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Effect of anisotropie yield functions on the accuracy of hole expansion

simulations for 590 MPa grade steel sheet


AUTHOR(S)

K Hashimoto, T Kuwabara, E Iizuka, Jeong Yoon

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01-01-2010

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鉄 と 鋼 Tetsu-to-Hagané Vol. 96 (2010) No. 9

590 MPa 級冷延鋼板の穴広げ成形シミュレーションの


解析精度に及ぼす異方性降伏関数の影響
橋本 一真 * ・桑原 利彦 *2 ・飯塚 栄治 *3 ・ Jeong-Whan YOON*4

Effect of Anisotropic Yield Functions on the Accuracy of Hole Expansion Simulations for 590 MPa Grade Steel Sheet
Kazuma HASHIMOTO, Toshihiko KUWABARA, Eiji IIZUKA and Jeong-Whan YOON

Synopsis : The deformation behavior of a high-strength steel alloy with a tensile strength of 590 MPa is investigated both experimentally and analytical-
ly to clarify the effect of the material model (anisotropic yield function) on the predictive accuracy of the finite element simulation of hole
expansion. Biaxial tensile tests of the test material have been carried out. Measured contours of plastic work and the directions of plastic
strain rates are found to be in good agreement with those predicted using the Yld2000-2d yield function with an exponent of 6. The
anisotropy in uniaxial tensile flow stresses and r-values has been also in good agreement with those predicted by the Yld2000-2d yield func-
tion, as opposed to the previous study [T.Kuwabara, K.Hashimoto, E.Iizuka and J.-W.Yoon: J. Jpn. Soc. Technol. Plast., 50 (2009), 925].
Forming simulations of and experiments on the hole expansion of the test material have been carried out using the von Mises, Hill’s quadrat-
ic and the Yld2000-2d yield functions with different exponents. The Yld2000-2d yield functions have given the closest agreement with the
experimental results. Consequently, it is found that anisotropic yield functions significantly affect the predictive accuracy of the deformation
behavior of an anisotropic sheet metal subjected to hole expansion and that the biaxial tensile test is effective in identifying a proper
anisotropic yield function to be used in the hole expansion simulation.
Key words : sheet metal forming; hole expansion test; finite element method; anisotropy; yield function; biaxial tensile test.

1.緒言 そこで筆者らは,780 MPa 級 2 相組織冷延鋼板を供試材


として,穴広げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼす
車体の高強度化と軽量化を両立させるため,自動車車体 異方性降伏関数の影響を調査した 12)。その結果,次の重要
への高強度鋼板の適用が拡大している。高強度鋼板のプレ な結論を得た。
ス成形では,鋼板の高強度化に伴い,伸びフランジ変形に (1) 2 軸引張試験によって測定された,供試材の等塑
伴う割れが頻発し問題となっている 1)。このような高強度 性仕事面の形状と塑性ひずみ速度の測定値に対して,最も
鋼板の成形不良対策として,成形シミュレーションによる 近い計算値を与えたのは 4 次の Yld2000-2d 降伏関数 13) で
割れの予測精度の向上が熱望されている。割れの前兆であ あった。
る局所くびれ過程の解析においては,異方性降伏関数が計 (2) 穴広げ成形シミュレーションによる穴形状や穴縁
算値に大きく影響する 2)。したがって,割れ発生の時期お 周辺の板厚分布の計算値についても,実験値に最も近い計
よび場所を高精度に予測するためには,材料の塑性変形挙 算値を与えたのは,同じく 4 次の Yld2000-2d 降伏関数を材
動をできるだけ忠実に再現できる異方性降伏関数を解析に 料モデルとして用いた場合であった。
用いることが重要である。 これらの事実は,2 軸引張試験にもとづいて適切な材料
3)
伸びフランジ成形に関しては,多くの実験研究がある 。 モデル(異方性降伏関数)を選択することが,穴広げ解析
一方,伸びフランジ成形の数値解析に関しても多くの研究 における材料の変形挙動の予測精度向上に対して必要不可
4–11)
報告がある 。しかしいずれの解析研究においても,シ 欠であることを明確に示している。
ミュレーションに用いた材料モデルそのものの妥当性の実 しかしながらその反面,4 次の Yld2000-2d による計算値
験検証がなされていないので,計算結果がどれほど正確に をもってしても,穴形状や穴縁周辺の板厚分布の測定値と
真の現象をとらえきれているのか,疑問が残る。 の完全な一致には至らなかった。筆者らは,この主な原因

平成 22 年 3 月 1 日受付 平成 22 年 5 月 6 日受理 (Received Mar. 1, 2010; Accepted May 6, 2010)


* 東京農工大学大学院機械システム工学専攻 (Graduate School of Mechanical Systems Engineering, Tokyo University of Agriculture and Technology, 2–24–16 Nakacho
Koganei Tokyo 184–8588)
* 2 東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門 (Division of Advanced Mechanical Systems Engineering, The Graduate School of Engineering, Tokyo University
of Agriculture and Technology)
* 3 JFE スチール(株)薄板加工技術研究部 (Forming Technology Research Department, JFE Steel Corporation)
* 4 Faculty of Engineering & Industrial Sciences, Swinburne University of Technology

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として,( i ) 解析で用いた Yld2000-2d 降伏関数が供試材 2.実験方法


の単軸塑性流動応力と r 値の面内異方性を完全には再現で
きていないこと,( ii ) 解析において等方硬化則を適用し 2·1 供試材
たこと,を可能性として挙げた。 供試材として 590 MPa 級高降伏比型冷延鋼板(板厚 1.2
本研究では,前報 12) の研究成果をさらに発展させるため mm)を用いた。その機械的性質を Table 1 に示す。
に,590 MPa 級高降伏比型冷延鋼板を供試材として,穴広 圧延方向から角度 q の方向に単軸引張試験して測定され
げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼす異方性降伏関 た本供試材の e p00.04 における塑性流動応力 s q と r 値の変
数の影響を明らかにする。この材料を研究対象とした理由 化を Fig. 1 に示す(e p0 の定義については 2 · 2 節参照)。同図
は,解析で用いる Yld2000-2d 降伏関数が,本供試材に対 に は von Mises, Hill ’48, 4 次 , 6 次 , お よ び 8 次 の
しては,2 軸引張応力下における供試材の弾塑性変形挙動 Yld2000-2d による計算値も併記している。Yld2000-2d は次
だけでなく,単軸塑性流動応力と r 値の面内異方性をも正 数によらず本供試材の面内塑性異方性を精度よく再現でき
確に再現できるからである(後出の Fig. 1 参照)。特に後 ていることがわかる。
12) 12)
者が前報 とは異なる点である。これにより,前報 で 2 · 2 2 軸引張試験
課題となった,穴広げ成形シミュレーションの計算値と実 供試材の弾塑性変形挙動を最も精度よく再現できる異方
験値の差違に及ぼす材料モデルの面内異方性の再現精度不 性降伏関数を決定するため,Fig. 2 に示す十字形試験片を
良の影響を排除することができる。 用いて 2 軸引張試験を行った。本試験片は文献 14) で提案
された試験片形状と同一である。腕部には 7.5 mm 間隔に
スリットが設けられ,応力測定部である一辺 60 mm の正方
Table 1. Mechanical properties of TS590 steel sheet. 形領域の変形拘束を極力小さくしている。以下,圧延方向
を x 軸,圧延直角方向を y 軸にとる。
油圧サーボ制御 2 軸引張試験機 14) を用いて,十字形試験
片に 2 軸引張荷重を負荷した。各軸の荷重は時間軸に対し
て直線的に増加させた。公称応力比(荷重比)は s Nx : s Ny
(圧延方向:圧延直角方向)4 : 1,2 : 1,4 : 3,1 : 1,3 : 4,
1 : 2,1 : 4 の 7 通りとした。各軸方向の垂直ひずみ成分は,
試験片中心から約 7.5 mm 離れた中心線上に塑性ゲージ
(東京測器研究所製 YFLA-2)を貼り付けて測定した。垂
直応力成分 s x , s y は,荷重の測定値をその瞬間の断面積
(面内塑性ひずみの測定値を用いて体積一定則より算定)
で除した真応力として算定した。またひずみを試験片の中
心軸上で計測しているので s xy0 とみなした。圧延方向お
よび圧延直角方向の単軸引張試験は JIS13 号 B 型試験片を
用いて行った。

Fig. 1. Variations of (a) flow stresses at e p00.04 and (b)


r-values with tensile directions at e p00.092, com-
pared with those calculated using selected yield
functions. Fig. 2. Cruciform specimen for biaxial tensile test.14)

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590 MPa 級冷延鋼板の穴広げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼす異方性降伏関数の影響 559

2 軸引張応力下における鋼板の加工硬化特性を定量的に ように配慮した。
評価するため,等塑性仕事面 15,16) を測定した。等塑性仕事
面は,以下の手順により求めた。まず圧延方向の単軸引張 3.FEM 解析
試験を行い,既定の対数塑性ひずみ e p0 に達した瞬間におけ
る単軸引張応力 s 0 と, e p0 に達するまでになされた単位体 静的陰解法 FEM ソフトウェア ABAQUS/Standard Ver. 6.6-
積あたりの塑性仕事 W を求める。さらに 2 軸引張試験およ 1 を用いて穴広げの FEM 解析を行った。素板の要素分割状
び圧延直角方向の単軸引張試験では,W と等量の塑性仕事 態を Fig. 4 に示す。対称性を考慮して,1/4 モデルで解析を
を与える応力点 (s x , s y)を求め,それらを主応力空間にプ 行った。要素分割は,円周方向に 2.5°,半径方向に 1 mm
ロットして,e p0 に対する等塑性仕事面を決定した。e p0 を十 の等分割とした。総要素数は 2880 である。素板には 4 節点
分に小さくとれば,等塑性仕事面は供試材の初期降伏曲面 低減積分シェル要素 S4R を用い,板厚方向の積分点数は 5
とみなすことができる。 とした。素板の初期板厚は 1.2 mm,穴径 d030 mm とした。
2·3 穴広げ試験 パンチ,ダイ,ブランクホルダーは解析的剛体とした。素
穴広げ試験に用いた金型寸法を Fig. 3 に示す。これらの 板とパンチ,ダイ,ブランクホルダーとの摩擦係数はすべ
金型は文献 12) で用いたものと同一である。パンチ径は て 0 とした。ビード部において材料の移動は生じないもの
100 mm,パンチ肩およびダイ肩の丸味半径はともに 15 とし,完全固定とした。
mm である。素板外周はビードにより固定した。素板の初 解析に用いた降伏関数は,von Mises17),Hill の 2 次降伏
期穴径は d030 mm とし,穴はワイヤー放電加工により開 関数 (Hill ’48)18),次数 M の Yld2000-2d13) である。Hill ’48
けた。潤滑材として,ワセリンを両面に塗布したテフロン の異方性パラメータの決定には,圧延方向から 0°,45°,
シートをパンチと素板の間に挿入した。パンチの上昇速度 90° 方向の単軸引張試験から測定された r 値(r0, r45, r90) と圧
は約 1 mm/s とした。素板には,円周方向に 10°,半径方向 延方向の塑性流動応力 s 0 を用いた。Yld2000-2d の異方性
に 2 mm の間隔で格子模様を焼付け,穴広げ試験後の板厚 パラメータの決定には,圧延方向から 0°,45°,90° 方向の
ひずみ測定における初期座標の同定に用いた。 単軸引張試験から測定された塑性流動応力 (s 0, s 45, s 90) お
素板の変形量の尺度として穴広げ率 l を用いる。穴広げ よび r 値 (r0, r45, r90) に加えて,等 2 軸引張試験から測定され
率 l は,初期穴径 d0,穴広げ試験後の穴径 d を用いて次式 た降伏応力 s b と塑性ひずみ速度比 rb(de py /de px)を用いた。
で定義される。 硬化則は等方硬化則を仮定した。また特に断らない限り,
Table 1 の 0° 方向の Swift 型の加工硬化式を用いた。
d  d0
λ ( 1 ) Yld2000-2d による解析は,ユーザサブルーチン UMAT を
d0
介して行った。UMAT により導入された Yld2000-2d が,材
d0 および d の測定にはノギスを用いた。圧延方向から 0°, 料モデルとして正確に動作していることを確認するため
45°,90°,135° 方向における穴径を測定し,それらの平均 に,パッチワークテストを行い,Yld2000-2d が材料モデル
値をもって,d0 および d の測定値とした。 として正確に動作していることを確認済みである 12)。
実験値と計算値を定量的に比較するために,穴広げ試験
後の穴形状を工具顕微鏡で,穴縁直近(穴縁の約 1 mm 外 4.結果
側)の円周方向板厚分布,圧延方向,圧延方向から 45° 方
向,および圧延直角方向における半径方向の板厚分布をマ 4 · 1 2 軸引張試験結果
イクロメータで測定した。試験は 3 回行い,その平均値を 本供試材の等塑性仕事面の測定結果を Fig. 5(a)に示す。
測定値とした。この際,ストッパを用いてパンチを強制的
に停止させ,試験ごとのパンチストロークがばらつかない

Fig. 3. Experimental apparatus for hole expansion test. Fig. 4. Initial mesh division of a blank.

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Fig. 6. (a) Variation of the direction of plastic strain rate,


q , with plastic work. (b) Directions of the plastic
Fig. 5. (a) Measured stress points comprising contours of strain rates measured at e p00.04, compared with
plastic work. The stress values are normalized by those calculated using selected yield functions.
s 0, the tensile flow stress in the rolling direction
corresponding to the e p0. (b) Measured stress
points comprising the contour of plastic work at 値に最も近い値を与えることがわかる。
e p00.04, compared with theoretical yield loci Fig. 5 および Fig. 6 の結果より,線形応力経路における本
based on selected yield functions.
供試材の塑性変形特性を最も精度よく再現できるのは,次
本図においては,等塑性仕事面を構成する応力点の値を 数 6 の Yld2000-2d であると結論できる。
s 0 で除して無次元化している。その結果,無次元化等塑 4·2 穴広げ試験結果
性仕事面は, s Nx : s Ny0 : 1,1 : 4,1 : 2,3 : 4,1 : 1 におい 工具顕微鏡を用いて,パンチストローク= 17.5 mm に達
て,ひずみの進展に伴って収縮する傾向が確認された。す した時点での穴中心から穴縁までの距離 R を測定し(この
なわち,本供試材は異方硬化挙動 15,16)
を示すことがわかっ とき穴広げ率の測定値は l 0.244 であった),各降伏関数
た。 による計算値と比較した。結果を Fig. 7 に示す。横軸は,
e p00.04 に対する無次元化等塑性仕事面と,von Mises, 変形前の素板における穴縁線上の角度座標 q を示す(圧延
Hill ’48,4 次,6 次,および 8 次の Yld2000-2d から計算さ 方向を q 0° とし,反時計方向角度 q を正と定義)。縦軸は,
れる降伏曲面との比較を Fig. 5(b)に示す。測定された等塑 R を初期の穴半径 d0 /2 で除した無次元値である。実験値は
性仕事面に対して,最も近い形状を与えるのは,次数 6 の およそ q 40,140,220,320° において極大となり,圧延
Yld2000-2d であることがわかった。 方向と圧延直角方向において極小となった。また圧延直角
各降伏関数における法線則の妥当性を検証するために, 方向が最小となった。一方,パンチストローク 17.5 mm
各応力経路における塑性ひずみ速度の方向 q を測定した。 における FEM 計算値を見ると,von Mises は等方性を仮定
結果を Fig. 6 に示す。塑性仕事の増加に伴う塑性ひずみ速 しているので,均一な分布となっている。Hill ’48 は,極
度の方向 q の変化を Fig. 6(a) に示す。e p00.02 のひずみ域で 大値と極小値の発生位置は実験値とおおむね一致している
はq はほぼ一定である。一方 e p00.02 のひずみ域では,降 が,極大値および圧延方向の極小値をおよそ 1.5% 程度小
伏伸びの影響を受け(Fig.11 参照), q は変動している。 さめに予測している。Yld2000-2d は,次数が 6 の場合に,
e p00.04 における q の測定値と各理論降伏曲面に対する外 極大値と圧延方向の極小値とおおむね一致するが,圧延直
向き法線ベクトル方向の計算値の比較を Fig. 6(b)に示す。 角方向の最小値をおよそ 1% 大きく予測している。
同図において応力比は応力ベクトルの方向 j で表示されて l0.244 における,穴縁に沿う板厚ひずみ e z の分布を
いる。0°j 45° の範囲では次数 4 もしくは 6 の Yld2000- Fig. 8 に示す。板厚の測定位置は,穴縁から約 1 mm 外側で
2d が,45°j 90° の範囲では次数 6 の Yld2000-2d が実験 ある。また横軸の円周方向角度は,素板に焼付けた格子か

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590 MPa 級冷延鋼板の穴広げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼす異方性降伏関数の影響 561

Fig. 7. Measured hole shape compared with those calcu-


lated using selected yield functions.

Fig. 8. Measured thickness strains along the hole edge


compared with those calculated using selected
yield functions. The thickness strains were mea-
sured at locations approximately 1 mm distant Fig. 9. Measured thickness strains along the radial lines
from the hole edge. parallel to the (a) 0°, (b) 45° and (c) 90° directions
from the rolling direction of the blank, compared
with those calculated using selected yield func-
tions with Swift’s power law.
ら決定される初期位置座標を示している。実験値は,およ
そ q 45° 方向において極大となり,圧延方向と圧延直角
方向において極小となった。一方,FEM 計算値を見ると, 延直角方向(90°,270° 方向)の半径方向板厚ひずみ分布
von Mises は等方性を仮定しているので,e z0.11 で全周 を Fig. 9 に示す。圧延方向では (Fig. 9(a)),実験値,計算値
均一である。Hill’48 は 0° 方向,45° 方向,90° 方向におい ともに半径座標の増加に伴い板厚ひずみも単調に減少して
て極大となり,0° および 90° 方向では実験値と反対の傾向 いる。次数 8 の Yld2000-2d が実験値に最も近い。45° 方向
を示している。Yld2000-2d では次数間の計算値の差違は小 では (Fig. 9(b)),実験値は穴縁から 48 mm の位置において
さく,極小値および極大値の位置は実験値と一致している。 極小値をとる。次数 4 の Yld2000-2d が実験値に最も近く,
実験値との差を De z とすれば,45° 方向(極大値)で板厚 極小値の位置も実験値とほぼ一致している。90° 方向では
減少を De z0.02 程度大きめに算出し,0° および 90° 方向 (Fig. 9(c)),実験値は,圧延方向と同様に,半径座標の増
(極小値)で板厚減少を De z0.03 程度小さめに算出してい 加に伴い板厚ひずみは単調に減少している。次数 8 の
る。 Yld2000-2d が実験値に最も近い。
l0.244 における,圧延方向(0°,180° 方向),圧延方 Fig. 9 の結果をまとめると,板厚ひずみの絶対値および
向から 45° 方向(45°,135°,225°,315° 方向),および圧 半径方向の分布傾向に関して,実験値と最も近い計算値を

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562 鉄と鋼 Tetsu-to-Hagané Vol. 96 (2010) No. 9

の Yld2000-2d であった。さらに,穴縁に沿う板厚分布や
半径方向板厚分布について,実験値の傾向を最も精度よく
再現できたのも Yld2000-2d であった。このことより,前
報 12) 同様,2 軸引張試験にもとづいて適切な異方性降伏関
数を選択することが,穴広げ解析における材料の変形挙動
の予測精度向上に対して必要不可欠であることが明らかと
なった。実際,穴縁周辺の応力状態は応力空間の第 1 象限
に該当する。したがって,応力空間の第 1 象限における材
料の弾塑性変形挙動を正確に再現できる材料モデルが,穴
広げ解析における材料変形挙動の予測精度に優れるのは必
然といえる。
しかしながら,Yld2000-2d をもってしても,実験値との
完全な一致には至らなかった。筆者らは前報 12) において,
実験値と計算値の差違の原因の一つとして,供試材の面内
塑性異方性が,Yld2000-2d を用いても精度良く再現できな
いことを指摘した。しかしすでに Fig. 1 で示したように,
本供試材に関しては Yld2000-2d 降伏関数による面内塑性
異方性の再現精度は問題ない。
本解析では硬化則として等方硬化則を用いた。しかし
Fig. 5 から明らかなように,本供試材は異方硬化挙動を示
Fig. 10. (a) Fracture at l 0.33. (b) Thickness distribu- しているので,等方硬化則の仮定は厳密に言えば適切では
tions at l 0.33 calculated using selected yield
functions. ない。すなわち,実験値と計算値の差違は,等方硬化則を
仮定したことに起因している可能性がある。異方硬化挙動
与えたのは Yld2000-2d 降伏関数である。ただし,圧延方 を再現する方法として,Yld2000-2d 降伏関数の異方性パラ
向では次数 8,45° 方向では次数 4,90° 方向では次数 8 の場 メータを塑性仕事もしくは e p0 の関数として変化させる方法
合が実験値に最も近く,次数 6 の計算値は,常に次数 4 と が考えられる。しかし十字形試験片による測定可能な塑性
次数 8 の中間の値を与える。 ひずみは最大でも数 % であるので,穴広げ試験で供試材
穴縁近傍の割れの写真を Fig.10 に示す。割れは圧延方向 に付与されるほどの大きな塑性ひずみ範囲における硬化挙
で発生し,穴縁ではなく穴縁の外側で板を貫通した。この 動を測定することはできない。一方,供試材を曲げ成形,
ときの穴広げ率は l 0.33 であった。 溶接して管形状にすれば,筆者らの一人が純チタン板の異
l 0.33 における,von Mises,Hill ’48,Yld2000-2d 降伏 方硬化挙動の研究で行ったように,高ひずみ域における加
関数による板厚分布の計算結果を Fig.10(b) に示す。von 工硬化挙動の測定と定式が可能となる 19)。今後の研究課題
Mises では等方性を仮定しているので円周方向の板厚分布 として取り組む予定である。
は均一である。Hill ’48 では,45° 方向の穴縁より外側にお 次に加工硬化式の影響について検証する。圧延方向の単
いて板厚が最小となる。Fig. 8 からもわかるように,この 軸引張試験より得られた真応力 – 対数塑性ひずみ線図を
傾向は実験結果と相反する。Yld2000-2d では,Fig. 8 でも Fig.11 に示す。加工硬化式として,図中の Swift 型および
そうであったように,圧延方向および圧延直角方向の穴縁 Voce 型の 2 種類の加工硬化式を用いる。
近傍で板厚が最小となる。このように穴周辺の板厚分布の l 0.244 における,穴縁に沿う板厚ひずみ分布の実験値
傾向についても,von Mises,Hill ’48 に比べて Yld2000-2d および Voce 型の加工硬化式による FEM 計算値を Fig.12 に
による計算結果の方が実験結果の傾向により近いことがわ 示す。Yld2000-2d は Swift 型同様 e p00.04 において同定した
かった。 ものを用いている。Swift 型の加工硬化式による計算値
(Fig. 8)と比較すると,von Mises と Yld2000-2d による計算
5.考察 値は加工硬化式間の差違がほとんどない。一方 Hill ’48 に
よる計算値は,加工硬化式の差違が計算値に大きな差違を
4 章の結果より,前報 12)
同様,異方性降伏関数は穴広げ もたらした。すなわち Voce 型においては,q 45,135° 方
の解析精度に大きく影響することがわかった。2 軸引張試 向で板厚が最小となり,実験値と正反対の結果となった。
験によって測定された等塑性仕事面の形状と塑性ひずみ速 このように Hill ’48 降伏関数のみ加工硬化式の影響を大き
度の測定値に対して,最も近い計算値を与えたのは次数 6 く受ける原因については,現段階では不明である。

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590 MPa 級冷延鋼板の穴広げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼす異方性降伏関数の影響 563

実験値と計算値を詳細に比較し,その異同の原因を考察し
た。その結果,以下の知見を得た。
(1) 2 軸引張試験により測定された等塑性仕事面およ
び塑性ひずみ速度の方向の実験値は,次数 6 の Yld2000-2d
降伏関数による計算値とほぼ一致した。
(2) 穴広げ試験後の穴形状,穴縁に沿う板厚ひずみ分
布,半径方向板厚ひずみ分布を精密に測定した。これらの
実験値と最も近い計算値を与えたのは Yld2000-2d 降伏関
数であった。
(3) Swift 型および Voce 型の加工硬化式の差違の影響
Fig. 11. Measured true stress–logarithmic plastic strain
curves in rolling direction and those approximat- について検証した。von Mises と Yld2000-2d 降伏関数によ
ed using Swift’s and Voce’s power laws.
る計算値は加工硬化式の影響をほとんど受けなかった。一
方 Hill ’48 降伏関数による計算値は,加工硬化式の差違に
より大きく変動した。
(4) 2 軸引張試験結果の再現精度に最も優れる 6 次の
Yld2000-2d 降伏関数を用いてもなお,計算値と実験値との
間には差違が観察された。これは,硬化則として等方硬化
則を用いたことに起因している可能性がある。
(5) 以上総括すると,2 軸引張試験にもとづいて適切
な材料モデル(異方性降伏関数)を選択することが,穴広
げ解析における材料の変形挙動の予測精度向上に対して,
必要不可欠である。

文 献
1 ) E.Iizuka, T.Hira and A.Yoshitake: J. Jpn. Soc. Technol. Plast., 46
(2005), 625.
Fig. 12. Measured thickness strain at the hole edge, com- 2 ) M.Kuroda and V.Tvergaard: Int. J. Mech. Sci., 42 (2000), 867.
pared with those calculated using selected yield 3 ) プレス成形難易ハンドブック 第 3 版,薄鋼板成形技術研究会
functions with Voce’s law. 編,日刊工業新聞社,東京,(2007),118.
4 ) Y.Kurosaki and Y.Unno: Trans. Jpn.. Soc. Mech. Eng. C, 51 (1985),
409.
5 ) Y.Kurosaki, M.Tokiwa and K.Murai: Trans. Jpn. Soc. Mech. Eng. C,
摩擦係数の影響について検証する。本解析では素板とパ
52 (1986), 380.
ンチ,ダイ,ブランクホルダーとの摩擦係数はすべて 0 と 6 ) M.Gotoh, T.Hayashi and M.Misawa: Trans. Jpn. Soc. Mech. Eng. C,
した。しかしながら,穴広げ試験では潤滑材としてワセリ 59 (1993), 2855.
7 ) R.Yoshida, K.Hashimoto and H.Aga: Proc. 47th Japan Joint Conf.
ンを両面に塗布したテフロンシートをパンチと素板の間に Technol. Plasticity, (1996), 371.
挿入したが,厳密には摩擦係数は 0 ではない。そこで,素 8 ) H.Takuta, K.Mori, M.Kaneshiro and N.Hatta: Tetsu-to-Hagané, 84
(1998), 182.
板とパンチとの摩擦係数を 0.05,素板とダイ,ブランクホ 9 ) H.Takuta, Y.Ozawa, T.Hama, R.Yoshida and J.Nitta: J. Jpn. Soc.
ルダーとの摩擦係数を 0.15 とし,FEM 解析を行った。そ Technol. Plast., 49 (2008), 886.
10) M.J.Worswick and M.J.Finn: Int. J. Plasticity, 16 (2000), 701.
の結果,すべての降伏関数において板厚減少が抑制され, 11) Y.Ito and Y.Nakazawa: J. Jpn. Soc. Technol. Plast., 50 (2009), 1039.
その差は同一降伏関数間で板厚ひずみにして最大 0.003 で 12) T.Kuwabara, K.Hashimoto, E.Iizuka and J.W.Yoon: J. Jpn. Soc. Tech-
nol. Plast., 50 (2009), 925.
あり摩擦係数による影響はほとんどないことがわかった。 13) F.Barlat, J.C.Brem, J.W.Yoon, K.Chung, R.E.Dick, D.J.Lege, F.Pour-
boghrat, S.H.Choi and E.Chu: Int. J. Plasticity, 19 (2003), 1297.
14) T.Kuwabara, S.Ikeda and T.Kuroda: J. Mater. Process. Technol.,
6.結論 80–81 (1998), 517.
15) R.Hill, S.S.Hecker and M.G.Stout: Int. J. Solids Struct., 31 (1994),
2999.
軸対称穴広げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼ 16) R.Hill and J.W.Hutchinson: J. Appl. Mech., 59 (1992), S1.
す,異方性降伏関数の影響を明らかにすることを目的とし 17) R.Von Mises: Göttingen Nachrichten, Math.-Phys. Klasse, (1913),
582.
て,590 MPa 級高降伏比型冷延鋼板(板厚 1.2 mm)の 2 軸 18) R.Hill: Proc. R. Soc. (London), A193 (1948), 281.
引張試験を行い,異方性降伏関数を同定した。さらに穴広 19) M.Ishiki, T.Kuwabara, M.Yamaguchi, K.Maeda, Y.Hayashida and
Y.Itsumi: Trans. J. Soc. Mech. Eng. A, 75 (2009), 491.
げ実験と FEM 解析を行い,穴縁周辺の板厚分布について,

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