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土 木 学 会 論 文 集No. 513/1-31, 27. 38, 1995.

単 調載荷 曲線 を基 に した繰 り返 し塑性 履歴 を


受 ける鋼材 の構成 式

西 村 宣 男1・ 小 野 潔2・ 池 内 智 行3

1正会員 工博 大 阪大 学 教授 工 学 部 土 木 工学 科(〒565吹 田市 山 田丘2-1)


2正 会員 工修 建 設 省 道 路 局(〒100千 代 田 区霞 ケ関2-1-3)
3学生 会 員 大 阪 大 学 大 学 院博 士前 期 課 程

本研究 では, 鋼材 の塑性 ひずみ-真 応力で 表現 した塑性 履歴 曲線 を単調載荷 曲線 に相 当す る領 域 と,


弾性 域の大き さの減少や接線塑性 係数の変化 に着 目 して定式化 した遷移領域 に分 けて表現する構成 式 を
開発 した. また材料定数 の決 定に必要な3種 類の実験方法 を示 した. さ らに, 一軸 で定式化 を行 った構
成式を多軸応 力状態へ と拡 張 し実験結果お よび既往の研究 とシミュ レー シ ョン結果 との比較 に より構成
式の妥 当性 を確認 した.

Key Words: constitutive equation, hysteretic behavior, structural steel, monotonic loading curve,
multi-dimensional stress state

1. まえが き にお い て, 提案 モデ ル によ るシ ミュ レー シ ョン結果 が
実験値 とほぼ一 致す るま で多数 の実 験 を行 い, 複 雑 な
鋼構造 物 が地震 力 な どの繰 り返 し作用 を受 け大 き な 計算 を しなけれ ばな らない ものが ある.
塑性変 形 を生 じる場 合の構 造物 の挙 動 を正確 に把握 す そ こで本研 究 にお いて は, 単調 載 荷 曲線 の塑性 ひず
るには, 鋼材 の繰 り返 し塑性 履歴 を精度 良 く表 現 で き み 一真 応力 関係 を直接利 用 した構 成 式 を考案 し, そ こ
る構成 式が必 要 とな る. 構成 式 は正確 で あ る と同時 に, に含 まれ る材 料定 数 の決定 に必 要な3種 類 の実験 法 と
そ こに含 まれ る定 数 が少 な く, かっ 定数 の決定 法が 簡 定数 の決定 方法 を確立 した. 応カ ーひ ずみ 関係 の異 な
潔で 明瞭で あ るこ とも重要 で ある. また, 構造 用鋼材 る鋼 材や, 構 成式 に含 まれ る定数 の決 定 に用 い た3種
で も普 通鋼, 高張 力鋼, 低 降伏比 高 張力鋼 な どで はそ 類 の塑性 履歴 以外 の一般 的 な塑性履 歴 に対 して もこの
れ ぞれ応 カ ーひず み関係 の特 徴 が異 なっ てお り, これ モ デ ル が 適 用 で き る こ と を確 認 す るた め, 普 通 鋼
らのいず れの鋼 材 に対 して も適用 可能 な こ とが 望まれ SS400, 高 張力鋼SM570, 低 降伏 比 高 張力鋼LYR590に つ
る. いて塑性 履歴経 路 の異 な る数 種類 の実験 をお こなった.
これ まで鋼材 の繰 り返 し塑性 履歴 を表 現す るため の そ して, このモデル によ る数値 シ ミュ レー シ ョン と実
構成 式 に関す る研 究が数 多 くな され てきた. 代表 的 な 験結 果 の比較 を行 い, モ デル の妥 当性 を確 認 した. さ
もの と しては, 応 力 空間 にお い て相 異 な るひずみ硬 化 らに, 多 軸応力 状態 に対 して, 構成 式 を拡張 し, 既往
係数 を有す るい くっ かの 曲面 を考 え, これ らの 曲面 に の研 究で行 われ た実験 結果 とシ ミュ レー シ ョンの比較
よって鋼材 の塑性履 歴 を表現 す る多 曲面モデル1), 降 を行 い, 妥 当性 を確 認 した.
伏 曲面 と境 界 曲面 の2個 の 曲面 を設 定 し, これ ら2個
の 曲面の位置 や 大 き さ等 の関係 を用 い て接線塑 性係 数 2. 構成 式の展開
を決 定 す る二 曲面 モデ ル2),3), 多曲面モデルや二曲
面モデ ル を修 正 したモデ ル4)∼9)等 が提案 され て い る。 (1)構成式 の概 要
また, 実験式 と して, Ramberg-Osgood式10)∼12)で表 現 本研 究 では, 単調 載 荷 曲線 を利 用 した構成 式 を考案
す るモ デル, 塑性履 歴 曲線 と して単調 載 荷 曲線 をそ の したが, 既往 の研 究 にお いて同様 に単調 載荷 曲線 を基
主要 な もの と して表 現 す るモデ ル13). 14)等 が あ る。 に した構 成式 と して は, 加藤 ら13)と 修 行 ら14)の モ
これ らのモデ ル にお いて は, 実 験結 果 をか な り精度 良 デル が挙げ られ る. 加 藤 らのモデ ル13)で は,工学 ひず
く再現 して い る もの もあ る一方 で, 定数 の決定 の過程 み 一公 称応力 で表 現 した鋼材 の塑性 履歴 曲線 を構成 式

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図一1(a) 構 成 式の概 要

の骨格 をなす 単調載 荷 曲線 の一部 に相 当す る部 分, バ


ウシンガ-効 果 によ る軟化 部分, 弾性的 除荷部 分の3
領域 に分 けて表現 してい る. 塑 性履 歴 曲線 の 主要 な部
分 をなす単調 載荷 曲線 につい て は, 圧縮側, 引張側 で
それ ぞれ1本 ずつ の基本 とな る単調 圧縮 曲線, 単調 引
張 曲線 を定義 して い る. バ ウシ ンガ-効 果 によ る軟化 図一1(b) 構成 式 の概 要
部分 の曲線 は双 曲線 で表 現 され, 軟 化 の程 度 は逆負荷
方向, 引張(圧 縮)側 な ら圧縮(引 張)側 で累積 され 調 載荷 曲線, 図一1(b)は繰 り返 し塑 性 履歴 を受 けた鋼
た単調載 荷 曲線 上 の総ひ ずみ 量の 関数 として表 現 され 材 の塑 性 ひず み-真 応 力 関係 を示 して お り, 図-1(b)
てい る. 修行 らのモデ ル14)で は,「 最初 の除荷 点 と の点o∼8は 図-1(a)の点o∼8(た だ し点4, 7を除 く)と
次の除荷 点 の真応 力 の絶対 値 が等 しい」 引張 一圧 縮 一 応 カ レベ ルが等 し くそれ ぞれ対 応 した もの となって い
引張 の塑性 履歴 曲線 を基 準ル ープ と して設 定 し, 基準 る. 図-1(b)に おい て, 一 軸状 態 にお け る塑性 ひ ずみ
サイ クル や そ れ以 外 の場 合 につ いて 多数 実 験 を行 い, 一真応 力 の関係 を0-1の初期 弾性域, 1-3と5-6,8以降 の

基準サ イ クル とそれ 以外 の場合 の相 違 を実験式 に よ り 単調 載荷 曲線 の一部 をなす領 域, 3-5と6-8の 遷移 領域


表現 してい る. このモデル にお いて も, 真 ひず み 一真 に分 ける. さ らに単 調載 荷 曲線 の一 部 をなす領 域 をl-
応 力で整 理 した鋼 材 の塑性履 歴 曲線 を単調 引張 曲線 に 2の 降伏 棚, 2-3と5-6, 8以 降の ひず み硬 化 領域 に, 遷
準ず る部分, ヤ ング率 で 直線 的 に変 動す る部 分, 逆負 移領 域 を3-4と6-7の 弾性 遷移 領 域, 4-5と7-8の 非 線形
荷 に対 して過渡 的な 挙動 を示す 部分 の3領 域 に分 け て 遷移 領 域 の2つ に分 け る ことにす る. 図一1(b)の塑 性
表 現 し, 比 較 的精 度 良 く実験 結 果 を再 現 して い るが, 履歴 曲線 を例 に とって構成 式 の概 要 を以 下に説 明す る.
場 合分 けや繰 り返 し塑性 履歴 を表現す るのに必 要な式 応カ レベ ル がσ1であ る点3ま で載 荷 した 後, 除荷 した
お よび定数 が若干 多 い もの となって い る. 本研 究にお とす る. 除荷 が進 み点5に お い て応力 レベ ル が再 び σ1
いては, 塑性 ひず み 一真応力 で整 理 した繰 り返 し塑 性 に達 した とす る と, 点5か ら後 の塑性 ひずみ 一真応 力 の
履歴 曲線 の引張側, 圧縮 側 の単調 載荷 曲線 の一部 を な 関係 は図-1(a)の 単調 載荷 曲線 の点5以 降の塑 性ひず み
す領 域 を圧縮 側 と引張側 とで 区別せ ず1本 の単調載 荷 -真 応 力 で表現 され, 再載 荷が 起 こる点6ま で の点5∼

曲線 で表現 した. さ らに新 しい概 念 として, 単調 載荷 点6間 の塑性 履歴 曲線 は 図一1(a)の単調 載荷 曲線 の点5


曲線 の一部 を なす 領域 以外 の非線 形 的な挙動 を示す 遷 ∼ 点6の 部分 で表 現 され る. この よ うに単調 載 荷 曲線

移領 域 の塑性 ひず み の幅 を, 単調 載荷 曲線 上の塑性 ひ を基 に して, 繰 り返 し塑性履 歴 を受 け る鋼材 の塑性 ひ


ずみの関数 で表す ことを提案 してい る. また, 加藤 ら13) ずみ-真 応力 関係 を単調 載荷 曲線 の一部 をなす領域 と
のモデル にお いて は記 述 され て いな かった 弾性域 の減 それ 以外 の遷 移領 域 に分 けて表現 す る構 成式 で は, こ
少, 遷移領 域 でのルー プ の曲率 を変化 させ るパ ラメー れ らの領域 分 けが重要 となる. その ため には, 単調 載
タ を導入 し, さらに定数 を求 めるた めの実 験の種 類 を 荷 曲線 上 のあ る応 カ レベル まで達 した後, 荷 重 を反 転
明確 に定義 した. 今 回考案 した構 成式 は地震 な どの繰 させ た ときに再び そ の応 力 レベル に達す るまで の塑 性
り返 し外 力 を受 け る構 造物 に適用 す る こ とを 目的 とす ひず み変化 量, っ ま り単調載 荷 曲線 上 の ある応 力 レベ
るた め, ひずみ 速度 の影 響 は な く, 低 サイ クル疲 労 の ル に対応 す る塑 性 ひず み ερmonと,そ こで荷 重 を反 転
起 きない範 囲で繰 り返 し履歴 を うけ る と仮 定す る. させ た時 に現れ る遷移領 域 の塑性 ひず み の大 き さ△ερ
単調載荷 曲線 を基 に した構成 式 の概 要 を図-1(a), (b) の 関係 を定式 化す る必 要が あ る. そ こで, 単調 載荷 曲
に示す. 図一1(a)は塑性 ひ ずみ 一真 応 力 で整理 した単 線 上 の塑性 ひず み εPmonと
荷 重 を反 転 させ た時 に現 れ

2g
σ=σ, dσ/dεmkon=EPstを 満 た して いる.
また, 図-2の よ うに 降伏 棚 上で荷 重 を反転 させ る と
反転 させたル ー プにお いて も降伏棚 が現 れ て くる. 降
伏 棚 は リュダ-ス 線 が平 行部 を伝播 してい く現 象 であ
るため, 平行 部 内 の塑 性変 形 は不 均 一 な もの とな って
い る15). そ のた め, 伸 び計 に よ りひ ずみ を測 定 した
と して も, その値 は平行 部 の平均 的な挙 動 を示 して い
るもので あ り12), 本来 のひず み とは少 し違 った もの
で ある よ うに思われ るが, あ らゆるひず みの範 囲で構
成 式 を定義す る場合, 降伏 棚 の挙動 を定 式化す るこ と
は工学 的 には意味 が ある よ うに思 われ る. 図一2で示す
よ うな 降伏 棚 上で荷 重 を反 転 させ る よ うな実験 を行 い,
降伏 棚 上で荷重 を反 転 させ た 時に現れ る降伏 棚 の合計
図一2 降伏棚 の長 さ(ερ12+ερ45)と単調載 荷 時 に現 れ るの降伏 棚
の長 さερstを
比 較 した と ころ,既往 の研 究16)で 指 摘 さ
る遷 移 領 域 の 塑 性 ひ ず み の 大 き さ △εP, 例 え ば 図 一 れ てい る よ うに両者 は ほぼ等 しくな った. そ こで, 降
1(b)に 示 す ひ ず み 硬 化 領 域 に お い て は, σ1な ら 伏棚 上 で荷重 を反転 させ た場合, 現れ て くる降伏 棚 の
ερ=εPl3と △ερ45, σ2な ら ερ=εP13+εP56と 長 さの累計 が単調 載荷 時 の降伏棚 の長 さに達す るまで
△ερ78との 関 係 を, 図 一2に示 す 降 伏 棚 に お い て は, 降伏 棚の挙動 を示す こと とした.
ερmon=ε ρ12と△ερ34との 関 係 を 以 下 の 式 に よ っ て 表 現 b)弾性遷 移領域 の数学 的表現
す る こ と と した. 図一1(b)の点3∼点4お よび 点6∼点7, 図一2の点2∼ 点3
のよ うな遷移 領域 にお け る弾性域 につ いて は, 鋼材 が
(1)
繰 り返 し塑性 履歴 を受 け る とバ ウシ ンガ ー効 果 によ り
ここに, △sp: 遷移領 域 の塑 性ひず み大 き さ 弾性 域 の大き さは初期 弾性域 の大 き さよ り減少 し, あ
ερmon: 単調載 荷 曲線 上 の塑性 ひず み る程度 以 上の繰 り返 し塑性履 歴 を受 ける と弾性 域 の大
d, 8: 鋼材 に よって決 まる定数 き さ は一 定値 に収 束 す る こ と が 明 らか に され て い
る9)'16). そ こで, 繰 り返 し塑 性 履歴 に ともな う弾
(2)構成式の数学 的表現 性 域 の大 き さの変 化 を以 下 の式 によっ て表現す るこ と
単調載 荷 曲線, 弾性 遷移領 域, 非線 形遷移領 域 それ と した.
ぞれの塑性 ひず み 一真応 力 関係 を数学 的 に表 現す るた
(3)
めに以 下に示 す よ うな定式化 を行 った.
a)単調 載荷曲線 の一部 をなす領 域の 表現 ここに, K: 弾性 域 の大 き さ
この構成 式 は単調載 荷 曲線 を基 に して鋼材 の塑性 履 Ko: 初期 の弾性 域 の大 き さ(2(刃
歴 曲線 を表 現 してい るた め, 各種鋼 材 の機械 的特性 を △ερmax: 最 大塑性 ひずみ振 幅
考慮 し, しか も実験結果 を精 度 良 く再現 で きる よ うに C, η: 鋼材 に よって決 ま る定数
単調 載荷 曲線 の定 式化 を行 う必要 が ある. そ こでひ ず 式(3)は △εmaxが あ る程 度 大 き くな る と弾性 域 の大 き
み硬化 領域 の単調 載荷 曲線 にっい ては, 接 線塑 性係 数 さKは 一 定値K×cに 漸近 す る. また, こ こで の最大
の変化 にも注意 して以 下の式 に よって表 現す る こと と 塑性 ひずみ 振幅 △ερmaxとは圧 縮側, 引 張側 で の履歴 最
した. 大 塑性ひず み を合 計 した ものであ り, 皆川 ら5)が 定義
しShenら9)が使 用 してい る累積 相 当塑 性ひず み と同 じ
(2)
もので ある.
ここに, εmon: ひず み硬化 開始点 を原点 とした c)非線 形遷移領 域の 数学的表 現
ときの単調 載荷 曲線 上 の塑性ひ 図一1(b)の点4∼ 点5お よび 点7∼点8, 図一2の点3∼点4
ずみ のよ うな非線形遷 移領 域 にお いては接線 塑性 係数 の値
Eρst: ひず み硬化 勾配 が, 非 線形 塑性 域 の 開始 点(例 えば 点4)で の無 限大
σy: 下降伏 点応力 度 か ら,非線形遷 移領 域 の終 了点(例 えば点5)で の接 線
a, b: 鋼材 に よって決 まる定数 塑性係 数Eρoの 値 まで 大 き く変化 す る. 非線 形遷移 領
式(2)は ひ ず み 硬 化 開 始 点(△ εPmon=0)に お い て, 域 での構成式 の精度 の 向上を図 るた めには, 接線 塑性

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図-3 非線 形遷 移 領域

係 数 を, この よ うな特 性 を考 慮 で き る よ うな形 で 定式
化す るこ とが重 要 とな って くる. 図一3に非線 形塑性 域
であ る点4∼ 点5を 例 に取 り,接 線 塑性 係 数 の定 式化 に 図.4(a) 非線 形遷 移領 域 での荷 重 の反転
っ いて説 明す る. 図一3に示す よ うに非線 形遷移 領 域 の
開始点(点4)を 原 点 と し,x軸 に塑 性 ひず み, y軸 に に, 降伏 棚 の領 域 では式(4), (5)のEρoは0で あるが
真応 力 を とる 非線 形遷 移 領 域 上 の任 意 の点P(x, y) 降伏棚 が終 わ りひ ずみ硬 化領 域 に入 る とEρ0が0か ら
にお け る接 線 塑性 係 数EPを 原 点 か ら非線 形遷 移領 域 不連続的 にE㌦ に変化 し単調載荷 曲線 上のひずみ の増
の 終 了点(点5)ま で の 塑性 ひず み △ερと真 応 力 △σ, 加 とと もに減 少 してい くた め, 降伏 棚の領 域 とひずみ
点5に お け る接 線塑 性 形係 数EPxを 用 い て以 下の よ う 硬化 領域 の非線 形遷移 領域 とでは加 の傾 向は違 って く
に表 現す る こと とした. る よ うに思われ る. そ こで, 降伏 棚領 域 とひずみ硬 化
領 域 でそれ ぞ れ別 々にη2を定 義す る こ ととす る。ひず
み硬化 領域 の 非線 形遷 移領 域 の 加は, ひず み硬化 開始
(4)
点 を原 点 と した とき の単調 載 荷 曲線 上 の塑性 ひず み
εmonの 関数 と して以下 の式 で表現 す るこ とと した.

ここで加 は非線 形遷移 領域 の形 状 を表す 定数で あ り, (6)


一1<m<0で ある. 式(4)に お い て, 非線 形遷 移 領
ここに, f, 9: 鋼 材 に よって決ま る定数
域 の 開始 点(x30)で は接 線 塑 性 係 数Eρ は無 限 大
式(6)よ り,εmon≧0に お い て常 に 一1<配 く0と
で あ り,非 線形 塑性 領 域 の終 了 点(x=△ εP)で は接
なる ことが わか る.
線 塑 性係 数Eρ はEPoと な っ て い る. さ らに式(4)をX
降伏 棚 で荷重 を反転 させ た ときのル ープ の非線形遷
に関 して積分 す る ことに よ り点Pの 座標値 につい て以
移領域 の 加は 降伏 棚 にお け る塑性 変形 が不均 一で あ り,
下の 関係 式が得 られ る.
関数 にす る ことは困難 で ある. また非線 形遷移 領域 が
y=Eρ+(△ ερ一 △ σ) 非 常に短 いた め加 の値 を変 えて もほ とん どル ープの形
(5) 状 に変 化が ない. よって, 単調 載荷 曲線 上の塑性 ひず
x{(1+m)lni み が降伏 棚 の範 囲内で あ る ときは 一定値 を とる こと と
した.
式(5)に お いて, 非線 形遷 移領 域 の開始 点(x30)で また, 非線 形遷移 領域 上 で荷 重 を反転 させ た場合 を
はy30で あ り, 非 線 形 遷 移 領 域 の 終 了 点 図4(a), (b)を例 に取 って説 明す る. 図一4(a)にお いて
(x=△ εP)で はy=△ σ とな っ て い る。既 往 の 単調 応力 レベル が σ1であ る点3ま で載荷 した後, 応 力 レベ
載 荷 曲線 を基 に した構成 式13)'14)に お いて は,非線 ルが σ1であ る点5に 達 す る前 の非線 形遷 移領 域上 の点
形遷 移領域 に相 当す る部分 の定式 化 をそ の開始 点 と終 Rで 再 載荷 した とす る. そ の際に得 られ る塑性履歴 曲
了点 の座標 と接 線勾 配 に よ り行 って いた が,式(5)で は 線は真応 力 で評価 した平 均応力 の 方向 に進行 性 の塑 性
定数加 を導入す るこ とに よ り非 線形遷 移領 域 の曲率 の ひず み が生 じる点3一点R-点3の よ うな 曲線 にな る と
変化 の影響 も考慮 でき る よ うにな ってい る. いわれ てい る9). そ こで, 非線形 遷移領 域上 で荷重 を
この非線 形遷移 領域 の 曲率 に関す る定数 海 は境 界条 反転 させ た時, 再 び単調 載荷 曲線 の一部 をなす領域 に
件 を満 たすた め式(4)お よび(5)で 定義 され てい る よ う 達す るまで の塑性 ひずみ(遷 移 領域 の大 き さ)を 以下
に一1<m<0を 常 に満 た さな けれ ば な らな い. さら の式 によって表現 す る ことと した.

30
図-4(b) 非線 形遷 移領 域 で の荷 重 の反転 図一5 降伏 曲面 と記憶 曲面

に拡 張 をす る. 一軸 応 力 状態 に対 す る構 成 式 と して,
△ εPα=△ ερ △ εP2+△ εP
応 カ ーひずみ 関係 を, 弾性 域, 非線 形遷移領 域, 単調
(7)
載 荷 曲線 に準ず る領域 に分 け それ らの移行 点 を応 力 に
=△ ερ-△ ερ1+(1+dfe/de)
対応 して定義 した. 同様 に多軸応 力 状態 におい て も π
一平 面上 に降伏 曲面 と記 憶 曲面 の 二っ の 曲面 を定義 し,
ここに, Kmax: 遷移領 域 の応 力 の大 き さ
△ ερ: 式(1)に よっ て与 え られ る遷 移領 域 図一5に示 す よ うに3+5の よ うな応 力 経 路 を通 る とき
の塑 性ひず み の大 きさ 偏 差応 力 が降 伏 曲 面内 で あれ ば弾 性域(点3一4), 降伏
△εPl: 荷 重 を反転 した ル-プ の塑性 ひず 曲面 と記 憶 曲面 の 間 な らば 非 線 形 遷 移 領 域C点4-5),
み振 幅 記憶 曲面 の外側 な ら単調載 荷 曲線 に準ず る領域(点5以
△ερ2: 荷 重 の 反転 点 か ら遷 移 領 域 終 了点 降)と す る. さ らに弾性 域 の大 き さを決 定 す るた め に
までの塑性 ひずみ 必 要 とな る最大 塑性 ひ ずみ 振幅, 降伏 棚 の出現 や非 線
△ε: 荷 重 を 反転 した ル ー プ の遷移 領 域 形遷移 領域 の挙動 を決 定す る単調 載荷 曲線 上の塑性 ひ
の塑性 ひず みの大 き さ ずみ を塑性ひず み空 間の 中で定義す る.
△σ.: 荷 重 の反 転 点 か ら遷 移 領 域 終 了 ま a)降伏 曲面 と記憶 曲面
で の応 力 降伏 曲面はvon Misesの 降伏 条件 に従 うとす る と次 の
図.2の点3∼4間 の よ うな降伏 棚 の非線 形遷移 領域 上 よ うに定義 され る.
で荷重 を反 転 させ た場 合, 非線形 遷移領 域 が非常 に短
f(ar, a, x)=-(S-a)(Sl-av)-x2=0 (8)
いた め点3と3'が ほ とん ど同一 の点 とな る, したが っ
て式(7)を簡略化 した 以下 の式で △ ερxを表現 す る こと ここに, σij: 応力
とした. 5ij: 偏差応 力

△ εPσ3△ εP-△ ερ2 (7')


αij: 降伏 曲面 の中心
さ ら に, 図 一4(b)に示 す よ う に 点Rで 再 載 荷 し非 線 形 K: 弾性 域の大 き さ
遷 移 領 域 の 終 了 点 で あ る点3'に 達 す る前 の 点Sで 再除 f(σij,oij,K)>0の とき, つ ま り偏 差応 力 が降伏 曲面
荷 した とす る と, 再 除 荷 した ル ー プ の △ ε%は 式(7)に に達 した後, 降伏 曲面上 に偏差 応力 が接 して いな けれ

△ ερb=△ ερR31, △ εPb=△ εpes, △ εP2=△ εPR3, ばな らないの で偏 差 応力 の変化 に伴 い降伏 曲面 は移 動


△σ=△ σ831を代 入 し て 得 られ る. 非 線 形 遷 移 領 域 で してい く. 降伏 曲面 の中心 を次 の よ うに定義 す る.
荷 重 の 反 転 が 起 こ る と き は, 単 調 載 荷 曲線 の 一 部 を な
(9)
す 領 域 に 達 す る ま で こ の 操 作 を 繰 り返 す こ とに な る.
塑性 域 を非線 形遷移 領域 と単調 載荷 曲線 に準ず る領
(3)多 軸 応 力 状 態 へ の 拡 張 域 とに分 け るため過去 に受 け た最大相 当応 力 を示 す 曲
こ こま で の 記 述 は, 一 軸 応 力 状 態 で 繰 り返 し塑 性 履 面 を記 憶 曲面 と して 定義 す る4降 伏 曲面 と同様 にvon
歴 を受 け る場 合 で あ っ た. こ の 構 成 式 を多 軸 応 力 状 態 Mises型 の曲面 と して定義す る と次の よ うになる.

31
す る定数 と してC, ηの2個 が あ る.
F(Csij,K)=3/2sedfe-dfe=0 (10)
(3)非線 形遷移 領域 に関す る定数 と して, 曲線 部 の形状
こ こに, K: 過去 に受 けた最 大相 当応 力 を表現 す るfと9, 単調 載荷 曲線 上の あ る応力 レベ
b)最大 塑性ひずみ 振幅 ル に対応 す る塑性 ひ ず み εmonと そ こで 荷重 を反 転
一軸で の最大塑性 ひず み振 幅 を多軸 応力状 態 に拡張 させ た とき に現 れ る遷 移 領 域 の 塑性 ひ ず み 大 き さ
す るた め塑性 ひずみ 空間 に次 のよ うな曲面 を考 え る. △ ερとの関係 を表現 す るε, dの4個 が ある.
以 上の 定数 を求 めるた めに単調 載荷 実験((1)に 関す
φ(εP, η σ,P)=2/3(εP-γ)(εP-η-P=0
る定 数 を求 め る), 小 さいひず みの ステ ップで 除荷載
(11) 荷 を繰 り返 す弾性 域 の大 き さの減 少 を調 べ る実験((2)
ここに, εpij: 塑性 ひず み
に関す る定数 を求 める), 原 点 を中心 に 与え る正 負 の
ηij: 曲面の 中心 ひず み を漸増 させ て い く両振 り実験((3)に 関す る定数
ρ: 曲面の 半径 を求 め る)の3種 類 の実験 を行 う.
この曲面 の直径 が最大塑 性 ひずみ 振幅 と して定義 され
る. (2)定数 を求め るための 実験
c)単調載荷 曲線上 の塑性 ひずみ
構成 式 に含 まれ る定数 を求 めるた め前節 で述 べた単
一軸 で は履 歴 を受 けた単調 載荷 曲線 上の塑性 ひず み 調載荷 実験, 弾性 域 の大 き さの減 少 を調べ る実験, 両
をερmonとして定 義 した. これ は, 応 力 が過 去 に受 け 振 り実験 の3種 類 の実験 を行 った. 今 回 の実験 で用 い
た最 大応力 を更新 した ときのみ塑性 ひず み増 分 を加 算 た鋼 種 は普通 鋼SS4oo, 高 張力鋼SM570, 低 降伏 比 高張
して求 めた. 多軸応 力状 態 にお いて も偏 差応 力が記 憶 力鋼um590で ある. また, 実験 か ら得 られ るデ-タ は
曲面 を越 えた時 のみ相 当塑性 ひず み増分 を加 え る こと 工学 ひず み εNと荷 重Pで あ るが, この構成 式 では塑 性
によって求 め るこ ととす る. 相 当塑性 ひずみ 増分 は次
ひず み一真 応 力 関係 を対象 に して い るた め, 工学 ひず
の よ うに表 され る.
み 勘, 荷 重Pを 塑 性 ひず み ερ, 真 応 力 σ に変 換す る
必要 があ る. そ こで, 以 下の式 に よって変換 を行 った.
dεP=2/3dεouhdεouh (12)

ここに, dερ: 相 当塑性 ひずみ 増分


dε: 塑性 ひず み増分
ε=ln(1+ε (13)
以上 で, 一軸 状態 で記述 され た構成 式 の基本 で ある弾
性域, 非線 形 遷移 領 域, 単調 載 荷 曲線 に 準ず る領 域, ) Ep=s-e=E-sq/d
の 区別 お よび, 最 大塑性 ひず み振幅, 単 調載荷 曲線 上
の塑性 ひずみ を多軸応力 状態 へ と拡 張 した. ここに, ε: 真ひず み(対 数ひず み)
εθ: 弾性 ひずみ
3. 構 成式 に含 まれ る材 料 定数 の決 定方 法 4: 実験供試 体 の断面積
E: ヤ ング率
構成式 は正確 で ある と同時 に, 含 まれ る材料 定数 の a)実験 供試体
決定の ための 実験法や, その 実験デ ー タか らの定数 の 繰 り返 し圧縮 引張 実験 にお いて は実験供 試体 の平行
決 定方法 が明確 で ある こ とが 望まれ る. 以下 に材 料 定 部 の長 さが直径 に比 べて長 す ぎ る と圧 縮 時 に座 屈す る
数 決定 に必 要な実験 法 と定数 の算定方 法 を述 べ る. 可能 性 があ り, 逆 に短 す ぎ る と端部 の拘 束効果 によ り
一軸 状態 が乱 され, ひず みの分布 が 一様 で な くな る可

(1)構成式に含 まれ る定数 能性 が あ る17), な ど圧 縮 時 が問題 とな る ことが多 い.


鋼材 の繰 り返 し塑性 履歴 特性 は単調 載荷 曲線 で表 さ そ のた め, 通常圧 縮 実験 にお いては 実験供 試体 の長 さ
れ る機械 的特 性 と同様 に鋼材 に よって違 って くる. 本 と直径 の比 を普通1.5∼2.0,WES20)に おけ る低 サイ
研 究の構成 式 に含 まれ る鋼材 の特性 を表す 定数 は以 下 クル疲 労試験 片 は2.0と してい るので,実験供 試体 の形
の通 りであ る. 状 と して 図一6に示 す よ うな 中実 で 丸棒 の もの と した.
(1)単調 載 荷 曲線 に関す る定 数 と して, ヤ ン グ係 数E, また, SS400, SM57Oに っい ては 図一6に示 した繰 り返 し
下降伏応 力 α, 降伏棚 の長 さεPst,ひず み硬化 勾配 圧縮 引張実 験供 試 体 を切 りだ した 同 じ板 を使 い, JIS
EPst, ひず み硬化 開始後 の 曲線 の形 状 を表現す るa, 4号 試 験片 も製作 した.
bの6個 が ある. b)実験装 置
(2)バウシンガ-効 果 に よる弾性域 の 大 き さの減少 に 関 実験 装置 として 島津サ ーボパル サ ー(容 量10tf)を

32
図-6 実験供 試 体

図.8 弾性 域 の減少 を調 べ る実験

図-7 各 種鋼 材 の単調 載荷 曲線
表-1 単調載 荷 曲線 に関す る材 料 定数

図-9 εmonとK/K0の 関係
表一2 弾性域 の 大 き さの減 少 に関 す る材 料 定数

d)弾性 域の大 き さの減 少 を調 べ る実験


繰 り返 し塑性履歴 に伴 う弾性域 の大 き さの減 少 に関
用 い, 実験 供 試 体 を治 具 に ね じ込 み 固 定 して 実験 を す る定数(前 節 の(2))を 求 めるた め, 図-8に示す よ う
行 った. 荷重 は試験機 に内蔵 された ロー ドセル に よっ な小 さいひずみ のス ッテ プで除荷 と載 荷 を繰 り返 す実
て測定 し, ひ ずみ は平行部 に取 り付 けた伸 び計(標 点 験 を行 った. 弾性 域 の大 き さの決 定す るにあた り, 除
距離15mm)に よって測定 したが, 単調載 荷 実験 な どの 荷 開 始点 か らの0.03%オ フセ ッ ト法 に よっ て各 除 荷
10%以 上 の大 ひ ず み を測 定 しな けれ ば な らな い場 合, ルー プの 弾性 域 の大 き さKを 求 めた. こ うして求 ま っ
伸び計 の測定範 囲 を越 えるた め大ひず み ゲー ジ も併用 た弾性 域 の大 きさKを 初期 の弾性域 の大 き さK0(2σ)
す るこ と とした. ま た, 実験 は変 位 制 御 に よ りひ ず で割 って無 次元化 した とそれぞ れ のKに 対応 す る最 大
み速 度 を約5.0×10-4sec-1に保 っ て行 っ た. 塑性 ひず み振幅 △ ερmsと の 関係 を調 べ, 式(3)に よっ
c)単調 載荷実験 て 回帰計 算 し,0, ηを求 め た. 図一9に実験 で得 られ た
単調 載荷 曲線 に関す る定数(前 節 の(1))を 求 めるた 各種鋼 材 の △εmaxとK/Koと の 関係 を点 で,表一2に回
め3種 類 の鋼材 につ いて 単調 載荷 実 験 を行 った。図一7 帰計算 に よって得 られ た0, ηの値 を示す. 図-9の実線
に各 種鋼材 の単調 載荷 曲線 の塑性 ひずみ-真 応 力 関係 は式(3)に 表一2の定 数 を代 入 して 求 めた も の で あ る.
を示 す。定数 の求 め方 であ るが,塑性 ひず み 一真 応力 に 図一9に示す よ うに,いず れ の鋼 材 にお い て も弾性 域 の
変換 した実験 結果 か ら,まず 下降伏応 力 研, 降伏 棚 の長 大 き さKは △ερmaxが1%程 度 以 内 で 大 き く減 少 し,
さ ερst, ひ ず み 硬 化 勾 配Eρstを 決 定 す る。 その後 一定値(K0×c)に 収 束 してい る ことが わか る.
εpmon=εmon-ε ρstに
よ り求 めたひず み硬化 開始点 を e)両 振 り実験
原点 と した塑性 ひず み εmonと 真応 力 σ で表現 した 実 非線 形遷移 領域 に関す る定数(前 節 の(3))を 求 める
験デ ー タを,EPst, Qtを 代入 した式(1)で 回 帰計算 を行 た め, 図一10に示 す よ うな原 点 を 中心 に与 える正 負 の
い定 数α, bを 決 定 した. 表一1に各 種鋼 材 の単調 載荷 ひず み を漸 増す る両振 り実 験 を行 った. この際, 単調
曲線 に関す る構成 式 に含 まれ る定数 の値 を示 す. 載荷 実験 よ り降伏棚 の長 さを把握 し, その結 果 を基 に,

33
表 一3 epmonと △ ερに
関す る材料 定数

図-10 両振 り実験

図一12 εpmonと 例 の関係


表 一4 mに 関す る定数

式(6)に 代 入 して回 帰 計 算 す る こ と に よ り材 料 定 数
f, 9を 決 定 した。図一12に各 種 鋼材 のひ ずみ 硬化 開始
図一11 ερmonと △ ερの関 係 後 の 各ル ープ の εpmonとmの 関係 を,表. 4に 回帰 計 算
に よって 求 め られ たf, 8の 値 を示 す. 図 中の 実線 は
降伏 棚で の繰 り返 しを含 んだ 両振 り実験 を行 うことが 式(6)に 表一4の値 を代 入 して 求 め た もの で あ る。また,
望 ま しい. 両振 り実験 に よって得 られ たデ ータ を塑性 降伏棚 の非 線形 遷移 領 域 で のmに つ い ては, 回帰計 算
ひず み 一真応 力 に変 換 し, 変換 した デ ータか ら2章 の に よって得 られ たmの 値 が0付 近 の小 さい値 でば らつ
q), 図一1(a),(b)に示 した要領 で,各種 鋼材 の単調載荷 いてい たので鋼 材 に よ らず 一 定 値 η2=-0.01で ある と
曲線 上 の塑性 ひ ずみ ερmonと遷移 領 域 の塑 性 ひず み の した.
大 き さ△ εPの関係 を調 べ た も の を 図一11に各 種 点 で,
式(1)に よ って回 帰計算 して求 めたd, θの値 を表一3に 4. 各種 鋼材 の 一般 的な繰 り返 し塑性履 歴 実験
示す. 図 中の各線 は式(1)に 表 一3の定数 を代入 して 求
めた もので あ る. こ こで, 式(l)は 原 点 を通 る双 曲線 普 通 鋼SS400, 高 張 力 鋼SM570, 低 降伏 比 高 張 力 鋼
を表 してお り, 図一11からもわ か るよ うにερmonがある LYR590の繰 り返 し塑性履 歴 特性 を調 べそ の違 い を把 握
程度 大 き くなる と式(l)は 傾 きがθ/dの 直線 で近 似 的 す る とともに, 単調載荷 実験, 弾性 域 の大 き さの減 少
に 表 現 で き る. 一般 的 に θ/dの 値 が小 さ く なれ ば, を調 べ る実 験, 両振 り実験 の3種 類 の実験結 果 だけか
ある応 力 まで 達 して荷重 を反転 させ た時, よ り少な い ら得 られ た定数 を用 いて鋼材 の その他 の一般 的 な塑 性
塑性ひ ずみ の変化 量で再 びそ の応 力 に達す るので, 塑 履歴特 性 を精 度 よく再現 で き る こと, す なわち構成 式
性 履歴 に伴 い応力 が上昇 しやす くな る. の妥 当性 を確 認す るため載荷 パ ター ンを変 えて数種 類
ま た,非線 形遷 移領 域 の 曲率 に 関す る定 数 加 を表現 の繰 り返 し塑性 履歴 実験 を行 っ た.
す る材料 定数f, 9に つ い て は, まず それ ぞれ の除荷
載 荷 のル-プ につ い て単調 載 荷 曲線 上 の塑 性 ひず み (1)数値 シ ミュ レー シ ョン と実験 結果 との比較
ερmon遷 移 領 域 の 大 き さ△ ερ,最 大 塑性 ひ ず み振 幅 図一13から図-18に 実験デ ータ と本研 究で提案 した構
△εmaxを 求め る. これ らの値 を基 に式(2)を 微 分 した 成式 に よる数 値 シ ミュ レー シ ョン と比較 した ものを示
式 に よ りEρoを, 式(3)に よ り弾性 域 の大 きさKを 計 す. 実験デ ー タは点で数 値 シ ミュ レー シ ョンは実線 で
算 し,非線 形遷 移領 域 の応 力 の幅 △σ を求 め る. こ う 表 してい る. 図一14より, SS400がSM570, LYR590よ り繰
して 求 めた△ ερ,Eρ0, △σを式(5)に 代入 し実験 結果 り返 し硬化 が顕著 で ある といっ た鋼 材 の繰 り返 し塑性
と回帰計 算す る こ とに よってmの 値 を決 定 した. さ ら 履歴特性 の違 い を, 数値 シ ミュ レー シ ョンが うま く表
に,ひず み硬化 領域 の非線 形遷 移 領域 につ いて は, ひ 現 して い る. これ は, SS400の θ/dの 値 がSM570,
ずみ硬 化 開始点 を原 点 と した塑 性 ひずみ εpmonとmを LYR590のθ/dの 値 よ り小 さい ため応 力が 上昇 しやす い

34
図-13 繰 り返 し載荷 試 験 図一14 繰 り返 し載 荷 試 験 図-15 繰 り返 し載 荷試 験

図 一16 繰 り返 し載 荷試 験 図-17 繰 り返 し載 荷 試 験 図一18 繰 り返 し載 荷 試 験

35
SM490-D SM490-J

図一21 単調 載荷 試験

上 げ る. この修 正 二 曲面 モデ ル はDafalias・PoPovの二
図-19 既 往 の構成 式 との比 較 図.20 既往 の構 成式 との比較 曲面モ デル に仮想 境界 面, 記 憶 曲面等 の補助 的 曲面 を
表一5 文献9)よ り求 めた材 料定 数 導入 して 改良 を行 うとと もに, それ まで あま り研 究 さ
れ ていな かった 降伏棚 上で の繰 り返 しを含 む比較 的小
さいひずみ領 域 にっ いて数 多 く実験 を行 い, そ の実験
結果 を基 に降伏 棚 での精度 を高 めた もの となって いる.
今 回, 比較 のた め用 いた 実験デ-タ お よび修 正二 曲
面モデ ル に よる数 値 シ ミュ レー シ ョンは 文献9)よ り
引用 した もので あ る. 表一5に文献9)か ら求 めた材料
といっ た材料 定数d, θの違 い に よる もので あ る. 図一 定数 を示す. 実験 デ-タ を実線 修正 二 曲面モデ ル に
13にお い て も同様 の理 由でSS4ooがSM570, LYR590に 比 よるシ ミュ レー シ ョンを破線, 本研 究 の構成 式 に よる
べ て応 力 が上昇 しやす い傾 向 をシ ミュ レー シ ョン結 果
シ ミュ レー シ ョンを一 点鎖線 で表 現 し比較 した もの を
が再 現 してお り実 験デ ー タ と高 い適 合1生を示 してい る。
図一19, 図一20に示 す. 図一19にお い て, 中程 度 のひ ず
よって,繰 り返 し塑性 履歴 とと もに応 力 の 大 き さが 減
み の領 域で境 界線 に達す る前 に荷 重 の反転 が起 こっ た
少す る とい う繰 り返 し軟 化 現 象 もd, εの値 が変 わ る 場合応 力 を過 大 に評価 して しま うといった 二 曲面モデ
こ とに よって+分 に表現 で き るた め, その よ うな特 性 ルの 問題 点 を今回 のモデ ル では繰 り返 し硬化 に よ る応
を示す 材料 に もこの構成 式 は適用 で きる もの と考 え ら
力の上 昇 を単 調載 荷 曲線 で表 現す るこ とによ り解 決 し,
れ る. 図一15はあ る値 の平 均ひ ず み を 中心 と した一 定
実験デ ー タを数値 シ ミュ レー シ ョンが精 度 良 く再現 し
ひずみ 実験 であ る. この場 合非線形 遷移 領域 で荷重 の て い るこ とが わか る. 図-20に お い て, 降伏 棚 上 の比
反転 が連続 して生 ず るこ とにな るが, 繰 り返 し塑性 履
較 的小 さいひ ずみ の領域 で も実験デ ー タ を数値 シ ミュ
歴 に伴 う平均 応力 の減少 とい う"Cyclic re1axation"を レー シ ョン が精 度 良 く再 現 して い る こ とが わ か る.
式(7)に よる シ ミュ レー シ ョンが うま く再 現 してい る
従 って, ひず み硬化 領域, 降伏 棚 上, いずれ の領域 の
ことが わか る. さ らに, 圧 縮側, 引張側 のそれ ぞれ設
繰 り返 し塑性履 歴 を も本研 究 の構成 式 で精度 良 く再 現
定 した応 力 で繰 り返 し載 荷 した と きに現 れ る"Cyclic
で きて い ることが確認 され た.
creep"現象 も式(7)で表 現 でき る. お よび図-13∼ 図一18
のいずれ の塑性履 歴 に対 して もこの構 成式 によ るにシ
(3)多軸 応 力 下で の数 値 シ ミュ レー シ ョ ンと実験 結 果
ミュ レー シ ョン結果 が実験 デ ー タを精度 良 く再 現で き
の比較
てい る ことが わか る. そ こで, 単調 載荷 実験, 弾性域
一般 に部材 断面 に一様 な多軸 応力 状態 を発 生 させ る
の大 き さの減 少 を調 べ る実験, 両振 り実験 の3種 類 か
実験 に は, 中空 断面 部材 の長軸 方 向に軸 力 を与 えて 直
ら求 め られ た材 料 定数で各 種鋼材 の任 意 の塑性履 歴 曲 応力 を生 じさせ, 円周方 向に ね じ りを与 えてせ ん断応
線 を精 度良 く再現 で きる ことにな り, この構成 式お よ 力 を生 じさせ る手 法が使 われ る.
び材料 定数 を求め るた めの実験 法 の妥 当性 が確認 で き a)単調載 荷実験
た. 崎 元 ら20)は 円形 鋼 管 の単調 載荷試 験 を行 ってい る.
図-21に シ ミュ レー シ ョン結 果 と実 験結 果 との比 較 を
(2)既往 の研究 によ る構 成式 との比較 示す. SHは 直 応力 をせ ん断力 の二倍 に保 ち なが ら比
本研 究で の提 案 した構成 式 の よ り一般的 な妥 当性 を 例載 荷 した もので, ST-4は 直応力 をα87aqに 保 ちなが
検証す るた め既往 の構 成式 との比較 を行 った. 既往 の らせ ん断 力 を 単調 載 荷 した もの で あ る. シ ミュ レー
構 成式 と してShen・水 野 らの修正 二 曲面モデ ル を取 り シ ョンは実験 結果 と良好 に一致 し, 構成 式 を拡 張す る

36
案 した構 成式 に よる シ ミュ レー シ ョンを示す. また 図
一22,図一23は軸 圧 を 降伏応 力 の0.6倍, 図一24は0.8倍に

保 ちなが ら繰 り返 し塑性 履歴 を与 えた もの であ る. シ
ミュ レー シ ョンは 実験結果 を 良好 に追跡 できてお りこ
の構成式 の妥 当性 が確認 で きた.

5. 結 論
本研究 では, 各種鋼材 の繰 り返 し塑性 履歴 を精度 良
く表 現 で き る構 成 式 を考案 しそ の適 用 性 を示 した が,
その 内容 を示す と以下 のよ うにな る.
(1)単調 載 荷 曲線 を直 接利 用 し, 鋼 材 の 塑性 履歴 曲線
図一22 繰 り返 し載荷 試験 を初期 弾性 域, 単 調 載 荷 曲線 の 一 部 をな す領 域,
弾性遷 移領 域 と非線 形遷 移 領域 か らなる遷移 領 域
に よって 表現す る構 成 式 を考案 した. その 中で遷
移領域 の弾性域 につ いて は繰 り返 し塑性 履歴 に伴
う弾性 域 の大 き さの減少 を考慮 し, 非線 形遷 移領
域 におい ては接 線 塑性係 数 の変 化 に着 目し曲線 部
の曲率変化 を考慮 で きるよ うな形 で定式 化 した.
(2)構成 式 に含 まれ る材 料 定数 を決 定す るた め に必要
な実験 の形 式 は, 単調載 荷 実験, 弾性 域 の大 き さ
の減 少 を調 べ る実験, 両振 実験 の3種 類 であ る.
(3)SS400, SM70, LYR590に つ いて数種 類 の塑性履歴 を
変 え た繰 り返 し圧縮 引 張実験 を行 い, そ の実験 結
図-23 繰 り返 し載 荷試 験
果 と本研 究 に よっ て提案 した構成 式 に よる シ ミュ
レー シ ョン結 果 と比 較 を行 い, 構 成式 の妥 当性 を
検 証 した. また, 既往 の研 究 に よ る実 験デ ータや
数値 シ ミュ レー シ ョン結 果 とも比 較す る ことに よ
り構成 式 の一般性 も確 認 した.
(4)一軸で の構成 式 を多軸応力 状態へ 拡張 した.
(5)多軸応 力 状態 に拡 張 した 構成 式 を用 い て既往 の研
究 で行わ れた 実験 に対 して シ ミュ レー シ ョン を行
い, 構成 式 の妥当性 を確認 した.

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∼24に 示 す. 図 中 の 実 線 は 実 験 結 果, 破 線(一 一)は
造 用 鋼 の 単 軸繰 り返 し塑 性 挙 動 の 推 定, 構 造 工 学論
Shenら の シ ミュ レー シ ョ ン, 点 線(一 一
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37
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曲 線 に関 す る実 験 則, 日本 建 築 学 会 大 会 学 術 講 演 梗

A CONSTITUTIVE EQUATION FOR STRUCTURAL STEELS BASED ON


A MONOTONIC LOADING CURVE UNDER CYCLIC LOADING

Nobuo NIS Kiyoshi ONO and Tomoyuki IKEUCHI

It is important to grasp plastic behavior of steel structures and a constitutive equation which can
represent stress-strain relationship for structural steels under cyclic loading is required. In this paper, a
constitutive equation based on a monotonic loading curve is developed. The feature of this model is that
plastic strain-true stress relationship of a structural steel consists of two domains which are a part of a
monotomc loading curve and a transition domain. And three types of experiments for resolving the
material properties were shown. The proposed uniaxial constitutive equation is extended to the mutli-
dimentional stress state. It is confirmed that this proposed constitutive equation can represent
experimental data adequately.

38

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