医機学Vol．78，　No．10（2008）（61）
31．電気メス出力測定システムの試作と性能評価（第2報）
1．はじめに
　電気メスの保守点検時には，出力を定量的に
測定できる電気メス解析アナライザが必要とな
る．しかし市販されている電気メス解析アナ
ライザ（ワットメータ）は，一般的に需要が低
く，かつほとんどが外国製品のため非常に高価
である．そのため，手軽に購入して使用するこ
とはできない．そこで，われわれはオシロスコ
ープを用いた電気メス出力測定システムを試作
し，その実用性を第80回学会大会学術集会で
報告した．今回さらに本システムの改良をおこ
ない，市販アナライザにおいても同じ条件で電
気メスの出力測定，比較することにより本シス
テムの信頼性と有用性の評価をおこなった．
2、出力測定システム
　1）設計コンセプト
　他施設の臨床工学技士が手軽に製作できる目
的で，次のコンセプトに基づいた出力測定シス
テムを試作した．
　①デジタルオシロスコープを利用し簡単に
製作できる．②演算は，表計算ソフトを使う．
③測定精度を市販の電気メス解析アナライザ
と同程度にする．④高周波出力が測れるもの．
　2）測定原理
　電気メスの出力電力は，負荷抵抗に出力させ
たときの負荷抵抗両端の電圧の実効値が計測で
きるならば簡単に算出できる．しかし実効値を
計測するには，帯域の広い高周波計器が必要で
あるが，高価である．そこで基本変調波形から
デジタルオシロスコープのAD変換機能を利用
して得られたデータを表計算ソフトで計算処理
することによって出力測定をおこなう．
　3）システムの構成
　本システムは，負荷抵抗（無誘導），デジタ
一629一
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吉澤電命（伊那中央病院臨床工学室）
小野哲章（神奈川県立保健福祉大学）
ルオシロスコープ，パソコンからなる．
　4）出力測定シート
　電気メス出力をオシロスコープに取り込む．
オシロスコープとパソコンを接続して，オシロ
スコープからデータ（時間と瞬時電圧）をパソ
コンに取り込む．測定原理に基づいて作成し
た出力測定シート（表計算ソフトで作成した
もの）にそのデータを貼り付けることにより，
電気メスの出力を算出する．
　5）本システム改良点
①前回の報告では，システムの負荷抵抗値は
　1種類（550Ω）であった．今回，負荷抵
　抗値を100～1，400Ω（100Ωステップ）と
　可変できるようにし，さまざまな機種に対
　応できるようにした．とくにバイポーラ電
　気メスはメーカ推奨の負荷抵抗値が低く，
　前回のシステムでは精度よく測定できない．
②電気メス出力を分圧せず高電圧プローブを
　使用した．分圧しないためにスムーズに負
　荷抵抗値を可変できる．
3．結　　果
　本システムと市販の電気メス解析アナライザ
RF－303　RS⑧（フルーク製）を用いて，電：気メス
Force　FX－C⑭とLigaSure⑭（バイポーラ）の各
モードにおける出力を各10回測定し，その平
均値と標準偏差を計算した．Force　FX－C⑭の測
定結果を表1（凝固は省略）に，LigaSure⑪の
測定結果を表2に示す．
4．考　　察
　本システムを使い，各モードで設定した出力
を測定した結果，設定値の±10％以内の精度
であり，十分な精度で測定できることが分かっ
た．JISの規定においても±20％以内と規定し
ているので，本システムは実用上十分な性能を
（62）医機i学　Vo1．78，　No．10（2008）

　　　　表1　Force　FX－C⑧（切開） 抵抗値50～750Ω（50Ωステップ）で可変でき
　　　　　テ　　　　　　　　　ロ　　ロ　　　　　　　　　　　 る．本システムは，100Ωステップであるが
i／1≒一ild）1Lジ…ズチ去i’．
250．0 100～1，400Ωと可変できる．それゆえ負荷抵抗
　1　　（PURE）．田
値が低いバイポーラも精度良く測定できた．
　200．0 　　　　　　　　　　　　　　　　　

Ii∴
：：三脚RF－303RS
同

　
≧150．0
田II @　（PURE） 5．おわりに
型1　OO．0 　本システムは汎用計測器であるオシロスコー
嵐1一システム
　　（BLEND） プを使用しているため，実質的な製作コストを
　　50．0
抑えることができ，市販アナライザの購入より
o．o RF・一303RS 現実的といえる．
（BLEiND）
O　100　200 　結論として，本システムは市販の電気メス
　　設定値（W）
解析アナライザと同程度の精度を有し，また
表2　LigaSure③（バイポーラ） コストパフォーマンスが良く十分に実用性が
　70．0
あるといえるため，実際に電気メスの定期点
　60．0
検や不具合時の点検に使用できることを示す
ことができた．
　50．0
：t　40D
　今後の応用と課題
橿、。。 ①汎用計測器を有効に利用して，ワットメー
　　　　　　　　　　　　　　“RF一’・ 　タの機能だけではなく，電気メス保守に
　20．0
　　　　　　　　　　　　　　　　30罐S 　必要な点検をすることができる包括的な
　lO．O
　『電気メスチェッカ』を製作したい（現在，
　　o．o
　基礎実験をしている段階であり，今後報告
　　　O　50　100 　をする予定である）．
　　　　　設定値（W）
有することが証明された． ②RS－232　C制御による電気メス出力の連続
　市販のアナライザは，電気メスからの出力を 　データ取得によるワットメータを開発する．
瞬時に算出し表示する．それに較べると本シス 　オシロスコープとパソコンを接続して，市
テムは表計算ソフトで計算させるためリアル 　販のアナライザのようにリアルタイムで出
タイムに出力値を表示することはできないが， 　力値（W）の表示できるアプリケーション
病院内点検用としてリアルタイム性や演算処理 　ソフトを開発する．プログラミング言語は
スピードはそれほど問題とならない．また出力 　Visual　C＋＋を用いる．

波形をオシロスコープで見ることができるので
波形の異常を判別でき，波形やデータをパソコ 　　　　　　　　文　　献
ンや記憶媒体に直接保存できるのが長所といえ 1）吉澤光崇，小野哲章：電気メス出力測定シス
る．市販のアナライザでは直接波形を見ること 　テムの一試作と性能評価，医科器械学，2005，
　75　（10）　：　613一一一614．
はできず，もし波形を観察する場合はアナライ
ザのBNC端子からオシロスコープに出力させ 2）吉澤光崇：汎用オシロスコープを用いた電気
る必要がある． 　メス出力測定法の測定精度の検証，日本手術
　電気メス解析アナライザRF－303　RS⑭は負荷 　医学会誌，2008，29（2）：101～106．

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