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− 特別寄稿 − 

犬の胆嚢疾患の病態と診断治療

− 内科的・外科的治療 −

小出 和欣

小出動物病院 (〒 714-1211 岡山県小田郡矢掛町東三成 1236-7)

連絡責任者:小出 和欣(小出動物病院)
〒 714-1211 岡山県小田郡矢掛町東三成 1236-7 TEL 0866-83-1323

Pathophysiology, Diagnosis and Treatment of Gallbladder Disease in Dogs

̶ Medical Treatment・Surgical Treatment ̶

Kazuyoshi KOIDE

Koide Animal Hospital, 1236-7 Higashi minari, Yakage-cho, Oda-gun, Okayama 714-1211. Japan

(動物臨床医学 21(1)7-11, 2012)

有し,胆管胆汁移行性にも優れ,なおかつ肝臓代謝に
は じ め に
影響が少ない薬物を選択する必要がある。クロラムフェ
 犬の胆嚢疾患としては,胆嚢炎,胆泥症・胆石症, ニコール,テトラサイクリン,エリスロマイシン,リ
胆嚢粘液嚢腫,胆嚢破裂,および胆嚢腫瘍などがある。 ンコマイシン,ストレプトマイシンおよびスルホンア
胆嚢疾患の多くは,肝疾患,腸疾患,膵臓疾患,さら ミドなどの抗生物質は肝胆道系疾患の治療には基本的
には内分泌性疾患などと関連していることがあり,病 に推奨されない。グラム陰性桿菌に対する強い抗菌力
態はかなり複雑である。また,犬の胆嚢疾患の多くは を有するゲンタマイシンやアミカシンなどのアミノグ
初期には無症状のことが多いのに対し,明らかな臨床 リコシド系の抗生物質は,ペニシリン系やセフェム系
症状を発現している場合には,深刻な病態であること などの薬剤と併用して胆嚢炎の治療に標準的に使用さ
が多く,積極的な治療が必要となる。ここでは代表的 れてきた。しかし,アミノグリコシド系抗生物質は ,
な胆嚢疾患に対する内科的治療と外科的治療について 本来胆汁移行性は極めて不良であり閉塞性黄疸の存在
解説する。 下では腎毒性が増強されることや最近は他に有効で副
作用の少ない抗生物質があるため,肝外胆道疾患にお
いての使用は現在人では推奨されなくなった。犬では
各種胆嚢疾患と基本治療
メトロニダゾール 7.5mg/kg(bid ∼ tid)の投与も有効
・胆嚢炎 であるが,メトロニダゾール 50mg/kg/day の高用量投
 胆嚢炎は,胆石または細菌感染が主な原因であり急 与は重度の神経症状を引き起こすことがあり,注意が
性に認められる場合と慢性経過をとる場合がある。軽 必要である。本薬剤は国内では注射薬が販売されてい
症例では抗生物質の投与を中心に利胆剤や肝庇護剤の ないため内服投与に限られる。
投与ならびに基礎疾患の治療を内科的に行う。肝外胆  なお,肝外胆管閉塞を併発している場合には,抗生
道系疾患で一般に使用される抗生物質は,腸内細菌(主 物質の胆汁移行性が著しく阻害される。このため,感
にグラム陰性桿菌)をカバーした広域スペクトラムを 染のコントロールを内科的に行うためには胆嚢 刺や

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小出和欣

胆嚢ドレナージによる胆汁排泄が必要となる。経皮的 炎の悪化や総胆管閉塞の併発を起こす危険性がある。
に胆嚢 刺や胆嚢ドレナージを行うにあたっては肝臓 またベースに細菌感染がある場合には胆石の存在下で
実質を経由して行う経皮経肝胆嚢 刺吸引法(PTGBA) は感染のコントロールは容易でなく,化膿性胆管肝炎
や経皮経肝胆嚢ドレナージ法(PTGBD)が胆嚢破裂や を併発して長期化すれば肝硬変への進行も懸念される。
胆嚢壁の 刺孔からの胆汁漏出の危険性が少なく手技 このため,筆者は明らかな臨床症状が認められない場
が最も簡便である。筆者はエコーガイド下(ガイドア 合でも,X 線不透過性の胆石が胆嚢内に多数存在する
タッチメント使用)で 21 ∼ 22G スパイナル針や 20G 場合や,持続的な肝酵素異常や白血球数の増加など胆
静脈留置針またはエラスター針などを用いての経皮経 嚢炎や慢性胆管肝炎が疑われ,かつ内科的治療に対す
肝的胆嚢吸引 刺法で対応している。 る反応が悪い場合には,肝生検も兼ねて胆嚢切除術に
 重症例や難治性の胆嚢炎の場合には,外科的な胆嚢 よる胆石除去を提案することが多い。
切除術の適応となる。特に胆石や胆泥あるいは粘液物  胆石症の外科的治療による術後生存率に関しては無
質による肝外胆管閉塞の併発や,気腫性あるいは壊死 症状のものから肝外胆管閉塞や感染性胆汁性腹膜炎を
性胆嚢炎(壊疽性胆嚢炎)が認められる動物では,胆 合併したものまで病態がさまざまであるため,一様に
嚢 孔や破裂の危険性が極めて高く,速やかな手術が 比較できないが,Kirpensteijn(1993)らの報告で,胆
必要である。なお,胆嚢炎の症例では後述の胆嚢粘液 嚢切除術を受けた犬の生存率は 86%で胆嚢切開術の
嚢腫や胆石症を合併しているものや,肝臓,膵臓ある 50%および総胆管切開術を併用した場合の 33%に比べ
いは腸の疾患(主に炎症性疾患)ならびに内分泌性疾 て良好な結果が得られたとしている。
患(特に副腎皮質機能亢進症)などの合併症や基礎疾
患を有する症例も多く,これらの点についても考慮す ・胆嚢粘液嚢腫
る必要がある。  胆嚢粘液嚢腫は中年以上の犬において時に認められ,
胆嚢内に糖タンパクを主成分とする粘液様物質(ムチ
・胆泥症・胆石症 ン)が貯留して胆嚢拡張を認める疾患である。詳細な
 胆泥は臨床的に健康と思われる犬にも認められるこ 原因は明確になっていないが,何らかの理由で起こっ
とがあるが,肝疾患や胆嚢炎,あるいは高脂血症なら た胆嚢管の閉塞により胆汁の再吸収と粘液の過剰生産
びに内分泌性疾患などに併発してしばしば認められる。 が起こるために発症すると考えられている。
病的と判断される場合には,必要に応じて基礎疾患に  本症は初期段階では通常無症状であるが,病態が進
対する内科的治療で様子をみることが多い。 行すると胆嚢炎や胆嚢壊死を合併して 50 ∼ 60%の割
 胆石は,形成される部位によって肝内胆石,胆管胆石, 合で胆嚢破裂を起こす。いずれにしてもすでに臨床症
および胆嚢胆石に分類され,犬では胆嚢胆石が最も多 状を発現している犬では,深刻な合併症を併発してい
い。胆嚢胆石の多くは,明らかな臨床症状を伴わない ることが予想される。
無症状胆石である。臨床症状の発現は,胆管閉塞の合  本症は,内科的治療に一時的に反応する場合もある
併や胆嚢炎の悪化に起因することが多く,発熱,嘔吐, が,基本的には外科的胆嚢切除が第 1 選択と考えられ
食欲不振,腹痛および黄疸などが認められる。 る。肝外胆管閉塞による閉塞性黄疸を併発している場
 臨床症状を伴う胆石症では,外科的治療の適応であ 合には総胆管の洗浄処置と開通性の確認も必要である。
ることが多く,特に総胆管閉塞を併発した症例では, 胆嚢粘液嚢腫の外科的治療における予後については,
速やかに外科的な胆管閉塞の解除が必要となる。胆嚢 術後死亡率が 20 ∼ 30%前後とかなり高いが,周術期
内に存在する胆石除去は,胆嚢切開術により摘出する を乗り越えた胆嚢粘液嚢腫の予後は極めて良好である。
ことも可能であるが,胆嚢炎や結石の再発予防,さら 一般に黄疸や腹膜炎さらには胆嚢破裂を合併したもの
に術後死亡率の比較から,胆嚢切除術が推奨されてい では術後の死亡率が高いため,早期診断と手術時期の
る。胆石症の動物では,後述の胆嚢炎との関連が高く, 見極めが重要である。
基礎疾患や併発症として副腎皮質機能亢進症や慢性胆
管肝炎,さらに長期経過を有するもので肝硬変や肝不 ・肝外胆管閉塞(EHBO)
全を伴うこともあるため,診断や治療時にはこれらの  肝外胆管閉塞は,必ずしも胆嚢疾患を伴うとは限ら
点についても留意する必要がある。 ないが,胆嚢の胆泥・胆石症や胆嚢粘液嚢腫に併発す
 なお,無症状胆石や臨床症状の軽度である症例に対 るものがある。また,その他の原因による場合でも閉
する外科的治療は,肝外胆道系手術の合併症による死 塞性に胆汁排泄障害が起こると,胆道系の感染症が起
亡リスクが高いこともあり,消極的な見解が多い。し こりやすくなり,肝外胆管閉塞の犬では胆嚢炎や胆管
かし,胆石がカルシウム塩の場合には,コレステロー 肝炎の合併が高率に認められる。
ル結石と異なり溶解療法は無効であり,将来的に胆嚢  腸炎や膵炎などの炎症性疾患に併発して認められる

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犬の胆嚢疾患の病態と診断治療  − 内科的・外科的治療

不完全肝外胆管閉塞症の場合には,しばしば一過性で 胆嚢 孔や破裂により,胆汁が腹腔内に漏出すれば胆
内科的治療により改善が期待できることも多く,特に 汁性腹膜炎が起こり,胆汁内に細菌感染がある場合に
急性膵炎などに起因する場合には,外科的治療よりも は敗血症やさらにはショックを起こす危険性が高く,
内科的治療を優先すべきである。肝外胆管閉塞の内科 適切な術前治療と早急な外科的処置が必要となる。健
的治療あるいは術前治療において,胆嚢の減圧ならび 康な胆嚢が破裂した場合には,直後であれば破裂部を
に閉塞性黄疸の緩和が必要な場合には前述した経皮的 縫合閉鎖することも可能であるが,通常は胆嚢切除術
な胆嚢 刺や胆嚢ドレナージが有効である。 が適応される。胆嚢炎や胆管閉塞がベースに存在する
 内科的治療により改善が期待できない場合は,外科 場合には,胆嚢壁は脆弱化し部分的に壊死しているこ
的治療が必要となる。適応される術式や治療の目標は, とが多く,胆嚢摘出術の適応となり,この際,総胆管
胆管閉塞の原因や病態によって異なるが,肝外胆管の 開通性の確認も重要である。
閉塞や狭窄の原因が取り除ける場合にはこれを実施す
る。胆石や胆泥あるいは粘液物質による総胆管の内部
胆嚢の外科的治療
閉塞の場合には,胆嚢側からかき出すか,胆嚢管を経
由してカテーテルを挿入し,管腔内を水圧をかけて洗 ・術前管理と麻酔
浄する方法が最も簡便である。胆嚢管側から閉塞が解  脱水あるいは電解質や酸・塩基平衡の不均衡を呈し
除できない場合や後述の胆管ステント留置時には十二 ている場合には,術前に適切な電解質の輸液を行い是
指腸切開によるアプローチ法が必要となる。胆管切開 正しておく必要がある。また,術前からペニシリン系
術によるアプローチは,4 ∼ 5mm 以上に胆管が拡張し やセフェム系などの広域スペクトルの抗生物質を投与
ている場合にのみ適応可能とされる。 する。腹膜炎や膵炎などの合併例や手術侵襲により
 膵臓や胃腸間あるいは胆管周囲脂肪の炎症性疾患な DIC 併発の危険性がある場合には,その予防も重要で
どが原因で一過性の胆管狭窄と判断される場合には一 ある。ヘパリンは手術時の出血を助長する危険がある
時的な胆管ステント留置術の適応となる。解除困難な ため,術前使用は避けた方が無難である。ダルテパリ
外部圧迫性胆道狭窄や内部閉塞に対しては,胆道変更 ンナトリウム
(75 ∼ 120U/kg/day)
やメシル酸ガベキサー
術が必要となる。 ト(FOY,1 ∼ 2mg/kg/hr)やメシル酸ナファモスタッ
 胆道変更術は,総胆管に浸潤した腫瘍性疾患や,総 ト(フサン,0.1 ∼ 0.2mg/kg/hr)は術前からの投与が
胆管線維症,総胆管を巻き込む膵臓や周囲脂肪の線維 可能である。ビタミン K1 または K2 の非経口的投与は,
化などによる肝外胆管閉塞や整復不能な総胆管損傷な 飢餓や吸収障害が原因のビタミン K 欠乏による止血障
どの際に新たな胆汁流出路を永久的に確保する必要が 害には有効である。術前に貧血や低蛋白血症が認めら
ある場合に適応される。胆道変更術には総胆管十二指 れる場合や術中の出血が予想される場合には,術前輸
腸吻合と胆嚢または拡張した胆管を十二指腸あるいは 血や準備が必要である。
空腸に吻合する方法がある。人では,総胆管十二指腸  閉塞性黄疸が重篤な場合には,必要により術前に前
吻合術と胆管空腸吻合術が推奨されており,胆嚢と小 述の胆嚢 刺などにより胆嚢の減圧ならびに閉塞性黄
腸の吻合術は失敗率(23%)が高いことからあまり支 疸の緩和を行うこともある。
持されていない。しかし,小動物においては総胆管が 肝外胆道系疾患時の麻酔については,その病態や合併
細いことから総胆管十二指腸吻合術は実用的ではない 症の有無にもよるが,肝臓疾患時の麻酔に準ずること
場合が多く,胆嚢が利用できない場合に限られる。現 が多い。筆者は,前投薬には副交感神経遮断薬してア
在のところ小動物における胆道変更術としては粘膜並 トロピンまたはグリコピロレート,トランキライザー
置法による胆嚢十二指腸吻合術が最も一般的に実施さ としてミダゾラム,そして鎮痛薬としてブトルファノー
れている。なお,十二指腸への吻合が炎症や腫瘍性疾 ル,モルヒネまたはフェンタニルを投与し,導入には
患で困難な場合には,胆嚢空腸吻合術を選択する。 プロポフォールの静脈内投与を用いることが多い。麻
酔の維持は,イソフルランと酸素の吸入により行い,
・胆嚢破裂 ベクロニウムまたはパンクロニウム(時にサクシニル
 胆嚢破裂は外傷性の場合と肝外胆道系疾患に続発し コリン)の間歇的静脈内投与下で調節呼吸(IPPV)と
て認められ,胆汁性腹膜炎の一般的な原因となる。前 している。なお,モルヒネのようなμ(ミュー)受容
述の壊死性胆嚢炎と胆嚢粘液嚢腫は犬における胆嚢破 体作動薬は,胆管平滑筋の緊張を増加させ,閉塞性胆
裂の最も多い原因となる。慢性の胆嚢疾患に続発した 管疾患時には痛みを増強することが懸念されるため,
胆嚢 孔や破裂は,しばしば胆嚢表面に癒着した大網 閉塞性胆管疾患時における前投薬としての鎮痛薬には
や消化管などにより塞がれており,注意深い超音波検 ブトルファノールが推奨されている。
査や試験開腹によりはじめて確認されることも多い。

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・胆嚢外科の術式  肝外胆道の洗浄ならびに開通を確認し問題がなけれ
 胆嚢の外科的治療のほとんどは胆嚢切除が適応され ば,胆嚢管と胆嚢動脈をまとめて 2 0 ∼ 4 0 のナイロン
る。肝外胆管閉塞を併発している場合には胆管ステン 糸などの非吸収糸を用いて二重結紮して胆嚢を切除す
ト留置や胆嚢十二指腸吻合術が適応されることがある るが,結紮糸の滑脱が心配な場合には針付き縫合糸で
が,ここでは割愛する。 貫通結紮する。胆嚢を切除したら,肝生検,必要によ
胆嚢切除術は,通常は腹部正中切開アプローチのみで り腸生検や膵生検を行い,摘出した胆嚢も含めて病理
可能である。開腹時に肝鎌状間膜に連なる腹部正中の 組織学的検査を行う。細菌培養検査には胆汁や胆嚢内
脂肪塊は電気メス等を用いてすべて切除する。腹膜炎 容物あるいは胆嚢壁の一部を用いるが胆汁が最も検査
などにより腹水貯留が認められる場合には無菌的にサ 感度は高い。
ンプリングして細菌学的検査を行う。  腹腔内における目的とする処置をすべて完了したら,
 胆嚢と肝臓付着部(胆嚢窩)からの剥離操作は,犬 腹腔内を十分に洗浄して常法にて閉腹する。低アルブ
では通常胆嚢底側からアプローチする。まずメッツェ ミン血症や基礎疾患として副腎皮質機能亢進症などの
ンバウム鋏または電気メスなどを用いて胆嚢と肝臓の 合併がある場合には癒合が遅れる可能性があり,また
結合部の臓側腹膜を切開し,胆嚢を牽引しながら鈍性 術後に腹水貯留が認められる場合もあるので,これら
に肝臓から剥離する。この際,教科書的には剥離鉗子 の点も考慮して腹壁の縫合材料を選択する必要がある。
やメッツェンバウム鋏が用いられているが,肝臓が脆 腹水貯留や癒合不全の心配がある場合には,非吸収性
弱化している場合には滅菌綿棒を用いて剥離を行うと モノフィラメント縫合糸または吸収糸であれば抗張力
出血が少ない。また,フックタイプや長刀タイプの超 の保持期間が長い MAXSON や PDS Ⅱを選択すること
音波凝固切開装置や超音波外科用吸引装置を利用する が多い。なお,重度の細菌性あるいは胆汁性腹膜炎な
ことができれば,少ない出血で短時間かつ簡単に胆嚢 どを合併している場合には,大網切除や必要により腹
を肝臓から剥離できる。胆嚢管の剥離操作時には胆嚢 腔ドレナージを行う。
動脈からの出血に注意するとともに肝管や肝葉への血
管を誤って切断しないように細心の注意が必要である。
術後管理と合併症とその対策
なお,胆嚢が著しく拡張し,胆嚢剥離操作が行い難い
場合には必要に応じて胆嚢 刺や切開により内容物を  肝外胆道系疾患の外科的治療直後は,安静を保ち,
除去して胆嚢サイズを減少させておく。 しばらくは鎮痛処置を行うとともに経口的な飲水や食
 胆嚢窩からの出血は指やガーゼによる圧迫で通常は 事が可能となるまでは静脈内持続点滴による輸液療法
対処できるが,止血が不十分であったり,手間取る場 を継続する。輸液療法は術前治療に準ずるが,特に血
合には,電気手術装置を利用する。この際,スプレー 糖値,電解質および酸塩基平衡状態をモニターしなが
凝固やアルゴンプラズマ凝固などの非接触の熱凝固が ら異常があれば補正する必要がある。また,高齢動物
利用しやすい。フィブリン糊やフィブリンパッチは肝 や全身状態が悪い症例では心機能や腎機能が低下して
臓の止血に極めて有効であるが高価である。ゼラチン いることも多いので,尿量をモニターしながら輸液量
スポンジなどの使用は感染の危険性から推奨できない。 や輸液速度を調節して,肺水腫や術後性急性腎不全な
なお,出血だけでなく胆汁の漏出にも注意が必要であ どを合併しないように注意する。周術期の鎮痛処置に
る。 ブトルファノールやブプレノルフィンも使用すること
 胆嚢切除時には,基本的に肝外胆管洗浄と開通性の があるが,より強力な仏痛管理が必要な場合にはモル
確認を行う。これには,いくつかの方法があり,いず ヒネの間欠的投与またはフェンタニルの持続投与の方
れもカテーテルを用いて行うが,この際に胆嚢切開を がより効果的である。術後の膵炎は軽度なものまで含
併用して胆嚢内容物を除去した上で胆嚢切開部よりカ めるとかなり高率に認められ,また DIC の併発にも注
テーテルを挿入する方法,胆嚢内容物を除去せずに胆 意が必要であり,筆者は DIC の予防も兼ねて術前から
嚢管あるいは胆嚢経由でカテーテルを挿入する方法, 術後数日間はメシル酸ナファモスタットの投与をルー
および十二指腸切開を併用して十二指腸乳頭部から逆 チン的に行っている。DIC の治療や DIC を併発する危
行性にカテーテルを挿入する方法がある。胆嚢切開を 険が高いと思われる症例では,前述のメシル酸ナファ
行わずにカテーテルを挿入する方法は,腹腔内への胆 モスタットと併用してヘパリンナトリウムまたはダル
汁流出や細菌汚染の危険が少なく,手術時間も胆嚢や テパリンナトリウムを静脈内持続点滴にて投与してい
十二指腸を切開する方法よりも短い利点がある。総胆 る。術後の抗生物質投与は必須であり,適切な薬剤を
管の洗浄や開通性確認は挿入したカテーテルを通じて 最低 7 ∼ 14 日間は投与する。手術時にサンプリングし
洗浄液(通常は生理食塩水またはリンゲル液)を注入 た材料による細菌培養および感受性試験の結果によっ
して十二指腸への排出状態をみる。 て抗生物質の見直しが必要となることも多い。抗生物

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犬の胆嚢疾患の病態と診断治療  − 内科的・外科的治療

質の投与は入院中は非経口的に投与し,退院後は利胆 低下症や副腎皮質機能亢進症,慢性腸炎あるいは慢性
剤やメトロニダゾール(7.5mg/kg,bid)とともに内服 肝疾患(慢性肝炎,慢性胆管肝炎)などをもつ動物や
投与に切り替える。術後の食事管理は,胃腸管の切開 肝酵素異常が改善しない症例では長期あるいは終生に
を行っている場合には術後 1 ∼ 3 日間は絶食とし,給 わたり治療が必要となることがある。肝酵素異常が術
開始時は低脂肪食の流動食とする。術後の絶食は膵 後も後遺する症例では定期的に CBC や血液化学検査を
炎合併時にはさらに長くなることがある。 行いながら,食事管理も含め内科的支持療法を継続す
 長期的な術後管理としては,基礎疾患に甲状腺機能 る必要がある。

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