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研究論文子ども社会研究14号、ノひ”"α/(yCMdSWy,Ib.

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ジェンダー的要素はどう描写されてきたのか
−「スーパー戦隊シリーズ」を事例として−

葛城浩一

1.はじめに

近年,男女平等施策の充実に伴って,女性の社会における活躍の機会は大きく開けてきて
いる。しかしその一方で,男性と同等の条件での社会における活躍に魅力を感じない女性も
少なくない。その背景には,現行の男女平等施策が欧米と比較した場合に依然として十分な
レベルではないことは当然関係していようが,伝統的な性別役割分業意識によって,女性の
社会進出に対するインセンティブが働かないことも大きく関係していよう。

こうした伝統的な性別役割分業意識には,幼少期から構築されてきたジェンダー・バイア
スが大きく影響を及ぼしていることは想像に難くない。これまでのジェンダー研究で既に指
摘されているように,ジェンダー・バイアスの構築に対する影響要因のひとつとして「メデ
ィア」の存在は極めて大きい。
特に低年齢層の子どもほど,ジェンダー・バイアスの構築に対する影響要因のチャンネル
は限られているため,子どもの目に触れるメディアが固定的なジェンダー観を刷り込む危険
性は極めて高い。その上,低年齢層の子どもを主対象としたメディアでは「わかりやすさ」
がひとつの命題となっていることもあり,生活実感との乖離を好まない傾向がある。そのた
め,伝統的な性別役割が語られやすく,そうしたメディアが男性優位社会の再生産の温床と
なる可能性は極めて高い。
しかしその一方で,男児を主対象とした特撮シリーズの制作を多数手がけてきた白倉
(2004)によれば,「公共性の高いテレビ番組は,あらゆる階層・あらゆる立場の人の人権
に配慮しなければならない」(白倉2004,101頁)ため,「あらゆる媒体から「被差別者」
とされる存在は抹消されていかざるをえない」(同上,102頁)という(')。そうであるならば,
ジェンダーに対する意識の高まりに伴い,たとえ低年齢層の子どもを対象としたメディアで

あろうとも,ジェンダー的な要素の描写には特段の配慮がなされる必要があるはずである。
果たして,低年齢層の子どもを主対象としたメディアにおいて,ジェンダー的な要素のど
のような点には配慮がなされ,どのような点には配慮がなされていないのか。ジェンダーの
問題を考える場合には,特に後者の点は重要であると考えられる。すなわち,ジェンダー・
センシテイブな感覚に照らした場合に,配慮の必要があると思われるような事象において配

(くずき.こういち香川大学)

子ども社会研究14号

盧がみられないということになれば,それは製作者サイド及び視聴者サイドがそこでの配慮
の必要があるとは必ずしも認識しない事象であるか,あるいは視聴者サイドから仮にそうい
う要求があったとしても製作者サイドが配慮の必要はないと判断した事象であると考えるこ
とができるからである。そうした点にこそ,ジェンダー・バイアスを生み出す根深い構造が
顕著に立ち現れてくるであろう。
先行研究では,メディアの中でジェンダー的な要素がどのように描写され,それが時代と
ともにどのように変わってきているのかという視点に立った先行研究は少なからずみられる
(諸橋1993,斉藤l998等)。しかし,上記のような問題関心に立脚した先行研究は管見の
限りほとんどみられない。そこで本稿では,低年齢層の子どもを主対象(2)とするメディアの
一事例として「スーパー戦隊シリーズ」を取り上げ,経時的な分析に基づきながら,ジェン
ダーに対する意識の高まりとジェンダー的要素の描写変化との関連について分析を試みる。

2.研究の方法

本稿では,低年齢層の子どもを主対象とするメディアの中でも,特に男児を主対象とする
メディアに着目する。それは井上(1990)が指摘するように,男女のメディア体験は非対
称的であり,「女子はいわゆる男子向け作品にも女子向け作品と同じ程度に接触するのに対
し,男子は男子向け作品にしか接触しない」(井上1990,52頁)ためである。この点に鑑
みれば,男児を主対象としたメディアを分析の対象とすることで,男児だけではなく女児へ
の影響力も考慮に入れた分析が可能となる。
男児を主対象とするメディアの代表的なジャンルに「特撮モノ」が挙げられるが,本稿で
事例として取り上げる「スーパー戦隊シリーズ」はこのジャンルに位置づけられる。このジ
ャンルには,他にも「ウルトラマンシリーズ」や「仮面ライダーシリーズ」といった知名度
も高く,また歴史も古いシリーズが存在しているが,あえて「スーパー戦隊シリーズ」を分
析対象としたのは以下の理由による。
まず,「スーパー戦隊シリーズ」が,1975年に放送された『秘密戦隊ゴレンジヤー』(1975
年4-1977年3月)以来30年の長きにわたり放送を続けているという点である(柳。「ウル
トラマンシリーズ」(1966年-)や「仮面ライダーシリーズ」(1971年-)は「スーパー戦
隊シリーズ」に比べ歴史は古いが,これらのシリーズは放送が断続的に行われているため,
経時的な分析には「スーパー戦隊シリーズ」の方がより適している。
次に,「ウルトラマンシリーズ」や「仮面ライダーシリーズ」は,近年複数のウルトラマ
ンや仮面ライダーを登場させるようになっているものの,基本的に主人公はそのタイトルと
なっているヒーローとなる1人の男性であり(すなわち,『仮面ライダークウガ』(2000年
1月-2001年1月)であれば「クウガ」という仮面ライダーに変身する「五代雄介」とい
う1人の男性),その他のウルトラマンや仮面ライダーはあくまでも脇役に過ぎない。これ
に対し,「スーパー戦隊シリーズ」では,そのタイトルとなっている集団を構成する全員が
主人公であり(すなわち,『秘密戦隊ゴレンジャー』であれば「ゴレンジャー」という集団
を構成する5人全員が主人公),その中には女性も含まれている。このように,「スーパー

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ジェンダー的要素はどう描写されてきたのか:葛城

戦隊シリーズ」では,男女が同等に主人公という立場にあるために,集団内における男女関
係の変遷をみることが可能である。
最後に,「スーパー戦隊シリーズ」では,「ウルトラマンシリーズ」や「仮面ライダーシリ
ーズ」に比べ,その対象が低年齢層であることを明確に意識して作られている点である。東
映の鈴木武幸取締役は,「スーパー戦隊シリーズは,日本で生まれた子どもが一番最初に見
る実写特撮ヒーロー作品として,グループヒーローの特徴でもある友情や勇気,絆を中心に,
勧善懲悪でわかりやすく作ることを心がけています」(『スーパー戦隊画報2』,2006,22頁)
と述べている。これとは対照的に,近年の「ウルトラマンシリーズ」や「仮面ライダーシ
リーズ」では,低年齢層の子どもには分かりづらい価値の多様性がテーマとして取り上げら
れることが多い。例えば,『ウルトラマンコスモス』(2001年7-2002年9月)では,怪
獣をやっつけるのではなく,怪獣を保護するという立場をとる姿が描かれているし,『仮面
ライダー龍騎』(2002年2−2003年1月)では,拘置所に収監されていた凶悪犯を含む13
人ものライダーが生き残りをかけて戦う姿が描かれている。このような大人からみても非常
に難解な文脈の中で描かれる物語よりも,より単純である物語の中で発せられるメッセージ
(意図的であるか無意図的であるかを問わず)の方が,低年齢層の子どもには影響力が大き
いものと考える。
以上の理由から,本稿では「スーパー戦隊シリーズ」を分析対象とする。まず,次の第3
節では,ジェンダー的要素の描写変化について量的及び質的側面からの分析からはじめてみ
たいへ

3.ジェンダー的要素の描写変化

31.量的側面からの分析

先にも述べたように,「スーパー戦隊シリーズ」ではそのタイトルとなっている集団を構
成する全員が主人公であり,その中には女性も含まれている。特に第1作目にあたる『秘
密戦隊ゴレンジャー』が放送された時代に,主人公の1人として戦う女性が描かれること
はまだまだ珍しいことであった。なぜ当該シリーズにおいて主人公の1人として戦う女性
が描かれるに至ったのであろうか。
こうした背景には,第二波フェミニズムやウーマンリブといった女性解放運動が盛んだっ
た1960年代から70年代初頭にかけて,少年マンガや男児を主対象としたアニメの世界で
主人公,あるいは主人公の1人として戦う女性が描かれはじめたことが影響を及ぼしてい
ると考えられる(4)。その草分け的存在の1人が「スーパー戦隊シリーズ」の原作者である石
ノ森章太郎である。彼はマンガ『サイボーグ009」(1964年-)で主人公の1人として戦う
女性を描くとともに,「特撮モノ」の世界においてはじめて主人公として戦う女性を描いたI5lo
こうした先駆的な蓄積の上に,「スーパー戦隊シリーズ」第1作目の『秘密戦隊ゴレンジャー』
において,主人公の1人として戦う女性である桃色の戦士「モモレンジヤー」が描かれる
ことになったのである。

さて,『秘密戦隊ゴレンジャー』では構成員中1人であった女性は,その後,量的にはど

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子ども社会研究14号

のように推移したのだろうか。表lは,全31作品における戦隊内の女性の数と割合を示し
たものである。なお,当該シリーズにおいては,戦隊の構成員が途中で増員する場合がある
が,ここでは増員前の値を示している(6)。
これをみると,『秘密戦隊ゴレンジャー』以来,第7作目の『科学戦隊ダイナマン』(1983
年2月-1984年1月)まで女性1人体制が続いていることがわかる。なお,第5作目の『太
陽戦隊サンバルカン』(1981年2月-1982年1月)で女性がみられないのは,通常の戦隊
が5人で構成されるのに対し3人で構成されていたことによると思われる。すなわちこの
時点では,戦隊の構成員5人ないしは4人のうちの1人が女性であることに抵抗はなかっ
たものの,3人のうちの1人が女性であることには抵抗がある時代であったのかもしれない。
はじめて女性2人体制になったのは,第8作目の『超電子バイオマン』(1984年2月-
1985年1月)からであり,以来,女性2人体制は珍しいものではなくなっている(7)。こう

表1.戦隊内の女性の数と割合の推移

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秘密戦隊ゴレンジャー l975


ジヤッカー電撃隊 1977

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バトルフィーバーJ 1979

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電子戦隊デンジマン
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1980 蕊蕊
太陽戦隊サンバルカン 1981
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大戦隊ゴーグルファイブ 1982
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二・評
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科学戦隊ダイナマン

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1983

雲●●輯
超電子バイオマン 1984

電撃戦隊チェンジマン 1985


超新星フラッシュマン 1986
4

光戦隊マスクマン 1987
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超獣戦隊ライブマン 1988

高速戦隊ターポレンジャー 1989

地球戦隊ファイブマン 1990

鳥人戦隊ジェットマン 1991

恐竜戦隊ジュウレンジャー 1992

五星戦隊ダイレンジャー 1993 溌蕊蕊職職識蕊


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忍者戦隊カクレンジャー 1994 蕊議繊雛溌鍛議議


超力戦隊オーレンジャー 1995 蕊識識溌蕊溌蕊
激走戦隊カーレンジャー 1996
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電磁戦隊メガレンジャー 1997 蕊識蕊灘灘識溌


星獣戦隊ギンガマン 1998 篭溌鱗:識蕊燕溌i
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救急戦隊ゴーゴーファイブ 1999 蕊灘溌蕊識溌総蕊蕊


未来戦隊夕イムレンジャー 2000 蕊溌:熟零懇I燕蕪諜織
百獣戦隊ガオレンジャー 2001 蕊蕊:議蕊鑑識識蕊蕊:
我寺‘¥両ヨE苓二苧寅'文flcl+寅,純や,flh'腕5−ャ:今又 拭f1等守浜苓'¥

忍風戦隊ハリケンジャー 2002 識溌蕊蕊燕蕊:鐸溌


爆竜戦隊アバレンジャー 2003 1蕊溌溌蕊溌鐵舞蕊難
特捜戦隊デカレンジャー 2004 I蕊驚蕊蕊塾蕊涛:燕;蕊
魔法戦隊マジレンジャー 2005

轟轟戦隊ポウケンジャー 2006
識溌蕊 鑑識熟蕊絢粥蕊篭鴬

撫溌議
獣拳戦隊ゲキレンジャー 2007 蕊蕊篝譲溌飴篭蕊溌
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炎神戦隊ゴーオンジャー 2008 舗鱗#鎚鞠雛罵蕊蕊



ジェンダー的要素はどう描写されてきたのか:葛城

した変化には,複数の要因が影響していると考えられるが,そのひとつとしてこの時期のジ
ェンダーに対する意識の変化が反映されていると考えられよう。その意識の変化を男女平等

施策との関連でみれば,次のように解釈することが可能である(8)。
すなわち,女性の量的推移における転換点ともいえるこの作品の放送時期は,「雇用の分
野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」(「男
女雇用機会均等法」)の制定及び「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」
(「女子差別撤廃条約」)の批准の前年にあたる。すなわち,「女子差別撤廃条約」を批准する
ために,「男女雇用機会均等法」の制定をめぐる議論が活発になされていた時期である。男
女平等の達成を目指し,女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としながら,
女性が直面する雇用管理上のハンディキャップを是正し,女性の継続就業社会進出を促そ
うとする時代の流れが,シリーズの女性構成員の数を変化させる一要因となったと考えられ
る。

3.2.質的側面からの分析

前項から明らかなように,量的側面からみれば,過去30年の間に女性1人体制から2人
体制へと変化をみせており,その変化にはジェンダーに対する意識の高まりの影響が少なか
らず看取できる。それでは質的側面についてはどのような変化がみられるのだろうか。以下
では「リーダー」という役割に焦点をあて,その描写変化を,前項と同様に,ジェンダーに
対する意識の変化を象徴する代表的な指標としての男女平等施策との関連で論じていくこと
とする。

「スーパー戦隊」は複数名から構成されるため,その集団を統括するリーダー的役割が不
可欠である。シリーズの中では概して「○○レッド」と呼ばれる赤色の戦士(=男性)がそ
の役割を担うことが多いが,シリーズが進むにつれて女性がその役割を担うケースもみられ
るようになった。現段階で女性がリーダー的役割を担ったのは,第18作目の『忍者戦隊カ
クレンジヤー』(1994年2月-1995年2月)と第24作目の『未来戦隊タイムレンジヤー』
(2000年2月-2001年2月),第31作目の『獣拳戦隊ゲキレンジヤー』(2007年2月-)
の3作品である。
『忍者戦隊カクレンジャー』は,「鵺姫」という女性が当該シリーズにおいて初めてリーダ
ー的役割を担うこととなった記念碑的な作品である。この作品が放送された1994年は「男
女共同参画審議会」が発足した時期にあたり,同審議会による「男女共同参画ビジョン」や
「男女共同参画二○○○年プラン」を通して,「男女共同参画」や「ジェンダー」といった言
葉が世間の耳目を集めることになった。そうした意味において,この作品の放送時期はその
後の社会におけるジェンダーに対する意識の高まりに影響を及ぼした重要な転換点であった
といえる。

ただし,この「鶴姫」という女性は,「姫」というその名が示すように,他のメンバーと
は生まれが異なっており,その「出自」が彼女をリーダー的役割たらしめる根拠となってい
る(9)。すなわち,女性が集団を束ねる存在として初めて描かれたということ自体は十分評価
に値するが,この時点では女性がそうした存在として描かれるにしても,それは「能力」で

7
子ども社会研究14号

はな<あくまで「出自」を根拠とするものであったことには留意する必要があろう。
これに対し,『未来戦隊夕イムレンジャー』では,その「出自」に依らず,その「能力」
が「ユウリ」という女性をリーダー的役割たらしめる根拠となっている。すなわち,他のメ
ンバーは3人が時間保護局と呼ばれる組織の新人レンジャー隊員,1人が一般人であるのに
対し,この「ユウリ」という女性はインターシティ警察所属の現役捜査官であり,そのキャ
リアの差が彼女をリーダー的役割たらしめる根拠となっている。
このように,『忍者戦隊カクレンジヤー』では,「出自」を根拠とする「属性主義」に基づ
くリーダーとして女性が描かれていたのに対し,『未来戦隊夕イムレンジャー』では,「能力」
を根拠とする「能力主義」に基づくリーダーとして女性が描かれているのである。もともと
シリーズを通して女性も男性と同等に戦列に参加し,「女性である」という理由で「不平等な」
扱いをされる存在として描かれることのなかった女性が,この時点においてはじめて,その
能力の高さゆえに集団を束ねる存在として描かれる可能性が示されたのである。
なお,この作品が放送された前年の1999年は,「雇用の分野における男女の均等な機会
及び待遇の確保等に関する法律」(「第1次改正男女雇用機会均等法」)の施行及び「男女共
同参画社会基本法」の制定・施行がなされた時期にあたる。特に「第1次改正男女雇用機
会均等法」では,募集・採用,配置・昇進,教育訓練,福利厚生,定年・退職・解雇におい
て男女差をつけることが禁止されている。
さらに,性別を理由とした差別を明確化し,禁止したのが,2006年に制定され,翌
2007年に施行された「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法
律」(「第2次改正男女雇用機会均等法」)である。この時期に放送された『獣拳戦隊ゲキレ
ンジャー』において,「宇崎ラン」という女性をリーダー的役割たらしめた根拠は,もはや
「出自」はおろか,「能力」の差でもなかった。すなわち,彼女は「出自」や「能力」を根拠
とすることなく,集団を束ねる役割を与えられることになったのである10)。それまで「出自」
や「能力」を根拠としなければそうした存在として描かれることが許されてこなかった女性
が,この時点においてはじめて,明確な根拠づけをする必要なく,集団を束ねる存在として
描かれる可能性が示されたといえよう。
このように,ジェンダー的要素の描写は,量的側面だけでなく,質的側面においても大き
な変化をみせている。本節では,そうした描写変化を,ジェンダーに対する意識の変化を象

表2.男女平等施策の推移とジェンダー的要素の描写変化との対応

イj政liliでの動│イ'」 ジェンダー的典業の猫'fノ変化
jI
56

男女雁川機会均祁法制定
1985fi 女性2人体制への挺換
女r・旅別撤廃条約批)化
蛆一朗一M

1986年 男女雇用機会均群法施行
1994年 男女共同参I由膀議会発足 属性i邑農にjILづく初の女性リーダー誕′to
1997年 第1次改lfyj女雁川機会均呼法制定
月月
46


施行
1999年 能力主義に基づく初の女性リーダー誕生。
男女共同参1曲社会堪本法制定・施行

:
::簔
鴎'第
2次改
正男雫
川磯…
法鰈 施行 明確な根拠づけのない初の女性リーダー誕生。

8
ジェンダー的要素はどう描写されてきたのか:葛城

徴する代表的な指標としての男女平等施策との関連で論じてきた。表2に示すように,ジ
ェンダー的要素の描写変化と諸々の男女平等施策の制定/施行といった行政面での動向が符
合している(Ⅱ)ことに鑑みれば,そうした施策に象徴されるジェンダーに対する意識の高まり
が,シリーズ中のジェンダー的要素の描写変化に少なからず反映されていることは明らかで
あると考える。

4.「隠れたメッセージ』

これまでの分析から,少なくとも当該シリーズでは,過去30年の間にジェンダー・バラ
ンスに配慮した描写がなされてきているようにみえる。しかし,短絡的にそう結論づけてよ
いものであろうか。以下では,各作品のストーリー設定にはほとんど影響を受けないであろ
う「隠れたメッセージ」を読み解くことでその点について検証してみたい。

4.1.女性の立ち位置と紹介される名前の順番
まずは女性の立ち位置に着目したい。表3左側は,各作品での女性の立ち位置(網掛け
部分)を示したものである。なお,作品によっては立ち位置が安定しない場合もあるため,
ここではオープニングの際の立ち位置を示している。これをみると,『科学戦隊ダイナマン』
以前は女性が外側に配置されているのに対し,女性が構成員中2人体制になった『超電子
バイオマン』以降,女性が外側に配置されることは概して少なくなっていることがわかる。
ただし,先述のように『忍者戦隊カクレンジャー』や『未来戦隊タイムレンジャー』では
女性がリーダー的役割を担っているにも関わらず,本来リーダーが陣取るべき中央に配置さ
れていない。しかしこれは,中央に配置されるのは役割としてのリーダーではなく,複数の
主人公の中でも特に中心的な人物として描かれる赤色の戦士(=男性)であることが慣例と
なっていることに留意する必要があろう02)。すなわち,あくまで立ち位置からみる限り,女
性は周辺的な存在として扱われなくなったと考えることができる。

しかし,オープニングキャストで紹介される名前の順番(以下,「名前の順番」と表記)
に着目すると様相は一変する(表3左側の数字を参照)。すなわち,女性がリーダー的役割
を担っている場合にはそれに準じて名前が出る順番が早くなるが(サブリーダーがこの限り
でないことは興味深い),そうでない場合には女性の順番は概して男性の後になるのである'側)。
立ち位置の変化とあわせて論じるならば,立ち位置の変化は紹介される名前の順番とはほ
とんど関係がないのである。先に,女性の立ち位置の変化からは女性が周辺的な存在として
扱われなくなったと考えることができると論じたが,紹介される名前の順番との関連で言え
ば,女性は依然として周辺的な存在として扱われていると考えることができるのである。

4.2.女性の色

次に,女性に割り当てられる色に着目したい。こうした点についてはすでに木村(2003)
等で一部指摘はされているが,改めてその傾向を概観してみたい。表3中央は,各作品で
女性に割り当てられている色に関して,その推移をみたものである。

子ども社会研究14号

雄砺鰯
表3.女性の立ち位置と名前の順番、色、着衣

砲翻翻
女性の立ち位置と名前の順番 女性の着衣

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鷺’

園園
秘密戦隊ゴレンジャー

ジャッカー電撃隊 nr]mE"
バトルフィーバ一J nF]□、厩
電子戦隊デンジマン 函 口 □ n n E圏

闘翻図悶鰯鰯騒翻闘函闘囲翻囿囿闘配配団図

圃園園鬮騒騒鬮鬮囲翻圃鬮鬮閻囿囲閲圃園圏
太陽戦隊サンバルカン n n n

認溌溌溌鱗鰯鰯鰯畷鰯隠鬮騒鼬闘闘認翻顧

醗園園睡鬮蹴騒睡醗鎚溌囲醗闘醗閥四囲閥
大戦隊ゴーグルファイブ nn□、鱈司
科学戦隊ダイナマン 雨、□□、
超電子バイオマン 、 飼 口 鰯 D
電撃戦隊チェンジマン 鰯同□、函
超新星フラッシュマン 、鰯口鰯「]
光戦隊マスクマン 、 關 口 鰯 n
超獣戦隊ライブマン nnW"
高速戦隊ターボレンジャー 、鰯□、同
地球戦隊ファイブマン
、 鰯 口 卿 n
鳥人戦隊ジェットマン 口關口掴、
恐竜戦隊ジュウレンジャ一 口鰯□n「1
五星戦隊ダイレンジャー 同鰯口同、
忍者戦隊カクレンジャー
、n口悶同
超力戦隊オーレンジャー
同 鰯 口 悶 n
激走戦隊カーレンジャー 口糊口悶同
電磁戦隊メガレンジャー
口溺口鰯同
星獣戦隊ギンガマン 鰯同□、同
救急戦隊ゴーゴーファイブ 畷1口□nn
未来戦隊タイムレンジャー
nn口鰯同
百獣戦隊ガオレンジャー
n口□口阿
忍風戦隊ハリケンジャー n口「函
爆竜戦隊アバレンジャー nnr"
特捜戦隊デカレンジャー
、閥口阿、
魔法戦隊マジレンジヘ,一
、罰口関口
轟轟戦隊ボウケンジャー 同 閥 口 阿 n
獣拳戦隊ケキレンジャー W函口同
炎神戦隊ゴーオンジャー
n口口阿同

シリーズ第1作目の『秘密戦隊ゴレンジャー』以来,女性には桃色が割り当てられてきた。
女性が初めて桃色以外の色を割り当てられたのは,『超電子バイオマン』以降である。しかし,
先述のように『超電子バイオマン』はシリーズ初の女性2人体制となる戦隊であり,女性
2人の色彩的な面での差異化をはかる必要性から,あくまで「女性=桃色」を基本としつ

10
ジェンダー的要素はどう描写されてきたのか:葛城

つ,もう1人の女性に黄色が割り当てられたものと考えられる。女性2人体制となることで,
キャラクターを描き分ける必要性も生じてくるのであるが,固定的なジェンダー観に近いし
とやかでやさしいキャラクターには桃色が割り当てられていることは,「女性=桃色」とい
うジェンダー・バイアスが強く存在していることを顕著に示している。

こうした「女性=桃色」というバイアスからの脱却はシリーズ中で何度か試みられている。
例えば,第9作目『電撃戦隊チェンジマン』(1985年2月-1986年2月)では,桃色の女
性戦士が男勝りで活発なキャラクター,もう1人の白色の女性戦士が固定的なジェンダー
観に近いしとやかで優しいキャラクターとして描かれている。また,第1l作目『超獣戦隊
ライブマン』(1988年2月-1999年2月)では,女性には桃色ではなく,青色が割り当て
られた。しかしこうした試みは,その後10年以上にわたって引き継がれることはなかったU4)。
すなわち,これ以後10年以上の長きにわたって,「桃色」には固定的なジェンダー観が付
与され続けていくのである。
「女性=桃色」というバイアスからの脱却が再び試みられるのが,第26作目の『忍風戦
隊ハリケンジヤー』(2002年2月−2003年2月)である。この作品では『超獣戦隊ライブ
マン』同様,女性には桃色ではなく青色が割り当てられており,続く『爆竜戦隊アバレンジ
ヤー』(2003年2月−2004年2月)では,桃色ではなく黄色が割り当てられている。
続く『特捜戦隊デカレンジヤー』(2004年2月−2005年2月)以降,再び女性2人体制
になったことも関係して,女性には1人には桃色が,もう1人には黄色や青色が割り当て
られている。ただし,『轟轟戦隊ボウケンジャー』では桃色の戦士である「西堀さくら」は
クールなキャラクターであり,固定的なジェンダー観に近いしとやかでやさしいキャラクタ
ーという桃色の戦士像からは遠い存在である。むしろそうしたキャラクターはもう1人の
黄色の戦士である「間宮菜月」に近い。こうした傾向が,『電撃戦隊チェンジマン』の頃の
ように果たして一過性のものとなるのか,非常に興味深い。
これらのことから,「女性=桃色」が基本であり,女性の人数が増えた場合にはじめて黄
色や青色のような別の色が割り当てられ,しかも「桃色」に固定的なジェンダー観が付与さ
れていた時代から,「女性=桃色」を基本とせず,「桃色」に必ずしも固定的なジェンダー観
が付与されていない時代へと変遷を遂げつつあると考えることができるのではないだろうか。
しかしその一方で,女性に割り当てられる色が偏っていることには留意が必要だろう。表
からもわかるように,女性に割り当てられる色は桃色のほか,黄色,白色,青色の4色の
みである。男性に割り当てられており,女性に割り当てられていない色には,赤色,緑色,
黒色等が該当するのに対し,その逆は桃色しか該当しない。清水(2003)によれば,幼児
の色彩選好の性差について,女子は男子に比べ桃色,黄色,榿色,赤色,白色,水色を,男
子は女子に比べ青色,黒色,緑色,紺色,灰色を,統計的に有意に好むという。こうした幼
児の色彩選好傾向は,赤色を除けば当該シリーズにおいて男女に割り当てられる色と符合し
ている。

「桃色」に必ずしも固定的なジェンダー観が付与されなくなったという意味においてはジ
ェンダー・バイアスが緩和されていると考えることは可能である。しかし,女児が好きな色
と女性戦士に割り当てられる色が符合しているという事実は,当該メディアがジェンダー.

11
子ども社会研究14号

バイアスを維持・強化するものとして依然機能している可能性を示している。

4.3.女性の着衣

また,女性の着衣にも「隠れたメッセージ」が読み取れる。表3右側は各作品で女性が
主に着用している着衣に関して,その推移をみたものである('5)。肌の露出等の度合いに応じ
て「++」「+」「−」で表記しており,「十十」は「スカート」を,「+」は「ホットパンツ/
キュロットスカート」を,「一」は「パンツ/タイツ」を示している06)。
これをみると,シリーズに登場する女性のほとんどが肌の露出の多い,スカート,あるい
はホットパンツ/キュロットスカートを着用しており,肌の露出の少ないパンツ/タイツを
着用しているものはごく少数に過ぎないことがわかる。しかもその多くを,はじめて女性2
人体制となった『超電子バイオマン』からの4作品で占めている。
これについても,女性が2人体制となったことで,そのキャラクターを描き分ける必要
性が生じてきたことが関係している。すなわち,1人は固定的なジェンダー観に近いしとや
かで優しいキャラクター,もう1人は固定的なジェンダー観からは遠い男勝りで活発なキ
ャラクターという描き分け方がなされる傾向があり,これを外見からも表現するために,前
者には肌の露出の多いスカート,あるいはホットパンツ/キュロットスカートを,後者には
肌の露出の少ないパンツ/タイツを着用させていたものと推察される。また先述のように,
そもそも女性が2人体制となったこと自体,「男女雇用機会均等法」の制定の影響を多分に
受けている可能性があることに鑑みれば,女性2人ともが肌を露出していることがないよう,
女性の着衣に対しては特に強い配慮がなされていたものと推察される。
興味深いのはそれ以降の傾向である。第14作目『地球戦隊ファイブマン』(1990年3月
-1991年2月)では2年ぶりに女性2人体制に戻ったが,それ以降,パンツ/タイツは
おろか,ホットパンツ/キュロットスカートの着用はほとんどみられなくなっている。特に,
第19作目の『超力戦隊オーレンジヤー』(1995年2月-1996年2月)では,U・A(国際
空軍)という軍に所属しているという設定であるにもかかわらず,女性の制服はミニスカー
トであり,これは明らかに機能性を欠いたものであるといえる。
シリーズにおける女性は「他者に守られる存在」ではなく,むしろ「他者を守る存在」と
して描かれる。にもかかわらず,男性はズボン,女性はスカートという伝統的な価値観に添
った形で,機能面で明らかに適切でない状況においても,スカート(しかもミニの)が着用
される状況にある。スカートではなく,パンツルックの女性が描かれた時期があったことに
鑑みれば,村瀬(2000)が指摘するように,「女性性を表現した服装で戦えるということは,
女性が戦うのに必ずしも男装しなくてもよくなったということ」('7)(村瀬2000,38頁)と
考えることもできないわけではないが,女性の着衣という面では,ジェンダー・バイアスを
維持・強化するようなバックラッシュが生じていると考える方が自然ではないだろうか。

5.まとめ

以上,低年齢層の子ども,特に男児を主対象とするメディアの一事例として「スーパー戦

12
ジェンダー的要素はどう描写されてきたのか:葛城

隊シリーズ」を取り上げ,ジェンダーに対する意識の高まりとジェンダー的要素の描写変化
との関連に焦点を当てた分析を行った。

分析の結果,男女平等施策に象徴されるジェンダーに対する意識の高まりに応じて,ジェ
ンダー・バランスに配慮した描写変化がなされてきていることが確認された。しかし,そう
した配慮がなされているのは,女性の数やリーダー的役割といったストーリー設定に関わる
「わかりやすい」部分に関してであり,紹介される名前の順番や割り当てられる色,着衣と
いったストーリー設定にはほとんど影響を受けない「わかりにくい」部分に関しては,総じ
てジェンダー・バランスの配慮に欠けた旧態依然の方法が踏襲されていることもあわせて確
認された。

先に,低年齢層の子どもを主対象としたメディアでは「わかりやすさ」がひとつの命題と
なっていることに言及した。そうした意味において,ストーリー的に「わかりやすい」部分
ではジェンダー・バイアスは一貫して緩和される傾向にあるといえるが,「わかりにくい」
部分ではジェンダー・バイアスは総じて維持される傾向にあるといえる。「わかりにくい」部
分はその「わかりにくさ」ゆえに,まさに無意識のうちの「刷り込み」として機能するもの
と考えられる。こうしたダブルスタンダードとも呼びうる状況が,ジェンダーをめぐる「ホ
ンネ」と「タテマエ」を生む素地となっているのではないだろうか。
また別の角度から眺めてみると,ジェンダー・バイアスが緩和,維持されるどころか,強
化されている可能性も拭えない。近年,女性の描写に関して,本来の対象者である低年齢層
の子ども以外の,すなわち親をはじめとする青年あるいは成人男性の性的な興味関心に対す
る配慮がなされていることは想像に難くない。シリーズ放送直後から,ヒロイン的立場にあ
る女性の演者に対する人気は,既存の人気アイドルタレントとは違い,知る人ぞ知る「僕だ
けのアイドル」として高いものがあったが,オタクが社会現象となった1989年以降,そう
した傾向は特に強くなってきた。
俗に戦隊ヒロインのアイドル化と呼ばれるこの現象の走りは『恐竜戦隊ジュウレンジャ

ー』(1992年2月-1993年2月)で「メイ」を演じる千葉麗子にみることができる。千葉
は当時本格デビュー直後の現役新人アイドルである。この頃から「スーパー戦隊シリーズ」
は男女を問わず若手アイドルの登竜門的意味合いを持つようになっていった。かつては「知
る人ぞ知る「僕だけのアイドル」」であった存在が,全国区の人気アイドルの卵としての存
在へと変化していく。その過程で,女性の演者は一方で低年齢層の子どもを本来の対象者と
考えつつも,もう一方で青年あるいは成人男性の性的な興味関心に配盧する必要性が望むと
望まざるとにかかわらず生じてきたのである('勝)。
こうした背景が,先述のような女性のスカート(しかもミニの)の着用の恒常化に関係し
ているものと考えられる。例えば,『忍風戦隊ハリケンジヤー』で「野乃七海」演じる長澤
奈央はグラビア等でも活躍しているアイドルであるが,作品中では第1話ではパンツルッ
クであったにもかかわらず,第2話以後ミニスカートに変わっている。また,『轟轟戦隊ボ
ウケンジヤー』で「間宮菜月」を演じる中村知世もまたグラビア等でも活躍しているアイド
ルであるが,作品中では歴代シリーズ中もっとも短いミニスカートを着用している。これら
のことはその証左であるともいえよう。

可 へ
上。
子ども社会研究14号

また,それだけではなく,先述の描き分け方という点においても青年あるいは成人男性の
視線への配盧がうかがえる。近年,顕著にみられるのは,1人がおてんばで天真燗漫なキャ
ラクター,もう1人がしっかり者でクールなキャラクターといった描き分け方である。先
述の固定的なジェンダー観を軸とした描き分け方とは幾分異なる印象を受ける09)。
これには,ジェンダーをめぐる議論における男女の捉えられ方の変化が関係していると考
えられる。すなわち,一昔前のジェンダーをめぐる議論では,男女が対立軸で捉えられてお
り,そのため,「女性よりの女性」と「男性よりの女性」という描き分け方がなされる傾向
があった。これに対し,近年のジェンダーをめぐる議論では,男女が対立軸で捉えられるの
ではなく,男女それぞれの生き方を認め合うというように男女の捉えられ方が変化してきた。
このことがシリーズにおける女性の描き分け方に影響を及ぼしているものと考えられる。
男女の対立という軸から解放されることによって,女性の描き分け方の基準にはいくつも
のバリエーションが想定されることになるが,そのバリエーションのひとつとして,先述の
青年あるいは成人男性の視線が強く反映されることは当然に予想される。特に,近年の「萌
え」現象はこうした描き分け方に影響を与えているようであり,近年のおてんばで天真燗漫
なキャラクターには「萌え」属性のひとつである「妹系」が,しっかり者でクールなキャラ
クターには同じく「ツンデレ系」が強く反映していることがうかがえる鋤。
本来低年齢層を主対象とする子ども番組において,ヒロインがアイドル化していくことで,
主対象ではない青年あるいは成人男性層までが視聴者層の小さからぬ部分を構成していく。
これによって番組自体も青年あるいは成人男性層の視線に配盧したつくりを余儀なくされる
部分が生じてくる。特に低年齢層を対象とした子ども番組では,その視聴の鍵を握るのは親
であり,親にとっても「楽しめる」番組につくっていくことが視聴率を上げる必要条件とな
るため,こうした傾向はある面では避けられない部分もある。しかし,そうした部分にはジ
ェンダー・バイアスの構築・強化に影響を及ぼす要素が介在していることは想像に難くない。
果たしてトータルとしてみた時に,ジェンダー・バイアスは緩和されているのか,それと
も維持・強化されているのか。また本稿で得られた知見は,その他のメディアでも確認でき
るものなのか。非常に興味深い問題ではあるが,本稿の範囲を越えているため,他日を期す
こととしたい。

(1)その例として,白倉(2004)は,近年の「仮面ライダーシリーズ」では,「仮面ライダーが改造人
間である」という設定が許されないことを挙げる。すなわち,「仮面ライダーが悪の組織によって,
とりかえしのつかない手術を受けて悩むという設定は,手術をこれから受ける子どもや,術後の子
どもたちをいたずらに苦しめる。また執刀医を悪の手先として描くことは,職業差別にもつながる
という批判をまぬかれない」(白倉2004,l03頁)ためである。
(2)「主対象」と表記しているのは,後述するように,親をはじめとする青年あるいは成人層が視聴者
層の小さからぬ部分を構成しているためである。近年の子ども向け番組は必ずしも「子ども」のみ
を対象としているわけではなく,親をはじめとするそれ以外の対象を視聴者と想定して制作される
ことも少なくない。しかしその場合でも,そうした対象が子どもと一緒に視聴することが前提とさ

14
ジェンダー的要素はどう描写されてきたのか:葛城

れているため,視聴の主たる対象は,「子ども」であるといえる。
(3)正確には,第2作目『ジャッカー電撃隊』(1977年4月-12月)と第3作目『バトルフイーバ−
J」(1979年2月-1980年1月)との間には1年間のブランクが存在する。
(4)後述する『サイボーグ009』以外にも,『科学忍者隊ガッチャマン』(1972年10月-1974年9月)
の「白鳥のジュン」,『キューテイーハニー』(1973年10月-1974年4月)の「如月ハニー」に
おいて,主人公の1人,あるいは主人公として戦う女性が描かれている。
(5)『サイボーグ009』の主人公は9人であるが,そのうちの1人である「003:フランソワーズ・ア
ルヌール」は女性である。また『好き!すき11魔女先生』(1971年10月-1972年3月)では,
主人公である「かく靜や姫先生」(女性)がアンドロ仮面に変身して敵と戦う姿が描かれている。
(6)増員メンバーはいずれも男性であるため,当該戦隊の男女構成比は,表lの値よりもさらに落ち込
むことになる。

(7)ただし,第16作目『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(1992年2月-1993年2月)から第18作目『忍
者戦隊カクレンジヤー』(1994年2月-1995年2月)までの3作品,第22作目『星獣戦隊ギン
ガマン』(1998年2月-1999年2月)から『百獣戦隊ガオレンジヤー』(2001年2月-2002年
2月)までの4作品では5人の構成員中,女性1人体制が一貫して続いている点には留意したい。
(8)ジェンダーに対する意識の変化は,各種世論調査の結果や,男女の職業生活や家庭生活に関わる統
計データ,象徴的な出来事・事件等からも読み取れる。しかし,これらを網羅的に読み取ることは
非常に困難であるため,本稿では,ジェンダーに対する意識の高まりを象徴する代表的な指標とし
て,男女平等施策に着目した。
(9)「鶴姫」は,何百年にもわたって妖怪たちと戦い続けてきた先祖の血を受け継ぐ家系の24代目と
いう設定がなされている。
Ⅲこの女性は,上位の立場にある者からリーダー的役割を担うよう,放送中盤に突然命じられる。こ
の点に鑑みれば,「出自」や「能力」を根拠としない場合,そうした「お墨付き」がなければ,女
性が集団を束ねる存在として表立って描かれることは依然として難しい状況であるともいえる。
(11)ほぼ毎年なんらかの形で男女共同参画に関わる法律の制定,プランの策定,会議体の発足等がなさ
れているが,本稿で取り上げた男女平等施策は,男女雇用機会均等法にしても,男女共同参画審議
会にしても,相対的に重要度の高い施策であることは間違いない。こうした重要度の高い施策には,
ジェンダーに対する意識の高まりが特に象徴されていると考える。
(12)例えば,『電磁戦隊メガレンジャー』では,赤色の戦士(メガレッド)ではなく,黒色の戦士(メ
ガブラック)がリーダーである。黒色の戦士は男性であることから,立ち位置の問題は性別に帰す
る問題ではないことがわかる。
(13)『忍者戦隊カクレンジャー』や『未来戦隊タイムレンジャー』では,女性が紹介される順番は5人
中2番目であるし(1番目はやはり複数の主人公の中でも特に中心的な人物として描かれる赤色の
戦士),『魔法戦隊マジレンジヤー』(2005年2月−2006年2月)では,年少者から名前が紹介さ
れるため,その順番は5人中3番目と4番目である。しかし,こうした明確な序列関係が描かれ
ない作品の多くで,女性は概して男性よりも後で紹介されている。
(14)第15作目『鳥人戦隊ジェットマン』では女性に白色と青色が,第18作目『忍者戦隊カクレンジャー』,
第25作目『百獣戦隊ガオレンジャー』では女性に白色が割り当てられている。しかしそれら白色
の女性戦士は,貴重を白としつつも桃色でアクセントがつけられていることから,桃色を割り当て
られた女性の系譜に位置づけることができる。
(15)第2作目『バトルフイーバ−J』,第8作目『超電子バイオマン』では女性戦士の交代がなされたが,
ここでは交代前の演者の着衣について示している。また,作品によっては着衣にいくつかのバリエ
ーションが存在するが,ここでは作品内でもっとも一般的に着用されていたものを想定している。

1頁
ム ジ
子ども社会研究14号

(16)なお,ここでいう「スカート」とは基本的に膝上よりも短い丈のものを想定しているが,『忍者戦
隊カクレンジャー』で唯一みられたロングスカートもここに分類している。
(17)村瀬(2000)によれば,「エリートのキャリア女性が「男並み」ファッションを志向していたの
は雇用機会均等法の前まで」であり,「肩パッドの入ったメンズ仕立ての服に身を包み,さっそう
と歩くというキャリア女性のイメージは八○年代半ばにはすでに時代遅れになった」(村瀬2000,
85頁)という。
08)例えば『特捜戦隊デカレンジャー』では,女性演者がメインで活躍した回には,通常とは別のエン
ディングテーマが用意されていたし,放送中盤には女性演者2人で『特捜戦隊デカレンジャーヒロ
イン写真集JASMINE&UMEKO」(2004)という写真集も出版されている。こうした試みはシリ
ーズ史上初めてのことである。なお,女性演者2人がメインで活躍した第l7話「ツインカム・エ
ンジェル」は当該作品において最高視聴率を記録している。
(19)例えば,『特捜戦隊デカレンジャー』では「胡堂小梅」が前者,「礼紋茉莉花」が後者に,『轟轟戦
隊ポウケンジャー』では「間宮菜月」が前者,「西堀さくら」が後者にあたる。
剛『激獣戦隊ゲキレンジャー』のメインライターである横手美智子は「ラン(当該戦隊の唯一の女性
戦士)のキャラクターも決まるまでは難航しましたね。いわゆる「ツンデレ」系にいきそうな流れ
もあったんですが,今さら「ツンデレ」でもないだろうと(笑)」(東映ヒロインMAXVo1.5,44頁)
と述べている。このことは,それ以前の戦隊シリーズに「ツンデレ系」を含む「萌え」属性が反映
されてきたことを逆説的に示唆している。

引用文献

井上輝子(1990)「メディアの性役割情報と子どもの自我形成一大学生の自己回想記分析一」女性学研
究会編『女性学研究』第1号,42-62頁。
木村涼子(2003)「女性キャラはなぜ1人?−アニメやマンガにおけるジェンダー」天野正子・木村涼
子編『ジェンダーで学ぶ教育』世界思想社。
諸橋泰樹(1993)『雑誌文化の中の女性学』明石書店。
村瀬ひろみ(2000)『フェミニズム・サブカルチャー批評宣言』春秋社。
斉藤美奈子(1998)『紅一点論一アニメ・特撮・伝記のヒロイン像一』ビレッジセンター出版局。
清水隆子(2003)「幼児の色彩選好と親のジェンダー意識一ピンク色選好にみられるジェンダー・スキ
ーマー」『早稲田大学大学院教育学研究科紀要別冊』l1号,87-95頁。
白倉伸一郎(2004)『ヒーローと正義』寺子屋新書。
『スーパー戦隊画報第2巻』(2006)竹書房。
『東映ヒロインMAX」Vol.5(2007)タツミムック。

ユ6

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