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大西琢朗 ∗
2015 年 4 月 17 日
1 帰結関係と命題
1.1 帰結関係
論理学は,わたしたちの思考や言語の基底にある普遍的な構造について研究する学問で
ある。その普遍的構造とは,次のような形式の帰結関係 (consequence) である。
A 1 , . . . , An ⊢ B
(仮定 A1 , . . . , An から結論 B が帰結する)
X ⊢ B あるいは X, A ⊢ B
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第 2 回 4 月 17 日
1.2 命題
「仮定」や「結論」といったことばから想像されるとおり,帰結関係はふつう命題
(proposition) から構成される。上の記号のうち A1 , . . . , An および B は命題である。命題
とは,わたしたちが正しいとか間違っているとか考えることが意味をなすような事柄であ
り,何らかの言語の文によって表現される。
例 1. 次の文は命題を表現している:
1. わたしは東京に住んでいる。
2. コンピュータは知性をもつことができる。
3. 2 + 3 > 2 × 3.
`な
例 2. 次の文は命題を表現してい ` い:
`
1. わるいけど洗濯しといてくれる?
2. 景気をよくするためにはどのような政策をとるべきでしょうか?
3. こんにちは。
• それは正しいとか間違っているとか言えるものか?
• それに賛成 (肯定) したり反対 (否定) したりするということが意味をなすか?
1.3 帰結関係と命題の真偽
ある前提からある結論が帰結するとは,逆に帰結しないとは,どういうことだろうか。
次の 2 つを比べてみよう。
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(a) 図形 x は三角形である ⊢ x のすべての辺の長さは等しい
(b) 図形 x は三角形である ⊢ x の内角の和は 180◦ である
前提が真になる場合には結論もかならず真となる
ということである。言い換えれば,前提が真であるのに結論が偽となるようなケース
が存在するなら,その前提と結論のあいだには帰結関係は成り立たない。
注意. 上のような四角で囲まれているのは「定義」である。今後の講義で使われる用語
(概念) の意味を説明している箇所である。復習するときにはまずそこに注目するとよ
い。とはいえ,定義はふつう抽象的な言葉で述べられるので,それだけでは理解しにく
い場合もある。そのときには,上で挙げられているような例を通じて理解を深めよう。
帰結関係の成否と,個々の命題が現実に真か偽かということは別問題である。
現実には図形 x が正三角形であり,それゆえ x のすべての辺の長さが等しかったとして
も,(a) の帰結関係が成り立たないことには変わりない。前提が真なのに結論が偽である
ようなケースを (現実とは異なるものだとしても) 想定できるからである。
また,現実には x が三角形ではなく四角形であり,それゆえ x の内角の和が 360◦ だと
しても,上の例での (b) の帰結関係それ自体は成り立つ。(現実とは異なり) 前提が真であ
るときには,結論は必ず真になるからである。
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第 2 回 4 月 17 日
問題 1. 次の前提と結論のあいだに帰結関係が成り立つかどうか考えてみよう。
1. 大西は未成年である ⊢ 大西はお酒を飲んではいけない
2. a は b の左にある,b は c の左にある ⊢ a は c の左にある
3. 大西はビルの屋上から飛び降りる ⊢ 大西は大怪我をする。
2 結合子
帰結関係の成否は一般に,そこに含まれる命題やことばの意味 (未成年とか左右とか) に
依存する。しかし論理学は,そうした個々の帰結関係にはかかわらず,むしろそれらの組
み合わせ方を問題にする。
2.1 連言
このとき次のことが言えるはずである。
「コーヒーもドーナツも買える」=「A と B の両方が成り立つ」ことを,論理学では
A ∧ B (A かつ B, A そして B, etc.)
X, Y ⊢ A ∧ B.
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いま見たのは,二つの帰結関係 X ⊢ A と Y ⊢ B から,別の新しい帰結関係 X, Y ⊢ A ∧ B
が導出できる,ということである。このことは次のような図であらわすことができる。
X⊢A Y⊢B
X, Y ⊢ A ∧ B
このことを「定義」としてまとめておこう。
A∧B
「A かつ B「A そして B」
と書き, 「A アンド B」などと発音する。また,このときの
A, B を連言肢と呼ぶ。
連言に特徴的な法則は
X⊢A Y⊢B
X, Y ⊢ A ∧ B
である。すなわち,X から A が帰結し,Y から B が帰結するなら,二つの仮定を合
わせた X, Y からは A ∧ B が帰結する。
問題 2. 次の 2 つの帰結関係が成り立っているとする。
• 勉強をしない ⊢ 単位がとれない
• 勉強をしない ⊢ アタマが悪くなる
これらから連言を使って新しい帰結関係を導出し,上の買い物の例とどうちがうか考えて
みよう。
2.2 含意
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第 2 回 4 月 17 日
X, A ⊢ B
⇔ X および A という仮定から B という結論が帰結する
⇔ X という仮定が成り立てば,あとは A が成り立てば B が成り立つ
⇔ X という仮定からは「A から B が帰結する」ということが帰結する
A→B
問題 3. 次の二つは命題のあいだの帰結関係ではないが,それでもある種の帰結関係と見
なすことができる。これらのなかに,含意で表現されるような「階層化された帰結関係」
を見出せるだろうか。
*2 こういうのを一般に「タイプがちがう,合っていない」と言ったりする。帰結関係 ⊢ に「入力」できるの
は命題であって,帰結関係自体を入力してはいけない。入力できるものの種類 (タイプ) がちがうのであ
る。このように,タイプが合っているかどうかを考える,という感覚は論理学をやるときに非常に重要。
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2.3 矛盾と否定
となる。つまり,A と B が両方とも成り立つと仮定すると矛盾が帰結する。ここで先ほ
どの含意の法則を用いると,
が導出されるが,これらは何を意味しているだろうか。
• A ⊢ B → ⊥: A という仮定のもとでは,B は矛盾を含意する。それゆえ B が成
り立つことはない。つまり B ではない。a が b の左にあるなら,a が b の右に
あることはない。
• B ⊢ A → ⊥: B という仮定のもとでは,A は矛盾を含意するので A は成り立た
ない。つまり,B という仮定は,A ではないということを帰結する。
二つの命題が矛盾しているとき,その片方が正しいならもう片方は正しくない。つま
り,一方を仮定すれば他方の否定が帰結する。A → ⊥ は A の否定を意味している。
X, A ⊢ ⊥
X ⊢ ¬A
である。X, A という仮定から矛盾が帰結するなら,X という仮定のもとでは A の否
定が帰結する。
*3 厳密にはここでは「矛盾」というよりは「両立不可能」というほうが正しいが,煩雑になるのでさしあた
りは気にしない。
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第 2 回 4 月 17 日
1. メールを送信して,パソコンの電源を切る
2. パソコンの電源を切って,メールを送信する
2.4 選言
A ⊢ C = バイトにいくとつらい,B ⊢ C = 大学にいくとつらい,とする。この二つか
ら自然といえるのは,バイトにいっても大学にいってもつらい,ということだろう。「…
も…も」という言い方から,連言のようにも見えるがそうではない。「バイトにいっても
大学にいっても」は「どちらでもよいが,少なくともどちらか一方が成り立てば」という
意味である。こうした結合は選言 (disjunction) と言われる。
A∨B
X, A ⊢ C Y, B ⊢ C
X, Y, A ∨ B ⊢ C
である。(仮定 X のもとで) A から C が帰結し,他方 (仮定 Y のもとで) B からも同じ
C が帰結するとき,(仮定 X, Y のもとで) A または B の少なくとも一方が成り立つな
ら,C も成り立つ。
問題 5. 次の文に現れているのは連言だろうか選言だろうか。
1. 食事のあとにはコーヒーま `た
` は紅茶をご用意しております。
`
` 20 日に行う。詳細は後日知らせる。
2. 試験は 10 日か
` B 党もダメだ。おしまいだ。
3. A 党も `