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構造工学論文集 Vol.

55 B(2009 年 3 月) 日本建築学会

張力構造の形態解析と汎関数に関する基礎的考察
FUNDAMENTAL STUDY ON SHAPE-FINDING OF TENSION STRUCTURES AND RELATED
FUNCTIONALS

三木優彰*, 川口健一**
Masaaki MIKI, and Ken’ichi KAWAGUCHI

Shape-finding of tension structures is the process in which we find the appropriate shape that enables the structures to have the initial
self-equilibrated states, so-called prestress states. For the shape-finding we usually carry out numerical analysis to solve special
equations. Equations are formulated according to the self-equilibrated states or the stational condition of special functionals. This paper
proposes generalization of functionals for shape-finding of tension structures. The generalization contains formulations of foregoing
methods, such as, force density methods and minimal surface problems. Each functional gives different results of shape-finding while
they all satisfy the condition of self-equilibrated states. Some of the newly introduced functionals enables us to find the shape of
tension structures with compressive components, such as Tensegrities. In the first half of the paper the concept of the generalization is
introduced. In the second half some numerical results are shown and discussed.

Keywords : Computational Morphogenesis, Shape-Finding, Tension Structure, Cable-Net Structure,


Membrane Structure, Tensegrity, Functional, Force Density Method
形態解析, 形状決定,張力構造, ケーブルネット構造, 膜構造, テンセグリティ,
汎関数, 応力密度法

1 はじめに ト構造の形状決定に応用し、効率的に力の釣り合い方程式を解く方
ケーブルネット構造、張力膜構造、テンセグリティ構造などの張 法を提案し、これを張力構造の形状決定に適応できる事を示してい
力構造は初期張力(プレストレス)の導入により剛性が付与され安 る 3)。
定化される。したがって、初期張力の導入が可能な適切な形状を与 張力構造の形状決定手法としては、系のポテンシャルエネルギー
える必要があり、これは一般に形状決定問題として知られている。 を最小化する手法も様々に提案されている。これらは拘束条件の下
張力構造の形状決定問題には種々の方法が既に提案されているが、 での汎関数の停留問題としてとらえることが出来る。代表的なもの
本報告では、汎関数の設定に自由度があり、これを適当に選ぶ事で、 として、真柄、川股、国田らによる混合法 4) (ケーブルネットの形
解を安定的に得ることができる場合があることについて示す。また、 状決定および大変形追跡)、野口らによる変分法に基づいたテンセ
極小曲面や応力密度法などとの関連についても述べる。 グリティの形状決定 5)、複数の研究者による極小曲面に関する研究
6)7)8)9)
張力構造の形状決定法としてよく知られているものに 1973 年 などがある。また、V.Horak による逆変分原理 10)のようなアプ
1)
H.J.Schek により提唱された応力密度法がある 。これは、主にケー ローチも最適化の分野でよく知られている。
ブルネット構造の形状決定を目的としたもので、「応力密度」と呼 本報では、張力構造の形状決定に関して物理的な意味にとらわれ
ばれる量とネットワークのコネクティビティを既知量として与え ない汎関数の自由な設定という視点を導入し、基礎的検討を行う。
る事により、1 回の線形逆計算で形状決定が行える簡便な方法であ
る。1999 年 B. Maurin と R. Motro は応力密度法を利用し、膜応力密 2 形状決定の定式化について
2)
度法 を提唱した。離散化された全ての膜要素の「膜応力密度」と 2.1 拘束条件つき最適化問題
呼ばれる量と境界部分の応力密度、さらに膜面のトポロジーを既知 張力構造の形状決定には種々のアプローチがあるが、本報告では、
とすることで膜構造の形状決定を行う方法である。この定式化は非 「与えられたトポロジーと境界条件の下でプレストレスの導入可
線形問題となるため、元来の応力密度法がもっていた簡便性という 能な自己釣り合い形状を決定すること」を目的と考える。このよう
魅力は継承されていない。M.R.Barnes は動的緩和法をケーブルネッ な形状決定問題の解法は大きく分けて

*東京大学大学院工学系研究科・大学院生 Graduate Student, Dept. of Engineering, Tokyo Univ.


**東京大学生産技術研究所 教授・工博 Prof., IIS, University of Tokyo, Dr. Eng.
1. 釣り合い方程式を満たす形状を直接求めるもの 今、(2)式が停留したとき、汎関数 Π sys の第一変分について
2.汎関数の停留問題に帰着されるもの ∂Π sys
δx = 0 (3)
の 2 系統に分類することができる。例えば、応力密度法は1の例で ∂x
あり、極小曲面を求める形状決定法は2の例である。しかし、適当 より、
な汎関数を仮定する事で、1の解法を 2 の解法に帰着して理解する ∂ ( wlj L j ) ∂L j ∂ ( wsj S j ) ∂S j
事も可能である。

Cable ∂L j ∂xi
+ ∑
Membrane ∂S j ∂xi
+
(4)
∂X k

上記の2の解法として、最も単純な最適化問題
λk =0 for all i
Fixed Node ∂xi
minimize ∑w L lj j + ∑w S sj j
Cable Membrane が成立している。ここで、
(1)
∂ ( wlj L j ) ∂ ( wsj S j )
subject to ( X k − X k ) = 0 for all fixed nodes. = wlj , = wsj (5)
∂L j ∂S j
を考える。ここに L j は形状決定する構造に付随し、最小化の対象
となる幾何学的な長さであり、 S j は同様の面積であっていずれも であるから(4)式は、

∂L j ∂S j
正の実数である。 X k は固定点の座標、w は重み係数である。拘束 ∑w
Cable
lj
∂xi
+ ∑
Membrane
wsj
∂xi
+
(6)
∂X k
条件も様々なものが考えられるが、ここでは構造の一部に固定点を

Fixed Node
λk
∂xi
= 0 for all i
指定するなどの単純な幾何学的境界条件の指定を例として考えて
いる。w も正の実数として与えた場合、拘束条件が無ければ、最小 と書く事ができる。この式は、後述のように形状パラメータの評価
解は L j も S j も零となる。図 1,図 2 に単純な例題(四隅を固定点 点 xi における釣り合い式として理解する事が出来る。つまり、外力
とした平面張力膜の形状決定問題)を示す。 項のない(6)式は、(2)式が停留したとき、その形状は与えられた拘
束条件のもとで自己釣り合い力モードを少なくとも一つ持つこと
を示している。(2)式は、たとえば表面エネルギーが表面積に比例
するものと考えれば、拘束条件付き極小曲面の汎関数と考えられる
こともできる 8)。
極小曲面の場合は、最小化する汎関数の値が面積や長さといった
幾何学的に限定された意味を持っていたが、これは力の釣り合いと
図 1 張力構造の例 1 いう観点に立つと必ずしも必要不可欠な限定ではない。これを示す
ために、最小化の対象となる汎関数を、長さや面積の累乗まで拡張
して考えてみる。(2)式の各項を重み係数まで含めた形で、次式の
ように与えてみる。

π j ( L j ) = wlj L j , wlj L j , wlj L j ...


2 4
(7)

π j ( S j ) = wsj S j , w sj S j , w sj S j ...
2 4
(8)

(a)境界長さ最小 (b)面積最小 (c) (a)と(b)の中間の解 などとすると、全体の汎関数は、


図 2 例 1 の最適化の例
Π sys ( x , λ) = ∑ π j ( L j ). + ∑π j ( S j ). + ∑λ k (X k − X k ) (9)
Cable Membrane Fixed Node
図 2(a)はケーブル材の長さを最小化した形状であり、(b)は膜材の
の形に書かれる。汎関数 Π が x について停留したとき、
面積を最小化した形状である。固定点は一辺が 10 の正方形の頂点
に配置した。適当な重み付けを行うと(c)のように wl と ws の比に応
δΠ sys = 0 (10)

じてその中間の形状が得られる。(c)は wl : ws =20:1 のときの形状で より


∂π j ( L j ) ∂L j ∂π j ( S j ) ∂ S j
ある。
∑ j ∂L j ∂ xi
+∑
j ∂S j ∂x i
(11)
∂X k
2.2 汎関数の停留問題 + ∑ λk = 0 for all i
k ∂xi
前節での拘束条件に Lagrange 未定乗数法を適用すれば、(1)式は
ここで、
一価の汎関数の停留問題として
∂π j ( L j ) ∂π j ( S j )
Π sys ( x , λ) = ∑ wlj L j + ∑w S sj j
+ = fj , =σ j (12)
Cable Membrane ∂L j ∂S j
(2)
∑λ (X
Fixed Node
k k − X k ) → stationary とおけば、

と書ける。 x は形状パラメータ xi を、 λ は Lagrange 未定乗数 λk を


ベクトルとして並べたものである。
∂L j ∂S j ある。
∑f
Cable
j
∂xi
+ ∑
Membrane
σj
∂xi
+
図 3 に示す例題(立体ケーブルネット構造、節点数 100)において
(13)
∂X 長さの様々な累乗和を最小化した解を図 4∼7 に示す。ここでは表
∑ λk ∂x k = 0 for all i
Fixed Node i 面積については考慮せず、長さに関する累乗和の最小化のみを行っ
∂L j ている。図 4∼7 のそれぞれの解において、長さの総和、2 乗和、4
と書け、(6)式と同じ形式となる。ここで、 が長さの方向余弦、
∂x i 乗和、6 乗和をそれぞれ計算し表 2 に示す。表 2 に示す諸量を左か
∂S j ら右へ見ていくと、最小化した目的関数が、他の解よりも小さな値
が面積領域の境界上における法線方向であることを考えると
∂x i をとっていることが確認できる。
(13)式は外力のない状態における釣り合い式と同じ形をしている 得られた形状はそれぞれ異なるが、初期張力の導入可能なケーブ
ことがわかる。第 1 項は長さ領域における軸力 f j の合力成分を表 ルネット構造の初期形状としていずれも利用できることが分かる。
す。第 2 項は面積領域がその境界に垂直に単位長さあたり σ j (膜
応力)の力を負担しているときの合力成分を表す。これは面積領域
が平面的に定応力かつ等方静圧状態であり、厚さが一様と仮定した
ときの釣り合いである。従って、停留解はその汎関数に幾何学的意
味があるかないかに拘わらず、自己釣り合い力モードが少なくとも
一つ存在する構造形態を表していると考えることができる。
(12)式より、重み係数 wlj , w sj の形式を予測することができる。そ
れぞれの物理量に対応する、重み係数の意味を考えると次表のよう 図 3 例題 2(カッコ内は固定点座標値を表す)

になる。

表1 種々の汎関数と重み係数
2 3 4
汎関数 wlj L j wlj L j wlj L j wlj L j
図 4 長さの最小化 図 5 長さの 2 乗和の最小化
1 fj 1 fj 1 fj
wlj fj 3
2 Lj 3 Lj2 4 Lj
2 3 4
汎関数 wsj S j wsj S j wsj S j wsj S j
1σj 1 σj 1 σj
wsj σj 3
2 Sj 3 S j2 4 Sj
図 6 長さの 4 乗和の最小化 図 7 長さの 6 乗和の最小化

ここで対となる二つの量、たとえば、汎関数 wljLj4 についていえ 表 2 長さの累乗和を最小化したときの、諸量

∑L ∑L
目的関数
1 fj ∑L ∑L
2 4 6
4
ば wlj = と L j を掛け合わせると必ずエネルギーの次元とな 諸量
4 Lj3
∑L 1.38×102 3.24×102 3.94×102 4.11×102
っていることに着目する。
∑L 2
2.00×103 6.41×102 7.35×102 7.81×102
本手法は応力密度法においては既知量として応力密度という量
∑L 4
4.76×105 6.15×103 2.86×103 2.96×103
を指定するのに対し、応力密度にこだわらず、多様な量を考え、そ
∑L 6
1.16×108 1.11×105 1.31×104 1.20×104
れに見合った汎関数の停留問題を設定する事で、力の釣合方程式を
直接解かず、解を得ることができる手法と位置づけることができる。
次に汎関数の持つ意味について考える。例えば、 wsj をすべて零 3 テンセグリティ構造への応用
(7)(8)式に示す様々な汎関数が特に圧縮材を含む張力構造の形状
とおいた汎関数 ∑ wlj L j の形状パラメータ xi に対する停留条件は
2

j 決定に有効である事を示す為に、以下に、圧縮部材(以下ストラッ
ト)と引っ張り部材(以下ケーブル)のみで構成され、固定点をも
(14)式で表される。
2 たないテンセグリティ構造の形状決定問題を例示する。まず、汎関
∂ ( wlj L j )
∑ j ∂xi
=0 数としてケーブル要素の長さの 2 乗を選び、ストラット要素の長さ
(14) は拘束条件として与えることとすると、全体の汎関数は、次式のよ
∂L j
∑ 2w L
j
lj j
∂xi
=0
うになる。

Π sys = ∑ wlj L j + ∑ λ k ( Lk − Lk ) → stationary


2
∂L j (15)
これはベクトル f j = 2 wlj L j と勾配ベクトル の直交性を示し Cable Strut
∂xi
すべての重み係数 wlj を 1 としたとき、(15)式の停留解を求めると
ており、見方を変えると形状変化に対して軸力のなす仕事が停留し
解は不定となる。図 8 に示す X 型テンセグリティ(太線で表した 2
たと考えることができ、いわゆる力学的なつりあい状態を示してい
本のストラット要素は交点で接続されていない)を例にとると、図
る 16)。また、このことから、表1に示すような様々な汎関数を用い
た停留状態は、同じものを意味してはいないことに注意する必要が 9 のように無数の解が見つかる。これは三平方の定理が成立する長
さの組み合わせが全て解の資格を満たしてしまうためである。 法を用いて簡便に目的関数の最小化を行っている。
この不定性は全ての固定点を持たない自己釣り合い系について また、与える初期値はすべての節点座標に-2.5∼2.5 の範囲でラン
生じる。これは応力密度法 1)を用いて確かめることができる。応力 ダムに与えた。本報における汎関数の停留解は唯一とは限らず、従
密度法は全てのケーブル部材とストラット部材に応力密度 って複数の局所最適解が得られる場合がある。20 ストラット-テン
fj セグリティの例題では実際に複数の局所最適解が確認された。本章
( qj = )を指定し、ストラットには負の応力密度を与え力の釣
Lj ではもっとも得られる頻度が高かったもののみを掲載している。
り合い方程式を直接解くが、その手順はまさに(14)式の停留条件と
等価となることがわかる。 4.1 テンセグリティ
前章を踏まえ(17)式によるテンセグリティの形状決定を行う。
ストラットの長さは全て 10 とした。ケーブルのパラメータ wlj を
全て 1 とした場合、次式に示す最小化問題に帰着する。

∑L
4
minimize j
cable (19)
subject to L j = 10 for all struts

図 8 X テンセグリティ (a) 解 1 (b) 解 2


図 9 複数の解 ・シンプレックス型テンセグリティ

応力密度法を用いると 2 次元の自己釣合系の力の釣り合いは
Dx = 0
(16)
Dy = 0

と記述される。文献 11)12)によれば、(16)式が平面形状を表す解を
持つためには D は 3 次元の零空間を持たねばならない。これは、
図 10 コネクティビティ 図 11 解形状
テンセグリティの退化条件と呼ばれ、D の零空間が 2 次元であれば
解は直線状になり、1 次元であれば全節点が 1 点に集中してしまう。
3 次元空間において図 10 のようにコネクティビティを設定し、
応力密度法によるテンセグリティの形状決定は文献 13)14)15)などに
(19)式に示した最小化を行うと図 11 のように正三角柱の上下の面
詳しい。D が零空間を持つならば(16)式の解は必ず不定解となる。
を互いに 5/6π回転させた形状が得られる。これは一般にシンプレ
このとき(15)式の解も不定解となる。
ックス型テンセグリティと呼ばれている形状である。
ここで試みに汎関数を L の 4 乗に変更した場合について考えてみ
る。
・20 ストラット-テンセグリティ
∑ wlj L j + ∑ λk ( Lk − Lk ) → stationary
4
Π sys = (17)
Cable Strut

すると三平方の定理に起因する不定性はなくなり、すべてのケー
ブルに等しい wlj を与えたとき図 9(a)に示す解が得られる。すなわ
ち応力密度法と同様な不定性は(15)式を汎関数とした場合にのみ
生じ、(17)式のような汎関数を与えれば不定性を回避できることが
わかる。重み係数 wlj の与え方に任意性があるのは応力密度法と変
わらない。そこで、向かい合う 2 本のケーブル毎に 2 グループに分
け、 wlj を 1:8 としたときについて計算すると図 9 (b)に示す解が得 (a)節点番号 (b)節点 1、2 に接続する 8 本の
られる。このとき 8 倍の wlj を与えた 2 本のケーブルは他の 2 本に ケーブル(N=6 の場合)
図 12 20 ストラット-テンセグリティのコネクティビティ
比べ短くなった。
表1によれば、 wlj は、
20 本のストラットを定め、1 本目の両端に節点番号 1,2 を、2 本
1 fj 目の両端に節点番号 3,4 を…という順序に番号を割り振る。節点番
wlj = (18)
4 Lj3
号は 1∼40 が割り振られる(図 12(a))。さらに、N を 1 から 9 ま
となる。これを応力密度に代わって与え汎関数の停留条件を解く。
での整数から任意に選んだ定数とする。第 i 節点はケーブルにより
第 i+2N 節点と第 i+2N+1 節点に接続される。節点番号は 1∼40 ま
4 応用例
でしかないので、節点番号が 40 を越えたときは 40 を差し引いた節
本章では適切な汎関数の選択により、安定的に解が得られた例を
点番号に接続する。このようにすると、すべての節点にケーブルが
紹介する。これらの例題ではどのような重み係数を設定しても必ず
4 つ接続されたコネクティビティを得ることが出来る。図 12(b)は
解は収束し、安定的に形状を得ることが出来た。
N=6 の場合について節点 1、2 に集まる 8 本のケーブルを示したも
解法としては汎関数の停留条件を直接解くのではなく、射影勾配
のである。ケーブルの総数は 80 本である。
続いて、重みパラメータとして任意の正の実数 w を定める。w は
様々に変更することで異なった形状を得る目的で設定されたパラ
メータである。第 i 節点 から第 i+2N 節点に接続した 40 本のケー
ブルには重み係数として w を与えた。残りの 40 本のケーブルにつ
いては重み係数として 1.0 を与えた。
N や w を様々に変えた場合の(17)式の与える解を図 13,14 に示す。
図 15 コネクティビティ 図 16 解

図 17 パラメータスタディ 1

として表される最適化問題の解である。図 17 は様々なパラメータ
を与え得られた解である。図 17(a)はすべての三角形要素に重み係
数として 200 を、すべてのトラス要素に重み係数として 100 を、す
図 13 パラメータスタディ 1
べてのストラットに拘束長さとして 10.0 を与えたときの解である。
(b)は(a)からすべての三角形要素の重み係数を小さくしたもの、(c)
はさらに 6 枚の膜から 1 枚を選び、これを構成する三角形要素の重
み係数を小さくしたものである。(d)は(c)からさらに、1 枚の膜の境
界に配置された 4 本のケーブルを構成するすべてのトラス要素の
重み係数を大きくしたものである。(e)、(f)は 1 本のストラットの拘

図 14 パラメータスタディ 2 束長さを変更したものである。重み係数 w sj を小さくした膜は相対


的に大きくなり、境界のケーブル部材の曲率は小さくなった。境界
・複合構造 ケーブルの重み係数 wlj を大きくすると、その曲率は大きくなり、

Π sys = ∑ wlj L j + ∑w S
4 2
+ ケーブルの囲む膜は小さくなった。
sj j
Cable Membrane
(20)
∑ λ (L
Strutt
k k − Lk ) → stationary
4.2 ケーブルと膜による構造
(20)式により、図 15 に示すコネクティビティの形状決定をおこ 本節ではケーブルや膜から成り、固定点から反力を得て釣り合う
なう。これは、テンセグリティのコンセプトを拡張し、膜やケーブ 構造の形状決定例を紹介する。
ルに引っ張り力を負担させ圧縮部材(ストラット)の圧縮力と釣り 図 18 に示すのは、平行に配置された二つの楕円状のリングの間
合う構造を想定したコネクティビティである。 に張られる円柱状のトポロジーを基にしたコネクティビティであ
図 15 は、立方八面体のトポロジーを基に、4 つの辺に囲まれた る。リングの周方向を U 方向、その直交方向を V 方向とする。さ
正方形に 8x8x2=64 の三角形要素からなる近似的な曲面を追加し、 らに U 方向に 32 の節点を、V 方向に 16 の節点を配置し、図に示
それぞれの三角形要素に要素内汎関数として wsjSj2 を与えたもので すように整然と三角形要素を配置した。リング上には 4 個ずつ計 8
ある。6 つの曲面の境界には一つずつケーブルが配置されている。 個の固定点(図中白丸)を等間隔に配置し、固定点間には図のよう
ケーブルは 8 つのトラス要素にモデル化し、それぞれに要素内汎関 にケーブル部材(図中太線)を配置した。以下では U 方向に配置
4
数として、wljLj を与えた。また、ストラットの長さは拘束条件と されたケーブル部材を境界ケーブル、V 方向に配置されたケーブル
して与えている。 部材を補強ケーブルと呼ぶことにする。ケーブル部材は、すべて直
図 16 は 線状のトラス要素に分解し、各々に要素内汎関数 wljLj2 を与えた。
minimize 500 × ∑ L + 100 × ∑S
4 2
同様に三角形要素には wsjSj2 を与えた。同じケーブル部材に属する
Cable
j
Membrane
j
(21)
subject to L = 10 for all struts
j トラス要素には一括して同じ重み係数を与えた。また、三角形要素
の重み係数 wsj も全て一括して同じ値を与えた。 参考文献

本例題で解く汎関数の停留問題は次のようになる。 1) Schek, H. J., The force density method for form finding and computation of
general networks, Comput. Methods Appl. Mech. Engrg., 3, 1974, pp.115–134.
∑w L ∑w S
2 2
Π sys = lj j + sj j +
Cable Membrane 2) Maurin, B., Motro, R., The surface stress density method as a form-finding tool
(22)
∑ λk ( X k − X k ) → stationary
Fixed Node
for tensile membrane, Eng. Struct., 20, 1999 , pp.712–719.
3) Barnes, M. R., Form Finding and Analysis of Tension Structures by Dynamic
図 19 (a)にはじめに与えたパラメータと、得られた解を示す。ま Relaxation, International Journal of Space Structures, 14,1999, pp.89-104.
た、図 19(b)∼(e)に様々にパラメータを変更して得られた解を示す。 4) 真柄 栄毅, 川股 重也, 国田 二郎:混合法によるケーブル・ネットの解析
(その 2・数値解析), 日本建築学会大会学術講演梗概集(構造),
図 19(b)、(c)はすべての三角形要素の重み係数 wsj を一括して変更し
1973,pp.611-612.
たものである。三角形要素の重み係数を小さくすると、ケーブル部
5) Kazuma Goto, Hirohisa Noguchi, Form Finding Analysis of Tensegrity Structure
材の曲率が小さくなり、重み係数を大きくすると、ケーブル部材の Based on Variational Method, Proceedings of The Forth China-Japan-Korea
曲率が大きくなっていることがわかる。図 19(d)、(e)は固定点の座 Joint Symposium on Optimization of Structural and Mechanical Systems, 2006,
pp.455-460.
標を変更したものである。形状が大きく変わっても、形状が破綻す
6) 石原 競, 八木 孝憲, 萩原 伸幸, 大森 博司, 極小面解析による膜構造の
ることはなく、滑らかな形状が安定的に得られた。
形状解析 : 複合変分汎関数を用いて, 日本建築学会構造系論文集, 1995,
No469, pp.61-70.
7) 鈴木俊男, 半谷裕彦 : 極小曲面の変数低減による有限要素解析, 日本建
築学会構造系論文報告集, 1991, No.425, pp.111-120.
8) 川口健一,柯宛伶,三木優彰: 付帯条件付き極小曲面と一般化最急降下法に
関する基礎的研究, 日本建築学会構造系論文集, 2008 , No632,
pp.1773-1777.

9) 石井一夫:膜構造の形状解析(形状決定の問題)概説, 膜構造研究論文集’89,
No.3, pp.83-108.
図 18 コネクティビティ 10) V. Horak, Inverse Variational Principles of Continuum Mechanics, Rozpravy
Ceskoslovenske Akad. Ved., 1969.

11) Connelly, R. and Back, A., Mathematics and tensegrity, American Scientist ,
1998, 86, pp.142–151.

12) Connelly, R., Tensegrity structures: why are they stable?, M.F. Thorpe and P.M.
Duxbury, ed., Rigidity theory and applications, Plenum Press, New York, 1999,
pp.47-54.
13) Vassart, N., and Motro, R., Multiparametered form finding method: application
to tensegrity systems, International Journal of Space Structures, 14(2),
1999,pp.147-154.
14)Tibert, A. G., and Pellegrino, S., Review of Form-Finding Methods for
Tensegrity Structures, International Journal of Space Structures, Vol. 18 No.4,
2003, pp.209-223.

15) Zhang, JY., and Ohsaki, M., Adaptive force density method for form-finding
problem of tensegrity structures, International Journal of Solids and Structures
2006,43, pp.5658-5673.
図 19 パラメータスタディ
16) 川口健一, 不安定構造物の理論とその応用に関する研究, 博士学位論文,
東京大学, 1990
5 まとめ
張力構造の形状決定問題を汎関数の停留という観点から考察し
た。応力密度法もそのような観点からの考察が可能である事を示し
た。特に、汎関数に関して、様々な量を自由に設定することが可能
であり、これにより様々な初期形状が発生することを示した。

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