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構造工学論文集 Vol.

66A (2020 年 3 月) 土木学会

中央径間長 3000m を有する二箱桁多径間吊橋の

耐風安定性に関する基礎的検討

Wind stability of twin box girder multi-span suspension bridges with 3000-meter center of span length

岩下慎吾† ,中村一史*,平野廣和**,野上邦栄***,村越潤****,石井喜代志*****,平山博******
Shingo Iwashita, Hitoshi Nakamura, Hirokazu Hirano, Kuniei Nogami, Jun Murakoshi, Kiyoshi Ishii,
Hiroshi Hirayama

修(工),首都大学東京大学院都市環境科学研究科都市基盤環境学域博士後期課程

(〒192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1)


*博(工),首都大学東京大学院准教授,都市環境科学研究科都市基盤環境学域(同上)
**工博,中央大学教授,総合政策学部
(〒192-0393 東京都八王子市東中野 742-1)
***工博,首都大学東京大学院客員教授,都市環境科学研究科都市基盤環境学域
(〒192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1)
****博(工),首都大学東京大学院教授,都市環境科学研究科都市基盤環境学域(同上)
*****大日本コンサルタント(株),インフラ技術研究所主任研究員
(〒330-6011 埼玉県さいたま市中央区新都心 11-2 L.A.タワー)
******博(工),大日本コンサルタント(株),インフラ技術研究所所長(同上)

In this study, twin box girder is applied to the super long multi-span suspension
bridges with center span length of 3000-meter to improve the flutter wind speed.
Next, center stay cables and X-type rigid frames are attached to gain higher flutter
wind speed. The flutter wind speed of twin box girder type is improved compared
to that of single box girder type. Furthermore, by analyzing the flutter vibration
characteristics of the bridge and applying appropriate measures, it is possible to
obtain a higher flutter wind speed. It is also found that flutter wind speed does not
depends on number of spans.
Key Words: suspension bridge, multi-span, flutter, X-type frame
キーワード:吊橋,多径間,フラッター,クロスステイ

1. はじめに 海峡の幅が広く,かつ大水深である地点に橋梁を計画
する場合,塔基礎の本数を可能な限り減らすために,超
近年,より経済的な構造形式として,多径間吊橋が実 長大多径間吊橋の適用が考えられる.
用化されている.中国の長江流域には支間長 1000m 級の 著者らは,海峡横断プロジェクト 4)で検討された中央
4 径間吊橋が 3 本供用され 1), 南米チリでも支間長 1155m 支間長 3000m の多径間吊橋の耐風安定性を明らかにす
の Chacao 橋 の基礎工事が始まっている.多径間吊橋の
2)
るため,径間数の違いがフラッター限界風速に及ぼす影
利点は,3 径間吊橋の重連形式に比べ,中間アンカレイ 響を明らかにした 5).その結果,一箱桁形式で設計した
ジが不要となる経済性にある. 対象橋梁は,径間数によらず,風速 51m/sec でフラッタ
また,世界的には吊橋の支間の長大化が継続しており, ーが発現し,国内での実現は困難であることが明らかに
2022 年には明石海峡大橋を超える支間長 2023m の なった.さらに,クロスステイ 6)と呼ばれる耐風安定化
Çanakkale1915 橋(トルコ)3)が完成する予定である. 部材の設置を検討したが, フラッター限界風速は 67m/sec

連絡著者 / Corresponding author となり,明石海峡大橋のフラッター限界風速(78 m/sec)
E-mail: iwashita-shingo1@ed.tmu.ac.jp には及ばず,設計上解決すべき課題として残された.

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35.5
6 000
35.5
1 500 3 000 1 500

63
11.85 11.8 11.85

300

63
4.5
3
3P主塔 4A

63
1A 2P主塔 3径間吊橋 補剛桁 主塔

360
9 000

63
1 500 3 000 3 000 1 500

45 63
1A 2P側塔 3P中間塔 4P側塔 5A
4径間吊橋 50
12 000
1 500 3 000 3 000 3 000 1 500

1A 6A
2P側塔 3P中間塔 5径間吊橋 4P中間塔 5P側塔

図-1 対象橋梁一般図(単位:m)

対象橋梁に対する耐風安定化策として,構造的対策お タワーリンク
(両端ピン剛体)
よび空力的対策の両面からの改善が考えられる. 主ケーブル
既往の検討の構造的対策では,桁高を高くして補剛桁 補剛桁 補剛桁
アンカレイジ
のねじり剛性を向上すると同時に,質量付加によってケ 補剛桁

ーブル張力を増すことが提案されている 7).しかし,こ

のような対策は鋼重が増すため,経済性が犠牲になる. 柱

より経済的な耐風安定化策には斜張吊橋がある 8).吊橋
に斜張橋を組み合わせることで耐風安定性が向上し,さ (a) 橋梁端部 (b) 主塔付近
らに,主ケーブル断面積とアンカレイジの縮小が可能と 図-2 境界条件
なる. 斜張吊橋は,Yavuz Sultan Selim 橋 9)
(支間長 1408m,
トルコ)で架橋されている. 4,5 径間吊橋の試設計を行った.全体系の構造について
一方,空気力学的な面からは,1966 年に,流線型断面 は,基準の静的荷重の条件に対して許容応力度を満たす
の箱桁が Severn 橋 10)(支間長 988m,英国)に適用され, よう設計した.次に,無風時の固有振動モードを用いた
現在最も一般的な補剛桁の形式として普及している.国 連成フラッター解析を行って,試設計された多径間吊橋
内では,1982 年から 1985 年にかけて,明石海峡大橋が の耐風安定性を検討した.また,さらなる耐風安定性の
支間長 1780m の道路鉄道併用橋から 1990m の道路単独 向上を図るため,中央支間中央にセンターステイおよび
橋に変更される際,一箱桁と二箱桁を含む各種形式の補 クロスステイを設置した場合のフラッター限界風速も検
剛桁が検討された 11).最終的に,明石海峡大橋では,経 証した.なお,フラッター限界風速時には,部材の部分
済性や架設上の問題によりトラス形式の補剛桁が採用さ 的な降伏も考えられることから,設計時に用いた風荷重
れた.その後,海峡横断プロジェクトの実現に向け,二 を漸増載荷して,面外方向の耐荷力を検討した.以上の
箱桁形式の検討 12~16)が進められたが,国内では実用化に 検討により,風速 80m/sec を目標として,対象橋梁の実
至っていない. 国外では,舟山西候門大橋 (支間長 1650m, 現性を明らかにする.
中国)が二箱桁形式として実現し,フラッター照査風速
78.4m/sec に対し限界風速は 88.4m/sec となっている 17). 2. 対象橋梁の試設計と耐風安定化策
また, 2022 年には明石海峡大橋を超える支間長 2023m の
Çanakkale1915 橋(トルコ)でも二箱桁形式が採用される 本研究で扱う橋梁は,図-1 に示す 3,4,5 径間吊橋
予定であり,フラッター限界風速 69m/sec を確保してい であり,中央支間長 3000m,側径間長 1500m である.主
る 3). ケーブルのサグ比は,既設橋梁で多用される 1/10 とし,
以上より,本検討では,過年度の吊橋形式の構造を踏 桁下は 50m を確保している.図-2 に示すように,補剛
襲しつつ,より空力特性に優れる二箱桁形式を適用し, 桁は,主塔位置で 2 ヒンジ構造となっており,タワーリ
支間長 3000m 級の多径間吊橋の耐風安定性の向上を試 ンクを介して塔柱に連結される.なお,モデルの簡単化
みた. 本検討では, 国内で検討された二箱桁断面のうち, のため道路の縦断勾配は水平としている.主塔は 6 層ラ
同規模の支間長 2800m で検討された,桁高 3.0m のセン ーメン形式であり,主要部材の断面は本州四国連絡橋公
ターバリアを有する形式 15), 16)を選択した.この形式の補 団の設計基準 18)~20)により設計した.各構成要素の使用鋼
剛桁の適用を前提に, 本検討では中央支間長 3000m の 3, 材を表-1 に示す.主ケーブルは明石海峡大橋と同様の

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ST1770 材を使用した.引張強度に対する安全率は,海峡 仮定すれば,支間長 l が 3000m のとき,活荷重強度 p2 は
横断道路ケーブル安全率検討委員会 21)において提示され 19.41kN/m となる.載荷状態は,吊橋主塔設計要領に従
た 1.8 を適用し,明石海峡大橋の 2.2 から引き下げてい って,塔頂部の主ケーブル鉛直反力 Vc または塔頂水平変
る. 位h が最大となるケースをそれぞれ考慮する. 図-3 に,
5 径間吊橋における活荷重の載荷条件を示す.
2.1 補剛桁
本検討で適用する補剛桁は,表-2 の右側に示す,国 2.3 設計荷重の組み合わせ
内で検討された桁高 3.0m の二箱桁形式 15), 16)であり,中 設計に考慮する荷重の種類は,死荷重 D,活荷重 L,
央部にセンターバリアを有する.単位長さたりの重量は, 温度荷重 T,風荷重 W の 4 種類であり,その組み合わせ
舗装と添架物を含めて 179.5kN/m である.同表左側に示 は D+L+T(T=20±30℃,許容応力度の割増係数=1.0)
す一箱桁の重量(220kN/m)に比べて,18%軽量化されて と,D+W+T(T=35℃,=1.5)の 2 通りである.
いるが,一箱桁は 6 車線,2 箱桁は 4 車線で設計されて 風荷重 W は,明石海峡大橋耐風設計要領に従って,高
いるため,単純な経済性の比較はできない点に注意が必 度 10m の設計基本風速 U10=46m/sec を仮定し,
静的風荷
要である. 重のみを考慮する.これらの荷重条件に対し,許容応力
度設計法に基づいて応力度照査および座屈安定照査を満
2.2 活荷重の強度と載荷状態 足するよう,部材断面を繰り返し計算によって求めた.
活荷重強度は,本州四国連絡公団の上部工設計基準よ
り表-3 のように求めた.4 車線分の載荷幅 B は 14m と 2.4 試設計の結果
試設計の結果,主ケーブル断面積は 0.655m2,直径に換
表-1 材料諸元
部材 補剛桁 主塔柱 塔水平材 ケーブル ハンガー
算すると 102cm であり,安全率の低減や吊構造部の軽量
鋼種 SM490Y SM570 SM490Y ST1770 ST1570 化によって明石海峡大橋の主ケーブル(112cm)より小さ
許容応力度(MPa) 210 245~255 210~215 981 628 い値となった.一方,主塔の塔柱断面(図-4)は,4,
降伏応力度(MPa) 365 430~450 355~365 1372 1176
引張強度(MPa) 490 570 490 1764 1568
5 径間吊橋の中間塔が側塔よりも橋軸方向の断面寸法が
ヤング率(GPa) 200 200 200 195 195 拡大し,表-4 の通り剛性が高い断面になっている.こ
安全率 1.7 1.8 1.7 1.8 2.5 れは,図-2 の L3 荷重によって中間塔基部に大きな曲げ
モーメントが生じるためであり,許容応力度を満たすた
表-3 活荷重の算定 めには,断面寸法の拡大による剛性確保を必要としたか
載荷条件 4 車線 路面全幅 B=14m らである.重量は,側塔が 371,696kN/基,中間塔が
支間長 l 3000m
568,042kN/基である.参考までに,明石海峡大橋の主塔は
B 活荷重 等分布荷重 p2(等分布荷重 p1 は無視する)
234,363kN/基である 22).
主載荷荷重 p2=3.0×{0.57+300/(200+l)}=1.991kN/m2
p2 荷重強度 p2=1.991×5.5+1.991×(B-5.5)=19.41 kN/m/Br
2.5 耐風安定化策
本橋梁では耐風安定化策として,センターステイおよ
1A 2P 3P 4P 5P 6A びクロスステイの導入を検討する.
L1(Vc max)
L2(δh(2P) max)
(1) センターステイ(C.S.)
L3(δh(3P) max) センターステイは,主ケーブルと補剛桁の相対変位を
拘束することにより,ねじり逆対称振動を抑える効果が
図-3 5 径間吊橋における活荷重の載荷条件

表-2 補剛桁の断面諸元
形式 一箱桁形式 二箱桁形式 15), 16)
車線数 6 4
40.9 35.5
35.5 11.85 11.8 11.85

桁断面形状
3

4.5
7.0
4.0

6.5

断面積 A (m2) 1.490 1.117


鉛直曲げ剛性 Iy (m4) 14.50 2.18
水平曲げ剛性 Iz (m4) 182.00 174.26
ねじり剛性 J (m4) 26.50 3.65
桁重量 (kN/m) 220.00 179.5

-319-
12
1 6 1
2 2

5 3.5
8@25=200
C.L.

14.4
12
3.5

センターステイ
1 6 6 6 1 図-5 センターステイ
20

(a) 側塔
0
1.
15

45.7~95.7
1.5 9 1.5
1.5 1.5
5 3.5

頂部
12

基部
3.5

1.5 9 9 9 1.5
30 (a) 通常モデル (b) 建築限界を考慮したモデル
図-6 クロスステイ正面図(単位:m)
(b) 中間塔(4 径間吊橋:3P,5 径間吊橋:3P と 4P)
図-4 塔柱断面(単位:m) 2.0 断面諸元表
A(m2) 0.0891
表-4 主塔塔柱の断面諸元 Iyy (m4) 0.0177
1.0

Izz (m4) 0.0487


A(m2) Iyy (m4) Izz (m4) J(m4) J(m4) 0.0317
3 径間吊橋主塔, 5.495 99.42 223.52 135.84
4,5 径間吊橋側塔 ~2.804 ~47.73 ~46.89 ~49.41 図-7 クロスステイ断面諸元
8.230 157.56 727.14 261.44
4,5 径間吊橋中間塔
~4.072 ~73.15 ~110.68 ~91.46 主径間 L=3000m
*断面諸元の表記は基部~頂部の順
-675 +675
-500 +500
期待される.本検討では材料と断面はハンガーと同一と
し,設置範囲は明石海峡大橋 22)を参考に各中央支間中央 図-8 クロスステイの設置位置
の 200m 区間に設置した(図-5) .
(2) クロスステイ(X.F.) 3. 解析手法
クロスステイ(図-6 (a))は,ねじり対称モードの振動
数の向上を期待するものであり,各中央支間の 2 か所に 試設計された 3,4,5 径間吊橋の耐風安定性および静
設置する.本検討では,図-7 に示す,東京湾口道路の検 的風荷重に対する耐風安定化部材の耐荷力を求めるため,
討 23)に用いられた圧縮力にも抵抗する部材を適用し,断 本検討では次のようなモデル化と解析手法を適用した.
面剛性の妥当性については,後述の風荷重の漸増載荷に
よって検討する.クロスステイの最適な位置は,図-8 の 3.1 解析モデル
ように, 3 径間吊橋の支間中央より 675~500m の範囲で, 吊橋の解析モデルは,一般的に用いられる骨組要素で
設置位置を変えながらフラッター限界風速が最大になる 構築し,吊橋を構成する主塔および補剛桁は梁要素,ケ
地点を決定し,その後 4,5 径間吊橋の同じ位置に設置し ーブルとハンガーはトラス要素からなる.モデルの作成
て 3 径間吊橋と同等以上の耐風安定性を有するかを確認 においては,あらかじめ計算で求めたケーブル張力を導
する.最適位置の決定後,建築限界に抵触する場合は, 入し,自己釣り合い解析によって形状決定を行っている.
図-6 (b)のように,桁内側で連結する方式に変更し,改 補剛桁は,図-9 に示すような魚骨モデルであり,二
めて性能の確認を行う.なお,後述の固有値解析におい 箱桁は,ハンガーと同じ 25m 間隔の横梁によって連結さ
てはクロスステイの質量を考慮するが,その自重による れている.二箱桁の断面剛性および極慣性モーメントは,
形状決定への影響は非常に小さいため省略する.クロス 中央の梁要素の節点に集約して与え,横梁は剛体として
ステイに隣接するハンガーは他のハンガーと同じ断面積 モデル化している.3,4,5 径間吊橋の耐風安定化部材を
であり,D+L による張力で決定する. 除く全要素数は,各々1507,2260,3013 である.また,

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本検討では,振動現象を精緻に扱うため,補剛桁には極 橋に比して低下している.これは,一箱桁よりも補剛桁
慣性モーメントを与えた.その値は,主構造部では,補 の剛性が低いために,ねじり振動数が塔の剛性に依存す
剛桁の面内,面外断面二次モーメントの和 Iyy(2.184m4) る割合が大きく,さらに 3 径間吊橋は,剛性の高い中間
+Izz(174.3m4)に,密度(115.5kN/m3)を乗じて求め,2078.2 塔がないためと考えられる.なお,鉛直 1 次とねじり 1
t・m2/m とした.なお,質量密度は,補剛材を含む単位 次は見られなかった.二箱桁形式 4,5 径間吊橋のねじり
長さ重量を断面積 1.117m2 で割った値である.舗装 1 次振動数とねじり 2 次振動数が同じであることも,3 径
2.29t/m,高欄 0.816t/m,添架物 2.04t/m の極慣性モーメン 間吊橋と同じく,補剛桁のねじり剛性の低さが原因と考
トは,それぞれの極慣性モーメントを 1/12×単位長さ重 えられる.
量×偏心距離の 2 乗で求めた.偏心距離は,舗装・高欄
で 1.5m,添加物で 1.0m と仮定して求めた結果,335.5 3.3 フラッター解析と非定常空気力
t・m2/m となった.これらを合計した補剛桁の極慣性モー 固有振動解析で得られた振動数と振動モード形状を用
メントは 2413.7t・m2/m である. いて,マルチモード連成フラッター解析 25)を実行し,フ
なお,フラッター限界風速に相当する静的風荷重によ ラッター限界風速を求める.表-6 に,解析条件を示す.
る耐荷力解析においては,クロスステイと補剛桁をファ フラッター解析に用いる非定常空気力は 8 つの係数で表
イバー要素の弾塑性部材で構成し,降伏後の挙動を追跡 され,一箱桁の場合は平板翼による理論値(Theodorsen の
できるものとした. 非定常空気力)であり,図-10 の実線で示した値である.
一箱桁の非定常空気力については,幅員/桁高比は 35.5/7
3.2 固有値解析と固有振動特性 とやや鈍い形状であるが,同様の断面を用いて,平板翼
フラッター解析に必要な固有振動数とモード形状を得 の空気力を仮定して検討した事例 7), 26)を参考とした.一
るため,固有振動解析を実施した.解析には耐震解析ソ 方,二箱桁の非定常空気力は同図の点線で示した値であ
フトウェア SeanFEM24)を用い,1~100 次のモードを算出 り,図-1 および表-2 に示す桁断面の二次元剛体模型に
した.一箱桁,二箱桁形式の多径間吊橋における低次モ よる風洞実験で求められた値 16)である.なお,各記号の
ードの振動数の比較を表-5 に示す.二箱桁吊橋は,一 添え字のうち,M は非定常モーメント,L は非定常揚力,
箱桁吊橋に対して,全体的に振動数が低下する傾向にあ はねじれ変位,はたわみ変位を表し,R と I は実部と
り,より長周期の構造特性といえる.この特性は,設計 虚部を示す.一般に,図-10 に示す非定常空気力係数の
の相違によるものであり,補剛桁の軽量化やそれに伴う うち,(c)CLR,(f)CMI,(h)CMI の寄与が大きいこと,(c)CLR,
主ケーブルの断面,張力の減少により,一箱桁吊橋より (f)CMI はその絶対値が小さいほど,また,(h)CMI が負で
相対的に剛性の低い構造であるためと考えられる. 特に, その絶対値が大きいほどフラッター限界風速が向上する
3 径間吊橋においては,ねじり 2 次振動が,4,5 径間吊 ことが示されている 27), 28).さらに,(g)CMR の絶対値が小
さいほど,ねじり振動数の低下を防ぐことができ,たわ
み振動と連成しにくくなるため,連成フラッターに対す
る安定性を向上させる効果があるとされている.これら
の非定常空気力を用いて連成フラッター解析を行い,無
次元風速に対する減衰値を算出し,減衰値が負になった
時点でフラッターが発生したものと判定する.
ここで,本解析手法の妥当性を検証するため,図-10
に示す非定常空気力を用いて,文献 16)と同一条件でフ
ラッター解析を行った.表-7 に,解析条件とその結果
を示す.解析モデルは,中央支間長 2800m の 3 径間吊橋
であり,ケーブル質量を桁要素に集約した一本梁の簡易
図-9 補剛桁の魚骨モデル

表-5 低次モードの固有振動数の比較
一箱桁形式 二箱桁形式
振動モード
3 径間吊橋 4 径間吊橋 5 径間吊橋 3 径間吊橋 4 径間吊橋 5 径間吊橋
鉛直 1 次(対称) 0.047 0.050 0.051 なし 0.040 0.039
鉛直 2 次(逆対称) 0.065 0.066 0.067 0.059 0.060 0.062
鉛直 3 次(対称) 0.102 0.103 0.103 0.087 0.092 0.092
ねじり 1 次(対称) 0.127 0.126 0.127 なし 0.111 0.111
ねじり 2 次(逆対称) 0.189 0.190 0.190 0.095 0.111 0.111

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モデルである.解析では,鉛直振動とねじれ振動の 2 モ 解析においては,クロスステイと補剛桁をファイバー
ードのみで行い,平板翼と二箱桁の空気力でフラッター モデルで構成し,弾塑性挙動を再現できるようにした.
限界風速を比較した.その結果,本解析手法の再現値は, なお,主塔についてはクロスステイと接しておらず,設
参考値とほぼ一致した.以上から,本解析手法の妥当性 計風速を満足することが保証されているため,今回塑性
が示された. 化の考慮は行っていない.漸増する風荷重 Pd は,明石海
なお,本検討ではプログラムの都合上,迎角 0°とし 峡大橋耐風設計要領 20)に基づき,式(2),(3)により決定し
て解析を行うこととした.ただし,有風時には,補剛桁 ている.
は迎角を生じるため,実際には有風時の変形を考慮した
U = ・U10・(Z/10)1/8 (2)
フラッター解析を行うのが望ましい.特に,二箱桁形式
Pd = 3・・U2/2・Cd・An (3)
の場合は,迎角の影響により耐風安定性が変化しやすい
とされている.本検討で適用した断面の場合,迎角が生 ここで,U :高度 Z(m)における漸増する風速(m/sec)
じると耐風安定性が向上することがわかっているため 16),  :補剛桁の高度(Z=50m)の設計風速 UZ に
迎角 0°で評価した場合,安全側になると考えられる. 対する倍率で,を漸増して,解析を行う.
3 :構造物補正係数
3.4 強風時を想定した静的風荷重による耐荷力解析  :空気密度,0.001204(t/m3)
(20℃,1atm)
フラッター解析によりクロスステイの最適位置を決定 Cd :抗力係数
した後,クロスステイおよび補剛桁がフラッター照査風 An :投影面積(m2/m)
速(80m/sec)まで耐えられるか確認するため,風荷重に
よる耐荷力解析を行う.ここで,中央支間に作用する風 表-7 本解析手法の妥当性の検証結果
荷重は,径間数によらず一定であるため,本設計の基本 解析モデル:3 径間吊橋 一本梁モデル
支間割:1100m+2800m+1100m
となる 3 径間吊橋を代表として用い,照査を行った.解 主ケーブル間隔:36m
析は,荷重増分法で行い,3.2 節と同じソフトウェアを 解析条件 単位長さ重量:29.4t/m(桁+ケーブル)
極慣性モーメント:3941t・m2/m(桁+ケーブル)
用いて計算した.
鉛直対称 1 次:0.062Hz
ねじり対称 1 次:0.126Hz
表-6 フラッター解析の条件 フラッター
再現値 文献 16)
限界風速(m/sec)
解析手法:マルチモード連成フラッター解析
平板翼 36.4 35.1
(モード重ね合わせ法)
二箱桁 70.6 70.0
振動モードの考慮次数:100 次
空気密度:1.204kg/m3(20℃,1atm)
表-8 作用風荷重に関する各部位の係数,投影面積
対数減衰率:0.02
補剛桁幅員 B:35.5m 部位 補剛桁 主塔柱 ケーブル ハンガー X.F.
非定常空気力 一箱桁:平板翼(Theodorsen) 構造物補正係数3 1.7 1.55 1.7 1.7 1.7
二箱桁:実験値 16) 抗力係数Cd 1.38 1.8 0.7 0.7 1.8
※主塔,ケーブルへの空気力は考慮しない 投影面積An (m2/m) 4.5 30~12 1.02 0.082 2.0

0.0 0 40 0.5
0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 50 35 0.0
-0.2 -1
30 -0.5 0 10 20 30 40 50
-0.4 -2 25 -1.0
CLθR

CLθI
CLηR

CLηI

-1.5
-0.6 -3 20
-2.0
15
-0.8 -4 -2.5
10 -3.0
-1.0 -5 5 -3.5
-1.2 -6 0 -4.0
0 10 20 30 40 50
U/(fB) U/(fB) U/(fB) U/(fB)

(a)CLR (b) CLI (c) CLR (d) CLI

0.2 10 0.0
0.10
0 9 -0.2
0.05 8
-0.2 -0.4
0.00 7
-0.4 -0.6
-0.05 0 10 20 30 40 50 6
CMηI

CMθR

-0.8
CMθI

-0.6
CMηR

-0.10 5
-0.8 -1.0
-0.15 4
-1 3 -1.2 2box girder
-0.20 -1.2 2 -1.4
-0.25 -1.4 1 -1.6 Theodorsen
-0.30 -1.6 0 -1.8
0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 50
U/(fB) U/(fB) U/(fB) U/(fB)
(e)CMR (f) CMI (g) CMR (h) CMI
図-10 一箱桁と二箱桁の非定常空気力

-322-
各部材に対する3,Cd,An の値は表-8 の通りである. 同じようなフラッター限界風速となったと考えられる.
なお,係数3 の補剛桁に対する値は,同設計要領 20)にお また,表-7 において,二箱桁の結果が一箱桁(平板翼)
いて,着目対象を補剛桁,風向きは橋軸直角方向,かつ の結果の 2 倍になっているのに対し,表-9 に示した二
箱桁を適用した場合の係数であり,設計風荷重と同様に 箱桁の本検討では,一箱桁に比べて 26%しか向上しなか
空気力は抗力成分のみを考慮する.クロスステイの抗力 った.これは,3.2 節の固有値解析において説明したよ
係数は矩形断面に近い主塔柱と同値であると仮定した. うに,二箱桁吊橋の剛性が一箱桁に比べて相対的に低い
ためと考えられる.
4. フラッター限界風速の推定結果と考察 次に,フラッター発現時の振動モードの成分とその運
動エネルギー寄与率を図-12 に示す.振動モードの呼称
二箱桁吊橋について,耐風安定化策を施していない基 は,鉛直振動・ねじり振動および対称・逆対称の組み合
本モデル,センターステイ付きモデル,および最適位置 わせで分類し,その次数は,振動モードの腹の数を示す
にクロスステイとセンターステイの併用した場合の風速 ものとする.類似のモード形状で,振動数が異なるモー
-減衰曲線を,4 径間吊橋を代表して図-11 に示す.ま ドが存在する場合は,連成するモード成分の併記や番号
た,3,4,5 径間吊橋すべてのフラッター限界風速の一覧 の付与により,区別することとした.また,運動エネル
を表-9 に示す.これらの図表では,耐風安定性の比較 ギー寄与率 Ei の計算には,式(4)を用いており,全節点の
のために,一箱桁吊橋の結果 5)も併せて示す.以下に,そ 全振動成分を考慮し,全体で 1 となるよう総和で除して
れらの結果とその考察を述べる.なお,風速の値は特に いる.
断りのない限り,桁位置での風速を指すものとする. M |  |2 (4)
Ei  M i i
2

4.1 耐風安定化策を施していない基本モデルによる検討
 M k |k | k 1

耐風安定化策を施していない二箱桁吊橋の基本モデル ここに,
の場合,フラッター限界風速は,3,4,5 径間吊橋すべて Mi :第 i 番目のモード質量
のケースで 64.5m/sec 程度となり,径間数による有意な Mk :第 k 番目の質量の合計
差は認められなかった.この傾向は,一箱桁吊橋の結果 αi :固有ベクトルの第 i 次モード成分値(複素数)
と同じであった.既往の検討例 29)では,全主塔を同じ剛 αk :固有ベクトルの第 k 次モード成分値(複素数)
性と仮定した場合,4 径間吊橋は 3 径間吊橋よりもフラ
ッター限界風速が低下するが,中間塔の剛性を相対的に なお,モード質量 Mi は,式(5)で表される.
高めた場合,耐風安定性が回復することがわかっている N
(5)
30)
.本検討では最適設計の結果,中間塔の剛性が側塔に Mi   m
j 1
j ( u , j 2   v , j 2   w , j 2 )  I j , j 2 
比して高い剛性を得ており,その結果,径間数によらず
ここに,
0.20
m, I :各接点の質量および極慣性
*X.F.は最適位置のケース
0.15 u , v , w ,  :振動モード形状
0.10 u, v, w,   :橋軸直角方向,鉛直方向,橋軸方向,
橋軸回転の変位
対数減衰率δ

0.05

0.00 i=1, 2, …, M :モード番号(M:モード数)


-0.05 1箱 j=1, 2, …, N :節点番号(N:節点数)
1箱+X.F.
-0.10 2箱
2箱+C.S. 図-12 より,支配的な振動モードは,すべて逆対称成
-0.15 2箱+C.S.+X.F.
分であることがわかる.これらの振動の抑制は,センタ
-0.20
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 ーステイの設置が効果的であると考えられた.
風速U (m/sec)

図-11 4 径間吊橋の風速-減衰曲線

表-9 各モデルのフラッター限界風速の比較(m/sec)
桁形式 一箱桁形式 二箱桁形式
耐風安定化策 なし C.S. X.F. なし C.S. X.F. C.S.+X.F.
3 径間吊橋 52.6 52.4 68.8 64.6 72.6 93.6 93.8
4 径間吊橋 51.2 51.7 67.5 64.5 74.1 93.8 95.0
5 径間吊橋 50.8 52.1 67.1 64.5 74.2 95.7 94.6

-323-
4.2 センターステイ付きモデルによる耐風安定性の検討 るのに対し,センターステイ設置後は,図-13 (c)のよう
センターステイを設置した場合,表-9 より,フラッ に,ねじり 1 次(対称)の振動モードに変化している.
ター限界風速は,72.6~74.2m/sec となり,基本モデルに ただし,固有振動数は,0.111Hz のまま変わっていない.
対し約 13%向上した.この場合も径間数による差はほと ねじり振動数が同じとなった要因は,補剛桁のねじり剛
んどなかった. 性による影響が小さく,主塔の剛性に依存したことが考
センターステイ設置後の固有振動数を表-10 に示す. えられる.結果的には,支間中央に節を持つ鉛直逆対称
表-5 の二箱桁形式(センターステイ設置前)の値と比 振動とねじり逆対称振動の連成が回避されたことで,フ
較すると,鉛直 3 次モードが 5~8%,ねじり 2 次モード ラッター限界風速が向上したと考えられる.なお,一箱
の振動数が 16~35%,それぞれ上昇している.また,3 径 桁形式に対して同様にセンターステイを設置したところ,
間吊橋では,センターステイ設置前にはなかった鉛直 1 表-9 の通り,フラッター限界風速の向上には,ほとん
次振動とねじり 1 次振動が出現した.
図-13 に,フラッター発現時の振動成分をそれぞれ示
す.センターステイの設置によって,図-12 (b)に示した,
基本モデルの鉛直逆対称(0.054Hz)から変わって,図- (a) 鉛直 3 次(対称)モード:0.103Hz,E=30.6%
より振動数の低い鉛直1 次モード
13 (a)に示す, (0.040Hz)
が寄与することがわかる.
一方,センターステイ設置前の寄与する振動成分は, (b) 鉛直 3 次-1(対称)モード:0.081Hz,E=19.6%
図-12 (c)に示す,2 つのねじり逆対称の振動モードであ

表-10 センターステイ設置後の固有振動数と (c) 鉛直 1 次(対称)モード:0.051Hz,E=19.1%


設置前に対する上昇率
振動モード 3 径間吊橋 4 径間吊橋 5 径間吊橋
鉛直 1 次(対称) 0.050 0.040 0.039 (d) ねじり 1 次(対称)モード:0.140Hz E=8.7%
鉛直 2 次(逆対称) 0.059 0.063 0.062
図-14 フラッター発現時の寄与率の高い上位 4 つの
鉛直 3 次(対称) 0.094(+5%) 0.097(+8%) 0.097(+8%)
ねじり 1 次(対称) 0.111 0.111 0.111 振動モードの内訳(一箱桁形式,センターステイ
ねじり 2 次(逆対称)0.128(+35%) 0.129(+16%) 0.129(+16%) なし)

105
二箱桁+X.F.
(a) 鉛直 2 次(逆対称)+円木モード:0.084Hz,E=55.2% 一箱桁+X.F.
フラッター限界風速Ucr (m/sec)

95 二箱桁
一箱桁
85
(b) 鉛直 2 次(逆対称)モード:0.054Hz,E= 29.2%
75

65
(c) ねじり 2 次(逆対称)モード:0.111Hz,E= 10.9%
図-12 フラッター発現時の寄与率の高い上位 3 つの 55
振動モードの内訳(二箱桁形式,センターステ
45
イなし) 450 500 550 600 650 700 750 800 850
クロスステイの支間中央からの距離 x (m)
図-15 クロスステイ設置位置と限界風速の関係
(a) 鉛直 1 次(対称)モード:0.040Hz,E= 54.7%

(b) 鉛直 3 次(対称)モード:0.097Hz,E= 21.3% (a) X.F.の設置位置:x=±675m,0.123Hz,E=7.4%

(c) ねじり 1 次(対称)モード:0.111Hz,E= 10.9% (b) X.F.の設置位置:x=±525m,0.150Hz,E=5.8%


図-13 フラッター発現時の寄与率の高い上位 3 つの 図-16 フラッター発現時のクロスステイ位置による
振動モードの内訳(二箱桁形式,センターステ ねじり 1 次振動(対称)の固有振動数と寄与
イあり) 率の比較

-324-
ど効果がなかった.これは,図-14 に示すように,セン テイが支間中央から近い場合,クロスステイ間のねじり
ターステイを設置する前からフラッター発現時の振動成 振動数は高くなるが,運動エネルギー寄与率も低下する.
分がすべて対称モードで成り立っているためである.対 なお,鉛直モードの固有振動数には,特段の変化は見ら
称モードでは,補剛桁とケーブルの相対変位を伴わない れなかった.したがって,ねじり振動の変化が限界風速
ため,センターステイの拘束効果が発揮されず,振動モ に影響を与えており,振動数が高く,寄与率も低すぎな
ードに影響を与えることができない.したがって,フラ いような位置でフラッター限界風速が最大となるものと
ッター限界風速も変わらなかったものと推察される. 考えられる.また,図-11 に示した対数減衰率の最大値
は,クロスステイを設置した場合,設置しない場合に比
4.3 クロスステイ付きモデルによる耐風安定性の検討 べて低下することがわかる.なお,図を略したが,クロ
(1) クロスステイの最適位置 スステイの効果が大きいほど,対数減衰率の最大値は,
図-8 に示した範囲でクロスステイの位置を変えなが 低下する傾向にあることを確認している.
らフラッター限界風速を求めた結果を図-15 に示す.一 ただし,最適位置の決定は,現状においては,本検討
箱桁吊橋の場合,支間中央から 675m 地点でフラッター のようにパラメトリックに解析する必要があり,事前に
限界風速が最大 67.5m/sec となっているが,二箱桁吊橋 予測することは困難である.
はそれよりも内側の支間中央から 525m 地点で最大 (2) センターステイの有無による影響
93.8m/sec となっている.なお,径間数によるフラッター 表-9 の通り,クロスステイ付きモデルのセンタース
限界風速の差異は,表-7 に示した通り認められない. テイの有無によるフラッター限界風速への影響はほとん
クロスステイ位置とフラッター限界風速は,図-16 より どなかった.これは,図-17 のようにクロスステイの設
次のような関係にあると考えられる.図-16 (a)に示すよ 置によってねじり 2 次(逆対称)モードの成分がフラッ
うに,クロスステイが支間中央から遠い場合,クロスス ター発生時の振動に寄与しなくなったことで, 図-17 (b)
テイ間のねじり振動数が低下するが,運動エネルギーの の鉛直 2 次(逆対称)モードとの連成が回避されたため
寄与率は増加する.一方,図-16 (b)のように,クロスス と考えられる.ただし,前述の通りセンターステイは,
ほぼすべての長大吊橋に設置されているため,この結果
からセンターステイが不要といえないことに注意が必要
である.
(a) 鉛直 1 次(対称)モード:0.040Hz,E=38.5%
5. 設計風荷重による耐荷力の検討結果

(b) 鉛直 3 次(対称)モード:0.097Hz,E=20.3% 明石海峡大橋耐風設計要領に定められている設計風荷


重を漸増させることで,強風時の耐荷力を求めた.ここ
では,中央支間に作用する風荷重は径間数によらず一定
(c) 鉛直 2 次(逆対称)モード:0.067Hz,E=13.0%

16 0
7 .2 .2
-1 7
(d) ねじり 1 次(対称)モード:0.125Hz,E=10.4% 8 .9
16 3
.4
-2 0
図-17 C.S.+X.S.モデルのフラッター発現時の寄与率 18 4
4 .3 .5
の高い上位 4 つの振動モード(4 径間吊橋) -2 7
21 3
0 .4 . 7
-3 1
500
23 3
6 .5 .0
-3 1
400 .0 24 4
5 .5
-2 9
応力σ[MPa]

24 9
300 8 .6 .1
-2 6
27 8
9 .3 .0
-3246
200 5. 7 .1
20 8 5 -2 6 .8
.6 1
-2 0
100 13 2 5 .1
.5 -1 1
10 7 5 .6
. 3 -1 6
0
-3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000
橋中央からの距離[m]
終局時 設計風速 降伏応力 割増許容応力 図-19 終局時のクロスステイの最大応力分布
図-18 クロスステイ付きモデルの補剛桁応力分布 (単位:MPa)

-325-
1200
1400
風上側
風下側
1200 1000
許容応力
降伏応力

引張応力σ[MPa]
1000 800
引張応力σ[MPa]

800
600
600
400
400 風上側
風下側 200
200 許容応力
2P X.F. X.F. 3P
降伏応力
0
0
-3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000
-3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000
橋中央からの距離 x (m)
橋中央からの距離[m]

図-20 終局時のセンターステイ付きモデルの 図-21 終局時のセンターステイ付きモデルの


主ケーブルの引張応力分布 ハンガーの引張応力

であるため,本設計の基本となる 3 径間吊橋を代表とし ガーが引き延ばされ,風上側ではその逆の変形が発生し


て用い,照査を行った.その結果,補剛桁位置での風速 てハンガー張力が緩んだものとみられる.主塔付近のハ
82.8 m/sec で終局となることがわかった.以下に各部材の ンガー張力の減少については補剛桁のねじり変形に伴う
結果と考察について述べる. ものとみられるが,終局時までハンガーが張力抜けに至
(1) 補剛桁 ることはなった.以上を総括すると.クロスステイ付近
補剛桁の応力分布を図-18 に示す.設計風速(UZ=56.7 の一部のハンガーのみ,応力超過の度合いに従って断面
m/sec)に対しては強風時の割増許容応力度(322.5MPa) 積を割り増す対応が必要である.
を満足しており,特段の問題はなかった.許容応力度(割
増考慮)を超過するのは,風速 69.3m/sec であり,風速 6. まとめ
73.7m/sec になると一部で塑性化を生じる.そして,風速
82.8m/sec で広範囲にわたり塑性化が生じ,一部の領域で 本検討では,中央支間長 3000m の 3,4,5 径間吊橋に
は全断面積の半分以上が塑性化に至り,補剛桁は耐力を 対して二箱桁形式を適用し,またセンターステイとクロ
失って終局限界を迎えた.なお,現在の補剛桁の設計風 スステイを取り付けてフラッター限界風速の向上を試み,
速(UZ= 56.7m/sec)に対して,より高い安全性を要求す そのメカニズムについて考察を行った.さらに,強風時
ることになるが,塑性化する部位に,部分的に,高張力 の耐荷力を弾塑性解析によって求め,風速 80m/sec を目
鋼を適用すれば, 対応できることを別途,確認しており, 標とした対象橋梁の実現性を明らかにした.以下に得ら
フラッター発現風速に相当する強風時においても耐力を れた結果をまとめる.
確保することは可能である.ただし,本検討では,主塔 (1) 耐風安定化部材を設置しない場合,対象橋梁のフラ
の塑性化を考慮していないため,それが終局に支配的で ッター限界風速は 3,4,5 径間吊橋ともに 64.5m/sec
ある場合,別途,精査が必要である. となった.この値は,明石海峡大橋のフラッター限
(2) クロスステイ 界風速(78m/sec)を大きく下回っており,国内での
クロスステイに生じる応力は,設計風速(UZ= 56.7m/sec) 適用は困難である.その原因は,主に補剛桁とケー
のときは,許容応力度を下回っており,図-19 示す終局 ブルの軽量化に伴うものと考えられる.
時は交差部の一部が塑性化するにとどまった.したがっ (2) 本検討で試設計した支間長 3000m の多径間吊橋は,
て,本検討で用いたクロスステイは十分な耐荷性能を有 径間数の違いによってフラッター限界風速に有意な
しているといえる. 差はなく,4,5 径間吊橋は,基本となる 3 径間吊橋
(3) ケーブル系 と同等のフラッター特性を有することが示された.
終局時(風速 82.8m/sec 時)の主ケーブルの引張応力の (3) 耐風安定化策としてセンターステイを設置した場合,
分布を図-20 に示す.風上側でわずかに許容応力度を超 フラッター限界風速は 3,4,5 径間吊橋ともに約
えるものの,全体的に顕著な変化は見られず,設計上特 74m/sec にまで改善する.この値は,近年,海外で建
段の配慮は必要ないことが確認された.一方,図-21 に 設されている長大吊橋の照査風速(60~70m/sec)に
示す,ハンガーの引張応力の分布は,主塔近傍およびク 比べれば十分な耐風安定性を有することが示された.
ロスステイ位置で顕著に応力が変化しており,特にクロ また,フラッター振動モードの分析から連成に寄与
スステイ位置の風下側では許容応力度を40%も超過して する振動成分が抑えられ,耐風安定性の向上につな
いる.これは,風荷重によって風下側のクロスステイの がる可能性が示された.
上下端の距離が開くように変形し,これに連動してハン (4) クロスステイを最適な位置に設置した場合,フラッ

-326-
ター限界風速は 94m/sec に向上し,明石海峡大橋を に関する基礎的検討,土木学会論文集 A,Vol.63,No.1,
大幅に上回る耐風安定性を有することが示された. pp.220-231,2007.
ただし,耐荷力解析からはフラッター現象に至る前 9) Lida Castelli, Maria Vittoria Capitanucci: “Yavuz Sultan
に風荷重による補剛桁の塑性化によって終局を迎え Selim Bridge: The New Gateway between East and West”,
ることが明らかとなった.クロスステイは終局状態 2017.
に至るまで全断面塑性することなく機能することが 10) Sir Gilbert Roberts: The Severn Bridge – A New Principle
確認された. of Design, International Symposium of Suspension Bridge,
Lisbon, 1966.
7. 今後の展望と課題 11) 土木学会本州四国連絡橋耐風研究小委員会作業班:
耐風設計基準見直しのための作業班報告書-明石海
本検討のような超長大多径間吊橋を実現するには,さ 峡大橋の耐風設計に関する検討,1986.
らに以下の検討が必要と考えられる. 12) 麓興一郎,平原伸幸,佐藤政文:長大吊橋の耐風性
1) 活荷重載荷方法とそれに対応する限界状態の明確 に及ぼす桁高の影響,土木学会第 57 回年次学術講
化および吊形式橋梁全体系の終局強度の立場から 演会概要集,pp.977-978,2002.
の構成部材の安全率(部分係数)の低減化などによ 13) 所伸介,増田伊知郎,中島行弘,本田明弘:超長大
る性能照査型設計体系の構築 吊橋を想定した開口一箱桁断面のフラッター特性,
2) 高強度・高靭性・軽量ケーブル用材料(亜鉛めっき 土木学会第 55 回年次学術講演会,I-B59,2000.
鋼線,高性能鋼材,FRP など)の開発 14) 下土居秀樹,尾立圭巳,阿部和浩,村越潤,麓興一
3) 従来の 1/10 から 1/12~1/20 のサグ比に変更した新 郎:2 箱桁断面の空力特性に与える各種耐風対策物
ケーブル構造,新サドル構造,主塔を中心とした複 の影響に関する検討, 第18回風工学シンポジウム,
合構造,さらに高耐久性・耐疲労性のある床版構造 pp.437-442,2004.
の開発 15) 川﨑貴之,平野廣和,佐藤尚次:数値流体解析と煙
4) より空力安定性に優れる新しい補剛桁断面の開発 風洞を用いた二箱桁断面橋梁における耐風安定性
今後,これらの課題に対して継続的に研究を推進したい. の検討,応用力学論文集,Vol.13,pp.717-724,2010.
16) 出野麻由子,住吉文太,曽我明,井上浩男:付加物
参考文献 を有する二箱桁断面における耐風安定性の検討,構
1) Qiang Zhou, Haili Liao, and Tong Wang: Numerical 造工学論文集,Vol.53A,pp.634-641,2007.
Study on Aerostatic Instability Modes of the Double- 17) Y.J. Ge, H.F. Xiang: Aerodynamic stabilization for box-
Main-Span Suspension Bridge, Hindawi Shock and girder suspension bridges with super-long span, EACWE
Vibration Volume 2018, Article ID 7458529, 9pages, 5, Florence, Italy, 19th – 23rd, 2009.
2018. 18) 本州四国連絡橋公団:上部構造設計基準・同解説,
2) Magdaléna Sobotková: CHACAO BRIDGE General 1989.
Overview, e-mosty, ISSUE1/2019, pp.14-20, 2019. 19) 本州四国連絡橋公団:吊橋主塔設計要領・同解説,
3) Magdaléna Sobotková: 1915 Çanakkale Suspension (平成 7 年 7 月改訂版) ,1995.
bridge, e-mosty, ISSUE1/2019, pp.7-13, 2019. 20) 本州四国連絡橋公団:明石海峡大橋耐風設計要領・
4) 一般社団法人橋梁調査会:“橋を架ける,橋を守る 同解説,1990.
長大橋建設を支え,日本の橋を守った 35 年”,pp.24- 21) 本州四国連絡橋公団:海峡横断道路ケーブル安全率
28,2013. 検討委員会報告書,2003.
5) 岩下慎吾,中村一史,野上邦栄,村越潤,石井喜代 22) 栗野純孝:明石海峡大橋開通記念特集号,建設図書,
志,平山博:中央径間長 3000m を有する超長大多径 橋梁と基礎,Vol.32,No.8,pp.9-15,1998.
間吊橋の耐風安定性に関する基礎的検討,構造工学 23) 財団法人海洋架橋調査会(現:一般社団法人橋梁調
論文集,Vol.65A,pp.342-350,2019. 査会) :平成 8 年度 東京湾口道路技術調査報告書
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