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経済学史 

4 スミスの「見えざる手」

 
『国富論』におけるスミスの重商主義批判

「重商主義 Mercantilism 」の定義については、前回のスライドを参照のこと 

国家統制により、いびつな経済発展が起こる。
国家の奨励金により、資本と労働が、本来向かうべきである部門から他部門
へ吸引される。

体制を維持するために多額の軍事費・行政費(植民地の抵抗)が必要。
これにより公債と租税の負担が増大。
• 既存の体制を批判するための概念。スミスは、重商主義を批判
するために使った。

• 自然法とは、人間の本性に適応した普遍的法則である。あらゆ
る時代を通じて守られるべき不変の法。実定法(一定の時代・
社会における法・体制)を超越している。
• 実定法は自然法にのっとるべきである。
自然法  natural law   ( 現実の体制は、人間の本性に合致していなければならない)

実定法  positive ① 「商業の体制」 ( 重商主義)・・・公益優先・個人の自由抑圧
 
law ② 「自由と安全の体制」 ( スミスの支持する経済体制)・・・営
業の自由・私的所有権の安全 私益が公益に結びつく体制

→① と②二つの体制のうち、自然法に適応しているのは②である
とスミスは考えた。
( 注意)スミスにとっての自然法の出発点となる「人間の本性」
についての考察が、『道徳感情論』のテーマであった。
スミスの価値論
 富の大きさ (← 『国富論』のテーマ)の尺度は何か?

商品 A  ⇔ 商品 B  が交換されるとき・・・ 2 種類の価値が存在する。

① 使用価値 ( 有用性:効用 )
② 交換価値  ( 購買力 )  

交換が成立するとき、二つの商品の②交換価値が等しくなっている。

スミスは、交換価値の正体は「労働量」だと考えた。
商品の交換は労働の交換でもある ( 分業論を思い出すこと!)          
     ↑

スミスは「労働量」が、 それ自体変化しない、「不変の価値尺度」であると考えた。
⇔ 重商主義政策においては、供給制限による価格のつり上げが起こっていたが、そ
れに対する批判でもある。
水とダイアモンドのパラドックス 
Diamond-Water Paradox
 スミスはなぜ、交換価値と効用 ( 使用価値)と結びつけな
かったのか?

水は人間の生存に必要で、多大な効用をもたらすにもかかわ
らず、市場での交換価値・価格は小さい。それに対してダイ 効用 交換
アモンドは、効用は小さいのに、市場での交換価値は大きい。
従って、スミスは、交換価値と効用は無関係であると結論づ
けた。
価値
                
 スミスを悩ませたこの問題は、
「水とダイアモンドのパラドックス」と呼ばれる。
水 大 小
この問題に答えを示したのが、限界革命 ( ジェヴォンズ革
命)である。
ダイア 小 大
モンド
スミスは社会の段階 ① 「初期未開の社会」

を二つに分けて価値 例えば狩猟民族の社会( = 全員が労働者の社会) 

を論じた 1 匹のビーバー= 2 匹の鹿 の交換

交換比率は、それを獲得するのに必要な労働量によっ
て決まる。

商品の価値は商品の生産に必要な労働量に比例する:
この考え方を投下労働価値論と呼ぶ。
スミスは、地主と資本家の登場により
投下労働価値論があてはまらなくなると考えた
② 資本の蓄積と土地の占有以降

ある商品を、獲得、生産した労働者は、それを独り占めすることはできない。
地主に地代を、資本家には利潤を支払う必要が生じる。
従って、投下労働価値論はあてはまらなくなる。→ これ以降、価格のみを論じる

商品の価格=賃金  +  利潤  +  地代 によって構成  ( 構成価格論 )


 
自然価格 natural price と市場価格 market price

( 注意)「自然価格」は現代経済学にはない、古典派特有の概念。
スミスが『国富論』で使用する「自然」という言葉には、規範と現実の二つの意味があると考えてよい。
① 重商主義政策が撤廃されたときに実現する「あるべき」状態という意味
② 重商主義政策にもかかわらず、実際の市場で部分的に実現されつつある「ありのままの」状態 

スミスのいう「自然価格」・・・「自然率で支払われた場合の 賃金 + 利潤 + 地代」 
「市場価格」は、実際の市場でそのときどきの需給の関係によって成立する価格であるが、長期的には、
「自然価格」に収束する。
(⇔ 古典派特有の説明。「自然価格」は、自由競争価格、現代でいうと長期均衡価格に近い)
スミスの市場価格

• スミスの「市場価格」は、供給量と有効需要の関係によって決まる。

有効需要=自然価格を喜んで支払う人々の需要  ( ケインズの有効需要とは少し違う)
供給:実際に市場にもたらされる数量

( 注意)現在のミクロ経済学のように、需要量は価格の関数というような分析はスミスにはない!

• 重商主義政策のもとでは、有効需要 > 供給 の状態。


その原因:自由競争を制限する法律
    貿易会社の独占。同業組合の排他的特権(同業組合法:特定産業への資本の自由参入阻止)など。
    高価格維持により高利潤を目指している。
国富と「生産的労働者」

 国富の増進方法  ( 分業とともに)人口に占める生産的労働者の割合を上昇することが重要
「生産的労働者」とは? 
 重商主義・・・貿易差額を生み出す労働
 スミス・・・「商品に価値を付加する労働」(ものづくりにかかわる労働)。
 重商主義を批判するために、スミスは一切のサービス労働を「生産的労働者」から除外した(兵士、召使、医者な
ど)。
                           ↑
 「生産的労働者」を維持するのは、「資本」である。
( 注意)この当時の「資本」は現代とは違い、「前払い賃金」という意味である。労働者に賃金先払いで事業を始める
ための資金である。  

 「資本」は資本家の「貯蓄」によって生まれる(浪費はだめ!)。「貯蓄は美徳」がケインズが登場するまで、経済
進歩のための常識となる。
 スミスの主張する「自由と安全の体制」においては、資本家は、より快適で安全な投資先を選択するはずである。
「見えざる手  invisible hand 」の意味 
講義資料4 引用参照 

スミスは『国富論』で「見えざる手」に言及したのは何回?

資本家が、自らの貯蓄によって得た資本を最も安全で有効な形で利用しようとする 

→  意図せざる結果として、社会全体の生産物の価値も最大化し、国富が増大する。 

利己心 →  ( 見えざる手 )  → 公益

「外国産業」よりも「国内産業」

同時にスミスは、 資本投下の自然的順序として、まず農業→次に工業→最後に商業 ( 貿易) と主張している。

重商主義のように、商業→工業→農業 の順序で資本を投下すると経済成長が緩慢になると主張している。
スミス「見えざる手」の歴史的意義

1.自分の利益を追求する「経済人」の倫理的正当化

2.市場メカニズムの自律性の提示 

スミスは、重商主義を否定し、国家統制からの解放を主張した。ただし、重商主義は、歴史的
には、初期産業資本の保護育成の役割を担っており、スミスのいうように悪影響のみ及ぼした
のではないことに注意。 
スミス「見えざる手」の本来の意味は?
「見えざる手」が自由放任のフレーズとして乱用されるようになったのは、
20世紀以降である。

現在よく使われる「見えざる手」の意味とスミス自身の説明をよく比較して
ください!

「神の」見えざる手? 

需要と供給の均衡分析?

グローバリゼーション賛美?  

スミスのいう「利己心」を理解するために、『道徳感情論』の内容を思い出
してください!
 

次回の予告
スミスに比べて、悲観的な
経済社会観を論じた、マル
サスについてみてゆきま
す!

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