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よくわかる特殊相対論

前野昌弘

令和 6 年 2 月 8 日

東京図書株式会社
R 〈日本複写権センター委託出版物〉
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はじめに

1 本書について

「これから物理を勉強するぞ!」と思っている物理学徒は、
「相対論」という名
前に独特の憧れを込めたイメージを持っていることが多いように思う。著者は
中学生の頃に都筑卓司氏の講談社ブルーバックス「4次元の世界」などを読み
漁って特殊相対論の世界に入門したのだが、その時も、「時間や空間が伸び縮み
する」とか「4 次元時空の理論である」など、漏れ伝え聞く「相対論」のイメー
ジにわくわくしながら本を手に取った。「相対論がわかるようになったら素晴ら
しいに違いない」のような漠然とした期待を持っていた。
一方でその時には「相対論というのはむちゃくちゃ難しいものだ」という
気持ちもあって理解できるか不安だった。実は特殊相対論の基幹部分である
ローレンツ
「Lorentz変換」は難しい計算もなく、ほぼ図解で理解できる(中学生でも可能
†1
だ )。自分が中学生のときを思い出しても、Lorentz 変換がどういうものか、
†2
相対性とはどういうことなのか、などについては図解と簡単な数式 で理解で
きたと思う。あのときは「あれ、意外と簡単だ」と思ったものだ。特殊相対論の
この段階までを理解するのに必要なのは柔軟な思考であって計算力は二の次で
ある。その「意外と簡単」な部分は本書で言うと第 4 章からなので、「相対論の
→ p60

不思議なところをまず知ってわくわくしたい」という人はまずは第 1 章で雰囲
→ p1

†1
実際、本書に QR コードを載せたり、サポートページからリンクしてあったりする特殊相対論を理解
するためのアプリは、小中学生向けに相対論を理解してもらうために作ったものだ。
†2 1
e= q
Lorentz 変換の本質は、 x (x − vt) 程度の数式にひるまない数学力があれば理解で
1− v2
c2

きる。理解の邪魔をするのは「そんなこと起こるわけないでしょ」という固定観念である。
iv

気をつかんでから第 4 章へと読み進めてもよい。とりあえず計算をガリガリや
らずに相対論の不思議さを感じるにはよい方法であろう。第 3 章は電磁気学に
→ p36

ついてなのだが、「電磁気学は苦手なので後に回したい」という人も多かろう。
そういう人は、付属のアニメーションアプリを使いつつ、第 4 章、第 5 章という
→ p60 → p97

順で読み進んでいけば、偏微分などの大学数学を使わないルートで特殊相対論
†3
を理解していくことができると思う 。最終的にはもちろん、電磁気学も含め
た理解に達して欲しい。
本書のメインターゲットは「大学などで物理を本格的に勉強する(そのために
特殊相対論も勉強する)人」であるので、前提として読者は力学と電磁気学の知
識は少しはあるものとする(足りないと思った部分は他の本などで補完して欲
しい)。微分や偏微分の計算、および行列の計算にもある程度慣れているものと
†4
する 。
「意外と簡単」と思ったとはいえ、当時の私は特殊相対論の重要な部分を理
解できてなかった。それは特殊相対論と電磁気学との関わりである。なぜこ
れが重要な部分かというと(詳しい説明はもちろん本文の中で行うのだが)
マックスウェル
電磁気学は特殊相対論を含んでいる からである。電磁気学の本質はMaxwell
方程式という偏微分方程式で表現されている。そしてその方程式こそが、特殊
相対論の理論体系の大事なパーツなのだ。逆に電磁気学は相対論的な考え方な
しには不完全であり、 電磁気学は特殊相対論なしには完結しない とも言える。
以上のことをわかってもらうために、本書では電磁気学的現象を深めに取り上
げている。電磁気学の中で相対論的考え方が必要になった経緯は第 3 章で示し
→ p36

たし、第 9 章以降ではより深く電磁気学と相対論の関係を述べている。さらに
→ p184

第 10 章以降では入門的な本ではあまり触れられていない電磁気学と特殊相対論
→ p229

についての話題を説明した(この部分は少々難しい部分になる)。
電磁気学は物理のなかでも(一つには力学と違って眼に見えないことから、も
う一つには偏微分方程式を解く作業のややこしさから)「難しい、わからない」

†3
「よくわかる初等力学」と「よくわかる電磁気学」を中学生が読んでいるところは目撃したので、それ
ができる中学生なり高校生なりが本書に挑戦したってもちろんいい。若者が背伸びするのは良いことだ。
†4
行列については第 2 章の 2 次元、3 次元の座標変換のところで(4 次元時空のためのウォーミングアッ
→ p11
プとして)少し使う。偏微分は第 3 章では電磁気学の理解のために必要となる。どちらも第 4 章より後ろ
→ p36 → p60
では本格的に使っていく。よって上で述べた「まずは第 1 章で雰囲気をつかんでから第 4 章へ」の読み方
→ p1
をするときにはとりあえず「行列と偏微分は後から勉強」ということにしておいても構わない。
2 アニメーションについて v

と言われがちな学問である。だが、そこを理解してこそ、特殊相対論の意義がわ
かってくる。電磁気学との関連を知り、その面白さを知りながら特殊相対論を
勉強して欲しいと思う。

2 アニメーションについて

物理学徒には「数式の方が理解できる人」と「図解の方が理解できる人」がい
るようである。本書ではその両方に対応すべく図解を多用しているが、さらに
「動く図解」も用意している。
本書で使っている図などがインタラクティブなア 相対論を理解する

ニメーションアプリとして利用できる。本書サポート
ページからリンクする形で収録されているので、学習
の手助けにしてほしい。
本書の何箇所かに、右のような QR コードをつけてい
るので、これを使ってアクセスすれば対応するアプリを
実行することができる。QR を読み取る以外の方法とし SRBasic/index

ては、QR コードの下についている文字列(今の場合では
SRBasic/index)を 「http://irobutsu.a.la9.jp/
としたとき、 .html」
(今の場合では「http://irobutsu.a.la9.jp/SRBasic/index.html 」)にアクセス
すればよい。

3 本書での書き方のルール

本書では、少しだけ世間の他の本とは違う表記方法を使っているところがあ
†5
るので、その点をここでまとめておく 。
アインシュタイン
まず、相対論でよく使われる「 Einstein の規約」を使う場合に「線でつなぐ」
という記法を採用している(詳しい内容は p29 を見よ)。
文中に式を書くときは F = ma のように四角でくくって目立つようにした
これは間違い

が、間違えた式をあえて書くときは F = mv のように灰色の背景とした。こ

†5
とはいえ、あまり新奇な書き方をすると他の本を読むときに困るかもしれないので「世間での表記の仕
方」から大きく逸脱しない程度に変えてあるつもりである。
vi

の枠が出てきたら「間違った式だぞ」と注意して欲しい。
微分を表現する d はイタリック体(d)ではなく立体 d を使い、 のように
微分されている文字とつなげて書く。これは を「d × x の掛算記号が省略さ
†6
れたもの」と勘違い しないように、という老婆心からである。誤解を受けそう
な表記はなるべく減らしたい(しかしあまり従来のものと違う表記を使うのは
†7
はばかられる)のでこの書き方を採用している 。
†8
関数の括弧は、(掛算の括弧と区別が付くように )f (x) のように、薄い灰色
で書き、少しだけ小さい文字にする。
0 1 2 3
本書では四つの変数 x = ct, x = x, x = y, x = z の関数が頻出するが、

。∗ は 0, 1, 2, 3 のどれかが入るという意味で、{x } が
†9
それを f ({x∗}) と書く
ct, x, y, z (あるいは x0 , x1 , x2 , x3 )の省略形と思ってほしい。
f (x(t)) のような関数を t で微分するという操作を行うとき、「まず f (x) を x で
微分してから、 を掛ける」という操作を行うものだが、このとき最終結果は

x(t) の関数(つまり t の関数)だから「x に x(t) を代入する」という操作が必要


になる。この操作を本書では f (x) と表現 (多くの本では f (x) x=x(t)
と書いてい
x=x(t)

るが横幅が小さくなる表記を選んだ) して、

d (x) (t)
(f (x(t))) =

x=x(t)

と表現することにした。
以上を約束として、本編に進もう。

これは間違い

†6 dx x
「そんな奴はいねぇ!」と言いたくなる気持ちはわかるのだが、実際 = という計算をする人
dt t
x
はいる。まぁそういう人は、 と書いてあったって にしちゃうかもしれないのだが。
t
†7
偏微分記号は単独で ∂ が使われることはないので誤解は少ないだろうと判断し、つなげてない。
これは間違い

†8 d
これも「そんな奴はいねぇ!」という声が聞こえてきそうだが、 f (x) = f (1) という式を見た

ことがある。まぁそういう人は f (x) と書いてあったって(以下略)


†9
多くの本で f (ct, x, y, z) を f (x) とか、f (xµ ) などと省略するが、この表記では f (x) は ct, x, y, z の関
数なのか、x だけの関数なのか判別できない。たいていの場合文脈でわかるからよしとされている。
目 次

はじめに iii
1 本書について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ iii
2 アニメーションについて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ v
3 本書での書き方のルール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ v

第 1 章 相対論への動機 1

1.1 「相対論的」な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1


1.2 電磁気学での「絶対空間」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.3 特殊相対論の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

第 2 章 座標変換と運動方程式 11

2.1 座標系 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11


2.1.1 基準系と座標系
2.1.2 座標
2.1.3 次元
2.1.4 1 次元空間の座標変換
2.2 Galilei 変換と力学の法則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
2.2.1 Galilei 変換
2.2.2 速度、加速度の Galilei 変換と運動方程式の不変性
2.2.3 「慣性系」の定義
2.2.4 絶対空間に対する Mach の批判
2.3 光の伝搬と Galilei 変換 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
ii 目 次

2.4 2 次元の直交座標の間の変換 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24


2.5 添字を使った表現 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
2.6 運動方程式を不変にする 3 次元の座標変換 ・・・・・・・・・・・・・・ 33
2.7 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

第 3 章 電磁気学の相対性 36

3.1 電磁気学の疑問 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36


3.1.1 電磁波は静止できるのか?
3.1.2 電磁誘導の疑問
3.2 Maxwell 方程式を Galilei 変換すると? ・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
3.2.1 座標系の設定
3.2.2 Hertz の方程式を導出
3.3 エーテル—絶対静止系の存在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
3.4 Hertz の方程式の実験との比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
3.4.1 Röntgen-Eichenward の実験
3.4.2 Fizeau の実験
3.5 Trouton-Noble の実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
3.6 Lorentz の考えから Einstein の相対性理論へ ・・・・・・・・・・・・・ 53
3.7 導線のパラドックス:電流に追いつく ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
3.8 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58

第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ 60

4.1 光速不変性を満たす座標変換 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60


4.1.1 特殊相対性原理
4.1.2 基準系の満たすべき条件
4.1.3 Lorentz 変換が線形変換であること
4.1.4 Lorentz 変換の導出
4.1.5 係数の決定
4.2 Lorentz 変換の式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
4.2.1 ここまでの結果のまとめ
4.2.2 任意方向に進む光の速さが不変であること
4.3 図解から Lorentz 変換を求める ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70
目 次 iii

4.3.1 同時の相対性の図解
4.3.2 時空図グラフで考える Lorentz 変換
4.4 光速不変から導かれること—Lorentz 短縮 ・・・・・・・・・・・・・・ 78
4.5 光速不変から導かれること—ウラシマ効果 ・・・・・・・・・・・・・・ 81
4.6 一般の方向の Lorentz 変換 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88
4.7 Lorentz 変換の別の導き方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92
4.8 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96

第 5 章 Lorentz 変換と物理現象 97

5.1 速度の合成則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97


5.1.1 一直線上の速度の合成
5.1.2 速度が一直線上でない場合
5.1.3 Fizeau の実験の解釈
5.2 相対論的因果律 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 102
5.3 光行差 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 104
5.4 Doppler 効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 107
5.5 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 111

第 6 章 Minkowski 空間 113

6.1 4 次元の内積と距離 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113


6.1.1 4 次元距離と広い意味の Lorentz 変換
6.1.2 4 次元的距離の流儀
6.1.3 時間的/空間的
6.1.4 Minkowski 計量
6.1.5 4 次元的距離で理解する Lorentz 短縮とウラシマ効果
6.1.6 世界線の長さと固有時
6.2 不変性と共変性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120
6.2.1 スカラー
6.2.2 共変ベクトルと反変ベクトル
6.2.3 テンソル
6.2.4 共変な式
6.3 Lorentz 変換のテンソルによる表現 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129
iv 目 次

6.4 4 元ベクトル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132


6.5 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 136

第 7 章 パラドックス 137

7.1 双子のパラドックス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137


7.2 2 台のロケットのパラドックス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 144
7.3 ガレージのパラドックス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 148
7.4 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 150

第 8 章 相対論的力学 151

8.1 Newton 力学を特殊相対論的に再構成する ・・・・・・・・・・・・・・ 151


8.2 4 元速度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 153
8.3 4 元加速度、4 元運動量と 4 元力 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 155
8.3.1 4 元加速度
8.3.2 4 元運動量
8.3.3 4 元力
8.3.4 力の Lorentz 変換と Trouton-Noble の実験
8.4 質量の増大? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 163
8.5 運動量・エネルギーの保存則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 166
8.6 質量とエネルギーが等価なこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 169
8.6.1 非相対論的力学における「質量の保存則」
8.6.2 相対論的力学における質量の変化と結合エネルギー
8.7 直角テコのパラドックス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 177
8.8 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 181

第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述 184

9.1 電磁場の Lorentz 共変な表現 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 184


9.1.1 ポテンシャルを使って書いた Maxwell 方程式
9.1.2 ベクトル・ポテンシャルの 4 元ベクトル化
9.1.3 テンソルで書いた Maxwell 方程式
9.1.4 双対テンソル
9.2 cρ が 4 元電流密度の第 0 成分であることの確認 ・・・・・・・・・・・ 195
目 次 v

9.2.1 cρ が Lorentz 変換を受けること


9.2.2 運動する立方体の電荷密度
9.2.3 1 個の荷電粒子と電流密度
9.2.4 曲線運動をする電荷
9.2.5 複数個の荷電粒子と電流密度
9.2.6 電荷の連続の式
9.3 テンソルで書いた Maxwell 方程式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 205
9.4 Lorentz 力の導出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 208
9.5 電場・磁場の Lorentz 変換 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 210
9.5.1 4 元ポテンシャルの変換から
9.5.2 電磁場テンソルを使う方法
9.6 静電場を Lorentz 変換する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 215
9.6.1 点電荷の電場の Lorentz 変換
9.6.2 Trouton-Noble の実験の計算
9.7 静磁場を Lorentz 変換する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 218
9.7.1 直線電流の Lorentz 変換
9.7.2 導線のパラドックスを解く
9.8 Fµν の幾何学的意味 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 222
9.9 ゲージ変換 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 226
9.10 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 227

第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル 229

10.1 真空中の電磁気学におけるエネルギーと運動量 ・・・・・・・・・・ 229


10.1.1 テンソルを使わずに
10.1.2 4 次元テンソルの表現に直す
10.1.3 エネルギー運動量テンソルの定義
10.2 粒子のエネルギー・運動量テンソル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 239
10.3 応力テンソル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 242
10.3.1 運動量の連続の式
10.3.2 物体の移動による運動量の流れ
10.3.3 力による運動量の流れ
vi 目 次

10.4 角運動量テンソル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 248


10.4.1 角運動量テンソルを定義する
10.4.2 応力テンソルで考える直角テコのパラドックス
10.5 応力テンソルと電磁力の関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 251
10.5.1 点電荷の受ける静電気力
10.5.2 電流と外部磁場
10.6 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 255

第 11 章 相対論的電磁気学に関する話題 256

11.1 荷電粒子のまわりの電磁場のエネルギー・運動量 ・・・・・・・・・ 256


11.1.1 点電荷の作る電磁場のエネルギー・運動量
11.1.2 エネルギーの積分
11.1.3 運動量 ×c の密度の積分
4
11.1.4 問題の解決
3
11.2 媒質中の相対論的電磁気学 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 263
11.2.1 3 次元記法での媒質中の電磁気学
11.2.2 4 次元記法で考える
11.2.3 運動する分極は磁化を持つ
11.2.4 運動する磁化は分極を持つ
11.2.5 運動する媒質中の関係式
11.2.6 Röntgen-Eichenward の実験の考察
11.3 電磁輻射と Green 関数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 275
11.3.1 3 次元空間のラプラシアンの Green 関数
11.3.2 3 + 1 次元時空のダランベルシアンの Green 関数
11.3.3 運動する荷電粒子による電磁場
11.4 等加速度運動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 285
11.5 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 288

おわりに 289

付録 A Michelson-Morley の実験 290

A.1 実験の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 290


目 次 vii

A.2 実験の目論見としての計算 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 291


A.3 古い意味の Lorentz 短縮 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 294
A.4 章末演習問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 295

付録 B 数学的補足 296

B.1 ベクトルと行列 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 296


B.1.1 基底ベクトルとベクトルの表現
B.1.2 行列の積
B.1.3 直交座標と極座標の関係
B.1.4 一般座標における運動方程式
B.2 デルタ関数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 301
B.2.1 定義
B.2.2 性質と公式
B.2.3 デルタ関数の微分
B.2.4 3 次元のデルタ関数
B.3 Levi-Civita の記号 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 308
B.3.1 定義
B.3.2 公式
B.3.3 Levi-Civita 記号の用途
B.3.4 変換性
B.3.5 4 次元の Levi-Civita 記号

付録 C 練習問題のヒントと解答 312

C.1 ヒント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 312


C.2 解答 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 316

索 引 333
viii 目 次

 
[Web サイトからのダウンロードについて]

●章 末 演 習 問 題 の ヒ ン ト と 解 答 は web サ イ ト に あ り ま す 。こ れ ら の ダ ウ ン
ロ ー ド 、お よ び 関 連す るシ ミ ュ レ ー シ ョ ンア プリ の 閲 覧 は 、本 書 サ ポ ート
web(http://irobutsu.a.la9.jp/mybook/ykwkrSR/) から行ってください。

●本文中で参照している章末演習問題のヒントと解答のページは、本文のページ
と区別するため、15w のようにページ番号の後ろに w が付いています。
 
第 1 章

相対論への動機

なぜ特殊相対論が必要なのか? —について述べておこう。

1.1 「相対論的」な考え方

相対論には特殊相対論と一般相対論があり、本書で扱うのは特殊相対論の方
であるが、「特殊」とつくから難しいと思ってはいけない。物理ではしばしば、
「一般」の方が「特殊」より難しい。相対論の場合も同様で、特殊相対論の方が
圧倒的に簡単である。
「相対論」とは、どのような学問なのか。「相対」の反対は「絶対」である。相
ニュートン
†1
対論は「絶対論」の否定として生まれた。この場合の絶対とは、Newton の言
う「絶対空間」の「絶対」である。Newton は Newton 力学を作るとき、宇宙に
†2
は基準となる座標系 が存在していると考えた。その特別な座標系が張られた
空間を絶対空間と呼ぶ。
Newton より少し前に、地球を中心とし、太陽がその回りを回っている「天
動説」から、太陽を中心とし、地球がその回りを回っている「地動説」への変
コペルニクス
換(Copernicus的転回と呼ばれる)があった。これは、当時の人が考えてい
た「絶対静止」の原点が地球から太陽へと移動したことに対応する。この「地球
が静止している」という考えは間違いではあるが、当時の感覚では至極当たり前
であった。今では太陽は銀河系に属し、銀河系は回転している(銀河中心から見

†1
Newton は力学の祖である、イギリスの物理学者。 フレーム
†2

後で違いを説明するが、ここの「座標系」は、正確には「基準系」
→ p11
2 第 1 章 相対論への動機

れば太陽は移動している)し、さらに銀河系全体もグレートアトラクターと呼ば
†3
れる大質量天体 に向かって落下しているという話もある。もはや絶対静止の
原点は太陽ではなく、銀河系の中心ですらない。だからと言って、グレートアト
ラクターが静止していると考えればよいわけでもない。
「静止している中心」が時代とともに更新されていった結果わかったのは、
「絶
対静止」を考えても意味がない(あるいは絶対静止があったとしても我々には検
出できない)ということだ。つまり、

絶対静止の否定

「自分は絶対静止している」と主張できるものなどない

が相対論の主張するところである。
ここで、「この宇宙の中で誰から見ても『こいつは静止している』と認めるこ
とができるものは存在しうるか」という問題を考えてみよう。
話を簡単にするため、宇宙には地球とその表面の物体しかなく、地球は自転
も公転もしていないとしよう。この孤独な地球の上にあなたが住んでいて、今
電車に乗っているとする。電車が加速も減速もせず曲がりもせずにスムースに
走っている時、電車の中であなたがする行動(本を読んだりあくびしたり、ある
いは電車がすいていればキャッチボールだってできる)は、家の中での行動と同
†4
じように、何の支障もなくできるはずだ 。

それとも
電車が動いているのか、
宇宙全体が逆向きに動いているのか

(
宇宙が止まっていて、電車が等速運動している
この現象を の
電車が止まっていて、宇宙全体が逆向きに等速運動している

†3
グレートアトラクターは、約 2 億光年向こうにある正体不明の天体で、我々の銀河系を含め、近くの天
体はこの天体に向かう移動速度成分を持つ。
†4
電車が揺れている、などと言うなかれ。それは加速減速のうちだから、今はないとしている。
1.1 「相対論的」な考え方 3

どちらの考え方で捉えるかは、自由である。どちらで考えても、電車内で起こる
物理現象は矛盾なく記述できる。ゆえに、どっちが静止しているのか、判断する
方法はない。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
誤った考え

電車はモーターで動かしているから動くのでは? —だれも宇宙を動かし
てないが??

と思う人もいるかもしれない。だがそう思った人は、絶対とか相対とか言う前に、
Newton 力学の理解が足りない。物体が動くのに、力はいらない †5 。物体の運動を変
化させる時(加速度がある時)に力が必要なのだ。
なお、実際の電車は等速運動しているときにもモーターの力が必要だが、それは摩
空気抵抗など

擦・空気抵抗などの運動を妨げる力を のように打ち消すためである。電

モーターの力

車が止まっている立場でなら、「電車が静止し続けるためには摩擦・空気抵抗などの力
をモーターの力で打ち消さなくてはいけない」と考えるべきだ。
こう聞いても「納得できない。電車は動いて地球が止まっているという立場しか有
り得ない」と考える人は、もう一度運動方程式の持つ意味を勉強し直すことを勧める。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

空気抵抗などを無視して考えるなら、宇宙の全てが整然とある向きに等速運
動している限り、誰も力を出す必要はない。力が必要なのは、「運動の変化」が
あるときである。次ページの図 A と図 B は、どちらも「モーターの力」によっ
†6
て電車の運動の変化 が起こった様子を時間変化を縦軸(下が過去、上が未来)
†7
にして表現したものである 。

†5
「物体が運動していたら、そこには力がはたらいている」というのは、物理教育の世界では有名な「誤
概念」で、「MIF 誤概念」(MIF は「Motion implies a force」の略)という名前が付けられている。
†6
「作用・反作用の法則があるから、地面(地球)の運動も変化するのでは?」と思った人もいるかもし
24
れない。実はその通りである。しかし地球の質量(約 6 × 10 kg)が大きすぎるので、その変化は観測
できないほどに小さい。次ページの図は地球は静止か等速直線運動しているように描かれているが、実際
の地球は極々少しだけ速度変化を起こしている。
†7
このような時間を縦軸にしたグラフが本書では頻出する。漫画などでは使われる「上が過去、下が未
来」と上下が逆順だが、相対論で使う図の時間経過はこのように配置する。
4 第 1 章 相対論への動機

図A 図B

モーターの力
時 モーターの力



静止している地球の上で、 左へ動いている地球の上で、
電車がモーターの力で加速して 電車がモーターの力で減速して
右に動き出した。 静止した。

ある時刻で一瞬「モーターの力」が働いて電車が加速または減速する。
(
図 A では電車の変化「止まっている→右に動く」に力が使われる。
図 B では変化「左に動く→止まっている」に力が使われる。
どちらも、物理的に正しい現象である。力は図の右向きであり、
(
図 A では「右向きの速度を増やす」ことに
使われている。
図 B では「左向きの速度を減らす」ことに
運動方程式を使って、ここで出てきた
「運動の変化」について考えてみよう。

電車は 左図の運動は地球静止の立場では
動き出した 静止している電車 (質量 m) が ∆t 秒の間
F の力を出して地面を押し、同じ大きさ

間 力! の力で地面から押し返された。電車の速

過 度は V になったとすると、運動方程式は
次のようになる。

V −0
地球も F =m (1.1)
電車も ∆t
止まってる。 と解釈される。
1.1 「相対論的」な考え方 5

一方、同じ運動を、速さ V で右に動き
ながら観測したとしよう。すると、今度
は最初電車が左に速さ V で走っているこ
電車は とになる。この場合の解釈は、
止まった 地球も電車も、最初 −V の速度で走っ

間 ていた (マイナス符 号は逆向きを表

過 力!
す)。大きさ F の力が ∆t 秒の間働い
たので、電車は静止した。

0 − (−V )
F =m (1.2)
∆t
地球も
電車も という式が成立している。
動いている
となる。この二つの記述を表す式は結局
は同じ式(1.1)と (1.2) となる。つまりどちらの状況でも運動方程式は成立する
→ p4

から、どちらを正しいかを問うことに意味はない。どちらも正しい のである。
どちらの記述でも同じになる理由は、運動方程式が「加速度」すなわち「単位
時間あたりの速度の変化」で書かれていて、速度そのものには無関係だからであ
る。また、もう一つ、Newton の運動の第 1 法則(慣性の法則)も「力を及ぼさ
れていない物体は静止するか等速直線運動を続ける」というものだから、「何が
静止しているか」を判定することはできない。
この事実は、たいへんありがたいことでもある。力学の問題を解く時、いちい
ち「静止しているのは何なのか」を見定めなくてはいけないとしたらどうだろ
う? — 運動方程式をたてるたびに、地球の自転公転、太陽の固有運動、銀河系
の回転、銀河系の運動を全部考慮に入れなくてはいけないなんて、とてつもなく
†8
めんどうなことになる 。そういうことを気にせずに「座標原点を床の上に置
いて」などと適当な位置に原点を設定し、その原点がどんな運動をしていたかを
気にしないで問題を解くことができるのは、運動方程式が加速度で書かれてい
るおかげである。
逆にこのありがたい性質のおかげで「地球は太陽の周りを回っている」が直観

コリオリ
†8
厳密に考えると、自転公転などの回転運動は「遠心力」や「Coriolisの力」などの効果を生むので、考
慮する必要がある。
6 第 1 章 相対論への動機

†9
的に納得しづらいものになっている 。天動説から地動説への転換の時、「太陽
が動いているのではなく、地球が動いている」という事実が事実として確立され
るまでに長い時間がかかったことを考えてみれば、二物体が相対的に運動して
いる時、ほんとうに運動しているのはどっちかを認識するのがいかに難しいか
がわかるだろう。より厳密に言えば、「太陽・地球」系で動かないといっていい
†10
のは太陽でも地球でもなく、この二つの重心である 。Newton は太陽でも地
球でもない、絶対静止の基準となる空間があるとする仮定のもとに Newton 力
学を作った。しかし実際には、Newton 力学の成立のために絶対空間の仮定は
必要ない。宇宙全体が平行に等速運動していたとしても、我々には力学的にそ
れを知る手段がないからである。より詳細な、数式を使った考察は次章からに
回すが、とにかくここまででわかることは、力学においては「絶対空間」は存在
していないらしい、ということである。

1.2 電磁気学での「絶対空間」

19 世紀終わり頃、物理学者は力学に「絶対空間」がないことには気づいてい
たが、電磁気学には「絶対空間」があるのではないかと考えていた。光が電磁波
マックスウェル
(電場と磁場の波)であることは、Maxwellが彼の名のついている四つの方程式
(詳しくは後で示す)から導き出した。
→ p37

Maxwell は彼の方程式を解くことにより、電場と磁場が波となって進行する
ことを導いたのだが、その波の速さを求めると、真空中での電磁波(光)の速さ
c そのもの †11 だとわかった。
したがって、
「Maxwell 方程式が正しい(実験的に確認されている)」は「電磁
波(光)の速さが c である」を保証することになる。
この電磁気に関する物理法則(具体的には Maxwell 方程式)には絶対空間が
あるのか? —という問題を考えてみよう。
ガリレイ
†9
慣性の法則を発見したGalileiが地動説をとったことは偶然ではない。彼は慣性の法則を知っていたか
らこそ安心して地動説を取ることができた。
ティコ・ブラーエ
†10
Tycho Braheは地球が静止して太陽がその周りを回り、その太陽の周りを地球以外の惑星が回るモデ
ルを唱えていたと言う。「地球が動いているとしたら、星の位置が変化するはずだ」と考えたからである。
この星の位置の変化は「年周視差」と呼ばれ、後に発見された。
†11
Maxwell の時代にはここまでの精度で知られていたわけではないが、c の値は 299792458 m/s であ
る。現在は c の値がこうなるように長さの単位メートル(m)が決められているので、この値は確定した
数字(整数)である。それ程に、現代における真空中の光速の測定は精度高く、かつ信頼されている。
1.2 電磁気学での「絶対空間」 7

音は、波であるという点では光と同じであるが、運動している人が見た場合と
静止している人が見た場合で速度が違う。通常、音の媒質である空気が静止し
ている時に観測される速度を「本当の音速」と考え、空気に対して動いている人
の観測する音の速さは「みかけの音速」として扱う。

に見える に見える

上の図の V が「本当の音速」、V ± v が「みかけの音速」である。


風速 「人が空気に対して動いている」という状況
は、空気が止まっていて人間が動いても(上の
図の状況)、人間が止まっていて空気が動いて
も(左の図の状況)同様である。前者では「音速が速くなったり遅くなったりし
ているように感じる」だけだが、後者では実際に速度が変化している。
音はこのように「本当の音速」「みかけの音速」があるのなら、光もそうであ
ろうかという疑問が生じるのは当然である。Maxwell 方程式に隠れている光速
がいわば「本当の光速」で、動きながら観測すると、それは「みかけの光速」へ
と変化するのか?
もし、動きながら観測すると光速が変化するのだとすると、その「動きなが
ら観測している人」にとっては、Maxwell 方程式は成立していないことになる
(Maxwell 方程式は必然的に光速 c を導くのだから!)。
19 世紀の物理学者たちは、音という波が空気という媒質の振動であるように、
†12
光(=電磁波)にも振動する媒質があると考え、それを「エーテル 」と呼ん
でいた。
となれば、光も「エーテルに対して動いている人」すなわち「エーテルの動き
を感じる人」が観測すれば「みかけの光速」になるのではないかと考えるのは
当然である。次の図に示したように地球が静止したエーテルの中を動いている
のだとすれば、地球上にいる人(この人にとっては地球は静止)は「エーテルの
風」を受けていることになる。
アリストテレス
†12
「エーテル」は麻酔薬のエーテルとは同じ名前だが別ものである。古代ギリシャの哲学者Aristoteles
(Aristotle と表記することもある)が天を満たしている元素がエーテルであると言っていたのにちなんで
いる。ちなみに「エーテル」の綴りは Ether または Aether で、英語読みだと「イーサ」。ネットワーク
のイーサネットの「イーサ」はエーテルが語源である。
8 第 1 章 相対論への動機

に見える に見える エーテルの風速

静止しているエーテル 静止している地球
の中で動いている地球

そこで、この「エーテルの風」を検出しようという試みが行われたのだが、そ
の企てはことごとく失敗し、電磁気学にも「絶対空間」がない(あるいはあって
†13
も検出できない)ことがわかった 。
絶対空間がないということは、「Maxwell 方程式はどんな立場でも成り立つ」
という安心感を与えてくれるという意味では、ありがたいことだとも言える。言
えるのだが、直観的に理解しやすい音の場合に比べ「なぜこうなるのか?」と疑
問を感じさせることでもある。
アインシュタイン
光速以外にもう一つ、Einstein が疑問としたのは電磁誘導をどのように解釈す
るかである。Einstein の考察した現象とは少し違うが、以下の現象を考えよう。
磁石にコイルを近づける(右の図
コイルが動く 磁石が動く
の「コイルが動く」)、あるいはコイ
ルに磁石を近づける(右の図の「磁
石が動く」)、どちらを行ってもコ コイルは静止
電流 電流

イルには電流が流れる。この二つ
磁石は静止

の現象は、「相対的に」考えるなら この人は静止

ば、全く同じだ。

というのは、
「コイルが動く」図 は、コイルと同じ速さで同じ向
電流

磁石は静止

きに動いている人 がみれば、まさに「磁石が動く」図 コイルは静止


だか
電流

らである。
しかし電流の発生する原因の解釈は同じではない。
「磁石が動く」の場合、電流が流れる理由は、「 磁束密度の時間変化によって
†13
どのようにしてわかったのか、詳しい内容は第 3 章および付 録 Aで解説する。とにかく、絶対空間は
→ p36 → p290
検出できなかった。
1.3 特殊相対論の必要性 9


⃗ =
rot E ⃗ = − ∂ B の右辺が 0
̸ 0 の誘導電場が発生したから」つまり、「 rot E
∂t
ではないから、左辺も 0 ではない」である。
一方、
「コイルが動く」の場合、電流が流れる理由は「 磁場中を電子が下向き
ローレンツ
†14
に動いたので、Lorentz力 によって電子が動かされたから」である。このと

∂B
⃗ は変化しないから、
きある場所の磁束密度 B = 0 である。つまり電場の
∂t
rot は 0 である(起電力はない)†15 。
くわしい計算は3.1.2 項でじっくりと実行するが、どちらの立場で計算しても
→ p39

流れる電流は同じになる。同じ現象のように見えるのに、2 種類の違う説明があ
る。そしてどちらも、Maxwell 方程式を使った計算で正しい答が出る。となれ
ば、「どんな立場でも Maxwell 方程式は成立する」と考えたいところである。

1.3 特殊相対論の必要性

Newton 力学の話で述べたように、「絶対空間が存在しない」は「自分がどん
な等速直線運動をしながら物理を考えているのかに無関係に問題を解くことが
できる」を意味する。
もしも「エーテルが止まって見える人(絶対空間にいる人)に対してのみ
Maxwell 方程式が成り立つ」とすると、我々はまず「今我々はエーテルの静止
系にいるのか否か」を判断しなくては、電磁気の実験を安心して行えない。
ところが実験の示すところによれば、安心して Maxwell 方程式を使ってかま
わないし、光速をどんな立場で測定しても同じ値が得られる。ここで注意して
おくが、大事なのは、「どんな立場でも Maxwell 方程式が成り立つ」ことであ
る。「どんな立場でも光速が一定」はその大事なことの一部に過ぎない。
相対論の目指すところは、「どんな立場で見ても物理法則は同じである」であ
る。動いている場合と止まっている場合は区別できず、「動いている時のための
物理法則」を別に用意する必要はない。ここでみたように、相対論以前の知識で
†14
H.A. Lorentz(ローレンツ)は、この後も何度も出てくるオランダ人物理学者。電磁気学の発展に大
きな役割を果たし、特殊相対論の誕生にも深く寄与している。
†15
「コイルが動く」の場合でも、「コイルを通る磁束」が増加したから起電力が発生した、と考えて問題
を解く場合があるが、それは「磁石が動く」の場合と同じ結果が出ることを知っているからできることで
ある。この場合に電場が発生していると解釈するのは間違っている。
10 第 1 章 相対論への動機

考えると、力学の法則はそうなっているが、電磁気の法則はそうなっていないよ
うに見える。
そこで、「力学的に見ても電磁気学的に見ても、絶対空間が存在しない理論は
どんなものか? 」という問いが生まれる。理論的にも実験的にも電磁気学に絶
対空間が存在しない(少なくとも、感知できない)とわかっている以上、電磁気
学から『絶対空間を消す』必要がある。そういう意味で、電磁気学は特殊相対論
なしには不完全なのであって、上の疑問はなんとかして解決されねばならない。
その矛盾を解消するための新しい考え方が特殊相対論である。Einstein による
特殊相対性理論の最初の論文 (1905 年) のタイトルは「動いている物体の電気力
†16
学」(Zur Elektrodynamik bewegter Körper) という、どちらかというと地
味なものであるが、それはこの電磁気に関する疑問から話が始まっているから
である。
具体的にどのように特殊相対論がこの疑問に答えたのかはこの本の中で明ら
かにしていく。とりあえずここまででわかるように、その理論は動きながら見
ると磁場が電場に見えたり、その逆が起こったりと電場と磁場をまじりあわせ
るような、そういう理論になる。しかし最終的結果はそれだけにとどまらない。
電磁気学から絶対空間がなくなるように理論を修正すると、結果として力学も
修正されてしまう。それどころか、物体の長さを測る尺度が観測している人の状
態によって変化しなくてはいけないことがわかる。具体的には「運動しながら
見ると(あるいは物体が運動すると)物体が縮む」のである。さらに、相対性理
論は「絶対空間」のみならず「絶対時間」も否定する。立場が違えば時間すら、
同じものではなく、
「運動していると時間が遅くなる」結果も出るし、
「ある人に
とって同時に起こったことが、別の人にとっては同時ではない」ことも起こる。
ここまでの話を聞くと、ずいぶんおかしな、突拍子もないことをやっているよ
うに思えるのではないかと思う。しかし実際には、特殊相対論ができあがる過程
は非常に確実なものであり、一歩一歩理解していけば難しいところも論理の飛
躍もない。ちゃんと最後まで読んでいけば、ここで挙げた疑問に答えることがで
きるはずである。ここまでだけ読んで「わからない∼」と音をあげないように。

†16
Annalen der physik,Volume322, Issue10(1905)p891-921. ネットで検索すると読むことがで
きる。岩波文庫「相対性理論」(アインシュタイン)に、内山龍雄による翻訳がある。
第 2 章

座標変換と運動方程式

この章では、第 1 章の前半で考えた、力学の法則の相対性を数
式を使って考えていく。そのために、座標系の変換について勉
強する。

2.1 座標系

2.1.1 基準系と座標系

物理において座標系は大事であるが、この「座標系」という言葉は、「どの観
測者の立場で見るか」という意味で使われる場合と、「時空間の各点各点にどん
な “座標” を張って考えるか」という意味で使われる場合がある。「静止系」「運
動系」「実験室系」「重心系」「慣性系」「加速系」などと言うときは前者であり、
†1
「直交座標」 「極座標」などと言うときは後者である。
(
止まっている人が観測する †2
例えば、 の違いが「静止系/運動系」 の違い
運動している人が観測する
であり、それぞれの系に「どのように座標を張るか」が「直交座標/極座標」の
†3
違いである。以下では前者を「基準系 (reference frame)」 、後者を「座標
†4
系 (coordinate system)」と区別 していく。

カーテシアン
†1
「Cartesian座標(Cartesian coordinate)」と呼ぶこともある。哲学者であり数学者でもあ
デカルト
るDescartesが最初に使ったということでこの名前がある。「デカルトの」のような接頭辞になるときに
は Descartes の「De」が取れて Cartesian(カーテシアン)になる。日本語で「デカルト座標」と呼ぶ
場合もある。「直交座標」という言葉をより広い意味で、 「各々の座標を表す線が互いに直交している座標」
という意味に使うことがあり、この意味の「直交座標」は Cartesian 座標以外にもたくさんある。
†2
問い「どっちが運動系でどっちが静止系かは決められるの?」に対する答こそが相対性原理である。
†3
英語では「frame of reference」とも称する。 シンプルに「frame(フレーム)
」と呼ぶこともある。
「準拠系」とも訳す。
†4
この二つをどっちも「座標系」と呼んでいる場合が多いようだ。
12 第 2 章 座標変換と運動方程式

フレーム
「基準系を決める」とは、例えば「地球上で静止している人の立場で考えます
よ」と宣言することである。基準系を決めても、まだ時間・空間をどのような
「座標」で測るのかは決めていない。基準系を決めた上で「極座標で考えよう」
†5
「直交座標で考えよう」と決めることが、「座標系を定める」ことである 。
「見る立場が違っても物理法則は変わらない」は数学的言葉を使えば「基準系
を変えても物理法則は変わらない」と表現できる。よって特殊相対論を理解す
るには、「ある基準系から別の基準系に移る」の意味を理解することが必要であ
る。この章では特殊相対論以前の Newton 力学の範疇において、基準系の変更
と力学の法則の関係を整理しておくことにする。

2.1.2 座標

基準系(どの観測者の立場で見るか)を決めた後、その基準系にどんな「座
標」を張るかを定めるのが「座標系」である。例えば将棋盤の駒の位置を「7 六
歩」と表現するが、これは左から 7 番目、下から 6 番目のますに歩を進めるとい
†6
う意味で、「7」と「六」という二つの数字で場所を指定している 。
力学の問題の多くは「ある物体がどこにいるかを予言する」なので、まずは
「どこにいるか」を数学的に表現する方法が必要だ。将棋盤の例なら二個の数字
を使って場所を表したが、物理の一般の問題ではもっと多くの数字を使って物
体の位置を表現することが必要になる。物体の位置を指定するのにどれだけの
数を指定しなくてはいけないかを「次元」という。将棋の駒ならば二つの数字で
OK なので、2 次元である †7 。一般に空間の中にいる物体の位置を指定するには
三つの数字が必要なので「3 次元の空間」と呼ぶ。
次の図では、3 次元の空間を(軸を一個省略して)2 次元の平面のように表し、
時間の経過を「上:未来、下:過去」で表現している(このような図を「時空図」
と呼び、今後もよく使う)。

†5
座標系を決めたときにはすでに基準系も決まっている。よって、「座標系を定めた」と言った時点で両
方が終わっている。「座標変換」という呼び方は、座標系の変換と同時に基準系も変更される場合にも、基
準系は変えずにそこに張る「座標」だけを変更する場合にも使われる。
†6
この将棋盤が我が家にある将棋盤なのか、運動する電車の中に置いてある将棋盤なのかの違いが「基準
系の違い」である。
†7
もっとも将棋の場合、二つの数字は整数でしかも範囲が限られている。
2.1 座標系 13

各々の「ある瞬間」の ある粒子の運動は、
粒子の位置は時空内 この曲線で表される
の1点で表される。

ある瞬間は、
これらの平面のうち
の1面で表される。

この「面」で3次元空間を
表現していることに注意。

2.1.3 次元
†8
「次元」という言葉はいろんな意味に使われていて 、一般社会においては
「4 次元」という言葉は特に謎めいたイメージを持たされている。しかしここで
言う「次元」は「いくつの数を指定すれば系の状態が決まるか」という意味で
あって、それが「4」であることは、別に不思議なことではない。例えば「じゃ
あ、生協食堂前で会おう」では待ち合わせはできない。かならず「何時に」も
†9
決めるはずである。「生協食堂前」を指定するには三つの数字が必要だ 。こ
れに時刻を加えた四つの数字を指定すれば待ち合わせが成立する。このよう
†10
に必要な数字が 4 であることを「4 次元」と言う 。4 変数で指定された「あ
る時刻のある場所」を、「ある場所」(3 次元的な意味での「点」)と区別して、
「時空点」と呼ぼう。ある時空点で起こるなにかの現象を「事象 (event)」と呼
び、 時空点「生協食堂前午後 3 時」に事象「待ち合わせ」が発生する のように
言う。
我々の住んでいるこの宇宙は 3 次元空間 +1 次元の時間で、「4 次元時空」ま
†11 †12
たは(時間だけは少し違うので)「3 + 1 次元時空」 という呼び方もする 。

†8
「その式、左辺と右辺で次元が違うじゃないか」「3 次元空間で考えましょう」「そんな次元の低い話は
してないんだよ!」全部、意味が違うのに同じ言葉「次元」が使われている。
†9
例えば、
「北緯何度、東経何度、標高何メートル」 。あるいは「ここから東に何メートル、南に何メート
ル、下に何メートル」。
†10
「空中に浮いて待ったり、地面に潜って待つことなどありえないのだから高さや標高は省略してよい」
と考えると次元は一つ減って 3 次元になる。ただしこの場合 1 階と 2 階で互いに待ちぼうけを食わされる
可能性がある。
†11
どうでもよいといえばどうでもよいことだが、 「3 次元の空間」と「1 次元の時間」なら「1 + 3 次元時
空」の方が「時」「空」の順番に合うが、英語では「時空」が spacetime なので 3 + 1 の順番が合う。
†12
この話をすると必ず「ドラえもんの 4 次元ポケットはどうなっているのですか」と質問が出る。そんな
ことは藤子・F・不二雄先生に聞いてほしい。おそらく、「4 次元ポケット」の 4 次元は、空間だけで 4 次
元なのだろうとは思うが。
14 第 2 章 座標変換と運動方程式

空間の 3 次元を全て考えるのは大変なので、まずは x 座標のみを考える場合は


「1 + 1 次元時空」となる(前ページの図のように空間を平面とする場合は「2 + 1
次元時空」である)。
Newton 力学の世界では、3 次元空間と 1 次元の時間は完全に切り離されて、
別個に存在している。相対論的世界では、空間と時間の間に少し関係が生じて
くる。そのため、特殊相対論の話をする時には 4 次元的記述が好まれる(と、今
言ってもわからないだろうけれど、本書を読み進むにつれてわかってくるはず
である)。以上のように、4 次元と言っても別に怖いものでもなんでもなく、物
体の位置と時間を指定するには四つの座標が必要だ、と言っているだけのこと
であるから、「4 次元」と言われただけで不必要に「難しい話が始まる」と緊張
†13
する必要はない 。
座標の取り方はいろいろあるが、ここでは一番簡単な直交座標、すなわち互い
に垂直な空間軸 x, y, z をとる。これに時間 t をあわせて、座標は四つ (x, y, z, t)
である。ある一つの物体の運動は、この「4 次元時空」の中の線で表される。「あ
る時刻のある粒子の位置」を表すには四つの数字が必要である。「ある時刻の宇
宙」はこの 4 次元時空のうち、 t =(ある一定値)に限った部分になる。p13 の
図では z 軸が書かれていない分、「ある時刻の宇宙」は 2 次元の面のように描か
れている。この面を「面のようだが 3 次元の拡がりがある」ということで「超表
面 (hyper surface)」と呼ぶ。

2.1.4 1 次元空間の座標変換
簡単のため、まず空間座標は x だけ考えて、y, z は無視して考えることにす
る。つまり 1 次元空間、時間を合わせて 2 次元(1 + 1 次元)時空である。1 次元
での空間座標は x 一つで、どこかに原点を選び、あとは軸の向き(1 次元なので
左か右か二つに一つ)を選べば、原点から軸の正の向きに何メートル行った場所
か、で位置を指定できる(ここでは「メートル」と書いたが、もちろん「フィー
ト」でも「尺」でも「オングストローム」でも「光年」でも支障はない)。
†14
まず簡単な座標変換として、原点ずらしを考えよう 。

†13
たまにいるのだ、「4 次元ってのはものすごいことなんだ」と思い込んでいる人が。そういう人はむし
ろ、この話をきいてがっかりすることになる。
フレーム
†14
この座標変換は、基準系の変更を伴っていない。原点がずれているだけで本質的な差はない。
→ p12 の脚注 †5
2.2 Galilei 変換と力学の法則 15

で表される点 で表される点

†15
e系
新しい座標系 x の原点が古い座標系 x 系の x = b の場所にあるとする。

e=x−b
座標系の向きと目盛りの幅は同じにすると、この二つの座標系は x
という関係で結び付いている。この場合、二つの座標原点は互いに運動してい
e は x 座標系の原点 O よりも右(正の向き)にあるの
e 座標系の原点 O
ない。x
だが、式の上では x e = x − b と引き算される形になっている 。「同じ点が、 †16


 x
e=0
の 2 種類の方法で表現される」という対応に注目して式を作れば
 x=b

e = x − b でなくてはいけないことが納得できる。
x

2.2 Galilei 変換と力学の法則


2.2.1 Galilei 変換
座 標の 原 点 自体 が 刻 一 刻
と等速度 v で移動している
†17
場合の座標変換 は、座標
原点のずれが b = vt になっ 時

たと考えて、 経

e = x − vt
x (2.1)

ex
が変換則である。時間も含めた古い座標系を (t, x)、新しい座標系を (t, e) とす

†15 ′ ′
新旧座標系を区別するためには、 x → x のようにプライム(またはダッシュ) が使われることが

多いが、 は微分の記号と同じだし、添字をつける場所ともかぶってしまうので、本書では新しい座標系の
印としては主に e(チルダ)を使う。
これは間違い

†16
e = x + b とやってしまうことが多いので注意しよう。
勘違いして x
フレーム
†17 ex
この変換は基準系の変更を伴っている。(t, x) 系と (t, e) 系では物体の速度が違う。しばらくは時間
→ p12 の脚注 †5
座標は二つの座標系で共通なので、t にeをつける必要はないのだがつけておく。
16 第 2 章 座標変換と運動方程式

ex
ると、(t, e) 系は、いわば「速度 v で走る電車の内部の座標系」である。電車内
e = 0 は、外から見ると(すなわち座標系 (t, x) で見
でみると静止している点 x
ると) x = vt で表されて、「等速運動して移動している点」に見える。
e の原点が一致しているとしたが、もちろ
ここであげた式では t = 0 で x と x

e = x − vt − b としてもよ
ん一般にはその必要はなく、原点を b だけずらして x
ex
い。この形でも (t, e) 系の原点が (t, x) 系でみると等速運動している点は同じで
ある。このとき、二つの座標系で使用する時間座標は同じで、

te = t (2.2)

である。当たり前のようであるが、これは重要な(後で変更を迫られる)式であ
る。このような、一方から見て他方の座標原点が等速直線運動している座標系
ガリレイ
間の変換を「Galilei変換(Galilean transformation)」と呼ぶ。

2.2.2 速度、加速度の Galilei 変換と運動方程式の不変性

「電車内でも外部でも同じ物理法
e = x − vt − b を微分してい
x
則が成立する」を、Galilei 変換と力
くと、
学の法則を使って確かめよう。
Newton の運動方程式は(1 次元で e = x − vt − b
x

あれば) m 2
= F と書ける。加 = −v (2.3)

速度 2
は「単位時間あたりの速度
2
= 2
の変化」であり、Galilei 変換では速
度は変化するが、加速度は変化しな となり、加速度はどちらの座標系
い(単位時間前の速度も、単位時間 でも同じ(ここでは、t と te を区
後の速度も同じだけ Galilei 変換され 別してない)。
るから)。ゆえに、運動方程式の形は
ex
(t, x) 系でも (t, e) 系でも変化しない。互いに等速運動している二つの観測者は、
どちらも同じ運動方程式を使って運動を記述できる。運動方程式に加速度とい
う「速度の変化」だけがあらわれていることから、当然の結果である。
ex
二つの座標系で、同じ運動を記述してみる。(t, x) 系と (t, e) 系は原点が一致
しているものとする(上の b = 0 )。今 (t, x) 系で時刻 t = 0 に原点に静止し
2.2 Galilei 変換と力学の法則 17

ていた質量 m の物体に、一定の力 F を加え続けたとする。その間に (t, x) 系お


ex
よび (t, e) 系で成立する運動方程式は

(t) (t)
F =m 2
または F = m 2
(2.4)

と書ける。これを t で積分を 2 回すると、

(t) F
2
= (積分)
(2.5)
m
(t) F
= t + C1 (積分)
(2.6)
m
1F 2
x(t) = t + C1 t + C2 (2.7)
2m

e(t) は同じ運動方程式を満た
となる。ここで C1 , C2 は積分定数である。x(t) と x
すから、積分定数 C1 , C2 の値を変えることでどちらでも表すことができる。
(0)
(t, x) 系で考えるならば、x(t) の初期値 x(0) は 0、初速度 も 0 であるか

ら、C1 , C2 はともに零となる。
ex
(t, e) 系での運動を考えるには、二つの方法がある。今求めた解を Galilei 変
ex
換する方法と、(t, e) 系での初期値を用いて C1 , C2 の計算をやり直す方法であ
る。Galilei 変換ならば、

1F 2
e(t) = x(t) − vt =
x t − vt (2.8)
2m

と公式どおりに求まる。
ex
(t, ex
e) 系での初期値を考えよう。(t, x) 系で静止しているということは (t, e)
(0)
e(0) = 0,
系でみると速さ v でバックしているので、 x = −v となって、

C1 = −v, C2 = 0 となる。結果は、上の式と同じである。
ex
二つの結果を、(t, x) 系と (t, e) 系でグラフにしたものが次の二つの図である。
18 第 2 章 座標変換と運動方程式



線 世
界 の
世 体



の線
の線 の線
の線

上の図の運動は (t, x) 系で見ると「静止した状態の物体が速度を少しずつ増し


ex
ながら離れていった」と見える運動であるが、(t, e) 系でみると、
「最初左へ走っ
ていた物体がだんだん遅くなり、やがて止まって今度は右向きに走りだし、自分
の前を通りすぎてどんどん右へと速度を増しながら離れていった」になる。等
速運動している自転車を、後から発車した自動車が追い抜いていった、という状
況である。
縦軸に時間(t など)、横軸に空間(x など)を取って物体の運動などを表現す
るグラフを「時空図」と呼び、そこに描かれた物体(質点)の軌跡を「世界線
(worldline)」と呼ぶ。
†18
「質点」は名前のとおり「点」だが、
「時空図」の中では「質点=線」 である
ことに注意しよう。相対論的に考えるときは特に、物体の動きを時空図上の線
で捉えるということが大事になる。世界線がどんな形をしているかは、運動状
態によって変わる。世界線の傾きが水平に近いほど、物体の速度は速い。静止
している場合は真上向きの線になる。
上のグラフで、 t = te なのに t 軸と te軸が同じ軸でないことをおかしく思う人
(
t 軸は x = 0 を表す線
もいるかもしれないが、 であることに注意せよ。つ
te軸は x
e = 0 を表す線
まり t 軸と te軸が同じ向きを向かないのは x と x
e にずれがあるからだ。この二つ
のグラフは、グラフを水平方向 (x 方向) に、高さ (t 座標) に比例した距離だけ横
に(正の向きに)ずらしていくことによって互いに移り変わる。3 + 1 次元空間
のうち、3 の部分(空間あるいは超平面)を時間に応じて動かしていく変換を
行っている。

†18
より正確には「質点の軌跡」つまりは「質点の現在過去未来の位置」をまとめて表す「線」である。
2.2 Galilei 変換と力学の法則 19

e 座標系で見て速度 V で動いている物体の軌跡は
x
e = V et + b
x (2.9)

(b は te = 0 における x
e 座標) である。この式に Galilei 変換を適用すると、
e
x te

x − vt = V t + b (2.10)
x = (V + v)t + b

となる。この式から、x 座標系ではこの物体は V + v の速度を持つことが見て取


れる。時空図で表現すると次のようになる。
界線

世界線
の世
物体

物体の

の線 の線

ここは、図で表現すると

時速80kmで走る電車の中で進行方向に時速100kmのボールを投げると
外から見たボールの速さは時速180kmになる。

えいっ
時速100km

時速80km
時速180kmの
ボールだ。。。

になる現象を式で表現した。
前の章で「絶対静止しているかどうかは判定できない」と強調したが、その
フレーム
理由は今示したように、互いに Galilei 変換で移ることができる基準系であれ
ば、どの基準系でも同じ法則が成り立っているからである。物理法則(この場合
Newton の運動方程式)にあらわれるのは加速度であり、時空図上の物体の軌跡
を表す線の傾きがどの程度変化しているか、つまりは線の曲がり具合いである。
Galilei 変換は線の傾き(速度)を一定値だけ変えるが、その時間的変化量(曲
がり具合い)を変えない。そのため、物理法則は変わらない。
20 第 2 章 座標変換と運動方程式

今あなたが電車外にいて、仮定「静止しているのは私である」のもとに運動方
程式を解いて、ある物体の運動を求めたとする。しかし電車内にいる誰か別の
人が「静止しているのは俺の方だ」と言って同様のことを行ったとしても、結果
は同じになる。ではあなたとこの人の、どっちが正しいのか? —もちろん、判
定不可能である。
Galilei 変換の物理的意味は、一つの物理現象を見る時、観測者が運動しなが
ら見るとどう見え方が変るか、ということにある。Galilei の時代と言えば、天
動説から地動説への変換の真っ最中であった。「地球が静止していると考えて天
体の運動を考える」立場と「太陽が静止していると考えて天体の運動を考える」
立場のどちらが正しいのかが論争の焦点となっていた。Galilei 変換は等速直線
運動どうしの変換であるから太陽と地球(円運動している)には直接当てはまら
ないが、地球の運動の向きの変化が十分小さくなるほど短い時間で近似して考
えれば「地球が静止している」座標系と「地球が運動している」座標系の変換は
Galilei 変換で表せる。

2.2.3 「慣性系」の定義

以上でわかるように、Newton の運動方程式は Galilei 変換によって不変であ


る。しかし例えばある基準系に張られた座標系の原点が他の基準系からみて加
フレーム
速度運動していると、もはや新しい基準系では運動方程式が成立しなくなる。

⃗ =m
Newton の運動方程式 F が成立する基準系を特別に「慣性系 (in-
2

ertial frame)」と呼ぶ。Galilei 変換によって基準系を変えても、Newton の


†19
運動方程式を変える必要はない 。つまり、Galilei 変換は、慣性系を別の慣性
系に移す基準系の変更である。我々の住んでいるこの時空に適当な座標系を張
†20
ると、それは(少なくとも近似的に )慣性系である。
例えば地球表面に固定した基準系は厳密には慣性系ではない。地球の回転に

†19 ⃗ =m
ここで極座標で書いた運動方程式の複雑な形を思い出し、「極座標では運動方程式 F は成
2

り立たなくなるのではなかろうか?」と不安に思った人は、付録のB.1.4 項を読むこと。直交座標から極
→ p300
座標への座標変換は基準系を変えないから運動方程式は変わらない。
†20
「どの程度の近似のレベルか」で話は変わる。日常生活なら問題ないが、台風の進路予想をするときに
は地球上に張られた座標系が慣性系でないことが効く(Coriolis の力という奴である)。
2.2 Galilei 変換と力学の法則 21

よって、Coriolis の力および遠心力というみかけの力が働く。
慣性系 x に対して加速度運動している基準系の座標

1
e = x − at2
x (2.11)
2

ex
を導入したとすると、この (t, e) 系での運動方程式は
 
m 2
+a =F あるいは m 2
= F − ma (2.12)

ex
となってしまう。つまり (t, e) 系は慣性系ではなく、運動方程式の力の部分に余
分な項 −ma がつく。この項は「慣性力」と呼ばれる。加速している物体(発進
する車など)の上の観測者が加速と逆向きに力が働いているように感じるのが、
この慣性力のもっとも単純な例である。このような加速度のある座標系は特殊
相対論ではあまり扱われないが、一般相対論では非常に重要になる。

練習問題
【問い 2-1】 今、遊園地にあるフリーフォールの中での運動を考える。外から見る
と、物体には重力が働くので、運動方程式は

m 2
= −mg (2.13)

で あ る(y は 上 向 き を 正 と し て と っ た 鉛 直 方 向 の 座 標 )。フ リ ー フ ォ ー ル も 加
速度 g で自由落下運動しているとして、フリーフォールが静止している座標系
を設定し、その座標系で立てた運動方程式には重力の影響がないことを示せ。
ヒント → p312 へ 解答 → p316 へ

フレーム
とりあえず慣性系でない基準系のことは横に置いておくとして、
 Galilei の相対性原理 

Galilei 変換によって移り変わるどの慣性系においても、同じ運動の
法則が成立する。
 
†21
という原理を「Galilei の相対性原理」と呼ぶ 。この法則の「運動の法則」の
部分を電磁気学を含めた「物理法則」に書き換えるのが特殊相対論の目標であ

†21
当たり前のことであるが一応注意しておくと、ここで「同じ」なのは「物理法則」であって「物理現象」
ではない。一方の慣性系では止まっている物体が別の慣性系では動いていたりする。
22 第 2 章 座標変換と運動方程式

る。その目標達成のために「Galilei 変換」の部分も「Lorentz 変換」(この変換


がどんなものかは、この後求めていく)に書き換えられ、
 Einstein の特殊相対性原理 

Lorentz 変換によって移り変わるどの慣性系においても、同じ物理
法則が成立する。
 
†22
が「特殊相対性原理」である 。これは「証明」されるものではなく、実験的
事実から(経験的に)正しいと考えられているものである。

2.2.4 絶対空間に対する Mach の批判 B B B B B B B B B B B B 【補足】


Newton は力学を構築する時、
「絶対空間」すなわち物体が静止していることの基準とな
マッハ
「静止している」が定義できるとした。Mach†23 はこれを批判
る空間を仮定した。つまり、
し、
「物体が静止しているかどうかを判定することはできない」と主張した。実際 Newton
の運動方程式は Galilei 変換で不変なのだから(動きながら見ても物理法則は変らないの
だから)運動を見ているだけではその物体が静止しているかどうかを判定することはでき
ない。観測者自身すら、止まっているのかどうかが判定できないからである。
この「動いているかどうか判定できない」のは等速直線運動の場合に限る。例えば観測
者が回転運動をしていれば、遠心力を感じるので、遠心力があるか否かを実験することで
「自分は回転しているのか」を判定することができる(数式上で言えば、後で出てくる座
標軸の回転の式(2.16)の回転角度 θ が時間の関数であれば、運動方程式は不変ではない)。
→ p25

「静止系か否か」は実験で判断できないが「慣性系か否か」は判断できる。
しかし Mach はこの考え方も批判していて「自分が静止していて宇宙全体が回転してい
たとしても遠心力が働くかもしれない」と述べている。例えばバケツをぐるぐる回すと中
の水面の中央がくぼむ。これは「バケツの回転による遠心力で水が外へ追いやられるから」
と説明されるのが普通である。そして「バケツが回転している」と判断できることは絶対
空間がある証拠であると考えられていた(これを「Newton のバケツ」と呼ぶ)。しかし、
バケツが静止していて宇宙全体が回転していたとしても同じことが起こるかもしれない、
「そんなことは起こらない」と主張する根拠はどこにもないと Mach は言う。今のところ
(?)、誰も宇宙全体を回転させる実験はできないので、この真偽はもちろんわからない。
Mach は「各々の物体がどのように運動するかは、まわりにある物体全体との相互作用に
よって決まるべきだ」という思想(Mach 原理と呼ばれる。Einstein もこの原理の信奉者
だった)を持っていたので、安易に絶対空間を導入することに批判的だった。

†22
さらに「一般座標変換によって移り変わるすべての座標系のおいてすべての物理法則が成立する」とな
ると「一般相対性原理」 。この原理に加えて「等価原理」を使って重力と座標系を結びつけることによって
実現するのが一般相対性理論だが、本書の守備範囲外である。
†23
Ernst Mach はオーストリアの物理学者で、流体中の速度の単位にその名を残す。科学史関係の著作
も有名。
2.3 光の伝搬と Galilei 変換 23

Mach の批判から学ぶべきこと
観測されていないこと、および観測からはわからないことを「そうに決まって
いる」と思い込んではいけない †24

Newton は実際には観測することができない「絶対空間」をあると仮定して Newton 力


学を作った(実際にはこの仮定は必要ではない)。「絶対空間」が存在することは人間の感

覚にはなんとなく、合う。だが、感覚を信用することは危険である。「物体に働く力は、物

体の速度に比例する」という、人間の感覚に合う Aristoteles の理論が長い間信じられて

きた(が間違っている)ことを肝に銘じなくてはいけない。

2.3 光の伝搬と Galilei 変換

続く章の中で Galilei 変換に変わる Lorentz 変換を導いていくが、その前に、


Galilei 変換の考え方では実験事実「光は誰が見ても同じ速度である」を説明で
きないことを確認しておこう。
図A 図B
光が一点からまわりに広がって
いく現象は左側の図のように記
述することができる。例によっ
て z 座標を省略している。この 同じ現象を動きながら見る。
こう見えそうな気がするが?
図では、光が通った跡は円錐のよ
うに見えるので、「光円錐 (light-cone)」と呼ばれる。光円錐の中に書かれて
いる太線矢印はある粒子の世界線を表している。この現象を、左に走りながら
→ p18
†25
みたらどうなるだろう。ナイーブに考えると 、ここでは Galilei 変換を行え
ばよいと考えられる。図 A を Galilei 変換すれば図 B のようになる。Galilei 変
換を使って考えれば、図で右へ進む光は速くなり、左へ進む光は遅くなる。これ
は人間の直感には合う。しかし、直感が常に正しいとは限らない。精密な実験
→ p290

は光速が変化しないことを示している。
光の速度は動きながらみても変わらないことが実験事実なので、光円錐の形は

†24
このあたりの「心」は量子力学にもつながるかもしれない。ただし、Mach 自身は量子力学どころか、
原子論に対しても批判的であった。つまりは全てを疑ってかかる人だったのだろう。
†25
「ナイーブ (naive)」という言葉は日本語だと良い意味にとられるが、英語では「だまされやすいば
か」という意味にとられることが多い。特に物理で「ナイーブに考えると」という言葉は「間抜けが考え
ると」に近い。
24 第 2 章 座標変換と運動方程式

変化しないことになる。しかし、物体の運動に 図C

関しては変化している(これも実験事実!)。
ちなみに、光の速度は変化しないが、その様
子 (波長だとか振動数だとか) はいろいろと変
わっている。どのように変化するのかについ
ては後で話そう。ここまでで感じて欲しいこ
→ p107
動きながら見ても、
とは、
「図Aを動きながら見たら図Bではなく 光速は変わらない。
物体の運動は変わっているのに!
図Cになるとしたら、図Aと図Cはどんな関
係か」である。
「動きながら見れば時々刻々位置が変化していくから、超平面の位置がこの図
で見て水平方向にずれていく」
(Galilei 変換はまさにこういう変換だ)と考える
と、どうしても結果は図Bになってしまう。図Aが図Cに変化するためには、こ
の図の水平方向の動きだけではだめである。かならず「超平面を傾ける」操作が
必要になる。実際にどんな操作なのかはこの後のお楽しみであるが、この操作
がすなわち「4 次元的に考える」ということだ。

2.4 2 次元の直交座標の間の変換

一つ次元をあげて、2 次元空間の場合で考えてみる。2 次元、3 次元の空間の


座標変換の考え方は、いずれ 4 次元時空での座標変換を考える時のガイドライ
ンになるからである。
二つの空間座標を x, y とすると、x, y に対して別々の平行移動を行う座標変換

e = x − a,
x ye = y − b (2.14)

であるとか、それぞれ別の速度で Galilei 変換する座標変換

e = x − [⃗
x v ]x t, ye = y − [⃗v ]y t (2.15)

†26
などがある 。

†26 ⃗ の x 成分は [A]


⃗ 」のように表現する。 x
本書では、2 次元もしくは 3 次元の空間ベクトルの成分を「A
多くの本では単に Ax のようにするが、これだと後で頻出する「4 元ベクトル」の x 成分と同じになって
しまうからである(3 次元空間ベクトルと 4 元ベクトルは違うものなので、一目でわかる違いで表記した
⃗ = [A]
⃗ ⃗ ⃗ ⃗ x ⃗ ⃗ y z
い)。基底ベクトルを使って表現すると A ex + [A] ey + [A] ez のように書ける。
→ p296
2.4 2 次元の直交座標の間の変換 25

ここまでは 1 次元の話を重ねているだけ
で面白味がない。2 次元ならではの座標変換
は、右の図のような、座標軸の回転である。

e = x cos θ + y sin θ
x
(2.16)
ye = −x sin θ + y cos θ

練習問題
【問い 2-2】 (2.16) の右の図に適切に補助線を引くことにより、(2.16) を図的に
示せ。 ヒント → p312 へ 解答 → p316 へ

(2.16) は、行列を使えば以下のように書ける †27 。


    
xe cos θ sin θ x
= (2.17)
ye − sin θ cos θ y
" # " # " # " #
x 1 0 xe
座標系における二つの点 , は、 座標では
y 0 1 ye
    
cos θ sin θ 1 cos θ
= (2.18)
− sin θ cos θ 0 − sin θ
    
cos θ sin θ 0 sin θ
= (2.19)
− sin θ cos θ 1 cos θ
 
1 を座標変換した結果
0

" #  
cos θ sin θ cos θ sin θ 
となる。つまり行列 は、 のようにして
− sin θ cos θ − sin θ cos θ
 
0 を座標変換した結果
作った行列であると考えることができる。 1
" # " #
1 0
と は 互 い に 直 交 し 、そ れ 自 体 の 長 さ は 1 で あ る 。し た が っ て 、
0 1
" # " #
cos θ sin θ
と も互いに直交して長さは 1 である(すぐ確認できる)。性
− sin θ cos θ
質「長さが 1 である」や性質「直交する」はどの座標系で見ても ((x, y) 座標系
e, ye) 座標系でも) 同じだからである。
でも (x

†27
これに慣れてないという人は、付録の行列と列ベクトルの計算ルール(B.1) のあたりを見よ。
→ p297
26 第 2 章 座標変換と運動方程式

回転であるから当然であるが、この式は

e)2 + (ye)2 = x2 + y 2
(x (2.20)

を満足する。原点からの距離(上の式は距離の自乗)はこの変換で保存する。こ
れを行列で考えよう。まず、
 
  x
x y = x2 + y 2 (2.21)
y

のように、行ベクトルと列ベクトルの積の形で距離の自乗を表現する。こう書
けば (2.20) は
   
  xe   x
e ye
x = x y (2.22)
ye y

である。列ベクトルの座標変換は(2.17)だったが、行ベクトルの座標変換は
→ p25

 
    cos θ − sin θ  
e ye
x = x y = x cos θ+y sin θ −x sin θ+y cos θ
sin θ cos θ
(2.23)

と書ける。(2.17)の場合とは行列の並び方が変わっていることに注意しよう(具
→ p25

体的に行列計算をしてみればこれで正しいことはすぐにわかる)。この、
   
a11 a12 ⊤ a11 a21
A= →A = (2.24)
a21 a22 a12 a22


のような並び替えを「転置 (transpose)」と呼び、行列 A の転置は A という記
。転置は aij → aji と書くこともできる。aij とは「i 番目の行の、j
†28
号で表す
番目の列の成分」であるから、i と j を入れ替えるということは行番号と列番号
を取り替えることである。ゆえに、転置を「行と列を入れ替える」とも表現する。
2 2
e) + (ye) を計算すると、
この式を使って、(x
 
xe
 
e ye
x ye
     
  xe   cos θ − sin θ cos θ sin θ x
e ye
x = x y (2.25)
ye sin θ cos θ − sin θ cos θ y
先にここを計算
†28 t t
転置の記号としては、A とするものもある。また、 A のように左肩につける場合などいろいろある。
2.4 2 次元の直交座標の間の変換 27

となるが、「先にここを計算」の部分が
  
cos θ − sin θ cos θ sin θ
sin θ cos θ − sin θ cos θ
" #  
cos2 θ + sin2 θ cos θ sin θ − sin θ cos θ 1 0
= = (2.26)
sin θ cos θ − cos θ sin θ sin2 θ + cos2 θ 0 1

となることを考えると、
   
  xe   x
e ye
x = x y すなわち、 e2 + ye2 =x2 + y 2
x (2.27)
ye y

がわかる。このように必要な部分だけを先に計算できるのが行列計算のメリッ
トの一つである。
(2.26) が成立することは、直接的計算でももちろんわかるのだが、ベクトルの
意味を考えればその意味が明白に理解できる。

このベクトルと このベクトルの内積が
これ
" #" # " #
cos θ − sin θ cos θ sin θ 1 0
= (2.28)
sin θ cos θ − sin θ cos θ 0 1
" #" # " #
cos θ − sin θ cos θ sin θ 1 0
= (2.29)
sin θ cos θ − sin θ cos θ 0 1
このベクトルと これ
このベクトルの内積が

このベクトルと このベクトルの内積が
これ
" #" # " #
cos θ − sin θ cos θ sin θ 1 0
= (2.30)
sin θ cos θ − sin θ cos θ 0 1
" #" # " #
cos θ − sin θ cos θ sin θ 1 0
= (2.31)
sin θ cos θ − sin θ cos θ 0 1
このベクトルと これ
このベクトルの内積が

上のように、行列のかけ算というのは結局、行ベクトルと列ベクトルの内積の
 
cos θ sin θ 
計算を繰り返すものだ。そして、 は「互いに直交して長
− sin θ cos θ
" #
cos θ − sin θ
さが 1 である二つのベクトルを横に並べたもの」であり、 は
sin θ cos θ
同じ二つのベクトルを縦に並べたものである。計算の結果が 1 になるのは「自分
28 第 2 章 座標変換と運動方程式

自身との内積」すなわち「ベクトルの長さの自乗」を計算している部分で、0に
なる部分は「直交するベクトルの内積」を計算している部分である。
今の一例に限らず、回転を表す行列は「互いに直交して長さが 1 になるベクト
ルを並べたもの」という性質を持っていなくてはならない。
逆に、(2.20)を満足する座標変換が
→ p26
    
xe a b x
= (2.32)
ye c d y
" # " #
a b
と書けていたとすると、二つの列ベクトル , は、どちらも長さが 1 で、
c d
互いに直交しなくてはいけない。この条件を満たしている行列を直交行列とい

い、A が直交行列であれば、A A は単位行列となる
†29
。 " #
1 0
直交行列であるだけでは回転の行列とは限らない。例えば、 は直交
0 −1
行列であるが、その物理的内容は回転ではなく、y 軸の反転である。直交行列
で、かつ行列式が 1 であるという条件を満たす場合、その行列は回転を表す。
" # " # " #
cos θ sin θ cos θ − sin θ 1 0
行列 は行列式が −1 であり、 と の
sin θ − cos θ sin θ cos θ 0 −1
積であるから、「y 軸を反転した後で θ だけ回転する」という座標変換を表す行
列である。行列式が −1 の場合は座標系の反転が入っている。

2.5 添字を使った表現

多次元の計算をする時、いちいち x = · · · , y = · · · , z = · · · と式を並べる
1 2 3
のは面倒なので、約束ごととして、 x = x, x = y, x = z のように x の右上
†30 i 3
(肩) に添字 (「足」と呼ぶこともある) をつけて、x のように表す。例えば x
i
は「x の第 3 成分」である。「x の 3 乗」と間違えやすいので注意すること。本
†29
以上で述べたように、行列計算は「座標変換」という幾何学的操作を記述するのに非常に便利な数学
ツールである。「なんだかめんどくさい計算だな」と思ってはいけない。むしろ、めんどくさい計算を楽を
してやるための道具である。
†30
添字は肩でなく下につけて x1 , x2 とする場合が多い(この場合を「下付き添字」と言う)
。上付き添字
と下付き添字は厳密には意味が違うが、その差は後で出現する。今考えている 2 次元や 3 次元で直交座標
→ p123
を使っている場合ではそこまで厳密にしなくても支障無い。後で 4 次元のベクトルを考えるときには上付
きを基本的な表現とすることが多いので、慣例には反するが本書では 2 次元や 3 次元のベクトルも上付き
を主に使うことにする。
2.5 添字を使った表現 29

†31
書では添字の文字は灰色にしてべき乗の数字と区別するようにしている 。以
下では添字を使った表現を多用するので、ここでそれに慣れておこう。
p ∂r x ∂r y ∂r z
文章「 r = x2 + y 2 + z 2 のとき、 = , = , = である」
∂x r ∂y r ∂z r
sX
∂r xi
を添字を使って表現すると、
「 r= (xi )2 のとき、 i
= である」に
i
∂x r

なる。同じパターンの繰り返しがあるような場合の省力化に有効である。
本書では表現する座標系が違うことを e や ¯ などを文字につけることで表現
する(同じ物理量を、ある座標系では A、別の座標系では Ae あるいは Ā のように
e
1 e
i
e あるいは x
書く)。さらに x e のように「e 付きの座標系の添字は e 付きにする」
†32
というルールで記述する 。
e
この書き方を使って(2.32)を書き換える。4 個の定数 a, b, c, d を a j (ei, j はそ
i
→ p28

れぞれ 1,2 を取るから、この量も 2 × 2 で 4 個ある)と表わせば


" e
# " e e
#" #
e1
x a 11 a 12 x1
e = e e (2.33)
e2
x a 21 a 22 x2

のようになる。式自体は何変わっていないが、こう書くことで

e X
2
e
ei =
x aij x j (2.34)
j=1

とまとめられる。この書き方の方が、変換のルールが明確になる場合が多い。
e
(2.34) では j という添字が重複している。aij の後ろの添字である j がその後ろ
†33
にあるベクトルの添字と一致していることに注意せよ 。
以下、本書では(多くの相対論の教科書・文献にならって)
 Einstein の規約 

一つの項の中で同じ添字が 2 回現れたら、その添字に関して和がとられて
いるものとする。
 
†31
添字を持つ物理量のことを「テンソル」と呼ぶこともあるが、添字があればなんでも「テンソル」とい
うわけではない。正確な定義は6.2.3 項にある。
→ p127
†32 1 i
e とか x
こうしないで x e のようにする場合が多い。本書は「おせっかい」な方針で書いている。
†33
行列の積をこのように表現することに慣れてない人は、付録のB.1.2 項を参照せよ。
→ p296
30 第 2 章 座標変換と運動方程式

X
を採用して、 を 省 略 す る 。こ の ル ー ル を 始 め た の は Einstein な の で 、
アインシュタイン
†34
「Einsteinの規約(Einstein convention)」と呼ぶ 。
さらに以下の記法も採用する。
 本書独自の記法 

「どの添字とどの添字が Einstein の規約にのっとった和が取られているか」


をi i のように線でつないで示す。
 
e
i e
i j
e = a j x のように書く。繰り返された添字が線で結ばれて
例えば(2.34)は x
→ p29
X
いるときは「 記号が隠れているな」と判断して欲しい。
繰り返して足し算されている添字は「つぶされている添字」と言ったり「ダ
ミーの添字」と呼んだりする。本書では添字を薄い字で書いているが、ダミーの
†35
添字はさらに薄い色で書く 。
なぜ「ダミー」と呼んで、一人前の添字扱いをしてもらえないかというと、
e e e
a 1 x1 + ai2 x2 と書くのが面倒なので aij xj と書いているだけであって、j という
i

添字はあってなきがごときものだからである。またこれを「つぶれている」と表
現するにも理由があるが、それは後で述べる。
→ p125
 
e e
a 11 a 12
さてここで、 A =  e e
 が直交行列であるという条件 A⊤ A = I (I
a 21 a 22

は単位行列)を添字付きの表記で考えよう。
 
e e
a 11 a 21
A とは、A の行と列を取り替えた行列 

e e
 であり、その成分を (a⊤ )j ei
a 12 a 22
と書くことにすれば
" e e
# " e e
#
a 11 a 21 (a⊤ )11 (a⊤ )21
e e = e e (2.35)
a 12 a 22 (a⊤ )12 (a⊤ )22


であり、式 A A = I は

e e e e
(a⊤ )ij aj k = aj i aj k = δik (2.36)
†34
Einstein 本人は「私の数学への最大の貢献」と冗談混じりに自画自賛している。
†35
この「線を引く」とか「薄い字で書く」というのは本書の中で「本を読みやすくする」ための工夫で
あって、読者が演習として鉛筆を持って計算するときに実行する必要はない(してもかまわないけど)。
2.5 添字を使った表現 31


と(ここではEinstein の規約を使っている)、式 AA = I は
→ p29

e e e e ee
aij (a⊤ )j k = aij akj = δ ik (2.37)
クロネッカー
†36
と書ける 。ただし、δik は「Kroneckerのデルタ」と呼ばれ、
 Kronecker のデルタ 
(
1 i = k のとき
δik = ( e 付きも同様) (2.38)
0 それ以外
 
で定義される記号である(2 次元なら、 δ11 = δ22 = 1, δ12 = δ21 = 0 )。単位
行列を添え字を使った表記で表したものだと思えばよい。

 e
j e j (
(2.36)の a i a k 前の添字
→ p30
では、 どうしを同じにして足し算が行われ
 e e
(2.37) の a j a j
i k 後ろの添字

ていることに注意しよう。だから、これらを見て、
「行列 A と行列 A の掛け算」
だと思ってはいけない。付録でも述べたように行列の掛け算は「前の行列の後
→ p298

ろの添え字と、後ろの行列の前の添え字を揃えて足す」形なので、A と A の掛
e
i e
j †37
け算をあえて書くならば、a j a k なのだ 。「前の行列の後ろの添え字と、後ろ
の行列の前の添え字を揃える」という状態にするにするためには、前の行列の添
e e
字を入れ替える a
i
j = (a⊤ )j i 必要がある。よって転置を行った。
回転に関しても、運動方程式の形が変わらないことを確認しよう。

m ⃗ ]x , m
= [F ⃗ ]y
= [F (2.39)
2 2

から、

m = m 2 cos θ + m 2 sin θ
2 (2.40)
⃗ ]x cos θ + [F
= [F ⃗ ]y sin θ

†36 e
i e
k
この本をある程度読んでからここを読み返すと、(2.37) などで a j a j のように「下付きの添字どう
しをそろえて和が取られていること」に違和感を覚えるかもしれない(最初にここを読んだときには違和
e
i e
k jℓ
感はないと思うのでこの脚注を読み飛ばすこと)。実はこの式は a j a ℓδ の省略形であり、省略しなけ
れば「上付きと下付きの添字をそろえて足し上げる」という計算になっている。
†37
この計算は不合理なものである。なぜなら、˜なしの座標系の添字と˜付きの座標系の添字を揃えて足す
という計算をしているからである。物理的には意味がない。
32 第 2 章 座標変換と運動方程式

同様に

m 2
= −[F
⃗ ]x sin θ + [F
⃗ ]y cos θ (2.41)

となる。ここで、

⃗ ]xe = [F
[F ⃗ ]x cos θ + [F
⃗ ]y sin θ
ye
⃗ ] = −[F ⃗ ] sin θ + [F
x ⃗ ]y cos θ (2.42)
[F

†38
は「回転した座標系での力の成分」と考えることができる 。(2.42) の左辺の
⃗ にeがついてないのはこれでよい。この場合、F
F ⃗ 全体は座標系に依らないから


 F
⃗ = [F
⃗ ]x⃗ex + [F
⃗ ]y⃗ey
である。成分で展開すると のように表現できる。座

 F ⃗ ]xe⃗exe + [F
⃗ = [F ⃗ ]ye⃗eye

標系によって基底ベクトルが違うので表現は変わるが、基底ベクトルと成分の
→ p296

⃗ はどの座標系でも同じである。成分に関しては
組合せである F

m ⃗ ]xe ,
= [F m ⃗ ]ye
= [F (2.43)
2 2

が成立し、変化はしているが、形としては回転前と同じ運動方程式になる。
運動方程式が変わらないことを、行列および添字を使った書き方で示してお
" # " #
x [⃗x]x
く。x, y は位置ベクトル ⃗
x = x⃗ex + y⃗ey の成分であるから、 =
y [⃗x]y
と表現することにする。行列で表現すると
  " #
d2 [⃗x]x ⃗ ]x
[F " # !
m = ⃗ y cos θ sin θ
2 [⃗x]y [F ] − sin θ cos θ
を掛けて

    " #
d2 cos θ sin θ [⃗x]x cos θ sin θ ⃗ ]x
[F
→ m = (2.44)
2 − sin θ cos θ [⃗x]y − sin θ cos θ ⃗ ]y
[F

と書かれる。角度 θ が時間 t によっていなければ、この二つの式は等しい。


e
i
運動方程式の変換を a j を使って表すならば、
2  
d2 i ⃗ ]i → m d ei j e
⃗ ]j
m 2
x
[⃗ ] = [ F 2
a j x
[⃗ ] =aij [F (2.45)

†38
これは座標というベクトルと力というベクトルが同じ形の変換をしなさい、ということなので、
reasonable である。
2.6 運動方程式を不変にする 3 次元の座標変換 33

e
i
と変わる。a j が時間に依存しないときは、

d2 ⃗ ]i が成り立つなら d2 e e
⃗ ]i も成り立つ。
m 2
[⃗x]i =[F m 2
[⃗x]i =[F (2.46)

は正しい。
回転の場合、運動方程式の全体の形は変わらないが、個々の成分の値は変わる
⃗ ]x と x
(x 成分 [F ⃗ ]xe = [F
e 成分 [F ⃗ ]x cos θ + [F
⃗ ]y sin θ は違う量である)。この場

合は「不変 (invariant)」とは言わず「共変 (covariant)」という言い方をする。

d2 ⃗ ]i は回転に対して共変である †39 。
Newton の運動方程式 m 2
[⃗x]i = [F

行列または添字付き量を使った表示では、「変換」を表す部分が行列だったり
e
aij だったりして、式の中で一カ所に集まって表現されている。そのため、何か
の「変換」を行うことで新しい座標系での運動方程式が出ている(しかも、その
「変換」は左辺も右辺も同様に行われる)ということがわかりやすいかと思う。

2.6 運動方程式を不変にする 3 次元の座標変換

今度は 3 次元を考えよう。3 次元の場合も、運動方程式が不変になる座標変換


は Galilei 変換と回転の合成で考えることができる。Galilei 変換の方は自明で
あろう。回転の方を式で表しておこう。
一般的な回転を
R
    
e
x e
R11 R12 R13
e e x
    
   e2 e e   e e
添字表示なら、 [⃗
i i j
 ye  =  R 1 R22 R23  y  e] = R j [⃗
x x] (2.47)
    
e
3 e
3 e
3
ze R 1 R 2 R 3 z
v(1)
⃗ v(2)
⃗ v(3)

 
1 e e e
 R 1 R12 R13 
 e e e 
のように行列で表そう。この行列を  R21 R22 R23  のように三つの
 e e e

R31 R32 R33
列ベクトルに分解すると、三つのベクトル ⃗
v(1) , ⃗v(2) , ⃗v(3) は互いに直交し、長さ

†39 ⃗ の形なら「不変」と言っていい。
m 2
=F
34 第 2 章 座標変換と運動方程式

 
1
 
が 1 のベクトルになる。なぜなら、 0  を R によって変換した結果が ⃗
v(1) (同
0
   
0 0
   
v(2) は  1  の、⃗v(3) は  0  の変換結果)だからである。変換前、つまり
様に ⃗
0 1
     
1 0 0
     
回転させる前の 3 本のベクトル  0 ,  1 ,  0  が全て長さが 1 で互いに直交
0 0 1
していたのだから、変換(回転)後もその関係は保たれる。よって、
 
h i
⃗v(i) · ⃗v(j) = (⃗v(i) ) ⊤ ⃗
v(j)  = δij (2.48)

が成り立つ。このことから、
R⊤ R
    
e e e e e e 1 0 0
R11 R21 R31   R11

(⃗
v(1) )
 R12 R13   
 e    
⊤  R1 Re2 Re3   Re2 e
2
R23 
e  0
v(2) )
(⃗
 2 2 2  1 R 2  = 0 1  (2.49)
  e e e
  
e e e
v(3) )
(⃗

R13 R23 R33 R31 R32 R33 0 0 1

v(1) ⃗
v(2) ⃗
v(3)

となる((2.48) から (2.49) を確認せよ)。同じことを添字付き表示で書くと次の


ようになる。

e e
Rj i Rj k = δik (2.50)

回転によって 3 次元の運動方程式が共変であることは、

d2 e d2 e
m 2
⃗ ]i
[⃗x]i = [F → mRij 2
⃗ ]j
[⃗x]j = Rij [F (2.51)

のように考えれば、2 次元の場合の(2.45)と全く同様であることがわかる (ただ


→ p32
e
i
し、i, j の和は 1, 2, 3 で取られているところが違う)。R j は時間に依らない定数
でなくてはならないことも同じである。
2.7 章末演習問題 35

3 次元の具体的な回転は
x 軸周りの回転 y 軸周りの回転 z 軸周りの回転
     
1 0 0 cos θ 0 − sin θ cos θ sin θ 0
 0 cos θ sin θ ,  0 1 0 ,  − sin θ cos θ 0  (2.52)
0 − sin θ cos θ sin θ 0 cos θ 0 0 1

で表される三つの回転の組み合わせで作ることもできる。回転を表すパラメー
タとしては、回転軸を指定するのに二つ、回転角度を指定するのに 1 つで、合計
三つのパラメータがいる。
この章では Newton 力学を見直した後、数学的準備をしたので、いよいよ次
の章から特殊相対論へとつながる物理、すなわち電磁気学の相対性を考えてい
こう。

2.7 章末演習問題
★【演習問題 2-1】
直交行列の行列式は 1 か −1 か、どちらかであることを以下を使って示せ。

(1) 二つの行列 (A, B) の積 (AB) の行列式 (det(AB)) は、それぞれの行列式の積


(det A det B) である。
(2) 転置しても行列式は変わらない det A = det(A⊤ ) 。

ヒント → p??w へ 解答 → p??w へ

★【演習問題 2-2】
直交行列と直交行列の積は直交行列である。これを行列で表現すれば、

A⊤ = A−1 , B⊤ = B−1 ならば、 (AB)⊤ = (AB)−1 すなわち、

(AB)⊤ AB = I となる。添字付き表記を使ってこれを表現し証明せよ。
ヒント → p??w へ 解答 → p??w へ
第 3 章

電磁気学の相対性

電磁気学の中に隠れている「相対性理論」を発見しよう。

この章では、電磁気学の中にどのように「光速不変」が織り込まれているか
について説明していく。
「実験事実から、光速は不変である」と認めてもらうならば、この章を読まなくて
も次に進めるので、先を急ぐ人は、すぐに次の第 4 章を読んでもらってもかまわない。
→ p60

3.1 電磁気学の疑問

3.1.1 電磁波は静止できるのか?

Einstein が後に特殊相対論へと続く道の中で、最初に抱いた疑問は

光の速さで飛ぶと波の形をした静電場や静磁場が見えるんだろうか?

止まった電磁波

だったと言う話がある(18 歳のときらしい)。例えば図に示した z 軸正の向きに


3.1 電磁気学の疑問 37

伝播する電磁波の電場と磁場は式で示すと

⃗ = E0 sin k(z − ct) ⃗ex ,


E ⃗ = E0 sin k(z − ct) ⃗ey
B (3.1)
c
であるが、これらはもちろん、
 真空中の Maxwell 方程式 

⃗ ⃗
⃗ = 0,
div B ⃗ = − ∂B ,
rot E ⃗ = 0,
div E ⃗ = 1 ∂E
rot B (3.2)
∂t 2
c ∂t
 
†1
の解である 。
Maxwell 方程式の中に「波を発生させるメカニズム」が隠れていることを見
ておこう。

もし、空間の一部に のように電場の強さが変化している状態が

あったとしよう。この空間では ⃗ があ
のように ⃗0 ではない rot E



†2
。図に と で示したのが rot E ⃗ = − ∂ B にし
⃗ の向きである。 rot E
∂t

たがって磁場が時間変化するので、最初磁束密度が 0 であったとしても、rot E

と逆を向いた磁束密度が発生し、 のような磁束密度ができる。

少し立体的に描くと ⃗は
であり、rot B のような


⃗ = 1 ∂ E にしたがって電場が時間変化するが、こ
向きを向く。すると rot B 2 c ∂t
の時間変化は中央の強い電場を弱める向きである。

†1

∂D
⃗ = ⃗j +
最後の式は馴染みのある形である rot H を、 ⃗
j =⃗
0 にしつつ真空中で成り立つ
∂t


⃗ = ε0 E,
D ⃗ H⃗ = B を代入して書き直している。 1 = ε0 µ0 に注意。
µ0 c2
†2
電場を力とみなしたとき、図に描いたような回転を起こすモーメントがあると考えると、rot が 0 でな
いことが理解しやすいと思う。
38 第 3 章 電磁気学の相対性

以上のように、Maxwell 方程式には「一部分だけ電場が強い領域があったら、
そこの電場を弱めようとする性質」(逆に弱い領域があれば強めようとする)が

ある
†3 ⃗ など)と時間的変動(− ∂ B など)
。Maxwell 方程式は空間的変動(rot E
∂t
を結びつける式で、その組み合わせによって空間的な変動を解消しようとする
向きへ物理現象が進む(言わば「復元作用が発生する」)。
弦の振動や、水面にできる波に関しても、この「空間的変動が時間的変動を生
み、空間的変動を解消しようとする」というメカニズムが波を作る。
凹凸のある水面の場合、凸な部分は下がるし、凹な部分は上がる(そうなるよ
う水が移動する)ことは直感的に理解できる。このような「平衡状態(水面であ
れば水平な状態)に戻そうとする作用」を「復元作用」と呼ぶ。

弦 の 振 動 の 場 合 を 考 え る 。ピ ン と 張 ら れ た 弦 には張力

が働いている。張力は常に弦の方向に働く。曲がった状態にある弦の微小部

分 を考えると、両方からの張力の合力は 合力 の

ように弦の曲がりを解消しようとする向きに向く。ゆえに、弦はまっすぐにな
ろうとする(この意味で「復元作用」を持つ)。
弦の振動でも水面でも共通する大事なことは「復元作用」が「波の伝播」とい
†4
う現象を引き起こしているということである 。自然界には、何かに不釣り合
いがあるとそれを正そうとする作用が働くことが多く、その作用により振動や
波が発生する。自然界のあちこちで「波」が発生するのはそのおかげである。
すでに述べたように、電磁気についても、同様の復元作用がある。よって、
「波
の形をしているが振動しない電磁場」というのは、「曲がったままで直線に戻ろ
うとしない弦」や「一部がいつまでも盛り上がったまま、崩れもしない水面」と
同じぐらい不思議な現象だ。18 歳の Einstein を悩ませたのも不思議ではない。
光速で走る人から見た電磁波の問題に戻り、より具体的に「止まった電磁波は
あり得ない」ことを確認しておこう。電磁波を速度 c で走りながら見たとする
と、その観測者にとっての座標系 (X, Y, Z, T ) は速度 c での Galilei 変換を施し

†3
磁場についても同様の性質がある。
†4
復元作用の他に振動が起こるために重要なことは「慣性」があること。復元作用によって平衡状態に戻
されたときにそこで時間変化が止まって静止してしまうと、振動にならない。「いきおいがついているので
行き過ぎる」ことが必要なのである。「復元作用」があるが「慣性」がない例としては、「温度分布の時間
変化」がある。熱いところは冷めて冷たいところは温もるが、行き過ぎることががないので振動しない。
3.1 電磁気学の疑問 39

た座標系で、元の座標系との関係は

X = x, Y = y, Z = z − ct, T = t (3.3)

である(この座標変換は基準系の変更を伴う)。以下の仮定のもとで考えよう。

後で間違っていることがわかる仮定
座標は変換されるが、電場や磁場は座標変換しても同じ値。

この場合、この座標系で表現された電場と磁場は 止まった電磁波

⃗ = E0 sin kZ ⃗eY ,
E ⃗ = E0 sin kZ ⃗eX
B (3.4)
c
となり、波の形をして止まっている電場と磁場が見えるよ
うに思われる。
⃗ の X 成分は
しかし、この解は Maxwell 方程式を満たさない。例えば rot E

∂B
−∂Z EY = −kE0 cos kZ となり、⃗0 ではないが、 = ⃗0 である。これでは
∂T

∂B
⃗ =−
rot X E †5
を満たせない。したがって、Maxwell 方程式か Galilei 変
∂T
換か、どちらかを修正しない限り、我々のこの宇宙は記述できないことがあきら
かになる。ではどちらを修正すべきか? —もちろん最終的に決め手となるのは
実験だ。次の節では Maxwell 方程式の方に有利な証拠を述べよう。

3.1.2 電磁誘導の疑問
コイルが動く 磁石が動く
第 1 章で概要だけ述べた、電
→ p1

磁誘導に関する疑問について、
ここでくわしく考えておこう。
図のように、二つの現象を考え 電流 電流 コイルは静止

る。図の左側では、コイルが磁 磁石は静止

石に近づき、図の右側では、磁 この人は静止

石がコイルに近づく。二つの現象は、見る立場を変えれば同じ現象であり、「コ
イルに時計まわりの電流が流れる」という結果も同じである。しかし、その記述
は同じではない。
†5
この式の中の rot に含まれる空間微分は X, Y, Z による微分なので、rot X と書いた。
40 第 3 章 電磁気学の相対性

図の右側(磁石が動く)の場合であれば、電流の発生はコイル内の磁束密度が

⃗ = − ∂ B にした
時間変化に起因している。すなわち Maxwell 方程式の rot E
∂t

がって、磁束密度が変化している場所には rot が 0 ではない電場がある。その
電場によってコイル中の電子が力を受け、電流となる。この時に発生する起電

は、Faraday(ファラデー)の電磁誘導の法則 V = −
†6
力 によって求めら

れる(この法則がどこから出てくるかを知りたい人は次の問題を解くこと)。こ
†7
こで Φ は回路内をつらぬく磁束である 。

練習問題
⃗ が時間変化する場合に回路に発生する起電
【問い 3-1】 回路が運動せず、磁場 B

∂B
力が V = − ⃗ =−
であることを rot E から導け。
∂t
ヒント → p312 へ 解答 → p316 へ

この時に起こっていることはあくまで「磁束密度の時間変化→ rot が 0 でな
い電場の発生」という現象である。一方、図の左側(コイルが動く)はどう解
釈されるか。この場合は各点各点の磁束密度は変化していないので、電場は発

∂B ⃗ (x, y, z, t)
∂B
⃗ =−
生していない。 rot E の右辺は省略なしで書くと − であ
∂t ∂t
り、点 (x, y, z) にある磁束密度の時刻 t での値の時間微分 ×(−1) である。コイ

∂B †8
ルが動く状況では、 は 0 である 。
∂t
ではコイルが動く場合にも電流が発生するのはなぜか。

†6
「ある回路(実際には導線が存在していない、仮想的な回路でもよい)に発生する起電力」は、「単位
電荷をその回路に沿って一周させたときに単位電荷にされる仕事」で定義される。rot が 0 である電場な
ら、一周させたときに電場のする仕事はトータルで必ず 0 になる。
†7
V の符号は Φ に対して右ネジの向きに電流を流そうとするときにプラスと定義される。角運動量

L x×p
⃗ =⃗ ⃗ など、回転に対応するベクトルの向きはこのように決めるのが普通である。高校物理の参
考書などで、「この式のマイナスは “磁場の変化を妨げる向き” であることを示す」と書いてあるのがある
が、あの書き方は厳密性を欠き、よくない。
†8
「コイルを通る磁束は時間的に変化しているのではないか」と疑問に思う人がいるかもしれない。確
⃗ は「ある点 (x, y, z) の時刻 t での磁束密度」という意味なのであって、
かに変化しているが、この式の B
「コイルを通る磁束の磁束密度」という意味ではない。
3.1 電磁気学の疑問 41

コイル中には電子がいて、電子はコイルが下がると下向
きに運動する。磁場中を電荷 q が速度 ⃗
v で運動すると磁場


v×B
とも運動の向きとも垂直な方向に Lorentz 力 q⃗ ⃗ を受け


る。この力は電子がコイル内をぐるぐると回る方向に働く 向

ので、電流が流れる。つまりこの場合、電場は発生してい
ないが、磁場によって電子が力を受けることによって、電
電子の運動
位差が発生したのと同じ効果が現れて電流が流れている。
この考え方で、電子に働く力を計算し、電子が回路を一周する
間にこの力がする仕事を計算してみよう。
上 ⃗ は真上を向いていないので、上向き成分(大きさ B上 )と
磁場 B
外 外向き成分(大きさ B外 )に分解して考える。電子に働く力に貢献
電 働く力は するのは B外 の方である。この時電子(電荷は −e とする)に働く

の の向き

向 Lorentz 力の大きさは evB外 で、電子が回路を仮想的に一周(コ
イルの半径を r として距離 2πr )することによって evB外 × 2πr
という仕事をされる。この仕事を単位電荷あたりに直して、起電力は 2πrvB外
となる。
コイルが動いたことによってコイル内から単位時間に
出る磁束 − を計算するには、B外 に(B上 は貫く磁束

に寄与しない)「高さ v で底面の半径 r の円筒の側面積」


を掛ければよい。よって起電力は 2πrvB外 である。


単位時間に 移動

二つの計算法による起電力は一致し、Maxwell 方程式
(
コイルが動き磁石が静止する立場
は の両方で正しく
磁石が動きコイルが静止する立場
物理現象を記述している。つまり Maxwell 方程式は「相対的」なのだ。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
ところで、電磁気学で「磁場は荷電粒子に対して仕事をしない」と聞いたことがある
人は、ここで磁場が仕事をしているように見えることに不安を抱くかもしれない。今
電子を仮想的に一周させたが、その仮想的な一周に ∆t だけ時間がかかるのだとする
2πr
と、電子は下向きの速度 v だけではなく、円を回る向きに という速度を持って
∆t
2πr
いる。この速度を持つ電子には B外 による力が大きさ e B外 で上向きに掛かり、
∆t
2πr
−e B外 × v∆t の仕事をする。つまり、B外 による仕事のトータルは 0 なのである。
∆t
42 第 3 章 電磁気学の相対性

上 による力 外 による力
単位時間に 移動

仮想的な運動 電子の運動方向
電流の方向

ここで電子は上下方向には等速運動していることを思い 外 による力 束縛力(水平方向)

出すと、この「B外 による力」は荷電粒子がループ導線の
上 による力
上下からはみ出さないようにする束縛力と打ち消しあっ
ていなくてはいけない。つまり、束縛力のする仕事 †9 は
2πr 束縛力(上下方向)
e B外 × v∆t である。よってこの疑問の回答として、
∆t
(1) 磁場による力全体は仕事をしないが、この力を円周方向の運動に由来する部分と
上下方向の運動に由来する部分に分けて考えるとそれぞれの分力は仕事をする。
(2) 磁場による力は全体として仕事をしないが、荷電粒子を導線内に閉じ込める束縛
力は仕事をする。

という二通りの答え方ができる。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

これはたまたまうまくいっているのか、それとも必然的なのか?
もちろん、「たまたま」ではなくこうなることには意味がある、というのが特
殊相対論の立場である。それはつまり「Maxwell 方程式はどの慣性系でも正し
い物理法則である」ということに他ならない。今ではその立場が広く認められ
ているわけだが、特殊相対論ができあがる前には「Maxwell 方程式ではない方
程式が必要だ」という考え方もされた。そう考えられた理由はもちろん、(直観
的に正しいと感じられる)Galilei 変換を尊重したからである。
次の節でその方程式について説明しよう。

3.2 Maxwell 方程式を Galilei 変換すると?

【注意!】この節の話は現代物理からすると「間違った考え方」である。最終的
には「Galilei 変換は使えない」が明らかになる。そのことを説明するために、
この節では、あえて、現代の視点からみると間違っていた考え方を説明する。

†9
「束縛力は仕事をしない」という文言を聞いたことがある人が不安に思うかもしれない。静止物体によ
る束縛力は確かに仕事をしないが、運動する物体による束縛力は仕事をすることもあるので、心配には及
ばない。なお、「B上 による力」のする仕事は 0 である。
3.2 Maxwell 方程式を Galilei 変換すると? 43

3.2.1 座標系の設定
ヘルツ
†10
電磁波の発見者としても名高いHertz は、動いている人から見たら Maxwell
方程式はどのように変化するのか、ということを考えて、Maxwell 方程式を
Galilei 変換した方程式を導いている。
以下、Maxwell 方程式が成立する特殊な座標系を (tM , ⃗
xM ) と書くことにして、
⃗xM =⃗x − ⃗v t ⃗x =⃗xM + ⃗v tM
観測者のいる座標系である (t, ⃗
x) とは (逆変換は )
tM =t t =tM

という Galilei 変換で結びついているとしよう。

エーテルの風に乗って流れるMaxwell先生

? わしの方程式
が成立するのは
この基準系だけ
かな?

静止している光源

エーテルの風

流される光の波面

(tM , ⃗xM ) 座標系では普通の Maxwell 方程式が成立するのだが、(t, ⃗x) 座標系成


り立つ方程式を考えるために、座標変換 (t, x, y, z) → (tM , xM , yM , zM ) による、微
∂ ∂ ∂ ∂
分 , , , の変換を考えてみる。微分の連鎖律から
∂x ∂y ∂z ∂t
 
∂ ∂x ∂ ∂y ∂ ∂z ∂ ∂t ∂ ∂ ∂ ∂
= + + + = , も同様
∂xM ∂xM ∂x ∂xM ∂y ∂xM ∂z ∂xM ∂t ∂x ∂yM ∂zM
1 0 0 0
(3.5)
∂ ∂t ∂ ∂x ∂ ∂y ∂ ∂z ∂ ∂ ∂
= + + + = + [⃗v ]i (3.6)
∂tM ∂tM ∂t ∂tM ∂x ∂tM ∂y ∂tM ∂z ∂t ∂[⃗x]i
1 [⃗v ]x [⃗v ]y [⃗v ]z

†10
振動数の単位 Hz にもその名を残す。
44 第 3 章 電磁気学の相対性

がわかる(最後はEinstein の規約を使い簡略化した)。∇
⃗ 記号を使うと、
→ p29

∂ ∂

⃗ M = ∇,
⃗ = + ⃗v · ∇
⃗ (3.7)
∂tM ∂t
( (
⃗x による微分 t による微分
となる。 は同じもので、 は違うものである。
⃗xM による微分 tM による微分
( (
空間微分は変化しない x → ⃗xM と変化
座標の方は ⃗
ので、 と対応が奇妙
時間微分は変化する 時間の方は t = tM




 は「⃗
x を一定として t で微分」
∂t
に思えるかもしれない。しかし である

 ∂
 は「⃗
xM を一定として tM で微分」
∂tM
∂ ∂
ことを考えれば、 と が「向きが違う微分」であることに納得がいく。
∂t ∂tM
y, z 座標を省略して描いた右の図からもわかるよ
「⃗
うに、 x を一定として t が変化する」場合と「⃗xM を一
定として tM が変化」する場合では移動の向きが違う。

逆に、 が「t を一定として x で微分」であり、
∂x

が「tM を一定として xM で微分」であることを考
∂xM
えれば、この二つは微分の意味する移動の向きが同
じであることが納得できる。

3.2.2 Hertz の方程式を導出


では方程式を作っていこう。元となる Maxwell 方程式は以下のようなものだ。
 Maxwell 方程式 

⃗ ⃗
div B ⃗ = − ∂ B , div D
⃗ = 0, rot E ⃗ = ⃗j + ∂ D
⃗ = ρ, rot H (3.8)
∂t ∂t
 

⃗ を∇
微分の変換が大事なので、(3.8) の div V ⃗ ·V ⃗ を∇
⃗ と、rot V ⃗ ×V
⃗ と表記
しよう。さらにこの節の考え方では、Maxwell 方程式は特定の座標系 (tM , ⃗
xM ) で
しか成立しないので、その座標系を採用していることを示すため、全ての物理量
3.2 Maxwell 方程式を Galilei 変換すると? 45

と微分演算子(3.9)の微分 ∇
⃗ と †11
に M を付けて、
→ p45

 特定の座標系での Maxwell 方程式 

⃗ ⃗
∇ ⃗ M = 0, ∇
⃗M·B ⃗ M = − ∂ BM , ∇
⃗M×E ⃗M·D
⃗ M = ρM , ∇ ⃗ M = ⃗jM + ∂ DM
⃗M×H
∂tM ∂tM
(3.9)
 
という方程式を Galilei 変換させてみる。電場や磁場は Galilei 変換では変化し
⃗ M, B
ないとして考えるが、最初は M 付きの系では E ⃗ M のように違う量になるとし
て考えておこう。  

 ∇
⃗ ·B ⃗ =0 
 ∇
⃗ ·D
⃗ =ρ
空間微分は変化しないから、 と は Galilei

 ∇
⃗M · B⃗M = 0 
 ∇
⃗M · D
⃗ M = ρM

変換で変化しない。時間微分を含む方程式を考えていこう。

∇ ⃗ M = − ∂ BM を Galilei 変換すれば、 ∂ = ∂ + ⃗v · ∇
⃗M × E ⃗ を使って、
∂tM ∂tM ∂t

⃗  
∇ ⃗ M = − ∂ BM − ⃗v · ∇
⃗ ×E ⃗ B ⃗M (3.10)
∂t
となる。ここで、この式にあえて 0 になる項を付け加えて
∂  

⃗ ×E
⃗M = − ⃗ M − ⃗v · ∇
B ⃗ M + (∇
⃗ B ⃗ ·B
⃗ M )⃗v (3.11)
∂t
=0
とした後にベクトル解析の公式(B.62)
→ p310
 

⃗ × A
⃗×B ⃗ · ∇)
⃗ = (B ⃗ A ⃗ ∇
⃗ + A( ⃗ · B)
⃗ − (A
⃗ · ∇)
⃗ B⃗ − (A
⃗ · ∇)
⃗ B⃗ を

   
⃗ = ⃗v , B
A ⃗M として使えば ∇
⃗ =B ⃗ × ⃗v × B
⃗ M = ⃗v ∇ ⃗ M − (⃗v · ∇)
⃗ ·B ⃗ B⃗M †12

という式を作ることができ、

∇ ⃗ M = − ∂ BM + ∇
⃗ ×E ⃗ × (⃗v × B
⃗ M) (3.12)
∂t


を出すことができる。 ∇ ⃗ M = ∂ DM + ⃗jM の方は、
⃗M×H
∂tM

†11

⃗ は x 系のナブラ記号(x による微分で作られている)である。
M M M
†12

⃗ によって微分されるのは B
⃗ だけだという点に注意しよう。
M
46 第 3 章 電磁気学の相対性

⃗  
∇ ⃗ M = ∂ DM + ⃗v · ∇
⃗ ×H ⃗ D ⃗ M + ⃗jM (3.13)
∂t
 
となる。この式に、0 になる項 −⃗
v ∇ ⃗ ·D
⃗ M − ρM を加えて、(3.11)にしたのと
→ p45

同様の計算をすると、
⃗  
∇ ⃗ M = ∂ DM − ∇
⃗ ×H ⃗ × ⃗v × D
⃗ M + ⃗jM + ρM⃗v (3.14)
∂t
⃗j

v = ⃗j と置いたが、⃗j は M なしの系における「電流密
となる。ここで、 ⃗jM + ρM⃗
†13
度」と解釈できるからである 。
⃗ B,
(t, ⃗x) 系と (tM , ⃗xM ) 系で E, ⃗ D,
⃗ H⃗ は同じ量だと考える †14 と、(t, ⃗x) 系では
 Hertz の方程式 

⃗ ·B
∇ ⃗ = 0, ∇ ⃗ = − ∂B + ∇
⃗ ×E ⃗ × (⃗v × B),

∂t


⃗ ·D
⃗ = ρ, ∇ ⃗ = ∂D − ∇
⃗ ×H ⃗ × (⃗v × D)
⃗ + ⃗j (3.15)
∂t
 

が成立する。
この章の最初の疑問に対して、Hertz の考え方はどんな答えを出すだろうか。
3.1.1 項では、(x, y, z, t) 系が Maxwell 方程式が成立する座標系で、(X, Y, Z, T )
→ p36

系がその系に対して速度 c で動いているとして、座標変換を Z = z − ct (この

逆変換は z = Z + cT )と考えた。Hertz の方程式の導出では xM = x − vt と


して、xM 系が Maxwell 方程式の成立する座標系(エーテルの静止系)であった
から、対応((x, Z) ↔ (xM , z))を考えると、Hertz の方程式にあらわれる ⃗
vが
⃗v = −c ⃗ez であることがわかる。3.1.1 項ではエーテル静止系はとまっていて、
→ p36

観測者が速さ c で右側に動いていた。逆に考えると、観測者から見てエーテル静
止系が速さ c で左側に動いている。一方、3.2.1 項では、観測者に対してエーテ
→ p43

ル静止系が右に速さ v で動いている、と考えればわかりやすい。

†13
「Hertz の方程式」は、上で書いた置き換え ⃗ v = ⃗j を行わない形で書かれていることが多
jM + ρM ⃗
い。書き換えない立場では、「電荷密度 ρM が速度 ⃗
v で運動していることによって起こる電流密度」と電流
密度 ⃗
jM を分けて考えている。
†14
実際にこうなのかどうかは、実験的に検証する必要がある。
3.3 エーテル—絶対静止系の存在 47

よって、(X, Y, Z, T ) 座標系での電磁場

⃗ = E0 sin kZ ⃗ex ,
E ⃗ = E0 sin kZ ⃗ey
B (3.16)
c

v = −c ⃗ez とした方程式である。
の満たすべき方程式は、Hertz の式で ⃗

⃗v × B
⃗ を計算すると、
E0
−c ⃗ez × sin kZ ⃗ey = E0 sin kZ ⃗ex (3.17)
c
となって
†15 ⃗ と ⃗v × B
、E ⃗ が等しいということになる。B
⃗ は時間に依らないの
⃗  
⃗ ×E
で、この電磁場は Hertz の方程式 ∇ ⃗ = − ∂B + ∇
⃗ × ⃗v × B
⃗ を満たす。
∂t
したがって、Hertz の方程式が正しいなら「止まっている電磁波」は存在する。

練習問題
【問い 3-2】 物質のない真空中の Hertz の方程式は


⃗ =0
div B ⃗ = − ∂ B − (⃗v · ∇)
rot E ⃗ B⃗
∂t
(3.18)

⃗ =0
div E ⃗ = 1 ∂ E + 1 (⃗v · ∇)
rot B ⃗ E⃗
c2 ∂t c2

⃗ のみ、B
のように書くことができる。これらの式から E ⃗ のみの方程式を導き、そ
れが速さが c ではない波の解を持つことを示せ。 ヒント → p312 へ 解答 → p317 へ

3.3 エーテル—絶対静止系の存在
フレーム
ここまでで、特別な「Maxwell 方程式が成立する基準系(そこに張られた座
標が ⃗
xM )があり、その特別な基準系に対して運動している基準系では Hertz の
方程式が成立するという考え方で二つの式を作った。Hertz の方程式に現れる ⃗
v
は、その基準系から見た「Maxwell 方程式が成立する基準系の運動速度」であ
る。音に対する空気のように、光に対して「エーテル」と言う媒質を考えると、
「エーテルの静止系」でのみ Maxwell 方程式が成立するということになる。
これが本当だとすると、Mach によって Newton 力学から追放されたはずの
「絶対空間」が電磁気学の世界で復活したことになり、我々は電磁気の問題を解
†15
ez × ⃗
⃗ ey = −⃗
ex に注意。
48 第 3 章 電磁気学の相対性

くにあたって常に「我々は絶対空間にいるのか?(エーテルの風は吹いているの
か?)」と問いかけなくてはいけない。エーテル風速 ⃗
v がわからないと式がたて
られない。とはいえ、当時は「この “エーテルの風” がたとえ吹いていたとして
も、せいぜい地球の公転速度である約 3km/s (光速の約 1 万分の 1)のオーダー
であり、精密な実験をしない限り観測にはかからないだろう」と思われていた。
最終的にはここで考えられたエーテルは存在しないことが明らかになったわ
けだが、当時わかっていたことだけを考えても、このような物質の存在は考え
メンデレーエフ
†16
がたい。周期表で有名なMendeleev はエーテルに原子番号「0」を与えたとい
う。エーテルがもし存在するとしても普通の物質とは全く違う性質を持ったも
†17
のであることは間違いない。まず光は横波 であるから、エーテルは固体のよ
うに変形に対して元に戻ろうとする性質(弾性)を持っていなくてはいけない
†18
。横波は「進行方向に対して直角な方向への変位に対して、元に戻ろうとす
る復元作用」が存在している時に発生する(これに対して縦波は「進行方向に平
行な方向への変位に対する復元作用」によって起こる)。
光が 30 万 km/s という速いスピードで進むことは、エーテルが復元作用の強
い、非常に固い物質であることを示している。しかし、すぐ後に示すように、
エーテルが満ちていると考えられる「真空」中を、物体は抵抗なく進むことがで
きる。固いのに抵抗がないとはいったいいかなる “物質” なのであろうか?
以上のように考えていくと、「光も波なのだから媒質となる物体が存在してい
るだろう」という素朴な考え方が、むしろ非常識な結果を生むことがわかる。で
は実際にはこの非常識なエーテルなるものは存在するのか、それともないのか?
エーテルの静止系というこの考え方は人類が天動説(地球が中心)から地動説
(太陽が中心)、さらには太陽も銀河の中心ではなく—と知識が拡大していった
フレーム
流れに反するようにも感じられる。我々の科学の発展はむしろ「特別な基準系
などない」という流れに乗っていたのではないだろうか? —ここで大事なの
は「物理は実験がすべて」ということ。要は、実験に合わなければ仮説は棄却
されなくてはいけない(そうして天動説は棄てられたわけだ)。では、果たして
「Maxwell 方程式が成立する座標系」はあるのか? —それを決めるのも実験で
マイケルソン モーレー
ある。そのための実験としてもっとも有名なのがMichelson-Morleyの実験なの

†16
Mendelejev、Mendeleiev、Mendeleef と綴られることもある。
†17
「偏光」が存在することはそれを示している。
†18
地震波には横波と縦波があるが、液体中(地球の中心殻など)は横波は伝わらない。
3.4 Hertz の方程式の実験との比較 49

だが、これについては付録で述べる。この章の残りの部分ではそれ以外の実験
→ p290

においても Hertz の方程式を採用すべきか否かについてある程度の情報が得ら


れることを示そう。

3.4 Hertz の方程式の実験との比較


3.4.1 Röntgen-Eichenward の実験
Hertz の方程式が正しいかどうかを判 極板:正に帯電
レントゲン
定に関連する実験として、Röntgen-
アイフェンヴァルト
Eichenwardの実験がある †19 。
右の図のように誘電体を半径 R の円
筒形にして、軸方向に(電束密度の大き
さが D の)電場を掛けておいて回転さ
せる。
極板:負に帯電
エーテルがこの回転する誘電体と一
†20
緒に運動しているとすれば 、Hertz の方程式の中の ⃗
v には、各点各点の回転
速度を代入すればよい。
電場・磁場が一定だとしてさらに真電流もないとすれば Hertz の方程式(3.15)
→ p46

⃗ の式はこの場合は
のH
 
⃗ = −rot
rot H ⃗v × D
⃗ (3.19)

となるから、
⃗ = −⃗v × D
H ⃗ (3.20)
†21
が一つの解である 。つまり、この誘電体内部には磁場(図に示したように、
外に向かう磁場)が存在する。
これにより、「円筒が角速度 ω で回っているとするならば、表面(半径 R な
⃗ の磁場が発生する」という
ので Rω の速さで運動している)には大きさ Rω|D|
レントゲン アイフェンヴァルト
†19
ドイツ人物理学者のRöntgenは X 線の発見者でもある。ロシア人物理学者Eichenwardは Röntgen
の実験をより精密に行った。
†20
これは仮定である。これで本当にいいのかは再考が必要。また、Hertz の方程式の「運動」は等速直線
運動なので、回転運動に単純に適用していいのかも考えるべきだが、それについては十分にいい近似であ
ることが知られている。
†21
rot を掛けて 0 になる量を足すだけの自由度があるが、そんな項はないと考えよう。
50 第 3 章 電磁気学の相対性

ε − ε0 ⃗ であった (ε
結果が予想される。ところが実際に測定された磁場は Rω|D|
ε
は誘電体の誘電率、ε0 は真空の誘電率)。これはあたかもエーテルが速さ Rω で
ε − ε0
はなく Rω で動いているかのごとき結果である。
ε
特殊相対論を使った計算ではこの結果に一致する答えが出るが、それはだい
ぶ先の11.2.6 項で示そう。
→ p273

上で電場中で物体を回転させて磁場を作ったことの逆で、物体を磁場中で回
ウィルソン ウィルソン
転させて分極を作るのが H.A. Wilsonと M. Wilsonによる実験 (1913 年) であ
ラウプ
る。この現象については、Einstein とLaubが Lorentz 変換を使って磁場中で動
く磁性体の分極を計算している (1908 年)。この実験結果も、素朴に Hertz の方
程式を適用した計算とは合わないが、特殊相対論的計算ならば合う。

3.4.2 Fizeau の実験


前項では「誘電体が回転している速度を Hertz の方程式の ⃗
v に代入する」とい
う計算をやっているが、物体が動いてもその場所のエーテルは動かないのかも
しれない。実は「物体が動くとその周りのエーテルは一緒に動くのか?」を定め
フィゾー
†22
るための実験は、すでに 1851 年にFizeau によってなされていて、次の図がそ
の実験の概略図である。



ハーフミラー


鏡 鏡

彼は水中の光速が、水が流れている時にはどのように変化するかを間接的に
測定した。流れる水の中を水と同じ向きに通した光と逆向きに通した光で干渉
を起こさせて、流速を変化させた時の干渉縞の変化から水中での光速を推測し
†23
ている 。Fizeau の実験の結果、静止している水中の光速を u とすると、光の

†22
19 世紀フランスの物理学者。歯車を使った光速測定の実験などでも知られる。なお、ここで説明する
実験自体は Fizeau 以外によってその後も精度を上げて続けられた。
†23
このあたりの実験のやり方は付録で述べるMichelson-Morley と似ている。
→ p290
3.5 Trouton-Noble の実験 51

進む向きに水が速さ v で流れているときは
 
1
u+ 1− v (3.21)
n2
†24
という速度で光が伝播することがわかった 。もしエーテルが完全に引き摺ら
れるのであればこの式は u + v になった。まったく引き摺られないのならば u
となっただろう。
1
この実験の結果から、エーテルは (もし存在するのなら) 水の流速の 1 − 倍
n2
1 フレネル
で引き摺られる( n = 1 なら引き摺られない)。この 1 −
†25
2
をFresnel の随
n
伴係数と言う。しかし屈折率 n は通常、光の振動数によって違うので、「光の振
動数ごとに別々のエーテルが別々の速度で動く」というおかしな結論になって
しまう。音に例えれば、「ドの音を伝える空気と、ソの音を伝える空気が違う速
度で運動している」ということである。この「エーテルの引き摺り」現象の存在
はエーテルを実在のものと考えることを非常に困難なものにする。

3.5 Trouton-Noble の実験


トルートン
もう一つ、特殊相対論登場以前の電磁気学では解けなかった問題、
「Trouton-
ノーブル
Nobleの実験」について述べよう。

以下では実際の実験より話を単純化して説明する。
フレーム
図のような棒が静止している基準系(以下「静止
e ⃗x
系」と呼ぶ)に、図のように座標系 (t, e) 系を張る 支え棒

(図では teと ze は省略されている)。棒の両端の、


(
点 (L cos θ, L sin θ, 0) に電荷 Q
が取り付
点 (−L cos θ, −L sin θ, 0) に電荷 −Q
けられている。ほうっておけばこの二つの電荷は

†24
この先で「光速は不変である」ということを口が酸っぱくなるほど言うので、ここで光速が変化すると
いう結果が出ていることに、後々違和感を覚えるかもしれない。しかしここで述べているのは物質が満ち
ている空間における光速であり、「光速が不変である」と言っている時の光速は真空中のものである。
†25
Fresnel は光の波動説に関する数々の実験・理論で活躍したフランスの物理学者。彼が随伴係数
1
1− を導いたのはまた別の実験からであるが、その後に行われた Fizeau の実験の結果はそれを支持
n2
した。
52 第 3 章 電磁気学の相対性

引き合ってくっついてしまうが、支え棒によって移動しないように止められて
いる。静止系では力のつりあいも、トルクのつりあいも保たれている。
この装置が速度 v をもって x 軸正の向きに移動しているように見える基準系
(以下「運動系」と呼ぶ)に座標系 (t, ⃗
x) 系を張る(空間軸の向きは静止系のそ
れと一致している)。運動系ではどんな現象が起こるかを考えよう。この系では
二つの電荷が磁場を作る。ここでは定量的に考えるのは後に回して、どちら向
きの磁場を作るか、それによって電荷にどのような力が働くかだけを考えよう。
右の図のように磁場が(右ねじの法則に
したがって)発生する。正電荷のいる場所で 正電荷の
作る磁場

は、負電荷の作る磁場の向きが なので、y
軸正の向きの力が働く。一方負電荷のいる
場所では正電荷の作る磁場の向きは同じく
が だが、負電荷の運動なので電流の向き
が逆であり、働く力は y 軸負の向きとなる。 負電荷の
作る磁場

力 磁

結果として棒には のように、棒を y 軸方向に向けようとす


る(進行方向と垂直になろうとする)偶力が働くことになる。よって運動系では
この棒は回転を始める。
 v 2
この偶力を作る力は、電荷間に働く静電気力に比べて 倍(v は等速直線
c
運動の速度)に比例するので、非常に精密な実験でないと測定できないが、もし
測定できれば「我々の基準系が Maxwell 方程式が成り立つ基準系に対し運動し
ている」という証拠を得ることができる。

練習問題
【問い 3-3】 上の状況で動いている電荷に働く磁場からの力を次元解析で見積
Q2 v2
もって、それが静電気力 に比べ定数を除いて 倍であることを示せ。
4πε0 (2L)2 c2
ヒント → p313 へ 解答 → p317 へ

トルートン ノーブル
1901 年から 1903 年にかけて、TroutonとNobleはこの力が測定可能な装置で
3.6 Lorentz の考えから Einstein の相対性理論へ 53

実験を行った。彼らの装置は上で示したような棒ではなく、コンデンサである
(電荷が点状か板状に分布しているかの違いで、本質は変わらない)。彼らの苦
労にもかかわらず、コンデンサを回転しようとする力は全く観測されなかった。
「電磁気学にも絶対静止系など存在しない」という立場に立てば、この力は観
測されないのが当然である(等速運動している慣性系では、静止系と同じ物理現
象が起こるはずだ!)。ではいったい、何がどうなってつりあいが保たれている
†26
のだろう?? —この疑問もまた、特殊相対論の登場によって解決される 。

ここで書いたのとは逆向きに回そうとする偶力が存在することの定性的な説
明は8.3.4 項で行う。さらに9.6.2 項で精密な計算を行う。
→ p161 → p217

3.6 Lorentz の考えから Einstein の相対性理論へ

以下は少し先走って、この後の展開を先取りしたことを書くので、先を急ぐ
人はとばして第 4 章に行っても構わない。
→ p60

Lorentz は「Hertz の方程式の導出では、電場や磁場の値が座標系によって変


化しないと考えている」という点に異議を唱えた。Lorentz がこの点を改良して
作ったのが Lorentz 変換である。Lorentz 変換は Maxwell 方程式を不変にする
ので、Hertz の方程式のような新しい方程式が不要であるかわりに、電磁場は
 電場・磁場の Lorentz 変換の近似式 

E ⃗ + ⃗v × B
⃗ M =E ⃗ (3.22)

B ⃗ − 1 ⃗v × E
⃗ M =B ⃗ (3.23)
c2
 
のように、座標系によって違う値を取ると考えた。実際の Lorentz の式はもっ
 v 2
と複雑(正確な式は(9.102)を見よ)なのだが、この式では のオーダーを
→ p214 c
無視して簡単にして書いている。
⃗M と B
E ⃗ M は、⃗xM 座標系での電場と磁場である †27 。二つの座標系は、⃗x 座標系

†26
実際にこの謎を解いたのは次の節にある Lorentz で、この段階ではまだ特殊相対論として完成しては
いなかった。
†27
もともと、添字 M の意味は「Maxwell 方程式の成り立つ系」だったが、この節の立場ではすべての
フレーム
基準系で Maxwell 方程式は成り立っている。
54 第 3 章 電磁気学の相対性

から見ると ⃗
xM 座標系の原点が速度 ⃗v で動いていくように見える座標変換でつな
がっている。ただし、変換は Galilei 変換に似ているが単純ではない。

電荷といっしょに動く人の見る世界

この人から
見たら、
自分は静止 電荷も静止

電場があるよ。
電場なんて
どこにもないよ

Lorentz は各種実験を再現できるように考えてこの変換にたどりついた。こ
の変換によれば、ある座標系では電場がなく磁場だけが存在していたとして
も、その座標系に対して速度 ⃗
v で動く座標系には電場と磁場の両方が存在する。
Lorentz は磁場中を動いている電荷が感じる力は、その電荷が静止している座
標系では電場が存在していて、その電場により力を受けるからだと考えられる
v×B
ことを示した。その力こそ q⃗ ⃗ であり、現在「Lorentz 力」と呼ばれている
†28
。3.1.2 節で考えた動くコイルの問題も、(3.23)式を考えれば、「動いている
→ p53

コイルの立場から磁場を見ると、そこには電場も存在する」という考え方で解く
ことができる。
Hertz の方程式では説明が困難であった現象を、「Maxwell 方程式+ Lorentz
変換」によってうまく説明することができた。しかしこの時点での Lorentz 変
換にはいくつか不明確な点や未完成な点がある。そのためここで説明するとか
えって混乱することになりそうなので、Lorentz 変換自体の説明は少し先に延
ばす。歴史的には、Lorentz が試行錯誤の末に Lorentz 変換を作りあげた後、
Einstein が特殊相対性原理という形で、その背後にある物理的内容を明確にし
てくれた。現在の我々も、特殊相対性原理の考え方を使って Lorentz 変換を考
えた方がわかりやすい。
以上からわかるように、『エーテルの静止系でのみ Maxwell 方程式が成立す
る』という考え方は、いろいろと実験的不都合を招く。Galilei 変換が正しいと
すれば、電磁気の基本法則は Maxwell 方程式ではなく Hertz の方程式で表され
ることになるが、Hertz の方程式は結局は間違っている。間違っていると言っ

 
†28
広い意味での Lorentz 力は電場の力と磁場の力の和 q E v×B
⃗ +⃗ ⃗ を指す。
3.6 Lorentz の考えから Einstein の相対性理論へ 55

ても理論的に間違っているわけではなく、実験によって否定される。Hertz の
方程式が正しいかどうか、あるいはエーテルが存在しているのかどうかを確認
する、もっとも有名でかつ直接的な測定実験は Michelson-Morley の実験によ
る、光の速度がエーテルの運動によって変化するかどうかを確認した実験であ
る(付録で解説する)。Michelson-Morley の実験は「光の速度は観測者によっ
→ p290

て変わるはず」ということを確認するための実験であったが、その結果は失敗に
終わり、光の速度が変化しないことが確認されてしまった。
光の速さを測定しようというのであれば、一番単純な方法は「A 地点で光を
発射して B 地点で受ける。A 地点と B 地点の距離をかかった時間で割る」こと
であろう。原子時計などを用いて精密に時間を測ることができる現代であれば、
まさにこの通りの実験ができる。しかし、当時はまだそんな測定はできない。
そこで干渉を用いて速度変化を検出しようというのが Michelson-Morley の実
 v 2
験である。Michelson-Morley の実験ではエーテルの運動の影響は のオー
c
v
ダーであったが、直接測定を行えば のオーダーで影響が出る。一方、現在の
c
−7
原子時計が 10 秒ぐらいの精度で時間を測ることができる。
現在ならもっと直接的でシンプルな実験が可能だという意味では、Michelson-
Morley の実験を使って光速不変を説明するという方法は、“古臭いやりかた” と
も言える(なので付録扱いとした)。
Michelson-Morley の実験は 100 年以上前の実験であり、当時の実験技術の粋
をこらして実行されたものとはいえ、現代の技術でならばもっと精密な実験が
可能である。もちろんその実験も行われており、Michelson と Morley の実験に
†29
比べると精度は 10 万倍に上がっている 。もちろん、光速不変の原理を疑うに
足る証拠はまったくない。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
逆に、「光がこれだけの遅れで伝わってきたから A 地点と B 地点の距離はこれこれ
である」という原理で現在位置を測定する機械がある。カーナビなどで使われている
GPS(Global Positioning System) である。GPS は複数の人工衛星からの電波を受
信して、その電波が発信源からどれくらい遅れて到着したかを計算して自分の位置を
測る。衛星 A からの電波が衛星 B よりの電波に比べてより遅れているのなら、自分は

†29
むしろ、Michelson-Morley の実験装置は精密に距離を測定する方法として使われることも多い。光
速が一定であることを逆手にとって利用して、距離をはかる手段に使う。重力波の観測にも使われている。
56 第 3 章 電磁気学の相対性

衛星 B の近くにいると判断する、という具合である。この機械がうまく動作するため
には「光速が一定である」という大前提がなくてはならない。衛星は頭上 2 万 km ぐら
いの高さを回っている。カーナビの精度は数メートルぐらいであるから、7 桁の精度で
距離が測定できている(誤差の原因は、電波が大気中を通る時の速度変化と、軍事利用
されないためにわざと混入されている誤差)。エーテルの風が吹くという考え方がもし
も正しいならば、GPS の衛星から来る電波の速度が季節によって 1 ± 10−4 倍程度変
化してしまうので、7 桁の精度で距離を測ることなど、とてもできない(【演習問題3-1】
→ p58

参照)。現在我々の生活に直接関係する部分でも、エーテルが存在しないことを前提と
した機械が使われており、しかも何の問題もなく動作しているということになる。少
なくとも現在の実験のレベルにおいて、光速不変を疑うことはもはやできない。もち
ろん今後実験精度がさらにあがった時に何か変なことが発見される可能性は零ではな
いが、それを言い出せば、もともと物理における全ての法則は実験精度の範囲内でし
か保証されていないのは当然のことである。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

忘れないで欲しいのは Michelson-Morley の実験だけがエーテルの存在(絶対


空間の存在)を否定しているわけではないことである。この節で述べたように、
Hertz の理論(Maxwell 方程式+ Galilei 変換)ではどうしても説明できない実
験事実がいろいろとあったからこそ、Einstein を筆頭とする 20 世紀の物理学者
達は Galilei 変換を棄却して Lorentz 変換を採用し、特殊相対論を展開させた。
物理は、一つの実験だけをきっかけに一朝一夕に書き換えられるようなもので
はない。

3.7 導線のパラドックス:電流に追いつく

ここまでの話でわかるように、相対論は電磁気学の発展の過程で生まれた理
論である。というより、古典電磁気学を完成させる最後の 1 ピースだった。相対
論なしでは電磁気学は未完成なのである。そこで、高校レベルの電磁気現象だ
けど、相対性理論を使わないと説明できない現象を一つ紹介しておこう。

パラドックス
電流が流れている導線から少し離れたところに静止した電子がいる。
導線には流れている自由電子(負電荷)がいるが、静止している金属イ
オン(正電荷)もいて、全体として電荷は中和している。ゆえに導線の
3.7 導線のパラドックス:電流に追いつく 57

まわりに電場はない。電流があるから磁場はあるが、磁場は止まってい
る電子に力を及ぼすことはない。よってこの電子は力を受けない。
ここで、流れている電子と同じ速度で移動しながらこの現象を見たと
しよう。電子は止まってしまうが、金属イオンは逆に動き出すので、や
はり電流は同じ強さで流れている(向きも変わらない)。故に磁場はや
はり発生している。今度は外においてある電子は動いている。磁場中を
動く電子は力を受けるので、この立場で考えると電子には力が働く。

この考え方は間違ってます

電流 電流

?
える
こう見

磁場 磁場

こうやって 運動する電子
静止した電子 動きながら 電子の運動方向 力
磁場からの力
見ると、、、

つまり、立場によって電子に力が働くか働かないが違う。

はたして電子に力は発生するのか、しないのか??
電線の中の電子の動く速度はけっこうゆっくり(歩く速度より遅いぐらい)な
ので、この実験は実際にやることができるが、もちろん、電子は動かない。見る
人の立場によって結果が変わるはずはない。
磁場の Lorentz 変換の近似式(3.23)を使って計算しよう。導線および外の電
→ p53

子が静止している立場(図の左)を (tM , ⃗
xM ) 系、運動している立場(図の右)を
⃗ 1 だとしよう。二
(t, ⃗x) 系とする。(tM , ⃗xM ) 系では電場は ⃗0 であり、磁束密度は B
⃗ + ⃗v × B
⃗0 =E ⃗
つの座標系の間の変換則である(3.23)から が成り立つ。
→ p53 B ⃗ − 1 ⃗v × E
⃗ 1 =B ⃗
c 2
58 第 3 章 電磁気学の相対性

x) 系での電場は −⃗v ×
これから求めると、(t, ⃗

B ⃗ 1 である( ⃗v × (⃗v × B)
⃗ 1 、磁束密度は B ⃗ = ⃗0 電場からの力
v×B
に注意)。すると電子には (−e)(−⃗ ⃗ 1) の
静電気力と −e⃗
v×B
⃗ 1 の磁場からの力が働く。
結果として電子にはどちらの立場からも力は
磁場からの力
†30
働かない 。上の結果を見て
早合点な人
なるほど、磁場を動きながら見れば(自動的にどこからともなく)電
場が出てくるのだな。

と納得してしまうかもしれない。しかし、それでは問題の半分しか理解してい
ない。「電場が出てくる」のは間違いないが、
「どこからともなく」ではなく、明
確な「起源」を持って出てくるのである。相対論を知っていると、電場の起源の
謎を解くことができる。これについてはずっと後の9.7.2 項で示す。
→ p220

というわけで、いろいろ後の楽しみを残しつつ、次の章でいよいよ特殊相対論
の肝である、Lorentz 変換の考え方に迫っていこう。

3.8 章末演習問題
★【演習問題 3-1】
2 地点 Ai (xi , yi )(i = 1, 2)に「時報」を電波で送信して
半径 の円
いる衛星がある。時刻 t において衛星からそれぞれ T1 , T2 と
いう時報を受け取ったとしよう。現在時刻の自分の位置を
(x, y) とすると、次の式が成り立つ。

c2 (t − T1 )2 = (x − x1 )2 + (y − y1 )2 (3.24) 半径 の円

c (t − T2 ) = (x − x2 ) + (y − y2 )
2 2 2 2
(3.25)

これを解けば x, y が求まり、自分の現在位置を推測できる。図に示した二つの点 P,Q のど


ちらかが現在位置である。以下では簡単のため、 x1 = −L, x2 = L, y1 = y2 であった場

合を考えよう。
その場合に (3.24)−(3.25) を計算すると

†30
「電子は上下から引っ張られて引きちぎられませんか?」と心配する人がたまにいるが、図では作用点
を離して描いてあるが実際には磁場からの力と電場からの力の作用点は一致しているので、
「上下から」働
くわけでもないし、引きちぎる力にもなってない。
3.8 章末演習問題 59


c2 (t − T1 )2 − (t − T2 )2 =(x + L)2 − (x − L)2
c2 (T2 − T1 ) (2t − T1 − T2 ) =4Lx
 
c2 (T2 − T1 ) t − T1 +T2
2
=x (3.26)
2L

となって x が求められる。
我々は知らなかったが、この場所には x 軸正の向きに速さ v の「エーテルの風」が吹い
ていて、上の図の円は風に乗って流されるとする。よって上で求めた x を x無風 とすると
(エーテルの風が吹いているなら)これは正しい x 座標にならない。エーテルの風が吹いて
いることを考慮して計算した「真の x」†31 に比べ、我々は現在位置の x 座標をどの程度間
違うだろう? —簡単のため T1 = T2 の場合について計算し、 v = 30 km/s (地球の

公転速度) t − T1 = 0.01 s (衛星と自分の間の距離が 3000 km の場合)について見積


もれ。y 座標も間違うのだが、そちらは計算しなくてよい。 ヒント → p1w へ 解答 → p3w へ

★【演習問題 3-2】
z 軸と一致する無限に長い直線上に線密度 ρ で静止した電荷が分布している。このとき z
ρ
軸から r だけ離れた場所には外向き(z 軸から離れる向き)に、 の電場が存在する。
2πε0 r
これを速度 ⃗v で動きながら見たとしよう。どれだけの磁場が発生するか?
単位長さあたり
+

こ の人から
見る と 、 、 、

磁場

・(3.23)式を使って。
→ p53

・どれだけの電流が流れているように観測されるかを考えて。
の 2 通りの方法で計算し、一致することを確認せよ。
v2
のオーダーは無視してよい(つまり後で出てくる正確な Lorentz 変換の式は使わな
c2
くてもよい)。
ヒント → p??w へ 解答 → p??w へ

†31
実際にはエーテルの風は吹いていないのだから、「真の」ってなにか変だが。
第 4 章

光速不変から Lorentz 変換へ

実験からわかった「光速は誰から見ても同じである」という事
実をどのように解釈しなくてはいけないかを考えよう。

4.1 光速不変性を満たす座標変換

4.1.1 特殊相対性原理
†1
第 3 章で Maxwell 方程式が Galilei 変換で不変でないことを述べた。このこ
→ p36

とを「Maxwell 方程式は特定の座標系でしか成立しない方程式である」と解釈
するべきか? —それとも「Galilei 変換は正しくない」と解釈するべきか?
前者は実験により否定されてしまったので、後者の可能性を考えていこう。つ
まり、
「Maxwell 方程式は全ての慣性系で成立している」と考えて、Galilei 変換
の方を修正して新しい理論を作っていこう。Einstein は
 特殊相対性原理 

物理法則は全ての慣性系で同じである。
 
という要請を置いた。この「物理法則」の中には Maxwell 方程式も入っている
ので、特殊相対性原理は光速不変の原理を含んでいる。
フレーム
Galilei 変換も Lorentz 変換も、時空間に設定した複数の基準系の間を変換す
るものである。互いに運動している観測者の見る物理現象は違うものになるか
ら、基準系は複数個存在し、その間の「変換則」が必要にある。

†1
第 3 章を読まず急いでここに来た人はとりあえず、「光速はどのように動きながら測っても c である」
という実験事実が確定している、ということだけを認めたうえでこの先を読み進んで欲しい。
4.1 光速不変性を満たす座標変換 61

4.1.2 基準系の満たすべき条件

今から考える時空間の基準系およびその間の変換は以下のような性質を持つ
†2
ものとする 。この後作る Lorentz 変換は、これらの性質を壊さないものであっ
て欲しい。
 時空間の基準系の性質 

(1) 空間は一様で等方的である。
(2) 時間は一様である。
(3) 二つの基準系があるとき、一方の基準系の固定点は、もう片方の基
準系から見ると、等速直線運動する。基準系の間の変換は、この速
度だけで指定される。
(4) 変換でつながるどの基準系も対等である。
 
条件 (1) の「一様性」は、
「空間のどの場所も同じ性質を持つ」、別の言葉を使
えば「並進不変性がある」あるいは「座標原点の設定に任意性がある」ことで
ある。
「等方性」は「空間のどの方向も同じ性質を持つ」、別の言葉で言えば「回転不
変性がある」あるいは「座標軸の向きの設定に任意性がある」ことである。
条件 (1) を満たす一様で等方な空間には、以下
どの場所でも成立(一様性)
で説明する直交座標 x, y, z を設定することがで
†3
きる 。直交座標において、点 (x, y, z) と、そこ
から (∆x, ∆y, ∆z) 離れた点 (x+∆x, y+∆y, z+
q
∆z) の間の距離は (∆x)2 + (∆y)2 + (∆z)2 で
ある。右の図にはその様子を(z 座標を無視し
た)2 次元平面で示した。
q
この距離の式 (∆x)2 + (∆y)2 + (∆z)2 は変
位 (∆x, ∆y, ∆z) のみに依存し、場所 (x, y, z) に
依らない。このような座標系が張れるのは空間
の一様性のおかげである。

†2
特別な要求をするものではなく、普通に慣性系である「基準系」ならそうであろうと思われる性質を考
えるだけのことである。
†3
Galilei 変換および次に定義する Lorentz 変換はもっと一般的な座標でも考えることはできるが、以
下では直交座標を使って考える。
62 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

また、x, y, z 座標はまったく対等で、座標軸を回転させることの不変性があ
る。これは「等方性」のおかげである。
条件 (2) は時間の間隔(1s とか 1 日とか)がずっと同じ物理的意味を持つこ
と(今日の 1s は明日の 1s と同じ長さ)で、当たり前の仮定であろう。
条件 (3) の最後に「基準系の変換は、この速度だけで指定される」と書いたが、
その意味するところは、「ある基準系から見て同じ速度で運動しているが、違う
基準系」は存在しないこと(唯一性)を仮定することである。
最後に条件 (4) は「特別な慣性系が存在しない」ことを意味する。相対性原理
という物理的に重要な要請に対応する。
Galilei 変換は、上記に
 Galilei 変換の性質 

(5) 時間座標は変換を受けない。
 
を加える。つまり te = t である。条件 (5) は相対論以前の物理にとっては「暗黙
の了解」である。
Galilei 変換と似た性質を持つ「動いている座標系の間の変換」であるが、光
ローレンツ
†4
速の不変性を保つ変換を「Lorentz変換(Lorentz transformation)」 と
呼び、以下を満たす変換とする。
 Lorentz 変換の性質 

(5) どの座標系でも光速は一定値 c を取る。


 
Galilei 変換との違いである (5) が重要な物理的要請である。
後で、この二つの (5) のどちらかが成り立つべきだということが別の要請から
→ p92

決まることを説明する。

4.1.3 Lorentz 変換が線形変換であること


一様性の条件 (1)を考えると、これらの変換(今から作る Lorentz 変換も含め)
→ p61

は線形変換(一次変換)でなくてはならない。
2
e = ax をしたとすると、 x = 0 付近と、そこから遠い場所で
例えば変換 x

†4
「Lorentz 変換」という言葉には広い意味、狭い意味でいろいろな定義があるが、それについては後
で詳しく述べる。
4.1 光速不変性を満たす座標変換 63

e の変化量が違う。
は、x が変化した時の x
これはつまり、x 座標系で測った 一様でない変換 一様な変換

e 座標系では場所に
1 メートルが、x
よって 10 センチになったり 3 メー
トルになったりと、違う長さになる
ことになる。しかし今考えている
一様な空間の基準系どうしの変換ではこんなことは起こらないに違いない。た
だし、ある座標系での 1 メートルが別の座標系では(一様に)50 センチになる
ことはあり得る(実際このあとそうなる)。
e が一次変換で結ばれ
e, ye, ze, t)
一様性の条件を満たすためには、(x, y, z, t) と (x
なくてはならない。
以下では時間座標と空間座標の線形結合となる式がよく出てくる。時間座標と
空間座標は次元が違うので、時間座標 t に光速 c を掛けて ct として、(ct, x, y, z)
と四つの(すべて次元は長さとなる)「4 次元時空座標」を以下では使っていく
ことにする。ここではまだその深い意味は説明しないので、単に「c を掛けて次
元が揃った」と思っておけばよい。
µ 0 1 2 3
時空座標は添字を使って x (µ = 0, 1, 2, 3) x = ct, x = x, x = y, x = z
†5
と表現する。ct は 4 次元時空座標の「第 0 成分」である 。
相対論の多くの本で、
 添字に関するルール 

• 3 次元空間の添字はアルファベット i, j, k · · · を使う。
• 4 次元時空間の添字はギリシャ文字 µ, ν, ρ, · · · を使う。
 
が使われている。多くの本で、空間の関数である f (x, y, z) のような量は、f (⃗x)
と表記されている(本書でもそうする)。さらに本書では、時間と空間の関数で
ある f (ct, x, y, z) のような量を、短く書きたいときは f ({x∗}) と表記する(「はじめ
に」を参照せよ)。
→ pvi

†5
古い相対論の本では、第 0 成分を使わず、虚数単位 i を使って「第 4 成分」を ict とするものがある。
なぜ虚数が出てくるかについては p115 の脚注 †4 で述べよう。最近はあまり使わない書き方である。
64 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

4.1.4 Lorentz 変換の導出


計算を簡単にするために、

• 二つの座標系で x, y, z 軸の向きは同じ。
• 原 点 cte = 0, x
e = 0, ye = 0, ze = 0 を 原 点 ct = 0, x = 0, y = 0, z = 0 に
写像する。
e∗} 座標系の空間座標の原点 x
• {x e = 0, ye = 0, ze = 0 は {x∗} 座標系で見る
†6
と速さ v で x 軸上を正の向きに運動する 。

という条件をつけると、
 Lorentz 変換(導出途中) 
 v 
e =A(v)(x − vt) = A(v) x −
x ct (4.1)
c
ye =y (4.2)
ze =z (4.3)
cte =B (v)ct + C (v)x (4.4)
 
の形にならなくてはいけない。A(v), B (v), C (v) は ct, x, y, z に依存しない(v に
は依存する)係数である。
y, z の前の係数を 1 にした †7 。 ye = αy のように伸縮しても良さそうに思え
1
るかもしれないが、もし ye = αy だったとすると、その逆変換は y = ye とな
α
る。 α ̸= 1 の場合 y 座標に関して「x 軸の向きに動くと伸びるが、−x 軸の向
きに動くと縮む」というおかしなことが起こってしまう。x のどちらが正の向き
なのかは人間の勝手で決めるものであるから、そんなものに物理現象が左右さ
れるのはおかしい(等方性に反する)。というわけで α = 1 とした。
v v
(4.1) にもあるように、ここから先 という量がよく出てくるので、 β ≡
c c
†8
としよう 。β は無次元量であり、 β = 1 が「速さが光速である」を意味する。
すぐ後でわかるが、β は 1 より小さい。

†6
e = 0 が同じ意味を持つということ。
数式で表現するなら、 x = vt と x
†7
y, z の式に ct が入ってこないのは、今は運動を x 軸の向きに限っているから。
†8
β は速さ v の関数なので、そのことを強調したいとき、あるいは v の違いを示したいときは β (v) と書
くこともある。ここからしばらくは v は一つしか出てこないので、単に β と書く。
4.1 光速不変性を満たす座標変換 65

速度 0、すなわち v = 0 では変換が恒等変換であることを考えると、

A(0) = B (0) = 1, C (0) = 0 (4.5)

を満たさなくてはいけない。
フレーム
ここで、C (v) の存在が不思議に見えるかもしれない。「なぜ時間が基準系に
よって違うの?」と。この後の計算で C (v) が nonzero でないと光速不変は満たせな
いことがわかるので、とりあえずは読み進めて欲しい。

4.1.5 係数の決定
L
条件 (5) から係数を決めていく。例えば、光が L 進むには時間 掛かる。こ
c
れは「ct が L だけ増加する」ことである。よって x 軸正の向きに進む光を考え
る場合、光の位置の x 座標が L 増えるあいだに ct 座標も L 増える。
以下の 3 点を点 O からの光が到着する時空
点の代表として選ぶ。

(1) 点 P (ct, x, y, z) = (L, L, 0, 0)

(2) 点 Q (ct, x, y, z) = (L, −L, 0, 0)

(3) 点 R (ct, x, y, z) = (L, 0, L, 0)

右の図にこの 3 点を描いた。3 種類の光は、


それぞれ「x 軸正の向きに進む光」「x 軸負の
向きに進む光」「y 軸正の向きに進む光」である。
ここで、
(これではだめだとわかっているのだ
が、あえて)Galilei 変換を行ってみよう。各点
の座標を Galilei 変換の式に代入すると

ex
(1) 点 P (ct, e, ye, ze) = (L, L − βL, 0, 0)

ex
(2) 点 Q (ct, e, ye, ze) = (L, −L − βL, 0, 0)

ex
(3) 点 R (ct, e, ye, ze) = (L, −βL, L, 0)

ex
となる。(ct, e, ye, ze) 座標系でみると (ct, x, y, z) 座標系の原点が x 軸負の向きに
66 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

時間
速度
L ex
v × = βL だけ移動する。よって (ct, e, ye, ze) 座標系では点 P,Q,R も同じ
c
†9
だけ移動するとすると上の式は理解できる 。
点 P,Q,R を Lorentz 変換(導出途中)で変換された座標で表現すると
p64 の (4.1)∼(4.4)

ex
(1) 点 P (ct, e, ye, ze) = (B (v)L + C (v)L, A(v)(L − βL), 0, 0))

ex
(2) 点 Q (ct, e, ye, ze) = (B (v)L − C (v)L, A(v)(−L − βL), 0, 0)

ex
(3) 点 R (ct, e, ye, ze) = (B (v)L, A(v)(−βL), L, 0)

である。C (v) が 0 の場合は(A(v), B (v) の分だけスケールが変わること以外は)


Galilei 変換と同様だが、そうでない場合は点 P,Q,R を含む面が傾くことになる
(下の図参照)。

の方が「過去側」 の方が「未来側」
にずれる。 にずれる。

この「傾く」とは、t という時間で考えると「同時」であった P,Q,R という事


象が teの方の時間で測ると「同時」ではないことを表す。この現象を「同時の相
対性」と呼ぶ。多少びっくりするところだと思うので、4.3 節ではその意味を図
→ p70

で理解することにするが、ここではまず数式の上で同時の相対性の必要性(具体
的には C (v) < 0 でなくてはいけないこと)を確認しよう。
原点からこれらの点に進む光も速さ c でなくてはいけないことから、

点 P に来た光の移動距離 点 P の ct 座標

点 P について A(v)(L − βL) =B (v)L + C (v)L (L で割る)


A(v)(1 − β) =B (v) + C (v) (4.6)
†9
「理解できる」と書いたが、実はこの考えは正しくないことがわかるのである。
4.1 光速不変性を満たす座標変換 67

†10
点 Q に来た光の移動距離 点 Q の ct 座標

点 Q について −A(v)(−L − βL) =B (v)L − C (v)L (L で割る)


A(v)(1 + β) =B (v) − C (v) (4.7)
†11
点 R に来た光の移動距離
点 R の ct 座標
q
2
点 R について (−βA(v)L) + L2 = B (v)L (L で割って自乗)
2 2 2
β (A(v)) + 1 = (B (v)) (4.8)

という関係がまず見つかる。以上からまず、

(4.6) + (4.7) により A(v) =B (v) (4.9)


(4.6) − (4.7) により − βA(v) =C (v) (4.10)

を得る。これを (4.8) に代入して、

(A(v))2 β 2 + 1 = (A(v))2
(A(v))2 (1 − β 2 ) =1
1
A(v) = ± √ (4.11)
1 − β2

となる。(4.5) A(0) = 1 という条件があったから、複号は + を選ぼう。ゆえに、


→ p65

1 β
A(v) = B (v) = √ , C (v) = − √ と定まる。
1 − β2 1 − β2
これで Lorentz 変換の式が決まった。
1 1
因子 √ も今後よく出てくるので γ = √
†12
と置く 。γ は β ま
1−β 2 1 − β2

1 1
たは v の関数なので γ (β) = √ または γ (v) = q とも表記する。
1 − β2 1− v2
c2

†10
点 Q の x 座標は負なので、− をつけることで距離(正の値)になる。
q
†11
点 R の (x 座標)2 + (y 座標)2 を計算している。
†12
γ は「γ 因子」という、味もそっけもない名前で呼ばれる。
68 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

4.2 Lorentz 変換の式


4.2.1 ここまでの結果のまとめ
 x 方向の Lorentz 変換 

e = γ (x − βct) ,
x ye = y, ze = z,
(4.12)
cte = γ (ct − βx)
v 1
ただし、 β = ,γ = √
c 1 − β2
 
と変換すれば、どの座標系でも光速は一定値 c を取ることがわかった。逆に、
p62 で考えた「Lorentz 変換の性質」を満たす変換を考えると、運動方向を x 方
向とした場合では、上の変換しか有り得ない(速度が一般の向きの場合について
は、4.6 節で考える)。
→ p88

e 軸と cte軸は元の x 軸と ct 軸から傾いてい
x
くが、その様子を β = 0.1 から β = 0.9 まで
0.1 刻みで描いたのが右の図である。破線は傾
き 45 度の線(光の軌跡の線)である。このあ
と β を 1 に近づけていくと二つの座標軸は傾
き 45 度の線に漸近していく。
この変換を最初に導いたのが Lorentz なの
で、これを「Lorentz 変換」と呼ぶ。しかし、Lorentz は最初にこれを導いた時
点では新しい時間座標 teを「局所時」と呼んで、本当の意味の時間ではないと考
†13
えていた 。そういう意味で最初に Lorentz が考えた変換は「座標変換」では
なかったとも言える。数式としては正しいものを出していたが解釈を誤ってい
ポアンカレ
†14
たわけである。この時期にはPoincaré も Lorentz 変換を導き、特殊相対論と
ほぼ同等な理論を作っている。よく言われる、「天才一人が現れてそれまでの物
理ががらっと変わる」なんてことは実際には起きないものである。特殊相対論
も、Einstein 一人が作ったものではないし、おそらくは Einstein がいなくても
早晩完成していたと思われる。

†13
この点に関しては Lorentz 本人は後に、
「局所時は本当の時間ではないという考えから抜け出せなかっ
たのは失敗だった」という意味のことを述べている。
†14
Poincaré(ポアンカレ)はフランスの数学者・物理学者。数学でも多大な業績がある。
4.2 Lorentz 変換の式 69

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
20 世紀になるまで Lorentz 変換が発見されず、Galilei 変換でよしとされていた理
由は、v が c に比べて小さい場合はこの二つを区別しにくい(Galilei 変換は Lorentz
変換のよい近似になっている)からである。
Lorentz 変換を x, t, v, c で書くと
 
1 1 v
x= q (x − vt), t= q t− x (4.13)
1− v2
1− v2 c2
c2 c2

v
である。v が 30 km/s ぐらい(地球の公転速度程度)のとき、 ≃ 10−4 であ
c
v 1 1 v2 1
る。 ≪ 1 のとき、 q ≃1− で、この場合は 1 − × 10−8 である
c 1− v2 2 c2 2
c2

から、この因子は 1 と近似してよい。するとこの場合
x
x ≃ x − vt, t ≃ t − 10−8 × (4.14)
c
x
となる。最後の は「光が距離 x 進むのに掛かる時間」だが、 x = 30m に対しても
c
x v
はおおよそ 10−7 s であるから、 x は 10−15 s 程度になり、日常的な t の値に比べ
c c2
v v
れば非常に小さく、無視してよい。 が 1 に比べ小さく、 x が考えている時間のス
c c2
ケールに比べて小さい限り、Galilei 変換は Lorentz 変換の近似として有効である。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

4.2.2 任意方向に進む光の速さが不変であること

前節では原点から P,Q,R に向かう 3 種類の光を例にしてこの変換を求めたが、


どんな光でも大丈夫なのだろうか? —確認しておこう。
そのために、任意の方向に進んだ光に対して成り立つべき式を考えよう。原
点から出た光が到着する点の座標を (ct, x, y, z) および (ct, ex
e, ye, ze) とする。原点
p
から (ct, x, y, z) までの空間的距離は x + y + z で、この距離を光速 c で光
2 2 2

p
が伝播したのだから、 ex
x2 + y 2 + z 2 = ct が成り立つ。(ct, e, ye, ze) に関して
も同様である。ルートが出てこない形に書き直すと、
 光円錐条件 

(ct, x, y, z) 座標系においては x2 + y 2 + z 2 − (ct)2 = 0 (4.15)


ex
(ct, e, ye, ze) 座標系においては x e =0
e + ye + ze − (ct)
2 2 2 2
(4.16)
 
70 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

†15
が成り立たなくてはいけない ことがわかる。(4.16) に Lorentz 変換の式を代
入してみると、
e
x ye ze cte

(γ(x − βct)) + ( y ) + ( z ) − (γ(ct − βx))2


2 2 2

=γ 2 (x2 −2βxct + β 2 (ct)2 ) + y 2 + z 2 − γ 2 ((ct)2 −2βxct + β 2 x2 )


相殺

=γ 2 (1 − β 2 )x2 + y 2 + z 2 + γ 2 (−1 + β 2 )(ct)2 = x2 + y 2 + z 2 − (ct)2


1 −1
(4.17)

となる。我々が要請したのは「(4.15)と(4.16)が同時に成り立つ」という条件(物
→ p69 → p69
フレーム
理的には「ある基準系の光速は、別の基準系でも光速」)だったのだが、この条
件よりもっと強い、「(4.15)と(4.16)の左辺が等しい」という条件である
→ p69 → p69

x2 + y 2 + z 2 − (ct)2 = x e2
e2 + ye2 + ze2 − (ct) (4.18)

が成り立つ(この式の値が 0 でなくても成り立つ)。
これは「x + y + z − (ct) は Lorentz 変換の不変量である」ことを示して
2 2 2 2

2 2 2
おり、3 次元空間において成り立つ「x + y + z は回転の不変量である」の 4
次元バージョンである。この不変性の意味については、第 6 章で深く考えよう。
→ p113

4.3 図解から Lorentz 変換を求める

Lorentz 変換の式を、図解で求めていこう。結果はもちろん数式で求めるの
と同じなので、前節で十分納得したという人はこの節は読まなくてもよい。
特殊相対論の話では後で説明する「Lorentz 短縮」と「ウラシマ効果」の二つの現象が
→ p78 → p81

よく話題に登る †16 のだが、ここではそれらと比べても衝撃度の大きい(よって重要


な)、
「同時の相対性」を図解する。
→ p66

†15
時空間の座標には一様性があるので、「原点から任意の点まで」について確認しておけば「任意の点か
ら、別の(条件を満たす)任意の点まで」についても確認したことになる。
†16
「よく話題に登る」のにはこれがわかりやすく、衆目を集めやすいという点もあるが、歴史的にも、
フイッツジェラルド
Lorentz とFitzGeraldがものさしの収縮(いわゆる Lorentz-FitzGerald 短縮)の仮説を唱えた時期
の方が Lorentz 変換(「同時の相対性」も含む)の発見より古い。
4.3 図解から Lorentz 変換を求める 71

4.3.1 同時の相対性の図解

動く図の方がわかりやすいと思うので、右のアプリ 相対論的電車

が実行できる人はやってみて欲しい。
長さ 2L の電車を考える。電車の中央に観測者(A さ

ん としよう)が乗っている。A さんにとってはも

ちろん、電車は動いていない。電車の外に B さん
†17
がいて、B さんにとっては電車は動いている 。
SRBasic/RT

電車に乗って
00:00:00 00:00:00
0:0:1
0:0:1
いる観測者Aさん

電車外にいる観測者Bさん

前方の端(A さんからの距離 L)と後方の端(A さんからの距離は L で同じ)


に電光掲示板式の時計があるとする。 あ、00:00:00 だ。
時間経過の方向
今、ある時刻(図では 0 時 0 分 0 秒とした)
L 00:00:01 00:00:01

を示す時計の光は、時間 後(図では 1 秒後と


c
†18
して書いた )に A さんに到達する。その様 00:00:00 00:00:00

子を描いたのが右の図である。「電車が止まっ
ている立場(すなわち A さんの立場)」で、光 00:00:00
0:0:1 00:00:00
0:0:1

が図上で 45 度の線になるように(距離 1 光秒
と時間 1 秒を同じスケールで)描いている。
A さんが「あ、00:00:00 だ」と思った瞬間は、(光が到着するのに 1 秒かか
るので)実際には 00:00:01 である。このとき A さんはどっちの時計を見ても
00:00:00 という目盛を読める。A さんが目盛を読む時刻と時計の指している時
†19
刻とはずれていることに注意しよう 。
我々は相対性に興味があるので、「この現象を別の立場で見たら何が起こるの
か?」を考えていこう。B さんからは電車は前方に向けて運動しているように

†17
「A さんと B さんのうち本当に止まっているのはどっち?」という質問には意味がないことに注意。
どっちが止まっている立場に立っても物理は変わらない。だからそんなことを決める意味はない。
†18
電車の長さが 2 光秒、つまり 60 万 km ほどになるが、まぁそういう架空の設定だということで話を聞
いてもらいたい。
†19
我々の生活空間は 1 光秒の広さがないので、これを実感することはないが、実は我々が時計をみて確認
している時間は、 (ナノ秒で測る程度に)実際の時間より遅いのだ。ちなみに、1 ナノ光秒は、29.9792458
cm。つまり、30 cm ほど向こうにある時計の指す時間は、1 ナノ秒ぐらい遅れている。
72 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

見える。ここで、(後で間違っているとわかる考え方だが、あえて)
Galilei 変換的な考え方
走りながら観測すると、前方から出た光は、観測者の速度の分遅く感じら
れる。同様に後方から出た光は観測者の速度の分速く感じられる。

をしてみよう。すると、次の図が描ける。
 間違っている図 
あ、00:00:00 だ。
時間経過の方向

00:00:01 00:00:01

00:00:00 00:00:00

00:00:00 00:00:00
0:0:1
0:0:1

 
B さんの見る現象を時間を縦軸にして描いたものだから B さんは静止してい
る。Galilei 変換的に考えたので光の移動は 45 度の線にならない。光は前からと
後ろから、違う速さでやってきて、同時刻に A さんに到達する。このことは(現
象としては)矛盾は何もない。しかし、実験事実はこの考えを支持しない。
なぜなら、実験によれば(実験的に成功している Maxwell の電磁気学理論を
どの立場でも成立するものと考えるならば)光速は一定であり、
(
B さんから見た前方からの光が B さんの速度の分遅くなる
などという現象
B さんから見た後方からの光が B さんの速度の分速くなる
は起きないのである。では、次の図のようになるのか。
 やはり間違っている図 

あ、00:00:00 だ。
時間経過の方向

00:00:01 00:00:01

あ、00:00:00 だ。

00:00:00 00:00:00

00:00:00 00:00:00
0:0:1
0:0:1

 
4.3 図解から Lorentz 変換を求める 73

だが、これもおかしい。なぜなら、この図では光が A さんに到着するのは同
時ではない。同じ現象を見方(観測者の立場)を変えて見ているだけであること
に注意して欲しい。この図では、A さんが 2 回「0 時 0 分 0 秒を指す時計」を観
測することになるが、A さんは「自分には同時に光が到着した」と思うはずだ。
そして、それは電車の中の人が見ようが外の人が見ようが変り得ない。
こうして、満足のいく解釈は、次の図のように、前方と後方で光の発射時刻が
ずれていると考える他はないとわかる。

あ、00:00:00 だ。
時間経過の方向
00:00:01 00:00:01

00:00:00 00:00:00

00:00:00 23:59:59
0:0:1
0:0:1

すなわち、「同時刻」は観測者に依存する。したがって、動いている人にとっ
ての時刻 teが一定になる線(1 + 1 次元で考えているので線だが、3 + 1 で考えて
いれば 3 次元超平面)は、時刻 t が一定の線に対して「傾く」ことになる。

【FAQ】同時が相対的だというなら、A さんに光が届く時間も相対的に変化
していいのでは?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「二つ
ここで「相対的」と言っているのは「離れた場所における同時」であり、
の違う時空点の関係」である。ある一つの場所(今の場合、A さんの目)におけ
る同時(一つの同じ時空点の関係)ではない。後者を「局所的な同時」と呼ぶ。
局所的な同時が相対的なのはさすがに許しがたい。A さんに「光が同時に来た
ら『よっしゃ!』と叫んで」と頼んでいたとしよう。局所的な同時が相対的なら
ば、電車内の人から見たら A さんは「よっしゃ!」と叫び、電車外の人から見た
ら叫ばない—これはとても考えられないだろう。

同時の相対性にずいぶんこだわっていろいろ図を書いて説明しているが、そ
74 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

れはこの同時の相対性こそが特殊相対論を理解するのにもっとも重要な(そし
て、それゆえにとっつきにくい)概念だからである。この説明で「わかった」と
思えた人は、特殊相対論理解という山登りの最大の難所はクリアしている。

4.3.2 時空図グラフで考える Lorentz 変換


 
t 軸( x = 一定 の線) x 軸( t = 一定 の線)
Galilei 変換で は傾くが
te軸( x
e = 一定 の線) xe 軸( te = 一定 の線)
は同じ向きを向く。しかし Lorentz 変換においては t 軸と x 軸の両方が傾かなく
てはいけない。そうでないと、光速一定を満たすことができない。式で考える
と、これは teの式の中に x, t の両方が入ってくることを意味する。
ここで時空図で t 軸と x 軸の傾きを確認しよう。以後、縦軸は時間座標 t, teで
はなく、これに光速 c をかけた ct, cteとする。これで、光の軌跡は時空図上では
傾きがぴったり 45 度の線になる(光は単位時間に c 進むから)。
電 車 外 の 観 測 者 の 座 標 系 を (ct, x) に し た い の で 、
電車内にいる観測者の座標系を cte と x e としよう。こ
フレーム
の観測者の基準系での電車の先端・中間にいる人間・
後端のそれぞれの世界線を図に書くと、右図のよう
に な る 。縦 の 3 本 の 線 は 左 か ら 、OR が 電 車 の 後 端
の世界線、PS が人間の世界線、QT が電車の先端の
世 界 線 で あ り 、斜 め に 走 る 破 線 は 光 の 軌 跡 で あ る 。
(
O 点で電車の後端から出た
光が、M 点で人間の目の前ですれ違い、
Q 点で電車の先端から出た
(
電車の先端の T 点に至る
様子を表している。
電車の後端の R 点に至る

L
e = L, te =
例えば点 M は x ex
であるから (ct, e) = (L, L) となることがわか
c
ex
るので、それぞれの場所の座標 (ct, e) を並べると、

R(2L, 0) S(2L, L) T(2L, 2L)


M(L, L) (4.19)
O(0, 0) P(0, L) Q(0, 2L)
4.3 図解から Lorentz 変換を求める 75

†20
となる(グラフと見比べて確認して欲しい )。
次に、B さんの立場で見る。電車の先端、A さん、後
端は左の図の動きをする。この座標系では電車および
電車内の人が右向きに速さ v で等速運動する。
ところで、この 3 本の線は等間隔に離れていること
には間違いがないが、その間隔がいくらかは今は保留
とする。「電車の長さが 2L なんだから L ずつの間隔で
しょ」という「直観」は実は正しくない。
上の図には点 OPQRST および M のうち、O 点だけが書き込んである。O は
原点で、今考えている変換は原点を原点に写像するので、悩む必要がない。
ここにさらに、
「O 点から出た光の軌跡」を書き込む
と、その光が電車の中央を通る時空点 M と電車の右側
を通る時空点 T がわかる。光はこの座標系でも、45 度
の方向に進むことに注意しよう(それが物理法則だ)。
右の図で位置を確認しよう。前述の通り、電車の後端、
中央、先端を示す 3 本の斜めの線の間隔はまだ決定し
ていないので、時空点 M と時空点 T の位置はまだ完全には決定してない。
では次に、M 点を通過するもう 1 本の光線を図に書
き込んでみよう。これは電車の後端を発した「0 時 0 分
0 秒」を示す時計の文字盤の光である。書き込んだ結
果は右の図である。
人は M 点で表される瞬間、前を向いても後ろを向い
ても、ちょうど時計がちょうど 0 時 0 分 0 秒を示すこと
を観測するはずだ。つまり「まさに 0 時 0 分 0 秒という
†21
表示に変わった瞬間に文字盤が出した光」が同時にこの人を通過する 。
(
電車の後端と交わる点が Q 点
新しく描いた光の軌跡が である。
電車の前端と交わる点が R 点

†20
2 次元グラフを描くときは横軸 x で縦軸 y のときに (x, y) という順番で座標を表示することが多いが、
今は (ct, x) なので縦軸である ct が先であることに注意。
†21
座標変換は見る人の立場によって物理現象がどう変わってみるかを式で表すものだが、「どっちを向い
ても 00:00:00 が見える」という事実はどちらの座標系でも成立しなくてはいけない。
76 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

これから、電車が静止している立場の観測者から見
ex
て「同時」(つまり (ct, e) 座標系で同時)である O 点
と Q 点は、電車が運動している座標系((ct, x) 座標系)
においては同時でないことが結論される。
電車が静止している立場の観測者からみての「同時」
を一点鎖線 (OPQ と RST)で表現したのが右の
図である。電車が静止している座標系では水平線であった OPQ(および RST)
がこちらの図では傾いた線になる。
e-cte座標系を図に示したのが右の図である。cte軸と
x
e が一定の線」である。電車の先端は常に
いうのは「x
e = 0 の点 †22 だと考えると、この cte軸の傾きは理解
x
e 軸、すなわち「cte
しやすいであろう。これに対して x
が一定の線」が傾くことは理解がしにくいかもしれな
い。しかし、光速一定という原理からすると納得せざ
るを得ないのである。
e 軸の傾きを計算しよう。O 点から R 点までが、(ct, x) 座標系でみて T の時
x
†23
間間隔 だとしよう。すると、O 点と R 点の「ct 座標の変化量は cT 、x 座標の
変化量は vT (時間が T 経過すると、電車の先端は vT だけ移動する)」である。
図の O と R の部分にこの変化量を書き込むと、右の図のようにな
c
り、cte軸を (ct, x) 座標に書き込んだときの傾きは であることがわか
v
v
e = 一定 は x − ct = 一定 を意味している。
る。 x
c

ここで、平行四辺形 OQTR を考えよう。この平行四辺形の対角線

OT と QR は 2 本とも 45 度の傾きを持った光の軌跡であるから、互いに直交 †24


している(点 M で垂直に交わる)。
†25
対角線が直交する平行四辺形は菱形であり、すべての辺の長さ は等しい。

†22
電車の中の人は常に x e = L の場所にいて、電車の後端は常に x
e = 2L の場所にある。
†23 ex
(ct, e) 座標系ではどうだろう? —空間間隔が 0 なのはすぐにわかる(こちらの座標系では電車は動
いてない)。時間間隔がどうなるかは、後でわかる。
†24
この「直交」の意味も、後で出てくる 4 次元的な意味での「直交」ではなく、平面グラフの上での直交。
†25
ここで言っている「長さ」は後で出てくる 4 次元的距離ではなく、グラフ上の普通の意味での線の長さ
である。
4.3 図解から Lorentz 変換を求める 77

また、∠QOM と ∠ROM が等しい( )。このことから、O から Q まで

の時間間隔と空間間隔が、 のようになることがわかる。これは

v v
であることを意味する。 cte = 一定 は ct − x = 一定
†26
e 軸の傾きが
x だ。
c c
ここまででわかったことを数式の形でまとめよう。今考えている座標変換は、


 x
e = 一定 を x − βct = 一定 に写像する
変換だとわかっている。

 cte = 一定 を ct − βx = 一定 に写像する

e = C(x − βct) も変換 x


これだけの条件なら、例えば変換 x
2
e = exp (x − βct)
も許されるが一様性の条件 (1)を考えると 1 次式しか許されない。
→ p61

e = 0, cte = 0 を原点 x = 0, ct = 0 に写像する」という条件を


さらに「原点 x
†27
つける と、ありえる変換は

e =A(v) (x − βct)
x (4.20)
cte =B (v) (ct − βx) (4.21)

である。時空図は x ↔ ct の置き換えで対称な形をしているから、 A(v) = B (v)


になる(これが疑わしいと思う人は次の問いを解くこと)。

練習問題
【問い 4-1】 直線 QR を二つの座標系で考えると、どちらも −x の向きに速度 c で
進む光の軌跡なので、

ex
(ct, e) 座標系では e + cte =一定
x (4.22)
(ct, x) 座標系では x + ct =一定 (4.23)

という式になるはずである。上の式に (4.20) と (4.21) を代入すると下の式になる、


という条件から A(v) = B (v) を導け。 解答 → p317 へ

†26 v
この式が、上に書いた x − ct = 一定 の x と ct の立場を入れ替えたものであることに注意。
c
e0 , +cte0 のように定数項が加わ
†27
原点が原点に写像される条件をつけなければ、(4.20) と (4.21) に +x
るだけ。
78 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

A(v) の決定にはいろんな方法があるが、どうせなら最後まで図解でやりた
い。図解で A(v) を決める簡単な方法としては、後で出てくるウラシマ効果を使うと
→ p81

よい。ウラシマ効果を説明した後に図解でこれを導出したいと思う。
→ p84

それ以外の A(v) の決め方としては、次の問題を解くとよい。

練習問題
 
e =A(v) (x − βct)
x e + βcte
x =A(−v) x
【問い 4-2】 の逆関係が   だとする(逆
cte =A(v) (ct − βx) ct =A(−v) cte + β x
e

変換だから v → −v と置き換えればよいという予想)。さらに A(v) = A(−v)

(この係数の大きさは運動の向きに依らない)と A(0) = 1 (速度が 0 なら恒等変

換)を仮定して A(v) を求めよ。 解答 → p318 へ

4.4 光速不変から導かれること—Lorentz 短縮

先に求めた Lorentz 変換の式についている γ 因子は、Lorentz 変換が(Galilei


変換と違って)「長さのスケールの変換」を含むことを示している。その意味を
e 軸と一致)方向
時空図のグラフを見ながら考えてみよう。状況として、x 軸(x
を向いた長さ L の棒を考える。y, z 方向はしばらく無視しよう。

棒が速さ v で運動する座標系 (ct, x) ex


棒が静止する座標系 (ct, e)

フレーム
(ct, x) 座標系は B さんが静止する基準系にあり、棒および棒の上に乗った A
ex
さんは速さ v で x 軸正の向きに運動している。一方、(ct, e) 座標系は棒および
e 軸の負の向きに速さ v で運動する。
A さんが静止する基準系にあり、B さんが x
e 、後端の位置を時空点 T
te = 0 における棒の先端の位置を時空点 H e とする †28 。

e を原点 (ct,
T ex e の座標は (ct,
e) = (0, 0) とすると H ex e) = (0, L) である。
4.4 光速不変から導かれること—Lorentz 短縮 79

この座標系では棒は動かず、先端と後端

 x
e = 0 の線(後端)
の世界線は となる
→ p18  x
e = L の線(先端) 棒 棒


( 後 先

e 0)
後端は (ct, 端


(右図参照)。あるいは、 と 世 世
e
先端は (ct, L) 界 界
線 線
表されると言ってもよい。
次に、同じ棒の運動を (ct, x) 座標系で
考えると、時空図(右図)上で両端の世界
線 は 傾 い た 線 に な る 。Lorentz 変換の 式 棒
→ p68 の 棒
 後 の
 xe=0 端 先
の 端
から、 の線とはすなわち 世 の
 xe=L 界 世
 線 界
  線
 γ(x − βct) = 0  x = βct

、つまり L の線である。(ct, x) 座標系で
 γ(x − βct) = L 

 x = βct + γ

L
は、「棒の後端の世界線 x = βct を x 軸の正の向きに だけ平行移動すると棒
γ
L
の先端の世界線 x = βct + になる」が成り立つ。つまり、棒の先端と後端は
γ
L p p
= L 1 − β 2 だけ離れている。この L 1 − β 2 が B さんにとっての「棒の
γ
長さ」になる。
e と時空点 T
時空点 H e は (ct, x) 座標系では「同時刻」ではない †29 ことに注意し

よう。図に「時刻 t = 0 における先端の時空点」を時空点 H として描いた。「時

刻 t = 0 における後端の時空点」である時空点 T は、Te と同じ時空点である。


p
ここで気をつけて欲しいことがある。距離 L 1 − β 2 は、時空点 T(あるい
は同じ時空点だが時空点 T e )と時空点 H の距離である。ここでの「距離」には、

「観測する人にとっての同時刻における」という前置きが(暗黙のうちに)つい
( (
e 座標での距離 L
x H と T の距離
ている。 p は、 である。つまり、L
x 座標での距離 L 1 − β 2 e とT
H e の距離

†28
 は頭(head)としっぽ(tail)というつもり。
H,T


 ex 
 (ct, e) = (0, 0)  (ct, x) = (0, 0)
†29
を逆 Lorentz 変換すると になる。確認しよう。

 ex → p318 の (C.28) 
 (ct, x) = (βγL, γL)
 (ct, e) = (0, L)
80 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

p
とL 1 − β 2 は、「時空間内の違う 2 時空点間の距離」を測っている。よく相対
論の説明として「見る人の立場によって物体が収縮する」と言われるが、それを
これは間違い

同じ 2 時空点間の距離が見る人の立場によって収縮する と解釈してはいけな
い。違う 2 時空点の距離を比較しているのだ。むしろ、「図に書いた 2 本の直線
の空間的距離を測っている」と考えた方がよい。
誤った考え
(ct, x) 座標系の人から見た棒の長さとして、時空点 T と時空点 H の
距離を考えるのはおかしくないか? —x 座標系の人から見ても、棒の
e から時空点 H
長さは「時空点 T e まで」ではないのか?

と、考えたくなる人もいるかもしれないが、B さんの立場で考える以上、B さん
が観測できるものだけで判断しよう。
(ct, x) 座標系の人 B さんは、自分の基準系の中で棒の運動を観測し、棒の各


 後端の世界線は x = βct

部の動きから L だと


 先端の世界線は x = βct + γ

知る。B さんが「知る」ことができるのは、右の時空
図のような状況のみであり、この「棒の通った時空内
領域(図で灰色の部分)」を見て「棒の長さは?」と考えるしかない。B さんに
e 座標系内の人がどの時空点とどの時空
してみれば、棒と一緒に運動している x
点を同時刻だと思っているのかは知ったことではない(もちろん計算すればわ
かるが)のである。そう考えたら、棒の先端の世界線と棒の後端の世界線の「距
L p
離」である、 = L 1 − β 2 こそが「棒の長さ」となる。
γ

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
ところで、この「測る」を「目で見る」という意味で捉えると、時空点A
また話が変わってくる。例えば右の図の A 点にいる人の見る風景
は、自分のところにやってきた光である破線で決まる。この人に 時空点B

は、棒の後端の時空点 B から出た光と棒の先端の時空点 C から出


た光が同時に届く。 時空点C

よってこの人は、図の L1 を「棒の長さ」と考える。この長さ L1
4.5 光速不変から導かれること—ウラシマ効果 81

が言わば「見かけの長さ」になるわけである。Lorentz 短縮を文字通りの意味で「棒が
p
短く見える」と考えるのは間違いであり、上で考えた L 1 − β 2 は、
「光が私に届くま
でに時間が掛かるから…」と考察した人による計算結果としての「棒の長さ」である。
なお、次の問いの答えを見るとわかるが、「見かけの長さ」は長くなることすらある。
ここで、我々の感知する「現在」と字義通りの「現在」の齟齬について補足しておく。
字義通りの「現在」は、右の図の実線のような「同時刻
面」である。一方、我々の眼が現在捉えているもの(我々 現在?

現在?
の感知する「現在」)は右の図の破線のような「光円錐面」






である。この光円錐面上にある物体から発した光を我々







は「現在」感知している。光が(ついつい忘れてしまう


が)有限の速度を持っている以上、眼に見えているのは
現在よりも(少しだけ)過去なのである。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

練習問題
【問い 4-3】 L1 を求めよ。また、観測者が棒よりも右側にいた場合の「見かけの
長さ」L2 を求めよ。 ヒント → p313 へ 解答 → p318 へ

†30
「長さはその物体が静止していると観測する観測者が測るべき」 という考え
e とH
方をしたときの長さは「時空点 T e の (ct,
ex e) 座標で測った空間的距離」†31 で、
もちろん L となるが、この長さは「固有長さ (proper length)」または「静止
長さ (rest length)」と呼ぶ。
「運動している物体の両端の “距離” が(運動してない観測者によって “測定”
されると)短くなる」現象を「Lorentz 短縮」と呼ぶ。もう一度強調しておこう。
この短縮を 2 時空点間の距離の短縮と解釈してはいけない。上で述べたように
「2 本の世界線間の空間的距離の短縮」なのである。

4.5 光速不変から導かれること—ウラシマ効果

次に時間のスケールの変換を考えよう。今から互いに等速運動している二人
が同じ実験を開始し、同じ時間 T を掛けて終了したと考えよう。前節同様、

†30
物体が並進運動でない運動(例えば回転してたり)をしている場合、固有長さを定義するのは大変難し
いことになる。物体の全体が静止する座標系がなくなってしまう。
†31
「長さを測りたい物体と同じ速度で物差しを移動させながら計測した距離」と考えればよい。
82 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

(
ex
(ct, e) 座標系で静止している人を A さん
とする。
(ct, x) 座標系で静止している人を B さん
(
B さんが時空点 S で実験開始して時空点 E で終了
という二つの現象を考え
e で実験開始して時空点 E
A さんが時空点 S e で終了


†32 e を同一時
。開始時に二人は同一時空点にいたとして、時空点 S と時空点 S
空点にして、その点を座標原点としよう。相対論以前の常識的には、
誤った考え
Bさん
実験終了
Aさん

同じ実験なんだから同じ時間を掛けて終了 実験終了

e が同時刻なら、E と E
するから、S と S e は同時

刻だろう(右の図を参照)。
Bさん
実験開始
Aさん
実験開始

のように判断したくなるところかもしれない。以下で計算結果を見てみよう。
(
ex
(ct, e (0, 0) で E
e) 座標系では、S e (cT, 0)
†33
であるのはすぐにわかる 。
(ct, x) 座標系では、S(0, 0) で E(cT, 0)
e の各々の座標系での座標成分を計算すると
EとE
Bさん
実験終了
Aさん
実験終了

(ct,x) 座標系 ex
(ct, e) 座標系
E (cT,0) (cT γ,−βcT γ) (4.24)
e
E (cT γ,βcT γ) (cT,0) Bさん
実験開始
Aさん
実験開始
になる。これらを時空図に描き込んだのが右の図である。
(ct, x) 座標系にいる人(B さん)が「時空点 S と時空点 E の時間差は?」と問
e と時空点 E
われたら、「T 」と答えるだろう。一方、B さんが「時空点 S e の時間

差は?」と問われたら、「T γ 」と答える。 γ > 1 なので、こちらの時間の方が


†34
長い。よって B さんは、以下のように感じる だろう。

†32
S,E は開始(start)と終了(end)というつもり。
†33 e はどちらの座標でも原点である。
原点が一致する Lorentz 変換を考えているので、S および S
†34
この「感じる」という言葉には注意が必要だ。というのは、B さんが実際に A さんの実験終了を確認
するには、時空点 E e で A さんが実験を終了したという信号が B さんに届かなくてはいけない。それには
あとしばらく時間が掛かるのである。ここで言う「感じる」は実際に届いた信号を元に「A さんの実験終
了は何時何分だった」と B さんが計算する動作も含めてである。
4.5 光速不変から導かれること—ウラシマ効果 83

B さんの主張
私は時空点 E で実験を終了させたが、その時点では A さんはまだ実
験をやっていて、少し経ってから時空点 Ee で実験を終了させた。

動いている人(この場合は (ct, x) 座標系にいる B さん)の時間は止まってい


ex
る人(この場合は (ct, e) 座標系にいる A さん)の時間より遅くなる。これを浦
†35
島太郎の昔話になぞらえて、「ウラシマ効果」と呼ぶ 。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
ここで前に予告したようにウラシマ効果を図解から求めてお ウラシマ効果
→ p78
こう(右の QR の先にアプリもある)。先に考えた電車の場合の
ように x 方向(つまり座標系の運動する方向)ではなく、y 方向
(z 方向でもよい。とにかく座標系の運動と垂直な方向)に光を
発した場合について考える。そしてその光が鏡に反射して返っ
てくる時間を測定する †36 。
その実験を地上から見て速度 v で運動しているロケットの中
e∗} 系として、地上の
で行ったとしよう。ロケットの静止系を {x SRBasic/UR
座標系を {x∗} 系とする。
外から宇宙船内を見ると 宇宙船内の人の見る世界
時刻 で反射 鏡

この人から
見たら、
自分は静止

光は距離 を
往復して、
時刻 で到着 だけ走ったよ。

実験装置が動いていないという立場(宇宙船内の立場)で観測すると、距離 2L を光
2L
が進むので、往復に かかる。一方同じ現象を、装置が速さ v で東に動いていると
c
いう立場(地球外の人の立場)で観測する。

†35
この呼び方は残念ながら日本ローカルである。
†36
ここで説明するのは付録で説明するMichelson-Morleyの実験の南北方向のみの実験のようなもので
→ p290
ある。独立な形で書いているので付録は読まなくても理解できる。
84 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

この人にとっては光は南北方向にではなく、右図に示したように斜めに
進んで(実験装置とともに移動した)出発点に戻ってくる。掛かった時間
q
を 2T とすると、光は図のように進むので、2L ではなく、2 L2 + (vT )2
q
だけ進まないと戻ってこれない。ゆえに cT = L2 + (vT )2 が成り立

2L
ち、光が発射されてから到着するまでの時間は 2T = √ となり、地球外の人
c2 − v 2
1
の方が同じ現象にかかった時間の q 倍となる。
v2
1− c2
これを使って A(v) を求めてみる。光が発射される事象が起こる座標をどちらの座
標系でも (0, 0) だったとすると、光が戻ってくる事象が起こる座標は {x e∗} 座標系では
 
2cL 2vL
(2L, 0, 0, 0) であり、{x∗} 座標系では √ ,√ , 0, 0 だということにな
c2 − v 2 c2 − v 2
る。【問い 4-2】 ex
の逆変換の式からすると時空点 (ct, e, ye, ze) = (2L, 0, 0, 0) は時空点
→ p78

(ct, x, y, z) = (2LA(−v), 2LvA(−v), 0, 0) となるから、これと照らし合わせること

1
で A(−v) = p とわかる。
1 − β2
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

e 座標系の方が遅い」と表現したことに「二つの座標は対等(どっ
ここで、「x
ちがえらいとか決められない)はずでは?」と疑問に思うかもしれない。実は、
A さんの主張
e で実験を終了させたが、その時点では B さんはまだ実
私は時空点 E
験をやっていて、少し経ってから時空点 E で実験を終了させた。

と、A さんは主張するのである。二つの座標は、「お互いに相手のほうが遅いと
感じる」という意味で、
「対等」である。実際、(4.24)を時空図にしてみると、以
→ p82

下のようになる。
4.5 光速不変から導かれること—ウラシマ効果 85

x 軸と ct 軸を垂直にした図 e 軸と cte軸を垂直にした図
x

刻線
同時
んの Aさんの同時刻線
Aさ Bさんの同時刻線
Bさ
んの
同時
刻線

e 軸と cte軸を垂直にした図」は対等に
上の「x 軸と ct 軸を垂直にした図」と「x
e, cteの軸は角度が直角
見えないかもしれない。左の図では斜めの座標系である x
より小さくなる一方、右の図の斜めの座標系である x, ct の軸は角度が直角より
大きい。
Aさんの同時刻線

e 軸と cte軸を垂直にした図」
Bさ

e 軸を反転さ
んの
しかし、「x 同時
刻線 の x 軸と x

刻線
同時
Aさんの同時刻線 んの
Aさ Bさんの同時刻線
Bさ
んの
同時
刻線

せると 「x 軸と ct 軸を垂直にした図」
になり、 の

左右反転であることがわかる。つまり、速度の向き(あるいは x 軸の向き)が
ひっくり返っているだけで、全く対等な図なのである。
どちらで実験する場合も、実験装置と共に動いている方は、時間 T だけ掛け
て実験を行う(相対性原理からして当然)。もう一方は、その時間を、
「自分の時
間」を使って測定するのだが、互いの同時刻面は相手に対して傾いている。その
傾きがゆえに、双方が「相手の実験時間の方が長い」と判断する。

【FAQ】お互いが「自分の時間」を使って測定するからおかしなことになる。
公正なる第三者(審判)に判定させてはどうか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
86 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

その「公正なる審判」は存在しない。存在するとしたら、それは「絶対空間・絶
対時間」に生きている人であるが、絶対空間や絶対時間はない(そんなものは決
められない)というのが相対性原理なのである。

右の図の点線は原点からいろんな速度で出発した人
の時計が同じ時刻を刻む時空点を線でつないだもので
ある。速く動く人ほど持っている時計は遅く進むので、
垂直に対して傾いた世界線を移動した人ほど、止まっ
ている人との時間差が大きくなる。
これは日常的な感覚からすると非常識に聞こえる。
2
しかし、我々の「日常的な感覚」は、飛行機に乗ったとしてもせいぜい 3×10 m/s
つまり光速の 100 万分の 1 の速度でしか運動しない生活で培われたものである
ことを忘れてはいけない。
v
例えば光速の 100 万分の 1、つまり = 10−6 の場合、ウラシマ効果の係数
c
r q
v2
1− は 1 − (10−6 )2 であり、
c2
0.99999999999949999999999987499999999993749999999995 · · ·

−12
となる。この数は 1 よりも 0.5 × 10 程度小さいだけである。この程度の時間
差は日常では関知できないから、そんな差が生まれているとはとても思えない。
しかし、精密に測定すればもちろん実験で確認できる。

【FAQ】この時計が遅く進むのは、計算上そうなるだけですか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いいえ。すべての物理現象が遅くなるから、この「動く人」の時間(「感じる」
だけではなく、「腹が減る」「老化する」などありとあらゆる時間)が遅くなる。

【FAQ】じゃあ、運動すると長生きできますか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「長生き」の定義による。極端な場合として、光速の 60% で運動する人がいた
ら、ウラシマ効果の係数は 0.8 になるので、他の人が 100 年生きている間にこの
人は 80 年しか年を取らない。これは「長生き」できたように感じるかもしれない
が、この人の感じる主観時間は 80 年である。つまり「長生き」の分の長い人生経
4.5 光速不変から導かれること—ウラシマ効果 87

験ができるわけじゃない。「普通に生活してたら見ることができなかった未来」を
見るという意味での「長生き」ならできる。7.1 節を参照。
→ p137

以上、「光速が誰から見ても(どんな慣性系から測定しても)同じ」という実
験事実から

(1) 見る立場によって二つの事象が同時かどうかは変わってくる(同時性は
絶対ではない)。
(2) 物体の長さは見る立場によって違って見える(長さのスケールは絶対で
はない)。
(3) 経過する時間は見る立場によって違って見える(時間のスケールは絶対
ではない)。

が帰結されることを説明した。
この話を「そんな常識はずれな!」「感覚に合わない」と批判し受け入れない
人は多い。だが、我々の “常識” は、
「光速よりも遙かに遅い速さでしか運動しな
い生活」の中で作られたものだ。現実の世界は、そういう狭い経験しか持ってい
†37
ない人間の常識から来る感覚とはずれたところにある 。実験技術の進歩と物
理学の発展により、日常生活では実感できない現象を見つかり、それらを理解す
るためには「新しい常識」が必要だとわかってきた。今や相対論や量子論の助け
なしには様々な機械が正しく動かない世界に我々は生きている。「相対論って感
覚に合わないから間違っているのでは?」「量子論って常識はずれだからどこか
に嘘があるのでは?」と考えるのは、「地球が丸いなんて信じられない、平らな
†38
はずだ」と言っていた昔の人と同様に、今となっては愚かなことである 。

ここまで読んできて「光速不変からいろいろとんでもない結論が出てくる。
やっぱり光速不変というのはおかしいのでは?」という疑問が湧いた人(特に第 3 章
→ p36

「電磁気学の相対性」を飛ばした人)は、第 3 章を是非じっくり読んで欲しい。「これ
までの電磁気学の観測事実の中に、光速不変でないと困る現象がたくさん埋もれてい
る」と実感できるはずだ。この Lorentz 変換が物理現象にどのような影響を及ぼすか

†37
同様に「常識外れだが、それでも真実」なものには量子力学がある。我々はふだん量子力学が重要にな
るスケールより遙かに大きいサイズの物体ばかり相手にしているので、量子力学が変ちくりんに見え、古
典力学の方が真実っぽく見えてしまう。そういう意味では、我々が経験できる物事のスケールは量子力学
を実感するには大きすぎ、特殊相対論を実感するには小さすぎる。
†38
この「愚か」というのは、あくまで「今となっては」という後知恵の判断である。
88 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

については、次の章でさらに深く考えていく。この章の以下の部分では、もう少しだ
け Lorentz 変換そのものについて詳しく考えておく。

4.6 一般の方向の Lorentz 変換


†39
ここまでの計算では簡単のために運動方向を x 方向に限った 。一般的には
ex
運動方向が任意の方向を向くので、「(ct, x, y, z) 座標系から見た (ct, e, ye, ze) 座
標系原点の運動速度」は 3 次元ベクトル ⃗
v で表現される(同様に、β も 3 次元ベ

⃗ = ⃗v になる)。
クトル β
c
e 座標系の原点が 3 次元速度 ⃗
x 座標系から見ると x v を持つ、一般方向への
Lorentz 変換は、以下の三つの変換を続けて行ったものと考えることができる。
 一般の方向の Lorentz 変換の手順 
   
[⃗v ]x v
 y  
(1) 3 次元速度  [⃗v ]  が  0 (ただし、 v = |⃗v | )になる座標系(こ
[⃗v ]z 0

の座標系を {x̄ } 座標系とする)への座標変換(回転)する。
(2) {x̄∗} 座標系から見て、原点が速さ v で x̄ 軸正の向きに移動している

ē } へ座標変換(Lorentz 変換)する。
座標系 {x
   
v [⃗v ]x
ē∗} から、
(3) {x
  y
 0  が  [⃗ e∗} 座標系)へ回転する
v ]  になる座標系({x
z
0 [⃗v ]
†40
((1) の逆変換をする) 。
 

3 次元空間における座標軸の回転は2.6 節の(2.47)のように直交行列で表すこ
→ p33 → p33

とができる。上の (1) の変換の 3 次元部分を


    
v Rx̄x Rx̄y Rx̄z [⃗v ]x
 0  =  R x R y R z  [⃗
ȳ ȳ ȳ
v ]y  (4.25)
z̄ z̄ z̄
0 R x R y R z [⃗v ]z

†39
より一般的には、さらに x, y, z 軸が同じ方向を向いているとは限らない変換も考える。
†40
(1) と (3) は互いに逆変換なので (1)→(3) は「何もしない操作」だが、間に (2) が挟まっている
(1)→(2)→(3) は何もしない操作ではない。
4.6 一般の方向の Lorentz 変換 89

x̄ i
のように直交行列を使って表すと、この行列の 1 行めは R i [⃗
v ] = v を満たし、

2 行目と 3 行目は Rȳi [⃗v ]i = 0, Rz̄i [⃗v ]i = 0 を満たさねばならないことがわか

る。3 次元直交行列は三つの互いに直交する単位ベクトルで作られるので、
それ
→ p34

ぞれ ⃗ex̄ , ⃗eȳ , ⃗ez̄ と書くことにする。すると (1) の座標変換は


 
1 0 0 0
 
0 [⃗ex̄ ]x [⃗ex̄ ]y [⃗ex̄ ]z 
  (4.26)
 [⃗eȳ ]x [⃗eȳ ]y [⃗eȳ ]z 
0 
0 [⃗ez̄ ]x [⃗ez̄ ]y [⃗ez̄ ]z

R
⃗v ⃗
β †41
と表せる。ただし、⃗ex̄ は ⃗
v の向きの単位ベクトル R ⃗ex̄ = = である 。
v β

⃗eȳ と ⃗ez̄ はそれに垂直な単位ベクトル 2 本である( ⃗v · ⃗eȳ = 0, ⃗v · ⃗ez̄ = 0 を満


†42
たす) 。
(3) で使う逆回転を表す行列は上の行列の転置であり、
 
1 0 0 0
 
0 [⃗ex̄ ]x [⃗eȳ ]x [⃗ez̄ ]x 
  (4.27)
 [⃗ex̄ ]y [⃗eȳ ]y [⃗ez̄ ]y 
0 
0 [⃗ex̄ ]z [⃗eȳ ]z [⃗ez̄ ]z

R⊤
である((4.26) と (4.27) の積は単位行列)。これらの行列の積を作って、Lorentz
変換の行列を求めるには、
   
1 0 0 0 γ −βγ 0 0 1 0 0 0
0  −βγ γ 0 0  0 
    (4.28)
 0 R ⊤  0 0 1 0  0 R 
0 0 0 0 1 0

†41 1 1 ⃗
v ⃗
cβ ⃗
β
β が速さ v の ⃗ は⃗
倍だったのと同様に、β v の 倍であるから、 = = となる。
→ p64 c c v cβ β
†42 ∗
{x̄ } 座標系は、速度 ⃗
v が x̄ 軸正の向きを向いている座標系として定義したので、ここの ⃗ ex̄ , ⃗ ez̄ の
eȳ , ⃗
選び方はそれに即している。⃗ ez̄ の選び方は一意的ではないが、その部分は計算結果に依らないので、
eȳ , ⃗
気にしなくてよい。
90 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

を計算すればよい。真ん中の行列を
     
γ −βγ 0 0 γ −βγ 0 0 0 0 0 0
 −βγ γ 0 0   −βγ γ − 1 0 0   0 1 0 0 
 = +  (4.29)
 0 0 1 0  0 0 0 0 0 0 1 0 
0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
I =
と、二つに分けて計算すると
     
1 0 0 0 γ −βγ 0 0 1 0 0 0
0   −βγ γ − 1 0 0  0 
     
 0 R⊤   0 0 0 0 0 R 
0 0 0 0 0 0
      (4.30)
1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0
0  0  0 
+
 0 R⊤ 
 
0



0

I R 
0 0 0
 
0 0 0 0
0 
 
0 I 
0

となる。第 2 項は R R = I のおかげで簡単に計算できた。第 1 項は
   
1 0 0 0 γ −βγ 0 0 1 0 0 0
 0 [⃗ex̄ ]x [⃗eȳ ]x [⃗ez̄ ]x  −βγ γ − 1 0 0  0 [⃗ex̄ ]x [⃗ex̄ ]y [⃗ex̄ ]z 
   
 0 [⃗ex̄ ]y [⃗eȳ ]y [⃗ez̄ ]y  0 0 0 0  0 [⃗eȳ ]x [⃗eȳ ]y [⃗eȳ ]z 
0 [⃗ex̄ ]z [⃗eȳ ]z [⃗ez̄ ]z 0 0 0 0 0 [⃗ez̄ ]x [⃗ez̄ ]y [⃗ez̄ ]z
 
γ −βγ[⃗ex̄ ]x −βγ[⃗ex̄ ]y −βγ[⃗ex̄ ]z
 −βγ[⃗ex̄ ]x (γ − 1)[⃗ex̄ ]x [⃗ex̄ ]x (γ − 1)[⃗ex̄ ]x [⃗ex̄ ]y (γ − 1)[⃗ex̄ ]x [⃗ex̄ ]z 
=
 −βγ[⃗ex̄ ]y

(γ − 1)[⃗ex̄ ]y [⃗ex̄ ]x (γ − 1)[⃗ex̄ ]y [⃗ex̄ ]y (γ − 1)[⃗ex̄ ]y [⃗ex̄ ]z 
−βγ[⃗ex̄ ]z (γ − 1)[⃗ex̄ ]z [⃗ex̄ ]x (γ − 1)[⃗ex̄ ]z [⃗ex̄ ]y (γ − 1)[⃗ex̄ ]z [⃗ex̄ ]z
(4.31)

となる(計算結果に ⃗eȳ , ⃗ez̄ は現れない)。


⃗ex̄ の各成分は
⃗x
[β] ⃗y
[β] ⃗z
[β]
[⃗ex̄ ]x = , [⃗ex̄ ]y = , [⃗ex̄ ]z = (4.32)
β β β

と表せる。これらを代入し、さらに 3 次元部分の単位行列となった (4.30) の第


2 項も含めて、
4.6 一般の方向の Lorentz 変換 91

 ⃗ xγ ⃗ yγ ⃗ zγ 
γ −[β] −[β] −[β]
 ⃗x γ−1 ⃗ x ⃗ x γ−1 ⃗ x ⃗ y γ−1 ⃗ x ⃗ z 
 −[β] γ 1 + [β] [β] [β] [β] [β] [β] 
 β 2 β 2 β2 
 
 ⃗y γ−1 ⃗ y ⃗ x γ−1 ⃗ y ⃗ y γ−1 ⃗ y ⃗ z 
 −[β] γ [ β] [ β] 1 + [ β] [ β] [ β] [ β] 
 β2 β2 β2 
 γ − 1 γ − 1 γ − 1 

−[β] γ
z
[ ⃗
β] z ⃗ x
[ β] [ ⃗
β] z ⃗ y
[ β] 1 + [ ⃗
β] z ⃗ z
[ β]
β2 β2 β2
(4.33)

が Lorentz 変換の行列である。少し複雑な式であるが、座標成分を掛けると、
 ⃗ xγ ⃗ yγ ⃗ zγ  
γ −[β] −[β] −[β] ct
 ⃗x γ−1 ⃗ x ⃗ x γ−1 ⃗ x ⃗ y γ − 1 ⃗ x ⃗ z  
 −[β] γ 1 + [β] [β] [β] [β] [β] [β]  
 β2 β2 β2  x 
  
 ⃗y γ−1 ⃗ y ⃗ x γ−1 ⃗ y ⃗ y γ − 1 ⃗ y ⃗ z  
 −[β] γ [ β] [ β] 1 + [ β] [ β] [ β] [ β]  y 
 β2 β2 β2  
 γ − 1 γ − 1 γ − 1  
⃗ γ
−[β] z ⃗ [β]
[β] z ⃗ x ⃗ [β]
[β] z ⃗ y
1+ ⃗ [β]
[β] z ⃗ z
β 2 β 2 β 2 z
 ⃗ · ⃗x) 
γct − γ(β
 γ − 1 ⃗x ⃗ 
 x − [β]
⃗ x γct + [β] (β · ⃗x) 
 β 2 
 
= ⃗ γct + γ − 1 ⃗ (β ⃗ · ⃗x)  (4.34)
 y − [β] y
[ β] y

 β 2 
 
⃗ z γct + γ − 1 [β]
z − [β] ⃗ z (β
⃗ · ⃗x)
β 2

⃗ と ⃗x の内積の形が出てきて、以下のようにまとめることができる。
となって、β
 任意の方向の Lorentz ブースト 
 
cte =γ ct − β
⃗ · ⃗x (4.35)

⃗x ⃗ γ −1⃗ ⃗
x − βγct
e =⃗ + β(β · ⃗x) (4.36)
β2
 

練習問題
【問い 4-4】 (4.36) は、以下のような手続きでも求めることができる。やってみよ。

(1) x 方 向 の 場 合 の 式 cte = γ(ct − βx), x


e = γ(x − βct), ye = y, ze = z の

x, y, z をそれぞれ ⃗ex̄ · ⃗
x, ⃗eȳ · ⃗
x, ⃗ez̄ · ⃗
x に置き換える。

(2) ⃗ = (⃗ex̄ · V
任意のベクトルが V ⃗ )⃗ex̄ + (⃗eȳ · V
⃗ )⃗eȳ + (⃗ez̄ · V
⃗ )⃗ez̄ と表わせる

x と ⃗x
ことを使って ⃗ e を求める。
92 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

1⃗
(3) ⃗ex̄ = β を代入。
β
解答 → p318 へ

4.7 Lorentz 変換の別の導き方

以上では、光速不変という条件を使って Lorentz 変換を求めたわけだが、光


速不変を最初から要求せずに「変換が群をなす」を条件にすることで逆に「不変速度
がある」ことが判明する、という流れでも Lorentz 変換を導くことができる。この節
ではその方法を説明するが、特殊相対性理論の理解のためには必須のものではないの
で、先を急ぐ人は飛ばしてくれてかまわない。

Lorentz 変換(導出途中)の式(4.1) に戻ってみる。特殊相対論以前の ‘常識’ に従えば、


→ p64

A(v) = 1 と言いたいところである(そうならば、(4.1) は Galilei 変換と一致する)。し


→ p64

かし、それは不自然な結果を招く。どう不自然か具体的に知りたい人は、以下の練習問題
を解いてみよう。

練習問題
【問い 4-5】 (4.1) ∼(4.4) において、 C (v) = −βA(v) までは求まったとする。さ
→ p64 → p64

らに A(v) = B (v) = 1 を採用したとしよう。すると(4.1) ∼(4.4) の逆変換がどん


→ p64 → p64

なものになるかを計算せよ。 解答 → p319 へ

上の【問い 4-5】をやるとわかるように、 A(v) = B (v) = 1 という選択は、「速度 v の

変換と速度 −v の変換が対称な結果にならない」というおかしなことになるのである。次
の問いでわかるように、Galilei 変換では速度 v の変換と速度 −v の変換は対称で、互いに
逆変換である。Lorentz 変換でもそうなっていることは、(C.28)を参照せよ。
→ p318

練習問題
【問い 4-6】 以下を確認せよ。

 鏡像変換 ⃗
x → −⃗x
(1) Galilei 変換の式に のどちらかを行うと、変換式は
 時間反転 t → −t

⃗v → −⃗v という置き換えたものになる。
(2) 上の二つの変換は互いに逆変換である。

解答 → p319 へ
4.7 Lorentz 変換の別の導き方 93

以上解いてみた問題の結果から、
「変換が数学的に対称性のよいものである」という条件
が、Galilei 変換や Lorentz 変換の式の形をある程度制限することがわかる。この「よい対
称性」の条件の一つが「変換が群をなす」である(「群」の定義はすぐ後で述べる)。
Galilei 変換と Lorentz 変換の満たす条件は (1)∼(4) は同じで、(5) が違っていた。条件
→ p62

を (5) 座標変換が群を成す に取り替えると、その条件を満たす座標変換は Galilei 変換か

Lorentz 変換 †43 のどちらかになる。そのことを説明しておこう。


(1)∼(4) の条件だけで、 Lorentz 変換(導出途中) の段階まで計算式が決まる。行列で
p64 の (4.1)∼(4.4)

表現すると、
" # " #" #
e
x A(v) −βA(v) x
= (4.37)
cte C (v) B (v) ct

となる。「変換が群をなす」と言われると(群の知識のない人は)なにか難しいことを主張
しているようだが、変換(今の場合、(4.37) の行列を掛ける操作)の集合が以下の条件を
満たしていることである。
 群の満たすべき条件 

(1) 変換が閉じる(「二つ以上の変換の合成」もまた、今考えている「変換」の集
合の要素である)
(2) 単位元がある(「何もしない」変換が存在する)
(3) 逆元がある(すべての変換に「変換を打ち消す変換」がある)
 
単位元はあきらかに速度 v が 0 である変換である。(4.37) に v = 0 を代入すると単位
行列になる条件は

A(0) = B (0) = 1, C (0) = 0 (4.38)

である。
逆元は逆行列
" #
1 B (v) βA(v)
(4.39)
A(v)B (v) + βA(v)C (v) −C (v) A(v)
" #
A(−v) βA(−v)
で表現されるが、それは速度を反転させた変換である にならなくては
C (−v) B (−v)
いけない。ゆえに (4.39) の行列の (1, 1) 成分の β 倍が (1, 2) 成分でなくてはいけない。こ
れから、 B (v) = A(v) がわかる。

†43
ただし、ここでの導き方では Lorentz 変換の式に現れる光速 c は別の速度に置き換えてもよい。
94 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

群の要素の二つの積はやはり群の要素であることから
" #" # " #
A(v1 ) −v1 A(v1 ) A(v2 ) −v2 A(v2 ) A(v3 ) −v3 A(v3 )
= (4.40)
C (v1 ) A(v1 ) C (v2 ) A(v2 ) C (v3 ) A(v3 )

が成り立たなくてはいけない †44 。左辺を計算してみると、


" #
A(v1 )A(v2 ) − v1 A(v1 )C (v2 ) −v1 A(v1 )A(v2 ) − v2 A(v1 )A(v2 )
(4.41)
C (v1 )A(v2 ) + A(v1 )C (v2 ) −v2 C (v1 )A(v2 ) + A(v1 )A(v2 )
" #
A(v3 ) −v3 A(v3 )
となる。この結果は になるのだから、
C (v3 ) A(v3 )

(4.41) の (1, 1) 成分 (4.41) の (2, 2) 成分

A(v1 )A(v2 ) − v1 A(v1 )C (v2 ) =−v2 C (v1 )A(v2 ) + A(v1 )A(v2 )


相殺

−v1 A(v1 )C (v2 ) = − v2 C (v1 )A(v2 ) (4.42)

が成り立たなくてはいけない。
ここでもし C (v) = 0 だったとすると、上の式は満たされるが、その場合変換行列は

" # " #
A(v) −βA(v) 1 −β
= A(v) (4.43)
0 A(v) 0 1

となる。 A(v) = 1 とすればこの式は Galilei 変換になる †45 。

C (v) が 0 ではない場合は、(4.42) を

A(v1 ) A(v2 )
β1 =β2 (4.44)
C (v1 ) C (v2 )

A(v)
と変形することができる。つまり、β という量は v に依らない量でなくてはいけな
C (v)
1 †46
い。これを − と おいて C (v) = −kβA(v) と結論しよう。
k
ここまでの段階で、変換の行列は
" # " #
A(v) −βA(v) 1 −β
= A(v) (4.45)
−kβA(v) A(v) −kβ 1

†44
v3 = v1 + v2 は要求していないことに注意。
†45
A(v) = 1 とする理由は、変換と逆変換が対等であるべしという条件を考えればいい。
†46
k にマイナス符号をつけておくのは、後の式が簡単になるようにであって、深い意味はない。
4.7 Lorentz 変換の別の導き方 95

となる。
ここで、(ct, x) 座標系において「空間的に同一点で時間差が T である 2 時空点」を考え
る。簡単のため一方を座標原点にすると、この 2 時空点の座標は (0, 0) と (cT, 0) となる。
ex
(4.45) を使うと、この 2 点は (ct, e) 座標系では、(0, 0) と (A(v)cT, −βA(v)cT ) の 2 点に
なる。ということはこの 2 点の時間差は A(v)T である。
ex
同様に (ct, e) 座標系で (0, 0) と (cTe, 0) の 2 時空点を考える。この 2 点が (ct, x) 座標系
でどうなるのかを考えるために、(4.45)の逆行列を考えると、
→ p94

" #
1 1 β
(4.46)
A(v)(1 − kβ 2 ) kβ 1
 
1 β
になり、結果は (0, 0) と cTe, cTe となる。
A(v)(1 − kβ 2 ) A(v)(1 − kβ 2 )

 ex
(ct, x) 系で見ると時間差 T 、(ct, e) 系で見ると時間差 A(v)T
 Te が成り立つ。
ex
(ct, e) 系で見ると時間差 Te、(ct, x) 系で見ると時間差
A(v)(1 − kβ )
2

二 つ の 座 標 系 は 対 等 で あ り 、「 自 分 の 時 間 と 相 手 の 時 間 の 比 率 は 等 し い( 互 い に 同 じ
比率で相手のほうが遅いと感じる)」と考えると、

1
A(v) = (4.47)
A(v)(1 − kβ 2 )

という式が成立する。これより、 A(0) = 1 を使って複号を選ぶと

1
A(v) = p (4.48)
1 − kβ 2

となる。分母のルートの中身は正でなくてはいけないから、kβ 2 は 1 未満である。

v2 c
k <1 から、 v < √ (4.49)
c2 k

c
となるので、 C = √ が「超えてはいけない速度」になる。こうして求めた「Lorentz
k
変換」の式は

1
e= q
x (x − vt) (4.50)
v2
1− C2
k
 
1 c2  
cte = q ct − βx ×
C
1− v2 C2 c
C2
 
1 v
C te = q Ct − x (4.51)
1− v2 C
C2
96 第 4 章 光速不変から Lorentz 変換へ

となる。この導出法で「超えてはいけない速度 C 」があることはわかるが、それが光速 c
と等しいのは k = 1 のときだけである。そのとき、上の変換は Lorentz 変換になる。
この変換の群が閉じるということは「速度 v1 の Lorentz 変換と速度 v2 の Lorentz 変
換を連続して行うと、別の速度の Lorentz 変換になる」を意味する。この「別の速度」は
v1 + v2 ではないところがややこしい(面白い)ところなのだが、それは次の章で考えよ
う(【問い 5-2】 で問題とする)。
→ p99

4.8 章末演習問題
★【演習問題 4-1】
x 軸正の向きに速さ v1 で(速度 v1⃗ex で)移動する Lorentz 変換をした後で z 軸正の向
きに速さ v2 で(速度 v2⃗
ez で)移動する Lorentz 変換をした結果の行列を求めよ。順序を
逆にすると結果が違うことを示せ。 ヒント → p1w へ 解答 → p4w へ

★【演習問題 4-2】
任意方向への Lorentz ブーストの行列(4.33)の行列式が 1 であることと、(4.33)の 3 次
→ p91 → p91

元空間部分
 
γ−1 ⃗ x ⃗ x γ−1 ⃗ x ⃗ y γ−1 ⃗ x ⃗ z
1+ β2
[β] [β]
β2
[β] [β]
β2
[β] [β] 
 
 γ−1 ⃗ y ⃗ x γ−1 ⃗ y ⃗ y γ−1 ⃗ y ⃗ z 
 [β] [β] 1+ [β] [β] [β] [β]  (4.52)
 β2 β2 β2 
 
 γ−1 ⃗ z ⃗ x γ−1 ⃗ z ⃗ y γ−1 ⃗ z ⃗ z 
[β] [β] [β] [β] 1+ [β] [β]
β2 β2 β2

の行列式が γ であることを具体的に確認せよ。
上で計算したことは、実は Lorentz 変換の行列が(4.28)のように行列式が 1 の行列の三
→ p89
 
γ 0 0
つの積で書けること、その 3 次元部分が R⊤  0 1 0 R であることを考えれば当然の結
0 0 1
果であるが、確認のために問題としている。 ヒント → p1w へ 解答 → p4w へ
第 5 章

Lorentz 変換と物理現象

ここでは、Lorentz 変換を使って物理現象を解釈していこう。

5.1 速度の合成則

5.1.1 一直線上の速度の合成

今、速度 v で走っている電車の中で、(電車の中から見て)速度 u でボールを


投げたとしよう(この人を以下「A さん」と呼ぶ)。これを電車外にいる人(以
下「B さん」)が見るとどれだけの速度に見えるだろう???

えいっ ぴかっ

速さ の 速さ の
ボールだ。。。 光だ。。。

Galilei 変換的な ‘常識’ からすると、上の図の左側のように考えて、「u + v の


速度に見える」ことになる。しかし、その常識はもはや通用しない。例えば A
さんがボールではなく光を発射したとすると、その光は A さんからみて速度 c
で進むが、B さんから見ても速度 c で進む(上の図の右側)。常識には相容れな
いが、光速不変の原理という「実験事実」の示すところである。ということは、
「u + v の速度に見える」という ‘常識’ も、もはや危ない。
そこで、以下で特殊相対論的に速度の合成を考えていく。手がかりとするの
はもちろん、Lorentz 変換である。
p68 の (4.12)
98 第 5 章 Lorentz 変換と物理現象

ex
二つの座標系 (ct, x) 座標と (ct, e) 座標を考える。x
e 座標系の原点は x 座標系
ex
で見ると速度 v で運動している。(ct, e) 座標系で速度 u を持っている物体の速
度は、(ct, x) 座標系ではいくらに見えるだろうか。つまり「速度 v で動く電車の
中で速度 u で運動する物体は、外から見るといくらの速度に見えるか」という問
題を考えよう。Galilei 変換的 “常識” ではこの答えは u + v となる。
ex
(ct, e = ute で表される †1 。この
e) 座標系で見て速度 u で動く物体の世界線は x
 
e + βcte
x =γ x
式を (ct, x) 座標系で表すために、まず Lorentz 変換の逆変換の式  
ct =γ cte + β x
e
e = ute を代入して
に x  
x =γ ute + βcte (5.1)
 
ct =γ cte + βute (5.2)

という式を作り、辺々割ると
x u + βc
= (両辺 c 倍、βc = v を代入)
(5.3)
ct c + βu

x u+v
v合 = = (5.4)
t 1 + uv
c2

となる。以上から、(ct, x) 座標系でのこの物体の速度 v合 は
 一直線上の速度の合成則 

u+v
v合 = (5.5)
1 + uv
c2
 
となる。この合成速度の速さは光速を超えることはない。以下の練習問題で確
認せよ。

練習問題
−c < u < c
【問い 5-1】 ならば −c < v合 < c となることを証明せよ。
−c < v < c
ヒント → p313 へ 解答 → p320 へ

e = ute + x
†1
x e0 のように初期位置を入れても計算自体は同様に実行できる(少しややこしくなる)。こ

e0 = 0 の場合を考える。
こでは合成速度だけに興味があるので x
5.1 速度の合成則 99

光速以下の速度をいかに足し算していっても、光速 c を超えることはないと
いう事実は、「いかに物体を加速しても光速を越えることはない」ことを保証し
ている。ある時点で物体がどんな速度を持っているとしても、その物体がその
瞬間において静止している慣性系を持ってくることができる。加速することは、
慣性系において物体の速度が変化することを意味する。直前で物体が静止して

e } 系) で考えると、物体の速度は連続的に変化するはずなので、
いる座標系 ({x
いきなり光速を越えることはあり得ない。別の座標系で見れば、物体の速度は
e∗} 系で測った速度に、{x
{x e∗} 系の原点の速度を「加算」したものになるが、この
時の速度の加算は上の式で与えられるのだから、加速した物体の速度はけっし
て光速を越えられない。
後で述べるが、光速を超えないことは相対論的因果律が満たされるために重
要であるから、これが保証されることは喜ばしいことだ。そもそも、Lorentz 変
換の公式は v > c(β > 1) だと γ が虚数になって困る形をしている。

また、 u = c の場合(電車内で光を発射した場合)について計算すると、
c+v c+v c+v
v合 = = v = c+v = c (5.6)
1 + cv
c2
1 + c c

となり、電車外で見ても光速は c であることになる(そうなるように作った
Lorentz 変換から導いた式なのだから当然ではあるが)。

練習問題
座標系の速度
【問い 5-2】 がそれぞれ β1 , β2 である二つの Lorentz 変換
c
1 e 1 e
e= p
x (x − β1 ct) e= p
x e − β2 ct)
(x
1 − (β1 )2 1 − (β2 )2
と   を続けて行う
1 1
cte = p (ct − β1 x) cete = p cte − β2 x
e
1 − (β1 )2 1 − (β2 )2

合成速度 β1 + β2
と、その結果が が β3 = の Lorentz 変換であることを示せ。
c 1 + β2 β2
解答 → p320 へ

5.1.2 速度が一直線上でない場合

e∗} 系での速度 ⃗
{x u が x 方向を向いてない場合は、(5.1)と(5.2)の u の部分を
→ p98 → p98

u]x に変えて計算を行うことで
[⃗
100 第 5 章 Lorentz 変換と物理現象

u ]x + v
[⃗
[⃗v合 ]x = (5.7)
u ]x v
[⃗
1+ 2
c

という式ができる。y 方向については、

u]y te
y =ye = [⃗ e
x (5.8)
 
u]x te
ct =γ (v) cte + β [⃗ †2
(5.9) 軸方向は省略

を辺々割ることで

y u ]y
[⃗
= (両辺 c 倍)
ct γ (v) (c + β[⃗u ]x )

y [⃗u ]y 1 − β 2 u ]y
[⃗
[⃗v合 ]y = = x =   (5.10)
t [⃗
u] v u ]x v
[⃗
1+ 2 γ (v) 1 + 2
c c

となる。z 方向も同様に計算して、以下を得る。
 x 方向に運動する座標系での速度の合成則 
 
1
⃗v合 =   ([⃗
u]x + v) γ (v) ⃗ex + [⃗
u]y⃗ey + [⃗
u]z⃗ez (5.11)
u ]x v
[⃗
γ (v) 1 +
c2
 
y, z 座標は変化しないが、時間座標が変化しているので、y, z 方向の速度が変
化する。これも Galilei 変換の場合とは大きく違う。
e∗} 系の原点の、{x∗} 系から見ての速度 ⃗
{x v が x 方向でなく任意の方向を向い
∗ ∗
ている場合、{x
e } 系での速度が ⃗
u である物体は {x } 系では以下の式となる。
 一般の向きの速度の合成則 

γ (⃗v) − 1
⃗v γ (⃗v) + ⃗
u+ ⃗v (⃗v · ⃗
u)
|⃗v |2
⃗v合 =   (5.12)
⃗v · ⃗
u
γ (⃗v) 1 + 2
c
 

†2
γ に (v) をつけたのは、⃗
u の方の γ 因子ではないことを示すため。
5.1 速度の合成則 101

練習問題
【問い 5-3】(5.12) を示せ。 ヒント → p313 へ 解答 → p321 へ

⃗v
(5.12)は複雑に見えるが、⃗v と同じ向きを向いている単位ベクトル ⃗ev = と
→ p100 v
の内積を取ると
γ (⃗v) − 1
vγ (⃗v) + ⃗ev · ⃗
u+ v(v ⃗ev · ⃗
u) v + ⃗ev · ⃗u
 v2 
⃗ev · ⃗v合 = = (5.13)
v ⃗ev · ⃗
u v ⃗ev · ⃗u
γ (⃗v) 1 + 2
1+ 2
c c
となり、⃗ev が x 軸正の向きを向けば(5.7) になる式になっている。同様に ⃗
v と垂
→ p100

直な単位ベクトルを一つ、⃗e⊥ を選んで内積を取ると
⃗e⊥ · ⃗
u
⃗e⊥ · ⃗v合 =   (5.14)
v ⃗ev · ⃗
u
γ (⃗v) 1 +
c2
となって、⃗ev が x 軸正の向き、⃗e⊥ が y 軸正の向きを向いたときに(5.10)になる
→ p100

式である。

5.1.3 Fizeau の実験の解釈


3.4.2 項で、Fizeau による「エーテルの引き摺り」実験を紹介した。屈折率 n
→ p50
c
の媒質が速さ v で運動している場合、媒質が運動していなければ になる「媒
n
 
c 1
質中の光速」が + 1 − 2 v に変化するということであった。これを「媒
n n
1
質中のエーテルは媒質の 1 − の速度で動いている」と解釈するには困難があ
n2
る、ということはすでに説明した。
相対論的な考え方では、この問題がどのように解決するかを見ておこう。ま
c
ず、媒質と一緒に運動する座標系で考えると、この光の速度は である(念の
n
ため注意。この座標系でも、真空中の光の速度は c のままである)。ではこの速
度を、媒質が運動している座標系で見るとどう見えるか? —上の公式(5.5)を、
→ p98

v が小さいと近似して展開すると、
u+v  uv  u2 v
uv =(u + v) × 1 − 2 + · · · = u + v − 2 + ···
1 + c2 c c
102 第 5 章 Lorentz 変換と物理現象

 
u2
=u + 1 − 2 v + ··· (5.15)
c

†3 c
となる 。今考えている場合は u = なので、この式は
n
 
c 1
+ 1− 2 v (5.16)
n n

となり、Fizeau の実験結果と近似の範囲内で一致する。つまり、シンプルに以
下のように考えることで実験に合う結果が得られる。
相対論的な考え

外部の人からは に見える
屈折率 n の媒質の静止系 外部から見ても に見える

c
では光速は だ。他の座標 外部から見ても に見える
n
系でどうなるか知りたけれ
ば、単に速度の合成則を使っ
て計算すればよい。 ↑屈折率 の媒質

振動数ごとに違う速度で走るエーテルなどという不自然なものは必要ない。

5.2 相対論的因果律

因果律とは「原因は結果に先行する」という原則であり、物理のというより、
何らかの現象を考えるすべての学問において鉄則と言ってよいだろう。Galilei
(
t原因 は原因となる事象が起こる時刻
変換的な世界における因果律は「 とした
t結果 は結果となる事象が起こる時刻
とき、 t原因 < t結果 である」と表すことができる。
相対論的に考えると、条件がよりきつくなる。同時の相対性のおかげで、「あ
る座標系では t原因 < t結果 だが、別の座標系では te原因 > te結果 」が起こってしま
う可能性があるからだ。そこで以下を相対論的な「因果律」の定義としよう。

†3 1 2 3
|x| < 1 のとき、 = 1 − x + x − x + · · · 。これは初項 1、公比 −x の等比級数の和
1+x
の公式である。
5.2 相対論的因果律 103

 相対論的因果律 

Lorentz 変換で移り変わるいかなる座標系で表現しても t原因 < t結果


(5.17)
 
時間や同時刻が相対的だから、ある人から見て因果関係 t原因 < t結果 が成立し
ていても、別の人(さっきの人とは相対的に運動している人)から見て成立して
ないと困る。結局、「結果」となる事象は「原因」から見て、未来に向いた光円
錐の内側になくてはいけない(逆に「原因」は「結果から見て過去に向いた光円
錐の内側にある)。
「現在」のある点から見て、未来向きの光円錐 因果的未来
の内側(側面を含む)を「因果的未来」と呼ぶ。
「現在」で起こることの影響は、因果的未来にの
み及ぶ。また、「現在」に影響を及ぼしているの
因果関係の
は過去向き光円錐の内側(「因果的過去」と呼ぶ) 現在 ない領域
のみである。「因果的未来」でも「因果的過去」
粒子の運動
でもない領域は、現在とは因果関係がない。「現
在」の場所にいる粒子がそのまま存在し続けれ
ば(つまり粒子が時空図上の「未来」へと進行し 因果的過去
ていけば)現在は「因果関係がない領域」である場所が「因果的過去」に入って
くるので、影響が光速以下の速度で伝わって来るということは有り得る。
既知の(相対論的に正しい)物理法則は相対論的因果律を満たしている。5.1 節
→ p97

で速度の合成則から、
「いくら速度を足していっても c を超えない」ことがわかっ
ている。これは「どんなにがんばって加速しても光速以上には加速できない」と
いうことである。物理法則は因果律を破れないように作られているらしい。
もし超光速で移動することが可能であったならば、それはタイムマシンがあ
フレーム
るのと同じことになる。なぜなら、ある基準系において 到着点

超光速で移動することは、別の基準系から見ると「未来
から過去へ」という移動を行っているからである。
タイムマシンを「空間的には同じ場所で、時間的には
未来から過去へと移動できるシステム」と定義したとす 出発点

る。光速より遅い移動手段だけを使っていると、空間的
104 第 5 章 Lorentz 変換と物理現象

に同じ場所に戻ってきたら、それは必ず時間的には「過去から未来への移動」で
ある。
超光速の移動を組み合わせると、次の図のような移動が可能になる。

時刻
の同
基 準系
基準系 の同時刻

図の P から Q へという移動は、基準系 B で見れば「過去から未来へ」という
運動だが、基準系 A で見れば「未来から過去へ」という運動になる。もし、
「基
準系 A で見て超光速で動ける物体」と「基準系 B で見て超光速で動ける物体」
が二つ用意できれば、その二つの組み合わせによって「未来から過去へ」という

移動が可能になる。図の P → Q → P という運動を見てみよう。P → Q は基
′ ′
準系 B での超光速、Q → P は基準系 A での超光速移動である。そして P → P
という移動は、場所は移動せず時間だけを遡っている。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
このような因果律を破る現象が存在しているとすると SF などで有名な「自分が生
まれる前に戻って自分の親を殺したら どうなるのか?」というパラドックスが発生す
る。親が死んだので自分が生まれないとすると、生まれない自分はタイムマシンで元
に戻ることはない。ということは親は死ぬことなく、自分は生まれる。生まれた自分
は親をタイムマシンで殺しに行く。すると自分は生まれない…と論理が堂々巡りし、
結局何が起こるのか、さっぱりわからなくなる。これを物理の言葉で述べると「与え
られた初期条件に対して適切な解が存在しない(あるいは解が複数存在する)」ことに
なる。因果律が破れると、「初期条件」では決まらない要素(未来から来た自分)が問
題に入ってくるということなので、こういう困ったことになる。それは嫌なので、因
果律は破れないと思いたい。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

5.3 光行差

18 世紀に Bradley により、運動しながら光を受けたときにその光のやってき


た方向が違って見えるという現象が報告され、その現象を使って光の速度が現
5.3 光行差 105

代からみてもほぼ正しい値で求められている。
彼が測定したのは地球の公転によって星の見える角度が変わるという現象で
ある。ここで「光速は見る立場によって変わらないのではなかったのか?」と慌
ててはいけない。もちろん光速は変わらない。見る人の立場によって変わるの
は「角度」である。
我々はすでに Lorentz 変換を知っているので、Lorentz 変換を使ってその「見
†4
かけの角度の変化」を見積もろう 。
フレーム
x 座標系が「太陽が静止する基準系」に属するとする。速度 v で x 軸方向に移
動している観測者が x 座標系の原点にいるその瞬間に、観測者の進行方向であ
†5
る x 軸から θ だけ 離れた方向から来る光を観測したとしよう(簡単のため、光
は xy 平面内を伝播してくるものとする)。
y
= tan θ を満たす場所を通りながら t = 0 で光が原
x
点に達することを考えると、この光の軌跡は

x = −ct cos θ (5.18)


y = −ct sin θ (5.19)
z=0 (5.20)
†6
と書かれる 。
e 座標系とすると、その座標系での世界線の式は、次のよう
観測者の静止系を x
になる。
x ct
   
e + βcte = −γ cte + β x
γ x e cos θ (5.21)
y ct
 
ye = −γ cte + β x
e sin θ (5.22)
z

ze = 0 (5.23)

(5.21) と (5.22) を整理すると以下がわかる。


e = − c(cos θ + β)te
(1 + β cos θ)x
†4
ここで「物体が Lorentz 短縮するから」「ウラシマ効果で時間が遅れるから」のように個別にいろいろ
な効果を考える必要はない。Lorentz 変換さえやれば、それらの効果は全部入った形で結果が出る。
†5
この θ がよく使う極座標での θ (z 軸から離れる角度)とは違うことに注意。
†6 2 2 2 2
もちろん、この式は光円錐条件 x + y + z − (ct) = 0 を満たしている。
→ p69
106 第 5 章 Lorentz 変換と物理現象

cos θ + β e
e=−
x ct e
x (5.24)
1 + β cos θ
  
e cos θ + β e
ye = − γ ct + β − ct sin θ
1 + β cos θ
  √
1−β 2
1 − β 2 sin θ e
=−γ ctesin θ = − ct (5.25)
1 + β cos θ 1 + β cos θ

念の為の確認として次の問いを解いてもらうとわかるが、光の速度の x 成分、
y 成分は変化しているが、光速は当然変化してない。Lorentz 変換を使って計算
した結果だから当然である。Galilei 変換を使って計算しても光行差は起こるが、
そのときは光速も変化する。

練習問題
e 2 を満たすことを確認
e2 + ye2 + ze2 = (ct)
【問い 5-4】 この結果が光円錐条件 x

せよ。 解答 → p321 へ

この式から得られる光のやってくる角度 θ と θe の関係を式とグラフにすると、

は 刻みで変化している。


ye 1 − β 2 sin θ
tan θe = = (5.26)
xe β + cos θ

が得られる(ラジアンではなく、deg を使ったグラフであることに注意)。
真ん前 θ = 0˚ と真後ろ θ = 180˚ の光は角度が変化しないが、それ以外の角
度では角度が小さくなる方向へ変化していることがわかる。この観測者にとっ
ては、光のくる方向が全体的に「自分の前側」に寄るように感じられる。
Bradley の観測結果では、θ と θe の差は θ = 90˚ のときで 20 秒角(1˚の 180
分の 1)程度であった。これから θ = 90˚ に対応する tan θe が 10000 程度の数値
5.4 Doppler 効果 107

†7
なので、β(地球の公転速度なので約 30km/s)が光速の約 1 万分の 1 であるこ
とが結論できる(18 世紀に得られた数字としては非常によい精度)。

練習問題
【問い 5-5】 Lorentz 変換ではなく Galilei 変換を使ったとすると、(5.26) の式は
→ p106

どのように変わるか? ヒント → p313 へ 解答 → p321 へ

5.4 Doppler 効果
ドップラー
Doppler効果については音の方が有名なので、音の場合にどんな現象である
かを思い出そう。まず気をつけて欲しいのは、「Doppler 効果」と呼ばれている
現象は、以下の二つの現象を合わせたものである。

(1) 音源が移動していることによって、波長が変化し、結果として振動数が
変化する。
(2) 観測者が移動していることによって、見掛けの音速が変化し、結果とし
て振動数が変化する。

V
振動数 f は波長 λ と音速 V によって、 f = と書かれる。(1) は、この式の
λ
分母の変化である。
(1) の状況を示したのが右の図で この時
出した音が
これ
ある。音源が動きながら音を出す。 この時
出した音が
これ
音源が動いても、まわりの空気(音
の媒質)はいっしょに動いているわ
けではないので、音を出した場所を
中心として球状に(図では円状)広
がる。音が広がるまでの間に音源
が移動しているので、前方では波が この時
出した音が
これ
つまり(波長が短くなり)、後方で
は波が広がる(波長が長くなる)。

†7
光行差が起こってなければ θ = 90˚ のときは tan θ = ∞ だから、この大きな数値は「ほぼ 90˚に
近い角度」だったことを意味する。
108 第 5 章 Lorentz 変換と物理現象

V
これに対して (2) は、 f = の分子の方の変化である。同じ波長の波が来
λ
たとしても、自分が波に立ち向かっていくならば、1 秒間に遭遇する波の数が増
える。逆に波から遠ざかるならば、波の数が減る。
しかしこの説明を聞いた後で、「さて光の場合の Doppler 効果はどうなるの
か」と考えると、ちょっと不思議なことに気づくだろう。音の場合、観測者の運
動によって見かけの音速が変る(2 の場合)。だから音の振動数が変化するわけ
である。しかし光の場合、光速は見かけの光速であろうと変化しない(光速不変
の原理!)。では光の場合、「観測者が運動している場合の Doppler 効果」は存
在しないのか。もちろんそんなことはない。
時空図を書いて考えてみよう。以下の図では、上下方向が時間で水平方向が
空間である(空間の次元は 2)。実際は音と光は全然速さが違うが、図では同じ
速度であるかのごとく描いていることに注意しよう。

静⽌した物体の出す波 同じ現象を動きながら見ると?

⾳の場合 光の場合

図の一番左の は、静止した波源から波(光もしくは音)が出ている状
†8
況の時空図である。波は上下左右前後 に均等に広がっていく。それゆえ、異っ
た時刻に発生した波の波面は同心球(図では同心円)を描く。
これを動きながらみたらどのように見えるか?

音の場合、音速は動きながら見ると変化するために、 のようになる。
この場合、波源(音源)の動きと同じ速さで空気も動いているので、音の球はい

†8
図では例によって空間軸を一つ省略していて上下を時間軸に使っているので、
「左右前後」に見える。
5.4 Doppler 効果 109

わば、風に流される状態になる。ゆえに「音円錐」は風で流される分、傾く。音
源と媒質が同じ速度で動いているので、波面は球状に広がりながら流されてい
くので、波面はやはり同心球で、波長はどちらに進む波も変化しない。しかし前
方では波がそれだけ速くなっており、同じ波長でも速さが速い分振動数が大き
†9
い 。

光の場合、光速不変により、光円錐は傾かず、 のようになる。今度は
同心球とはならず、進行方向の前では波がつまり、後ろでは波が広がる。
V
結局光の Doppler 効果の場合は、観測者が動く場合も波源が動く場合も、
λ
(光なので、この場合の V は c)の分母である波長 λ が変化する。
実はもう一つ、光の場合に波長が変化する理由がある。いわゆるウラシマ効果
→ p81

によって、波源(光源)が波を出してから次に波を出すまでの間隔がのびる。こ
の二つの効果によって光の波長が変化し、ゆえに振動数が変化する。光速が不
変(c は観測者の速度によって変化しない)であっても、振動数や波長は観測者
の速度によって変化しうる。
どのように光の Doppler 効果が起こるかを、Lorentz 変換の式を使って計算
してみよう。p105 の脚注 †4 で書いたように、いろんな要素を個別に考えるのは
得策ではなく、えいやっと Lorentz 変換の式を適用するのがよい。
光の振動数(ただし、光源が静止
している場合に出す光の振動数)を
e∗} 系とす
ν0 とする。光源の静止系 ({x
る。) では、「山」を出してから次に
1
「山」を出すまでの時間は である
ν0
から、光の「山」が出た時空点を
   nc 
ex
ct, e, ye, ze = , 0, 0, 0 (n は整数)
ν0
(5.27)

と考えることができる。これを Lorentz
†9
以上の音に対する計算では、座標変換に Galilei 変換を使っている。ほんとうはここも Lorentz 変換
を使うべきなのだが、音のようなせいぜい数百 m/s の話をしている時には、Lorentz 変換と Galilei 変
換の差は非常に小さく、わざわざ計算が面倒な Lorentz 変換を使う意味はあまりない。
110 第 5 章 Lorentz 変換と物理現象

変換すると、
 
nc nc
(ct, x, y, z) = γ , βγ , 0, 0 (5.28)
ν0 ν0
となる。つまりこれが光源が動いている座標系において光の「山」が出た時空点
である。
もっとも簡単な場合として、光源の進んでいく先にあたる場所 (x, y, z) =
(L, 0, 0)(L は大きく、まだ光源はここまで達していないと考える)でこの光を
nc
観測したとすると、光は出てから L − βγ の距離だけ走ってこの場所に到達
ν0
する。その時刻は
n L − βγ nc
ν0 L n
γ + = + γ(1 − β) (5.29)
ν0 c c ν0
山が出た時刻 光が到着する
のにかかる時間

1
である。n が 1 違うと、この時刻は γ(1 − β) だけ違う。ゆえに、振動数は
ν0
√ s
1 1 − β2 1+β
ν = ν0 = ν0 = ν0 (5.30)
γ(1 − β) 1−β 1−β

と変化している。より一般的に、(L cos θ, L sin θ, 0) に来た光の振動数を考えよ


う。この場所に「山」がやってくる時刻は
s 2
n 1 nc
γ + L cos θ − βγ + (L sin θ)2
ν0 c ν0
s  2
n 1 nc nc
=γ + L2 − 2Lβγ cos θ + βγ (5.31)
ν0 c ν0 ν0
c √
である。L が光の波長 に比べて大きいとして近似すると、 内の最後の項
ν0
は無視できるので、
r
n 1 nc
≃γ + L2 − 2L cos θβγ (5.32)
ν0 c ν0
 
n 1 nc
≃γ + L − cos θβγ (5.33)
ν0 c ν0
γ(1 − β cos θ)
となる。n が 1 変化するとこの時刻は 変化するので、振動数は
ν0

1 − β2
ν = ν0 (5.34)
1 − β cos θ
5.5 章末演習問題 111

となる。
(Galilei 変換を使った場合の)音の Doppler 効果との顕著な違いは、進行方向
に対して真横の方向へ進む光(上の式で cos θ = 0 に対応する)にも振動数変
化があらわれることである。これはウラシマ効果によるもので、音ではそのよ
うな結果は出ない。これを「横 Doppler 効果」と呼ぶ。銀河のいくつかはその
中心核から「宇宙ジェット」と呼ばれる亜光速のガス流を出しているが、そのガ
スが出す光が横 Doppler 効果を起していることが確認されている。

練習問題
【問い 5-6】 励起した原子がある速さでいろんな向きに運動しながら一定振動数
の光を放出する。運動方向に依存した Doppler 効果を起こした結果、観測された
光の振動数は ν大 から ν小 までの範囲だったとしよう。この原子が静止していると
きに出す光の振動数 ν0 を ν大 , ν小 から求める式を、相対論的でない場合の Doppler
効果の式(音と同じと考える)と相対論的な場合の Doppler 効果の式を使った場
合で求めよ。 ヒント → p313 へ 解答 → p321 へ

5.5 章末演習問題
★【演習問題 5-1】
ミュー粒子と呼ばれる粒子は、2 × 10−6 秒で崩壊してしまう。ウラシマ効果を考えない
と、たとえ光の速さ (3 × 108 m/s) で走ったとしても、6 × 102 m しか走れない。しかし、
地上からの高度約 10km=104 m で発生したミュー粒子が地上に到着する。これはミュー
粒子が非常に速い速度で走っているおかげで時間の進み方が遅いからであると考えること
ができる。
ミュー粒子の速度はいくら以上でなくてはいけないか、概算せよ。
これをミュー粒子の立場に立って(ミュー粒子と一緒に動く座標系で)考えるとどうな
るだろうか。この立場では、ミュー粒子は静止している。彼(ミュー粒子)の立場では、動
いているのは地球の方である。するとミュー粒子は 2 × 10−6 秒で崩壊してしまうはずで
ある。ではなぜ、大気圏の下まで到着することができるのか??
ヒント → p??w へ 解答 → p??w へ

★【演習問題 5-2】
電車 α(中央に A さんが乗っている)と電車 β (中央に B さんが乗っている)のすれち
がいをある人(O さん)が見ている。
112 第 5 章 Lorentz 変換と物理現象

電車
電車

O さんから見ると、電車 α と電車 β は x 軸の正 Oさんの軌跡

方向と負方向にそれぞれ速さ v で走ってくるよう
Bさんの軌跡
Aさんの軌跡
に見える。電車の固有長さ(すなわち、電車が静
止している系で測定した長さ)はともに 2L であ
るとする。観測者の座標系で時刻 t = 0 におい

て、 x = 0 の場所で電車 α と電車 β の中央が一


致していたとする。これらの電車の運動を表すグ
ラフを書け。ヒントとして、右に A さん、B さん、
O さんの動きだけを記したグラフを書いておく。
また、A さん、B さん、O さんの 3 人の世界線
は、さっきのグラフの原点で重なる。この時空点
(原点)において光が左右に発射されたとする。光
の軌跡をグラフに書き込み、そのグラフを使って A さんにとっての同時刻線、B さんに
とっての同時刻線を作図せよ。
A さんは「電車 β の方が電車 α より短い」と観測し、B さんは「電車 α の方が電車 β よ
り短い」と観測する(互いに相手を「自分より短い」と判断する)。グラフに「A さんが原
点にいる時に観測する電車 α と電車 β の長さ」と「B さんが原点にいる時に観測する電車
α と電車 β の長さ」を書き込み、互いに相手を短いと観測することを説明せよ。
ヒント → p??w へ 解答 → p??w へ
第 6 章

Minkowski 空間

ここまで学習した特殊相対論的な考え方は「Minkowski 空間」
と呼ばれる「時間 1 次元+空間 3 次元の時空間」での幾何学と
してまとめなおすことができる。

ここまでの結果を “4 次元的な視点” から考え直そう。この章で説明する、時


ミンコフスキー
間と空間を一つに考えた空間(時空間)を、「Minkowski空間(Minkowski
space)†1 」と呼ぶ。

6.1 4 次元の内積と距離
6.1.1 4 次元距離と広い意味の Lorentz 変換
ここまでで、Lorentz 変換によって移り変わる二つの座標系
ex
(ct, x, y, z) ↔ (ct, e, ye, ze) の間に、

e 2 + (x
−(ct)2 + x2 + y 2 + z 2 = −(ct) e)2 + (ye)2 + (ze)2 (6.1)

という関係が成立することがわかった。
この量 −(ct) + x + y + z は 3 次元的距離の自乗 x + y + z に「時間成
2 2 2 2 2 2 2

分の寄与」を加えた(引いた?)ものである。3 次元において、距離の自乗は回
転と反転という座標変換に対して不変であった。その 4 次元バージョンである
−(ct)2 + x2 + y 2 + z 2 は回転・反転よりさらに広い Lorentz 変換に対して不変

†1
ドイツの数学者 Hermann Mikowski(ヘルマン・ミンコフスキー)にちなむ。Minkowski は
Einstein と同時代の人。
114 第 6 章 Minkowski 空間

†2
である。 そこでこの量 を、「4 次元的距離の自乗」と呼ぶ。
物理において大事なのは「座標変換によって変わらない量」である(座標は所
詮、人間の都合で決めたのだから、座標に依らない量こそが本質だ)。そういう
意味で、4 次元的に考える時(つまり特殊相対論的に考える時)には 3 次元の距
離よりも 4 次元的な距離の方がずっと物理的意味が大きい。
4 次元的な距離の自乗を不変にする変換を(3 次元的な回転や反転もひっくる
めて)「Lorentz 変換」と呼ぶ場合もある。

広い意味の Lorentz 変換
(−(ct)2 + x2 + y 2 + z 2 を不変に保つ)
 !

 e = γ(x − βct)
x

狭い意味の Lorentz 変換 など



 cte = γ(ct − βx)
= 回転/空間反転 (x2 + y 2 + z 2 を不変に保つ) (6.2)



 時間反転 t → −t



以上の組合せ

ローレンツ
狭い意味での Lorentz 変換は「Lorentzブースト(Lorentz boost)」と呼
ぶこともある。空間回転と、さらに時間空間の反転、およびこれらの組合せを併
せたものが広義の Lorentz 変換である。

原点から空間的な距離が一定の点 原点から時間的な距離が一定の点

2 2
上の図は、(x, y) 面において x + y = 一定 となる線と、(ct, x) 面において

−(ct)2 + x2 = 一定 となる線を書いたものである。右の図は「等距離の点」に
は見えないが、4 次元的な意味で「等距離の点」だ。

†2 2 2 2 2
あるいは符号を逆にした (ct) − x − y − z 。どちらの符号を使うかは流儀の問題でしかない。
6.1 4 次元の内積と距離 115

6.1.2 4 次元的距離の流儀
ある点 (t, x, y, z) と、それから(時間的にも空間的にも)微小距離だけ離れた
点 (t + ,x+ ,y+ ,z + ) との間隔(これを「線素 (line element)」
と呼ぶこともある)の「4 次元的な距離」を とするが、この決め方に以下の
†3
二つの流儀(convention) がある。
2
= c2 2
− 2
− 2
− 2
(timelike convention) (6.3)
2
= −c 2 2
+ 2
+ 2
+ 2
(spacelike convention) (6.4)

†4
二つの convention のどちらを取るかは本によって違う。timelike conven-
2
tion は、通常の粒子の場合 > 0 となる点が好ましい。spacelike convention
は、3 次元部分が空間内の線素の長さ((x + ,y+ ,z+ ) と (x, y, z) の距
2 2 2 2
離) = + + と等しい点が好ましい。どちらを使うかはその人
(
+ spacelike
の流儀であって、物理的内容に違いはない。本書では、 + =
−時 − timelike
†5
という記号 を使って表現しておく。すなわち、(6.3) と (6.4) をまとめて以下
のように書く。
 線素の長さ 
 
2
=+ −c2 2
+ 2
+ 2
+ 2
−時
(6.5)
=−c2 2
+ 2
+ 2
+ 2
+時 −時 −時 −時
 

†3
ここでの「convention」は「慣習・しきたり」などの意味。
†4 2 2 2 2 2
さらに ict を一つの座標として = (ict) + + + と書く流儀も過去にはあった

が、最近は使われない(符号が + で揃う点はいいが、替りに虚数が出現する)。昔の本を読むときには注
意。
†5
+ は「timelike(時間的)convention のときは下の段の −」という意味の記号。− も同様。この記
−時 +時

号は、他の本を読むときに「あれ、符号が違う、なぜ?」と疑問に思わないで済むようにつけている。こ
の本を読んだり、この本に書いてある計算をフォローしたりする間は、薄い色の +時 と −時 の部分は無


+ は + と
視して − 読むようにして欲しい(他の本と比較したくなったときにはこの符号因子が役に立


− は − と
+時

つかもしれない)。後で出てくる + も同様。
µ −時A
116 第 6 章 Minkowski 空間

6.1.3 時間的/空間的
2
の符号によって以下のように 4 次元距離を分類する。

2
+ > 0 (c )2 < 2
+ 2
+ 2
空間的 (spacelike)
−時
2
+ = 0 (c )2 = 2
+ 2
+ 2
光的 (lightlike) (6.6)
−時
2
+ < 0 (c )2 > 2
+ 2
+ 2
時間的 (timelike)
−時

spacelike のときは空間成分が勝っている(timelike はその逆)と考えればよ


い。「光的(lightlike)」は「ヌル的(nulllike)」と言う場合もある。空間軸を 1
個省略した時空図で表現すると以下の通りである。

時間的(spacelike)

光的(lightlike)
またはヌル的(nulllike)

空間的(spacelike)

以下、

x0 =ct, x1 =x, x2 =y, x3 =z (6.7)

という表記を使う。つまり、空間座標の添字 1,2,3 の他に、時間座標を添字 0 で


0 †6
表す。さらに x の次元を長さにするために c を掛けておく 。
これから Lorentz 変換された別の座標系での座標は
e e e e
x e
e0 =ct, e1 =x
x e, e2 =ye,
x e3 =ze
x (6.8)

と書く。つまり「チルダ付き」の座標 (ct, exe, ye, ze) は、添字も e


0 のようにチルダ


 チルダなし座標系 x (µ = 0, 1, 2, 3)
µ
†7
付きにする。 のように書く 。以下の

 チルダ付き座標系 x e
µ
e (µ e e e
e = 0, 1, 2, 3)e

約束が特殊相対論の本でよく使われるので、本書でもそうする。
†6
実際、この後の計算の多くで t は c を伴って現れるので、ct でまとめておくのは都合がよい。
†7
添字 0,1,2,3 にまで e をつけなくてもよいだろう、と思う人もいるかもしれない(多くの本はそうして
いる)が、本書では少々冗長でもこの書き方を採用する。
6.1 4 次元の内積と距離 117

 添字の約束 

i, j, k, · · · のアルファベットは 1,2,3(3 次元空間)の添字として、µ, ν, ρ, · · ·


のギリシャ文字は 0,1,2,3(4 次元時空) の添字として使う。
 

練習問題
【問い 6-1】 Lorentz 変換によって timelike な座標を変換したとき、時間座標の符

号が変わることはない( t > 0 なら te > 0 で、 t < 0 なら te < 0 )こと、つま


り、Lorentz 変換によって未来と過去が入れ替わらないことを示せ。 解答 → p322 へ

6.1.4 Minkowski 計量
†8
以上の記号を定義しよう 。
 Mikowski 計量 
  
 −1 0 0 0
−1
 µ=ν=0
 0
+ 時
1 0 0 
ηµν = +1 µ = ν = 1, 2, 3 −−→ +  (6.9)
 − 0 0 1 0 

0
− 時 行列
表示

それ以外 0 0 0 1
 
上の 〇µν −−→ △△ は ⃝µν を行列で書くと △△ を意味する
†9

行列
表示

2 †10
この記号を使って、 を以下のように書く 。
2 µ ν
= ηµν (6.10)

†11
このように「距離」 が定義された空間を Minkowski 空間と呼び、ηµν を使っ
ミンコフスキー
て 測 ら れ る 距 離 の 計 算 の 仕 方 、あ る い は ηµν そ の も の を「Minkowski計 量
(Minkowski metric)」と呼ぶ。
普通の空間、すなわち距離が
†8
η の符号も、spacelike convention か timelike convention かでひっくり返る。
†9
−−→ のところをシンプルに = と書くこともよくあるが、この書き方だと左辺が µ, ν という添字を持っ
行列
表示

た量、右辺は行列というアンバランスな式になる。「アンバランスでも意味わかるからいいじゃん」と思う
人は = を使って書いてもよい。
†10 2 2 µ ν
を = −ηµν にする定義もあったりするのでややこしい。
†11
普通の距離とは違うものであるが、これも「距離」と呼ぶ。数学で言う「距離」と呼ばれるものが満た
すべき性質「自乗は常に正」「0 になるのは同一点の場合のみ」を満たしてない。
118 第 6 章 Minkowski 空間

2 2 2 2 i j
= + + = δij (6.11)

 
1 0 0
ユークリッド
 
で定義された空間は「Euclid空間」と呼び、 δij −−→  0 1 0  を「」と呼ぶ。
行列
表示
0 0 1

Einstein 自身は Minkowski がこういう書き方を始めた時、「数学的な話で、


†12
物理の理解とは関係ない」と思っていたらしい 。しかし、この表示によっ
て特殊相対論、さらにそれに続く一般相対論を考えることが劇的に簡単になる
(Einstein もすぐにそれに気づいて自分でも使い始めている)。

6.1.5 4 次元的距離で理解する Lorentz 短縮とウラシマ効果


この節の最初に(6.1) という「距離の自乗」を考えたが、それは Minkowski 計
→ p113

量で考えた距離であった。このような「距離」を使って考えることで、Lorentz
短縮やウラシマ効果を別な形で理解することができる。
Lorentz 短縮は、「動いている棒は長さ 棒 棒
の の

が縮む」という現象である。右の図は、棒 後 先
時 端
が静止している座標系で、棒の先端と後 間 端
方 こっちの方が
端の世界線を示した。図の水平矢印は、棒 向 短い!!!
と同じ動きをしている人が観測する「棒
の長さ」である。
次に、棒に対して動いている人を考え 空間方向→
る。同時の相対性により、この観測者の
同時刻は傾いている。この人が棒の長さを測る時には、自分にとっての同時刻
を基準に測るであろうから、「棒の長さ」は図の斜め矢印であると認識する。
水平矢印と斜め矢印は、グラフ上の見た目では斜めの方が長く見えるが、4
 
次元的長さの自乗の定義が + x + y + z − (ct) であることを思い出すと、
2 2 2 2
−時
(時間成分があることで距離の自乗は減るので)水平矢印の空間的な長さ X に対
q
し、斜め矢印の空間的長さは X 2 − (ct)2 となる (普通の Pythagoras の定理と
2
は (ct) の前の符号が変わっていることに注意)。
ウラシマ効果は、動いている方が経過する時間が短いという効果であるが、そ
†12
ちなみに Einstein の大学時代に Minkowski の数学の講義を受けているのだが、Minkowski の方は
Einstein はろくに講義に出てこないと思っていたらしい。
6.1 4 次元の内積と距離 119

れは図の斜め線の方が垂直な線より短いことで理解できる。
右のグラフは一見斜め線の方が長く見える


が、ここでの「長さ」は 4 次元的距離である 時

ことに気をつけなくてはいけない。そのため、 方

真っ直ぐな(時空図上の)縦線の 4 次元的距離
の自乗は −(cT ) であり、斜めの線の 4 次元的
2
+時
距離の自乗は −(cT ) +X となる
2 2 †13
。距離の
+時 −時
自乗の絶対値は、斜めの線の方が短い。

空間方向→
6.1.6 世界線の長さと固有時

粒子の世界線(4 次元時空中の曲線になる)の微小部分である線素の長さは上
→ p18
 
の(6.5)
2
= + −c2 2
+ 2
+ 2
+ 2
の で定義される。 は
→ p115 −時

Lorentz 変換によって不変な量であるから、計算しやすい座標系で計算すれば
よい。そこで今考えている粒子がちょうど静止している座標系を採用する。そ
の座標系を (T, X, Y, Z) とすると、明らかに粒子の運動した線に沿っていけば
dX = dY = dZ = 0 であるから、
2
= −c2 dT 2 (6.12)
+時

となる。 はその物体が静止している座標系で測った時間経過に比例する。比
(
spacelike convention なら ic
例定数は である。
2
= −c2 2
と書くと、
timelike convention なら c +時

この τ がまさに、その物体が静止している座標系で測った時間である。物体そ
れそれが時計を持っていて、その時計の刻む時間を記録したものと考えて良い。
そこで τ を「固有時 (proper time)」と呼ぶ。

1
2
= 2
− ( 2
+ 2
+ 2
) (6.13)
c2

となる(固有時の定義の符号は常にこの形。+ はない)。固有時 τ に対し、座標


−時
系に対して静止している人にとっての時間 t は「座標時」と呼ばれる。この式の

†13
spacelike convention の場合に「距離の自乗」はマイナスになり、「自乗」という言葉の本来の意味
からすると奇妙に感じるかもしれない。本来の意味とは違う使い方をしているが、物理専用の用語なのだ
と思って納得して欲しい。
120 第 6 章 Minkowski 空間

2 †14
両辺を で割って平方根 を取ると、
v
u
u  2  2  2 ! p
1
= t1 − + + = 1 − β2 (6.14)
c2
v2
p
となる。固有時の増加は座標時の増加の 1 − β 2 倍である。
固有時は、各物体ごとに違う進み方をする。上の式からわかるように、寄り道
2
をすると が多くなり、結果として固有時の進みは遅れる(ウラシマ効果)。
我々の知っている粒子の世界線は timelike であるか lightlike であるか、どち
らかである。世界線が spacelike になるのは超光速運動する粒子だが、そんなも
のは見つかっていない。もし見つかったら、その粒子は見る人の立場によって
は未来から過去に向かって走るので、因果律に抵触する。
世界線が lightlike になると、固有時の変化 は 0 になってしまう。よって光
のように光速で動くものに対しては固有時が定義できない(あるいは定義して
もそれは変化しない)。

6.2 不変性と共変性

すでに何度か述べたように、物理においては「座標系に依らない量」が大事
→ p114

である。また、「座標系に依らず成立する式」も同様に大事である。逆に言えば
「特定の座標系でしか計算できない量」や「特定の座標系でしか成立しない式」
†15
の物理的意味は比較的乏しい 。
さらには「座標系に依らない」ことを手がかりに物理法則を定めていくこと
もできる(ここが相対論の醍醐味かもしれない)。ここで座標変換に対する不変
性についてまとめておこう。この節で扱う座標変換は Lorentz 変換に限らない、
†16
もっと一般的な座標変換であるとする 。
†14
正に限っておくのは、 と の符号を揃えるため。
†15 i
3 次元の例だと ⃗ ei は座標系に依らない(座標系を変えると ⃗
v] ⃗
v = [⃗ ei の方も(いい塩梅に)変換し
x x
てくれる)量である。一方「x 成分 [⃗
v ] 」は x 座標の取り方に依存する量であり、 [⃗
v] = 1 は座標変換
i
すると変わってしまう。よって比較すると ⃗ ei の方が「高級」で有用な表現である。「低級」な
v] ⃗
v = [⃗
x
表現である [⃗
v ] を使って計算してもいいのは、座標系を固定している場合が多いからである。相対論的な
ことを考えるときは、座標系を頻繁に取り換えるので、「高級」な表現を心がけたい。
†16
例えば直交座標→極座標のような直線座標と曲線座標の間の変換なども含まれる。
6.2 不変性と共変性 121

6.2.1 スカラー

ある物理量が「座標変換に対して不変である」とは、以下を意味する。
 スカラーの変換性 

e({xe∗}) と
ある座標系での量 ϕ({x∗}) が、別の座標系での同じ地点での量 ϕ

ϕe({xe∗}) = ϕ({x∗}) (6.15)


xµ =xµ ({xe∗})

という関係を持つとき、この量を「スカラー」と呼ぶ。
 

上の式の意味をもう少し丁寧に説明しておこう。時空間に二通りの座標 {x }
∗ ∗
と {x
e } が張られている。二つの座標は x = x ({xe∗}) µ µ †17 µ
e の関数であ
(x は x
†18
る)のように関係している 。
この時空にある物理量 ϕ があり、その物理量が「座標系の張り方に無関係に決

まる量」だとしよう。{x } 座標系でのこの物理量を表す関数が右辺の ϕ({x∗}) で
e({xe∗}) は {x
ある(左辺の ϕ e∗} 座標系でのそれ)。
ϕe({xe∗}) と ϕ({x∗}) とは違う関数である。しかし、左辺と右辺に同じ位置を表す
( ∗
左辺の座標に x を
座標の値、すなわち ∗ 代入すると、二つの関数は(同
e ({x∗}) を
右辺の座標に x
じ位置の同じ物理量を表すこととになり)同じ値になる。
例として、直交座標と極座標の変換 x = r cos θ, y = r sin θ を行うとき、関数

f (x, y) = xy と関数 fe(r, θ) = r2 cos θ sin θ は、それぞれの座標系において「同


†19
じ点」を代入すれば同じ値を返すが、関数としては違う形をしている 。

†17 µ µ µ µ ∗  µ
この式を x =x と呼んでしまうと恒等式のようだが、 x =x {x
e} の左辺の x は座標で
µ  ∗ µ
e } は「座標 {x } の関数である x である。例えば極座標から直交座標への変換

あり、右辺の x {x e

x = r cos θ を x = x(r, θ) のように「x は r, θ の関数だ」と書いているようなもの。


†18 e
µ e
µ 
e {x∗} ももちろん成り立つ。逆がない変換は「座標変換」とは呼ばない。
e =x
この逆 x
「f (x, y) と fe(r, θ)」のように別の名前を用意せず、後者
†19
座標系が違うが中身が同じ関数を表すときに、

を f (r, θ) と書くことも多い。この書き方は、「 f (x, y) = xy だから f (r, θ) = rθ 」のような混乱を招

く可能性があるときには避けるべきである。しかしいちいち文字を変えたりせず、例えば「直交座標では
1 2 2 1 2
E (x, y) = k(x + y ) 、極座標では E (r, θ) = kr である」のようにエネルギーには同じ E を
2 2
使うことが多い(混乱しなければそれでも問題はない)。本書では、同じ文字は使うが、関数名に e などを
つけることで「別の座標系で考えた量である」ことを表現することにする。
122 第 6 章 Minkowski 空間

座標変換として特に Lorentz 変換を考えて、「Lorentz 変換しても変わらない


†20
量だ」と強調したいときは)「Lorentz スカラー」と呼ぶ 。

6.2.2 共変ベクトルと反変ベクトル

ここまでを聞くと「物理量は座標系に依らないのが当然だから、全部スカラー
なのでは?」と思う人もいるかもしれない。ところが「力の x 成分」を考える
と、これは「x 軸がどっちを向いているか(もちろん座標系の張り方に依存す
る)」で違う。よって「座標変換によって値が変わる(が、物理的内容は変わっ
てない)物理量」が存在する。つまり x 成分や y 成分がある量(すなわちベクト
ル)は、スカラーとは別の物理量となる。
†21
「ベクトル」という言葉は文脈によって意味が変わるのでややこしい のだ
が、相対論をやる人(およびこれに近い人)の使う「ベクトル」は、以下で説明
する「共変ベクトルまたは反変ベクトル」のことで、「座標変換に伴って<ある
種>の変換を受ける量」という明確な意味を持っている。
相対論では以下の二つの「座標変換によって変わる物理量」がスカラーに次い
で大事である。
 共変ベクトルと反変ベクトルの定義 
∗ ∗
座標変換 {x } → {x
e } において

eµe ({xe∗}) = ∂xν ({xe∗})


A Aν ({x∗}) (6.16)
∂xeµe µ µ
変換後 x = x ({xe∗})
変換前

†22
のように 変換する量を「共変ベクトル (covariant vector)」と、
変換前

eµe eµe ({x∗}) ν ∗


∂x
A ({xe∗}) = A ({x }) (6.17)
∂xν
変換後 µ µ
x = x ({xe∗})

のように変換する量を「反変ベクトル (contravariant vector)」と呼ぶ。


係数のチルダ付き/なしの位置の違いに注意せよ。
 

†20
「スカラー」という言葉を、単に「1 成分の量」という意味合いで使っていた人も多いかもしれない。
相対論におけるスカラーの定義は「座標を変えても変化しない量」である。
†21
もっとも広い意味で使われるとき、足し算と定数倍が定義されている量は全部ベクトルである。
6.2 不変性と共変性 123

µ
ここから先では、上付きの添字を持つベクトル V と下付きの添字を持つベク
トル Vµ を区別するので注意して欲しい(実はこれまでも特に説明せず表記の区
(
上付き添字のベクトルは反変ベクトル
別はしていた)。 と使い分ける。
下付き添字のベクトルは共変ベクトル
∂ϕ({x∗})
(6.16)の定義に従うと、スカラー関数の微分 は共変ベクトルである。
→ p122 ∂xµ

このことは、微分演算子 が座標変換により
∂xµ
∂ ∂xν ({xe∗}) ∂
= (6.18)
e
∂x e
µ ∂xeµe ∂xν
†23 †24
と変換され 、係数が共変ベクトルのそれと一致することから納得できる 。
反変ベクトルの方は、微小変位 の変換

e
µ eµe ({x∗})
∂x ν
= (6.19)
∂xν
e ∗
e を {x } の関数とみて全微分したときの式)。つま
と同じである(こちらは、x
µ

µ
り微小変位 は反変ベクトルの例である。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
p44 で Galilei 変換を図で描いたとき、微分の方向が右
の図のようになった(p44 の図では (tM , xM ) だった座標を
ex
(t, e) にしている)ことを思い出そう。Galilei 変換は
∂ ∂
e =x − vt
x =
e ∂x
∂x
だが、微分演算子の関係は
te =t ∂ ∂ ∂
= +v
∂ te ∂t ∂x
となることに注意しよう。(6.18) と (6.19) の違いを行列による式と図で理解したい。
    
∂ ∂
 
∂ ∂  ∂x
e  1 0  ∂x 
, と( , ) の変換を行列で表現すると、   
 ∂ =

 ∂ 

∂x ∂t
v 1
∂ te ∂t

†22 ∗
ここで、「 」がついているのは、左辺も右辺も {x
e } の関数にしたいから。(6.17) も同様。
µ µ ∗ 
x =x {x
e}
†23
この式は微分の連鎖律(chain rule)である。
†24
数学では微分演算子の方が基本的な量なので、微分演算子と同じ変換をする方が「共」変という名前に
なっている。
124 第 6 章 Minkowski 空間

" # " #" # " # " #


1 −v 1 0 1 −v
と = である。この と の違いが (6.18) の
0 1 v 1 0 1
e
∂xν ({xe∗}) eµ
∂x ({x∗})
e
と (6.19) の の違いである。

∂x ∂xν
右のように、グラフに「等高線」を引いてみる
と、共変ベクトルと反変ベクトルの違いが見えやす
くなる。グラフを見ると「等 ? 線」に沿った方向が



∂ ∂


, (あるいはこれらの e 付き)の方向 †25 、「等


∂x ∂t
? 線」に垂直な方向が , (あるいはこれらの e
付き)の方向だとわかる。共変ベクトルと反変ベク
トルの違いは、座標を張った後に等高線方向を基底
等 線(等 線)
ベクトルの方向に取るか、それに垂直な方向を基底
ベクトルの方向に取るかの違いであるとも言える。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

共変ベクトルと反変ベクトルの添字を等しくして足し上げる操作のことを「縮
†26 µ
約 (contraction)」と呼ぶ 。縮約を取った量 Aµ B は(それぞれの変換の行
列が「転置すると逆行列」になっているおかげで)不変量になる。確認すると

eµe B
e µe = Aν eµe ρ
∂xν ∂ x
A B = Aν B ν (6.20)
eµ ∂xρ
∂x e

δ νρ
である。ここで、
eµe
∂xν ∂ x
= δ νρ (6.21)
eµe ∂xρ
∂x
ν ρ
を使った(この式は、x を x で微分した式と考えれば納得できる)。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
偏微分に慣れてない人は (6.21) に混乱することもあるようなので補足しておく。2
e, ye) 系への座標変換を考える。古い座標は新しい座標
次元の例として (x, y) 系から (x
の関数なので、x(xe, ye), y (xe, ye) のように書ける。座標変換は逆変換も存在するので新し
e(x, y), ye(x, y) とも書ける。組み合わせると、
い座標系を古い座標系の関数として、x

x(xe(x, y), ye(x, y)) = x (6.22)

†25 ∂
気をつけたいのは、 t = 一定 の線に沿った方向は の方向だという点。
†26
∂x
「二つの添字を縮約する(contract する)」のように動詞で使うこともある。
6.2 不変性と共変性 125

と書くことができる(逆の操作をやった結果、結局元の x に戻ってきているわけであ
る)。両辺を y を一定として x で微分する。「y は変化させず、x → x + と置き換え
たときの差」を丁寧に考えると、

x(xe(x + e(x +
, y), y , y)) − x(xe(x, y), ye(x, y)) =x + −x
 
e
∂x ∂ ye
x e(x) +
x , ye(x) + − x(xe(x, y), ye(x, y)) =
∂x ∂x
eの変化
x yeの変化
e(x, y)
∂x(xe, ye) ∂ x ∂x(xe, ye) ∂ ye(x, y)
+ = (6.23)
∂xe ∂x ∂ ye ∂x

e
∂x ∂ x ∂x ∂ ye
以上から、 + = 1 が成立する †27 。(6.22)を x を一定として y で微分
e ∂x
∂x ∂ ye ∂x → p124

e
∂x ∂ x ∂x ∂ ye
すれば、 + = 0 もわかる。以上をまとめて書いた式が(6.21)である。
e ∂y
∂x ∂ ye ∂y → p124

B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

eµe B µe のように共変(下付き)添字と反変(上付き)添字が足し上げられてい
A
ると、座標変換した結果、それぞれの座標変換の係数行列が消し合うため、まる
で最初から添字がついていないかのごとく変換を受けない。つまり添字の意味
がなくなっている。それゆえ添字が足し合わされている状況を「つぶれている」
と称する(変換性がつぶされていると考えてよい)。
以後、座標変換に伴う変換行列を

eµe
∂x ν ∂xν
Mµeρ = , M−1 = (6.24)
∂xρ e
µ eµe
∂x

−1 ν µ
と書くことにする( M e
µ
Mµeρ = δ νρ および Mνeµ M−1 e
ρ
= δ νeρe が成り

立つ)。この行列を使うと、

eµe =Mµe Aρ
反変ベクトルは A と変換される量
ρ
(6.25)
eµe =Bν M −1 ν
共変ベクトルは B e
µ
と変換される量

これは間違い これは間違い

†27 e
∂x ∂ x e
∂x ∂ y
=1 で = 1 だから足して 2 になりませんか?」というのが FAQ なのだが、偏
e ∂x
∂x e ∂x
∂y

微分のときには分数の約分のような計算はできない。
126 第 6 章 Minkowski 空間

であると定義される。反変ベクトルと共変ベクトルで掛かる行列が逆行列であ
り、足し上げられている添字が前か後ろか(行か列か)が違うことに注意しよ
(
反変ベクトルには左から M を掛ける
う。行列で表現すれば、 −1 となる。
共変ベクトルには右から M を掛ける
行列の転置を使って、この「足し上げられている添字が違う」という点を修正
し、どちらも「左から行列が掛かる」形にすると、以下のようになる。

e =M
反変ベクトルは A
e
µ e
µ ρ
と変換される量
ρA
  (6.26)
−1 ⊤
ν
eµe =
共変ベクトルは B M Bν と変換される量
e
µ

(
反変ベクトルには左から M を掛ける
行列で表現すれば、 −1 ⊤ となる。ゆ
共変ベクトルには左から M を掛ける

えに M が直交行列( M = M−1 )である、すなわち変換が直交変換なら、
反変/共変ベクトルの区別はない。2 次元回転や3 次元回転は直交変換の例であ
→ p25 → p33

る。初等的な物理では共変/反変の区別を気にしないのはこれが理由である。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
「ベクトルには共変ベクトルと反変ベクトルがある」という話をしてきたが、この世
界にあるベクトルが 2 種類に分類されるという意味ではない。ベクトルである物理量
を表現するときに 2 種類の方法があるだけのことである。物理的実体は一つだが、それ
をどう表現するかの違いで反変ベクトルになったり共変ベクトルになったりする。「ベ
クトル」という量は表現に依らず存在していて、それを「共変成分で表現するか、反変
成分で表現するか」の違いがあるだけである。

 反変な基底ベクトル Eµ
つまり、基底として の 2 種 †28 を使って、ベクトルを
 共変な基底ベクトル Eµ

 共変成分 A と反変な基底ベクトルの内積 A Eµ
µ µ
のどちらで表しても構わない(成
 反変成分 Aµ と共変な基底ベクトルの内積 Aµ Eµ

分・基底で共変・反変が逆になることに注意)。
p124 の補足で書いた Galilei 変換で図に描いたように、

E∗ は「等高線に垂直な方向」( ∗ の方向)
の基底である。
E∗ は「等高線の方向」( ∂ の方向)
∗ ∂x
†28 µ µ
E , Eµ はここでだけ使う記号。本によっては(変換性が同じということもあって)基底の記号に

と を使うこともある。p123 の図を参照せよ。
∂xµ
6.2 不変性と共変性 127

3 次元の例で言うと、本来「ベクトル」と呼んでいいのは基底ベクトルを使って表
現した ⃗
a = ax⃗ex + ay⃗ey + az⃗ez であって、(ax , ay , az ) は「ベクトルの成分」であ
る。しかし多くの場合あまり細かいことは気にせず (ax , ay , az ) を「ベクトル」と呼
ぶ。同じ理屈で、Aµ も「共変成分」と呼ぶべきで、「共変ベクトル」と呼ぶのは言葉
の濫用であると言える(とはいえ、広まってしまっているので本書でも使う)。
i
一例としては、運動量は m と書いたときは反変ベクトルであるが †29 、量子力


学で −iℏ と書いたときは †30 共変ベクトルである。
∂xi
矢印としてのベクトルの代表例である位置ベクトルは、一般の座標変換に対しては
共変ベクトルでも反変ベクトルでもない †31 。直交座標 (x, y) から極座標 (r, θ) への座
x =r cos θ
標変換 は、上の変換則のどちらにも従わない †32 。
y =r sin θ

B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

6.2.3 テンソル

Cµν , Aρλτ , Dτσµν のようにいくつか †33 の添字を持ち


(
上付き添字が反変ベクトルの規則で
変換される量を「テンソル」と呼ぶこと
下付き添字が共変ベクトルの規則で
にする。ある量がテンソルかそうでないかを判定するとき、単に「添字が付いて
いるか」だけではなく「その添字が正しく座標変換されるか」が重要である。
複数個の添字のあるテンソルは、その添字の一個一個に上付き添字には M、
−1
下付き添字には M が掛かるように変換される。例えば上付き添字が一つと下

†29 ∂L
解析力学での運動量の定義 pi = は共変ベクトルになる。
∂ ẋi
†30
量子力学では演算子の順序の問題が結構ややこしいのだが、ここはその心配をするところではない。
†31 µ
変換を Lorentz 変換に限るならば、位置ベクトルを x で表現したものは反変ベクトルである。

†32 2 e(x)
∂x
e=x
難しい例を出さずとも、1 次元の座標変換 x ですら(この場合 = 2x )、座標そのもの
∂x
の変換 x → x
e は 共 変 ベ ク ト ル の 変 換 で も 反 変 ベ ク ト ル の 変 換 で も な い 。共 変 ベ ク ト ル な ら

∂x 1 e
∂x
= が、反変ベクトルなら = 2x が掛けられる変換則を満たすべきだが、どちらでも
e
∂x 2x ∂x

ない。 ∂ ならそれぞれ反変/共変ベクトルである。
と ∂x
†33
「いくつか」は 0 以上。反変ベクトルは上付き添字が一つのテンソル、共変ベクトルは下付き添字が一
つのテンソルである(スカラーは添字のないテンソルと考えてよい)。
128 第 6 章 Minkowski 空間

付き添字が三つある量は

σ µ ν
e τeσe µeνe = Mτeτ D τ σµν M−1
D M−1 M−1 (6.27)
e
σ e
µ e
ν

τ
のように変換される。上付き・下付き添字が一つずつある量 A σ の変換は

eτeσe = Mτeτ Aτ σ M−1
A e = MAM−1 になる。
となり、行列の相似変換 A
e
σ

Kronecker のデルタδ µν は添字が二つあるテンソルの例であるが、「座標変換


→ p??

で変化しない」という特別な性質がある。この性質を持つテンソルを「不変テン
†34
ソル」と呼ぶ 。
δ µν が不変テンソルであることを確認しておく。δ µν を座標変換すると
λ ρ
Mµeρ δ ρλ M−1 e
ν
= Mµeρ M−1 e
ν
= δ µeνe (6.28)

と座標変換される(単位行列は相似変換しても単位行列)。つまり、座標変換し
ても結果は Kronecker のデルタである(なので、δe と書かず δ と書いた)。

6.2.4 共変な式

不変性と同様に重要な概念が「共変性」である。ある方程式が共変であると
は、方程式の両辺が座標変換に対して同じ変換をすることを言う。
µ µ µ µ
例えば A = B 、あるいは Cµν = Dµν は共変な式である。 A = B を
座標変換すると、

Mµeν Aν = Mµeν B ν (6.29)


eµe
A Be µe

eµe = B
のように、左辺と右辺が同じ変換をして、結局は A e µe という、同じ形の

式になる。この場合「この方程式は共変である」と言う。

E µ = F µν Gν という形の方程式も共変である。座標変換すると、
Fe µeνe e νe
G
e µe
E

左辺:M ν E
e
µ ν
右辺:M
e
µ
ρ Mνeλ F ρλ Gσ M−1 e
ν
(6.30)
レヴィ チビタ
†34 µνρλ
この他に不変テンソルに近い例としては、Levi-Civita記号 ϵ(1) がある(正確にはテンソルではな
くテンソル密度である)。
→ p310
6.3 Lorentz 変換のテンソルによる表現 129

−1 σ
となるが、 M e
ν
Mνeλ = δ σλ という関係があるので、

e
µ ν e
µ ρλ
左辺:M ν E 右辺:M ρ F Gλ (6.31)
µν
となる。F の上付き ν の変換と Gν の下付き ν の変換が打ち消し合う、と考え
µ µν
ればよい。 E = F Gν の左辺と右辺は同じ座標変換を受けるので、等式は

e µe = Fe µeλe G
そのまま E e e のように成立する。左辺と右辺で共変ベクトル(下付
λ

き)や反変ベクトル(上付き)の添字が同じ形になっていれば、両辺が同じ変換
をするので方程式は共変となる。
これは間違い

µ
例えば式 Aµ = B には共変性がなく、たまたまある座標系で成立していた

としても、座標変換したら成立しなくなってしまう(だからこんな式は普通は出
てこない)。
物理法則は座標系に依らず成立すべきであるから、共変な式で書かれていな
くてはならない。物理法則をテンソルで書く利点は、この共変性が明白になる
ことである。テンソルで共変に書かれた方程式(つまり左辺と右辺で添字の形
があっている方程式)は、ある座標系で成立するならば別の座標系でも成立す
る。これが、相対論的に考える時にテンソルを使う大きな利点である。

6.3 Lorentz 変換のテンソルによる表現

ここから、取り扱う座標変換は Lorentz 変換とする。

{x∗} 系から {x
e∗} 系への Lorentz 変換を行列を使って以下のように書く †35 。
 e   e e e e  
e0
x Λ 00 Λ 0 1 Λ 0 2 Λ 0 3 x0
    
 e1   e1 e e e  1 
xe   Λ 0 Λ11 Λ12 Λ13  x 
    
 e2  = e2 e e e  2 
(6.32)
xe   Λ 0 Λ21 Λ22 Λ23  x 
    
e
3 e
3 e
3 e
3 e
3 3
e
x Λ0 Λ1 Λ2 Λ3 x
†35
Lorentz 変換を表現する行列を太文字のギリシャ文字 Λ を使って書く。この記号は、左側の添字が e
付き、右側の添字が e なしになっている。二つの添字の「所属する座標系」が違うからである。左の添字を
上付き添字にして右の添字を下付き添字をしているのは変換の性質がこのタイプのテンソルだからである。
130 第 6 章 Minkowski 空間

e e e eµe
∂x
e = Λ νx
テンソルによる表現では x
µ µ ν
である。この式から M
µ
ν = = Λµeν
∂xν
µ †36
なので x は Lorentz 変換に対して反変ベクトルである 。
 2  2  2  2
光円錐条件 − x
0
+ x1 + x2 + x3 = 0 を満たす点は、座標変
→ p69

 e 2  e 2  e 2  e 2
換後は変換後の座標系で光円錐条件 − x
e0 + x e1 + x e2 + x e3 = 0
e
µ
を満たす。Lorentz 変換が x 方向へのブーストであった場合、この行列 Λ ν は
すでに求めてあるLorentz 変換の式から
p68 の (4.12)

 e e e e   
Λ 00 Λ 01 Λ 0 2 Λ 0 3 γ −βγ 0 0
   
 e1 e e e1   0
 Λ 0 Λ 1 Λ 2 Λ 3   −βγ γ
1 1
0 
 =  (6.33)
 e2 e e e   
 Λ 0 Λ 21 Λ 2 2 Λ 2 3   0 0 1 0
   
e e e e
Λ 30 Λ 31 Λ 3 2 Λ 3 3 0 0 0 1

e
µ
とわかる。この Λ ν を使って書くと光円錐条件は

ηµν xµ xν = 0 のとき、 ηµeνe x eνe = ηµeνe Λµeρ xρ Λνeλ xλ = 0


eµe x (6.34)

µ ν
と書くことができる。(6.34) は「x x を掛けると 0」という式だが、実は式

ηρλ = ηµeνe Λµeρ Λνeλ が成り立つことを (6.33) を使って確認できる。

 e
ηµeνe Λµeρ Λνeλ = Λµeρ ηµeνe Λνeλ = Λ⊤ ηµeνe Λνeλ
µ
ρ
(6.35)
転置しつつ順番変更

†37
のようにして この式を行列に翻訳し、

†36 µ
一般的な座標変換に対して、x は反変ベクトルでも共変ベクトルでもない(p127 の補足を参照)。
µ
「Lorentz 変換に対して」の制限付きでなら「x は反変ベクトルだ」は正しい。
†37
「前の行列の後ろの添字」と「後ろの行列の前の添字」を揃えて足し上げるのが行列の掛算である
e
µ
(p298 を参照)
。(6.35) の冒頭の ηµ
eνeΛ ρ の部分はそのルールに則ってないので、順番を入れ替えたのち
  e
µ   e
µ
e
µ ⊤ ⊤ e
ν
Λ ρ = Λ と転置して Λ ηµe νe Λ λ としてから行列に翻訳する必要がある。ゆえに、最
ρ ρ


初の行列は Λ になる。
6.3 Lorentz 変換のテンソルによる表現 131

Λ⊤ η Λ
   
γ −βγ 0 0 −1 0 0 0 γ −βγ 0 0
 −βγ γ 0 0   0 0  
  1 0   −βγ γ 0 0 
 0 0 1 0 0 0 1 0   0 0 1 0
0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1
    
−γ −βγ 0 0 γ −βγ 0 0 −γ 2 (1 − β 2 ) 0 0 0
 βγ γ 0 0  −βγ γ 0 0   0 γ 2 (1 − β 2 ) 0 0

=    =  
0 0 1 0  0 0 1 0  0 0 1 0
0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1
 
−1 0 0 0
 0 1 0 0
=
 0
 (6.36)
0 1 0
0 0 0 1
η
µ ν
となる。すなわち、実は ηµν x x = 0 という条件は必要でなく、一般的に

 ηµν は Lorentz 不変である 

ηµν = ηµeνe Λµeµ Λνeν (6.37)


 
†38
が成立していることがわかる 。 
1 0 0 0
 
 0 cos θ − sin θ 0
x, y 面内における回転を表す行列 
 0 sin θ cos θ
 を Λµeν としても (6.37)
 0
0 0 0 1
が成立することは 3 次元部分に関しては ηµν は単位行列であることを考えれば
自明だろう。具体的な計算式は
Λ⊤ η Λ
     
1 0 0 0 −1 0 0 0 1 0 0 0 −1 0 0 0
 0 cos θ sin θ 0   0 1 0 0  0 cos θ − sin θ 0  0 1 0 0
   = 
 0 − sin θ cos θ 0   0 0 1 0   0 sin θ cos θ 0  0 0 1 0
0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1
(6.38)

である (最初の行列は Λ なので転置されていることに注意)。他の一般の軸に
関する回転や反転に関しても同様である。
†38
e と書かなかったのは、この性質があるおかげである。
別の座標系の η を η
132 第 6 章 Minkowski 空間

(6.37) が成立する Λµeν で表される座標変換を広い意味での Lorentz 変換と呼


ぶ。広い意味での Lorentz 変換には狭い意味での Lorentz 変換の他に、回転や
反転、さらにその組み合わせが含まれる((6.2) を参照)。
→ p114

この性質から Lorentz 変換を複数個組み合わせた変換もやはり Lorentz 変換


であることがわかる。
e
e e
e
e =(Λ′ )
e e
µ µ
x eν
x eνe
=Λνe ρ xρ
∗ x
e
{x
e } 座標系 ←−−−−−−−−

e
ν
e∗} 座標系
{x ←−−−−−−− {x∗} 座標系 (6.39)

e
e e
e
e =(Λ′ )
e Λνe ρ xρ
µ µ
x
e
ν

†39
のように 二つの Lorentz 変換を次々に行うことを考えると、この二つの合成
e
′ µ
e e
ν
変換(行列 (Λ ) νe Λ ρ で表現される)も Lorentz 変換である。この変換が ηµν を
不変にすることは、具体的に計算すれば

e e e e
ηµeeνee (Λ′ )µeρeΛρeα (Λ′ )νeλe Λλβ = ηρeλe Λρeα Λλβ = ηαβ (6.40)

となることで証明できる。

6.4 4 元ベクトル
µ
座標が Lorentz 変換された時、反変ベクトルである V は同じ形の Lorentz 変

換 Ve = Λ ν V を受ける。例えば(6.33)の変換の場合、
e
µ e
µ ν
→ p130

e
cte =γ(ct − βx) Ve 0 =γ(V 0 − βV 1 )
e
e =γ(x − βct)
x Ve 1 =γ(V 1 − βV 0 )
座標変換 と同時に e
と変換される。
ye =y Ve 2 =V 2
e
ze =z Ve 3 =V 3

変換則 Ve = Λ ν V (あるいはこの共変ベクトル版)にしたがうベクトルを
e
µ e
µ ν

†40
「4 元ベクトル (four-vector)」 と呼ぶ(4 成分を持っていても変換性が違っ

†39
変換は行列を左から掛けるという操作なので、(6.39) は変換元が右、変換後が左に来るよう配置した。
†40
「4 元ベクトル」は「しげんべくとる」と読む人と「よんげんべくとる」と読む人がいる。
6.4 4 元ベクトル 133

たら 4 元ベクトルとは呼ばない)。後で出てくる 4 元速度、4 元加速度、4 元力な


†41
どは全て 4 元ベクトルである 。
µ µ
二つの 4 元ベクトル V , W を考える。では、このベクトルによって作られ
る、座標変換(この場合 Lorentz 変換)の不変量はどんなものだろう。
二つの 4 元ベクトルの内積を 3 次元でと同じように
これは間違い

V と W の内積は V 0 W 0 + V 1 W 1 + V 2 W 2 + V 3 W 3 と 定 義 し た と す る と 、
Lorentz 変換で保存しない。保存するのは、
 4 元ベクトルの内積 

ηµν V µ W ν = −V 0 W 0 +V 1 W 1 +V 2 W 2 +V 3 W 3 (6.41)
+時 −時 −時 −時
 
である。4 元ベクトルの内積が Lorentz 変換で保存することは、

ηµeνe Ve µe W
f νe = ηµeνe Λµeρ V ρ Λνeλ W λ = ηµeνe Λµeρ Λνeλ V ρ W λ = ηρλ V ρ W λ (6.42)
= ηρλ

µ ν
からわかるし、そもそも V と同じ変換をする x で作られた ηµν x x が不変量で
†42
あったことからもわかる 。
ν
「内積」を取る時には ηµν W という組み合わせがよく出てくるので、
 反変ベクトルの添字を η で下げた結果 

Wµ = ηµν W ν (6.43)
 
†43
という量を考えるとこの量は共変ベクトルである 。ηµν の内容を考えれば、

†41
3 次元ベクトルである速度、加速度、力にはその「4 元ベクトルバージョン」が存在するのだが、全て
の 3 次元ベクトルが 4 元ベクトルの空間成分になるかというと、そうはいかない。例えば後で出てくるが
⃗ や磁場(磁束密度)B
電場 E ⃗ は 4 元ベクトルの空間成分ではない。
†42 µ ν e W
ηµν x x は同じもの同士の内積だが、ηµe νe V f は違うものとの内積なのでは? —と心配になる人
e
µ e
ν

µ µ ν ν
もいるかもしれないが、任意の同じものどうしの内積が不変であるなら、ηµν (V + W ) (V +W )
µ ν µ ν µ ν
も ηµν V V も ηµν W W も不変量。となると、ηµν V W も不変量でなくてはいけない。
†43
多くの特殊相対論の本では、(6.43) で共変ベクトルを定義している。より広い応用(一般相対論に進
むときなど)を考えると、(6.16) が定義で、(6.43) はその結果だと考えた方がよい。しかし、特殊相対
→ p122
論の範囲でなら「反変ベクトルを η で添字を下げると共変ベクトル」とシンプルに考えても間違いはない。
134 第 6 章 Minkowski 空間

W0 = −W 0 , W1 = +W 1 , W2 = +W 2 , W3 = +W 3 (6.44)
+時 −時 −時 −時

µ
が言えるので、直交座標を使っている場合の W と Wµ の違いは
(
spacelike convention なら、第 0 成分(時間成分)
の符号のみである。直
timelike convention なら、第 1,2,3 成分(空間成分)
交座標系間の Lorentz 変換では反変ベクトルと共変ベクトルの差は符号だけで
†44
大きな差はない 。
(6.43)で定義した量が共変ベクトルであることは、Wµ V µ がスカラーである
→ p133
µ
(反変ベクトル V の変換と共変ベクトル Wµ の変換は打ち消し合う)ことから
わかる(と言われて「わかった」と思った人は下の補足を飛ばしてもよい)。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
実際に上で定義した Wµ の Lorentz 変換がどうなるか、W ν の Lorentz 変換から求
めてみよう。我々はすでに ηµν が Lorentz 変換で不変であることを知っているが、以
下ではそれを知らないふりをして「ηµν が下付きの 2 階のテンソルだ」と考えてその変
換も実行する。すると、
ηµe νe f νe
W
µ ν µ

W e = ηµν Λ
−1
Λ−1 Λνe ρ W ρ = ηµν W ν Λ−1 (6.45)
e
µ e
ν e
µ

δ νρ Wµ



であることがわかる。結局この式は W e = Wµ Λ
−1
になる。ηµν W ν で定義し
e
µ

た「下付きのベクトル」は、確かに「Lorentz 変換に対して共変ベクトル」である。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

ηµν の逆行列を η µν と書く。 ηµν η νρ = δµ ρ ということである(δµ ρ は→


Kronecker
p31
 
−1 0 0 0
 
 0 1 0 0
のデルタ)。ηµν と η は行列で表現すると同じ +  になる。
µν
− 0 0
 時 0 1 
0 0 0 1
µ
このとき、 W = η µν Wν も成立する。つまり添字は η を使って上げたり下
げたりと相互変換できる。
†44
曲線座標系では共変ベクトルと反変ベクトルの違いはより大きな意味を持つ。特に一般相対論では大き
な差になる。
6.4 4 元ベクトル 135

共変ベクトルと反変ベクトルが η による添字の上げ下げで移り変わることが
−1
できるので、共変ベクトルの変換行列 Λ と反変ベクトルの変換行列 Λ も η に
よる添字の上げ下げで移り変わることができる。具体的には、
 Λ−1 は Λ の添字の上げ下げの結果 


Λ−1 e
µ
= ηµeνe Λνeρ η ρλ = Λµeλ (6.46)
e
ν
Λ ρ の前の添字 νe を下げて
後ろの添字 ρ を上げる操作

 
λ λ
が成立する。最後の Λµe の添字の位置に注意! —Λµe は真ん中の式の下に書
いた操作の結果を意味する。
(6.46) を確認するため、真ん中の式に Λµeτ を掛けて µ
e を縮約すると、

(6.46) の真ん中の式

 
ηµeνe Λνeρ η ρλ Λµeτ = ηµeνe Λµeτ Λνeρ η ρλ = ητ ρ η ρλ (6.47)
ητ ρ

λ −1
となって δ τ となること(Λ に Λ を掛けたら単位行列になること)がわかる。

λ e
µ
なお、上の式は Λµe Λ τ = δ λτ と書いてもよい。
こちらの表現を使うと、

Ve µe = Λµeν V ν , fµe = Λ ν Wν
W e
µ (6.48)

のように反変ベクトルと共変ベクトルの変換を書くこともできる。こちらの書
き方では、
「共変ベクトルも反変ベクトルも、Λ の後ろの添字とベクトルの添字
を揃えて和を取る。この添字は一方が上付きならもう一方は下付きである」と
考えれば変換ルールを覚えやすい。

練習問題
 
γ −βγ 0 0
 −βγ γ 
e  0 0 
【問い 6-2】 Λµ −−→   の時、
ν 行列
表示
 0 0 1 0 
0 0 0 1

(1) (6.46) を使って、Λµe ν の行列表示を求めよ。


136 第 6 章 Minkowski 空間

e
µ λ
(2) この行列表示について Λ ρ Λµ
e = δρ λ を確認せよ。
解答 → p322 へ

 
1 0 0 0
 0 cos θ sin θ 0 
 
【問い 6-3】 Λµν −−→   の時、前問同様の計算を行え。
行列
表示
 0 − sin θ cos θ 0 
0 0 0 1
解答 → p322 へ

【問い 6-4】


(1) 【問い 6-2】の行列で表される変換によって微分演算子 ∂µ = (成分
  ∂xµ
∂ ∂ ∂ ∂
を列挙すると , , , )がどのように変換されるかを chain
∂(ct) ∂x ∂y ∂z
rule を使って計算し、それを行列で表示せよ。
(2) 変換の後も ∂µ
exeνe = δ νeµ
e が成立していることを確認せよ。

ヒント → p314 へ 解答 → p323 へ

6.5 章末演習問題
★【演習問題 6-1】
1 ∂2
ダランベール演算子 − + △ がローレンツ不変であることを示せ。
c2 ∂t2
ヒント → p2w へ 解答 → p7w へ

★【演習問題 6-2】
p126 の補足で書いた共変な基底ベクトル Eµ を使うと、4 次元時空の位置ベクトルを

ctEct + xEx + yEy + zEz =xµ Eµ (6.49)

− ctEct + xEx + yEy + zEz =xµ Eµ (6.50)


+時 −時 −時 −時

ee eµ
e∗} 系では同じベクトルが x
のように表すことができる †45 。{x eµ eµ
Eµe または x e
e E と表さ

れる。 ct = γ(cte + β x e + βct),


e), x = γ(x eµ
e y = ye, z = ze を代入して比較することで、E e


とE e e cte と E
を求め、E e xe の内積が 0 であることを示せ。ただし、 Eµ · Eν = δ µ のよ
ν

うに内積が定義されている †46 。 ヒント → p2w へ 解答 → p7w へ

†45
通常は座標は (6.49) のように表現する。
†46
内積は反変基底と共変基底とで取られる。共変基底どうしの内積、反変基底どうしの内積は定義されな
い。
第 7 章

パラドックス

この章は特殊相対論に関するいくつかのパラドックス(逆説)
を紹介する。

ここで紹介するパラドックスは、特殊相対論をよく理解していれば実は不思
議なものでもなんでもない。本質的理解ができているかどうかを確認するためには重
要だが、「大丈夫」と思う人はとりあえず飛ばして先へ行っても構わない。

7.1 双子のパラドックス

「双子のパラドックス」は、特殊相対論で一番有名
双子のパラドックス
なパラドックスであろう。ただ、このパラドックスに
はいくつかのレベルがあり、深いレベルまで考えると
一般相対論を使って解くことが必要になる。ここでは
そこまで立ち入らずに、浅いレベル(でも充分難しい
し面白い)だけを考えよう。
まず素朴にパラドックスの概要を述べよう。双子の
兄と弟がいるとする。兄が亜光速で飛ぶことができる SRParadox/Twin0

ロケットに乗って宇宙の彼方まで旅をして、地球に帰っ
てきたとしよう。弟はずっと地球で待っている。運動していると固有時が短く
†1
なる(ウラシマ効果)ことから、帰ってきた兄は弟より若い。 。

†1
p86 の FAQ でも延べたように、兄は若いという意味では得をしているように思われるが、それだけ短
い人生経験しかしていない(同じだけの経験をしたが年を取らなかったというわけではないことに注意)。
138 第 7 章 パラドックス

以下の主張を誰かがしたとしてみよう。
矛盾があるとする主張
弟および地球から見れば確かに兄は運動して帰ってきた。しかし相
対的に考えて兄が静止する立場で見たならば弟と地球の方こそ運動し
て、兄の元に帰ってきたと考えられるのではないのか。その場合弟の
方が若くあるべきだ。これは矛盾である。

これは浅く考えれば矛盾しているように思えるかもしれない。しかし具体的
に図を書いて考えてみると、そうではないことがわかる。
まず、兄と弟の移動を時空図で表してみよう。下は、地球にいる弟の立場で描
†2
いた 時空図である。
兄さん、 おまえ、
お帰り。
P ほんとに
わしも年取ったよ。 俺の弟か??

折り返し点だ。
地球にいる弟は
兄さんが向こうに どうしている
着いたな。
だろう?
B
A

兄さん、 O 弟よ、行って
行ってらっ くるぞ!!
しゃい

このパラドックスに関して、上にも書いたように、「相対的に考えて兄が静止
する立場で見たならば弟と地球の方こそ運動して、兄の元に帰ってきたと考え
られる」という主張がよく見られる。

弟 兄
もしも我々が時空図 の運動と時空図 の運動を比較しているの

であれば、この主張は正しい。その場合に兄が静止する立場を取れば、時空図


弟 と時空図 を比較していることになる、この二つの見方では、確
(
兄から見た弟の運動
かに は同等であると考えていい。
弟から見た兄の運動

若い状態で未来が見えたという意味では得をしているかもしれないが。
†2
弟の世界線が時空図上で「真上に向かう直線」になるように描いた、ということ。
7.1 双子のパラドックス 139

弟 兄
しかし、ここで我々が比較しているのは、 と いう二つの時空

図なのである。この図から「兄が静止する立場」は単純に考えることができない
ことがわかる。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B

弟 兄
なお、時空図 を見れば「兄の方が世界線の長さが短くなる」のはある意味

2
自明である。時間的な世界線の長さの自乗は「(時間成分) −(空間成分)2 」で計算さ
れるが、弟の世界線には空間成分がなく、兄の世界線にはある。よって −(空間成分)2
の分、兄の世界線の長さの自乗が小さくなる—4 次元的に考えよう!
「兄から見るとどのように弟の時間が経過しているのかという点をはっきりさせた
い」という点にこだわりがなければ、以下の話は不要かもしれない。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

ここで「兄の同時刻」と「弟の同時刻」は別であることを思い出そう。それぞ
れの「同時刻線」を書き込んだものが次の時空図である。

兄さん、 おまえ、
お帰り。
P ほんとに
わしも年取ったよ。 俺の弟か??

折り返し点だ。
地球にいる弟は
兄さんが向こうに D どうしている
着いたな。
だろう?
A B

兄さん、 弟よ、行って
行ってらっ くるぞ!!
しゃい O

兄が弟(地球)から一番遠くまで行って、今まさにUターンしている時の時空
点は図の B である。弟にしてみれば、この時間、自分は図の時空点 A にいる。
弟の同時刻線は図の水平線(一点鎖線)であることに注意しよう。
兄が U ターンを行うまで、それぞれの主観でどのような現象が起こったかは、
以下のように違う。まず弟の主観は以下の通りである。
140 第 7 章 パラドックス

弟の主観
A B

兄が O→B と時空間内を移動してい C

る間に、自分は O→A と移動した(空


O
間的には移動してない)。

図で見ると OB>OA に見えるが、兄の座標系と弟の座標系で時間の目盛り

が γ 倍違うことを考慮すると OA>OB となる。


一方、兄にとっての同時刻線は図の破線(斜め線)であるから、

兄の主観
A B
自分が O→B と時空間内を移動して
C
いる(空間的には移動してない)間に、
弟は O→C と移動した。 O

となる。この場合は目盛りの違いを考慮しても、 OB>OC であるので、まと

めて、 OA>OB>OC となる。互いに互いの時間を「遅い」と感じる。ここま


では、問題は完全に「相対的」である。
次に、兄が U ターンした時に何が起こるかである。このとき、兄の速度が変
わったことに応じて、
「同時刻線」が傾きを変える。時空点 B で一瞬で加速が終
わったとすると、加速前は時空点 B と時空点 C が「同時刻」だったのに、加速
後は時空点 B と時空点 D が「同時刻」だ。兄の主観では、一瞬で弟の時間が時
空点 C から時空点 D までいっきに経過したように感じる。弟の主観では、この
一瞬の時間経過はない。この不平等性のおかげで、兄の方が時間が遅くなると
いう不平等性が生じる。
帰りについて考えると、
7.1 双子のパラドックス 141

弟の主観

兄が B→P と移動している間に、自 P

分は A→P と移動した(空間的には移
D
動してない)。 A B

兄の主観

自分が B→P と移動している(空間 P

的には移動してない)間に、弟は D→P
D
と移動した。 A B

であって、 AP>BP>DP となって、やはり問題は相対的である。兄の加速と


いう一瞬の間だけ、相対性が崩れている。
当然出てくる疑問
ちょっと待った。兄の主観で B の同時刻点は、弟の C なのか D なの
か、どっちなんだ??

その疑問はもっともだが、「兄の減
速・加速」という本当は時間がかかる作
業を「時空点 B」の一点で済ませたこと
によって起こった問題なのである。実
際の減速と加速が一瞬で終わることは
有り得ないので、B は一点ではなく、あ
る程度の時間間隔の「線」である。これ
を考慮して図を描きなおしたのが右の
図である。この図では B1 から B5 までの時間を掛けて減速・加速が行われたと
した場合の「兄の同時刻線が」描かれている。B1 の「兄の同時刻線の延長上」
に C があり、B5 の「兄の同時刻線の延長上」に D がある。 さらにいえば、B3
の「兄の同時刻線の延長上」には A がある。
弟は常に一つの慣性系の上に乗っているが、兄はそうではない。往路の慣性
142 第 7 章 パラドックス

系と復路の慣性系は別の座標系であり、加速する時に兄は「座標系の乗り換え」
を行う。その時に時間がずれるのだが、乗り換えにもある程度の時間は必要で
ある。B1 から B5 までの時間で起こっていることの詳細は、11.4 節で述べる。
→ p285

ここで、「経過したように感じる」ことをもう少しまじ
めに検証してみよう。実際には、兄は弟から光がこない限 短

り、「弟の時計が指している時刻」を知ることはできない。 間

そこで弟から時報を乗せた信号が電波で兄に向けて送られ

ていたとしよう。この電波の様子を描いたのが右の図であ 間

る。図でわかるように、時空点 B(兄のUターン地点)ま
では、兄が聞く時報の間隔は、弟が時報を出す間隔よりも 長

ずっと空いている。兄は「ずいぶん間延びした時報だなぁ」 間

と思うはずである。兄が弟から遠ざかっているために、光
が到達するのに余分に時間がかかるせいである。
逆に、B 地点を過ぎてからは、兄が受け取る時報の間隔
は弟が出す時報の間隔よりも、ずっと短くなる。兄が近づくことによって時報
†3
が速く着く 。
よって、兄が自分が眼に見える現象だけで判断したとしたら、

兄から「目で見える現象」
折り返し点(時空点 B)に着くまでは弟はゆっくり年をとっていたの
に、折り返してからは弟の方が速く年を取るようになった。戻ってきた
ら弟の方が年をとっていた。

と判断するだろう。兄が弟を目でみている限りにおいて、瞬間的に時間がたつ
ことはない。なお、時報の到着の周期の具体的計算は【演習問題7-1】を見よ。
→ p150

最初に述べた考え方の場合は、兄が「今見ている弟の姿は○年前に出た光のは
ず。ということは今の弟の年齢はこれくらい」という計算をやって自分と弟の
時計を比較している。そしてこの計算法が、Uターンする前とした後でがらっ
と変わってしまう(同時刻がずれるから)ために、一瞬で弟の時間がたってしま

†3
多くの相対論の本では「短く見える」「時間が遅くなるように見える」のように「見える」という言葉
が使われるが、実際に「眼に見える」現象はここで述べたような「光が到着するのに時間がかかる」とい
う事情で、より複雑になる。
7.1 双子のパラドックス 143

うという結果になる。
ここで、もう一歩つっこんだ主張をしてみよう。

つっこんだ主張
相対論の本質は「物理は相対的であって、どっちが静止しているかを
決めることはできない」ではなかったか。ならば兄の方が動いたと考え
なくては問題が解けないというのは、相対論の本質にもとる。

この主張は正しくない。大事なことは、兄が途中で「減速+加速」をしている
ことである。「(二つの慣性系のうち)どっちが静止しているか決められない」と
フレーム
ずっと述べてきたが、加速をしている間の兄がずっと静止しているような基準系
は慣性系ではない。物理的には、加速の間大きな慣性力を受けているはずであ
る(急ブレーキと急発進をしているのだから)。この慣性力が働くか否かという
物理的な違いによって、兄は自分が慣性系にはいないことを実感できる。弟に
はもちろんそんなことはない。つまり、兄と弟の立場はこの意味で(物理的に)
対等ではない。
さらにこのパラドックスに対して深く考えると、

さらにつっこんだ主張
なるほど、兄は慣性力を感じるから自分が慣性系にいないことがわか
る、というのはもっともらしい。しかし兄はそれを慣性力と考えず「や
やっ、突然宇宙全体に重力が発生したぞ」と解釈することも可能である
はずだ。そう考えたとしたら、やはり動いているのは弟の方になるので
はないか。

もできる。運動が相対的かどうか、という話が「宇宙全体に力が発生したとし
たら?」という疑問にまで拡大するあたり、Mach による「Newton のバケツ」
問題を思い出させる。残念ながら、ここまでつっこんだ質問をしてこられると、
本書の範囲内では解答は出せない。一般相対論を使うと「重力が発生した」とい
う立場で問題を解き直すことができ、この立場で計算すると重力の影響で時間
にずれが生じるので、やはり兄の方が若くなる。
144 第 7 章 パラドックス

もう一つのよくある疑問
「兄が運動していて弟は静止しているから時間差が出る」という考え
方は「絶対静止などない」という、本書の最初からの主張に反してはい
ないか?

「弟は静止しているから」というのは一つの見方に過ぎない。別の基準系で見



れば、 のように「弟は等速直線運動し、兄は途中で速度を変えるが、

加速時以外は等速直線運動する」という見方で見ることができる(ちなみにこの
図は「行きの兄」が静止している立場で描いた)。そして、この場合でも兄の方
が固有時間が短いことに変わりはないのである。
なお「行きも帰りも兄が静止している慣性系」は存在しない(途中で加速系が
入る)のは上でも述べた通り。

7.2 2 台のロケットのパラドックス

続いて、Lorentz 収縮に関するパラドックスを紹介しよう。

2 台のロケットのパラドックス
今、2 台のロケット A と B が、それぞれ星 a と星 b の近くにいる。

2 台のロケットの距離(星 a と星 b の距離)は L であるとする。ここで


このロケットが同時に加速して、瞬時に速度 v に達したとする。すると、
p v
ロケットとロケットの間隔は Lorentz 収縮して、L 1 − β 2 ( β = )
c
となるはずである。ではいったいこの 2 台のロケットの位置関係はどの
ようになるのだろう?
7.2 2 台のロケットのパラドックス 145

p
例えば L = 10 光年 として、 β = 0.8 とすると、 1 − β 2 = 0.6 なので、
p
L 1 − β 2 は 6 光年となる。
瞬時に加速したんだから、まだ B は b の近くにいるだろう

と考える人もいるだろう。しかしこれでは、A が一挙に 4 光年も a から離れてし


まっている。しかし、
まだ A は a の近くにいるだろう

という考えをすると、今度は B が 4 光年もバックする。
じゃあきっと真ん中でしょ

という考えでは、今度は A が一瞬で 2 光年進み、B が一瞬で 2 光年バックする。


そんな馬鹿なことはない (上の三つはどれも同等に馬鹿馬鹿しい)。
特殊相対論で何かの運動を考えていてよくわから

? ?
なくなった時は、時空図を書いてみるのがよい。加
速までの 2 台のロケットの動きを (ct, x) グラフに書 ロ ロ
ケ ケ
き込めば、右のようになる。ここで、どちらのロケッ � �
ト ト
トも加速を開始し、一瞬のうちに β = 0.8 の速度を
の の
世 世
得たとする。じゃあどのようにロケット A,B の世界 界 界
線 線
線を伸ばしていけばよいだろう?
146 第 7 章 パラドックス

正解は右のアプリでも見ることができる。
2 台のロケット
ここでロケット A,B はどちらも相手側のロケットが
どう動くかとは無関係に、自分の加速を行う。お互い
に「同時に加速しようね」と示し合わせてはいるが、
実際に加速するという作業自体は相手とは関係なく行
われる。現象は「local」な物理法則に則って発生する。
つまり、自分のいる場所とせいぜいその近傍の状況だ
†4
けで、そこで起こる現象は決まる 。離れた場所に影 SRParadox/TwoRockets

響が伝わるのは、光速以下の速度で何らかの情報が伝
わってからである。
その意味で、上の三つの予想はどちらかもしくは両方のロケットが「相手がど
†5
う動くかに応じて動いている」 という点で物理的に容認できない。
実際にどうなるかというと、それぞれの世界

ケ ロ
線を素直に、加速によって方向を変えた後に伸 � ケ
ト �
ばしていけばよい。ロケットが 1 台の問題なら、 ト

世 の
「ここまで静止していて今加速した(その後は等 界 世
線 界

速運動)」という状況を聞いたら、 のよ
ロ ロ
ケ ケ
� �
ト ト
うな世界線を思い浮かべるだろう。2 台ならそ
の の
れと同じことが二つ起こると思えばよい。つま 世 世
界 界
線 線
り、右の図のような時空図となる。
加速時には「A は a の近くにいるし、B は b の近くにいる」のは当然である
(何光年もジャンプしたりしない)。一瞬で加速したというのだから、まだ遠く
まで行っていないのは当然である。
では、動いている物体は長さが縮むという、Lorentz 短縮の話は間違いなの
か? —「これでは Lorentz 短縮が起きてないのでは」と心配な人のために、
Lorentz 変換 †6 を使って、「加速後にロケットが静止する座標系」での時空図
†4
物理の基礎方程式は空間に関して二階微分までなので、Taylor 展開して 3 次以上の「遠い向こう」の
情報は物理法則によって起こる運動には寄与しないのだ。
†5
例えば第 1 の予想ではロケット A が「そろそろ B さんが加速してるから、わしも 4 光年ほどワープす
るか!」という動きを見せているのだ。これは全然「local」でない。
†6
Lorentz 短縮は Lorentz 変換の結果として出てくるものである。だからまずは Lorentz 変換をして、
その結果を吟味するべき。ここで「Lorentz 短縮してない!」とびっくりするのは、Lorentz 変換の結果
7.2 2 台のロケットのパラドックス 147

を書いてみよう。図に示したように、(ct, x) 系において、ロケット A の加速


が起こる座標が (0, 0)、ロケット B の加速が起こる座標が (0, L) だとする(こ
の系において同時刻なので、どちらも ct = 0 である)。これに Lorentz 変換

cte =γ(ct − βx)


ex
を行うと、(ct, e) 系ではロケット A の加速は (0, 0)、ロケット
e =γ(x − βct)
x

ex
B の加速は (−βγL, γL) という時空点で起こる事象であるとわかる。(ct, e) 系
では、加速が終わった後はロケットはどちらも静止している。よって「加速」事
象から後の世界線は鉛直(cte方向)に進む(これに比べて (ct, x) 系では加速前
の世界線が鉛直である)。二つの座標系での運動を時空図に描いて比較すると、
†7
以下のようになる 。

ロ ケ ロ
ケ ロ � ケ
� ケ ト �
ト � ト
ト の
の 世 の



世 Lor e ntz 変 換 界



線 界 線

ロ ロ
ケ ケ




Lo r e n t z 変 換
の の
世 世
界 界
線 線
軸と 軸が垂直になるように描いた図 軸と 軸が垂直になるように描いた図

なお、この図に描かれた世界線の式は以下の問題の答えである。

練習問題
【問い 7-1】 (ct, x) 系で、ロケット A,B の加速前/加速後の世界線を表す式は

ロケット A の加速前 x =0 加速後 x =βct (7.1)


ロケット B の加速前 x =L 加速後 x =L + βct (7.2)

ex
という直線である。これらの式を Lorentz 変換することにより、(ct, e) 系で、ロ
ケット A,B の加速前/加速後の世界線(直線)を表す式を作れ。 解答 → p323 へ

を見てからでいい。
†7 e yx
ここでの座標の書き方は (ct, x) または (ct, e)(縦軸が先で横軸があと)であることに注意。
148 第 7 章 パラドックス

ex
図を見るとわかるように、実は加速終了後のロケットの静止系 (ct, e) 系にお
いて、加速が終わった後のロケット間の距離は γL である。ロケット間距離を加
速開始前のロケットの静止系である (ct, x) 系で見ると γL が Lorentz 短縮され
て L になっている。
静止していた時に L だったロケットの間隔が、動き出すと伸びるというのは
ex
なぜだろう??? —時空図を見ると、(ct, e) 系ではロケット B の方が先に加速
†8
(こちらの系では「減速」)していることがわかる 。
このパラドックスの問題文を読み直してみよう。特殊相対論を考えるときに
は注意深く使わなくてはいけない言葉が無造作に使われているのに気が付くは
ずである。それは、「ここでこのロケットが同時に加速して、瞬時に速度 v に達
したとする。」というところの ‘同時’ である。特殊相対論において、ある座標系
で同時に起こることは別の座標系では同時に起こらない。
特殊相対論では離れた場所の「同時」は座標系が変わればどんどん変化する。
それゆえ、「2 台のロケットが同時に発進する」という表現には注意が必要なの
ex
である。ここの「同時」はもちろん (ct, x) 系での同時であり、(ct, e) 系では同
時ではない。

7.3 ガレージのパラドックス

2 台のロケットのパラドックスに似た、
「固有長さ L の車を固有長さ ℓ(L > ℓ)
のガレージに入れることができますか」という問題である。

†8
特殊相対論においては「変形しない物体(剛体)」はあり得ない(もっとも、全く動かないか等速運動
を続けるのなら話は別)。何かの加速を受けると必ず、その物体内の別の場所は(座標系によっては)別の
タイミングで加速させられてしまうからである。
7.3 ガレージのパラドックス 149

常識的に考えればできないに決まっているが、車の方が亜光速で走っている
p
とすれば、その長さは L 1 − β 2 に縮む。だからガレージの中に車が亜光速で
つっこんできて、中に入ってしまっている時にさっとドアを閉めれば車はガレー
ジの中に入る。そのまま亜光速で走り続ければ壁に激突して壊れるだろうが、今
は壊すかどうかは関係なく、入るかどうかだけを問題にしている。「壊して入れ
るのは入れるうちに入らない」という反論は却下である。

これがなぜパラドックスかというと、逆に車が止まっていてガレージが走っ
てくる座標系で考えてみると、入らないように思えるからである。この場合は
p
ガレージの方が ℓ 1 − β 2 に縮んでいるから、ますます入らなくなる。

入らないはずの車が、一方の立場では入り、もう一方の立場ではますます入り
にくくなる、このパラドックスがどのように解決されるか、正解は演習問題とし
ておくが、ここまでで「特殊相対論的考え方」を身につけることができている人
なら、上の文章の中に特殊相対論的に考える時に注意しなくてはいけない表現
が混じっていることに気づくだろう。

練習問題
【問い 7-2】ガレージのパラドックスの回答を説明せよ。
ヒント → p314 へ 解答 → p324 へ
150 第 7 章 パラドックス

これらの他に、力学にからんだパラドックス、電磁気学にからんだパラドック
スがあるが、それらについては後に話そう。

7.4 章末演習問題
★【演習問題 7-1】
p142 で考えた「弟から届く時報を兄が聞く」問題を具体的に計算してみよう。兄のロ
ケットの運行速度を v とし、地球から折り返し点までの距離を L とする。弟にとっては、
2L
兄の旅行は の時間を要する。
v
(1) 兄は O から B までの間および B から P までの間、
「弟の時計の指している時刻」の
時報は自分の時間の何倍と観測するか?
(2) 旅の始まりから旅の終わりまでに兄が受け取る弟の時報の数は、弟が発した時報の
数に等しいことを確認せよ。
(3) 兄から弟に向けて「兄の時計が指している時刻」の時報を発していたとする。この
時報の光の時空図を描け。
(4) 弟は兄(行きと帰り)の時報の時刻を自分の時間の何倍と観測するか。

ヒント → p2w へ 解答 → p8w へ

★【演習問題 7-2】
最初静止していた半径 R の円盤を角速度 ω で回転させた。回転が落ち着いて定常状態に
なったところを考える。

この円盤の上の、中心から距離 r の場所を A さんが一周する。A さんが一周する移動距


離を ℓ とすると、以下のどれが正しいか。理由をつけて答えよ。

(1) 円周は直径 × 円周率なんだから、 ℓ = 2πr に決まっている。


(2) 待て待て、円盤が運動しているから、円周方法は Lorentz 短縮するだろ。だから ℓ
は短くなって、 ℓ < 2πr になる。
(3) いやいやいやいや。外部から観測した円周が直径 × 円周率だけど、その外部の円周
は Lorentz 短縮した結果だ。ということは A さんの立場ではむしろ ℓ は長くなっ
て ℓ > 2πr になる。

解答 → p9 へ
第 8 章

相対論的力学

Lorentz 共変な力学を作ろう。

「 物 理 法 則 が す べ て の 慣 性 系 で 成 り 立 つ 」こ と が 相 対 性 原 理 で あ っ た 。
よって物理法則は Lorentz 共変でなくてはならない。Newton の運動方程式

⃗ =m
F はその意味で物理法則失格である。この方程式は 3 次元ベクトル
2

で書かれているうえに、観測する基準系によって変わる「座標時間 t による微
分」が使われている。4 次元的な意味ではまったく共変ではない。
以下で、Newton 力学を Lorentz 変換に対して共変になるように書き直す。こ
れによって、力学は新しいものに生まれ変わる。

8.1 Newton 力学を特殊相対論的に再構成する

ここまでの流れを整理しよう。

Galilei 変換 Lorentz 変換 実験的検証


Newton 力学 (非相対論的) ○ × 19 世紀まで ○
Hertz の方程式 (非相対論的) ○ × ×
Maxwell 方程式 (相対論的) × ○ ○
相対論的力学? × ○ ○
152 第 8 章 相対論的力学

相対性原理(絶対空間は存在しない)を一つの原理として考えてきた。そし
て、電磁気の基本法則である Maxwell 方程式が相対性原理を満たしていないよ
うに見える(Galilei 変換で不変でない)ことから、Maxwell 方程式を破棄する
か、Galilei 変換を破棄するかの二者択一を迫られることになった。Michelson-
Morley をはじめとする実験事実から、破棄されるべきなのは Galilei 変換であ
り、Lorentz 変換へと修正すべきであること、さらに時間と空間を別物と考える
のではなく、合わせて 4 次元の時空を考えて、その 4 次元を混ぜ合わせる変換と
して Lorentz 変換を捉えればよいことがわかった。
そこでもう一度元にもどって考える。そもそも相対性原理が考えられたのは、
Newton 力学は Galilei 変換で不変であったからである。しかし電磁気に対する
考察から Galilei 変換は Lorentz 変換へと修正されたのだから、今度は Newton
力学を Lorentz 変換で不変になるように作り直さなくてはいけない。
そこで、どのようにして相対論的力学を作るか? —まず
 Newton 力学の運動方程式 

= f⃗ (8.1)
 

⃗ は運動量で、 p
から考えよう。p ⃗=m である。Newton 力学では、ある時

刻 t において、物体の位置 ⃗
x(t) と運動量 p
⃗(t) を時間の関数として与え、時間がた
つにつれてこれらがどのように変化していくかを運動方程式を使って追い掛け
る。Newton 力学では時間が特別なパラメータとなっている。しかし、時間を特
別視していては、相対論的に不変な方程式にはならない。運動のパラメータと
しては座標時間 t を使うのではなく、固有時 τ を使うべきである。τ は「その物
体が静止している座標系で測った時間」という定義なので、物体を決めれば一意
的に決まり、Lorentz 変換しても変わらない。この後、以下の方針で相対論的力
†1
学を作っていこう 。

相対論的力学を作る方針

d d
(1) 座標時間による微分 は全て固有時微分 に置き換える。

†1
もちろん、こうやって作った相対論的力学が正しいかどうかは、実験結果と照らし合わせるという、審
査を受けるべきである。
8.2 4 元速度 153

 
⃗x
[A]
⃗  ⃗y
(2) 3 次元ベクトル A、列ベクトル表示では  [A]  で表されている量は
⃗z
[A]
 
A0
 A1 
 
4 元ベクトル Aµ 、列ベクトル表示では  2  に拡張する。
A 
A3
(3) 方程式の両辺は Lorentz 変換した時に同じように変換される (共変性を持つ)
ように作る。

固有時 τ と座標時 t の微分は物体が静止している時には等しい = の


で、このようにして作られた相対論的力学は、物体が静止している、あるいは
「物体の速度が光速 c に比べ十分小さい状況」では Newton 力学と似た(近似の
範囲で同じ)答を出す。それゆえ、Newton 力学は破棄されるわけではなく、相
†2
対論的力学の近似として生き残る 。

8.2 4 元速度

x = (x, y, z) が時空座標 {x } = (ct, x, y, z) に拡張されたので、速
空間座標 ⃗
   

度も = , , から {V } = c , , , に置き換え

e e
る。固有時 τ は Lorentz 変換で変化しないため、位置座標が x → x
µ µ µ ν
e = Λ νx

と Lorentz 変換されるとき、 V
µ
→ Ve µe = Λµeν V ν と Lorentz 変換される。す

なわち {V } は 4 元ベクトルであり、「4 元速度 (four-velocity)」と呼ばれる。

{V ∗} の自分自身との内積 ηµν V µ V ν は Lorentz スカラーであり、


 4 元速度の自乗 
 2  2  2  2 !
ηµν V Vµ ν
= + −c 2
+ + + = −c2
−時 +時

時間的速度の自乗 空間的速度の自乗 (8.2)


 

†2
というより、相対論的力学は近似として Newton 力学を含まねばならない。新しい理論は、古い理論
が説明していた物理現象も説明できるものでなくては意味がないからである。
154 第 8 章 相対論的力学

2
1
が成り立つ。固有時の定義(6.13)
2
= 2
− ( 2
+ 2
+ 2
) を−
→ p119 c2 c2
で割ると上の式が得られる。
µ ν 2
物理屋は面倒くさがり屋が多いので、ηµν V V を単に V のように書くこ
とも多い。あくまで省略形で、「単なる自乗」ではない。この省略形を使うと、
V 2 = −c2 である。
+時

4 元速度は常に時間的(自乗が −c2 になるベクトル)であって、4 元速度の自


+時
乗は一定値だ。3 次元的に見ると物体はそれぞれ固有の速さを持って運動して
いるように見えるが、4 次元的に見れば全て同じ速さで運動している、と考える
こともできる。(8.2) を見ると「空間的速度の自乗と時間的速度の自乗の差が一
→ p153

定」なので、空間的方向の速度が速くなると時間的方向の速度も速くならなくて
はいけない。
「時間方向の速度」というのは変な表現だが、ここで言う「速度」は「単位固有
時あたりの変化」であるから、「τ (固有時) が単位時間だけ変化する間に ct(c×
座標時) はどれだけ変化するか」を示す。動いているとこれが大きくなる。「小
さい τ の変化に対し、ct が大きく変化する」は、逆に言えば「ct が大きく変化し
ているのに τ があまり変化しない」ことである。「時間方向の速度が速くなる」
は、「運動物体の時間は遅れる」の別の表現である。

4 元速度の第 0 成分である c を 3 次元速度 ⃗


v= を使って表そう。

 2 2
(8.2) より、 − c2 + = − c2
→ p153

⃗v
 2  
− c2 − |⃗v |2 = − c2

d(ct) c
=q = cγ (8.3)
v |2
|⃗
1− c2
r
|⃗v |2
となって、ウラシマ効果の時間遅れの因子 の逆数である γ に c をか 1−
c2
けたものが出てくる (固有時 τ と座標時と光速の積 ct の変化の割合を計算して
µ µ
i µ
いる)。また、3 次元速度 v と 4 次元速度 V の関係は = となる
8.3 4 元加速度、4 元運動量と 4 元力 155

ことから、

V 0 = cγ, V i = [⃗v ]i γ (8.4)

となる。物体が静止している時、4 元速度は (c, 0, 0, 0) となる。そして、速度 v


µ †3
が c に近づくにつれて V は無限大へと発散する 。

8.3 4 元加速度、4 元運動量と 4 元力


8.3.1 4 元加速度
4 元速度をさらに固有時 τ で微分したものを「4 元加速度 (four-acceleration)」
µ µ
µ
と言う。式で書けば A = = 2
となる。4 元速度の空間成分は 3 次元

速度の γ 倍であった(参照→ (8.4))が、4 元加速度の空間成分は、3 次元の加速

度 ⃗a = の空間成分とはだいぶ違う形になる。実際、4 元速度の空間成分を

3 次元速度で書き直してから τ 微分すると、  
d  1 
q
v2
1− c2

 
d   d[⃗v ]i  − 12 2[⃗v ]j d[⃗v ]j 
Ai = [⃗v ]i γ = γ + [⃗v ]i    3 × 
v2 2 c2
1− c2

d[⃗v ]i [⃗v ]i [⃗v ]j d[⃗v ]j 3


= γ− γ (8.5)
c2
と、結構ややこしい式になる。
4 元加速度の性質として、4 元速度と(4 次元の意味で)直交する。なぜなら 4
元速度の自乗が一定であることから、
d
0= (ηµν V µ V ν )
(8.6)
µ
ν
0 = 2ηµν V

となるからである。後で、電磁力によって起こる運動がこの式を満たすことを
確認する。
→ p210

†3 µ
もちろん V が無限大ということは「無限の速度で動く」ことを意味するのではない。
156 第 8 章 相対論的力学

8.3.2 4 元運動量
4 元速度に質量 †4 をかけたものを「4 元運動量 (four-momentum)」と呼ぶ。
 
µ
P = mc ,m ,m ,m (8.7)

のようなベクトルで、3 次元の運動量

p
⃗=m ⃗ex + m ⃗ey + m ⃗ez (8.8)

の成分と、 省略形
 
µ 1 2 3
P = mcγ, γ[⃗
p] , γ[⃗
p] , γ[⃗
p] = (mcγ, γ⃗
p) (8.9)

のような関係にある。4 元運動量の第 0 成分の意味について考えたい。そこで、


そもそも Newton 力学において運動量やエネルギーがどのように導出されたも
のだったか思い出そう。「そんなことは知ってるから大丈夫」という人は次の補
足を飛ばしてよい。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
まず運動方程式

m 2
= f⃗ (8.10)

から出発する。この両辺を時間区間 [ti , tf ] で積分すると、


Z t
f
m −m = f⃗ (8.11)
ti
t=tf t=ti

という式が出る。これは「運動量の変化が力積である」という式である。
また、 と内積を取って積分すると、
Z ⃗
x Z xf

f
m 2
· = f⃗ ·

xi ⃗
xi
Z tf Z xf

m 2
· = f⃗ ·
ti ⃗
xi

†4
「質量」とは「静止質量」の
相対論では質量という言葉にいろんな定義があるのだが、本書に関しては、
ことである。他の質量の定義は後で述べるが、基本的な量は「静止質量」であり、これは Lorentz 変換に
→ p163
よって変化しない、Lorentz スカラーである。
8.3 4 元加速度、4 元運動量と 4 元力 157

Z tf
 2 Z xf

d 1
m = f⃗ ·
ti 2 ⃗
xi
2 2 Z xf

1 1
m − m = f⃗ · (8.12)
2 2 ⃗
xi
t=tf t=ti

xi は時刻 ti での粒子の位置(⃗
という式が出る。⃗ xf , tf も同様)である。エネルギーは
仕事 f⃗ · によって変化する量として定義されている。なお、上の式の微分形は
 2
1
d m = f⃗ · (8.13)
2

となる。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

µ
4 元運動量の微分 について考えてみる。4 元加速度と 4 元速度が直交する
µ  µ µ
d
という式(8.6) に m を掛ける。 m 2
= m = を使って、
→ p155

µ ν
ηµν =0 (8.14)

という式が出る。この式をさらに少し変形すると、

µ ν
ηµν =0 (8.15)

− 0
d(ct) + i i
=0
移項

i i 0
= d(ct) ( で割る)

i
i 0
=c (8.16)

i
i 0
となる。 と の 3 次元的内積が cP の変化量となる。Newton の運動方

程式と同じように、
i
[f⃗]i = (8.17)
158 第 8 章 相対論的力学

のようにして 3 次元の力を定義するならば、(8.16) はまさに


仕事 f⃗ ·
cP 0 の変化

[f⃗]i i
= c 0
(8.18)

という式になる。この式は
c
0
f⃗ · = 0
→ 0 =f仮0 0
− f⃗ · (8.19)

f仮0 とする

と書き直すこともできて、新しく定義した f仮 を合わせて (f仮 , f⃗) という量を考


0 0

えると、これが 4 元ベクトルであるかのように見えるかもしれない。しかし、こ
れら 4 成分の量がどのように Lorentz 変換されるかを考えると、4 元ベクトルに
はなっていないので注意しよう。後で出てくる 4 元力は 4 元ベクトルである。
(8.18) と(8.13)と見比べると、cP 0 がエネルギーと解釈できる。つまりエネル
→ p157

∂ ∂
ギーは「時間方向の運動量 ×c」なのだ。量子力学で p = −iℏ , E = iℏ の
∂x ∂t
ような対応なのは、エネルギーが時間方向の運動量だからであるとも言える。E
だけ符号が違うのも、もちろん ηµν が時間的成分のみマイナスであることが関
係がある。

4 元運動量の自乗は(8.2) により ηµν P µ P ν = m2 ηµν V µ V ν = −m2 c2 となっ


→ p153 +時

0 E
て定数であるから、 P = とおくと、
c
 2
E
−m2 c2 = − + |P i |2 (8.20)
c

という式が成立する。上の式から、運動量の大きさが増えるとエネルギーも増
加する(自乗の差が一定値なのだから)。
cP 0 がエネルギーと解釈されるべき量であることを、v が c より小さいという
近似で確認しよう。

1 1 3 v4
c P 0 =mc2 √ = mc2 + mv 2 + m 2 + · · · (8.21)
1−β 2 2 8 c
mcγ
1 3
1 + β2 + β4 + · · ·
2 8
8.3 4 元加速度、4 元運動量と 4 元力 159

2
となって、定数項 mc と v の 4 次以上の項を除けばなじみのある運動エネルギー
1
の式 mv 2 が出てくる。相対論で有名な公式 †5 である E = mc2 はこの式の
2
β = 0 にしたものである (特別な状況での式であることは忘れてはならない)。
2
この式は静止している物体も mc だけのエネルギーを持っていることを表し
ているが、通常の力学ではエネルギーの原点には意味がない。意味があるのは
0 2 2
「エネルギーの差」である。cP の最小値は mc なのだから、この mc は(この
一個の粒子の運動を考えている限りにおいては)取り出すことのできないエネ
2
ルギーになる。ここまで説明した範囲では、「静止エネルギー」mc の意味は、
2
単にエネルギーの原点のずれ(シフト)にすぎない。しかしこの mc がないと
P µ が 4 元ベクトルでなくなってしまうので、4 元運動量として意味があるため
2
には mc を消してしまうことはできない。
相対論的力学ではエネルギーと運動量は「4 元運動量の時間成分と空間成分」
という意味を持つため、(そういうつながりのなかった Newton 力学とは違っ
て)エネルギーの原点を勝手に選ぶことができなくなったわけである。
2
この時点では mc は、実用的な見地からは深い意味はない。しかし、複数の
物体が合体したり、あるいは逆に物体が分裂したりする現象を考えると、この式
†6
に含まれる深い意味が明らかになる。これについては後で話そう 。

8.3.3 4 元力

ここまでで定義した力 f⃗ = は、その定義に t 微分を使ったところからし

0
て(たとえ f仮 を定義して 4 成分の量にしたとしても)4 元ベクトルになってい
µ
ない。4 元ベクトルになる力 f を t 微分ではなく固有時 τ の微分を使って

†5
意味はわからなくてもこの式だけは知っている、という人も多いので、もしかすると、物理の公式の中
で一番有名かもしれない。
†6 2
いいかげんな特殊相対論の解説を読むと、この部分の説明だけで E = mc の説明が終わってしまっ

2
ていたりする。だが、 E = mc という式のほんとうのすごさは、後で説明する「どんなエネルギーも
質量と関係する」というところにあるのである。ここまでの話では、単に運動エネルギーの原点をずらし
ただけに過ぎないから、面白いところはまだ全然話してない。
160 第 8 章 相対論的力学

 4 元力 
µ
Fµ = (8.22)
 

を定義すると、3 次元力との間に F =
i
[f⃗]i = [f⃗]i γ (⃗u) という関係が成立す

1
る。ここで出てくる γ (⃗u) = q は考えている質点の 3 次元速度 ⃗
u に対
|⃗
u|2
1− c2

応する γ 因子であることに注意(Lorentz 変換における座標間の速度 ⃗


v とは別の
記号にした)。

µ
ν
F µ の第 0 成分の意味が気になるところだが、(8.14) ηµν = 0 から、
→ p157

0 0 i i
1⃗
= → F0 = f ·⃗
u γ (⃗u) (8.23)
c
F 0 cγ (⃗u) u]i γ (⃗u)
[f⃗]i γ (⃗u) [⃗
という量になっている。f⃗ · ⃗
u は単位時間に物体にされる仕事(仕事率)である。
F µ を「4 元力 (four-force)」または「Minkowski の力」と呼ぶ。4 元力は 4
元ベクトルであるから、その変換性は他の 4 元ベクトルと同様で、x 方向に速度
β で移動する座標系へ変換した時、
e e e e
Fe 0 = γ(F 0 − βF 1 ), Fe 1 = γ(F 1 − βF 0 ), Fe 2 = F 2 , Fe 3 = F 3
(8.24)

r  u 2
となる。 [f⃗] = 1−
i
F i (u は今考えている粒子の速さ)が成立してい
c
るので、f⃗ の方の変換も計算できる。ただしその時は、x 座標系と x
e 座標系では、
物体の速度 ⃗
u も速度の合成則に従って変換することに注意しよう。したがって
3 次元力 f⃗ の変換は 4 元力 F µ に比べると複雑なものになってしまう。

まずは一番簡単な場合である「{x
e } 系では物体が静止している場合」について
e∗} 系では 4 元力の空間成分と 3 次元力は
3 次元力の変換を考えよう。すると {x
e ⃗ ei
一致する( Fe = [fe] )し、第 e
i
0 成分は 0 である(この力は仕事をしていない)。

すると {x } 系では物体が速度 ⃗ u)を持つので、 F = [f⃗] γ が成り立
v(または ⃗ i i
8.3 4 元加速度、4 元運動量と 4 元力 161

つ。ゆえにこの場合、(8.24) の逆変換を考え (8.23) も使って、


e e
F0
e0 e Fe 1 F1 Fe 1 e
F   Fe 0 
1⃗ ⃗ ⃗ e
f · ⃗v γ =γ 0 + β [fe]1 , [f⃗]1 γ =γ [fe]1 + β 0 ,
c
e e
F2 Fe 2
F3 Fe 3

⃗ e ⃗ e
[f⃗]2 γ =[fe]2 , [f⃗]3 γ =[fe]3 (8.25)

となり、これから
⃗ e ⃗ e ⃗ e
[f⃗]1 = [fe]1 , [f⃗]2 γ = [fe]2 , [f⃗]3 γ = [fe]3 (8.26)

⃗ e
がわかる((8.25) の 1 個目の式は実は [f⃗] = [fe] と同じ式)。つまり(少し意
1 1

外に感じられるかもしれないが)運動系で観測すると、運動方向の 3 次元力は変
1 p
化しないが、それと垂直な方向の 3 次元力が = 1 − β 2 倍に弱くなる †7 。
γ

運動系で働く力

静止系で働く力

練習問題
e∗} 系で物体が ⃗
【問い 8-1】 {x u の速度を持っている場合の f⃗ と F µ の空間成分の
関係を求めよ。 ヒント → p315 へ 解答 → p325 へ

8.3.4 力の Lorentz 変換と Trouton-Noble の実験 B B B B 【補足】


ここまでで求めた 3 次元力の変換を使うと、3.5 節で説明した Trouton-Noble の実験で
→ p51

棒が回らない理由のざっくりとした説明ができる(3.5 節を飛ばした人は戻って読むこと)。
→ p51

ざっくりでない正確な説明が欲しい人は、9.6.2 項を待って欲しい。
→ p217

†7
結果として、(最初は不思議に思うだろうが)力の向きも変わる。
162 第 8 章 相対論的力学

なぜ「静止系では動かないのに運動系では回る」と考えてしまったかというと、静止系
では存在しない磁場からの力が運動系では存在するためであった。電荷に働く力は、静止
静電気力による引力 静電気力による引力

系では 運動系では となり、棒を反時計回りに回すトル

磁場による力

クが存在する(ように見える)。
棒の支える力

静電気力による引力

静止系において、 のように「棒が支える力 f⃗棒 」も存在していて、

静電気力とつりあうように働いていたはずである。これがないと二つの電荷は引き合って
くっついてしまう。運動系では、この棒の支える力 f⃗棒 は、(8.26) で説明したように
→ p161
静止系 運動系

運動方向に 運動方向に
垂直な成分 垂直な成分
(弱まった) と変化し、運動系では の
運動方向に 運動方向に
並行な成分 並行な成分

ような力となって棒を時計回りに回すトルクを作る。これが磁場による力によるトルクを
打ち消し、
「静止系でも運動系でも棒は回らない」という、もっともな結果を生む。ほんと
にうまく消し合うのか? —という不安は、電磁気学についてしっかり考えた後の9.6.2 項
→ p217

で解消されるだろう。

【FAQ】電場による力や磁場による力も Lorentz 変換しなくて大丈夫ですか?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Lorentz 変換をした結果が、「磁場が発生してトルクが発生する(ように見え
る)」なので、さらに電場や磁場による力に対して Lorentz 変換を行うと「すでに
行った操作をもう 1 回やってしまう」ことになる。Lorentz 変換によって電場・磁
場・力が全部変化するが、それらが「どの座標系でも物理法則が成り立つように変
化する」ところが肝要である。
 
電磁場からの力は f⃗ = q E⃗ + ⃗v × B
⃗ にしたがって発生する。力の変換則は、

左辺と右辺が同じ変換を受けてどの座標系でもこの式が成り立つことを保証して
いるのである。
8.4 質量の増大? 163

8.4 質量の増大?

よく相対論の本では「運動すると物体の質量が増大する」という意味のことが
書いてある。本書ではここまで一貫して質量 m を定数として扱ってきた。では
この m は増大するのか?
もちろん、しない。では「運動すると物体の質量が増大する」とはどういう
意味なのか。ここで「そもそも質量の定義とは何か?」に立ち戻る必要がある。
Newton 力学における質量は運動方程式
i i
fi = m 2
もしくは f =
i
(8.27)

によって規定されている。相対論的力学でも、力として f⃗ の方(4 元力 F では
µ

なく)を使えば、Newton の運動方程式と同じ形の、
µ
fµ = (8.28)

µ
であるが、運動量 P はこの場合 4 元運動量であって、3 次元運動量 p
⃗ とは少し
違う。具体的には
i
m[⃗v ]i
Pi = m = q  (8.29)
v 2
1− c

となるわけであるが、この運動量のどこまでを「質量」と考え、どこまでを「速
度」と考えるかには、

静止質量 3 次元速度
⃗v
mq r m
 = 1− v 2 ⃗
v 2
v (8.30)
1− c (c)
相対論的質量
4 元速度の空間成分

のような二つの流儀がある。どちらかと言うと単に「質量」という時には静止質
量 m、すなわち運動しているかいないかに関係なく同じ値をとるものを指す方
が普通である。
i
どちらの流儀で考えるにせよ、ある 3 次元的な力 f を 秒間加えた時に運
i
m[⃗v ] i i
動量の 3 次元成分 q  がf だけ増大するのは同じである。実際に P
v 2
1− c
164 第 8 章 相対論的力学

を時間で微分したとすると、
 
d d
i
d  m[⃗v ]i  m [⃗v ]i m[⃗v ]i [⃗v ]j [⃗v ]j
 
= r  2  = r  2 +    3 (8.31)
v2
c2 1 −
2
1− v
c2
1− v
c2 c2

となる。力 f⃗ の方向と加速度 v と加速


の方向は必ずしも一致しない。速度 ⃗

度 が直交している場合は第 2 項が消えるので非常に簡単になる。

磁場中を走る荷電粒子の場合、Lorentz
v×B
力 q⃗ ⃗ を受けて円運動するが、加速
†8

v2
度は速度と垂直(中心向き)に となる
r
ので、

m v2
qvB = q (8.32)
1− v2 r
c2

mv
と な っ て 、半 径 が r = q と な る 。非 相 対 論 的 な 計 算 で は 分 母 の
v2
qB 1− c2
r
v2
1− は表れない。実験によって支持されるのはもちろん相対論的な計算で
c2
あり、荷電粒子を磁場中で加速する装置(サイクロトロンなど)ではこのいわゆ
る「質量増大」の効果を考えて設計せねばならない。
逆に、運動方向と加速度が同じ方向を向いていると、また話が少し変わる。こ
i
i
の場合、v も も x 成分だけが零でないとすると、

1 m mv 2
=r  +    3
v2
v2
c2 1 −
2
1− c2 c2
 
v2
m 1− c2 mv 2 m
=    3 +    3 =    3 (8.33)
v2 v2 v2
1− c2 1 − 1−
2 2 2
c2 c2 c2

†8 ⃗ で表されるのが 3 次元力 f⃗ なのか 4 元力 F µ


ここでは説明しないが、q⃗ v×B の 3 次元成分なのかは、
電磁場を Lorentz 変換した時どうなるべきかから決まる。
8.4 質量の増大? 165

m
となり、この場合はむしろ質量が   3 に増えている。こちらを「縦質
v2
1−
2
c2
m
量」、さっきの q を「横質量」として区別する場合もある。縦質量の方
v2
1− c2
が横質量より大きいのは、横方向に押す場合は v の大きさは変化しない(つま
り運動量の分母は変化しない)が、縦方向に押すと v の大きさを変える(運動量
の分母も変える)のに余分な力が必要になるからである。このように、「質量が
増大する」という考え方は、「質量」と「速度」の両方が時間的に変化すると考
える分だけ、計算がかえって複雑になる場合もあり、あまり推奨されない。質
r
v2
量は常に m で一定だと考えて、運動量の式には分母に があるのだと 1−
c2
した方が簡便である。どちらの流儀でも、「特殊相対論では運動量が m⃗
v ではな
く m⃗
v γ になる」ことを把握しておけば問題はない。m の部分を「質量」と呼ぶ
か、mγ の部分を「質量」と呼ぶかは定義の問題である。ただし、上に述べたよ
うに mγ を「質量(または相対論的質量)」と呼ぶ流儀はかえってややこしくな
†9
ることも多いので、最近はあまり使われていない ので、使わないようにした方
がよさそうである。
µ µ
ここで、f が有限で時間経過も有限である限り、P は有限の値を取ることに
µ
注意しよう。速度を増やしていくと、 v = c となったところで P は無限大と
なる。ゆえに、有限の力で有限の時間加速している限り、光速に達することはな
い。このことは光速 c が物体が超えられない限界速度であることを示している。
例えば物体が一定の大きさ f で x 軸向きの 3 次元力を受けながら x 方向にの
み運動するとすれば運動方程式は
 
d  m[⃗v ]x 
f= q  (8.34)
vx 2
1− c

である。4 元速度で表現すれば

d
f= (mV x ) (8.35)

x
で、 t = 0 で V = 0 と初期条件を置けば、簡単に mV x = f t と解ける。

†9
「縦質量」「横質量」という言葉も最近は使わない。
166 第 8 章 相対論的力学

3 次元速度を使って解く場合、 [⃗v ]x = c sin α と置いて †10 、


 
d mc sin α
f= (8.36)
cos α

のように表す。両辺を時間で積分し、

f t = mc tan α (8.37)

π
となる。この結果でも、 t = ∞ でやっと α = v ]x = c となる。
すなわち [⃗
2

8.5 運動量・エネルギーの保存則

Newton 力学において運動量の保存則がどのように導かれたかを思い出そう。
質量 m(i) (i = 1, 2, · · · , N ) の N 個の
物体がそれぞれ p
⃗(i) の 運 動 量 を も ち 、
i 番目の物体から j 番目の物体へは力 1
2
f⃗(ij) が働くとすると、
3
(i)
X
= f⃗(ij) (8.38)
j̸=i

である(自分自身には力を及ぼさない
から、 i = j の場合は抜いている)。これを i で足し上げると、

X (i)
X
= f⃗(ij) (8.39)
i i,j
i̸=j

となる。

作用・反作用の法則により、 f⃗(ij) = −f⃗(ji) (i 番目が j 番目に及ぼす力は、j


X
番目が i 番目に及ぼす力と同じ大きさで逆向き)である。 の和を取る段階で
i,j

†10 x v ]x
[⃗
−c < [⃗
v ] < c という範囲なのだから、 = sin α と置いても問題ない。
c
π π
範囲 − <α< で考えることにすれば、この範囲では cos θ ≥ 0 である。
2 2
8.5 運動量・エネルギーの保存則 167

かならず f⃗(ij) と f⃗(ji) の両方の和が表れるので、この二つが消し合い、


!
X (i) d X
= p
⃗(i) =0 (8.40)
i i
X
となる。すなわち、運動量の和 ⃗(i) は保存する。
p
i
i
相対論的力学においても = [f⃗]i が成立しているので、f⃗ について作用・
i
反作用の法則が成立していれば、同様に P の和が保存する。
これは間違い

d X  d X 
ここで成立している式が P i = 0 ではなく Pi = 0 で

あること(τ 微分ではなく t 微分であること)に注意せよ。固有時 τ は粒子一個


一個について独立に定義されているものだから、複数の粒子の運動量の固有時
i
微分 を足すことには意味がない。

右の図は微小時間 の間に二つの粒子の運動量
がそれぞれ p ⃗(2) から p⃗ (1) , p⃗ (2) へと変化する
⃗(1) , p ′ ′

力を及ぼし
ときの時空図である。二つの粒子が相互作用して あっていた時間

いるのはそれぞれの固有時が (1) , (2) だけ変


化している間だとする。一般に (1) ̸= (2) で

ある( は両粒子に共通)。運動量保存則

p ⃗(2) = p⃗′(1) + p⃗′(2)


⃗(1) + p (8.41)

から言える式は、

p⃗′(1) − p
⃗(1) p⃗′(2) − p
⃗(2)
= (8.42)

これは間違い

p⃗′(1) − p
⃗(1) p⃗′(2) − p
⃗(2)
である。 = は成立しない。ゆえに、作用・反作用の法
(1) (2)

則が成立するのも、F に対してではなく f⃗ に対してである。


µ

特殊相対論では運動量とエネルギーは同じ 4 元運動量の空間成分と時間成分
という形にまとまっているので、運動量だけが保存してエネルギーが保存しな
168 第 8 章 相対論的力学

いとか、あるいはこの逆のことはあり得ない。違う座標系に移れば時間成分と空
e
間成分は入り交じる(例えば、 Pe = γ(P − βP ) というふうに)ので、全て
0 0 1

の座標系で運動量保存則が成立するためには、エネルギー(運動量の第 0 成分)
d X i 
も保存していてくれないと困る。よって、 P = 0 に連動するかのよ

d X  d X 
うに P 0 = 0 も成り立ち、まとめて P µ = 0 が成り立つ。

これは相対性原理からの帰結である。Newton 力学では「摩擦があるからエネ
ルギーが保存しない」という状況が許されたが、相対論的力学では摩擦によって
失われたエネルギーも勘定して保存する形になっていなくてはいけない。
上では作用・反作用の法則の成立を仮定したが、特殊相対論の場合にはこの仮
定にも注意が必要である。なぜなら、特殊相対論では空間的に離れた場所での
同時刻には意味がない。上の図では、離れた物体との間で力が「同時に」働いて
いるかのごとく書いているが、実際にはそんなことは起きない(そもそも、力も
光速より速く伝わるはずがない!)。したがって厳密には、作用・反作用の法則
を単純に適用してよいのは、物体と物体が接触して(同一時空点に存在して)力
クーロン
を及ぼす場合である。Coulomb力を「二つの電荷の押し合い(引き合い)」と考
える場合、作用反作用の法則が成立しているとは限らない。ただし、Coulomb
力を「電荷と、その場所の電磁場との相互作用による力」と考えるならば、作
用・反作用が成立するのだが、その場合は「電磁場の持つ運動量」や「電磁場の
伝える力(応力)」を計算してやらなくてはいけない。この計算は相対論的電磁
気学について考えた後でじっくりやろう。
→ p??

まずは物体が接触して衝突するという単純な問題の場合で相対論的な場合と
非相対論的な場合にどんな差があるかを確認しておこう。
静止している質量 m の物体に、同じ質量の物体が運動量 p
⃗(0) を持って衝突し
たとする。結果として二つの物体の運動量が p ⃗(2) になったとすると、
⃗(1) , p

p
⃗(0) = p
⃗(1) + p
⃗(2) (8.43)

という式が成立する(運動量保存)。
8.6 質量とエネルギーが等価なこと 169

この式は p
⃗(0) , p ⃗(2) が三角形を形作ることを示している。一方、非相対論
⃗(1) , p
的な計算では、エネルギーの保存則が

|⃗
p(0) |2 p(1) |2
|⃗ p(2) |2
|⃗
= + すなわち |⃗
p(0) |2 = |⃗
p(1) |2 + |⃗
p(2) |2 (8.44)
2m 2m 2m
ピタゴラス
となる。これから p
⃗(0) , p ⃗(2) で作った三角形がPythagorasの定理を満たす
⃗(1) , p
こと、すなわちこれが直角三角形となって、p
⃗(1) と p
⃗(2) が垂直であることがわ
かる。これはビリヤードの玉などでも確認できる現象である。
相対論的な計算では、エネルギー保存則は
q q q
p(0) |2 c2 + m2 c4 + mc2 =
|⃗ p(1) |2 c2 + m2 c4 +
|⃗ p(2) |2 c2 + m2 c4
|⃗
(8.45)
2
となる(止まっている粒子の分の mc を忘れないように)ので、もはや p
⃗1 と p
⃗2
は直角ではなくなる。細かい計算は省略するが、角度 θ は 90 度より小さくなる。
この現象は霧箱の中に β 線(電子)を入射させて、電子と衝突させるなどの実験
で実際に起こることが確認されており、相対論的力学が正しいことの証拠の一
つとなっている。

8.6 質量とエネルギーが等価なこと

8.6.1 非相対論的力学における「質量の保存則」

最初は質量 m(i) (i = 1, 2, · · · , M ) の物体がそれぞれ速度 ⃗


v(i) を持っていて、
なんらかの反応を起こした後、と質量 M(j) (j = 1, 2, · · · , N ) の物体がそれぞれ
⃗(j) を持って動く状態へと変化する現象を非相対論的に考えよう。このと
速度 V
き起こった反応(化学反応でもよいし、物体の間の相互作用力が働いたのでよ
い)により起こるエネルギー増加を ∆E とすると、運動量保存則
X X
m(i)⃗v(i) = ⃗(j)
M(j) V (8.46)
i j
170 第 8 章 相対論的力学

†11
と 、エネルギー保存則
1X 1X 2
m(i) |⃗v(i) |2 + ∆E = ⃗(j)
M(j) V (8.47)
2 i
2 j
反応により発生する

エネルギー増加

元のエネルギー
増加したエネルギー

v(i) → ⃗e
⃗ v (i) = ⃗v(i) − ⃗
u
が成り立つ。ここで Galilei 変換を行って、 と速度が
⃗
V(j) → V ⃗e (j) = V
⃗(j) − ⃗u
変化したとしよう。Galilei 変換の後でも保存則が成り立つためには、
X X  
m(i) (⃗v(i) − ⃗
u) = ⃗(j) − ⃗
M(j) V u (8.48)
i j
1X 1X 2
m(i) |⃗v(i) − ⃗
u|2 + ∆E = ⃗(j) − ⃗
M(j) V u (8.49)
2 (i) 2 j

が成り立たなくてはいけない。(8.48) の ⃗
u の 1 次を取り出すと、
X X
m(i) = M(j) (8.50)
i j

が結論される。つまりこの反応により質量が保存することが、運動量保存則が
Galilei 変換により壊れないことを保証している。
エネルギーの式 (8.49) も ⃗
u の次数で分解すると、
1X 1X 2
uの0次
⃗ m(i) |⃗v(i) |2 + ∆E = ⃗(j)
M(j) V → (8.47) (8.51)
2 i 2 j
X X
uの1次
⃗ m(i)⃗v(i) · ⃗
u= ⃗(j) · ⃗
M(j) V u →(8.46) (8.52)
→ p169
i j
1X 1X
uの2次
⃗ u |2 =
m(i) |⃗ u |2
M(j) |⃗ → (8.50) (8.53)
2 i
2 j

となる。Galilei 変換の不変性と質量の保存は密接に関連している。

8.6.2 相対論的力学における質量の変化と結合エネルギー

となれば、相対論的力学の文脈の中では「質量保存則」はどう変化するであろ
うか?
最初に注意しておくが、ここで言う「質量」—というか、本書で単に「質量」
と呼ぶ質量—は、静止質量である。
→ p163

†11
m(i) の i の和についてはEinsiten の規約を採用しない。線も引かない。
→ p29
8.6 質量とエネルギーが等価なこと 171

すなわち、エネルギー E 、運動量 p とし
た時、

E 2 − p 2 c 2 = m2 c 4 (8.54)

で定義されるところの質量(つまり速度
や座標系に依らずに定義される質量)で
2
ある。物体が静止している場合は p = 0 となって E = mc となる。エネル
p
ギーの負符号は許さない。許してしまうと E = − p2 c2 + m2 c4 は p が大き
くなることによっていくらでも (−∞ まで) 小さくなれる。「物体はエネルギー
の低い方に行きたがる」という原則からすると物体がみな E = −∞ へと落ち
†12
込んで具合いが悪い。エネルギーには底がないといけない(図参照) 。
すでに述べたように、エネルギーは「4 元運動量の時間成分 ×c」であり、物体
が静止している場合でも mc だけある。c が 3 × 10 m/s であるから、mc は
2 8 2

−3
非常に大きなエネルギーである。1 g(10 kg)の質量は、9 × 1013 J、すなわ
ち 90 兆ジュールのエネルギーに対応する)。
2
エネルギー mc が莫大だといっても、その事自体は驚くには当たらない。エ
†13
ネルギーを取り出すには、状態をエネルギーのより低い状態に「落とす」 こ
2
とによってその差をもらう必要があるが、このエネルギーは最小値が mc であ
るから、このエネルギーを取り出す方法がない。取り出せないエネルギーはい
くら大きくとも意味がない。質量を持った物体と質量を持った物体が反応して
その総質量を変える過程があれば、この質量の差が物理現象にエネルギーの差
として表れてくる。そこで以下で、その過程を相対論的に考えると(すなわち、
Lorentz 不変性を要求していくと)どんな結果が得られるかを考察しよう。
非相対論的な考え
v と −⃗v を持って正面衝突して
質量 m の二つの物体が逆向きの速度 ⃗
合体したとしよう。質量 2m の静止した物体が残る。

†12
「エネルギーや運動量は連続的に変化しなくてはいけない」という制約があれば、(グラフからもわか
るように)正のエネルギーを持った物体が負のエネルギー状態に変わることはなく、 E = −∞ へと落

ち込むことは避けられる。
†13
水力発電はまさに水を落とす。火力発電は、燃料となる物質を化学反応(例えば、炭化水素+酸素→二
酸化炭素+水)によりエネルギーの高い状態から低い状態へと変化させている(落としている)。原子力発
電だって同じ。
172 第 8 章 相対論的力学

と言いたいところだが、はたして正しいだろうか。
これらの物体の 4 元運動量を考えると、保存則の成立から

v γ (⃗v)) と (mcγ (⃗v), −m⃗v γ (⃗v))


衝突前:(mcγ (⃗v ), m⃗ (8.55)

であるから、

衝突後:(2mcγ (⃗v ), ⃗0) (8.56)

†14 1
となる 。 γ (⃗v ) = q は 1 より大きいから、衝突後の質量は 2m より
|⃗
v |2
1− c2

大きい。
こうなることが相対論的に考え
この人が見ると、
れば必然であることを確認しよう。
相対性原理により、同じ現象を、速
度 −⃗
v を持って運動している観測者
が見たとしても同じことが結論で
きねばならない。以下ではすべて
の運動を x 軸方向としよう。ここでは速度の合成則を使わねばならないので、x
軸負の向きに速さ v で動きながら x 軸正の向きに速さ v で進む物体を見た時の速
2v
度は、2v ではなく、 2 であることに注意せよ。この速度に対応する γ は、
1 + vc2

v2 v2 v2
1 1+ c2
1+ c2
1+ c2
v  2 = r  2 = q =
u 2 v4 1− v2
u v2
− 4v 2 1 − 2 vc2 + c2
u 2v 1+ c4
t1 −    c2 c2
v2
c 1+ c2

(8.57)

となることに注意して、二つの座標系で運動量とエネルギーを計算してみる。
もう一方はもちろん静止して見えるので、運動量
  2
 
v
mc 1 + c2 2mv
衝突前: v2
, 2 , 0, 0
 と (mc, 0, 0, 0) (8.58)
1− c2
1 − vc2

†14
v は⃗
「衝突後は止まっているから 2mγ (⃗v ) の ⃗ 0 なのでは?」と考えてはいけない。この式は衝突前の
エネルギー mcγ (⃗v ) を二つ足した和として出てきたものである(速度が ⃗ v だから出てきた式ではない)。
8.6 質量とエネルギーが等価なこと 173

を持っている。この二つの和を取って、
!
2mc 2mv
衝突後: v2
, 2 , 0, 0 (8.59)
1 − c2 1 − vc2
 
2m Mc Mv
q = M と書くと、  q ,q , 0, 0 (8.60)
v2 v2 v2
1− c2
1− c2
1− c2

という形になり、質量 M の粒子が速度 v で動いている時の式となる。


以上からわかることは、二つの粒子が合体するという過程で、エネルギー保存、
運動量保存を満足させたなら、必然的に質量は保存しないということである。
このことは以下のように考えることができる。
2 個の粒子のエネルギーを足す時、E は常に正である
から、純粋に足し算される。ところが運動量を足す時
は、この二つがベクトルであるため、運良く同じ方向
を向いていた場合以外は、単純な数の和に比べ和が「小
†15
さく」なる 。例えば (E(1) , p
⃗(1) ) というエネルギー、
運動量を持った粒子と (E(2) , p
⃗(2) ) というエネルギー、
運動量を持った粒子二つをひとまとめに考えると、全
エネルギーは E(1) + E(2) であり、全運動量は p ⃗(2) であって、この大きさ
⃗(1) + p
は |⃗
p(1) | + |⃗
p(2) | より大きくなることはない(たいてい、より小さい)。
ここで大事なのは、時間成分 E は常に正の量を足していくことになるが空間
成分 p
⃗ の方は正負がある量の足し算になることである。ゆえに時間成分は常に
増加するが空間成分は増加または減少する。つまり合体の結果、より「時間成
分の割合が多い」ベクトルができあがる。質量は m c = E − p c すなわち
2 4 2 2 2

(時間成分)2 − (空間成分)2 で決まるのだから、時間成分の割合が増すことは質


量を(単純な足し算より更に)増やす。
相対論的に考えれば、 p ⃗(2) = 0 となる座標系は必ずある。しかし、そ
⃗(1) + p
2
の座標系でも E(1) + E(2) はもちろん 0 ではなく、しかもこの大きさは m(1) c +
m(2) c2 より大きくなることがすぐにわかる。
Einstein 自身は 1905 年の論文で以下のようにして質量とエネルギーが等価で
あることを導いている。

†15
長さ 1 のベクトルと長さ 1 のベクトルを足すと、多くの場合 2 より短いベクトルになる。
174 第 8 章 相対論的力学

今、静止した、質量 M の物体が反対向 v
この人が見ると、
v
きに 2 個の光を出す。光のエネルギー
が一個あたり E だとすると、物体のエ E M
E M

v
ネルギーは 2E 減るはずである。しか
M? M?
し、逆向きに飛び出したから、物体の運
動量は変化せず、今も止まっているはずである。これを、物体が速度 V で動い
て見える座標系から見たとする。V の方向は光の飛び出した方向と同じだった
とする (註:Einstein は角度 θ の方向に飛び出すとして一般的に解いている)。光
はエネルギー E と運動量の大きさ p の間に E = pc の関係があるので、物体の
静止系ではエネルギー E で運動量 ±E/c である。運動している系では、これを
Lorentz 変換した量となる †16 。表にまとめると、
静止系 運動系
エネルギー 運動量 エネルギー 運動量
2 2
放射前 物体 Mc 0 Mc γ MV γ
光1 E E/c γ(E + V E/c) γ(E/c + V E/c2 )
光2 E −E/c γ(E − V E/c) γ(−E/c + V E/c2 )
放射後
物体 M? c2 0 M? c2 γ M? V γ
2 2
合計 M? c + 2E 0 (M? c + 2E)γ (M? + 2E/c2 )V γ
である。運動系において運動量の保存則が成り立つためには、放射後の物体の
質量が M? = M − 2E/c になっていなくてはいけない
2 †17

Einstein がこの式を導いた時、光のエネルギーと運動量が運動系でどのよう
になるのかは Lorentz 変換によってではなく、電磁気の法則から導いている。
Einstein はこの考察から、どんな形であれエネルギーが放射されるとその物体
2
の質量は E/c だけ減少するであろうと結論した。もし、そうならないとしたら
その現象は Lorentz 不変でないことになってしまって、相対論的考え方として
は非常に不都合なことになってしまう。
同様に、熱も質量に貢献する。熱が移動するとは、ミクロにみれば分子の運

  e e


 複号 + が光 1 P
0
=γ P
0 e
e + βP 1
e e
†16 e = E, P
0 e = ±E/c
1
として
P
   により Lorentz 変換。
 複号 − が光 2 P
1
=γ P
e
e + βP
1 e e
0

†17
ここでエネルギー保存則を出さなくても、運動量保存則だけで M? が決まることに注意。
8.6 質量とエネルギーが等価なこと 175

動エネルギーが増すことである。N 個の粒子からなる系があるとして、各粒子
µ
が 4 元速度 P(i) を持っている (i は粒子を区別する添字とする) とすると、全体と
X µ
しては P(i) の 4 元運動量を持つ。この N 個の粒子が箱に閉じ込められた気
i
X j
体だとして、箱の静止系で見れば運動量の和 P(i) = 0 となる(全体として
i
X 0
気体が動いてないのだから)。しかし P(i) はもちろん 0 ではなく、単なる静
i
X m(i) c
止エネルギーの和
0
m(i) c2 より大きくなる( P(i) = q に注意せよ)。
v2
i 1 − c(i)2

箱に入った気体のように、個々の構成粒子は運動しているが全体としては静止
している物体の質量は、内部エネルギーに対応する分大きくなる。
E = mc2 という式は原子力などでのみクローズアップされることが多いが、
もちろん原子力特有のものではなく、全てのエネルギーで成立すると考えられ
2
る。ここまでの話からわかるように、 E = mc は「エネルギー保存則はすべ
フレーム
ての基準系で成立すべし」という物理的要求から出てきた式なのだから、エネル
ギーの種類を区別したりはしないのである。
1
2
kx2
例えば伸び縮みしたばねは、自然長のバネより だけ質量が大きい。た
c2
1 2
だし日常的なレベルでは分子の kx が数百 J 程度なのに比べて分母にくる c2
2
が 299792458 m/s の自乗 という大きさのため、観測可能な差にはならない。

2
実は E = mc という式は、Einstein が作ったものでもなければ、相対論に
よって始めて導かれたものでもない。純粋に電磁気学的な計算から、電子のよ
うな荷電粒子を動かす時の抵抗(慣性に相当する)が、周りの電場のエネルギー
†18
の分だけ増えることが電磁気の法則から導かれていた 。簡単に言うと、電子
を動かそうとすると、周りの電場も変化させなくてはいけない(運動により磁
場も作られる)。電子を加速するためには、電磁場を変化させる作用の分だけ余
計な力が必要になる。これがあたかも「電子の周りの電磁場も質量を持ってい
る」かのように作用する。Poincaré や Lorentz の計算により、この質量は電磁

†18
電子の発見者でもある J.J. Thomson(トムソン)による 1881 年の論文でわかっていた。その計算
を現代的に行ったものが11.1 節にある。ちなみに電子の発見は 1889 年。
→ p256
176 第 8 章 相対論的力学

m
場のエネルギーに比例し、かつ q と同じ速度依存性を持つことも計算さ
v2
1− c2
れていたのである。動いている点電荷の周りの電磁場の持つ運動量については、
11.1 節で計算するが、その結果を見ても、「電磁場のエネルギーが質量を持つ」
→ p256
†19
ことが確認できる 。
もちろんこれだけでは、電磁的なエネルギーを起源とする質量以外に対して
も同じ式が成立するかどうかは、実験してみないとわからない。ただ、Lorentz
変換に対する不変性を考えると、そうであることがもっともらしい(相対論的に
は自然な結論である)と言えるのみである。Lorentz 変換という座標変換に対す
る不変性は、一般の物理現象に対して要求してよいほどに大事な原理であろう
と考えられる(例えば力学と電磁気学は Lorentz 変換で不変なのに、熱力学だけ
はそうではないことが考えられるだろうか??)。
4
実験は質量とエネルギーの等価性を支持している。例えばヘリウム 2 He(二つ
の陽子、二つの中性子、二つの電子からなる原子である)の質量は 4.0026032497u
(u は原子質量単位)であって、重水素(1 つの陽子、1 つの中性子、1 つの電子よ
りなる)の質量 2.01410177779u の 2 倍より少し軽い。構成要素は同じなのに、
組み合わせによって質量が変わっているのである。
12
そもそも原子質量単位( u または amu )は「 6 C の質量を 12u とする」と定
1
義されているが、水素 1 H の質量は 1.0078250319u である。すなわち、原子は構
成要素である陽子・中性子および電子の質量の和を取ったものよりも軽くなる。
これを質量欠損と呼び、原子が作られる時に、γ線などのさまざまな形でエネル
ギーが放出されることでエネルギー保存の意味で計算があっている。
Poincaré や Lorentz は相対論的見地を持って計算したわけではなかったのに、
この結果が出た。しかしそれは驚くにはあたらない。相対論はそもそも、電磁
気学(あるいは Maxwell 方程式)を尊重することによって生まれたものである。
だから Maxwell 方程式にしたがった計算を正しく実行すれば、相対論的にも正
しい結果が出るのは当然だ。特殊相対性理論が Maxwell 方程式によって記述さ
れる電磁気学を正しく発展させた結果生まれたものであることがこの事実から
もわかる。むしろ、相対論を持って電磁気学が完結すると言ってもよい。

†19
電磁場は「光子」という粒子で構成され、光子の質量は 0 である。しかし電磁場は質量を持てる。
すでに説明したように、粒子の集合体の質量は各々の粒子の質量の単純和より大きい。
→ p173
8.7 直角テコのパラドックス 177

8.7 直角テコのパラドックス

相対論的力学で有名なパラドックスがあるので紹介しておこう(先を急ぐ人
は飛ばしてもよい)。
パラドックスは以下のようなものであるが、この本のこの段階ではまだ完全には解
けない。

パラドックスと呼ばれるものはたいてい、どこかに間違いが含まれているも
のなので、以下の枠内を、疑いの眼を持って読んでほしい。

直角テコのパラドックス
図に示すような直角の角度のついた 点1

レバーをもった 支点を中心に回転で 手
きるテコがある。このテコの両端の部
分に、手で大きさ f の力を図のように

加える。静止系({x
e } 系)で、支点を

中心とした力の モーメントを考える 支点
点2
と、点 1 においては時計回りに f手 L、
点 2 においては反時計回りに f手 なの
で、トルクの和は f手 L − f手 L = 0 と
なって動かない。これは普通に起こりそうな現象である。
次に、同じ現象をこのテコが x 方向に速 点1

さ v で運動している座標系({x })で考え
てみる。この座標系では、x 方向のテコの 手
p
腕の長さは Lorentz 短縮して L 1 − β 2
になる。また、運動方向と垂直な力(場
p
所 2 に働く力)がやはり 1 − β 2 に弱ま
る。点 2 の方に関しては腕は短くなり力 手
支点

は弱くなり、どちらもトルクを小さくす 点2

る方向の変化である。図で見ても、この
テコのつりあいが破れて時計回りに回り
出しそうに感じるだろう。
つまり、このテコは静止系では回らないが、運動系では回りだす。
178 第 8 章 相対論的力学

あたりまえだが、見る人の視点によって「回るか回らないか」が変わるなんて
ことは有り得ない。どこがおかしいのだろう??

具体的に計算してみよう。静止系({x
e } 系)において点 1,2 に働く力を 4 元力
で表示すると、
e e e e
Fe(1)
0
=0, Fe(1)
1
=f手 , Fe(1)
2
=0, Fe(1)
3
=0
e e e e
(8.61)
Fe(2)
0
=0, Fe(2)
1
=0, Fe(2)
2
=f手 , Fe(2)
3
=0

である。今は力の作用点は静止しているので、4 元力の空間部分と 3 次元的な力



は一致する。運動系({x } 系)での 4 元力は((8.61) を逆 Lorentz 変換して)
0 1 2 3
F(1) =βγf手 , F(1) =γf手 , F(1) =0, F(1) =0
0 1 2 3
(8.62)
F(2) =0, F(2) =0, F(2) =f手 , F(2) =0

である。ここで力の作用点も速さ v で動いているから、上の 4 元力の空間成分


は、3 次元的な力の γ 倍である。逆に 3 次元的な力は上の 4 元力の空間成分を γ
で割ることにより、

[f⃗(1) ]1 =f手 , [f⃗(1) ]2 =0, [f⃗(1) ]3 =0 (8.63)


f p
[f⃗(2) ]1 =0, [f⃗(2) ]2 = 手 = f手 1 − β 2 , [f⃗(2) ]3 =0 (8.64)
γ

となる。以上で、前に示した「3 次元力は運動方向に並行な成分は変化せず、運
p
動方向に垂直な成分は 1 − β 2 倍になる」を確認したことになる。
また、レバーの長さは x 方向が伸縮する。ゆえにトルクは
点 2 の支点
点 2 に働く力 からの距離 点 1 の支点
点 1 に働く力 からの距離

p p
f手 1 − β2 × L 1 − β2 − f手 × L = −f手 Lβ 2 ̸= 0 (8.65)

(点 O で働く力はトルクに寄与しない)となって 0 ではない!
もちろん、ここまでの考えには、どこか間違いがある。
上の考えの間違いの一つは運動系におけるトルクの基準点である。静止系と
同様にテコの支点を基準点としてトルクを考えているが、運動系では支点は移
動する。トルクを定義する際の「基準点」は固定点でなくてはいけない。そこで
基準点を運動系において動かない点である「時刻 t = 0 に支点があった場所」

にする( t > 0 ではこの場所にテコの支点はない)。


8.7 直角テコのパラドックス 179

この場合、点 2 に対する「テコの腕の 点1
p
長さ」は L 1 − β 2 ではなく、 手
p
L 1 − β 2 + vt になる。さらに、基準
点がテコの支点でなくなったので、テ
コの支点で働く力もトルクを持つ。 手
に支点が
あった場所 支点
先の計算では支点が基準点としたの
点2

で考えなくてよかったのだが、手の力
f手 とつりあうような力 f支点 が支点に
は働いている(でないとテコは静止し
ない)。
図を描くと下のようになる。もちろん f手 = f支点 である(向きは逆だが大き
さは同じ)。支点にも力が必要なのは、静止系でも運動系でも同じであるが、運
p
動系では運動方向と垂直な成分については 1 − β 2 倍になる。

点1 点1

手 手
手 支点


支点 支点 手
点2 点2

支点 支点
支点
支点

図を見ながら運動系で働く力の持つトルクを計算すると
点 2 の基準点
点 2 に働く力 からの距離 支点に働く力 支点の基準点 点1に 点 1 の基準点
からの距離 働く力 からの距離

p p p
f手 1 − β 2 × (L 1 − β 2 + vt) − f支点 1 − β 2 × vt − f手 × L = −f手 Lβ 2
(8.66)
†20
となる。つまり、トルク自体は変わらない 。だが、基準点の違いは次の話に
は大きく効く。
もう一つの間違いは「トルクがある→回る」と考えたことである。
†20
偶力(同じ大きさで逆向きの力のペア)の作るトルクは基準点を変更しても変わらないのは、力学でよ
く知られていることである。
180 第 8 章 相対論的力学

実はこのとき、右の図のように、「−y 軸向きの運動量
軸 軸 軸
向 向 向
を持った物体が x 方向に速度 v で移動している」のであ き き き

の の
運 運 運
る。すると、回転はなくても角運動量は増える。トルク 動




N ⃗ の間には、 d L
⃗ と角運動量 L ⃗ =N
⃗ という関係式が
方向に移動していく。
あった。多くの場合、
「角運動量が増える」は「物体が回
転する」なのだが、右の図のような現象が起きれば確かに角運動量は増えるので
ある。
こう聞くと「え、−y 軸向きの運動量なら −y 軸向きに移動するんじゃないん
ですか?」と疑問に思う人がいるだろう。しかし、実は運動量の向きと「移動」
の方向は一致しない。後で、静的な(移動のない)状態に運動量がある電磁場の
→ p??

例を示す。
精密な計算は「エネルギー運動量テンソル」(あるいは「応力テンソル」)を
導入した後で行うが、ここでは応力テンソルの概念を使わずに −y 方向の運動量
→ p242

の概要を説明しよう。

の仕事をする
( テコの上下方向の腕だけを考えてみると、 点1
点 1 は x 軸向きの力 f手 を受けながら
速さ v で x 軸向き
支点は −x 軸向きの力 f手 を受けながら 手
(
点 1 は f手 v∆t の仕事
に移動するので、微小時間 ∆t の間に
支点は −f手 v∆t の仕事
をされる。仕事をされたらその分エネルギーが増えるはずだ
支点
が、このテコ自体にはエネルギーの増減がない。ということ 支点

は ∆t ごとに f手 v∆t のエネルギーが点 1 から流入し、支点か


支点
の仕事をする
ら流出している。エネルギーの流れがそこに存在する。
E = mc2 の関係がここでも成立するとすれば †21 、この棒の中には、∆t の
f手 v∆t
間に の質量が上から入って来て下から抜け出していることになる。
c2

†21 2
「 E = mc の関係がここでも成立するとすれば」と言われても、本当にそんなことしていいの? —
と怪しく思う人もいるかもしれない。その点は応力テンソルについて考えた後の10.4.2 項でもう一度確認
→ p249
しよう。
8.8 章末演習問題 181

このエネルギー(質量)は各場所に溜まることなく

の質量の流れ込み


流れ続けているので、左の図のように、
「点1から入っ
の質量の流れ
て棒を下に順に流れて、支点から同じ量だけ出る」と
いう動きをしていることになる。
これを単位体積あたりの質量 ρ の「物質」が速さ V
で流れてきた結果だと考えると流れ込む総質量は
∆t の間に隣に流れる体積
支点
e ∆t = f手 v∆t
ρSV (8.67)
c2

の質量の流れ出し
L e f vL
となる。両辺に を掛けると ρSLV = 手 2 とな
∆t c

e
e は棒のこの部分の体積だから、 ρSLV f手 vL
るが、SL = は棒のこの部分の持
c2
つ運動量の大きさである。流れは y 軸負の向きなので、棒のこの部分の持つ運
動量の y 成分は

⃗ ]y = − f手 vL
[P (8.68)
c2
となる。
さらに角運動量を計算する。運動量の存在場所は基準点(トルクの基準点と
同一地点)から vt 離れているので、角運動量を

⃗ z = [⃗x]x [P
[L] ⃗ ]x = − f手 v L vt = −f手 β 2 Lt
⃗ ]y − [⃗x]y [P (8.69)
c2
vt 0
だけ持っている(− が付くのは z 軸周りで左ねじ向き回転の角運動量だから)。
つまり、角運動量が時間に比例して増えている。角運動量の時間微分 −f手 β L
2

がテコに掛かるトルクである。
こうしてこのパラドックスは「確かにトルクが発生するが、それでいい。結果
としてどちらの立場でもテコは回転しない」という結論で解ける。後の10.4.2 項
→ p249

で、この計算を応力テンソルを使ったやり方で確認しよう。

8.8 章末演習問題
★【演習問題 8-1】
非相対論的な力学で等加速度運動というと、
182 第 8 章 相対論的力学

1 2
x(t) = x0 + v0 t + at (8.70)
2

となる。もしこんな運動をするロケットがあったとすると、ロケット内部の人は自分が
どんな加速度を持って運動していると考えるだろうか?(答えは「等加速度」では全く
ない!)
以下の手順で考えよ。

(1) 簡単のため、x0 = 0 としよう。t = 0 においてロケットは時空点 O((ct, x) が


(0, 0))にいて速度 v0 を持っている。微小時間後の t = ∆t にはロケットは時空点
1
P(c∆t, v0 ∆t + a(∆t)2 ) にいる。ロケットが t = ∆t において静止している座標
2
系では、時空点 O と時空点 P はどう表現できるか?
(2) ロケットが t = 0 において静止している座標系においては、ロケットが (0, 0) から
1
(c∆τ, A(∆τ )2 ) に移動しているように見えるとすれば、A こそがロケット内部
2
の人が感じる加速度となる。A を求めよ。

ヒント → p??w へ 解答 → p??w へ

★【演習問題 8-2】
「γ線などのエネルギーにより、真空から電子と陽電子が発生する」という現象を「対
発生」という。実際にはこの現象は

γ線の光子一個+もう一個の光子 → 電子+陽電子 (8.71)

という反応である(もう一個の光子は、周囲にある物質から提供される)。

γ線の光子一個 → 電子+陽電子 (8.72)

という反応は決して起こらないことを、4 元ベクトルの保存則から証明せよ。
(ヒントその 1:ここで光子は質量が 0 の粒子として扱えばよい)
(ヒントその 2:証明がやりやすい座標系を選んで証明しよう。ある座標系で起こらな
いことは、他の座標系でも起こらない)
ヒント → p2w へ 解答 → p9w へ

★【演習問題 8-3】
無重力の宇宙空間において、ロケットが噴射剤を後方に噴射することで加速していく過
程を、相対論的に考えてみる。ここではロケットと推進剤以外に 4 元運動量が逃げること
はないものとする。ここでは y, z 成分は常に 0 として考えていこう。
このロケットは静止状態なら推進剤を w の速さで噴射できるとする。ロケットがすでに
v の速度を持っているとすると、噴射された推進剤の速度(ロケットの進行方向を正とす
v−w
る)は V = であることに注意せよ。
1 − vw
c2
8.8 章末演習問題 183

ある時刻 微小量噴射を行った後

静止

推進剤をある程度消費

上の図に描いた微小変化において「ロケット+まだ噴射してない推進剤」の静止質量は
m → m+ と変化する(実際は減るので、 < 0 である)。このとき、噴射され
た推進剤の静止質量は − ではない(相対論には「静止質量の保存則」はない!)ので、
これに という記号を与えた(後で消去する)。
以上から、4 元運動量の第 0 成分と第 1 成分の保存則の式を作り、それを解いて積分す
ることで、
「ロケット+まだ噴射してない推進剤」の静止質量の変化からロケットの速度を
求める式を作れ。 ヒント → p2w へ 解答 → p9w へ

★【演習問題 8-4】
前問で噴射される推進剤の静止質量 と、「ロケット+まだ噴射してない推進剤」の
静止質量の変化 の関係を求めよ。 ヒント → p2w へ 解答 → p10w へ

★【演習問題 8-5】
前問の答で、推進剤の静止質量が噴射前と噴射後で違うことがわかった。核融合燃料を
使っているとすると、噴射前(反応前)と噴射後(反応後)で、約 1 %静止質量が減少する
ことが知られている。この場合で、燃料の噴射速度はどれくらいになるかを見積もれ。な
お、ここでの一連の計算はエネルギーや運動量に無駄がないという前提のもとで行われた
ものなので、この噴射速度は理論上最適の噴射速度となる(これより速く噴射することは
できない)。 解答 → p11 へ
第 9 章

電磁気学の 4 次元的な記述

いよいよ電磁場を相対論的に記述しよう。

9.1 電磁場の Lorentz 共変な表現

せっかく、電磁気学の基本方程式が不変になるように Lorentz 変換を定義し


たのに、電磁場そのものがどのように Lorentz 変換されるのか、まだ計算していな
かった。そこを今から実行する。

9.1.1 ポテンシャルを使って書いた Maxwell 方程式


⃗ と磁束密度
相対論的記述のためには、電場 E
†1 ⃗ を使うのは得策ではない。
B
⃗ や磁束密度 B
電場 E ⃗ は 3 次元のベクトルではあるが、4 元ベクトルではないか
ソース
らである。そこでまず、真空中の Maxwell 方程式(3.2)に 源 の項を加えた
→ p37

 源のある真空中の Maxwell 方程式 

⃗ ⃗
⃗ = 0,
div B ⃗ = − ∂B ,
rot E ⃗ = ρ,
div E ⃗ = 1 ∂ E + µ0⃗j
rot B
∂t ε0 2
c ∂t
(9.1)
 
を 4 元ベクトルポテンシャルを使った形に書き直していこう。これらの方程式
ソース
⃗ と磁束密度 B
を見ると、「場」である電場 E ⃗ が、電流密度 ⃗j と電荷密度 ρ を 源

†1 ⃗ であるが、本書では E-B 対応の立場を取って、磁束密度 B


⃗ を磁場の代表としておく。真
「磁場」は H
⃗ とH
空中であれば B ⃗ には本質的な違いはない。
9.1 電磁場の Lorentz 共変な表現 185

として作られていることがわかる。
⃗ は div B
磁束密度 B ⃗ = 0 を満たすので、
「div が 0 になる量は rot で書ける」

⃗ = rot A
という法則のおかげで B ⃗ のように「ベクトルポテンシャル」と呼ばれ
⃗ で書き表すことができる。電場の方はどうであろうか。静電気学では、
る量 A
⃗ = ⃗0 であった。「rot が 0 になるベクトルは、スカラーの grad で書け
rot E
、、、、、、、
る」という法則
†2 ⃗ = −grad V と書ける。V
もあるので、静電場であれば、 E
は電位、またはスカラーポテンシャルと呼ばれる。
静電気学を離れ、時間的に変化する電磁場を扱うとなると、この式は少し
⃗ は ⃗0 で は な く 、
修 正 さ れ る 。な ぜ な ら 、時 間 的 に 変 化 す る 電 磁 場 で は rot E

⃗ =−∂B
rot E ⃗ が成立するからである(この式は「磁場の時間変化により誘
∂t

導起電力が発生する」を意味する)。この式に B ⃗ を代入すると、
⃗ = rot A
 
⃗ = − ∂ rot A
rot E ⃗ 整理して、 rot E ⃗+ ∂A ⃗ =0 (9.2)
∂t ∂t

⃗+∂ ⃗
となる。ゆえにこの場合は E A が「なにかの grad 」の形に書ける。静的な
∂t

場合の式に合うように、その「なにか」を −V にすれば E ⃗+ ∂A ⃗ = −grad V


∂t
となる。こうして、

⃗ = rot A,
B ⃗ ⃗ = −grad V − ∂ A
E ⃗ (9.3)
∂t

と置くことで、Maxwell 方程式のうち、 div B ⃗ =−∂B


⃗ = 0 と rot E ⃗ は自動
∂t
的に満たされた。
⃗ = ρ
残りの Maxwell 方程式がどうなるかを確認しておこう。 div E は、
ε0

E
 
∂ ⃗ ρ
div −grad V − A =
∂t ε0 (9.4)
∂ ρ
−△V − div A ⃗=
∂t ε0
†2
実際は、この法則も、「div が 0 なら rot で書ける」の方も、適切な境界条件のもとでのみ成立する。
たいていの場合は条件は適切である。
186 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述


⃗ = 1 ∂ E + µ0⃗j は、
となり( div (grad V ) = △V を使った)、 rot B 2 c ∂t
 

⃗ = 1 ∂ −grad V − ∂ A
rot rot A ⃗ + µ0⃗j (9.5)
c2 ∂t ∂t

B

E
となる。

ここで rot (rot A) ⃗ − △A


⃗ = grad (div A) ⃗ という式を使うと、

  
⃗ − △A
grad (div A) ⃗= 1 ∂
−grad V − A
∂ ⃗
+ µ0⃗j
c 2 ∂t ∂t
    (9.6)
1 ∂2 ⃗ + 1 ∂V = µ0⃗j
−△ A ⃗ + grad div A
c2 ∂t2 c2 ∂t

が出る。ややこしい式に感じられるが、実は 4 次元的に書くと簡単な式になる。

【補足】 B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B
⃗ = 0 という条件を付けることができるの
後で理由は説明するが、実は常に div A
→ p226

で、これを使うことにして、さらに静電場・静磁場の場合を考えることにして時間微分
の項を無視することにすれば、上の二つの方程式は、

ρ
−△V = (9.7)
ε0
−△A
⃗ =µ0⃗j (9.8)
ポアッソン
という、Poisson方程式の形になる。これ
らの式はそれぞれ、「電荷によって作られ
るポテンシャルが静電ポテンシャル V で 電荷の回り のス カ ラ ーポテ ン シャ ル 電流の回り のベク ト ルポテン シャ ル

ある」「電流によって作られるポテンシャ
⃗ である」を表現している。上で求めた二つの Poisson 方
ルがベクトルポテンシャル A
程式は、上の図で表現されるように、電荷・電流がポテンシャルを作ることを意味して
いる。電流というベクトル量が作るポテンシャルはベクトルだ。
B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足終わり】

電荷 q が場所 ⃗
x に存在していると qV (⃗x) という位置エネルギーを持つ(V (⃗x)
はその場所のスカラーポテンシャルである)。
9.1 電磁場の Lorentz 共変な表現 187

同様に、強さ i の電流が場所 ⃗
x にある微小なベクトル
∆⃗x に沿って流れている †3 と、その場所のベクトルポテ
ンシャルを A ⃗ (⃗x) として、「−i∆⃗x · A
⃗ (⃗x)」という位置エネ
ルギーを持つ。
電荷も電流も離散的でなく連続に分布している場合の この部分の持つ
位置エネルギーが
位置エネルギーを、電荷密度 ρ と電流密度 ⃗j を使って表
すと、単位体積あたり ρV − ⃗j · A
⃗ となる。
位置エネルギーが下がる方向に力を受けるという原則からすると、(正電荷が
負電荷に引きつけられるように)同方向の電流は引きつけ合う。また、なるべく
なら電流とベクトルポテンシャルは同じ方向を向きたがる。電磁石と電磁石の
間に働く力なども、このエネルギーで説明することができる。源からポテンシャ
ルが作られる様子は同じなのに電荷は同種が反発するのに電流は同方向が引き
つけ合うという違いが出るのは、位置エネルギーの符号の違い(ρV と −⃗j · A
⃗の
符号の違い)から来ていると言える。

実はこのベクトルポテンシャル(3 成分)とスカラーポテンシャル(1 成分)


は、一つの 4 元ベクトルの空間成分と時間成分になる。そのことをこれから確認して
いこう。

9.1.2 ベクトル・ポテンシャルの 4 元ベクトル化

⃗ = [A]
ベクトル・ポテンシャルを A ⃗ ⃗ex + [A]
⃗ ⃗ey + [A]
x ⃗ ⃗ez と書くと、
y z

⃗ = [B]
磁束密度 B
x⃗ ⃗ey + [B]
⃗ ⃗ex + [B] ⃗ ⃗ez の各成分は
y z

[B] ⃗ z − ∂z [A]
⃗ x =∂y [A] ⃗ y, [B] ⃗ x − ∂x [A]
⃗ y =∂z [A] ⃗ z, ⃗ y − ∂y [A]
⃗ z =∂x [A]
[B] ⃗x
(9.9)

⃗ という 3 次元ベクトルに対応する 4 元ベ
である。既に述べたように磁束密度 B
→ p184
µ ⃗ という 3 次元
クトル(B ?)は存在しない。しかし、ベクトルポテンシャル A
µ µ
ベクトルに対応する 4 元ベクトルポテンシャル A は存在する。A の添字が
1, 2, 3 である成分には 3 次元ベクトルポテンシャルの x, y, z 成分が対応する。こ
こで対応の仕方に注意が必要である。これまで出てきた 4 元ベクトルの成分と
3 次元ベクトルの対応においては、座標は上付きの xµ の空間成分を x, y, z にし
†3
もちろん電流はそこで終わりではなく、その先も流れている。
188 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

∂ ∂ ∂
たし、微分は下付きの ∂µ の空間成分を , , にした。上付き(反変)と
∂x ∂y ∂z
µ
すべきか下付き(共変)とすべきかは座標の微小変化 が反変ベクトルであ

り、微分 が共変ベクトルであること(6.2.2 項を参照)から自然に決まっ
∂xµ → p122
µ
た。x , ∂µ については「自然な選択」があるのだがベクトルポテンシャルにつ
(
微小変化の例に合わせる
いては以下のごとく、 の 2 つの流儀がある。
微分の例に合わせる

 ⃗ の対応の二つの流儀
Aµ の空間成分と A 

⃗ の成分
Aµ の空間成分が A
⃗ x , A2 = [A]
A1 = [A] ⃗ y , A3 = [A]
⃗z (9.10)

⃗ の成分
Aµ の空間成分が A
⃗ x , A2 = [A]
A1 = [A] ⃗ y , A3 = [A]
⃗z (9.11)
 
この二つは、spacelike convention のときには差がない。
⃗ i を定義して、かつ timelike convention のときのみ、Ai は
(9.10) のように [A]
A1 = −[A]
⃗ x , A2 = −[A]
⃗ y , A3 = −[A]
⃗z (9.12)
µ
となる。よって、 + という記号を「timelike convention で、かつ A の空間成
µ −時A
⃗ としたときのみ −1、そうでない場合は +1 になる」として定義すると、
分を A
⃗ x , A2 = + [A]
A1 = + [µA] ⃗ y , A3 = + [A]⃗z (9.13)
−時A µ−時A µ−時A

†4
となる 。この記号を使うと、磁場を
⃗ x = + (∂2 A3 − ∂3 A2 ) ,
[B]
−時A
µ

⃗ y = + (∂3 A1 − ∂1 A3 ) ,
[B]
−時A
µ
⃗ = +
まとめると [B]
i
ϵijk ∂j [A]
−時Aµ
⃗k (9.14)
⃗ z = + (∂1 A2 − ∂2 A1 )
[B]
−時A
µ


∂A
⃗ = −grad V −
と書くことができる。電場の方は E であるが、4 次元的な
∂t
∂ ∂ ∂
式にするために =c = c 0 = c∂0 と直し、
∂t ∂(ct) ∂x

†4
この記号についても、他の本と照らし合わせるときに悩まないようにつけている。
9.1 電磁場の Lorentz 共変な表現 189

⃗ x = − ∂x V − c∂0 [A]
[E] ⃗ x = −∂1 V − c∂0 A1 ,
µ +時A
⃗ y = − ∂y V − c∂0 [A]
[E] ⃗ y = −∂2 V − c∂0 A2 , (9.15)
µ +時A
⃗ = − ∂z V − c∂0 [A]
[E] z ⃗ = −∂3 V − c∂0 A3 z
µ +時A

という式にする。両辺を c で割って、 V /c = − A
†5
µ
0 のように A0 を定義し 、
+時A

⃗ x /c = + ∂1 A0 − ∂0 A1 = + (∂1 A0 − ∂0 A1 ) ,
[E] µ −時A
µ µ +時A −時A
⃗ y /c = + ∂2 A0 − ∂0 A2 = + (∂2 A0 − ∂0 A2 ) ,
[E] (9.16)
µ −時A
µ µ +時A −時A
⃗ z /c = + ∂3 A0 − ∂0 A3 = + (∂3 A0 − ∂0 A3 )
[E] µ −時A
µ µ +時A −時A

とまとめる。ただし、この段階では、「A0 をこう選べば式がきれいにまとまる」
という意味しかない。 A0 = −A = − Vµ /c が本当に「4 元ベクトルの第 0 成
0
+時 +時A

分」であるかどうかはこの後で確認するので、それまでは「後で確認する仮定」
→ p195

として続きを読んで欲しい。
convention の違いによる符号の変化をまとめておくと以下の表のようになる。
convention Aµ Aµ 電場 磁場 + + +
−時 −時Aµ −時Aµ

spacelike ⃗
(−V /c, A) ⃗
(V /c, A) ⃗ x /c = ∂1 A0 − ∂0 A1
[E] ⃗ z = ∂1 A2 − ∂2 A1
[B] + + +

timelike
Aµ の空間成分が ⃗
A (V /c, −A)
⃗ ⃗
(V /c, A) ⃗ x /c = −∂1 A0 + ∂0 A1
[E] ⃗ z = −∂1 A2 + ∂2 A1
[B] − − +
timelike ⃗
(−V /c, A) (−V /c, −A)
⃗ ⃗ /c = ∂1 A0 − ∂0 A1
[E] x ⃗ = ∂1 A2 − ∂2 A1
[B]z
− + −
Aµ の空間成分が ⃗
A

表の最後にある + は、+ と + の積である(後で使う )。


µ −時Aµ −時 −時A → p236

以上から、
 電磁場テンソル 

Fµν = ∂µ Aν − ∂ν Aµ (9.17)
 
なる量を定義すると、
⃗ x/c = + F10 = − F01 ,
[E] ⃗ y/c = + F20 = − F02 ,
[E] ⃗ z/c = + F30 = − F03 ,
[E]
µ −時A µ +時A µ −時A µ +時A −時A
µ µ +時A
⃗ x = + F23 = − F32 ,
[B] ⃗ y = + F31 = − F13 ,
[B] ⃗ z = + F12 = − F21
[B]
µ −時Aµ +時A µ −時Aµ +時A µ−時A µ +時A

(9.18)
 
†5
まとめると、Aµ = +
−時Aµ
−V /c, A
⃗ と定義したことになる。 V = + A0 として、Ai の方も c 倍
− 時Aµ

する定義のしかたもあるが本書では使わない。
190 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

のように電場と磁場が一つのテンソル量の中に収まる。定義より Fνµ = −Fµν


すなわち、Fµν は反対称なので、

F00 = F11 = F22 = F33 = 0 (9.19)

であり、成分は 6 個しかない。電場 3 個と磁束密度 3 個がちょうどこの 6 個に


なっている。行列の形にまとめて書くと
   
F00 F01 F02 F03 0 −[E]
⃗ x /c −[E]
⃗ y /c −[E]
⃗ z /c
   
 F10 F11 F12 F13   [E]
⃗ x /c 0 ⃗ z
[B] ⃗ y 
−[B]
   
  =+   (9.20)
 F20 F21 F22 F23  − Aµ [E]
⃗ y /c −[B]
時 ⃗ z 0 ⃗ x
[B] 
   
F30 F31 F32 F33 ⃗ z /c
[E] ⃗ y
[B] −[B]
⃗ x 0

である。上付きの F は、
  
F 00 F 01 F 02 F 03 0 ⃗ x /c [E]
[E] ⃗ z /c 
⃗ y /c [E]
 10 11 12 13   
F F F F   −[E]
⃗ x /c 0 ⃗ z
[B] ⃗ y
−[B]
   
 20 21 22 23  = + µ  (9.21)
 F F F F  − A  −[E] ⃗ /c −[B]
y ⃗ z時
0 ⃗ x 
[B]
   
F 30 F 31 F 32 F 33 −[E]
⃗ z /c [B]
⃗ y −[B]
⃗ x 0

†6
になる 。
「テンソル量の中に収まる」と書いたが、Fµν がテンソルであることはまだ確
0 i µ
認してない。そうであるためには、A と A と合わせた A が 4 元ベクトルとな
らなくてはいけない。それは9.2 節で確認しよう。
→ p195

cρ = j , V /c = − Aµ 0 を使うとポテンシャル内の電荷と電流の持つ位置エネ
0
+時A

ルギーの式も ρV − ⃗j · A
⃗ = − j A0 − j Ai = − j Aµ とまとめられる
0 i µ †7 µ
µ µ µ
。j
+時A +時A +時A

が反変 4 元ベクトルで Aµ が共変 4 元ベクトルであるならば(実際そうであるこ


µ
とは後で確認するのだが)、j Aµ は Lorentz 不変である。

†6 01
時間座標の添字と空間座標の添字を 1 個ずつ上げると符号マイナスがつく(例 F = −F01 )が、
12
空間座標の添字を 2 個同時にあげたときは符号はつかない(例 F = F12 )ことに注意。これは
convention が spacelike か timelike かには依らない。
†7
位置エネルギーの式に convention によって変わる − がついていることにぎょっとする人もいるか
+ 時Aµ

もしれないが、Aµ の定義が convention によるので、それを吸収するためである。


9.1 電磁場の Lorentz 共変な表現 191

9.1.3 テンソルで書いた Maxwell 方程式

⃗ =0 は
Maxwell 方程式のうち、 div B

⃗ x + ∂y [B]
∂x [B] ⃗ y + ∂z [B]
⃗ z =0  
+ で割る

時Aµ

+ F23 + F31 + F12


−時Aµ −時Aµ −時Aµ

∂1 F23 + ∂2 F31 + ∂3 F12 =0 (9.22)

⃗ =− ∂ ⃗
と書けるし、 rot E B は両辺を c で割ってから x 成分を考えると、
∂t
   
⃗ y /c = − 1 ∂t [B]
⃗ z /c − ∂z [E]
∂y [E] ⃗ x  
c + で割る

+ F30 − F02 + F23


−時Aµ +時Aµ
∂0 −時Aµ

∂2 F30 + ∂3 F02 = − ∂0 F23 (9.23)

となり、(9.22) と似た形の

∂2 F30 + ∂3 F02 + ∂0 F23 = 0 (9.24)

†8
にすることができる。y, z 成分はこれらのサイクリック置換 で得られる。結
果は以下のようにまとまる。
 Maxwell 方程式の半分 

div B ⃗ =−∂B
⃗ = 0 と rot E ⃗ はテンソルを使うと
∂t

∂µ Fνρ + ∂ν Fρµ + ∂ρ Fµν = 0 (9.25)

とまとめられる。 Fµν = ∂µ Aν − ∂ν Aµ であるから、これは恒等式であ


る。この式は4 次元の Levi-Civita 記号ϵ を使うと
→ p311

ϵλµνρ
(1) ∂µ Fνρ = 0 (9.26)

と書くこともできる。
 

†8
xyz → zxy → yzx のような置換
192 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

(9.25) はいっけん、µ, ν, ρ の取り得る値が 4 × 4 × 4 で 64 本の式があるように


†9
見えるが、実は µ, ν, ρ について完全反対称 なので、µ, ν, ρ に 0,1,2,3 のうち、
三つの重ならない数字が入った式にのみ意味がある(それ以外の式は 0 = 0
である)。つまり、(9.25) は 4 本の式である((9.26) を見た方がわかりやすいか
も)。この式には幾何学的な意味がある(後で述べる)。
→ p222

⃗ = 1
残る式を考えよう。 div E ρ は、
ε0

⃗ x + ∂y [E]
⃗ y + ∂z [E]
⃗ z= 1  
∂x [E] ρ ×−
1
ε0 +時Aµ
c
− cF 10 − cF 20 − cF 30
+時Aµ +時Aµ +時Aµ

1
∂1 F 10
+ ∂2 F 20
+ ∂3 F 30 = − ρ= −µ 0 cρ (9.27)
+時Aµ cε0 + Aµ 時

2 1 00
となる(最後では c = を使った)。ここで、どうせ 0 である ∂0 F を足
ε0 µ 0
しておくと、

∂0 F 00 + ∂1 F 10 + ∂2 F 20 + ∂3 F 30 = ∂µ F µ0 = − µ
µ
0 cρ (9.28)
+時A
0

となる。
!

⃗ = 1
rot B
∂E
+ µ0⃗j の x 成分は
c2 ∂t

 
⃗ z − ∂z [B]
⃗ y= 1 ∂  ⃗ x
∂y [B] [E] + µ0 j x (9.29)
c2 ∂t
− F 21 + F 31 + cF 01
+時Aµ −時Aµ −時Aµ

であるから、 + で割ってから変形すると、
µ −時A

∂2 F 21 + ∂3 F 13 =∂0 F 01 + µµ0 j 1
移項 −時A

−∂0 F 01 −∂1 F 11 − ∂2 F 21 − ∂3 F 31 = + µµ0 j 1


−時A

†9
µ, ν, ρ のうち、どの二つを交換しても全体にマイナス符号がつく。これは簡単に確認できるので気に
なる人はやっておこう。
9.1 電磁場の Lorentz 共変な表現 193

∂µ F µ1 = − µµ0 j 1 (9.30)
+時A

0
になる。(9.28) と(9.30)および y, z 成分を同様に計算した式を見ると、 cρ = j
→ p193

とすることで以下のことがわかる。
 Maxwell 方程式の残り半分 
!

div E ⃗ = µ0 ε0 ∂ E + ⃗j
⃗ = 1 ρ と rot B はテンソルを使うと
ε0 ∂t

∂µ F µν = − µµ0 j ν (9.31)
+時A

0
とまとめられる。ただし、 j = cρ である。
 
なお、行列を使って表現するなら (9.31) は

0 ⃗ x /c [E]
[E] ⃗ z /c 
⃗ y /c [E]
 
   −[E]
⃗ x /c 0 ⃗ z
[B] ⃗ y
−[B]
 
∂0 ∂x ∂y ∂z + µ 
− A  ⃗ x 
 −[E] /c −[B]
時 ⃗ y ⃗ z 0 [B] 
−[E]
⃗ z /c [B]
⃗ y −[B]
⃗ x 0
 
1
=+ −∂i E i /c ⃗ x − ∂y [B]
∂0 [E] ⃗ z + ∂z [B]
⃗ y ∗ ∗
−時Aµ c
ρ y, z 成分省略
ε0 1
− ⃗ x − [rot B]
∂t [E] ⃗ x = −µ0 j x
c2
 
= − µµ 0 cρ j x j y j z (9.32)
+時A

と書くことができる。

9.1.4 双対テンソル B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 【補足】

Maxwell 方程式が、2 つのグループに分かれて表現されたが、次項で導入す


る「双対テンソル」を使うと、この二つを似た形で表現できる。このことに興味がな
い人はこの項は飛ばしてよい。

4 次元時空において、2 階反対称なテンソル Aµν に「双対 (dual)」なテンソルを


194 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

 2 階反対称テンソルの双対 

1 µναβ
∗Aµν = ϵ Aαβ (9.33)
2 (1)
 ホッジ

のように記号 ∗(「Hodgeスター演算子(Hodge star operator)」」と呼ぶ)を使っ
て定義する †10 。記号 ϵ(1)
µνρλ
は4 次元の Levi-Civita 記号である。
→ p311

Fµν の双対テンソルは、
 
0 ⃗ x
[B] ⃗ y
[B] ⃗ z
[B]
 
 
 −[B]
⃗ x 0 −[E]
⃗ z /c [E]
⃗ y /c 
∗F µν
−−→ + µ
− A
 (9.34)
行列
 −[B]
時 ⃗ y ⃗ z /c
[E] 0 ⃗ x /c 
−[E] 
表示
 
−[B]
⃗ z −[E]
⃗ y /c [E]
⃗ x /c 0

E/c
⃗ →B ⃗
のように書くことができる。つまり、 という電場と磁場を入れ替えると同
B⃗ → −E/c

時に片方の符号を反転させる操作である。
「双対」という操作は、二回やると(符号の違いを除いて)元に戻る。双対の双対を取る
ためには、まず Aαβ → ∗Aµν として上付き二階テンソルを作ったあと、下付き η∗∗ を

使って下付き二階テンソルにしてもう一度双対を取る。実際計算すると、

1 µναβ 1
∗∗Aµν = ϵ ηαρ ηβλ ϵρλτ σ
Aτ σ
2 (1) 2 (1)
1 1 µ ν 
= − ϵµναβ
(1)
ϵ(−1)
αβτ σ A
τσ
=− δ τ δ σ − δ µσ δ ντ Aτ σ = −Aµν (9.35)
4 2

である。
双対テンソルを使うと(9.25) を以下のように書くことができる。
→ p191

∂µ ∗F µν = 0 (9.36)

練習問題
「磁荷密度 ρ磁 」と「磁流 ⃗j磁 」があるとすると、
【問い 9-1】 実際には存在しないが、
Maxwell 方程式の半分が

†10
本書では使わないが、1 階のテンソルの双対は ∗Aµνα = ϵµναβ
(1) Aβ のように 3 階のテンソルにな

1 µναβ
る。同様に、3 階のテンソルの双対は ∗ Aµ = ϵ Aναβ のように、1 階のテンソルである。2 階
3! (1)
(−1)
で上付きのテンソルに対して ϵµνρλ を使って双対を定義する場合もある。
9.2 cρ が 4 元電流密度の第 0 成分であることの確認 195

⃗ =0
div B −→ ⃗ = ρ磁
div B (9.37)
⃗ ⃗
⃗ = − ∂B
rot E −→ ⃗ = − ∂ B − ⃗j磁
rot E (9.38)
∂t ∂t

と修正される。この修正後の方程式を、∗F µν と、磁荷密度と磁流密度をまとめた
 
4 元ベクトル j磁µ = cρ磁 , ⃗j磁 を使って書け。
ヒント → p315 へ 解答 → p325 へ

9.2 cρ が 4 元電流密度の第 0 成分であることの確認


9.2.1 cρ が Lorentz 変換を受けること

ここまで、Maxwell 方程式を Lorentz 共変な形で書くという作業を進めて


きたが、Fµν がその添字の示す通りのテンソルであるためには、j µ の第 0 成分が電

荷密度 ×c であるという関係が必要であった— cρ = j 0 とすることは正しいだろう

か? —以下で確認していく。

µ
電荷密度 ρ と電流密度 ⃗j を (cρ, ⃗j) と組み合わせ、4 元ベクトル j であると考
µ
えることができる。j を「4 元電流密度 (four-current)」と呼ぶ。4 元電流密
0 i
度の第 0 成分 j が cρ であり、空間成分 j が ⃗j の各成分となる。4 元ベクトルで
あるから、x 方向に速度 v = βc の Lorentz ブーストにより、

 4 元電流密度の Lorentz 変換 

e e e e
e
j 0 = γ(j 0 − βj 1 ), e
j 1 = γ(j 1 − βj 0 ), e
j2 = j2, e
j3 = j3 (9.39)
 
と変換されるべきである。要はこの変換性を持つことが納得できればよい。以
下でいくつかの方法でそれを示していくが、「長いな」と思った人は自分が納得
できる方法で納得したらさっと次へ進んでもよい。

【FAQ】電荷密度はスカラーなのでは?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
0
と、思う人が多い—そういう人は、 j = cρ が座標系によって違う値を取るこ

とにびっくり †11 するのだが、なぜ「密度」が Lorentz スカラー量にならないか


は、以下でじっくり説明する。実は電荷がスカラー(座標系に依らない量)であ
196 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

るためには、電荷密度がスカラーであってはいけないのである。「電荷」と「電荷
密度」は変換性が違うのだ。「スカラー」という言葉の定義を「ベクトルと違って
(3 次元的な)向きのない量」と捉えている(3 次元的感覚が残っている)と、こ
のあたりがピンと来ないかもしれない。
4 元運動量 P µ が「4 次元時空の中の運動」を表現するものであったこと、そし
て「3 次元的にはスカラー」であるエネルギーが 4 元運動量の 0 成分 P 0 を c 倍し
たものであったことを思い出そう。密度もそういう意味で「(4 次元時空内を流れ
る)4 元電流の 0 番目の成分」なのである。

9.2.2 運動する立方体の電荷密度

簡単な場合で(9.39)を確認しよう。{x
e} 系を電
→ p195

e, ye, ze の 3 方向にそれぞれ L の
荷の静止系とし、x
広がりを持った立方体の中に静止した電荷 Q が
まんべんなく分布しているとしよう。このとき、
Q ⃗
ρe = であり、 e
j = 0 である。
L3
e 軸負の向きに速さ v で動きながら見た
これを x
としよう。つまり、図の が見る物理現象を考

える。この座標系を {x } 系とする。この系におい
て、物体は x 軸正の向きに速さ v で運動している。
その状況が右の図である。立方体の
r x 方向の辺
v2
は Lorentz 短縮され長さが L 1− †12
になる 。
c2
†13
電気量 Q は座標変換で変わらない とすると、
この座標系での電荷密度は

Q ρe
ρ= q = q = ρeγ (9.40) 圧縮されて直方体になって
いるが、内部にある電荷量
v2 v2
L3 1− c2
1− c2
は変わらない

2 2
である。面積 L の中を単位時間あたり L v の体積が通過していくから、電荷密
2 2
度に L v を掛けてから単位面積あたりにするために L で割ると電流密度が

†12
この「短縮され」の意味も4.4 節で述べたように「2 本の世界線の距離」が短くなることである。
→ p78
†13
本当にこれが成り立つのかどうかは実験によって確認すべきことだが、もちろん正しい。
9.2 cρ が 4 元電流密度の第 0 成分であることの確認 197

Qv ρev
jx = q = q = ρevγ, j y = j z = 0 (9.41)
v2 v2
L3 1− c2
1− c2

となる。この式は e
j µe = (cρe, 0, 0, 0) から速度 v の Lorentz 変換の逆変換をした
µ
結果 j = (cρeγ, ρevγ, 0, 0) とぴったり一致する。
x 方向に圧縮されることにより電荷密度が増加することは、電荷が連続的に分
布しているのではなく離散的な荷電粒子の集まりと考えて、次のような図を描
いても理解できる。

電荷の静止系 電荷の運動系
は荷電粒子の世界線

←を動きながら見ると、→

静止または一様に等速運動している荷電粒子の集まりの世界線は上の図の破
線のように描くことができ、その世界線の 1 本 1 本に電荷が割り振られている。
1 本の世界線が担っている電荷の量は Lorentz 不変 †14 である。世界線と世界線
の x 方向の間隔がLorentz 短縮により圧縮されれば、結果として密度が上がる。
→ p78

9.2.3 1 個の荷電粒子と電流密度
次は別の角度から確認する。1 個の荷電粒子について「電荷密度」と「電流密
度」を考えて、それが正しく 4 元ベクトルとして Lorentz 変換されるかを見て
みよう。ここでいう「⃝⃝密度」とは「(適切な)積分を行うと⃝⃝になるもの」
という意味である。

†14
「電荷が座標変換で不変」ということだが、これが正しそうであることは納得できると思う(実験的に
確認されている)。
198 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述


まず 1 個の電荷があって {x
e } 系の原点に静止している(別の言い方をすれば、

電荷の静止系が {x
e } 系である)場合を考えよう。その場合の電荷/電流密度は
 原点に静止している電荷の電荷密度と電流密度 

e  
ρe({xe∗}) = Qδ 3 ⃗xe , ⃗j ({xe∗}) = ⃗0 (9.42)

 
3 e †15
ただし、 δ ⃗x = δ (xe)δ (ye)δ (ze) 。
 
のように書くことができる。

時 刻 te が 一 定 の あ る 空 間 領 域
†16

Z 原点に静止する
電荷の世界線
で ρe を積分するとその結果 ρe({xe∗})
領域

は領域内に電荷が
( この範囲で を
積分すると結果は
この範囲で を
積分すると結果は0

含まれていれば Q
になる。
含まれていなければ 0
cρ が 4 元電流密度の第 0 成分 j 0 で
あるという仮定に従うとどうなるか は省略

を計算していこう。
{x∗} 系では右の図のように電荷が運動してい
0
ることになる。(9.42) を、j が cρ であると考え
速度 で運動
て(9.39)の Lorentz 変換の逆変換である する電荷の世界線
→ p195

e
 e

j 0 =γ e
j 0 + βj 1
e
 e
 (y, z 方向は無視)を行えば、
j 1 =γ e
j 1 + βj 0
e e
e
j0 e
j0

ρ({x∗}) =γ Qδ (γ(x − vt))δ (y)δ (z), j 1 ({x∗}) = βγ cQ(γ(x − vt))δ (y)δ (z) (9.43)
e
x e
x

†15
本来電荷密度は ct, x, y, z の関数だが、ここで考えているのは電荷が静止したままの状態なので、
(9.42) の右辺は時間依存性を持っていない。
Z Z x2 Z y2 Z z2
†16
例えば、 = 。
領域 x1 y1 z1
9.2 cρ が 4 元電流密度の第 0 成分であることの確認 199

1 1
となるが、デルタ関数の性質 δ (ax) = δ (x) により、δ (γ(x − βct)) = δ (x − βct)
→ p305 の (B.34) |a| γ
のように γ を「外に出す」ことができる(γ は正なので絶対値は不要)。こうし
1
て、ρ や j についていた γ は打ち消され

ρ({x∗}) =Qδ (x − vt)δ (y)δ (z),


βc (9.44)
1 ∗ 2 ∗ 3 ∗
j ({x }) =Q v δ (x − vt)δ (y)δ (z), j ({x }) = j ({x }) = 0

†17
となる 。ここでは x 方向への Lorentz 変換を使ったが、任意の方向に対して
†18
も同様の計算ができる ので、速度が ⃗
v である場合、以下のように書ける。
 等速直線運動する電荷の電荷/電流密度 

ρ({x∗}) = Qδ 3 (⃗x − ⃗vt), ⃗j ({x∗}) = Q⃗v δ 3 (⃗x − ⃗vt) (9.45)

3
ここのデルタ関数は δ (⃗x − ⃗v t) = δ (x − [⃗v ]x t)δ (y − [⃗v ]y t)δ (z − [⃗v ]z t) である。
 
Z
†19
時刻 t を一定としたある領域で ρ を積分 ρ({x∗}) すると、結果は
領域
(
含まれていれば Q
領域内に電荷のいる場所(今の場合 ⃗
x = ⃗v t )が にな
含まれていなければ 0
†20
る。これは ρe と同じであり、どちらで考えても「総電荷量」は変わらない 。
Lorentz 変換により因子 γ が現れたのは、デルタ関数に現れる余計な因子を打ち
消すためだったと解釈できる。

練習問題
【問い 9-2】 (9.44) で表される電荷密度と電流密度を、(ct, x) 座標系から見て速
度 V で動いている座標系で見ると、どうなるか。 解答 → p325 へ

†17
相対論的計算の象徴である γ が消えてしまったことで「相対論的効果は入っているのか?」と心配にな
る人もいるかもしれないが、この式は Lorentz 変換を使って求めたものだから、これで相対論的なのだ。
デルタ関数の部分に相対論的計算の中身が入っている。逆に言えば、相対論的に計算したからこそ γ が消
えたのである。
†18
一般的方向の Lorentz 変換は、4.6 節で考えたように「第 1 段階: 回転」+「第 2 段階:x 方向への
→ p88
Lorentz 変換」+「第 3 段階: 回転」で表現できるので、それぞれの段階で考えればよい。第 2 段階での
み、γ が出てきて打ち消される。
†19
は という体積積分要素の略記。
†20
実際こうなって正しいのだが、そうなるべきかどうかは実験により定まる話である。
200 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

9.2.4 曲線運動をする電荷

ここまでは電荷が等速直線運動をしていると考えたが、一般的な速度が変化
†21
する運動に対しても同様に考えることができる 。

粒子が ⃗ ⃗ (t) で 表 さ れ る よ
x=X 時刻 での共動系

うな曲線運動をしているとしよう。
曲線運動でも、微小な時間を切り
出して考えれば等速直線運動とみ
なすことができる。右の図のよう 時刻 での共動系

に各時空点ごとに「その瞬間にお
フレーム
いて粒子が静止している基準系」を
考える。このような基準系は「共動
系 (comoving frame)」と呼ばれ
る。いわば「瞬間ごとの粒子の静止
系」である。
各時刻の共動系では(9.42)のよう
→ p198

な電荷/電流密度があるとして、そこから Lorentz 変換することで電荷密度と電


流密度を考える。(9.45)と同様の計算を各微小区間ごとに繰り返すことにより、
→ p199

   
ρ({x∗}) = Qδ 3 ⃗x − X j ({x∗}) = Q⃗v δ 3 ⃗x − X
⃗ (t) , ⃗ ⃗ (t) (9.46)

と書くことができるだろう。4 元電流密度の形でまとめると、

(t) 3  
µ
j µ ({x∗}) = Q δ ⃗x − X
⃗ (t) (9.47)

0
0 (t)
となる。ここで、 X (t) = ct としておく。よって = c である。

3
この式を見ると や 3 次元デルタ関数 δ (⃗x − ∗) が登場するのでローレンツ

共変に見えないかもしれない。しかしこの式は
†21
「特殊相対論では加速度運動を考えない」と思い込んでいる人がときどきいる。「座標系
余談であるが、
が加速度運動することはあまり考えない(慣性系ではなくなってしまうから)」という点が誤解されてい
るのかもしれないが、もちろんそんなことはない。慣性系の中で物体が加速度運動することは特殊相対論
の範疇で普通に考える。また、座標系が加速度運動している場合については、この節で行っているように
「微小な時間を切り出して等速直線運動として」という考えが有効である。
9.2 cρ が 4 元電流密度の第 0 成分であることの確認 201

 粒子の 4 元電流密度の共変な表現 
Z µ
µ ∗
(τ ) 4
j ({x }) = Qc δ ({x∗ − X ∗ (τ )}) (9.48)

x0 X 0 (τ )
 
4
ただし、 δ ({x − X∗ ∗
(τ )}) = δ (ct − cT (τ ))δ 3 ⃗x − X
⃗ (τ ) で、τ は軌跡 ⃗ ⃗ (t)
x=X

にそって時空を進行する粒子の固有時である。
 
のように書き直すことができる。(9.48)は ct に関するデルタ関数 δ (ct − cT (τ )) を
→ p201
†22
含んでいるが、これを τ で積分する。 ct = cT (τ ) を満たす τ を τ0 とする と、
デルタ関数の性質(B.33)を使って、
→ p303

1
δ (ct − cT (τ )) = (τ0 )
δ (τ − τ0 ) (9.49)
c

(τ )
と置き換えられることがわかる。 は常に正なので絶対値は不要である。

T (τ ) は粒子の固有時が τ のときの座標時間なのだから、粒子の軌跡に沿って
(τ )
考えているこの式の中では = としてよく、積分結果は

µ
(τ ) 1  
j µ ({x∗}) = Qc δ 3 ⃗x − X
⃗ (τ ) (9.50)
c
µ

となって(9.47)に一致する。
→ p200

9.2.5 複数個の荷電粒子と電流密度

電荷が 1 個ではなく N 個いて、「i 番目 i = 1, 2, · · · , N の粒子は電気量 Q(i)


⃗ (i) (t) にいる」 という状況では、4 元電流密度は
を持ち、時刻 t には場所 X
†23

†22
座標時間が増加すると固有時間も増加する(τ は t の一価関数)ので ct = cT (τ ) を満たす解は一つ

(τ0 )
しかない。 ct − cT (τ ) = (τ − τ0 ) + · · · と展開できる。

†23 ⃗ (i) (t) は単なる関数で力学変数ではないことに注意。なお、 X 0 (t) = ct である。


X (i)
202 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

X
N µ
(i) (t) 3  
j µ ({x∗}) = Q(i) δ ⃗x − X
⃗ (i) (t) (9.51)
i=1

µ
(i) (t) x y z
となる。以下、 の空間成分は [⃗
v(i) (t)] , [⃗v(i) (t)] , [⃗v(i) (t)] と書く。
(9.51) の空間成分が電流密度すなわち「単位時間に単位面積を通過していく
†24
正味の 電荷の量」であることを以下で説明する。
右の面積 S を時間 ∆t の間に電荷 Q(2) , Q(3) , Q(4)
が図のように通り抜けたとすると、この場所の電
Q(2) − Q(3) + Q(4)
流密度は である(Q(3) は逆向
S∆t
きに抜けていることに注意)。yz 平面上のある領
域に時間 ∆t の間に通過する電荷の量は
ZZ Z t+∆t
j x ({x∗}) (9.52)
領域 t

x
X
N
 
である。 j ({x∗}) = Q(i) [⃗v(i) ]x (t)δ 3 ⃗x − X
⃗ (i) (t) を代入して積分すると
i=1

積分が終わった時点で y, z のデルタ関数はなくなり、

X  
Q(i) [⃗v(i) ]x (t)δ x − [X
⃗ (i) (t)]x (9.53)
i= 世界線が領域に
交差する電荷

となる。
最後に t 積分をして、積分範囲 [t, t + この領域は 面内にある

∆t] の中で x − X(i) (t) = 0 になる場所


があると、積分結果は 0 ではなくなる。
デルタ関数を
  1
δ x − [X
⃗ (i) (t)]x = δ (t − T(i) )
|[⃗v(i) ]x | 軸方向

(9.54)

†24
ここで考えている「面積」には向きがある(表と裏を区別する)。面を正電荷が表から裏へと抜けたと
きには正の量とカウントするが、裏から表へと抜けたときは負の量とカウントする。また、抜けたのが正
電荷ではなく負電荷なら符号を反転させる。以上のように符号を考慮して和を取るときに「正味の量」と
いう言い方をする。
9.2 cρ が 4 元電流密度の第 0 成分であることの確認 203

†25
と変形して 積分すると結果は
X [⃗v(i) ]x X X
Q(i) = Q(i) − Q(i) (9.55)
時間内に
|[⃗v(i) ]x | 正の向きに 負の向きに
通過した電荷 通過した電荷 通過した電荷

(
[⃗v(i) ]x 正の向きに通過したとき +1
となる。 は粒子が になることに注意し
|[⃗v(i) ]x | 負の向きに通過したとき −1
よう。結果は、領域を正方向に通過した正味の電荷量である。
電荷のある場所について積分すると、電荷の総和が計算できる。二つの座標
 Z

 {x ∗
} 系の積分

 ρ(t, ⃗x)
 電荷の
ある場所
系のそれぞれで行った空間積分 Z は結果は同

  
{x
 e ∗
} 系の積分 ρ ⃗x
e
 電荷の
t,
ある場所

じになるが、4 次元的に見ると「違う時空点」の積分を行っていることに注意し
よう。次の図を参照せよ(灰色の領域が電荷が存在している部分である)。

積分はこの
線上で行う

電荷の 電荷の
ある場所 ある場所

違う時空点を積分しているのに結果が同じになるのはなぜかといえば、結果
としてどちらの積分も同じ電荷を数えているからに他ならない。数式の上では
 連続の式 

∂µ j µ ({x∗}) = 0 (9.56)
 

i
†25 x x (i) (t)
T(i) は x − [X
⃗ (i) (t)] = 0 が成り立つ時刻。 [⃗
v] (i) = である。
204 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

により保証される。
µ
ここで求めた 4 元電流密度 j ({x∗})(第 0 成分が cρ({x∗}) で空間成分が ⃗j ({x∗}))
が連続の式を満たすことは、具体的に計算しても確認できるし、この電流を構成
するそれぞれの電荷の世界線が決して途切れないことを考えれば理解できる。
連続の式の左辺は 4 次元的な divergence であ
†26
る 。4 次元の divergence が 0 だということは、
†27
右の図に描いた二つの領域 (
と )で

j0 +c ⃗j · (9.57)

という量の積分結果が一致することを意味する。別の言い方をすれば、二つの

経路の差である破線で描いた領域 の積分結果は連続の式が成り立つ

なら 0 である。

練習問題
【問い 9-3】 (9.45) の場合で、連続の式を確認せよ。
→ p199

d d
デルタ関数の微分の連鎖律 δ (ax) = a δ (x) (付録の(B.39)を参照)を
→ p306

使ってよい。 ヒント → p315 へ 解答 → p326 へ

9.2.6 電荷の連続の式

連続の式の意味をもう少し具体的に見ておく。(9.56)を以下のように書き
→ p203

直す。
 電荷の連続の式 

∂0 (cρ) + ∂i j i = 0 (9.58)
電荷の流れ出し
∂t ρ = 電荷密度の時間微分
 
†28
この式に を 掛けると、

†26 ⃗ = ∂i Ai = ∂x Ax + ∂y Ay + ∂z Az である。
3 次元の divergence は div A
†27
y, z を省略して 2 次元で描いているので「線」に見えるが、実際は 3 次元的広がりのある領域である。
†28 0
にしてもいいのだが、それだとすべて c 倍になる。
9.3 テンソルで書いた Maxwell 方程式 205

∂0 (cρ) + ∂1 j 1 + ··· = 0 (9.59)

となる。第 1 項の ∂0 (cρ) = ∂t ρ は

ρ(t + , x, y, z) = ρ(t, x, y, z) + ∂t ρ(t, x, y, z) を使うと


 
∂0 ρ 0
=ρ(t + , x, y, z) − ρ x0 , x, y, z (9.60)
時刻 t + での電気量 時刻 t での電気量

と書き直すことができて、「微小時間 の間に微小体積 内の電気量


がどれだけ変化したか」となる。同様に(9.58)の第 2 項は以下のようになる。
→ p204

∂1 j 1 = j 1 (t, x + , y, z) − j 1 (t, x, y, z)
右の壁から流れ出る電気量 左の壁から流れ込む電気量
(9.61)

式に記した「右の壁」「左の壁」の意味する (左の壁)⾯積 (右の壁)⾯積

ところは、右の図に示した面積 を持つ
1
二つの面である。電流密度 j を を掛け
ることで、ここを単位時間内に正の方向に抜
ける電気量を表すことになる。右の壁では「出
ていく電気量」、左の壁では「入ってくる電気
量」を計算していることになるので、この引き
算の結果は「左の壁と右の壁で出ていく電気量の総和」である。(9.58)では · · ·
→ p204

と省略した部分も含めると、第 2 項から第 4 項までが「体積 の箱から


出ていく電気量」を計算していることになる。
連続の式は「流れ出した分減り、流れ込んだ分増える」という当たり前のこと
の数式的表現なのである。ここではスカラーである「電荷」に関して連続の式を
考えたが、後で運動量のようなベクトル量に対する連続の式を考える。
→ p242

9.3 テンソルで書いた Maxwell 方程式

以上で、下の結果を得て、この式の右辺がローレンツ共変であることを確認
した。
206 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

 Fµν で書いた Maxwell 方程式 

∂µ F µν = − µµ0 j ν (9.62)
+時A
 
e ν
この式の右辺は 4 元ベクトルである。すなわち、 − µ 0j → −
ν µ
µ
µ
µ
0α ν j と
+時A +時A

いう Lorentz 変換を受ける。(9.62) がどの座標系でも成立するためには、左辺


も 4 元ベクトルでなくてはならない。左辺のうち ∂µ の部分が

∂µ → ∂eµe = αµeµ ∂µ (9.63)

のような Lorentz 変換をすることを我々は知っている。よって、

F µν → Fe µeνe = αµeρ ανeλ F ρλ (9.64)

のように Lorentz 変換されるとすれば、(9.62) の左辺は

∂µ F µν → ∂eµe Fe µeνe =αµeµ ∂µ αµeρ ανeν F ρν = ∂µ ανeν F µν (9.65)

µ e
µ
のように Lorentz 変換される(途中で αµe α ρ = δ µρ を使った)。
(9.64) は Fµν が二階の 4 元テンソルであることを意味する。この変換を行う
ことで、Maxwell 方程式は

∂µ F µν = − µ
µ
0j
ν
→ ∂eµe Fe µeνe = − µ
µ
eνe
0j
+時A +時A

 
ανeν (∂µ F µν ) =ανeν −µ
µ
0j
ν
(9.66)
+時A

と Lorentz 変換される。
 
e e
∂µ F µν = − µ
µ
0j
ν ν µν ν
が成り立てば α ν (∂µ F ) = α ν −µ
µ
0j
ν
が成り立
+時A +時A

つこと(およびこの逆)は明らかなので、Maxwell 方程式は Lorentz 変換で移り


µν
得るすべての座標系で成立する。と言うより、そうなるように「F の Lorentz
変換」が定められる。
この Maxwell 方程式の両辺に ∂ν を掛けて足し上げを行うと
µν 対称

∂µ ∂ν F µν = − µ
µ
0 ∂ν j
ν
(9.67)
+時A
µν 反対称
9.3 テンソルで書いた Maxwell 方程式 207

は µ ↔ ν の取り替えで反対称なのに対し、前にかかっている微
µν
となるが、F
分演算子 ∂µ ∂ν は µ ↔ ν で対称であるから、左辺は自動的に 0 である
†29
。ゆえ
ν
に、 ∂ν j = 0 でなくてはならない。これは前に説明した連続の式(9.56)であ
→ p203

り、電荷の保存則である(元々の Maxwell 方程式が電荷保存の式を内包してい


たから、4 次元化してもその点は同じ)。
このことは、テンソルで書いた Maxwell 方程式(9.62)は、4 本の式にみえるが
→ p206
µ
独立なのは 3 本であることを示している。A を使って書くと、
 4 元ポテンシャルで書いた Maxwell 方程式 

∂µ ∂ µ Aν − ∂ ν ∂µ Aµ = − µµ0 j ν (9.68)
+時A
 
となる。この式は

(∂ρ ∂ ρ η νµ − ∂ ν ∂µ ) Aµ = − µµ0 j ν (9.69)


+時A

と書き直すことができる。左辺の前についている微分演算子を

K νµ ≡ ∂ρ ∂ ρ η νµ − ∂ ν ∂µ (9.70)

と書こう。この微分演算子が、

K νµ ∂ µ = 0, ∂ν K νµ = 0 (9.71)

を満たすことに注意しよう。後で「ゲージ変換」
の話と絡んでくる。
→ p226

(9.68) の右辺が Lorentz 不変に対してベクトルだから、左辺もやはり Lorentz


変換に対して同じ形のベクトルでなくてはならない (そうでなかったら、電磁気
µ
学は相対論的に不変ではないことになってしまう!)。よって、A は 4 元ベクト

ルとして変換しなくてはいけない。 A = − Vµ /c と置く意義は、単に「そうす
0
+時A
0 µ
ると式がまとまるから」だけではなく、A が確かに 4 元ポテンシャル A の第
0 成分として変換されるからだと確認できた。
†29 12 21
µ, ν の足し上げを行っていくと、∂1 ∂2 F と ∂2 ∂ 1 F が一回ずつ現れるが、この二つは逆符号
12 21
∂ 1 ∂2 F = −∂2 ∂1 F なので消し合う、と考えてもよい。他の添字の組み合わせも同様である。ま

µµ
た、 µ = ν の項は F = 0 となって現れない。
208 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

逆に、(9.68) が 4 元ベクトルで表現されていることから、Maxwell 方程式が


相対論的に共変であることは自明であるとも言える。もちろん、自信を持って
こう言い切れるのは、実験による支持があるからである。

9.4 Lorentz 力の導出

電磁場から電荷にどんな力が働くかは、もちろん実験的に決定されることな
のだが、特殊相対性原理を使うと簡単な仮定だけから求めることができる(そし
て、その結果は実験的にも確認されている)。
特殊相対性原理によればどの座標系をとっても物理法則は同じ形を持つ。そ
の方程式は必然的にテンソルの形になっていなくてはいけない。力に関しては
4 次元的に考える時は 4 元力 F µ で考えなくてはいけない。そこで、電磁場によ
る力の式は 4 元力を用いて、

F µ =(なにか、4 元ベクトルになる式) (9.72)

と書けるはずである。この式の右辺には、まず電場および磁場を表す Fµν が入
るであろうことはすぐ予想できる。また、答を盗み見するようだが、結果とし
て磁場と電荷の間に働く力に電荷の速度が入ることを知っているので、4 元速度
V µ も式に入ってきそうである。となると、左辺と右辺で添字の付き方が揃って
いなくてはいけないことから、

F µ = (未知の定数) × F µν V ν (9.73)

という答が推測される。未知の定数を決定するために、たまたま今考えている
0
粒子が静止しているとする。その場合、 V = c, V i = 0 であるから、

F µ = (未知の定数) × F µ0 c (9.74)

となる
†30
。 F
0
0
⃗ i /c = + [E]
= 0 で、 F i0 = +Fi0 = + + [E] ⃗ i /c であること
−時 −時 −時Aµ −時Aµ

を考えると、

F i = + (未知の定数) × [E]
⃗ i (9.75)
−時Aµ

†30 µ µν
4 元力 F と電磁場テンソル F が同時に出てきてややこしいが、添字の数で区別しよう。
9.4 Lorentz 力の導出 209

となる。静電場における電場の定義式 f⃗ = q E
⃗ †31
から、 + (未知の定数) は今
−時Aµ

考えている電荷の電気量 q にすればよい。結論として、
 電荷の受ける 4 元力 

F µ = + qF µν V ν (9.76)
−時Aµ
 
と書ける。この式の µ = 1 成分を見てみると、
 
F 1 = + qF 1ν V ν = + q F 10 V 0 + F 11 V 1 + F 12 V 2 + F 13 V 3
−時Aµ −時Aµ
⃗ x /c
+ [E] 0 ⃗ z
+ [B] − [B]
⃗ y
−時Aµ −時Aµ +時Aµ

V0 V2 V3 !
⃗ x
[E]
=q ⃗ z [⃗v ]y γ − [B]
cγ + [B] ⃗ y [⃗v ]z γ ⃗ + ⃗v × B]
= qγ[E ⃗ x (9.77)
c

の 第 1 成 分 で あ る 。3 次 元 力 f⃗ と の 関 係 は
†32 µ
となる 。こ の 力 は 4 元 力 F
 
F i = [f⃗]i γ であるから、 [f⃗]x = q [E]
⃗ x + [⃗v × B]
⃗ x となる。第 2、第 3 成

分も同様なので
 
f⃗ = q E
⃗ + ⃗v × B
⃗ (9.78)

となり、この式は Lorentz 力の式そのものである。ゆえに、

(1) 特殊相対性原理。
(2) 電荷に働く 4 元力は F µν と V µ を使って作られた 4 元ベクトルになる。
(3) 電荷が止まっていればその力は q E ⃗ である。

という条件だけから、Lorentz 力の式を導出することができた。特殊相対性原理
が電磁気学の根幹を成す原理であると確認できる。
µ
4 元ベクトルの自乗に関して V µ Vµ = −c2 が成り立つから、 Vµ = 0
+時

でなくてはいけなかった(4 元速度と 4 元加速度は直交しなくてはいけなかっ


→ p155

†31 µ
電荷が静止している話なので、f⃗ と 4 元力 F の空間成分は同じと思っていい。
フレーム
†32
粒子が静止している場合の式を作り、動いているときは「粒子が動いているような基準系」に移って考
えればよい—というのが特殊相対性原理の主張するところなのだ。
210 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

た)。ここで考えた電磁場中の働く力を使って運動方程式を立てると、
µ
m = + qF µν V ν (9.79)
−時Aµ

となるわけだが、この式の両辺に Vµ をかけると、

µν 反対称
µ
m Vµ = + qF µν Vν Vµ = 0 (9.80)
−時Aµ

µν 対称

となって、4 元速度と 4 元加速度が直交するようにできている。

9.5 電場・磁場の Lorentz 変換

電場と磁場がどのように Lorentz 変換されるかを導く二つの方法について説


明する。以下の 9.5.1 項と9.5.2 項のどちらか好きな方で理解しよう。
→ p211

9.5.1 4 元ポテンシャルの変換から
4 元ベクトルポテンシャルは x 軸方向への Lorentz 変換に対し、
e e e e
e0 = γ(A0 − βA1 ),
A e1 = γ(A1 − βA0 ),
A e2 = A2 ,
A e3 = A3
A (9.81)

または(共変ベクトルで表すと)

ee = γ(A0 + βA1 ),
A ee = γ(A1 + βA0 ),
A ee = A2 ,
A ee = A3
A (9.82)
0 1 2 3

†33
のように変換される ので、電場や磁場の Lorentz 変換はこれから導くことが
できる。このとき、微分演算子(これも共変ベクトルである)の方も、

∂e0 = γ (∂0 + β∂x ) , ∂xe = γ (∂x + β∂0 ) , ∂ye = ∂y , ∂ze = ∂z (9.83)

と変換される(これらの式は微分の連鎖律で導ける。【問い 6-4】
を参照せよ)。
→ p136

∂ ∂ 1 ∂
ここで、∂X は の略記(特に、 ∂0 = = )である。
∂X ∂(ct) c ∂t

†33 0 i
(9.81) と (9.82) が同じ式であることは、 A = −A
+
0 , A = +A

i を使えばすぐ導ける。
時 時
9.5 電場・磁場の Lorentz 変換 211

以上を使うと、電場の x 成分は
 
⃗e xe ee − ∂e A
ee
[E] /c =+ ∂xe A 0 0 x (9.84)
−時

=+ γ ((∂x + β∂0 ) (A0 + βAx ) − (∂0 + β∂x ) (Ax + βA0 ))


2
(9.85)
−時

=+ γ (1 − β )(∂x A0 − ∂0 Ax ) = [E]
2 2 ⃗ x /c (9.86)
−時

となって変化しない。同様に、
 
⃗e ye ee − ∂e A
ee
[E] /c = + ∂yeA 0 0 y
−時

= + γ (∂y (A0 + βAx ) − (∂0 + β∂x ) Ay )  


−時
⃗ y /c − β[B]
= + γ (∂y A0 − ∂0 Ay + β (∂y Ax − ∂x Ay )) = γ [E] ⃗ z
−時
(9.87)

 
⃗e ze ee − ∂e A
ee
[E] /c = + ∂zeA 0 0 z

= + γ (∂z (A0 + βAx ) − (∂0 + β∂x ) Az )  


−時
= + γ (∂z A0 − ∂0 Az + β (∂z Ax − ∂x Az )) = γ [E]
⃗ z /c + β[B]
⃗ y
−時
(9.88)

となる。
まとめると以下の通り。
   
e xe /c = [E]
E e ye/c = γ [E]
⃗ x /c, E ⃗ y /c − β[B] e ze/c = γ [E]
⃗ z ,E ⃗ z /c + β[B]
⃗ y
(9.89)

磁場の方も同様に計算して、
   
Be xe = [B] e ye = γ [B]
⃗ x, B ⃗ y + β[E] e ze = γ [B]
⃗ z /c , B ⃗ z − β[E]
⃗ y /c (9.90)

という結果が出る。
なお、あえて「電場と磁場」の変換を求めたが、実際に計算するときはできる
限り 4 元ベクトルポテンシャルで計算した方が楽である。

9.5.2 電磁場テンソルを使う方法

せっかく電磁場を Fµν という 4 次元のテンソルでまとめたのだから、そちら


を使おう。テンソルの二つの下付き添字それぞれに対して Lorentz 変換の行列
212 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

を適用するので、計算すべきは
   
γ βγ 0 0 0 F01 F02 F03 γ βγ 0 0
 βγ γ 0 0  F10 0 F12 F13   βγ γ 0 0
    (9.91)
 0 0 1 0  F20 F21 0 F23  0 0 1 0
0 0 0 1 F30 F31 F32 0 0 0 0 1
 
A B
という行列計算だが、Lorentz 変換の行列を   のように 2 × 2 に区分け
C D
 
γ βγ
して考えると、 A =   、B と C は零行列 0 で D は単位行列である。
βγ γ

よって A A
   
γ βγ 0 F01 γ βγ
(9.92)
βγ γ F10 0 βγ γ

および
     
F20 F21 γ βγ γ βγ F02 F03
と (9.93)
F30 F31 βγ γ βγ γ F12 F13

を計算すればよい。
(9.92) は
   
2 1 β 0 −1 1 β
γ F10
β 1 1 0 β 1
   " #  
2 β −1 1 β 2 0 β2 − 1 0 F01
=γ F10 = γ F10 = (9.94)
1 −β β 1 1−β 2
0 F10 0

†34
となる。つまりこの部分は Lorentz 変換で不変である 。
(9.93) の一つめの式は
    
F20 F21 1 β F20 + βF21 F21 + βF20
γ =γ (9.95)
F30 F31 β 1 F30 + βF31 F31 + βF30

†34
実 は こ れ は 2 次 元 の 座 標 変 換 で 2 次 元 のLevi-Civitaテ ン ソ ル
→ p308
ϵµν が 不 変 テ ン ソ ル( 正 確 に は
不変テンソル密度)であることからただちにわかる。
→ p310
9.5 電場・磁場の Lorentz 変換 213

以上をまとめると、
   
γ βγ 0 0 0 F01 F02 F03 γ βγ 0 0
 βγ γ 0 0   F10 0 F12 F13   βγ γ 0 0 
   
 0 0 1 0  F20 F21 0 F23  0 0 1 0 
0 0 0 1 F30 F31 F32 0 0 0 0 1
 
0 F01 γ (F02 + βF12 ) γ (F03 + βF13 )
 F 0 γ (F12 + βγF02 ) γ (F13 + βF03 ) 
= 
10
 γ (F20 + βF21 ) γ (F21 + βF20 ) 0 F23 
γ (F30 + βF31 ) γ (F31 + βF30 ) F32 0
(9.96)

⃗ x /c と F23 = + [B]
である。 F10 = + [µE] ⃗ x は不変で、それ以外の nonzero 成
−時A µ −時A

分については
 
⃗e ye
Fee2e0 =γ (F20 + βF21 ) → [E] ⃗ y /c − β[B]
/c = γ [E] ⃗ z (9.97)
 
Fee3e0 =γ (F30 + βF31 ) → e ze/c = γ [E]
E ⃗ z /c + β[B]
⃗ y (9.98)
 
Fee1e2 =γ (F12 + βF02 ) → e ze = γ [B]
B ⃗ z − β[E]
⃗ y /c (9.99)
 
Fee1e3 =γ (F13 + βF03 ) → e ye = γ [B]
B ⃗ y + β[E]
⃗ z /c (9.100)

となる。この結果は(9.89)および(9.90)に一致する。少し整理すると、
→ p211 → p211

 電場と磁場の Lorentz 変換 

x 軸方向に速度 v で動く座標系への Lorentz 変換


   
⃗e xe ⃗ x ⃗e ye ⃗ y − v[B]
⃗ z ⃗e ze ⃗ z + v[B]
⃗ y
[E] =[E] [E] =γ [E] [E] =γ [E]
   
⃗e xe
[B] ⃗ x
=[B]
⃗e ye
[B] ⃗ y + v [E]
=γ [B] ⃗ z ⃗e ze
[B] ⃗ z − v [E]
=γ [B] ⃗ y
c2 c2
(9.101)
 
となる。電場は x 成分は変化せず、y, z 成分が γ 倍されている(圧縮されてい
る)と同時に磁場と速度の外積の項が現れる。磁場に関しても同様である。ベ
†35
クトルでまとめると、以下の式になる 。

†35
 
(9.102)で O β 2 を無視すると(つまり γ = 1 とすると)、近似式である(3.22)と(3.23)になる。
→ p214 → p53 → p53
214 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

 電場と磁場の Lorentz 変換(ベクトルで表現) 


 
⃗e 1 − γ
E = 2 (⃗v · E)⃗
⃗ v+γ E⃗ + ⃗v × B

v   (9.102)
⃗e 1 − γ ⃗ − 1 ⃗v × E
B = 2 (⃗v · B)⃗
⃗ v+γ B ⃗
v c2
 
⃗ を ⃗v に平行な部分 E
(9.102)はややこしい形をしているが、電場 E ⃗ ∥ と垂直な
→ p214

⃗ ⊥ に分けて E
E ⃗ =E
⃗∥ + E
⃗ ⊥ と表現(磁場も同様)すると以下のようになる。

 電場と磁場の Lorentz 変換(平行成分と垂直成分で表現) 


 
⃗e ⃗e
E ⃗
∥ = E∥ , E ⃗ v×B
⊥ =γ E⊥ + ⃗
⃗⊥ ,
  (9.103)
⃗e ⃗e 1
⊥ =γ B⊥ − 2 ⃗
v×E
B ⃗
∥ =B ∥ , B ⃗ ⃗⊥
c
 

練習問題
【問い 9-4】 (9.102) を(9.101)から導け †36 。 ヒント → p315 へ 解答 → p326 へ
→ p213

⃗ =E
【問い 9-5】 (9.102) に E ⃗∥ + E
⃗ ⊥ (磁場も同様)を代入して (9.103) を導

け。 解答 → p??へ

【問い 9-6】 (9.103) で v → −v と置き換えると逆変換になることを確認せよ。


解答 → p326 へ

結局電場も磁場も、座標系の運動方向と平
行な方向は変化せず、垂直な方向が変化する。
垂直な方向の電場や磁場が γ 倍になる(増え
る)のは、図のように電気力線(あるいは磁力
線)が Lorentz 短縮により圧縮される効果で
あると考えると理解しやすい。
電場に磁場が(逆に磁場に電場が)混ざるという現象が現れるが、これは電荷
が動けば電流となり磁場が発生することを考えると納得できる。
電場・磁場の Lorentz 変換の式は複雑であり、4 元ベクトルポテンシャルを

†36
ここでは ⃗
v が x 方向を向いている場合で考えたが、(9.102) は一般の速度方向で正しい。
9.6 静電場を Lorentz 変換する 215

使った式(9.82)の方が(Aµ が 4 元ベクトルとして変換するので)覚えやすく便
→ p210

⃗ B
利である。実は、電磁場を表す物理量としては E, ⃗ よりも Aµ の方が本質的な
のだと考えることができる。

9.6 静電場を Lorentz 変換する

9.6.1 点電荷の電場の Lorentz 変換



(静止系を {x
等速運動する電荷の作る電磁場は、 e } 座標系として)静止してい
る電荷の作る電磁場
e
⃗ = Q e
⃗ = ⃗0
E e ⃗exe + ye ⃗eye + ze ⃗eze) , B
(x (9.104)
4πε0 re3
を Lorentz 変換することで得られる。電磁場テンソルの行列表示で書くと
 
0 −xe −ye −ze
x 
Feµeνe −−→ + µ
Q e 0 0 0  (9.105)
行列 e)
− A 4πε c (r 3

 ye 0 0 0 
表示
0
ze 0 0 0

e → x の変換をするので
である。Lorentz 変換しよう。下付きで x

下付きの逆変換の行列の転置 下付きの逆変換の行列
   
γ −βγ 0 0 0 −xe −ye −ze γ −βγ 0 0
+ Qµ  −βγ γ
−時A
 0 0 

xe 0 0 0   −βγ γ
 0 0 

Fµν −−→ 3 0
e
行列 4πε c (r
0 ) 0 1 0  ye 0 0 0  0 0 1 0 
表示
0 0 0 1 ze 0 0 0 0 0 0 1
1
 
0 γ (β − 1)x
2 2
e −γ ye −γ ze
+ Qµ  1 
 2 
=
−時A
 γ (1 − β 2 )x
e 0 βγ ye βγ ze  (9.106)
3 
4πε0 c (re)  γ ye −βγ ye 0 0 
γ ze −βγ ze 0 0

となる。x, y, z を使って表すと
 
0 −γ(x − βct) −γy −γz
+ Qµ  γ(x − βct)
− A
 0 βγy βγz 
−−→

Fµν 3 
γy −βγy 0 0 
表示 4πε0 (γ (x − βct) + y + z )
行列 2 2 2 2 2
γz −βγz 0 0
(9.107)
216 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

⃗ = + F31 = −
y Qβγz ⃗ z = + F12 = Qβγy
で あ り 、 [B] , [B] がわか
µ −時A 4πε0 c (re)3 − Aµ

4πε0 c (re)3

る。これらを y-z 平面上の図示すると のようになる(紙面裏から

表へ向かう向きが x 軸)。(9.107) は、「x 軸方向に流れる電流(今の場合は正電


荷の移動)に対して右ねじの方向に磁場が生じる」現象を再現している。

【FAQ】無限に遠い遠方に磁場が生じているのはおかしくありませんか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この電荷が「最初止まっていて、ある時刻に動き出した」のであれば、無限に
遠い遠方までその情報が伝わっているのはもちろんおかしい。実は今計算したの
は「 t = −∞ から t = ∞ まで、等速直線運動を続けている電荷」の作る電場
と磁場なのだ。だからすでに無限の遠方まで磁場が届いていても不思議はない。
では電荷が加速しているとどうなるのか? —については??節 で考えよう。
→ p??

同じことを、4 元ポテンシャルで考えると、

+ Qµ
ee = + V /c =
A −時A ee = 0
, A (9.108)
0 µ −時A 4πε0 cre i

を Lorentz 変換して、

+ Qγ + Qγ
ee =
A0 =γ A −時A
µ
= p− A µ

, (9.109)
0
4πε0 cre 4πε0 c γ 2 (x − βct)2 + y 2 + z 2
− Qβγ − µQβγ
ee = + Aµ
A1 = − βγ A 時
= p + A 時
, (9.110)
0
4πε0 cr 4πε0 c γ 2 (x − βct)2 + y 2 + z 2
A2 =A3 = 0 (9.111)

となる。これから電場と磁場を求めると、上と同じ結果が出る。

練習問題
【問い 9-7】 上の 4 元ベクトルポテンシャルから電場と磁場を求める計算を具体
的に実行せよ。 解答 → p327 へ
9.6 静電場を Lorentz 変換する 217

9.6.2 Trouton-Noble の実験の計算 B B B B B B B B B B B B 【補足】


前項の結果を使ってTrouton-Nobleの実験で電荷に働く力を計算してみよう。正電荷は
→ p51
⃗x
e が (L cos θ, L sin θ, 0) にいるので、これの作る電磁場は(9.106)を平行移動することで、
→ p215

+ Q
−時Aµ
Fµν −−→ 3
行列
表示 e − L cos θ) + (ye − L sin θ)2 + ze2
4πε0 c (x 2 2

 
0 −xe + L cos θ −γ (ye − L sin θ) −γ ze
 x βγ (ye − L sin θ) βγ ze 
 e − L cos θ 0 
×  (9.112)
 γ (ye − L sin θ) −βγ (ye − L sin θ) 0 0 
γ ze −βγ ze 0 0

と求められる(負電荷の方も電磁場を作るが、それは「負電荷に働く力」に関係ない †37 の
で無視する)。負電荷のいる場所 (−L cos θ, −L sin θ, 0) での電磁場は
 
0 2L cos θ −γ (−2L sin θ) 0
+ Q  −2L cos θ
−時Aµ  0 βγ (−2L sin θ) 0 

3 × 
 γ (−2L sin θ) −βγ (−2L sin θ) 0 0

4πε0 (−2L cos θ)2 + (−2L sin θ)2 2
0 0 0 0
4L2
 
0 cos θ γ sin θ 0
+ Q  − cos θ −βγ sin θ 0
− 
時Aµ 0 
=   (9.113)
16πε0 L2  −γ sin θ βγ sin θ 0 0
0 0 0 0

すなわち、

⃗ = Q
E (cos θ⃗ex + γ sin θ⃗ey ) , (9.114)
16πε0 L2
⃗ = Q µ0 Q
B βγ sin θ⃗ez = vγ sin θ⃗ez (9.115)
16πε0 cL2 16πL2

となり、負電荷に働く力は

E ⃗
B
 
Q Q
f⃗ = − Q β (cos θ⃗ex + γ sin θ⃗ey ) + v⃗ex × βγ sin θ⃗ez
16πε0 L2 16πε0 cL2
 
Q2 v
=− (cos θ⃗
e x + γ sin θ⃗
e y ) − βγ sin θ⃗
e y
16πε0 L2 c
Q2 
=− cos θ⃗ex + (1 − β 2 )γ sin θ⃗ey (9.116)
16πε0 L2
p
1 − β2

†37
電荷は自分で自分を引っ張る(または押す)ことはできない。なお、真面目に計算すると分母が 0 に
なって困るが、それは点電荷を考えたときの宿命である。
218 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

Q2
となる。このうち磁場から働く力は β 2 γ sin θ で、【問い 3-3】の答えである(定
16πε0 L2 → p52

Q2 v 2
数)× に一致している。
ε 0 c2 L 2
Q2
静止している( β = 0 )場合に働く力 − (cos θ⃗ex + sin θ⃗ey ) と比較すると、
16πε0 L2
p
力の運動方向成分は変化せず、運動に垂直な成分は 1 − β 2 倍に小さくなっている(力の
変換則が再現されている)。実際に電荷に働いている力は、上で計算した電磁場による力

f⃗電磁 と、支えている棒の力 f⃗棒 である。この二つは f⃗電磁 + f⃗棒 = ⃗0 となってつりあって

いる。f⃗棒 も力の変換則にしたがって変換されれば †38 、どの座標系でも f⃗電磁 + f⃗棒 = ⃗0

が成立し、つりあいはどの場所でも保たれる。

よって、
「電磁場による力が力の変換則に従う」ことが確認できたことで「どの座標系で

もこの棒は回らない」と結論できる。

9.7 静磁場を Lorentz 変換する

9.7.1 直線電流の Lorentz 変換

前項では「静止している電場を動きながら見ると 電

自 の
どうなるか」という問題を考えたが、逆に「静止し 由 流
電 れ
子 る
ている磁場を動きながら見るとどうなるか」を考え の



てみよう。そのため、静磁場のできる例として定常 動


電流を考える。
を {x
e} 座標系と
†39
定常電流が流れる導線の静止系
e 軸方向を向いた半径 R の円柱状の導線(静
する。x
†40
止している)に電流 I が一様に流れている 状況を
考える。通常とはちょっと違う y-z 平面に極座標を
取った円筒座標

x = x, y = r cos ϕ, z = r sin ϕ (9.117)


†38
結局、f⃗電磁 も f⃗棒 も静止系と運動系では向きと大きさが違うのだが、それが連動して変わるので「足し
て⃗0」という関係は保たれる。
†39
「導線の静止系」であって「電荷の静止系」ではないことに注意。電流が流れているので止まっている
導線の中で電荷(多くの場合は自由電子)は動いている。自由電子の運動は電流とは逆向き。
†40
こういう場合、z 方向に電流を流すことが多いのだが、Lorentz 変換の方向を x 方向にするので電流
の方向もそちらに合わせる。
9.7 静磁場を Lorentz 変換する 219

†41
を採用しよう 。e 付き座標系も同様であるが、y, z および r, ϕ については e 付
きと無しで差がない。
電流密度は


r ≤ R の領域: ⃗e I
j= ⃗exe
πR2

r > R の領域: ⃗e
j = ⃗0
⃗e I
まとめて j= θ(r − R) ⃗exe (9.118)
πR2
†42
であり(θ (x) は階段関数)、電荷密度 ρe はどの場所でも 0 である 。このときの
→ p303

磁場は(Maxwell 方程式より)


 ⃗e µ0 I µ0 I
r ≤ R の領域: B = 2
r ⃗eϕ = 2
(−z⃗ey + y⃗ez )
2πR 2πR (9.119)

 ⃗e µ0 I µ0 I
r > R の領域: B = ⃗eϕ = (−z⃗ey + y⃗ez )
2πr2 2πr

−z⃗ey + y⃗ez
である。ただし、 ⃗eϕ = p は ϕ 方向を向いた単位
y2 + z2
r
ベクトルである(右図参照。通常の円筒座標とは x, y, z と
r, ϕ, z の対応が違うことに注意)。
{x∗} 系における電荷密度と電流密度は逆 Lorentz 変換を使って計算でき、
  I
cρ =γ cρe + βe
j xe = βγ θ(r − R) (9.120)
πR2
  I
j x =γ e
j xe + βcρe = γθ(r − R) (9.121)
πR2
フレーム

である。つまり導線は {x } 系で見ると正に帯電する(「基準系が違うと帯電する
なんて、そんな馬鹿な!」と思った人は、次の9.7.2 項の種明かしをお楽しみに)。
→ p220

電場は(9.101)の逆(x → x e → x)の変換を適用して、
e ではなく x
→ p213

⃗e xe ⃗ x=0
[E] =[E] (9.122)
†41
この円筒座標の半径座標は r とした。よくやるように ρ にすると電荷密度とかぶる。
†42
この「電荷密度は 0」は実は、正電荷が電荷密度 ρ、負電荷が電荷密度 −ρ を持って分布して全体とし
て 0 という意味である。金属を使った導線の場合、正電荷は金属イオンで負電荷が自由電子、そして自由
電子の方の運動が電流となる。
220 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述


 µ0 I
  
vγ
(r > R) y
2πr 2
⃗e ye
⃗ y =γ [E] ⃗e ze
[E] + v[B] = (9.123)


vγ µ0 I y (r ≤ R)
2
 2πR
 µ0 I
  vγ z (r > R)
⃗e ze ⃗e ye 2πr 2
[E] =γ [E] − v[B] =
⃗ z
(9.124)


vγ µ0 I z (r ≤ R)
 2πR2
 µ I

vγ
0
(y⃗ey + z⃗ez ) (r > R)
⃗ 2πr 2
まとめて E = (9.125)


vγ µ0 I (y⃗ey + z⃗ez ) (r ≤ R)
2πR2

となる。この電場は x 軸から離れる向き(⃗er の向き)で、強さが導線の外では


µ0 I µ0 I
vγ 、内では vγ r になっている。
2πr 2πR2

練習問題
⃗ = ρ ⃗ = 0 を満たすこ
【問い 9-8】 (9.122)∼(9.124) の電場が div E と rot E
→ p219 ε0
とを確認せよ。 解答 → p327 へ

上の問いで確認した電荷密度 ρ は(9.120)そのもの、つまり実際にそこにある
→ p219

電荷密度である。「静止している磁場を動きながら観測するとそこに電場があ
る」のだが、その「電場」はどこからともなく現れるわけではなく、実在の電荷
から出現したものである(正電荷から出て負電荷に入る電気力線がそこには存
⃗ = ρ , rot E
在する)。当然このときの電場は div E ⃗ = 0 を満たす †43 。
ε0

9.7.2 導線のパラドックスを解く

ここで、「なぜ Lorentz 変換すると電荷密度 0 から正の電荷密度が現れるの


か?」という疑問に答えるとともに、3.7 節で考えたパラドックスを解いておこ
→ p56

う。前項で計算したように、導線に対して動く人には、「導線に対して止まって
†43
「動きながら磁場を見ると電場ができることが電磁誘導の原理である」という説明をする場合がある
が、ここでわかるように、ただ磁場を動きながら見るだけだと、それによって現れる電場は rot が 0 なの
で、起電力を作らない。誘導起電力を起こすには、さらにいくつかの仕掛けが必要である。その仕掛けは
→ p40 の脚注 †6
多くの場合、回路の接点がこすれ合う(摺動する)メカニズムである。
9.7 静磁場を Lorentz 変換する 221

いる人には見えない電場」が見える。この電場はもちろん、どこからともなく発
生するのではない。先に述べたように、この立場では導線が帯電しているので
ある。電場が発生する原因は、導線の中を考えるとわかる。

Lorentz短縮して
狭くなった。
電流
電流

Lorentz短縮が
Lorentz短縮して
磁場 磁場 なくなった。
狭くなった結果が
この長さ。
電場からの力
静⽌した電⼦ 運動する電⼦

磁場からの力

導線の静止系では、導線内には等密度の正負電荷が 導線のパラドックス

あるので外部の電場は ⃗0 である(正電荷の作る電場と
負電荷の作る電場がキャンセルしている)。しかし、動
いている物体は Lorentz 短縮で長さが縮むので、運動
する一群の電荷は運動方向に圧縮されて電荷密度が上
がっている。つまり、導線内にある電子の流れは「すで
に Lorentz 短縮した結果」の密度が金属イオンなどの SRParadox/denryu0

正電荷の密度と等しい。これを動きながら見ると、今
度は正電荷が Lorentz 短縮により圧縮され、電子の方は圧縮の原因がなくなり、
むしろ密度が減少する。正電荷密度が濃くなり負電荷密度が薄くなるので、運
動しながら見ると導線は正に帯電する。正に帯電した導線は電子を内側にひっ
ぱり、磁場による Lorentz 力を打ち消す。
こう説明してもまだ「0 であった電荷密度が系
を変えると 0 でなくなるのはおかしい」と腑に に


†44 て
落ちない人がいるだろう 。そこで正電荷負電 の



荷両方の時空図を描いてみよう。右の図は静止
している正電荷と運動している負電荷の世界線
の図である。正電荷の静止系で考えると、正電
にとっての空間軸
荷と負電荷の密度は等しく、電荷は消し合って
いる。

†44
それでいいのだ。学問の世界において「物分りがよいこと」は美徳とは限らない。
222 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

次に、負電荷が静止する系で考えてみる。こ に


の系は正電荷の静止系とは空間軸と時間軸、両 て



方が傾いている。負電荷の静止系の(傾いた)時 軸

空軸でさきほどの図を描きなおしてみると右の
ようになり、
「負電荷の静止系の同時刻線」の上
に並ぶ電荷の量は、正電荷の方が多いことが(図
にと
って
の空
を見て数えても)わかる。これが、導線が帯電 間軸

する理由である。
この問題が教えてくれる教訓は「相対論なんてのは宇宙の話や素粒子の話を
する時にしか出てこない、特殊な世界の話」と思いこんではいけないということ
である。量子力学がミクロな世界にとどまらないように、相対論も普段見る物
理現象にも効いている。相対論の助けなしには、電磁気現象を完全に理解する
ことはできない。

9.8 Fµν の幾何学的意味

Fµν は、いわば Aµ の 4 次元 rot である。3 次元の rot の結果はベクトルだが、


4 次元では違う。rot は次の図のような「微小な面の周りをぐるっと回る」操作
に対応している(図は 2 次元で描いた)。

の仕事

この一周で力 のする仕事が
の仕事

の仕事 全体で

の仕事

の仕事

⃗ (x, y) を各時空点に存在する粒子に働く力
より具体的には、あるベクトル場 A
だと考えたとき、上の図のような仮想的経路でこの粒子を動かすときに粒子に
⃗ (x, y)∆x∆y となるというのが定義である(上の
される仕事を計算すると、rot A
図を見て検算して欲しい)。よってこの仮想的経路を一周したときにこの粒子に
⃗ も 0 となる。
対してなされる仕事が 0 であるとき、rot A
9.8 Fµν の幾何学的意味 223

上の図は 2 次元の場合であるが、3 次元なら上の図のような xy 面に平行な面


⃗ の z 成分」とする。3 次元では、微小面の取り方の
で定義されたものを「rot A
⃗と
独立なものは xy 平面、yz 平面、zx 平面の三つがあり、これらがそれぞれ A
いうベクトルの z 成分、x 成分、y 成分になっている。
しかし、2 次元では xy 平面一つしかないし、4 次元では xy, yz, zx の他に
xt, yt, zt を合わせて合計 6 つある。重複を許さず二つの方向を決めれば面が決
n(n − 1)
まるので、一般に n 次元では 個の面がある。面の数と次元の数が一致
2
するのは 3 次元だけである(つまり rot A ⃗ がベクトルなのは 3 次元だけ)。Fµν
もまた、
「面」で定義されている量だが、3 次元空間での「面」ではなく、4 次元
時空の中の「面」なので、「6 成分」あるわけである。
3 次元の rot の div を取ると 0 になることは、空間内に直方体を描くことで示
すことができる。4 次元の rot であるところの Fµν = ∂µ Aν − ∂ν Aµ でも、四
つの座標軸 (ct, x, y, z) のうちから三つ選んで直方体を作り、その直方体の各面
を回るような rot を考えることで同様の式を作ることができる。

天井 後ろの壁

右の壁
左の壁

前の壁
1 2

例えば上の図は (x, y, z) の三つの軸で直方体を作った場合であるが、図に描

かれた 6 面に付随する rot を考えると、各辺ごとに、 のように「行


き」と「帰り」の仕事の積分がされるので、それぞれが打ち消し合い、全体
の rot の和は 0 となる。天井の (ct, x, y, z + ∆z) の位置における F12 と床の
(ct, x, y, z) の位置における F12 の寄与の和は ∂3 F12 になる(天井と床では積分
の向きが逆で結果も逆符号なので、(天井) − (床) という計算がされ、微分にな
る)。同様に、左と右から ∂2 F31 が、正面と裏から ∂1 F23 が出る。全部足すと
⃗ = 0 が出る。
∂1 F23 + ∂2 F31 + ∂3 F12 = 0 すなわち div B
224 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

(ct, x, y) の三つの軸を使って作った図が次である。

天井 後ろの壁

右の壁
左の壁
0

前の壁 2
床 1

この図では z 軸は完全に省略されていることに注意しよう。この場合は天井と
床から ∂0 F12 、左と右から ∂2 F01 、前と後ろから ∂1 F20 が出る。全部足して出る

⃗ = − ∂ B の x 成分である。同様に y 成
∂0 F12 + ∂2 F01 + ∂1 F20 = 0 は rot E
∂t
分、z 成分の式も出る。
Fij は「xi 方向とも xj 方向とも垂直な方向の磁場」を表しているのに、Fi0
i
が「x 方向の電場」を表しているのは、なにかアンバランスなものがあるよ
うに感じるかもしれない。しかし、4 次元的な立場で電荷に働く 4 元力の式
µ
= + qF µν V ν ((9.76)の左辺を運動量の微分の形に直したもの)を見直
−時Aµ → p209

してみると、電場と磁場が一つの反対称テンソルに収まっている意味が見えて
ν µ ν
くる。この式は「4 元速度 V と、電磁場テンソル F ν があれば、V の増加が
µ
起こる」ことを表現している。qV は電荷の流れすなわち電流を表すと考えれ
i
ばよい。「 + F j は「j 方向の電流に、i 方向の加速度を生じさせるもの」と解釈
−時Aµ
できる。
我々は「磁場」のベクトルの向きを「磁石の N 極(正の磁極)が力を受ける方
1 3
向」と考えるので、「F 2 なのに、x 方向を向いているなんて変だな」と感じて
1 2 1
しまうわけだが、実は「 + F 2 は x 方向の電流に対し x 方向の力を与えるもの
−時Aµ

だ」と考えれば、F
1
2 という添字の付き方の意味もわかってくる。 F
1
2 = −F 21
は同時に「x 方向の電流に対して −x 方向の力を与え
1 1 2
であるから、この + F 2
−時Aµ
るものだ」と解釈できる。以上のことを図で表現すると以下のようになる。
9.8 Fµν の幾何学的意味 225

方向の電流に
方向の力を
与える。

方向の電流に
方向の力を
時 時 与える。

が正の場合
方向の電流に (磁場が )
方向の力を
与える。

方向の電流に
方向の力を
与える。

i
では、 + F 0 の方はと言うと、
「0 方向の速度を持っているものに、i 方向の加
−時Aµ
速度を生じさせるもの」になる。0 方向の速度、つまり 4 元速度の第 0 成分であ
0 i
る V は、物体が止まっていても存在する。 + F 0 は物体が静止していても働く
−時Aµ
0
力(電場による力)を表現しているのだとわかる。一方、 + F i は電場と同じ方
−時Aµ
0
向に動けば V が増える(エネルギーが増加する)ことを意味している。

電場と逆方向に動けば、
エネルギー減少。

静止している電荷に
時間の逆向きに 方向の力を
進む粒子はないか 時 時 与える。
ら、この図には意 が正の場合
味がない。無理に (電場が→)
言うなら反粒子に
働く力?

電場方向に動けば、
エネルギー増加。

この図の天井と床では働く「力」が「面の外側」ではなく「面の内側」を向い
ているのは、 F
i
j = −F ji と F 0i = F i0 の符号の違いから来る。
こうして考えていくと、電磁気学を 4 次元時空の中での現象と考えることで統
一的な見方ができるようになることがよくわかる(第 0 成分の符号の違いには
注意が必要)。
226 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

9.9 ゲージ変換

電場と磁場は反対称テンソル Fµν = ∂µ Aν − ∂ν Aµ の中に含まれているわけ


だが、この式をよく見ると、

Aµ → Aµ + ∂µ Λ (9.126)

のように、任意のスカラー関数 Λ の微分に対応する分だけ、Aµ の値をシフトさ


せても
Fµν = ∂µ Aν −∂ν Aµ
↓ ↓
(9.127)
Fµν = ∂µ Aν + ∂µ ∂ν Λ −∂ν Aµ −∂ν ∂µ Λ
消し合う

となって Fµν が不変であることに気づく。この変換は、歴史的経緯から「ゲー


†45
ジ変換」 と呼ばれる。Fµν はゲージ変換で不変な量である。
ゲージ変換を適当に行えば、Aµ を特別な条件を満たすようにすることができ
る。例えば極端な例としては、
 
Z x0
Λ x0 , ⃗x = − A0 (s, ⃗x) (9.128)

と選ぶ(積分の下端はどこでもいいので省略しておくことにする)。すると、
Z x0
A0 → A0 − ∂0 A0 (s, ⃗x) = 0 (9.129)

となって、 A0 = 0 と選ぶことができる(このとき、A1 , A2 , A3 も一緒に変換


される)。
ここでは条件を、 A0 = 0 としたが、問題に応じて計算が楽になるような条件

を選べばよい。この条件を「ゲージ条件」と呼ぶ。 A0 = 0 は radiation ゲージ

クーロン ローレンツ
†46
と呼ばれる。他にも、Coulombゲージ ∂i Ai = 0 、Lorenzゲージ ∂µ Aµ = 0

などがある。
ワイル
†45
意味するところは「ものさし変換」である。実は一般相対論と電磁気学を融合させようとするWeylの
統一理論の中で、物体の長さを変換するものだった。今ではそういう意味はなくなってしまったのだが、
名前だけが残っている。
†46
この Lorenz さんは、Lorentz 力の Lorentz さんとは別人なのだが、非常によく混同され、
「Lorentz
ゲージ」と書いてある本がたくさんある(日本語で表記するとどっちも「ローレンツ」なのも大変ややこ
しい)。Lorenz ゲージが Lorentz 不変なゲージであることが混乱を深めている。
9.10 章末演習問題 227

このゲージ変換があるため、物理的には同じ状況であるのに、Aµ の値が違う
ことが起こりえる。そういう意味で Aµ は測定によって決定できる量ではない。
⃗ B
この点で「Aµ は非物理的な量であって、本質的なのは E, ⃗(あるいは F µν
)であ
⃗ = 0 であっても Aµ ̸= 0
る」とする考え方も以前にはあった。しかし、後に B
であるような状況で Aµ の影響が観測に現れることがある(もちろん、その影
†47
響の現れ方はゲージ変換しても変化しない)ことが確認 されたので、今では
「Aµ は非物理的」などと言う人はいない。
ここでは、Lorenz ゲージを取ろう。すると Maxwell 方程式は、

∂µ ∂ µ Aν = − µµ0 jν (9.130)
+時A

という解きやすい形の式となる。
 
Aµ = + µ −V /c, A
⃗ であったこと、jµ が +(−cρ, ⃗j) であることを使って 3
−時A → p189 の脚注 †5 −時

次元表記で書くと上の式は

1
∂µ ∂ µ V = − ρ (9.131)
+時 ε0
⃗ = − µ0⃗j
∂µ ∂ µ A (9.132)
+時

1
になる( + µ − = − と µ0 c =
2 †48
に注意) 。これらの式の解については、
−時A +時Aµ +時 ε0
11.3 節で扱う。
→ p275

9.10 章末演習問題

★【演習問題 9-1】
⃗ と磁束密度 B
ある場所の電場 E ⃗ ·B
⃗ の内積 E ⃗ が Lorentz 変換で不変量である
ことを証明せよ。
⃗ ·B
また、ある慣性系で E ⃗ = 0 な状況になっていれば、適切な Lorentz 変換

アハロノフ ボーム
†47
この効果をAharonov–Bohm効果と言い、実際に実験で確認したのは日本の外村彰氏である。その
詳細は量子力学を知らないとわからないので、ここでは触れない。
†48 µ 2
(9.131) と (9.132) の時間微分の項を落とす(静的な場合の式にする)と、 ∂µ ∂ = −(∂
+時
0 ) +△
− 時

なので符号因子が消えて(9.7) と(9.8) になる。


→ p186 → p186
228 第 9 章 電磁気学の 4 次元的な記述

をすると、E ⃗ か、どちらかを 0 にすることができる(ただし、 |E|


⃗ かB ⃗ = c|B|

であった場合を除く)ことを示せ。
⃗ が y 軸方向を、B
(ヒント:例えば、まず E ⃗ が z 軸方向を向くように座標軸
を回転してから考えるとよい)
ヒント → p2w へ 解答 → p11w へ

★【演習問題 9-2】
3.7 節の問題を考え直したい。
→ p56

導線を半径 R の円柱状として、導線の静止系では、正電荷の電荷密度が ρ で
静止し、負電荷の電荷密度が −ρ、負電荷の流れで作られる電流密度が (j, 0, 0)
だったとする。この系では、導線は帯電してなく(トータル電荷密度は 0 であ
j
る)、電子の移動速度は x 方向に − である。
ρ
速度 ∗
この現象を、x 方向に が β に運動している {x
e } 系から見る(ここでは β
c
は一般の速度で、電子の移動速度とは別である)。

e∗} 系では、トータルの電荷密度はどれだけになるか、考えよ。
(1) {x
(2) この電荷が導線からの距離 r の位置につくる電場はどれだけか。
e∗} では、どれだけの電流が流れているか。
(3) {x
(4) この電流が導線からの距離 r の位置につくる磁場はどれだけか。
(5) 導線の静止系において静止している荷電粒子に働く、電場による力と磁
場による力は相殺するか、説明せよ。

ヒント → p3w へ 解答 → p12w へ

★【演習問題 9-3】
真空中に単位長さあたりの電荷密度が ρ である無限に長い導線が 2 本、距離 r
離れて平行に張られている。一方の導線の電荷がもう一方の導線の位置につく
ρ ρ2 ℓ
る電場の大きさは であり、導線のうち長さ ℓ の部分に働く力は で
2πε0 r 2πε0 r
ある。
導線と平行な方向に速さ v で動きながらこの導線を見ると、導線に並行電流
が流れているように見えるから、磁場による引力も働く。この場合の電場によ
る力と磁場による力を計算し、合力が引力になるか斥力になるかを判定せよ。
ヒント → p3w へ 解答 → p13w へ
第 10 章

電磁場のエネルギー運動量テンソル

電磁場の相対論的力学について理解するために、電磁場のエネ
ルギーや運動量について計算していこう。

10.1 真空中の電磁気学におけるエネルギーと運動量

電磁場はエネルギーや運動量を持っている。ここではそれらをテンソルを
使って表現していこう。

10.1.1 テンソルを使わずに

まずはテンソルを使わない書き方から始めよう。電磁気学では、以下の式が
知られている。
 真空中の電磁場のエネルギー密度 

ε0 ⃗ 2 1 ⃗ 2
E + B (10.1)
2 2µ0
 
電磁場はエネルギーを持っているので、電磁場がそのエネルギーを消費する
ことで他に仕事をしたり、逆に外から仕事をされることでその分のエネルギー
†1
を電磁場の中に溜め込むことができる 。これから求めていく「エネルギー・運
†1
念の為力学の復習。エネルギーとはそもそも「仕事をしたらそれだけ減り、仕事をされたらそれだけ増
える」ように定義された物理量である。別の言い方をすれば「仕事はエネルギーの流量」というのが「エ
ネルギーの定義」である(熱力学では「熱」もエネルギーの流量となる)
。だから「どうして仕事をしたら
エネルギーが減るの?」という質問に対する答は「そうなるようにエネルギーを定義したから」となる。
そんなにうまく定義できるのか? —と心配になる人がいるかもしれないが、常にできるのではなく、で
きる場合にその力を「保存力」と言うのである。電磁力はもちろんできる場合に属する(保存力である)。
230 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

動量テンソル」という量を考えると、電磁場がそういう「物を押したり引いたり
できる(そしてエネルギーや運度量を持つ)物理的実体」であることが実感でき
るようになるだろう。
上の式(10.1)が確かにエネルギー密度であることを確認するために、その変化
→ p229


∂E 1 ⃗ ∂B ⃗
⃗·
を考えよう。(10.1)を時間微分すると ε0 E + B· となる。
ソース
→ p229 ∂t µ0 ∂t
源 のある真空中の Maxwell 方程式を使うと、
→ p184 の (9.1)

∂E ⃗
ε0 ∂B
∂t ∂t
⃗ ⃗    
⃗· ∂E 1 ⃗ ∂B ⃗ · −⃗j + 1 rot B
⃗ + 1 B
ε0 E + B· =E ⃗ · −rot E
⃗ (10.2)
∂t µ0 ∂t µ0 µ0

     
⃗ · rot B
と な り 、こ こ で(B.60)か ら E ⃗ − rot E
⃗ ·B⃗ = −div E⃗ ×B
⃗ と
→ p309

いう式を作って使うと、次の式ができる。
 電磁場のエネルギーの保存則 
   
∂ ε0 ⃗ 2 1 ⃗ 2
⃗ · ⃗j − 1 div E
E + B = −E ⃗ ×B
⃗ (10.3)
∂t 2 2µ0 µ0
 
右辺第 1 項の −E · j は「電場が単位時間にする仕事 ×(−1)」である。そのこ
⃗ ⃗
とを確認するため、この ⃗j に(9.51)の電流密度を代入し
→ p202
⃗j

Z !!
X
N
 
−E
⃗ (t, ⃗x) · Q(i)⃗v(i) (t)δ 3
⃗x(i) − X
⃗ (i) (t) (10.4)
領域 i=1

のようにある領域で積分する。

領域内にある
電荷は と
10.1 真空中の電磁気学におけるエネルギーと運動量 231

積分の結果、領域内で 0 でないデルタ関数の寄与(上の図の場合なら、Q(1) と
Q(2) の寄与)が残り
X  
=− Q(i) E ⃗ (i) (t) · ⃗
⃗ t, X v(i) (t) (10.5)
領域内に
ある電荷

⃗ (i) (t) に あ る 電 荷 Q(i) に は 、上 の 図 の よ う に 、そ の


と な る 。領 域 内 の 場 所 X
    
時刻のその場所の電場と磁場から Q(i) E ⃗ t, X v(i) × B
⃗ (i) (t) + ⃗ ⃗ t, X
⃗ (i) (t) の力
が 加 わ る 。電 荷 は 単 位 時 間 に ⃗
v(i) (t) だ け 移 動 す る 。こ の と き 電 荷 に 対 し て 、
 
Q(i) E ⃗ (i) (t) · ⃗
⃗ t, X v(i) (t) の仕事がされる †2 。仕事をしたのは電磁場なので、電磁
場のエネルギーが減る。
(10.3)の左辺は「エネルギーの単位時
→ p230

間あたりの変化」なので、この式はまさ
に「電場が仕事をすればその分電磁場の
†3
エネルギーが減る」を表現している 。
1  
右辺第 2 項の − div E⃗ ×B
⃗ は仕
µ0 領域内のエネルギーは

事とは別のエネルギーの増減を示して した仕事の分と、
流出したエネルギーの分

∂ρ 減る
い る 。連 続 の 式(9.58) = −div ⃗j
→ p204 ∂t
1 ⃗ 
(ρ の減少は ⃗j の流れ出し)—と見比べることにより、 E×B
⃗ を「電磁場
µ0
のエネルギーの流れ密度」と解釈することができる。このベクトルは、電磁気学
ポインティング
の世界ではよく知られている「Poyntingベクトル(Poynting vector)」で
ある。

10.1.2 4 次元テンソルの表現に直す

電磁場に関する計算は、テンソルを使って Lorentz 対称性が明白な形で行っ


たほうが楽になることが多い。というわけで、ここから電磁場のエネルギーと運動量
をテンソルの形で表現していこう。

†2
 
v(i) × B
磁場による力 Q(i) ⃗ ⃗ t, X v(i) と直交するので仕事をしない。
⃗ (i) (t) は ⃗

†3 1 2
電荷を持っている粒子の運動エネルギー v | を時間微分すると、 m
m|⃗ ·⃗ ⃗ ·⃗
v=F v となる。
2
⃗ = qE
今の場合 F ⃗ ·⃗
⃗ だから q E v は荷電粒子の運動エネルギーの単位時間あたりの増加になっている。
232 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

2 2
エネルギー密度(10.1)は (電場) + (磁場) の形をしている。Fµν の形を見る
→ p229
µν 2 2
と、Fµν F という計算をすると (電場) + (磁場) が出てくるように思えるか
2 1
もしれない。しかし、(磁場) の係数が合うように を掛けてやると
4µ0
µν 1
Fµν F 2µ0 c2
 
1 2 ⃗ i ⃗ i ε0 ⃗ 2 1 ⃗ 2
− 2 [E] ⃗ i [B]
[E] + 2[B] ⃗ i =− |E| + |B| (10.6)
4µ0 c 2 2µ0
†4 2 †5
となって 、(電場) の前の符号が合わない 。そこで、
F0i F 0i
1 1   
F0µ F 0µ = − [E]
⃗ i /c ⃗ i /c = −ε0 |E|
+ [E] ⃗ 2 (10.7)
µ0 µ0 + A µ − A µ 時 時

を引くことで

1 1 ε0 ⃗ 2 1 ⃗ 2
− F0µ F 0µ + Fαβ F αβ = |E| + |B| (10.8)
µ0 4µ0 2 2µ0

という量を作る。(10.3)の左辺はこれの時間微分である。次に(10.3)の右辺の第
→ p230 → p230
1  
2 項にある − div E × B を書き直す。まず E × B の x 成分を考えると
⃗ ⃗ ⃗ ⃗
µ0
⃗ y
[E] ⃗ z
[B] ⃗ z
[E] ⃗ y
[B]
 
⃗ × B]
[E ⃗ x =( − cF02 ) ( + F 12 ) − ( − cF03 ) ( − F 13 ) = −c F02 F 12 + F03 F 13
µ +時A µ −時A
µ µ +時A +時A

0 になる量をあえて加える

 
= − c F00 F 10 + F01 F 11 + F02 F 12 + F03 F 13 = −cF0µ F 1µ
0 0 (10.9)

となる。y, z 成分も同様に考え、さらに div を取ると以下のように書き直せる。

1    
− div E ⃗ = c ∂i F0µ F iµ
⃗ ×B (10.10)
µ0 µ0

†4 0i
電場の項の前にマイナス符号が出るのは、F0i と F が逆符号の量だから。すべての項に因子 2 が出
12 21
てくる理由は、例えば F12 F と F21 F が両方出てくるから。自乗するため、流儀に由来する符号因
2 2
子 + は出ず、 (電場) の前の係数は常にマイナス、(磁場) の前の係数は常にプラスである。
µ−時A

†5 µν
考えてみれば Fµν F は Lorentz 不変(スカラー)であるから、これがそのままでエネルギーとい
う非スカラー量になることは有り得ない。
10.1 真空中の電磁気学におけるエネルギーと運動量 233

次に、(10.3)の右辺第 1 項の −E
⃗ · ⃗j の項は
→ p230
0

−E j − E j − E j = + µcF0i j + µcF00 j 0 = + µcF0λ j λ


x x y y z z i
(10.11)
−時A −時A −時A
− cF01 − cF02 − cF03
+時Aµ +時Aµ +時Aµ

と書き直すことができる。
以上を(10.3)に代入して、全体を c で割りつつ、右辺第 2 項を左辺に移項し
→ p230

   
1 1 1
∂0 − F0µ F 0µ + Fαβ F αβ + ∂i − F0µ F iµ = + Fµ 0λ j λ
µ0 4µ0 µ0 −時A

1 1
− F0µ F ρµ のρ = 0 成分 − F0µ F ρµ のρ = i 成分
µ0 µ0 (10.12)

という式ができた。左辺第 1 項が「時間成分の時間微分」、第 2 項が「空間成分


1
の空間微分」であるように見える式になったが、 Fαβ F αβ の項は第 1 項には
4µ0
ρ
あるが第 2 項にはない。そこで δ 0 ( ρ = 0 なら 1、それ以外なら 0)を使って
 
1 1
∂ρ − F0µ F ρµ + δ ρ0 Fαβ F αβ = + Fµ 0λ j λ (10.13)
µ0 4µ0 −時A

ρ = 0 でのみ現れる項

と書くと 4 次元の式としてまとまる。この式を見ると、以下のような関係式の
ν = 0 成分なのではないかと期待したくなるだろう。

成り立つのではと期待する式

 
1 1
∂ρ − Fνµ F ρµ + δ ρν Fαβ F αβ = + Fµ νλ j λ (10.14)
µ0 4µ0 −時A

我々は電磁気学も力学も Lorentz 不変な理論であることを知っているので、


「0 成分に関して成り立つ式は i 成分でも成り立つだろう」と予想できる。そう
でなかったら電磁気学が Lorentz 不変ではないことになってしまう。
幸い、( ν = 0 成分以外の)(10.14) の成立は「期待」にはとどまらない。以
†6
下のようにテンソルで書いた Maxwell 方程式を使えばすぐ証明できる 。

†6
テンソルを使わず電場と磁場の 3 次元ベクトル表示を使って証明する方法は、下の【問い 10-3】
を見よ。
→ p238
234 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

左辺の微分を

1 1 1
− (∂ρ Fνµ ) F ρµ − Fνµ ∂ρ F ρµ + (∂ν Fαβ ) F αβ (10.15)
µ0 µ0 2µ0

のように実行してから Maxwell 方程式(9.62) ∂µ F


µν
= − µµ 0 j ν を使うと、
→ p206 +時A

1 1
− (∂ρ Fνµ ) F ρµ + F µ
νµ j + (∂ν Fαβ ) F αβ (10.16)
µ0 − Aµ 時 2µ0
∗∗
となる。第 1 項と第 3 項はどちらも F の形のテンソルと ∂∗ F∗∗ の形のテンソル
積である。この二つをまとめるために、第 1 項のダミー添字を ρ → α, µ → β
→ p30
∗∗
と置き換えることで F の添字を αβ にする。第 1 項と第 2 項を入れ替え、添字
の位置を調整することで

1 1
+ Fµ νµ j µ − (∂α Fνβ ) F αβ + (∂ν Fαβ ) F αβ
−時A µ0 2µ0
 
1 1
= + Fµ νµ j −
µ
∂α Fνβ − ∂ν Fαβ F αβ (10.17)
− A時 µ0 2

という「α ↔ β で反対称なテンソル」
αβ
を得る。最後の式の括弧内は、後ろの F
と縮約が取られているので
→ p124 ∂α Fνβ の反対称化

1 1 1 1
∂α Fνβ − ∂ν Fαβ → ∂α Fνβ − ∂β Fνα − ∂ν Fαβ (10.18)
2 2 2 2
†7
と置き換えることができる 。 ∂µ Fνρ + ∂ν Fρµ + ∂ρ Fµν = 0 の添字を変えて
→ p191 の (9.25)

∂α Fνβ + ∂β Fαν + ∂ν Fβα = 0 (10.19)


−Fνα −Fαβ

という式を作ると、(10.17) の最後の式の第 2 項は 0 になることがわかり、めで


たく(10.14)は証明された。
→ p233

1   1
†7 αβ αβ βα
Fαβ A = Fαβ A −A という操作を行った。この Aαβ → (Aαβ − Aβα ) な
2 2
る操作を「Aαβ の反対称化」と言う。
10.1 真空中の電磁気学におけるエネルギーと運動量 235

練習問題
【問い 10-1】 (10.17) の最後の式の第 2 項が 0 になることを、第 2 項の括弧内の
F∗∗ に Fµν = ∂µ Aν − ∂ν Aµ を代入することで示せ。 解答 → p328 へ

10.1.3 エネルギー運動量テンソルの定義

(10.14)の左辺の括弧内の、ダミーでない添え字を両方上に上げて符号因子を
→ p233
†8
つけた量 として、以下を定義する。
 電磁場のエネルギー運動量テンソル 

1 µ νλ 1 µν
µν
T電磁 ≡− F F + η Fαβ F αβ (10.20)
+時 µ0 λ − 4µ0 時

 
µν
T電磁 を「電磁場のエネルギー運動量テンソル (energy momentum tensor
of electromagnetic field)」と呼ぶ理由は T 00 がエネルギー密度で、T 0i が i
方向の運動量密度 ×c であると解釈できるからである。

【FAQ】エネルギーが 0 成分ではなく、00 成分なのはなぜですか?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 元運動量の場合「0 成分がエネルギー」であった。今考えているのは「エネル
ギー密度」である。密度がスカラーではなく「4 元ベクトルの 0 成分」だというこ
とは9.2 節でも(あのときは電荷密度に関してであったが)説明した。つまり二
→ p195

つの 0 のうち片方は「エネルギー」を、もう片方は「密度」を表す †9 。

(10.14)から、この T µν は +∂µ T電磁


µν
= − Fµ νλ j λ を満たす。すなわち、
→ p233 −時 +時A

 電磁場のエネルギー運動量保存則 

µν
∂µ T電磁 = − F νλ j λ (10.21)
+時Aµ
 
†8 00
符号 − と + は、T電磁 がどの convention でも正の量(すなわち、エネルギー)となるように選んだ。多
+時 −時
0
くの本がこうしている。T 0 が正になるように選ぶ本もあり、その流儀でしかも spacelike convention
の場合はここでの定義と符号が逆転する。
†9 µν µν νµ 00
T は対称テンソル T =T なので、T のどっちの 0 がエネルギーでどっちの 0 が密度を表
しているかに悩む必要はない。
236 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

が満たされる。ただし、記号 − は + と − の積である( p189 の表を参照)。


µ +時Aµ −時 +時A
(10.21) の右辺の第 0 成分は −E
⃗ · ⃗j であり、電荷によってされる仕事に対応し
ていることは(10.5)のあたりで述べた。
→ p231

(10.21)の空間成分の意味を考えるために、右辺を具体的に電場と磁場で表し
→ p235

てみよう。例えば ν = 1 の成分は − F
1 λ
λj である。
+時Aµ
λ=0 λ=1 λ=2 λ=3
 
(9.20)から F1λ が + [E] x ⃗ z , −[B]
⃗ /c, 0 , [B] ⃗ y だから、添字 1 を上付きに
→ p190 −時Aµ

λ=0 λ=1 λ=2 λ=3


 
した F
1
λ は + が掛かるので + + [E] ⃗ z , −[B]
⃗ x /c, 0 , [B] ⃗ y となる。よって、
−時 −時 −時Aµ

cρ +
− 時Aµ

 
− F 1λ j λ =− F 10 j + F 11 j 1 + F 12 j 2 + F 13 j 3
0
+時Aµ +時Aµ
⃗ x /c
+ [E] 0 ⃗ z
+ [B] − [B]
⃗ y
−時Aµ −時Aµ +時Aµ

 
= − ρ[E] ⃗ j − [B]
⃗ + [B] x ⃗ j z y y z ⃗ − ⃗j × B]
= [−ρE ⃗ x (10.22)

⃗ − ⃗j × B]
のような式が出てくる。結論として ∂µ T電磁 = [−ρE ⃗ µ1 x
が出てきた。

ここで ρ, ⃗j に点電荷の集合としての式である(9.51)を代入し、時刻一定の空間
→ p202

領域で体積積分を行えば、デルタ関数により電荷のある場所での値が出てきて、
X    x
− ⃗ X
Q(i) [E v(i) × B
⃗ (i) + ⃗ ⃗ X
⃗ (i) ] (10.23)
領域内に
ある電荷

という式になる。これはまさに「個々の荷電粒子に働く力の x 成分」の逆符号に
なっている。つまり(10.21)の右辺の − F
ν λ
λj は「積分すると荷電粒子に働く力
→ p235 +時Aµ

×(−1) になる量」である。ここ (10.23) の右辺に現れている力は(9.78)に出てく


→ p209

る 3 次元力 f⃗ =
†10
の方 なので、

Z X i
(i)
µi
∂µ T電磁 =− (10.24)
ある領域
その領域内

†10
4 元力の x 成分ではないことに注意。4 元力なら γ 因子がいる。
10.1 真空中の電磁気学におけるエネルギーと運動量 237

X
が言える。右辺の は考えている領域内に入っている (i) 番目の粒子に働く力
の和を取っている。
我々は力学において以下が成り立つことを知っており、よく使っている。

力学における運動量の時間変化と力の関係

物体 A が物体 B に力 f⃗ を及ぼしたとき、
物体 A の運動量の時間微分は −f⃗ に等しく、 の反作用

物体 B の運動量の時間微分は f⃗ に等しい。
よって運動量変化については

A
+ B
= 0 (運動量保存則)が成り立つ。

より正確に言うならば、そうなるようにうまく定義された量が「運動量」なの
である。ここで、物体 A と物体 B の運動量変化がちょうど逆なのは、作用反作
用の法則が成り立つおかげである。
そこでこの関係の「物体 A」を電磁場に、「物体 B」を荷電粒子に置き換えた
以下の関係があることを期待する。

電磁気学における運動量の時間変化と力の関係

電磁場が荷電粒子に力 f⃗ を及ぼしたとき、
電磁場の運動量の時間微分は −f⃗ に等しく、
の反作用?

荷電粒子の運動量の時間微分は f⃗ に等しい。
電磁場
よって運動量変化については 電磁
粒子

電磁 粒子
+ = 0 (運動量保存則)が成り立つ。

1
上の −f⃗ が(10.23)である。 ∂0 =
0i 電磁
∂t に注意して ∂0 T電磁 と を比較す
→ p236 c
ると、T電磁 の持つ意味は電磁場の運動量 ×c の密度であることがわかる。
0i

ここで求めた(10.24)に対応して第 0 成分については
→ p236
238 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

Z X 0
(i)
µ0
∂µ T電磁 =− (10.25)
ある領域
その領域内

が成り立つことも、エネルギー密度の時間微分の式を積分した結果が(10.5)
→ p231

であったことからわかる。(10.25) の右辺は領域内の電荷に対してされる仕事
−1 1 1
× である。 は左辺の ∂0 が ∂t であることから来る。
c c c
ρν
T電磁 が電磁場のエネルギーおよび運動量を表していて、それらは荷電粒子に
対して行った仕事や力積の分だけ減少することがわかった。エネルギーと運動量は保
存するから、その分「荷電粒子のエネルギーと運動量」が増加していると思われる。
となれば、荷電粒子のエネルギーや運動量も T µν の形でまとめたくなる。それを
次の節で考えよう。
ここで「T ij の意味は何なのか?」という点も気になるところだと思うが、それは
粒子のエネルギー運動量テンソルの説明が終わった後で明らかにしよう。
→ p242

練習問題
µν
【問い 10-2】 T電磁 の成分のうち、

ε0 ⃗ 2 1 ⃗ 2
00
T電磁 = |E| + |B| (10.26)
2 2µ0
1 ⃗ 
0i
T電磁 = E×B ⃗ (10.27)
µ0 c i

ij
はすでにわかっている。残りの T電磁 ⃗ B
を E, ⃗ で表わすと

ε0 X  2 1 X  2
ii
T電磁 = ± [E]
⃗ i + ± [B]
⃗ i (i は足し上げなし)
2 i 番目は複号−
2µ0 i 番目は複号−
それ以外+ それ以外+

(10.28)
ij
T電磁 = − ε0 [E] ⃗ − 1 [B]
⃗ [E]
i ⃗ i [B]
j ⃗ j (i ̸= j) (10.29)
µ0

となることを確認せよ。 解答 → p328 へ

⃗ B
【問い 10-3】 (10.14)の左辺の ν = 1 成分を E, ⃗ を使って書き下し、Maxwell
→ p233

方程式を使うと(10.14)の右辺の ν = 1 成分になることを示せ。
→ p233

この問題は上でテンソルを使って行った計算を 3 次元ベクトルの形でやり直す
ものである。よって上の計算で納得した人はやらなくてよい。 解答 → p329 へ
10.2 粒子のエネルギー・運動量テンソル 239

10.2 粒子のエネルギー・運動量テンソル
µν
電磁場のエネルギー運動量テンソルを作ると、∂µ T電磁 という量が「電磁場に
†11
及ぼされる力」の密度になる ことが前節でわかった。もう一つ、粒子のエネ
µν µν
ルギー運動量テンソル T粒子 があって、その 4 次元発散にあたる ∂µ T粒子 が「粒子
に及ぼされる力」の密度になっていて、
µν µν
∂µ T電磁 + ∂µ T粒子 =0 (10.30)
粒子が電磁場に 電磁場が粒子に
及ぼす力の密度 及ぼす力の密度

†12
のように消し合うとすれば、作用反作用の法則の一般化として自然である 。
µν
実際これが成り立つことを以下で確認するため、T粒子 を作っていこう。
4 元電流密度を考えたときと同様にして、まず粒子が静止している座標系で考
→ p195

えて、次に等速直線運動する座標系へと移り、さらにそれを曲線運動に拡張する
µν
という手順を踏んで T を作ろう。

まずは粒子の静止系({x
e } 系とする)でのエネルギー運動量テンソルは
e
0e
 
Te粒子0
= mc2 δ 3 ⃗xe , それ以外のTe粒子 = 0

µ e
(10.31)

である。座標原点 ⃗
e = ⃗0 に mc2 のエネルギーが集中して存在していて、運動
x
量はすべて 0 と考えるとこうなる。これに逆 Lorentz 変換を行って等速直線運
動をする粒子のエネルギー運動量テンソルを作る。そのためには一般方向への
Lorentz 変換の行列(4.33)を(逆変換なので) β → −β の置き換えを行った行
→ p91

列(結果に関係ない部分は省略して ∗ で表現する)を使って、
Te粒子

µ e
の行列
     
⃗ x γ [β]
γ [β] ⃗ y γ [β]
⃗ zγ mc2 δ ⃗xe 0 0 0 ⃗ x γ [β]
γ [β] ⃗ y γ [β]
⃗ zγ
 ⃗x
 [β] γ ∗ ∗ ∗  
 0
 ⃗ x
0 0 0  [β] γ ∗ ∗ ∗  
 ⃗y   ⃗ y 
 [β] γ ∗ ∗ ∗  0 0 0 0  [β] γ ∗ ∗ ∗ 
⃗ zγ ∗
[β] ∗ ∗ 0 0 0 0 ⃗ zγ ∗
[β] ∗ ∗

†11
誰が電磁場に力を及ぼすのか? —もちろんここでの登場人物はあと一人しかない。この力は「粒子が
電磁場に及ぼす力」である。
†12
解析力学を使うと「作用の並進不変性」から運動量の保存則が出てくる。その立場ではまさに自然に
(10.30) が導かれるわけである。本書では解析力学までには立ち入らない。
240 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

 
γ2 ⃗ xγ2
[β] ⃗ yγ2
[β] ⃗ z γ2
[β]

  [β]⃗ xγ2 ⃗ [β]
x ⃗ xγ2 ⃗ [β]
x ⃗ yγ2 ⃗ [β]
x ⃗ z γ2 
[β] [β] [β] 
=mc2 δ ⃗xe  ⃗ y 2 ⃗ z γ2  (10.32)
 [β] γ ⃗ y [β]
[β] ⃗ xγ2 ⃗ y [β]
[β] ⃗ yγ2 ⃗ y [β]
[β] 
⃗ z γ2
[β] ⃗ [β]
[β] z ⃗ xγ2 ⃗ [β]
[β] z ⃗ yγ2 ⃗ z [β]
[β] ⃗ z γ2

のように計算を行う。デルタ関数の部分は電荷密度と電流密度の式のときと同
→ p198

  1 3 1
様に、 δ 3 ⃗xe = δ (⃗x − ⃗vt) と変わる(変換で が出ることに注意)。
γ γ
今考えている粒子が静止または等速直線運動しているのではなく、座標時

をパラメータにして ⃗ ⃗ (t) と表せる運動をしている場合、上の δ 3 (⃗x − ⃗vt) を


x=X
 
δ 3 ⃗x − X
⃗ (t) に直す(このあたりも4 元電流密度を考えたときと同様)。
→ p195

0 i
cγ = ⃗ i = γ[⃗v ]i =
, cγ[β] を使って T粒子 を 4 元速度で書き直すと、
µν

 粒子のエネルギー運動量テンソル 

µν
µ ν
1 3 
T粒子 =m δ ⃗x − X
⃗ (t) (10.33)
γ
 
0
と書くことができる。 µ = 0 の場合を考えると、 = cγ なので、

(τ ) 3    
ν

T粒子 = mc δ ⃗x − X
⃗ (τ ) = cP ν (τ )δ 3 ⃗x − X
⃗ (τ ) (10.34)

0ν ν
となって、T粒子 が 4 元運動量 P に c を掛けた量の密度であることが確認できる。
この式は(これまた電流密度のときと同様に)相対論的共変性が明白な式
→ p201

 粒子のエネルギー運動量テンソルの共変的表現 
Z µ ν
µν
T粒子 = mc δ 4 ({x∗ − X ∗}(τ )) (10.35)
 
に書き直すことができる。
µν
エネルギー運動量テンソルの 4 次元発散 ∂µ T粒子 を考えよう。4 次元発散を考
えるのだから、相対論的に共変な (10.35) を使うのがよい。
Z µ ν
µν (τ ) (τ )
∂µ T粒子 = mc ∂µ δ 4 (x∗ − X ∗ (τ )) (10.36)
10.2 粒子のエネルギー・運動量テンソル 241

∗ ∗ ∗
となる。微分はデルタ関数の中の x に掛かる(X (τ ) の方は「場所 {x } の関数」
µ
(τ )
ではない)。この式に現れた ∂µ δ 4 (x∗ − X ∗ (τ )) の部分は

µ
(τ ) d
∂µ δ 4 (x∗ − X ∗ (τ )) = − δ 4 (x∗ − X ∗ (τ )) (10.37)

†13
と書くことができる。右辺の微分を実際に実行 すれば左辺にたどり着く。
τ に関する部分積分を行うことにより、
 ν  τ1 Z ν
µν
∂µ T粒子 = −mc δ 4 (x∗ − X ∗ (τ )) + mc 2
δ 4 (x∗ − X ∗ (τ ))
τ0
(10.38)

となる(ただし、τ の範囲は τ0 から τ1 までとした)。今、時刻がある値 T を取っ


0 0
ているとすると、その時刻では X (τ0 ) と X (τ1 ) は cT には一致してないので、
Z
1
第 1 項は消える。第 2 項は δ (ct − cT (τ )) = のように τ 積分を行うと
c
結果は以下のようになる。
 ν  
µν
  d ν  
∂µ T粒子 = m 2
δ 3 ⃗x − X
⃗ (τ ) = m δ 3 ⃗x − X
⃗ (τ ) (10.39)


P ν は今考えている粒子の 4 元運動量である。
ν
†14
これは「空間積分すると 「4 元運動量の時間変化
になる量」つまり、 」

の密度である。その積分を式にすると、
Z X ν
µν (i)
∂µ T粒子 = (10.40)
ある領域
その領域内

が言える。この式と(10.24)と(10.25)を合わせた式
→ p236 → p238
Z X ν
(i)
µν
∂µ T電磁 =− を組み合わせると以下が成立している
ある領域
その領域内

ことがわかる。

†13 4         
δ x∗ − X ∗ (τ ) = δ x0 − X 0 (τ ) δ x1 − X 1 (τ ) δ x2 − X 2 (τ ) δ x3 − X 3 (τ ) に注意。4 箇所にある

τ を微分する必要がある。
†14
この「時間変化」の時間は固有時 τ ではなく座標時 t であることに注意。「4 元運動量の座標時間あた
りの変化」は 4 元力ではない。4 元力は「4 元運動量の固有時間あたりの変化」である。
242 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

 エネルギー・運動量の保存則 
 
µν µν
∂µ T電磁 + T粒子 =0 (10.41)

 

10.3 応力テンソル

ここまで、T 00 がエネルギー密度、T 0i が運動量密度 ×c と説明してきた。と


なると T ij の物理的意味が気になる人もいるだろう。この節でそれを説明する。T ij

の意味を知るために、 ∂µ T µj = 0 の意味を考える。

10.3.1 運動量の連続の式

T ij の意味を知るには、それが満たす方程式 ∂µ T µj = 0 の意味を知ればよ

い。この式は、電荷の連続の式(9.58) ∂0 (cρ) + ∂i j i = 0 と同様に、


→ p204
電荷密度の時間微分 電荷の流れ出し

 運動量の連続の式 

∂0 T 0j + ∂i T ij = 0 (10.42)
j 方向運動量密度の時間微分 j 方向運動量の流れ出し

 
†15 01
という意味を持つと解釈できる 。たとえば j = 1 の場合、T が「x 方向の

運動量 ×c の密度であり、T
i1
は「i 番目の方向に抜けていく x 方向の運動量の流
れ」になる。
『運動量の流れ』には二つの種類が考えられる。一つは「物体が移動してくる
†16
ことによる運動量の移動」であり、もう一つは「物体間 に力が働くことによ
る運動量の移動」である。
次の図の場合、どちらも境界線の右側で x, y 方向の運動量が増加し、左側で

†15 0j 1
T は「運動量密度 ×c」だが、この式の第 1 項の微分 ∂0 は ∂t なので、ちょうど c が消えて第 1 項
c
は「運動量密度の時間微分」になる。cρ の c が消えたのと同じ。
†16
ここでいう「物体」は質点や剛体に限らない、より広い意味に使っている。電磁場も力を及ぼしあえる
から、ここでいう「物体」の仲間である。
10.3 応力テンソル 243

は同じだけ運動量が減少する。

物体が移動してくること 物体間に力が働くこと
による運動量の移動 による運動量の移動

作用

反作用

この面を、 この面を境に、
運動量が通過した。 左側の運動量が減り、右側の運動量が増えた。

これらの現象のどちらも、「左の領域から右の領域へと運動量が移動した」と
ij
解釈できる。T はこの二つの意味での「運動量の移動」を表現する量である。
i j
添字 i, j は「x 軸に垂直な面を通過して移動する、x 軸の向きの運動量」を表す
ij
(後で示すが、T は添字 i, j に関して対称なので、この二つの役割は交換可能)。
→ p246

10.3.2 物体の移動による運動量の流れ

まずは物体が移動してくることによる運動量の
µ
移動を考えよう。質量 m(i) で 4 元速度 V(i) (i =
1, 2, · · · , N ) を持った N 個の粒子がそれぞれ、
時刻 t に位置 X ⃗ (i) (t) にいるとする。4 元運動量
密度は

X
N
µ 3
 
m(i) V(i) δ ⃗x − X
⃗ (i) (t) (10.43)
i=1

と表現できる。図のように、時刻 t の場所 (x, y, z)


に存在する微小な長方形(面積 ∆x∆y )を考え
て、微小時間 ∆t の間に、この微小面積を(z 軸正の向きに)抜けていく 4 元運
動量を計算するには、
N Z
X Z Z
z x+∆x y+∆y
µ 3
 
m(i) V(i) (t)δ ⃗x − X
⃗ (i) (t) (10.44)
i=1 v ]z (i) ∆t
z−[⃗ x y

という計算を行えばよい。
244 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

上の式のうち、質量に関係する部分を

X
N
 
ρ質 (t, ⃗x) = m(i) δ 3 ⃗x − X
⃗ (i) (t) (10.45)
i=1

と置き換える(ρ質 は質量密度。両辺とも「積分すると総質量になる」という式に
なっている)。同時に、場所 ⃗
x と時刻 t を指定すればその場所にいる粒子の 4 元
速度は一つに決まるとする(一つの場所にいろんな方向へ進む粒子が同時に存
µ
在することはないとする)。その 4 元速度を V (t, ⃗x) とすると、考えている量は
Z z Z x+∆x Z y+∆y
ρ質 (t, ⃗x)V µ (t, ⃗x) (10.46)
v ]z ∆t
z−[⃗ x y

v ]z ∆t に
[⃗ ∆x に ∆y に
置換え可 置換え可
置換え可

となる。微小範囲の積分なので、高次の微少量を無視すると、積分は単に範囲の
Z x+∆x
長さの掛算 f (x) ≃ f (x)∆x に置換え可能である。
x

積分結果を ∆t∆x∆y で割る(単位面積単位時間あたりにする)と、


1 ρ質 (t, ⃗x) z µ
ρ質 (t, ⃗x)[⃗v ]z V µ = ρ質 (t, ⃗x)V z V µ = V V (10.47)
γ γ
Vz
γ

と な り 、(10.33)の エ ネ ル ギ ー 運 動 量 テ ン ソ ル の T 成 分 に 対 し 、置 き 換 え
→ p240
 
⃗ (t) → ρ質 (t, ⃗x) を施した結果に一致する。つまり、(10.33)で求めた
mδ 3 ⃗x − X
→ p240

エネルギー運動テンソルの中には、ここで考えた「物体の移動による運動量の流
れ」が入っていたのである。
ρ質 (t, ⃗x)
ここで出てきた という量は「共動系での質量密度」と解釈できる。そ
γ → p200
∗ ∗
のことを説明するため「4 元質量流密度 {j質}」を(「4 元電流密度 {j }」に習って)
0
定義する。 j質 = cρ質 としたときの ρ質 が質量密度すなわち「単位体積あたりの
x
質量」で、j質 は「yz 面の単位体積を単位時間に x 軸正の向きに通り抜けていく
y z
質量」である(j質 , j質 も同様)。4 元電流密度同様に 4 元質量密度も 4 元ベクトル
となるので、共動系で (cρ質0 , ⃗0) という成分を持っているなら、速度 ⃗
v で運動し
ている系では (cρ質0 γ, ρ質0 ⃗
v γ) という成分を持つ。よって運動している系での ρ質
ρ質
は ρ質0 γ に等しい。逆に言えば、 = ρ質0 である。ρ質0 は座標系に依存しない
γ
10.3 応力テンソル 245

量である。なぜなら「そこにある物体がどんな運動をしていようと共動系(その
物体が静止する座標系)に移ってから測定した密度」というのがその定義だから
である(これは静止質量が「共動系に移ってから測定した質量」だから座標系に
依らないのと同じ)。ρ質0 というスカラー量を使えば
 静止質量密度を使った粒子のエネルギー運動量テンソル 

T µν = ρ質0 V µ V ν (10.48)
 
と書くことができる。スカラーと反変ベクトル二つの積なので、この量が 2 階の
反変テンソルとなる。
ij
ここで結果として応力テンソルは対称テンソル T = T ji となったことに注
意しておこう。実はこれには意味がある(後で説明する)。
→ p246

10.3.3 力による運動量の流れ

物体間に力が働くことによる運動量の移動を考えよう。連続的に分布した物
体を考えて、その物体の中に、次の図に示したような の仮想的な枠を考
え、この枠を微小時間 の間に通過する運動量を考える。
xx †17
この面には x 方向に単位面積あたり T の力 が
働いているとすると、境界の右側(正の側)の運動
量の x 成分は

T xx (10.49)
⾯積 の⾯
働く力

xy
だけ増加する。同じ面に、y 方向に T だけ
力が働いているとすれば、同様に y 方向の運動量が

T xy (10.50)

xx xy
だけ増加する。体積 の箱を考えると、T とT は次の
図のように働く力を表現していることになる。

†17 xx
この T は面が押し合う力を単位面積あたりにしたものだから、つまりは圧力である。
246 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

さらに z 方向の運動量の増減もある
の反作用
のだがそれは図が煩雑になるので省略
して、xy 平面の図として描くと、境界
面の右側と左側には右図のような力が
働いている。境界の左にある物質に働
の反作用 面積 の面
く力は境界の右にある物質に働く力と
作用・反作用の関係にある。
xx xy
体積 の微小な箱に働く T とT による力は次の図のようになる。

の反作用 の反作用

の反作用 の反作用

xx
微小な箱に働く力に着目すると、T による力は のように箱を押しつ
†18
ぶそうとする力 であると言える(箱の外に働く力に着目すると、
「箱が外を押
xy
す力」となる)。一方、T による力は であり、箱を のよう

に変形させようとする力(剪断応力)に対応する。
yx xy
なお、添字を逆にした T の表す力は となる。 T = T yx でないと

この「箱」は回転を始めてしまうので、エネルギー運動量テンソルには「添字に
†19
関し対称」という条件がつく 。

†18 xx xx xx xx
T > 0 の場合、T は「圧力」と解釈できる。 T < 0 の場合、−T が「張力の面積密

度」となる。「圧力」は力そのものではなく面積で割った「単位面積あたりの力」の意味であるので注意。
†19
エネルギー運動量テンソルが対称でないときは後で示す角運動量が(一見)保存しないという事態にな
→ p248
る。そういう場合は、ここで計算したエネルギー運動量テンソルでは表されてない「隠れた角運動量」が
あって、合計が保存するようになっている。
10.3 応力テンソル 247

µν
ここで ∂µ T = 0 の意味を図解しておこう。
ν = y として、z 軸方向を無視すると なので右の方が大きい

∂0 T 0y + ∂x T xy + ∂y T yy = 0 (10.51)
なので上の方が大きい

xy yy
が成り立つ。 ∂x T > 0 で ∂y T > 0 の場合
を図に描いたのが右の図である。この場合、全
0y
体として力が y 軸負の向きを向き、 ∂0 T <0
となる(y 軸向きの運動量が減少する)。
も っ と も シ ン プ ル か つ 理 想 的 な 応 力 の 例 は「 粘 性 が な く 等 方 的 な 圧 力 の
み が 存 在 す る 場 合 」で 、こ れ を 満 た す 物 質 は「 完 全 流 体 」と 呼 ば れ る 。完
xy
全流体には剪断応力がなく( T = T yz = T zx = 0 )、等方的な圧力が働く
xx
( T = T yy = T zz = P )。この場合のエネルギー運動量テンソルを求めるた
め、例によってまず流体が完全に静止している状態を考えると
 
ρ質0 c2 0 0 0
 0 P 0 0
Teµeνe −−→ 
 0
 (10.52)
行列 0 P 0
表示
0 0 0 P

。静止しているのだから流体の流れの 4 元速度が {Ve } = (c, 0, 0, 0)


†20 ∗
である
であることを考えると、テンソルの式では
 
1
Teµeνe = ρ質0 Ve µe Ve νe + P +η µeνe + 2 V µe V νe (10.53)
−時 c

と書ける。これを Lorentz 変換して運動する流体の式を出すことができる。こ


の式は Lorentz 共変だから、eを取るだけで、任意の座標系において
 完全流体のエネルギー運動量テンソル 
 
µν P
T完全流体 = ρ質0 + V µ V ν +P η µν (10.54)
c2 −時

 
となることがわかる。

†20
ここで現れた P も「共動系で測った圧力」と定義してあるのでスカラーである。
248 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

10.4 角運動量テンソル

10.4.1 角運動量テンソルを定義する

Newton 力学においては、運動量 p ⃗ = ⃗x × p
⃗ に対応して角運動量 L ⃗ (以下、
角運動量の中心はすべて原点とする)という物理量が定義された。そして相

⃗ が 4 元運動量 {P } へと拡張された。よって角
対論的力学では 3 次元運動量 p
運動量も 4 次元に拡張しよう。3 次元角運動量はベクトルであるが、成分は

[L] p]3 − [⃗x]3 [⃗


⃗ 1 = [⃗x]2 [⃗ p]2 のように計算される量であったから、

 4 次元角運動量 

Lµν = xµ P ν − xν P µ (10.55)
 
⃗ に対応する量となる †21 。
のように定義しておくと、L のような空間成分が L
ij

練習問題
µν
【問い 10-4】(10.55) を固有時で微分することで、トルクテンソル N µν =

を求めよ。 解答 → p330 へ

Z
4 元運動量は P µ = T µ0 のように「エネルギー運動量テンソルの体積
µ0 µ µν
積分」で書くことができた。いわば T が P の密度である。よって「L の密
度」となるような量として、 M
µν0
=x T µ ν0
−x T
ν µ0
を、さらに添字を一般
化した
 角運動量密度テンソル 

M µνρ = xµ T νρ − xν T µρ (10.56)
 
は µ ↔ ν の入れ替えに対し対称だった
†22 µν
を定義することもできそうだ 。T

†21 0i
となると、L は何に対応しているのだろう? と気になる人がいるかもしれない。解析力学および量
子力学において角運動量が「3 次元回転の生成子」であったことを思い出し、さらに「3 次元回転」の 4 次
0i
元への拡張が広義の Lorentz 変換であったことも思い出すと、L は「Lorentz ブーストの生成子」に
なる。
†22 00
p235 の FAQ で T の添字のうち片方は「密度」を表していて、対称テンソルだからどっちが「密
µν0
度」を表すかは気にしなくてよいという話をしたが、上の作り方からして、M に関しては M の最後
10.4 角運動量テンソル 249

にはこのような対称性はない。µ ↔ ν の入れ替えに対しては反対称
µνρ
が、M
†23
である 。
µν
エネルギー運動量テンソルは保存則 ∂µ T = F ν (F ν は外力の密度)を満
たしたが、角運動量テンソルはどうだろう? —計算してみると、

∂ρ M µνρ =∂ρ (xµ T νρ − xν T µρ )

=δρ µ T νρ + xµ ∂ρ T νρ − δρ ν T µρ − xν ∂ρ T µρ
=T νµ − T µν + xµ F ν − xν F µ (10.57)
外力によるトルクの密度

µν
となるので、 T = T νµ であれば外力のトルクに等しい。逆に T µν = T νµ
が成り立たないと外力によるトルクがなくても角運動量が保存しないことにな
る。ここまで出てきたエネルギー運動量テンソルはすべて対称であったので、角
†24
運動量は保存する 。

10.4.2 応力テンソルで考える直角テコのパラドックス

8.7 節で扱った直角テコのパラドックスの解答を、応力テンソルを使って考え
→ p177

てみよう。
テコのうち、y 方向の棒の、さらに図に示した
面積
一部分だけを取り出して考えよう。図に書いた

e の場所に「指による力」が掛
天井部分の面積 S
かっている。
点1

これまでテコの上端(点 1)で働く力を と表現していたが、


この力の掛け方だと計算しにくいので、 のように、「側面に指

を押し付けて押す」という形にする(指が直接剪断応力を加えている)。
テコは静止または等速直線運動しているので、棒のどの領域を取り出して
も 力は つり あ って い なく ては いけ ない 。テ コを 右

の添字 0 が密度である。
†23 µνρ ρµν
M の添字はこの順番ではなく、M の順で定義している本もある。
†24
エネルギー運動量テンソルが対称でなかった場合、対称になるように修正する方法が知られている。
250 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

の図のように領域に分割して考えると、各々の領域
の天井に働く力は、領域の床に働く力(逆向き)と 手 と同じ
大きさの力
作用・反作用
のようになって打ち消しあう(天井 この力がないと
つりあわない。
と床以外の面は接する物体がないので x 方向の力は

....
ない)。よって、棒のどの位置の x-z 面で切り出して
も、x 方向に働いている力は等しい。 力の大きさは
ずっと一定
eye
力 f手 の単位面積あたりの密度が −T である 。
x †25

T をテコの断面 Se 全体で積分すると、断面に x 方向に働いている力になるの


ey
x e

で、棒のどの x-z 面の断面においても、


Z
Texeye = −f手 (10.58)
e
S

†26
が成り立っている 。
(8.68)で示したように、{x∗} 系ではこの棒が y 方向の運動量を持つことが、直
→ p181
0y
角テコのパラドックスを解く肝であった。y 方向の運動量を計算するため、T
を計算してみよう。x 方向の Lorentz ブーストを行うと、y 方向と ye 方向成分は
Lorentz 変換を受けないので、
 e

T 0y = γ T 0ye + βT xeye = γβT xeye (10.59)
0

がわかる。これを棒全体で積分すると棒の持つ y 軸向きの運動量がわかる。ま
ず x, z の積分を行うと
Z Z
T 0y = γβ T xeye (10.60)
S S

である。z 積分は (10.58) の ze 積分と同じだが、x 積分の範囲は Lorentz 短縮に


p 1
e 積分の範囲に比べ
より x 1 − β2 = 倍に縮んでいる。結果として積分の結
γ
果は −f手 β になる。さらに y 方向に長さ L の積分を行うので、
Z
T 0y = −f手 βL (10.61)
棒全体

†25 ey
x e
マイナス符号をつけるのは、f手 が正の T の場合と逆向きだから。

†26 f手 ey
x e
剪断応力は場所に依らずに一定ではないので、 =T のような単純な関係にはなってない。
S
10.5 応力テンソルと電磁力の関係 251

となる。これが「運動量 ×c」であるから、運動量は
fv
Py = − L (10.62)
c2
となる。これは8.7 節で得た(8.68)に一致する。この運動量が x 軸正の向きに移
→ p177 → p181

動することにより、角運動量が時間変化することになる。

10.5 応力テンソルと電磁力の関係

応力テンソルから、電荷や電流が電磁場から受ける力を求めることができる。
それを計算して確認しておこう。

10.5.1 点電荷の受ける静電気力

外部から E外 ⃗ex という外部電場がかけられている空間の原点に電気量 Q の点


電荷が静止しているとしよう。この空間での電磁場のエネルギー運動量テンソ
ルを考えると、電荷に働く Coulomb 力が導出できる。
†27
点電荷がある場合の電場は次の図のようになる(図の上が x 軸正の向き) 。

外部電場と電荷による電場が足された結果

電場を式で表すと

⃗ = E外 ⃗ex + Q
E (x ⃗ex + y ⃗ey + z ⃗ez ) (10.63)
4πε0 r3
xx
であり、x 方向の圧力を表現する T を計算すると
 2  2  2 !
ε0 Qx Qy Qz
T xx
= − E外 + + + (10.64)
2 4πε0 r3 4πε0 r3 4πε0 r3
†27
このあたりの図は「イメージ図」で、厳密な計算のもとに描かれたものではない。
252 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

となる。
以下で我々は −L < x < L の領域を切り出して、この領域に働く力を計算す

る。もちろん実際には切れないのだが、頭の中では x = ±L の面で上下に切り
離して(空間を三つに分けて)考えていこう。
電荷を含む領域 −L < x < L の上下の面(天井と床)には電場の応力として
互いを引っ張り合あったり押し合ったりする力が働いている。


の積分結果が
この領域の境界面で 負になる場合で
図を描いている
働く力を考える。

xx
上の図では面に働く力を「引き合う力」として表現した(T の積分結果が負
†28
になるのでそうなる) 。

Z ∞ Z ∞
x = L で上と引き合う力 − T xx (x = L, y, z) (10.65)
−∞ −∞
Z ∞ Z ∞
x = −L で下と引き合う力 − T xx (x = −L, y, z) (10.66)
−∞ −∞

なので、結局考えている領域に上向き(x 軸正の向き)に働く力は (10.66) の方


の符号を反転して足して
Z ∞ Z ∞ Z ∞ Z ∞
− T xx (x = L, y, z) + T xx (x = −L, y, z)
−∞ −∞ −∞ −∞
Z ∞ Z ∞
= [−T xx (x = L, y, z) + T xx (x = −L, y, z)] (10.67)
−∞ −∞

となる。[ ] 内の引き算によって多くの部分が消える。これは上下方向(x 方向)


の力であるが、下の問いでわかるように、y, z 方向の力は積分すると 0 になる。

†28 xx
以下の計算では二つの面での T の積分を合わせた量しか計算しない。各面ごとに計算すると、一定
の外部電場 E外 が無限の領域に存在するので、−∞ になってしまうだろう。
10.5 応力テンソルと電磁力の関係 253

練習問題
【問い 10-5】 x 方向に垂直な面(yz 面)に働く剪断応力の密度である T xy , T xz
を 計 算 し 、こ れ ら を x = ±L の 面 で 積 分 す る と 0 に な る こ と を 確 認 せ よ 。
ヒント → p??へ 解答 → p??へ

(10.67)の括弧内の計算をすると、(10.64)の T xx のうち、E外 の 1 次に比例す


→ p252 → p251

る項以外は効かないことがわかる。実際計算してみると、
   2  2 !
ε0 QL QL QE外 L
(10.67)の 内= E外 + 3
− E外 − 3
= 3
→ p252 2 4πε0 r 4πε0 r 2πr
(10.68)

となる(y, z 成分の項は消える)。後は y, z を −∞ から ∞ で積分した


Z ∞ Z ∞
E外 L 1
3 (10.69)
2π −∞ −∞ (L + y 2 + z 2 ) 2
2

r2
p
を計算すればよい。 z = L2 + y2 tan θ と置換積分して、
Z ∞

−∞

Z ∞ Z π √
QE外 L 2 L2 + y 2 1
=
2π −∞ −π cos2 θ  3
(L2 + y 2 )(1 + tan2 θ)
2
2

Z ∞ Z π
1
QE外 L 1 2
= cos θ cos2 θ
2π −∞ L2 + y 2 −π
2

π
[sin θ]−2 π = 2
Z ∞
2
QE外 L 1
= (10.70)
π −∞ L + y2
2

となる。続けて y = L tan ϕ と置換し、


Z ∞

−∞

Z
QE外 h i π2
π
QE外 L 2 L 1
= 2 = ϕ = QE外 (10.71)
π −π
2
cos2 ϕ L2 (1 + tan ϕ) π −π 2

1
†29 cos2 ϕ
と積分が終わる 。
†29
結果が L に依らないことに注意。つまりどのような線で切り出しても結果は変わらない。
254 第 10 章 電磁場のエネルギー運動量テンソル

この力(Maxwell 応力の和)があるため、もし電荷 Q に他に力が働いていな


いなら、電荷は加速を開始し、静止していられない。静止しているということは
すなわち、電磁気力以外の外力(大きさは QE外 )が −x 方向にはたらいている。

10.5.2 電流と外部磁場

x 軸上に電流 I を流すと、できる磁場は

⃗ = µ0 I(−z ⃗ey + y ⃗ez )


B (10.72)
2π(y 2 + z 2 )

である。これに外部から y 軸向きの磁場 B外⃗ey をかける。合成すると図のよう


な磁場ができることになる。

この磁場による Maxwell 応力は、 −L < z < L の領域に +z 方向の力を及ぼ

す。図を見ても z < 0 の領域の方が磁力線の密度が高いから圧力が大きくなっ


て上に押されるだろう」という判断ができるであろう。
具体的に計算しよう。全体の磁場は
 
µ0 Iz µ0 Iy
⃗ =
B B外 − ⃗ey + ⃗ez (10.73)
2π(y 2 + z 2 ) 2π(y 2 + z 2 )

であり、この磁場による応力テンソルの zz 成分は
1  
⃗ y )2 − ([B]
⃗ x )2 + ([B] ⃗ z )2
T zz = ([B]
2µ0
 2  2 !
1 µ0 Iz µ0 Iy
= B外 − − (10.74)
2µ0 2π(y 2 + z 2 ) 2π(y 2 + z 2 )

である。10.5.1 項の場合と同様に、 z = L の面での積分と z = −L の面での


→ p251

積分の差を計算する。今度は x 方向の長さも有限で切ることにして、 z = ±L
を固定して x に関しては 0 から ℓ まで、y に関しては全領域で積分する。
10.6 章末演習問題 255

10.5.1 項の場合と同様に B外 について 0 次の項と 2 次の項は z = L の寄与と


→ p251

z = −L の寄与が消し合い、
Z ℓ Z ∞
B外 Iℓ
= B外 Iℓ (10.75)
0 −∞ π(y 2 + ℓ2 )

となる。y 積分は10.5.1 項と同様に実行できる。


→ p251

これは導線の長さ ℓ に対して B外 Iℓ の力がこの領域に対して働くことを意味す


フレミング
る。いわゆる「Flemingの左手の法則」による力は以上のように電磁場の応力か
ら導出できる。

10.6 章末演習問題
★【演習問題 10-1】
10.5.2 項の電流を「x 方向に速さ v で移動する電荷 Q」に置き換えてみよう。この場合
→ p254

の磁場は

⃗ =B外 ⃗ey + Q
B βγ (−z ⃗ey + y ⃗ez ) (10.76)
4πε0 cre3

である。応力テンソルを考えてこの電荷に働く力が QvB外 であることを示せ。


ヒント → p3w へ 解答 → p14w へ
付録 A

Michelson-Morley の実験

A.1 実験の概要
マイケルソン
Michelsonは以下で説明する原理の実験を、
モーレー
1881 年に最初に M.-M. の実験

行っている。以後、1887 年からはMorleyと協同で装置を改良し、
実験精度を上げながら実験を続けている。当時、光は「エーテル」
なるものの振動であると考えられていた。実験の目的は、南北方
向の光と東西方向の光の速度を比較することでこの「エーテル」
が地球から見て動いている(エーテルの風が吹いている)かどう
かを知ることである。地球は南北方向より東西方向に大きく動い
ているであろう(太陽が静止していると考えて、太陽から地球の
SRBasic/MM0
運動を見ていると考えればこれはもっともらしい)から、速度に
は差が出てきそうに思える。また、たとえそうでなく、たまたまエーテルの流れと地球の
自転公転の速度が一致していたとしても、地球は約 1 日の間に 1 自転し、1 年の間に 1 公転
する。長い時間実験を行えば、ほとんどの場合エーテルの風は吹いているだろう。
当時の技術では目的に必要な精度で直接的に光速を測定はでき

なかったので「二つの光の時間差があるかどうかを測定する」と


いう方法を使っている。実験の概要を説明しよう。Michelson と 北

Morley の実験では、右の図のように、同じ光をハーフミラーで 向

二つに分けて、同じ長さの腕 2 本の上を光が往復する(南北と東
西の経路の端に鏡があって反射させる)。 鏡
←東西方向→
エーテルが実験装置に対して静止していると考える。実験装置

 南北方向は L 実験装置がエーテルに対し
南北 †1 止まっている状態
の腕の長さを とすると、帰ってくるまでに
 東西方向を L
東西


 t南北 = 2L南北 /c
かかる時間は となるだろう。二つの L が等しいなら、時間差は 0 で

 t東西 = 2L東西 /c

†1
後で述べるように、実際の実験装置は水平に回転して、腕の方向が変えられるようになっていた。
A.2 実験の目論見としての計算 291


 エーテルが静止していて、観測装置が右(東向き)に動いている場合
ある。しかし、
 エーテルの風が図で左(西向き)に吹いている場合

(この二つは見方の違いで同じ現象である)を考えると、この時間差は 0 ではなくなる。

A.2 実験の目論見としての計算
断っておくが、以下の計算は Galilei 変換が正しいと仮定した場合の計算である †2 。こ
の仮定のもとで、2 種類の計算を行おう。一つはエーテルが静止して実験装置が右(東)に
動いているという立場であり、もう一つは実験装置が静止してエーテルの風が西向きに吹
いているという立場である。
エーテルが静止している立場: まず、
エーテルが静止している立場で考えよう。この立場
では、実験装置が右へ動いている。その立場で書い
たのが右の図である。実験装置がエーテルに対して
速度 v で東(図で右)に運動しているとして、南北
方向へ進む光について考える。
中央から棒の北端まで光が進むのに t かかったと
しよう。この間に光は ct だけ、実験装置は vt だけ 実験装置がエーテルに対し運動している状態
進む。
左の図に対しピタゴラスの定理を使うと (ct)2 = (vt)2 + L2 が成立す

る。光が往復にかかる時間は t の 2 倍なので、
2L
t南北 = √ 南北 (A.1)
c2 − v 2

となる。
次に東西である。まず中央から棒の端まで光が進むのに t1 かかったとする。その間に棒
も vt1 進んでいるので、光は L + vt1 進まねばならない。逆に棒の端から中央まで戻る時
に t2 かかるとすると、進む距離は L − vt2 でよい。以上から

L東西 + vt1 = ct1 (A.2)


L東西 − vt2 = ct2 (A.3)

を解くことにより
L東西 L 2cL
t東西 = + 東西 = 2 東西2 (A.4)
c−v c+v c −v

が求まる。この立場では、光速は c である。実験装置が動いていることにより、光が到着
する時間がずれることが、上の式の分母が c ではなく c ± v になるという効果として現れ
ている。
†2
後でこう考えたのではいけないことがわかるのだが、それは「仮定」が間違っていたのであって、以下
の計算自体は正しい。
292 付録 A Michelson-Morley の実験

実験装置が静止している立場 :この場合はエーテルの風に乗った方向(西行
き)では光速が c + v になり、逆風の方向(東行き)では光速が c − v になると考えて計算
する。
また、エーテルの風と直角の方向
(北行きもしくは南行き)の光は、速
p エーテルの風が
なかった時の光の速度
度が c2 − v 2 に減る(速さ c で斜
めに進んだ光が、速さ v で東に流さ
エーテルの風
れると考えれば、ピタゴラスの定理
でこうなることがわかる)。
風の中の光の速度
このように考えると、距離 L を速
p
さ c + v, c − v, c2 − v 2 でそれぞ
れ割って足し算するという計算で t東西 や t南北 が計算できる。結果は(A.1) と(A.4) と同じ
→ p291 → p291

になるのはすぐにわかる。
以上、どちらの計算でも t東西 と t南北 が得られる。そして、この二つには差がある。v は
c より十分小さいとして近似を行うと、
  2    2 
2L南北 1 v 2L東西 v
t南北 ≃ 1+ + ··· , t東西 ≃ 1+ + ··· (A.5)
c 2 c c c
 2 
v
に な る 。こ こ で 、t南北 も t東西 も 、速 度 v の 効 果 が O で出ていることに注意し
c
よ う 。こ れ は 往 復 す る 光 の 時 間 を 考 え て い る か ら で 、た と え ば(A.4) の 行 き の 時 間
→ p291
 
L東西 L v
= 東西 1+ + ··· の み( 帰 り の 時 間 の み で も よ い )を 間 接 的 に で も 測
c−v c c
 
v
定することができれば、効果は O になる。
c
 2
2L 1 v
二つの L が等しく L東西 = L南北 = L が成り立つならば、t南北 と t東西 に ×
c 2 c
ぐらいの差が出る。c が自転(約 0.46 km/s)や公転(約 30 km/s)に比べて非常に大き
v
い(約 30 万 km/s)ため、 は公転速度をとったとしても 10−4 程度の値になる。最初の
c
実験では L = 3 m ほどだったので、時間差は

2 × 3m 1  −4 2
∆t = × 10 ≃ 10−16 s (A.6)
3.0 × 10 m/s
8 2

となり、10−16 s 以上の精度での時間の測定が必要となる。
実際の実験では時間を直接測定するのではなく、光の干渉を用いて到着時間が変化する
様子を見定めようとした。一つの光をハーフミラーなどを使って二つに分離したのち重ね
ヤング
てスクリーンにあてると、Youngの実験や Newton リングの実験などと同様に、二つの光
の光路差によって干渉が生じ、スクリーン上に縞模様ができる(実際に使う光はある程度
の広がりがある)。エーテルの風が吹いている時と吹いてない時では光路差が違うので、干
渉の(強め合うとか弱め合うとか)の条件が変化する。10−16 s という時間は短いが、光
A.2 実験の目論見としての計算 293

路差に直すと、 c = 3.0 × 108 m/s がかかって 3.0 × 10−8 m となる。光としてナトリ

ウムランプを使ったとしたらその波長 6 × 10−7 m に比べ、だいたい 20 分の 1 となる。こ


の光路差の違いは干渉縞の移動という形で感知できる。
実験装置は 90 度回転できるようになっており、回転しているうちに南北と東西が入れ替
わる。光路差はプラスからマイナスへと、この倍変化するので、波長の 10 分の 1 程度光路
差が変化する。ということは明線から明線までの距離の 10 分の 1 (明線から暗線までの
距離の 5 分の 1)の干渉縞の移動が見られるはずであった。実験で感知できるのはあくま
で「光路差の違い」であって、
「光路差」そのものがいくらかはわからないことに注意せよ
(実際に実験によって測っているのは干渉縞の位置であって、干渉で強めあっているからと
言って光路差 0 とは限らない)。実験装置を 90 度傾けるのは、他の状況を変えずにエーテ
ル風の角度だけを変えて、その時の光路差の変化の様子を知るためである。
ところが、実際にはそのずれが観測されず、エーテルの風は吹いていない、という結論
になった。Michelson と Morley、あるいは別の人々が実験装置を大きくしたり、光を何
度も反射させて L を大きくしたりして、いろんな実験を行ったが、結果は常に予想される
移動量よりも小さく出た(この移動は誤差の範囲内)。
いくつか、この実験結果への反論(および反論の反論)を紹介しておこう。

【FAQ】運動しながら光を出せばその光の速度は c ではないのでは?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
つまり「実験装置が動いている場合の計算で速度を c にしているのが間違いなの
ではないのか」ということだが、例えば音の場合、音源が動いているからと言って
音速は変化しない。音速が変化するとしたら、風が吹く(つまり媒質が運動する)
か、観測者が動くことによってみかけの音速が変化するか、どちらかであり、音
源の運動により音速が変化することはない †3 。今は媒質が運動しているかどうか
を観測する実験をやっている。t東西 の計算では c + v や c − v が現れているが、こ
れは光速が変化しているのを意味しているのではなく、棒の両端(光源ではなく、
光を受ける方)が動いているために到達時間がのびたり縮んだりしていることの
あらわれである。式(A.2) と式(A.3) の作り方をよく見てみよう。
→ p291 → p291

【FAQ】たまたま、エーテルの移動と地球の移動が同じ方向だったのでは?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だとしたら、その 6 ヶ月後に同じ実験をしたら、公転速度の二倍分、エーテルに
対して地球は移動しているはずである。しかし、そんなことはなかった。

†3
「光でも本当にそうか?」という疑問はあるかもしれないが、高速で公転している二重星から出る光が
同じ時間差で到着しているかどうかの観測データなど、光速が光源速度に依らないことを示す証拠はある。
294 付録 A Michelson-Morley の実験

【FAQ】エーテルが地球といっしょに運動しているのでは?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この実験だけを説明するのなら、「エーテルは地球表面といっしょに運動してい
るので、地球上で実験してもエーテルの運動は検出できない」という考え方でも
説明できる。しかし、そうだとすると地球表面でエーテルが渦巻くような流れを
作っていることになり、外から地球にやってきた光は、地表面近くのエーテルの
流れに流される。これでは、我々が見ている星の位置は、地上のエーテルの流れに
流された分ずれることになってしまう。しかし、そんな現象は確認されていない。
また、Michelson と Morley は屋外での実験も行っており、「部屋の中のエーテル
は部屋と一緒に動いている」という考え方も正しくない。

【FAQ】実験の精度が悪かったのでは?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
実験というのは、「これを判定するためにはこれだけの精度が必要である。ゆ
えにこのように実験装置を組み立てる」という計画を持って行うものである。
Michelson らも、上に書いたような「光の干渉縞はどれだけ移動するはず」という
予想をもって、誤差の精度がその予想より小さくなるように注意して実験を行っ
ている。正しい実験家は、精度が確保できないような実験は最初から行わない。だ
から「古い実験だから精度が悪い」ということはない。また、この実験自体は現在
でも(光にレーザーを用いるなど、さまざまな改良をしたうえで)行われているの
で、「古い実験だから」という反論は、そもそも成立しない。

A.3 古い意味の Lorentz 短縮


Michelson-Morley の実験でエーテルの速度が検出されなかったことは、物理学者たち
 2 s
フィッツジェラルド v
に衝撃と困惑を与えた。FitzGeraldと Lorentz は t東西 と t南北 が 1 − 倍違うこと
s  2
c
v
から、「東西方向の棒の長さは 1 − 倍に縮んでいる」という説を唱えた。これが
c
古い意味での「Lorentz 短縮」である †4 。
Lorentz は、この短縮は観測できないと述べている †5 。なぜなら、この短縮を観測しよ
†4
「Lorentz-FitzGerald 短縮」と呼ぶこともある。
s  2
†5 v v −4 −8
そもそも、この短縮の割合は 1 − であり、 が 10 程度だから、縮む割合は 10 程度
c c
となる。この精度で長さを測定すること自体が難しい。だが、測定できないのは精度の問題ではない。
A.4 章末演習問題 295

うとして物差しをあてると、その物差しも一緒に縮んでしまう。また、目で見ようとして
も、見ようとする目自体も横に短縮している。よって地上で、同じ速さで走っている我々
が Lorentz 短縮を測定することはできない。地球の外から見れば見えるだろう? —これ
には「見える」とは何かという問題がある(【演習問題4-3】およびその前を参照)。
→ p81

本によっては、
「Lorentz 短縮」を特殊相対論の帰結である、と説明しているが、Lorentz
はあくまで実験を説明するために ad hoc†6 にこの短縮を導入したのであって、特殊相対論
の帰結として理論的に導き出したわけではない。
もう一つ注意しておく。この Lorentz 短縮という考え方では、Michelson-Morley の実
験について説明することは可能だが、そのほかの実験を説明するにはこれでは足りない。
「Lorentz 変換」はその一部として「Lorentz 短縮」と同様の現象を含んでいるが、より広
い意味がある。
「Lorentz 短縮」も「Lorentz 変換」も、Einstein ではなく Lorentz の名前がついている。
どちらも Einstein より前に Lorentz が(短縮に関しては FitzGerald も)提案しているか
らである。しかし Lorentz および FitzGerald は少なくとも提案した当初は、
「Lorentz 短
縮」を、例えば「エーテルの圧力によって物体が縮む」というような、力学的な意味での
短縮だと考えていた。「Lorentz 変換」に関しても「こう考えればうまくいく」という提案
であって、その意義を理解してはいない †7 。
Michelson-Morley の実験を解釈するには、単なる Lorentz 短縮では足りず、時間に関
するもっと大胆な座標変換が必要となる。それがどんなものかは、本編の方で解説する。

A.4 章末演習問題
★【演習問題 A-1】
Michelson-Morley の実験で、二つの腕の長さ L南北 と L東西 を変えたとしよう。このと
きはエーテル風が吹いていない状態でも時間差がある。エーテル理論の立場に立ち(つま
り Galilei 変換を用いて、光速は変化するという立場にたって)エーテル風が吹いていない
場合の時間差と、エーテル風が吹いている場合の時間差を計算し、Lorentz 短縮が起こっ
たとしても、この二つが違う値を持つことを確認せよ。
ケネディ ソーンダイク
(註:このような実験は 1932 年にKennedyとThorndikeによって行われている。
「エーテル風の分だけ光速が変化しているが Lorentz 短縮が起こっているので Michelson-
Morley の実験ではそれがわからない」という仮説が正しいなら、この時間差は測定
できるはずであるが、できなかった。ということは、Lorentz 短縮だけでは実験結果
を説明することはできない。Lorentz 変換ならば、この実験も含めて説明できる。)
ヒント → p??w へ 解答 → p??w へ

†6
「その場しのぎ」という意味の言葉。科学でなにかの現象を説明するために急ごしらえで作った説を
「ad hoc 仮説」などと言う。
†7
特に Lorentz 変換に現れる時間に関して、Lorentz は「実際の時間とは関係ない架空のもの」と考え
ていたようである。
付録 B

数学的補足

B.1 ベクトルと行列
B.1.1 基底ベクトルとベクトルの表現
ベクトルの定義にはいろいろあるが、非常に広い定義として「足し算と定数倍(この二
つをあわせたものを「線形結合」と呼ぶ)ができるものがベクトルである」を採用する
と、任意のベクトルは「基底」と呼ばれる基本的なベクトルの線形結合で書ける。例えば
 
a
我々がベクトルと言われて最初に思い浮かべるのは (a, b, c) あるいは  b  のような「成
c
⃗ = a⃗ex + b⃗ey + c⃗ez のように「基底ベクトル
分」を並べた書き方であろうが、これは V

⃗ex , ⃗ey , ⃗ez の線形結合」としてベクトルを表現したときの、基底を省略した書き方である。


本書では、A ⃗ の x, y, z 成分をそれぞれ [A]
⃗ x , [A]
⃗ y , [A]
⃗ z と表記 †1 し、3 次元ベクトルを

⃗ = [A]
A ⃗ x ⃗ex + [A]
⃗ y ⃗ey + [A]
⃗ z ⃗ez のように書く。

⃗ x ⃗ex + [A]
「[A] ⃗ y ⃗ey + [A]
⃗ z ⃗ez 」は座標系に依らない表現になっていることに注意しよ
⃗ x , [A]
う。座標変換すると [A] ⃗ y , [A]
⃗ z も ⃗ex , ⃗ey , ⃗ez もそれぞれの変換則に従って変換され、
⃗ 全体は不変になるのである。同じベクトルであっても、どんな基底で表現す
結果として A
るかにより見かけは違うが、物理的内容は表現に関係なく存在しているはずである †2 。

B.1.2 行列の積
" # " #
a b x †3
行列 A = と列ベクトル ⃗
x= の計算のルールは、
c d y

†1
多くの本では Ax , Ay , Az と書かれる。
†2
相対論ではよく問題になる「共変ベクトルと反変ベクトルの違い」も、基底の違いである。
†3
縦に並んでいるのを「列ベクトル」 、横に並んでいるのを「行ベクトル」と呼ぶ。漢字「行」「列」は横
線 2 本、縦線 2 本をそれぞれ含むので、 「縦線が含まれている『列』が縦のベクトル」と覚えておくとよい。
B.1 ベクトルと行列 297

この行と

この列の内積が これ
" #  " #
a b  x  ax + by
=
c d y cx + dy
" #  " # (B.1)
a b ax + by
 x =
c d y cx + dy
この行と
これ
この列の内積が

" # " #
a 1 1 a 12 x1
である。成分を添え字で区別することにして、行列 A を 、ベクトル ⃗
xを
a 2 1 a 22 x2
と添字を使って表現する。a行列 のように(a12 が 1 行目の 2 列め)添え字がついている。
すると上の式は、 この行と

この列の内積が これ
    
1 1 1 1 1 1 2
 a 1 a 2  x  =  a 1 x + a 2 x 
2
a 21 a 2 2 x a 21 x 1 + a 22 x 2
     (B.2)
a 11 a 1 2 1 a 11 x 1 + a 12 x 2
  x  =  
2
a 21 a 2 2 x a 2 1 x 1 + a 22 x 2
この行と
これ
この列の内積が

となる。左辺はEinstein の規約を使った表現では、aij xj と表す。行列を掛算するという


→ p29

のは、内積の計算の繰り返しだと考えることができる。
" # " # " #
a 11 a 12 b 11 b 12 c 11 c 12
A= と B= の掛算の結果が C = になる、と
a 21 a 22 b 21 b 22 c 21 c 22

いう行列の掛算も同様で

この行と
この列の内積が これ
    
1 1 1
 a 1 a 2
1
 b 1 b 12   c 1 c 12
  = 
2
a 21 a 2 2 b 1 b 22 c 21 c22
この行と
この列の内積が
これ
(B.3)
この行と
この列の内積が
これ
    
1 1 1
 a 1 a 2
1
 b 1 b 12   c 1 c12
  = 
2
a 21 a 2 2 b 1 b 22 c 21 c 22
この行と
この列の内積が これ
298 付録 B 数学的補足

のように計算される。添字を使った表現では、

a i j b j k = ci k (B.4)

となる。左にある行列 a行列 の後ろの添字である「列」と、右にある行列 b行列 の「行」が j と


いうダミーの添字になり、等しい値を取るようにして和が実行される。こうなってないと
AB という行列計算と一致しない。
j
前の行列 (aij ) の後ろの添字(この場合 j のこと。列に対応)と後ろの行列 (b k ) の前の
添字(同じく j のこと。行に対応)が揃えられて足し算されていることに注意せよ。以上
のように、行列計算と添字付き量の計算の間の翻訳をする時には、添字の付き方に注意す
ることが必要である。「前の量の<後ろの添字>と後ろの量の<前の添字>で和が取られ
ている」時、素直に行列のかけ算に書き直せる。それ以外の時は転置などをとることが必
要である。
添字付きの表現も行列の表現も大事なので、どれも使えるようになって欲しい。例えば、
行列で書いて
 " #
h i a11 a12 X 1
x 1
x 
2 
2 (B.5)
a21 a22 X

となる式は、和記号を使った書き方およびEinstein の規約を使った書き方では、
→ p29

X
xi aij X j または xi aij X j (B.6)
i,j

となる。ここでも添字のどことどこを揃えるかというルールがあるが、足し上げる添字に
線を引いて示す時「揃えて足し上げる添字をつないだ線が交差しないように」足し上げる
と行列やベクトルの掛け算と一致する。
行列で書いた時は、「 AB ̸= BA なので順番を変えてはいけない!」と言われる。添

AB は i 行 k 列成分が aij bj k である行列
字を使った記法で書くと、 である。この二

BA は i 行 k 列成分が bij aj k である行列

j
つはあきらかに違う。しかし、 aij b k = bj k aij は正しい †4 。

行列の時の「掛け算の順序」という情報は「どっちの添字が足し上げられているか」と
j
いう点に込められている。aij とか b k とかは一つの成分であるから、順番はどうでもい
い(この「順番を気にしなくてもよい」というのはテンソルのありがたいところ。その代
j
わり、「添字のついている場所を変えると別の量 aij ̸= a i である」ことに注意。

†4
「順番を変えてはいけない」とルールを覚えるのではなく、「なぜこの場合は順番を変えてはいけない
のか(あるいは、いいのか)」まで、把握しておくことが大事である。
B.1 ベクトルと行列 299

j j
添字を揃えての和である a i b k は、行列で表現したときに
" #" #
a 1 1 a 21 b 1 1 b 12
(B.7)
a 1 2 a 22 b 2 1 b 22

という計算をしていることになる(添字の違いに注意せよ!)から、行列としては A⊤ B
j
である。本書の計算の中では aij bik c ℓ のような式が現れるのだが、この式は

aij bik cj ℓ = bik aij cj ℓ = (b⊤ )ki aij cj ℓ (B.8)

のような並べ替え(b を前に出す)を行って、かつ b → b⊤ と転置を取ることで「行列の正


しい掛算の形」になる。

B.1.3 直交座標と極座標の関係
3 次元直交座標 (x, y, z) と 3 次元極座標 (r, θ, ϕ) の関係は

x = r sin θ cos ϕ, y = r sin θ sin ϕ, z = r cos θ (B.9)

となる。それぞれの方向の単位ベクトルの間の関係は

⃗er (⃗x) = sin θ cos ϕ ⃗ex + sin θ sin ϕ ⃗ey + cos θ ⃗ez
⃗eθ (⃗x) = cos θ cos ϕ ⃗ex + cos θ sin ϕ ⃗ey − sin θ ⃗ez (B.10)
⃗eϕ (⃗x) = − sin θ sin ϕ ⃗ex + sin θ cos ϕ ⃗ey

er は「r が増える方向への単位ベクトル」である(⃗eθ , ⃗eϕ も同様)†5 。行列では


である。⃗
    
⃗er (⃗x) sin θcos ϕ sin θsin ϕ cos θ ⃗ex
    
 ⃗eθ (⃗x)  =  cos θcos ϕ cos θsin ϕ −sin θ  ⃗ey  (B.11)
⃗eϕ (⃗x) −sin ϕ cos ϕ 0 ⃗ez
R
と表現される。直交変換なので逆変換は
    
⃗ex sin θcos ϕ cos θcos ϕ −sin ϕ ⃗er (⃗x)
    
 ⃗ey  =  sin θsin ϕ cos θsin ϕ cos ϕ  ⃗eθ (⃗x)  (B.12)
⃗ez cos θ − sin θ 0 ⃗eϕ (⃗x)

R⊤
となる。このときベクトルの成分は
    
r ⃗
[A] sin θcos ϕ sin θsin ϕ cos θ ⃗x
[A]
 ⃗θ   ⃗ y 
 [A]  =  cos θcos ϕ cos θsin ϕ −sin θ  [A]  (B.13)
⃗ϕ
[A] −sin ϕ cos ϕ 0 ⃗z
[A]
R
†5
er は場所によって違う方向を向くので、(⃗x) をつけて ⃗
⃗ er (⃗x) と書く。実は r, θ, ϕ のうち r には依らな
いので、⃗er (θ, ϕ) と書く方が正しいかもしれない。
300 付録 B 数学的補足

のように、同じ R で変換される。
   
r ⃗
[A] x ⃗
[A] h i h i
 ⃗θ  ⃗y ⃗ r [A]
⃗ θ [A]
⃗ϕ ⃗ x [A] ⃗ z R⊤ なので、
⃗ y [A]
 [A]  = R [A]  ならば [A] = [A]
⃗ϕ
[A] ⃗z
[A]

   
h i ⃗er (⃗x) h i ⃗ex
⃗ r ⃗ θ ⃗ ϕ   ⃗ x ⃗ y ⃗ z 
⊤ 
[A] [A] [A]  ⃗eθ (⃗x)  = [A] [A] [A] R R  ⃗ey 
⃗eϕ (⃗x) I ⃗ez
h i
⃗ x [A]
⃗ y [A]
⃗z R⊤
[A] 

⃗ex


 
i ⃗ex
R  ⃗ey 
h
⃗z  
⃗ez
= ⃗ x [A]
[A] ⃗y [A]  ⃗ey  (B.14)
⃗ez

⃗ = [A]
が成り立つ。 A ⃗ x ⃗ex + [A]
⃗ y ⃗ey + [A]
⃗ z ⃗ez = [A]
⃗ r ⃗er + [A]
⃗ θ ⃗eθ + [A]
⃗ ϕ ⃗eϕ は 座

標系に依存しない量であることが確認できた。

B.1.4 一般座標における運動方程式

⃗ =m
「極座標では運動方程式 F は成り立たなくなるのではなかろうか?」という
→ p20 の脚注 †19 2

疑問について考えておこう。直交座標系では運動方程式が

⃗ ]x = m
[F ⃗ ]y = m
= mẍ, [F ⃗ ]z = m
= mÿ, [F = mz̈ (B.15)
2 2 2

と分解できる(表記を短くするため、以下では X の時間微分を Ẋ 、時間の二階微分を Ẍ


で表す表記を使う)が、3 次元極座標系では
 
⃗ ]r =m r̈ − r(θ̇)2 − r(ϕ̇)2 sin2 θ
[F (B.16)
 
⃗ ] =m r θ̈ + 2ṙθ̇ − r(ϕ̇) sin θ cos θ
[F θ 2
(B.17)
 
⃗ ]ϕ =m r ϕ̈ sin θ + 2ṙϕ̇ sin θ + 2rθ̇ ϕ̇ cos θ
[F (B.18)

というややこしい式になる。これは二つの座標系で位置ベクトルが
直交座標 極座標

x = x ⃗ex + y ⃗ey + z ⃗ez = r ⃗er (⃗x)


⃗ (B.19)

のように別々の表現になることから来ている。ここで ⃗
er (⃗x) は(B.10)の一つ目の式のよう
→ p299

に⃗
ex , ⃗ey , ⃗ez と関係しているので、⃗er (⃗x) の時間微分は
d⃗er (⃗x) ∂⃗er (⃗x) ∂⃗er (⃗x)
= θ̇ + ϕ̇ = θ̇ ⃗eθ + ϕ̇ sin θ ⃗eϕ (B.20)
∂θ ∂ϕ
cos θ cos ϕ ⃗ex + cos θ sin ϕ ⃗ey − sin θ ⃗ez − sin θ sin ϕ ⃗ex + sin θ cos ϕ ⃗ey
= ⃗eθ = sin θ ⃗eϕ
B.2 デルタ関数 301

になる。同様に、

d⃗eθ (⃗x) ∂ ⃗eθ (⃗x) ∂⃗eθ (⃗x)


= θ̇ + ϕ̇ = −θ̇ ⃗er + ϕ̇ cos θ ⃗eϕ
∂θ ∂ϕ
− sin θ cos ϕ ⃗ex − sin θ sin ϕ ⃗ey − cos θ ⃗ez = −⃗er − cos θ sin ϕ ⃗ex + cos θ cos ϕ ⃗ey = cos θ⃗eϕ

(B.21)
d⃗eϕ (⃗x) ∂ ⃗eϕ (⃗x)
= ϕ̇ = −ϕ̇ sin θ ⃗er − ϕ̇ cos θ ⃗eθ (B.22)
∂ϕ
− cos ϕ ⃗ex − sin ϕ ⃗ey = − sin θ⃗er − cos θ⃗eθ

x を時間で二階微分するという操作を極座標で行えば、
と計算できる。以上の結果を使って ⃗

d⃗
x d⃗er (⃗x)
=ṙ ⃗er + r = ṙ ⃗er + rθ̇ ⃗eθ + rϕ̇ sin θ ⃗eϕ (B.23)
d d  
(r θ̇) rϕ̇ sin θ

d2 ⃗
x    
2
=r̈ ⃗er + ṙθ̇ + rθ̈ ⃗eθ + ṙ ϕ̇ sin θ + rϕ̈ sin θ + rϕ̇θ̇ cos θ ⃗eϕ
d ⃗er d ⃗eθ

   
+ ṙ θ̇ ⃗eθ + ϕ̇ sin θ ⃗eϕ + rθ̇ −θ̇ ⃗er + ϕ̇ sin θ ⃗eϕ
d ⃗eϕ

 
+ rϕ̇ sin θ −ϕ̇(sin θ ⃗er + cos θ ⃗eθ )
   
= r̈ − r(θ̇)2 − r(ϕ̇)2 sin2 θ ⃗er + rθ̈ + 2ṙθ̇ − r(ϕ̇)2 sin θ cos θ ⃗eθ
 
+ r ϕ̈ sin θ + 2ṙϕ̇ sin θ + 2rθ̇ ϕ̇ cos θ ⃗eϕ (B.24)

となって、少々複雑な結果である(B.16)∼(B.18)が出てきた。加速度の計算式 は座
→ p300 → p300 2

標系に依らない表現になっている。

B.2 デルタ関数
電磁気学や量子力学でもおなじみだが、本書の計算でもあちこちでデルタ関数を使うの
で、ここで定義や性質などをまとめておく。
302 付録 B 数学的補足

B.2.1 定義
 1 次元のデルタ関数の定義 

x = a で定義されている関数 f (x) に δ (x − a) を掛けて x で積分すると



Z 
 f (a) x1 < a < x2 の場合
x2 
f (x)δ (x − a) = −f (a) x2 < a < x1 の場合 (B.25)


x1 
0 それ以外の場合

のように x = a での値が積分結果(ただし、積分が 下端 x1 > 上端 x2 となるよう


に行われた場合には符号を反転)になる関数を 1 次元デルタ関数と呼ぶ。
 
符号が反転するのは積分方向が逆になっていると考えれば当然であろう。

積分方向 積分方向

結果は
結果は

上ではデルタ関数が 0 でなくなる点 x = a が積分の端点でない場合を考えたが、端点


である場合
Z x2 1
f (a) ただし a < x2
f (x)δ (x − a) =
a 2
Z a
1
f (x)δ (x − a) = f (a) ただし x1 < a (B.26)
x1 2

1
のように積分結果は と考える。以下で示す極限操作を使って定義した場合はそうなる。
2
デルタ関数は、値としては引数が 0 となる点を除くすべての場所で 0 であり、引数が 0
である点の値は定義されない †6 。実際にはこんな関数はないので、以下に示すような極限
操作(以下の例は f (x) を示したが、平行移動すれば f (x − a) も得られる)の結果として取
り扱うことが多い。
 矩形関数の極限としてのデルタ関数 



 1 −∆x < x < ∆x
δ (x) = lim 2∆x (B.27)
∆x→0 
 0 それ以外

 

†6
しいて言えば δ (0) = ∞ になるが、これは定義したとは言えない。
B.2 デルタ関数 303

 くさび型関数の極限としてのデルタ関数 

 1

 (x + ∆x) −∆x < x < 0

 2
 (∆x)
δ (x) = lim 1
∆x→0 
− (x − ∆x) 0 ≤ x < ∆x
  (∆x)2


0 それ以外
(B.28)
 
 ガウス関数の極限としてのデルタ関数 

2
1 − x
δ (x) = lim √ e (∆x)2 (B.29)
∆x→0 π∆x

 

1 x>0
他にも、「階段関数」 θ (x) = (B.30) を †7 使って
0 x<0

d
δ (x) = θ (x) (B.31)

のように「定義」する場合もある。 また、以下もよく使われる。
 
フーリエ
Fourier変換で定義するデルタ関数
Z ∞
1
δ (x) = eikx (B.32)
2π −∞
 

B.2.2 性質と公式
 引数に関数が入ったデルタ関数 

X 1
δ (f (x)) = δ (x − xn ) (B.33)
f (x) = 0
|f ′ (xn )|
となる点 xn

 
という式およびこれから派生した式がよく使われる。

†7 1
階段関数の x = 0 での値は定義しないか θ (0) = にする。たいていの場合この値は最終結果に
2
影響しない。
304 付録 B 数学的補足

この式の意味するところを図解で説明
(2) が一箇所決まる。
しよう。関数 δ (f (x)) とは、右図に吹き出
しで書いたように、
「x を決めると f (x) が
決まり、それに応じて δ (f (x)) が決まる」 (3) が決まる。
(今の場合は0)

という一連の写像である。図では矩形関
数の極限としてのデルタ関数(B.27)を採
→ p302
(1) を一箇所決めると、
用している †8
。 x → δ (f (x)) という関数

を見ると(横軸 x 縦軸 δ のグラフを考え
て欲しい)、x 軸方向に底辺 2∆x、δ (f (x))
1 1 ∆x
軸方向に高さ の長方形ができている †9 。この長方形の面積 2∆x × = が
2∆f 2∆f ∆f
Z
∆x
関数 δ (f (x)) の x 積分の結果である。すなわち、 δ (f (x)) = であり、 ∆x → 0
∆f
1
の極限を取れば = と書くことができる。f ′ (x1 ) が大きくなれば(グラフの傾
f ′ (x1 )
きが急になり)∆x が小さくなる。このことから f ′ (x1 ) が分母に来ることが納得できる。

上の図で描いたのは ∆x > 0, ∆f > 0 の場合、つまり > 0 の場合

である。 < 0 の場合はどうなるかというと、グラフの x = x1 の部分

が右の図のように変わる。この場合 ∆f < 0 となり、出来上がるデルタ関


1 1
数は −|∆f | < f < |∆f | の範囲で高さ の長方形になり、積分結果は と
2|∆f | |f ′ (x1 )|
なる。
以上の二つのケースを考えて、かつ x = x1 以外にも f (x) が 0 になる場所があることも
考慮して考えると、(B.33)が結論できる。
→ p303

この式からすぐにわかるのが以下の公式である。

†8 1
f → δ (f ) という関数を見れば、底辺 2∆f で高さ の長方形(面積 1)ができている。
2∆f
†9
ここで x の範囲を x1 − ∆x < x < x1 + ∆x にしている。
「左右対称な領域とは限らないのでは?


( x1 − ∆x < x < x1 + ∆x としなくてはいけないのでは?)と思うかもしれない。しかし、この
′ 2
∆x と ∆x の差は (∆x) のオーダーになるので、結果に効かない。∆x をどんどん小さくしていけばそ
′′
の範囲内で f (x) は直線とみなしてよいということである。なので、最終結果に f (x1 ) 以上が現れない。
B.2 デルタ関数 305

 引数に係数があるデルタ関数 

1
a を定数として δ (ax) = δ (x) (B.34)
|a|
 
が成り立つ †10 。 また、以下の式もよく使われる。
 引数が 2 次関数のデルタ関数 

1 1
δ ((x − a)(x − b)) = δ (x − a) + δ (x − b) ただし、a ̸= b (B.35)
|a − b| |a − b|
 

B.2.3 デルタ関数の微分
デルタ関数の微分は、以下をもって定義とする。
 デルタ関数の微分と関数の積の積分 

Z 


−f ′ (0) x1 < 0 < x 2
x1
f (x)δ ′ (x) = f ′ (0) x2 < 0 < x 1 (B.36)


x0 
0 それ以外
 
Z x1 Z x1
′ ′
つまり、 f (x)δ (x) = − f (x)δ (x) (部分積分) †11
が成り立つように定
x0 x0

義する。
矩形関数の極限としてのデルタ関数を微分すると、

d d 1
δ (x) = lim (θ (x + ∆x) − θ (x − ∆x))
∆x→0 2∆x
1
= lim (δ (x + ∆x) − δ (x − ∆x)) (B.37)
∆x→0 2∆x

となる。これに f (x) を掛けて積分すると、


Z
1
f (x) lim (δ (x + ∆x) − δ (x − ∆x))
∆x→0 2∆x

†10 1
うっかり δ (ax) = aδ (x) とかやってしまいそうだが、x が長さの次元を持っているなら δ (x) は
長さ
Z
1
の次元を持っている(なぜなら δ (x) = 1 が成り立つから)ことを考えると、 が出てくるのが
|a|
正しい。
†11 x
部分積分は公式通りなら表面項 [f (x)δ (x)]x1 が必要だが、δ (x) は x = 0 以外では 0 なので消える
0


( x = 0 が端点に来るときは注意が必要)
306 付録 B 数学的補足

1
= lim (f (−∆x) − f (∆x)) = −f ′ (x) (B.38)
∆x→0 2∆x

となり、定義通りになっている。
 デルタ関数の微分の連鎖律 

d (x) dδ (f )
δ (f (x)) = = f ′ (x)δ ′ (f (x)) (B.39)

f =f (x)

 
1
という公式もある。この式については(B.33)と見比べて「前に付くのは でなくて
→ p303 |f ′ (x)|
いいの?」と不安に思う人がいるかもしれないので、一例で計算しておこう。
くさび型関数の極限としてのデルタ関数(B.28)の微分は
→ p303

 1

 −∆x < x < 0

 (∆x) 2


δ (x) = lim 1 (B.40)
∆x→0 
− 0 ≤ x < ∆x

 (∆x) 2


0 それ以外

となる。一方(B.28)の x に ax を代入して
→ p303

 1

 (ax + ∆x) −∆x < ax < 0

 (∆x) 2

δ (ax) = lim 1 (B.41)
∆x→0 
− (ax − ∆x) 0 ≤ ax < ∆x
  (∆x)2


0 それ以外

を微分すると
 a

 ∆x < ax < 0

 2
 (∆x)
a
δ ′ (ax) = lim − 0 ≤ ax < ∆x (B.42)
∆x→0 
 (∆x)2



0 それ以外

となるが、これは (B.40) の a 倍であるから、 δ ′ (ax) = aδ ′ (x) が成立している。

B.2.4 3 次元のデルタ関数
 3 次元直交座標でのデルタ関数 

δ 3 (⃗x) = δ (x)δ (y)δ (z) (B.43)


 
B.2 デルタ関数 307

ZZZ
と定義しておけば、 δ 3 (⃗x) = 1 となる。座標変換 X = X (⃗x), Y = Y (⃗x), Z = Z (⃗x)

∂(X, Y, Z)
を行った場合はどうなるべきであろうか。このとき、積分要素の方は =
∂(x, y, z)
のように、ヤコビアン
 
∂X ∂X ∂X
 ∂x ∂y ∂z  
 
∂(X, Y, Z)  ∂Y ∂Y ∂Y  
= det 

  (B.44)
∂(x, y, z)  ∂x ∂y ∂z 


 ∂Z ∂Z ∂Z 
∂x ∂y ∂z

が掛かることが知られている。これから
 デルタ関数の座標変換 

  1 ∂(x, y, z) 3
δ3 X
⃗ = δ 3 (⃗x) = δ (⃗x) (B.45)
∂(X,Y,Z) ∂(X, Y, Z)
∂(x,y,z)

 
ZZZ  
ZZZ
となる(これで、 δ3 X
⃗ =1 と δ 3 (⃗x) = 1 が両立する)†12 。

4 次元時空であるならば、変数 ct が一つ増えるだけで、話はだいたい同じである。4 次
元時空体積要素と 4 次元のデルタ関数を考えて、それを Lorentz 変換すると、ヤコビアン
に現れる行列は Lorentz 変換の行列そのものであり、
 
γ −βγ 0 0
 −βγ 0
 γ 0 
det   = γ2 − β2γ2 = 1 (B.46)
 0 0 1 0
0 0 0 1

となるので 4 次元体積要素も 4 次元デルタ関数も Lorentz 変換で不変となる。(B.46) で確


認したのは x 方向の Lorentz 変換だが、任意の方向の場合は行列に座標軸の空間回転の行
列が(前後に)掛かるだけで、空間回転の行列の行列式は 1 であるから、やはり行列式は 1
となる。
3 次元空間のデルタ関数を x 軸方向に Lorentz ブーストすると
1
δ (xe)δ (ye)δ (ze) = δ (x − [⃗v]x t)δ (y − [⃗v]y t)δ (z − [⃗v]z t) (B.47)
 
γ
δ 3 ⃗xe δ 3 (⃗x − ⃗vt)

となる(【演習問題4-2】を参照)。
→ p96

†12 1
直交座標から極座標への変換を考えると δ (x)δ (y)δ (z) = δ (r)δ (θ)δ (ϕ) という式になって、
r 2 sin θ

原点 r = 0 と北極と南極 sin θ = 0 が計算上「危ない」場所であることがわかる。


308 付録 B 数学的補足

B.3 Levi-Civita の記号


B.3.1 定義
N 次元の空間(時空間を含む)において、


 1 i1 , i2 , · · · , iN が 1, 2, · · · , N の偶置換 †13

ϵi i ···i
1 2 N
=

−1 i1 , i2 , · · · , iN が 1, 2, · · · , N の奇置換 (B.48)


0 それ以外

レヴィ チビタ
と定義された記号がLevi-Civitaの記号である。普通のギリシャ文字 ϵ はちょっと小さいの
で、Levi-Civita 記号は大きいサイズにして ϵ と書いている。
2 次元では

ϵ12 = 1, ϵ21 = −1, ϵ11 = 0, ϵ22 = 0 (B.49)

であり、3 次元では

ϵ123 = ϵ231 = ϵ312 = 1, ϵ132 = ϵ213 = ϵ321 = −1, それ以外 = 0 (B.50)

である。

B.3.2 公式
Levi-Civita 記号の積は
!
i1 , i 2 , · · · , i N
ϵi i ···i ϵj j ···j
1 2 N 1 2 N
= sgn (B.51)
j1 , j 2 , · · · , jN

と書くことができる。ただし、右辺の sgn 関数の定義は




 1 i1 , i2 , · · · , iN に重なる数がなく、j1 , j2 , · · · , jN がその偶置換である場合

−1 i1 , i2 , · · · , iN に重なる数がなく、j1 , j2 , · · · , jN がその奇置換である場合



0 それ以外の場合
(B.52)

である。この関数は

δ i1 j1 δ i2 j2 · · · δ iN jN + (第 1 項から j1 , j2 , · · · , jN を偶置換したものすべて)
− (第 1 項から j1 , j2 , · · · , jN を奇置換したものすべて) (B.53)

と書いてもよい。2 次元なら、奇置換の結果が 1 通りしかなく、

ϵi i ϵj j
1 2 1 2
= δ i 1 j1 δ i 2 j2 − δ i 1 j2 δ i 2 j1 (B.54)

†13
時空を表現する場合には、添字は 0, 1, 2, · · · , N − 1 になる。
B.3 Levi-Civita の記号 309

3 次元なら、偶置換が 2 通り、奇置換が 3 通りあって、

ϵi i i ϵj j j
1 2 3 1 2 3
=δi1 j1 δi2 j2 δi3 + δi1 j2 δi2 j3 δi3 j1 + δi1 j3 δi2 j1 δi3 j2
− δi 1 j 3 δi 2 j 2 δi 3 j 1 − δi 1 j 2 δi 2 j 1 δi 3 j 3 − δ i 1 j 1 δ i 2 j 3 δi 3 j 2 (B.55)

である。これを縮約することにより、

ϵi i i ϵi j j
1 2 3 1 2 3
=3δi2 j2 δi3 j3 + δi3 j2 δi2 j3 + δi2 j3 δi3 j2
− δi3 j3 δi2 j2 − δi2 j2 δi3 j3 − 3δi2 j3 δi3 j2
=δi2 j2 δi3 j3 − δi2 j3 δi3 j2 (B.56)

「ϵi1 i2 i3 ϵi1 j2 j3 は、 i2 = j2 で i3 = j3 の時
という公式も作ることができる。この式は、

は 1 になり、 i2 = j3 で i3 = j2 の時は −1 になる。ただし、 i2 = i3 ならば 0」を意味

する。
さらに縮約すると

ϵi i i ϵi i j
1 2 3 1 2 3
=2δi3 j3 (B.57)

である。

B.3.3 Levi-Civita 記号の用途


Levi-Civita 記号の使い道の一つは外積を

[A ⃗ i = ϵijk [A]
⃗ × B] ⃗ j [B]
⃗ k (B.58)

のように表現することである。これを使うと、外積の div を
   
div ⃗×B
A ⃗ × B]
⃗ =∂i [A ⃗ i = ∂i ϵijk [A] ⃗ k
⃗ j [B]

   
=ϵijk ⃗ j [B]
∂i [A] ⃗ k + [A]
⃗ j ∂i [B]
⃗ k

   
= ϵijk ∂i [A]
⃗j ⃗ k + [A]
[B] ⃗j ϵijk ∂i [B]
⃗ k (B.59)
k
[rot A] −[rot B]
⃗ j

とすることで、
     
div ⃗×B
A ⃗ ·B
⃗ = rot A ⃗ −A
⃗ · rot B
⃗ (B.60)

という式を作ることができる。
310 付録 B 数学的補足

⃗ ]i =
微分演算子である rot は [rot V ϵijk ∂ j [V⃗ ]k と表現できる。これを使って rot に

関する公式をいくつか作ることができる。

 
[rot A ⃗ ]i = ϵijk ∂j ϵkmn [A]
⃗×B ⃗ m [B]
⃗ n (B.61)

に(B.56)を使うと、 ϵijk ϵkmn = δim δjn − δin δjm となるので、


→ p309
     
[rot ⃗×B
A ⃗ ]i =∂k [A] ⃗ k − ∂k [A]
⃗ i [B] ⃗ k [B]
⃗ i
   
⃗ i [B]
= ∂k [A] ⃗ i ∂k [B]
⃗ k + [A] ⃗ k − ∂k [A] ⃗ i − [A]
⃗ k [B] ⃗ i
⃗ k ∂k [B]

⃗ · ∇)
=[(B ⃗ A ⃗ ∇
⃗ + A( ⃗ · B)
⃗ − (A
⃗ · ∇)
⃗ B⃗ − (A
⃗ · ∇)
⃗ B]
⃗ i (B.62)

が出る(どの量が微分されるかを明示するため、微分の掛からない量は ∇
⃗ より前に出した)。
 
同様にして、 [rot ⃗ ]i = ϵijk ∂j ϵkmn ∂m [V
rot V ⃗ ]n から

 
[rot rot V ⃗ ]j − ∂ j ∂ j [V
⃗ ]i = ∂ i ∂ j [V ⃗ ) − △V
⃗ ]i = [grad (div V ⃗ ]i (B.63)

を導くことができる。
Levi-Civita 記号は以下のように、N × N 行列の行列式を表すのにも使われる。

det A =ϵi1 i2 ···iN A1i1 A2i2 · · · AN iN = ϵi1 i2 ···iN Ai1 1 Ai2 2 · · · AiN N

1
= ϵi i ···i ϵj j ···j Ai j Ai j · · · AiN jN (B.64)
N! 1 2 N 1 2 N 1 1 2 2

B.3.4 変換性
Levi-Civita 記号はテンソルのように見えるが、実はテンソルではない。テンソルだ
とするとちょっと困ったことが起こることを以下で示そう。x → x
e の座標変換をする。
ν ∂xν
Levi-Civita 記号がテンソルなら、(6.24) の変換行列 M−1 e
= e
を使って
→ p125
µ eµ
∂x

µ ν λ
ϵeµe ν···
e e = ϵµν···λ
λ M−1 e
µ
M−1 e
ν
· · · M−1 e
λ
(B.65)

e, ν
のように変換が行われることになる。ここで、µ e の中に一致する組があると 0 で
e, · · · , λ

e = 1, ν
あることは添字の対称性からあきらかである。 µ e = N とすると(こ
e = 2, · · · , λ
の場合は 0 ではなく)

µ ν λ
ϵe12···N = ϵµν···λ M−1 1
M−1 2
· · · M−1 N
(B.66)
B.3 Levi-Civita の記号 311

となる。左辺は行列 M−1 の行列式そのものであるから、1 ではない(Levi-Civita 記号の


定義からすると 1 であってほしい)。
そこで、ϵ はテンソルではなくテンソル密度で、座標変換の際には det M が掛かる変換

µ ν λ
ϵe(−1)
e ν···
µ e λ
(−1)
e = det M ϵµν···λ M−1 e
µ
M−1 e
ν
· · · M−1 e
λ
(B.67)

e
∂x
を受けるのだとする。この「 det M = det が掛かる変換」を受ける量を「ウェイト
∂x
−1 の密度量」と呼ぶ。このことを表現するため、ϵ の上に (−1) をつけた。
こうして、ϵ はローレンツ変換に対して不変であるという面白い性質を持つ。すべて上
付きの添字を持つ Levi-Civita 記号 ϵ(1)
µν···λ
を定義することもできるが、こちらはウェイ

ト 1 の密度量である。ϵ を変換するときは M−1 ではなく M が N 個掛けられるの


µν···λ
(1)
で、最後に det M で割らなくてはいけない。

B.3.5 4 次元の Levi-Civita 記号


4 次元時空の場合について、上付きと下付き、二つを Levi-Civita 記号を説明しておこう。
 4 次元の Levi-Civita 記号(上付き) 


 1 µ, ν, ρ, λが 0, 1, 2, 3 の偶置換

ϵ(1)
µνρλ
= −1

µ, ν, ρ, λが 0, 1, 2, 3 の奇置換 (B.68)


0 それ以外
 
 4 次元の Levi-Civita 記号(下付き) 


 1 µ, ν, ρ, λが 0, 1, 2, 3 の偶置換

ϵ(−1)
µνρλ = −1 µ, ν, ρ, λが 0, 1, 2, 3 の奇置換 (B.69)


0 それ以外
 
この二つの関係は

(−1)
ϵµνρλ
(1)
ηµα ηνβ ηρτ ηλσ = −ϵαβτ σ (B.70)

であることに注意しよう。すなわち、ϵ(1) の添字を上げてたものは ϵ(−1) ではなく、その


逆符号である。これは 4 次元時空では奇数回 ηµν にマイナス符号が現れることに依って
いる。
付録 C

練習問題のヒントと解答

C.1 ヒント

【問い 2-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p21、解答は p316)

1 2
e とすれば、 y
フリーフォールの静止系の座標を y e=y+ gt が成
2
立する。
【問い 2-2】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p25、解答は p316)

e = AO − AC で
e = AB + DE, y
補助線は、右図のように引く。 x

ある。
【問い 3-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p40、解答は p316)
 Stokes の定理 
⃗ に対し
任意のベクトル場 V

Z I
· rot V
⃗ = ·V
⃗ (C.1)
S ∂S

が成り立つ。ただし左辺の積分はある面積 S の面積積分で、右辺の積分はその面積の境界線(記
号 ∂S )上の線積分である。
 
を使え。
【問い 3-2】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p47、解答は p317)
⃗  
⃗ = − ∂ B − (⃗
rot E v · ∇)
⃗ B ⃗ = − ∂ +⃗
⃗ の rot を取ると、 rot rot E v·∇
⃗ rot B
⃗ とな
∂t ∂t
る。これと以下を使う。

⃗ =−△E
rot rot E ⃗ + grad (div E)
⃗ (C.2)
0


⃗ = 1 ∂ E + 1 (⃗
rot B v · ∇)
⃗ E⃗ (C.3)
c2 ∂t c2
C.1 ヒント 313

【問い 3-3】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p52、解答は p317)


†1 −1
この力に関係しそうな変数は電荷 Q(次元 [IT]) 、速度 v (次元 [LT ])、距離 L(次元 [L])、
2 −2 −2
最後に真空の透磁率 µ0 (単位は N/I なので、次元は [MLT I ])である。これから力(次元は

−1 1
[MLT ])を作る。計算の最後で µ0 = を使う。
ε0 c2
【問い 4-3】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p81、解答は p318)
光線の方程式 x = −ct + x0 が 時空点F


 電車の後端の世界線 x = βct

 時空点E

L と交わる点を求め、x 座


 電車の先端の世界線 x = βct + γ

標の差を計算する。
右側にいる場合は右のような図を描いて、今度は光線の方程式を 時空点D
x = ct + x0 にして計算を実行する。
【問い 5-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p98、解答は p320)

u+v u+v−c− uv
u+v u+v+c+ uv
−c= c
と +c= c
(C.4)
1 + uv
c2 1 + uv
c2 1 + uv
c2 1 + uv
c2

を計算する。この式の分子は因数分解できる。
【問い 5-3】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p101、解答は p321)

⃗= 1
一般方向の Lorentz 変換の式(4.35)と(4.36)の逆変換の式で β v として、

→ p91 → p91 c
 
1
ct =γ (⃗v) cte + v ·⃗
⃗ e
x (C.5)
c
γ (⃗v) − 1
⃗ v γ (⃗v)te + ⃗
x =⃗ e+
x ⃗ v ·⃗
v (⃗ e)
x (C.6)
v |2
|⃗

という式を作る。これに ⃗ ute を代入しよう。


e=⃗
x
【問い 5-5】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p107、解答は p321)
変換は以下の通り。 x ct

e + βcte = − cte cos θ


x (C.7)
y ct

e = − cte sin θ
y (C.8)
z

ze = 0 (C.9)

【問い 5-6】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p111、解答は p321)


1
運動方向と光の進行方向の角度を θ とすると、非相対論的な場合は ν = ν0 、相対論的
1 − β cos θ

†1
電流の次元を [I] とする。
314 付録 C 練習問題のヒントと解答

p
1 − β2
な場合は ν = ν0 という式になる。最大値は cos θ = 1 、最小値は cos θ = −1 に対
1 − β cos θ
応する。式からは β を消去すればよい。
【問い 6-4】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p136、解答は p323)
【問い 6-2】
の行列で表される変換を式で書くと
→ p135

cte = γ(ct − βx), e = γ(x − βct),


x e = y, z
,y e=z (C.10)

で、逆変換は

ct = γ(cte + β x
e), x = γ(x e
e + βct), e, z = z
,y = y e (C.11)

∂ ∂xν ∂
である。 = を使って微分の変換則を作ればよい。

∂x eµ ∂xν
∂x
【問い 7-2】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p149、解答は p324)
車とガレージの時空図を描いてみると次のようになる。

拡大図
衝突!

ガ 車
車 レ

} }

ガレージ

これを見るとガレージに車は入るように思われる。
車が静止している系でグラフを描くと右図のようにな
る。今度は車の方が “横幅” が大きいので、入らないよう
に思われる。しかし、ここで「入らない」の意味を考えて
みよう。車の先端がガレージの壁に衝突するのは、図の時
空点 C でである。また、車の後端がガレージに入ってしま

†2
うのは図の時空点 E である 。C と E の時間順序は、ガ

レージ静止系と車静止系では逆になっている。C と E は

spacelike に離れているので、そうなることは別段不思議

なことはない。
ガレージ静止系で考えると「まず車がガレージに入った 拡大図
(E)後、壁にぶつかる(C)」が起こるが、車の静止系では
「壁にぶつかった(C)後、車がガレージに入る(E)」が起
}

こる。相対論の同時の相対性である。 ガレージ
ここで「C と E が spacelike に離れている」ということ 衝突!
}


がパラドックスを解く鍵なのである。 spacelike に離れて
いるということは、光より速い信号(もちろん存在しない)
を使わないかぎり、C(衝突)の情報は E まで伝わらない。

†2
C は Clash(衝突)の頭文字、E は Enter(入る)の頭文字。
C.1 ヒント 315

【問い 8-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p161、解答は p325)



{x
e } 座標系での物体の速度は速度の合成則により
 q q 
u ]x + v
 [⃗ y
1− v2
c2 z
1− v2
c2 
 u]x v
[⃗
u]
, [⃗ u]x v
[⃗
u]
, [⃗ u]x v
[⃗
 (C.12)
1+ c2 1+ c2 1+ c2

と変化する。この速度の自乗を計算すると、
  
v2
u]x + v)2 + ([⃗
([⃗ u]y )2 + ([⃗
u ]z )2 1− c2
 2 (C.13)
u]x v
[⃗
1+ c2

p
になる。これに対応する 1 − β 2 を計算していく。
【問い 9-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p194、解答は p325)
(9.36) の左辺を計算すると、行列での表現は以下の通り。
→ p194

 x y z

0 ⃗
[B] ⃗
[B] ⃗
[B]
 
 
h i −[B]
⃗ x 0 ⃗ y/c 
⃗ z/c [E]
−[E]
 
+ ∂ 0 ∂x ∂ y ∂z  
− 時Aµ  ⃗ y z ⃗ /c  x
 −[B] ⃗ /c
[E] 0 −[E] 
 
z y x
−[B]
⃗ −[E]
⃗ /c [E]
⃗ /c 0
h i
i x z y
=+
− 時Aµ
− ∂i B ∂0 [B] ⃗ /c − ∂z [E]
⃗ + ∂y [E] ⃗ /c ··· (C.14)

divB ⃗ y, z 成分省略
1 ∂B ⃗ x
[ + rotE]
c ∂t

【問い 9-3】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p204、解答は p326)


∂ρ
を計算する時には、ρ に含まれるデルタ関数の微分が
∂t

∂ 3 ∂
δ (⃗x − ⃗vt) = (δ (x − [⃗v]x t)δ (y − [⃗v]y t)δ (z − [⃗v]z t)) (C.15)
∂t ∂t

のように 3 箇所ある t をそれぞれ微分した三つの微分なること、それらにデルタ関数の微分の連鎖律


d d(x − at) d ′
(B.39) から作られる式 δ (x − at) = δ (x − at) = −aδ (x − at) を使うと
→ p306 d(x − at)
−a ′
δ (x − at)

 
x ′ y ′
− [⃗
v ] δ (x − [⃗v]x t)δ (y − [⃗v]y t)δ (z − [⃗v]z t) + δ (x − [⃗v]x t) −[⃗
v ] δ (y − [⃗v]y t) δ (z − [⃗v]z t)
 
z ′
+ δ (x − [⃗v]x t)δ (y − [⃗v]y t) −[⃗
v ] δ (z − [⃗v]z t) (C.16)

となることを使う。
【問い 9-4】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p214、解答は p326)
(9.101)をベクトルの式でまとめて
→ p213

   
e ⃗ x⃗
⃗ = [E] ⃗ y − v[B]
⃗ z ⃗ z + v[B]
⃗ y
E ex + γ [E] ⃗
ey + γ [E] ⃗
ez (C.17)
316 付録 C 練習問題のヒントと解答

⃗ の後ろに ⃗ z
と書くと「[B] ey があったりして、変な式だな」と感じるだろう。しかし「v は x 方向のベ
クトルを表すから v ⃗
ex の形で式中に現れるべきだ」と考えると、
⃗ z⃗
−v[B] ey ⃗ y⃗
v[B] ez
   
e ⃗ x⃗ ⃗ y⃗ ⃗ z⃗ ⃗ z⃗ ⃗ y⃗
⃗ = [E]
E ex + γ [E] ex × [B]
ey + v ⃗ ez + γ [E] ex × [B]
ez + v ⃗ ey (C.18)

⃗ ⃗ ⃗ ⃗ ⃗ ⃗ x y z
と書くことができるとわかる(磁場の方も同様)。[E] ex + [E] ey + [E] ez と x, y, z 成分が揃う
⃗ に直せるので、その形にしていく。
とまとめて E
【問い 11-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p270、解答は p330)
θ (x) を微分すれば δ (x) となることを使うと、 (11.46)の二つの項を z 微分と x 微分を使って
→ p270

qv ∂
ex (θ (x − vt + ∆x) − θ (x − vt − ∆x)) δ (y)
⃗ (θ (z − ∆z) − θ (z + ∆z))
2∆x ∂z
qv ∂
− ⃗
ez (θ (x − vt − ∆x) − θ (x − vt + ∆x)) δ (y) (θ (z + ∆z) − θ (z − ∆z)) (C.19)
2∆x ∂x

のように表すことができる。これで一つにまとめられる。
【問い 11-2】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p272、解答は p331)
1
v × (11.55)+(11.56)を 計 算 す る と 、E
⃗ ⃗ ⊥ が 消 去 で き る 。計 算 の 中 で A
⃗ を任意のベクトル
εc2 → p272 → p272
 
v× ⃗
として公式 ⃗ v×A
⃗ =⃗v (⃗ ⃗ − v2 A
v · A) ⃗はH
⃗ を 使 う が 、こ こ で 出 て く る A ⃗ ⊥, B
⃗⊥ なので、

 
v·A
⃗ v× ⃗
⃗ = 0 であり、 ⃗ ⃗ = −v 2 A
v×A ⃗ としてよい。

【問い 11-3】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p277、解答は p331)


球対称な解なので、D (r) のように r のみの関数としてよい。

C.2 解答
【問い 2-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p21、ヒントは p312)
1 2
e =y +
y gt
2 (微分)

ヒントより、 = + gt (微分) となる。これから、運動方程式は m =m + mg = 0


2 2

−mg

2
= 2
+g

となり、重力がなくなったかのごとき方程式となる。
【問い 2-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p25、ヒントは p312)
ヒントより、 AB=y sin θ,DE= x cos θ,AO= y cos θ,AC= x sin θ を代入して、

e = −x sin θ + y cos θ を得る。


e = x cos θ + y sin θ, y
x
【問い 3-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p40、ヒントは p312)
⃗ に適用する。面積の境界線 ∂S を考えている回路に取る。
ヒントの Stokes の定理を電場 E
Z I
· rot E
⃗ = ·E
⃗ (C.20)
回路が囲む面積 回路
C.2 解答 317


∂B
⃗ =−
となるが、 rot E により、
∂t

Z ⃗ I
∂B
− · = ·E
⃗ (C.21)
回路が囲む面積 ∂t 回路

となる。右辺は単位電荷を回路を一周させるように移動させたときになされる仕事、つまり起電力であ
Z
る。左辺については ⃗ = Φ (Φ は回路を通る磁束)となるので V = − dΦ が
·B
回路が囲む面積

わかる。
【問い 3-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p47、ヒントは p312)
ヒントの計算の結果は
 2
1 ∂
−△E
⃗ =− v·∇
+⃗ ⃗ ⃗
E (C.22)
c2 ∂t

⃗ 0 ei(⃗k·⃗
⃗ (⃗x, t) = E
となる。この方程式の解として平面波 E
x−ωt)
を仮定すると

2 1  2
|⃗ v ·⃗
k| = 2 ω − ⃗ k (C.23)
c

v ·⃗
となって、 ω = ⃗ k ± c|⃗
k| を満たすことがわかる。波の位相速度は

!
ω ⃗
k

=⃗ ±c (C.24)
|⃗
k| ⃗
|k|

!
ω ⃗
k
となる。左辺は正の量だから、 |⃗
v | < c の状況を考えれば複号は + を取るべきで、 v·
=⃗ +c
|⃗
k| |⃗
k|

となる。⃗ v と⃗
v の向きが同じなら速度は v + c に、逆なら −v + c になる。⃗
k の向きと ⃗ k が直交する場
合をのぞき、速度は c とは異なる。
【問い 3-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p52、ヒントは p313)
質量の次元を持っているのは µ0 だけなので、まず µ0 の 1 次式であることが決まる。電流の次元を合
2 2 −2 2 −4
わせるために Q (次元 [I T ] を掛けると、µ0 Q の次元が [MLT ] となる。時間の次元をあわせ
2 2 −2 µ0 (Qv)22 3 −2 2
るため v (次元 [L T ] を掛けると µ0 (Qv) の次元が [ML T ]。最後に L で割って
L2
1 Q2 v 2 Q2
が力の次元となる。ここで µ0 = を使うと、 となり、これは静電気力 の
ε 0 c2 ε0 c2 L2 4πε0 (2L)2
v2
倍(定数を除く)である。
c2
【問い 4-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p77)
代入の結果は
e
x cte

A(v)(x − βct) + B (v)(ct − βx) =一定


318 付録 C 練習問題のヒントと解答

(A(v) − βB (v)) x + (B (v) − βA(v)) ct =一定 (C.25)

となるが、この式が x + ct = 一定 とならなくてはいけないから、

A(v) − βB (v) =B (v) − βA(v)


A(v)(1 + β) =B (v)(1 + β) (C.26)

となって( 1 + β ̸= 0 なので) A(v) = B (v) がわかる。

【問い 4-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p78)


そのまま代入して、
x ct
 
e =A(v) A(−v)(x
x e − β A(−v)(cte + β x
e + βct) e)
2
e =A(v)A(−v)(1 − β )x
x e (C.27)

1 1
なので、 A(v)A(−v) = となる。 A(v) = A(−v) を仮定すれば、 A(v) = p がわ
1 − β2 1 − β2

かる(複号は A(0) = 1 を満たすように+を選ぶ)。結果として逆 Lorentz 変換は

e
e + βct)
x =γ(x
(C.28)
ct =γ(cte + β x
e)

となる。
【問い 4-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p81、ヒントは p313)
β
光線の式から ct = x0 − x となるのでこれを代入し、先端では x = β(x0 − x) より x = x0
1+β

L β L
で、後端では x = β(x0 − x) + より x = x0 + 。差は
γ 1+β (1 + β)γ

p s
L 1 − β2 1−β q
L1 = =L =L < 1 − β2 (C.29)
(1 + β)γ 1+β 1+β

となる。つまりローレンツ短縮よりもさらに短くなる。
右から観測した場合は光線の方程式が ct = x − x0 に変わり、その後は同様に計算して

p s
L 1 − β2 1+β
L2 = =L =L > 1 (C.30)
(1 − β)γ 1−β 1−β

となり、むしろ長くなる。「Lorentz 短縮して短く見える」という考えは実は正しくない。
【問い 4-4】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p91)
C.2 解答 319

(1)

cte =γ(ct − β⃗
ex̄ · ⃗
x) (C.31)
ex̄ · ⃗
⃗ ex̄ · ⃗
e =γ(⃗
x x − βct) (C.32)
eȳ · ⃗
⃗ x eȳ · ⃗
e =⃗ x (C.33)
ez̄ · ⃗
⃗ x ez̄ · ⃗
e =⃗ x (C.34)

1⃗
この時点で (C.31) に ⃗
ex̄ = β を代入すれば cte = γ(ct − β
⃗·⃗
x) は出る。
β
(2)


x ex̄ · ⃗
e =(⃗ e)⃗
x eȳ · ⃗
ex̄ + (⃗ e)⃗
x ez̄ · ⃗
eȳ + (⃗ e)⃗
x ez̄
ex̄ · ⃗
=γ(⃗ x − βct)⃗ eȳ · ⃗
ex̄ + (⃗ x)⃗ ez̄ · ⃗
eȳ + (⃗ x)⃗
ez̄
ex̄ · ⃗
γ(⃗ x)⃗
ex̄

=(γ − 1)(⃗
ex̄ · ⃗
x) ⃗ ex̄ · ⃗
ex̄ + (⃗ ex̄ − βγct ⃗
x) ⃗ eȳ · ⃗
ex̄ + (⃗ x) ⃗ ez̄ · ⃗
eȳ + (⃗ x) ⃗
ez̄
これと、 これを足すと⃗
x
x − βγct ⃗
=⃗ ex̄ + (γ − 1)(⃗
ex̄ · ⃗
x) ⃗
ex̄ (C.35)

(3)

⃗ γ−1 ⃗ − γctβ

e =⃗
x x+ (β · ⃗
x )β (C.36)
β2

【問い 4-5】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p92)

e =x − βct
x (C.37)
を逆に解く。(C.37)+β×(C.38) を計算すると、
cte =ct − βx (C.38)

e + βcte = x − β x
2
x (C.39)

となる。同様に ct の方も計算して、

1  
x= e + βcte
x (C.40)
1 − β2
1  
ct = cte + β x
e (C.41)
1−β 2

が逆変換となる。
【問い 4-6】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p92)


x x−⃗
e =⃗ vt −⃗
x x−⃗
e=−⃗ vt ⃗
e =⃗
x x+⃗
vt
(1) の鏡像反転は となる。また、時間反転は とな
te =t te =t −te = − t


x x−⃗
e =⃗ vt ⃗
e =⃗
x x+⃗
vt
る。どちらも、 を にする変換になっている。
te =t te =t
320 付録 C 練習問題のヒントと解答


x x−⃗
e =⃗ vt x =⃗
⃗ v te
e+⃗
x ⃗
e =⃗
x e
x
(2) に を代入すると、確かに になる。
te =t t =te te =te

【問い 5-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p98、ヒントは p313)


ヒントより、

u+v c(u + v) − c2 − uv (c − u)(c − v)


−c= =− (C.42)
1 + uv
c 2 c + uv
c c + uv
c

u<c u+v
と因数分解できて、 v < c ならこれは負。 uv
<c 。
1+ c2

同様に

u+v c(u + v) + c2 + uv (c + u)(c + v)


uv
+c= = (C.43)
1 + c2 c + uv
c c + uv
c

−c < u u+v
と因数分解できて、 ならこれは正。 −c < 。
−c < v 1 + uv
c2

【問い 5-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p99)


e
e を x, t で表すと
まず x
e
x cte
!
e 1 1 1
e= p
x p (x − β1 ct) − β2 p (ct − β1 x)
1 − (β2 )2 1 − (β1 )2 1 − (β1 )2
1
= p p ((1 + β1 β2 ) x − (β1 + β2 )ct)
1 − (β2 )2 1 − (β1 )2
 
1 + β1 β2 β1 + β2
= p p x− ct (C.44)
1 − (β2 ) 2 1 − (β1 ) 2 1 + β1 β2

速度 β1 + β2
になる。この式が = β3 = の Lorentz 変換になるためには、前についた
c 1 + β1 β2
1 + β1 β2 1
因子 p p が速度 β3 に対する γ 因子 p に一致すればよい。計算す
1 − (β2 )2 1 − (β1 )2 1 − (β3 )2
ると、

1 1 1 + β1 β2
p =r  2 = q
1 − (β3 )2 (1 + β1 β2 )2 − (β1 + β2 )2
1 − 1+β1 β2
β1 +β2

1 + β1 β2
=p
1 + 2β1 β2 + (β1 )2 (β2 )2 − (β1 )2 − 2β1 β2 + (β2 )2
1 + β1 β2 1 + β1 β2
=p = p (C.45)
1 + (β1 )2 (β2 )2 − (β1 )2 + (β2 )2 (1 − (β1 )2 )(1 − (β2 )2 )

となり一致する。cteに関しても同様の計算。
C.2 解答 321

【問い 5-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p101、ヒントは p313)

ヒントの(C.5) と(C.6) に ⃗ ute を代入すると、


e=⃗
x
→ p313 → p313

 
1
ct =γ (⃗v) cte + v·⃗
(⃗ u)te (C.46)
c
γ (⃗v) − 1

x =⃗ ute +
v γ (⃗v)te + ⃗ ⃗
v (⃗ u)te
v·⃗ (C.47)
v |2
|⃗

となり、下の式を上の式で割ることにより、

γ (⃗v) − 1
v γ (⃗v) + ⃗
⃗ u+ ⃗ v·⃗
v (⃗ u)

x |⃗
v |2
=   (C.48)
ct v·⃗
⃗ u
γ (⃗v) c +
c

より、(5.12) を得る。
→ p100
【問い 5-4】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p106)
2
2 e
y
e
x 2
ze
 2 p !2
cos θ + β 1 − β 2 sin θ
cte cte
2
− + − +0
1 + β cos θ 1 + β cos θ
!
cos2 θ + 2β cos θ + β 2 1 − β2
e
=(ct)
2
+
2
sin θ
(1 + β cos θ)2 (1 + β cos θ)2
2
1 cos θ

2 2 2
!
cos θ + sin θ + 2β cos θ + β 2 (1 − sin θ)
e
=(ct)
2 e
= (ct)
2
(C.49)
(1 + β cos θ)2

【問い 5-5】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p107、ヒントは p313)


e
y sin θ p
tan θe = = となる。因子 1 − β 2 がない分だけ、(5.26) とは違う。光行差という
e
x β + cos θ → p106

−4
現象自体はどちらの変換でも起きる。地球の公転速度 約 30 km/s≃ 10 c に対しては

p 1 −8
1 − 10−8 ≃ 1 − × 10 倍という、小さな違いしかない。
2
【問い 5-6】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p111、ヒントは p313)
相対論的でない場合、

c c
ν大 = ν0 , ν 小 = ν0 (C.50)
c−v c+v

より、 c−v c+v

ν0 c ν0 c 2ν大 ν小
+ = 2c となって、 ν0 = (C.51)
ν大 ν小 ν大 + ν小
322 付録 C 練習問題のヒントと解答

相対論的な場合、
p s p s
1 − β2 1+β 1 − β2 1−β
ν大 = ν0 = ν0 , ν 小 = ν0 = ν0 (C.52)
1−β 1−β 1+β 1+β

より、

2 √
ν大 ν小 = (ν0 ) となって、 ν0 = ν大 ν小 (C.53)

となる。実際に測定することでどちらが正しいかを確認できるが、結果は相対論を支持する。
【問い 6-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p117)

cte = γ (ct − βx) だが、 γ > 0 だから te の正負は ct − βx の正負で決まる。timelike なら、

|x| < |ct| である。 −1 < β < 1 だから、 |x| < ct の小さい方である |x| に |β| を掛けても不等

号の向きは変わらず |βx| < |ct| である。絶対値が小さい量を足したり引いたりしても、符号は変わ

らないから、ct の正負と ct − βx の正負は変わらない。


【問い 6-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p135)

(1)
     
−1 0 0 0 γ −βγ 0 0 −1 0 0 0 γ βγ 0 0
     
 0 1 0 0  0   1 0 0  βγ γ 0 
  −βγ γ 0  0   0 
   =  (C.54)
 0 
0 1 0  
0    0 0 0 
  0 0 1  0 0 1 0  1 
0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1

(2)
    
2 2
γ βγ 0 0 γ −βγ 0 0 γ (1 − β ) 0 0 0
   
 βγ γ 0   0   γ (1 − β ) 0 0 
2 2
 0  −βγ γ 0   0 
  = =I
 0 0 1 0   0   1 0
  0 0 1   0 0 
0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1
(C.55)

【問い 6-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p136)

(1)
     
−1 0 0 0 1 0 0 0 −1 0 0 0 1 0 0 0
     
 0 1 0 0   1 0 0  0 cos θ sin θ 0 
  0 cos θ sin θ 0  0   
   = 
 0 0 1 0  0 − sin θ cos θ 0  0 0 1 0  0 − sin θ cos θ 0 
     
0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1
(C.56)

(2)
C.2 解答 323
転置
    
1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0
    
 0 cos θ − sin θ 0  0 cos θ sin θ 0   0 cos2 θ + sin2 θ 0
    0 
  = 
 0 sin θ cos θ 0  0 − sin θ cos θ 0  0 0 cos
2
θ + sin
2
θ 0 
    
0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1

I (C.57)

【問い 6-4】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p136、ヒントは p314)

(1) ct x
   
∂ ∂ γ(cte + β x
e) ∂ e
e + βct)
∂ γ(x ∂ ∂ ∂
= + =γ + βγ (C.58)
e
∂(ct) e
∂(ct) ∂(ct) e
∂(ct) ∂x ∂(ct) ∂x
ct x
   
∂ ∂ γ(cte + β x
e) ∂ e
e + βct)
∂ γ(x ∂ ∂ ∂
= + = βγ +γ (C.59)
∂xe ∂x e ∂(ct) e
∂x ∂x ∂(ct) ∂x
∂ ∂ ∂ ∂
= , = (C.60)
∂ye ∂y ∂ ze ∂z

より、
    
∂ ∂
   γ βγ 0 0  
 ∂(ct)
e    ∂(ct) 
    
    
 ∂   βγ ∂
   γ 0 0

 

 ∂xe 
 =



∂x 
 (C.61)
 ∂    ∂ 
   0 0  
   0 1  
 ∂ye    ∂y 
    
 ∂  ∂
0 0 0 1
∂ ze ∂z

(2) e
∂(ct)
cte
 
∂ ∂ 2 2 2
γ + βγ (γ(ct − βx)) = γ − β γ = 1 (C.62)
∂(ct) ∂x

e
∂(ct)
e
x
 
∂ ∂ 2 2
γ + βγ (γ(x − βct)) = −βγ + βγ = 0 (C.63)
∂(ct) ∂x

e
∂x
cte
 
∂ ∂ 2 2
βγ +γ (γ(ct − βx)) = −βγ + βγ = 0 (C.64)
∂(ct) ∂x

e
∂x
e
x
 
∂ ∂ 2 2 2
βγ +γ (γ(x − βct)) = −β γ + γ = 1 (C.65)
∂(ct) ∂x

【問い 7-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p147)


x

ロケット A の加速前 γ(x e =0


e + βct) e = − βcte
より x (C.66)
324 付録 C 練習問題のヒントと解答

x
L
ロケット B の加速前 γ(x e =L
e + βct) e=
より x − βcte (C.67)
x ct γ

ロケット A の加速後 γ(x e =βγ(cte + β x


e + βct) e) e =0
より x (C.68)
相殺
x ct
L
ロケット B の加速後 γ(x e =L + β γ(cte + β x
e + βct) e) e=
より x
2
+β xe
相殺
γ

2 L
(1 − β )x
e=
γ
1
γ2 e =Lγ
x (C.69)

L p
ex
となる。これを見ると (ct, e) 系では 2 台のロケットの加速前は = L 1 − β 2 離れていて、加速
γ
後は Lγ 離れていることがわかる。
【問い 7-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p149、ヒントは p314)
次の図は、二つの系での衝突の時空図を並べたものである。

衝突!


ガレージ
衝突!

ガレージ 車
衝突(C)の情報が光速で伝わる様子を破線で描いている。


 ガレージの静止系なら車は
この情報が伝わらない限り、 直前までの運動をそのまま続けるだろう。

 車の静止系ならガレージは

よってどちらにしてもガレージ内に車は入る。
ここまでは車とガレージが突き抜けるような図を描いていたが、実際には壁にぶつかった車はこわれ
て、壁と車の先端部分は一体となってしまうだろう。そのように図を描きなおしたものが次の通りで
ある。
車の先端部とガレージの壁が
壊れて一体となっている部分
を で表した。


ガレージ
衝突! 衝突!

ガレージ 車
C.2 解答 325

この図は間違った図です。

上の図で のように点々模様にした部分が「車が壊れたとい

う情報が伝わり得る部分」である。 この瞬間に
車は止まる
日常生活的な「常識」に囚われていると、「ぶつかるとすぐ車はと
まる」と思ってしまうので、右の図のような間違った時空図を頭に思
い描いてしまう。しかしこれは相対論的因果律から有り得ない状況な
→ p102
のである。実際のところ、「車が壊れた」という情報が伝わる速度は
固体中の音速であるから(日常生活的には速いが)、かなり遅い。
【問い 8-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p161、ヒントは p315)
2 2
ヒントの式で β まで計算したので、まず 1 − β を計算すると、
 2   
u]x v
[⃗ v2
c2 1 + c2 − ([⃗
u]x + v)2 − ([⃗
u]y )2 + ([⃗
u ]z )2 1− c2
 
u]x v 2
[⃗
c2 1 + c2
 x
2   
[⃗
u] v v2
u]x v +
c2 + 2[⃗ c u] v − ([⃗
− v 2 − 2[⃗ u]x )2 − ([⃗
x
u]y )2 + ([⃗
u ]z )2 1− c2
=  2
u]x v
[⃗
c2 1 − c2
2
u
     
x 2 y 2 z 2 v2 u2 v2
c − v − ([⃗
2 2
u] ) + ([⃗
u] ) + ([⃗
u] ) 1− c2 1− c2 1− c2
=  2 =   2
u]x v
[⃗ u]x v
[⃗
c2 1 + c2 1+ c2

(C.70)

q q
⃗ ei 1− u2
1− v2
⃗ ei
となるので、 [fe] = [fe] となる。
c2 c2
u]x v
[⃗
1+ c

【問い 9-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p194、ヒントは p315)


ヒントより、磁荷がある場合の(9.36) の左辺は
→ p194

   
⃗ 1 1 1
+
− 時Aµ
⃗ 1 [ ∂ B + rotE]
−div B ⃗ x ∗ ∗ = +
− 時Aµ
x y
−ρ磁 − [⃗j磁 ] − [⃗j磁 ] − [⃗j磁 ]
z

c ∂t c c c
y, z 成分省略 (C.71)

となる。ゆえに cρ磁 = j磁 として、

1 ν
∂µ ∗F
µν
= − j (C.72)
+ 時Aµ
c 磁

となることがわかる。
【問い 9-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p199)
   
V V
新しい座標系を x̄ = γ (V ) x − ct , ct̄ = γ (V ) ct − x として
c c
 
  V 1 ∗
ρ̄ {x̄∗} =γ (V ) ρ {x∗} − j {x }
c2
t
   x
 
Vv V
=Qγ (V ) 1 − 2 δ γ (V ) (x̄ + V t̄) − vγ (V ) t̄ + x̄ δ (ȳ)δ (z̄)
c c2
326 付録 C 練習問題のヒントと解答

     
Vv V
=Qγ (V ) 1 − δ γ (V ) (x̄ + V t̄) − v t̄ + x̄ δ (ȳ)δ (z̄)
c2 c2
     !
Vv Vv v−V
=Q 1 − δ 1− x̄ + (V − v)t̄ δ (ȳ)δ (z̄) = Qδ x̄ − t̄ δ (ȳ)δ (z̄) (C.73)
c2 c2 1− Vv
c2

v−V
となる。これはつまり、 で運動する電荷の電荷密度である。速度の合成則からして、これは正
1− Vv
c2


  

1̄ 1
しい。電流密度は、 j̄ ∗
{x̄ } = γ (V ) j ∗
{x } − V ρ {x∗} を使って計算することにより、同様に、
t
x
  
1̄  V
j̄ ∗
{x̄ } =Qγ (V )(v − V )δ γ (V ) (x̄ + V t̄) − vγ (V ) t̄ + x̄ δ (ȳ)δ (z̄)
c2
!
v−V v−V
=Q δ x̄ − t̄ δ (ȳ)δ (z̄) (C.74)
1− Vv
c2
1− Vv
c2

v−V
を得る。これは合成速度 で運動する電荷の電流密度になっている。
1− Vv
c2
【問い 9-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p204、ヒントは p315)
ヒントの(C.16) より、
→ p315

∂ρ x ′
= − Q[⃗
v ] δ (x − [⃗v]x t)δ (y − [⃗v]y t)δ (z − [⃗v]z t)
∂t
y ′
− Q[⃗
v ] δ (x − [⃗v]x t)δ (y − [⃗v]y t)δ (z − [⃗v]z t)
z ′
− Q[⃗
v ] δ (x − [⃗v]x t)δ (y − [⃗v]y t)δ (z − [⃗v]z t)
 
x ∂ y ∂ z ∂
= − Q [⃗
v] + [⃗
v] + [⃗
v] δ (x − [⃗v]x t)δ (y − [⃗v]y t)δ (z − [⃗v]z t) (C.75)
∂x ∂y ∂z

†3 i
となる が、(9.45) を見ると、この式の右辺は ∂i j になっている。
→ p199
【問い 9-6】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p214)
⃗e ye ⃗e ze
x 成分に関しては自明。y 成分に関して [E] + v[B] を計算すると、
  !
  v ⃗ y v2
⃗e ye ⃗e ze ⃗ y − v[B]
⃗ z ⃗ − z y
[E] + v[B] =γ [E] + vγ [B] [E] =γ 1− ⃗
[E]
c2 c2

  1
⃗e ye ⃗e ze ⃗ y γ
γ [E] + v[B] =[E] (C.76)

となって逆変換がわかる。同様のことを磁束密度についても繰り返すとよい。
【問い 9-4】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p214、ヒントは p315)
ヒントの(C.18) から、
→ p316 ⃗ x⃗
[E] ex
 
e ⃗ x⃗
⃗ =(1 − γ)[E] ⃗ x⃗ ⃗ y⃗ ⃗ z⃗
E ex + γ [E] ex + [E] ey + [E] ez

†3 ′ d ′ x
δ (X) の意味は δ (X) なので、δ (x − [⃗v]x t) は「δ (x − [⃗v]x t) の x − [⃗
v ] t という変数による微分」

x ∂ ∂
だが、x と x − [⃗
v ] t は平行移動の差なので、 と と同じである。y, z 成分も同様。
∂x ∂(x − [⃗
v ]x t)
C.2 解答 327

入れても 0
 
+⃗ ⃗ x⃗
ex × [B] ⃗ y⃗
ex + [B] ⃗ z⃗
ey + [B] ez (C.77)

x
ex × ⃗
のように変形する( ⃗ ex = ⃗ ex × の後ろに [B]
0 なので、⃗ ⃗ ⃗ex を付け加えても結果は変わらない

x v


ことに注意)。さらに [E] ex · E
=⃗ ⃗ としたのち、 ⃗
ex = と置き換えれば
v
⃗ x
[E] ⃗
ex

e
⃗ = (1 − γ) 1 ⃗
v h i
E v·E
⃗ ⃗ +γ E ex × B
⃗ +⃗ ⃗ (C.78)
v v

となり、(9.102)の電場の部分を得る(磁場に関しても同様である)。
→ p214
【問い 9-7】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p216)

x
⃗ = + c (∂0 A1 − ∂1 A0 )
[E] − 時Aµ
 
−Qβγ × − 12 × (−2β)γ 2 (x − βct) Qγ × − 12 × 2γ 2 (x − βct)
= 3 − 3
4πε0 (γ 2 (x − βct)2 + y 2 + z 2 ) 2 4πε0 (γ 2 (x − βct)2 + y 2 + z 2 ) 2
−2
γ
 
2
−Qγ 3 1 − β (x − βct) Qγ(x − βct)
= = (C.79)
4πε0 re3
3
4πε0 (γ 2 (x − βct)2 + y2 + z2 ) 2

y −Qγ × − 2 2y 1
Qγy
⃗ = + c (∂0 A2 − ∂2 A0 ) =
[E] = (C.80)
4πε0 re3
− 3
4πε0 (γ 2 (x − βct)2 + y 2 + z 2 ) 2
時Aµ


z −Qγ × − 12 2z Qγz
⃗ = + c (∂0 A3 − ∂3 A0 ) =
[E] = (C.81)
4πε0 re3
− 3
4πε0 (γ 2 (x − βct)2 + y 2 + z 2 ) 2
時Aµ

x
⃗ = + (∂2 A3 − ∂3 A2 ) = 0
[B] − 時Aµ
(C.82)

y Qβγ × − 12 × 2z Qβγz
⃗ = − (∂3 A1 − ∂1 A3 ) =
[B] = (C.83)
4πε0 cre3
3
4πε0 c (γ 2 (x − βct)2 + y 2 + z 2 ) 2
+ 時Aµ


z −Qβγ × − 2 × 2y 1
−Qβγy
⃗ = − (∂1 A2 − ∂2 A1 ) =
[B] = (C.84)
4πε0 cre3
3
4πε0 c (γ 2 (x − βct)2 + y 2 + z 2 ) 2
+ 時Aµ

【問い 9-8】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p220)


⃗ を計算してみよう。外すなわち r > R では
まず div E

⃗ y ⃗ z
[E] [E]
   
∂ µ0 I ∂ µ0 I
βcγ y + βcγ z
∂y 2πr 2 ∂z 2πr 2
 
µ0 I 2y 1 2z 1
=βcγ −y × 2 2 2
+ 2 2
−z× 2 2 2
+ 2 2
2π (y + z ) y +z (y + z ) y +z
!
µ0 I y2 + z2 2
=βcγ −2 × + 2 =0 (C.85)
2π (y 2 + z 2 )2 y + z2
328 付録 C 練習問題のヒントと解答

となって 0 である。内すなわち r ≤ R では
⃗ x ⃗ y
[E] [E]
   
∂ µ0 I ∂ µ0 I µ0 I µ0 I
βcγ x + βcγ y = βcγ × 2 = βcγ (C.86)
∂x 2πR2 ∂y 2πR2 2πR2 πR2

となる。これは、(9.120)を cε0 で割った


→ p219

ρ βγ I
= θ (r − R) (C.87)
ε0 ε0 c πR2

1 1
に一致する( ε0 µ0 = より、 cµ0 = である)。
c2 ε0 c

⃗ y = ∂z [E]
次に rot である。 [rot E] ⃗ x − ∂x [E] ⃗ x は 0 だし [E]
⃗ z だが、[E] ⃗ z は x に依存しないの

⃗ z
⃗ も 0。計算すべきは x 成分で、 r > R では
でこれは 0。同様に [rot E]
⃗ z ⃗ y
[E] [E]
   
⃗ x =∂y vγ µ0 I z − ∂z vγ µ0 I y
[rot E]
2πr 2 2πr 2
     
µ0 I 1 1
=vγ ∂y 2
z − ∂z 2
y
2π r r
 
µ0 I 1 ∂r 1 ∂r
=vγ z− 3 y =0 (C.88)
2π r 3 ∂y r ∂z
y z
− −
r r
r ≤ R では
⃗ z ⃗ y
[E] [E]
   
⃗ x =∂y vγ µ0 I z
[rot E] − ∂z vγ
µ0 I
y =0 (C.89)
2πR2 2πR2

【問い 10-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p235)

まず括弧内を計算しよう。
Fνβ Fαβ
1 1 1
∂α (∂ν Aβ − ∂β Aν ) − ∂ν (∂α Aβ − ∂β Aα ) = ∂α ∂ν Aβ − ∂α ∂β Aν + ∂ν ∂β Aα
2 2 2
(C.90)

αβ
この答は α ↔ β の交換で対称なので、後ろにある F と縮約を取ると消える。

【問い 10-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p238)

11 1 1 1λ 1 αβ
T =+ F F − Fαβ F

µ0 λ

4µ0
1  10 10 12 12 13 13
 ε0 ⃗ 2 1 ⃗ 2
= −F F + F F + F F + |E| − |B|
µ0      
2 2µ 0
x 2 z 2 y 2
⃗ /c
[E] ⃗
[B] ⃗
[B]
C.2 解答 329

 2  2  2  2  2  2   
ε0 ⃗ x + [E]
⃗ y + [E]
⃗ z 1 ⃗ x + [B]
⃗ y + [B]
⃗ z
= − [E] + − [B]
2 2µ0
(C.91)

となり、同様に、
   
22 ε0  ⃗ x2  ⃗ y2  ⃗ z2 1  ⃗ x2  ⃗ y2  ⃗ z2
T = [E] − [E] + [E] + [B] − [B] + [B] (C.92)
2 2µ0
   
33 ε0  ⃗ x2  ⃗ y2  ⃗ z2 1  ⃗ x2  ⃗ y2  ⃗ z2
T = [E] + [E] − [E] + [B] + [B] − [B] (C.93)
2 2µ0

ii 00 i 2
⃗ ) と ([B] i 2
⃗ ) の符号をひっくり返したものである。
となる。つまり、T は、T の、([E]

12 1 1 2λ 1  10 20 13 23

⃗ y − 1 [B]
⃗ x [E] ⃗ x [B]
⃗ y
T =+ F F = −F F + F F = −ε0 [E]

µ0 λ

µ0 µ0
(C.94)

T
13
= − ε0 [E] ⃗ z − 1 [B]
⃗ x [E] ⃗ x [B]
⃗ z
µ0
同様にして以下を得る。
23 y z 1 ⃗ y ⃗ z
T = − ε0 [E] ⃗ −
⃗ [E] [B] [B]
µ0
【問い 10-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p238)

01
T電磁
 
1  ⃗ y ⃗ z ⃗ z [B]
⃗ y
∂0 [E] [B] − [E]
µ0 c 11
T電磁
       2    2  2  2 
ε0 x 2 y 2 z 1 ⃗ x + [B]⃗ y + [B]
⃗ z
+ ∂1 − [E]
⃗ ⃗
+ [E] ⃗
+ [E] + − [B]
2 12
2µ0 13
T電磁 T電磁
   
x y 1 ⃗ x ⃗ y x z 1 ⃗ x ⃗ z
+ ∂2 −ε0 [E] ⃗ −
⃗ [E] [B] [B] + ∂3 −ε0 [E] ⃗ −
⃗ [E] [B] [B] (C.95)
µ0 µ0

第 1 項のうち、時間微分が磁場の方に掛かった項を取り出す。

⃗ = − ∂ B と ∂0 = 1 ∂t を使って、
rot E
∂t c

1  ⃗ y ⃗ z − [E]
⃗ z ∂t [B]
⃗ y

[E] ∂t [B]
µ 0 c2 ∂B⃗ ⃗
∂B
[ ⃗ z
= −rot E] [ ⃗ y
= −rot E]
∂t ∂t
    
y y x z x z

=ε0 [E] −∂x [E]
⃗ + ∂y [E]
⃗ − [E]
⃗ −∂z [E]
⃗ + ∂x [E]

  2  2   
ε0 ⃗ y ⃗ z ⃗ y ∂y [E]
⃗ x + [E]
⃗ z ∂z [E]
⃗ x
= ∂x [E] + [E] + ε0 [E]
2
 2  2 
ε0 ⃗ y ⃗ z
= ∂x [E] + [E]
2
330 付録 C 練習問題のヒントと解答

       
y x z x ⃗ y + ∂z [E]
⃗ z [E]
⃗ x
⃗ [E]
+ ε0 ∂y [E] ⃗ ⃗ [E]
+ ∂z [E] ⃗ − ∂y [E]
  2  2  2  −∂x [E]
⃗ + x ρ
ε0 x y z
= ∂x − [E]
⃗ ⃗
+ [E] ⃗
+ [E] ε0
2
    
y x z x x
⃗ [E]
+ ε0 ∂y [E] ⃗ ⃗ [E]
+ ∂z [E] ⃗ − ρ[E]
⃗ (C.96)

x
となる。この式の最後の −ρ[E]
⃗ 以外の項は、(C.95) の第 2 項、第 3 項、第 4 項の電場に関係する部分
→ p329
をちょうど打ち消す。ここまでの計算で
 
µ1 ⃗ x + ε0 ∂t [E]
⃗ y [B]
⃗ z − ∂t [E]
⃗ z [B]
⃗ y
∂µ T電磁 = − ρ[E]
  2  2  2 
1 x y z
+ ∂1 − [B]
⃗ ⃗
+ [B] ⃗
+ [B]
2µ0
   
1 ⃗ x ⃗ y 1 ⃗ x ⃗ z
+ ∂2 − [B] [B] + ∂3 − [B] [B] (C.97)
µ0 µ0

となるので、次に電場の時間微分を書き直していくと、同様に後ろの項との打消しが起こる。ただし、

⃗ = 1 ⃗ − 1 ⃗j に含まれる − 1 [⃗j]i の部分だけは消えないので、


∂t E rot B
ε0 µ0 ε0 ε0

µ1 x y z z y
∂µ T電磁 = − ρ[E]
⃗ − [⃗j] [B]
⃗ + [⃗j] [B]
⃗ (C.98)

が結果である。これは(10.22)と同じで、(10.14)の右辺の ν = 1 成分になっている。
→ p236 → p233
【問い 10-4】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p248)

µ ν ν µ ν µ
d µ ν ν µ ν µ µ ν µ ν
(x P −x P )= P +x − P −x =x −x

Pµ Pν
(C.99)
m m
【問い 11-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p270、ヒントは p316)
ヒントの(C.19) をまとめて、
→ p316
 
qv ∂ ∂
−⃗
ex +⃗
ez (θ (x − vt + ∆x) − θ (x − vt − ∆x)) δ (y) (θ (z + ∆z) − θ (z − ∆z))
2∆x ∂z ∂x
(C.100)

†4
と書くことができる 。これは

⃗ = qv (θ (x − vt + ∆x) − θ (x − vt − ∆x)) δ (y) (θ (z + ∆z) − θ (z − ∆z)) ⃗


M ey (C.101)
2∆x

∂[M⃗ ]y ∂[M⃗ ]y
⃗ = −⃗
としたときの rot M ex +⃗
ez である。この式は
∂z ∂x
   
⃗ = qv(2∆z) θ (x − vt + ∆x) − θ (x − vt − ∆x) θ (z + ∆z) − θ (z − ∆z)
M δ (y) ⃗
ey (C.102)
2∆x 2∆z

†4
階段関数が、どちらも θ (? + ∆?) − θ (? − ∆?) の形で出てくるようにしてまとめた。
C.2 解答 331

⃗ = q(2∆z)v ⃗
としてから極限を取れば(11.47) M ey δ (x − vt)δ (y)δ (z) となる。
→ p270
【問い 11-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p272、ヒントは p316)
ヒントより、
     
1 1
v×D
⃗ ⃗⊥ + v× ⃗
⃗ v×H
⃗⊥ ⃗⊥ − ⃗
+µ H v×D
⃗⊥
εc2 c2
2⃗
−v H ⊥
1   
⃗⊥ − 1 ⃗
= 2 ⃗ v×E v× ⃗
⃗⊥ + ⃗ v×B
⃗⊥ +B v×E
⃗⊥ (C.103)
c c2
2⃗
−v B ⊥
となり、
! !
1 v2 ⃗   v2
v×D
⃗ ⃗⊥ − H⊥ +µ H v×D
⃗⊥ − ⃗ ⃗⊥ = 1− ⃗⊥
B
εc2 c2 c2
2
!   !
2 1 v 1
γ µ− ⃗⊥ +
H v×D
−µ ⃗ ⃗⊥ ⃗⊥
=B (C.104)
εc2 c2 εc2

が導かれる。
【問い 11-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p277、ヒントは p316)
極限を取る前の解を D (r) のように r の関数とする(球対称な解を求めているのでこれでよい)。する
と微分は常微分になって、

r < R の場合 r ≥ R の場合


 
1 d 2 d 3  
r D (r) = 0 ×r
2
r2 4πR3
 
d 2 d 3 2
r D (r) = r 0 (積分)
4πR3
d 1   (C.105)
2 3
r D (r) = r + C1 C2 ÷r
2
4πR3
d 1 C1 C2
D (r) = r+ 2 (積分)
4πR3 r r2
1 2 C1 C2
D (r) = r − + C3 − + C4
8πR3 r r

のように D (r) が求まる。 r = 0 で発散してはいけないので、 C1 = 0 である。 r = ∞ で 0 とい

う境界条件を採用すると、 C4 = 0 である。

r = R で二つの解がつながることから、

1 C2
+ C3 = − (C.106)
8πR R

が、さらに r = R で二つの解の微分がつながることから、

1 C2
= 2 (C.107)
4πR2 R
332 付録 C 練習問題のヒントと解答

1 3
と条件が出て、 C2 = , C3 = − がわかる。
4π 8πR

1
つまり r ≥ R の範囲においての解は D (r) = − である。
4πr
索 引

4 E = mc2 , 170
問題, 261
3 アインシュタイン
Einstein convention(Einsteinの規約), 30
4 元運動量 (four-momentum), 156 energy momentum tensor of elec-
4 元加速度 (four-acceleration), 155 tromagnetic field(電 磁 場 の エ ネ ル ギ ー
4 元速度 (four-velocity), 153 運動量テンソル), 235
4 元電流密度 (four-current), 195 ユークリッド
Euclidean metric(Euclid計量), 118
4 元ベクトル (four-vector), 132 event(事象), 13
4 元力 (four-force), 160 フィゾー
Fizeauの実験, 50, 101
4 次元距離, 116
four-acceleration(4 元加速度), 155
advanced Green function(先進 Green 関 four-current(4 元電流密度), 195
数), 282 four-force(4 元力), 160
Cartesian coordinate, 11 four-momentum(4 元運動量), 156
カーテシアン
Cartesian座標, 11 four-vector(4 元ベクトル), 132
comoving frame(共動系), 200 four-velocity(4 元速度), 153
フレネル
Fresnelの随伴係数, 51
contraction(縮約), 124
contravariant vector(反変ベクトル), 122 ガリレイ
Galilean transformation(Galilei変 換),
coordinate system(座標系), 11 16
コペルニクス
Copernicus的転回, 1 ヘルツ
クーロン Hertzの方程式, 46
Coulombゲージ, 226 ホッジ
Hodgeスター演算子, 194
covariant(共変), 33
hyper surface(超表面), 14
covariant vector(共変ベクトル), 122
ドップラー inertial frame(慣性系), 20
Doppler効果, 107
ケネディ ソーンダイク
dual(双対), 193 KennedyとThorndikeの実験, 295
334

クロネッカー
Kroneckerのデルタ, 31 ガレージのパラドックス, 148
基準系 (reference frame), 11
light-cone(光円錐), 23
共動系 (comoving frame), 200
line element(線素), 115
ローレンツ 共変 (covariant), 33
Lorentz boost(Lorentzブースト), 114
ローレンツ 共変ベクトル (covariant vector), 122
Lorentz transformation(Lorentz変 換), クロネッカー
Kroneckerのデルタ, 31
62 クーロン
ローレンツ
Coulombゲージ, 226
Lorentz短縮, 294 ケネディ ソーンダイク
ローレンツ
Lorentz力, 208 KennedyとThorndikeの実験, 295
ローレンツ
Lorenzゲージ, 226 ゲージ変換, 226
マッハ
光円錐 (light-cone), 23
コペルニクス
Mach原理, 22 Copernicus的転回, 1
マックスウェル
Maxwell方程式, 44 固有時 (proper time), 119
マックスウェル
Maxwell方程式(真空中の), 37 固有長さ (proper length), 81
マックスウェル
Maxwell方程式(源のある真空中の), 4
問題, 261
185 3
マイケルソン モーレー
Michelson-Morleyの実験, 290 座標系 (coordinate system), 11
ミンコフスキー
Mikowski metric(Minkowski計量), 117 質量の増大, 163
ミンコフスキー
Minkowski space(Minkowski空間), 113 縮約 (contraction), 124
ポインティング 事象 (event), 13
Poynting vector(Poyntingベクトル), 231
静止長さ (rest length), 81
proper length(固有長さ), 81
世界線 (worldline), 18
proper time(固有時), 119
先 進 Green 関 数 (advanced Green func-
reference frame(基準系), 11 tion), 282
rest length(静止長さ), 81 線素 (line element), 115
retarded Green function(遅延 Green 関 絶対空間, 1
数), 282
レントゲン アイフェンヴァルト 双対 (dual), 193
Röntgen-Eichenwardの 実 験, 49, 速度の合成則, 97
273 縦質量, 165
トルートン ノーブル
Trouton-Nobleの実験, 51, 161 ダミーの添え字, 30
遅 延 Green 関 数 (retarded Green func-
worldline(世界線), 18
tion), 282
アインシュタイン
Einsteinの規約 (Einstein convention), 30 超表面 (hyper surface), 14
ウラシマ効果, 83 デカルト座標, 11
x 方向の Lorentz 変換, 68 電磁場のエネルギー運動量テンソ
エーテル, 47 ル (energy momentum tensor of electro-
階段関数, 303 magnetic field), 235
慣性系 (inertial frame), 20 特殊相対性原理, 22
カーテシアン トルートン ノーブル
Cartesian座標, 11 Trouton-Nobleの実験, 51, 161
ガリレイ
Galilei変換 (Galilean transformation), 16 同時の相対性, 66
335

ドップラー
Doppler効果, 107 185
マッハ
反変ベクトル (contravariant vector), 122 Mach原理, 22
フィゾー
ミンコフスキー
Fizeauの実験, 50, 101 Minkowski空間 (Minkowski space), 113
ミンコフスキー
双子のパラドックス, 137 Minkowski計量 (Minkowski metric), 117
フレネル
Fresnelの随伴係数, 51 ユークリッド
ヘルツ Euclid計量 (Euclidean metric), 118
Hertzの方程式, 46
横質量, 165
ベクトルポテンシャル, 185 レントゲン アイフェンヴァルト
ホッジ Röntgen-Eichenwardの 実 験, 49,
Hodgeスター演算子, 194
ポインティング 273
Poyntingベ ク ト ル(Poynting vector), ローレンツ
Lorenzゲージ, 226
231 ローレンツ
マイケルソン モーレー
Michelson-Morleyの実験, 290 Lorentz短縮, 294
ローレンツ
マックスウェル
Maxwell方程式, 44 Lorentzブースト (Lorentz boost), 114
マックスウェル ローレンツ

Maxwell方程式(真空中の), 37 Lorentz変換 (Lorentz transformation), 62


マックスウェル ローレンツ
Maxwell方程式(源のある真空中の), Lorentz力, 208
著者紹介
まえ の まさ ひろ
前 野 昌 弘
1985年 神戸大学理学部物理学科卒業
1990年 大阪大学大学院理学研究科博士後期課程修了
1995年より琉球大学理学部教員
現 在 琉球大学理学部物質地球科学科准教授
著 書 『よくわかる電磁気学』『よくわかる初等力学』
『よくわかる解析力学』『よくわかる量子力学』『よくわかる熱力学』
『ヴィジュアルガイド物理数学∼1 変数の微積分と常微分方程式』
『ヴィジュアルガイド物理数学∼多変数関数と偏微分』
(以上7冊は東京図書)
『今度こそ納得する物理・数学再入門』(技術評論社)
『量子力学入門』(丸善出版)

ネット上のハンドル名は「いろもの物理学者」
ホームページは http://irobutsu.a.la9.jp
twitter は http://twitter.com/irobutsu
本書のサポートページは http://irobutsu.a.la9.jp/mybook/ykwkrSR/

装丁(カバー・表紙)高橋 敦

とくしゅそうたいろん
よくわかる特殊相対論 Printed in Japan

2024 年 ? 月??日 第 1 刷発行 ©Masahiro Maeno 2024

著 者 前 野 昌 弘
発行所 東京図書株式会社
〒102 0072 東京都千代田区飯田橋 3 11 19
振替 00140 4 13803 電話 03(3288)9461
http://www.tokyo-tosho.co.jp

ISBN 978 4 489 XXXXX X


付録 D

章末演習問題のヒントと解答

★【演習問題 3-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p58、解答は p3w)

エーテルの風が吹いている場合、衛星から出た電波が t − Ti
の時間だけ移動する間に、波面を表す円全体が v(t − Ti ) だけ流 半径 の円

される。よって、(xi − v(t − Ti ), yi ) を中心とする円になると 円の中心は

考えればよい。結果として、エーテルの風があることを知らない だけ流される

人は「自分は図の P または Q にいる」と判断するが、実際には図 円の中心は

だけ流される
の p または q にいることになる。
半径 の円
よって成り立つ式は x1 = −L, x2 = L, y1 = y2 の場合、

2 2 2 2
c (t − T1 ) = (x + L − v(t − T1 )) + (y − y1 ) (D.1)
2 2 2 2
c (t − T2 ) = (x − L − v(t − T2 )) + (y − y1 ) (D.2)

である。
★【演習問題 4-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p96、解答は p4w)

二つのローレンツ変換は行列で表現すると、
 v1   v2 
γ (⃗v1 ) − γ (⃗v1 ) 0 0 γ (⃗v2 ) 0 0 − γ (⃗v2 )
 c   c 
 v1   
− γ (⃗v1 ) γ (⃗v1 ) 0 0  0 1 0 0 
   
 c ,   (D.3)
 0 0 1 0  0 0 1 0 
   v2 
0 0 0 1 − γ (⃗v2 ) 0 0 γ (⃗v2 )
c

である。
★【演習問題 4-2】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p96、解答は p4w)

行列式の値を変えない変形
 

 から引く 
 から引く
(1) m 列めに定数を掛けて n 列め (2) m 行めに定数を掛けて n 行め

 に足す 
 に足す

を繰り返す。上の「定数」の分母が 0 にならないよう、場合分けが必要である。
(2w) 付録 D 章末演習問題のヒントと解答

★【演習問題 6-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p136、解答は p7w)

∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂
【問い 6-4】
の答え =γ + βγ , = βγ +γ を使う。
→ p136 e
∂(ct) ∂(ct) e
∂x ∂ x ∂(ct) ∂x

★【演習問題 6-2】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p136、解答は p7w)

ctEct + xEx + yEy + zEz =γ(cte + β x


e)Ect + γ(x e x+y
e + βct)E eEy + z
eEz (D.4)

ex
である。右辺を ct, e, y
e, z
µ
e で整理する。E についても同様。
★【演習問題 7-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p150、解答は p8w)

弟の座標系(地球静止系)を (ct, x)、行きの兄の座標系を (ct行 , x行 )、帰りの兄の座標系を (ct帰 , x帰 )


†1
とする 。
弟の時報が発せられる時空点の座標は、T を周期、n を整数として (ct, x) = (nT, 0) である。こ

れから x 軸正の向きに発せられる光の軌跡は (ct, x) 系では x = c(t − nT ) で表される。これらの軌

跡を (ct行 , x行 ) 系と (ct帰 , x帰 ) 系で表せばよい。(4) では、兄の発する時報の軌跡を弟から見る。


★【演習問題 8-2】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p182、解答は p9w)
µ µ µ
光子の 4 元運動量を p光 、電子と陽電子の 4 元運動量をそれぞれ pe , pē とすると、

µ µ µ
p光 = pe + pē (D.5)

が成り立つ。計算がやりやすい座標系として、重心系(トータル運動量が 0 になる座標系)を選ぶ。空
間成分と時間成分の式を作ってみよう。
★【演習問題 8-3】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p182、解答は p9w)

第 0 成分の保存則は

mcγ (v) =(m + )cγ (v + ) + cγ (V ) (D.6)

第 1 成分の保存則は

mvγ (v) =(m + )(v + )γ (v + ) + V γ (V ) (D.7)

である。 はよくわからない量なのでこの式から消去すると後は と の関係式になって積分が


できる。
★【演習問題 8-4】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p183、解答は p10w)

(D.6) で , , の関係が決まっており、【演習問題8-3】の解答で と の関係は出した


→ p182 → p9
ので、それを使って と の式を出す。
★【演習問題 9-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p227、解答は p11w)
⃗ i
i
[B]

[E]

E ⃗ = − F0i 1 ϵijk + Fjk


⃗ ·B (D.8)
時Aµ − 時Aµ
+
2

0ijk ijk
から考える。4 次元の Levi-Civita と 3 次元の Levi-Civita には ϵ(1) =ϵ という関係がある。

†1
この三つの座標系は原点が一致しているとして考えておこう。実は最終結果に原点は関係ない。
(3w)

★【演習問題 9-2】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p228、解答は p12w)

0.0pt217.6946pt 0.0pt217.6946pt 0.0pt324.36092pt




(1) 導線の静止系では、トータルの 4 次元電流密度は (0, j, 0, 0)。 力

これを Lorentz 変換する。 面積
電荷密度 の電荷
(2) 右の図のように仮想的円筒を考えてガウスの法則を使う。電
場は軸対称になって x 軸から離れる方向を向く。
(3) (1) と同様。
I
(4) H = で計算。
2πr
(5) qE と qvB を素直に計算して比較。

★【演習問題 9-3】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p228、解答は p13w)


ργv
電荷密度は ργ 流れる電流は ργv になるので、電流が距離 r の位置に作る磁場は となる。
2πr
★【演習問題 10-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p255、解答は p14w)
zz
T は

ε0  ⃗ x 2 
⃗ z )2 + 1
⃗ y )2 − ([E]

⃗ y )2 − ([B]
⃗ x )2 + ([B] ⃗ z )2

([E] ) + ([E] ([B]
2 2µ0
   2
Q2 2 2 2 2 2 1 Qβγz Q2 y 2
= e +γ y −γ z
x + B外 − + (D.9)
16π ε0 re
2 6 2µ0 4πε0 cre3 16π 2 ε0 re6

と計算できるが、B外 の 1 次の項以外は、例によって z = L の寄与と z = −L の寄与が消し合う。

★【演習問題 11-1】のヒント . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p288、解答は p14w)


(11.6) を
→ p257



Q(定数) x 2
e +y
2 2
e ≥R
e +z
2

Q内 (re) = re3 (D.10)



Q 2 2 2 2
e +y
x e +z
e <R
R3

2 2 2 2
e +y
という関数に置き換える。よって球内部 x e +z
e <R の積分を行う必要がある。運動量 ×c

の積分に関しては
 2
Z Z √R2 −γ 2 (x−βct)2 e
r
QR
3
βγ 2 R
γ
+βct
3
3
ρ (D.11)
8πε0 − R +βct
γ
0 (γ 2 (x − βct)2 + ρ2 )3

が球内部の積分だからこれを足す。
★【演習問題 3-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p58、ヒントは p1w)

(D.1)−(D.2)を計算すると
→ p1 → p1

2
c (T2 − T1 ) (2t − T 1 − T2 ) = (2L − v(T2 − T1 )) (2x − v(2t − T1 − T2 ))
 
c2 (T2 − T1 ) t − T 1+T2  
2 T1 + T2
+v t− =x (D.12)
2L − v(T2 − T1 ) 2
(4w) 付録 D 章末演習問題のヒントと解答

 
T1 + T2
となって x が求められる。 x無風 = v t− を代入すると、
2

 
2L T1 + T2
x無風 × +v t− =x (D.13)
2L − v(T2 − T1 ) 2

である。 T1 = T2 の場合のずれは、

30km/s × 0.01s = 0.3km = 300m (D.14)

と見積もれる。
★【演習問題 4-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p96、ヒントは p1w)

ヒントの二つの行列を掛算すると
 v1  v2 
γ (⃗v1 ) − γ (⃗v1 ) 0 0 γ (⃗v2 ) 0 0 − γ (⃗v2 )
 c  c 
 v1  
− γ (⃗v1 ) γ (⃗v1 ) 0 0  0 1 0 0 
 c  
  
 0 0 1 0  0 0 1 0 
 
v2 
0 0 0 1 − γ (⃗v2 ) 0 0 γ (⃗v2 )
c
 v1 v2 
γ (⃗v1 )γ (⃗v2 ) − γ (⃗v1 ) 0 − γ (⃗v1 )γ (⃗v2 )
 v c c 
 1 v1 v2 
− γ (⃗v1 )γ (⃗v2 ) γ (⃗v1 ) 0 γ (⃗v1 )γ (⃗v2 ) 

= c c 2  (D.15)

 0 0 1 0 
 v2 
− γ (⃗v2 ) 0 0 γ (⃗v2 )
c

逆にしたものは、
 v2  v1 
γ (⃗v2 ) 0 0 − γ (⃗v2 ) γ (⃗v1 ) − γ (⃗v1 ) 0 0
 c  c 
   v1 
 0 1 0 0  − γ (⃗v1 ) γ (⃗v1 ) 0 0
  c 
  
 0 0 1 0  0 0 1 0
 v2  
− γ (⃗v1 ) 0 0 γ (⃗v2 ) 0 0 0 1
c
 v1 v2 
γ (⃗v1 )γ (⃗v2 ) − γ (⃗v1 ) 0 − γ (⃗v2 )
 c c 
 v1 
 − γ (⃗v1 ) γ (⃗v1 ) 0 0 
=
 c 
 (D.16)
 0 0 1 0 
 v2 v1 v2 
− γ (⃗v1 )γ (⃗v2 ) γ v1 )γ (⃗
(⃗ v2 ) 0 γ (⃗v2 )
c c2

⃗ によるローレンツ
であり、結果は一致しない。Galilei 変換なら一致する。また、この変換は「ある β
変換」にはなっていないことにも注意(座標軸の回転を含んでいるので)。
★【演習問題 4-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p96、ヒントは p1w)

まず(4.33)の行列式を考える。
→ p91

x
⃗ を掛けて 2 行目に足す。
(1) 1 行目に [β]
(2) ⃗ x を掛けて 3 行目に足す。
1 行目に [β]
(5w)

(3) ⃗ x を掛けて 4 行目に足す。


1 行目に [β]

を行うと、
 
γ ⃗ xγ
−[β] ⃗ yγ
−[β] ⃗ zγ
−[β]
       
 0 1 + γ − 1 − γ [β] ⃗ x [β]⃗x γ−1
− γ [β] ⃗ x [β]
⃗y γ−1
− γ [β] ⃗ x [β]⃗z 
 
  β2   β2   β2  
 γ−1 γ−1 γ−1 
0 − ⃗ y ⃗ x
− ⃗ y ⃗ y
− ⃗ y ⃗ z 
 γ [ β] [ β] 1 + γ [ β] [ β] γ [ β] [ β] 
  β 2
  β 2
 β 2
 
 γ−1 γ − 1 γ − 1 
z
⃗ [β] ⃗ x z
⃗ [β] ⃗ y z
⃗ [β] ⃗ z
0 − γ [ β] − γ [ β] 1 + − γ [ β]
β2 β2 β2
(D.17)

γ−1
となる。省スペースのため、以降は Γ = − γ と書こう。
β2
続けて

(1) ⃗ x を掛けて 2 列目に足す。


1 列目に [β]
(2) ⃗ x を掛けて 3 列目に足す。
1 列目に [β]
x
⃗ を掛けて 4 列目に足す。
(3) 1 列目に [β]

を行うと 1 行目の 2 列目以降が 0 になる。


z
⃗ が 0 でない場合、
[β]

⃗x
[β]
(1) 4 列めに を掛けて 2 列めから引く。
⃗z
[β]
⃗y
[β]
(2) 4 列めに を掛けて 3 列めから引く。
⃗z
[β]

を行うことで、
 
γ 0 0 0
 
 ⃗x
[β] 
0 1 0 − 
 ⃗z 
 [β] 
  (D.18)
 ⃗y
[β] 
0 0 1 − 
 ⃗z 
 [β] 
⃗ z [β]
0 Γ[β] ⃗ x Γ[β]
⃗ z [β]
⃗y ⃗ z [β]
1 + Γ[β] ⃗z

になる。さらに

⃗x
[β]
(1) 2 列めに を掛けて 4 列めに足す。
⃗z
[β]
⃗y
[β]
(2) 3 列めに を掛けて 4 列めに足す。
⃗z
[β]

を行えば、
 
γ 0 0 0
 
0 1 0 0 
 
  (D.19)
0 0 1 0 
  
⃗ z [β]
0 Γ[β] ⃗ x Γ[β]
⃗ z [β]
⃗y ⃗ x [β]
1 + Γ [β] ⃗ x + [β]
⃗ y [β]
⃗ y + [β]
⃗ z [β]
⃗z

2
β
(6w) 付録 D 章末演習問題のヒントと解答

となる。 Γ
 
γ−1 2 2 2 1
1+ − γ β = 1 + γ − 1 − γβ = γ(1 − β ) = (D.20)
β2 γ

なので行列は
 
γ 0 0 0
 
0 1 0 0 
 
  (D.21)
0 0 1 0 
 
 z x z y 1 
⃗ [β]
0 Γ[β] ⃗ ⃗ [β]
Γ[β] ⃗
γ

となり、行列式は 1。
z
⃗ が 0 であった場合は行列式を求めるべき行列は
[β]
 
γ 0 0 0
 
 0 1 + Γ[β]
⃗ x [β]
⃗x ⃗ x [β]
⃗y 0
 Γ[β] 
  (D.22)
0 ⃗ y [β]
Γ[β] ⃗x ⃗ y 0
⃗ y [β]
1 + Γ[β]
 
0 0 0 1

になる。真ん中の 2 × 2 部分の行列式が

    
⃗ x [β]
1 + Γ[β] ⃗x ⃗ y [β]
1 + Γ[β] ⃗y ⃗ x [β]
− Γ[β] ⃗ y × Γ[β]
⃗ y [β]
⃗ x = 1 + Γ [β]
⃗ x [β]
⃗ x + [β]
⃗ y [β]
⃗y

2 (D.23)
β

1
となり、後は (D.20) と同じ計算で なので、やはり行列式は 1 である。
γ
次に 3 次元部分。
z
⃗ が 0 でない場合、
[β]

⃗x
[β]
(1) 3 列めに を掛けて 1 列めから引く。
⃗z
[β]
⃗y
[β]
(2) 3 列めに を掛けて 2 列めから引く。
⃗z
[β]
 
γ−1 ⃗ x ⃗ z
 1 0 [β] [β] 
 β2 
 γ−1 ⃗ y ⃗ z 
 0 1 [β] [β] 
を行うことで、 β2  になる。次に
 
 ⃗x ⃗y γ−1 ⃗ z ⃗ z 
 [β] [β] 
− − 1+ [β] [β]
⃗z
[β] ⃗z
[β] β2

⃗x
[β]
(3) 1 行目に を掛けて 3 行目に足す。
⃗z
[β]
⃗y
[β]
(4) 2 行目に を掛けて 3 行目に足す。
⃗z
[β]
(7w)

 
γ−1 ⃗ x ⃗ z
1 0 [β] [β]   
 β2  1 0 0
 γ−1 ⃗ y ⃗ z 
を行うことで、 

=0 1 0  となり、
0 1 β2
[β] [β] 
   
 γ−1 ⃗ x ⃗ x y y z z  0 0 γ
0 0 1+ ⃗ [β]
[β] [β] + [β] ⃗ + [β]
⃗ [β]⃗
β2
2
β

行列式は γ となる。
 γ−1 ⃗ x ⃗ x γ−1 ⃗ x ⃗ y 
1+ [β] [β] [β] [β] 0
 β 2 β 2 
 
⃗ z = 0 のときは最初の式が  γ−1 ⃗ y ⃗ x γ−1 ⃗ y ⃗ y 
[β]  [β] [β] 1+ [β] [β] 0  になる。後は左
 β2 β2 
0 0 1
上の 2 × 2 部分の行列式を計算すると
  
γ−1 ⃗ x ⃗ x γ−1 ⃗ y ⃗ y γ−1 ⃗ x ⃗ y γ−1 ⃗ y ⃗ x
1+ [β] [β] 1+ [β] [β] − [β] [β] × [β] [β]
β2 β2 β2 β2
γ−1  ⃗ x ⃗ x ⃗ y [β]

⃗ y =1+γ−1=γ
=1 + [β] [β] + [β] (D.24)
β2
2
β
となるので、やはり行列式は γ である。
★【演習問題 6-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p136、ヒントは p2w)


!2  2  2  2
∂ ∂ ∂ ∂
− + + +
e
∂(ct) e
∂x e
∂y ∂ ze
 2  2  2  2
∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂
=− γ + βγ + βγ +γ + +
∂(ct) ∂x ∂(ct) ∂x ∂y ∂z
 2  2  2  2
2 2 ∂ 2 2 ∂ ∂ ∂
= − γ (1 − γ ) + γ (1 − γ ) + + (D.25)
∂(ct) ∂x ∂y ∂z
1 1
★【演習問題 6-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p136、ヒントは p2w)

ヒントより、

ctEct + xEx + yEy + zEz =cteγ (Ect + βEx ) + x


eγ (Ex + βEct ) + y
eEy + z
eEz (D.26)

e e
E e xe
E e ye
E e ze
E
ct

より、

e e = γ (Ect + βEx ) , E
E e xe = γ (Ex + βEct ) , E
e y = Eye , E
e z = Eze (D.27)
ct

となる(共変ベクトルの変換である)。同様の計算により、
   
e cte ct x e = γ E − βE
e
x x ct e =E , E
y e =E e
y z e
z
E =γ E − βE , E , E (D.28)

となる(反変ベクトルの変換)。
内積を計算すると
e cte
E e xe
E
   
ct x 2 ct x
γ E − βE · γ (Ex + βEct ) = γ βE · Ect − β E · Ex =0 (D.29)
1 1
(8w) 付録 D 章末演習問題のヒントと解答

となる。
★【演習問題 7-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p150、ヒントは p2w)

(1) ヒントより、 x = c(t − nT ) を Lorentz 変換する。

x ct

γ (x行 + βct行 ) =γ (ct行 + βx行 ) − ncT


γ(1 − β)x行 =γ(1 − β)ct行 − ncT
 
T
x行 =c t行 − n (D.30)
γ(1 − β)

s
T 1+β
となる。つまり行きの兄には =T ごとに時報がやってくる。帰りについては、
γ(1 − β) 1−β
s
1−β
座標系の運動速度が逆向きになって同じ計算を繰り返すので、T ごとに時報がやってくる。行
1+β
s s
1+β 1−β
きの兄は弟の時間が 倍と(長く)感じ、帰りの兄は弟の時間が 倍と(短く)感じる。
1−β 1+β
Lp
(2) 兄は「行き」と「帰り」をそれぞれ時間 1 − β 2 ずつ体験する。
v
よって受け取る時報の数は 短

p p p s s ! 間
L
1 − β2 L
1 − β2 L
1 − β2 1−β 1+β 等
v
q + v
q = v
+ 隔 間
T 1+β
T 1−β T 1+β 1−β 隔
1−β 1+β
p
L
v 1− β2 1−β+1+β 2L
= p = (D.31)
T 1 − β2 vT 長

となる。当然ながら、弟が出した時報の数と兄が受け取った時報の数は等 間

しい。
(3) 右図の通り。 等

(4) 行きの兄の出す時報の光の軌跡の式 x行 = c(t行 − nT ) である。 隔

x行 ct行

γ(x − βct) =γ(ct − βx) − ncT


γ(1 + β)x =γ(1 + β)ct − ncT
 
T
x =c t − n (D.32)
γ(1 + β)

s
1+β
と、同様の計算ができるので、弟は行きの兄の時間が 倍と(長く)感じ、帰りの兄の時間が
1−β
s
1−β
倍と(短く)感じる。
1+β
(9w)

★【演習問題 7-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p150)

答は (3) である。外部から見れば 円周 = 2πr なのは当然であ


速度 で運動
る。A さんが今いる場所を中心とした微小角度 の部分を切り出
して考えよう。切り出した長さ r の部分は(長さは微小なので)

}
同じ速度 rω で運動していると考えると、この運動における長さの
変化を電車の場合と同様に考えればよい。電車の場合と同様に、
「切
外部から見て
り出した部分の先端」と「切り出した部分の後端」の世界線は、外 長さ の領域
から見ると r 離れ、A さんの系では r γ 離れている。
1
ここで γ = q である(A さんがいる場所の速さ rω に対応した γ 因子)。
(rω)2
1− c2

電車のときと同様に、右図のように時空図上の「同時刻線」が傾
いていることにより、外部の人と A さんは時空内では違う 2 点間の 後 同時
刻線
端 一部 先 Aさ
んの
の 」の 端
長さを測っていることになる。 世 する
「 円周

観測
界 Aさんの 世
「止まっていたとき 2πr だった円周が動くことによって 2πrγ に 線 外部の人が観測する「円周」の一部 界 外部の人の同時刻線

なる」わけだから、実はこの円盤は伸ばされていることになる。つ
まり、静止状態から加速して定常な回転状態になるまでの間に、円
盤は引っ張られて変形するという現象を経ている。問題文に「回転が落ち着いて」という語句を加えた
のは、変形が終了した後という意味である(円盤の材質によっては変形に耐えられず壊れるかもしれ
ない)。
★【演習問題 8-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p182、ヒントは p2w)

ヒントの(D.5)の空間成分は
→ p2

i i i
p光 = pe + pē = 0 (D.33)

となり、光の 4 元運動量空間成分は 0 になってしまう。光は質量 0 の粒子なので、


2 2
(4 元運動量時間成分) − (4 元運動量空間成分) = 0 にならなくてはならず、4 元運動量の時間成分
0
p光 は 0 である。
時間成分は(電子・陽電子の質量を m とすると)

0 0 0
p光 = pe + pē = mcγ (⃗ve ) + mcγ (⃗v¯e ) (D.34)

になるが、左辺は 0 なのに右辺は 0 になれない量なので、この式は成り立たない。


★【演習問題 8-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p182、ヒントは p2w)
V
を消去するため、(D.6) × − (D.7) を実行して、
→ p2 c → p2

m(V − v)γ (v) =(m + )(V − v − )γ (v + ) (D.35)



γ (v) + γ (v)
とする。左辺に 、右辺に の項を集めると、
 

− (V − v)γ (v) =m(V − v − ) γ (v) + γ (v) − m(V − v)γ (v)

− (V − v)γ (v) =m(V − v)γ v −m γ (v)

γ (v)
− = − (D.36)
m γ (v) V −v
(10w) 付録 D 章末演習問題のヒントと解答

となる。


v
c2 γ ′ (v) v
c2
γ (v) =   3 より、 = (D.37)
1 − vc2
2
γ (v)
1− v2
c2
2

 v2 w v2
v−w−v 1− vw
c2 −w + c2 1− c2
V −v = = =− w (D.38)
1− vw
c2 1− vw
c2 1− vw
c2

を代入すると、
v
c2 1− vw
c2 1 1 1
− = + = (D.39)
m 1− v2
c2 1− v2
c2
w 1− v2
c2
w

1 v
この の積分の定石として、 = tanh α と置く。
1 − x2 c

1 c
−w = 2
m 1 − tanh α cosh2 α
1 (積分)
cosh2 α

−w log m =cα + C(積分定数) (D.40)

図に示した条件により、 m = 0 のとき v = 0 (このとき α = 0 )なので、 −w log m0 = C

となり、tanh の逆関数 artanh を使って


   
m0 v
w log = cα = c artanh (D.41)
m c

 
m0
という結果が出る。参考までに非相対論的な計算の結果は w log = v である。
m

x3 x5
artanh x ≃ x − + + ··· (D.42)
3 5
v
を使うと の小さい範囲で一致する。
c
★【演習問題 8-4】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p183、ヒントは p2w)


mcγ (v) = cγ (v) + mcγ (v) + mcγ (v) + cγ (V )
相殺

0= cγ (v) + mcγ (v) + cγ (V ) (D.43)

!
v2
【演習問題8-3】の解答中の (D.39) から = −w 1− がわかるので、それを(D.6)
→ p182 → p9 c2 m → p2


に代入して、 γ (v)
!
v
c2 v2
0= cγ (v) − mcw  3 1− + cγ (V ) (D.44)
c2 m
1− v2
c2
2
(11w)

v−w
となる。ここで【問い 5-2】
の解答の中で(C.45) で計算したのと同様の計算を行い、合成速度 V =
→ p99 → p320 1 − vw
c2

 
vw
の γ 因子は γ (V ) = 1− γ (v)γ (w) になることを使うと、
c2

 
wv vw
0= γ (v) − γ (v) + 1− γ (v)γ (w) (÷γ (v))
c2 c2
   
vw vw
0= 1− c+ 1− γ (w)
c2 c2
− = γ (w) (D.45)

となる。γ (w) は 1 より大きいので、ロケットに積んである推進剤の減少量である − の方が噴射さ


れた質量 より大きい。例えば、燃料がなにかの化学物質で燃焼によって噴射のエネルギーを得て

いるとすると、これは 燃焼前の静止質量 > 燃焼後の静止質量 であることを示す。

★【演習問題 8-5】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p183)


(D.45) に = −0.99 を代入し、
γ (w)

1
− = − 0.99 q
1− w2
c2
 2
1 1
=
0.99 1− w2
c2
2
w 2
1− = (0.99)
c2
q
w
= 1 − (0.99)2 ≃ 0.14 (D.46)
c

となるので、w は光速の約 14 %となる。核融合燃料を使ってもこれが最適速度であり、これより速く


噴射することはできない。
★【演習問題 9-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p227、ヒントは p2w)

ヒントより、

E ⃗ = − 1 ϵ0ijk F0i Fjk


⃗ ·B (D.47)
2 (1)

0ijk
がまずわかる。ϵ(1) は最初の添字は 0 のみだし、i, j, k は 1, 2, 3 しか足していないので、これは(添字
がつぶし切れてないという意味で)Lorentz 不変ではない。そこで、添字が全部ちゃんとつぶれている

ϵµνρλ
(1) Fµν Fρλ (D.48)

0νρλ
と比較してみよう。ここで、 µ = 0 の項は、ν, ρ, λ は 0 になる項を含まない(0 になると、 ϵ(1) =0

になるから)。よって、

ϵ0ijk 0νρλ
(1) F0i Fjk = ϵ(1) F0ν Fρλ (D.49)
(12w) 付録 D 章末演習問題のヒントと解答

である。
µνρλ
また、ϵ(1) は、µ, ν, ρ, λ のうちどれか一つが 0 でなくてはいけない。なぜなら、µ, ν, ρ, λ の中に
µνρλ
一つも 0 がなくても、二つ以上が 0 になっても ϵ(1) は 0 になるからである。よって、

ϵµνρλ
(1)
0νρλ µ0ρλ µν0λ µνρ0
Fµν Fρλ = ϵ(1) F0ν Fρλ + ϵ(1) Fµ0 Fρλ + ϵ(1) Fµν F0λ + ϵ(1) Fµν Fρ0
(D.50)

と書き直してよい。ϵ と F の添字の反対称性を使うと、この四つの項は全部同じ量である。よって

E ⃗ = − 1 ϵµνρλ Fµν Fρλ


⃗ ·B (D.51)
8 (1)

とわかる。
⃗ とB
E ⃗ は垂直とわかったので、E
⃗ が y 成分のみ、B
⃗ が z 成分のみを持つように座標系を設定しよう。
⃗ , [B]
⃗ 以外を 0 にして、 y z
これを x 方向の Lorentz ブーストすると、(9.101)で [E]
→ p213

⃗e xe ⃗e xe
[E] =0 [B] =0
 
⃗e ye ⃗ y − v[B]
⃗ z ⃗e ye
[E] =γ [E] [B] =0 (D.52)
 
⃗e ze
[E] =0
⃗e ze
[B] =γ ⃗ − v [E]
[B]
z ⃗ y
c2

となることがわかる。これを見ると、

⃗ y
[E] ⃗e ye
(1) v= とすることで [E] = 0 にする。
⃗ z
[B]

v ⃗ z
[B] ⃗e ze
(2) = とすることで [B] = 0 にする。
c 2 ⃗
[E]y

のどちらかができる。
⃗ y
[E] v ⃗ z
c[B] v v
(1) では = 、(2) では = となる。 は絶対値が 1 より小さくなくてはいけな

c[B] z c ⃗
[E]y c c

y z y z

い。よって [E] ⃗
< c[B] ならば (1) が、 |E|
⃗ > c|B| ⃗
⃗ ならば、(2) が可能となる。 [E] ⃗
= c[B]

だとどっちもできない。
★【演習問題 9-2】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p228、ヒントは p3w)

(1)
 
x
e = γ cρ − β[⃗
cρ j] = −γβj (D.53)

γβj
e= −
より、 ρ となる。
c
(13w)

γβj 2
(2) 長さ L の部分を取り出すと、この中にある電荷は − × πR × L で、この電荷から出る
c
電気力線が底面の半径 r で長さ L の円柱の側面(面積 2πrL)をつらぬくから

− γβj
c × πR × L
2
γβjR2
=− (D.54)
ε0 × 2πrL 2cε0 r

(3) 電流密度が

 
⃗x
[e
x
j] = γ [⃗j] − βcρ = γj (D.55)

2
なので、流れる電流は γjπR 。
(4)

γjπR2 γjR2
H = = (D.56)
2πr 2r

(5) 電荷 q とすると、電場による力は

qγβjR2
− (D.57)
2cε0 r

磁場による力は

γjR2 qβγjR2
qcβ µ0 = (D.58)
2r 2cε0 r
1
ε 0 c2
となり、任意の β でこの二つは打ち消し合う。

★【演習問題 9-3】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p228、ヒントは p3w)

ρ2 γℓ
電場による力は で斥力。
2πε0 r
B
I
ργv ρ2 γv 2
磁場による力は µ0 ργvℓ = µ0 で引力となる。引き算して、
2πr 2πr

ρ2 γℓ ρ2 γ 2 v 2 ρ2 γℓ  2

− µ0 = 1 − ε0 µ0 v (D.59)
2πε0 r 2πr 2πε0 r
1
c2
2
v
となる。 1 − > 0 だから、この量は正。つまり斥力である。Lorentz 変換したことによって、
c2
斥力が引力に変わるなどということは起こりそうもないので、理屈にあっている。元の力と比べると
! s
v2 v2 p
γ 1− = 1− 倍で「運動方向と垂直な力は 1 − β 2 倍に弱くなる」という 3 次元力
c2 c2

の変換と合致した結果になっている。
(14w) 付録 D 章末演習問題のヒントと解答

★【演習問題 10-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p255、ヒントは p3w)

ヒントより、

zz Qcβγz
T の B外 の 1 次の項 = − B外 (D.60)
4π re3

の積分のみを考える。 z = ±L の寄与の和は

Z ∞ Z ∞ QcβγLB外
 3 (D.61)
−∞ −∞ 2 2 2 2
2π γ (x − βct) + y + L 2

2
re
である。
q
まず y = γ 2 (x − βct)2 c + L2 tan θ とおいて、

Z ∞ Z π q
QcβγLB外 1
γ 2 (x − βct)2 + L2 
2
= 3
2π −∞ − π
2
cos2 θ γ 2 (x−βct)2 +L2 2
cos2 θ
Z ∞ Z π
QcβγLB外 2 1
= cos θ
2π −∞ −π
2
γ 2 (x − βct)2 + L2
Z ∞
QcβγLB外 1
= (D.62)
π −∞ γ 2 (x − βct)2 + L2

L
次に x − βct = tan θ とおいて、
γ

Z Z
QcβγLB外 π
2 L cos2 θ QcβB外 π
2
= = = QvB外 (D.63)
π − π
2
cos2 θ γ L2 π −π
2

となって、働く力が QvB外 であることがわかる。


★【演習問題 11-1】の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (問題は p288、ヒントは p3w)

2 2 2
e =x
運動量の積分は、ヒントの(D.11)に r e +ρ を代入して、
→ p3

Z Z √R2 −γ 2 (x−βct)2  2
βγ 2 R
γ
+βct
3 1
ρ Q (D.64)
8πε0 − R
γ
+βct 0 R3

e tan θ として、
ρ=x

Z Z  2
βγ 2 R
γ
+βct α(x) e
x 3 3 1
= e tan θ
x Q
8πε0 − R
γ
+βct 0 cos2 θ R3
2 2 Z Z
βγ Q R
γ
+βct α(x)
4 sin3 θ
= e
x
8πε0 R6 − R
γ
+βct 0 cos5 θ
Z Z  
βγ 2 Q2 R
+βct
4
α(x) 1 1

γ
= e
x sin θ (D.65)
8πε0 R4 − R +βct
γ
0 cos5 θ cos3 θ
 α(x)
1 1

4 cos4 θ 2 cos2 θ 0
(15w)

|x
e|
cos α(x) = であるから、
R

Z !
βγ 2 Q2 R
+βct
4 R4 R2 1 1
− − +
γ
e
x
8πε0 R4 − R +βct e
4x 4 e2
2x 4 2
γ
Z !
βγ 2 Q2 R
+βct R4 R2 2 1 4

γ
= e + x
x e
8πε0 R4 − R +βct
γ
4 2 4
" # R +βct
βγ 2 Q2 R4 R2 2 (x − βct)3 1 4 (x − βct)5 γ
= x− γ + γ
8πε0 R4 4 2 3 4 5 − R +βct
γ
 
2R
3
2R
5  
βγ 2 Q2 R4 2R R2 1 βγQ2 1 1 1
=  − γ
2 γ3
+ γ
4 γ5= − + (D.66)
8πε0 R4 4 γ 2 3 4 5 8πε0 R 2 3 10
4
4 4 8 8 15
+ = なので、今度は 問題になる。
3 15 5 5
公式表

x 軸方向速さ v の Lorentz ブースト

cte =γ(ct − βx)


e =γ(x − βct)
x
ye =y
v 1
ze =z ただし β = ,γ = √
c 1 − β2

一般の方向の Lorentz ブースト


速度 ⃗ である方向に運動している系への Lorentz 変換の行列
がβ
c
 ⃗ xγ ⃗ yγ ⃗ zγ 
γ −[β] −[β] −[β]
 ⃗x γ−1 ⃗ x ⃗ x γ−1 ⃗ x ⃗ y γ−1 ⃗ x ⃗ z 
 −[β] γ 1 + [β] [β] [β] [β] [β] [β] 
 β 2 β 2 β2 
 
 ⃗y γ−1 ⃗ y ⃗ x γ−1 ⃗ y ⃗ y γ−1 ⃗ y ⃗ z 
 −[β] γ [ β] [ β] 1 + [ β] [ β] [ β] [ β] 
 β2 β2 β2 
 γ−1 ⃗ z ⃗ x γ−1 ⃗ z ⃗ y γ−1 ⃗ z ⃗ z

−[β] γ
z
[β] [β] [β] [β] 1+ [β] [β]
β2 β2 β2

一直線上の速度の合成則

u+v
v合 =
1 + uv
c2

一般の向きの速度の合成則

γ (⃗v) − 1
u+
⃗v γ (⃗v) + ⃗ ⃗v (⃗v · ⃗
u)
|⃗v |2
⃗v合 =  
⃗v · ⃗
u
γ (⃗v) 1 + 2
c
Maxwell 方程式

∂µ F µν = − µµ0 j ν
+時A

4 元ベクトルポテンシャルの定義

Fµν = ∂µ Aν − ∂ν Aµ

convention Aµ Aµ 電場 磁場 + + +
−時 −時Aµ −時Aµ

spacelike ⃗
(−V /c, A) ⃗
(V /c, A) ⃗ /c = ∂1 A0 − ∂0 A1
[E]x ⃗ = ∂1 A2 − ∂2 A1
[B]z
+ + +

timelike ⃗
(−V /c, A) (−V /c, −A)
⃗ ⃗ x /c = ∂1 A0 − ∂0 A1
[E] ⃗ z = ∂1 A2 − ∂2 A1
[B] − + −
Aµ の空間成分が ⃗
A
timelike
Aµ の空間成分が ⃗
A (V /c, −A)
⃗ ⃗
(V /c, A) ⃗ x /c = −∂1 A0 + ∂0 A1
[E] ⃗ z = −∂1 A2 + ∂2 A1
[B] − − +

電磁場テンソル
 
0 −[E]
⃗ x /c −[E]
⃗ y /c −[E]
⃗ z /c
 
 [E]
⃗ x /c 0 ⃗ z
[B] ⃗ y 
−[B]
 
Fµν −−→ + µ 
− A ⃗ y 
 [E] /c −[B]
行列 時 ⃗ z 0 ⃗ x
[B]
表示 
⃗ z /c
[E] ⃗ y
[B] −[B]⃗ x 0

0 ⃗ /c [E]
[E] x ⃗ /c [E]
y ⃗ /c 
z

 
 −[E]
⃗ x /c 0 ⃗ z
[B] ⃗ y
−[B]
 
F µν
−−→ + µ 
− A ⃗ x 
 −[E] /c −[B]
行列 時 ⃗ y ⃗ z 0 [B]
表示 
−[E]
⃗ z /c [B]
⃗ y −[B]
⃗ x 0

電磁場の Lorentz 変換:x 方向の場合

⃗e xe ⃗ x ⃗e xe ⃗ x
[E] =[E] [B] =[B]
   
⃗e ye
[E] ⃗ y − v[B]
=γ [E] ⃗ z ⃗e ye
[B] ⃗ y + v [E]
=γ [B] ⃗ z
c2
   
⃗e ze
[E] ⃗ z + v[B]
=γ [E] ⃗ y ⃗e ze
[B] =γ [B] ⃗ − v [E]
z ⃗ y
c 2

電磁場の Lorentz 変換: 一般方向


 
⃗e 1 − γ
E = 2 (⃗v · E)⃗
⃗ v+γ E⃗ + ⃗v × B

v  
⃗e 1 − γ ⃗ − 1 ⃗v × E
B = 2 (⃗v · B)⃗
⃗ v+γ B ⃗
v c2

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