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社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック

認知症の診断と治療

特 集

春・満開
[写 真]松浦 武志
(勤医協中央病院 内科医長)

 4月から新しい研修医13名を迎え、医局全体・病院全体で育てようと様々な取り組みが始まっておりま
す。大都市とは言え、もっと東区の「地域」を見て感じてもらおうと、病院の友の会員にも協力していた
だいて健康相談会にもどんどん参加する予定です。2004年から始まった研修制度が、充分な評価もされ
ずに、医師不足・医療崩壊をきっかけに見直されようとしていますが、当院では引き続き、プライマリケ
アの診療能力を身に付け、患者さんの立場に立てる医師を養成するため、さらに質の高い研修プログラム
へとバージョンアップすべく取り組みます。どうぞよろしくお願いいたします。
勤医協中央病院 副院長
(内科・総合診療)
尾形 和泰
認知症の診断と治療
勤医協中央病院 名誉院長 伊古田俊夫
勤医協メンタルクリニック東 副所長 田村 修

1 はじめに

 人口の高齢化とともに高齢期の脳神経疾患、とりわけ認知
症とその関連疾患は増加の一途をたどっています。勤医協中 多職種で診療する勤医協メンタルクリニック東のスタッフ
央病院および隣接する勤医協伏古十条クリニック、勤医協メ
ンタルクリニック東ではその状況に対応できるよう、それぞ
れリハビリテーション科(脳神経外科)外来、神経内科外来、 分な時間をとれる、③認知症スクリーニングテストMEDE
精神科外来にて診療を行っております。 (多面的初期痴呆判定検査)を臨床心理士がルーチンで行って
  最 近 の 認 知 症 診 療 に お け る 特 徴 は、 診 断 面 で は 脳 血 流 いる、④多職種参加型アプローチにより多面的・包括的に情
SPECT検査の利用、治療面ではアリセプトなど抗認知症薬の 報を収集・共有している、ことがあげられます。
登場と知的機能リハビリテーションの発展でしょう。本号で *1 IADL:手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living)
手段的日常生活動作、または道具的日常生活動作と呼ばれ、バスに乗って
は、以上のような認知症診療の進歩とスタンダードを当院で
買い物に行く、電話をかける、食事の仕度をする、家計を管理する、掃除
の実際の診療内容を通して紹介させていただきます。 をする、布団の上げ下ろしをするなどが含まれる。
*2 BADL:基本的日常生活動作(Basic ADL)
普段の生活での必要な動作(食事や排泄、入浴、移動、寝起など)
*3 MEDE: 多 面 的 初 期 痴 呆 判 定 検 査(Multiphasic Early Dementia
Examination)

2 「勤医協メンタルクリニック東」
での診療から (田村修)
痴呆障害の介護や行動援助の立場から早期発見、早期対応のために、記憶
能力(知的能力)に関する尺度24と、痴呆障害に関連する症状を捉える
尺度70(自己評価・他者評価)を選出。障害を顕在化させる周辺機能情
報が捉えられる検査。認知症スクリーニングテストで唯一診療報酬算定可
 当クリニックは2008年4月に勤医協札幌丘珠病院の精神 保険点数〔その他の心理検査(簡単)80点〕
科外来部門をそのまま移転し、中央病院第2別館の2階に開設
されました。丘珠病院では2006年より神経内科医が中心に
なって「もの忘れ外来」を開始し、精神科スタッフも当初か
ら運営に協力してきました。2007年より精神科外来で「も
の忘れ外来」を引継ぐこととなり、2008年4月のクリニッ
ク移転後も継続しています。現在の担当スタッフは医師1名、
看護師1名、精神ソーシャルワーカー1名、臨床心理士1名。
完全予約制(毎週木曜午前2名枠)をとっています。最初に
問診(IADL*1、BADL*2 含む)
、各種検査(血液・尿検査、
MEDE*3、脳画像検査など)、医師の診察を行い、約2週間後 勤医協メンタルクリニック東

の外来で結果説明と療養指導を行っています。
 当外来の特徴としては、①「神経科」「精神科」ではなく [症例1]85歳 男性 せん妄 → アルツハイマー型認知症
「もの忘れ外来」との標榜なので受診の敷居が低い、②一般外  X年3月、近所のA脳神経外科病院に脳梗塞のため2週間ほ
来とは別枠で予約運営しているため、診察、結果説明とも十 ど入院され、大きな後遺症もなくその後はB病院の脳神経外
科外来に通院されていました。翌年1月ころより物忘れが目
立つようになり、2月に入って急激に進行。心配した家族が
当もの忘れ外来を予約され、受診されました。その直前にB
病院にて行ったHDS-R*4は7点《重度認知症で介護への抵抗
あり》と紹介されました。
【臨床心理士のMEDE評価】
・見当識の崩れが極端に大きい
・会話は成立する割に教示の理解が悪い
・短期記銘の検査の中で、記憶したものから連想される物が
出てくる(混乱?)
・当院ではHDS-R16点。短期間で極端に上がりすぎ 症と診断確定しアリセプトの投与を開始しました。その後、
【看護師の問診から】 認知機能は特に低下することなく維持されています。
 「前病院のDr.から『1合位のお酒ならどんどん飲んでくださ *5 MCI:軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)
い』と言われたから…」と、今年に入って毎日晩酌をしてい 記憶障害のみで日常生活は支障ない状態。正常と認知症の中間的な状態と
考えられている。
たことが判明。
【医師の診察】 [症例3]75歳 女性 早期アルツハイマー型認知症
 見当職障害と意識の軽い曇りを認めました。元々は大酒家  元々は「聡明な方」(夫談)。十数年来、高血圧と高脂血症
でしたが、1年前に脳梗塞発症を契機に飲酒をやめていまし を近医内科で加療中、病状は安定していました。X年より物
た。今年に入り倦怠感や物忘れを心配した本人が「お酒を飲 忘れが出現、同じ物(大根、日用品など)を度々買ってくる
んだらどうなるでしょうか?」と聞いたところ1合程度の飲 ので家の中に不要なものがたまるようになります。同年と翌
酒を勧められました。1週間ほど毎日飲酒(少量)してみた 年の2回、近所の脳外科病院を受診しましたが「問題なし」
が、体調が芳しくないので中止したところ、一気に言動がお と言われます。知人の勧めで、この年の9月にもの忘れ外来
かしくなってきたとのことでした。この時点でアリセプトを を受診されました。
B病院で投与されましたが、さらに言動がおかしくなったた MEDE評価:視覚を用いた記銘力が低下 廃用性のものとは考
めすぐに中止されています。また長期にわたりかゆみ止めの えにくい
飲み薬(抗ヒスタミン剤)を服用していました。 HDS-R:17点
 『せん妄(アルコール+薬剤)+アルツハイマー型認知症』 時計描画テスト:長針と短針を間違えて
と考え、まず断酒の指導と、薬剤の整理、さらにビタミンB 描く(図2)
剤を投与したところ、2週間後にはせん妄状態は回復。しか 脳CT:目立った萎縮や血管病変は認めず
し記銘力低下は持続するためアリセプトを改めて投与開始。 脳血流SPECT検査 *(後述検査紹介参照):eZIS疾
3ヵ月後には「だいぶ元通りになりました」とご夫婦とも喜 患特異領域解析 *6 (図2)11時10分を描いて
もらう
んでいました。 3指標とも陽性(図3)
 当もの忘れ外来は、通常の外来診療ではなかなか気づかれ
にくい情報を、多職種が包括的に関わる中で得ることができ
ます。本症例もそのような関わりから解決のヒントが見つかっ
た事例です。
*4 HDS-R:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa Dementia
Scale-Revised)
被験者への口頭による質問により、短期記憶や見当識(時・場所・時間の
感覚など) 、記名力などを比較的容易に点数化し評価できるテスト。質問
者の熟練度にさほど左右されることなく一定の結果が得られ、評価に要す
る時間も20分前後と一般の心理検査に比べ短いのも特徴。評価結果につ
いては、合計点数30点満点中20点以下が「痴呆症疑い」と判定される。

[症例2]74歳 女性 MCI*5 → 早期アルツハイマー型認知症
 十数年来、高血圧を近医内科にて加療中で病状は安定して
いました。X年春より物忘れを自覚するようになりかかりつ
け医に相談。同年8月にHDS-R30点。脳MR所見も年相応と
いわれました。しかしその後も物忘れの進行を心配した家族 (図3)脳血流SPECT検査:後帯状回、楔前部、頭頂部に血流低下を認める

が、当クリニックのもの忘れ外来を予
約し同年12月受診。
MEDE評価:年齢相応だが今後記銘力  時計描画の間違いよりアルツハイマー型認知症の可能性を
低下の進行が懸念される 考え、脳血流SPECT検査を追加しました。eZIS3指標とも
HDS-R:24点 陽性となり、アルツハイマー型認知症として治療開始(アリ
時計描画テスト:(図1) セプト)。あわせて夫への心理教育を実施。夫より「メモを書
脳MR(X年7月)海馬領域の軽度萎縮 ( 図1)11時10分を 描 いて けといっても無理なので、自分がメモを書いて渡すようにし
もらう
たら、少し改善した」と報告がありました。
 短期間でのHDS-Rスコア低下と、時計描画の障害より、現 *6 eZIS疾患特異領域解析:脳血流SPECT検査の画像をコンピュータ解析し、
早期アルツハイマー型認知症で血流が低下しやすい疾患特異領域(後帯状
時点ではMCIレベルですが、アルツハイマー型に早期に移行
回、楔前部、頭頂)の血流低下の程度(Severity)、割合(Extent)、全
する可能性が考えられました。本人および家族と相談し、デ 脳との比較(Ratio)の3指標を算出。それぞれが陽性の場合、8割以上の
確率でアルツハイマー型と考えられる。
イ サ ー ビ ス を 導 入 し て 春 ま で 様 子 を 見 ま し た。 翌 年5月、
HDS-R17点。生活全般の状況も鑑みアルツハイマー型認知
[症例4]71歳 男性 アルコール性認知症(前頭側頭葉型) から、MCIの段階ですでにアルツハイマー型の脳の変化が始
 大酒家。昔はもっと飲んでいましたが、初診時も日本酒を まっていると考えられます。海外の文献では高学歴や元々記
毎日2合、日中から飲むときもある方です。X年冬に物忘れの 憶力の優れている方の場合、MMSE*7 のカットオフポイント
自覚があり、近所の脳外科を受診。HDS-R20点《軽度認知 を24点ではなく27点にすべきとの報告もあります(今のと
症》といわれアリセプトを処方されましたが数日で中断。翌 ころHDS-Rのカットオフ値を変えるべきかどうかを示す研究
年春に物忘れが進行し、動作も緩慢になるため、近所の内科 は出ていません)。当クリニックの実践では、HDS-Rが20点
より当院もの忘れ外来を紹介され、同年7月に受診しました。 以上でも時計描画テストに乱れが認められた症例(年間4例)
MEDE評価:年齢相応だが動作が緩慢 はその後の追跡調査で全例アルツハイマー型認知症への移行
HDS-R:19点 が確認されました。
時計描画:問題なし  どのような場合でも、早期に認知症を疑い、関わることが
脳CT:前頭葉、側頭葉、小脳で萎縮が目立つ 重要です。脳血流SPECT検査からは、認知症をタイプも含め
脳血流SPECT検査:両側側頭葉、小脳で血流低下 eZIS疾患 て判断する上でとても重要な情報が得られます。
特異領域解析3指標とも陰性(図4) *7 MMSE:ミニメンタルステイト検査(Mini Mental State Examination)
本人に質問した結果得られた答えの点数を使って認知症の有無を判断する
方法。MMSEは30点満点で、24点未満だと認知症が疑われる。

3 「リハビリテーション科(脳神経外科)外来」
での診療から (伊古田俊夫)

 当院では、脳神経外科専門医(認知症サポート医)がリハ
ビリテーション科外来として脳卒中や頭痛、認知症など脳神
経疾患の診療を行っています。徐々に認知症の比重が高まっ
ていますが、新患は予約なしで診察しています。診察は問診、
簡易知能検査(HDS-R、MMSEなど)
、MRIまたはCT検査、
採血などの一般検査を施行し、予約で脳血流SPECT検査など
を実施しています。また治療は薬物療法、リハビリテーショ
ンが中心です。またMSWによる介護サービス・施設入所相談
(図4)脳血流SPECT検査:側頭葉と小脳で血流低下
アルツハイマー型の特徴と一致しない も行っています。最近の症例を紹介しつつ解説させていただ
きます。
 初診時でアルコール性の脳機能障害を疑い、まずは断酒指
導とビタミン剤の投与を行いました。その後、一時的に廃用 [症例5]64歳 男性 アルツハイマー型認知症
傾向を認めましたが、断酒の継続に加えて、ラジオ体操、新  主訴は方向感覚が悪くなった、もの忘れもひどくなったと
聞コラムの書き取りなどを続けた結果、その翌年9月には いうことで受診されました。車に乗る時どこがドアだか分か
HDS-R27点にまで回復しました。 らない、家に入るとき玄関がどこだ
 最近の内外の研究では、医療機関を受診したMCIの約半数 か分からない、ゴミ捨ても一人では
が4年以内にアルツハイマー型認知症に進行すること、一方 できないなどが認められました。
でMCIの2∼3割は回復することなどがわかってきています。   神 経 学 的 な 異 常 は 目 立 た ず、
いうなればアルツハイマー型認知症の早期診断と、他のタイ HDS-R19点、MMSE18点です。特
プの認知症との鑑別が重要なのです。 徴は図形の模写がほぼ完全に不可能
 アルツハイマー型認知症 で(図5)
、立体感覚も消失していま
に移行しやすいMCIの特徴 す。線分二等分試験*8は可能でした。
としては①健忘主体である、 *8 線分二等分試験:水平な直線の真中に印を ( 図5) 不 完 全 な 図 形 模 写
(MMSE)
付ける検査、半側空間無視の場合偏向する。
②複雑な作業の遂行に障害
が見られる、③脳画像で海
馬領域の萎縮を認める、④   脳MRIで は 冠 状 断 で
脳血流SPECT検査で後部帯 右海馬、扁桃体萎縮(図
状回や楔前部の血流低下を 6)を、脳血流SPECT
認める、といわれています。 検査ではアルツハイ
③、④はアルツハイマー型 R L R L
マーに特徴的な頭頂葉
(図6)脳MRI水平断と冠状断 右海馬、扁桃体
認知症の特徴でもあります に一致する強度の血流 萎縮
にもフィットすることなく経過しています
(図8)。

[症例7]57歳 男性 血管性認知症
 40歳頃脳出血に罹患(詳細不明)
、今回被殻出血を起こし、
リハビリテーションにて運動機能は回復したが認知機能は低
下 し ま し た。 軽 度 右 片 麻 痺 を 認 め る が 階 段 昇 降 可 能、
HDS-R7点、見当識、記銘力、言語の流暢さなど強く低下。
病識はある程度保たれ、独居困難でグループホーム入居を喜
びました。易怒性あり。
 MRI(図9)では左視床が大きく損傷を受けており、40歳
頃の脳出血が視床出血であったことが推測されました。今回
の被殻出血の跡も認められ、同時に海馬・扁桃体・海馬傍回
の萎縮をみます。脳血流SPECT検査(図10)では基底核部、
(図7)脳血流SPECT検査 右頭頂葉の著明な血流低下 左前頭葉、側頭葉、左帯状回などに強く血流低下を認め、脳
出血を起こした場所の血流低下とともに記憶や判断を行う脳
低下を認めます。また側頭葉内側部にも低下を認めます(図 の部位の機能低下が疑われました。
7)。アルツハイマー型認知症と診断し、アリセプトを投与、  血管性認知症は脳血管障害後に発生しますが、大切なこと
一定の改善を認め先に述べた行為(ゴミ捨て、散歩など)が は、脳血管障害後遺症をかかえていても再発と無関係に徐々
一人で可能となりました。また認知機能リハビリテーション に認知症が出現する場合は、血管性認知症ではなくアルツハ
(作業療法)を実施しています。 イマー病などの合併が
 本例は脳血流SPECT検査の診断的意義をしっかりと確認し 疑われることです。そ
た症例で、以後私は認知症診断にこの検査を不可欠なものと の場合、アリセプトの
考えるようになりました。 適応となり得ます。

[症例6]60歳 女性 ピック病 R L R L

 脳卒中後遺症を持つ夫への暴力行為があり、区の保健師の (図9)脳MRI水平断と冠状断 左視床の損傷

すすめで受診しました。スーパーのレジで順番待ちしている
人を無視して割り込んで会計を求めたり、ゴミ捨てのルール
を無視してゴミ出しをする、また買い物した食品の生ものを
冷蔵庫へ入れず、缶詰を冷蔵庫へいれるなどちぐはぐな行為
が目立つ。腐敗した食品で平気で夕食を作り、家の掃除はで
きていない。HDS-R15点、図形感覚・立体感覚は良好です。
 脳 MRIでは側頭葉の萎縮が高度で、海馬・扁桃体は痕跡程
度認めるのみです。脳血流 SPECT検査は MRI所見にほぼ一
致して、右側頭葉と頭頂に強度な血流低下を示し、ピック病
と診断しました。いかなる薬剤も効かず、リハビリテーション

(図10)脳血流SPECT検査 基底核部・左前頭葉・側頭葉・左帯状回の血流低下

[症例8]79歳 男性 せん妄状態
 消化器癌末期を迎えたアルツハイマー型認知症です。病棟
を変った時期から夜間不眠・不穏に陥りました。癌による痛
みは訴えませんでしたが全身倦怠感などは相当感じていたと
思われます。せん妄状態と診断し、短時間型睡眠導入剤、セ
レネースなどを少量投与し一定の落ち着きを得ました。日中
覚醒時のHDS-R8点、記銘力、見当識ともに顕著に低下して
いました。夜間不穏時の意識状態は「意識混濁」と判断され

(図8)脳血流SPECT検査 右側頭葉と頭頂に強度な血流低下
ました。
 脳CTでは基底核部に1−2ヶの陳旧性ラクナを認め、全般 有用な方法となる可能性を感じています。
性脳萎縮を認めました。せん妄がある程度軽快した時期の(し
かし夜間不穏は存在した)脳血流SPECT検査(図11)では  以上最近の症例をもとに説明と紹介をさせていただきまし
アルツハイマーパターンに加え、両側前頭葉(特に左)、上部 た。他にもレビー小体型認知症、タイプ不明の40歳代認知症、
脳幹の血流低下が観察されました。 ミトコンドリア脳筋症、各種脳血管障害に伴う認知症、神経
難病に伴う認知症などを経験しています。別の機会に紹介さ
せていただきたいと思っています。

4 おわりに

 「脳血流SPECT検査」
「アリセプト」「知的機能リハビリ」
の三者の登場で認知症の診療は若干の進歩を遂げたと実感し
ています。特に脳血流SPECT検査は当院のような一般病院で
も、様々な脳疾患の脳内病態を探求することを可能としてく
れました。そのため「軽度記憶障害」「せん妄」「無気力状態」
といった解析困難だった状態の解析がある程度可能となり、
診療そのものの水準が向上したのではと考えています。
(図11)脳血流SPECT検査 両側前頭葉・上部脳幹の血流低下

 せん妄発生時に脳の中で何が起きているのか? 実はあま
り研究はなされていません。せん妄は、上部脳幹から基底核、
大脳辺縁系、大脳皮質など広範な領域を巻き込んだ病態で、
● 問合先 ●

機能低下を主体としながら部分的には機能亢進を伴う病態で 認知症診断治療、脳血流SPECT検査を希望される場
す。ノルアドレナリンやアセチルコリン作動ニューロンシス 合は、「勤医協中央病院 医療連携室」へお問合せくだ
さい。
テムは機能低下に陥りますが、ドパミン作動ニューロンシス
   電 話 011-787-7037(直通)
テムは亢進している可能性が推定されています。私どもでは、    F A X 011-784-2735(直通)
せん妄という病態を脳血流SPECT検査で解析する試みを行っ
ていますがこれまでに5例施行し、両側前頭葉、上部脳幹、 勤医協メンタルクリニック東 受診希望の場合は直接
クリニックへお願いします。
視床下部を含む脳中心部の血流低下という所見を観察してい
   電 話 011-789-6100
ます。他部の変化は多彩で一定の傾向はありません。せん妄
   F A X 011-787-0750
の診断は意外に難しいことがありますが脳血流SPECT検査が

筆者プロフィール 筆者プロフィール
名誉院長 伊古田 俊夫  メンタルクリニック東 副所長 田村 修
1975 北大医学部卒 1988 旭川医大医学部卒
北大脳神経外科、国立循環器病センター脳 勤医協中央病院(内科研修)、札幌丘珠病院、
神経外科などを経て 千葉県精神科医療センターなどを経て
1984 勤医協中央病院脳神経外科科長 2001 勤医協札幌丘珠病院精神科科長
1995 勤医協札幌丘珠病院副院長 2008 勤医協メンタルクリニック東 副所長
2001 勤医協中央病院院長 勤医協中央病院 精神科(リエゾン科)科長
2008 同 名誉院長 回復期リハビリ病棟診療部長 兼務

専 門 脳血管障害 認知症 専 門 コンサルテーション・リエゾン


日本脳神経外科学会専門医 認知症サポート医 精神保健指定医
日本精神神経学会専門医(同指導医)
趣 味 サッカー観戦 旅行 日本総合病院精神医学会専門医(同指導医)
日本医師会認定産業医
ブログ 「脳の不思議を追いかけて」http://blogs.yahoo.co.jp/brainandaging
(勤医協中央病院HPトップページからも入れます) 趣 味 日ハム観戦 音楽 釣り
近 況 病院長を降り、再び専門医としてもうひと踏ん張りしようと考えていま 近 況 コメディカルのチーム力に支えられながら診療しています。中央病院で
す。世は認知症の時代、今後15年間高齢化はハイスピードで進行しま の臨床研修指導にも携わっていますが、そこでも研修医はじめ若手ス
すが認知症老人もハイスピードで増加します。この分野で社会的貢献で タッフから、多くの刺激を受けています。私も負けじと、日々之精進。
きるよう考えています。
シリーズ検査紹介

脳血流SPECT(スペクト)検査
SPECT:Single Photon Emission Computed Tomography
 脳血流SPECT検査は約1時間、音楽を聞いてゆったり寝ている間に撮影が終了する、とても静かな検査です。脳血管関門
(BBB)を通過できるごく微量の放射性物質を含む薬剤を少量注射し脳の断層撮影をします。その放射性薬剤の分布状態な
どから、脳の機能を見ていく検査で、通常の断層像のほかに、コンピュータ解析により局所脳血流量解析(3D-SRT)、三
次元脳血流統計解析(eZIS:イージス)、eZIS疾患特異領域解析、Two Tail View等の表示方法があります。
 3D-SRT画像では、各部の血流量を数値で表示していきます(図12)。eZIS像では、脳の血流を3次元の脳表上に表示し、
各脳皮質の機能と実際の血流との関係を観察します。eZIS疾患特異領域解析は、とくにアルツハイマー型認知症で血流低下
がみられる後帯状回、楔前部、頭頂葉の一部について解析したもので、初期アルツハイマー型認知症の診断などに使われま
す(図13)。Two Tail Viewは、血流増加部位と低下部位を同時に表示したもので、各種認知症の鑑別に使われます(図
14)。その他、うつ病、脳卒中など、脳の疾患に広く使用されています。

脳血流SPECT(スペクト)検査の流れと注意事項
①食事制限、薬物制限はありません。
②検査時間は約1時間です。
③注射は原則右腕からのみとなります。(右腕から注射できない
場合には定性検査となることがあります。)
④検査後の制限は何もありません。
⑤妊婦、授乳中の方にはできません。
(図12)3D-SRT画像 脳血流イメージの定量断層像 赤や黄で表示された部分が正常  ⑥検査薬は当日遠方から取り寄せて使いますので、万が一検査を
右頭頂葉で血流低下 キャンセルされる場合、遅くても前日の昼12時までにRI室に
連絡くださいますようお願いします。
⑦検査終了後、コンピュータによる画像処理を行なうため、検査
結果は後日、患者様のかかりつけの病院にお知らせ致します。
検査結果は、フィルムとカラープリントで、脳血流断層画像、
3D-SRT画像、eZIS画像、eZIS疾患特異領域解析レポート、
eZIS Two Tail View画像、検査結果レポート、解析説明書な
どをまとめてお送りします。
⑧検査料は健康保険1割負担の方で6300円程となります。

(図13)三次元脳血流統計解析 
(eZIS:イージス)の3D像と断層像 アルツハイマー
型認知症の特徴 頭頂葉・側頭葉の血流低下

RI検査についての詳しいお問合せは当院医療連携室または、放射線科
(011−782−9067)RI室までご連絡お願いします。

勤医協中央病院「医療・福祉宣言(理念)

2003年1月31日作成
2007 年8月 2日改定

私たち勤医協中央病院は、地域の人々に支えられ、この地域に
なくてはならない病院として発展していくことを目指し、ここ
に「勤医協中央病院 医療福祉宣言」を発表し、
「勤医協綱領」
に基づき、その実現に努めます。
1.安全・安心で納得のいく医療・福祉をすすめます。
2.地域・友の会とともに健康で住みやすいまちづくりをめざ
(図14)eZIS Two Tail Viewの3D像と断層像 血流低下(青)亢進(赤)
 の双方が示 します。
される 3.互いに学び成長する職場・病院づくりに努力します。
委 員 会 紹 介

NST(Nutrition Support Team)委員会


外科副科長 委員長 樫山 基矢
 ついつい目先の病態に捉われて、根底にある栄養障害に気付かない事は意外と多いのではないで
しょうか。感染症も術後の回復も密接に栄養と関わっています。
 NST(Nutrition Support Team)は患者さんの栄養状態を改善して、感染症や手術侵襲などを乗
り切ろうという事を目的としています。最近の流れである他職種の合同のチームなので医師、栄養士、
検査技師、看護師、言語聴覚士、薬剤師、WOC(創傷・オストミー・失
禁看護)ナースなど、いままでは話をしないような部門の方と1人の患者
さんについて話し合って方針を出します。最新のevidenceに基づいて
討議しますが高齢者や認知症が多い昨今、倫理的検討会も欠かせません。
 当院では2005年からNSTの活動を開始し、既に学会の認定を受け、
今年からは専門療法士の教育施設として受け入れも開始する予定です。
最近では市内の施設や病院などからも胃ろうのトラブルや難治性の下
痢などで患者さんを紹介していただいくケースも増えています。胃ろ
うや経腸栄養ばかりではなく最終的にはおいしい食事を口から摂る事
が目標ですから、ST(言語聴覚士)や耳鼻科Drとも連携を取りながら
関わっていきます。困った症例など是非ご相談ください。 多職種によるカンファレンスは毎週開催

 今年度の写真を担当することになりました、松浦です。1年間よろしくお願いします。
表紙の写真  私は、名古屋に生まれ、名古屋で育ちましたが、医学生時代に初めて北海道旅行した時に、
その雄大さと美しさに魅了され、北海道移住を決意しました。大学卒業と同時にこちらにきて
8年になります。しかし、実際に住んでみると、学生時代のほうが道内各地を色々と旅行でき
ていたような気がします。
 写真は滝上公園の芝桜です。山一面にピンクの絨毯が広がり、木々
の緑と抜けるような青空と遠く天塩山地の残雪のコントラストが素晴
らしく、夢中で写真を撮りました。私が北海道に来て驚いたことの一
つに、北海道では4月下旬ごろから一斉に花が咲き始めるということが
あります。水仙も梅も桜も桃もつつじも一斉に咲き始めます。名古屋
では2月に水仙、3月に梅、4月上旬に桜、下旬に桃、5月につつじと
いうように徐々に春がやってくる感じがありましたが、北海道では長
春・満開 い冬を耐え忍び、春を迎えた喜びを一斉に謳歌するように一気に花が
[写 真]松浦 武志 咲き始めます。北海道のエネルギーが一番感じられ、輝いている季節 内科医長 総合診療
[撮影地]滝上公園 だと思います。 松浦武志

サンワドー コープ セブン

編集後記
さっぽろ イレブン
札樽自動車道 伏古IC
勤医協中央病院

札幌新道 勤医協伏古10条
クリニック びっくり
 今年の冬の感激はやはりWBCでしょう。野球に燃えたのは駒沢苫小牧高校以来 新道ひまわり薬局
ドンキー
勤医協メンタル
かもしれません。なんちゃって応援団ですが、負けてもまた挽回するしぶとさは クリニック東 勤医協札幌ふしこ歯科診療所
ひまわり薬局
かっこいい!としっかりTV観戦三昧。シーズン終了後公式球しか握らなかったダ
苗穂通

東在宅
ルビッシュなどそれぞれの活躍も素晴らしいが、何と言っても感服するのはチーム 総合センター

ワーク。日に日にチームが強固になり、力をあわせて点数をとっていく。野球観戦
だけでなくWBC終了後のTV番組も、心の葛藤やチームを思いやる姿など何度見て
も楽しめた。チームワークは医療の現場も同じですね。今回の認知症医療チームも
多数の職種が関わっています。医師だけでなく集団で患者さんを見る有用性を改め ヴィクトリア 北ガス 回転寿し
ステーション ジェネックス トリトン ホンダカーズ
て感じました。(k)
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