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汎関数を用いた張力構造の形態解析例について

東大・工 三木優彰
東大・生研 川口健一

1 はじめに 2.1 シンプレックス型テンセグリティ


ケーブルネット構造、張力膜構造、テンセグリティ
構造などの張力構造は初期張力(プレストレス)の導入
により剛性が付与され安定化される。したがって、初
期張力の導入が可能な適切な初期形状を与える必要
があり、これは一般に形状決定問題として知られてい
る。張力構造の形状決定問題には種々の方法が既に提 図 1 コネクティビティ 図 2 解形状
案されているが、本報告では、汎関数の設定に自由度
があり、これを適当に選ぶ事で、解を安定的に得るこ 4
( x , λ) wj Lj k ( Lk Lk ) stationary (1)
とができる場合があることについて示す。 j k

張力構造の形状決定手法としては、系のポテンシャ まず、図 1 のようにコネクティビティを設定する。


ルエネルギーを最小化する手法が様々に提案されて 図中細線は引っ張り部材(以下ケーブル)を、太線は
いる。これらは拘束条件の下での汎関数の停留問題と 圧縮部材(以下ストラット)を想定している。いずれ
してとらえることが出来る。代表的なものとして、真 も 2 節点トラス要素としてモデル化した。ケーブルに
柄、川股、国田らによる混合法 4) (ケーブルネットの は要素内汎関数として wL4 を与えた。ストラットには
形状決定および大変形追跡)、野口らによる変分法に その長さを拘束条件として与えた。4 乗を選択する理
基づいたテンセグリティの形状決定 5)、複数の研究者 由については背景が複雑であるので割愛する。
による極小曲面に関する研究 6)7)8)9)などがある。また、 次に拘束条件に Lagrange 未定乗数法を適用し、(1)
V.Horak による逆変分原理 10)のようなアプローチも最 のような汎関数の停留問題を設定する。x は節点座標
適化の分野でよく知られている。 をベクトルとして並べたもの、λは Lagrange 未定乗
本報告では、張力構造の形状決定に関して物理的な 数をベクトルとして並べたものである。w は重み係数
意味にとらわれない汎関数の自由な設定という視点 であり、様々な値を与えることで異なった解を得る目
を導入し、いくつかの具体的な例題を用いて汎関数の 的で設定されたパラメータである。
停留問題の与える様々な解を紹介する。 ストラットの長さは全て 10 とした。ケーブルの重
力の釣り合いについて考察するためには、汎関数の み係数 w を全て 1 とした場合図 2 に示す解が得られる。
停留条件を書き下す必要があるが、本報告では割愛す これは正三角柱の上下の面を互いに 5/6π回転させ
る。 た形状であり、一般にシンプレックス型テンセグリテ
ィと呼ばれているものでである。
2 例題の紹介
本章では汎関数を適切に設定することにより、安定
2.2 20 ストラット-テンセグリティ
的に解が得られる例を紹介する。これらの例題ではど
のような重み係数を設定しても必ず解は収束し、安定
的に形状を得ることが出来た。
解法としては汎関数の停留条件を直接解くのでは
なく、射影勾配法を用いて簡便に目的関数の最小化を
行っており、このようにして得られたものを解と呼ん
でいる。
また、与える初期値はすべての節点座標に-2.5~2.5
の範囲でランダムに与えた。従って複数の局所最適解 (a)節点番号 (b)節点 1、2 に接続する 8 本の
ケーブル(N=6 の場合)
が得られる場合がある。20 ストラット-テンセグリテ
図3 20 ストラット-テンセグリティのコネクティビティ
ィの例題では実際に複数の局所最適解が確認されて
いる。 4
( x , λ) wj Lj k ( Lk Lk ) stationary (2)
j k
20 本のストラットを定め、1 本目の両端に節点番号
1,2 を、2 本目の両端に節点番号 3,4 を…という順序良 2.3 膜材を含んだテンセグリティ
に番号を割り振る。節点番号は 1~40 が割り振られる 4 2
wjLj wj S j
(図 3(a))。さらに、N を 1 から 9 までの整数から任 j j
(3)
意に選んだ定数とする。第 i 節点はケーブルにより第 ( Lk Lk ) stationary
k
i+2N 節点と第 i+2N+1 節点に接続される。節点番号は k

1~40 までしかないので、節点番号が 40 を越えたとき (3)式により、図 6 に示すコネクティビティの形状決


は 40 を差し引いた節点番号に接続する。このように 定をおこなう。これは、テンセグリティのコンセプト
すると、すべての節点にケーブルが 4 つ接続されたコ を拡張し、膜やケーブルに引っ張り力を負担させ圧縮
ネクティビティを得ることが出来る。図 3(b)は N=6 部材(ストラット)の圧縮力と釣り合う構造を想定し
の場合について節点 1、2 に集まる 8 本のケーブルを たコネクティビティである。
示したものである。ケーブルの総数は 80 本である。 図 6 は、立方八面体のトポロジーを基に、4 つの辺
続いて、重みパラメータとして任意の正の実数 w を に囲まれた正方形に 8x8x2=64 の 3 節点三角形要素か
定める。w は様々に変更することで異なった形状を得 らなる近似的な曲面を追加し、それぞれの三角形要素
る目的で設定されたパラメータである。第 i 節点 から に要素内汎関数として wS2 を与えたものである。6 つ
第 i+2N 節点に接続した 40 本のケーブルには重み係数 の曲面の境界には一つずつケーブルが配置されてい
として w を与えた。残りの 40 本のケーブルについて る。ケーブルは 8 つのトラス要素にモデル化し、それ
は重み係数として 1.0 を与えた。 ぞれに要素内汎関数として、wL4 を与えた。また、ス
N や w を様々に変えた場合の(2)式の与える解を図 4 トラットはその長さを拘束条件として与えた。
に示す。また、本例題では複数の局所最小解が存在す
ることが確認された。図 5 に同一のコネクティビティ、
同一の重み係数の与える複数の局所最小解を示す。

図 6 コネクティビティ 図7 解

図 7 はすべてのトラス要素に重み係数 500 を、すべ


ての三角形要素に重み係数 100 を、すべてのストラッ
ト要素に拘束長さ 10.0 を与えたときの解である。
図 8 は様々なパラメータを与え得られた解である。
図 8(a)はすべての三角形要素に重み係数として 200 を、
すべてのトラス要素に重み係数として 100 を、すべて
のストラットに拘束長さとして 10.0 を与えたときの
解である。(b)は(a)からすべての三角形要素の重み係数
を小さくしたもの、(c)はさらに 6 枚の膜から 1 枚を選
び、これを構成する三角形要素の重み係数のみを小さ
くしたもの。(d)はさらに、1 枚の膜の境界に配置され
た 4 本のケーブルを構成するすべてのトラス要素の重
み係数を大きくしたものである。(e)、(f)は 1 本のスト
ラットの拘束長さを変更したものである。重み係数を
図 4 パラメータスタディ 1 小さくした膜は相対的に大きくなり、境界のケーブル
部材の曲率は小さくなった。境界ケーブルの重み係数
を大きくすると、その曲率は大きくなり、ケーブルの
囲む膜は小さくなった。
図 9 にこのようにして得られた同一のコネクティビ
ティをもつ形状を、さらにいくつか選択して掲載する。
これらはパラメータの与え方が単純ではないため、パ
ラメータの掲載は割愛する。ただし、同一のケーブル、
図5 複数の局所最小解が見つかった例
膜を構成するトラス要素、三角形要素には同一の重み
係数を一括して与えた。 を示す。また、図 11(b)~(e)に様々に重み係数を変更
して得られた解を示す。図 11(b)、(c)はすべての三角
形要素の重み係数を一括して変更したものである。三
角形要素の重み係数を小さくすると、ケーブルの曲率
が小さくなり、重み係数を大きくすると、ケーブルの
曲率が大きくなっていることがわかる。図 11(d)、(e)
は固定点の座標を変更したものである。形状が大きく
変わっても、形状が破綻することはなく、滑らかな形
状が安定的に得られた。

図 8 パラメータスタディ 1

図 10 コネクティビティ

図 9 様々なパラメータの与える解

2.4 ケーブルと膜による構造

2 2
( x , λ) wj Lj wjS j
j j
(4)
k (Xk Xk) stationary
k

図 11 パラメータスタディ
本節ではケーブルや膜から成り、固定点から反力を
得て釣り合う構造の形状決定例を紹介する。
図 10 に示すのは、平行に配置された二つの楕円状 2.5 ケーブルと膜とストラットからなる構造
のリングの間に張られる円柱状のトポロジーを基に
したコネクティビティである。リングの周方向を U 方 wjLj
4
wj S j
2

向、その直交方向を V 方向とする。さらに U 方向に j j


(5)
32 の節点を、V 方向に 16 の節点を配置し、図に示す k
(X k Xk ) stationary
k
ように整然と三角形要素を配置した。リング上には 4
個ずつ計 8 個の固定点 (図中白丸)を等間隔に配置し、 まず、図 12 に示すようなコネクティビティを円状
固定点間には図のようにケーブル(図中太線)を配置 に 6 つ繰り返したコネクティビティを設定した。ケー
した。以下では U 方向に配置されたケーブルを境界ケ ブルは多数のトラス要素でモデル化し、個別に要素内
ーブル、V 方向に配置されたケーブルを補強ケーブル 汎関数を与えた。膜面も多数の三角形要素からなる近
と呼ぶことにする。ケーブルは、すべて直線状のトラ 似的な曲面としてモデル化した。
ス要素に分解し、各々に要素内汎関数 wL 2 を与えた。 三角形要素の要素内汎関数に wS2 を、トラス要素の
同様に三角形要素には wS2 を与えた。同じケーブルに 要素内汎関数に wL4 を与えたときには形状が平面に潰
属するトラス要素には一括して同じ重み係数を与え れてしまった。この様子を図 13 に示す。
た。また、三角形要素の重み係数も全て一括して同じ そこでトラス要素の要素内汎関数に wL4 を設定した
値を与えた。 ところ、期待されたとおり高さを持った形状が得られ
以上を踏まえると、本例題で解く汎関数の停留問題 た。適切に設定された汎関数の停留問題を(5)式に、そ
は(4)式のようになる。 の与える解を図 14 に示す。これは、Frei Otto 設計の
図 11(a)にはじめに与えた重み係数と、得られた解 ケルンのダンス場を模したものである。
図 14(a)ははじめに設定した重み係数と、その解で 3 まとめ
ある。(b)はストラットに接続されていない 6 本のステ 張力構造の形状決定問題を汎関数の停留という観
ーケーブルを構成するトラス要素について重み係数 点から考察した。応力密度法もそのような観点からの
を一括して変更したものである。(c)はすべてのストラ 考察が可能である事を示した。特に、汎関数に関して、
ットの長さを一括して変更したものである。(d)は膜と 様々な量を自由に設定することが可能であり、これに
膜の共有する境界に配置された 6 本の補強ケーブルに より様々な初期形状が発生することを示した。
ついて構成するトラス要素の重み係数を一括して変
更したものである。(e)、(f)はすべての三角形要素につ 参考文献

いて重み係数を一括して変更したものである。(g)はス 1) Schek, H. J., The force density method for form finding and computation of
general networks, Comput. Methods Appl. Mech. Engrg., 3, 1974, pp.115–134.
トラットに接続されていない 6 本のステーケーブルの
2) Maurin, B., Motro, R., The surface stress density method as a form-finding tool
重み係数を一括して変更したものである。 for tensile membrane, Eng. Struct., 20, 1999 , pp.712–719.

3) Barnes, M. R., Form Finding and Analysis of Tension Structures by Dynamic


Relaxation, International Journal of Space Structures, 14,1999, pp.89-104.

4) 真柄 栄毅, 川股 重也, 国田 二郎:混合法によるケーブル・ネットの解析


(その 2・数値解析), 日本建築学会大会学術講演梗概集(構造),
1973,pp.611-612.

5) Kazuma Goto, Hirohisa Noguchi, Form Finding Analysis of Tensegrity Structure


Based on Variational Method, Proceedings of The Forth China-Japan-Korea
Joint Symposium on Optimization of Structural and Mechanical Systems, 2006,
pp.455-460.

図 12 コネクティビティと要素内汎関数の設定 6) 石原 競, 八木 孝憲, 萩原 伸幸, 大森 博司, 極小面解析による膜構造の


形状解析 : 複合変分汎関数を用いて, 日本建築学会構造系論文集, 1995,
No469, pp.61-70.

7) 鈴木俊男, 半谷裕彦 : 極小曲面の変数低減による有限要素解析, 日本建


築学会構造系論文報告集, 1991, No.425, pp.111-120.

8) 川口健一,柯宛伶,三木優彰: 付帯条件付き極小曲面と一般化最急降下法に
関する基礎的研究, 日本建築学会構造系論文集, 2008 , No632,
pp.1773-1777.

9) 石井一夫:膜構造の形状解析(形状決定の問題)概説, 膜構造研究論文集’89,
No.3, pp.83-108.

10) V. Horak, Inverse Variational Principles of Continuum Mechanics, Rozpravy


Ceskoslovenske Akad. Ved., 1969.
図 13 適切な汎関数を選択しなかった場合 11) Connelly, R. and Back, A., Mathematics and tensegrity, American Scientist ,
1998, 86, pp.142–151.

12) Connelly, R., Tensegrity structures: why are they stable?, M.F. Thorpe and P.M.
Duxbury, ed., Rigidity theory and applications, Plenum Press, New York, 1999,
pp.47-54.

13) Vassart, N., and Motro, R., Multiparametered form finding method: application
to tensegrity systems, International Journal of Space Structures, 14(2),
1999,pp.147-154.

14)Tibert, A. G., and Pellegrino, S., Review of Form-Finding Methods for


Tensegrity Structures, International Journal of Space Structures, Vol. 18 No.4,
2003, pp.209-223.

15) Zhang, JY., and Ohsaki, M., Adaptive force density method for form-finding
problem of tensegrity structures, International Journal of Solids and Structures
2006,43, pp.5658-5673.

16) 川口健一, 不安定構造物の理論とその応用に関する研究, 博士学位論文,


東京大学, 1990

図 14 ケルン・ダンス場の形態解析

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