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納得しない人のための

i
微分•積分学(再)入門
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山崎洋平著

現代数学社
まえがき

本書の目的を一言でいえば素人の素朴な疑問に対して玄人の通り相場で
はぐらかされたという印象を与えることなく返答することである.
本書の対象である解析学(またの名を微分積分学)が現代社会を支える
科学技術の基本であることはそれに携わる人々にとって常識であり,一般
人でもそのことを自覚する人は多い.またその所産は生活のあらゆるとこ
ろに溶け込んでいて,仮にそれに背を向けようにも実行するのは古の世捨
て人以上に困難である.かくも重要な科目であるが,その正確な習得は容
易ではなく,楽観的な思い込みに基づく議論がひきもきらないその典型
例が「広義積分と極限の交換」である.数学サイドでは「広義積分」とい
う不完全な体系を脱して「ルベーグ積分」の世界で処理すれば解決する•••

と往々にして説明される.
そのルベーグ積分の収束定理では「優関数条件」が要求されるが, この
前提条件をみたさない設定でこの定理を適用する「横着な」ユーザーが後
を絶たない…と専門家は顔をしかめる.実際にはそんな計算結果の多くが
「たまたま正しい J値に符合しているのだが,そういう「たまたま」の符
合を組織的に説明する理論は提示されていない.一方でこういった楽観的
な議論には反例がついているのだが,いかにも作為的で迫力に欠ける.因
みにこういった反例を軽視する理屈付けらしきものは想像に難くない.そ
こで周到に作為臭を払拭した上で結果が合わないようにした例を「たまた
ま正しい」計算をしていそうな人々に見せると,間違い計算であることが
腑に落ちないという反応を示す.
人それぞれに言い分もあろうが,「横着な J計算結果の多くが「たまた
ま正しい」という現状を見ると数学サイドの人間としで柵泥たる思いがす
る.ユーザーの関心は計算値が結果論的に正しいかどうかにあって,計算
手段が由緒正しいとみなされているかどうかにはない.「由緒正しくない
計算はどうも合っていない」と思われてこそ,人はその由緒に依拠しよう
とするのである.本書執筆の大きな動機はここにある
ところで「解析学」は「完備な実数体」上のいささかデリケートな議論
.
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l
の上に構成されており「ルベーグ積分」に至ってはかなりの辛抱を要する.
それでも本来の要求に応えるものであれば我慢すべきだという言い分に説
得力が出てくるのだが,陳述成立のためというより定番どおりの証明が成
立するための要請である「優関数条件」を外せない「解決」が百年来続い
ている以上は解析学の基盤を見直すことも考えねばなるまい.その一環と
して本書では次のような点にも改善の要を見いだすものである.
12

類似概念が錯綜していて必然性が読み取りにくい
n変数の理論を n=lに制限したものと 1変数の理論がずれている
また, c
o級の範疇では「長さ有限」があって「面積有限」がない
3

抽象的な「存在」が証明の根拠となっていて実行には結びつかない

こういうことを考えた先人はいくらもいたに相違ない.少々の工夫に
よって見晴らしがよくなるというのなら,それはすでになされていたであ
ろう.知識の体系は時系列の制約を受け,その時点で認定されていた内容
のみが信憑性を帯びる.それ故に「解析学とはこんなものだ」と得心した
空気が漂って定説を醸し出しているが,定説の役割はあくまでその時点で
の信憑性に尽きる.一方で人が素朴に認識することがらについて簡明で整
合性のある解明を希求するのは誰一人止めることのできない正当な動機で
ある.本書の日的は人々が普通に実行している素朴な計算が正しいか否か
を峻別する簡明な方法を打ち立てることにあって,そのためには概念構成
を抜本的に見直すことも辞するわけにはいかない.それ故に, これまでの
ものに慣れ親しんだ人ほど違和感を覚えるに相違ないし,このような旧来
発想との違いは「実数論Jにまで及んでいる.
このように,本書ではすべての概念の論理構成が洗い直されることに
なった.洗い直しの手始めが関数の「極限」と「連続性」である. その違
いを感覚的に比較すれば次のようになる.

.... .... .

限: xが a以外の aに近い値をとるとき, f
(x)は Aをも含めた意味で
A に近い値をとる
...。・・・・・
連続性: xが aをも含めた意味で aに近い値をとるとき, f(x)は /(a)を

まえがき i
i

含めた意味で f
(a)に近い値をとる

「極限」におけるこの首尾不統一は合成の不自由さとしてはねかえってく
る.このため,本書では敢えて「極限Jではなく「O次連続性(有界集合
上の一様連続性)」に基本をおくことにした.それから,微分については
「微分可能」と「 C 級」,「偏微分可能性」と「全微分可能性」と「c
1級」
およびその繰り返しといった混乱しやすい議論を避け,「 m 次連続(旧来
の解釈で有界閉集合上では「 c
m級」と同義)」に一元化しだまた,関数・
数列の一様収束性なども一般的な定義域をもつ関数の「O次連続性」と捉
えることにした. このように多種多様な概念を再編成して, より根本的な
概念に重要な意味付けを加えた.
要するに本書では「旧来の筋書きから如何に微調整で済ませるか」より
も,「より基本から• より単純に如何にして道筋をつけるか」という姿勢
で臨んでいる.そのためには定義域の一般化を必要としたが,入門者がと
りあえず旧来的な意味の閉区間や閉領域上のことと思って読み進み,後に
それが一般集合上のことであることに気付いて再読したとしても何の不都
合もない.そして計算力を増進するため他の演習本も利用するのは概念の
相違に注意した上であれば有用といえよう.
目 次

第 0章論理記号と初等関敬の微積分
0
-1 論理記号...・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・...・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・...・・・・・・・・・・・..1
0
-2 有理数と実数...................................................................4
0
-3 初等関数の構成...............................................................6
0
-4 初等関数の導関数.........................••••••••••••••• •••••••••••••••••• 1 0
0
-5 原始関数..••••••••• •••••••••••••••••••••••••••• ••••••••••••••••••••••••••••••••• 13
0
-6 部分積分• ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 4
0
-7 置換積分.....••••••••• •••••••••••••••••••••• ••••••• •••••••••••••••••••••••••••• ・
16
0
-8 有理式の原始関数..........................................................1 8

第 1章 関 敬 の O次連続性と極限

l —l 集合と関数 •・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
0
1 -2 関数の O次連読性..........................................................2 2
1 -3 O次連続性と四則演算....................................................2 8
1 -4 O次連続性と合成 • 逆関数..・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.. 2 9
1
-5 その他の基本的定理......................................................3
2

第 2章 1変薮関数の微分
2
-1 m次平均変化率と m次連続性..・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・... 3 5
2
-2 微分と演算 • 合成の関係...・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.. 4
0
2
-3 高次連続性と繰り返し微分• ••・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.. 4 3

第 3章 擬 区 間 上 の 関 数 の 微 分

3
-1 m =lのケースの具体的な処理..・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 4
7
3
-2 Dピタ)レの定理.............................................................5
0
3
-3 関数の多項式近似..........................................................5 5
目 次v

第 4章多変致関数の微分

4
-1 多変数の高次連続関数と偏微分……………………………… ・ 59
4
-2I日来の 「偏微分」 との比較• ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.. 6
1
4
-3 高次連続関数の諸性質と繰り返し偏微分………………… ・ 62
4
-4 直積集合上の m 次連続関数•• ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・... 6 6
4
-5 直方体上の関数の m 次連続性.......・ … ・・・・・・・・・・・・ … ...…• … ...6 8
4
-6極値問
題.
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...... ....... ....... ....... ......6 9

第 5章 広 さ と 積 分
5
-1 広さ,,,,,.••.•••.•..••••..•••..••••.•••••.••••••••••••••. ,
,,
,,
,,
,,
,,
,,
,,
,,
,,
,,
,,
,,7
, 1
5
-2 近傍とその広さ.............................................................7 6
5
-3 近傍の広さの定理..........................................................7 8
5
-4 積分とその基本定理 ・ ・・
・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・79
5
-5 不定積分と原始関数......................................................8 1
5
-6 積分の変数変換 •・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.. 8
3

第 6章 曲 線 と 曲 面

6
-I Rnの有界部分集合の p次元の広さ………………………… ・ 8
5
6
-2直 積
の広
さ..
..
..
...
..
...
...
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...
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...
..
...
..
...
..
...
...
..
...
..
...
..
...
...
..
...8
8
6
-3積分..
..
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...
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...
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..
...
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..
...
..
..
..
...
..9
1
6
-4 向きのない広さとその上の積分……………………………… ・ 9
3
6
-5 l次同相写像に関する m次元積分…………………………..9 5

第 7章変動過程、積分の連続性と累次積分
7
-1 数列•関数列................................................................ 1
01
7
-2 変動細分系 ・ ・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・1
03
7
-3 細分系とその積分への適用・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ " 105
7
-4累 次積分....
.............
..............
..............
..............
............103
7
-5断 面定理....
..............
..............
..............
.............
............llO
7
-6 高次平均変化率の積分表示と評価………………………… " 112
v
i

第 8章 広 義 積 分

8
-1 広義の広さおよびその直積定理と極限定理……………… 1 17
8
-2 広義稿分とその基本定理• ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ ・1
20
8
-3 極限定理の広義積分への適用 ( l). ..
.… ...
.… . .… …. . ..…・ 1
22
8
-4 極限定理の広義租分への適用 ( 2). .
...
..
..・....
.........・ ・...
..1 23
8
-5 累次広義積分・...........................................•••••••••••••••••••• 1
26
8
-6 負値もとる関数の広義積分と変格積分..………………… ・
・1
29

第 9章 向き付きの広さと積分

りl 単体の向きと非退化 PL 写像の被覆度••…………·……… ·131



り2 一般的な 0次連続写像の被覆度....・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・
一 13
3
り3 0次同相写像 ・
一 ・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
6
り4 Brouw町の領域不変性定理..・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・...・・・・・・..1
一 3り
り5 向き付き広さと向き付き積分・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・
一 141
り6 Stokesの定理 ・
一 ・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
・・
14
3

第 00章 実 数 論

0
0-
1 実数の構成 ・ ・・・・・・・・・・ ・・・・
・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・
・1
47
0
0-
2 実数体系の骨組み................••••••••••••••• •••••••••••••••••••••••• 1 50
0
0-3 切断論...・・・・・・・・・・・・・・・・・・..・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
51
0
0-4 切断の基本性質..・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・..1 53
0
0-5 実効切断の演算と関数・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・...1 55
o
o-6 実効切断の演算法則 •・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・...1 57
0
0-7 集 合 その広さと切断• •・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 1
5り



き ~~~

論理記号と初等関数の微積分

0
-1 論理記号
数学の文を把握したり記述したりするに当たって,実はそこに展開され
る論理の様式化が重要になってくる.そこでそのあたりの事情から解説し
てみよう. まずは先ほど挙げた連続性の定義を題材に解説する(この際,
中等教育で用いられる牧歌的な表現にしてみよう):

Xが aにどんどん近づくと, f
(x)は /
(a)にどんどん近づく.

これくらいのことで済んでいればハッピーなのであるが,数学はもっと
際どいことに首を突っ込まなければならなくなり,この文の意味を掘り下
げる必要が出てきたのである.「どんどん」はその気にさせる誘い文句に
過ぎず「しぶしぶ」ではだめだという理由はない.「xと aが十分近いと
きば必ず f
(x)と/
(a)は十分近い」という意味である.では「十分」とは
どういう意味なのか?
よくよく考えてみると「x と aが十分近い」とは「『/
(x)と/
(a)は十分
近い』を担保するくらいに近い」ことを意味していることに気づく.では
f
「(x
)と/
(a)は十分近い Jとはどんなことか?それは日 f(x)-f
(a川が十
分小さい」ことだと言い換えることはできる. しかしどれくらい小さけれ
ばいいのか…小さい数かどうかの絶対的な判断基準はない• 「l
/(x
)-/
(a)I
が十分小さい」かどうかの判断基準はこの文の外にあり,「連続である]
に異議を唱える人に委ねられていると思えばいい.
するとこの文が主張しているのは 1lx —叫が或る正数よりも小さいよ
2 あ
うな xに対して必ずげ(
x)-
/(a
)Iが十分小さい」というなんらかの「或る
正数」が「 I
J(x
)-/
(a)I
に要請された小ささに応じて厳然と『在る』」とい
うことになる.以上のことを踏まえて「連続である」を日本語で書くと次
のようになる:

「Ix-alがある正数よりも小さいような状況では必ず『 IJ(x)-/
(a)I
が十分小さい』」をみたす「ある正数」がげ(
x)-
f(a
)Iに要請された
小ささに呼応してある.

冗長な文である.そして「ある」ということばが紛らわしい.一時代前
のように「在る」と「或る」を使い分ければまだましなのであるが….そ
こで登場する数に名前をつけることになった:

「Ix-al<aをみたす状況では必ず『 I
J(x
)-/
(a <c
)I 」

をみたす正数 8が正数 eに呼応してとれる.

ずいぶん簡潔になった しかし機械的に処理するにはまだまだ大変であ

. もう少し整理して論理関係をくっきりとさせよう.そして「 」と
「 』の使い分けも限界に近づいてきている.全部[ ]で統一しよう:

どんな正数 eに対しても[うまい正数 8を選ぶと[どんな状況でも


[Ix-al<aならば I
J(x
)-/
(a <
)Ic] が成り立つ]].
ここで文字 a を yに取り替えてみよう:

どんな正数 cに対しても[うまい正数 8を選ぶと[どんな状況でも


[lx-yl<oならばげ(
x)-
/(y
)I<
c] が成り立つ]].

何やら雲行きが怪しいと感じ取ったらなかなかのものである形式的に
きっちり書いた文では文字を取り替えることに問題はないが,この文では
「どんな状況でも」のところに X, aがどう関与しているかが問題なので
ある.実は上で扱ってきた「連続性」は「定められた点 aにおける連続性」
を意味するという暗黙の了解が潜んでいるのである.そして本当に必要な
のは「定義域の各点における連続性」すなわち次の性質のことだと認識さ
れているのである:
第 0章 論 理 記 号 と 初 等 関 数 の 微 積 分 薗 3

どんな aに対しても[どんな正数 eに対しても[うまい正数 8を選ぶ


と[どんな xに 対 し て も [lx-y[<oならば [
/(x
)-/
(y)I
<c]
が成り立つ]]].

それに対して aを y に取り替えた文では「状況」が x と yの状況,つま


り次のような状況だという気配を漂わせている:

どんな正数 eに対しても[うまい正数 8を選ぶと[どんな xと yに対


し て も [lx-yl<oならばげ(x)-/
(y)I
<c] が成り立つ]]].

両者の違いを際だたせるためには前者を各点連続,後者を一様連続とい
う.一般に一様連続は各点連続を帰結するが,逆は成り立たない.たとえ
1
ば/(x)=ー は xキ 0において定義された各点連続関数であるが一様連続関
X

数ではない (x=Oにおいて不連続と認識している人もあろうが,正確には
x=Oまで込めて各点連続になるようには拡張できない」各点連続関数な

のである).一様連続の方が少ないカッコで書けているのは「どんな xと
y に対しても…」と表したからで,「どんな xに対しても[どんな y に対
しても...」と表すと同じくらいになる.「どんな」だけ,「うまく」だけが
続く限りは一つにまとめても同じ内容になるが「どんな…[うまく...J

と「うまく…[どんな…」」は意味が違う(比較するといわゆる後出し側
•••内側に都合がいいように意味が転じる).論理の文はこの違いが争点に
なる. したがって「どんな」の代わりに「ただし*ば..」と後付けするの
は形式的にはかかり具合が不鮮明になるので避けることにしよう.
文に使われる用語はどうせ限られているのだから,「どんな」と「うま
く」の順番さえ守ればもっと様式化して単純に表すことができる.そこで
「どんな (
any
)J・1うまく選ぶ (
exi
st)」から頭文字を倒置して V とヨ
という記号が開発された.そして数として想定している範囲を表記し,
「ならば」を表す記号⇒ を援用してそれぞれ

Va, Vc>O ヨ
[ o>O [VX [Ix-al<o ⇒ [
/(x
)-/
(a)I
<c]
]]
Vc>O ヨ
[ o>O [
Vx,y [
lx-
yl<o ⇒ [
/(x
)-/
(y)I
<c]
]]
4

という文に仕上がる.[ ]は V やヨが指し示す対象に対する要求事項
になって,それが出現するときはそのカッコの中で何が起きるかをいろい
ろ想像することになる.一方カッコの中では外で出現した対象は既定のこ
とがらと考えられる.子孫にとって先祖は既定の対象であるが,先祖に
とって子孫は念頭に置く対象なのであるここまで様式化してしまえば,
もはやカッコは省略するのが普通である書かなくてもどこにあるべきか
ははっきりしている.
このように様式化を徹底したときには「かつ」を表す I
¥や「または」
を表す V を 用 い る 場 面 も あ る ま た ヨ が 出 現 し な い 文 で は V を略する
ことが多い.

0
-2 有理数と実数
実数についての詳しいことは後に一章を設けて論じるが,最小限のこと
は解析学を語る以上は避けて通れない.そのためにはまず「順序加群」に
ついて語らざるを得ない.順序加群とは足し算+が定義されており. 2
元の間の大小関係この判定条件が確定していて次の性質をみたしている
集合である:

順序 記述便法 x~y¢::⇒ y印 x
反射律 x
e;;
x
対称律 x
e;
;y
,ye
;;x ⇒ x=y
推移律 x~y. y~z • x~z
+ 結合律 (x+y
)+z=x+(y+z
)
交換律 x+y=y+x
単位元 0の存在 O+x=x
逆 元 一 xの存在 x+(-x)=O
+と順序の整合性 x~y • x+z~y+z

, 実数の体系 R などに共通して確認で
これらの性質は有理数の体系 Q
きる.ここで,解析学を進めていく上では次の 3条件が重要な意味を持


第 0章 論理記号と初等関数の微積分謳 5

全順序性 x~y または x;:;;;y

アルキメデスの公理 x>Oのとき xを n個加えたもの nxが yより


大きくなる自然数 nが存在する
非離散性 自然数 nお よ び O<xをみたす xに対して
O<ny<xとなる yが存在する.

通常これら 3つの性質は Q
, R のいずれでも成り立つものとして取り
扱われている.本書では任意の有理数についてはその構成法からしてこれ
らの性質が確認されるという立場に立つ. さて,有理数に対するこれらの
性質について語るにも,このみならず>という概念が現れていることに
まず触れなければならない.有理数 x
. y に対する x>y は「x~y である
がx
;;
;; こ「**でない Jば注意
yで は な ぃ 」 こ と を 表 ず こ こ に あ ら ゎ れ f
して扱うべき陳述であるが,有理数に関する限りは確認されるというのが
本書のスタンスである.
それでは実数の世界ではどうなっているのか?解析学では積分で表され
る値を対象として取り扱わねばならない.そして残念ながら積分によって
表される実数の間にはそれらの構成法を根拠にして「x~y または x;;;; 如
を一般的に確認する手段は見つかっていない.この陳述の正当化は信念の
域を出ていない.そしてこのような背景の下では;;;; y はない」という 1
:
言明を「x~y である」という言明と同格に扱うことには躊躇するもので

ある.そこでこの言明を少しゆるめることにする. まず R が Q を内包す
ることを要請しよう.次に,全順序に換える条件は次の通りである:

VrEQ Va. bES r>O ⇒ [a~b または a


;;
;b十月
;
Va, bES [VrEQ r>〇 ⇒ a
;;;
;b+
r] ⇒ a
;;
;;
b.

前半の条件は 9 弱全順序条件」,後半のは「順序の Q —漸迫律 J と称する.


このように V, ヨ,⇒ などの論理記号と「または」,「かつ」などが錯綜
する場合は誤解を避けるためカッコを用いてそれらの結びつき関係を明示
する必要があることに注意しよう.ここで [
:
:IrEQ [r>O か つ
x
:e;
=y+
r]] を表す便宜的記述として「x>y」を採用する(「y<x」とも表す).
また x>Oをみたす xは正であるといい, xく 0をみたす xは負であるとい
6

う (x~O のときは非負, x~O のときは非正という).


ところで,これまでの条件だけでは積さえ認知できないので,実際的に
はさらに掛け算 X (記法としては.を用いる)が定義され,次の性質が
追加されたものを扱う:

x結合律 (x・y)・z=x・(y・z)
交換律 x・y=y・x
単位元 1の存在 l・x=x
逆元 x―1
の存在 x・x―1=1 (正または負数 xに対してのみ)
十 X 分配律 x・0/+z)=x・y+x・z
X と順序の整合性 x~y. z~O ⇒ x·z~y·z

上で述べた「順序加群に関する非離散性」は「 X に関する逆元の存在条件」
に吸収される.

0
-3 初等関数の構成
種々の現象を定量的に処理するには関数を取り扱う必要がある.現象は
通常多くの要因が複雑にからまって関与するので,扱うべき関数はいくつ
もの変数をもつものとなる.
ところで現象は往々にして,基本的な関数の組み合わせで記述できる簡
単 な モ デ ル を も つ も の で あ る 例 え ば 何 ら か の 生 物 の 生 息 数 N が時刻 t
Ae
a1
の変化に伴って消長するさまは,ある理想化のもとでは
B+eat と表すこ
とができ,そのグラフはロジスティック曲線と呼ばれる.この関数は関数
e
atといくつかの定数との四則演算で得られるが,関数 e
"'自体は eェの xに
a
tを代入したものと考えられる.
このように我々が通常取り扱う関数は与えられた変数に関する基本的な
関数および操作・演算をいくつも組み合わせることでできている.

操作:代入,方程式を解くこと[指定された変数に代入することによっ
て,与えられた等式をみたすような関数を求めること].
第 0章 論 理 記 号 と 初 等 関 数 の 微 積 分 璽 7

演算: +
, x, …これらの演算が採用された段階では逆演算である一
ゃ + は 「 方 程 式 の 解 Jとして実現する.

基本的な関数については「変数そのもの」,(自然)対数関数,逆三角関
数が挙げられる.

対数関数: l
ogt
1
=「 l~x~t. O~y~ で
X

表される部分の面積 J.
.
..
..
.
..
..
.
..
..
.
..
..
.
..
..
.
..
..
.
..
..
.
.t~l のとき

1
「 t~x~l. O~y~ で
X

表される部分の面積」の一 l倍
・ ・・・・・・・・..…… ·····O<t~1 のとき

逆三角関数 i
):a
rct
ant
=「 O~y~tx, ぷ十 y2~1 で

表される部分の面積 J の 2 倍 ·····························t~O のとき

「 tx~y~O. 正十 y~l で

表される部分の面積」のー 2 倍 ··························t~O のとき

7[ 7[ 冗
値は一ーと一の間の数をとるが標語的に arctanoo=-
2 2 2'

arctan(-00)=一ーとも表す.これを受けて下の 2つの関数に
2

ついても a
rcs
in(土 l)=土 とし, a
rcc
os(土 1
)もこれに応じて
2
定める.

i
i) :a
rcs
int=a
rct
an ((1~仔)合)
i
i
i) :a
rcc
ost=王-a
rcs
int
2

角度は歴史的には単位円の弧の長さで表されてきたが,微積分の対象と
して捉えるには扇形の面積をもとにした方が扱いやすいのである. また,
8

角 度 の 大 き さ を 測 る 単 位 に 関 し て も 我 々 が 日 常 的 に 使 う 「 一 周 =360J

はいかにも人為的であり,それよりは一回転を単位とした方が好都合であ

. しかしこの際,微積分に一番適したものを採用する.それが,上に述
1
べ た 扇 形 の 面 積 で 表 す 方 法 で あ り , こ の 面 積 が ー で あ る 角 を 1ラジアン
2
と称する.ちなみにこの測り方は慣例的に弧度法と呼び,微積分では暗黙
の了解事項として当然のようにこの表記にしたがう.

ところで「方程式を解くこと」は非常に多くの関数を生成するが, これ
を汎用的な操作として容認するよりも基本的な関数のリストを充実する方
が通常は扱い易い.その立場では,減法,除法,累乗の逆関数である累乗
根(特に平方根)のほか対数関数と逆三角関数,およびそれらの逆関数で
ある指数関数と三角関数をリストに追加する(三角関数については単なる
逆関数ではなく定義域を拡張する).これらの関数は高等学校のときに樽
入されたものと一致する(ただし角度の表記は「弧度法」による).

指数関数: y=e"
… … 実 数 xに対し, x=logyとなる yを対応させる関数
三角関数 i
):y=tanx

… … ー の 奇 数 倍 以 外 の 実 数 xに対し,実数 yをうまく
2
対 応 さ せ る こ と に よ っ て x-arctanyが 冗 の 整 数 倍 で
あるようにした関数(次に述べる s
inと c
osの比)
i
i) :y=cosx
Q と冗の間の xに対し x
….., =arccosyとなる yを対応
させる関数を実数全体に拡張し, cos(-x)=cosxかつ
2
冗が周期となるようにした関数

i
i
i) :sinx
..
..
..c
os(2-x)

対数関数には l
og(
xy)
=logx+l
ogyという性質がある.簡単のため X, y
1
を 1 以上とすると log(xy)~)ogx が表す図形は logy が表す図形を縦に
X
第 0章 論理記号と初等関数の微積分薗 9

倍,横に x倍伸縮したものだからである.このことから ex+y=exeyが得ら

れる.逆三角関数• 三角関数には次の公式が成立する:

(x+y) +o
a
rct
anx+a
rct
any=a
rct
an( )
(1-xy) {土 l[
tanx+tany
t
an(x+y)=
1-tanxtany
c
os(x+y
)=cosxcosy-sin謬 i
ny
s
in(x+y
)=s
in o廷 s
xcosy+c iny
.

これらの公式は幾何学的に直接証明することも可能ではあるが, l
ogのと
きに比して格段に煩雑になるので証明は省略する.ここでは実際的な方法
として a
rct
anの加法公式を両辺の微分から導くことを提案する.そのた
めにも初等関数の微分処理法に習熟しておくことが不可欠である.
初等関数の微分処理にはその構成の仕組みを的確に把握しておく必要が

arcsinx+x(lー正)百
ある.そのためここでは y= を例にとって調べてみ

よう.
初等関数はこのように「構成樹 Jを用いて記述され,その定義域もおの

1
arcsinx+x(l-xり

y= / 2
.
.
:
.. ~
1
y1=arcsinx十ぷ (1-正
)百 Yz=2

/+~ 1
y11=arcsmx Y
12
".
"'
xl-x予
(
/x~ 1
Y
121
=x Y
12
2=(
1-x
2)う
//代入\\
1
Y
122
=z百 z=l-x2
/-~
z1=l z戸 x
z
/x~
z
21=x z22=x
l
O

ずから求められる例えばこの例では+と z½ のところが要注意である.
まず+のところは分母キ Oが条件であるが,このケースでは分母は 0に
ならないので無条件に帰するもう一方は z~O すなわち— 1;;;:;x;;;:;1 が条
件となる.定義域の点のうちこれらの不等式が等号で実現するもの(この
場合 z=Oや x=士1をみたす点結局のところ x=土 1
) を非常点といい,
そうでない点を通常点という.定義域の記述や非常・通常点の区別を与え
られた変数に関して実行するのは,このような単純な関数以外では必ずし
も現実的とはいえない.また極端な場合には定義域に該当する変数値があ
るかどうかを判定するのも容易ではない.

0
-4 初等関数の導関数
この節では初等関数を機械的に「微分する」方法を取り上げる.初等関
数の微分は基本的な関数の変数に関する微分の表と関数の構成に関する微
分公式からなる.一般に関数 y=f(x)の変数 xに関する微分すなわち導関
dy d
f(x
) df
数は などと表すことにする.
dx'dx'dx

dxk
=kxk-1 ただし Kは実数とする . Xの範囲に関しては, Kが整
dx
数でないときは x~O. kが負のときは x
=t
=〇という制
約がそれぞれつく
dlogx 1

dx X

darctanx= 1
dx 1+x2
da
rcs
inx -da
rcc
osx
=(lーが)―百
dx = dx
de
x
dx=ex

dtanx= 1
dx COSX
第 0章 論 理 記 号 と 初 等 関 数 の 微 積 分 瓢 1
1

dcosx .
=一 smx
dx
dsinx
=cosx
dx

d
(y上z )=竺土生
dx dx dx
d(y・z)=位.z+y. dz
dx dx dx



d y =― dy .(
J
_
_
dx dx y2
)

慶=冑• 長 (1=~=!; ・~: を含む)

z
21=x z22=x
d
z21
=
l dz
22

dx~x;x

Z
1-1 z2=x2

: : : _ ~ ~ ] x+xM x
1
Y
122
=z2 z=l-x2
d
y12=叶
2 - dz
-=0-2x=-2x
dz 2 dx
\代入//
1

Y1
21=x y122=(l-x予
d
y12
1 2 Z½
dx =
l d
y12
=— ·(-2x)

¥I
dx 2
=-x·z —½
X
1
Y
12=
x(lー正)う
d
y12 l 1 1-2

戸十 x・(-x・z万)=
=l・(l-x2
dx 1
(1-正
)百
1
2

初等関数を形式的に微分するには構成樹の末端から順に微分公式を適用
して根元に到る.この様子を先ほどの関数の構成樹の一部分を例に解説し
たものが先の図式である. ここでは末端を上にして書いていこう.
このように一見すると複雑な関数も順を追っていけば微分操作は可能な
ものである(微分域は定義域の各条件のうち端を除いたもの). もしこれ
だけ長い変形では息切れするというようなら,途中で休憩をいれてから再
開すればよいし,途中まででもそれなりの複雑さのものをこなしたことに
満足する価値がある.さて,上の計算を突き進めると,この構成樹の根元

にあった yの微分 (l-x2戸を得る. ところで, yは下図の部分の面積で表


されるので,その微分は後述する「微分積分学の基本定理」によっても同
じ値が得られる.見方を変えれば Y
12と yの微分を元にして arcsinx=
2y-y12の 微 分 公 式 が 得 ら れ た と い っ て も よ い わ け で あ る . 下 図 か ら
arccosxや arctanxの微分公式も得られる. logxの微分公式も「微分積
分学の基本定理」から得られ,ぷ =eldogxなどの基本的な関数の微分公式
はこれらの組み合わせにより得られるのである.

固 「(
0-3冒頭)ロジスティック曲線」で表される関数の構成樹を書き,
定義域・微分を求めよ(ここでは各定数の正負は特定しない)

次に x汀こついて考えてみよう. この関数はすんなりとは構成樹の手法
にのらない.それに定義域は何であろうか.指数の拡張という考えに従う
と定義域は「 Oより大きい実数および奇数を分母にもつ負の有理数の全体」
となってしまうのである. しかしここではこのような不自然なことはしな
い. x x自体を (elogx)xさらに exlogxと解釈することにすれば,この関数も自

然に構成樹で表され定義域 x>Oも見えてくる.実は Kが整数以外のとき


第 0章 論 理 記 号 と 初 等 関 数 の 微 積 分 躙 1
3

の心についてもこのように考えるのが自然なのである. kが正のとき定
義域に 0を追加できることや Kが奇数を分母にもつ有理数のとき定義域


に負の数をつけ加えるのが可能であることはこの際黙殺する.

0
-5 原始関数
fを有界集合上で定義された 1変数の O次連続関数とする .Jを導関数
にもつ 1次連続関数 F を fの原始関数という.原始関数は後述する積分
を導く重要な道具であり. このことから不定積分という別名がある. F
1,
凡が共に fの原始関数であるとき F
i―凡の導関数は 0である.

初等関数 fが与えられたとき,その原始関数は必ずしも初等関数の範囲
、 smx
に存在するわけではないげとして例えは や (l-x4
戸など)が,そ
X

のことの証明は非常に難しい. しかし,広範な関数に対して原始関数を求
めることは実際的にはかなり有用なことである.

初等関数の原始関数を等式で記述する手段は四則演算と代入以外はすべ
て微分を求める手段の裏返しに尽きる.微分の公式は初等関数の構成手段
+
, ~, ,-
x -
c
-
, 合成に対応しているので,何らかの関数の原始関数が求
まるときは結果的には四則演算と代入以外は微分公式の裏返しである次の
3公式を組み合わせて実現されているということになる.

微分の線型性 (aF+bG)'=aF'+b
G'

→線型性 JcaJ+bg)dx=a
Jfdx+b
Jgdx

積の微分 (FG)'=F'G+FG'

→部分積分 f
F'Gdx+f
FG'dx=FG

合成微分 (
F(x
(t)
))'
=F'
(x(
t))
・ ぷ(
t
)

→置換積分 JF
'(x
(t)
)・x
'(t
)dt
=F(
x(t
))
1
4

原始関数を求めるノウハウについて詳しくは世に多く出ている演習書に
任せることにして,ここではいくつかの基本的な事柄を押さえておこう.
原始関数を求めるためにまず必要なのはいくつかの基本的な関数に対して
原始関数を求める方法を把握することである.その皮切りに多項式の原始
関数を求めることはマスターしておこう. また対数関数や指数関数,逆三
角関数や三角関数の微分を実行すると奇妙に美しい結論が出現するのでそ
れらは原始関数のレパートリーに入れておくと重宝する.
そこから先は部分積分と置換積分のオンパレードになるが, どちらの公
式も 2つの積分を(積分を要しない関数を介して)関係付けており,一方
を他方から求める方法と見立てられる.その際求めたいものをどちらに見
立てるかが問題になるが,大事なのは式の変形が「よい方向に」進んでい
るかどうかの見極めである.初等関数のうち合成,土 X, -:-だけで構

成されるもの,すなわち有理式に関しては少々大がかりながらも原始関数
を求めることができる.問題になるのは/ーのような代数関数,超越関
数の関わり方である.そして中でも超越関数の解消が焦点となる.

0
-6 部分積分
超越関数の内でも対数関数と逆三角関数は微分によって超越性が解消さ
れる.部分積分の活用にはその点に着目するものが多い.

冽 1
-1
a を実数, m を整数とする.

(xmlog(x-a))'

=mxm-1)og(x-a)+xm・
1
(x-a)
(
xma
rct
an(
x-a
))'
1
=mxm-1arctan(x-a)+xm・
1+(x-a)2

この例では右辺の第 2項が有理式でありその原始関数が既知であることか
第 0章 論理記号と初等関数の微積分鵬 1
5

, m が 0でなければ第 1項の原始関数を求める方法として重宝する.

他の逆三角関数のときも同様である. もう少し込み入ったケースでも漸化
式を得られることがある.

例1
1-2
m を実定数, nを自然数とする.

(xm・(logx)")'=mxm-l・(logx)"十 n
xm-
l(l
ogx
)n-
1

m キ 0であれば第 1項の問題を第 2項の間題に還元するものといえる . m


が 0のときは第 1項が消滅するので右辺の原始関数を方法を与えているこ
とになる.

この例はかなり際どくて (x-1)-1l
og(x+1
)や (
log(x-1))l
og(x+1
)は
原始関数を初等関数の範囲で求めることができない. もっとも (x-1)-1
(x+lいは有理式なのでそれができるのである.それでは (
log
(正ー 1
))2は
どうなっているか実際に l
o )の 2乗を展開してみると,
g(x-1)+log(x+1
それぞれの 2乗に対しては上の例によって求められるが (
log
(ぷー l
))(
log
(x+1
))に対しては適用できないことに思い当たる. ところで l
og(
正 +1
)
やarctanxなども複素関数の世界では log(x2-1
)とよく似た関数であり,
両者ともこの間題に関してはこの関数と同じような振る舞いを見せるので
ある.

例2
-1
m を 0以外の正数とする.

(
xme引 =mxm-lex+x唸エ

この例では両項で e
xの部分が共通しており,違いはこれにかかった多項
式にある.上の 2例とは異なり第 2項の原始関数を求めていくときの一コ
マである.原始関数を求めるべき式が前後のどちらの項であるかは xmex
と書くか eな”と書くかといった慣習に左右されているのである.
1
6

冽2
-2
/
(x)
,g(
x)を多項式とする.

(
f(x
)si
nx)
'=/
(x)cosx+/
'(x
)si
nx
(
g(x
)co
sx)
'=g
'(x
)cosx-g(x)s
inx

s
inと c
osは一卵性双生児であると思えばこれらも捌 2
-1 と同様である
ことが分かる. というよりもむしろこの 2つが連立して一体になっている
と思うのが分かり易い. この考え方の延長として, もう少し広汎な関数の
原始関数も次の関係から得られる:

(
/(x
)戸 c
osb
x)'
=
af(
x)e
axc
osb
x-b
f(x
)ea
xsi
nbx+f
'(x
)ea
xco
sbx
(
g(心戸 s
inb
x)'
=b
g(x
)ea
xco
sbx
+ag
(x)
eaxs
inb
x+g
'(x
)ea
xsi
nbx

0
-7 置換積分
tの関数を置換積分するには x
(t)の候補に当たりをつけることになる.
このとき被積分関数を x
1(t
)で割ったものに対して xの関数としての原始
関数 F を見つけられる目途をつけることが求められる.特殊なケース以
外では囚子としての x
1(t
)が露出しているが,ここではそれが隠れてしま
うという特殊なものを主に扱う.次の例は原始関数を一気に求めるときに
限らず,簡明化する手段としても有効である.

例 3
-1
a
, bを定数, a中 0 とするとき /(at+b
)の tに 関 す る 原 始 関 数 は
x=at+bの原始関数に還元される.!が多項式のときは無理やり展開して
求めることも可能であるが fの次数が高いときには実際的でない.
次節に述べるように有理式には原始関数を求める方法が原理的に存在す
る.それ故に置換積分によって有理式に変換することがよくある.
第 0章 論 理 記 号 と 初 等 関 数 の 微 積 分 鵬 1
7

捌 3-2
/(x)
fを有理式, x=e'とするとき f
(eりの tに関する原始関数は のx
X

に関する原始関数の問題に還元される.

x=がの代わりに x=logtになっているとき, /
(lo
gt)の tに関する原始
関数は x=logtに置換成分すると f
(x)
exの原始関数に変形できる.

例 3-3
さらに fが多項式であれば冽 2
-1によって解決する.
1
しかし fが た だ の 有 理 式 の と き は /
(lo
gt)で は う ま く い か ず , ー が か
t
かっていることが要求される.

捌 3
-4
/
(lo
gt)
fを有理式, x=logtとするとき t の tに関する原始関数は /
(x)

の原始関数に還元される.

同じ組工は例 3-2に 当 て は め た f
(eりがにも可能であるが,これは例
3-2そのものに吸収される.がと l
ogtが 引 き 起 こ す こ の よ う な 違 い に 対
する著者の個人的な見解を述べよう. これら 2つの関数では後者が本来の
関数であり,逆関数を解消するため前者自体を変数にとるのが自然だとい
うことに起因していると思われるただ現実に開発された諸々の技法を無
視してやみくもに逆関数を解消して回るのは実際的でないことが多い.
他にも被積分関数が有理式 /
(x)の変数 xに何らかの関数 x
(t)を代入し
た も の を 基 調 と し て い る と き に は xを 変 数 に 取 り 替 え る と う ま く い く
ケースがよくある.ただ xが tの 2次式のルートになっているときのよう
に独特の置換が功を奏することがあるので詳細は他の演習書に任せる.
1
8

0
-8 有理式の原始関数
有理式の原始関数を求める最初のステップは分子 /
(t)を分母 g
(t)で
割ったときの商 h
(t)と余り J
oCt
)を求め,商の部分を多項式として分離す
ることで分子の次数が分母のものより低いという設定…(*)に還元され

. しかしここから先の話は一般的にはかなり面倒である.
まず g
(t)を実係数の範囲で既約因数分解するのであるが,この手段を
四則と根号で一般的に記述することはできない.一般論としては数値的に
処理するしかない. このとき各既約因子は 1次式または 2次式になる.
f
o(t
)
その次は を部分分数の和に分解することである.このときたし合
g(
t)
わせる対象とは g
(t)の因子かつ単独の既約因子のべきを分母とし分子が g
よりも低次のものすべてである.このステップは原理的には単純であるが
(*)を守らないなどのミスがよく起きる. ミスに気づくためには計算の
後で検算のため実際に微分する習慣をつけておきたい.
次のステップは gが 1次式のときは単純なのであるが, 2次式のときは
かなり面倒である.まず変数を 1次変換して g
(t)の代わりに正+がにし
た上で分子を偶数次項と奇数次項に分ける. ここで分子が奇数次のもので
は変数を y=x戸がに取り替え,分子が偶数次のものでは次の変形を得る

d!cx'd~が



1 2mx2
(xz+が)”(正+が) m+l
l-2m 2ma
= +
(正+が)” (五十が) m+l

この式で分母の次数に着目すると m が正の整数である限りは最右辺にお
ける第 2項の原始関数の問題を第 1項のものに還元する手段を与えている
1
ことが分かる.この操作を繰り返していくと最後は 2 2 の原始関数の
X +a
第 0章 論理記号と初等関数の微積分璽 1
9

問題に婦着し,これは a~1 arctan(~)となって解決することが分かる.


関数の O次連続性と極限

本章で扱う内容は微分積分の基本に関することである基本というもの
は決して容易ではなく逆に深遠なものである.例えば,一般的な集合上の
関数という名のもとに数列や関数列を視野に入れている.それ故,そのよ
うな認識のなかった読者が難しいと感じても無理はない.そのような設定
を気にしすぎて先に進まないよりも, とりあえずまともそうな(読者がま
ともだと感じる)定義域を想定し,そこそこの問題点を残して進む方が実
際的であるし,更にこの章の内容の証明はブラックボックスに閉じこめて
おいても定性的な理解の妨げとはならない.その場合の勘所を述べておこ
う.関数の合成(代入)• 四則演算はそれが自然に定義される範囲におい
て 0次連続性(「O次連続」であること)を保存する.この一見何でもな
い命題が微積分のすべてを説明する基本法則なのである.補集合の機械的
な扱いは注意を要するが,曲面などの微妙な話題が出てくるまでは本書で
は余り神経質にならない扱いをする.

I
-I 集合と関数
ものの集まりを集合といい,集まった一つ一つのものを元(または要素)
という.元が一つもない「空集合」も集合であるとする.集合 X が与え
られたとする.このとき X の元の幾ばくかからなる集合を X の部分集合
と い う ま た X の部分集合 Sに属さない元の全体からなる X の部分集合
を Sの (Xにおける)補集合という.
記号: xが集合 Sの元(要素)であることを xESと表す .Sの元の若
干からなる集合 Tを Sの部分集合といい, Tesと表す. また{…} と書
第 1章 関 数 の O次 連 続 性 と 極 限 國 2
1

くことで「…」からなる集合を表す.一つの集合 Sの部分集合 T
1, 冗が
与えられたとき,冗と冗に共通する元の全体を Tin冗と表し,いずれか
少なくとも一方に含まれる元の全体を T1UT2と表す.
対応 fによって集合 X の各元 xごとに集合 Yの元 yが対応付けられて
いるとき, fを X から Yへの写像という . Xは入力といい,それに対応

する yは xに対する出力といい, f
(x)
, fなどと表す. このとき X を fの
定義域といい, X の何らかの元 xによって f
(x)と表される Yの元 yの全
体を fの像という.[もの」とは何か,「集まり J
, 「対応」とは何か,など
本源的な疑間点は残るのであるが,ここではあまり深入りしない.元の個
数が有限である集合を有限集合といい,特にその個数が 0のときは空集合
という.空集合からは与えられた集合へ唯一の写像「対応させるべきもの
は何もない」が存在する.
集合 1
1
.2,・

・ f から実数全体 R への写像 x は,実数を
,n n個並べ
たものとみなせるが,後に行列の積を援用するまでは記述スペースの短さ
のために (
x1,X
2,…
, X
n) とみなし,その全体を Rnと表す.これは幾
何学的には, nが 1のとき直線, nが 2のとき平面, nが 3のとき空間を
イメージすればよい.また nが 0のとき, Roは唯一の点( )をもち,
幾何学的な解釈とも一致する. Rnの点 xに対して l
xli
よIx」のうち最大
のものを表し (n=Oのときは 0と解釈する), 2点 X, yに対して lx-yl
を X, y間の距離という(ここでいう距離は日常的な意味での距離である
じ 距 離 に 比 し て L 距離とも呼ばれている) • Rnの郁分集合 Sは原点 0
00

からの距離が Sの点の取り方に無関係に何らかの実数より小さくなって
いるとき有界であるという.
A, X を Rnの部分集合とする . Xが A において稲密であるとは正数 c
および A の点 aをどのように与えられても X の点 x をうまく選べば x
と aの距離が e以内になるようにとれることをいう.

稲密性の相対性定理 R 自体が他の実数体系 R'の部分体系であるとし,


A を R"の部分集合とする.このとき A の部分集合 X が A において R
に関して桐密であることと R'に関して桐密であることとは同値である.
2
2

”A の点 a が与えられたとしよう. R'に関して桐密なら R に関して桐


密であることは,与えられた R の正数 e に対してこれを R'の数と見な
して X の点を取ればよいことから分かる. R'の正数 f が与えられたと


きは R の正数 r
。をとり R'に対するアルキメデスの公理より n
r'
;;
:o
;r
,。とな
る自然数 n を選ぶ次に R の非離散性より nr~r,。となる R の正数 r を選

ぶと nr~nr' となり, r~r' が結論される.ここで X が R に関して桐密

であれば r に対する x を選べば Ix-al~r~ 戸となる.

n を 1とする . Rの部分集合 Iが a を左端, bを右端とする擬区間であ


るとは[が [
a,b
] において桐密であること,すなわち実数 X, yが
a<xく y<bをみたすように与えられたとき x
;;
;;
;c
;;
;;
;yをみたす Jの元 cを
もつことをいう. a<bをみたす 2実数に対し a<x<b, a
;
;;
;
;ぷ;

;;b
; ,a
<x;
;;;
;b,
a
;;
;;
;xく bのそれぞれに対しそれをみたす実数の集合を(仏 b
), [
a, b>
(
a, b
], [
a ) と表す. a<x, a
, b ;;
;;
;x
, ぷ Cb, x
;;
;;
;, 無条件,に対しては
b
それぞれ (
a,o
o), [
a,o
o), (
-oo
,b, (
) -oo
,b, (
] -oo
,oo
) と表し,
この 9つを区間と総称する.特に( , )のタイプを開区間,[ , ]
のタイプを閉区間と呼ぶ


註〕
「区間」というときにはその背景に実数の体系を認識しておかなければ
ならない旧来のスタンスでは「すべての実数」を知っていることを前提
とするが,これは「集合論」の不確定さを下敷きとしている.本書ではこ
のような前提を回避して議論を進める.実際,旧来は区間上記述されてい
た命題は「擬区間」の上で記述できるのである.

1
-2 関数の O次連続性
本書では Rnの部分集合 S上の関数を扱う.関数とは何かというのは本
源的な間題であり,「集合論」という休系(必然的に「決定不能な関数」
を内包することになる)が矛盾を卒まないものと高をくくりこれを容認す
第 1章 関数の O次連続性と極限 1
123

るならば旧来の実数論的上の解析学ができあがる.本書ではこの問題を当
面棚上げにし,積極的に奇怪な関数を取り入れて論を進めることは避ける.
ここでは関数というのは扱う対象に応じた程度に自然な仕組みで発生する
ものに限定するたとえば逆関数• 陰関数・ 絶対値・不定積分などを使っ
たものはそれぞれの段階の意味で階層的に関数と認識される.また max
のような人為的な関数も誤差関数の記述上の便法として使用する.一方,
旧来伝統的な証明を正当化するために踏襲されてきた無限回の判断を必要
とする操作を関数の一員として積極的に取り込んだり,それをもとに合成
や積分によって新たな実数を生成したりすることはしない.これらは定理
を安易に拡大解釈することに対する歯止めとして指摘するにとどめる.一
言にして述べるに命題は非常に病的な関数さえ念頭において記述し,証明
にはそのような奇怪な対象を出現させないことにするものである.
関数は Sの元 x を不可分な対象とみて /
(x)と表したり,幾何学的に捉
えて /(X1, X
2, , x』と表したりする.この節では定義域 S上の関数 f

が与えられているものとする.関数の定義域というのは必ずしもその関数
が必然的に定義される最大限の集合という意味ではない.関数によっては,
そもそもそのような集合が存在しないと考えた方が自然である.たとえば,
だの原点 (
0,0
) 以外の点の集合 Sが与えられたとき,原点を中心とし
て(+, 0
) 方向の軸を基準とした反時計まわりの角度を対応させる関数
は S全域で定義すると無理が生じる.
現実のモデル化として関数を取り扱うとき,出力を指定された許容範囲
におさめたいことがよくあり,それを実現するための入力の範囲が問題と
なる.本書ではこの構図を次のように抽象化することにする.
正の実数の全体を R 十と表す. sを R れの有界部分集合とする. R+上
で R 十の値をとる広義単調増加写像¢が次の性質(*)を満たすとき¢
をfの Sにおける誤差関数という.


*) 「どの iに対してもは―y
,I~r/>(t) 」となる S の点 X, yに対しては

1
/(x
)-/
(y)I~t.

Rnの有界部分集合 A, Sおよびそれぞれの上の関数 fとその誤差関数


2
4

¢が与えられたとき, R+上どこでも¢の値以下の値をとる正値の広義単
調増加写像はどれも fの誤差関数になる.(*)におけるニはどちらも
くに置き換えてもよく,実際通常はそのように定義する. ところで,(*)
は下記のような変形を持ち,これが証明を簡明にするケースが幾度かあ
る:


*) 「どの iに対してもは一 Y
i
l;:
:;
;¢
()」となる Sの点 X, y及び tより大
t
きい実数 T に対しては

1
/(x
)-/
(y)
I;:
:
;;
r
.

また本書では誤差関数自体にも必然性を持たせることがあり,このことと
併せて上記の定義を採用することにした有界な定義域上の関数 fは誤差
関数をもつとき 0次連続であるという.
通常いう「連続」は点 aごとに局所的に定義され,(*)が y=aに対し
てのみ適用されることをいう.「局所的に」 0次連続な関数は「連続」で
あり,また「連続」の名のもとに扱われている尋常な関数は区間をはじめ,
通常の体系で言う「局所コンパクト集合」において定義されており,その
結果「局所的に」 0次連続である.ところで,本書ではこのような関数に
ついては派生的な概念「広義積分」として終わりの方の章で言及するにと
どめる.

~
通常の意味の「連続性」との比較がどうしても気になる読者のためだけ
に,全く異常な「関数」を例示するが,特に興味のない読者が飛ばしてし
まうのは何の支障もない.

整数の逆数以外の実数で定義されている次の関数 fは通常の意味で連続
であり,広義積分をもつが,(点 0の近傍において)局所的に 0次連続で
はない:

nx-l …非負の整数 nに対して (n+1


)-1
<Jx
l<n―1
のとき
/
(x)
={
0 '"X=Oのとき.
第 1章 関 数 の O次 連 続 性 と 極 限 璽 2
5

圏 有 界 集 合 上 で 関 数 xそのものは 0次連続である.実際に誤差関数を
構成せよ.

到1
関数の O次連続性を定義するに当たって定義域が有界なものに限ってお
く理由の一つに,この条件を外すと「O次連続」な関数の積が「 O次連続」
になるとは限らないことがあげられる.すなわち R 上 の 関 数 xは「O次
連 続 」 に な る が そ の 積 正 は 「 O次連続」ではない.実際に,誤差関数¢

が与えられたとすると, x=u+:(l), y=u-:(1) とおくと lx-yl~¢(1)


であり, 1ぷー y叶=x-yl・lx+yl=l
u隣(
1)なのでこの値を 1より小さ
くすることは uの絶対値が大きいときには実現できない.

1
(注意) 関数ーは (
0
,l] において 0次連続ではないが, 1未 満 の い か
X

なる正数 eに対しても [
E,l
] において 0次連続である.

固上のことを確かめよ.

「有界閉集合上定義された関数 fの基準点における誤差には,値に限度
を設ければ最大のものがあり,それを基準点に無関係にとれるのが 0次連
続関数である」という主張は,旧来の実数論の下では最大• 最小値の定理

と呼ばれる陳述により正当化される. しかしそのような誤差関数を限られ
た基本的な関数の組み合わせで具体的に表すのは本質的に困難である.
種々の O次連続性の定義として自明でない誤差関数を「もつ」という表現
にとどめる背景はここにある.

固 有 界 集 合 上 で 定 数 Kは 0次連続である.実際に定数 1が一つの誤差
関数であることを確認せよ.
2
6

憫2
関 数 が 十 xは次節で明らかになるように有界集合上では 0次連続であ

. ところで,その最大の誤差関数を四則演算と根号だけで表せないこと
はガロワ理論と呼ばれる高度の代数的な考察により判明しているが, 、
-
し一し一

では扱わない.

例3
実数 Kが与えられたとき,関数 sinx+kxは次節で明らかになるように
有界集合上では 0次連続である. しかしその最大の誤差関数は t=lにお
ける値にしても, Kが 0の近辺で変動したときに一筋縄ではない変化をす
るので「(*)をみたす 1以下の値の最大Jという以上に具体的に記述す
ることは実際的ではない.

有界性定理 R"の空でない有界部分集合 S上の O次連続関数 fの値域


は有界である.


fの誤差関数を¢ とする. sを
c
/J
(
2
l
)
の幅で分割する.このとき各区画

から一つずつ Sの点を選ぶと, Sのいかなる点における値もこれらにおけ


る fの値の最大値,最小値にそれぞれ 1を加減した値の間にある. ■

多変数の O次連続関数においていくつかの変数を一定にしておいて他の
変数について考えるとこれは 0次連続になる. しかし,次の例にみるよう
に逆は成り立たない.

捌4
次の関数は X, yのそれぞれについてそれを固定するごとにもう一つの
変数に関して 0次連続である.また 2変数の関数としては (
0,0
) の近く
では自明でない誤差関数をとれない.
l
第 1章 関 数 の O次連続性と極限薗 2
7

f
(x, y)=
゜ xy

・・(
x. y)~(o. 0
)のとき

•••その他のとき
x吐 y2

この例では,斜めの方向から (
0,0
) に近づいたときに 0次連続となっ
ていない.だからといって, どの直線に乗って近づいても 0次連続である
という条件にすり替えてみても曲線に沿って近づくことには対応できない.
n変数関数の O次連続性はあくまで n変数の枠組みで考えなければならな

. これは多変数関数と自然に付き合う上で絶対的に重要なポイントであ


さて,読者は「元来真っ先に定義されるべき『極限』が一向に出てこず,
それから誘導される『連続性』さえ押しやって,末端概念である『O次連
続性』が正面にでている」ことに戸惑いをもっていることであろう とこ
ろで,「連続性」が「極限値 A と中心値 !
Ca)が一致すること」だという
ことを反対側から見れば,「極限値 A とは中心においてその値に定め直し
たときに生じる関数 gが連続となる値 Jのことだといってもよい.

f
(x) …xキ aのとき
g(x)={A ・・・x=aのとき.

つまり「連続性」と「極限」はどちらが先かというのはあたかも「鶏と
卵」の関係にあるわけである. どちらが先ともいえるがこの場合には卵が
先だとすると無理が生じる.端的にいえば,極限とは変数が中心値に「そ
れをとらないように」近づくとき,関数が中心値に「それをとることを含
めて」近づくことだからである.それが原因で limf(x)=b, limg(y)=c
x→ a y→ b

から limg(/(x))=cは導けない.
x→ a

ところで「(各点)連続性Jと「 O次連続性」のどちらを基本に据える
べきかを判断するには,我々の感覚は曖昧であるというべきであろう.本
書では微分積分学全体を見渡した上,スッキリ記述するために「 O次連続 J
を基本に据えることにした.その結果,「xが aに近づいたときの極限」
とは「問題の点 aにおける値として定めたとき aの近傍において 0次連続
になる値 Jのこととする.
2
8

n=lのとき,関数の定義域は実数全体を含め区間であることが多く, a
が区間の左端や右端であれば,それぞれ aの右から・左から連続という慣
習がある.極限についても同様の慣習があり, l
imはそれぞれ l
im
X→ a X→ a+o

l
im と表す. また.特に a=Oのときは l
im. l
im と表す.
x→ a-o x-+o x→ -0

I
-3 o次連続性と四則演算
関数の四則演算:共通の定義域 Sをもつ関数!, gが与えられたとき,
変数値の組に対して値の和・差・積で得られた値を対応させる S上の関
数を!, gの和 f+g・ 差 f-g・ 積 jgという.また変数の組に対して fの
1
値の逆数を対応させる関数を fの逆数関数といい, と表す.逆数関数
f
の定義域は Sの元のうち fの値を 0としないものの全体とする.

[定理】
有界集合上の O次連続関数 I
, gの和・差・積 hは 0次連続である

冒証明方針
0次連続のときに示す. /
, gの誤差関数をそれぞれ¢, ゅとする. この
とき hの誤差関数のを,次のようにとることができる:

和・差: 0(t)=min い(½), ゅ(½)},

積 :0(t)=min 位(c2~) り

贔)
},
ここに B は土 I
, 土gのすべてに共通の上界とする.ちなみに積に関して
はr
J5
(t
)を標記のように定めるとき, X, yがどの iに対しても, l
x,-
y,I
~rJ5(t) をみたせば,げ(x)~B, 1
/()I~B. 同様に l
y g(x
)I~B. I
g(y
)I~B
であることに注意すれば所期の結論を得る:

1/(x)g(x)-f
(y)
g(y
)I
第 1章 関数の O次連続性と極限 1
1
11
1 2
9

=I
(f(x)-/(y))g(x)+f
(y)
(g(
x)-
g(y
))I


~1/(x)-/(y) I
lg(
x)I+1
/(y
)Il
g(x
)-g
(y)I
~Blf(x)-f(y)I +Blg(x)-g(y)I
t t
ニ— +-=t.
2 2

固 和・差についても上記のものが誤差関数となることを示せ.

【定理】
有界集合上の O次連続関数 fの逆数 hは値が有界であるとき 0次連続
である.

●証明方針
0次連続のときに示す .Iの誤差関数を¢ とする.このとき hの誤差関


数のを,次のようにとることができる:

(
f)(
t)=
¢(C
-2t
).

ここに Cは士 h双方に共通の上界とする.

腿l商についても積のときと同様のことが成り立つことを示せ.
1

注意) 逆数に関しては,次節の結果を使って関数 y=f(x)とz=一の「合
y
成」と考える方がすっきりするであろう.

1
-4 o次連続性と合成・逆関数
関数の合成(代入)関数 fを R"の部分集合 S上 の 関 数 と す る ま た 関
数g
=(g
1,g
2, …, g
.)を Rmの部分集合 T上の関数の組とし, Sに値をと
るものとする.このとき「合成関数」 fogを次のように定める:

(
/og
)(x
)=f
(y)
,
3
0

ここに y=g(x)=(g1(x), g
2(x
), 叫x
))とする.

【定理】
上の設定において I
,9,9
1 2
,…, 9nが有界集合上定義され, これらが 0
次連続であれば合成関数 h=/09は 0次連続である.


簡単のため, Q
1, Q
z, …'Qnの誤差関数を[ごとに最小値をとるように
取り直して¢。とする.また, fの誤差関数を¢ とする.このとき,仮定
よりのは値 0をとらない:

(
})(
t)=
c。
p(
¢(t
))

さて,この関数は以下のように hの誤差関数となるので,所期の結論を
得る:

どの iに対しても
I
x,―y」
;
:
,;(
J
)(
t)
.


どの jに対しても
g
I,(
x)-
g,(
y)I;
:
,
;¢C
t).

!
hCx
)-h
(yI;
) :
,
;
t.

圏例2
, 3の関数が 0次連続であること,また s
inぷ +100
ぷが有界集合
上 0次連続であることを示せ.ただし, s
inxが有界集合上 0次連続であ
ることは認めてよい.誤差関数を具体的に記述する必要はない.

一般的に 1:1写像 fはその像から定義域への逆写像 gをもつ.すなわ


ち Jogおよび go/はそれぞれの定義域上の恒等写像である . Jと gが共に
0次連続であるとき,これらは 0次同相写像という.また,変数が (
x,y
)
で像 (
x, z)が z=f(x, y)となっているとき,逆関数の z を定数 Zoに固
第 1章 関 数 の O次 連 続 性 と 極 限 麗 3
1

定したものを z
o=f
(x, y)の陰関数という.


註〕
通常の意味で「逆関数」は 0次同相写像 fに対するものを定義域げに
とっては値域)の R における閉包に拡張解釈したものをいう.また,陰
関数に関しては,逆関数の定義域(与えられた関数の値域)が「領域」や
「閉領域」であることを要請する.こういった話題について本書では第 9
章を参照されたい

読者の多くは「逆関数」や「陰関数Jの定義域,すなわちもとの関数の
像を把握したいという思いを強くしているであろう. ところで O次連続関
数の像を具体的に把握するのは一般的には無謀といえよう(知る人ぞ知る
ペアノ曲線と呼ばれる病的な写像が象徴的である) • 0次同相写像につい
ても,像を具体的に捉えるにはかなりの道具立てが必要になる.
0次同相写像とは近い点を近くに写し,遠い点を遠くに写す写像のこと
であり,通常それは Rnの音防分集合から同じ R"への写像である.その像
を具体的に捉えるのはかなり深遠な問題である. この節ではまずその結論
だけ述べよう.そのため線分• 三角形• 四面体の一般次元版として単体と
いう語を導入する.

0次同相写像定理 K が n次元単体,¢が Rnの部分集合 S内への O次


同相写像であるものとする.また r
f>(
oK)から正の距離にある Sの任意の 2
点に対しては, r
/>(
oK)から正の距離にある折れ線により S内で結べるもの
とする.このとき r
/>
(K
)は Sにおいて桐密である.

この根底には領域不変性定理という,空間の「次元」の特性を顕示する
深遠な定理が控えている.このあたりのことに関しては第 9章で一般的に
取り扱う.また(多変数関数でも)微分が正当化できているときに,ある
種の都合のよい条件を加味した形でも直接証明する. もちろんこの条件が
適用できるときはその方が便利で重宝になる.
3
2

I
-5 その他の基本的定理
多くの関数の性質は 0次連続関数の四則・合成で説明できるが,中には
もう少しデリケートな扱いが必要になるものもある. この節では後の章で
重宝するテクニカルな定理をいくつか用意しておこう.

制限定理 0次連続関数の定義域をその部分集合に制限したものは 0次
連続である.

'証雨
0次連続のとき,誤差関数をしかるべき集合への制限に取り直せばよい .

境界値定理 A を有界集合 D の部分集合で D の桐密点をもたないもの



と す る も し D 上の関数 fが次の 2条件のうち一方をみたせば fは D 上
で O次連続である.
1
) fの D-Aへの制限は 0次連続であり,また A の各点 a に対して
これを非孤立点として含む D の部分集合品をうまく選ぶと, fの S a
への制限が 0次連続である.
2
) fの A への制限は 0次連続であり,正の 2変 数 (
t
, u)をもつ正値
関 数 奴 U, t) で u を固定するごとに D から A の u—近傍を除いた範囲
で fの誤差関数となるものが存在する. また次の性質をみたす正変数
で正値の関数ゆが存在する:

D-A の点 x のゆ(t)—近傍に A の点が存在すれば,


その点 aを げ(x)-f(a)I~t となるようにとれる.

'証雨
第 1の条件のもとでは, fの D における誤差関数¢ として fの D-A
への制限の誤差関数¢。より本質的に小さい値をとる正値関数(例えば 2―l
第 1章 関数の O次連続性と極限麗 3
3

釧を選べばよい.そこで t より大きい数 T と lx-yl~¢Ct) をみたす D


の点 X, y に対してげCx)-/
(y)Iを調べてみよう. もし xが D-Aに属さ
伽(
t)-
¢(t
)
ないときは f の品における誤差関数ゆX を用いて, lxo-xl~
2
r-t
かつげ(xo)-/
(x)I~ をみたす D-Aの点 x。をとり, X が属するとき
2
は xo=x とする . yについても同様の y。をとる.その結果, lxo-y叶
三仇(
t
)となり,次の結論を得る:

l!Cx)-/
Cy)I
+
~l/(x)-/(x。) I I
/(x
o)-/
(yo
)I
+I/Cyo)-/Cy)I
2(r-t)
~t+ =r
2

第 2の条件のもとではまず fの A への制限の誤差関数を¢。とする. こ

l¢。(~) とし, f の D 上の誤差関数として ¢(/)~mill


こで F m;n ゅ(')

且 叫 , , ) ):
と定める'!のとき lx-ylc
£¢(
1)となる D の 2占 X, yは

共に A の s—近傍に属するか, どちらもり近傍に属さないかのどちらかで
2
ある.

後者の場合 (/)(2·t)
s
が½-近傍の外での変数 t に関する誤差関数であ
るからげ(x)-/(が \~t である.
前者の場合 lx-al~s. iy-bl~s となる A の点 a. bをげ(x)-f(a)I
t t
臼 げ(y)-/(b)I~3 となるように選ぶその結果 la-bl~3s~ ゅ。(½)
となり

l!Cx)-f(y)I
C
~l!Cx)-!a +I/Ca)-!Cb)I+I/Cb)-/(y)I
)I
3
4


t t t
ニ—+— +-<t
3 3 3

を得る.
第、

1変数関数の微分

微分の全体像をつかむには後章の多変数関数の微分から始めた方がよい
のであるが,この章と次の章ではその前段階として具体的な取扱いによっ
て感覚を養うことを目的とする.ここでは実数からなる 1つの集合 D を
固定し, D上の関数に対して,微分を中心として種々の性質について考察
を加える . Dについては特に限定しないが,後の章でいわゆる(関)数列
を論じるまでは区間だと思って読んでも不都合は生じない.

2
-1 m 次平均変化率と m次連続性
fを D 上定義された 1変数の関数とする.相異なる X, yに対して,
f(x)-f
(y)
を fの (
x,y
) における (
1次)平均変化率といい, p
11(
x,
x-y
)と表す.
y

`、.
(
xs.
x,)

Xl X2 X3 X4
3
6

一般にどれか 2つ以上が一致する X
o,X
1, …, Xmの組 (
Xo
,X1
,・・
,
・Xm
)の
全体を L
imと表す. Dm-LJmにおける m 次平均変化率 f国 (
xo
,X1
,…, X
m)
を次のように帰納的に定義する:

f
[ml
(Xo
,X1
,…, X
m)
(
Jlm
-ll
(xo
,X, …, Xm-1)-j
1 lm-
Il(
X1,X
2,…
, X
m))
(x―
。Xm)
また, この延長線として 0次平均変化率 j
[Ol
(x)を f
(x)と定める.

圃 f(x)=x3tする.このとき /
[
l]
,/[
2]
,/[
31
,jl
4lを求めよ.

因数定理によれば,多項式 fに対する f
[ml
(Xo
,X1
, …, X
m)は X
o,X
1,
心に関する多項式であることが m に関する帰納法で確認できる.

1
圃 f(x)= とする (
aは定数とする). このとき次の等式を示せ:
a-x

j
lml
(xo
,X1
,…, X
m)
1
(a-xo)(a-~1) ・・・ (a-xm)

展開定理 f
[ml
(xo
,X1
, …, Xm)=~
j T厄)
I(x
j-
k(中j
)
x
k)・

この定理により j
[m]は X
o,X
i,…
, Xmに関して対称であることがわかる.

こ こ に 区 は jについての租 I
Tは Kについての積を表す.また,和や積
は( )内の条件をみたす範囲をわたるものとする.
(キj
本書では和や積の条件をこのルールで表記するので k )はあらかじ
め設定してある jとは異なる Kについての, k
(=I
=)jは異なる k
, jの対に
関する和・ 積を表す. ■
第 2章 1変数関数の微分 1
1
1
1 3
7

圃上の定理を mが 0
,1, 2のときに確認せよ.ただし 0個の積は 1で
あるとみなす.

腿l上の定理を m に関する帰納法で証明せよ.

非負整数 m に対し関数 fが m 次連続であるとは, j


lm]が Dm+1上の O次
連続関数に拡張できることをいう.拡張は一般的には一通りではないが,
それを 1つ固定したときは,元来のものと区別せず j
lm]と表す.また, 1
変数関数に限るが,いかなる非負整数 m に対しても m 次連続である関数
は 00 次連続であるという.
旧来の実数論のもと閉区間上では c
m級と呼ばれる概念と一致する.
(この段落のことは mが 00 のときにも適用する).

固 f
[m]の Dm+1への拡張が (
a, …
, a
) において一通りの値をとる条件
は (
a, …
, a
) が Dm+1において孤立点でない,すなわち aが D において
孤立点ではないことであることを示せ.

aが孤立点でないときには j
lml
(a, …, a
)の値は重要な意味をもつ.特
に m=lのとき, j
lll
(a )を aにおける微分係数という.また,非孤立
,a
点集合上で点 aに対し j
lll
(a )を対応させる関数を fの導関数といい,
,a
d
f(x
) df
f
'(x
), f
'などと表記する.導関数を求めることを,微分す
dx' dx
'
るという.


f(x)=xとする.このときは

/(x)-/(y)=l・(x-y).

よって /
[l
l(
x,y
)はその O次連続性より 1に一致し, /
'(x
)=lが導かれる.
また, m>lのとき f
[m]は 0である.
3
8

さて,平均変化率の処理は一般的にはかなり厄介なものであるが,初等
関数を微分するだけであればもう少し簡便にできる.それが第 0章で行っ
た形式的操作である. これを正当化するため,まずは基本的な関数の導関
数を調べよう.後に分かることであるが,擬区間上 m次連続であるため
には,導関数をとる操作を m 回繰り返して 0次連続関数に達することが
必要十分である.

1
f(x)=x万とする. このときは

1 1
xアー yz
J(x)-f(y)=
x-y

_l
1 X 2
よって j
[l
l(
x, y)= i i であり,『(x)= 2 である.
x万十 y百
通常は「無理関数」と捉えられているものでも超越関数は扱いが違う.
ここでは積分で与えられる関数である l
ogと a
rcs
inについて述べる.


f(x)=!ogxとする.その平均変化率は

f叫 X f
-1
, y)= t
X
y

y-x
d
t

=
『(x+(y-x)s) 1ds ―


である(高次の平均変化率についても同様の積分表示が得られる).この
ことから次の関係が得られる:

m
m{―,
. 1 1
x ―}<Jill()
Y
1 1
, y <max{~, Y
x .} (*)


/(x)=a
rcs
inxとする.その平均変化率は
第 2章 l変数関数の微分 1
1
1
1 3
9

/
[1l
(x J y
, y)= (
X
l
-t2
1
)―i
d
t
y-x

=
『(l-(x+(y-x)s)2) ½ds


である.このことから次の関係が得られる:

1 1
min{
(lーが)―叉 (1-炉
)―可
<
/Il
l(x
,y) (
*)

<max{(lーが)―叉 (1-炉
)―可

指数関数や三角関数についてもこれらの逆関数として平均変化率の処理が
可能である.

基本的な初等関数の微分はこのように求められ,あとは演算と微分の関
係を調べればよい例えば eやs
エ i
nxなどについては逆関数と微分の関係
により求められるのであるが,これについては次節で述べる.構成された
関数の定義域は fを構成する個々の関数の端の点を除外した範囲である.

固 /(x)=国 =(x2
戸の構成樹から,この関数が自然に微分できる範囲
を求めよ.

擬区間上で定義された関数 fを考える.平均変化率 j
Dl(
x,y
)が yを決
めるごとに xに関して連続であるように DXDまで拡張できるとき fは
微分可能であるという慣習があるが,本書では 2変数関数はあくまで 2変
数で捉える.

関数の定義域は実数全域を含め区間であることが多<. aが区間の左端,
右端のとき aにおける微分はそれぞれ, aの右から,左からの微分という
慣習がある.
4
0

<補題>
fを m 次連続関数とする. このとき次の関係が成り立つ:

i) /
じn-
ll(
x1, ・

・, X』 -/
[m-
ll(
y1, .•'Ym)


・ ぶ
=~/[ml(x1, . , y
;
, ・

・, Ym)(x
戸 y
;)

i
i) (
/.g
)しn
l(
xo
,X1
, ・
・・ェ
, )
=~/lil(xo, …
, X
;)gI
m-
ii(
X, …
; , Xm)

ここに (
f.g
)は x に対し J
(x)。 g
(x)を対応させる関数とする.

囮 上 の 補 題 i) を証明せよ.

囮 上の補題 i
i) を m=O, 1
, 2のときに確認せよ.また,帰納法により
一般的に証明せよ.

【定理】
m を非負整数とする.このとき,有界集合上の m+l次連続関数は m
次連続である.



) で yを一定にすると, m+l次連続関数 fに対し j
上の補題 i lmlが 0
次連続な関数の和・差・積を組み合わせてできており 0次連続であること
がわかる.

2
-2 微分と演算•合成の関係
この節ではとくに微分について論じる.このため, x を m 個並べたベ
クトル (
x, …
, x) は (
x)mと略記する.

一次結合の m 次連続性定理 有界集合上の m 次連続関数!, gおよび


第 2章 1変数関数の微分 1
1
11
1 4
1

, bに対し一次結合 af+bgは m 次連続であり,下の関係がなりた


定数 a
つ:

(
af+b
g)[
ml(
x)m
+l
=
af[
ml(
x)m
+l+
bg[
ml(
x)m
+l_


'0次連続関数の性質による.

積の m 次連続性定理有界集合上の m 次連続関数の積は m 次連続であ



り,次の関係が成り立つ:

(
f.g
)伽 l
(x)
m+l

区 Jlil(x)i+l.g[m-il(xr-i+l.

~
補題 i
i)に(
x)m
+lを代入すると, m 次連続関数が m>iをみたす iに対
して i次連続であること,また加法・ 乗法が有界集合上 0次連続性を保存
することから所期の結論を得る. ●

1
逆数の m 次連続定理 O
<p, qに対し '[p, q
]上の関数 f(x)= に
a-x
対し次の等式が成り立つ:

f[ml[x]= 1
(a-x)m
+l

'証雨
前節の第 1問:

f
[ml
(xo
,X, …,ェ)
1
1
(
a-x
o)(
a-;
1)・・
・(a-xm)
4
2

に xo=x1=… = 心 =xを代入して所期の結論を得る.

合成微分定理 fを有界集合 D 上の 1次連続関数とする.また,



gを有
界集合 E 上定義され,値が D に属する 1次 連 続 関 数 と す る こ の と き 合
成関数 h
(x)=f
(g(
x))は D 上の 1次連続関数で, aにおける微分係数は
f
'(g
(a)
)g'
(a)である.

'X=g(x), Y=g(y)とおくと

f
(g(
x))
-f(
g(y
))=f(X)-/(Y)
=1
111
cx, Y))(X-Y)
=j
lll
(X, Y
)(g
(x)
-g(
y))
=1
11J
(g(
x),g
(y)
)((
x-y
)gl
ll(
x,y
))
=
(/1
11(
g(x
),g
(y)
)gi
ll(
x,y
))(
x-y
)

となり, 0次連続な関数の積と合成でできた関数 h
[l
]が得られるので所期
の結論に達する. ■

逆関数の微分定理 fを有界擬区間 I上の 1次連続な狭義単調増加関数


1
とし, gはその逆関数であるとする. もし I
'の逆数 ,が I上で O次連続

であれば gは 1次連続であり, g
'(j
J)= 1 である.
f
'(g
(p)
)

固上の定理を証明せよ.

この 2つの微分定理は定性的には m 次連続関数についても成立するが,
定最的な記述は複雑になる.与えられた関数が 1変数であるのに 1変数の
枠をはみ出して処理することに不満をもつ読者もあろうが, (m次)平均
変化率は元来多変数なのである.あくまでここで解決したい読者のために
は,現段階での証明のスケッチを述べよう.一次結合・積• 合成(.逆数
第 2章 l変数関数の微分圃 4
3

.逆関数))で構成される関数の m 次平均変化率は m 次までの平均変化


(
率の一次結合・積• 合成(.逆数(.逆関数))で表される.このことを

帰納法で示せばよいわけである.
1
m 次連続関数 fに対し の m 次平均変化率も具体的に記述するの
/
(x)
1
は容易ではない.この関数は一の zに f
(x)を代入したものであると考え,
z
逆数と合成で構成した関数と理解するべきであろう.

1
固 cを正数とする . D上の 1次連続関数 fに対し は f(x)>Eにお
/
(x)
『(a)
いて定義される 1次連続関数であって aにおける微分係数は で
(
/(a
))z
ある. このことを示せ.

2
-3 高次連続性と繰り返し微分
高次の平均変化率の値は 1次のときに増して複雑であり,このままでは
logxのような単純な関数でも m 次連続性を判定するのは困難である.そ
こで登場するのが関数を繰り返し微分していく方法である.すなわち, 1
次連続関数は孤立点ではない点の集合上の導関数をとる操作を m 回繰り
返して 0次連続関数 j
Cm)を得るとき, um級であるといい, j
Cm)を m 次導
関数という(いかなる非負整数 m に対してもぴ”級である関数は u
w級で
あるという).すると次の定理に述べるように m 次連続関数は必然的に m
回繰り返し 1次連続である. しかし逆にこの性質が m 次連続性を保証す
るには定義域に制約がつく.これについての議論は次章に任すが,その最
終的な根拠は後に扱う「(多変数の)積分]にまつことになる.

繰返し微分の定理 m を非負整数とする.このとき m 次連続関数 fは


um級であり,その m 次導関数 pm)はその定義域 Dmの非孤立点 aにおい
ては次の関係をみたす:
4
4

/Cml(a)=m!
/lm
l(a
, ・

・,a
).

ここに m!は 1X2X… X mを表す(とくに m=Oのときは 1とする).


m に つ い て の 帰 納 法 で 示 そ う ま ず m=Oのと苔は明白である.次に,
ある m まで成立しているとする.このとき補題より

f伽 ー l)(x)-/伽 ― l
)(
y)
=(m-1)!(
Jlm
-ll
(x, .
.
.,x)-J
lm-
ll(
y, .
.
.,y
))

=(m-l)!~/1m1(x1, .
.
.,xゎ Y
i
, …, Y
m)(
x;-
y;)

~pm1(x1, …
=((m-1)! , x
, , …, Ym))(x-y)
,y
,


を得る. ここに x
, Jはそれぞれ X, yを表す.
,Y したがって j
Cm-
l)は 1次連
続であり,その非孤立点 aにおける微分係数は m!f加l
(, …
a , a
)である .

, gを有界集合 D上の m 次連続関数とし, aを


ライプニッツの公式 I
右辺が定義される D の点とする. このとき次の等式が成り立つ:

(/·g)<m)(a)=~mC;fu)(a)·g<m-,)(a).

m!
ここに m
C,は . を表す
i!(m-z)!

固 ライプニッツの公式を導け(ヒント:積の m 次連続性定理).

重複原理 m を非負整数, fを X 上の m 次連続関数とする. X


'"の点
a=(ao, a
1, .
.
.,a
m)が与えられたとき, {
O, 1 .,m}を「同じ座標値を
, .
.
とる番号の集団」に分割したものを D とし,それぞれの集団を dと表す.
このとき, このとき点 a における f
[m]の値は次の等式で表される:
第 2章 1変 数 関 数 の 微 分 鵬 4
5

f
[ml
(ao
, a
1, .
.'
, am)

=L1<1~1~:)ca,; 四
dED

ここに心は dの元 iに対する a


,を表し, I
dは次の関係で与えられる関数
を表す:

J
(x)
Jia;x)=
I
T(x-a;)・
z
(缶 d)


Iを m 次連続関数の展開定理により展開し,同じ座標値をとる番号の
集団をまとめると,繰り返し微分の定理により所期の結論を得る.


註〕

この命題が成立するには fは max{ldl-1}次連続であれば十分である
が,ここでは立ち入らない,

さて . m次連続な関数は微分を m 回繰り返して 0次連続関数を得るが


逆はどうか次章で見るように結論をいえば常識的な設定では肯定的であ
り,初等関数は構成樹の各段階における定義域の共通部分に含まれる閉区
間において 00 次連続であることが判明する.

擬区間上の関数の微分

この章では擬区間上の関数の微分について調べ,初等関数の簡便な扱い
を正当化する.初等関数のいくつかは加減乗除とその組合せおよび)レート
などその陰関数である「代数関数」で表されるが,対数関数などのように
積分を必要とするものもある.こういった関数の高次連続性を具体的に調
べるには高次平均変化率を扱うことになるが,これは実際にはかなりデリ
ケートな代物である.そこでこれを安直に行う方法がある.それが次の定
理である.

高次微分誤差の基本定理 m を自然数, fを有界擬区間 I上の u


m級関
数とする.このとき f
(m)の誤差関数¢ は m
!f[
m]の誤差関数であり, fは
m 次連続である.

この定理の基本になっているのが次の定理である.残念ながらこの命題
の証明はこの段階では未定義である「積分」を使って記述されているので,
この段階では完結しない.そこで,これまでに何とはなく聞きかじったこ
とのある読者が漠然と把握できるように紹介するにとどめる.

高次平均変化率の積分表示定理 fを擬区間 I上の u


m級関数とする.
このとき,その m 次平均変化率は次の式の O~sik=l, 2
, …, m
),
~Sk~l における重積分である:

J
<ml
(c叶区 (
c亡 C
o応
).
第 3章擬区間上の関数の微分 1
1
11
1 4
7

旧来の実数論の仮定の下で閉区間上の連続関数を考えるとこれは 0次連
続であり,この定理の条件の根底にある 0次連続性は連続性で置き換える
ことができる.

3
-1 m =lのケースの具体的な処理
この章の最大の内容である高次微分誤差の基本定理の証明は一般的には
後章の積分に関する議論を要する. しかし,せめて m=lのときぐらいは
今解決しておきたいという読者のために下にその少々込み入った証明を挙
げる.それだけでも,後述するロピタルの定理の基礎を直接与えることに
もなるのである.

増加原理 fを擬区間 I上の 1次連続関数とする.このとき fの導関数


が非負値関数であることは Iが広義単調増加であるための必要十分条件で
ある.

'必要性は
/(x)>/
(x'
j[l]

)をみたす X
が非負値をとることから分かるので,十分性を示す.
, ぷ(x<x')が与えられているとする.まず正数 s
をうまくとることにより,『の 2点を絶対値距離 s未満の範囲でいかよう
にとっても /
[llの誤差が I
J[l
l(x
,x'
)I未満になるようにする.さらに擬区
s
間[
x, ぷ]を幅ー以内に等分した小擬区間の内部から Iの点を 1つずつ選
2
び小さい順に並べて X
1,X
2, …, X
r-1とし, xo=x, x,=ぷと定める.こ
,―1はどれも s未満であり,
のときは― x の対角部の値が非負であるこ
j[l]

とから /
[l
l(
Xi
,X )はすべて /
,1 [l
l
ー(
x,x
')より大きい. したがって

/(x')-/(x)

=~(f(x;)-/(X;-1))

=~/[l]は, X,-1)(xi-Xi-1)
4
8

>~/[1l(x, x
')(
x;-
x;一1
)

=f(x')-f(x)

となり,矛盾する. したがってこのような X, x'は存在しない(擬区間を


どう区切ったときも,平均変化率が全体の勾配以下になる小擬区間ができ
ることに注意).すなわち fは広義単調増加関数である. ●

_
___
___/


¢ヽ,
ヽ,ヽ

_/


ヽ__
__/


’’’
’’‘
’’’
’‘’

ダ ...

X
X

系 1 増加定理の仮定に加え, j
llが正値であれば fは狭義単調増加関
l
数である.

'fが同じ値をとる 2点があるとし,その間の小擬区間]において考えよ
う.fは Jにおいて広義単調増加になるためには一定でなければならず,
その結果 p1
iは 0となり仮定に反する. ■

系 2 (平均値の不等式) fを擬区間 I=[a, b


]上の 1次連続関数とする.
このとき Iの点 U, V で次の不等式をみたすものが存在する:

/
Cm
l(
u)
;:
:;
;J
ll
l(
a,b
);
::
;;
J(
l)
(v
).

'/
(x)
-jl
1l(
a,b
)
側も同様に得られる.
xに系 lを適用することにより左側の不等式を得る.右

微分誤差の基本定理 fを有界擬区間 I上の 1次連続関数とする.この


第 3章 擬 区 間 上 の 関 数 の 微 分 鵬 4
9

とき j
Olの誤差関数¢ は j
[l
]の誤差関数である.

” この定理は「高次偏平均変化率の積分表示定理(第 7章末)を用いると
容易なのであるが,この際直接的に証明してみよう.正数 T
, t(ただし
r>t) およびに― x
*l
;;
;;
:¢
(t
) 門
, ly-y;;
;
;:r
f
;(
t)をみたす Fの点 (
x,y
),(
x*,
y
*)に対し I
J[
ll
(x
,y)
-/[
1l(
x*,y
*)I;
;
;;
:
rを示そう. j
[l
Jが対称関数であるこ
とから, (x-y)は
*ー y*)<Oのときには (
y,x
)もまた (
x*,y
*)との距離が
やはり ¢
Ct)以下であるので (
x,y
)の代わりに (
y,x
)を考えればよい.そ
こで,簡単のため x
;;
;;
y, ぶ'
;;
;;
y*であるとしよう.
3d
Iの広さを dと し を越える最小整数を N とする. 1から N
'r
f;(
r-t
)
までの整数 iごとに i-l<Nu,<iとなる u
,をうまく選び, x,=x+(y-x)u,
で定めた X
,が[に属するようにする.また便宜上 u=O, UN+1=lとし, 。
xo=x, X
N+1=yとする.
ここで xキ yのときは [
O
,l]上の O次連続関数 gを次のように定める:

0から N までの整数 iに対して u


;;
;;
;u
;;
;;
u,□において
( ―u,)((y-x)g(u)+/(x))
u叶 l
=(u叶 1
-u)
/(x
,)+(u-u汀(
x,
+1
).

また x=yのときは g(u)=j
ll
l(
x.y
)uと定める. このとき gのグラフは折
れ線で表され, iごとに U
iと U
i+!の間では傾き j
ll
l(
x,
,X,
+1)の直線である
ことに注意しよう.ここで(ぶ', y
*)についても u
*,. ぶ〗, g* を同様に定
めておく.
[
O
,l]を点 U
i
,u, (重複を込めて 2N個)で区切ってできる小区間の点
*
v を考える.今 k-l~Nv~k とすると, Uk-1<v<uk+1 かつ

u
*k-
1<v<u
*k+
1である(ただし Kが 0のときは番号 k-1を 0
, N のとき
は番号 k+lを N に代える).ここで間題の小区間における g
,g*のグラ
フの傾き j
ll
l(, X
ぶ ,+
1)
,jl
ll(
x¥, ぶい 1
)を考える.
ここで増加原理の系 2を擬区間 [
x,y
]に適用して得られる U, V の一方

を (1-u)x+uyとし, [
x*.y
*]に適用して得られる u
*,v
*の一方を
5
0

3
(1-u*)x*+u乃*とするとき,それぞれどちらを選んでも lu-u叶ニ
N
である. したがって次の結論を得る:

I
(l-u)x+uy-(1-u*)x*-u乃*
I
;
:
,
;I(1-u)(x-x*)+u(y-y*)I
+ l(u* — u)(x* — y*)I
3d
紅 (
t)+
N
;
::;
;cp
(t)
+¢(
r-t
).

ところで]の桐密性によりこの 2点の間には両点からの距離がそれぞれ
I
'の値の



Ct)
. ¢Cr-t
)未満となる[の点が存在するので,両点における
差は t+Cr-t)=r以下である.その結果, gと g
*のグラフの各小区間にお
ける傾きが T以下であることより, g(l)=/
[l
l(
x.y
)と g*Cl)=!
[l]
Cx*
.y*
)
の差は T以下である.

3
-2 ロピタルの定理
初等関数を具体的に扱っているとデリケートな点が出現しそこでの処理
が渇望されることがよくある.それを可能にするのがこの節で扱う定理で
ある.以下この節では, a を左端, bを右端とする有界閉擬区間 Iを固定し,
その点 uに対して x>uをみたす[の点の全体を L と表す.

ロピタルの定理 I上の O次連続関数 J


, gが J(a)=g(a)=Oをみたして
おり,特に gは 0次連続な逆関数をもつとする.また h=fogは各 g―l
(J
u)
上で 1次連続であるとし,その導関数は I上の O次連続関数 kを用いて
f
(x)
kog―1 と表されるものとする.このとき は x=aにおいて値を k
(g(
a))
g(
x)
と定めることによって I上の O次連続関数に拡張できる.
第 3章擬区間上の関数の微分 1
1
11
1 5
1


関数 hの対角線まで拡張された平均変化率 H は uごとに匂 (
I.
))
2上で O
次連続関数であるが,微分誤差の基本定理により, kog―lと同じ誤差関数
k をもつ. よって H は (
g(I
-{a
}))
2においてこれを誤差関数とする 0次連
続関数となるので, K=H(gXg)は (
I-{
a})刊こおいて 0次連続である. ま
た(
a,a
)に対しては対角線上 0次連続,またそれ以外の x軸上の点に対
しては y方向, y軸上の点に対しては x方向に 0次連続である. したがっ


て 0次連続性に関する境界値定理の第 1条件をみたすので F において 0
f
(x)
次連続である. したがって は I上の O次連続関数 K
(x,a
)に拡張さ
g
(x)
れる.

系 この定理は擬区間の左端 aの代わりに右端 bの側で記述することも

できるまた, a が一 00 のときも F(x)=パ¾), G(x)=g(¾) に上の結果を


適用して同様の結論を得る.


sinx
l
im =lである通常の論理構成ではこれにロピタルの定理を使う
X→ o X

のは誤りであり,厳密には「曲線の長さ」についての議論を要する. とこ
ろで本書の流儀では a
rcs
inxが面積で定義されているので,後述の「微分

l-x2)―百を得る.
積分学の基本定理」によって,その導関数 ( したがって
次のようにしてもよいわけである:

smx y 1
lim =hm . =hm =l
X→ o X y→ oarcsmy Y→ O (1-炉)万1

00
ロピタルの一定理 I
=[a
,b]を有界閉区間とする .fを (
a,b
]上の
00

正値関数, g*を I上の非負値の O次同相関数で g*(a)=Oをみたすものと


, (
し a,b
] に お け る g*の 逆 数 関 数 を g と す る ま た , h=fog―1 は
5
2

a<u~b に対して g([u, b


l)上で 1次連続であるとし,その導関数すなわ
g―l
『( (t
))
ち は I上の O次連続関数 k定用いて kog―1と表されているもの
g
/(g―1
Ct
))
/(x)
とする.このとき は x=aにおいて値を k
(a)と定めることによって
g(x)
I上の O次連続関数に拡張できる.

r
IDJ
f
(
1-5
) 境界値定理の第 2の条件に当てはめてみよう.まず g
*, kの誤
差関数を戸 K
, 。
関数 hの平均変化率を H とし, K = H(gxg)と定める.
ここで B={a}XJUJX{a}, A=BULl とおき (
L
lは対角線), K を」の点 (
x,
)において k
x (x)
, B において値が k
(a)となるように F まで拡張しておく.
このとき K は A 上 0次連続であり,その誤差に対する上界の一つを M
とおく.
まず a<u~b とするとき微分誤差の定理により [u, b
]に属する W, X
,
yに対して I
K(x, y)-K(w, w)I
=IH
(g(
x), g(y))-h
'(g
(w)
)Iは [
g(u
),g
(b)
],
ひいては [
g(a
),g
(b)
]における kog―1のどれか 2つの値の差以下であるこ
とに注意しよう.

そこて c(t)~mu,(b, al,(½)} とし, 旦



'
oO(t)~min!, ,·((t:c;~r))))
と定める.そこで A のゆ(t) —近傍にある !2-A の点 (x, y
)に対して I
K(x
,
y)-K
(p,q )を (
)I~t となる A の点 (p, q x, y) のりCt) —近傍の中で見つけ
よう(便宜上 xく yとする).
以下 tを固定しよう.まず(ぷ, y
)が 』 の ゆ (
t)ー 近 傍 に あ る と き は

lx-yl~ ゆ(t)~K(!_) より, [x, ]における Kの値の差は


y L以下である.
2 2
t
したがって上記の注意により I
K(x
, y)-K(x, x)I~ ーである.
2
A のゆ(t)—近傍にないときは B のゆ Ct)—近傍に属するが,ここで z=min

{
b, a 十ゆ(t)} とおくと a<x~z<y となる.そこで次のように変形する:
第 3章擬区間上の関数の微分 I
I53

f
(x)
-f(
y)
=
(g(
x)-
g(z
))K
(x,z
)+(
g(z
)-g
(y)
)K(
z,y
).

さて,再び上記の注意により (
0,z
)の元 w に対して I
K(x
, z)-K(w, w
)I
t
はー以下であるが,この値の w に関する 0次連続性により I
K(x
,z)-K(a,
2
t
a)I~ ーであり,このことから
2

l
f(x
)-f
(y)
-(g
(x)
-g(
y))
K(a
,y)I
t
~(g(x)-g(z)) — +g(z)M
2
~(g(x)-g(z))t
~(g(x)-g(y))t
を得る.すなわち (
x, y) が A のゆ(t)—近傍にあるときはどのケースにして
もI
K(x
, y)-K(a, y)I~t であることが分かった. したがって (
1-5
)境
界値定理の第 2の条件をみたすので, K は J
2上で O次連続であり,これ
に y=bを代入したものは 0次連続である.さらにこれに 0次連続関数
f
*(b
)(g
*(b
)-g
*(x
))
、 、 、、 をかけることによって所期の結論が得られる. ■

系 この定理もまた区間の左端 aの代わりに右端 bの側で記述すること


もできる.


註)
00
ロピタルの一—定理が擬区間ではなく区間上で記述してあるのは c(t), z
00

において gの値が定義できていて欲しいという証明上の都合によるテクニ
カルな要請による.これについては現在のところ次の 1
)ような解決法も
あるが,通常は 2
)のように解釈する:

) tごとにこれよりも a寄りにある擬区間の点を充てる「関数」に代
1
える(誤差関数というものは実数の再生産に用いないので,少々人為
5
4

的でもよいと納得する…擬区間上の単調関数に対する逆関数の O次連
続性でも少々人為的な誤差関数を用いている).
2
) 「実数体系には,『無限回の人為的操作』といわれようと『決定不能』
といわれようと,旧来の実数論・集合論的スタンスが許容する『あら
ゆる」操作の結果生じうるものが予め備わっている」とみなす.

系 aが 一 00 のときも F(x)=f(!), G(x)=g(~) に上の結果を適用し


て同様の結論を得る.


a
, bを正数とする.このとき, n→ OO では l
ogn
, n叫 ebn, n!'nnの
うちで左のものを右のもので割ったものの極限は 0である. n!
以外では
変数として正数をとることができる. また l
og(
n!)=~logk であることか
ら x軸,直線 x=n, 曲線 y=l
ogxで囲まれた図形の面積を S
(x)とおけば
S
(n)<l
og(
n!)<S(n)+1となるので, n
!を eS(n)で代用して変数の実数化
を行うことができる.それを踏まえて x→ OO のとき

lim((l,~ り)~iimC,l~U
=lim(c~a))=o

l
iml
og(~) =l
im(
alo
gx-b
x)

alogx
=hmx(x -b)=-oo

したがって

a
. X
hm bx =O
e

limlog(; )
二=lim(bx-S(x))
第 3章擬区間上の関数の微分 1
1
11
1 5
5

b-S(x)
=limx( X)=-oo

S
(x) (
logx)
なぜなら lim-=lim =ooとなるからである.
X 1
よって

ebx
l
ime
s(
xl=O

S(x)
e
最後の一―ーの極限についても,その対数である /
xx (x)
=S(
x)ー
ェ logxを考
えるこれについては f
'(x
)=logx-(1+logx)=-1であるから /
(1)とあ
わせて直接 f(x)=l-xを得る. したがって

S(x)
l
ime X =
lim
ef(
x)=
lim
ex-
l=O
X

となる.

3
-3 関数の多項式近似
関数を点 aのごく近くにおいて多項式で近似することを考える.誤差が
O
.OO
Ol(
x-a
戸である近似と (x-a)5である近似とを比較しよう.後者は前
者の lOOOO(x-a)刊音であり,それは x-aが 0
.1であれば 1
00倍
, 0
.00
01
であれば 0
.00
01倍である.このように xが aに近ければ近いほど,誤差
は低次項のが大きいことが分かる fを m 次連続関数とする.このとき,
m に関する帰納法により次の等式が成り立つ:

f
(x)
m
-1
=~(x-a)1戸 (a)1+1+(x-a)mfrml(x, a
, …, a
).
1-0

したがって f
(x)の近似式としては, m 次以下の多項式の範囲では g
m(X
;
m

a)= (
x-a
)iJ
[il
(a)
'十 1を選ぶのが x=aの近くでは最善になる.これを f
i=O
5
6

の a における m 次主要項と呼ぶ. /[mlの誤差関数りが与えられたとき,


│-
ぷ a
l::
C::
¢(t
)にとればげ(
x)-
gm(
x)I
::0
::t
(x-
a)'
"となる.
さて, ここで擬区間の特殊性を活用して, この誤差を f
(m)で表そう.

テイラーの定理 Iを閉擬区間 I上の m-1次連続関数とする. また a


,
bを Iの点とする. このとき次の関係をみたす[の点 C
, dが a と bの中
間に存在する:

(b-ar1cm!(c)
m!
~f(b)-gm-iCb; a
)
(b-arIcm
>(d
)
~
m! .


高次平均変化率の評価定理により明白である. .
関数 f(x)=exに対し a=O, b=l, m=lOとおいてテイラーの定理を適
1 1 1 1 1 1 1
用してみよう.主要部 Q
m-1
(0;0
)は 十―-+ー—+ +―-+ +
O
! l
! 2
! 3
! 4
! 5
! 6
!
1 1 1 ec e 4
+7!+―-+ーであり,誤差は
8! 9
! 1
0!

1
0

! 10
!
である (この例の結果

をフィード・バックすれば eく 2
.72としてもよいことが分かる).

主要部および誤差の範囲を電卓で求めよ.
i

テイラーの定理における誤差項の表示をラグランジュの剰余という.
の表示は一番普通のものであるが,関数によっては誤差が小さいことが見
えにく<. 他の表示が望ましいこともある,例えば /(x)=(l+x)" (
aは実
(b-a)(b-cf-1/(
ml
(c
)
) では誤差項を
数 で評価するのが適している
(n-1)!
第 3章 擬 区 間 上 の 関 数 の 微 分 鵬 5
7

(コーシーの剰余).このようにするには高次平均変化率の評価定理に代
わって誤差項の積分表示を変形する必要があるが, ここでは深入りしない.


関数 /(x)=arctanxを x=Oの近辺で近似してみよう.テイラーの定理
1 0
- ,-1 .
.
. となる.
に従ってぷの係数を順に求めてみると 0 1 0
''3'5'
これを計算で確認することは可能であるが,誤差項まで込めて満足できる
形にするのは困難であろう.ここでは途中から横道へそれて次の g
(x)が
a
rct
anxからどの程度ずれているかを調べよう.

g
(x)
=£-ご十ご…十(-lt-1x2k-1
1 3 5 2k-l

d(arctanx-g(x)) (-1)←i
x2k
とおくとき = である. したがって正数 bに
dx 1+x2
X
2
k
対して larctanb-g(b叶は x軸 , y軸,直線 x=b, および曲線 y= で
1+x2

囲まれる部分の面積であり,曲線を y~x"(~d(<f :;)))におきかえた

b蹄 +
1_0
2k+
l
もの 以下であることが分かる(後述する「定積分」を参照).
2k+l
ここで bにいろいろな値を入れたものは円周率の計算に有効である.誤差
項が小さい値になるためには b=lが限界であり,このときの主要項をど
こまでも続けた記述を「 G
reg
ory
-Le
ibn
itzの公式」という:

冗 1 1 1
=a
rct
an1=1-—+---+…
4 3 5 7

b=l では誤差項の収束が余りにも遅いので,ここでは tan30°=3 ―½ に注

目して円周率を求めてみよう (
3
0° は弧度法ではエ)主要部を求めるには
6
5
8

.b l b
3 b
5 b
7 b
9
a
rct
anb=c —-+—+-
1 3 5 7 9
b
2 がが b 8
=(1--+---+
3 5 7 9
— )b

I 1 1
とおいて b=3方(当然が=ー が=一 …)を代入すればよい.誤差項の
3'9'
b
ll
絶対値は 以下である.
1
1


固 電卓でーを上の方法で求め,誤差項を小数第 4位まで調べることに
6
よって,冗の小数第 2位までの近似が 3
.14であることを実際に確認せよ.

多変娑難関数の微分

旧来,多変数関数の微分を扱うときは安直な「偏微分可能 J
, 小難しい
「全微分可能」をへて実用的な「い級」に達し, どれとどれがどう違うと
か 1変数のときの「微分」が多変数のときの何に該当するかとか思い悩み
ながら微分回数を重ねるのが常であった.本書の姿勢は明解である. ここ
では「 m 次連続」という自然で実用的な捉え方を導入し,これ一本です
すめる.ちなみに旧来想定されていたような定義域上での C
"'級というの
は,局所的にこの性質をみたすことと同義である.それ以外のものは話題
として参考のため紹介するにとどめる.この章では R"の部分集合 Sを定
義域とする関数について考える.

4
-I 多変数の高次連続関数と偏微分
S上の O次連続関数 fが m 次連続であるげの連続度は m 以上である)
という概念を次のように, m について帰納的に定義するすなわち, m'
< mをみたす任意の m'に対して, sxs上の m'次連続関数 j
l(x
,y,1
) 2
(
x,y
), °'', f
"(,y
x )で次の性質をみたすものが存在することをいう(こ
のとき各 fを X,に関する偏平均変化率と呼ぶ):

n
/(x)-/(y)=~fi(x, y
)(;―砂…・・(*)
x
i-l

この延長線として,いかなる自然数 mrに対しても上の関数が mr次連


続にとれるときは o 次連続であるという.後に判るように直積集合上の
...
ときなど Sの設定によっては,任意の J次連続関数
U fに対し各 I
'が UJ次
6
0

連続にとれることがある.このとき (
J) 次連続関数は 00 次連続であるとい
う こ れ ら の 定 義 は n=lのときは 1変数関数としてのものと同義である
が,このことは直積集合上の理論の適用例として後節で必然的に判明する.
旧来の実数論のもと特に Sが有界閉集合のとき, m 次連続は c
m級とい
われるものと一致する.これは m が 00 のときも含めて該当するが C
"'級
は少し毛色の変わったものに使われている用語である.
0次同相写像 fは fおよびその逆写像を形成する関数がどれも m 次連
像であるとき m 次同相写像であるという.

固 m=n=lのとき,上の定義が 1変数の 1次連続性と同義であること


を確認せよ.

重複原理 関数 fの変数をいくつかにグループ分けし,ある番号 iに対


して第 iグループの変数全部に同じ値 X;を代入して得られる関数 g
;を考え

. もし fが m 次連続であれば g
;は m 次連続であり, g
;の Xiに関する偏
平均変化率は fの第 iグループの変数に関する偏平均変化率に同様の代入
を行ったものいくつかの和である.

圃 この命題を証明せよ.ヒント, 1変数の繰り返し微分の定理の証明を
みよ.

多変数関数では偏平均変化率の値が 1通りに表される訳ではない.例え
ば 2変数のとき, fに x亡 2を加え fから x1-y1を減じておいてもよい.
Y

(注意) m=lのときは /1(x2-y2)に加え /2(x1-y1)から減じるべき関数は


x← y
( 1)(
x←y
2)で割った結果が有界であるわけではない.例えば, min

{
lx1
-Y1
IIx
亡 Y
2I百, lx1-y叶可 x2-y
叶}でもよい.例がこのようにいさ
さか異常になるのは末梢的な話題に固執しているからだと認識すべきで
あろう.
ところで x=yをみたす点においては偏平均変化率の値も通常は一通
第 4章 多 変 数 関 数 の 微 分 璽 6
1

りに定まる. この一意性は fに無関係に,「x=yのとき関数 0の偏平均


変化率の値が 0に限るか」だけに依存する性質である.この性質をもつ
点を非退化点という.非退化点集合の閉包に属する Sの点は非退化点
である.非退化点の集合をとる操作を m 回繰り返した結果得られる集
合の点を m 次非退化点という. sの任意の点 a はそれを通る n本の独
立した方向の直線で a を孤立点としないものをもてば非退化である(例
えば開集合の点).そのときはこの値を点 aにおける /
(x)の X,に関す
る偏微分係数というまた,非退化点に偏微分係数を対応させる関数を
釘(
x)
偏導関数といい
, OXi ,

めることを,偏微分するという.
f
x,(
x),

OX;
などと表記する.偏導関数を求

4
-2 旧来の「偏微分」との比較

旧来の微分積分学に出現する諸概念について解説しよう.旧来の実数論
のもと Sが有界閉集合であるとしょうこのとき「連続 Jは i
O次連続」
と同義になり, ) 「全微分可能 J
i 'ii
) 「変数 X,に関して偏微分可能」と
) として「 1次連続」も
いう性質が次のように定義される(比較のため 0
並べる):

0
) sxs上の O次連続関数 /
1(x
,y)
,f2
(x,y
), …, /
"(x
,y)で次の
性質をみたすものが存在する:

n
/(x)-/(y)=LJi(x, y
)(x
;-y
;)
i~l

i
) 次の性質をみたす sxs上の関数 /
1(x
,y)
,f2
(x,y
), …, f
"(x
,
, y を決めるごとに xに関して連続なものが存在する:
y)で

n
f(x)-f(y)=~Ji(x, y
)(x
,-y
;)
;~1
6
2

i
i ,の近傍で定義された 1変数 X,の
) 番号 iと点 y を決めるごとに, y
連続関数 f
'(x
,;y こ
)のうち,「第 i成分が X,で,その他の第 j成分が y
となる xに対して次の等式をみたすものが存在する:

f(x)-f(y)=f
'(
x,:y
)(x
;-y
,)

)はi
明らかに分かることであるが 0 )を, i
) はi
i) を導く. i
i)の
ときも f
'(
y,
,y)をぶに関する偏導関数という.上の i)'ii) における「連
続」の前にそれぞれ「 aにおいて」 9 「
(a;a)において」を挿入したもの
,
) 「全微分可能 J
をとれるとき, a において i 'ii
) 「変数 X,に関して偏微
分可能 Jといい,そのときの I
'の値を a における偏微分係数という慣習
がある.
全微分可能な関数は連続であるが,すべての変数に関して偏微分可能な
関数ぱ必ずしも連続ではない. ところで,本書の主旨は定理の条件が必然
的に発想され,証明が自然になされるように捉えることであって,定理の
条件をどこまで削れるかというのではない. ここでは,通常の書物によく
書かれている概念を紹介し,注意を要する点を指摘するにとどめる.

4
-3 高次連続関数の諸性質と繰り返し偏微分
低次連続性定理 m を自然数, m'を m より小さい非負整数とする. こ
のとき有界集合上の m 次連続関数は m'次連続である.
この定理により, m が自然数のときは,定義における m' として m~l

をとって調べれば十分であることがわかる.

, bを実定数とする.
線型性定理!, gを有界集合上の m 次連続関数 a
このとき 1次結合 af+bgは m 次連続である.

圏 この 2つの定理を定義に従って証明せよ.

乗法定理 J
, gを有界集合上の m 次連続関数とする. このとき積 f・g
第 4章 多 変 数 関 数 の 微 分 塵 6
3

は m 次連続である.

I証明方針
m についての帰納法で示す. m=Oのときは 0次連続関数の性質により
正しい . m未満では成立するとする. h
(x)=f(x)・g(x)とおく.このとき,
h
'(x
,y)
=f'
(x, y)・g(x)+f(y)・g'(x, y
)と定めれば,低次連続性定理,
帰納法の仮定および線型性定理により所期の結論が得られる. ■

固 上の h
'により hが m 次連続であることを実際に確かめよ.

1
固 正 数 eおよび m 次連続関数 fが与えられたとき, h(x)= に対
/(x)
してかをうまく定めることによって, hが /(x)>cをみたす範囲におい
て m 次連続であることを示せ.

連鎖定理 fを RPの有界部分集合 S上の, 9


1,9
2, …, 9
Pを Rqの有界
部分集合 T上の m 次連続関数とし, 9
(u)
=(9
1(u
),9
2(u
),・

・,9
p(u
))はつ
ねに Sの点になっているものとする.このとき h(u)=/
(9(
u))で与えられ
る関数 h=fo9は T上の m 次連続関数である.また m 未満の m'に対す
る hは次の式で与えられる:

h
'(, v)=区/
u '(9
(u)
,9(
v))
・9/
(u,v
).


低次連続性定理線型性定理および乗法定理により h
'は 孤 次 連 続 に な
る.また,次の等式が成立するので所期の結論を得る:

h(u)-h
(v)=f
(g(
u))
-J(
g(v
))


ご f'(g(u), g(v))・(g,(u)-glv))
=L Lfj(g(u). g
(v)
)・g
/(u
. v)・(u,-v;)
6
4

=~(~f1(g(u), g
(v)
)・g
/(u
,v)
)・(
u;― 叫 .

註〕

この定理は区の代わりに行列で表すことでその全貌を見渡すことがで
きる.実際,逆関数の微分を表すに当たっては逆行列で表記するのが一番
見通しがよいであろう.


1次同相関数 fが与えられたとき, (
x, z)=(x,f
(x,y
))で与えられる
写像の逆写像 gに上の定理を適用すると, Jogが恒等写像であることより

g
(x,z
)の xに関する偏微分は h=
圏 になる. zを z。に固定すると


h
(x,z
o)は陰関数 g
(x,z
o)の導関数である.それが常識的な意味でのもの
であるためには gの定義域が fにおけるのと同様のものであることが望ま
れる.

1次同相定理 fを RPの有界部分集合 Sから R"への 1次連続写像, f


の偏平均変化率のなす行列を]とおく.また]より小さいある正数 dに対
して J-Eの成分の平方の総和がが以下であるとする (Eは単位行列).
このとき fは 1次同相写像である.

r
IDJ
f
まず G=J-Eと定める. n項列ベクトル uに対して Guの各成分の絶
対値は G における対応する行の長さに uの長さをかけたもの以下である
から Guの長さは uの長さの d倍以下である. よって, Juの長さは uの
長さの 1-d倍以上である.このことから l
fa
o<
pが像への O次同相である
ことが分る. の各成分は fの像から Sへの 1
ところで]ー 1 -1の逆写像の偏
平均変化率をなし,]の行列式は (1-d)n以上である. したがって]ー 1は 0
第 4章 多 変 数 関 数 の 微 分 璽 6
5

次連続である.すなわち fは 1次連続である.


注意) 偏平均変化率は一意的に定まらないが,後に分るようにその対角
部は通常の設定では一意的に定まる.例えば Sが凸集合のとき J-Eの
z以下であれば fの偏平均変化率の
成分の平方の和が対角部において d
なす行列として ]((1-t)x+t
y, (1-t)x+ty) の O~t~l における定積分
に取り直すとよいことが分かる.

m を 2以上の自然数とし, fを m 次連続関数とする fに対し「何らか


の変数に関する偏平均変化率を連続度が 1以下しか減らないようにとる」
という操作はどの変数列に沿っても m 回繰り返すことができる.このよ
うにとったものを m 回順次偏平均変化率という(次節で出現する「 m 次
標準偏平均変化率」とは区別が必要) • m-1次連続にとった偏平均変化
率に x=yを代入して得られたものである偏導関数は再び偏微分の対象と


亙厖)がf
なる.このように偏微分を繰り返して得られる関数を =
3
Xj 3
x;3
Xj'

a
t
) 炉f
叫a
x
, = ……などと表し,偏微分の回数 m にしたがって m 次偏導
心i a
x戸
関数(この 2つの例では 2次偏導関数)という.

繰り返し偏微分の存在定理 m 次連続関数は m 次非退化点 aにおいて


合計 m 回どのような順でも偏微分できる.



m-1次連続にとった f
'に対し,それと 2n個の m-1次連続関数 x→ X,,
x→ X,との合成であるパX, x
)が m-1次連続であることから m に関す
る帰納法で分かる.
6
6

4
-4 直積集合上の m次連続関数
この節では関数 fの定義域 S は有界集合の直積集合ふ XS2X… Xふ で
あるとする. n=lのときは必然的にこの条件をみたす.
非負の整数 m に対し {
1 , …, m+n}から {
,2 l,2
,・.n

・ }の上への写
像 m を長さ m の n—番号関数という.このとき i の m による逆像のサイ

ズを iの頻度といい, m,と表す. n-番号関数 m が与えられたとき, m-偏


平均変化率 j
lm]なる関数を次のように定める(以下, m 次標準偏平均変化

率とも総称する).ただし,定義域は S
m=I
Ts印)の点のうち m 値の等し
い番号の対に対しては座標値が異なるものからなる集合とする:

I
:
/[ml(X)=.•I
:fn(x;,, …, X
;n)

h jn I
TIT(
x
;
,―Xk,)
i-1幻(
a/a
h)

ここに X=(x1, …
, Xm+n) とし,区は m の値が iとなる番号 j
,について

の m;個の和を表す.また, I
II
Iは j,以外でこれと同じ m 値をもつ k;に
ついての積の iについての積を表す.またふを /
[mlの拡張定義域といい,
I
[軍]がここでの O次連続関数に拡張できるとき単に拡張可能であるという.

整合性定理 指定された m に対する fの m 次標準偏平均変化率がどれ


も拡張可能であることは fが m 次連続であるための必要十分条件である.
特に n=lのときは 1変数関数としての m 次連続性と多変数関数としての
m 次連続性は一致する.

'証雨
まず必要性を調べるため, fが m 次連続であるとする.このとき任意
の m 次標準偏平均変化率は,代入の補題を繰り返し適用することにより,
適切な m 回順次偏平均変化率に「ある m+n個の変数を除いて残りはこ
れらのどれかに等しい」という関係式を代入したもののいくつかの和で表
第 4章 多 変 数 関 数 の 微 分 1
1
1
1 6
7

され拡張定義域上 0次連続である.
次に指定された m に対し m 次標準偏平均変化率がどれも拡張可能であ
るとする.このとき, m 回順次偏平均変化率 gを
, gの変数のうち適切な
ものを選んで m 次標準偏平均変化率に代入したものまたは 0になるよう
にとれることを帰納法で示すという方針で fの m 次連続性を示そう.ま
ず m=Oのときは明白である.そこで, m-1回順次偏平均変化率 hがそ
のようにとってあるとする.簡単のため hキ 0とし, M2 切ー 個の変数を一
1

行にならべておくと

h
(X1
,Xz
, "
' 狐約,…, YM)
, XM)一h(

=~(h(x1, ・
・,
・X;
,Yi
+t, …, YM)一h
(x, …, X
1 ;-1
,y, …
, , y
心)

(…)が m-1次偏平均変化率に第 i変数を代入して得られてい


となり, h
る項は m 次標準偏平均変化率への代入の (
x;-
y;)倍と表され,そうでない
項は 0となる. よってこの定理は証明された ■
1変数の初等関数は有界集合上で多変数関数として (
J) 次連続でありそ
の結果基本的な初等関数をいくつか組合わせでできた関数も (
J) 次連続で
ある.詳しくは構成要素となる関数の定義域を,逆数関数および l
ogに関
(2n+l)
7r
しては x=Oの近傍, t
anに関しては の近傍を除外した有界集合
2
にとっておいたときは (
J) 次連続関数でぁる

繰り返し偏微分値の定理 m を長さ m の n—番号関数とする.このとき

m 次連続関数 fを各 a
,が m,次非孤立点である a において各 X;について
m,回偏微分した値は偏微分の順序によらず次の式で与えられる:


)(a
)

=
I
T 11m1(A).

ここに A は各 aが m;+l個並んだベクトルとする.
6
8

[
IDJ
f
m に関する帰納法による (
1変数のときの繰り返し微分の定理の証明を
参考にせよ). ■

多変数の近似定理 fを m 次連続関数とする.このとき次の近似が成
立する:

f(x)= L !1k1(ak)(x-a/+ 区 f1k1(xk)(x-al


k
(lk
l<m
) k
(lk
l-m
)

ここに (x-a)kは (x;-a炉の積とする.また l


l, Xkは次のように定めら
k
れる拡張定義域の点である.すなわち,これらの s
,mげ 1部の座標のうち
「 K岳 0 となる j は f~i」をみたす i における xバこ対するものは一つが X, で
残りは a
,
, それ以外のものはすべて aと定める.
証明は m に関する帰納法による.

(注意) さらに定義域が擬区間の積であるとき, 1変数のテイラーの定理


を繰り返し適用することにより,各 j
lkl
(x)は a
k ,とぶを端とする擬区間

の積の点における f
(
k)の値 XI
T幻!倍と表すことができる.

4
-5 直方体上の関数の m次連続性
この節では Sを n個の有界擬区間 S
,の積とする.

1変数のときと同様. この節でいう繰り返し偏微分とは各ステップごと
に 1次連続であることを確認しながら偏微分を行うものである.

高次偏微分誤差の基本定理 f を S 上の関数, m を n —番号関数とする.

また, Iは 0次連続関数の範囲で m に沿って偏微分でき,その結果を f(m)


とする.このとき f(m) の誤差関数は f の m—偏平均変化率 /[ml の IJm,! 倍

の誤差関数である.
第 4章 多 変 数 関 数 の 微 分 璽 6
9

この定理の基本になっているのが次の定理である.残念ながら一変数の
ときと同様にこの命題の証明はこの段階では未定義である「積分」を使っ
て記述されているので, この段階では完結しない.そこで, これまでに何
とはなく聞きかじったことのある読者が漠然と把握できるように紹介する
にとどめる

高次偏平均変化率の積分表示定理 設定を上の定理と同じにとる.この

とき, f の m—偏平均変化率は次の式の〇;;;;;ふ k, ~ ふ k
;;;
;;l
(i=
l,2
,…, n:
k=l, 2
, …,加,)における積分である:

j
Cm
l(
・・
・, ぶ o+~(x, k-x,o
)
s,
.k,・

・)
.

多変数 m 次連続関数の判定定理 m>Oとする. s上の関数 fが m 次


連続であるには, fの変数を並べた長さ m の任意の列に対しても,これ
と同じ重複度の n—番号関数の一つ m に沿った順に繰り返し偏微分した結
果 0次連続関数を得ることが必要十分である.
証明は上記の高次偏微分誤差の基本定理による.

4
-6 極値問題
fを Rn上の 2次連続写像とする.このとき fが Rnの点 a において広
義の極値を取るなら fの 1次偏導関数の値は a において 0である.ここ
がf
で fの 2次偏導関数 の値を並べた行列を H とする . Hは実対称行
O
X;O
Xj
列であるから,その固有値はすべて実数である.

【定理】
R"上の 2次連続写像 fは点 a において 1次偏導関数の値がどれも 0で
あるとする. もし H(a)の固有値の 1つが負値であれば fは aにおいて広
義極小ではない もし H(a)の固有値がすべて正値であれば fは aにおい
て狭義極小である.
7
0


まず,ある固有値が負値であるとしよう. このとき固有ベクトルの方向
において極値問題を解くと Iが広義極小ではあり得ないことが分る.
次に固有値がすべて正値であるとしよう. このときは多変数の近似定理
により次の近似が成立する:

f(x)=/(a)+ L !1k\xk)(x~a)
k(lkl~2)

ここで一般 (
i
,j)成分をとして J
[kl
(x)と定めた実対称行列 H を考える.
k
ただし Kはその像が重複を込めて {
l,2
,…, n ;,
ij}となる長さ 2の n-
番号関数とする.その結果 xが aに十分近ければ H は固有値がすべて正
であり,その範囲で xが aに等しくなければ /
(x)の値は /
(a)より大きい
I
I


註〕
H の固有多項式の係数がすべて正値(非負信)であることは固有値が
すべて負値(非正値)であるための必要十分条件である.

これらのことを組み合わせ, H の固有方程式の係数で述べると以下の
ように整理される.すなわち Iの偏導関数の値がすべて 0になる点におい
ては

係数が 極大 極小係数が
一疋
r
'->付
A 心万に
交代的

→ 狭義 ←

• ←

広義



広さと積分

この章では R"の有界部分集合の n次元の広さやその上の関数の積分に


ついて考察する.

5
-1 広さ
以下この章では一つの実数体系 R を固定して考えるまたこの節では
R"の有界部分集合の n次元の「広さ」について考察する.集合の広さを
測るにあたり,たまたま埋め込んだ R"の nが関与する必然性への疑いや,
また空間内の面の広さなどを扱う需要に対しては後の節で応えることにす
る.集合の広さや関数の積分値を考えるには代表的な方法が二通りある.
一つは「リーマン積分」というかなり手軽なものであるが,極限について
の扱いは次に述べるものよりも制約を受けるもう一つの「ルベーグ積
分」は修得すればある程度の束縛のもとで極限操作が可能であるが,その
条件には必然性が見出せない.おまけに修得するまではかなりの精進潔斎
が必要であり,加えて実数論や集合論についてのかなりきわどい議論をく
ぐらなければならない.本書ではむやみに「無限」に立ち入らない, した
がってここで扱うものは基本的には「リーマン積分」の類似といってよい
であろう.
ここで旧来の微積分学に多少なりとも付き合ったことのある読者のため
に発想の転換が必要な点を指摘しておこう.旧来の意味では「広さ」が
定められない有界集合が存在する.これは「全空間」への埋め込み方の問
題であって集合自体の性質ではない.本書の立場では集合を埋め込むべき
R"の R 自体が相対的な存在であり,この意味で絶対的な「全空間」を考
7
2

える意味を持たないのである.
R"において各方向に関して平行な 2つの座標超平面で挟まれる部分を
矩体といい境界以外では交わらない(まちまちなサイズの)矩体の有限個
の和を集矩体といい,それぞれの矩体の各方向の長さの積を総和したもの
をその集矩体の「広さ」という.集矩体を有限個の閉矩体の和で表す方法
は必ずしも一通りではないが,その広さは表し方に依存しない(細分に
よって変化しないことに注意).
,および R"の有界部分集合 Sが与えられた
ここでいくつかの実数 sと a
としよう.今,次の条件をみたすことを~ 尺;Vn(S;)~s と表記する:

Vs'>s ヨP二心:集矩体 VQ
二心:集矩体
[Vi Q
,cP
,] ⇒ こ伍記(Q戸 s
'
.

この表記ではさらにいくつかの項を移項したり,左辺・ 右辺を倒置して
ニで表記することも許容する. さて

L;a;尺 (
S);;:;;s
; かつこ〗① vn(S;)~s

であるときはこ伍訳'
(S,
)=sと表す.特に炉 (
S)
:<
:;
sのとき sを Sの外測値

といい, vn(S)=sのときこの値を Sの広さという.

固 ごia;沢 c
s
戸 s
'が sより大きい任意の実数 s
'に対して成立すること

はこi
:vn(s,)拿と同値であることを示せ.

固 Rnの有限個の有界部分集合 S とその合併 Sに対して次を示せ:

) vm(s)~=こ ivm(s;),
i

i
i) 異なる Sと Sの点どうしの距離が正の定数 r以上であれば
戸 (S)~:こ
,戸(Si).
第 5章 広 さ と 積 分 闘 7
3


註〕
, 3のそれぞれのとき「広さ」は日常的には「長さ」 「面積 J
n=l, 2 , 「体 9

積 Jと呼ばれているものを表す.

広さに関する稲密性の原理 R の(桐密な)部分実数体系 R'が与えら


れているとする. また, Rnの有界部分集合 Sの R'nとの共通部分 S
'が S
において桐密であるとする. このとき S
'の実数体系 R'に関する広さは S
の実数体系 R に関するものでもある

’R の 意 味 で Sを 覆 う 集 矩 休 は RIの 意 味 で 3 を覆う.また RIの 意 味


で 3 を覆う矩体の集まりを,その内部にある S の 点 を 中 心 に し て わ ず か
に相似拡大した R の意味の矩体の集まりは Sを覆うのでこの結論を得る.



註〕
桐密部分集合は「全体」の中で相対的に広さをもつわけではないので,
この定理を旧来の体系の中に組み込むことはできない.

擬区間の広さの定理擬区間 I
=[a
, b] の広さ(長さ)は b~a である.

nsJf
まず b-a自 体 は 外 測 値 を 与 え る . 次 に [ を い く つ か の 擬 区 間 I
,=[
a,,
か]で覆ってあるとしよう.これらのうち共通部分をもつものがあれば端
の点どうしであるように小さい擬区間にとり直すことができる.その結果,
番号も付け替えるとかー 1~a, であるようにできる.{りが aお よ び bを覆

う こ と か ら , も し こ : ⑰ -ai)<b-aで あ れ ば あ る 番 号 iに 対 し て は

b
,-1
<a,となり, R の桐密性より, Iの 点 の う ち ど の I
のが存在することになり仮定に反する.
A の外測値は b-a以上である.
,で も 覆 わ れ な い も
よってこのような被覆は存在せず,

7
4

積の広さの定理 Rmの部分集合 A と Rnの部分集合 B に対して次の等


式が成立する:

v
"'十 n
(AXE)=戸 (
A)炉 (
B).

’広さの積自体が外測値を与えるので, これより小さい値が外測値にはな
らないことをいいたい.
いくつかの矩体 Sで A X Eを覆ってあるとする. まず A 方向の点 xを
指定するごとにこれをみたす点をもつ Sの全体を考える.これらの B方
向の広さの和が b未満になる x がなければすべての矩体の n個の長さの

積の総和こいよ aXb以上になるので,広さの和が b未満である x が存在


するとしてよい.これは {x}XBが S
iで覆われていることに矛盾する. し


たがってこ]は aXb以上である.

固 A,を広さをもつ Rnの有限個の有界部分集合とし, A=U,A,とする.


このとき A の広さの和は A の外測値(の一つ)であることを示せ.

固 A, B を知の有界部分集合とし, AコB とする.このとき次の事柄


を示せ:

) A の外測値は Bの外測値である.
i
i
i) A が広さをもつとき,その広さは後者のもの以上である

A を Rnの広さをもつ有界部分集合, B をその部分集合とし, A の広さ


から B の広さを引いた値が A - Bの広さであるとする.このとき B は A
において相対的に広さをもつという.旧来の意味で「広さをもつ」とは,
実数体系 R が暗黙のうちに認識されているという前提のもと, A を含む
矩体 [-r, r
]nにおいて相対的に広さをもつことを意味している.
第 5章 広 さ と 積 分 圃 7
5

固 有界集合 A において相対的に広さをもつ部分集合 Sの A における境


界集合 a
sは広さ 0をもつことを示せ.


註〕
我々が日常的に扱っているたいていの有界集合はどのような意味でも広
さをもっているが,「 Oと 1の間にある有理数の全体」というような集合
はわれわれがもっと広い「実数」のような体系を固定してその中で考える
ときには相対的に広さをもたない.

ー渥三量
ちなみに旧来の微分積分学では,「完備な J実数論のもともっぱらこの
意味での相対的な広さを論じる. しかし「ルベーグ積分」での可測性に関
してはこの判定法は通用しない.また, この世界では「 Oと 1の間にある
有理数の全体」は広さ 0をもつが,それでも「すべての集合が広さをもつ J
というわけにはいかない.

糊代定理 有限個の番号 iごとに A を Rり


), A
',を A の有界部分集合
とし, A=UA,, A'=UA',とする. このとき次の不等式が成り立つ:

~vn(A';)-vn(A り;;; ~vn(A;)-vn(A).

’A,および A'の集矩体被覆 P
はP
,, P'が与えられたとしよう.このとき A
,の総和 P で覆い, A',は P
,と F の共通部分 P
',で覆う. ここで P の
うち F の外側にある部分を p
" とすると,次の関係により所期の結論を
得る:

区 vn(P;)-I
:尺 (P'i)=ご 尺(P;nP")

;;
;炉(P")=vn(P)-vn(P').

7
6

5
-2 近傍とその広さ
本書では R"における nより低い次元の広さを論じるにあたり,集合の
近傍の広さを援用する.以下の 2節では R"の有界部分集合 Sの r近傍
U
(r, S)の広さ v
(r
, S)について論じる.ただし距離は次章冒頭の「日常
距離」に依拠する.

近傍の広さの同次元凸性と 0次連続性の定理 r
。を正数とするとき v
(r
,
S ,r
)は [
O o
]の範囲で r
"に関して上に凸であり, したがって rに関して 0
次連続関数である.

'証雨
第 1 段階として S が(空でない)有限集合のときに,この関数の r• に

r1
-n
関する導関数すなわち U
(r )の境界の n-l次元の広さを一―l音した
,S
n
ものが単調に減少することを示したい.空間より低い次元の広さの一般論
については次章で述べることにし,ここではこの特殊な状況についてのみ
断りなしに扱う.さて件の境界の広さは Sの点 sごとに境界のうち他の点
の近傍をすべて除いた部分の広さを sに関して総和して得られる.そこで
Sの点 sを固定した上で Sから sを取り除いた集合を S
'とする.このと
き次の関数の r>Oにおける単調減少性が問題となる.簡単のため s=Oと
する.

v
n-1
(aU
(r, {O})-U
(r,S
'))
rn-
1

=
vn-
i(a
u(1
, )
『-u(1. ~))
s
さて S
'の点 s
'ごとに 8
U(l
.{0
})-u
(1. し})は集合の包含関係に関して

単調減少なので, a
u(1
. 州)― u
(1. 予)も単調減少である. したがって
第 5章 広 さ と 積 分 1
!
11
1 7
7

その広さも単調減少であることが分る.
第 2段階として Sが無限集合のとき, r
i
:,
;;
r
2:
,;
;
nに対して次のことを示
したい.

(
rげ一 r
in
)v
(U
(r
2,S
)
)
忍r/― r
)v
り CU
(r
i,S
))+
(rり一 r
)v
戸 C
U(
r3
,S)
)..
..
..(*)

E
:
そこで 2>0に対して U
(r
2,S
)を誤差ー以下で立方体被覆したものを C
2
E
:
とし,さらに U
(o
,C)の広さの誤差が一以下になるように 0をとる.そ
2
1
こで Sを幅枷方で網日切りし, Sの点をもつ区画の中心の点すべてを集
めた有限集合を T とすると次式を得る:

U
(8
, C)コU
(8
,U(
r2
,S)
)=U
(8+
r2,S
)
=Uh, U
(8
,S)
)コu
(乃, u
(%,r
)

『r)
=u(

0
また一般的に U
(r
,S)および U
(r
,T)は互いのー近傍の部分集合である.
2
その結果

((ra+ >) n
-(r
1+%
r)c
vCU
Crz
,S)
)+c
)

~((ra+ %r
-(r
1+%
r)v
CU(
o, C))

~((ra+%r-(r1+%r)vCU(r2+0, S
))

~((ra+ %r
-(r
1 +>) n)v(u(r2+½, r)
~((rs+%r-(r2+%r)v(u(r1+%, r )
+ ((r2
+)『n-(r1+ >) n)v(u(rs+ > r))
7
8

~(ran ーゲ) v
(U(
r1, S))+(r
げー r
げ)v
(UC
ra.S
))

を得る.この不等式は正数 8
, cをいくら小さくとっても成立するので
(*)を得る.
ここで正数 eごとに,炉(
0,S
)―炉(
0 )が e以下になる 0を対応させる.
,S
その結果炉(
r. S)を戸の関数と見ると,この対応を誤差関数とする 0次
連続関数であることが r
"に関する凸性により保証される.これに関数 r
→ r
"を合成することにより,炉 (
r.S
)は rに関して 0次連続であること
が分かる. ■

広さの概念に可算無限加法を組み込んだ定義では炉(
r, S)の r
"に関す
る凸性は保つが, r=Oをこめた (
0次)連続性を保証することはできない.

5
-3 近傍の広さの定理
後に述べるように本書では R"の有界部分集合の n次元の広さの認知は
微妙な案件と位置づけている.そこで本節では集合の広さが認知されたと
きに近傍の広さを認知する方法を論じる.これは旧来的にいっても近傍の
広さを実効的に確定する方策を与えているということができる.

近傍の広さの定理 rを正数, Sを R"の有界部分集合とする.今, S


の広さが確定していれば Sの r近傍 U
(r,S
)の広さは実効的に確定する.

'証雨
広さの許容誤差 eが与えられたとする.このとき S を矩体で広さの誤
c
差がー以下になるように覆い,その p近傍をとって Sからの広さの誤差
2
が c以下になるようにする.このとき pは r以下にとることにする.また
正数 6, rを(後に指定するように)適切にとり,集矩体 P を

ScPcU(r, S
)
第 5章 広 さ と 積 分 1
1
11
11 7
9

U
(r,P
)cU
(cJ
, P)cU(p, S
)

が成立するように設定しよう.その結果 U
(<
J, P)と P の広さの差は e以
下になる.
さて Tが r以下であれば

U(r-r, P)cU(r, S)cU(r, P) ……(*)

である. ところで矩体の r近傍は広さが確定し r


"に関して上に凸である
ことから,次の条件下では(*)の両端辺の集合の広さの差は U
(<J
, P)
と P の広さの差ひいては e以下となることが分かる:

" (r-r)竺;1
r ー 5"
.

これに上記の要請を担保する条件

O< て ~6. 6 十て ~p

を加味して次のように設定することができる:

(
5
2'
p
=- r=minf
o
, r-(rn 6n)可
. ー
1

5
-4 積分とその基本定理
f
. g を Rn の有界部分集合 S 上の関数とし, f(x)~g(x) と仮定する.こ
のとき,次に述べる集合 [
g, /]を (
g, /)のグラフという:

[
g
,/]=
{(, y)ERn+1I
x xES, g(x)~y~f(x)}.

g=Oのときは単純に fのグラフといい [
f] と 表 す . ま だ さ ら に fが有

界であるとき [
f] の広さを fの積分といい f
f(x)dxと表す. dxの部分

は旧来 d
x1d
x2… d
xnと表記されている.
非負値有界関数 fの積分 [
f] の外測値を求める際の集矩体としては,
xを一つ定めるごとに 0を下端とする区間であるものをとれば十分である.
8
0

以下特に断らない限りこの章では R"の有界部分集合 Sを固定し,その上


で非負値をとる 0次連続関数を扱うものとする.
R"の有界部分集合 S上の任意の非負値 0次連続関数に対しては積分が
「実効切断」として一般的に正当化できるのであるが,これについては第
00 章において述べる.ここで述べるのは認知されている積分値から新た
な積分値を認知する方法である.例えば [
0,l
] 区間におけるぷ,ぷの
1 1
積分値がそれぞれー ーであることは旧知の方法で容易に確かめられる
3'6
1
ので,そのことからが+ぶの積分値がーであることが演繹できる.この
2
ような単純なことのために一般的な積分に関する高邁な存在論を前提にす
る必要はないのである.

制限積分定理 Sを Rnの有界部分集合, Tを Sの桐密な部分集合とし,


fを Sで定義された O次連続関数とする.このとき fの S上の積分は T
上の積分である.

囮 aを非負定数, Sを Rnの部分集合とする.このとき J
adx=avn(s)
s

であることを示せ.

積分の加法定理 Sを Rnの部分集合. f
. gを S上の非負値 0次連続関
数とする. このとき次の式が成立する:

f/t+g)dx=fJdx+f5gdx


簡単のためそれぞれのグラフ[/]. [g] は [~r. r
]n+
)の部分集合であ
るものとする.ここで,これを覆う集矩体を上問のようにとり,さらに
R"断面に関して共通細分しておく. さらにこの断面において[/]に対す
る矩体の上に [
g] に対するものを積み重ねた矩体をとって集計すると,
第 5章 広 さ と 積 分 I
I81


その広さは J+gのグラフの外測値を与える.この値は [
.f
],[
g] に対す
るものをうまくとっておくことにより所定の範囲にとることができる.
同様にして r-f. r-gのグラフの外測値の和が 2r-(f+g)に対するも
のになるので初期の結論を得る.

R"の部分集合 Sで定義された関数 fが 0次連続関数 g, hの差で表さ


れるとき gの積分値から hのを引いた値を fの積分といい J
fdx と表す.

通常, n>lのとき積分は重積分と呼ばれている.

, hの選び方に依存しないことを示せ(ヒント,
圃積分値は関数g fが
g
1-h
1, g2-h2と表されているとき, f+hげ h
zを非負値関数の和として
2通りに表し積分値を上の定理にしたがって二通りに求めてみる).

固 Sを R"の部分集合 fを S上の O次連続関数とし, cを実定数とする.

このとき, cffdxは c
fの S上の積分値であることを示せ.

固 Sを R"の部分集合,/, g を S 上の O 次連続非負値関数とし, f~g

とする. このとき f fdx~f gdxであることを証明せよ.


s s

積分について本節で述べた定理は今後,「面積分」やそれを含めた意味
での「広義積分」にもすぐさま適用されることになる.

5
-5 不定積分と原始関数
この節では n=lとする .Fを R の部分集合 S上の関数, fを Sの桐密
部分集合 T上の関数とする .Fが fの不定積分であるとは, [,y
x ]
nsを
みたす任意の 2実数 X, y(x~y) に対して f を何らかの非負値関数 g と h
の差で表すことによって, F(y)-F(x)が g
, hを [
x,y
] に制限した関数
の [
x,y
] 上の積分の差で表せることをいうちなみに,この差は g
, h
8
2

のとり方に依存しない. sの 2点 X, y (大小関係は問わない)に対して

F(y)-F(x)を f
1-
yf
t-x
(
t)d
t と表す.通常は S=Tでなおかつ区間であるも

ののみを扱うが本書では理論の整合性のためこのような定義を採用する.

微分積分学の基本定理 fを擬区間 I上の O次連続関数, F を[上の 1


次連続関数とする.このとき Fが fの原始関数であることは Fが fの I
上の不定積分であるための必要十分条件である.


F*を F の平均変化率,¢ を fの
, )*を
<
J F*の誤差関数とし,正数 tが
与えられたとする.
まず, Fが fの不定積分であるとする.また簡単のため, fの値は非負
であるとし,その上界の 1つを M としよう.このとき, xく yなる X, y
に対して F(y)-F(x)は fの 1
nに y
]におけるグラフの外測値以下である.

よって lx-yl<min や(½). り~(½)}の範囲では

t
f(x)+― ;
?;F
*(x
,y)
2

すなわち

t
f(x)~F*(ぷ, y)- ― ~F*(x, x)-t
2

である. また fの代りに M-J, F


(x)の代りに Mx-F(x)として同様の考
察を行うことにより F
*(x
, x)+t~f(x) を得る. したがっていかなる正数
tに対してもこの不等式が成立するので, F
*(x
, x)=f
(x)である.
次に F が fの原始関数であるとしよう.このとき, fは F*の対角部へ
の制限である. F*は F において値が 1以上だと仮定しても一般性を失わ
ない.今, Iの 2点 X, y
(xく y
)が与えられたとしよう.このとき, Iの点

からなる単調増加列 x=zo, z
1, …, z
1cyを Z,―Z,-1<(J)*((y~x))
= をみた
第 5章 広 さ と 積 分 麗 8
3

すようにとり,各小区間 1
n[z
,-, z.J において O~a,-F*(u,, v,)~min
1

{
1
, (y~x)} をみたすように定数 a, をとると,
F(y)-F(x)+t=~(F(zi)-F(z,-1))+t

>~(z,-z,-1)a,

となるので,値 F(y)-F(x)に対して右辺は fのグラフの誤差 t以内の外


測値を与える.同様に fの代りに g=M-J, Fの代りに G(x)=Mx-F(x)
として同様の考察をすることにより, gのグラフは G(y)-G(x)+tよりも
小さい外測値をもつので. F(y)-F(x)は fの Jn[x, y
なる.


註〕
したがって Fは fの不定積分である.
]における定積分と

旧来の実数論のもとでは,閉矩体上の連続関数はすべて 0次連続である
が閉矩体という条件は省略できない.実際問題としてはこの定理によるま
でもなく,閉矩体上での連続性の確認と 0次連続性の確認は同じ程度の手
間しかかからないものである.

5
-6 積分の変数変換
一次変換の補題 /=C/1, /
z, …
, I
』を Rnの有界部分集合 S上の 1次
連続関数の組とする.今, Iが 0次同相であれば fによる Sの像の外測値
として Sの最小でない外測値の I
ct
etハ倍をとることができる.ここに]
は (
i
,j) 成分が iにおけるぶの係数で与えられる行列である.

積分の変数変換定理 fを Rnの有界部分集合 Sから R"への 1次連続


関数とし, d
etJ
(x, x)は正の下界 cをもつとする. ,f
ここに]は (
i )成
分が !
1の X,に関する偏平均変化率で与えられる行列を表す.また g を
/
(S)上の有界正値関数とする.このとき, S上の関数 detJ(x, x)g(/(x))
のグラフの最小でない外測値は /
(S)上の関数 g(x)のグラフの外測値であ
8
4


”d
etf
(x,x
)g(
f(x
))のグラフを構成する矩体としては底面の各方向の長
さが一定で高さ方向には 0を下端とするものにとり,これらの広さの総和

を 区 と す る . 矩 体 の 一 つ と そ の 底 面 A の一点 a を固定し,一次写像
h(y)=a+(J(a, a
))→(
y-f
(a)
)を考えると

h(f(x))-x
=
J(a
,a)一1
(J
(x
,a)
-J(
a, a))(x-a)
=
det
](a
,a)
-1K
(a,a
)(J
(x, a)-]
(a, a))(x-a)

となる.ここに K は Jの余因子行列を表す.その結果, K(a, a


)(J
(x,

a)-J(a, a
))の成分の上界の一つを tとするとき A の外測値の (
1+ z;tr

倍は h
(f(
A))の外測値を与える.すなわち,さらにその (
1 +


) det](a,
)倍は f(A)の外測値を与える.また, d
a et(
J(x
,x)
-1J
(a,a
))=
det
(K(
x,
x
)J(
a,a
))(
det
](x
,x)
)―”の上界の一つを l+sとするとき, J(A)上の関

数g
(y)のグラフは (
1+s
)(1+ 2ntrl~ を外測値にもつ. ところで J
(x,
C

y
), K(y, y
)の成分および d
etの O次連続性ならびに d
et]
(x, x)が正の


下界 cをもつことから正数 (
1+s
)(l +


) n+i_1は矩体への分割を小さく

すれば A に無関係にいかほどでも小さくとれるので,所期の値自体が外
測値となる.

系 fを R"の有界部分集合 Sから R"への O次同相な 1次連続写像と


, gを J
し (S)上の有界正値関数とする.さらに d
et]
(x,x
)は正の下界を
もち, fの逆関数は 1次連続であるとする. このとき g
(f(
x))
det
](x
,x)
の S上の積分は g
(x)の f
(S)上の積分である.

曲線と曲面

ここでは空間における曲線の長さや曲面の面積とこのような図形の上で
の積分について統一的に論じる.そのため,この章でいう「距離」は日常
的な意味でのものとする.すなわち,点 xと点 yの間の距離として日常
距離

1
必(
x, y)=l
lx-
yll=
(区(x;-y;戸

を用いる.

6
-1 庁の有界部分集合の p次元の広さ
空間の中にある曲線の長さや曲面の広さの概念を統合し,整合性のある
姿で一般的に定義するのはかなり難しい.ここでは次の 3つの性質を満た
すことを念頭に Minkowskic
ont
entと呼ばれる量について考察する:

① 直積の広さは広さの積で与えられる.
② 基本的な例と整合
③ 空間への埋め込み方に依存しない

20世紀以降の数学では「完全加法」と呼ばれる可算無限個の加法を重
視するための変更が加えられるようになったその結果,面積を巡って多
くの複雑な概念が出現したが,無条件に①をみたすものは見られなくなっ
た.「完全加法」を取り込んで,関数の極限と積分の交換を実現するとい
8
6

う謳い文旬で出現したのがルベーグ積分であるが,これも次章で述べるよ
うに実際には「優関数をもつ」という,極限の議論には場違いな制約の下
でしかこの交換を保証しない.
n を非負整数, Sを R"の有界部分集合とする.また rを正数, pを n
以下の非負実数とし, q=n-pをpの余次元という.このとき Sの r近傍
の広さ v
(U(
r,S
))を Cq戸で割った値を炉(
r )と表す.ここに cは添字
,S


§
次元の単位球の体積,すなわち を表す.ただし一般に x
!は階乗の
(½) !
拡張値 I
'(x
+1)= 二txe1dtを意味し,げ)!は xが偶数のときには階乗,
,
J ―

奇数のときには冦.げ) .(¾)…(;)を表す.今,いくつかの実数 V. a
,

お よ び R"の 有 界 部 分 集 合 S
,が 与 え ら れ た と し よ う . そ こ で 便 宜 上
区;
a記 c
s謬 V と表記することがあるが,それは次のような関係をみたす
ことを意味する(しかしその表記における左辺は必ずしも確定した実数を
表すわけではない):

VV'>V ヨr>O 五 >O r


;釦 r L
;a記(
r
;, S心 V
'.

またこのことは, V より大きい任意の実数 V' に対してこ訪記(S;)~V'

であることと同値である特に沢(S)~V となる正数 V をもっとき S は p

次元の広さが有限であるという. ところでこの表記ではさらにいくつかの
項を移項したり,左右を逆転してこで表記することも許容する.さて

L
;a記c
s謬 記c
V か つ 区as麟 v

で あ る と き は 区;
a記(
S;=V と表す.この意味での~. ~ は加法的な
)
「順序」の性質をみたす.また桝 (S)=Vのとき, V を Sの p次元の広さ
(Minkowskic
ont
ent
)という.
第 6章 曲 線 と 曲 面 鵬 8
7

,を p次元の広さをもつ
圏 S R nの有限個の有界部分集合とし, S=Uふ
とする. このとき次の不等式を示せ:

州 (S);;i;~; 州(
S;
).

<例題>
aを正数, Sをp次元の広さをもつ R"の有限個の有界部分集合とする.
異なる iとjごとに Sの点 Xiと Sの点 X;の距離が a以上であるとすれば
次の不等式が成り立つ:

州 (S)~~; 州(
S;
).

~解

a
条件より,ー以下の正数 rに対して次の不等式が成り立つ:
3

v
(U(
r, S))~~;v(U(r, S
;)
).

ここで両辺を Cn-prn→で割ることにより所期の結論を得る.

冽1
R の中にある区間 [
a,b
] の 1次元の広さ及び 1点の O次元の広さは
定義に従って計算するとそれぞれ b-a, 1であることが容易に分る. これ
に①を適用できれば, R"の中にある p次元の直方体の p次元の広さは辺
の長さの積であることが分る. このことから埋め込む空間の次元に依存し
ないことが分る.空間を決めた上で直交変換に関して不変であることは近
傍が不変であることからわかる.

例2
R3の中にある単位球面 Sにこの定義を適用すると, v
CU(
r,S
))は戸旦
4
冗(( )
1+r)3-(l-r)り
の範囲では となる.このことから Sの 2次元の広
8
8

さは 4
冗であることが導かれる.

高次元の広さの定理 p'>pとし R"の有界集合 Sの P次元の広さが有


限であるとき, Sは p
'次元の広さが 0である.

6
-2 直積の広さ
直積の広さの定理 V±.v
土 1 を正数とし, Sを Rnの
, 3 を Rn の有界
部分集合とする. このとき次の不等式が得られる.

州 (S)~V+, v
P'S戸 戸 ⇒
( V
p+p(5X5戸 V+・V+'
沢 (S)~V-, vP(S戸 V
-' ⇒ v
P+P
'(S
XS戸 V-・V ー!・

r
IDJ
f


kを 2以上の整数とする. i=l, 2
, …,いに対して r
,= ,a
,=c
qが,
k
a
',=
cq-
rりとし, S,=U
(r,
,S)
, S',=U
(r,
, Sりと定める.また i=Oに対し
ては a
戸 a信=O(=ro), S。
=¢;とする. このとき, Kが正数 eに対して十分
に大きければ第 1式の仮定から次の不等式が得られる:

v
(U(
r, SXS'))
~L (
v(S
,)-v
(S,一1
))v
(Uh
-,+
1, S)

~L (
v(S
,)-
v(S
,-1
))a
¥-,
+1CV+'+E)


区 v(S;)(a'k-,+1-a'k-,)CV+'+E)
~La,c州(S)+E)(a'1c-,+1-a'ic-,)(V三 E)

ここに和は 1からがまでわたる. さてこ:


a,(
a¥→+
1-a
'k-
,)は次の集合を縦
q ' l j _
にC
q, 1+k-2)り 倍 横 に c
(戸( g(パ1十 k―2
))2倍伸縮させたものの中にある
集矩体の広さとして捉えられる:

{
(x
,y) ヨtE(O, 1
) O<x<tf. O<yく (
1-)句
t
第 6章 曲 線 と 曲 面 1
18
1 9

この集合の広さは積分で表記され, B関数の計算により次の結論を得る:

v
(U(
r, SXS'))
Q
; CQ只(l+k―2戸(広十 1
::
)C
V+
'十c
).

ここに P=p+p', Q=q十q


'とする.逆の不等式に関しても同様にして

v
(U(
r, SXS'))
~L(v(S;)-v(S• 1
))v
(U(
rk-
1,S
'))

~L(v(S;)-v(S• 1
))a
'k-
1CV
-'-
1::
)


区 v(S1-1)(a'H+i-a'k-1)CV-' c) ー

こ区 a;-1(V- — 1::)(a'k-1+1-a'k-;)(V-' ー c)

芦 パl-k―2
)貨V--1::)(V-'-1::)


を得る. ところでこれらの不等式において,要求誤差に応じて正数 e と所
定の Kを適切に定めることで研(
r
, SXS')と V士 ・V
土'の差をその範囲に
できる. したがって広さの積は直積の P次元の広さを表すことが分かる .

系(広さの埋め込み不変性) R"の有界部分集合の P次元の広さはもっ


と裔次元空間に埋め込んでも変わらない.





余次元の空間における 1点を直積した上で P次元の広さを調べると分る .



一般的にいって pを固定し rを 0に近づけたときの v
P(r
,S)の挙動は
複雑である. これが有界となるような Pの下限を Sの「上次元」 ' 0 0 に発
散するような pの上限を「下次元」といい,この 2つが同じ値をとるとき
「次元」という.本書で採用する Minkowskic
ont
entは広さの定まった集
9
0

合の直積に対してはそれぞれの広さの積で与えられるが, もっと一般的に
次元は和で表される. しかし,例えば Rzの部分集合は 1次元であるから
といって素朴な意味で線状を呈しているというわけではない.すなわち次
の集合はある正数次元の広さが有限値に確定し,それを 2つ直積するとそ
の 2倍の次元の広さが確定する.特にパラメーターがある値のとき直積は
1次元であるが,およそ「線Jという感覚から外れている,

1
a を正数とする.このとき次に挙げる集合 Sの 次元の広さは
(
1+a)

(a+lド
)―(
1:
a) J[ ―
(l
!a
) である:
2 巾+2(11 )
+a)

S={n-0ln=l, 2
, .-
}
_

正数 rに対して n―a-(n+1)-a く 2r~(n-1)-a-n -


aとなる nが存在し,
この範囲の rに対しては I
U(r
,S)
I=n―"+2rnである. さて nを固定した
a an-
(l
+a
)
ときこの値の r―1
(団倍が上記の範囲でとりうる極値は r= にお
2

ける値 (a+ 1)(½)― (!:al のみであり,この値は n に依存しない.そこで端


(n-a~(n +1
)-a
)
における値 Anの変化が問題になる.

まず u=l十 / さ ら に x=((1-u-a)r
l+a
)と定めるとき,ふ =x-a+2x
2(u-l
)
である.ここで nとして整数の代わりに十 0か ら 00 まで変化する実数値
を想定すると, uは 00 から l+Oまで単調減少する.次いで xの uに関
する対数微分を通分すると分子 B(u)は a(u-l)u―a
-1_1+u-aとなる.
ここでさらに B(u)を uで微分した値ー a(a+l
)(u―a
-!-
u-a
-2)は負で
あって, uが 00 から l+Oまで変化するとき B(u)は単調に増加する.一
方 B(l+O)=Oより B(u)のみならず xの対数微分も負である.つまり l
og
第 6章 曲 線 と 曲 面 朧 り ]

x さらには x も単調に増加するので xの変域は十 0からげ) (l~a) -Oまで


2
であることが分る.
したがってふをこの変域において xで微分すると,その値ー ax-a-1+2
は負となり, Anは単調に減少する.ここで nが整数という制約下で限り

なく大きくなると, xは(『) o
!a D
(
f
lに 近 づ き ふ は Ca+)(1:a)に収束す


以上のことを総合すると, rが 0に近づいたとき r―o


:alI
U(r
,S)I
は収
1
束し, Sの 次元の広さは所期の値に確定することが分る.
l+a

可算無限加法を取り込んだ旧来の種々の[次元」ではこの例も正数次元
の広さが 0である.一方「標準カントール集合」と呼ばれる集合はいずれ
の体系でも l
og忍次元である.その変形として 0と 1の間のいずれの次元
の集合も構成されるが,それを 2つ直積した集合に対する 2倍の次元の広
さはもとの集合の広さの平方であるというわけにはいかない.

6
-3 積分
Sを Rnの有界部分集合で P次元の広さをもつものとし, fを S上で定
義された O次連続関数とする.もし fが非負値であってそのグラフの
p+l次元の広さが存在するときこの値を fの S上の p次元の積分という.
Sが「細分」をもつとき,その上の任意の非負値 0次連続関数に対して積
分が「実効切断」として一般的に正当化できるのであるが, これについて
は「実数論」の章において述べる.

積分の加法性の基本原理 Iを S上 p次元の積分値 A をもつ非負値の O


次連続関数とする.このとき, gが S上で p次元の積分値 B をもつこと
とf+gが P次元の積分値 A+Bをもつことは同値である.
9
2

~
正数 eが与えられたとし, fとgの値の変動が c以下になる幅 B
(c)をと

り m
, in{
c, B『}以下の値 rに対して U
(r,[
f+g
])の広さを評価しよう.

まず U
(r,S
)を差し渡し d=B(c)で網目に切る.その破片の一つ口が点 x
をもっているとする. このとき口の上にある U
(r, げ十 g
])の部分の座標値
H は最小が 0
, 大きい方は f(x)-c+g(x)-E以上あるが,大きく見積もっ
ても

H;;;;J(x)+c+2r+g(x)+c+2r

となる.このような部分の n+l次元の広さを合計して

v
CU(
r,[
J])
)+v
CU(
r,[
g])
)-8
cvC
U(r
,S)
)
;v
(U(
r, [
f+g
]))
;v
(U(
r, [
J])
)+v
(U(
r,[
g]
))

を得る.任意の正数 eに対してこの評価が得られることから, f+gの積


分値が A+Bで与えられることが分かる. f+gの積分値が分かっている
ときも同様の評価により,所期の結論を得る. ●

以下 Sは R"の有界部分集合とし, p次元の広さをもつものとする.こ
の節の残りの定理は容易に検証されるので証明は略する.

積分の比例性の基本原理 fを S上 p次元の積分値
a を非負定数とし,
A をもつ非負値の O次連続関数とする.このとき, afは P次元の積分値
aAをもつ.

fが S上 p次元の積分をもつ 0次連続な非負値の関数の差で表されると
きはそれらの積分の差をもって fの S上の積分という.この値は上の基
本原理によると非負値 0次連続関数の選び方に依存しない.ここで一般的
に次の定理が成立する.
第 6章 曲 線 と 曲 而 1
1
1
1 9
3

積分の線型性定理 , bを実数とし,また I
a . gを S上 p次元の積分を
もつ 0次連続関数とする.今 I
. gが S上で P次元の積分値 A, B をもて
ばaf+bgは p次元の積分値 aA+bBをもつ.

6
-4 向きのない広さとその上の積分
Sを Rmの部分集合とし,任意の正数 eに対して Sの中で単体的複体 k
をうまくとると S-Kの広さが e以下になるものと仮定する .Sから R"
への O次連続写像¢が絶対連続であるとは任意の正数 eに対して正数 8
をうまくとると Sの中の任意の単体的複体 K に対して広さが 8以下であ
れば単体の像の広さの和は e以下であることをいう以下この章では有界
集合 Sおよび絶対連続写像¢を固定する.
k を Sの中の単体的複体とする . Kに属する単体への¢ による像の m
次元の広さを総和した値の K に関する上限が与えられているとき,この
値を¢の m 次元の向きのない広さという.

向きなし広さの直積の定理 m 次元単体的複体 Sから Rnへの O次連続


写像¢と m'次元単体的複体 S
'から Rn'への O次連続写像炒に対し,前
者の m 次元の向きのない広さと後者の m'次元の向きのない広さの積は
¢X¢'の m+m'次元の向きのない広さである.

証明は略する.

¢の像を含む集合上の非負値の O次連続関数 fに対し,そのグラフのな


す m+l次元の向きのない広さを fの¢ に関する積分という. sにおける
非負値の O次連続関数 /
1とf
zに対してその和の m 次元積分はそれぞれの
積分の和に等しい.それゆえ, iとんの差で表される関数 fに対してこ
I
れらの関数の積分の差を fの m 次元積分という.この値は J
i, 丘の選び
方によらない.

向きなし積分の線型性定理定数 , bおよび 0次連続関数 f


a . gに対し
9
4

, af+bgの m 次元積分は fの積分の a倍と gの積分の b倍の和になる.


向きなし積分の分割定理 定義域を 2つの複体に分割しても 0次連続関


数の m 次元積分の値は変わらない.

証明は略する.

¢ を区間 [
a,b
] から Rnへの O次連続写像とする.ここで区間に分点
列 a=xo, X
1, …,ぶ,=bを考える. このとき d
2(¢
(x,
),¢
(x,
-1)の 1;
) ;
::
;
i;
;
::
;
k
における和を総和した値の上限 Aが存在すればその値を¢ の長さという.
長さについても向きなし積分と同様に分割定理が成立するが証明は略する.

長さの定理 長さはりの向きのない 1次元の広さである.

<補題>
v
(U(
r, Im¢))~Cn-1rn-l入 (q;)+cnr" 0印 r<oo

'まず,¢が折れ線であるケースを考える.このとき U
(r, Im¢)は各線
分の r近傍から始点の r近傍を除いたものと¢ の始点の r近傍で覆われる.
したがってこのときは所期の不等式が得られる.
一般的なケースでは,正数 e ごとに¢ を分点の像を順次に分節点とす
る折れ線で e近似したものをゅとすると U
(r, Im</J)CU(r+E, Imゆ)であ
る.その結果,

v
(U(
r, Im</J))~v(U(r+E, I
m</
!))
~Cn-iCr+c)n-l;l(ゆ) +ch+c)n


~Cn-iCr+c)n-l;l(</J)+ch+c)n

となり, これがいかなる正数 eに対しても成立するので所期の結論が得ら


れる.
第 6章 曲 線 と 曲 面 麗 9
5

冒長さの定理の証明

まず,上の補題により向きのない 1次元の広さが長さ以下であることが
分る.長さ以上であることを示すには,分点の像を順次に分節点とするい
かなる折れ線に対してもその長さ以上であることを示せばよい.また,こ
れは長さの分割原理から,この折れ線が単一の線分であるケースに帰着す


このケースでは線分を空間の中で第 1座標方向に置いてみると,曲線は
この線分と始点終点を共有している.それ故,その像の r近傍を線分に垂
直な超平面で切断すると断面は半径 rの n-1次元球体を包含するので全
体として線分の像の r近傍以上の広さをもつ. したがって¢の 1次元の
広さはこの線分の長さ以上である.
すなわち前半の結論と合わせて,長さは向きのない広さである. ■

6
-5 1次同相写像に関する m次元積分
以下¢が 1次連続であると仮定し, (
i
,j)成分が偏平均変化率釘で表
される行列を],また]]を D と表し, detDが定義域の対角郎において正
の下界をもつとする.

固 D を直交対角化し,次に X2=Dとなる正定値対称行列 X を 1つ求め


9
6

よ(実は正定値対称行列という制約下で X は唯一である).また, D の
固有値は対角部において正の下昇をもつことを示せ.

上問で定められる X を n½. その逆行列を D ―½ と表す.この節の主命


題である下記の定理はりが絶対連続写像であることを導く.

複体上の積分定理 非負値 0次連続関数 fの¢に関する積分は次の式


で与えられる:

(
1) J 摩 (
x))
det
D(x
, x)½dx

(
2) 特にりの広さは d
etD
(x f
, x)½dx.

以下,この定理の (
2)を証明するべく準備する,それができると fの¢
に関するグラフ写像に適用することで (
1)が得られる.以下この節では S
の点 a を固定し, R mから Rnへの写像 l
, Rnから Rmへの次の正射影 7[

を次式で定める:

1
l: X → ]
(a, a)D(a, a戸 x
1
: v→ D(a, a)万リ(
冗 a,a
)v.

このとき J
aは正射影である(係数行列の行ベクトルが正規直交系をなす
f
ことを確認すればよい). ここで正数 rおよび Sの点 sに対して集合 V
(s)
を次のように定める:

V
(r, s)=Jf―1
(Jf
oc/
>(s
))n
u(r
,¢(
s))
.

また Sの点 sすべてについて V
(r )を合併した Rnの部分集合を V
,s (r,
S
)と表記する.

固]が定数行列で, detDが正であるとする.このとき¢ の広さは Sの


第 6章 曲 線 と 曲 面 1
1
1
11 9
7

広さの (
det
D)汀音であることを示せ.ヒント:冗 o
<
Pに変数変換定理を
適用せよ.

<補題>
rを正数, dを 1未満の正数とし, A を単体とする.今がの元 (
x,y
)
で定まる行列 G
(x, y)=D(a, a
)-1
'](
a,a
)(J
(x,y
)-]
(a,a
))の成分の平
方の総和がが以下であるとする.このとき I
m¢ の r近傍の広さは次の不
等式で評価される:

C
qrい (
lm7
ro¢
)
~v(U(r, Im¢))
~cir十成)炉(lm7ro¢)

+v(U(r+rd, I
m¢l
a,i
))


'まず 1次同相定理により冗 o
qJは像への 1次同相であることが分る.そ
こで冗o
qJの(像の上の)逆写像をゅと定める.さて U
(r, Im¢)は V
(r,
S
)を包含するが,冗ゆC
s))を ¢
Cs)に写す写像¢。ゆが 0次連続であること
から第 1の不等式が得られる.ここで I
m¢ の点 ¢
(x)から距離 r以内にあ
る Rmの点 uをとってみよう.
ま ず 点 点u)における写像冗 o
c
/
Jの写像度が定義されその値が 0でない
ケースを考えよう.このとき冗o
c
/
Jの像の点点¢(y))で冗(
u)にいくらでも
近いものが存在する.そこで uから ¢
(y)に至る経路に中継点 vおよび v
'

v=to冗ゆ(y)-u)+u
v'=to冗ゆ(y)-¢(x))+¢(x)

とおくと, U Vは v
'cp
(y)
, v
'vとそれぞれ直交し u と vの間の距離は点u
)
と冗ゆ(
y))の間の距離である.今 vと ¢
(x)の間の距離を R とおき, ¢
(x)

と d の間の距離を変数 tとみると v と v
'の間の距離は (
R2-
t2叉 ¢(y)
)
9
8

'の間の距離は t
とv d以下になる.そこで tを変数として両値の和に対す

る極値問題を解くと問題の和は R(l+d2戸以下であることが分る. ここで


u と vの間の距離を aとすると Rは r
+iJ以下であり, aを小さくとると
vと ¢(y)の間の距離は r+rd以下になる.また点v
)は 点¢
(y)
)に一致す
る.すなわちこのケースでの uは Vの中にいかようにも近い点 vをもっ
ので Vの閉包の点である.
次 に 点 点u
)における写像冗o
r
/>の写像度が定義されていなかったり,あ
るいは定義されていても 0であったとしよう.このとき uが U(r+rd,
I
mr/
>la
』)の閉包に属することを示そう.まず R"'上で点り (
x))から冗(
u)に
至る線分にいくらでも近い Im(冗o
r
/>I
i
)J
)の 点 点 ¢
(y)
)が存在する.また,
この線分上で点¢
(y)から最も近い点を urとしよう.そこで点 vを
)

v=co冗
⑳ (y)-u1)+u1

と定め vと r
/>
(x
)の間の距離を R とすると,前のケースと同様 vと ¢(y)

の間の距離は R(l+d2
戸以下である.ここで u
'と vの 間 の 距 離 を o
,
c
/>
(x 'の距離を sとすると R は s十い以下であり, u と c
)と u />
(y
)の距離は

r-s+o+(s+o)(l+dりい以下である.この値の sに関する最大値は s=r


のときにとるので, 8を小さくとっておくと r+rd以下であることが分る.
したがってこのケースでは uは U(r+r
d, Imp
rI
aJ
)に属することが分かる.
これら 2つのケースを総合して, I
m¢ の点 r
/J
(x
)から距離 r以内にある
R加の点は U(r+r
d, Imp
rI
aJ
))または Vの閉包に属するので所期の結論を
得る. ■

1複体上の積分定理の証明
前述したように (
2) を証明すればよい.正数 dと Sに含まれる単体的
複体 k を固定して考えよう.便宜上 K はあらかじめ単休分割して各単体
上では補題でいう G の成分の平方の総和がいかなる (
a, X, y
) に対し
てもが以下であるようにしてあるものとしてもよい.
このとき K に属する単体」への¢による像の m 次元の広さを総和した
第 6章 曲 線 と 曲 面 1
1
11
1 9
9

値を考えよう.さて各々の広さ臼(ふ)は補題により

Cq戸 印 (Im冗 o仙)


;
;a
;v
(U
(, Im仙))
r
;
;a;
c.(
r+r
d)"
炉 ( 仙)
Im冗o
+vCU(r+r
d, Im¢Ia
L
J)
)

であるが (
r十成) m-•-1v(U(r+rd, Im¢ に))の r→ 0における極限値が有
限であることから

f I
L
de
t(D
(a )―
,a }
げ(a
,a)
](x
, x))dx

=vm(rm冗 o
r
/J
I4)
印 呵Im¢!L
I
)

;
;
;;
( パ Im冗 o
1+di r
/I心
J

であることが分かる.ここで detCD(a, a
)方 1
J(a
,a)
J(x
,x)と detD
)

(
a, a)½ の差の上界を 8とし,各辺の A に関する和をとると

f K
(
det
D(a
,a)百-o)dx

印 m
cr¢)
m 丘
~(l+d/戸 (Im 冗oefi [
K)
f .
~(1 +d/ (
de
K
t
D(a
,a)広十 o)dx

を得る. detの O次連続性より,この関係は分割を細かくすることですべ


ての正数 d
, oに対して成立する. したがって

f
K
detD(a, a
)百dx

~vm(lm¢i 丘)

f
~detD(a, a
K
)百dx

ここで S-Kの広さがいくらでも小さくとれることから
1
00

f
de
tD(
a, a)½dx


ニ 戸(Im¢)

寸detD(a, a)½dx
すなわち所期の結論を得る.

系 1 m=lのとき ¢(x)=《か (
x, ¢氏x
) ), 仇(
x))に対して m 次元積
分は次の式で与えられる:

f尺((ご ¢/2)½)dx

系 2 m=2, n=3で ¢ が xy平面の有界集合上で 1次連続関数ゅを用


いて (
x,y
,<f
;(
x,y
)) と書けているとき m 次元積分は次の式で与えられ
る:

J
/0¢(1 :
十ゆ;+¢
/戸)d
(x,y
).

’d
etD
(
こに x
x, x)=(l+
='(x, y
)とする
) -(ゆふ Vであるので所期の結論を得る. こ
¢りCl+『

変動過程,積分の連続性と累次積分

この章では関数列・累次積分などいわゆる極限操作に関連する事柄の考
察 を 行 う こ の 章 で 出 現 す る 0次連続関数は(指定された次元の)積分値
をもつものとする.

7
-1 数列•関数列
自然数の全体を N と表す.以下,自然数の逆数すべてと 0からなる集
合を 5 と表す.また,便宜上 00 なる記号を用い,これを 0の逆数と解釈
する . Dを R"の部分集合とする. NXD上の関数 fをD 上の関数列とい
う.慣習的には f
(k, x)の代わりに八(
x)と表す.特に n=Oで Dが 1点
からなるときは関数列は単に数列という.このとき「一様連続関数の列

fix) が /oo(x) に一様収束する」とは関数 fパx) が(½, x


)に関して EXD

上で O次連続関数であることをいう.この章ではこういったことを伏線に
して 0次連続関数について考察する.

通常は fix)が xを決めるごとに 0次連続であることを fix)は各点収


束するといい, (
k, x)に関する 0次連続性を意味する一様収束性との差
異について注意を喚起する.また連続でない関数の列についてもこれらの
概念を当てはめる. しかし本書では関数を変数ごとに捉えたものはそもそ
も認識しないし,連続でない関数を含む対象を根本概念に据えることには
関心を払わない.
1
02


註)
1
一様収束の解説に用いた関数 I
;= , K→ 0
は 0のとき 0に単調減少に収
k
束する関数なら他の関数に換えてもよい.

関数列 fix)が (
k
.
1
)に関して 0
x 次連続であることを通常は一様収束

するというが,ここでは 0次収束するという.正整数 a に対して「関数


列f
ix)が a次収束する」なる概念を次のように帰納的に定義する:

V
/3a ヨJi:/
< 3次収束
fパ パ
x)-f y)=区!
ki
(x
.y)
(x;―y
;)
.

【定理】
直方体上で O次収束する関数列 fix)が k
(=
/=0
0)を固定するごとに 1次

連続であり,その第 i 偏導関数 R が(½, )


xに関して 0次連続な何らかの
関数]により fパx)=g'(½, x
)と表されるとき f
ix)は 1次収束し, f
(x)

の第 i

~
(3
-1
偏導関数は g
'(O
, x)である.

) 微分誤差の基本定理による.


SXR上の関数 g
(I
;,x
)を次の式で定義する:

g(『, x)~1~:; .
.
. 臼 O
e
x .
..
..
..
..
..
. ~=O.

以下,当面は正数 a を固定しに l~a の範囲で考える. A={O)X[-a, a


]
とおくと, g は A において正数 t に対して !;~t の範囲では 0 次連続である.

また, e
xに多項式近似定理を適用することにより次の不等式を得る:
第 7章 変動過程,積分の連続性と累次積分 1
1
1
1 1
03

eaa1+½
I
g
(f
;,x
)-g
(O )I
,x ;
i
; .
(1+¼)1
ここで右辺の Eに関する誤差関数をゅとすると, I
(
f
;,x
)-(
0 )I
,x ;
i
;</
J(
t)
の範囲では [
g
(f
;,x
)-g
(O,x
)[;
;
itである.よって gは (
; 1.
5) 境界値定理
の条件をみたすので O次連続である.

ところで fバx)=o(l x
k
'
)とおくと関数列 fix)は k
(=
/=0
0)ごとに 1次連

続であり,その導関数 !k' は(½, )


xに関して 0次連続な関数 gにより
N(x)=o((k~l), x
)と表される. したがって f
ix)は 1次収束する.

7
-2 変動細分系
以下自然数の逆数と 0からなる集合を 5 と表す.次に前段として R",
R"'それぞれの有界部分集合 X, Y
, さらに XXYの部分集合 Sとその上
の非負値関数 fを固定するいわゆる「関数列」は Sが EXYになるケー
スと考えられ,以下の議論が適用される.
ここで関数の定義域を積分方向に沿って切った断面が連続的に変化する
ことを表現するため下記の定義をおく. まず X の点 xごとに Sの ぷ 断 面
S
(x)を次の式で定める:

S(x)={x を X—座標値にもつ S の点の Y—座標}.

X を R"の
, Y をR"'の有界部分集合とし, Sを XXYの部分集合とす
る. §={S1cs:Iは番号 0
, 1の有限列}が X の部分集合 X'における S
の (Yに関する P
'次元の)変動細分系であるとは次の 2条件を満たすこ
とをいう:

¥/8>0 ヨ
〇 >O, ヨk VI:I
I
I=k
Vx
1, x2EX', VY
1ES
I(x
1),y
2ES
I(x
2)
1
04

llx1-x叶l~a ⇒ |』 -yzll~B

VI 例 (
SI(
x))は X 上 0次連続
VxEX' 例(SI(x))=~; 研 c
s吠x
))
Vr>O U
(r,S
l(x
))=U訊 r
,SH
(x)
),

ここに I
I
Iは番号列 Iの長さ, I
iは Iの末尾に iを付け加えた列を表す.
また Iが空列のとき S は Sを 表 す も の と す る 特 に X'=Xのときは「X'
における」を省略する.以下,変動細分系では番号を列の末尾に付け加え
ていって得られるものを元来のものの細胞といい, どちらも他方の細胞で
ないものは独立であるという.


註〕
ここでは形式的取り扱いの都合から,細分化する個数は毎回 2つずつに
なっている. しかし実行上は有限個なら何でもよいし,その個数がステッ
プごとに異なっていても差し支えない.それどころか番号列が多重であっ
てもよい.以下では番号列の扱いについてはこのように鷹揚に対処する.

[
9
X={O}とし, Yを次のように定め S={O}XY
, p'=lとする:

Y
={(
y1,Y
2)I
Yt=(-2)―
"
,y戸 s
inn
, nは自然数}.

このとき Sを y1=0で切った細胞は X 上で変動細分系の条件を満たさな


い (
sin
nが [-1, l
] の中で桐密であることに注意).

《命題》
§={S1CS:Iは番号 0
, 1の有限列}を有界集合 Sの変動細分系とする.
このとき X の部分集合 X'に対して次のように定めると §
x,=
{Sx
J:SES,
, 1の有限列}は snCX'xY)の変動細分系となる:
Iは番号 0

VJ Sxl=S1n(X'XY
)
第 7章 変動過程,積分の連続性と累次積分鵬 1
05

これを Sの X'への制限という.さらに T={T1CT:Jは番号 0


, 1の有
限列}を有界集合 Tの変動細分系とする.このとき次のように定めると
§XT={S1XT1CSXT:J, Jは番号 0
, 1の有限列}は SXTの変動細分
系となる. '
~-
--れ
を§ と T の直積といっ.

固 グ = り と し Sが与えられたとき, X 上で変動組分系が存在するとす
れば Yに関して座標(超)平面による分割を進めていくことで得られ
ることを示せ.

変動細分系において番号列の長さが増大するにつれて各細胞は x断面
の差し渡しが 0に近づいていくが, p
'キ n'のときは P
'次元の広さが 0に
近づいていくとは限らない. ところで多くの場合,座標平面による分割は
X 上で変動細分系を与えるがそのケースでもこの事情は変わらない.

7
-3 細分系とその積分への適用
変動細分系の議論において X が 1点からなり, Sの断面が Yのときは
細分系という.このときは便宜上 Sを Y と同一視する.まずはいくつか
の例でその様子を調べてみよう.


1
X=S, p=一のとき, X を座標に沿って分割することで細分系が得ら
2
れるが, 5 と同じ広さをもつ細胞が常に残る.

積分の細分化原理 kを自然数, X を Rnの有界部分集合, fを X 上の


非負値 0次連続関数とする.今 X が P次元の広さをもち細分系 X が与え
られているとするこのとき次の関係が成り立つ:

f
Jdx
=L』1
/
dX
ここに和 ~I は長さ K の番号列すべてをわたり, JI は XI 上の積分とす
1
06


'fSfdx;;;;I
I
Lffdxは明白なので省略する . Mを fの上界の一つとする.
このとき

J
fdx+M (
s
S) 州

州 り
=f5Jdx十 L1M c
s
=fsfdx 十瓢 Mdx I

=f5Jdx十 『
区f1Jdx十L1 (M-f)dx
寸>dx L1『Idx+fs(M-f)dx

=区『lfdx+fMdx s

『fdx+MvP(S)
=LI

となり fJdx~L1『fdx を得 fJdx=L1『fdx が結論される. ■

これまでに部分や直積が「変動細分系」を保存することを確認したが,
0次連続関数のグラフもまたこれを保存する.その根幹部分をなすのが次
の定理である.以下の 3節では X,Y
,P'
, X x Yの部分集合 Sおよび S
の X における変動細分系 S={S1:Jは番号 0
, 1の有限列}を固定する,

積分の連続性定理 このとき S上の非負値 0次連続関数 fの Y方向の


p
'次元の積分値は X 上で O次連続である.

'与えられた正数 cに対して正数 8をうまく定めることにより, S


I(x
)上
第 7章 変動過程,積分の連続性と累次積分鵬 1
07

の積分値と S
1(xり上のものの差が e以内になるようにしたい.まず Vを
E
S
(x)の グ 次 元 の 広 さ 炉 (
S(x
))の上界とし,と]= と定める.さらに f
4V

値の差がど]以下になるようにふを定め, に対する変動細分系の第 1条
2
E
件 を み た す Kと 0を 選 ぶ ま た M を fの S上の上界とし,ど 2=2-k-3
M
と定めて沢(
S1(
x))値 の 差 が c
2以 下 に な る ふ を 選 ぶ こ こ で o=min

,『崎 と 定 め る と l
{
a 9 l
xーぷI
I紅 を み た す X, ぷに対して次の不等式

が成り立つ:

f
f(
x', y')dy'=区 『f
(
lx, yりd
' y'


こ/f(x', y'り戸)門 csパx'))
~I:/1cx. Yり+
2c1
)(v
P(S
1(x
))+匂

=I:/J(x, Yり+2ど1 sパ
)臼 c x
))

+区(/(x, が
) +2c1)E2
~I:/1cx, Yり
ーE1
)vP
'(Sパ
x))

+I:13釘 v
P'(
S1(
x))
+L/M+2
叫c2

→区f
1J
(x, y)dy+3E1V+2k+1ME2

J
= f
(x, y)dy+3E1V+2k+1M

その結呆, f
f(
x',y
')d
y'寸f
(x, y)dy+E を得る ここに J
I*dy',
J
I*dy はそれぞれ S 〖x'), S
1(x
)上の積分を表す. ●

系 定理の前提のもと, Iのグラフには X 方 向 の み な ら ず 関 数 値 軸 に
おいても座標方向に等分することによって YX[O, M]に関して X におけ
る変動細分系が導入される.
1
08

7
-4 累次積分
すでに「 Yに関する変動細分系」なる概念を導入したが,この節では
これを土台にして累次積分,すなわち集合の広さを断面の広さの積分で求
めることについて考察する.次に挙げる第 1の例ではそれがうまくいくが
第 2の例ではうまくいかない.

例l
[
0
, l]=Y, p'=lとする. ここで [
0
,l] の部分集合 X 上で関数 y=x
を考える.


X =Y
=[O
,l]
, p'=Oとし, Sを次の式で与える:

S
={(
x, y)EXXYlx=y}.

このとき, Sを y-xが一定となる直線で分割していくことで X における


変動細分系が得られる. しかしこの集合上で定数関数 1を積分すると,累
次積分とは異なる値を示す.ただ,この例では Sの広さは断面の広さを
積分した値より大きい. この現象はもっと異常な例でも見られる:

X=Y=(Q+2½Q) n[
O
,l]とし,

S
={(
x , y=p-22q, ただし P
, y)EXXYix=p+2万q . qは有理数}

とおく.このとき Sは X X Yの中で桐密であり,その広さは 1である.


一方 S の X—断面はたかだか 1 点であってその X 上の積分は 0 となる.す

なわち p'=n'であっても Sの断面のが次元の広さの情報だけで Sの 2次


元の広さを論じることはできない.
第 7章 変動過程,積分の連続性と累次積分鵬 1
09

以下本節では X の P次元の細分系 X が与えられていて,かつ Yは p


l
次元の広さが有限であるものとする.このとき Sが X 上で重層的である
とは,番号 0
, 1の任意の有限列 I
, Jに対して v
P+P
'(S
Iりが v
P(S
1(x
))の
Xエp次元の積分に一致することをいう. ここに SIl=S『1(XIXY
)とす
. また, このとき j
る SII
IJ
, Jは番号 0
, 1の有限列}は Sの細分系を与
える.また細分系自体は {
0}における {O}XXの重層的な変動紐分系を与
える.

《命題》
ふにおける変動細分系 S
1およびふにおける変動細分系出がそれぞれ,
又上, Xz上で重層的であれば S1X出 は ェ XX2上で重層的である.
この命題の証明は容易であり略する.

累次積分定理 Sが重層的であり fが S上で O次連続であるとする.こ


のとき次の等式が成り立つ:

fJCx, y
)d(
x,y
) =
』fs<x/Cx, y)dydx.
[
IDJ
f
正数 eが与えられたとする.そこで整数 kを十分大きくとり,長さ K
の任意の番号列 I
, Jに対して各 51rにおいて J
(x, y)~M11~/(x, y)+c
となる数 M
I,Jが存在するようにする. このとき

JJCx, y
)d(
x,y
)

=~I, J 11
f(x
,y)
d(x
,y)

ミ=
I
.JfII
MI,f
d(x
,y)


区,I]MI,f
vP+
P'(
sI,f
)


=~I. J f1M1・1dydx
l
lO


区 I. JJ(/(x, y)+c:)dydx
I J

区 I. !『f1f(x, y)dydx+I:1.1
= 『f c:dydx
=ff f
(x, y)dydx+c:vP十が (
S)
.
X S(x)

, Jすべてをわたり,
を得る.ここに区は I J におけるものは積分範囲

を制限する区画を表す.この不等式が任意の正数 cに対して成り立つので

fJCx. y
)d(
x,y
)サ JX
fS(x)f
(x, y)dydx

である.逆向きの不等式も同様に得られるので所期の結論を得る. ■

7
-5 断面定理
断面定理 Sが次の性質をみたしているとする.このとき Sは X 上で
重層的である.

VTE§ 咋>〇ヨK
VJ:IIl=k ヨY±1cY. ヨbI

X1xy_1crn(x1xY)cx1xY
+1,
研(Y十り ~b己研(Yり ~b_l, b+1-b_l~c.


註)
ここに現れた炉(Xりは確定した実数を示すが, v
P'(
Yりについては広さ
が確定していなくてもよい.

'証雨
TE§ および正数 eが与えられたとする.ここで条件における eの代わ
c
りに とおいて Kを選び,また Yのが次元の広さの上界 B をとっ
3
尻(X)
Cq十 q
'c
て c'= とおく.そこで正数 r
。を適切にとることにより,それよ
6CqCq'・B
第 7章 変動過程,積分の連続性と累次積分麗 l
ll

りも小さい正数 rに対しては

~[州(r, Xりー門(
r, X)拿'

となるようにしておく.そこでまず U
(r,T
)の広さを下から評価したい.
そのため v
(U(
r, Y
));
,
;Cq• 戸 2Bとなるように rの範囲として r
。よりさらに
小さい数を上界に設定すると, (
5-1
) 糊代定理により

~1v(U(r, x1xy_1))-v(U(r, U(X仄 y


_I)
)


已(v(U(r, XりXU(r, Y))-v(U(U(r, XりXU(r, Y)))
=図 1v(U(r, Xり)ー v(U(r, X)))・v(U(r, Y))
;
,;
;C
qr危 I • C
q戸 2B

となる. このことから次の式を得る:

v
CU(
r, T))
~v(U(r, U(X八 y
_I)
)
~I:1v(U(r, x1xY-1))-2c
屈q'
rqq
厨 十

~Cq十 q'r"+"'I:/州 (X りい— E")-2CqCq □Bご,

:
E
ここに s"=2k+l とする. さらに次の式が成り立つように rの範囲を制限

しておくものとする.

I:1v(U(r, X1XY
+1)
)

;
;
:;
;
Cq十 q
'r こ

q十q州(Xりb_I_E:11)
一方で関数 v
P(S
(x)
)のグラフ「に対しても上から評価すると

vW(r, 「


;:;;;~1v(U(r, X1x[
O,い
]))

拿 q
+1r 奸 l~/(州(Xり b+1+c")
1
12

が得られる.ここでも rの範囲はさらに制限を受ける. ここで b+1-b_lの


最大値を bとおき両者を合体して次の式を得る:

v
P+1
(U(
r,「
)
) -vP+P(
U(r
,T)
)
Be'

己(州(XりCb+1ーかり +2c")+2cqCq・ C
q十q
'
B e ' c
;
:
;;
;z
c屈q
. +2い 1c"+-=c.
C
qq ' 3

これがすべての正数 eに対して成り立つことから次の式を得る:

v
P+1
(r1
,I'
):
<;
;;
vP
+P
'(
r,T
),

同様の考察により逆の不等式も成り立つことから,所期の結論を得る.■

系 X 上の O次連続関数のグラフに対して得られる変動細分系は X 上
で重層的である.

7
-6 高次平均変化率の積分表示と評価
高次平均変化率の積分表示定理 fを擬区間 I上の U汀吸関数とする.
また c=(
co
,c1
, …, C
m)を Jmの点とする.このとき,高次平均変化率 f
[
ml
(c
)は次の等式をみたす:

J
lml
(c) J
= f(m>(c。十 ~(ck-co応) d
s.

この積分は O~sik=l, 2
,・・

.m, 6m=l —こ:況 ~o の範囲乙 m をわたる
)
ものとする.


まず cの成分の値がどの 2つも異なるケースから考えよう.このケース
は帰納法で証明する.まず m=Oのときは明白である.そこで m(>O)よ
り小さいところでは成立していると仮定しよう. さて問題は 1が区間であ
第 7 章 変動過程,積分の連続性と累次積分 1
1
1
11
1 1
13

る場合に帰着されるもしそうでないときは fを m 次折れ線近似拡張す
ることにより Iを含む区間上で所期の関係にいくらでも肉薄する近似式を
導くことができ,その結果この等式が得られるからである.
このときが =(1-t)co+tcmとおくと,帰納法の仮定と (
7-) 累次積分
4
定理により次の関係を得る:

fl
ml(
co,C
1, …, C
m)

[
!lm
-ll(
ct
,C, …
1 , C
m-2
,Cm
-1)
];

(cm-co)

=f t=!

t=O
Om-1f1
ml(
C1,C
1, …
, C
m-2
,Cm
-i)
dt

f
= Om-if(ml((が +~(ck-c ⑮) d
(t,s
)

ただし最後の式における積分は [
0
,l]X
L'.
lm1をわたるものとする.さらに
-
これを広義積分(次章)と解釈し,変数変換して

f
= Om-if(ml((が +~(ck-c ⑮) d
(t,s
)

f
= 6m-1f(m)(c。十 ~(c亡 Co応 +(cm ― co)6m-it)d(t, s
)

=JJ(ml(c
叶 区(
c亡 c
o)s
叶 (
cm―C
o応)ds

を得る. したがって f
[m]は Jmの点のうち座標値がすべて異なるもののな
す集合 4上で O次連続である.
さて C
o,C
1, …
, Cmに重複があるときは 1
0
.1, …, m
l を「同じ座標
値をとる番号の集団」に分割したものを D とし,それぞれの集団を d と
lU{c}上の関数 /
表す.ここで d ごとに次の関係で与えられる L dを定め

f
(x)
ん(y;x)=
Icx-y;).
i
(生 d)

ここで各 Y
iを C
iの, x を心の近傍に制約すれば 0次連続なので LlU{c}に
1
14

おいて 0次連続である.ここに心は dの元 iに対する c


,を表す.すなわ
ち点 cにおける J
[m]の値を次の等式で与えると LlU{c}上で O次連続であ

f[
ml
(c
o,C
1,…
, C
m)

=区 //ldl-1) (c;Cd)
(Id1-1)!.


d(ED)

したがって境界値定理により /
[mlは F 上で O次連続である.一方積分の

断層化定理により f
J<ml(co+~(c亡 Co応) dsは 0次連続であるので,その
値は J
[ml
(c)で与えられる.

系 1 (高次微分誤差の基本定理) m を自然数, fを有界擬区間 I上の


um級関数とする.このとき J
<m)の誤差関数¢は m
!Jl
m]の誤差関数であり,
fは m 次連続である.




距離 ¢
(t)以内の 2点 (
xo
,X1
, …, X
m), (
yo
,Y1
,…, Y
m) における j
[m]
c
p(
t)
の値の差を上記定理により表示すると 以下となりこの結論を得る.
m!

系 2 (高次平均変化率の Lagrange型評価定理) fを擬区間 I上の m


次連続関数とする.また C
o
,C1
,… mを Iの相異なる点とする.このと
, C
きこれら m+l点の最小と最大の間の点 U, V で次の不等式をみたすもの

が存在する:

JCml(u)~m !
f[m
l(
co
,C1
, …, Cm)~j(m)(v).

'定数 C を問題の範囲で s/O<k~m) に関して積分すると


C
m!
になるの

第 7章 変動過程,積分の連続性と累次積分 1
1
11
1 1
1
5

で,積分の評価定理により所期の結論を得る.

系 3 (高次平均変化率の Cauchy型評価定理) fを擬区間 I上の m 次


, bを Iの相異なる点とする.この 2点間の点 U,
連続関数とする.また a
vで次の不等式をみたすものが存在する:

J
<ml
(u)
(u-
a)m
-l
~(m-1) !
/lm
l(a
,b,…
, b)(b-a)m-l
~J<ml(v)(v- a
)m-
1.

'jlml(a 十 ~x;(b-a)) の積分を一次変換し, x=~x; 以外の変数で先に積

分しておいてから積分の評価により所期の結論を得る. ■

高次偏平均変化率の積分表示定理 f を S 上の n 変数関数,m を n—番

号関数とする.また fは 0次連続関数の範囲で m に沿って偏微分でき,


その結果を J
<m)とする.このとき.!の m—偏平均変化率は次の式の 0~

S
; , ~Si, k印
,k (
i=l
,2,・

・, n;k=l, 2
,…, m
;)における積分である:

/
(ml
(・・
・ ,o+区s
,X
; ;
,ix
; ,…
,k-x;,o
) )

'証萌
高次平均変化率の積分表示定理を n個の変数に対して順次繰り返して
この結論を得る. .

高次偏微分誤差の基本定理 f を S 上の関数, m を n—番号関数とする.


また, fは 0次連続関数の範囲で m に沿って偏微分でき,その結果を j
Cm)
とする.このとき jCm) の誤差関数は f の m—偏平均変化率 jlml の IIm且倍

の誤差関数である.
1
16



(
距離 ¢
t)
(t)以内の 2点における

以下であることが分かるのでこの結論を得る.
Jim]の値の差を上記定理により表示すると


I叫
積分の評価定理 fを Rnの広さが正の有界部分集合 S上の O次連続関
数とし, A を fの S上の積分値とする. このとき任意の正数 tに対して S
の点 U, V で次の不等式をみたすものが存在する:

A
f
(u)
-t;
:;;
; ;
:;;
;J(
v)+
t.
v
(S)

特に Sが何らかの矩体において桐密であるときは tを 0にとれる (
Sにつ
いて無条件にはできない).

'g
i(x
)=/(x)-
A
v
(S)
-tとおくとき, もしある正数 tに対して g
,がいかな

る x に対しても非負であれば S上で積分した値から t
v(S
)を減じた値は非
,が負となる x の値 vが少なくとも一つ存在する.同様
負となるので, g
に所期の u も存在する.
特に Sが何らかの矩体において桐密であるとき, g
oが Sのいかなる点


においても正値をとるならこの矩体内にある Sの点 a の周りで g。の値は

g~a)以上であるので go の S 上の積分は正となって矛盾する. したがって

は 0以下の値をとる点をもち,同様に 0以上の値をとる点をもつ.
g。

広義積分

aを左端 bを右端にもつ擬区間 Iを考える . Fは I上の O次連続関数, f


はr
n(a
, b)上の関数とする. a<a'<b'<bをみたす任意の a
',b
'に対し
て Fが r
n[a
',b
']上で fの原始関数であるとする.このとき, F(b)-F
(
a)を fの Iにおける変格積分(異常積分)という.通常はこれを「 (
1変
数の)広義積分」と称されているが,後述する「広義積分」の 1変数版と
紛らわしいので本書では敢えてこの慣習を排する(広義積分の定義される
関数は基本的には正値関数であり,これが定義された正値関数の差に対し
てしか拡張定義されない).
n=lのときに特有の概念「変格積分(異常積分)」のことを「 (
1変数の)
広義積分」と称する慣習がある. しかし前述の通り,本書ではこれを採用
しない.

8
-I 広義の広さおよびその直積定理と極限定理
Sを R"の部分集合とし,正数 pに対して Sの元のうち原点からの距離
1
がー以下になるものの全体を S
p
[pと表す.さて,いくつかの実数 V
.a,

および R"の部分集合 Sが与えられたとしよう.今,次の条件をみたすこ


とを ~;a; 研(S;)~V と表記する:

VV'>V ヨp>O 豆>〇

[Vj 麟 p
] ⇒ ~ ; a ; 沢(S心) ~V'.
1
18

またこのことは, V より大きい任意の実数 V' に対して ~p;vP(S;)~V' で


あることと同値である. ところでこの表記ではさらにいくつかの項を移項
したり,左右を逆転してこで表記することも許容する.さて

凶 a;vP(S麟 V かつ区 1a1 尻(Si)~V

であるときはこ〗“沢(S;)=V と表す. この意味での~'~ は加法的な「順


序」の性質をみたす. しかしその表記における左辺・右辺が必ずしも実数
を表すわけではない. さて沢(S)~V のとき V を S の P 次元の広義の外測
値,広義の外側値をもつとき P次元の広義の広さが有限であるといい, VP

(S)=Vのときこの値を Sの P次元の広義の広さという. ところで任意の


正数 pに対して Sしの広さが上界 V
(p,S
)をもつとき, Sの広さは相対的
に有限であるという. p=nのときや広義の広さが有限のときは広さは相
対的に有限である.

匪IR"の中で第 1成分が 0であるものの全体がなす集合は n-1次元の


広さが相対的に有限であることを示せ.

圃 v ,を R"の有限個の部分集合とし, iごとに炉c
;を正数, S s
,
);
;
;;v
;であ
る と す る こ こ で S=U;S,とおくとき次を示せ:

沢C
s
);
;;
; 区V
i
.

直積の広義の広さの定理 , V' を正数とし, S を R" の, S' を R•' の


V
部分集合とする.今炉 (S)~V, vP'(S')~V' とするとき次の不等式を得

る:

v
P+P
'(SxS')~V·V'.

また vP(S)~V, vP'(S')~V' のときは次の不等式を得る:

vP+P'(SXS')~V·V'.
第 8章 広 義 積 分 1
1l
1 l
9

この定理の証明は容易であり,省略する.

X を R"の
, Yを R
"'の部分集合 Sを XXYの部分集合とし, {
S叶k=l,
2
, …}を Sの有界部分集合からなる上昇列とする.また Kご と に 適 切
な正数 rをとることによりふの Sにおける 2
r近傍が Sいに包含されるも
のとする.今この列が X の有界部分集合 X'に対して次の関係をみたすと
き,この列は X'における Sの変動漸近列であるという:

1
X'上で vP'(Six))は値が確定し,マと xの組に関して 0次連続
J
Vc>O Vp>O ヨk VxEX'
vP'(S(x) し) ~vP'(S氏x) し) +c.

さてふの Sにおける r
-外部集合を Sげと表すことにする.ふ*はふから
距離が r以上であり, Sはふ*と s
k+1で覆われる.このことから, p より
大 き い 正 数 が に 対 し て 研(
S(x
)Ip•)-vP'(Sk+i(x) I
p
')は v
P'(
Sk*
(x)I
p
')以下で
あり,研(ふ*
(x)し

, v
P'(
S(x
)Ip)-vP'(Six)し)を介して e以下であることが
分かる.
ところで,特に X'=Xのときは「X'における」を省略するまた,さ
らに X が 1点からなり, Sの断面が Yのときは漸近列といい,便宜上 S
を Yと同一視する.

]1
W
まず [
O,l
] の中央に開区間を置き,次の段階では残った空白区域にお
さまる開区間をそれぞれの中央に置く.この操作を繰り返すとき置いた区
間を全部合併した集合 X の広さは 1であり,置いていった区間の広さを
集計した値の極限値 6 とは必ずしも一致しないというのが本書のスタンス
である.それ故 X;として第 i段階までに出現した区間の両端 3―’ずつを
削って合併したものとすると, 6が 1でない限り漸近列の最後の条件をみ
たさないが残りの条件はみたす.
広さ•積分と極限の交換に関してこの例は否定的である(「X; が連結で
あれば」などという理由は 2変数にすると無に帰する). しかしこんな尋
1
20

常ならざる例よりも,通常行われていて「結果はたまたま合っている」多
くの計算が百年来組織的に正当化されていないことを憂うべきであろう.
こういう実質的な問題点をなおざりにして上記のごとき人為的な集合列の
形式処理に執浩する大義はあるまい.
X"CX'CXのとき X'における Sの変動漸近列は X"における変動漸
叶k=l, 2
近列を誘導する. また {X ,・・
・}を Xの
, {Yklk=l, 2
,..
.}を Y
の漸近列とするとき {XkxY
,叶k=l, 2
, …}は XXYの漸近列である.

広義の広さの極限定理 X を R"の
, Yを R"'の部分集合, Sを XXY
の部分集合とする.今 {
S叶k=l, 2
, …}を Sの漸近列とするとき研(
S(x
))
は xに関して 0次連続である.

陳述してしまうと,証明は当たり前すぎる. ところで広義の広さとして
扱われるものとして次節で述べる「広義積分」がある.その意味でもこの
定理の条件は過剰なように映るかも知れない. しかし旧来風にいえば vが
(
S;(
x))の値の jごとの O次連続(一様連続)性を仮定すれば, D
iniの定理
に よ り 研(
S(x
))の値の O次連続(一様連続)性と同値である. v
P'(
S;(
x))
の値の jごとの O次連続(一様連続)性は論理的にはこの定理の結論に対
して必要条件ではない. しかし,この条件が否定された状況でこの結論を
要求するのはかなり不自然であるといわざるを得ない.
ところで,この陳述自体では各ふの変動細分系について積極的に言及
してはいないが,積分の連続性を実際に担保するにはその条件が浮上して
くる.

8
-2 広義積分とその基本定理
この節では主に広義積分について論じる.そのため, Rnの部分集合で
p次元の広さが相対的に有限なもの X と X の漸近列 {Xk[k=l, 2・・・}を固
定する.このとき X 上の非負値関数 fのグラフ (
f) の p+l次元の広義

の広さを fの X 上の広義積分といい ffdxと表す.


X
第 8章 広 義 積 分 鵬 1
21

【定理】
fを X 上の非負値関数とする.今, fが Kごとに x
k上の O次連続関数
であり.!の ふ に お け る 積 分 が Kに関して極限値 A をもつとする.この
とき A は fの X 上の広義積分である.


fxtdx~A てあることは容易にわかるのて, fxfdx~A てあることを
示そう. E
, p を正数とする.
: ここで X の漸近列条件における e として E
:p

をとり,同じ p に 対 し て k
,r, Xk* を選ぶと X いCX1c+1UXk* より
[
/](
X)I
pc[
/](
Xk+
1)U
(ぷ*
X[O
, p―l
]
)である.その結果

V
P+l
([J
](X
)Ip
)
州(XI以ー州 (XkI
P)
~vP+l([/](Xい 1))+
p


=
vP+
1([
/](
XH1
))+s

となり,これが任意の正数 eに対して成立することから所期の結論を得る .

広義積分の線型性定理 , bを正数とする.また,/, gを X 上の非負


a
値関数とし, Kごとに X
1c上で O次連続であるものとする.今/, gが X
上 で p次 元 の 広 義 積 分 値 A, B を も て ば af+bgは p次 元 の 積 分 値
aA+bBをもつ.

, gに対して J fdx-Jgdxのことを f-g


この定理の条件をみたす J
X X

の広義積分といい J (f-g)dxと表す.関数 hが与えられたときこの定理


X

の条件をみたす fと gの差に表されるとき f-gの広義積分は J


, gの選び
方によらずー通りに定まる. この条件をみたす関数 J
, gと実数 a
, bに対
してもこの定理は拡張できる. この拡張まで込めた意味で証明は容易であ
り,省略する.
1
22

8
-3 極限定理の広義積分への適用 (1)
旧来の数学では広義積分についてのもっとも強力な手段がルベーグ積分
であるとされている.ルベーグ積分はその定義を述べるためだけでも「集
合論」の洗礼を経なければならないという,非常に複雑な存在である.そ
のためここでは本書で扱っている広義積分との相違点を述べるに止める.
まずは,ルベーグ積分では極限定理の守備範囲に収まるが本書ではそうな
らないものを挙げる.

例2
[
0 ] 上の関数列 f
,l n(y
)を次の式で定める'

l
・"Yが n以下の分子・分母の比で表されるとき
八(
y)=
{。…それ以外のとき

この関数列は「各点収束」するので,変数値が有理数のとき値 1でその他
のとき値 0をもつその「極限関数」の「積分」は 0であると考える. これがル
ベーグ積分のスタンスであるが,本書では収束したとはみなさないので極
限と積分の順序交換を保証すべき対象にはならない.
続く 2つの節では逆に,ルベーグ積分が保証しない関数列を扱う. ここ
では番号の代わりに連続的な変数 xを想定し,積分する y方向と合わせ
て[
0
,l]X (
0,l
]から i
特異点族Iを除去した集合で定義された正値の関
1
数を取り扱う.関数列らしい表し方をするには xとして と極
l
og(n+1
)
限値 0などに制限しておけばよい.このように xのとる値がとびとびで
あっても,かなり密に集積していれば積分可能な優関数をもたなくなる.
以下, x→ +
oのときの極限を考える.

捌1
3

f
(x, y)~[;『

:,
・ xキ 0のとき

0 ・

・ x=Oのとき.
第 8章 広 義 積 分 I
I12
3

極限の積分は 0であるが, c
/>(
x)=
xの場合に原始関数値 [
A
rc
ta
n
(り]の差
は 匹 に 収 束 し て 0にならない .Jの上界をすべての xに対して共通に
2
とったとき積分値が無限になることが原因だというのがルベーグ積分に依
2x
拠した理由づけである.ところで ¢(x)=一 の場合に積分値は 0
l
o
g(
f)
に収束するが,共通上界は f
(y,y
)以上であり,その原始関数[― l
o
g
(
-l
og
(
f)
)
]の差は y→ +oに伴って 00 に発散する.

到4
2
f
(x, y)=lx-yl―

広義積分値は見るからに収束する.

8
-4 極限定理の広義積分への適用 (2)
例 4では平行移動で処理できるので物足りないという声もあろうから,
もう少しパラメーターを増やしてみよう.

捌5
f
(x, y)=¢(x)IJ有限個の;I
y-k
(i)
xla
(
i)
.

ここに¢ は非負連続で k
(i)は iごとに異なるものとし, Vi[k(i)~O ⇒

a
(i)
>-1]を前提とする.結論から言うと広義積分値は A=I
位(i)>-1
なら収束するが A~ ー1で ¢(0)>0なら発散する.以下この関数に対する
収束条件を概観してみよう.まず fの広義積分 I
(x)において y=xtと変数
変換する. さらに十分大きい値 k をとっておくと次の式を得る:
1
24

J
(x)

号(x)xいif。½IT It-kCi)la<,idt

号 (
x)xい 1
(c(
x)+ J
}戸d
t)

~j¢(x)(x,.'d(x)+ A~1)··· Aキ ー 1
,

<
/>(
x)(
d(x
)-l
ogx
)) A=-1.

ここに c(x) や d(x) は 0 次連続関数であり, A=~l 以外は d(O) が正であ



註〕

J
=I
。TIt-k(i)lali)dt よりも小さい cに対して, K が十分に大きければ

Jdt
J。½rr It-k(i)la(i)dt-
.
l
X
K

K
I
T
。 It-k(i)l
=f a
(
i)d
t

-
J}(
ITIt-k(i)la(z)dt-tA)dt

寸KI
TIt-k(i)la(z)dt-1;;
からこれが正値をとることが分かる.
上記のことを踏まえると

(
1) A>-1のとき

rp
(O
) i
I
(x) → A+l=f。
加(x
)yA
dt,

(
2) A
;;
;;
; 1のとき

r
p(O
)>Oであれば広義積分は +ooに発散し,
第 8章 広 義 積 分 1
1
11
1 1
25

極限関数の広義積分も十 CX) である.

¢(0)=0であれば極限関数は 0でありその広義積分も 0である. とこ


ろで広義積分が 0に収束するのは

A=I= — 1 であれば ¢(x)xA+1 が

A=lであれば ¢
(x)
log
xが }
0に収束するときに限られる.

広義積分が 0以外の値に収束するはずのときに,うっかりと極限値を 0に
する誤りがあり得る. 0と非 0を間違えるはずがないと思う人もいるかも
知れないが,上で扱った関数はあくまで典型例である もっと見えにくい
形でこういう数理が紛れ込んでいるケースもある.

冽6

f
(x, y)=(y+cxal
炉一 yx .

1
この例では a>Oのとき極限の広義積分は値 3をとる.さらに a>ー の
2
1
とき広義積分と極限は交換でき, a<ーのとき広義積分の極限は発散する.
2
1
ところで a=一のとき広義積分は収束するが,極限の広義積分とは差異
2
2 2 2
が生じる.広義積分を上から評価するには分子 (y+cx"
戸を y十(
百 e
x"戸に,
2 2
下から評価するには J
ya-
(cx
")可に置き換えればよい.その結果,上下
2 2
の評価の差は分子を 2min{
y夙 (
c呼)打に置き換えたものになるので,そ,
の(広義)積分は xに関する極限が 0になることが分かる.その結果, f
(x,

y) の広義積分の極限は極限の広義積分値 3 より 2四B(½, ½)だけ大きい.


2

ルベーグ積分が課した優関数条件から外れた列に対する計算は結果的に
正しいものでも合理的根拠を欠いていたが,百年以上なおざりにされてき
1
26

たこれらの列はつい肩入れしたくさせる魔力がある.一方でルベーグ積分
のみが正当化した列がどうも日常感覚を反映していないのは第 1節末で述
べた理由によるものであろう.

8
-5 累次広義積分
広義積分のときも累次積分に関してはもう少し準備が必要である.本章
の残りの部分では R" の部分集合 Xoo と R•' の部分集合 Y が与えられてい
て,それぞれ p次 元 P
'次元の広さが相対的に有限であるとする.また
X
ooの漸近列 {Xli=l. 2
, …}と XooXYの部分集合ぶおよびその部分集
合からなる上昇列 {
S1l
i=l
.2, …}が与えられているものとする.以下
s
,nc
xxY)を SiX)と略記する.
漸近列の遺伝定理 CX) 以外の各 iに対しては {
(So
o(X
;))
,Si
X)l
i=l
,2,
…}が S
oo(
X;)の漸近列となっていて, 5江 の O次連続関数¢が CX) 以外の ,
i
jに対して S
1(X
)の p+が次元の広さに一致しているものとする.このと
き{
S1l
i=l
,2,・
・・はS
} o
oの漸近列である.

'以下, A=¢(0, 0
ることを示したいまず
)と表し,この値が S
ooの p+が次元の広義の広さであ
00 以外の任意の ,
i jに対して S
ooの広義の広さ
は¢
(i-
1,j
-1)以上であり,このことから A 以上である.
次に S
ooの広義の広さが A 以下であることを示したい. まずは正数 c と
pが 与 え ら れ た と し ょ う そ こ で X
ooの漸近列条件における eの代わりに
c
とし, pのもとに i
=
I
=-00 を選んで兄*を定める.同様に S
00C
X+1
)
V
(p,Y)
, pのもとで j
に対しては元来の c =t
=-
ooを選んで (
Soo
(X泣*を定める.その
結果,次の式を得る:

S
o P
u
oしCSoo(X+1
)I (
X;*I
pXY)

S
00C
X+1
)lp
c5汁 i
CX+
1)U
(S0
0(ぷ
));
*
.

ところで S
月 1
(X.十 1
)の広さは A 以下であるから S
ooしの広さは A+2c:以下
第 8章 広 義 積 分 I
I12
7

である.これが任意の正数 cと p に対して成立するのでふの広義の広さ
は A 以下であり,ひいては A に等しい ■

累次広義積分定理 S上で非負の値をとる関数 fが与えられており, f


は OO 以外の jに対して S上で O次連続であるものとするまた 32上の O
次連続関数 F
({, 』)が与えられており, OO i jに対しては fを
以外の ,
z J
S/X;)に制限したときのグラフの広さとなり, fを S;(X;)上で y
, X の順
に積分した値に一致しているものとする.このとき fの S上の広義積分
はY
, X の順に広義積分することによって得られる.



上の定理により F
(O )は fの S上の広義積分である.一方で
,0 CX) 以外
の iに対して fを S
oo(
X)上で yに関して広義積分,次いで xに関して積

分した値が F仕。)であり, S
oo上で yに関して広義積分,次いで xに関

して広義積分した値が F
(
理によりわかる.すなわち
ることによって得られる.


註〕
O,0
)であることが (
8-1
) 広義の広さの極限定
fの S上の広義積分は Y
, X の順に広義積分す

この定理を実行するには瓦や Sの(変動)細分系の存在が望まれる.
もちろん,これらは p=n, p'=n'のときは自動的に保証される. もっと
もルベーグ積分のときと違って, n+n'次元の広義積分が存在しても無条
件に累次広義積分が可能であるとは保証されない.

冽7
X=Y=R化する.また非負値関数 f
(x)
,g(
y)が与えられており,それ
ぞれ任意の有界区間において 0次連続であるものとする.ここで h
(x,
y)=f
(x)
g(y
), ぷ=
{(x
,y)I
-i印 x釦}, S
;={
(x ) -j印 x釦
,y J :,-
j;.圧 j
; }
と定める.このとき hの S
;(X
)上の積分は!,gの原始関数 F
,G を用いて,
1
28

i~j のときは (F(j)-F(-j))(G(j)-G(-j)), i~j のときは (F(i)- F

(-i))(GG)-G(-j))と表される. さらに F
, Gの極限値 F
(oo
), F(-oo),
G
(oo
), G(-o
o)が与えられたとき, hの S上の広義積分値は (F(oo)-F
(-oo))(G(oo)-G(-oo))である.
この例は広汎な計算に対して目立たないながらも重要な役日を果たして
いる.

例8
a を正数とする.このとき町y
x-1の (
0,1
]2上の広義積分に対して誰し
もがやってみる次の楽天的な計算について検証してみよう'

J )
J
たy-
l豆 y
x-1
dyd
x
x
-o y
-o
x
-l
=J [xa
-l『y
y-
-
o1dx
x
-o
x
-1
=J xa-
ldx
x
-o

=[a―l 豆

:ニ
=a-1
1-.J
r,l

l.


s



yJ

J

VI
これを正当化するにはまず x={x+
;£:
x;"
';l
}, —


カ(
x)=xa-1(1-y
戸)

F
(i,J)= 口
戸(1-
f 戸) dx

(1-i-a)
と定める. 前者はいうまでもなく,後者でも x
a-1の積分は と
a
なるので所定区域において 0次連続である.問題なのは x
a-l
j-xの積分
G
(i,j
)である. jを有界化したときの G の O次連続性は次の表示により
保証される:
第 8章 広 義 積 分 麗 1
29

G
(i, j)=[Xa~-x[~+ I
x:+
1lo
:jXり
―xdx

そこで,あとは jを十分大きくとることで G
(i,j
)を 0にいくらでも一律
に近くできるかどうかが問題になる.まず積分区間を区切り G を大きく
見積もって

G
(i 二
f
, j)=1
xa-
1戸 dx

寸x-o-kxa-ldx+j-kJxx-k-lxa-ldx
(炉十 rk)
~
a

とする.これが小さくなるためには Kが小さく, k
log
jが大きいことが望
l
oglog
j
まれる.それを実現するべく k= としておけば, jの増大に伴っ
lo
gj
ていかようにでも小さくなることが分かる.

8
-6 負値もとる関数の広義積分と変格積分
S上の関数 fが非負値関数 I
i,f
zの差 /
1―五と表されていてそれぞれの
グラフが広義の広さをもてば,その差を fの広義積分という.この値は I
i,
/
2の選び方に依存しない.

暖9

I
o.1s
inl
ogxdx=Io1l1-(1-s
inl
ogx)dx

=J
(O1ldx- f
r
_0
01
0(1-s
int
)がd
t

=1-[c2+cost-sint)£r0 =-l
2 1~-00 2

ところで負値も取る関数の「広義積分」として次のような記述がよく見ら
れるが,本書で扱っている広義積分の条件はみたしていない,
1
30

勝 1
0
J
_
: sinxdx=
戸 冗

これは「変格積分」など区別して呼ばれるべき別な概念である.すなわち,
左辺は今までに述べた広義積分としては正当化されず, (
a, b
)上の積分の
a→ -oo, b→ (X) としたときの極限値なのである.ところで,今扱った
関数を 2変数化した f
(x,y
)=(
xy)
-1sinxsinyは xy平面上で「何らかの
意味で積分する」ということが正当化されていない.まず, fは x軸
, y
軸に関して対称であり,その値の正負は各象限において市松模様をなす.
ここで増大する定義域の列として, fが負値をとる区域を正値をとる区域
より積極的に取り込んでいくと積分値は負の側に偏ることになる.「連結」,
「単連結」のような制約をつけたところでこの不都合を解消することはで
きない.一方「長方形」,「凸」などの条件をつけると多変数関数としての
変数変換公式との相性が悪くなるのである.
第一ぐ
向き付きの広さと積分

9
-1 単体の向きと非退化 PL写像の被覆度
以下向き付きの積分を扱うに当たって斉 m 次元単体的複体 K とその構
成員である各 m 単体に対して向き+,ーを考える.これは m 単体の全
頂点 m+l個の順列で捉えられ,偶置換で写り合うものどうしは同じ向き,
奇置換で写り合うものは逆向きとみなす. さて K のすべての m 単体に向
きが与えられているとする.今,隣接(すなわち m 個の頂点を共有)す
る 2つの m 次元単体に対してこれら m 頂点の位置を共有する順列の指定
する向きが逆符号となるとき,この方法により K に向きがついたとみな
す. Kが向きをもつにはいかなる 3つの単体も m 頂点を共有しないこと
が必要である.
また向き付けられた m 次元単体的複体 K の境界 aKの向きに関しては,
それを構成する m-1次元単体 4の向きを次のように定める.まず A を
境界面の一つとする m 単体 L
l'を考え,付け加えた頂点を末尾にして全頂
点を並べる.このときの L
l'の向きに比して,末尾頂点を消去した Aの向
きが反対になるように定めるものとする.

例l
R mでは m 次元単体の m+l頂点の順列 a
o,…
, Umに対し向き付き広

さすなわち m+l項行ベクトル (
1,'
a,)を上から順に並べた行列の行列式
が正になる順列をこの単体の標準的な向きと考える.
1
32

以下この章では m を自然数とし,向き付けられた m 次元単体的複体 k


を固定する. ¢ を K から Rmへの PL写像すなわち区分的に 1次式で与え
られる 0次連続写像とする . Kの m 次元単体はその頂点列 Vo, …
, Vmに

対してその¢ による像の向きが元来の頂点列の向きと同符号・異符号 ・O
のいずれであるかにしたがって¢ に関して表向き・裏向き・退化的であ
る と い う い か な る m 次元単体も¢ に関して退化的でないとき¢ は非退
化であるという.
さて,この節では非退化 PL写像¢ を固定する . xを Rmの点であって
K のいかなる m 次元単体に対してもその境界の¢ による像から正の距離
をもつものとする . Kの単体でその¢ による像に xが属するものを考え
る.これらのうち¢ に関して表向きであるものの個数から裏向きである
ものの個数を減じた値を xにおける¢ の被覆度という. どれかの単体に
対してその境界の像に属する点であっても aKの像に属さないものに対し
てはそのごく近くでは被覆度が一定しているのでその値を所定の点におけ
る被覆度と称する.

圏 単体の境界の像が m-l次元のとき 2つの m 次元単体の像が超平面


H 上に底面を共有しているとするこのとき点を H のどちらの側に外
しても被覆度は同じであることを m=l, 2
, 3のときに確認せよ(与え
られた単体は H を挟んでいるときと同じ側に位置するときがあること
に注意せよ).

圃 k を細分しても被覆度が変わらないことを示せ.

《命題》
Rmの単体的複体 K の部分複体氏と K2の共通部分が m-1次元以下で
あり, K から Rmへの非退化 PL写像¢が与えられているものとする.こ
のとき K
i, 氏のいずれの境界の像でもない点における¢の被覆度は K
i,
氏への制限の被覆度の和になる.

証明は略する.
第 9章 向き付きの広さと積分麗 1
33

<補題>
単体の内部,外部はそれぞれ(境界から距離をもった)折れ線により連
結である.

酎函月


内部の 2点 は 直 接 線 分 で 結 べ ば よ い 外 部 の 2点に対しては単体の重心
に向かう線分が交わる境界単体を考える.重心からこの 2つの境界単体の
共通部分の点に向かう線分の延長方向に新しい点を取り.これを経由して
2点を結べばよい(ちなみに内部と外郁は結ぶことができない).

境界 PL写像の被覆度定理 K が単体で R'"に埋め込まれているとする.



, o
Kをある超平面に正射影する写像が非退化であるとき,その被覆度
は 0である.

'射影された面の上の点 xが境界単体の点の像であるとする.このとき,
xの逆像は K の内部から外部に向けてこの境界単体と交わっており,内
部の側から反対方向に向かう途中でももう 1回境界単体と交わっている.
また, K の凸性よりそれ以上の境界単体と交わることはない.この 2つ
の境界単体はもう 1次元低い単体を共有しており,その頂点の次に残る 2
頂点を並べるとその 2点 u と vの順番によって向き付き広さの符号が逆
転する.
ところで u をもつ境界単体の射影の m~l 次元向き付き広さに u から v

に向かうベクトルの軸方向の座標値をかけると U V順に並べたときの向き

付き広さの m 倍が得られる.すなわち x における両単体の被覆度は異符


号となり, K の被覆度は 0である.

9
-2 一般的な 0次連続写像の被覆度
以下この節では K から Rmへの O次連続写像¢ を固定しよう.
1
34

被覆度確定定理 dを正数, xを R"'の点であって ¢(oK)から距離 d以


d
上にあるものとする.ここで K を¢ の誤差関数に一を代入した幅以下に
8
細分したものを K'とし, K'の頂点の¢ による像を結ぶ非退化 PL写像
で¢ を近似したものを炒とする.このとき xは 炒 に よ る awの像の点
ではなく,そこにおける被覆度は K
',i
f
;
'の選び方に依存しない.

このとき砂の被覆度を¢ の被覆度という.

冒定理の証明
もう一つこのような近似 q
;
"をもってきたとする.このとき K'として
共通細分にとれるので,便宜上さらにこれが K であると仮定してよい.
ここで JXKを次の要領で次元に関して帰納的に単体分割する.まず K
が 0次元のときは Iの中点をとり,ここで分割したものと K とを直積する.
m-1次元まで定義できているとき, JX3Kを低次元のときの方法で定義
する.単体」に対する !XL¥はその重心を境界の単体と結ぶことで m 次
元単体に分解する.
次に JXKから R
'"への PL写像のを次の要領で定める.まず {O}XK
においては炒, {l}XKにおいては ;
q の値を当てる.新たに生じた頂点
II

d
においては¢ の値から誤差がー以下になり,なおかついかなる m-1単
8
体も K への射影が退化的でないように選ぶ.その結果のの a(JxK)への
制限は被覆度が 0である. したがって ;
q の被覆度からんの被覆度を差
II

し引いた値は JX3Kへの制限の被覆度になることがわかる.
さて JX3Kを構成する m 次元単体の頂点 (
s
,y)
,(,z
t )ののによる像
第 9章 向き付きの広さと積分 1
1
1
1 1
35

3d
は距離が ¢
(y, ¢(z) を介して一—以下になるので,この単体の点ののに
)
8
3d
よる像は頂点の像からの距離が一—以下となる. したがって oKの¢ によ
8
d
る像からの距離はー以下になることが分かる.


2
このことからのの JXoKへの制限は xにおいて被覆度が 0であり,こ
の制限は xにおける被覆度が 0となってふと¢"の被覆度は一致する.

境界写像の被覆度定理 K が単体で Rm+1に埋め込まれているとする.


このとき¢ に Rm+1から R mへの正射影を合成すると,その被覆度は 0で
ある.

'証雨
¢の近似を問題の合成写像が非退化になるようにとる.その結呆,前節
の境界 PL写像の被覆度定理によりこの定理が保証される. ■

~
区間 J
=[O
,l]上の O次連続写像の被覆度は Iの端点の像の間にある点
においては ¢(1)-¢(0)の符号であり,外側にある点においては 0である
(
I上で非退化 PLケースを検討せよ).

被覆度の分離定理 dを正数とし, R m内の折れ線 L で ¢


Camの d近傍
と交わらないものが与えられているものとする.このとき L の両端 X, y
の被覆度は一致する,

~
K の細分 K'と¢ の区分的 1次式近似砂をとり, ¢
'(a
K')が ¢(8K)の
d
ー近傍に収まるようにする.その結果 X, y の¢ に関する被覆度は X, y
2
1
36

の松に関する被覆度と一致するが, xのものと yのものは同一である.

9
-3 0次同相写像
1変数の O次同相写像は擬区間上では狭義単調増加(減少)な 0次連続
関数として捉えられる. しかし多変数では「偏微分」の助けを借り,「局
所的に」扱うのが常であった(第 4章参照).ここでは「定義域全域」を
堅持して,あくまで O次連続性の範疇で論じる.それに当たっていくつか
の例に慣れておこう.


aを 1未満の正数とする.このとき (
a,1
)2上の写像 (
x,y
)→ (
x, xy)
は 0次同相写像である. a=Oのときは 0次連続であるが 0次同相ではな
¥
;¥.

このように変数の一部を不変にする写像をファイバー写像という.

捌(直積)
f
, gを [
0,l
]上の O次同相写像とし, f(O)=g(O)=O, /(l)=g(l)=lと
する.このとき fXgは [
0
,1]
2上の O次同相写像であり,その像は [
0
,1]2
の桐密部分集合である.

例 (
1次変換)
A を n次正則行列とする.このとき K 上の写像 x→ Axは 0次同相で
ある.

ところで正則行列が基本行列の積に分解できることに注目すると, 1次
変換はファイバー変換の合成であることが分かる.

[
9 (極座標)
aを 1
C未満の正数とする.このとき (
1 )X(
,2 a-T
C,1
Cーa
)上の写像 (
r,
第 9章 向き付きの広さと積分 1
1
11
1 1
37

0
)→ (
rco
s0,r
sin
0)は 0次同相写像である.

最後の例は一見すると上記のようなもので説明できないように見える.

しかし aが左を超えるときは次のようにファイバー写像の合成で表され
2
ることが分かる.

(
r
,0)→ (
rco
s0,0
)→ (
rco
s0,t
an0
)→ (
rco
s0,r
sin0
)

冗 a a
aがー以下のときには定義域を 0に関して「一 a
;
:;
;;
0
;:
;;
;ー」,「一一ニ釦紅」
2 2 2
a a
および「一 a
;
:;
;;
0
;:
;;
;ーーまたは一ニ釦泣」の 3つの部分で覆う.このとき
3 3

それぞれにおいて互を超えるときと同様の合成をもち,いかなる 2点も
2
3つの部分のどれか 1つに属することが分かる.
旧来のように 1:1の各点連続写像と捉えるなら a=Oでも構わないこ
とになるが,そのような等式発想による全域的処理はファイバー性に甘え
ているように見える.実際に次の例題では!, gに「無限回微分可能」条
件を付けたところで,その微係数が 0になることを排除しない限り,等式
感覚の処理では局所的解決さえ至難である.この例はもっと多変数にして
も同様の結論が得られる.

<例題>
!
. gを [
O,1
]上の O次同相写像とし, /(O)=g(O)=O, /(l)=g(l)=lと
する.このとき u=x+y+f
(x)
, v=x+y+g(y)に対して (
x,y
)→ (
u,v
)
は[
O
,1]2上の O次同相写像である.

~解

X, y
, U, V の他 f
(x)
, g
(y)の増分をそれぞれ L
lx,L
ly
,Ll
u,L
lv;L
lf
,
L
lgと表すことにしょうそのとき次のことを示したい:

VB>O ヨc>O
1
38

I
Ll
uI~E, I
Ll
vI~E • IL1xl~8. ILlyl~8.

まず fの O次同相性より

Vo*>O 玉*>〇
IL1fl~c* • IL1xl~a*
Vo*>O 玉*>〇
I
Ll
gI~c* • 凶 YI~a*

0
で あ る . 今 正 数 8が与えられた状況で a*=ーと定め,これらを共にみ
2

たす E*を選んで, c=min {
f
, a
*}とする.そこで不等式

-E~LJx+LJy+LJf~E· …..(
1)
-E~LJx+LJy+LJg~E·· …. (
2)

を考えよう.このとき実数の性質より

Llx+Lly~ 一E .
….. (*)
または LJx+LJy~E

である.以下,前者のケースを検討する(後者のケースも同様の議論で同
じ最終結論に至る).
さて(*)を (1) に当てはめ LJf~2E~E* を得るが,ここでさらに

Llf~O のケースと Llf~ 一E*の ケ ー ス に 分 け る 前 者 で は fの単調増加性


により Llx~O を得る.また後者では IL1/I~E* となるので凶 xi~o* を得
る.つまり両者に共通して Llx~o* となるが,同様の議論で Lly~o* を得
る.この 2 つに(*)を連立させ所期の結論 IL1xl~20*=0, IL1YI~o を
得る. 0次連続性の遺伝はすでに保証済みである.

0次同相写像定理 K が n次元単体,¢が R"の部分集合 S内への O次


同相写像であるものとする.また i
fi(
oK)から正の距離にある Sの任意の 2
点に対しては, ¢
(8/
()から正の距離にある折れ線により S内で結べるもの
第 9章 向き付きの広さと積分鵬 1
39

とする. このとき ¢
CK)は Sにおいて桐密である.

もし K の中心の像の被覆度が 0で な け れ ば 証 明 は (
9-2
) 被覆度の分
離定理より明白である. ところで O次同相性のもと,被覆度は「0でない J
どころか「土 1である」ことが分かる.すなわち像の近辺での O次連続写
像は被覆度をもち,合成の被覆度は個々の写像の被覆度の積となる. この
ことから 0次同相写像の被覆度は土 1でしかあり得ないのである. この論
法は旧来「領域不変性定理」と呼ばれるものに該当する深遠な命題を用い
ているので次節に持ち越すことにする.

9
-4 Brouwerの領域不変性定理
連続数学の微妙な部分を等式で扱うのは苦しい. ところで領域不変性や
不動点定理などはトポロジーの命題として等式発想で捉えられているが,
こういった話題でもまた等式発想は処理の複雑さに拍車をかけているよう
に思われる.以下では許容誤差を定量化して領域不変定理を近似すること
により,極限操作なしに PLの範疇で処理してみよう.

領域不変性定理 fを n次元立方体 X から R"の中への O次同相写像,


すなわち次の性質をみたすものとする:

Vs>O ヨ8>0 Vx, x


'
\x-x'\~8 • l
f(x
)-f
(x'
)I~E
VB*>O ヨs*>O Vx, x
'
1
40

1/(x)-/(x')I~c* ⇒ lx-x'I~ が

このとき X の境界から正の距離 a*をもつ X の点 X


oの像 f
(xo
)から c*未
満の距離にある点に対してはそのいかなる近傍にも fの像が存在する.


f
(xo
)の c*近傍の内部に含まれる立方体 Doに対してそれが fの像と交
わ る こ と を 示 し た い ま ず fの像を内包する立方体 Yをとり, Yから R"
の中への PL写像 g として各単体の上で非退化かつ X の任意の点 xに対
r
J
*
しても x から g(f(x)) への距離が一—以下になるものを構成する.
2
次に f
(xo
)の c*近傍の中で D。を内包し f
(x)を中心とする 2重の立方
o
体をとって内側から順に D
1, D2とし,両者のはざまの部分では gの像か
ら x。までの距離が何らかの正の値ふ以上であるようにする.また各且の
f
(xo
)からの距離を d
;とする.
さらに Yから Yへの PL同相写像 cを次のように定める.すなわち D2
の外側では t
=id
, 内側では, Doが D1に対応するように座標値を比例配分
して構成する.さらに 0=gotofとし, YX[
0
,l]から R"への O次連続写
像のを I
J!
(x
, t)=t0(x)+(l-t)xと定める.ここで xが aKに属するとき

J
(f
)(
x, t)-xl=tl0(x)-xl
~l0(x)-xl =J
g(f
(x)
)-x
l



となる. ところで lx-x
叶は a*以上であるから W
(x, t) は Xo から一—以
2
上離れている. したがって (
9-) 境界写像の被覆度定理により, X
2 oにお
ける 0の被覆度ば恒等写像 i
dのものすなわち 1をとる.

そこで X
oの min{
0Cd
2), 『}近傍にある 0の像の点をとり,その逆像を

1つ選んで x としよう.その結果げ(
x)-
/(x
o)I~ 必となり, /
(x)ひいては
t
(/(
x))も D2に属する. ところで I
t(f
(x)
)-/
(xo
)Iが[
d1
,d2
]のごく近傍に
2
o。
属しているとすると l0(x)-xol~ 一ーとなり xのとり方に矛盾することに
3
第 9章 向き付きの広さと積分圃 1
4
1

なる. したがって I
c(/
(x)
)-/
(x)I
o 2ふとなり, /
(x)は D。に属することが
分かる. ●

9
-5 向き付き広さと向き付き積分
以下この節では R"から Rmへの絶対連続写像冗を固定し,冗 o
q
:Jを¢冗と
略記する.そこで K を単体分割し¢ を各単体に制限する.その結果仇に
よる境界の像の広さは 0である. このときゅ冗の被覆度が正になる Rnの
点がなす集合の広さを総和した値を考える.この値は分割を細分するにし
たがって増加するが分割に依存しない上界をもつ.その上限値を停冗+
1
とする.同様に被覆度が負になる点の集合からも上限値が得られ, これを
I

,口とする.このとき I

,冗I
十 から 1
仇―I
を差し引いた値を¢ の冗方向の向
き付き広さという.

K=[O, 1
]2で¢が次の写像で与えられるとき被覆度は有界ではないが
(恒等写像に関する)向き付き広さは確定する:

c
p(
x, y
)
={((0x,yc0o)slogx, xysinlogx) ・..・..・.・.・x・=Ix==O〇のとき
のとき.

問題意識 I

;+I
は被覆度の正値をとる範囲での広義積分以下である.
ところで広義積分以上でもあるだろうか?この問についての完全な解答は
残念ながら得ていない もちろん通常の設定ではこれらの値は一致する.

fを S上の O次連続関数とする.このとき次の式で与えられる KX[O,


]から Rm+1への写像のを fの向き¢ に関するグラフという:
l

(
[J
(v
,t)
=(¢(
v)
,/(
¢(v
)
冗)t
).

グラフの絶対連続性定理 0次連続関数 fの向き¢ に関するグラフの


は単体的複体 KX[O, l
]から Rm+lへの絶対連続写像である.
1
42


月の上界の一つを M とする.任意の正数 eに対して KX[O, l
1 ]の部分
c
集合 Sで広さが 以下のものをとるとそののによる像が e以下である
4M
ことを示そう.

まず S を広さの総和が C 以下になるように矩体で覆い,そのときの
3M
k 方向の広さの総和を N とする.次に各矩体を k 方向の成分に関して区
E
:
切って fの値の変動が 以下になるようにする.この細分化された各
3N
矩体 R
,の集合体の像を矩体の集合体で覆ってみよう.このとき矩体の底
, 高さを h
面の広さを r
; ,とすると R
,における t
f(x
)の差は

I
tf(
x)-
t'f
(x'
)I
~lf(x)llt-t'I +
t'l
f(x
)-f
(x'
)I
I+ lf(x) —雇) 1
~Ml t-t
'
E
:
~Mh, 十
3N

となる.そこで各兄の像を広さ r;(Mh;+((~ぷ))の矩体で覆うことで R,
Mc 2Nc
の集合体の像は広さの総和 + =t:以下の矩体で覆ったことにな
3M 3N
る . ■

K X[
O
,l]には, Kx{O}上の向きが K のと一致するように向きがつけ
られ,同様に Rm+1 (の有界部分)にも向きがつけられる.これらの向き
に関するのの冗 Xid方向の向き付き広さを fの¢ に関する 方向の向き
7[

付き積分といい. JJi ¢
なと表記する.また が座標方向への正射影であ
7[

るときは座標変数 y を用いて d
7rの代わりに dyと表す.
第 9章 11
向き付きの広さと積分 1
1
1 4
3

向き付き積分の線型性定理


f/af+bg)な =a fな 十 b
f¢g
d7r

ここに a
. bは定数,!. gは 0次連続関数とする.証明は略する.

変数変換定理ゅを I
m¢ から R"への 1次連続写像とし,ルは正の下界
をもつものとする.このとき

f/
(s)
d(r
/J。
¢)=f/(s)hゆ(
s)必
) .

証明は変数変換定理を広義積分に適用することによって得られる.

9
-6 Stokesの定理
以下この節では S上の O次連続関数 fを固定する.

S
tok
esの定理 ¢は aKに制限しても m-1次元の絶対連続写像である
とする.また fを S上で 1次連続な関数とし,以下の両辺に出現する積
分の基礎になる広さが確定しているものとする.このとき次の等式を得

faJdy=区 ¢
I 鳳d(x;, y).
こ こ に 励 は ¢ の aKへの制限とし, iは yに出現しない変数の番号をわ
たるものとする.

通常いうところの Stokesの定理は m=2, n=3, Gaussの定理は


m=n=3, Greenの定理は m=n=2のケースを指す.

固 ¢が非退化 PL写像, fが xのみの 1次式で表されるときにこの定理


を確認せよ.
1
44

IStokesの定理の証明
この定理はまず k 自体が単体で fが xの 1次式であるケースに帰着さ
れる.すなわちこれが保証されるときは任意の正数 eに対して K を十分

に細かく単体分割して m 次元単体ごとに f と一—を一斉に誤差


a
1 s
以下
o
x; nB
に近似すると,両辺の差を集計したものは e以下になる. このことから,
結局両辺は等しいことが分かる.ここに B は¢および綽の向きなし広さ
に共通の上界とする.
次に (
9-5
) 向き付き積分の線型性定理により fが個別の X,の 1次式で
あるケースに帰着する.このとき他の ま
XjI fにも被覆度にも影響しない
ため,はじめから m = nであると考えて差し支えない.以下 X, X,などは

xと表記し J
(x, y)=ax+bとしよう. aが 0のときは両辺ともに 0となっ
て明白であるから,簡単のため a>Oと仮定しよう.
ここで K を重心から 2倍に相似拡大した単体 K'を作り,¢ の 拡 張 炒
を次のように構成する.簡単のため重心は 0 とし,¢ に x成分, y成分へ
の正射影を合成したものをそれぞれ c
px
,cp
Yと表そう:

(
(2-
r)¢
x(u
),c
pY(
u)) ... t~1 のとき
炒 (ru)={

(ru
) ... t
;
:
,;1のとき.

ロ+ロ
このとき炒に対する定理の左辺は向き付き広さが 0になることから値〇
をとる.右辺は m+l次元のある絶対連続写像の境界部分への制限を接合
することによって x=Oの部分への写像に変形される.その結果,前者は
被覆度が 0
, 後者は向き付き広さが 0であることから値 0をとり成立する.
すなわち間題は次の式で与えられる [
l
,2]X』上の絶対連続写像ゆの場合
に婦着する:


(r )=(
,u (2-
r)¢
x(u
),<
/J
Y(
u)
).
第 9章 11
向き付きの広さと積分 1
1
1 4
5

このケースを考えるには要求誤差 cに対して fおよび¢の値の変動が


c c
それぞれ 以下におさまるよっに A を単体分割する.ここに I
I
.L
Ii
'B
l.
LI
i
iは 4の向きなし広さの上界, Bは I I
.
L
I 塁
の上界とする.ここで各単体

ごとに ¢
(u)を定点 cでの値に置き換えると,加味される誤差の総和は c
以下である.分割で生じた単体を改めて A と し ょ う こ れ で 問 題 は ¢ が
定数 ¢
(c)であるケースに帰着した.
さて,最後に残ったこのケースでは左辺の値は綽の 4部分の向き付き
広さを b-(a
が(c
)+b
)倍したものである.また右辺はゆの向き付き広さを
-a倍したものとなり,定理の両辺の値は等しい ■

第パ

実数論

実数とは何とも厄介な代物である.「有理数と無理数の総称」という説
明は「実数」を知らないのに「無理数」を知っているという前提に立って
おり堂々巡りである.「有理数は整数と分数の総称」等々,総称方式の規
定は必然的に苦しい.規定すべきは個々の「*数」ではなく「*数」の体
系なのである.「実数体系にはこれ以上付け加えることができない」とい
う言明も要するに「*数以外の*数はない」に「*=実」を当て嵌めた
だけであり何の進展ももたらしていない.
こうやって達した最後の候補が「収束しそうに見える数列 (Cauchy列

の同値類」であったこの方式は「実数」というべったり感のある対象の
存立基盤を「列」というさらさら感のあるものに求めている.ほとんどの
人はこれで幕を引くが,少数の人は「同値類」という規定にいささかの
引っかかりを感じている.ところで, もう一方の問題点「列とは何か」,
Cauchyの条件は如何に検証されているか」について省みられることは

まずない.
現代数学の基幹部は難渋極まりない「証明」に立脚した定理が占めてい
るが,「有界単調数列」に関するものはその代表である例えば「有界単
調数列」は「収束」し,「収束数列」は「Cauchy数列」であるという.
これをつなぐと「有界単調数列は Cauchy列である」…(*)が必然的に
帰結されることになるまずは定義を述べねばなるまい.

単調増加数列… Vm, n [
m;:
i;n ⇒ a
m;
:i
;叫
収束…ヨ a 咋>〇 ヨN Vn n~N • l
a.-
al<E
Cauchy列 ・・Vc>O ヨN Vm, n m~N争 n ⇒ l
am―』<
a E
,
第OO章 実 数 論 1
1
1
1 1
47

収束数列が Cauchy条件をみたすことを見るには「収束」条件における

eに「 c
auc
hy条件」における}を代入するまでのことである. しかし「有

界単調数列」から「極限値」 aを探し出す手段は人智を越えた列に頼って
いる.そんな「極限値」に執着する気があろうとなかろうと,厳密な数学
を守る者は現代数学が結果的に帰結してしまうこの陳述(*)に備えるた
めにもこの超人的な「列」の生成につきあう羽目に遭っている.
すなわち(*)では旧来踏襲されてきた「証明」を正当化するために,
陳述自体に記載されていない対象が超人的な操作により「構成」されてい
る.そういった陳述は現実には表立って語られないが,結果的にでも演繹
されてしまう事柄である以上は無批判に鵜呑みしていいということにはな
るまい.

0
0-1 実数の構成
ここで「構成的」な列とは何かという問題意識が生じる. これについて
20世紀前半には少々制約的に自然数を変数とし自然数を値にとる形で論
じられた(ここでは 0 も自然数とみなす).その手法は何通りかあるが,
できあがったものは互いに同値であると結論づけられている.そのことが
「構成的」という概念に対する正統性を示唆するものと受け止められてい
るが,その一つである「一般帰納的関数」を題材にしてその一面を指摘し
てみよう.
「一般帰納的関数」は変数値に対して関数値を算定していく手段を与え
るものであるが,結果的に算定されるかどうかには言及しない.実際に,
「一般帰納的関数」 fが与えられたときにその特性関数すなわち「変数値
に対して fの値が定まるとき 1
, 定まらないとき 0をとる関数」が「一般
帰納的関数」であるという根拠はない.特性関数を認知せぬ「構成法」で解
析学が説明できるとは著者には思えない.
ここでは発想を変えねばなるまい.「列」は正当化できると都合のよい
手段であって,正当化せねばならない対象ではない.前述の Cauchy列の
話題を例にとると,実際問題として扱わねばならないのは「有界単調数列」
1
48

の名の下に捉えられている個々の対象であって「有界単調数列」という枠
組みではないのである.
それでは解析学が正当化しなければならないものは何か?まずは有理数
を出発点として,許容せざるを得ない操作を有限回組み合わせることによ
り生成していこう.前もって述べておくに,これから種々のものを正当化
していくことの背骨となる考えが「方程式の解」である.そして許容せざ
るを得ない操作の第 1は和と積であり,この段階で方程式の解として差や
正数の逆数が正当化されることになる.実は他に平方根など代数方程式の
解もこの範疇にあるのだがこれについては次の段落で述べる.
さて解析学の解析学たる所以は関数(写像)を扱うことであり,関数の
うち最も基本的なものは変数そのもの(および定数関数)である.そして,
関数を扱う必然の結果として代入(合成)を認知せねばなるまい.さらに
方程式の解という観点からして逆関数・陰関数が(証明の便宜のためでは
なく,陳述にとっての必然性を伴った条件のもとで)正当化されねばなら
ない.平方根は解析学の文脈ではこのように再認識される.この段階で正
当化される関数はどれも加減乗除で生成される方程式で記述される代数的
な関数の域を出ない.
超越関数(代数関数で表されない関数)の皮切りは対数関数および逆三
角関数である(そのうち後者は実は前者の複素関数的解釈から派生すると
見なされる).こういった例を一般化して原始関数で表されるものが出現
するまた指数関数,三角関数がこれらの逆関数として捉えられることは
第 0 章に述べたとおりである.楕円積分• 超楕円積分や両者の逆関数であ
る楕円関数•超楕円関数のような関数はこうやって出現する.
もっとも以上挙げたもののうち逆関数に関してはこの段階ではもとの関
数の像からの写像というに過ぎない.そこで実行上は 0次連続関数を像の
閉包にまで拡張することを許容せねばならない.この拡張操作を原始関数
で与えられる関数に適用することで広義積分が認知される.それによって
「関数や t関数などが認知される.
結局のところ解析学が扱わねばならない関数の花形は微分方程式の解で
あろう.その皮切りが常微分方程式すなわち 1変数の微分方程式の解を求
めることである.これを原始関数で表すことは求積法と呼ばれ,いろいろ
I1
第 co章 実 数 論 I 4
9

な方程式族に対して発見されている. しかしこの筋書きで解決できるもの
は原理的に稀少であり,求積できないケースでもそれが原理的に不可能で
あることを確認するのは困難を極める.また,微分方程式に関しては「解
が一意的に存在する」という目的にかなった有用な十分条件はあるが,必
........
然性が説得できる条件を提示することが困難である.このような次第で,
本書では微分方程式の解についての議論にまでは踏み込まないことにする.
ところで現代解析学は関数列の極限を重用しているが,本書では極限に
ついては積極的に扱ったものの,「列」については深入りしていない.「列」
は微積分の生い立ちと共に自然発生し,感覚に訴えながら「証明」にまで
深く関わってきた歴史がある. 1
9世紀はそのような素朴発想が悉く打ち
砕かれた時代であった.そこで曖昧な用語を精査・洗練化した成果が「(後
世いうところの素朴)集合論」となるはずであったが,すぐさまその破綻
が指摘されたその後修正案が提示されたが 2
0世紀前半に得られた一
連の結果は「自然発想」をできるだけ温存したまま形式化しようというこ
の種の手法に微積分の盤石な基盤を求めることの不自然さを示唆している
といえよう.
本書では(広義)積分や微分方程式の解それ自体について考察するのが
解析学の本義だという立場に立っている.このため「列」については必然
性を帯びた「天性のもの」として理論の中心に据えることはせず,あくま
で人間の素朴な感覚が共鳴してしまった人工物と位置づけることにした.
正当化されれば便利,かつ多数派によって踏襲されてきたことをもって
「自然」を標榜するのは筋違いであろうそれでも本書では関数列につい
ては関数系の特殊例としてその微積分を「変動過程,積分の連続性と累次
積分」の章で扱っている.実際に,現在「列の極限」で表されている関数
のうち興味深いものは元来,(偏)微分方程式の解(の極限)として捉え
られる もっとも前述したように本書では微分方程式についての組織的な
議論は扱わない.これについても現在知られている事柄の多くは正当化さ
れるであろうが,デリケートな議論では異なった展開を呼ぶかもしれない.
いずれにしても本書が問題提起したことが契機となってこういった事柄に
も再検討が進むことが期待される.
1
50

0
0-2 実数体系の骨組み
ここでは有理数の体系については旧来の議論を援用する. まず,有理数
系 Q はアルキメデス念順序止である.すなわち S=Qのとき次の性質を
みたす.

アルキメデス: Va, bES a>O ⇒ ヨN E N Na~b


全: V
a, bES a~b V a~b
体: ¥/aES a
=!
=〇 ⇒ ヨbES ab=l.

さて,実数の体系はどうか?実数として定積分で表される値を認知する
以上,それらの大小を比較せざるを得ない. しかし 2つの定積分 a
, bに
対して a<b, a=b, a>bのどれに該当するかの判定を実行することは絶
望的である(「等しい」か否かを判定するアルゴリズムは見あたらず,相
加相乗平均を表す積分の関係のように摩詞不思議な等式が見つかることが
ある).このような状況で「実数体系には全順序がついている」と唱えた
ところで,「現在どころか当分の間破綻は指摘されまい」という経険則
の域を出ない.そこで本書では「全順序」に代えて構成された対象の間で
文言通りに実行できる陳述に変更し,旧来の公理を換骨奪胎した実数論を
再構築することにする.そのため少し譲歩して次のことを認めよう.

全 ?:¥/rEQ Va, bES r>O ⇒ [a~b V a~b+r]


順序の Q—漸迫律:

Va, bES [¥/rEQ r>O ⇒ a~b+r] • a~b


体 ?:¥/aES a>O ⇒ ヨbES ab=l.
(しかし,いつも「>山「=」'「く」のどれかだとは言ってない. と
ころで a>Oは正式には[ヨ r巳 Q a~r>O] の意.)
アルキメデス:今決めた「>」のもとでは正当化できる

このように本書では「実数はそもそも誤差を引きずった存在である」と
第 co章 実 数 論 璽 1
5
1

いう立場に立つ.これをスフマート世界観と称する (
sfu
mat
o(伊)ダヴィ
ンチ・コードで有名になった,輪郭をぱかして描く図法,……という解説
自体が「輪郭は本来はっきりしている」という認識に立っている. この手
法を好んだ天才画家の意識はどうであったのか?).スフマート世界観の
もとでは「『こ』とは『>』 V 『=』のことである」とか「『>』とは『こ』
八『キ』のことである」とは思いにくくなる.「>」と「こ」はどちらが
本源的か?順序公理になじみやすいのは後者の方であると思われる.
スフマート世界観は論理・集合論に影響を及ぼす.すなわち「命題の否
定」は注意して扱う.たとえば元が「属するか否か」であるとは断定でき
ないが

ScAUB ⇔ VsES [sEA V sEB]


ScAUB ⇒ [ScA V ヨsES sEB]
などは容認する(後述するように A と Bが 糊 代 つ き の 補 集 合 の 場 合 に 注
目).ただし

」⇒
[Vn ScAUB [ScA V Vn ScB

という推論は行わない(仮にこれがあると, Q-漸 迫 律 か ら 全 順 序 性 が 導
かれる).

0
0-3 切断論
実数の構成方法とみなされている代表的なものを挙げて, これらを「単
一 性Jと「実効性」の軸に配置してみよう.

単一性
?'

Dedekindの切断
実効性
有界単調数列 遵芭区間列、) Cauchy列

1
52

前述したように有界単調数列は Cauchy列と違って誤差に対する実効性
がない. Cauchy列のもつこの長所を獲得したのが縮滅区間の列である.
これは上端と下端が生成する本質的に 2つの列を用い, Cauchyの条件そ
のものを持ち込んだものである.これらの中では実効性を盛り込みながら
すっきりしているという点で Cauchy列に軍配が上がるであろう.
ところで,こういった列による記述では一つの実数に対応する列の多様
性に注意せねばならない.こういった記述から実数を特定するには列の同
値類が用いられており,対象となる列の総体に比肩するほど多くの列が
「同一視」される.一つの実数は一つの列では負担できないほどの列を背
景に帯びているのである.こういった多義性を解消して単一化の方向に進
んだものが切断である.そこで実数の体系 R を傍観者的に眺めて,その
特徴を捉えたのが Dedekindの切断である.これは実数を空でない集合
A(-), A(+)に分け,次のことを要請している.

A(-)UA(+)=R, A(-)nAC+)=¢
xEA(-), yEA(+)⇒ x~y

ここで「下部集合 A(-)が最大元をもつ」と「上部集合 A(+)が最小元


をもつ」の 2つの性質に注目する.そしてこの 2つの性質のうちちょうど
一方が成立するのが実数の特徴である…というのである. ところでこの 2
つの性質は両立し得ず,一方の性質をもつ切断からもう一方の性質をもつ
ものが生成される.すなわち実数に対する Dedekindの切断は本質的に二
重に数えられることになる.
さ て こ の 二 重 性 を 解 消 し て み よ う ま た , A(-)UA(+)=R,
A(-)nAC+)=¢ には「すべての点は集合 Sに属するか属さないかのど
ちらか一方である」という諦観が隠れている.そこで少々見方を変え,ま
ずは R ではなく Q の切断を考える . Qの部分集合 A(-)とA(+)の対
A=(A(-), A(+))は次の性質をみたすとき Qの前切断という:

xEA(-) ⇒ [yEA(+) ⇒ x角 y
]
yEA(+) ⇒ [xEA(-) ⇒ x印
].

A(一)と A(+)は A のそれぞれ下部集合,上部集合という . Qの前切断


第 co章 実 数 論 朧 1
53

は次の性質をみたすとき切断であるという:

xEA(-) ⇔ [yEA(+) ⇒ x~y]


yEA(+) ⇔ [xEA(-) ⇒ x~y].

ところで Cauchy列がもっていた実効性という点で(前)切断には物足
りない一面がある.そこで (A(-), A(+))が次の条件をみたすとき,前
切断のときは実効的前切断,切浙のときは実効切断という:

Vc>O ヨ a±EA( 土)が一 a ― ~E.

切断は列に比べて大きな集合上での言明に基づいているとして敬遠され
るのが実情である. ところで列を扱う立場では有理数集合には番号付けが
可能であり,その意味では本書でいう「切断Jに現れる「有理数が上部(下
部)集合に属する」という言明はすでに列の一員と解釈できるのである.

例1
a を有理数とするとき ({xlx~a}, {yly~a}) は切断を表す.この切断を

簡便に有理数 a と同じ表記をすることもある. ところで旧来の書物にある


Dedekindの切断でこの例に対応するものは((一翌 al (
a, +=))と
((-=, a
) , +=))の 2通りである,
,[
a

切断 A=(A(-). A(+))と B=(B(-). B(+))に対して A(-)cB(-)


であるとき A~B と表す. またこのことと B(+)つA(+)であることは同
値である. A~B かつ A::;;B のときは A=B と表す.

固 関係こが切断の全体に順序関係を与えることを示せ.

0
0-4 切断の基本性質
一般に Qの部分集合 Sに対して Qの部分集合 S土を次のように定める:

s-={xEQ[yES ⇒ x~y}
1
54

s+={yEQlxES =
> x~y}.

[定理 J
Q の部分集合 Sに対して Sは s+―, 5-+ の部分集合であり, 5+ — +=s+,
s — +-=s ーである.

’ まず S の元 s は S 十の任意の元 y に対して s~y をみたすので S 十一に属


し,同様に Sー+に属する. したがって S十は c
sりー+の部分集合であるが,
cs 十一)+の元 y は S 十一の任意の元 x に対して x~y をみたすので特に S の

元 x に対してもみたす.すなわち y は S 十の元であり,同様に S —+ーの元

は 3 の元である.

咽2
Q の正の値をとる単調減少数列 {
aサに対して A={anln: 自然数}とする.
ここで C(-)=A―, C(+)=Aー と 定 め る と (C(-), C(+))は切断である.

上に述べたように切断というだけでば必ずしも下部集合と上部集合の境
目を実効的に見せるわけではない. といっても実効的でないことが確認で
きる切断は 00 を表す (
Q, ¢)と一 00 を表す(¢, Q)の 2つ 以 外 に は 具 体
的には見つからない.例 2は正にそのような悩ましい切断を与えている.

実効的前切断の切断化定理 X=(X(-), X(+))を Q の 実 効 的 前 切 断


とする. このとき U(-)=X(+)―
, UC+)=X(-)十と定めると, U=(U(-),

U(+))は切断である.また V=(V(-), V(+))を Q の実効切断とする.


Vx―EX(-)ヨv―EV(-)x―
;;;
;び―

であれば u
;;
;;
vで あ る
第 0 0章 実 数 論 園 1
55

[ID]f
まず,前切断の定義により X(土
) cu( 士)である.今, U(-) の元 u —ぉ

よび U(+)の元 u十が与えられたとする.ここで正の有理数 eに対して


X―こ X(-), x+EX(+) で x+-x ― ~E をみたすものをとると u 十 ~x ―こ
x+-E~u--E である.すなわち任意の正の有理数 e に対して u 十 ~u ―一 e

であることから,この (U(-), U(+))は前切断である.また Q の元 qが


U(-) の任意の元 U ―に対して q~u ーをみたせば,その部分集合 X(-) の

よって qは U(+)の元となる.


任意の元 x ―に対しても q~x ーをみたす.

士を逆転させても同様のことがいえるので, Uは切断をなす.
後半については, U(+)=X(-)+つ V(-)+=V(+) となり u~v を得る .

この定理前半で構成された切断 U を実効前切断 X の切断化という.

o
o-5 実効切断の演算と関数
A=(A(-), A(+)), B=(B(-), B(+))を実効切断とする. ここで前
切 断 X=(X(-), X(+)), Y=(Y(-), Y(+))を

X(-)={{a± 十炉}― l
a土巴 A(土
), 三 B(土
)}
X(+)={{a± 十炉}十 l
a主 A(土 ) , 三 B(土
)}
Y(-)={{a±b±}―l
a士 EA(土
), b主 B(土
)}
Y(+)={{
『 『 } +l
a士 EA(土
), b土 EB(土
)}

と定める.以下{}の中の複号は集合ごとに独立に選ぶものとし,その
右肩のーは復号の選択すべてをわたる最小値,+は最大値を表すものと
する.このとき X, yそれぞれの切駈化を A と B の和,積といい A+B,
A Bと表す.
両演算の法則については次節で解説するものとして,ここではいくつか
の関数について切断の側面から述べておこう.本章の前文で述べたように
微積分を運用するには逆関数や陰関数が必要になる. ところで陰関数は多
変数の逆写像を制限したものである. さて逆写像はというと被覆度が土 1
1
56

の点がなす集合の閉包上に形式的に定義できるが,その座標値が実効切断
として認識できることは (
9-3
) 0次同相写像定理により保証できる.
微積分を円滑に展開するには場合分け関数について述べねばなるまい.
伝統的な数学では実数は例えば負の部分と非負の部分に分割でき,それぞ
れに対して値 0
, 1を与えることができる. しかし本書のスフマート世界
観では端をそんなにくっきり分けたものを「関数」として積極的に認定す
ることはしない(向きの付いた広さについては被覆度の広義積分と規定し
たが,境目での値については曖味なままで十分である).有限個の単体で
定義された個々の O次連続関数が互いに境界に於いて一致しているとき,
複体全域の O次連続関数に拡張される(もちろん無限個の単体にすると全
体が 0次連続になる保証がないのは旧来の結論と何ら変わっていない).
この定義により例えばは I
などが出現する.とはいえすべての実数が
x~O と x~O のどちらかに属すると認めないで本当に 0 の近辺の実数すべ
てに定義されたのかという疑問はもっともである.ただ,それについては
値を実効切断として正当化できることを指摘しておこう.同エ異曲に三角
関数がある.本書では三角関数を逆三角関数の逆関数と規定している.こ
れによると三角関数は第一義的には有界な基本区間で定義され,あとは拡
張によって生成される(実際に中等教育で最初に導入されるとき,角度は
0度と 90度の間となっている).

ところで微積分の導入部分では s
inx―,
1xsinお― ,
1 e―五 s
inx―lなどの悩
ましい関数が x>Oにおいて出現するがこれらは場合分け関数によって正
当化されたのであろうか?実はそうはなっていないのである.本書では 0
次連続関数の定義域は有界である. したがって I
叫にしても sinxにして
も定義されたのは有界な範囲であり,上に挙げたような関数は 0から一定
以上離れた区域でしか正当化されていない.これを x=Oの近辺にまで規
定するには無限列の導入が必要である.
無限列が卒む危うさについてはこの章の始まりで指摘したとおりである.
それでは本書はこの有用な手段である無限列を認知しないのかと言われる
と,返答は微妙にならざるを得ない.無限列で与えられる切断に値をもつ
関数が与えられたときにはそれを論じることができる しかしその無限列
第 00章 実 数 論 1
1
1
1 1
57

が正当化できるか否かについては言及しないし,話題になっていない無限
列をわざわざ導入して説明することはしない.これが本書のスタンスであ

0
0-6 実効切断の演算法則
和・積が交換律をみたすことは容易に分かるので,ここでは結合律• 分
配律について述べる.

切断の結合律定理 切断の和・積は結合律をみたす.

~
次のように定める:

U(-)
={{町+炉 +c±}-la±EA(土
), b全 B(土
), c全 C(土
)}
U(+)
={{炉+『 +c±}+la士EA(土
), b主 B(土
), c全 C(土
)}

V(-)
=
{{a土b土臼}― l
a土EA(土
), b土EB(土
), C±EC(土
)}
V(+)
=
{{a士炉c土}
+la全 A(土
), b土EB(土
), C土EC(土
)}

さて (
V(-
), V(+))は実効的前切断をなすので,その切断化を V とする.
ここで

{炉 b梵土 }
-;
;;
;{
a± 炉}士戸}一


より V( 士)がなす実効的前切断の切断化 V は V~(AB)C をみたす.同様

に V~(AB)C となるので V=(AB)C を得る.同様に V=A(BC) が得られ



和の結合律も同様に確認できる.
1
58

切断の分配律定理 切断の和と積は分配律をみたす.

'{
x土十 y土

―, {
x土十 y±}+がそれぞれ x―
頭に置いて,次のように定める:
十 y―
, x++y十と表せることを念

W(-)={{(a1 士『)— +(a戸『) -


1
a戸EA(土
, az±EA(土
) , b±EB(土
) )
, C土 EC(土
)}

W(+)={{(a1土b
)土 ++(a2い) +
1
a
1土EA(土
, a
) 2土EA(土
, b土EB(土
) )
, C土EC(土

}.

こ こ で 正 =max{a1―
,a2
-}, 『 =min{
a1+
,a2十}と定めると 1次式の単調
性より i
=l, 2に対して (
a尺戸)ご三 (
a土『)ーより

(a 戸 b 土)— +(a戸 c 士)一

~(a 士『)— +(a±c±) 一

~(a 士(『+戸))一

を得る. このことから we 土)の切断化 W は W~A(B+C) をみたす.同

様に W~A(B+C) となるので W=A(B+C) を得る. .

ところで実効切断 A と有理数 0
, 1で表される実効切断とのそれぞれ
和・ 積は A に一致する.また B(-)={-『 la+EA(+)}, B(+)={-a-I
a―EA(-)}がなす切断 B は A+B=Oをみたす. さらに実効切断 A が正
値すなわち A(-)が正の実数を少なくとも 1つもつときは実効切断 C を

C(-)={x乞 QIVa十 こ A(+) x·a 十 ~l}

C(+)=C(-)+

により定めると, CA=lが成立する.

固 上に述べたことを確認せよ.
第 00章 実 数 論 ■ 1
59

<問題>
S={x2~3lxEQ} に対して cs+ ―, S十)は 2乗すると 3になるか?

圃 A, X
. y を実効切断とし X~Y と仮定する.このとき A+X~

A+Y であること,またさらに A~O であれば AX~AY であることを

示せ.

0
0-7 集合,その広さと切断
本書では実数とは本来的に誤差を伴った存在として捉えている.それ故
に元が「その集合に属する」という記述はされるがすべての実数に対して
「その集合に属するか否か」という設問には必ずしも返事できるとは認め
ていないただ,誤差分の不確定さを残しながらも

ScAUB ⇔ VsES [sEA V 造 B


]
ScAUB ⇒ [SCA V ヨsES sEB]

という判定が可能だと認める立場に立つ.特に前半は合併の定義である.
後半については A, B として中心を共有しサイズの異なる 2つの立方体
(ただし空間と同次元で座標に忠実な向きをもつ)が与えられたときの大
立方体の内部と小立方体の外部というケースは重要である.本書では集合
の広さは有限個の矩体による被覆で計られ,その限界を知るには「細分」
が必要になる.このとき文字通り実行するには境目に糊代ができるような
ものを選ぶことになる中心を固定した上で任意のサイズに対してこれが
適用されることは Sが「中心の点を要素とするか否か」をスフマート的
に判定しているといえよう.ただ実行上は少々煩雑になるので,空間より
低い次元の広さを扱うまでは便宜的に糊代のないものを用いることにした.
スフマート的にしか捉えられないものには第 9章で扱った「被覆度」も
あり, これは本質的に定義されない点をもつ. もっともこれに対する我々
の関心は主にこの値の広義積分値にあって,これが正当化される状況であ
れば「全域で定義できてはいない」こと自体は直接的な阻害要因にはなら
ない.
1
60

さて実数の曖昧さは集合の曖昧さを喚起したが,有界集合の広さに関す
る議論はさらなる不鮮明性を帯びざるをえない.有界集合の広さは矩体被
覆の大きさの下限と定めたが, これは有理数集合の中で上界のなす部分集
合を上部集合とする切断と捉えられる.ただ「集合」概念を構成的に規定
していない以上はその実効性を保証するすべはない.それゆえ広さに関す
る議論は広さの実効性が保証できる集合に限られる. もっともいくつかの
基本的な構成法に基づく集合の広さは実効切断をなす.集合は,その広さ
が実効切断で実現できることをもって広さが確定しているとみなす.
ところで我々が素朴に知覚している量は元来すべてが一般的に正当化さ
れるというものではない.非負値関数の広義積分は有限に収まるわけでは
ないし,空間より低い次元の広さは有界の範囲に収まるときでさえも振動
という不安定性要因を抱えている.後者については広さとはパラメータ r
についての変化を卒んだ量であってその大小比較を許容誤差 eに応じて

Vc>O ヨro>O Vr O<r~J'i。⇒

という文脈で実効的な前切断に値をもつ関数と捉えるべきものと考える.
その意味では 0次連続関数の積分は自動的に正当化され線型性は保証され


広さと柩限の交換などのさらなることについて考えると,断面が変化す
るときに「同じ r
」で比較することの意味が薄れてくる.そこでまずは
r=Oの近くでの安定性,すなわち実効切断としての正当性が問題になる.
この性質は直積では無条件に,また積分についても「細分系をもつ集合上
の O次連続関数」という枠組みのもとでは伝播する. もっとも「細分系を
もたないが広さが確定する」ということがそもそもあるのかどうかは現時
点では不明である.積分と極限の交換では「変動細分系」をもつこと, さ
らに累次積分では変動細分系の「重層性 Jのもとで保証される. また広義
積分が実効切断(必然的に有限)として正当化できる条件についても,極
限関数の広義積分とリンクした形で低次元の広さも含めた意味で掌握でき
ていることが見て取れるであろう.
あとがき

本を書いているというと対象読者はどのあたりかと問われる.これがひ
どく答えにくい.付度するに質問者の意図は読者の将来像すなわち,数学
を専門とするのか,理工系の道でどんどん計算をするのか,あるいはもっ
と一般人であって世の中が科学で支えられその根幹に数学があることを実
感しようという心がけのいい人々か••• といったところにあるのに相違ない.

あるいは, もっと露骨にいえば読者の予備知識としてどの程度のレベルを
要求するかということなのであろう もちろん胸中には期待する読者像が
あるのだが,これが見事にこの枠組みから外れている.仕方がないから
「納得しない人のための」というサブタイトルを付けることにした「納得
しない人」とは「呑み込みの悪い人」のつもりである.それをさらに「能
力が不十分な人」と思うのは「呑み込みのいい」解釈である.
知り合いの化学者に「区間上の関数の微分が 0になるなら元の関数は定
数に限る」と言ったところ「そりやあ,そうだろう」という返事が返って
きた.そこで,現代数学の立場に立つとこの陳述は最大値の原理に立脚し,
その証明は「区間を 2分割してその左右の一方から適切なものを選ぶ」と
いう操作を無限に続けその極限点が存在することに帰している…と説明す
ると,少々複雑な表情で押し黙る.いわゆる理工系の人々の中には結構な
レベルの数学を健全に使いこなし, 0の原始関数が定数であることを保証
できなければ定積分に関する定番の計算が崩れ落ちることを重々了解して
いる人がかなりいるに相違ない. こういった人々が切実に願うのは個々の
卑近な実例に適用できる納得のいく解明である.さほど複雑でもない実例
に対して遂行できない「証明」やそれで肉付けした伝統的な理論体系に固
執する理由はあるまい.さらに言えば納得しない人の最右翼,不動点定
理・ 次元論のブラウワーに「呑み込みの悪い人」=「能力が不十分な人」
説を当てはめる人はあるまいし,)レベーグ積分のルベーグ本人が身を置い
た立場も「呑み込みのいい」ものではなかったように見える.
「そんな極端な例を出してどうするのだ.(**以外の切り抜け方は現
時点では開発されていないし,このやり方が破綻をきたすことは想定でき
1
62

ない)」という言い分(&陰の声)はまさに「呑み込みの悪い人」=「能
力が不十分な人」説につながる.この発想はあらゆるところで権威を構成
するのだが,実際には「十分な想定能力をもつ者には呑み込めない」だけ
であったということが当事者以外には明白になることも稀有ではないこ
とあるごとに時の責任者が「あってはならないことが起きて…」と見事な
くらい息を合わせて神妙気に頭を下げてみせるのを何度見てきたことか
それにひきかえ我々が根拠としてしまった事柄について他人任せにせず,
深刻に向き合った先人たちは想定能力の低さを危惧していたのであろう.
そしてこういった「呑み込みの悪い」人々が感じる気持ち悪さは本音では
誰もが一度は感じていたに相違ない.その後呑み込んだ人,付き合いきれ
ないと離れていった人,違和感を残したまま関わり続けた人•••人さまざま

というほかあるまい.
汝はどうかと間われるであろう.学生時代は何やら違和感を覚えること
もあったが,それでどうできるわけでもない. まずは鵜飼いの鵜の如く生
呑み込みしながら,余り関わらない道を選んだ…はずだった.職に就いた
頃に先輩に雑談の中で,専門でない学生が玄妙なところまで質問したとき
には「そこまでは君に要求されないから専門家に任せておきなさい」と返
事するのだと言われた.そんなものかと耳の奥にしまっておいたが,果た
せるかなその場面がやってきた.冷や汗を隠しながらこの一言で切り抜け
たが, どう見ても違う.許した相手は学生ではない,已自身である.
それで専門外ではあるができるだけ分かっておこうとして,微妙になる
と先達に尋ねるようにした.最初のうちは「ほうほう」と顔をほころばせ
ていた先達も,そのうちに口が重くなり,やがて首をかしげるようになっ
てしまった.そうなると本当に知るには自分で解決するしかないと気づい
だ しかし,微積分の全部を明快になどできるわけがない,一生のうちに
無理でもしかたない•••と諦めつつ,問題点を寝かせていた.それが五十路

にさしかかるころ急に展開を見せ,旧来のしがらみを総決算すれば救うべ
き元来の微積分はより単純に正当化できると確信するようになった.つま
り,結局は全部を呑み込むのを諦め,一部吐き出してしまったということ
になる.
というわけで議論は振り出しに戻ることになる.本書は呑み込みの悪い
あとがき 1
1
1
1 1
63

自分を説得するための悪戦苦闘の記録である.そしてこれくらい呑み込み
の悪い人間が納得できるならほとんどの人が納得できるだろうという自負
をもって人々に勧めるものである.重ねて述べる. これは決して「能力が
不十分な人」が安直に呑み込めるようになることを目的とはしていない.
また数学特有の記述に拒否反応を見せる人を説得しようというものでもな
い.数学の流儀に沿って何度まじめに試みても腑の底からは納得できな
かったという人であれば,いわゆる「落ちこぼれ」からブラウワーまで差
別はない.逆に現在供されている数学に満足している人に乗り換えを勧め
るものでもない.現代数学が不要な神秘的説明を行い,結果的に正しい卑
近な計算を正当化していない…と不満を持ったときに開いてみれば十分な
のである.
ところで本書は「理系への数学」において 2
001年 2月号から 2
002年 1
月号まで連載したものを下敷きとしている.その趣旨は「微積分」と「実
数論」の分離であり,これが一応達成できたので連載を申し出たものであ
る.当時の社長からは一度お電話を頂いたのでその折に,これが現代数学
の大勢を占める世界観に対し異説を唱えるものであることを説明し,ご納
得頂けるのかと念を押したものである.それに対して「確かに常識的なも
のの方が営業上は安心だが,こういうものを取り上げるのも使命だと考え
ている」という心強いお返事に胸が熱くなったのを記憶している.そして
先代のこの気概が現社長に受け継がれて,単行本化が実現したことには何
やらこみ上げてくるものを覚える.
本書の実現にはさらなる伏流がある.それが顕在化したのは連載の 3年
ばかり前,京都大学の一松信名誉教授との往復書簡である.このやりとり
は新たなセミナーとして,何人かの有志を巻き込んで大阪大学において不
定期的に開催されたこのセミナーは連載をもって一応の区切りを迎えた
が,その後も燻り続ける何物かに憑かれて再開した.連載で示せたのは
「旧来あったものは説明できる」ということであり,「曲線・曲面の広さ」,
「広義積分と極限の交換可能条件」など旧来ちぐはぐであったり必然性が
感じられなかったりしたものには抜本的な改良が要るように思われた.そ
してこういった点を克服するのに更なる 10年を要したことになる.さて
著者の数学的世界観はこのセミナーを始めてから幾度も変化してきている
1
64

がこれを反映するようにセミナー参加者も著者の試みに深く共鳴する人
から戸惑いを残したままの人まで多様である. したがってすべての人のお
名前を挙げることも線引きをすることも控え,各位のご厚意に深奥よりの
感謝の意を表すことにする.
索 引
(語幹に関して五十音順)

璽あ行
合成関数
構成樹 ,2
9

異常積分 1
17 恒等写像 3
0
陰関数 3
1 誤差関数 2
3
同じ向ぎ 1
31 弧度法 8
表向き 1
32
璽さ行
鵬か行
細分系 1
05
開区間 2
2 細胞 1
04
t
タ測値 7
2 三角関数 8
関数列 1
01 指数関数 8
擬区間 2
2 実効的 1
53
逆数関数 2
8 写像 2
1
逆三角関数 7 集矩体 7
2
逆写像 30 集合 2
0
極限 2
7 重層的 1
09
近傍 (r-) 7
6 スフマート 1
51
区間 2
2 制限 1
05
矩体 7
2 積分 7
9
グラフ 7
9 (
p次元の) 9
1
が相対的に有限 l
l8 絶対連続 9
3
向き付き写像の 1
41 切断 1
53
距離 2
1 切断化 1
54
元 2
0 漸近列 1
19
原始関数 1
3 前切断 1
52
Cauchy列 1
46 像 2
1
広義積分 1
20 相対的に広さをもっ 7
3
負値もとる広義積分 1
29 相対的に有限 1
18
広義の外測値 1
18
塵た行
広義の広さ 1
18
が有限 1
18 退化的 1
32
が相対的に有限 1
18 対数関数 7
1
66

単体 3
1
鵬ま行
単調増加数列 1
46
断面 (x-) 1
03 向き 1
31
欄密 2
1 同じ 1
31
直積 1
05 逆 1
31
定義域 2
1 向き付き積分 1
42
D
ede
kin
dの切断 1
52 向き付き広さ [
PL] 1
31
導閾数 3
7 [一般] 1
41
m 次導関数 4
3 向きのない広さ (m次元の) 9
3
同相写像 (
O次) 3
0
鵬や行
独立 1
04
u
m級 4
3
璽な行
有界 2
1
日常距離 8
5 余次元 8
6

麗は行 瓢ら行

PL写 像 1
32 連続
非退化 1
32 (m次
、c ) [
o次 1変数版] 3
7
被覆度[特殊設定] 1
32 (m次 ,{J) 次
、co次)[一般] 5
9,6
0
[一般設定] 1
33
麗記号
微分係数 3
7
標準的な向き 1
31 V, :
l
,⇒ 3
広さ 7
1 l
og
,ar
cta
n,a
rcs
in,a
rcc
os, ex, t
an,
(
p次元の) 8
5 c
os,s
in 7
,8
広さが有限 8
6 こ C, n
,U 2
021
ファイバー写像 1
36 u
m級 4
3
部分集合 2
0 of/o
x. oげ /o
xoy 6
1
平均変化率 (
1次、 m次
) 3
5,3
6 U(
r,S
) 7 6
閉区間 2
2 [
g,/
],f
sf(
x)d
x 7
9
変格積分 1
17 d
et
・・
・ これについては「行列と行列式」、
偏導関数 6
1 「線形代数」などの図書を参照 8
3
変動細分系 1
03 ;
,
; 8
6
1
19
[I]

変動漸近列 1
01
<︱︱

偏微分係数 6
1 1
17
v
︱︱

偏平均変化率 5
9 1
52
補集合 2
0
著者紹介:

山崎洋平(やまさき・ ょうへい)

1947年 富山市生まれ
1970年 大阪大学理学部数学科卒
1975年 大阪大学大学院理学研究科博士諜程単位取得
同年より 大阪大学勤務(理学部、医療技術短期大学部、教養部、
理学部、大学院理学研究科)
2
012年 定年退職予定
理学博士(京都大学・数理解析専攻)

納得しない人のための

微分・積分学(再)入門
2012年 3月 14日 初版第 1測 発 行
著者 山崎洋平
発行者 富日淳


発行所 株式会社現代数学社
〒6
06-
842
5 京都市左京区鹿ヶ谷西寺ノ前町 1
TEL&FAX075(75
1)0 7
27 振替 0
101
0-8
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12
P
rin
tedi
nJa
pan 印刷• 製本 株式会社合同印刷

1SBN978-4-7687-0350-2 落丁・ 乱丁はお取替え致します

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