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PUBLICATION DATE
01-01-2010
HANDLE
10536/DRO/DU:30063152
Effect of Anisotropic Yield Functions on the Accuracy of Hole Expansion Simulations for 590 MPa Grade Steel Sheet
Kazuma HASHIMOTO, Toshihiko KUWABARA, Eiji IIZUKA and Jeong-Whan YOON
Synopsis : The deformation behavior of a high-strength steel alloy with a tensile strength of 590 MPa is investigated both experimentally and analytical-
ly to clarify the effect of the material model (anisotropic yield function) on the predictive accuracy of the finite element simulation of hole
expansion. Biaxial tensile tests of the test material have been carried out. Measured contours of plastic work and the directions of plastic
strain rates are found to be in good agreement with those predicted using the Yld2000-2d yield function with an exponent of 6. The
anisotropy in uniaxial tensile flow stresses and r-values has been also in good agreement with those predicted by the Yld2000-2d yield func-
tion, as opposed to the previous study [T.Kuwabara, K.Hashimoto, E.Iizuka and J.-W.Yoon: J. Jpn. Soc. Technol. Plast., 50 (2009), 925].
Forming simulations of and experiments on the hole expansion of the test material have been carried out using the von Mises, Hill’s quadrat-
ic and the Yld2000-2d yield functions with different exponents. The Yld2000-2d yield functions have given the closest agreement with the
experimental results. Consequently, it is found that anisotropic yield functions significantly affect the predictive accuracy of the deformation
behavior of an anisotropic sheet metal subjected to hole expansion and that the biaxial tensile test is effective in identifying a proper
anisotropic yield function to be used in the hole expansion simulation.
Key words : sheet metal forming; hole expansion test; finite element method; anisotropy; yield function; biaxial tensile test.
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558 鉄と鋼 Tetsu-to-Hagané Vol. 96 (2010) No. 9
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590 MPa 級冷延鋼板の穴広げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼす異方性降伏関数の影響 559
2 軸引張応力下における鋼板の加工硬化特性を定量的に ように配慮した。
評価するため,等塑性仕事面 15,16) を測定した。等塑性仕事
面は,以下の手順により求めた。まず圧延方向の単軸引張 3.FEM 解析
試験を行い,既定の対数塑性ひずみ e p0 に達した瞬間におけ
る単軸引張応力 s 0 と, e p0 に達するまでになされた単位体 静的陰解法 FEM ソフトウェア ABAQUS/Standard Ver. 6.6-
積あたりの塑性仕事 W を求める。さらに 2 軸引張試験およ 1 を用いて穴広げの FEM 解析を行った。素板の要素分割状
び圧延直角方向の単軸引張試験では,W と等量の塑性仕事 態を Fig. 4 に示す。対称性を考慮して,1/4 モデルで解析を
を与える応力点 (s x , s y)を求め,それらを主応力空間にプ 行った。要素分割は,円周方向に 2.5°,半径方向に 1 mm
ロットして,e p0 に対する等塑性仕事面を決定した。e p0 を十 の等分割とした。総要素数は 2880 である。素板には 4 節点
分に小さくとれば,等塑性仕事面は供試材の初期降伏曲面 低減積分シェル要素 S4R を用い,板厚方向の積分点数は 5
とみなすことができる。 とした。素板の初期板厚は 1.2 mm,穴径 d030 mm とした。
2·3 穴広げ試験 パンチ,ダイ,ブランクホルダーは解析的剛体とした。素
穴広げ試験に用いた金型寸法を Fig. 3 に示す。これらの 板とパンチ,ダイ,ブランクホルダーとの摩擦係数はすべ
金型は文献 12) で用いたものと同一である。パンチ径は て 0 とした。ビード部において材料の移動は生じないもの
100 mm,パンチ肩およびダイ肩の丸味半径はともに 15 とし,完全固定とした。
mm である。素板外周はビードにより固定した。素板の初 解析に用いた降伏関数は,von Mises17),Hill の 2 次降伏
期穴径は d030 mm とし,穴はワイヤー放電加工により開 関数 (Hill ’48)18),次数 M の Yld2000-2d13) である。Hill ’48
けた。潤滑材として,ワセリンを両面に塗布したテフロン の異方性パラメータの決定には,圧延方向から 0°,45°,
シートをパンチと素板の間に挿入した。パンチの上昇速度 90° 方向の単軸引張試験から測定された r 値(r0, r45, r90) と圧
は約 1 mm/s とした。素板には,円周方向に 10°,半径方向 延方向の塑性流動応力 s 0 を用いた。Yld2000-2d の異方性
に 2 mm の間隔で格子模様を焼付け,穴広げ試験後の板厚 パラメータの決定には,圧延方向から 0°,45°,90° 方向の
ひずみ測定における初期座標の同定に用いた。 単軸引張試験から測定された塑性流動応力 (s 0, s 45, s 90) お
素板の変形量の尺度として穴広げ率 l を用いる。穴広げ よび r 値 (r0, r45, r90) に加えて,等 2 軸引張試験から測定され
率 l は,初期穴径 d0,穴広げ試験後の穴径 d を用いて次式 た降伏応力 s b と塑性ひずみ速度比 rb(de py /de px)を用いた。
で定義される。 硬化則は等方硬化則を仮定した。また特に断らない限り,
Table 1 の 0° 方向の Swift 型の加工硬化式を用いた。
d d0
λ ( 1 ) Yld2000-2d による解析は,ユーザサブルーチン UMAT を
d0
介して行った。UMAT により導入された Yld2000-2d が,材
d0 および d の測定にはノギスを用いた。圧延方向から 0°, 料モデルとして正確に動作していることを確認するため
45°,90°,135° 方向における穴径を測定し,それらの平均 に,パッチワークテストを行い,Yld2000-2d が材料モデル
値をもって,d0 および d の測定値とした。 として正確に動作していることを確認済みである 12)。
実験値と計算値を定量的に比較するために,穴広げ試験
後の穴形状を工具顕微鏡で,穴縁直近(穴縁の約 1 mm 外 4.結果
側)の円周方向板厚分布,圧延方向,圧延方向から 45° 方
向,および圧延直角方向における半径方向の板厚分布をマ 4 · 1 2 軸引張試験結果
イクロメータで測定した。試験は 3 回行い,その平均値を 本供試材の等塑性仕事面の測定結果を Fig. 5(a)に示す。
測定値とした。この際,ストッパを用いてパンチを強制的
に停止させ,試験ごとのパンチストロークがばらつかない
Fig. 3. Experimental apparatus for hole expansion test. Fig. 4. Initial mesh division of a blank.
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の Yld2000-2d であった。さらに,穴縁に沿う板厚分布や
半径方向板厚分布について,実験値の傾向を最も精度よく
再現できたのも Yld2000-2d であった。このことより,前
報 12) 同様,2 軸引張試験にもとづいて適切な異方性降伏関
数を選択することが,穴広げ解析における材料の変形挙動
の予測精度向上に対して必要不可欠であることが明らかと
なった。実際,穴縁周辺の応力状態は応力空間の第 1 象限
に該当する。したがって,応力空間の第 1 象限における材
料の弾塑性変形挙動を正確に再現できる材料モデルが,穴
広げ解析における材料変形挙動の予測精度に優れるのは必
然といえる。
しかしながら,Yld2000-2d をもってしても,実験値との
完全な一致には至らなかった。筆者らは前報 12) において,
実験値と計算値の差違の原因の一つとして,供試材の面内
塑性異方性が,Yld2000-2d を用いても精度良く再現できな
いことを指摘した。しかしすでに Fig. 1 で示したように,
本供試材に関しては Yld2000-2d 降伏関数による面内塑性
異方性の再現精度は問題ない。
本解析では硬化則として等方硬化則を用いた。しかし
Fig. 5 から明らかなように,本供試材は異方硬化挙動を示
Fig. 10. (a) Fracture at l 0.33. (b) Thickness distribu- しているので,等方硬化則の仮定は厳密に言えば適切では
tions at l 0.33 calculated using selected yield
functions. ない。すなわち,実験値と計算値の差違は,等方硬化則を
仮定したことに起因している可能性がある。異方硬化挙動
与えたのは Yld2000-2d 降伏関数である。ただし,圧延方 を再現する方法として,Yld2000-2d 降伏関数の異方性パラ
向では次数 8,45° 方向では次数 4,90° 方向では次数 8 の場 メータを塑性仕事もしくは e p0 の関数として変化させる方法
合が実験値に最も近く,次数 6 の計算値は,常に次数 4 と が考えられる。しかし十字形試験片による測定可能な塑性
次数 8 の中間の値を与える。 ひずみは最大でも数 % であるので,穴広げ試験で供試材
穴縁近傍の割れの写真を Fig.10 に示す。割れは圧延方向 に付与されるほどの大きな塑性ひずみ範囲における硬化挙
で発生し,穴縁ではなく穴縁の外側で板を貫通した。この 動を測定することはできない。一方,供試材を曲げ成形,
ときの穴広げ率は l 0.33 であった。 溶接して管形状にすれば,筆者らの一人が純チタン板の異
l 0.33 における,von Mises,Hill ’48,Yld2000-2d 降伏 方硬化挙動の研究で行ったように,高ひずみ域における加
関数による板厚分布の計算結果を Fig.10(b) に示す。von 工硬化挙動の測定と定式が可能となる 19)。今後の研究課題
Mises では等方性を仮定しているので円周方向の板厚分布 として取り組む予定である。
は均一である。Hill ’48 では,45° 方向の穴縁より外側にお 次に加工硬化式の影響について検証する。圧延方向の単
いて板厚が最小となる。Fig. 8 からもわかるように,この 軸引張試験より得られた真応力 – 対数塑性ひずみ線図を
傾向は実験結果と相反する。Yld2000-2d では,Fig. 8 でも Fig.11 に示す。加工硬化式として,図中の Swift 型および
そうであったように,圧延方向および圧延直角方向の穴縁 Voce 型の 2 種類の加工硬化式を用いる。
近傍で板厚が最小となる。このように穴周辺の板厚分布の l 0.244 における,穴縁に沿う板厚ひずみ分布の実験値
傾向についても,von Mises,Hill ’48 に比べて Yld2000-2d および Voce 型の加工硬化式による FEM 計算値を Fig.12 に
による計算結果の方が実験結果の傾向により近いことがわ 示す。Yld2000-2d は Swift 型同様 e p00.04 において同定した
かった。 ものを用いている。Swift 型の加工硬化式による計算値
(Fig. 8)と比較すると,von Mises と Yld2000-2d による計算
5.考察 値は加工硬化式間の差違がほとんどない。一方 Hill ’48 に
よる計算値は,加工硬化式の差違が計算値に大きな差違を
4 章の結果より,前報 12)
同様,異方性降伏関数は穴広げ もたらした。すなわち Voce 型においては,q 45,135° 方
の解析精度に大きく影響することがわかった。2 軸引張試 向で板厚が最小となり,実験値と正反対の結果となった。
験によって測定された等塑性仕事面の形状と塑性ひずみ速 このように Hill ’48 降伏関数のみ加工硬化式の影響を大き
度の測定値に対して,最も近い計算値を与えたのは次数 6 く受ける原因については,現段階では不明である。
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590 MPa 級冷延鋼板の穴広げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼす異方性降伏関数の影響 563
実験値と計算値を詳細に比較し,その異同の原因を考察し
た。その結果,以下の知見を得た。
(1) 2 軸引張試験により測定された等塑性仕事面およ
び塑性ひずみ速度の方向の実験値は,次数 6 の Yld2000-2d
降伏関数による計算値とほぼ一致した。
(2) 穴広げ試験後の穴形状,穴縁に沿う板厚ひずみ分
布,半径方向板厚ひずみ分布を精密に測定した。これらの
実験値と最も近い計算値を与えたのは Yld2000-2d 降伏関
数であった。
(3) Swift 型および Voce 型の加工硬化式の差違の影響
Fig. 11. Measured true stress–logarithmic plastic strain
curves in rolling direction and those approximat- について検証した。von Mises と Yld2000-2d 降伏関数によ
ed using Swift’s and Voce’s power laws.
る計算値は加工硬化式の影響をほとんど受けなかった。一
方 Hill ’48 降伏関数による計算値は,加工硬化式の差違に
より大きく変動した。
(4) 2 軸引張試験結果の再現精度に最も優れる 6 次の
Yld2000-2d 降伏関数を用いてもなお,計算値と実験値との
間には差違が観察された。これは,硬化則として等方硬化
則を用いたことに起因している可能性がある。
(5) 以上総括すると,2 軸引張試験にもとづいて適切
な材料モデル(異方性降伏関数)を選択することが,穴広
げ解析における材料の変形挙動の予測精度向上に対して,
必要不可欠である。
文 献
1 ) E.Iizuka, T.Hira and A.Yoshitake: J. Jpn. Soc. Technol. Plast., 46
(2005), 625.
Fig. 12. Measured thickness strain at the hole edge, com- 2 ) M.Kuroda and V.Tvergaard: Int. J. Mech. Sci., 42 (2000), 867.
pared with those calculated using selected yield 3 ) プレス成形難易ハンドブック 第 3 版,薄鋼板成形技術研究会
functions with Voce’s law. 編,日刊工業新聞社,東京,(2007),118.
4 ) Y.Kurosaki and Y.Unno: Trans. Jpn.. Soc. Mech. Eng. C, 51 (1985),
409.
5 ) Y.Kurosaki, M.Tokiwa and K.Murai: Trans. Jpn. Soc. Mech. Eng. C,
摩擦係数の影響について検証する。本解析では素板とパ
52 (1986), 380.
ンチ,ダイ,ブランクホルダーとの摩擦係数はすべて 0 と 6 ) M.Gotoh, T.Hayashi and M.Misawa: Trans. Jpn. Soc. Mech. Eng. C,
した。しかしながら,穴広げ試験では潤滑材としてワセリ 59 (1993), 2855.
7 ) R.Yoshida, K.Hashimoto and H.Aga: Proc. 47th Japan Joint Conf.
ンを両面に塗布したテフロンシートをパンチと素板の間に Technol. Plasticity, (1996), 371.
挿入したが,厳密には摩擦係数は 0 ではない。そこで,素 8 ) H.Takuta, K.Mori, M.Kaneshiro and N.Hatta: Tetsu-to-Hagané, 84
(1998), 182.
板とパンチとの摩擦係数を 0.05,素板とダイ,ブランクホ 9 ) H.Takuta, Y.Ozawa, T.Hama, R.Yoshida and J.Nitta: J. Jpn. Soc.
ルダーとの摩擦係数を 0.15 とし,FEM 解析を行った。そ Technol. Plast., 49 (2008), 886.
10) M.J.Worswick and M.J.Finn: Int. J. Plasticity, 16 (2000), 701.
の結果,すべての降伏関数において板厚減少が抑制され, 11) Y.Ito and Y.Nakazawa: J. Jpn. Soc. Technol. Plast., 50 (2009), 1039.
その差は同一降伏関数間で板厚ひずみにして最大 0.003 で 12) T.Kuwabara, K.Hashimoto, E.Iizuka and J.W.Yoon: J. Jpn. Soc. Tech-
nol. Plast., 50 (2009), 925.
あり摩擦係数による影響はほとんどないことがわかった。 13) F.Barlat, J.C.Brem, J.W.Yoon, K.Chung, R.E.Dick, D.J.Lege, F.Pour-
boghrat, S.H.Choi and E.Chu: Int. J. Plasticity, 19 (2003), 1297.
14) T.Kuwabara, S.Ikeda and T.Kuroda: J. Mater. Process. Technol.,
6.結論 80–81 (1998), 517.
15) R.Hill, S.S.Hecker and M.G.Stout: Int. J. Solids Struct., 31 (1994),
2999.
軸対称穴広げ成形シミュレーションの解析精度に及ぼ 16) R.Hill and J.W.Hutchinson: J. Appl. Mech., 59 (1992), S1.
す,異方性降伏関数の影響を明らかにすることを目的とし 17) R.Von Mises: Göttingen Nachrichten, Math.-Phys. Klasse, (1913),
582.
て,590 MPa 級高降伏比型冷延鋼板(板厚 1.2 mm)の 2 軸 18) R.Hill: Proc. R. Soc. (London), A193 (1948), 281.
引張試験を行い,異方性降伏関数を同定した。さらに穴広 19) M.Ishiki, T.Kuwabara, M.Yamaguchi, K.Maeda, Y.Hayashida and
Y.Itsumi: Trans. J. Soc. Mech. Eng. A, 75 (2009), 491.
げ実験と FEM 解析を行い,穴縁周辺の板厚分布について,
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