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1野球投手に生じた上腕骨内側柱疲労骨折に対し手術加療を行った 1 例

2Surgical treatment of humeral medial column stress fracture in a baseball


3pitcher: A case report
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5Abstract
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7Introduction
8上肢に生じる疲労骨折は、投てき競技に発生しやすい。しかし、全疲労骨折のうち上肢疲
9労骨折の発生率は、Orava ら 1)の報告では 2.8%、Wilmoth ら 2)の報告では 6.7%と稀な骨折
10に位置付けられている。野球における上肢疲労骨折の代表的な疾患には、広義なものを含
11めると little leaguer’s shoulder、上腕骨骨幹部骨折や肘頭疲労骨折が挙げられる。上
12腕骨内側柱疲労骨折は発生自体がそもそも稀であるが故、その報告は非常に限定的で、症
13例の蓄積に至っていないのが現状である。2013 年に Chang ら 3)は、16 歳の投手における上
14腕骨内側柱疲労骨折に対し保存治療をおこなった1例を報告している。過去、本骨折に対
15し手術治療をおこなった報告は渉猟できず、当然ながら手術に関する標準的な指針や手技
16は確立されていない。我々は、投手に生じた非常に稀な上腕骨内側柱疲労骨折に対し手術
17治療を行った症例を経験した。今後、本骨折の症例報告が蓄積されていき、治療方針の確
18立へと繋げていくためにも手術治療を行った症例としてここに報告する。
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20Case
21特に既往歴のない 19 歳の男性、左投げの大学生投手である。高校時代にも特に肩や肘の傷
22害は認めなかった。手術の約 6 か月前から投球後に左肘関節に重怠さを感じていた。チー
23ムのトレーニングコーチから胸郭出口症候群を疑われ、症状に合わせてノースロー期間を
24設けるなど調整を行っていた。しかし、手術の 2 か月前より投球後に左肘から前腕にかけ
25て重怠さが改善しないため当院へ紹介受診となった。初診時の身体所見は、肘関節可動域
26は正常であり、肘内側側副靭帯の実質部や付着部、内側上顆に圧痛は認めなかったが、左
27尺骨神経領域に違和感を有している状態であった。左肩関節は、2nd 外旋が 100 度、内旋が
2850 度で、健側よりも 10 度程度低下していた。肘関節単純レントゲン像で、左上腕骨内側
29柱の骨隆起を認め、CT 像にて疲労骨折を認めた。
30CT、MRI
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32Surgical treatment
33全身麻酔後に両側肘関節内に造影剤を注射し、外反ストレスで肘内側不安定性を評価した。
34手術体位は全身麻酔下に右側臥位をとり、左上肢を上肢手台へ乗せた。(図 A)後内側ア
35プローチにて展開をおこない、尺骨神経は後方の栄養血管を焼灼し、神経テープをかけて
36前方へレトラクトした。三頭筋内側頭の内側縁を剥離し、三頭筋を後方へ挙上させ上腕骨

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37内側柱を露出させた。疲労骨折部は肘頭窩内側から内側柱にかけて横走する骨隆起帯とし
38て認めた。(図 B) 内側柱背側の骨折部を中心に 10mm×25mm の骨切りをおこなうと(図
39C)、髄腔内は海綿骨を認めず非常に硬い皮質骨に置換されていた。(図 D)そのため、皮
40質化した内側柱の髄腔を 2.8mm 径 cortical screw 用ドリルを用いて骨幹部方向へ正常な海
41綿骨と開通するまで掘削し、遠位骨幹端から新鮮な出血が流入することを確認した。(図
42E)次に、左腸骨より移植骨を採骨し骨切り部に移植した。(図 F)肘関節を完全伸展する
43と、肘頭先端は疲労骨折部に衝突することが確認された。 (図 G、G’)移植骨上に
44Stryker 社 VariAx hand 3D plate を用いて移植骨を圧迫固定した。(図 H)尺骨神経は、
45移行せず元来の位置にて閉創した。
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47Postoperative treatment
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50Follow up
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53Discussion
54本症例は稀な上腕骨内側柱疲労骨折に対する手術治療の報告である。野球における投球で
55は、加速期に肘内側へ約64 N の外反ストレスがかかると報告されている。繰り返し外反
56ストレスによって少年期に little leaguer’s elbow を生じると、将来的に肘内側不安定
57性に伴う vulgus extension overload syndrome(VEOS)へのリスクを残す。VEOS では、外反
58ストレスに対する内側支持機構の緩みから肘頭尖端の後内側部に骨棘形成や尖端部骨折を
59生じうる。
60内側柱疲労骨折に関しては、Chang らが 16 歳の野球投手に対し保存治療をおこなった1例
61を報告している。彼らの症例では、axial CT 像で肘頭後内側部に骨棘形成を認めており、
62VEOS による内側柱へのインピンジメントが示唆されるが、内側不安定性の評価は行われて
63いない。我々は、術前に腱患側肘へ関節造影し外反ストレスによる肘内側不安定性を評価
64した。健側の肘内側関節裂隙は 1.5mm であったが、患側肘は 1.9mm とわずかに緩さを認め
65た。また、肘頭後内側には骨棘を形成しており、相対する肘頭窩内側壁にも骨隆起を認め
66た。さらに、術中に肘を完全伸展させると肘頭は、肘頭窩骨隆起部に衝突していることを
67確認しており、上腕骨内側柱疲労骨折は VEOS に新たに含めるべき骨折概念になるかもしれ
68ない。
69また、本骨折は内顆近位に生じ、内側柱に対して骨折線が横走し、内側柱後面に骨折線の
70開大がみられることが特徴である。内顆前面には円回内筋と総指屈筋起始部が停止してい
71るが、後面は尺骨神経の走行床となるため拮抗筋の停止がない。リリース時には主に総指
72屈筋が内顆前面を牽引し、内側柱後面に対し伸展ストレスが加わることで後面に骨折線の

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73開大を生じさせている可能性がある。また、上腕骨遠位の骨内血流供給は、内顆および遠
74位骨幹端は比較的豊富である一方、内側柱の骨内へ入る血液供給は少ない。Kimball らは内
75側柱は、上腕骨遠位における watershed エリアに位置しているため、骨折修復能力よりも
76繰り返しストレスが上回りやすい部位ともいえる。
77手術アプローチは、内側柱後面に骨折線が開大していること、および尺骨神経への処置が
78容易な後内側アプローチが有用であった。また前方に起始部のある円回内筋や総指屈筋を
79傷めずに済むためにも最適なアプローチである。骨折部は内側柱全域に渡って骨硬化して
80おり、海綿骨は消失し、保存治療による自然な骨癒合は期待し難い状態であった。髄腔領
81域の骨除去と腸骨骨移植は必須で、加えて遠位骨幹部と髄腔を開通させたことが骨癒合得
82られた要因と考えられる。
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84本症例では、術前に尺骨神経の症状を有していたが、このようなメカニカルストレスの蓄
85積や hypertrophic nonunion による骨隆起の形成が尺骨神経へ影響をもたらした可能性があ
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90ReKimball, J. P., Glowczewskie, F., & Wright, T. W. (2007). Intraosseous Blood Supply
91 to the Distal Humerus. The Journal of Hand Surgery, Vol. 32A(No.5 May-June),
92 642–646.

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