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せん ち ひろ かみかく

「 千 と千 尋 の 神 隠し」全台詞集 (假名标注版)
*本脚本供电影爱好者和日语学习者阅读学习使用,版权属于原作者

ちひろ
父 千 尋。千尋、もうすぐだよ。
い なか か もの となりまち
母 やっぱり田 舎 ねー。買い 物 は 隣 町 に行くしかなさそうね。
す みやこ
父 住んで 都 にするしかないさ。
しょうがっこう ちひろ あたら がっこう
ほら、あれが 小 学 校 だよ。千尋、 新 しい 学 校だよ。
けっこう がっこう
母 結 構きれいな 学 校じゃない。


「しぶしぶ起きあがってあかんべをする千尋。」
まえ ほう
千尋 前 の 方 がいいもん。
はなしお
…あっ、あああ!おかあさん、お 花 萎 れてっちゃった!
にぎ みず き だいじょう ぶ
母 あなた、ずーっと 握 りしめてるんだもの。おうちについたら 水 切りすれば 大 丈 夫よ。
はじ はなたば わか かな
千尋 初 めてもらった 花 束 が、お 別 れの花束なんて 悲 しい…
たんじょう び
母 あら。この前のお 誕 生 日にバラの花をもらったじゃない?
いっぽん い
千尋 一 本 ね、一本じゃ花束って言えないわ。

母 カードが落ちたわ。
まどあ きょう いそが
窓 開けるわよ。もうしゃんとしてちょうだい!今日は 忙 しいんだから。

タイトル

みち ま ちが
父 あれ? 道 を間 違 えたかな?おかしいな…
母 あそこじゃない?ほら。
父 ん?
すみ あお いえ
母 あの 隅 の 青 い 家 でしょ?
いっぽんした みち き い
父 あれだ。 一 本 下 の 道 を来ちゃったんだな。…このまま行っていけるのかな。
まよ
母 やめてよ、そうやっていつも 迷 っちゃうんだから。
父 ちょっとだけ、ねっ。
千尋 あのうちみたいの何?
かみさま
母 石のほこら。 神 様 のおうちよ
だいじょうぶ
父 おとうさん、 大 丈 夫 ?
くるま よんく
父 まかせとけ、この 車 は四駆だぞ!
千尋 うぁっ―
すわ
母 千尋、 座 ってなさい。
千尋 あっ、うわっ…わっ、わっ!
ぅああああああっ!
母 あなた、いいかげんにして!

父 行き止まりだ!

たてもの
母 なあに?この 建 物 。
もん
父 門 みたいだね。
母 あなた、戻りましょう、あなた。
千尋?…もぅ。
せい あたら
父 何だ、モルタル 製 か。結構 新 しい建物だよ。
かぜ すいこ
千尋 … 風 を 吸 込んでる…
母 なぁに?

父 ちょっと行ってみない?むこうへ抜けられるんだ。
もど
千尋 ここいやだ。 戻 ろうおとうさん!
こわ
父 なーんだ。 恐 がりだな千尋は。ねっ、ちょっとだけ。
ひっこし
母 引 越 センターのトラックが来ちゃうわよ。
へい き かぎ わた ぜん ぶ
父 平 気だよ、カギは 渡 してあるし、 全 部やってくれるんだろ?
母 そりゃそうだけど…
千尋 いやだ、わたし行かないよ!
戻ろうよ、おとうさん!
父 おいで、平気だよ。
千尋 わたし行かない!
うぅ…あぁっ!
くるま なか ま
母 千尋は 車 の 中 で待ってなさい。
千尋 ぅぅ…おかあさーん!
まってぇーっ!
あしもと き
父 足 下 気をつけな。
ある
母 千尋、そんなにくっつかないで。 歩 きにくいわ。

千尋 ここどこ?

母 あっ。ほら聞こえる。
でんしゃ おと
千尋 … 電 車 の 音 !
あんがいえき ちか
母 案 外 駅 が 近 いのかもしれないね。
父 いこう、すぐわかるさ。

いえ
千尋 こんなとこに 家 がある…
ま ちが ざんがい
父 やっぱり間 違 いないな。テーマパークの 残 骸 だよ、これ。
けいかく つぶ
90 年頃にあっちこっちでたくさん 計 画 されてさ。バブルがはじけてみんな 潰 れちゃったんだ。こ
れもその一つだよ、きっと。
かえ
千尋 えぇーっ、まだ行くの!?おとうさん、もう 帰 ろうよぅ!
ねぇーーーっ!

千尋 おかあさん、あの建物うなってるよ。
かぜ な きも も よ
母 風 鳴りでしょ。気持ちいいとこねー、車の中のサンドイッチ持ってくれば良かった。
かわ つく
父 川 を 作 ろうとしたんだねー。
にお
ん?なんか 匂 わない?
母 え?
父 ほら、うまそうな匂いがする。
母 あら、ほんとね。
父 案外まだやってるのかもしれないよ、ここ。
母 千尋、はやくしなさい。
千尋 まーってー!

父 ふん、ふん…こっちだ。
あき ぜん ぶ た もの や
母 呆 れた。これ 全 部 食べ 物 屋よ。
だれ
千尋 誰 もいないねー。
父 ん?あそこだ!
おーい、おーい。
はぁー。うん、わぁ。
こっちこっち。
母 わぁー、すごいわねー。
父 すみませーん、どなたかいませんかー?
母 千尋もおいで、おいしそうよ。
父 すいませーん!
かねはら
母 いいわよ、そのうち来たらお 金 払 えばいいんだから。
父 そうだな。そっちにいいやつが…
とり
母 これなんていう 鳥 かしら。…おいしい!千尋、すっごくおいしいよ!
みせ ひと おこ
千尋 いらない!ねぇ帰ろ、お 店 の 人 に 怒 られるよ。
さいふ
父 大丈夫、お父さんがついてるんだから。カードも 財 布も持ってるし。
ほね やわ
母 千尋も食べな。 骨 まで 柔 らかいよ。
からし
父 辛子。
母 ありがと。
千尋 おかぁさん、おとぅさん!

あきら ある だ あぶら や たてもの み


「 諦 めて 歩 き出す千尋。 油 屋の 建 物 を見つける。」

千尋 へんなの。

千尋 電車だ!…?
さま
ハク 様 …!ここへ来てははいけない!すぐ戻れ!
千尋 えっ?
よる
ハク様 じきに 夜 になる!その前に早く戻れ!
あ はい いそ わたし じかん かせ かわ む はし
…もう明かりが 入 った、 急 いで! 私 が 時 間を 稼 ぐ、 川 の向こうへ 走 れ!

千尋 なによあいつ…

あ はい どう じ かげ うご だ
「明かりが 入 ると 同 時に、たくさんの 影 が 動 き出す。」
千尋 ……!おとうさーん!
おとうさん帰ろ、帰ろう、おとうさーん!
ぶた ふ む
「座っていた 豚 が振り向く。」
千尋 ひぃぃ…っ
たお
「豚がたたかれて 倒 れる。」
豚 ブギィィィ!
千尋 ぅわぁあーっ!
おとおさーん、おかあさーん!
おかあさーん、ひっ!
ぎゃああーーっ!

みず
千尋 ひゃっ!… 水 だ!
ゆめ
うそ… 夢 だ、夢だ!さめろさめろ、さめろ!
さめてぇ…っ…
き き
これはゆめだ、ゆめだ。みんな消えろ、消えろ。きえろ。
す ・・・ゆめ ぜったい
あっ…ぁあっ、透けてる!ぁ … 夢 だ、 絶 対 だ!

ふね せつがん かすが で
「 船 が 接 岸 し、 春 日 さまが出てくる。」

千尋 ひっ…ひっ、ぎゃあああーーっ!

さが くらやみ み かた だ
「千尋を 捜 すハク。 暗 闇 にいる千尋を見つけて 肩 を抱く。」

千尋 っっっ!
こわ わたし み かた
ハク様 怖 がるな。 私 はそなたの味 方 だ。
千尋 いやっ、やっ!やっっ!
くち あ はや せかい た き
ハク様 口 を開けて、これを 早 く。この 世 界 のものを食べないとそなたは消えてしまう。
千尋 いやっ!…っ!?
か の
ハク様 大丈夫、食べても豚にはならない。噛んで飲みなさい。
千尋 …ん…んぅ…んー…っ
さわ
ハク様 もう大丈夫。 触 ってごらん。
千尋 さわれる…
ハク様 ね?さ、おいで。
千尋 おとうさんとおかあさんは?どこ?豚なんかになってないよね!?
むり かなら あ
ハク様 今は無理だけど 必 ず会えるよ。…!
しず
静 かに!

かべ お じょうくう ゆ と
「ハクが千尋を 壁 に押しつけると、 上 空 を湯ばーばが飛んでいく。」

さが じ かん はし
ハク様 そなたを 捜 しているのだ。時 間 がない、 走 ろう!
千尋 ぁっ…立てない、どうしよう!力が入んない…
お つ ふか いき す ・・・ うち かぜ みず な ・・・ と
ハク様 落ち着いて、 深 く 息 を吸ってごらん … そなたの 内 なる 風 と 水 の名において … 解き
はな
放 て…

立って!
千尋 あっ、うわっ!

「走り出す二人。」

はし わた あいだ いき
ハク様 … 橋 を 渡 る 間 、 息 をしてはいけないよ。
す は じゅつ と みせ もの き
ちょっとでも吸ったり吐いたりすると、 術 が解けて 店 の 者 に気づかれてしまう。
千尋 こわい…
こころ しず
ハク様 心 を 鎮 めて。

はや つ
従業員 いらっしゃいませ、お 早 いお着きで。いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。
しょよう もど
ハク様 所 用 からの 戻 りだ。
従業員 へい、お戻りくださいませ。
ふか す と
ハク様 深 く吸って…止めて。

み おく
「カオナシが千尋を見 送 る。」

湯女 いらっしゃい、お待ちしてましたよ。
すこ
ハク様 しっかり、もう 少 し。
どこ い
青蛙 ハク様ぁー。何処へ行っておったー?
千尋 …!ぶはぁっ
青蛙 ひっ、人か?
ハク様 …!走れ!
青蛙 …ん?え、え?

あおかえる じゅつ に
「 青 蛙 に 術 をかけて逃げるハク。」

ひと はい こ くさ
従業員 ハク様、ハク様!ええい匂わぬか、 人 が 入 り込んだぞ! 臭いぞ、臭いぞ!
かん
ハク様 勘 づかれたな…
千尋 ごめん、私 息しちゃった…
がん ば はな き
ハク様 いや、千尋はよく 頑 張った。これからどうするか 離 すからよくお聞き。ここにいては必ず
見つかる。
ごまか ぬ だ
私が行って誤魔化すから、そのすきに千尋はここを抜け出して…
ねが
千尋 いや!行かないで、ここにいて、お 願 い!
せかい い の りょうしん たす
ハク様 この 世 界 で生き延びるためにはそうするしかないんだ。ご 両 親 を 助 けるためにも。
ぶた
千尋 やっぱり 豚 になったの夢じゃないんだ…
ハク様 じっとして…
さわ おさ うら ど で そと かいだん いちばんした
騒 ぎが 収 まったら、 裏 のくぐり戸から出られる。 外 の 階 段 を 一 番 下 まで下りるんだ。そこ
しつ いりぐち ひ た
にボイラー 室 の 入 口 がある。火を焚くところだ。
なか かまじい ひと あ
中 に 釜 爺 という 人 がいるから、釜爺に会うんだ。
千尋 釜爺?
はたら たの ことわ ねば
ハク様 その人にここで 働 きたいと 頼 むんだ。 断 られても、 粘 るんだよ。
しごと も もの ゆばーば どうぶつ
ここでは仕事を持たない 者 は、 湯婆 婆に 動 物 にされてしまう。
千尋 湯婆婆…って?
あ わ しはい まじょ いや かえ い
ハク様 会えばすぐに分かる。ここを 支 配している魔女だ。 嫌 だとか、 帰 りたいとか言わせるよ
しむ はたら い つら た ま
うに仕向けてくるけど、 働 きたいとだけ言うんだ。 辛 くても、耐えて機会を待つんだよ。そうす
て だ
れば、湯婆婆には手は出せない。
千尋 うん…

従業員 ハク様ぁー、ハク様ー、どちらにおいでですかー?
わす み かた
ハク様 いかなきゃ。 忘 れないで、私は千尋の味 方 だからね。
な し
千尋 どうして私の名を知ってるの?
ハク様 そなたの小さいときから知っている。私の名は――ハクだ。

ハク様 ハクはここにいるぞ。
従業員 ハク様、湯婆婆さまが…
ハク様 分かっている。そのことで外へ出ていた。

かいだん むか おそ おそ ぶ だ いちだんすべ お
「 階 段 へ 向 う千尋。 恐 る 恐 る踏み出し、 一 段 滑 り落ちる。」

千尋 ぃやっ!
はっ、はぁっ…

いちだん ふ だ かいだん こわ はし だ
「もう 一 段 踏み出すと 階 段 が 壊 れ、はずみで 走 り出す。」

千尋 わ…っいやああああーーーーっ!やあぁああああああー!

お しつ
「なんとか下まで降り、そろそろとボイラー 室 へむかう。」
かまじい あと あつ かま さわ
「ボイラー室で 釜 爺 をみて 後 ずさりし、 熱 い 釜 に 触 ってしまう。」

千尋 あつっ…!

おと
「カンカンカンカン(ハンマーの 音 )」

千尋 あの…。すみません。
かまじい
あ、あのー…あの、 釜 爺 さんですか?
釜爺 ん?…ん、んんーー?
い はたら
千尋 …あの、ハクという人に言われてきました。ここで 働 かせてください!
よ りん おと
「リンリン(呼び 鈴 の 音 )」

いちど
釜爺 ええい、こんなに 一 度に…
チビども、仕事だー!

「カンカンカンカンカンカン」

かまじじ ふ ろ かま つか
釜爺 わしゃあ、 釜 爺 だ。風呂 釜 にこき 使 われとるじじいだ。
チビども、はやくせんか!
千尋 あの、ここで働かせてください!
て た
釜爺 ええい、手は足りとる。そこら中ススだらけだからな。いくらでも代わりはおるわい。

千尋 あっ、ごめんなさい。
あっ、ちょっと待って。
釜爺 じゃまじゃま!

千尋 …あっ。

おも つぶ せきたん も あ に かえ
「 重 さで 潰 れたススワタリの 石 炭 を持ち上げる千尋。ススワタリは逃げ 帰 ってゆく。」

千尋 あっ、どうするのこれ?
ここにおいといていいの?
釜爺 手ぇ出すならしまいまでやれ!
千尋 えっ?…

せきたん かま はこ まね
「 石 炭 を 釜 に 運 ぶと、ススワタリみんなが潰れた真似をしだす。」
「カンカンカンカン」

釜爺 こらあー、チビどもー!ただのススにもどりてぇのか!?
き て だ ひと しごと と はたら まほう
あんたも気まぐれに手ぇ出して、 人 の仕事を取っちゃならね。 働 かなきゃな、こいつらの 魔法

は消えちまうんだ。
しごと ほか あ
ここにあんたの仕事はねぇ、 他 を当たってくれ。
もんく しごと
…なんだおまえたち、文句があるのか?仕事しろ仕事!
リン メシだよー。なぁんだまたケンカしてんのー?
よしなさいよもうー。うつわは?ちゃんと出しといてって言ってるのに。
きゅうけい
釜爺 おお…メシだー、 休 憩 ー!

リン うわ!?
にんげん うえ おおさわ
人 間 がいちゃ!…やばいよ、さっき 上 で 大 騒 ぎしてたんだよ!?
まご
釜爺 わしの… 孫 だ。
リン まごォ?!
ゆ ば ー ば つ
釜爺 働きたいと言うんだが、ここは手が足りとる。おめぇ、湯婆婆ンとこへ連れてってくれねえ
あと じ ぶん
か? 後 は自 分 でやるだろ。
ころ
リン やなこった!あたいが 殺 されちまうよ!
くろ や
釜爺 これでどうだ?イモリの 黒 焼き。じょうほんだぞ。
けいやく うん ため
どのみち働くには湯婆婆と 契 約 せにゃならん。自分で行って、 運 を 試 しな。
リン …チェッ!そこの子、ついて来な!
千尋 あっ。
せわ
リン …あんたネェ、はいとかお世話になりますとか言えないの!?
千尋 あっ、はいっ。
リン どんくさいね。はやくおいで。
くつ も くつした
靴 なんか持ってどうすんのさ、 靴 下 も!
千尋 はいっ。
れい い せわ
リン あんた。釜爺にお 礼 言ったの?世話になったんだろ?
千尋 あっ、うっ!…ありがとうございました。
釜爺 グッドラック!

おく
リン 湯婆婆は建物のてっぺんのその 奥 にいるんだ。
早くしろよォ。
千尋 あっ。
はな
リン 鼻 がなくなるよ。
千尋 っ…
いっかい の つ
リン もう 一 回 乗り継ぐからね。
千尋 はい。

リン いくよ。
…い、いらっしゃいませ。
きゃく うえ まい ほか さが くだ
お 客 さま、このエレベーターは 上 へは 参 りません。 他 をお 探 し 下 さい。

千尋 ついてくるよ。
リン きょろきょろすんじゃないよ。

とうちゃく
蛙男 到 着 でございます。
みぎ て ざ しき
右 手のお座 敷 でございます。
?…リン。
リン はーい。(ドン!)
千尋 ぅわっ!
にんげん
蛙男 なんか匂わぬか? 人 間 だ、おまえ人間くさいぞ。
リン そーですかぁー?
かく しょうじき もう
蛙男 匂う匂う、うまそうな匂いだ。おまえなんか 隠 しておるな? 正 直 に 申 せ!
リン この匂いでしょ。
蛙男 黒焼き!…くれぇーっ!
がた たの
リン やなこった。お姉さま 方 に 頼 まれてんだよ。
あしいっぽん
蛙男 頼む、ちょっとだけ、せめて 足 一 本 !
リン 上へ行くお客さまー。レバーをお引き下さーい。

「『二天』につくが、『天』まで千尋を連れて行くおしらさま。」
おく あ
「 奥 のドアを開けようとする千尋。」

湯婆婆 …ノックもしないのかい!?
千尋 やっ!?
むすめ
湯婆婆 ま、みっともない 娘 が来たもんだね。
さぁ、おいで。…おいでーな~。
千尋 わっ!わ…っ!
いったぁ~…
あたま よ
「 頭 が寄ってくる。」

千尋 ひっ、うわぁ、わあっ…わっ!
湯婆婆 うるさいね、静かにしておくれ。
千尋 あのー…ここで働かせてください!

ま ほう
「魔 法 で口チャックされる千尋。」

ばか
湯婆婆 馬鹿なおしゃべりはやめとくれ。そんなひょろひょろに何が出来るのさ。
にんげん く やおよろず かみさまたち つか く
ここはね、 人 間 の来るところじゃないんだ。 八 百 万 の 神 様 達 が 疲 れをいやしに来るお
ゆや
湯屋なんだよ。
おや く ち とうぜん むく
それなのにおまえの 親 はなんだい?お客さまの食べ物を豚のように食い散らして。 当 然 の 報
いさ。
もと せ かい もど
おまえも 元 の世 界 には 戻 れないよ。
こぶた せきたん て
… 子 豚にしてやろう。ぇえ? 石 炭 、という手もあるね。
ふる 。・・・ よ だれ しんせつ せわ
へへへへへっ、 震 えているね 。…でもまあ、良くここまでやってきたよ。 誰 かが 親 切 に世話を

焼いたんだね。
誉めてやらなきゃ。誰だい、それは?教えておくれな…
千尋 …あっ。ここで働かせてください!
湯婆婆 まァだそれを言うのかい!
千尋 ここで働きたいんです!
湯婆婆 だァーーーまァーーーれェーーー!

やと み あま
湯婆婆 なんであたしがおまえを 雇 わなきゃならないんだい!?見るからにグズで! 甘 ったれ
な むし あたま わる こむすめ しごと
で!泣き 虫 で! 頭 の 悪 い 小 娘 に、仕事なんかあるもんかね!
ことわ い じょうこくつぶ ふ
お 断 りだね。これ以 上 穀 潰 しを増やしてどうしようっていうんだい!
いちばん し ごと し
それとも… 一 番 つらーーいきつーーい仕 事 を死ぬまでやらせてやろうかぁ…?

湯婆婆 …ハッ!?
坊 あーーーーん、あーーん、ああああーーー
湯婆婆 やめなさいどうしたの坊や、今すぐ行くからいい子でいなさいね…まだいたのかい、さっ
さと出て行きな!
千尋 ここで働きたいんです!
こえ だ ・・・ ま こ
湯婆婆 大きな 声 を出すんじゃない … うっ!あー、ちょっと待ちなさい、ね、ねぇ~。いい子だか
ら、ほぉらほら~。
千尋 働かせてください!
湯婆婆 わかったから静かにしておくれ!
おおぉお~よ~しよし~…

かみ ほう と
「 紙 とペンが千尋の 方 へ飛んでくる。」

けいやくしょ なまえ か はたら か いや かえ


湯婆婆 契 約 書 だよ。そこに 名 前を書きな。 働 かせてやる。その代わり 嫌 だとか、 帰 りた
い こぶた
いとか言ったらすぐ 子 豚にしてやるからね。
千尋 あの、名前ってここですか?
湯婆婆 そうだよもぅぐずぐずしないでさっさと書きな!
ちか
まったく…つまらない 誓 いをたてちまったもんだよ。働きたい者には仕事をやるだなんて…
書いたかい?
千尋 はい…あっ。
湯婆婆 フン。千尋というのかい?
千尋 はい。
ぜいたく な
湯婆婆 贅 沢 な名だねぇ。
せん へん じ せん
今からおまえの名前は千だ。いいかい、 千 だよ。分かったら 返 事をするんだ、 千 !
せん
千 は、はいっ!

ハク様 お呼びですか。
湯婆婆 今日からその子が働くよ。世話をしな。
ハク様 はい。…名はなんという?
千 え?ち、…ぁ、千です。
ハク様 では千、来なさい。

千 ハク。あの…
む だ くち
ハク様 無駄 口 をきくな。私のことは、ハク様と呼べ。
千 …っ

父役 いくら湯婆婆さまのおっしゃりでも、それは…
にんげん こま
兄役 人 間 は 困 ります。
すで
ハク様 既 に契約されたのだ。
父役 なんと…
千 よろしくお願いします。

湯女 あたしらのとこには寄こさないどくれ。
ひとくさ
湯女 人 臭くてかなわんわい。
もの みっか た にお き つか もの や
ハク様 ここの 物 を 三 日も食べれば 匂 いは消えよう。それで 使 い 物 にならなければ、焼こう
に す
が煮ようが好きにするがいい。
し ごと もど どこ
仕 事 に 戻 れ!リンは何処だ。

リン えぇーっ、あたいに押しつけんのかよぅ。
て した
ハク様 手 下 をほしがっていたな。
てきやく
父役 そうそう、リンが 適 役 だぞ。
リン えーっ。
ハク様 千、行け。
千 はいっ。
う あ
リン やってらんねぇよ!埋め合わせはしてもらうからね!
兄役 はよいけ。

リン フン!…来いよ。

リン …おまえ、うまくやったなぁ!
千 えっ?
しんぱい ゆ だん き
リン おまえトロイからさ、 心 配 してたんだ。油 断 するなよ、わかんないことはおれに聞け。
な?
千 うん。
リン …ん?どうした?
あし
千 足 がふらふらするの。
へや く ね げんき
リン ここがおれたちの部屋だよ。食って寝りゃ 元 気になるさ。
はら が じぶん あら はかま
腹 掛け。 自 分で 洗 うんだよ。… 袴 。チビだからなぁ…。でかいな。
千 リンさん、あの…
リン なに?
ふたり
千 ここにハクっていうひと 二 人いるの?
リン 二人ぃ?あんなの二人もいたらたまんないよ。…だめか。
て さき
あいつは湯婆婆の手 先 だから気をつけな。
千 …んっ…ん…
リン …おかしいな…あああ、あったあった。ん?
おい、どうしたんだよ?しっかりしろよぅ。
女 うるさいなー。なんだよリン?
きも わる しん い
リン 気持ち 悪 いんだって。 新 入りだよ。

とり と み おく
「湯婆婆が 鳥 になって飛んでいく。見 送 るハク。」
ね せん しの
「寝ている 千 のもとへ、ハクが 忍 んでくる。」

はし ところ あ
ハク様 橋 の 所 へおいで。お父さんとお母さんに会わせてあげる。

へや ぬ だ せん
「部屋を抜け出す 千 。」

くつ
千 靴 がない。
…あ。ありがとう。

て ふ
「ススワタリに手を振る千。」
「橋の上でカオナシに会う。」

ハク様 おいで。

はな あいだ とお ちくしゃ
「 花 の 間 を 通 り 畜 舎 へ。」

千 …おとうさんおかあさん、私よ!…せ、千よ!おかあさん、おとうさん!
びょう き
病 気かな、ケガしてる?
いっぱい ね にんげん いま わす
ハク様 いや。おなかが 一 杯 で寝ているんだよ。 人 間 だったことは 今 は 忘 れている。
たす ふと
千 うっ…くっ…おとうさんおかあさん、きっと 助 けてあげるから、あんまり 太 っちゃだめだよ、食
べられちゃうからね!

かきね した せん ふく わた
「 垣 根の 下 でうずくまる 千 。ハクが 服 を 渡 す。」

かく
ハク様 これは 隠 しておきな。
す おも
千 あっ!…捨てられたかと 思 ってた。
ハク様 帰るときにいるだろう?
わか
千 これ、お 別 れにもらったカード。ちひろ?…千尋って…私の名だわ!
あい て な うば し はい ほんとう
ハク様 湯婆婆は 相 手の名を 奪 って支 配 するんだ。いつもは千でいて、 本 当 の名前はしっ
かり隠しておくんだよ。

千 私、もう取られかけてた。千になりかけてたもん。
な うば かえ みち わ
ハク様 名を 奪 われると、 帰 り 道 が分からなくなるんだよ。私はどうしても思い出せないんだ。
千 ハクの本当の名前?
ふしぎ おぼ
ハク様 でも不思議だね。千尋のことは 覚 えていた。
はん
お食べ、ご 飯 を食べてなかったろ?
千 食べたくない…
げん き で まじな つく
ハク様 千尋の 元 気が出るように 呪 いをかけて 作 ったんだ。お食べ。
千 …ん…ん、んっ……うわぁああーー、わぁああーーー、あぁああーーん…
ハク様 つらかったろう。さ、お食べ。
千 ひっく…うぁあーーん…

ひとり
ハク様 一人で戻れるね?
千 うん。ハクありがとう、私がんばるね。
ハク様 うん。

かえ ぎわ そら のぼ しろ りゅう み
「 帰 り 際 、 空 に 昇 る 白 い 竜 を見つける。」
千 わぁっ。

かまじい みず の お ね せん み ざぶとん か
「 釜 爺 が 水 を飲みに起き、寝ている 千 を見つける。座布団を掛けてやる。」

「湯婆婆が戻ってくる。」

リン どこ行ってたんだよ。心配してたんだぞ。
千 ごめんなさい。

な ふだ か てまど せん
「名 札 を掛けるのに手間取る 千 。」

湯女 じゃまだねぇ。

ちから
リン 千、もっと 力 はいんないの?
おおゆばん
兄役 リンと千、今日から 大 湯 番 だ。
かえる
リン えぇーっ、あれは 蛙 の仕事だろ!
うわやく めいれい ほねみ お
兄役 上 役 の 命 令 だ。 骨 身 を惜しむなよ。

みず す く せん そと た
「 水 を捨てに来る 千 。 外 に立っているカオナシを見つける。」


千 あの、そこ濡れませんか?
はや
リン 千、 早 くしろよ!
千 はーーい。…ここ、開けときますね。

おおゆ
湯女 リン、 大 湯 だって?
リン ほっとけ!

リン ひでぇ、ずーっと洗ってないぞ。

ころ
「 転 ぶ千。」

千 うわっ!…あーっ。
ふろ よご きゃくせんもん と
リン ここの風呂はさ、 汚 しのお 客 専 門 なんだよ。うー、こびりついてて取れやしねえ。
いちばんきゃく き
兄役 リン、千。 一 番 客 が来ちまうぞ。
リン はーーい今すぐ!チッ、下いびりしやがって。
いっかい くすり ゆ い せん ばんだい ふだ
一 回 薬 湯入れなきゃダメだ。 千 、 番 台 行って 札 もらってきな。
千 札?…うわっ!
リン 薬湯の札だよ!
千 はぁーい。…リンさん、番台ってなに?

湯婆婆 ん?…なんだろうね。なんか来たね。
あめ まぎ まぎ こ
雨 に 紛 れてろくでもないものが 紛 れ込んだかな?

まち すす
「 街 を 進 んでくるオクサレさま。」

でき よ やす
番台蛙 そんなもったいないことが出来るか!…おはようございます!良くお 休 みになられまし
たか!
かすがさま
湯女 春 日 様 。
いおう じょう おな
番台蛙 はい、 硫黄の 上 !…いつまでいたって 同 じだ、戻れ戻れ!手でこすればいいんだ!
て つか て
おはようございます!…手を 使 え手を!
くすりゆ
千 でも、あの、 薬 湯 じゃないとダメだそうです。
番台蛙 わからんやつだな…あっ、ヨモギ湯ですね。どーぞごゆっくり…
千 あっ…

はいご えしゃく
「 背 後 にカオナシを見つけて 会 釈 する千。」

番台蛙 んん?

「リリリリリ」

番台蛙 はい番台です!…あっ、…うわっ!?
千 あっ!ありがとうございます!
ちが
番台蛙 あー、 違 う!こら待て、おい!
湯婆婆 どしたんだい!?
番台蛙 い、いえ、なんでもありません。
湯婆婆 なにか入り込んでるよ。
番台蛙 人間ですか。
しら きょう
湯婆婆 それを 調 べるんだ。今日はハクがいないからね。

リン へぇーずいぶんいいのくれたじゃん。

これがさ、釜爺のとこへ行くんだ。混んでないからすぐ来るよきっと。
ひ ゆ で
これを引けばお湯が出る。やってみな。
千 うわっ!…
リン 千てほんとドジなー。
いろ
千 うわ、すごい 色 …
ひもの はい にご おな
リン こいつにはさ、ミミズの 干 物が 入 ってんだ。こんだけ 濁 ってりゃこすらなくても 同 じだな。
いっかいひ と はな だいじょうぶ あさめしと
いっぱいになったらもう 一 回 引 きな、止まるから。もう 放 して 大 丈 夫 だよ。おれ 朝 飯 取って
くんな!
千 はぁーい。…あっ。

み ふろ えん お
「カオナシを見つける。風呂の 縁 から落ちる千。」

千 うわっ!…いったぃ…った…
あの、お風呂まだなんです。
わ…こんなにたくさん…
えっ、私にくれるの?
カオナシ あ、あ、…
千 あの…それ、そんなにいらない。
カオナシ あ、…
千 だめよ。ひとつでいいの。
カオナシ あ…

千 え…あっ!

「釜から水があふれる。」

千 うわぁっ!
おくさま
父役 奥 様 !
かみ
湯婆婆 クサレ 神 だって!?
とくだい
父役 それも 特 大 のオクサレさまです!
はし む
従業員 まっすぐ 橋 へ向かってきます!

従業員達 お帰り下さい、お帰り下さい!
かえ くだ ひ と くだ かえ くだ
青蛙 お 帰 り 下 さい、お引き取り 下 さい、お 帰 り 下 さい!
うっ…くっさいぃ~…!

湯婆婆 ぅう~ん…おかしいね。クサレ神なんかの気配じゃなかったんだが…
むか
来ちまったものは仕方がない。お 迎 えしな!
こうなったら出来るだけはやく引き取ってもらうしかないよ!

兄役 リンと千、湯婆婆様がお呼びだ。
千 あ、はいっ!
はつしごと
湯婆婆 いいかい、おまえの 初 仕 事 だ。これから来るお客を大湯で世話するんだよ。
千 …あの~…
よん ご い せきたん
湯婆婆 四 の五の言うと、 石 炭 にしちまうよ。わかったね!
父役 み、見えました…ウッ…

湯婆婆・千 ウゥッ…!
しつれい
湯婆婆 …おやめ!お客さんに 失 礼 だよ!
が・が・…ヨク オコシクダしゃいマシタ…
はや う とり
え?あ オカネ…千!千! 早 くお受け 取 りな!
千 は、はいっ!
(ベチャッ)
千 うゥ…!
あんない
湯婆婆 ナニ してるんだい…!ハヤク ご 案 内 しな!
千 ど どうぞ …

リン セーーーン!
うぇっ…くっせえ…あっ、メシが!

まど あ ぜんぶ
湯婆婆 窓 をお開け! 全 部 だよ!

おお ゆ と こ うなが
「 大 湯に飛び込み、千に何かを 促 すオクサレさま。」

千 えっ?ぁ、…ちょっと待って!

「上から見ている湯婆婆と父役。」

きたな
湯婆婆 フフフフ、 汚 いね。
わら ごと
父役 笑 い 事 ではありません。
湯婆婆 あの子どうするかね。
た ゆ き
…ほぉ、足し湯をする気だよ。
きたな て かべ さわ
父役 あぁああ、 汚 い手で 壁 に 触 りおって!

千 あっ…あっ!

ふだ さ お ほか と おく
「 札 を下げようとして落とす千。 他 の札を取って釜爺に 送 る。」

湯婆婆 んん?千に新しい札あげたのかい?
父役 まさかそんなもったいない…

千 わっ!

ゆ ひも ひ
「湯の 紐 を引きながら落ちる千。ヘドロにはまる。」

こうか くすりゆ
父役 あああーっ、あんな高価な 薬 湯 を!

ひ ぱ だ て ふ
「オクサレさまに引っ張り出される千。何かに手を触れる。」

千 …?あっ?
リン セーーーン!千どこだ!
千 リンさん!
さいこう
リン だいじょぶかあ!釜爺にありったけのお湯出すように頼んできた! 最 高 の薬湯おごってく
れるって!

千 ありがとう!あの、ここにトゲみたいのが刺さってるの!
リン トゲーー?
ふか
千 深 くて取れないの!

湯婆婆 トゲ?トゲだって?…ううーん…
した にんずう あつ
下 に 人 数 を 集 めな!
父役 えぇっ?
いそ
湯婆婆 急 ぎな!
千とリン、そのお方はオクサレ神ではないぞ!
づか
このロープをお 使 い!
千 はいっ!
リン しっかり持ってな!
千 はいっ!
おんな ちから あ
湯婆婆 ぐずぐずするんじゃないよ! 女 も 力 を合わせるんだ!
むす
千 結 びました!
ゆ や いちどう こころ
湯婆婆 んーーー湯屋 一 同 、 心 をこめて!エイヤーーーーソーーーーレーーーー
一同 そーーーれ、そーーーーれ!
そーーーれ、そーーーーれ!
じてんしゃ
千 自 転 車?
湯婆婆 やはり!さぁ、きばるんだよ!

「オクサレさまからたくさんのゴミが出てくる。」

河の主 はァーーー…

千 うっわっ…わあっ!

みず なが つつ
「 水 の 流 れに 包 まれる千。」
リン セーーーン!だいじょぶかあ!?

よ かな
河の主 …佳き 哉 …
千 あっ…

のこ だんご
「千の手に 残 る 団 子。」

湯婆婆 んん…?
さきん
従業員 砂金だ!
砂金だ!わあーっ!
湯婆婆 静かにおし!お客さまがまだおいでなんだよ!
じゃま お
千!お客さまの 邪魔だ、そこを下りな!
おおど あ かえ
大 戸を開けな!お 帰 りだ!

河の主 あははははははははは…

神様達 やんやーーやんやーー!
おお
湯婆婆 セーン!よくやったね、 大 もうけだよ!
かわ ぬし みならい いっぽんつ
ありゃあ名のある 河 の 主 だよ~。みんなも千を 見 習 いな!今日は 一 本 付 けるからね。
みんな おぉーー!
湯婆婆 さ、とった砂金を全部だしな!
みんな えぇーーっ!そりゃねえやな…

「仕事が終わって、部屋の前でくつろぐ千。」

リン 食う?かっぱらってきた。
千 ありがとう。
リン あー、やれやれ…
千 …ハク、いなかったねー。
ときどき うわさ
リン まぁたハクかよー。…あいつ 時 々 いなくなるんだよ。 噂 じゃさぁ、湯婆婆にやばいことや
らされてんだって。
千 そう…

女 リン、消すよー。
リン あぁ。
まち うみ
千 街 がある… 海 みたい。
あめ ふ
リン あたりまえじゃん、 雨 が降りゃ海くらいできるよ。
おれいつかあの街に行くんだ。こんなとこ絶対にやめてやる。

「ふと、団子をかじってみる千。」

千 ヴッ…うぅっ…
リン ん?…どうした?

にんき おおゆ しの こ あおかえる


「 人 気のない 大 湯に 忍 び込む 青 蛙 。」

青蛙 ん?んんーーっ…
さ きん なにもの きゃくじん はい
…砂 金 だ!…あ。おぬし! 何 者 だ。 客 人 ではないな。そこに 入 ってはいけないのだぞ!
きん
…おっ!おっ、 金 だ金だ!こ、これをわしにくれるのか?
カオナシ あ、あ…
きん だ
青蛙 き、 金 を出せるのか?
カオナシ あ、あ、…
青蛙 くれ~っ!

青蛙 わあっ!

「カオナシにひとのみにされる青蛙。」

しょうとうじかん す
兄役 誰ぞそこにおるのか? 消 灯 時 間 はとうに過ぎたぞ。
うっ…?
あにえき はら へ はら
カオナシ 兄 役 どの、おれは 腹 が減った。 腹 ぺこだ!
兄役 そ、その声は…
まえきん う と きゃく ふろ はい お
カオナシ 前 金 だ、受け取れ。わしは 客 だぞ、風呂にも 入 るぞ。みんなを起こせぇっ!

千 お父さんお母さん、河の神様からもらったお団子だよ。これを食べれば人間に戻れるよ、きっ
と!
いっせい
「たくさんの豚が 一 斉 にこっちを見る。」

千 お父さんお母さんどこ?おとうさーん…

千 ハッ!…やな夢。
…リン?…誰もいない…

千 わぁっ、本当に海になってる!
ここからお父さんたちのとこ見えるんだ。
ひ た
釜爺がもう火を焚いてる。そんなに寝ちゃったのかな…

兄役 お客さまがお待ちだ、もっと早くできんのか!?
なまに
父役 生 煮えでもなんでもいい、どんどんお持ちしろ!
リン セーン!
千 リンさん。
いまお い おも み
リン 今 起こしに行こうと 思 ったんだ。見な!
ほんもの きん きまえ
本 物 の 金 だ、もらったんだ。すげー 気前のいい客が来たんだ。


「大湯に浸かってごちそうを食べまくるカオナシ。」

カオナシ おれは腹ぺこだ。ぜーーんぶ持ってこい!

千 そのお客さんって…

リン 千も来い。湯婆婆まだ寝てるからチャンスだぞ。
千 あたし釜爺のとこ行かなきゃ。
ふきげん
リン 今 釜爺のとこ行かない方がいいぞ、たたき起こされてものすごい不機嫌だから!
女たち リン、もいっかい行こ!
リン ああ!

「部屋に戻る千。」

千 …おとうさんとおかあさん、分からなかったらどうしよう。おとうさんあんまり太ってたらやだな
ー。
はあ…

うみ なか しろ りゅう しきかみ お
「 海 の 中 を 白 い 竜 が 式 神 に追いかけられていく。」

千 ん?…あぁっ!
橋のとこで見た竜だ!こっちに来る!
なんだろう、鳥じゃない!…ひゃっ!
ハクーっ、しっかりーっ!こっちよーっ!…ハク!?
ハクーっ!

へや りゅう と こ まど し しきがみ と
「部屋に 竜 が飛び込む。 窓 を閉めようとする千に、 式 神 が飛びかかる。」

千 うわぁっ!わぁああーっ!…あっ?
…ただの紙だ…

千 ハクね、ハクでしょう?
ケガしてるの?あの紙の鳥は行ってしまったよ。もう大丈夫だよ。…わっ!

湯婆婆のとこへ行くんだ。どうしよう、ハクが死んじゃう!

お はし だ かた は つ
「竜を追って 走 り出す千の 肩 に式神が張り付く。」

よ きわ だいじん
兄役 そーれっ、さーてはこの世に 極 まれる♪お 大 尽 さまのおなりだよ♪そーれっ
みんな いらっしゃいませ!
兄役 それおねだり♪あ、おねだり♪おねだり♪

さわ か
「 騒 ぎの中をエレベータへ駆けていく千。」

蛙男 おっ…と。こら、何をする。
千 上へ行くんです。
だめ だめ ち
蛙男 駄目だ駄目だ。…ん?あっ!血だ!

千 あっ…
とお
兄役 どけどけ!お客さまのお 通 りだ!
千 あ、あのときはありがとうございます。
兄役 何をしてる、早ぅど…うっ!?
カオナシ あ、あ、あ…

りょうて きん さ だ
「千に 両 手 いっぱいの 金 を差し出す。」

カオナシ え、え、…

千 …欲しくない。いらない!
カオナシ え、え…
いそが しつれい
千 私 忙 しいので、 失 礼 します!

むら ぐんしゅう ぬ
「こぼした金に 群 がる 群 衆 をすり抜けて千が出ていく。」

しず しず さ さ
兄役 ええい、 静 まれ! 静 まらんか!下がれ下がれ!
ぶれい いた しんまい にんげん こむすめ
これは、とんだご 無 礼 を 致 しました。なにぶん 新 米 の 人 間 の 小 娘 でございまして…
なぜわら わら
カオナシ …おまえ、何故笑う。 笑 ったな。
兄役 ぇえっ、めっそうもない!
兄役・湯女 わっ、わっ、わああっ!

まるの
「 丸 呑みにされる兄役と湯女。皆がパニックで散っていく。」「窓からパイプづたいにはしごへ行こ
はず くず
うとする千。走り出すと、パイプが 外 れて 崩 れていく。」

千 わっ、わっ、わっ、わあっっ!

のぼ だ
「かろうじてはしごに飛びつく千。はしごを 登 り出す。」

千 はぁっ、はぁっ…あっ!湯婆婆!
うっ、くっ…くっ!くっ…あぁっ!

まど お あ せん しきかみ かぎ はず なか お ぼう へや
「 窓 を押し開けようとする 千 。 式 神 がカギを 外 して 中 に落ちる。 坊 の部屋へ。」

まった
湯婆婆 全 くなんてことだろねぇ。
千 !
しょうたい
湯婆婆 そいつの 正 体 はカオナシだよ。そう、カ オ ナ シ!
よく
欲にかられてとんでもない客を引き入れたもんだよ。あたしが行くまでよけいなことをすんじゃな
いよ!
しきもの よご かた
…あぁあ~、 敷 物 を 汚 しちまって。おまえたち、ハクを 片 づけな!
千 はっ!
湯婆婆 もうその子は使いもんにならないよ!
千 あっ…あ、あ、あ…

「クッションの中に隠れる千。湯婆婆が来てクッションを探る。」

湯婆婆 ばぁ~。
坊 んんーー、ああー…ああーー…
ぼう
湯婆婆 もぅ 坊 はまたベッドで寝ないで~。
坊 あ…あああーーーん、ああーん…
湯婆婆 あぁああごめんごめん、いい子でおねんねしてたのにねぇ。ばぁばはまだお仕事がある
の。
(ブチュ)
いいこでおねんねしててねぇ~。

いた はな たす いそ
千 …あっ!…ぅう 痛 い 離 してっ!あっ、 助 けてくれてありがとう、私 急 いで行かなくちゃなら
ないの、離してくれる?
坊 おまえ病気うつしにきたんだな。
千 えっ?
坊 おんもにはわるいばいきんしかいないんだぞ。
めずら
千 私、人間よ。この世界じゃちょっと 珍 しいかもしれないけど。
からだ
坊 おんもは 体 にわるいんだぞ。ここにいて坊とおあそびしろ。
びょうき
千 あなた 病 気 なの?
坊 おんもにいくと病気になるからここにいるんだ。
千 こんなとこにいた方が病気になるよ!…あのね、私のとても大切な人が大けがしてるの。だか
らすぐいかなきゃならないの。お願い、手を離して!
坊 いったらないちゃうぞ。坊がないたらすぐばぁばがきておまえなんかころしちゃうぞ。こんな手
すぐおっちゃうぞ。
もど あそ
千 うぅ痛い痛い!…ね、あとで 戻 ってきて 遊 んであげるから。
坊 ダメ今あそぶの!
千 うぅっ……
坊 …あ?

千 血!わかる?!血!
坊 …うわぁあーーああぁあぁあーーーー!

千 あっ!ハクーーーー!
何すんの、あっち行って!しっしっ!ハク、ハクね!?しっかりして!
静かにして!ハク!?…あっ!

すき あたま
「湯バードにたかられる千。その 隙 に 頭 たちがハクを落とそうとする。」

千 あっ、わっ…あっち行って!
あっ!だめっ!

「部屋から坊が出てくる。」

坊 んんっ…んんんっ…
血なんかへいきだぞ。あそばないとないちゃうぞ。
千 待って、ね、いい子だから!
坊 坊とあそばないとないちゃうぞ…ぅええ~~…
千 お願い、待って!

式神 …うるさいねぇ。静かにしておくれ。
坊 ぇえ…?
ふと す
式神 あんたはちょっと 太 り過ぎね。

ゆか ぜにーば あら
「 床 から 銭 婆 が 現 われる。」


銭婆 やっぱりちょっと透けるわねえ。
坊 ばぁば…?
くべつ
銭婆 やれやれ。お母さんとあたしの 区別もつかないのかい。
「魔法でねずみにされる坊。」
ほう すこ うご
銭婆 その 方 が 少 しは 動 きやすいだろ?
さぁてと…おまえたちは何がいいかな?

「湯バードはハエドリに、頭は坊にされる。」

千 あっ…
しゃべ くち さ
銭婆 ふふふふふふ、このことはナイショだよ。誰かに 喋 るとおまえの 口が裂けるからね。
千 あなたは誰?
ふたご あね けんぶつ おもしろ
銭婆 湯婆婆の 双 子の 姉 さ。おまえさんのおかげでここを 見 物 できて 面 白 かったよ。さぁそ
りゅう わたり
の 竜 を 渡 しな。
千 ハクをどうするの?ひどいケガなの。
いもうと てさき りゅう だいじ ぬす
銭婆 そいつは 妹 の 手先のどろぼう 竜 だよ。私の所から 大事なハンコを 盗 みだした。
やさ ひと
千 ハクがそんなことしっこない! 優 しい 人 だもん!
おろ まほう ちから て い いもうと でし
銭婆 竜はみんな優しいよ…優しくて 愚 かだ。 魔法の 力 を手に入れようとして 妹 の弟子に
なるなんてね。
わかもの よくぶか
この 若 者 は 欲 深 な妹のいいなりだ。さぁ、そこをどきな。どのみちこの竜はもう助からないよ。
まも まじない ぬす し
ハンコには 守 りの 呪 いが掛けてあるからね、 盗 んだものは死ぬようにと…
千 …いや!だめ!

いじ
「坊になった頭が坊ネズミとハエドリを 虐 めている。」

れんちゅう
銭婆 なんだろね、この 連 中 は。これおやめ、部屋にお戻りな。
白竜 グゥ…!

すき りゅう お しきかみ ひ さ
「 隙 をついて 竜 の尾が 式 神 を引き裂く。」

ゆ だん
銭婆 !…あぁら油 断 したねぇ~…
はんどう
「 反 動 で落ちる竜と千、坊ネズミ、ハエドリ。」

千 ハク、あ、きゃああーーーっ!
ハクーーーっ!

みず げんえい う
「落ちていく中で 水 の 幻 影 が浮かぶ。」
ふ しぼ よこあな はい かん き せん やぶ
「力を振り 絞 って 横 穴 に 入 る竜。 換 気 扇 を 破 ってボイラー室に出る。」

釜爺 なっ…わあっ!
千 ハク!
釜爺 なにごとじゃい!ああっ、待ちなさい!
くる
千 ハクっ! 苦 しいの!?
釜爺 こりゃあ、いかん!
千 ハクしっかり!どうしよう、ハクが死んじゃう!
いのち く あ
釜爺 体の中で何かが 命 を食い荒らしとる。
千 体の中?!
釜爺 強い魔法だ、わしにゃあどうにもならん…

千 ハク、これ河の神様がくれたお団子。効くかもしれない、食べて!
へいき
ハク、口を開けて!ハクお願い、食べて!…ほら、 平 気だよ。
くだんご
釜爺 そりゃあ、苦団子か?
千 あけてぇっ…いい子だから…大丈夫。飲み込んで!
白竜 グォウッ、グオッ…!

釜爺 出たっ、コイツだ!
千 あっ!
ハンコ!

釜爺 逃げた!あっちあっち、あっち!
千 あっ、あっ!あぁあああっ、ああああっ!
(ベチャッ!)
釜爺 えーんがちょ、せい!えーんがちょ!

切った!
千 おじさんこれ、湯婆婆のおねえさんのハンコなの!
けいやくじるし
釜爺 銭婆の?…魔女の 契 約 印 か!そりゃあまた、えらいものを…
千 ああっ、やっぱりハクだ!おじさん、ハクよ!
釜爺 おお…お…
千 ハク!ハク、ハクーっ!
いき
おじさん、ハク 息 してない!
きず ゆだん
釜爺 まだしとるがな。…魔法の 傷 は 油 断 できんが。

お つ
釜爺 …これで少しは落ち着くといいんじゃが…
とつぜん まほうつか
ハクはな、千と同じように 突 然 ここにやってきてな。 魔 法 使 いになりたいと言いおった。
はんたい でし
ワシは 反 対 したんだ、魔女の弟子なんぞろくな事がないってな。聞かないんだよ。もう帰るとこ
ろはないと、とうとう湯婆婆の弟子になっちまった。
かおいろ わる め
そのうちどんどん 顔 色 が 悪 くなるし、目つきばかりきつくなってな…
かえ
千 釜爺さん、私これ、湯婆婆のおねえさんに 返 してくる。
あやま おし
返して、 謝 って、ハクを助けてくれるよう頼んでみる。お姉さんのいるところを 教 えて。
こわ
釜爺 銭婆の所へか?あの魔女は 怖 えーぞ。
千 お願い。ハクは私を助けてくれたの。
わたし、ハクを助けたい。
釜爺 うーん…行くにはなぁ、行けるだろうが、帰りがなぁ…。待ちなさい。
たしか…どこに入れたか…
くつ ふく
千 みんな、私の 靴 と 服 、お願いね。

リン 千!ずいぶんさがしたんだぞ!
千 リンさん。
リン ハクじゃん。…なんかあったのかここ。なんだそいつら?
あたら ともだち
千 新 しい 友 達 なの。ねっ。
さが
リン 湯婆婆がカンカンになっておまえのこと 探 してるぞ。
千 えっ?
き まえ ば
リン 気 前 がいいと思ってた客がカオナシって化けもんだったんだよ。湯婆婆は千が引き入れた
って言うんだ。
千 あっ…そうかもしれない。
リン ええっ!ほんとかよ!
千 だって、お客さんだと思ったから。
さんにん の
リン どうすんだよ、あいつもう 三 人 も呑んじゃったんだぞ。
釜爺 あったこれだ!千あったぞ!
いまいそが
リン じいさん 今 忙 しいんだよ。
釜爺 これが使える。
でんしゃ きっ ぷ
リン 電 車 の 切 符じゃん、どこで手に入れたんだこんなの。
つか のこ むっ め ぬま そこ えき
釜爺 四十年前の 使 い 残 りじゃ。いいか、電車で 六 つ目の 沼 の 底 という 駅 だ。
千 沼の底?
釜爺 とにかく六つ目だ。
千 六つ目ね。
ま ちが むかし もど でんしゃ ちかごろ
釜爺 間 違 えるなよ。 昔 は 戻 りの 電 車 があったんだが、 近 頃 は行きっぱなしだ。
それでも行くか千?
せん ろ
千 うん、帰りは 線 路を歩いてくるからいい。
リン 湯婆婆はどうすんだよ?
千 これから行く。
ハク、きっと戻ってくるから、死んじゃだめだよ。
リン …何がどうしたの?
あい
釜爺 わからんか。 愛 だ、愛。

湯女 きゃああぁーーっ!ま、ますます大きくなってるよ!

湯女 いやだ、あたい食われたくない!
湯女 来たよ!

おさ
父役 千か、よかった、湯婆婆様ではもう 抑 えられんのだ。
あば
湯婆婆 なにもそんなに 暴 れなくても、千は来ますよ。
カオナシ 千はどこだ。千を出せ!
いそ
父役 さ、 急 げ。
湯婆婆様、千です。
おそ
湯婆婆 遅 い!…お客さま、千が来ましたよ。ほんのちょっとお待ち下さいね。
おおぞん しぼ しぼ
何をぐずぐずしてたんだい!このままじゃ 大 損 だ、あいつをおだてて 絞 れるだけ金を 絞 りだ
せ…ん?
坊ネズミ チュー。
きたな
湯婆婆 なんだいその 汚 いネズミは。
ぞん
千 えっ、あのー、ご 存 じないんですか?
し わけ
湯婆婆 知る 訳 ないだろ。おーいやだ。さ、いきな!…ごゆっくり。
父役 千ひとりで大丈夫でしょうか。

湯婆婆 おまえが代わるかい?
父役 エっ?
湯婆婆 フン!


カオナシ これ、食うか?うまいぞー。
ほか だ
金を出そうか?千の 他 には出してやらないことにしたんだ。
こっちへおいで。千は何がほしいんだい?言ってごらん。
千 あなたはどこから来たの?私すぐ行かなきゃならないとこがあるの。
カオナシ ウゥッ…
千 あなたは来たところへ帰った方がいいよ。私がほしいものは、あなたにはぜったい出せない。
カオナシ グゥ…
千 おうちはどこなの?お父さんやお母さん、いるんでしょ?
カオナシ イヤダ…イヤダ…サビシイ…サビシィ…
千 おうちがわからないの?

カオナシ 千欲しい…千欲しい…
欲しがれ。
千 私を食べる気?
カオナシ それ…取れ…
坊ネズミ チュウ!(ガブ)
カオナシ ケッ…
千 私を食べるなら、その前にこれを食べて。本当はお父さんとお母さんにあげたかったんだけど、
あげるね。
カオナシ …ウッ!グハァ…ゲホ、ゲホ…
こむすめ く
セェン… 小 娘 が、何を食わし…オグゥ…

は お
「カオナシが吐きながら千を追いかける。」

ど ゆる
湯婆婆 みんなお退き!お客さまとて 許 せぬ!
カオナシ オグゥ…!
湯婆婆 あらっ!?

千 こっちだよー!こっちー!
カオナシ グゥゥ…

に まわ は だ
「逃げ 回 る千を追いかけるカオナシ。湯女と兄役を吐き出す。」

カオナシ グハァッ…!…ハァッ、ハァッ…許せん…

そと で りん たらいせん だ ま
「 外 に出ると、リンが 盥 船 を出して待っている。」

リン セーーン!こっちだー!
千 こっーちだよー!
リン 呼んでどうすんだよ!
カオナシ あ、あ、…
ゆや ほう
千 あの人湯屋にいるからいけないの。あそこを出た 方 がいいんだよ。
リン だってどこ連れてくんだよー!
千 わかんないけど。
リン わかんないって…!…あーあついてくんぞあいつ…

カオナシ …ごふっ!

「青蛙を吐き出すカオナシ。」

青蛙 ん?

リン こっから歩け。
千 うん。
リン 駅は行けば分かるって。
千 ありがとう。
リン 必ず戻って来いよ!
千 うん!

と け
リン セーーン!おまえのことどんくさいって言ったけど、取り消すぞーー!
ゆる
カオナシ!千に何かしたら 許 さないからな!
千 あれだ!
電車が来た。くるよっ。

ぬま そこ
千 あの、 沼 の 底 までお願いします。
えっ?…あなたも乗りたいの?
カオナシ あ、あ、…
千 あの、この人もお願いします。

カオナシ あ、あ、…
千 おいで。おとなしくしててね。

めざ ゆ お
「ボイラー室で目覚めるハク。釜爺を揺り起こす。」

ハク様 おじいさん。
き つ
釜爺 ん?んん…おおハク、気が付いた。
ハク様 おじいさん、千はどこです。何があったのでしょう、教えてください。
おぼ
釜爺 おまえ、なにも 覚 えてないのか?
ぎ ぎ やみ
ハク様 …切れ切れにしか思い出せません。 闇 の中で千尋が何度も私を呼びました、その声を
頼りにもがいて…気が付いたらここに寝ていました。
あい ちから
釜爺 そうか、千尋か。あの子は千尋というのか。…いいなあ、 愛 の 力 だなあ…

すがた だんろ
「ガウン 姿 で 暖 炉の前に座る湯婆婆。」

う あ
湯婆婆 これっぱかしの金でどう埋め合わせするのさ。千のバカがせっかくのもうけをフイにしち
まって!
青蛙 で、でも、千のおかげでおれたち助かったんです。
たね かって だ
湯婆婆 おだまり!みんな自分でまいた 種 じゃないか。それなのに 勝 手に逃げ出したんだよ。
おや みす
あの子は自分の 親 を見捨てたんだ!
おやぶた た ごろ
親 豚 は食べ 頃 だろ、ベーコンにでもハムにでもしちまいな。
ハク様 お待ち下さい。
青蛙 ハク様!

湯婆婆 なぁんだいおまえ。生きてたのかい。
たいせつ か
ハク様 まだ分かりませんか? 大 切 なものがすり替わったのに…
なま い き くち き えら
湯婆婆 ずいぶん 生 意気な 口を利くね。いつからそんなに 偉 くなったんだい?
フン…

ま さき たし あわ ひとみ み
「真っ 先 に金を 確 かめる湯婆婆を 哀 れげな 瞳 で見るハク。」
ぼう め む じゅつ と あたま に
「ふと 坊 に目を向け 術 を解くと、 頭 たちが逃げていく。」

湯婆婆 な…あ…あ…

きんかい つち か
「 金 塊 も 土 に代わる。」

湯婆婆 …ああ…きぃいいいーーー坊ーーーー!
つち
青蛙 土 くれだ!
湯婆婆 坊ーーーーーー!どこにいるの、坊ーーーー!
出てきておくれ、坊ーー!坊、坊!
…おぉのぉれぇぇええーーー!キィイイイーー!
あぁたしの坊をどこへやったぁーーー!
ハク様 銭婆のところです。
湯婆婆 銭婆…?…あぁ…

せいあくじょ か
湯婆婆 なるほどね。 性 悪 女 め…それであたしに勝ったつもりかい。
で!?どうすんだい!?
ぼう つ もど か りょうしん にんげん せかい もど
ハク様 坊 を連れ 戻 してきます。その代わり、千と 両 親 を 人 間 の 世 界 へ 戻 してやってく
ださい。
ご やっ ざ
湯婆婆 それでおまえはどうなるんだい!?その後あたしに 八 つ裂きにされてもいいんか
い!?

千 この駅でいいんだよね。…行こう。
つか も あ
「 疲 れて坊ネズミを持ち上げられないハエドリ。坊ネズミが自分で歩き出す。」

かた の
千 肩 に乗っていいよ。

むし ある つづ
「坊ネズミは無視して 歩 き 続 ける。」
いっぽんあし でんとう と いえ みちあんない
「 一 本 足 の 電 灯 が跳んできて、 家 まで 道 案 内 をする。」

銭婆 おはいり。
千 失礼します。
銭婆 入るならさっさとお入り。
千 おいで。
銭婆 みんなよく来たね。
千 あっ、あのっ…!
すわ いま ちゃ い
銭婆 まあお 座 り。 今 お 茶 を入れるからね。
ぬす かえ
千 銭婆さん、これ、ハクが 盗 んだものです。お 返 しに来ました。
銭婆 おまえ、これがなんだか知ってるかい?
あやま
千 いえ。でも、とっても大事なものだって。ハクの代わりに 謝 りに来ました。ごめんなさい!
銭婆 …おまえ、これを持ってて何ともなかったかい?
千 えっ?
まも まじない き
銭婆 あれ? 守 りの 呪 いが消えてるね。
へん むし ふ
千 …すいません。あのハンコに付いてた 変 な 虫 、あたしが踏みつぶしちゃいました!
あやつ
銭婆 踏みつぶしたぁ?…あっはははははは。あんたその虫はね、妹が弟子を 操 るために竜
はら しの こ
の 腹 に 忍 び込ませた虫だよ。踏みつぶした…はっはははは…
さぁお座り。おまえはカオナシだね。おまえもお座りな。
もと
千 あっ、あの…この人たちを 元 に戻してあげてください。
銭婆 おや?あんたたち魔法はとっくに切れてるだろ。戻りたかったら戻りな。
(ぷるぷる)

いちにんまえ
銭婆 あたしたち二人で 一 人 前 なのに気が合わなくてねぇ。ほら、あの人ハイカラじゃないじゃ
ない?
ふた ご
魔女の 双 子なんてやっかいの元ね。

おまえを助けてあげたいけど、あたしにはどうすることも出来ないよ。この世界の決まりだからね。
両親のことも、ボーイフレンドの竜のことも、自分でやるしかない。
千 でも、あの、ヒントかなにかもらえませんか?ハクと私、ずっとまえに会ったことがあるみたい
なんです。
ばなし はや いち ど わす おも だ
銭婆 じゃ 話 は 早 いよ。 一 度あったことは 忘 れないものさ… 想 い出せないだけで。
こんや てつだ
ま、 今 夜は遅いからゆっくりしていきな。おまえたち 手 伝ってくれるかい?

まほう つく
銭婆 ほれ、がんばって。そうそう、うまいじゃないか。ほんとに助かるよ。 魔法で 作 ったんじゃ何
にもならないからねぇ。
に かいつづ
そこをくぐらせて…そう、二 回 続 けるんだ。
あいだ
千 おばあちゃん、やっぱり帰る。…だって…こうしてる 間 にも、ハクが死んじゃうかもしれない。
お父さんやお母さんが食べられちゃうかもしれない…。
かみ ど
銭婆 まぁ、もうちょっとお待ち。…さぁ、できたよ。 髪 留めにお使い。
千 わぁ…きれい。
つむ いと あ こ
銭婆 お守り。みんなで 紡 いだ 糸 を編み込んであるからね。
千 ありがとう。

銭婆 いい時に来たね。お客さんだよ、出ておくれ。
千 はい。

千 ああっ…!ハク!
ハク、会いたかった…ケガは?もう大丈夫なの?よかったぁ…
銭婆 ふふふ、グッドタイミングね。
千 おばあちゃん、ハク生きてた!
とが
銭婆 白竜、あなたのしたことはもう 咎 めません。そのかわり、その子をしっかり守るんだよ。
さぁ坊やたち、お帰りの時間だよ。また遊びにおいで。
坊ネズミ ちゅう。
て だす
銭婆 おまえはここにいな。あたしの手 助 けをしておくれ。
カオナシ あ、あ…
千 おばあちゃん!…ありがとう、私行くね。

銭婆 だいじょうぶ。あんたならやり遂げるよ。
千 私の本当の名前は、千尋っていうんです。
銭婆 ちひろ。いい名だね。自分の名前を大事にね。
千 はい!
銭婆 さ、お行き。
千 うん!
おばあちゃん、ありがとう!さよなら!

りゅう の と た
「 竜 に乗って飛び立つ千。」
き おく みず なが くつ
「記 憶 がフラッシュバックする。 水 に 流 れていく 靴 。水に落ちるだれか…。」

千 …ハク、聞いて。お母さんから聞いたんで自分では覚えてなかったんだけど、私、小さいとき
川に落ちたことがあるの。

その川はもうマンションになって、埋められちゃったんだって…。
おも だ こ はくかわ
でも、今 思 い出したの。その川の名は…その川はね、琥 珀 川 。あなたの本当の名は、琥珀川

しゅんかん はくりょう かがや うろこ は お


「 瞬 間 、 白 竜 から 輝 く 鱗 が剥がれ落ち、ハクの姿になっていく。」

千 ああっ!
ハク様 千尋、ありがとう。私の本当の名は、ニギハヤミ コハクヌシだ。
千 ニギハヤミ…?
ハク様 ニギハヤミ、コハクヌシ。
千 すごい名前。神様みたい。
ひろ
ハク様 私も思いだした。千尋が私の中に落ちたときのこと。靴を 拾 おうとしたんだね。
こはく あさ せ はこ うれ
千 そう。琥珀が私を 浅 瀬に 運 んでくれたのね。 嬉 しい…

あさ あぶら や
「 朝 。 油 屋の前で皆が待っている。」

リン 帰ってきたーー!
みんな おおっ…
ぼう つ もど
湯婆婆 坊 は連れて 戻 ってきたんだろうね?…えっ?
坊 ばぁば!
湯婆婆 坊ーー!

ケガはなかったかい!?ひどい目にあったねぇ!…坊!あなた一人で立てるようになったの?
え?
やくそく
ハク様 湯婆婆様、 約 束 です!千尋と両親を人間の世界に戻してください!

湯婆婆 フン!そう簡単にはいかないよ、世の中には決まりというものがあるんだ!
みんな ブー、ブー!
湯婆婆 うるさいよっ!
坊 ばぁばのケチ。もうやめなよ。
湯婆婆 へっ?
おもしろ
坊 とても 面 白 かったよ、坊。
まじな と
湯婆婆 へぇっ?ででででもさぁ、これは決まりなんだよ?じゃないと 呪 いが解けないんだよ?
な きら
坊 千を泣かしたらばぁば 嫌 いになっちゃうからね。
湯婆婆 そ、そんな…
千 おばあちゃん!
湯婆婆 おばあちゃん?
千 今、そっちへ行きます。

おきて
千 掟 のことはハクから聞きました。
かく ご けいやくしょ ぼう お
湯婆婆 フン、いい 覚 悟だ。これはおまえの 契 約 書 だよ、こっちへおいで。… 坊 、すぐ終わる
からねぇ。
千 大丈夫よ。
湯婆婆 この中からおまえのお父さんとお母さんを見つけな。
あ じ ゆう
チャンスは一回だ。ピタリと当てられたらおまえたちゃ自 由 だよ。

千 …?おばあちゃんだめ、ここにはお父さんもお母さんもいないもん。
こた
湯婆婆 いない!?それがおまえの 答 えかい?
千 ……うん!

やぶ き けいやくしょ
「ボン!と 破 れ消える 契 約 書 。」

湯婆婆 ヒッ!?
ぶた ば じゅうぎょういん あ
豚 に化けた 従 業 員 たち おお当たりーー!
みんな やったあ!よっしゃーーー!
千尋 みんなありがとう!

湯婆婆 行きな!おまえの勝ちだ!早くいっちまいな!
千尋 お世話になりました!
湯婆婆 フン!
千尋 さよなら!ありがとう!

千尋 ハク!
ハク様 行こう!
千尋 お父さんとお母さんは!?
さき
ハク様 先 に行ってる!

千尋 水がない…
もと き みち けっ ふ
ハク様 私はこの先には行けない。千尋は 元 来た 道 をたどればいいんだ。でも 決 して振り向い
ちゃいけないよ、トンネルを出るまではね。
千尋 ハクは?ハクはどうするの?
へい き な と もど
ハク様 私は湯婆婆と話をつけて弟子をやめる。 平 気さ、ほんとの名を取り 戻 したから。
元の世界に私も戻るよ。
千尋 またどこかで会える?
ハク様 うん、きっと。
千尋 きっとよ。
ハク様 きっと。
さぁ行きな。振り向かないで。

むす て なごりざんお はな
「 結 んだ手が 名 残 惜 しそうに 離 れる。」

もん い ぐち
「 門 の入り 口 で、父と母が待っている。」

母 千尋ー。なにしてんの、はやく来なさい!
千尋 ああっ…!
お母さん、お父さん!
きゅう
母 だめじゃない、 急 にいなくなっちゃ。
父 行くよ。
千尋 お母さん、何ともないの?
ひっこ つ
母 ん? 引越しのトラック、もう着いちゃってるわよ。
ふ む
「振り向こうとして、とどまる千尋。」

父 千尋ー。早くおいでー。
あしもと き
足 下 気をつけな。
母 千尋、そんなにくっつかないでよ。歩きにくいわ。

で ぐち
父 出 口 だよ。…あれ?
母 なぁに?
父 すげー…あっ、中もほこりだらけだ。
母 いたずら?
父 かなあ?
母 だからやだっていったのよー…

母 オーライオーライ、平気よ。
父 千尋、行くよー。
母 千尋!早くしなさい!

む み め ひるがえ かみ まも ひか
「トンネルの向こうを見つめる目を、 翻 す千尋の 髪 にあのお 守 りが 光 っていた。」

おわり

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