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金子みすゞ
金子みすゞ
金 子 みすゞ(みすず)
大正時代末期から昭和時代初期にかけて活躍した童謡詩人。
本名、金子テル(かねこ テル)。
大正末期から昭和初期にかけて、26 歳の若さでこの世を去るまで
『童話』
『婦人倶楽部』
『婦人画報』
『金の星』の 4 誌に一斉に詩が掲
載され、西條八十からは若き童謡詩人の中の巨星と賞賛された。
くじらほうえ
鯨 法 会
鯨法会は春のくれ、
海に飛魚採れるころ。
浜のお寺で鳴る鐘が、
ゆれて水面をわたるとき、
村の漁夫が羽織着て、
浜のお寺へいそぐとき、
沖で鯨の子がひとり、
その鳴る鐘をききながら、
死んだ父さま、母さまを、
こいし、こいしと泣いています。
1
海のおもてを、鐘の音は、
海のどこまで、ひびくやら。
せき ゆき
積 もつた 雪
うえ ゆき
上 の 雪 さむかろな 上面的雪 一定覺得冷
つめ つき さ
冷 た い 月 が 射 し て い て 輕盈地依畏著冰冷的月光
した ゆき
下 の 雪 重 か ろ うな 底部的雪 一定覺得沉重
の
何 百 人 も 載 せ て い て 負荷成百人的重量
中 の雪 寂 し か ろ う な 中間的雪 一定覺得孤單
ち
空 も 地 べ た も 見 え な い で 它既看不見天也看不見地
さかな
「お 魚 」
うみ さかな
海 の 魚 はかわいそう。
こめ ひと
お 米 は 人 につくられる、
うし まきば
牛 は 牧 場 でかわれてる、
いけ
こいもお 池 でふをもらう。
2
うみ さかな
けれども 海 のお 魚 は
せわ
なんにも世話にならないし
ひと
いたずら 一 つしないのに
た
こうしてわたしに食べられる。
さかな
ほんとに 魚 はかわいそう。
大漁
朝焼小焼だ
大漁だ
大羽鰮(いわし)の
大漁だ。
浜は祭りの
ようだけど
海のなかでは
何萬(まん)の
鰮のとむらい
するだろう。
私と小鳥と鈴と
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
3
地面を速く走れない。
私が体をゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
きりぎりすの山登り
きりぎつちよん、山のぼり、
朝からとうから、山のぼり。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
山は朝日だ、野は朝露だ、
とても跳ねるぞ、元氣だぞ。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
あの山、てつぺん、秋の空、
つめたく觸(さわ)るぞ、この髭(ひげ)に。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
一跳ね、跳ねれば、昨夜見た、
お星のとこへも、行かれるぞ。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
4
お日さま、遠いぞ、さァむいぞ、
あの山、あの山、まだとほい。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
見たよなこの花、白桔梗(しらききやう)、
昨夜のお宿だ、おうや、おや。
ヤ、ドッコイ、つかれた、つかれた、ナ。
山は月夜だ、野は夜露、
露でものんで、寢ようかな。
アーア、アーア、あくびだ、ねむたい、ナ。
ふしぎ
わたしはふしぎでたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀にひかっていることが。
わたしはふしぎでたまらない、
青いくわの葉たべている、
かいこが白くなることが。
わたしはふしぎでたまらない、
たれもいじらぬ夕顔が、
ひとりでぱらりと開くのが。
わたしはふしぎでたまらない、
たれにきいてもわらってて、
あたりまえだ、ということが。
5
かなやり (スペイン) canaria〔「金糸雀」とも書く〕
唄を忘れた 金糸雀は 後ろの山に 棄てましょか
いえ いえ それはなりませぬ
唄を忘れた 金糸雀は 背戸のこやぶに うめましょか
いえいえそれも なりませぬ