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Среди первых инициатив Агентства, касающихся современной архитектуры, современного наследия и современных зданий, был "Комитет по исследованию

и обследованию мер по сохранению современной архитектуры" (далее - "Комитет"), который был создан в 1977 году на основе исследования современной
архитектуры, проведенного Архитектурным институтом Японии, и для практического применения результатов этого исследования. На рисунке показано
количество важных культурных ценностей (в современный период) с момента создания Комитета по обследованию, которое можно условно разделить на
три периода в зависимости от мер, принятых для защиты современных и новейших зданий. Первый период - это "период зарождения", с момента создания
Комитета по обследованию до начала реализации проекта комплексного обследования наследия модернизации; второй период - это "период развития
системы", который длился примерно до 1998 года, когда были созданы различные системы, связанные с наследием модернизации, и был проложен путь для
обозначения и регистрации посредством реализации системы охраны; и третий период - это "период планирования сохранения и использования", который

〈学界展望〉
представляет собой период, когда система охраны согласовывается с владельцами/менеджерами и Период ремонта и использования" - это период до
сегодняшнего дня, когда были разработаны руководства и планы по сохранению и использованию для координации системы охраны с владельцами и

( 以 下「 調 査 会 」 と す る ) が あ げ ら れ る 。 調 査 会 設 置 以 降 の 重 要 文 化 財 棟 数
управляющими. В этом разделе рассматриваются первые усилия Агентства по защите современной архитектуры, описываются его первоначальные цели и

の た め に 昭 和 五 二 年 に 設 置 さ れ た「 近 代 建 築 保 存 対 策 に 関 す る 研 究 調 査 会 」
取り組みに、日本建築学会を中心とした近代建築調査を背景とし、その実践

示したい。
の近現代建造物に関するこれまでの取り組みと、現況の課題、そして展望を
向性について調査研究を進めてきた。本稿では、この報告を兼ねて、文化庁
下「協力者会議」という)を設置し、近現代建造物の今後の保存と活用の方
識 者 を 集 め「 近 現 代 建 造 物 の 保 存 と 活 用 の 在 り 方 に 関 す る 協 力 者 会 議 」
氏[二〇一六]がすでに展望している。また、文化庁は平成二八年度から学
る。通常の学界展望とは主旨が異なるが、近現代建築史については堀田典裕
то, как они были реализованы в виде мер.

近代建築から近代化遺産、そして近現代の建造物に関する文化庁の初期の

本稿の目的は、文化庁の近現代建造物保護の取り組みを展望することであ

近現代建造物の保護 ―現況と展望―
2 1

近現代建造物に対する過去の取り組み

はじめに


川 博

(以

(近代の部)を示したのが図
建築史の専門家だけでなく、建築構造・材料・施工・計画・都市計画などの
る学術的評価の土壌は、すでに整っていたといえる。設置された調査会は、
主要な近代建築は重要文化財として指定されていた。つまり近代建築に関す
に、
る明治建築の全国調査が進められ、その成果は昭和四五年一月号の建築雑誌
村松貞次郎氏をはじめとした日本建築学会の建築史研究者を中心に、現存す

一六日に開かれ、その設置要項は、以下のものだった。
の保存対策を樹立すること」を目的としていた。第一回は、昭和五二年六月
コンクリート造等の建物の保存について、その基礎事項を調査審議し、将来

する。
と、それがどのように施策として実現されてきたか、これまでの経緯を素描
築 保 護 に 関 す る 文 化 庁 の 初 期 の 取 り 組 み を 紐 解 き、 当 初 目 指 し て い た こ と
ライン等がつくられて今日に至る「修理活用期」である。本節では、近代建
管理者と保護の枠組みの調整を図るための保存活用計画の策定指針やガイド
て指定・登録への道筋がつけられるまでの「制度整備期」
頃までの近代化遺産に関する諸制度が整い、保護するための制度の実現を経
近代化遺産総合調査事業が始まるまでの「黎明期」
ら大まかに三期に括ることができる。最初の時期は調査会が設置されてから
実のところ、近代建築の保存については、昭和三五年頃から調査会委員の



冒頭に述べた調査会は、「近代建築、特に市街地に所在する煉瓦、石及び
「全国明治洋風建築リスト」として発表されていた。そしていくつかの

その他近代建築保存対策上必要な事項に関すること。
近代建築の再活用に関すること。
近代建築の耐久度とその補強法に関すること。
主要近代建築の選定方針に関すること。

1
で、近現代建造物の保護に関する施策などか
(一)
(四)

、次の時期は平成一〇年
(二)
(三)

、そして所有者・

Что касается сохранения современной архитектуры, то в 1960 году было проведено общенациональное
исследование существующей архитектуры Мэйдзи, в основном историками архитектуры из
Архитектурного института Японии, включая Тейдзиро Мурамацу, члена комитета по исследованию, и
- 44 -
результаты были опубликованы в январском номере журнала Architecture за 1970 год как
"Национальный список архитектуры западного стиля Мэйдзи". Некоторые крупные современные
здания были отнесены к важным культурным ценностям. Другими словами, уже была заложена основа
для академической оценки современной архитектуры.
. Другие обследования: структурная диагностика, ведение учета, рекомендации и
専門家九名および特別協力者三名(藤島亥治郎、大岡實、関野克の三氏)よ .保存対策の樹立
1

. Обследование объектов: подготовить список сохранившихся объектов.


りなるもので、建築史的な評価に加えて、材料の耐久性や補強の考え方、さ ・評価基準の作成:近代建築独自の評価基準を作る
らに利活用における法規上の問題までを視野にいれた、包括的な検討を目指 ・要保存物件のリスト作成:学会リストを参考にして、保存を目的とし
(五)
したことに意義があ る 。 たリストを作る
調査研究会の発足から一年後に作成された配付資料等をみると、目標を次 ・登録制度の検討:重文指定のほかに、諸外国の例を参考として、登録

советы по повторному использованию.


のように定めていた こ と が わ か る 。 制度の導入を考える

. Разработка мер по сохранению.


・建築基準法の検討:活用に際し、建築基準法に抵触することがあるの
で、この対策を立てる





成 .指定調査:保存物件のリスト作成


2








.そのほかの調査等:構造診断、記録保存、再活用の指導・助言



3




修理活用期

調査会は昭和五四年には、重要文化財旧山邑家住宅(淀川製鋼迎賓館)、













重要文化財同志社彰栄館、そして当時は未指定で存続が危ぶまれていた旧山




- 45 -



調査会設置以降の重要文化財棟数(近代の部)




口県旧県庁及び県会議事堂の現地調査を行い、近代建築を保存していく上で









の定期的な修理の必要性や利活用のための構造補強、活用のための用途変更













などの問題を話しあった。その後、旧山邑家住宅では昭和六三年より保存修





























理事業が進められ、鉄筋コンクリート造の重要文化財では最初期の修理事例









制度整備期




















となった。同志社彰栄館では、昭和五六年に煉瓦造の文化財の新たな補強方
(重
建要
造文
物化
)財
の指
活定
用基
指準
針(
に建
関造
す物
るの
調部
査)
研の
究改
協正
力・
者重
会要
議文
設化
置財







(六)




法として鉄骨補強が考案され、山口県旧県庁舎及び県会議事堂は、昭和五九































年に重要文化財に指定されている。ただし、近代建築の評価方針や保護対象

















調









の絞り込み、そして保存を進める上での制度の実現は、調査会の中では結実









することはなく、その後の全国調査着手後の「制度整備期」に引き継がれる







黎明期







こととなった。













近代の建造物の悉皆的調査の成果としては、日本建築学会の『新版日本近





学界展望





代建築総覧』
(技報堂出版、一九八三年)がある。ここでは、おもに江戸時








600 築





400 関




調

200 会




図1
代末期から第二次世界大戦前までに建設された西洋風の意匠をもつ建築が対
1200

1000

0
800
(一二)
象とされ、約一四、〇〇〇件(うちとくに重要なもの約三、
〇〇〇件)がリス (建造物分科会報告)」が出された。その中で、対象とすべき年代の判断基準

ЭТОТ И ПРЕДЫДУЩИЙ
Однако последующий снос и перестройка современных зданий в связи с технологическими
инновациями, изменениями в структуре промышленности и вопросами экономической
эффективности привели к необходимости получить более полное представление о различных
аспектах модернизации в стране, прежде чем они будут утрачены. С этой целью в 1990 году
Агентство по делам культуры начало комплексное обследование наследия модернизации (зданий и
т. д.) (далее - "Обследование наследия модернизации"), которое охватывало не только современную
архитектуру, но и здания и сооружения, связанные с промышленностью, транспортом и

トアップされていた 。 を、わが国が建築、土木に関する西洋の技術導入を始めた時期から文化財と
しかしその後、技術革新や産業構造の変革、経済効率の問題などにより、 し て の 歴 史 的 ま た は 学 術 的 な 価 値 が 確 定 す る に 必 要 な「 建 設 後 五 〇 年 の 経

АБЗАЦ - В ВКР!!!!!
近代建築の取壊しや改変が進み、これらが失われる前に全国の近代化の諸相 過」したものが妥当とされ、さらに指定基準が改正されて建造物には土木構
(七) (一三)
を、より包括的に把握することが急務となった。そのため、文化庁は平成二 造物が含まれることが明示された。この改正の背景には近代化遺産と近代和
年 度 か ら「 近 代 化 遺 産 ( 建 造 物 等 ) 総 合 調 査 」
(以下「近代化遺産調査」と 風の全国調査が相次いで着手されたことがあり、近代化遺産の指定を進める
する)を開始し、近代建築だけでなく、産業・交通・土木にかかわる建築・ 前提を整えるための指標が求められたからと思われる。この結果、昭和初期
(八)
工作物を対象とした調査を進めた。調査は都道府県を事業主体とする補助事 の建築である明治生命館(平成九年指定)や、昭和初期の土木構造物である
業で行われ、近代化遺産が対象とする産業・交通・土木関係は、一連のシス 富岩運河水閘施設(平成一〇年指定)等の重要文化財指定が行われている。
テム全体として意味を成すものが多いので、建造物と関係の深い機械や、周 近代化遺産調査の進展により、近代化遺産の重要文化財指定が積極的に進
гражданским строительством.

(九)

ЭТОТ АБЗАЦ
辺環境もあわせて調査することが推奨された。 められるようになった。しかし一方で、近代化遺産調査の成果としてもたら
(一四)

- В ВКР!!!!!
一方、過去に行われた「西洋風の意匠」を対象にした日本建築学会の近代 される近代化遺産の数は非常に多く、また種類も産業施設、鉄道施設、水道

- 46 -
建築調査とは対極の位置にある伝統的な建築が、これまで対象から外されて 施設など、非常に多様である。現役施設も多く、活用しながら保存していく
いた問題があり、文化庁は平成四年度からは近代化という現象を伝統の側か ことが望ましい。そこで、平成八年六月の文化財保護法改正で、登録有形文
(一〇)
ら問い直すことを目的として、「近代和風建築総合調査」(以下「近代和風調 化財(建造物)制度(以下「登録制度」とする)が導入された。
査」とする)を開始 し て い る 。 登録制度では、登録の対象となりうる建造物が多数あり、それが全国各地
近代化遺産調査と近代和風調査が着手されるとともに、文化庁では平成六 に存在するため、それらを登録するだけでなく、活用しながら保存して地域
в будущем необходимо и дальше продвигать обозначение современного

вызывающего все больший интерес в последние годы, как можно скорее


продвигать обзоры и исследования и изучать меры по сохранению и
культурного наследия, а в отношении наследия модернизации,

年七月に「時代の変化に対応した文化財保護施策の改善充実について」がま の歴史を活かしたまちづくりにつなげていくことが期待された。そこで、近
とめられた。そこでは「(三)近代文化遺産の保護(近代の遺産の保護のた 代化遺産をキーワードとして、登録有形文化財と近代の建造物の保存活用を
めの新しい視点の導入)」として、「今後、さらに近代の文化遺産の指定の促 図る地方自治体間のネットワークづくりを目的として、平成九年二月二二日
進を図るとともに、近年関心が高まっている近代化遺産については、早急に に は 重 要 文 化 財( 建 造 物 ) 碓 氷 峠 鉄 道 施 設 の 所 在 す る 群 馬 県 の 松 井 田 町 で
調査・研究を進め、保存の方策、保護の仕組みを検討する必要がある」と報 「 全 国 近 代 化 遺 産 活 用 連 絡 協 議 会 」( 略 称「 全 近 」) の 設 立 総 会 が 開 催 さ れ
(一一)
告した。 た。近代化遺産や登録文化財を抱える市町村が相互に情報を交換し、課題や
この報告は、文化財の保護対象および保護措置の拡大に、重要な役割を果 知恵を出し合うことによって、近代化遺産の保存活用が様々な場面に広がる
механизмы защиты

(一五)
たした。平成七年一〇月一六日には「近代の文化遺産の保存と活用について ことが期待された。
Пересмотр критериев выделения важных культурных ценностей и введение системы регистрации
позволили создать систему охраны современных зданий, а также увеличить число зданий, которые
продолжают использоваться на ежедневной основе, таких как общественные объекты, коммерческие
объекты, промышленные, транспортные и гражданские сооружения. В то же время стала
осознаваться важность тесной взаимосвязи между охраной культурного наследия и повседневной
деятельностью людей и производством, и охрана современных зданий стала переходить в "период

こうして重要文化財の指定基準の改定と登録制度の導入により、近現代建 本的な考え方を示すとともに、全体計画の在り方、調査・評価の手法、地域
造物の保護制度が整えられることで、公共施設、商業施設、産業・交通・土 への説明・合意形成、設計・施工における様々な技術、留意点、さらに事業
ЭТОТ АБЗАЦ

ЭТОТ АБЗАЦ
木施設といった、日常的に使い続けられる建造物の指定・登録件数は増加し 後の長期的な保全の在り方について解説している。
- В ВКР!!!!!

- В ВКР!!!!!
た。その結果、個人や企業等の民間が所有する多様な建造物が保護の対象と また、平成一五年には文化庁と国土交通省河川局が協力し、「歴史的砂防
(一七)
して認識されはじめたが、同時に、文化財保護と人びとの生活行為、生産行 施設の保存活用ガイドライン」を刊行した。ガイドラインは、歴史的砂防施
為 な ど と 深 い 関 係 の 重 要 性 も、 よ り 認 識 さ れ は じ め、 近 現 代 建 造 物 の 保 護 設を地域活性化に資する有益な資産として適切に評価し、周辺整備を含めた
ремонта и использования".

は、「修理活用期」へと移行しはじめた。 活用を図るための基本的な考え方・手順等をまとめている。
こうした背景から、文化庁は「重要文化財(建造物)の活用指針に関する 現在の重要文化財(建造物)の指定件数(近代の部)は三五八件一、〇二
調査研究協力者会議」を設置し、平成八年一二月に「重要文化財(建造物) 八棟に達している(平成三一年一月一日時点)
。その種別も、髙島屋東京店
の活用に対する基本的な考え方」をまとめ、重要文化財(建造物)活用推進 (平成二一年)や三越日本橋本店(平成二八年指定)のような百貨店建築か
(一六)
の枠組みがつくられることとなった。さらに、平成一一年三月には重要文化 ら、国道一号箱根湯本道路施設(平成二七年指定)や常願寺川砂防施設(平
財(建造物)保存活用計画策定指針をまとめ、所有者および管理団体に周知 成二九年指定)などの現役の土木施設、さらに旧新町紡績所(平成二七年)

- 47 -
した。保存活用計画の策定は、所有者等が重要文化財(建造物)の現状と課 や小岩井農場施設(平成二九年指定)などの産業施設が着々と指定された。
題を把握し、保存・活用を図るために必要な事項や、所有者等が自主的に行 また、旧奈良監獄は民間活力による整備と活用を想定して平成二九年に指定
う こ と の で き る 範 囲 等 を 明 ら か に す る こ と、 ま た、 こ れ ら に 関 し て 所 有 者 された事例である。
等・関係地方公共団体・文化庁等の間の合意を形成しておくことによって、 登録有形文化財(建造物)の登録件数は、年間六〇〇件前後で推移し、平
所有者等による自主的な保存と活用が円滑に促進されることを目的としてい 成二七年には登録件数が一万件を超え、現在、四七都道府県九二五市町村で
た。 一一、九四三件(平成三一年一月一日時点)となっており、過半数の市町村
さ ら に 地 方 公 共 団 体 の 保 存・ 活 用 の 要 望 に よ り、 公 共 建 築 や 土 木 構 造 物 で運用されている。さらに登録された建造物をみると、その大半は近代以降
が、重要文化財や登録有形文化財として保護されるようになってきたことか のもので、種別では産業関連が約四分の一を占めており、当初は市街地など
ЭТОТ АБЗАЦ

ら、平成一四年には、文化庁と国土交通省が共同し、「公共建築物の保存・ に残る戦前の近代建築が中心であったが、種類、意匠、技法ともに実に多様
- В ВКР!!!!!

活用ガイドライン」が出された。ガイドラインは、公共建築を使い続けてい な建造物が登録され、現役稼働している灯台や鉄道施設、産業関連施設など
くに当たっての評価計画策定、事業、継続的な保全という長いプロセス全体 も増えている。登録対象の種類や建設年代は、近現代を中心に大きく広がっ
学界展望

を見通し、建築の歴史・文化的価値と機能・資産的な価値を統合することを ている。
目的に作成された。このガイドラインは、公共建築の保存活用に際しての基 そして結果として、近代以降の文化財建造物保護を、より具体化するため
Одной из проблем, возникающих в этой ситуации, является
управление и эксплуатация культурных ценностей, На рисунке показаны владельцы культурных ценностей по возрасту (постмодерн/
принадлежащих компаниям. Бывшая пивоварня Шато Камия, премодерн). Если посмотреть на процентное соотношение собственников в
важная культурная ценность, имеет высокую историческую постмодернистский период, то более двух третей всех собственников составляют
ценность как подлинный кирпичный винный завод середины корпорации, такие как школьные и коммерческие корпорации, а также
периода Мэйдзи и использовалась в качестве ресторана частной муниципалитеты. Это контрастирует с тем фактом, что две трети владельцев в
компанией до недавнего времени, когда компания была досовременный период составляли святыни и храмы. Иными словами, одна из
вынуждена выйти из ресторанного бизнеса и продажи продуктов в особенностей современных зданий заключается в том, что многие из них являются
конце 1991 года из-за неудовлетворительной работы. Поскольку операционными активами, принадлежащими государственным учреждениям,
надлежащее содержание объектов возможно только в том случае, компаниям и т. д., и используются в современном обществе, подвергаясь
если владельцы понимают, что такое культурные ценности, неоднократным ремонтам и реконструкциям.

以外の構造物は、橋梁、隧道、塔、櫓などがある。日常的に利用されている
土木の物件は約二七・九%を占め、そのうち建屋が八・七%を占めるが、それ
に示したように、近代以降の重要文化財一、〇二八棟のうち、産業・交通・

れる。
こそ適切な施設維持が可能となるため、そうした環境を生み出す対策が望ま
販事業から撤退せざるをえなくなった。文化財に理解のある所有者があって
ラン等に活用されてきたが、平成三〇年末に業績不振により会社が飲食・物
ワイン醸造所として高い歴史的価値を有し、近年まで民間会社によりレスト
る。重要文化財シャトーカミヤ旧醸造所施設は、明治中期の本格的な煉瓦造

り、修理や改修を繰り返しながら現代社会の中で活用されている。
建造物は公共施設、企業等が所有する稼働資産が多いことが特徴の一つであ
以前の所有者の三分の二が社寺であることと対照的である。つまり、近現代
や営利法人等の法人や市区町村が全体の三分の二以上を占める。これは近世
近世以前)で示したものである。近代以降の所有者の率をみると、学校法人

げながら報告したい 。
いる。本節では、管理活用と、修理における担い手の問題について実例を挙

が、指定・登録件数の増加とともに顕著となってきている。
そして修理事業における現行の工事執行制度における実務的対応への課題
の利活用を前提とした管理手法の考え方の整理や、修理のための人材育成、
желательно принять меры по созданию такой среды.

また土木構造物は、施設としての機能を維持することが重要である。図

こ う し た 状 況 が も た ら す 課 題 に、 企 業 が 所 有 す る 文 化 財 の 管 理 運 営 が あ

まず管理活用の課題であるが、図 は文化財所有者を年代別(近代以降/

近現代建造物の課題は、管理活用や修理などの実務的対応へとシフトして
3

近現代建造物の現状の課題について
(一九)

(一八)
3
とを目指し、その延長として、近代までの建造物の修理にも対応できる人材
統的な木造の文化財建造物の修理に対する幅広い知識と高い技術を有するこ
保存修理主任技術者(以下、

自主的な管理と活用を認識してもらうのが重要である。
別なことではなく、日常の管理の延長線上にあり、文化財の価値を踏まえた
に対する理解、協力が不可欠である。近現代建造物の管理は文化財として特

有者、事業者等が意図せずに文化財の価値を大きく損なう危険性が高い。
理行為、修繕又は改修を行う際に、文化財の保存・活用という名のもと、所
化財の価値の所在を明らかにして関係者等で共有しておかなければ、維持管
や技術基準等に適合させる改修が適宜求められる。このため、あらかじめ文
を続ける場合は、社会基盤施設としての性能を維持するために、現行の法令
い。ただし関連法規に適用除外や緩和制度がなく、建設当初の条件下で供用
も の で あ れ ば、 管 理 者 は 法 令 等 に 則 っ て 安 全 性 確 保 に 努 め な け れ ば な らな
(二〇)
次に修理の担い手の問題である。文化財修理の担い手である文化財建造物

以上のように近現代建造物の管理活用を考える上では、所有者等の文化財

神社 その他
寺院 2.3% 1.5%
2.4%
個人
8.0%
都道府県 法人
8.1% 35.2%
(二一)


7.3%

市区町村
「主任技術者」とする)の育成は、これまで伝

35.2%

近代以降

その他
個人 0.5%
13.6%

寺院
都道府県 市区町村 37.0%
1.6% 10.4%


3.6%
法人
3.4%
神社
29.9%

近世以前

図2 年代別(近代以降/近世以
前)の文化財所有者
Таким образом, если местонахождение ценности
культурных ценностей не уточняется заранее и не
- 48 -
разделяется между заинтересованными сторонами,
существует высокий риск того, что владелец,
оператор или другие лица могут непреднамеренно
повредить ценность культурных ценностей во имя их
сохранения и использования при проведении работ
по техническому обслуживанию, ремонту или
реконструкции.
を輩出してきた。
たとえば煉瓦造の重要文化財修理は、古くは前節で取り上げた
同志社彰栄館(昭和五六年度完了)から、綿密な調査に基づき内

閘門・樋門・水門
装を復原するとともに既存の構造体への影響を最小限とするため

2.0% 池・水槽
1.7%
2.8%
隧道

1.6%
外 部 補 強 を 施 し た 山 形 県 旧 県 会 議 事 堂( 平 成 二 年 度 完 了 )
、機関

水路

塔・櫓
0.7%
橋梁
4.6%

2.9%
堰堤

1.3%
港湾
車庫としてメンテナンスピット等を現しとするとともに、煉瓦の
劣化防止のために基礎部分に防湿対策を施した旧手宮機関車庫三

その他
1.6%
号(平成二一年度完了)、そして近年では東日本大震災からの災

8.7%
建屋
害復旧のために耐震補強等が行われたシャトーカミヤ旧醸造場施
設(平成二七年度完了)などがあげられ、各世代の主任技術者達

近代その他

近代以降の重要文化財の建築面積別の棟数(所有者別)
1.6%
が今日に至るまで修理実績を築いてきた。
Конструкционные материалы современных
важных культурных ценностей, которые вновь
подлежат ремонту, технически отличаются от
современных с точки зрения деталей и общей
конструкции, даже если они изготовлены из
таких материалов, как бетон или сталь, которые
широко используются в современное время. По
этой причине необходимо оценить и сохранить
соответствующие методы ремонта, а также
переосмыслить, какие меры следует принять для

面積(㎡)
新たに修理の対象となっている近現代の重要文化財の構造材料

- 49 -
近代以降の重要文化財の種別
産業・交通・土木
は、現代では一般的に使用されているコンクリートや鉄骨といっ
защиты ценности культурного наследия.

商業・業務
2.9%

27.9%
た材料であったとしても細部や全体のつくり方が現代と技術的に
異なる。このため、それぞれ補修の技術についても適宜評価し、
残していく必要があり、文化財の価値を守るため、どのような配

7.5%
文化
慮をすべきかを改めて考えなければならない。たとえば、平成二

4.3%
宗教
六年より保存修理事業に着手した名古屋市東山植物園温室前館
は、昭和一一年に建設された国内で最初期の全溶接による鉄骨造

官公庁舎
5.8%

42.0%
住居
温室建築として評価されている。そのため、修理工事でも過去に

図3
8.0%
学校
(二二)
例のない溶接を多用した修理が進められている。また鉄筋コンク
リート造構造物についても、平成二六年から二八年にかけて調査
工事を実施し、平成二九年により修理工事に着手した旧志免鉱業
学界展望

所竪坑櫓では、鉄筋コンクリートの補修方法について、かぶり厚の
確保や補修後の見え方などを考慮しながら検討が重ねられている。

図4
棟数
Однако в проектах ремонта
зданий
необходимо учитывать не
только знание конструкционных
материалов, но и использование
объекта в самых разных
областях, начиная с этапа
планирования и заканчивая
обслуживанием после ремонта.

ただし近現代建造物の修理事業では、構造材料に関する知識だけでなく、 保存と活用について」
(本稿末尾に〈資料〉として掲載)にまとめられてい
современных

施設の活用を企画段階から修理後の維持管理まで、広い範囲で検討を行う必 る。この報告に基づき、近現代建造物の管理と活用、そして修理における取
要がある。 り組みをこれまでより踏み込んだ形で進めていく所存である。
図 は、近代以降の重要文化財棟数を建築面積ごとに分類し、さらに所有
4

На рисунке 5 показано количество зданий,


отнесенных к важным культурным ценностям,
по годам с разделением на досовременную и
современную части. Видно, что доля
современного периода в количестве зданий,
отнесенных к важным культурным ценностям,
растет. Если эта тенденция сохранится, то
можно ожидать, что в будущем число важных
культурных ценностей современного и
новейшего периодов, начиная с эпохи Мэйдзи,
者ごとに折れ線で区分したものである。建築面積が増加するとともに、棟数 近現代建造物の保護の今後について
4
は減少していくが、一、〇〇〇㎡を越える建築が一定の割合を占めているこ 図 は、重要文化財の指定年ごとの棟数を近世以前の部と近代の部で分け

5
とがわかる。これらは、都市部にあって複合用途をもち、かつ収容人数の大 たグラフである。重要文化財の指定棟数のうち近代の部の占める割合が、増

еще больше возрастет.


き な 非 木 造 建 築 で あ る。 た と え ば 髙 島 屋 東 京 店( 建 築 面 積 七、七 四三・四 六 加する傾向が見てとれる。この傾向が続くとすると、今後一層、明治期以降
㎡)や三越日本橋本店(建築面積八、四九〇・八八㎡)などの商業建築、ある の近現代の重要文化財が増えていくことが期待される。
いは旧東京帝室博物館本館(建築面積六、
六〇一・八㎡)や愛知県庁舎(建築 一方で、戦後の近現代建造物の保護措置が緊急性をともなうものであるこ
面積四、六六五・九九㎡)などの公共建築があげられる。 とは、戦前期の建築以上に取壊しが進みやすいという指摘があることからも
(二三)
こうした大規模建築の管理や活用を考慮すると、施設の活用を適切に企画 明らかである。都内の事務所ビルを対象にした「竣工記録に基づいた事務所

- 50 -
(二四)
し、修理後の運用を考慮したエレベーターや空調等の設備機器、あるいは耐 建物の寿命調査」によると、平均寿命は約四〇年程度との報告がある。所在
震補強の設置など、修理に加えて新たな機能を加える改修が必要となる。 地による差はあるかもしれないが、築四〇年を経過すると建造物の解体が現
つまり、近現代建造物を修理する担い手には、従来の文化財修理に対する 実的になる。また、近現代建築に関する資料(図面や建築模型等)について
知識や、コンクリートなどの近現代建造物に特有の材料を保存するための知 も、相続者の高齢化や事務所の解散などにより、資料の劣化、散逸、海外へ
識に加え、文化財の価値を理解し関係者で共有した上で、新たな機能の導入 の流出等の危機にさらされている。
や 意 匠 へ 配 慮 す る こ と が 求 め ら れ る。 そ し て 時 に は 施 設 の 管 理 運 営 に 配 慮 しかしながら価値が認められて、重要文化財に指定された戦後建築の近現
し、事業全体を総括的に指揮する立場となる可能性もある。いずれの職能に 代 建 造 物 は、 現 在 四 件 に 留 ま る。 す な わ ち 平 成 一 八 年 の 広 島 平 和 記 念 資 料
おいても、既存の主任技術者が新たにこれらの全てを会得することは容易で 館、世界平和記念聖堂を端緒とし、同一九年に国立西洋美術館本館、同二四
ПОСМОТРИ

はない。 年に日土小学校が指定されただけで、充分とはいえない。
ЧТО ЭТО!!!

文化庁は、以上のような課題に実践的に応えるべく「近現代建造物の保存 その理由のひとつは、戦後の建造物についての総括的把握がされておらず
と活用の在り方に関する協力者会議」を設置し、平成二八年度から近現代建 評価基準が明確でないことがあげられる。
造物の今後の保存と活用の方向性について調査研究を進めてきた。協力者会 そこで文化庁は、戦後の建造物の全国的な把握と評価のため、「近現代建
議の検討結果は、平成三〇年七月二四日に出された報告「近代の文化遺産の 造物緊急重点調査事業」を平成二七年度から実施している。調査対象は、戦
後( 昭 和 二 〇 年 ) か ら 二 〇 世 紀 末 ま で に 造 ら れ た 建 築、 土 木 の 建 造 物 で あ
る。建築は神奈川県と奈良県の調査が完了し、平成三〇年からは静岡県と鹿
昭昭昭昭昭昭昭昭昭昭昭昭平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平平
和和和和和和和和和和和和成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成成

年年年年年年年年年年年年年年年年年年年年年
5 5 5 5 5 5 5 5 6 6 6 6元2 3 4 5 6 7 8 9 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3
2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 年年年年年年年年年 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0

児島県の調査が進められている。調査は一般社団法人日本建築学会の協力を
得て、各県の建築士会のヘリテージマネージャーや公益社団法人日本建築家
協会(JIA)の会員を中心に地域の歴史的建造物を調査している。土木分
野は公益社団法人土木学会の土木史研究委員会が分野別に調査を進め、これ
までにダム施設、道路橋、鉄道橋、高速道路施設、港湾施設、都市街路等の
調査を行い、平成三〇年からは砂防施設、都市鉄道(地下鉄)
、水道施設の
調査を進めている。建築と土木の調査は、調査体制も手法も異なり、戦後建
近代の部
造物の評価軸の分析をそれぞれ進めてきたが、調査の進展とともに、建築家

重要文化財の指定棟数(近世以前の部/近代の部)
がデザインした親水公園など、建築と土木が重なる調査対象があらわれるよ
うになってきた。そこで今後は、建築と土木でそれぞれ進める調査の共通項

近世以前の部

- 51 -
を探す機会をつくる必要があると思われる。
近現代建築に関する資料についても、文化庁では平成二四年一一月より国
立近現代建築資料館を湯島地方合同庁舎(東京都文京区)内に設置し、建築
資料の全国的な所在状況の調査、関連資料を持つ機関との連携、緊急に保護
が必要な資料の収集保管を行い、それらの展示や普及活動を通じて、近現代

年年年年年年年年年年年年
建築とその関連資料等のアーカイブスへの理解増進を目指している。そして
前述の近現代建造物緊急重点調査事業では、資料の所在等についても把握に

Как уже говорилось выше, в


настоящее время в обследование
современных зданий включаются
исторические здания послевоенного
периода. Будущие исследования будут
проводиться в сотрудничестве с
соответствующими организациями, а
также с Агентством по делам
努め、国立近現代建築資料館と情報を共有している。
以上のように、近現代建造物の調査は、戦後の歴史的建造物へと拡大しつ
つある。今後の調査も文化庁だけでなく関連組織が協力して進めていくこと
となるだろう。

культуры.
学界展望

図5
160

140

120

100

0
80

60

40

20
一方、今後、調査の進展によって指定・登録が進めば、現代の建造物が文
化財に対する修理や管理活用の課題が新たに浮上してくる。
前節では近現代建造物の現状の課題を報告したが、課題への取り組みは文 参考文献
化庁だけでなく、関連機関と協力してあたることが望ましい。たとえば保存 石田真哉[二〇一三]「近代化遺産総合調査と近代建築総覧掲載建造物の比
科学の分野では、東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究 較・分析 煉瓦建造物の保存・活用に関する研究-五」
『学術講演梗概集
室が、構造材料ごとに個別の修理について事例調査を進め、これまでに煉瓦 (建築歴史・意匠)
』、一般社団法人日本建築学会、六五九~六六〇頁
造建造物と鉄構造物に関する報告(独立行政法人 東京文化財研究所 保存科 磯達夫[二〇一七]
「モダニズム建築の保存」
『月刊文化財』、六四四号、三
学研究センター 近代文化遺産研究室編[二〇一八―一]および[二〇一八 二~三三頁
― 二 ]) を 刊 行 し て い る。 そ し て 人 材 育 成 に つ い て は、 奈 良 文 化 財 研 究 所 伊原恵二[一九九〇]
「古建築の修理周期」『普請研究』、三二号、二~一七
が、平成三〇年に地方公共団体等の文化財担当職員に向けて行っている文化 頁
財担当者研修の中に、新たに「近現代建築保存活用課程」を加え、近現代建 大河裕司[二〇一八]
「現場レポート 愛知県 重要文化財名古屋市東山植
築の保存方法および活用方法について、制度、修理、耐震対策、管理、活用 物園温室前館 鉄骨補修について」
『文建協通信』、二〇一八・四、六二~
Что касается фактического ремонта, то не только

сохранения культурных ценностей и зданий и


Ассоциация планирования культурных ценностей Inc.,
имеющие главных инженеров и большой опыт в
ремонте современных зданий, но и общие
архитектурные проектные бюро и консультанты по
гражданскому строительству все активнее участвуют в
ремонте исторических современных зданий, используя
такие организации, как Ассоциация технологий

等の面から講義を行 っ た 。 六八頁
実際の修理についても、公益財団法人文化財建造物保存技術協会や株式会 河川局砂防部保全課[二〇〇三]
「行政最前線 歴史的砂防施設の適切な保

- 52 -
社文化財計画協会のような主任技術者を有し、近現代建造物の修理実績を多 存・活用に向けて:歴史的砂防施設の保存活用ガイドラインの策定」『国
для этого самые разные возможности.

く 持 つ 団 体 だ け で な く、 一 般 の 建 築 設 計 事 務 所 や 土 木 コ ン サ ル タ ン ト も、 土交通』、国土交通省大臣官房広報課編、三一号、四二~四三頁
様々な機会を通じて歴史的な近現代建造物の修理に関わる機会が増えてい 加藤秀俊 他[一九九四]「時代の変化に対応した文化財保護施策の改善充実
る。大規模な商業建築から橋梁まで、種別が多様化する近現代建造物の修理 について(文化財保護の新しい展開〈特集〉
)」『文部時報』、一四一五号、
においては、分野に秀でた専門家の参画が必要である。しかし一方で、彼ら 文部省編、八~一七頁
に従来の文化財修理の基本的な考え方を理解してもらう必要もあり、従来の 亀井伸雄[一九九七]
「小講座 近代化遺産」
『農業土木学会誌』、六五巻一
Ремонт современных зданий самых разных типов
- от крупных коммерческих зданий до мостов -
требует участия специалистов, достигших
высоких результатов в своей области. В то же

основные концепции традиционного ремонта

возможности для обмена мнениями между


традиционными главными инженерами и новыми
экспертами по поводу идеальной формы ремонта
культурного наследия, и необходимо создать
время необходимо, чтобы они понимали

主任技術者と新たな担い手として参画する専門家の間で、近現代建造物の修 一号、六一頁
理の在り方について意見を交わす機会をつくっていく必要があると思ってい 北河大次郎[二〇〇一]「文化をどう考えるか:橋梁分野を例として(特集
る。 橋を守る技術と人 古い橋を守る)
」『橋梁と基礎』、四一六号、一六~二〇
современных зданий.

近現代建造物の保護をめぐる課題は多々あるが、調査・修理・活用に取り 頁
組む各組織と人材が緩やかにネットワークをつくりながら課題の解決に臨め 北河大次郎[二〇〇六]
「土木遺産の新時代―求められる新たな地域づくり
ればと考えている。 と維持管理(特集 近代土木遺産を活かす)」
『土木施工』、六〇九号、一〇
~一四頁
北河大次郎[二〇〇八]「ミニ特集 土木遺産保全の実務的課題と方策 通常 斎 藤 英 俊[ 一 九 九 七 ]
「 文 化 財 登 録 制 度 導 入 の 意 義( 特 集 広 が り 変 化 す る
の維持管理と何が違うのか」『土木学会誌』
、九三号、三二頁 「保存」の世界:制度からみた保存)
」『建築雑誌』、一一二号(通号一四〇
北河大次郎[二〇一五]「文化財としての橋梁:その管理と活用(特集二〇 〇)
、二六~二七頁
二〇年の橋梁:文化としての橋梁)」『橋梁と基礎』、五八四号、六八~七 志村直愛[一九九三]「近代化遺産総合調査報告書二編」
『建築雑誌』
、一〇
二頁 八号(通号一三四一)
、八一頁
国土交通省河川局砂防部保全課、文化庁文化財部建造物[二〇〇三]『歴史 下間久美子[二〇一四]
「 重 要 文 化 財( 建 造 物 ) 保 存 活 用 計 画 の 策 定 に つ い
的砂防施設の保存 活 用 ガ イ ド ラ イ ン 』 て」
『月刊文化財』
、六〇七号、文化庁文化財部監修、三八~四五頁
後藤治[一九九四]「身近にある文化財―守るから活かすへ」『文化庁月報』 武内正和[二〇一五]「登録有形文化財(建造物)一万件の軌跡と展望」『月
三〇四号、文化庁 編 、 四 ~ 六 頁 刊文化財』、六一九号、文化庁文化財部監修、四~五頁
後藤治[一九九七]「文化財登録制度の導入と土木遺産の保存 ・ 活用」『国 独立行政法人 東京文化財研究所 保存科学研究センター 近代文化遺産研究
づくりと研修』、七六号、全国建設研修センター、二九~三三頁 室編[二〇一八―一]「煉瓦造建造物の保存と修復」
『未来につなぐ人類の
後藤治[一九九八]「特集 文化財建造物の登録制度一 論説 文化財登録制 技 Conservation of Industrial Heritage
一七』

- 53 -
度について」『教育愛知』、五四六号、愛知県教育委員会編、六~九頁 独立行政法人 東京文化財研究所 保存科学研究センター 近代文化遺産研究
後藤治[二〇〇〇]「近代の文化遺産の保存・活用とこれからの文化財保護 室 編[ 二 〇 一 八 ― 二 ]「鉄構造物の保存と修復」
『未来につなぐ人類の技
(特集 文化財保護法五〇周年)」『月刊文化財』
、四四五号、文化庁文化財 一八』
Conservation of Industrial Heritage
部監修、三八~四 四 頁 藤岡洋保[一九九四] 「近代和風建築研究の意義と方法」『文化庁月報』
、三
後 藤 治[ 二 〇 一 五 ]「 登 録 有 形 文 化 財( 建 造 物 ) の 課 題 と 展 望 」
『月刊文化 〇四号、一九~二一頁
財』、六一九号、文化庁文化財部監修、六~九頁 文化庁建造物課[一九九四―一]「近代化遺産(建造物等)総合調査―その
小松幸夫、島津護[二〇〇三]「竣工記録に基づいた事務所建物の寿命調査」 実務上の問題点」
『文化庁月報』、三〇四号、一〇~一一頁
『日本建築学会計画系論文集』、第五六五号、三一七~三二二頁 文化庁建造物課[一九九四―二]「近代和風建築総合調査―その実務上の問
斎藤英俊[一九九一]「近代化遺産の調査と保存(建築界の動向)」『建築雑 題点」『文化庁月報』、三〇四号、一二~一三頁
誌 建築年報』、三二頁 文 化 庁 建 造 物 課[ 一 九 九 四 ― 三 ]「 調 査 の 概 要 と ポ イ ン ト・ 保 護 の 考 え 方 」
斎藤英俊[一九九二]「文化財保護法による建造物保存の制度(建築保存の 『文化庁月報』
、三〇四号、七~九頁
学界展望

新しい姿を求めて:文化財専門職と文化財制度)
」『建築雑誌 日本建築学 文化庁文化財部建造物課[二〇〇四]「公共建築物の保存・活用ガイドライ
会大会』、一二一頁 ン に つ い て( 特 集 文 化 財 建 造 物 を 地 域 の 顔 に )
」『 文 化 庁 月 報 』、四二五
号、一二~一五頁 註
文 化 庁 文 化 財 保 護 部 建 造 物 課[ 一 九 九 六 ]
「近代の文化遺産の保存と活用に (一)
昭和五二年六月七日の読売新聞には、「古典ビルの保存・解体論争 難
ついて(建造物分科会関係)」『月刊文化財』
、三八八号、文化庁文化財部 題 生きている文化財 経済効率超える価値論を」という見出しととも
監修、三八~四二 頁 に、東京駅解体発言に触発されて、
「近代建築保存対策に関する研究調
文 化 庁 文 化 財 保 護 部 伝 統 文 化 課[ 一 九 九 三 ]
「時代の変化に対応した文化財 査会」が六月中旬に発足することが報道された。そして、生きている建
保 護 施 策 の 改 善 充 実 に つ い て( 要 旨 )
」『月刊文化財』、三六〇号、文化庁 築をどう保存するか、所有者側と利害は正面衝突することを述べ、その
文化財部監修、三 八 ~ 四 四 頁 対策として、
「フランスで実施されている「登録文化財制度」の新設を
細野透[一九八二]「レンガ造建築を鉄骨で補強 保存工学に新ボキャブラ 検討する方針。」と報じている
リー加わる」『日経アーキテクチャー』
、三月一五日号、五二~五七頁 (二)昭和五二年六月七日 近代建築保存対策に関する研究調査について(要
堀田典裕[二〇一六]「日本近現代建築史」
『建築史学』
、六六号、一〇八~ 項)による
一二二頁 (三)一九六九年改訂版第三回『建築雑誌』昭和四五年一月号
光永健男[二〇〇四]「土木構造物の登録有形文化財『歴史的砂防施設の保 (四)たとえば昭和四四年には、北海道庁旧本庁舎、慶応義塾図書館、旧帝国

- 54 -
存活用ガイドライン』について(特集 登録有形文化財建造物 八年の軌跡 京都博物館、北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場、
と今後の展望)」、『月刊文化財』、四九二号、文化庁文化財部監修、二六~ 旧第五高等中学校など、一六件二九棟の近代建築が重要文化財として指
二九頁 定されている。
村松貞次郎[一九七八]「近代建築の保存―その調査と当面の問題点(文化 (五)村松貞次郎[一九七八]による
財の保護〈特集〉)」『文部時報』、文部省編、通号一二一六、四〇~四七頁 (六)細野透[一九八二]による。
森嶋俊行[二〇一四]「近代化産業遺産の保存と活用に関する政策的対応の (七)斎藤英俊[一九九一]による。石田真哉[二〇一三]では、総覧と東北
比較 」『 』、九巻二号、一〇二~一一七頁
E-journal GEO と関東地方の近代化遺産総合調査の両掲載建造物を調査しており、両掲
( Agency for Cultural Affairs
ACA ) NEWS
[一九九八]「全国近代化遺産 載の建造物が非常に少ないことから、総覧に掲載された建造物のうち、
活用連絡協議会、発足」『文化庁月報』 、三五六号、四一頁 何件かが解体されてしまった可能性が高いことを示唆している。
[二〇一七]笹子事故五年 インフラは安全になったの
NHK NEWS WEB (八)亀井伸雄[一九九七]によると、最初の秋田県と群馬県では、市町村教
か? : //www2.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_1204.html?
https 育委員会などの協力により、およそ千数百件の一次調査リストが作成さ
(二〇一七年一二月四日
utm_int=tokushu-web_contents_list-items_243 れ、その中から一二〇件程度の主要な物件について調査員が詳細調査を
更新) 行い、報告書を刊行した。
な お、 斎 藤 英 俊[ 一 九 九 一 ] に よ る と、 近 代 化 遺 産 総 合 調 査 で は、 建築物、土木建造物及びその他の工作物のうち、次の各号の一に該
「トンネルや軌道敷、炭鉱の坑口、炭住、破損して放棄されている機械 当し、かつ、各時代又は類型の典型となるもの
や車両、といったものまでが保存の価値がある文化財であるとする認識 (一)意匠的に優秀なもの
を一般にひろめる」ことと、「この分野での研究者が育成される」効果 (二)技術的に優秀なもの
が期待されてい た 。 (三)歴史的価値の高いもの
(九)森嶋俊行[二〇一四]によると、各都道府県における近代化遺産総合調 (四)学術的価値の高いもの
査でリストアッ プ さ れ た 総 数 三 六 、
一三八棟のうち、産業九、五六一、交 (五)流派的又は地方的特色において顕著なもの
通一〇、六四二、土木三、二七四棟とされており、近代化遺産の成果のう 国宝
ち、約六五%が産業・交通・土木に関する遺産であったことがわかる。 重要文化財のうち極めて優秀で、かつ、文化史的意義の特に深いも
(一〇)
藤岡洋保[一九 九 四 ] に よ る 。 の
(一一)
文化庁文化財保護部伝統文化課[一九九三]による。 (一
四)森 嶋 俊 行[ 二 〇 一 四 ] に 掲 載 さ れ た「 都 道 府 県 別・ 類 型 別 の 近 代 化 遺
(一二)
文化庁文化財保護部建造物課[一九九六]によると、本報告では、
「一. 産」によると、各都道府県の近代化遺産総合調査報告書に掲載された総

- 55 -
近代の建造物の保護の在り方に関する検討の視点」として、土木構造物 数は三六、一三八棟(北海道、青森県、千葉県、東京都、奈良県、福岡
や昭和期の建造物についての指定が進んでいないため、重要文化財指定 県、宮崎県、沖縄県を除く)である。
の対象とすべき時代範囲及び対象とすべき建造物の範囲等について再検 (一五) ACA
( Agency for Cultural Affairs
) NEWS
[一九九八]による。
討する必要があること、「二.近代の建造物の保護の指針」として、
「建 (一六)下間久美子[二〇一四]による。この中では、文化財的価値および周囲
設後五〇年の経過」とすることが適当、ただし緊急を要するものについ の景観や環境との一体性に配慮しながら、適切な活用を図る必要が示さ
ては、保護措置をとることができるようにする必要があること、そして れた。また、所有者等が活用に積極的に対応できるよう、①現状変更や
「三.近代の建造物の保存と活用の在り方」として、
「安全性の確保」
、 保存に影響を及ぼす行為等の公的な規制の在り方の再検討、②活用計画
「 利 便 性 の 確 保 」 が 必 要。 建 築 に つ い て は 建 築 基 準 法 の 適 用 が 除 外 さ れ の必要、③活用事例の評価と工法、の三つを施策として進めるべきとの
て い る が、 建 築 基 準 法 の 考 え 方 に 留 意 す る こ と な ど が、 報 告 さ れ て い 指摘がなされている。
る。 (一
七)河川局砂防部保全課[二〇〇三]
、光永健男[二〇〇四]による。
(一三)
平成八年の「重要文化財指定基準(建造物の部)の改正」により、
「国 (一
八)北河大次郎[二〇〇六]は、この課題について「基本的な問題は理念と
学界展望

宝・重要文化財(建造物)指定基準」は下記のように改正された。 実務の乖離にあると思う。つまり、土木遺産の重要性や国土づくりの理
重要文化財 念など、大きな傾向や方針は打ち出せても、それを具体化するための手
法や技術の調査研究・開発、人材育成などの実務的対応はほとんど行わ 事において主に設計及び工事監理を行うため、
「重要文化財建造物修理
れていない。そのため理念は理解しても、現場の技術者は何をすればよ 工事主任技術者承認基準」(昭和四七年九月二六日 庁保建第一四六号、
いのか具体的な展望を掴みかねているというのが現状だろう。
」と指摘 平成二四年八月二九日改正)に基づき承認された技術者。
している。 (二
二)大河裕司[二〇一八]によると、平成二六年度より進められている保存
(一九)
茨城新聞二〇一八年一一月一日号「牛久シャトー 飲食、物販事業撤退 修理工事では、破損した主要鉄鋼構造物の修理が進められている。腐食
へ 「業績悪化 」 で 来 月 一 八 日 」 した鋼材の修理方法は各部位で異なるが、溶接作業は、鋼材同士を一旦
(二〇)
たとえば重要文化財旧魚梁瀬森林鉄道の構成要素である犬吠橋は、平成 仮止めした上で、隙間に溶接棒を溶かし込む。一回では所定の性能が得
二八年九月、橋の中ほどの路面が一五メートル余りにわたって、大きく られないため、三~四回かけて溶かし込みの作業を行う。溶接作業後に
陥没しているのが見つかった。橋を支える鋼の部材の四か所が破断した UT検査を実施するが、これで所定の性能が得られないと、再び溶接箇
のが原因だった。この橋は、路面が陥没するおよそ半年前に、県が点検 所を切断しなければならず大変な手間となる。しかし取替箇所を機械式
を行って「早期に補修が必要」と評価し、補修に向けた準備を進めてい の継ぎ手としてしまうと、全溶接で建設することとした当初設計思想に
た。県は、腐食などの老朽化した橋に、想定を超える重さの荷物を積ん は馴染まず、当初の工法が大きく変わることとなる。このような背景か

- 56 -
だ車両が通ったことで、部材が破断し陥没が発生したと観ている。犬吠 ら、溶接による修理手法がとられている。
橋は、平成三〇年度より調査工事に着手し、破損した橋梁をどのように (二
三)磯達雄[二〇一七]による。
修理するか、検討を進めている。 NHK NEWS WEB
[二〇一七]参照。 (二
四)小松幸夫、島津護[二〇〇三]による。
(二一)文化財建造物の修理に関する十分な知識及び技術等を有し、その修理工 (いかわ ひろふみ 文化庁文化資源活用課近現代建造物部門)
〈資料〉 図られてきた神社仏閣等と比べて多様な種別から る。このため、文化庁では平成 年度から平成

28

29
近現代建造物の保存と活用の在り方(報告) なり、大規模なものも多い。また公共施設、企業 年度にかけて、
「近現代建造物の保存と活用の在
(平成三〇年七月二四日) 等が所有する稼働資産が多いことも特徴の一つで り方に関する協力者会議」を設置し、重要文化財


あり、修理や改修を繰り返しながら現代社会の中 である近現代建造物の今後の保存と活用の方向性
近現代建造物の保存と活用の在り方について で活用されている。更に、煉瓦造、鉄骨造、鉄筋 に関して調査研究を進めてきた。この度、本協力
(一)
近年、文化庁では近現代建造物を重要文化財と コンクリート造、あるいは混構造など、伝統的な 者会議の検討結果を取りまとめたので、ここに報
して指定し、その保護を積極的に進めてきた。近 木造建造物とは異なる工法、材料が用いられ、文 告する。
現代建造物は、これまで重要文化財として保護が 化財の修理を進める上で様々な課題に直面してい
これまでの取組と本協力者会議で検討した課 て「重要文化財(建造物)保存活用計画の策定に ・近現代建造物の修理の担い手確保
1

題 ついて(通知)
」(平成 年 月 日 庁保建第1 ・現行の工事執行制度における課題と対策
11

24
3

文化庁は、平成 年 月に文化財保護審議会文 64号 文化庁文化財保護部長通知)で「重要文


6
7

化財保護企画特別委員会による「時代の変化に対 化財(建造物)保存活用計画策定指針」を示し、 近現代建造物における保存と活用の考え方

2
応した文化財保護施策の改善充実について」
、ま いわゆる稼働資産や公有化された近現代建造物を ( )文化財の保存・活用の必要性と文化財的価

1
た近代の文化遺産の保存・活用に関する調査研究 中心に保存活用計画の策定が進められてきた。 値の維持
協力者会議による「近代の文化遺産の保存と活用 近現代建造物の重要文化財(建造物)指定や登 現在も社会の中で活用されている近現代建造物
について(建造物分科会報告)(平成 年 月 録有形文化財(建造物)の増加に伴い、徐々に修 は、経年による劣化や破損に対する継続的な維持
10

16
7

日)」の報告を受けて、文化財保護の今後の在り 理事業が増えてきている。こうした具体的な修理 管理や定期的な補修が必要であり、補修の際には


(二)
方について多面的に検討してきた。この結果、文 事業を通じて、解体修理が可能な木造建造物とは 常に機能性・快適性・安全性の見直しが求められ
化財保護の対象や保護措置の拡大を図り、近代化 異なり、煉瓦、石、鉄、コンクリートといった材 る。また、近現代建造物は機能が短期間で変わる
遺産等の指定を積極的に進めるとともに、建造物 料を用いた建造物修理の課題が明らかとなり、そ ことがあり、異なる用途へ転換されながら使い続
分野で先行して活用しながら保存していく登録文 の基本的な考え方等の見直しが求められている。 ける場合も見られる。この場合、文化財の特性に

- 57 -
化財制度を導入した。それから約 年が経過し、 現役の建造物は、機能維持のために修理や機器等 対する理解が不十分なまま改修が行われると、文
20

近代の重要文化財(建造物)の指定件数は343 の更新が求められ、また、新しい機能に転用され 化財の価値を著しく低下させるだけでなく、建造


件965棟、登録有形文化財(建造物)の登録件 た建造物では、活用のための改修が必要となる。 物自体の利用価値や使用頻度を低下させてしまう
数は11、886件に達している(平成 年 月 その中で特に公共施設や不特定多数の人が利用す 可能性もある。更に使い続けていく上で構造的に
30

3
日時点)。 る施設には、高い安全性が求められる。以上のよ 無理を生じさせてしまい、長期的には建造物とし
9

また、平成 年には「重要文化財(建造物)の うに、文化財の価値を継承していくためには、可 て残すこと自体が難しくなる。


7

活用指針に関する調査研究協力者会議」を設置 能な限り保存するという文化財修理の基本的な考 ま た、 土 木 構 造 物 は 社 会 基 盤 施 設 と し て 供 用
し、翌 年に「重要文化財(建造物)の活用に対 え方を維持しつつ、活用のための改修をどの程度 (保存・活用)していくために、毀損してから補
8

する基本的な考え方(報告)」をまとめた。この まで許容できるかといった考え方が求められてい 修するのではなく、事前に劣化することを想定し


報告では、所有者等による自主的な保存と活用が る。 て予防保全計画を策定し、この計画に基づいて維
(三)
円滑に促進されるように、文化財の価値を損なう 本協力者会議では、こうした現状を踏まえ、近 持することが求められる。更に建築物における建
ことがないよう考慮しながら、活用の基本方針、 現代建造物の保存と活用の在り方を示すため、課 築基準法のように、土木構造物は関連法規に適用
学界展望

活用にかかわる問題点、その解決策等を定めた保 題である以下の点について検討した。 除外や緩和制度がなく、建設当初の条件下で供用


存活用計画の策定が提案された。この提案を受け ・近現代建造物における保存と活用の考え方 を続ける場合は、社会基盤施設としての性能を維
持するために、現行の法令や技術基準等に適合さ ( )近現代建造物の修理、活用のため整備する 修が繰り返され、意識せずに修理や改修を続けれ
2

せる改修が適宜求め ら れ る 。 際に考慮すべき点 ば、 建 設 当 初 の 内 外 装 材 が 失 わ れ る 可 能 性 が 高
一般的に文化財の保存・活用の考え方は、文化 近現代建造物は、煉瓦、石、鉄、コンクリート い。 こ の た め、 躯 体 部 分 と 仕 上 げ 部 分 と を 分 け
財の価値が社会により広く理解され、良好な状態 といった材料を用い、一体的な躯体を形づくると て、それぞれ修理の在り方を考える必要がある。
で活用が続けられることが適切な保存につながる ころに特徴がある。それゆえ、木造のように部分 一方、土木構造物は、構造躯体を残すだけでは
のであり、保存と活用を一体に捉えている。しか 的に解体して、傷んだ部材を補修した後、再び組 なく、施設としての機能を維持することが重要で
しながら、近現代建造物の改修工事は、神社仏閣 み 立 て る こ と は 難 し く、 解 体 を 伴 う 修 理 や 改 修 ある。河川、港湾、ダム、橋梁、鉄道施設といっ
等のこれまでの文化財建造物と比較して、使い続 は、文化財の価値を保持する上で必ずしも適当と た大規模な社会基盤施設は、システムとして広範
けるための新しい機能が付加されることにより、 はいえない。例えば、煉瓦造やコンクリート造の 囲に分布し、個々の施設も大規模なものが多い。
改修部分の占める割合が大きくなる傾向にある。 建 造 物 を 解 体 し て、 分 解 し た 材 料 を 再 利 用 し て その機能を維持していくためには周辺環境も含め
このため、あらかじめ文化財の価値の所在を明ら も、材料自体は残るが、建設当初の工法の一部は て保存・活用の在り方を考えていかなければなら
(四)
かにして関係者等で共有しておかなければ、維持 損なわれる。また、継続的に供用されている近現 ない。また供用下にあるものは、従来の工法だけ
管理行為、修繕又は改修を行う際に、文化財の保 代建造物は、一般的には設備機器の更新が定期的 でその機能を維持していくことが難しい場合、新

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存・活用という名のもと、所有者、事業者等が意 に行われ、その際には機械の搬入や据付けのため しい工法を追加していく必要がある。更に建設当
図せずに文化財の価値を大きく損なう危険性が高 の改修を伴う。そうした設備の更新や、それに伴 初の機能が失われている場合には、新しい機能を
い。そこで近現代建造物については、指定に先立 う改修を計画するに当たり、その時点での工事内 与えて新たな施設として再生し、施設自体の機能
ち、所有者等による自主的な保存・活用が円滑に 容を検討するだけでなく、建設当初の記録などを が停止している場合は公開施設として再生するな
進められるように、文化庁と所有者等とが文化財 基に現状と比較し、更には将来の改修の可能性も ど、新たな役割を検討し、文化財の価値を示して
の価値の所在を共有し、所有者等が主体的に活用 含めて、長期的かつ全体的に計画することが重要 いくことが必要である。以上のことから、土木構
のための計画をあらかじめ策定できるよう、将来 である。そのほか、建設材料には工業製品が用い 造物の修理、活用のための改修を計画する上で、
的な改修の可能性なども共有しておくことが大切 られるようになっているが、その更新に同一の材 構造躯体自身の保存と機能の維持という両側面の
である。また指定後、現状に変更を加えるような 料や製品を確保することが難しく、類似の新しい バランスを見据えて検討していく必要がある。
大規模な改修をする際には、改めてその事業の必 工業製品を使わざるを得ないといった課題も見ら 近現代建造物における修理や改修の考え方を広
要性や効果、工事の仕様等について協議し、より れる。 く周知していくことも、保存と活用を推進するこ
良い改修が速やかに行われるよう、関係機関と協 また、近現代建築物の特徴の一つとして、多種 とにつながる。しかし、修理や活用のための改修
議できるような連絡 体 制 が 重 要 で あ る 。 多様な内外装材が採用されることが挙げられる。 事 例 は、 ま だ 十 分 に 蓄 積 さ れ て い る と は 言 え な
これらの内外装材は耐久性が低く、模様替えや改 い。このため、修理や改修を行う際、早期の段階
で幅広い分野の専門家からの意見を聞き、計画を ( )近現代建造物の「保存活用計画」の在り方 あるいは保存に影響を及ぼす行為で影響が軽微で
3

策定していくことが 必 要 で あ る 。 近現代建造物を使い続けることは、その建造物 あるか否かといったことを整理し、その手続をわ


ま た、 近 現 代 建 造 物 の 保 存 ・ 活 用 を 考 え る 上 本来の価値を顕在化させることであり、更に人々 かりやすく示しておくことが重要である。更に文
で、所有者等の文化財に対する理解、協力が不可 の文化財への理解を広げることにつながる。また 化財として配慮すべき事項をあらかじめ明確に示
欠であることを忘れてはならない。一般的に文化 近現代建造物の管理は文化財として特別なことで し、関係者等で共有すれば、活用のために必要な
財は指定されることで公共性が増し、所有者等に はなく、日常の管理の延長線上にあることを所有 改修を管理行為としてとらえることも可能であ
は国民共通の財産を管理する責務が課せられる。 者や管理者に認識してもらうのが重要である。な る。この結果、所有者等による様々な活用の企画
つまり近現代建造物の所有者等は、所有する建造 ぜなら、こうした基本的な考え方が共有されるこ が誘導されることを期待できる。
物が文化財に指定されたことで、法令等に則って とにより、自主的な保存と活用を促すことにつな 特に、稼働している土木構造物では、保存すべ
安全性確保、利便性向上に努めるだけでなく、国 がるからである。それゆえ文化財の保存・活用に き部分と改変が許容できる範囲等を明確化し、そ
民共有の財産である文化財を管理するという、新 留意すべき点等、基本的な考え方を定めた「保存 の手続等を定めた「保存活用計画」を策定するこ
(五)
たな責務を担うことになる。近現代建造物は現行 活用計画」を策定し、関係者間で共有しておくこ とが、所有者等の負担の軽減につながるという点
の法令等に適合させるため、あるいは社会の要請 とが重要である。 からも望ましい。土木構造物は、それぞれが機能

- 59 -
に応じて、大規模な改修が行われることが想定さ 近 現 代 建 造 物 の「 保 存 活 用 計 画 」 の 策 定 に 当 を有する多数の施設から構成される大規模なもの
れる。改修によりやむなく文化財の一部を取り外 たっては、まず客観的・学術的観点から文化財の が多く、鉄道施設、水利施設、港湾施設、炭鉱施
す場合、取り外された部分又は部位は、将来、復 価値を明らかにする。その上で、従来実施してき 設、製鉄施設などの施設で、事故が発生すれば社
原が可能なように記録をとった上で、可能な限り た維持管理の行為や建造物としての機能を維持す 会的に多大な影響を与えるため、より高い安全性
そ の「 も の 」 を 保 存 す る こ と が 望 ま れ る。 し か るために必要な行為等を整理し、文化財の価値に が要求される。また安全管理の知識、経験を有す
し、取り外された部分、部位が大規模な場合、そ 配慮する部分と活用のために改修が見込まれる部 る作業者のみが立ち入ることを想定している施設
の保管はたとえ一部であっても所有者等にとって 分を設定する基準を決め、これらの方針、基準な は、 一 般 の 人 が 利 用 す る こ と を 考 え て い な い た
(六)
大きな負担となるので、所有者等の十分な理解、 どを「保存活用計画」にまとめる。この計画の中 め、もし文化財の公開で一般の人の立入りを許容
協力が必要不可欠である。また、民間の法人が所 では、原則として保存する部分、活用に資するた した場合、想定以上の安全性が求められる。こう
有している大規模な近現代建造物は、文化財とし めに改変が許容される部分、及びその際の改修の した特性に鑑み、稼働している土木構造物は、一
ての管理だけではなく、不動産資産として管理し 考え方等を可能な限り明らかにする。そして、通 般公開にとらわれず、機能や用途が維持されてい
ているという点を尊重しなければ、長期的に文化 常の管理行為や活用のための改修が行われる場 ることが主たる活用であるということを明確に
学界展望

財を守ることはできないということを認識してお 合、それが文化庁の許可を要する行為か、維持の し、文化財の価値を伝えるような方策を検討する


(七)
く必要がある。 措置の範囲として許可を要しない行為であるか、 ことも必要である。また、施設が広域にまたがる
(一〇)
場合は周辺の影響を受けることが大きく、周辺で 理主任技術者(以下、「主任技術者」と略記する。
) 今後も引き続き、その価値を理解する人材が実務
行われる行為によっては文化財の保存に影響を及 の育成は、これまで伝統的な木造の文化財建造物 に関与することが必要である。近現代建造物に係
ぼす可能性もある。こうした保存に影響を及ぼす の修理に対する幅広い知識と高い技術を有するこ る担い手を育成していくには、伝統木造の文化財
行為などもあらかじめ想定しておくことが重要で とを目指してきた。その延長として、近代までの 修理以外の実務経験も配慮して、特定の分野ごと
ある。 建造物の修理にも対応できる人材を輩出してき に承認することが考えられる。更に、認証された
(一一)
このように稼働資産である土木構造物の「保存 た。しかし、近現代建造物の修理が本格化し、コ 実務者がそれぞれの特性を生かして事業に関わる
活用計画」を定めることは、適切な保存活用に必 ンクリート造などの建造物を文化財として修理す 仕組みを考えることも必要である。
須といえるが、現時点ではそれほど多く定められ る中で、伝統的な文化財修理の考え方が適合しな また、近現代建造物の修理事業では、施設の活
(一二)
ていない。また、策定には専門性の高い判断が求 い事態が生じてきた。また、管理や活用を考慮す 用を企画段階から修理後の維持管理まで、広い範
められるから、今後、事前に関係する分野の専門 ると、エレベーターや空調等の設備機器、あるい 囲で検討を行うことが重要である。そのため、従
家などからの助言を得るなどして、より実効性の は耐震補強を設置する際など、近現代建造物では 来の主任技術者だけでなく事業に関わる役割毎、
ある「保存活用計画」を策定することが望ましい。 修理に加えて新たな機能を加える改修も必要とな 例えば事業全体を総括的に指揮する事業の運営
本来、近現代建造物の「保存活用計画」は、所 る。新たな技術や機能を追加する際に可変性や可 者、施設を管理運営する立場から事業に対して意

- 60 -
有者等の理解を得るためにも、文化財指定前に策 逆性といった考え方を採用すると、外観、内観と 見する所有者や管理者等、様々な立場の人間が事
定しておくことが理想といえる。しかし、事前に も、意匠的に及ぼす影響が多く、文化財の価値と 業の一翼を担うことになる。そして実際の工事で
策定することは所有者等への負担にもなるから、 その見え方に対するきめ細やかな配慮が求められ は、職人や施工管理者なども重要な役割を担い、
指定後の早い段階で、所有者等の要望などを取り る。 つ ま り、 近 現 代 建 造 物 を 修 理 す る 担 い 手 に こうした人々の育成も必要と考える。
入れた上で、中長期的な課題を検討しながら策定 は、従来の文化財修理に対する知識やコンクリー
(八)
することが望ましい 。 トなどの近現代建造物に特有の材料を保存するた ( )担い手の育成と裾野を広げた講習会

2
最後に「保存活用計画」については固定的にな めの知識に加え、文化財の価値を理解した上で新 これまでの文化財修理では、文化財の価値を守
らず、文化財を取り巻く環境自体も変わるもので しい技術や機能の意匠に配慮が求められる。しか るため、解体する範囲を最小限とし、可逆性に配
あることから、将来にわたり、適宜、見直してい し、いずれの職能においても、主任技術者が新た 慮しながら新しい技術や機能を追加し、本来の材
(九)
くことが必要といえ る 。 にこれらの全てを習得することは容易ではない。 料、工法、意匠を極力保存するよう努めてきた。
一方で、主任技術者は、近現代建造物の修理事 また、解体しながら、調査に基づく復原考察を行
近現代建造物を修理する担い手の確保 業を実施する際、文化財を扱う上での文化財修理 い、総合的な価値を判断しながら工事を実施して
3
( )これからの担 い 手 に 求 め ら れ る 技 能 の基本的な考え方に基づき、施工するよう努めて きた。そして工事完了時には報告書を作成し、工
1
文化財修理の担い手である文化財建造物保存修 きた。文化財の価値を適切に保護するためには、 事の内容だけでなく、修理により明らかとなった
価値と、それを残すための検討を記録し、建造物 つくることである。また、独立行政法人や公益性 体をはじめとする近現代建造物の所有者や修理の
と同時にその修理を後世に伝えるように努めてき のある団体が主催する研修会、大学における教育 関係者等が参照できるよう、適切に情報公開を図
た。以上のことは、文化財の価値を守る上で欠か プログラムと連携することなどが可能性として挙 るべきである。なお、文化財としての修理の在り
(一五)
すことができないプロセスであり、近現代建造物 げられる。 方を踏まえた技術開発に対する支援も検討する必
の修理で新たに参画する専門家や技術者にも、で 要がある。
きるだけ具体的に伝えていく必要がある。 ( )修理事例のまとめと情報の公開
3

以上の基本的な考え方を踏まえ、近現代建造物 従来の伝統的な木造の文化財建造物の修理で 現行の工事執行制度における課題と対策

4
の修理に対応する担い手を育成していく上で、以 は、長年にわたる実績から修理方針を定めること 文化財建造物修理において、事業の中心となる
下のような方策が考 え ら れ る 。 ができた。しかし、近現代建造物の修理では、基 主任技術者などの担い手は、あらかじめ実施した
まず主任技術者については、文化庁が主催する 本的な考えを共有する段階に至っているとはいえ 調査結果に基づき、修理方針を立てて設計図書を
主任技術者講習会制度において、講義の内容を検 ず、個別に修理事例を積み上げる段階にある。例 作成する。そして、工事着手後も施工に伴う調査
討するだけでなく、一般的な近現代建造物の設計 えば、コンクリート造の補修事例について、一般 を行い、竣工に至るまで関与し続ける。つまり、
監理経験者が受講できるよう、講習会受講資格を 的な建造物には補修の蓄積が既にあるが、歴史的 建造物の文化財の価値とは、担い手が施工前や施

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見直すことが考えら れ る 。 な鉄筋コンクリート造や鉄骨造については、細部 工中に行われた調査を通じて理解を深め、それを
また、多面的な事業形態や体制が求められる近 や全体のつくり方が現代と技術的に異なるため補 修理や復原に反映することで明らかとなる。しか
現代建造物の修理では、各関係者や事業主体に対 修もそれぞれ異なり、これらの技術についても適 し、公共建築工事の制度などでは、設計者が作成
して、文化財の保存に対する考え方の理解が必要 宜評価し、残していく必要がある。つまり近現代 した設計図書に基づき、施工者が施工し、その中
で あ る。 こ の た め、 従 来 の 設 計 監 理 者 だ け で な 建造物の文化財修理では、その価値を守るため、 で施工に伴う調査は想定されていない。そこで、
く、事業の運営者、所有者、管理者、そして施工 どのような配慮をすべきかを改めて考えなければ 建造物を構成する材料、仕様、工法といった技法
(一三)
者や職人までを対象として、専門分野に応じた文 ならない。 を調べ、それを評価し、施工に反映させる機会を
(一四)
化 財 修 理 の 講 習 会 を 開 催し 、 近 現 代 建 造 物 の 保 こ の た め、 近 現 代 建 造 物 の 修 理 工 事 報 告 書 で 設ける必要がある。工事前の段階で調査が行われ
存・活用に対応できる人材の裾野を広げることを は、修理方針の検討過程から仕様の決定など、そ ることがあるが、こうした事前調査は、解体から
検討することも考えられる。例えば、都道府県の のプロセスを記録しておくことも重要である。そ 組立てに至る施工中の調査と比べると、範囲が限
建築士会が主催するヘリテージマネージャー育成 の 一 方 で、 一 般 建 築 工 事 に み る 補 修 技 術 の 評 価 定的で、精度が低いものとならざるを得ない。
講習会のように、設計監理者だけではなく、施工 や、土木構造物の長寿命化の事例などを参考とし また、土木の分野では、設計と施工が分離し、
学界展望

者や管理者など、対象を広く設定して、文化財に て、修理に関する共通項を徐々に見いだしていく 発注者の管理のもと、設計は外部に委託して、施


関する基礎的な知識を得られるような受講機会を ことが望ましい。これら修理事例は、地方公共団 工は建設会社と請負契約を結んで実施する方式が
一般的である。発注者より設計を受託した設計者 いるか検証する機会が持たれるべきである。 変更等に対する柔軟な対応を求めるべきと
は、申し送り事項を設計の図面に書いて設計図書 いった提言がされている。
を成果品として完結させ、発注者は施工者に設計 今後に向けた取り組み (三)
常願寺川砂防施設(平成 年に指定、平成

21

29
5

図書を渡して工事を発注する。この場合、設計者 今回は、喫緊の課題であった近現代建造物にお 年に追加指定)


(富山県)は、荒廃河川であ
と施工者には直接的な関わりはないため、設計図 ける保存と活用の考え方、近現代建造物を修理す る常願寺川水系を一体的に治める治水施設で
書の図面や仕様書を正確に作成しても、施工時に る担い手の確保、そして現行の工事執行制度にお ある。竣工以来、崩落土砂の浸食などにより
判断する必要が生じた際に、設計者が考え方を施 け る 課 題 と 対 策 に 対 す る 検 討 を 優 先 し た。 今 後 躯体への毀損が継続的に見られ、都度、補修
(一六)
工へ直接反映できな い 可 能 性 が あ る 。 は、保存活用計画策定の進め方・考え方や、担い の手が加えられてきた。そして、防災施設と
そこで、現行の工事執行の仕組みに対して、い 手育成のための教育プログラムの検討、更に保存 しての機能保持と文化財の価値の両立を図る
かに文化財建造物修理に適した調査や専門知識を 技術の支援枠組みづくり等、残された課題につい ため、平成 年に「白岩堰堤砂防施設保存管

25
反映できるか、建設業法による発注・契約・執行 ての検討を引き続き重ねていく。 理計画」が策定された。計画では、災害等に
方法と、文化財修理事業の整合性を検証し、現行 より被害を受けた際の手続等について、適正
の課題を把握した上で、制度面での対策を講じる (一)
本報告書では、「近現代建造物」を明治期か かつ効率的に行うことができるよう示されて

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必要がある。これまでの担い手である主任技術者 ら現代にかけての近代の発展を伝える文化財 いる。また、土木構造物は大きく被害を受け
は、文化財の価値を守るために施工の内容まで踏 である建築物、土木構造物及びその他工作物 た際に復旧するだけではなく、災害を発生さ
み 込 み、 材 料・ 仕 様 ・ 工 法 ・ 意 匠 な ど を 調 査 し と す る。 本 協 力 者 会 議 で は 主 に 煉 瓦、 石、 せないように、定期的に予防的措置を講じる
て、その成果を生かして施工者に指示を行い、一 鉄、 コ ン ク リ ー ト 造 な ど 非 木 造 の 建 造 物 を ことが重要である。近年では、本堤側面の岩
般的な建築工事との違いを明確に示してきた。こ 扱った。 盤の安定化させる工事な工事も進められてい
のような文化財を扱う主任技術者の役割として必 (二「
)近代の文化遺産の保存・活用に関する調査 る。
要 な 事 項 を 具 体 的 に 整 理 し、 現 行 の 一 般 的 な 土 研究協力者会議」では、近年における社会経 (四)
例 え ば 堰 堤( ダ ム ) を 保 護 し よ う と し た 場
木・建築工事において文化財の価値を守る仕組み 済情勢の変化に伴い、大きな課題となってい 合、一般的に構造躯体のみが指定され保護さ
(一七)
を検討するべきであ る 。 る近代の文化遺産の適切な保護を図るため、 れるが、その機能を維持するためには、構造
設計と監理の分離発注が制度上やむを得ない場 その保存と活用の在り方について調査研究を 躯体に接する岩盤等の周辺の環境と一体的に
合でも、発注者の行う監理に対する監理補助など 行い、活用を進める上で、安全性を確保し利 とらえて、保存と活用のための方策を検討し
の業務や発注者・設計者・施工者の三者会議、あ 便性を確保すること、また建造物としての機 ていく必要がある。また上流の水源が確保さ
るいは委員会形式での参画により、調査で得られ 能や用途を維持する場合や、新しく機能や用 れなければ、水や土砂を貯めるという構造物
た知見、設計趣旨・意図が施工に確実に伝わって 途を維持するための改変を行う場合は、現状 としての本来的な機能が失われてしまうとい
うことを配慮し て い く 必 要 が あ る 。 文化財修理では、伝統的な木造の文化財建造 などが考えられる。
(五)
文化庁、文化財建造物が所在する地方公共団 物の修理現場で設計監理に従事した主任技術 (一
五)伝統的な木造の文化財建造物の分野では、公
体、所有者等、文化財に係わる様々な分野の 者が担い手となり、木造の知識を準用しなが 益財団法人文化財建造物保存技術協会が、木
専門家、施設利用者など、当該建造物にかか ら修理に取り組み、知識の足りない部分は専 工技能者向けの研修を行っている例もある。
わる様々な利害 関 係 者 を 想 定 す る 。 門家の助言を受けて実績を積み上げてきた。 (一六)
例えば、漆喰の彫刻を修理する際、復原する
(六「
)保存活用計画」は、結果だけではなく、策 (一二)例えば土蔵の土壁は、自然乾燥により硬化さ ために設計段階で原寸図を描いたとしても、
定する過程を記録しておくことにも意味があ せたもので、材料の一部を再用することは、 立体的な形状を示すことはできないため、製
ることを認識す る 必 要 が あ る 。 伝統的に行われてきた。コンクリートの場合 作の場に立ち会いながら具体的に指示してい
(七「
)平成 年 度 重 要 文 化 財( 建 造 物 ) の 活 用 に でも、土壁同様に材料の一部である骨材を再 る。 ま た、 木 部 の 彫 刻 に 繕 い の 必 要 が あ れ
8

つ い て( 通 知 )」 に お い て は、 機 能 や 用 途 の 用することは技術的に可能である。しかし、 ば、どこまでを除去し、どのような木目の補
維持が活用であると言及されている。 そのためには、生産手段、品質確保、費用な 足材をあて、どれほどに高い技量で正確な彫
(八)近年指定された近現代建造物の中には、指定 ど、多岐にわたる検討が必要である。そのた 刻を施すか、その場で価値を維持するために
後に受けた活用のための改修を含めて評価さ め、この行為を修理として実施すべきか、文 専門的な判断を下している。石、煉瓦、コン

- 63 -
れるものもある 。 化財保存の理念に立ち戻り妥当性を検証しな ク リ ー ト で も、 残 し 方 や 復 原 の 表 現 が 重 要
(九「
)文化財の確実な継承に向けたこれからの時 ければならない。 で、各工種でこうした問題が発生する可能性
代にふさわしい保存と活用の在り方について (一三)伝統的な木造文化財建造物の修理工事では、 がある。
文化審議会企画調査会における第 次答申 大工や左官などの技能者が必要である。そこ (一七)
例えば、現行の土木工事では、建設業法上、
1
(平成 年 月 日)」では、計画の有効な期 で文化財保護法では選定保存技術の制度を定 請負者は、当該工事の技術的事柄を所掌させ
29
12
8

間の考え方について概ね 年程度としてお
10 め、これらの技能者の育成に努め、伝統的な る主任技術者又は監理技術者を置くことが決
り、定期的な見直しを想定している。 修理技術の保存を図っている。近現代建造物 められている。文化財の修理工事では、この
(一〇)文化財建造物の修理に関する十分な知識及び においても、鋼構造物におけるリベット打ち 建 設 業 法 上 の「 主 任 技 術 者 / 監 理 技 術 者 」
技術等を有し、その修理工事において主に設 の技術などが該当し、その育成に配慮するこ と、これまで文化財修理を担ってきた主任技
計及び工事監理を行うため、「重要文化財建 とが考えられる 術者の役割の分担の明確化と、より緊密な連
造物修理工事主任技術者承認基準」
(昭和 (一四)受 講 者 の 幅 を 広 げ る 上 で は、 そ の 受 講 の メ 携が必要である。

8 47
年 月 日 庁 保 建 第 1 4 6 号、 平 成 年 リットについても検討を行うべきである。例
26

24
29 9
学界展望

月 日改正)に基づき承認された技術者。 えば、施設管理者が受講した場合、文化財建
(一一)
1980 年 代 よ り 進 め ら れ た 煉 瓦 造 な ど の 造物の取扱いに関する裁量範囲を広げること

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