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2010 年 5 月 20 日

文責 八木裕也

最近の事例を踏まえたうえで、国際法における一方的措置について論じなさい。

1、 1995 年、カナダの排他的経済水域の外側の公海で漁業をしていたスペイン漁船が
カナダ当局に拿捕されるという事件が起こった。現行の国際法上、すべての国が公海
漁業の権利をもっているとされる(公海自由の原則、国連海洋法条約 87 条)。した
がって、通常カナダの行為は、他国の権利侵害により国家責任を構成することになる。
しかし、公海漁業に関する具体的な法規則は、1995 年時点では定立過程にあり、根拠
となる国際法規が不明確な状態にあった。カナダは、かかる状況を考慮し、公海漁業
がもたらす生物資源の枯渇を一般利益と捉え、かかる利益の保全に関する予防的措置
の実体法化を見据え、結論として自国行為が当該一般利益を保全するための措置であ
ると主張した。結果として、国連公海漁業実施協定(1995 年採択)には公海漁業にお
ける予防的措置に関する規定(6 条)が挿入された。このように、根拠となる国際法
が不存在または不明確な状態で、かつ早急な対応が必要とされる場合において、単一
国家または集団国家などによってとられる域外的な措置のことを「一方的措置
(unilateral measures)」とよぶ。

2、 一方的措置は、法が欠缺(lacunae)していることを前提としてなされる。したがっ
て、一方的であっても国際法によってその法的効果が決められている一方的行為
(unilateral act)とは区別される。伝統的国際法の時代には、国際法が主に欧州で展開
されていたため、文化的・地理的な共通認識の下、法の欠缺はさほど問題にならず、
したがって一方的措置が問題になることも少なかった。しかし、国際関係のあり方が
大きく変動した 20 世紀以降の国際社会では、国際法の整備がその変革に追いつけない
という事態が生じた。その理由は、国際法の存立基盤が国家間の黙示または明示の合
意にあり、より多くの国を拘束しようとすればするほど、法的効力を発動するまでの
手続(国家実行の累積、条約作成会議の実施など)が困難になるからである。一方的
措置は、このような現行の国際法と国際社会の実態の乖離を補完するためになされる
場合が多い。

3、 一方的措置が法の欠缺を補完する機能をもつことは、国際裁判所にとっても有利に
働くことがある。法の欠缺が多くみられる現代国際社会の紛争を、形式的法源のみで
対処することは困難である。そこで国際裁判所は、裁判不能を回避するために一方的
措置の実質的な法源性を認めている。たとえば、ノルウェー漁業事件(1951 年)にお
いて国際司法裁判所は、直線基線方式の一方的な設定について、周辺国家の一貫した
反対がないことを「対抗力(opposability)」を用いて説明し判決を下している。この
ような裁判所の姿勢は、統一的かつ強制的な国内の裁判制度とは異なる性質をもつ国
際法体系が原因とされる。つまり、裁判の開始には原則として当事国間の合意が必要
であり、裁判不能を乱発してしまうと、のちに裁判所の利用が停滞してしまうおそれ
があるのである。

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2010 年 5 月 20 日
文責 八木裕也

4、 以上のことから、一方的措置は、現代国際法における法の欠缺を主な理由として、
国家または国際裁判所にとって不可避的に利用されていることが見てとれる。そのよ
うな現代的状況を考慮して、国連国際法委員会(国連憲章 13 条 1 項 a)は、「国家の
一方的行為」の法典化作業を 1996 年から開始した。しかし、一方的措置の定義の多義
性などを理由に 2006 年に法典化は断念されている。一方的国内措置は、一方で経済
的・軍事的に力をもった大国に濫用されるおそれがあり、他方で国際社会の一般利益
に適合しひいては国際的合意に昇華する可能性をも有している。したがって、大国に
よる濫用を予防的に軽減し、一方で国際社会の利益になりうる行為の法源性を積極的
に認めていくための具体的な要件の整備が必要であろう。(1,517 字)

以上

【参考文献】

小寺彰『パラダイム国際法』(有斐閣、2004 年) 15・16 頁。
杉原高嶺ほか編『【解説】条約集(2008 年度版)』(三省堂、2008 年) 973 頁。
中田達也ほか編『よくわかる国際法』(ミネルヴァ書房、2008 年) 82・83 頁。

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