Advance Publication by J-STAGE

日本機械学会論文集
Transactions of the JSME (in Japanese)

DOI:10.1299/transjsme.18-00415

Received date : 25 October, 2018

Accepted date : 18 March, 2019

J-STAGE Advance Publication date : 27 March, 2019

© The Japan Society of Mechanical Engineers

 炭素鋼 SM490B, 低合金鋼 SCM435, ステンレス鋼 SUS304 の水素誘起き裂進
展下限界値 KI,H に及ぼす水素ガス圧力の影響
松岡 三郎*1，吉田 聡子*2，飯島 高志*3，濱田 繁*4，松永 久生*4，山辺 純一郎*5

Effect of hydrogen-gas pressure on threshold of hydrogen-induced crack growth for carbon steel
JIS-SM490B, low-alloy steel JIS-SCM435 and stainless steel JIS-SUS304

Saburo MATSUOKA*1, Satoko YOSHIDA*2, Takashi IIJIMA*3, Shigeru HAMADA*4,

Hisao MATSUNAGA*4 and Junichiro YAMABE*5

*1, *2, *4
Kyushu University
744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka 819-0395, Japan
*3
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
16-1 Onogawa, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8569, Japan
*5
Fukuoka University
8-19-1 Nanakuma, Jonan-ku, Fukuoka 814-0180, Japan

Abstract
In order to clarify the effect of hydrogen-gas pressure on threshold of hydrogen-induced crack growth (KI,H), elasto-plastic
fracture toughness tests were performed on JIS-SM490B carbon steel, JIS-SCM435 low-alloy steel and JIS-SUS304 stainless
steel. For JIS-SM490B and JIS-SUS304, the values of KI,H at displacement rates of 2×10–5 and 2×10–4 mm/s were almost the
same in hydrogen at pressures of pH2 = 20, 45 and 115 MPa (KI,H ≒ 80 MPa·m1/2 for JIS-SM490B and 150 MPa·m1/2 for JIS-
SUS304). In contrast, for JIS-SCM435, the values of KI,H at displacement rates of 2×10–5 and 2×10–4 mm/s were the same in
hydrogen gas at pressures of pH2 = 20, 45 and 80 MPa (KI,H ≒ 100 MPa·m1/2); however, those of KI,H were degraded in 115-
MPa hydrogen gas (KI,H ≒ 50 MPa·m1/2). Based on the HISCG (Hydrogen Induced Successive Crack Growth) model, an
effect of pH2 on KI,H and an existence of KI,H were also discussed for JIS-SM490B, JIS-SCM435 and JIS-SUS304.

Keywords: Threshold of hydrogen-induced crack growth, Carbon steel, Low-alloy steel, Austenitic stainless steel,
High-pressure hydrogen gas

1. 緒 言

燃料電池自動車が発売され，水素ステーションが全国の約 100 個所で設置されるなど，水素エネルギーの普及

が現実味を帯びてきた．この流れを確実なものにするためには，水素機器の安全性向上と経済性向上を両立させ
ることが不可欠である．経済性向上のためには，炭素鋼や低合金鋼，準安定オーステナイト系ステンレス鋼とい
った水素脆化の懸念があるものの安価な材料を安全に使いこなすことが必要である．そのためには，水素ガス中
における各種材料の強度データの集積ならびに水素脆化メカニズムの解明が不可欠である．水素機器の設計にお
いては，材料選択のために低ひずみ速度引張（SSRT：Slow Strain Rate Tensile）特性，疲労寿命計算のために疲労
寿命特性，疲労き裂進展寿命計算のために疲労き裂進展特性と水素誘起き裂進展下限界値 KI,H が必要となる（松
岡他，2017）
．これまで，NASA の水素脆化データ（69 MPa 水素ガス中の各種材料の引張特性）
（NASA, 1997）が
No.18-00415 [DOI: 10.1299/transjsme.18-00415]
*1
正員，九州大学 水素材料先端科学研究センター（HYDROGENIUS） （〒819-0395 福岡県福岡市西区 744）
*2
九州大学 水素材料先端科学研究センター（HYDROGENIUS）
*3
産業技術総合研究所（〒305-8569 茨城県つくば市小野川 16-1 つくば西）
*4
正員，九州大学大学院 工学研究院 機械工学部門
*5
正員，福岡大学 工学部機械工学科（〒804-0180 福岡県福岡市城南区七隈 8-19-1）
E-mail of corresponding author: matsunaga.hisao.964@m.kyushu-u.ac.jp

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 Table 1 Chemical composition.
(a) SM490B

(b) SCM435

(c) SUS304

Table 2 Mechanical properties.

*：Large-sized material

用いられてきたが，さらに SSRT 特性，疲労寿命特性，疲労き裂進展特性および破壊靭性が，純鉄（Shinko et al.,

，炭素鋼（吉川他，2014）
2019） （Matsunaga et al., 2015）
，ラインパイプ鋼（Somerday et al., 2013）
，低合金鋼 SCM435，
（Yamabe et al., 2016）
SNCM439（宮本他，2012） （松岡他，2017）
，ステンレス鋼 SUS304，SUS316，SUS316L（Han
（San Marchi et al., 2010）
et al., 1998） （Ohmiya and Fujii et al., 2012）
（山田，小林，2012）
（井藤賀他，2013）
（Matsuoka
et al., 2016）で集積されている．一方，安全向上のためには，水素脆化メカニズムの解明が重要である．最近では，
水素脆化は主として格子脆化説（Lattice Decohesion）
（Troiano, 1960）と局所変形助長説（HELP：Hydrogen Enhanced
（Beachem, 1972）
Localized Plasticity） （Tabata and Birnbaum, 1983）
（Birnbaum and Sofronis, 1994）で説明されている．
Lattice Decohesion は，水素の侵入により原子間結合力が低下し，脆化破壊が起きやすくなると考える説である．
HELP は，水素が塑性変形を容易にし，局所的な変形が生じるため，結果としてマクロ的に
は小さい変形で破壊すると考える説である．著者らは，HELP と同様に水素脆化は延性破壊であるとの観点に
立ち，水素による疲労き裂進展の加速機構として水素助長継続疲労き裂進展機構（HESFCG：Hydrogen Enhanced
（Matsuoka et al., 2011）
Successive Fatigue Crack Growth）を提案した（松岡他，2008） ．さらに，疲労き裂進展速度
の加速は，試験周波数が低くなると大きくなるが，飽和し，上限値が存在することを明らかにした．その後，
HESFCG を発展させ，高圧水素ガス中の SSRT 表面き裂，疲労き裂，弾塑性破壊靭性き裂（JIc き裂）および水素
誘起き裂（KI,H き裂）は全て延性き裂であり，その進展は水素誘起継続き裂進展機構（HISCG：Hydrogen Induced
．一方，水
Successive Crack Growth，付録を参照）により統一的に解釈できることを示した（Matsuoka et al., 2016）
素ステーションや燃料電池自動車において水素機器の使用環境を考えると，100 MPa 前後の高圧水素ガス中の強
度特性に加えて，低圧の水素ガス中の強度特性も必要となる．これまで，疲労き裂進展特性の水素ガス圧力依存
性については，炭素鋼 SM490B（吉川他，2014）と低合金鋼 SCM435（宮本他，2012）を対象として 0.7～115 MPa
水素ガス中で調査された例がある．しかし，他の強度特性の水素ガス圧力依存性については十分に調べられてお
らず，不明な点が多く残されている．
本研究では，炭素鋼 SM490B，低合金鋼 SCM435 および準安定オーステナイト系ステンレス鋼 SUS304 の水素
誘起き裂進展下限界値 KI,H に及ぼす水素ガス圧力の影響を調べる．また，HISCG をもとに破壊靭性き裂進展また
は水素誘起き裂進展と疲労き裂進展の関係を調べ，KI,H の水素ガス圧力依存性と KI,H の存在について検討する．

2. 実験方法

2・1 供試材
表 1 と表 2 に本研究で使用した炭素鋼 SM490B，低合金鋼 SCM435，ステンレス鋼 SUS304 の化学成分と機械
的性質を示す．SM490B（Heat D）の素材は板厚 17 mm の熱間圧延材である．SCM435（Heat K）は，前報（松岡
他，2017）
（松岡他，2018）で報告した大型材（Large-sized material）である．なお，大型材は 35 MPa 蓄圧器（外
径 357 mm，肉厚 25.2 mm）から直接採取された素材であり，採取後の小片に再熱処理を施した小型材（Small-sized

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 Fig. 1 Shape and dimensions in mm of CT specimen.

material）に比べて粗い組織を有している．SUS304（Heat E）の素材は板厚 30 mm の熱間圧延材である．微視組織

は SM490B でフェライト・パーライト，SCM435 で焼戻しマルテンサイト，SUS304 でオーステナイトである．

2・2 破壊靭性試験
前報（松岡他，2018）では，低合金鋼 SCM435（Heat K）の大型材と小型材を用い，ASTM E1820（ASTM，2011）
に規定されている弾塑性破壊靭性試験（JIc 試験）
，JIc 試験で除荷部分を取り除いた除荷なし JIc 試験および ASME
KD-10（2010 ASME BPVC SECTION VIII-DIVISON 3 ARTICLE KD-10，2010）で規定されている定荷重試験と定
変位試験を行い，大気中の KIc と 115 MPa 水素ガス中の KI,H を求める方法を検討した．その結果，CT 試験片が大
規模降伏状態にあるときには JIc 試験が有効であり，小規模降伏状態にあるときには除荷なし JIc 試験が有効であ
ることが明らかとなった．そこで，ASTM E1820 で指定されている図 1 のサイドグルーブ付き CT 試験片を用い，
JIc 試験と除荷なし JIc 試験を行った．サイドグルーブは開き角 45°，深さ 1.1 mm，先端曲率半径 0.5 mm の V 溝で
ある．試験片の厚さは B = 14.9 mm であり，V 溝底部の板厚は BN = 12.7 mm である．試験片には，長さ 5.1 mm の
疲労予き裂を応力拡大係数範囲 ΔK = 20 MPa·m1/2，応力比 R = 0.1 の条件で導入した．試験には 120 MPa 水素ガス
中油圧サーボ疲労試験機を使用した．
水素ステーションや燃料電池自動車において水素機器の使用環境を考えると，100 MPa 前後の高圧水素ガス中
の強度特性に加えて，低圧の水素ガス中の強度特性も必要となる．高圧ガス保安法の例示基準の見直し（経済産
業省，2014）において，ガス圧力の最小値が 20 MPa に改められた．そこで，KI,H の水素ガス圧力依存性を調べる
ため，水素ガス圧力 pH2 = 20，45，80，115 MPa を選択した．試験に用いた水素ガスの純度は 5N（99.999 %）で
あり，酸素量 1 vol. ppm 未満，水分量 2.6 vol. ppm 未満が保証されている．
水素ガス中の変位速度は V = 2 × 10–5 と 2 × 10–4 mm/s とした．これは，前報（松岡他，2018）において，115 MPa
水素ガス中で SCM435 の大型材と小型材の KI,H を V = 2 × 10–5～2 × 10–1 mm/s で求めたところ，V = 2 × 10–5，2 ×
10–4，2×10–3 mm/s の KI,H がほぼ同等であったことによる．また，カナダ規格 CHMC 1（ANSI/CSA, CHMC 1-2014，
2014）では，ASTM E1820 で規定されている JIc 試験を水素ガス中で行う際の応力拡大係数速度 k として，k = 0.1
～1 MPa·m1/2/min が指定されている．本研究で使用した油圧サーボ試験機の荷重 P（kN）とアクチュエータ変位
δ（mm）の間には P = 28 × δ の関係があるので，V = 2 × 10–5 と 2 × 10–4 mm/s は k = 0.11 と 1.1 MPa·m1/2/min に相当
する．一方，大気中の試験においては V = 2 × 10–3 mm/s とした．

3. 実験結果および考察

3・1 KI,H の pH2 依存性

図 2～図 4 に各材料の JIc 試験で得られた荷重とき裂開口変位の関係（P-COD 曲線）を示す．大気中試験におけ
る変位速度は V = 2 × 10–3 mm/s，水素ガス中試験における変位速度は V = 2 × 10–4 mm/s である．SM490B と SUS304
については，20，45 および 115 MPa の水素ガス中で JIc 試験を行ったが，図 2 と図 4 には 20 と 115 MPa のみの結
果を示している．SCM435 については，20，45，80，115 MPa の水素ガス中で JIc 試験または除荷なし JIc 試験を行
った．図 3 にはすべての水素ガス圧力下で得られた P-COD 曲線を示している．これらの SCM435 の P-COD 曲線

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 60 60 SM490B, Heat D
SM490B, Heat D
Room temperature Room temperature
50 50

Load P [kN]
Load P [kN]

40 40
-3
-3
In air, v = 2×10 mm/s In air, v = 2×10 mm/s
30 30
LSY LSY
20 20
-4
-4
In 20 MPa H 2, v = 2×10 mm/s In 115 MPa H 2, v = 2×10 mm/s
10 10 SSY
SSY
P≦16.4 kN (a/W = 0.5) P≦16.4 kN (a/W = 0.5)
0 0
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
COD [mm] COD [mm]
(a) In 20 MPa H2 (b) In 115 MPa H2
Fig. 2 Relationships between load and crack opening displacement (P-COD curves) of SM490B.SSY is small scale yielding,
and LSY is large scale yielding.

60 60
SCM435, Heat K -3 SCM435, Heat K -3
Room temperature In air, v = 2×10 mm/s In air, v = 2×10 mm/s
Room temperature
50 50
Load P [kN]

Load P [kN]
40 40
LSY LSY
30 30
SSY SSY
-4
20 In 20 MPa H 2, v = 2×10 mm/s P≦31.8 kN 20 -4
In 45 MPa H 2, v = 2×10 mm/s P≦31.8 kN
(a/W = 0.5) (a/W = 0.5)
10 10

0 0
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
COD [mm] COD [mm]
(a) In 20 MPa H2 (b) In 45 MPa H2
60 60
SCM435, Heat K -3 SCM435, Heat K -3
In air, v = 2×10 mm/s Room temperature In air, v = 2×10 mm/s
Room temperature
50 50
Load P [kN]
Load P [kN]

40 40
LSY LSY
30 30
SSY In 115 MPa H2 SSY
-4
20 P≦31.8 kN 20 v = 2×10 mm/s P≦31.8 kN
(a/W = 0.5) (a/W = 0.5)
-4 95％ Secant line
In 80 MPa H 2, v = 2×10 mm/s
10 10

0 0
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
COD [mm] COD [mm]
(c) In 80 MPa H2 (d) In 115 MPa H2
Fig. 3 Relationships between load and crack opening displacement (P-COD curves) of SCM435.SSY is small scale yielding,
and LSY is large scale yielding.

から，20，45 および 80 MPa の水素ガス中では大規模降伏（LSY：Large Scale Yielding）のもとで JIc 試験，115 MPa

水素ガス中では小規模降伏（SSY：Small Scale Yielding）のもとで除荷なし JIc 試験が行われたことがわかる．SSY
と LSY の判定は，ASTM E647（ASTM，2013）を参照して行った．次式が満たされると，CT 試験片のき裂先端
において SSY が成立する．

2
4 𝐾𝐾
𝑤𝑤 − 𝑎𝑎 ≥ � � （1）
π 𝜎𝜎y

ここで，W – a は CT 試験片のリガメント幅（板幅：W = 50.8 mm，き裂長さ：a = 25.4 mm）

，K は応力拡大係数，
σy は降伏応力である．

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 図 5～図 7 に，図 2～図 4 で得られた J 積分値とき裂長さ増分 Δa の関係（J-Δa 曲線）を示す．図中には，V =
2 × 10–4 mm/s の J-Δa 曲線に加え，V = 2 × 10–5 mm/s の J-Δa 曲線も示している．ASTM E1820 にしたがうと，JIc 試
験で得られた J-Δa 曲線と 0.2 mm Offset line の交点からき裂発生に対応する Jin が求まる．Jin は次式を用いてき裂
発生に対応する Kin に変換できる．

𝐸𝐸 𝐽𝐽in
𝐾𝐾in = � （2）
1−𝜐𝜐2

ここで，E はヤング率，ν はポアソン比である．また，次式が満たされると，Jin は JIc となり，Kin は KIc となる．

𝐸𝐸𝐽𝐽in
𝐾𝐾f ≤ 0.6� , 𝐵𝐵, 𝑏𝑏0 ≥ 10 𝐽𝐽in⁄𝜎𝜎y （3）
1−𝜐𝜐2

ここで，Kf は疲労予き裂導入最終時の最大応力拡大係数，B は CT 試験片板厚（サイドグルーブ付き CT 試験片で

，b0（= W − a）はリガメント幅である．本研究では，a = 0.5W で JIc 試験を行ったので，b0 = 0.5W となる．
は BN）
また，式（3）が満たされない場合，Kin は暫定破壊靭性値 KQ となる．
一方，SCM435 の 115 MPa 水素ガス中のみで除荷なし JIc 試験を行った．図 3（d）に示すように，ASTM E399
（ASTM，2012）にしたがい，P-COD 曲線と 95 % Secant line の交点から P95%を決め，K95%を計算した．95% Secant
法では b（= W − a）の 2 %が Δa になる．除荷なし JIc 試験は b = 0.5W で行われ，W = 50.8 mm であるので，Δa =
0.5 mm となる．図 6（d）においては，式（2）で K95%から J95%を計算し，Δa = 0.5 mm のところに○と□をプロッ
トしてある．また，次式が満たされると，K95% = KIc となり，満たされないと，K95% = KQ となる．

60 60
SUS304, Heat E SUS304, Heat E
Room temperature Room temperature
50 50
Load P [kN]
Load P [kN]

40 40
-3 -3
In air, v = 2×10 mm/s In air, v = 2×10 mm/s
30 30

20 LSY 20 LSY

-4
10 In 20 MPa H 2, v = 2×10 mm/s 10 -4
In 115 MPa H 2, v = 2×10 mm/s SSY
SSY
P≦12.4 kN ( a/W = 0.5) P≦12.4 kN ( a/W = 0.5)
0 0
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
COD [mm] COD [mm]
(a) In 20 MPa H2 (b) In 115 MPa H2
Fig. 4 Relationships between load and crack opening displacement (P-COD curves) of SUS304.SSY is small scale yielding,
and LSY is large scale yielding.

1000 1000
SM490B, Heat D SM490B, Heat D
Room temperature Room temperature
800 800
0.15 mm 1.5 mm
0.15 mm 1.5 mm Exclusion line
Exclusion line 0.2 mm Exclusion line
0.2 mm Exclusion line
J [kJ/m ]
J [kJ/m ]

Offset line
2
2

Offset line 600

600

400 In 20 MPa H 2, v = 2×10 mm/s

-4 400
In 115 MPa H 2
-4
v = 2×10 mm/s ( )
-3 -3
200 In air, v = 2×10 mm/s 200 In air, v = 2×10 mm/s
-5
v = 2×10 mm/s ( )
0 0
0 0.5 1 1.5 2 2.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5
∆a [mm] ∆a [mm]
(a) In 20 MPa H2 (b) In 115 MPa H2
Fig. 5 Relationships between J integral and crack extension (J-Δa curves) of SM490B. Jin for tearing crack extension is defined
as the intersection of R curve and 0.2 mm offset line .

© The Japan Society of Mechanical Engineers

 1000 1000
SCM435, Heat K 1.5 mm SCM435, Heat K
Room temperature Exclusion line Room temperature
800 800
-3 -3
In air, v = 2×10 mm/s In air, v = 2×10 mm/s
J [kJ/m ]

J [kJ/m ]
2

2
600 0.15 mm 0.2 mm 600 0.15 mm 0.2 mm 1.5 mm
Exclusion line Offset line In 20 MPa H2 Exclusion line Offset line Exclusion line
-4
v = 2×10 mm/s ( )
400 400 In 45 MPa H2
-4
v = 2×10 -5 mm/s ( )
v = 2×10 mm/s ( )
-5
200 v = 2×10 mm/s ( ) 200

0 0
0 0.5 1 1.5 2 2.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5
∆a [mm] ∆a [mm]
(a) In 20 MPa H2 (b) In 45 MPa H2
1000 1000
SCM435, Heat K SCM435, Heat K
Room temperature Room temperature
800 800 -3
-3 In air, v = 2×10 mm/s
In air, v = 2×10 mm/s
J [kJ/m ]

J [kJ/m ]
2

2
600 0.15 mm 0.2 mm 1.5 mm 600 0.15 mm 0.2 mm
Exclusion line Offset line Exclusion line Exclusion line Offset line
1.5 mm
Exclusion line
400 400
In 80 MPa H2
-4
v = 2×10 -5 mm/s ( )
v = 2×10 mm/s ( ) In 115 MPa H 2
200 200 -4
v = 2×10-5 mm/s ( )
v = 2×10 mm/s ( )
0 0
0 0.5 1 1.5 2 2.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5
∆a [mm] ∆a [mm]
(c) In 80 MPa H2 (d) In 115 MPa H2
Fig. 6 Relationships between J integral and crack extension (J-Δa curves) of SCM435. Jin for tearing crack extension is defined
as the intersection of R curve and 0.2 mm offset line .

1000 1000
SUS304, Heat E SUS304, Heat E
Room temperature Room temperature
800 800
0.15 mm 0.15 mm
Exclusion line 0.2 mm Exclusion line
0.2 mm 1.5 mm
J [kJ/m ]
J [kJ/m ]

Offset line
2
2

Offset line Exclusion line

600 600

400 400
1.5 mm
Exclusion line

200 200 In 115 MPa H 2

-4
In 20 MPa H 2, v = 2×10 mm/s
-4 v = 2×10-5 mm/s ( )
v = 2×10 mm/s ( )
0 0
0 0.5 1 1.5 2 2.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5
∆a [mm] ∆a [mm]
(a) In 20 MPa H2 (b) In 115 MPa H2
Fig. 7 Relationships between J integral and crack extension (J-Δa curves) of SUS304. Jin for tearing crack extension is defined
as the intersection of R curve and 0.2 mm offset line .

2
𝑃𝑃max⁄𝑃𝑃95% ≤ 1.1 , 𝑊𝑊 − 𝑎𝑎 ≥ 2.5�𝐾𝐾95% ⁄𝜎𝜎y � （4）

ここで，Pmax は P-COD 曲線における最大荷重である．

図 8 に KIc または KI,H の pH2 依存性を示す．図中の破線の意味については，3･2 項で後述する．大気中では，
SUS304 の JIc 試験のみにおいて式（3）の判定式を満たさなかった．そこで，大気中の SUS304 では Kin を KQ，大
気中の SCM435 と SM490B では Kin を KIc とした．水素ガス中においては，すべての材料の JIc 試験または除荷な
し JIc 試験で式（3）または式（4）の判定式を満たしたので，Kin または K95%を KIc とした．ただし，大気中での KIc
と区別するため，水素ガス中では KI,H と表記した．

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 300 300
SM490B, Heat D SCM435, Heat K
Room temperature In air ( KIc) Room temperature
250 250

KIC or KI,H [MPa・m ]

KIC or KI,H [MPa・m ]

1/2
1/2

In air ( KIc) w50.8 CT w26.3 CT

w50.8 CT
200 v (mm/s)-4 200 v (mm/s)-4 v (mm/s)-4
2×10-5 2×10-5 2×10-5
2×10 In H 2 (KI,H) 2×10 2×10
150 In H 2 (KI,H) 150

100 100
-0.098
KI,H = 151PH2
50 50 -0.111
KI,H = 173PH2
0 0
0 50 100 150 0 50 100 150
Hydrogen gas pressure, pH2 [MPa] Hydrogen gas pressure, pH2 [MPa]
(a) SM490B (b) SCM435
300
SUS304, Heat E
Room temperature
250
KIC or KI,H [MPa・m ]

In air ( KQ)
1/2

200
In H 2 (KI,H)
150

100 KI,H = 128

w50.8 CT
v (mm/s)-4
50 2×10-5
2×10
0
0 50 100 150
Hydrogen gas pressure, pH2 [MPa]
(c) SUS304
Fig. 8 Effect of hydrogen-gas pressure pH2 on fracture toughness KIc or KI,H. KI,H ≒ 80 MPa·m1/2 for SM490B, 100 MPa·m1/2
for SCM435 and 150 MPa·m1/2 for SUS304. These experimental values were almost predictable by broken lines.

図 8 に示すように，SM490B，SCM435，SUS304 において，大気中の KIc または KQ に比べ，水素ガス中の KI,H

は大幅に低下した．SM490B と SUS304 の V = 2 × 10–4 mm/s における KI,H は，pH2 = 20，45，115 MPa でほぼ同じ
になり（SM490B では KI,H ≒ 80 MPa·m1/2，SUS304 では KI,H ≒ 150 MPa·m1/2）
，pH2 依存性を示さなかった．ま
た，pH2 = 115 MPa では，V = 2 × 10–5 mm/s と V = 2 × 10–4 mm/s で KI,H は一致した．これより，pH2 = 20，45 MPa に
おいても，両速度における KI,H は等しくなると予測される．SCM435 では，V = 2 × 10–5 mm/s と V = 2 × 10–4 mm/s
において板幅 W = 50.8 mm の CT 試験片で得られた KI,H は pH2 依存性をほとんど示さなかったが，pH2 = 115 MPa
において板幅 W = 26.3 mm の CT 試験片で得られた KI,H（Iijima et al., 2015）
（Matsuoka et al., 2017）は W = 50.8 mm
の CT 試験片で得られた KI,H に対して約半分に低下した．次節では，このような KI,H の挙動を，HISCG（水素誘
起継続き裂進展機構）にもとづき検討する．

3・2 HISCG にもとづく KI,H の検討

付録の図 A1 で説明してあるように，HISCG にしたがうと，水素ガス中では疲労き裂と破壊靭性き裂または水
素誘起き裂は延性き裂として同じメカニズムで進展する．言い換えると，水素ガス中では，KI,H を求める JIc 試験
は応力比 R = 0 の 1 サイクルの疲労き裂進展試験と見なすことができる．また，図 9 に示すように，ASTM E1820
による 1 枚の CT 試験片を用いた JIc 試験は複数枚の CT 試験片を用いた JIc 試験に分解できる．これらの考えにも
とづき，図 5～図 7 における Δa が da/dN に相当するとして，式（2）を用いて J から応力拡大係数 ΔK を計算す
ると，図 5～図 7 のデータは図 10～図 12 の da/dN-ΔK 関係に変換できる．
図 10～図 12 中の記号（+と×）は大気中の疲労き裂進展（FCG：Fatigue Crack Growth）結果である．図中には，
実験結果をパリス則 da/dN = CΔKm で近似したものを青色の実線（―）で示している．ここで，C と m は定数であ
る．水素ガス中では，疲労き裂進展速度は加速するが，上限値が存在する（Matsuoka et al., 2016）
（松岡他，2008）
．
図 13 は水素ガス中の上限の疲労き裂進展速度(da/dN)H2, upper を大気中の疲労き裂進展速度(da/dN)air で基準化し，pH2
に対して示したものである．SM490B（吉川他，2014）と SCM435（宮本他，2012）
（Yamabe et al., 2016）では，
pH2 が高くなるほど，(da/dN)H2, upper/(da/dN)air は大きくなった．SUS304 の(da/dN)H2, upper/(da/dN)air は pH2 に依存せず，

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一定になった．図 10～図 12 中の赤色の実線（―）は，水素ガス中における上限の da/dN-ΔK 関係である．これら
の関係は，大気中のパリス則 da/dN = CΔKm の定数 C に図 13 の(da/dN)H2, upper/(da/dN)air を掛けて求めた．また，参
考のために，R = 0.1，f = 1 Hz のもとで各々の pH2 で求めた疲労き裂進展試験結果を塗りつぶしの三角形記号（▲）
で示した．
さらに，図 10～図 12 には図 5～図 7 の JIc 試験，すなわち J-Δa 曲線を変換して求めた da/dN-ΔK 関係を白抜き
記号で示した．水素ガス中における SM490B（図 10）と SUS304（図 12）の場合，JIc 試験結果（○，△，○，◇）
は，pH2 と V に依存せず，疲労き裂進展試験による上限の da/dN-ΔK 関係（―）とほぼ一致した．このことは，水
素ガス中では疲労き裂と破壊靭性き裂または水素誘起き裂は同じメカニズム，すなわち HISCG で進展すること
を示唆している．
図 5 と図 7 では，J-Δa 曲線と 0.2 mm Offset line の交点から大気中の KIc または KQ と水素ガス中の KI,H を求めて
いるが，KI,H は Δa = 0.2 mm 付近で求まっている．これより，図 10 と図 12 において，上限の da/dN-ΔK 関係（―）
で da/dN = 2 × 10–4 m/cycle に対応する ΔK を破線で図 8（a）と（c）に示した．具体的には，図 10 から図 12 中に
示す大気中の da/dN-ΔK 関係（パリス則）と図 13 中の(da/dN)H2,upper/(da/dN)air-pH2 関係を用いると，水素ガス中の上
限の(da/dN)H2,upper-ΔK 関係が得られる．この関係において，(da/dN) H2,upper = 2 × 10–4 m/cycle を代入すると，図 8 中
に示す予測式すなわち破線が得られる．破線で示した SM490B と SUS304 の da/dN = 2 × 10–4 m/cycle に対応する
ΔK は水素ガス中の JIc 試験で求めた KI,H とおおよそ一致しており，KI,H は水素脆化メカニズムの変化を示す特性
値ではないといえる．この結果は，SM490B と SUS304 では KI,H は存在せず，水素機器の疲労き裂進展寿命計算
で考慮すべき特性値でないことを意味する．すなわち，SM490B と SUS304 製水素機器の疲労き裂進展寿命につ
いて，大気中の破壊靭性値 KIc が貫通き裂の応力拡大係数よりも大きい場合には，KI,H に配慮することなく，上限

Fig. 9 JIc tests with single CT specimen and multiple CT specimens.

FCG test
air, R = 0, f = 1­60 Hz (NRIM, 1980)
air, R = 0.1, f = 1 Hz (Yoshikawa et al., 2014)
90 MPa H2, R = 0.1, f = 1 Hz (Yoshikawa et al., 2014)
JIC test -3
air, v = 2×10 mm/s -4
20 MPa H2, v = 2×10-4 mm/s
45 MPa H2, v = 2×10 -4mm/s
115 MPa H2, v = 2×10-5 mm/s
115 MPa H2, v = 2×10 mm/s
-2
10
SM490B, Heat D
Room temperature
Fatigue crack growth rate da/dN [m/cycle]

-3
10 115 MPa H2, -11 3.29
da/dN = 6.21×10 ∆K

-4 20 MPa H ,
10 2 -11 3.29
da/dN = 3.54×10 ∆K

-5
10

-12 3.29
-6 Air, da/dN = 2.00×10 ∆K
10

-7
10

-8
10
10 100 500
1/2
Stress intensity factor range ∆K [MPa・m ]

Fig. 10 da/dN-ΔK relationships of SM490B obtained by FCG and JIC tests in air and 115 MPa hydrogen gas. JIc test results (○,
△, ○, ◇) were on the extension of upper fatigue crack growth test result (―).side.

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のパリス則 da/dN = CΔKm を初期き裂長さからき裂が肉厚を貫通するときの最終き裂長さまで積分して寿命を求
めればよい．
一方，図 11 に示す水素ガス中の SCM435 において，pH2 が低く，V が大きい場合には，JIc 試験結果（○，◇）
は上限の da/dN-ΔK 関係（―）と一致する傾向を示した．しかし，pH2 が高く，V が小さくなると，JIc 試験結果は
上限の da/dN-ΔK 関係から大きく加速側に逸脱した．図 8（b）においても，破線で示す上限の da/dN-ΔK 関係（―）
で da/dN = 2×10–4 m/cycle に対応する ΔK と JIc 試験で求めた KI,H には差異が認められ，SCM435 において KI,H は水
素脆化メカニズムの変化を示す特性値であるといえる．このことは，SCM435 では KI,H が存在し，水素機器の安
全性を確保するために考慮すべき特性値であることを意味する．すなわち，き裂が肉厚を貫通する前に圧力サイ
クルによる最大応力拡大係数 Kmax が KI,H に達すると，上限のパリス則 da/dN = CΔKm から逸脱し，き裂進展が顕
著に加速する．よって，KI,H が存在するような今回の SCM435 の水素機器の疲労き裂進展寿命計算において，KI,H
が貫通き裂の応力拡大係数よりも小さい場合には，上限のパリス則 da/dN = CΔKm を初期き裂長さから Kmax = KI,H
となるき裂長さまでの積分によって寿命を求める必要がある．

FCG test FCG test

air, R = 0.1, f = 10 Hz (Miyamoto et al., 2012) air, R = 0.1, f = 10 Hz (Miyamoto et al., 2012)
10 MPa H2, R = 0.1, f = 1 Hz (Miyamoto et al., 2012) 40 MPa H2, R = 0.1, f = 1 Hz (Miyamoto et al., 2012)
JIC test -3
JIC test -3
air, v = 2×10 mm/s -4 air, v = 2×10 mm/s -4
20 MPa H2, v = 2×10-5 mm/s 45 MPa H2, v = 2×10-5 mm/s
20 MPa H2, v = 2×10 mm/s 45 MPa H2, v = 2×10 mm/s
-2 -2
10 10
SCM435, Heat K SCM435, Heat K
Room temperature Room temperature
Fatigue crack growth rate da/dN [m/cycle]

Fatigue crack growth rate da/dN [m/cycle]

-3 -3
10 10

-4 -4
10 10
20 MPa H2, 45 MPa H2, -11 3.07
-11
da/dN = 6.92×10 ∆K
3.07 da/dN = 9.14×10 ∆K
-5 -5
10 10

-12 3.07 -12 3.07

-6 Air, da/dN = 3.48×10 ∆K -6 Air, da/dN = 3.48×10 ∆K
10 10

-7 -7
10 10

-8 -8
10 10
10 100 500 10 100 500
1/2 1/2
Stress intensity factor range ∆K [MPa・m ] Stress intensity factor range ∆K [MPa・m ]
(a) 20 MPa H2 (b) 45 MPa H2
FCG test FCG test
air, R = 0.1, f = 10 Hz (Miyamoto et al., 2012) air, R = 0.1, f = 10 Hz (Miyamoto et al., 2012)
90 MPa H2, R = 0.1, f = 1 Hz (Miyamoto at al., 2012) 90 MPa H2, R = 0.1, f = 1 Hz (Miyamoto et al., 2012)

JIC test JIC test -3

-3
air, v = 2×10 mm/s -4 air, v = 2×10 mm/s -4
80 MPa H2, v = 2×10-5 mm/s 115 MPa H2, v = 2×10-5 mm/s
80 MPa H2, v = 2×10 mm/s 115 MPa H2, v = 2×10 mm/s
-2 -2
10 10
SCM435, Heat K SCM435, Heat K
Room temperature Room temperature
Fatigue crack growth rate da/dN [m/cycle]
Fatigue crack growth rate da/dN [m/cycle]

-3 -3
10 10

-4 -4
10 80 MPa H2, 10 115 MPa H2, -10 3.07
-10
da/dN = 1.11×10 ∆K
3.07 da/dN = 1.26×10 ∆K

-5 -5
10 10

-12 3.07
-6 -12
Air, da/dN = 3.48×10 ∆K
3.07 -6 Air, da/dN = 3.48×10 ∆K
10 10

-7 -7 w26.3 CT
10 10 v (mm/s)-4
2×10-5
2×10
-8 -8
10 10
10 100 500 10 100 500
1/2
Stress intensity factor range ∆K [MPa・m ]
1/2 Stress intensity factor range ∆K [MPa・m ]
(c) 80 MPa H2 (d) 115 MPa H2
Fig. 11 da/dN-ΔK relationships of SCM435 obtained by FCG and JIC tests in air and 115 MPa hydrogen gas. JIc test results (○,
◇) were deviated from the extension of upper fatigue crack growth test result (―) to the acceleration side.

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 図 10 と図 12 の低強度の SM490B と SUS304 のき裂進展挙動と図 11 の高強度の SCM435 のき裂進展挙動の相
違は，水素ガス中の疲労き裂や破壊靭性き裂が延性き裂であるとする HISCG や HELP に対して，脆性き裂であ
るとする Lattice Decohesion を考慮に入れると，明確になる．付録の図 A2 に示す 90 - 115 MPa 水素ガス中の疲労
き裂進展結果をもとにすると，低強度の SM490B（図 10）と SUS304（図 12）の JIc 試験結果（○，△，○，◇）
は pH2 と V に依存せず，かつ上限の疲労き裂進展結果（―）に一致していることから，KI,H き裂は延性き裂である
と考えられる．一方，高強度の SCM435（図 11）においては，pH2 が高くなり，V が遅くなるほど，JIc 試験結果は
上限の疲労き裂進展試験結果から加速側に大きく逸脱していることから，KI,H き裂進展は脆性き裂進展の影響を
強く受けると考えられる．
以上の HISCG や HELP に加え，Lattice Decohesio にもとづく KI,H の検討において，低強度の SM490B（σB = 537
MPa）と SUS304（σB = 612 または 628 MPa）では KI,H は存在せず，高強度の SCM435（σB = 824 MPa）では KI,H は
存在するとまとめられる．

FCG test
air, R = 0, f = 1­60 Hz (NRIM, 1986)
air, R = 0.1, f = 1 Hz
115 MPa H2, R = 0.1, f = 1 Hz
JIC test -3
air, v = 2×10 mm/s -4
20 MPa H2, v = 2×10-4 mm/s
45 MPa H2, v = 2×10 -4mm/s
115 MPa H2, v = 2×10-5 mm/s
115 MPa H2, v = 2×10 mm/s
-2
10
SUS304, Heat E
Room temperature
Fatigue crack growth rate da/dN [m/cycle]

-3
10

-4
10
20­115 MPa H 2, -11 3.00
da/dN = 8.29×10 ∆K
-5
10

-6 -11 3.00
10 Air, da/dN = 6.53×10 ∆K

-7
10

-8
10
10 100 500
1/2
Stress intensity factor range ∆K [MPa・m ]

Fig. 12 da/dN-ΔK relationships of SUS304 obtained by FCG and JIC tests in air and 115 MPa hydrogen gas. JIc test results (○,
△, ○, ◇) were on the extension of upper fatigue crack growth test result (―).

100
Room temperature
(da / dN)H2, upper / (da / dN)air

SCM435 0.343
(da/dN)H2,upper / (da/dN)air = 7.12pH2

10
SUS304
(da/dN)H2,upper / (da/dN)air = 12.7

SM490B 0.321
(da/dN)H2,upper / (da/dN)air = 6.77pH2

SM490B, Heat D
SCM435, Heat K
SUS304, Heat C
1
0.1 1 10 100 1000
Hydrogen­gas pressure, pH2 [MPa]
Fig. 13 (da/dN)H2,upper/(da/dN)air against hydrogen-gas pressure pH2.

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 4. 結論

炭素鋼 SM490B，低合金鋼 SCM435，ステンレス鋼 SUS304 を用い，水素ガス圧力 pH2 = 20，45，80，115 MPa，

変位速度 V = 2 × 10–5 と 2 × 10–4 mm/s のもとで弾塑性破壊靭性試験（JIc 試験）または除荷なし JIc 試験を行い，水
素誘起き裂進展下限界値 KI,H に及ぼす pH2 依存性を調べた．得られた結果は次のようにまとめられる．
（1）SM490B と SUS304 では，V = 2 × 10–4 mm/s の KI,H は pH2 = 20，45，115 MPa で同じになり，pH2 依存性を
示さなかった（SM490B で KI,H ≒ 100 MPa·m1/2，SUS304 で KI,H ≒ 150 MPa·m1/2）
．また，pH2 = 115 MPa
において，V = 2 × 10–4 mm/s と V = 2 × 10–5 mm/s の KI,H は一致した．SCM435 では，V = 2 × 10–5 mm/s と V
= 2 × 10–4 mm/s の KI,H は pH2 = 20，45，80 MPa で等しくなり，pH2 依存性をほとんど示さなかった（KI,H ≒
100 MP·m1/2）
．しかし，pH2 = 115 MPa では V = 2 × 10–5 mm/s と V = 2 ×10–4 mm/s の KI,H はほぼ半分に低下
した（KI,H ≒ 50 MP·m1/2）
．
（2）HISCG（水素誘起継続き裂進展機構）にもとづき，水素ガス中の JIc 試験結果を疲労き裂進展速度 da/dN と
応力拡大係数範囲 ΔK の関係に変換し，
水素ガス中の疲労き裂進展試験結果と比較した．
低強度の SM490B
（σB = 537 MPa）と SUS304（σB = 612 または 628 MPa）では，pH2 と V に関係なく，JIc 試験による da/dN-
ΔK 関係は疲労き裂進展試験による上限の da/dN-ΔK 関係と一致した．この結果から，SM490B と SUS304
において，JIc 試験から求められる KI,H は水素脆化メカニズムの変化に対応する応力拡大係数ではなく，水
素機器の疲労き進展寿命の計算では考慮すべき特性値ではないことが示された．
（3）一方，高強度の SCM435（σB = 824 MPa）では，pH2 が高くなり，V が遅くなるにつれて，JIc 試験による
da/dN-ΔK 関係は疲労き裂進展試験による上限の da/dN-ΔK 関係から加速側に大きく逸脱した．この結果
から，SCM435 において，KI,H は水素脆化メカニズムの変化に対応する応力拡大係数であり，水素機器の
安全性を確保するための重要な特性値であることが示された．

付 録

前報において，水素チャージ材（松岡他，2008）
（Matsuoka et al., 2011）あるいは水素ガス中（吉川他，2014）
の疲労き裂進展速度の加速現象を説明するため，水素助長継続疲労き裂進展機構（HESFCG：Hydrogen Enhanced
Successive Fatigue Crack Growth）を提案した．
図 A1（a）は水素ガス中での疲労き裂進展加速を説明するための HESFCG の模式図である．大気中の場合（図
）
A1（a-1），Bichler ら（Bichler and Pippan，1999）のストライエーション形成モデルにしたがうと，応力負荷過程
では，き裂先端で長いすべりが起こり，広い塑性域が形成されるので，き裂は大きく開口し，進展する．最大応
力時（B）には，ストレッチゾーン幅 SZW はき裂進展方向に対して傾いた方向に形成され，き裂は大きく開口す
る．除荷過程では，逆すべりによりき裂は閉口していく．最小応力時（C，σ = 0）には，き裂は完全に閉じる．そ
の結果，最大応力時の SZW をき裂面に投影した長さがストライエーション幅 s になる．
一方，水素ガス中の疲労き裂進展試験では，水素はき裂先端に侵入する．水素チャージ試験片では，応力誘起
拡散で水素がき裂先端に集まる．水素は転位運動を助長（HELP（Tabata and Bimbaum，1983）
）するので，水素が
存在するき裂先端の狭い領域で短いすべりが起こる．その結果，応力が増加しても，き裂は開口せず，鋭いまま
で継続的に進展する．最大応力時（B）でも，き裂は開口せず，鋭いままであり，SZW の傾きはき裂進展方向と
一致する．除荷過程では，き裂先端がほとんど開口していないので，逆すべりがほとんど起こらない状態でき裂
は閉じる（C，σ = 0）
．その結果，s は SZW とほぼ等しくなるので，水素により疲労き裂進展速度は加速する．
さらに，大気中と水素ガス中の JIc 試験結果（Matsuoka et al., 2016）
（松岡他，2018）
（松本他，2013）
（松岡，
2016）を考察する際にも，HESFCG は有効であった．図 A1（b-1）に示すように，大気中では，応力負荷過程に
おいて疲労予き裂先端で長いすべりが起こり，最大応力時（B）にはき裂は大きく開口する．応力除荷時には逆す
べりが起こり，き裂は閉口するが，最少応力時（C，σ = 0）にはき裂は開口したままとなる．一方，図 A1（b-2）
に示すように，水素ガス中では，水素が侵入した疲労予き裂先端の狭い領域ですべりが局在化し，き裂は継続的
に進展する．その結果，最大応力時（B）でも，き裂は開口せず，鋭いままである．応力除荷時には，き裂が開口
していないので，逆すべりがほとんど起こらない状態でき裂は閉じる（C，σ = 0）
．このように，水素ガス中では

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JIc き裂または KI,H き裂と疲労き裂の開閉挙動は同じになる．すなわち，水素ガス中では JIc 試験は応力比 R = 0 の
1 サイクルの疲労き裂進展試験と見なすことができる．
上述の JIc 試験の説明で最も重要なことは，大気中ではき裂先端が大きく開口しているのに対し，水素ガス中で
はき裂先端が開口せず，鋭いままであることの実証である．この点については，CT 試験片の板幅中央において
SEM で取得した破面の 3 次元解析（Matsuoka et al., 2016）
（松本他，2013）
（松岡，2016）
，板幅中央断面での SEM
直接観察（松岡他，2018）
（松岡，2016）で確かめてある．また，水素ガス中では，SSRT 表面き裂進展も HESFCG
で説明でき，SSRT 試験は 1/2 サイクルの疲労き裂進展試験と見なすことができることを報告している（Matsuoka
．そこで，水素助長継続疲労き裂進展機構（HESFCG：Hydrogen Enhanced Successive Fatigue Crack Growth）
et al., 2016）
は，疲労き裂のみならず，JIc き裂または KI,H き裂，SSRT 表面き裂にも適用できるため，水素誘起継続き裂進展機
構（HISCG：Hydrogen Induced Successive Crack Growth）に改名した（Matsuoka et al., 2016）
．

(a-1) In air (a-2) In H2 (b-1) In air (b-2) In H2

(a) Fatigue crack growth (b) JIc crack growth
Fig. A1 Schematic illustration of fatigue and JIc crack growth in air and hydrogen gas.
Relative fatigue crack growth rate, (da/dN)H/(da/dN)air

10000
SCM435 & SM490B 0.01 Hz
In 90­115 MPa H 2 at RT
R = 0.1 0.1 Hz
f = 0.001­1 Hz
1000

SCM435 f = 1 Hz
&
SNCM439
100
SM490B

10
Ductile crack Brittle crack
1/2
: SCM435, ∆K = 25 MPa・m 1/2
: SNCM439, ∆K = 22­25 MPa・m
1/2
: SM490B, ∆K = 30 MPa・m
1
500 600 700 800 900 1000 1100 1200
Tensile strength, σB [MPa]
Fig. A2 Relative fatigue crack growth rate, (da/dN)H/(da/dN)air, versus tensile strength, σB, for SCM435 and SNCM439. In
hydrogen gas, fatigue crack propagates as ductile crack at σB ≤ 900 MPa, and as brittle crack at σB ≥ 900 MPa.

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 高圧水素ガス中における疲労き裂と JIc き裂または KI,H き裂は，HISCG や HELP にしたがうと延性き裂として
進展するが，Lattice Decohesio にしたがうと脆性き裂として進展する．この点を明らかにするため，室温で 90 - 115
MPa 水素ガス中，ΔK = 25 MPa·m1/2 前後における炭素鋼 SM490B（σB = 537 MPa）
，低合金鋼 SCM435（σB = 824 -
1127 MPa）と SNCM439（σB = 867 - 1201 MPa）の相対疲労き裂進展速度(da/dN)H/(da/dN)air と引張強度 σB の関係を
図 A2 に示す（松岡他，2017）
．応力比は R = 0.1 であり，試験周波数は f = 0.001 - 1 Hz と広範囲に変えている．σB
≤ 900 MPa では，疲労き裂進展速度の加速に上限値が存在するため，(da/dN)H/(da/dN)air はほとんどばらつかず，水
平（すなわち一定）となっている．このことは，水素ガス中で疲労き裂は延性き裂として進展することを示して
いる．一方，σB ≥ 900 MPa では，図 A2 の右端に示しているように，f が遅くなるにつれて(da/dN)H/(da/dN)air が大
きくなるため，実験点のばらつきは大きくなる．すなわち，水素ガス中での疲労き裂進展は脆性き裂進展の影響
を受けると考えられる．このような考えをもとに，著者らは，70 MPa 燃料電池自動車や 70 MPa 水素ステーショ
ンで使用する低合金鋼 SCM435 と SNCM439 の引張強度 σB は 900 MPa 以下にすることを提案している（松岡，
．
2017）

文 献
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