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5–13, 2020
DOI: 10.5630/jans.40.5
原 著
熟練産業看護職が産業看護活動において重視する
目的と活動の構造
Expert Occupational Health Nurse Actions Taken to Understand Purposes
Important to Them in Their Practice
キーワード:産業看護職,産業看護活動,重視する目的,労働者,会社組織
Key words:occupational health nurses, occupational health nursing practice, important purposes, workers, corporate
organization
Abstract
Purpose: The purpose of the study is to uncover expert occupational health nurse actions taken
to understand purposes important to them in occupational health nursing practice.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with 10 expert occupational health
nurses. The results were analyzed using the qualitative synthesis method.
Results: The following seven elements were extracted: “Realize living and working as oneself
while restricting within work and health”, “Stay engaged so that one is physically and mentally
healthy and approaches retirement positively”, “Offer suggestions for activities at an appropriate
time by assessing the state of affairs within the corporate organization and identifying key
personnel”, “Develop human resources and accumulate phased activities toward self-sustaining
occupational health activities by the corporate organization ” , “ Coordinate opinions among
employees/managers and integrate support activities for employees with those for the employer”,
“Build relationships of trust by staying engaged as a professional from an impartial standpoint”,
and “Continue learning from experience and gain expert knowledge”.
Conclusion: Activities of occupational health nurses were conducted by building relationships of
trust and making preformed study so that workers can live and work for themselves and the
corporate organization can be self-sustaining and promoting occupational health activities.
要 旨
目的:熟練産業看護職が産業看護活動において重視する目的と活動の構造を明らかにする.
方法:熟練産業看護職 10 名に半構造化面接を行い,質的統合法を用いて分析した.
結果:労働者への〈健康と労働からの制約の中でその人らしく働くことや生きることの実現〉 〈退職後
を見据えながらの心身共に健康に過ごせるための関わりの積み重ね〉 〈会社組織の状況やキーパーソンを
受付日:2019 年 7 月 26 日 受理日:2020 年 1 月 27 日
1) 四日市看護医療大学看護学部 Faculty of Nursing, Yokkaichi Nursing and Medical Care University 2) 日本たばこ産業株式会社 Japan
Tobacco Incorporated 3) 株式会社東芝 Toshiba Corporation 4) 現:静岡県立大学看護学部 Present address: School of Nursing, University
of Shizuoka
* E-mail: hatanaka@u-shizuoka-ken.ac.jp
© 2020 Japan Academy of Nursing Science 5 J. Jpn. Acad. Nurs. Sci., Vol. 40, 2020
見極め,タイミングを 見計らっての 提案と活動の提供〉
〈人財育成と段階的な活動の積み上げによる会社
組織の産業保健の自立の実現〉 〈労働者・管理者間等の意見調整と労働者への支援活動と職場への支援活
動の連結〉〈中立の立場から専門職として関わり続けることによる信頼関係づくり〉 〈専門性を高めるた
めの体験学習と専門知識の習得の継続〉の 7 つが抽出された.
結論:対象者との関係性を基盤として会社組織の産業保健の推進と自立および労働者の健康と生き方
を支援していた.
て事業場や産業医からの理解不足を挙げており,他職
Ⅰ.緒 言
種からの産業看護活動への理解は十分には得られてお
近年,我が国では一億総活躍時代が謳われ労働人口 らず,産業看護職は産業保健チームの一員としての 役
が増加し(総務省統計局,2018),定年延長により労働 割を発揮できない状況がある.産業看護職の役割は,
期間は長期化している.国民の多くが労働者として人 メンタルヘルス 対策(厚生労働省,2006a)や過重労働
生の大半を占める労働生活を送るその期間にどのよう 対策(久保,2017)等の個別の活動に関しては示され
な生活習慣を獲得し,どのような健康レベルに属する ているが,それらは産業医や衛生管理者の役割(厚生
のかは,退職後の健康状態や人生の質にも影響する. 労働省,2006b:浜口,2019:椎野,2019)と重複して
そのため,労働者の健康の保持増進の推進は今後ます おり,産業看護職独自の役割であると他職種は認知し
ます重要となり,労働者の健康を支援する産業保健活 えない.加えて,教育背景の文化の異なる専門職がお
動の必要性もさらに増大すると考えられる. 互いの専門性を理解することは難しいとされ(Asakawa
産業保健活動は労働安全衛生法に則り,事業者の責 et al., 2017),産業保健チームの他職種から理解を得る
任の下,事業場内に安全衛生管理体制が整備され,産 ことは容易ではない.滝下ら(2011)が看護の専門性
業医,保健師・看護師(以下,産業看護職),衛生管理 は見えにくく,看護の知識と技術を意図的に語らない
者等が産業保健チームとなり展開している.そのチー 限り他者には理解してもらえないというように ,産業
ム内においては,それぞれの専門性に基づく役割を遂 看護の専門性も積極的に伝えなければ他職種からの理
行しながら連携することになる.しかしながら,産業 解は得られない.それを容易にするには,産業看護活
医や衛生管理者の職務は労働安全衛生法により定めら 動の外見上の行動からは見えにくい産業看護職が活動
れているものの,産業看護職に関しては労働安全衛生 する上で重視する目的やそれを達成するための活動を
法が制定された翌年に労働衛生課長名内翰󠄀「衛生管理 示して,他職種との意思疎通を図って産業看護活動へ
者としての 保健婦の活用について」
(中央労働災害防止 の理解を促進したり,それらがチーム活動の中でどの
協会,1973)が各労働基準監督署宛てに通達されたこ ような役割を果たしているのかを示すなどの工夫が必
とに止まり,現在も配置基準はなく,保健師の職務と 要である.それにより,チームの一員としての 産業看
して健康診断後の保健指導等が示されているのみであ 護職の必要性が認識され,専門性に基づく役割分担が
る.それにより,産業保健活動における産業看護職の 可能となれば,専門職者がそれぞれの役割を遂行でき,
職務は事業場の期待により異なり一律ではなく(磯野, 産業保健活動が推進されることを期待できる.
2003),産業保健チーム内での役割も同一ではない.し
かし,河野(2019)が「産業看護職の役割は産業保健
Ⅱ.研 究 目 的
チームの一員として看護専門職の立場で,事業者が労
働者の協力を得て自主的に行う産業保健活動を支援す 本研究の目的は,産業保健チームの一員としての 産
ることである」というように,全ての産業保健活動に 業看護職が果たしている役割に関する示唆を得るため
おいて,産業看護職が専門性を発揮して産業医や衛生 に,熟練産業看護職が産業看護活動において重視する
管理者等と産業保健チームとして支援するという役割 目的と活動の構造を明らかにすることとした.
を果たすことが,事業場の組織・職場集団・労働者個
人への多面的な支援の提供を可能にし,産業保健の活
Ⅲ.用語の定義
動を推進する力となり得る.
錦戸・京谷(2004)は,産業看護活動上の困難とし 熟練産業看護職:日本産業衛生学会産業看護部会に
日本看護科学会誌 40 巻 (2020) 6
熟練産業看護職が産業看護活動において重視する目的と活動の構造
対象 性別 年代 産業看護経験年数 職種 業種 事業場規模(従業員数)
A 女性 40 歳代 24 年 保健師 情報通信 5000 人以上
B 女性 50 歳代 32 年 保健師 情報通信 5000 人以上
C 女性 50 歳代 28 年 保健師 製造業 5000 人以上
D 女性 40 歳代 25 年 保健師 情報通信 5000 人以上
E 女性 40 歳代 25 年 保健師 製造業 1000~5000 人未満
F 女性 60 歳代 31 年 保健師 医療・福祉 50 人未満
G 女性 40 歳代 25 年 保健師 製造業 1000~5000 人未満
H 女性 40 歳代 26 年 保健師 医療・福祉 50~300 人未満
I 女性 50 歳代 26 年 保健師 公務 50~300 人未満
J 女性 50 歳代 26 年 保健師 製造業 300~1000 人未満
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熟練産業看護職が産業看護活動において重視する目的と活動の構造
図 1 熟練産業看護職が産業看護活動において重視する目的と活動の構造
目的と活動は,対象者との関係構築と看護専門職とし その人がどうしたいのかを実現できるようにその人の
ての研鑽を基盤として,労働者が健康にその人らしく 現状や職場の状況に関する情報収集をして 整理して ,
生きることや会社組織が自立して産業保健を推進でき 保健師にできることを常に考える(D)」と労働者の状
るようになることを目的とした活動であるという論理 況と職場の状況を判断しながら,健康問題をもちなが
構造をもつといえよう. らもその人らしく働ける支援を考えていた.そして「最
以下,各シンボルマークを最終ラベル(『 』で示 終的な生き方を支援するには,仕事の悩み,家族の問
す)と総合分析の元ラベル(「 」で示す)を用いて説 題,本人の思いも聴いて,その人自身が決められるよ
明する.なお,( )内の記号は対象者を表す. うにサポートする(F)」「その人の望む生きていくこ
とや働いていくことが叶えられるように本人と一緒に
1)生き方支援:健康と労働からの制約の中でその 迷いながらも伴にいく(B)」と労働者の自己決定を助
人らしく働くことや生きることの実現 け,生き方までも支援していた.
これは『病気や仕事,家族や人生,その人の思い,
どうしたいのかを話してもらい,健康レベルと職場の状 2)健康保持支援:退職後を見据えながらの心身共
況を合わせ考えて,その中で実現できる働き方や生き に健康に過ごせるための関わりの積み重ね
方をその人自身が決められるようにサポートする』と これは『労働者が困らずに気持ちよく労働生活を送
いう最終ラベルから抽出された(A,B,D,F,G,I)
. れ,退職後も元気に地域に戻れるように,職場との
看護職は「その人らしく働くことを支援するには, ギャップを受け止めていく過程や生活習慣を変えられ
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熟練産業看護職が産業看護活動において重視する目的と活動の構造
どちらでも信頼関係は築けないので中立の立場でいる ていく(鑪,1984)とされ,看護職が「本人が目指す
ことを心がけている(E)」「産業保健の現場は連続性 働き方と職場が許す働き方とのギャップや,本人が受
があるので,対象者とは面接がうまくいかなくても無 け入れられないことを受け止めていけるように関わっ
理はせず,関係性を重視する(F)」「本人が困ったと ていく」というような,労働者の働き方と会社組織の
きに声をかけてもらえるように普段から声掛けをして 働かせ方とが一致しない事象は,労働者の会社組織の
産業看護職としての 関係性をつくる(I)」と信頼関係 中での存在価値を脅かし,アイデンティティまでも 揺
づくりを重視し,それにより「関係性を築くと,そこ らがせる.看護職が「その人の望む,生きていくこと
から会社の実態や状況等の情報が入ったり,こちらが や働いていくことが叶えられるように本人と一緒に迷
伝えたことに対するその後の動きも違う(D)」と認識 いながらも伴にいく」というように,生きることまで
していた. 支援するのは労働者のアイデンティティに 労働が関与
していることを 理解しているためと考えられた.
7)主体的な自己研鑽:専門性を高めるための体験 また,看護職は退職後を見据えて健康保持すること
学習と専門知識の習得の継続 を目的として,労働者への支援を積み重ねていた.労
これは『自分の看護を振り返り次につなげる経験, 働期間中の健康保持は産業保健の目標であるが,看護
本・勉強会・大学院による知識と会社の内外の人たち 職が「保健師活動の根っことなる目標は社員が元気に
との関わりからの学びを通して,産業看護の専門職と 退職して地域に戻ること」というように,その期間を
しての 期待に応えられるように成長し続ける』という 超えて労働者の健康保持を目指すのは,労働者という
最終ラベルから抽出された(A,B,C,D,E,F,G, 捉え方のみならず一人の人として捉え,健康はその人
H,I,J)
. らしく生きるための資源であることを認識しているた
看護職は「自分のできていないところや弱いところ めと考えられた.
を認め,困った事例では本を読んだり,勉強会にでた
りして ,対応を振り返って新たな関わりをする(A)」 2.会社組織への働きかけ
と自身を振り返って経験から学んだり,
「保健師や産業 看護職は,産業保健の推進と自立を目的として,
〈会
医や作業環境測定士など産業保健チームの人たちに聞 社組織の状況やキーパーソンを 見極め,タイミングを
いたり,外部の方も力になってくれ ,いろんな人の力 見計らっての 提案と活動の提供〉と〈産業保健への自
を借りられた(H)」と多職種からも学んでいた.そし 立に向けた人財育成と段階的な活動の積み上げ〉とい
て「会社の成長と共に会社のニーズを 満たせるように う支援を行っていた.産業保健は会社組織が主体的に
保健師も成長して,会社が目指しているものを達成し 行うものであり,労働安全衛生体制が整備され効果的
て会社にとって有益な存在になる(J)」と考えていた. に機能することで,労働者の健康と安全が確保される.
しかし,営利団体である会社組織の直接利益に結びつ
かない産業保健の優先順位は下がり,担当者に十分な
Ⅵ.考 察
教育がなされない現状がある(福田ら,2017).そのた
熟練産業看護職が産業看護活動を行う上で重視する め,看護職が「職場の担当者に合わせて支援方法を変
目的として抽出された理由を労働者個人,会社組織,労 える」
「事業所が主体となって自立して産業保健を行え
働者と管理者の対象ごとに考察し,
それらが産業保健の るように教育していく」というように,担当者が役割
目的達成に向けてどのように機能しているのかを検討 を果たせるように教育的に関わったり不足している部
することで,産業保健チームの一員としての 産業看護 分を補ったりして,自立して産業保健を行えるように
職が果たしている役割に関する示唆を得ることとした. 支援していると考えられた.
しかし,本来は会社組織の担当者は産業看護職が連
1.労働者個人への関わり 携する相手である.その相手を育成するのは,看護職
看護職は,その人らしく働くことや生きることの実 が「経営者が気分を害さずに受け入れてもらえる 方法
現を目的として,健康と労働の制約がある中で支援し を探す」というように,会社組織が受け入れなければ
ていた.労働者は会社組織の共有する価値体系を自分 産業保健活動自体を行なえないこと,推進できないこ
の中に受け入れて自己のアイデンティティを 再構成し とを理解しているからであろう .
日本看護科学会誌 40 巻 (2020) 12
熟練産業看護職が産業看護活動において重視する目的と活動の構造