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特集
臨整外 55:31∼40,2020
軟骨下脆弱性骨折
特発性膝骨壊死との関連
*
王寺享弘
Toshihiro OHDERA
膝関節の特発性骨壊死(spontaneous osteonecrosis:SON)は,部位別に大腿骨内側顆,脛骨内側顆,外
側コンパートメントの病変(大腿骨と脛骨を含む)に分けられる.その病態は骨脆弱性を基盤とした軟骨下脆弱
性骨折と考えられている.このうち日常診療で遭遇することの多い大腿骨内側 SON では,内側半月板の後角
損傷が先行する病変であるとの報告が多い.小走りや階段の踏み外しの際,ブチっとした轢音を膝関節内に感
じ,膝窩部を中心に激痛が走り当日は歩行が困難になるなどの症状があれば,MRI 検査で後角損傷に特徴的な
画像所見を確認し,SON へ伸展することを防ぐために適切な治療をしなければならない.
態であり,病理検査で散発的にみられる壊死は骨 ON は必ずしも女性に多いわけではなく,骨粗鬆
折により二次的に生じるものであるという考えが 症のない中年にも起こり,外反アライメントであ
1)
一般的になりつつある . ると進行しやすいとされている5).一般的には
*
福岡整形外科病院〔〒815-0063 福岡県福岡市南区柳河内 2-10-50〕Fukuoka Orthopaedic Hospital
*利益相反:なし
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a
図1 大腿骨内側顆特発性骨壊死
(75 歳女性)
5 カ月前から明らかな誘因なく発症し
た.MM 後節には損傷を認めるが,
後角の損傷はない.
a:MRI で MM 後節断裂はみられる
が,vertical linear defect 像 は
認めない(↑).
b:T2* 強調画像では高信号ないし一
部低信号,STIR 画像では高信号
*
を呈する BME を認める. T2 強調画像 STIR 画像
臨整外 55 巻 1 号・2020 年 1 月 33
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a
鏡視所見
単純 X 線 STIR 画像
図2 内側半月板の後角損傷が先行原
因と思われる特発性骨壊死
(81 歳男性)
a:単純 X 線では異常を認めないが,
STIR 像では広範囲の BME がみ
られる.
b:6 カ月後典型的な SON 像を認め
る.
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a
図3 内側半月板後角損傷による前方
動揺性(84 歳女性)
後角部は膝の前後方向の安定性にも
関わっており,断裂後に前方引き出し
テストが陽性になる症例がみられる.
a:前 後 像 で vertical linear defect
(↑) や,矢 状 面 の white menis-
cus sign(↑↑)を認める.
b:MRI で前十字靱帯は正常である
が,前方引き出しテストが陽性で
ある.
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a
内側半月板後角断裂 部分切除後
図4 半月板切除後の骨壊死
(73 歳男性)
a:術前 X 線は異常ないが,MRI で
BME がみられる.
b:MM 後角の部分切除を行った.
c :2 カ月後,脛骨内側顆のやや内側
よりに陥没病変を認める(○).
使用し,術後水腫に対してヒアルロン酸注入を基 する.しかし大切なことは術前に,半月板切除後
本として,安易にステロイド関節注射はしない. にはこのような病態が生じる可能性があると説明
また愁訴が長期間続き増悪傾向であれば,早期に することである.
MRI を撮像して髄内信号変化の有無をチェック
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a
後角部縫合直後
(pull out 法) 術後 1 年
術前 術後
図5 内側半月板後角損傷に対する修
復術(60 歳,女性)
後角断裂が修復され,hoop 機構が再
建できれば,SON の発生を防止でき
る.
a:術後 1 年の再鏡視で,後角部は完
全に癒合している.
b:術前の vertical linear defect も
消失している(○).
c :半月板の内側偏位率も 50%から
36%と改善している. 術前 術後
(図 6).脛骨近位端は血行がよく,虚血が起こる
▶脛骨内側顆壊死 とは考えにくいが,この部位は骨折が起こりやす
く,Charcot 関節やステロイド関節症などと鑑別
脛骨内側顆の SON の病変部位は,大腿骨内側 を要する.また臨床所見として関節裂隙よりも遠
顆骨と異なり脛骨内側顆の中心よりも内側よりに 位の脛骨顆部に圧痛があり,この部位の不顕性骨
みられることが多い.これは荷重時脛骨の外方へ 折や鵞足炎などと区別しなければならない.
の thrust により,脛骨内側顆の中心より内側に
多く荷重ストレスが加わるためとされている
臨整外 55 巻 1 号・2020 年 1 月 37
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図6 脛骨内側顆特発性骨壊死
(77 歳女性)
大腿骨内側顆骨と異なり,ON の部位は脛
骨内側顆の中心よりも内側よりにみられる
ことが多い.
a c
図 7 大腿骨外側顆特発性骨壊死(76 歳男性)
大腿骨内側顆にみられる calcified plate を伴った sclerotic halo のような典型的な X 線所見は少なく,進行すれば外側
顆荷重部に囊胞状の変化を示すことが多い.
a:術前 X 線と MRI b:術中所見と病理所見で骨壊死像を認める c:術後 12 年 X 線
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a
*
単純 X 線 T2 強調画像
術後 3 年
図 8 大腿骨外側顆特発性骨壊死に対する創爬,骨移植術(67 歳男性)
a:大腿骨外側顆に囊胞性の病変を認める.
b:術後 3 年経過しているが,良好な修復像がみられ,術中の採取標本では骨壊死像を認めた.
ことが影響している可能性がある.また画像上も
▶大腿骨外側顆骨壊死 内側顆 SON にみられる calcified plate を伴った
sclerotic halo のような典型的な X 線所見は稀で
大腿骨外側顆の SON の頻度は少なく,高齢の あり,進行すれば外側顆荷重部に囊胞状の変化を
女性に多い内側顆 SON と比べ性差はなく,骨粗 示すことが多く(図 7),アライメントが外反であ
3)
鬆がない中高年の男性にもみられる.Lotke ら れば,症状が増悪することが多い5).
は外側病変は 20 例中 1 例のみであり非常に稀と 治療方法としては,外反アライメントであれば
18)
強調しており,Aglietti ら も 105 例の骨壊死の 進行する可能性があることを念頭に置きながら,
うち大腿骨外側顆は 1 例のみであり,al-Rowaih まずはヒアルロン酸の関節内注射などの保存治療
ら19) も 40 例中 3 例のみが大腿骨外側顆であった を行うが,症状が持続する場合や画像所見が進行
としている.その理由としては,内側顆 SON と する場合は手術を考慮する.術式としては,骨軟
異なり,痛みがそれほど強くなく,夜間痛もない 骨病変が正常もしくは軽度の場合は搔爬・骨移植
臨整外 55 巻 1 号・2020 年 1 月 39
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術を,軟骨病変や骨破壊があれば骨切り術や外側 Sports Med 2015 ; 43(4) : 912-20.
単顆置換術を行う.搔爬・骨移植術を行った自験 9) 本山達男,田村裕昭,川嶌眞人.膝特発性骨壊
死と内側半月板損傷との関連.JOSKAS 2015;
例 2 例の術後経過は良好であり,術中採取した病
40(3):841-6.
理所見では 1 例は骨壊死を認め,もう 1 例では壊
10) Marzo JM, Gurske-DePerio J. Effects of medial
死像はみられなかった20)(図 8). meniscus posterior horn avulsion and repair on
tibiofemoral contact area and peak contact
おわりに pressure with clinical implications. Am J Sports
Med 2009 ; 37(1) : 124-9.
11) Bae JH, Paik NH, Park GW, et al. Predictive
膝関節にみられる大腿骨内側顆の SON の病態
value of painful popping for a posterior root
は,SIF により生じると思われるが,多くの症例
tear of the medial meniscus in middle-aged to
では MM 後節の横断裂や後角の損傷による hoop older Asian patients. Arthroscopy 2013 ; 29(3) :
機構の破綻が先行する原因と考えられる.特に後 545-9.
角損傷は SON の大多数の要因であり,発症機転 12) Allaire R, Muriuki M, Gilbertson L, et al.
や MRI 画像から後角損傷と診断されれば,ON Biomechanical consequences of a tear of the
posterior root of the medial meniscus : similar
への進行を防ぐために早期に適切な治療をしなけ
to total meniscectomy. J Bone Joint Surg Am
ればならない.
2008 ; 90(9) : 1922-31.
13) Brahme SK, Fox JM, Ferkel RD, et al. Osteo-
necrosis of the knee after arthroscopic sur-
文 献
gery : diagnosis with MR imaging. Radiology
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osteonecrosis of the knee : the result of sub- 14) 王寺享弘,徳永真巳,宏洲士郎・他.中高年者
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Meniscal root injury and spontaneous osteo- the knee. Acta Orthop Scand 1990 ; 61 (2) :
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Joint Surg Br 2009 ; 91(2) : 190-5. 20) 富永冬樹,王寺享弘,松田匡弘・他.大腿骨外
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mechanical consequences of a nonanatomic 移植術を施行した 2 例.整形外科 2019;70(7):
posterior medial meniscal root repair. Am J 765-71.
40 臨整外 55 巻 1 号・2020 年 1 月
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