素 メ ー カ ー の一

保持 しつ つ 不 活 性 ガ ス で 系 内 を置 換 し た後,空 気 と水 蒸 つ で あ るDowに よ って 開 発 が進 め られ た17)。

気の 混 合 物,つ い で 空 気 の み を 吹込 ん で触 媒 の再 生 を行 〔6)
クロ ル ペ ンゼ ン ア ニ ジン
う。
BASF8)で もシ リカ 上 に 銅15%,ク ロ ム0.3%,バ タ ー ビ ン撹 梓 翼 をつ け た オ ー トク レー プ 中,200な い

リ ウム0.3%,亜 鉛0.3%を 酸 化 物 の型 で保 持 させ た触 し210℃,30ない し70kg/cm2の 条 件 で クmル ベ ンゼ

媒を用い,280ない し290℃ で反 応 を実 施 して い る。 直 ン と28%ア ンモ ニ ア水 とを反 応 させ る 。 クPル ベ ンゼ

径1。2m,高 さ8mの 円 筒型 反 応 器 で ニ トロベ ンゼ ン ン対 ア ンモ ニ アの モ ル比 は1対6で あ る 。触 媒 として 第


一酸 化銅
を1時 間 当 り2ト ン を反 応 せ し めア ニ リン1.5ト ン,換 ,あ る い は第 一 塩 化 銅 が用 い られ る。 また,金

言す れ ば年 間8,000時 間 運転 す る として12,000ト ンを 属 銅 が助 触 媒 的作 用 を有 す る18)。収 率 は90ない し92%

製造 す る こ とが で き る。 と低 く く,フ ェノ ール,ジ フ ェニル ア ミ ン な どの 副 生 が


3.2。3. 液相 方式 核 還 元 な どの 副 反 応 の発 生 を防 止 多い。
する た め200℃ 以 下 に反 応 温 度 を下 げ 液 相 状 態 で 反 応 を ま た 材 質 面 で の腐 蝕 もか な りき つ く種 々 の対 策 が構 じ

実施 す る例 も知 られ て い る。 られ て い る 。

ラ ネ ー ・ニ ッケル 触 媒 の存 在 下,ニ トロベ ンゼ ン対 メ Dowで は こ の方 法 に力 を注 ぎ,連 続 方 式 の製 造 法 の

タノ ール の1対1の 混 合物(重 量 比)を150。C,iOOkg/ 開発 に も成 功 した が 王9),1966年恐 ら く経 済 的 理 由か ら と


cM2の 条 件 で水 素 と反 応 させ る方法12),低 級 ア ル コー ル 思 わ れ る が,こ の方 法 で の製 造 を 断念 して い る。

中,吸 油 率50ない し190の カー ボ ンブ ラ ック を担 体 と わ が 国 の現 状 に 照 して こ の方 法 を眺 め る時,今 まさに

したパ ラ ジ ウ ム触 媒 を用い て,100℃,100kg/cm2の 条 電 解 工 業 が水 銀 法 よ り隔 膜 法 な どヘ イ ン フ レの 中で の 転

件下 で 水 素 と反 応 させ る方 法13),低 級 ア ル コー ル 中,メ 換 の ま っ た だ 中 に あ り,加 えて 石 油 シ ヨ ック に よ る世 界

チル シ ク ロヘ キセ ンを 共 存 させ パ ラジ ウム触 媒 の 存 在 的 に み て も割 高 な電 力 料 金 に苦 しん で い る こ と を考 え る

下,常 圧,50ない し55℃ で 反 応 させ る方 法14),な どが と,高 価 な塩 素 を用 い る この ク ロル ベ ンゼ ン を 出 発原 料

知られ て い る。 しか し,反 応温 度 が50ない し150。Cと とす る ア ニ リンの 製 法 に工 業 的 優 位 を認 め られ な い とい

低い た めス チー ム と して有 効 に熱 回収 す る に は反 応 温 度 って よい で あ ろ う。
3.4. フ ェ ノー ル の ア ミ ノ化 法 〔7)式 に示す フェノ
が低 く く,む しろ 反応 熱 除 去 の た め冷 凍 機 を使 用 し な け
ー ル の ア ミ ノ 化 反 応 はHalconに よ っ て1962年 に開発
れば な らず,ま た,加 圧 反応 で は設 備 費 の上 昇 と,加 圧
用動力 費 が必 要 とな り,さ らに は ア ニ リン と溶 媒 とを 分 さ れ た20,21)。

離す るた め の費 用 な ど工 業 的 製 法 として は気 相 方 式 に比 〔7〕

して不 利 とい わ ざる を え ない の で あ る。 400ない し480℃,10ない し35kg/cm2の 反応 条 件 下 フ

こ の よ うな難 点 を克 服 す る手 段 として,ICIが 下記 に ェノー ル と ア ンモ ニ ア を1対20の モ ル比 で,シ リカ ・ア

説明す る よ うな方 法Is,16)を開 発 し てい る。 す な わ ち,ア ル ミナ 系 触 媒 上 を通 過 せ しめ て 反 応 させ る 。収 率 は フ ェ


ニリン を反 応 溶 媒 とし て こ れ に ニ トロベ ンゼ ン と水 素 を ノー ル に 対 し90な い し95%,ジ フ ェニ ル ア ミン,カ ル

供給 し,常 圧,165℃ で反 応 を行 い,反 応 熱 は生 成 した バ ゾー ル な どの 副生 が か な りみ られ る 。 そ の製 造 工 程 を

水とア ニ リン の気 化 熱 として うば い,さ らに 気 化物 を凝 図3に 示 し た。

縮分液 させ た後 水 層 を反 応 系 外 に除 去 せ しめ な が ら反 応 この 方 法 の 問 題 点 は 触 媒 活性 低 下 が生 じや す く,工 業

を進 め てい る 。使 用 触 媒 は安 価 な ニ ッケ ル ・ケ イ ソ ウ土 化 当 初100時 間 毎 にア ニ リ ン,ア ン モ ニ ア の 供 給 を止

を用 い,さ らに ト リエ タ ノ ール ア ミ ンの よ うな 強有 機 塩 め,触 媒 層 へ ま つ 窒 素 を,つ い で数%の 酸 素 を含 有 す る

基を添 加 して 核 還 元 な どの 副 反 応 を防 止 し,高 収 率 で ア 窒 素 を400ない し500℃ で導 入 して 再生 す る必 要 が あ っ


ニリン を製 造 す る方 法 で あ る。 た とい わ れ て い る.こ の点 を改 良す べ く,水 素 化 触 媒 を

工 業 的 製 造 法 として,反 応 熱 回 収 利 用 に や や難 点 が あ 共 存 せ しめ る方 法23),ア ル ミナ ・シ リカ に マ グ ネ シ ヤ,
るもの の特 別 復 雑 な装 置 を必 要 とせ ず,反 応 条 件 も緩和 あ るい は ボ リヤ を加 え た 触 媒24),ア ル ミナ 含有 率33な
(71) アニ リン製造技術の進歩 について 763

で あ る.す な わ ち,周 辺 関 連 技 術,関 連 産 業


の発 達,ま た原 料 事 情 の変 化 な ど,互 に影 響

を お よ ぼ し なが ら,よ り経 済 的 な 方 法 を め ざ
して,ア ニ リン製 造 法 が 変 遷 して い った の で

あ る。
しか し,ア ニ リ ンに お い て は,新 製 造 法 が

掴法 を完 全 に駆 逐 す る例 が 余 りみ られ な い 。
一般 に化 学 工i業に お け る製 造 法発 展 の歴 史 を

ふ りか え る時,新 法 が1日法 を完全 に圧 倒 して


しま う例 を よ くみ るの で あ る。 た とえ ぼ,ア
Fig. 3 Mitsui Petrochemical Process", ク リ ロニ トリル の製 法 にお い て,ア セ チ レン
Amination of Phenol
と青酸 とか らの製 法 が プ ロ ピ レ ンの ア モ キ シ
い し55%の アル ミナ ・シ リカ触 媒25),ア ル カ リ金 属 を デ ー シ ョン法 に完 全 に とって か わ られ,エ チ レ ンオ キ サ
含 有 した ア ル ミナ 触 媒26),酢 酸 な どで処 理 した γ一アル イ ドの製 法 に おい て,ク ロル ヒ ド リン法 が エ チ レン の直
ミナ 触 媒27),等 々 の 触 媒 が提 案 さ れ てい る。 接 酸化 法 に完 全 に 屈服 した例 を あ げ る こ とが で き る 。
これ らの 改 良 に よ って,触 媒 寿 命 の 延長 が可 能 に な っ しか し,ア ニ リン の製 造 法 にお い て は,こ の よ うな 完
た と考 え られ るが,本 法 とニ トロベ ン ゼ ン の接 触 還 元 法 全 な 交 代 は み られ ない 。 も っ とも,そ の大 部 分 が合 成 繊
(気相 法)と を比 較 した場 合,フ ェノ ール の ア ミノ化 工 維 用 基 礎原 料 と して 使 用 され るア ク リロニ トリル,土 チ
程 と,ニ トロベ ンゼ ンの還 元 工 程 は ほ ぼ類 似 の工 程 で あ レン オ キ サイ ドと染 料,医 薬,イ ソシ ア ネ ー ト,さ らに
り,ま た 原 料 面 で は ア ニ リン1当 量 の製 造 に 当 って,フ は有 機 ゴ ム薬 品 と多 くの 用 途 を有 す る,い わ ゆ る 申 間原

ェ ノ ール に 対 し!,3倍 量(重 量)の ニ トロベ ンゼ ン を必 料 と して の ア ニ リン と を同一 基 準 で 判 断す る こ とは で き


要 とす るが,フ ェ ノール に比 して ニ トロベ ンゼ ンは よ り ない が,100年 以 上 も前 に 開発 され た 鉄 粉還 元 法 が接 触
容 易 に製 造 され て 安 価 で あ り,現 状 にお い て は 綜 合 的 に 還 元 法 と とも に,約10年 前 に新 に 開発 さ れ た フ ェノ ー
み て 両法 の 聞 に と くに 顕 著 な 差 は認 め られ な い の で あ ル の ア ミノ化 法 と平 行 して利 用 され て い る多 様 化 した姿
る。 そ して,こ の方 法 は昭 和40年 以 降 のエ チ レ ン30万 が み られ る の で あ る。、
直 線 的 な技 術 発 達 の歴 史 とい う単
t/Yア ン モ ニ ア1,000t/Dの 大 型 設 備 に象 徴 的 に あ らわ 純 な考 え で は律 し え ない 状 況 が存 在 してい る 。
され た大 型 石 油 化 学 時代 に そ の石 油 化 学 か ら大 量 か つ 安 なぜ 三 法 が 併 立 し うるの か,そ の理 由 の一 つ と して,
価 な フ ェ ノー ル とア ンモ ニ ア の安 定 供 給 を基 礎 と して は こ の三 法 はい つ れ も安 価 で 入 手 しや す い原 料 を利 用 し,
じ めて ア ニ リンの工 業的 製 造 法 として の 意 義 を獲 得 した か つ収 率 も95%以 上 の 高 い レベ ル ま で製 法 が改 良 され
とい い うる の で あ る。 て三 方 法 の差 が 小 さい 点 を あ げ る こ とが で き る が,さ ら
に もっ と大 きい 理 由 と して,各 社 に お い て,そ れ ぞ れ の
4. む す び
製 法 の特 色 を理 解 し,ま た 自社 の保 有 す る技 術,原 料,
あ る製 晶 の 工 業 的製 造 法 の発 展 はそ の 時 代 に お い て, 製 品販 路 につ い て 深 い 智 識 を もっ た 技術 者 を 中心 とし た
利 用 し うる原 料,反 応装 置,装 置 用 材 質,制 御 方 法 な ど グ ル ー プが これ らの 諸 要 素 を どの よ うに組 合 せれ ば 自社
に よ って,大 き く制 約 さ れ る こ とはい うま で もな い 。 こ に とって 最 も有 利 に 展 開 し う るか とい う 目標 にむ か っ
の ア ニ リンの 製 造 法 に おい て も,約120年 前 ニ トロベ ン て,技 術 の 開 発,改 良 を 進 め,さ らに計 画 立 案 し,そ の
ゼ ンの 鉄 粉 と酸 に よる還 元 法 が開 発 され て 以 来,ア ンモ
結 論 として,一 つ の 方法 の 採用 を決 定 し,つ い で展 開 し
ニ ア合成 と食 塩 電 解 工 業 の本 格 化す る中 で ク ロル ベ ン ゼ て い った 点 をあ げ な け れ ば な らない 。
ンの ア ミノ化 法 が約60年 前 に開 発 され,さ らに約30年 も っ と具 体 的 に説 明 しよ う。染 顔 料 の世 界 的 大 メ ーカ
前,石 油改 質,石 油 化 学 工 業 の発 達 と食 塩 電解 工 業 の拡 ー で あ るBayerに おい て は,な お 一 部 鉄 粉 還 元 法 を採

大 を基 礎 に ニ トロベ ンゼ ン の水 素 還 元 法 の 工 業化 が具 体 用 して い る が,こ れ は ア ニ リン を原 料 とす る染 料 と と も
化 し,ま た約10年 前 石 油 化 学 の大 型 化 が 可 能 に した安 価 に副 生 す る 酸化 鉄 を原 料 とす る顔 料 とを組 合 せ て 世 界的
な原 料 の 安定 供 給 を足 場 に フ ェノー ル の ア ミ ノ化 法 の工 な染 顔 料戦 略展 開 の 一手 段 と して鉄 粉 還 元 法 を採 用 して
業 化 が現 実 の もの とな って,ア ニ リンの 増大 す る需 要 に い るの で あ り,ま た 日本 ポ リウ レタ ンやMobayで は食
応 ず る と と もに,ま た新 しい 需 要 分 野 を 開 い て い った の 塩 電 解 工 業 と組 合 せ,水 素 を利 用 して ア ニ リン を製 造 す
764 有機合成化学 第34巻 第10号(1976) (72)

る と とも に,塩 素 を利 用 して ホ ス ゲ ン を製 造 し,こ の両 くこ と と したい 。

者 を組 合 せ る こ とに よ ってMDIな どの イ ソシ ア ネ ー ト (昭和51年6月28日 受 理)

を製 造 して,イ ソシ アネ ー ト工 業展 開 へ の重 要 な ス テ ッ 文 献
プ と して接 触 還 元 法 を採 用 し,三 井 石 油 化 学 に おい て は 1) 内外 化 学 品資 料,75,9,B 5911
2) 通 産省,化 学 工 業 統 計
石 油 化 学 大 型 化 へ の 展 開 の一 つ と して,年 産10万 トン
3)フ ァイ ン ケ ミ カ ル,(1975),8月15目 号,p.39
の フ ェノ ール 工 場 を建 設 す る と とも に,そ れ を さ らに有 4) Standford Research Institute, Chemical Infor-
利 に展 開 さ せ るべ く,ア ンモ ニ ア と組 合 せ て フ ェ ノー ル mation Service, (1976), 420
ア ミ ノ化 法 の世 界 初 の工 業 化 へ と進 ん で い った もの と考 5) Chem. Mark., Rep., (1973), Dec. 31
6) Chem. Information Service, Directory of West
え られ る 。以 上 説 明 した ご と く,各 社 が そ の 持 て る諸 要
Europ, Chem. Producer (1973)
素 を ア ニ リン の各 種 の製 造 法 とた くみ に組 合 せ て 展 開 し 7) USP 2,716,135 (Allied Chem.)
て い っ た姿 が こ こ み られ る の で あ る。 8) Ullmanns, Encyklopodie der technische Che-
従 来,や や もす る と画 一 的 な考 え に流 れ,単 に量 的 な mie (1974), Band 7, 567
9) 目特 公36-16,419 (住 友 化 学)
拡 大 や,技 術 導 入 に走 る こ との多 か っ た わ が 国化 学 工 業
10) 日特 公36-5,974 (ACC)
界 は 今 後種 々 の 制約 か ら,か つ て の 高 度 成 長 は望 み え 11) 日特 公36-21,723 (ACC)
ず,ま た 保 護 の 傘 は と りは らわ れ て世 界 の大 化 学会 社 と 12) 日特 公35-15,357 (Bayer)

洞 一条 件 下 で 競 走 しな け れ ば な らない 環 境 下 に お かれ て 13) 日特 公39-466 (三 菱 化 成)


14) 日特 公45-490 (帝 人)
い るが,そ れ ぞ れ の 会 社 が 持 て る技 術 に磨 き を か け,各
15) 日特 公47-27,212 (ICI)
部 門 の 実 力 を充 実 させ つ つ,各 社 が そ の 特色 を発 揮 しな
16) 日特 公5e-15,779 (ICI)
が ら困難 に対 処 して い か ね ば な らな い今 日,ア ニ リン製 17) Kirk-Othmer, Encyclopedia of the Chemical
造 法 の歴 史が 種 々 の 教 訓 を与 えて くれ る よ うに 思 わ れ る Technology, Vol. 2, 353 (1963)
の で あ る。 18) USP 1,607,824 (Dow)
19) USP 2, 432 , 551 (Dow)
以 上,ア ニ リン製 造 法 発 展 の歴 史 につ い て 筆 を進 めて
20) 日 特 公42-23,571(Haicon)
き た 。 し か し,現 在 知 られ て い るア ニ リン製 造 法 は 決 し 21) USP 3,272,865 (Halcon)
て完 全 な もの で もな けれ ば,最 上 の もの で も ない 。 ま だ 22) Hydrocarbon Processing, Petrochemical Hand-
ま だ多 くの合 成 ル ー トが残 され てい る はず で あ る。 果 し book, 114, Nov, (1975)
23) 日 特 公46-23,052 (三 井 石 油 化 学)
て,ベ ン ゼ ン とア ンモ ニ ア か らの一 段 合 成 は不 可 能 なの
24) 日 特 公46-23,053 (三 井 石 油 化 学)
で あ ろ うか?よ り経 済 的 な,よ り安 全 な 製 造 法 の 開
25) 日 特 公46-41,895 (Halcon)
発 。研 究 者 の 前 に は,そ の挑 戦 を待 ち うけて い るテ ーマ 26) 日 特 公46-12,341 (Halcon)

が,ま だ ま だ 多 く残 され て い る こ とを強 調 して,筆 をお 27) 日 特 公49-14,737 (三 井 石 油 化 学)

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