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かねこ

金 子 みすゞ(みすず)

1903 年(明治 36 年)4 月 11 日 - 1930 年(昭和 5 年)3 月 10 日

大正時代末期から昭和時代初期にかけて活躍した童謡詩人。
本名、金子テル(かねこ テル)。

大正末期から昭和初期にかけて、26 歳の若さでこの世を去るまで

に 512 編もの詩を綴ったとされる。1923 年(大正 12 年)9 月に

『童話』
『婦人倶楽部』
『婦人画報』
『金の星』の 4 誌に一斉に詩が掲

載され、西條八十からは若き童謡詩人の中の巨星と賞賛された。

くじらほうえ
鯨 法 会

鯨法会は春のくれ、
海に飛魚採れるころ。
浜のお寺で鳴る鐘が、
ゆれて水面をわたるとき、
村の漁夫が羽織着て、
浜のお寺へいそぐとき、
沖で鯨の子がひとり、
その鳴る鐘をききながら、
 死んだ父さま、母さまを、
 こいし、こいしと泣いています。

1
 海のおもてを、鐘の音は、
 海のどこまで、ひびくやら。

せき ゆき
積 もつた 雪

うえ ゆき
上 の 雪  さむかろな         上面的雪 一定覺得冷

つめ つき さ
冷 た い 月 が 射 し て い て     輕盈地依畏著冰冷的月光

した ゆき
下 の 雪  重 か ろ うな         底部的雪 一定覺得沉重


何 百 人 も 載 せ て い て          負荷成百人的重量

中 の雪 寂 し か ろ う な        中間的雪 一定覺得孤單

空 も 地 べ た も 見 え な い で     它既看不見天也看不見地

さかな
「お 魚 」

うみ さかな
海 の 魚 はかわいそう。

こめ ひと
お 米 は 人 につくられる、 

うし まきば
牛 は 牧 場 でかわれてる、

いけ
こいもお 池 でふをもらう。

2
うみ さかな
けれども 海 のお 魚 は

せわ
なんにも世話にならないし

ひと
いたずら 一 つしないのに


こうしてわたしに食べられる。

さかな
ほんとに 魚 はかわいそう。

大漁
朝焼小焼だ
大漁だ
大羽鰮(いわし)の
大漁だ。

浜は祭りの
ようだけど
海のなかでは
何萬(まん)の
鰮のとむらい
するだろう。
私と小鳥と鈴と
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
3
地面を速く走れない。

私が体をゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
きりぎりすの山登り
きりぎつちよん、山のぼり、
朝からとうから、山のぼり。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。

山は朝日だ、野は朝露だ、
とても跳ねるぞ、元氣だぞ。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。

あの山、てつぺん、秋の空、
つめたく觸(さわ)るぞ、この髭(ひげ)に。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。

一跳ね、跳ねれば、昨夜見た、
お星のとこへも、行かれるぞ。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。

4
お日さま、遠いぞ、さァむいぞ、
あの山、あの山、まだとほい。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。

見たよなこの花、白桔梗(しらききやう)、
昨夜のお宿だ、おうや、おや。
ヤ、ドッコイ、つかれた、つかれた、ナ。

山は月夜だ、野は夜露、
露でものんで、寢ようかな。
アーア、アーア、あくびだ、ねむたい、ナ。
ふしぎ
わたしはふしぎでたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀にひかっていることが。

わたしはふしぎでたまらない、
青いくわの葉たべている、
かいこが白くなることが。

わたしはふしぎでたまらない、
たれもいじらぬ夕顔が、
ひとりでぱらりと開くのが。
 
わたしはふしぎでたまらない、
たれにきいてもわらってて、
あたりまえだ、ということが。
5
かなやり (スペイン) canaria〔「金糸雀」とも書く〕

唄を忘れた 金糸雀は 後ろの山に 棄てましょか
いえ いえ それはなりませぬ
唄を忘れた 金糸雀は 背戸のこやぶに うめましょか
 いえいえそれも なりませぬ

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