Boshoku Gijutsu, 36, 759-766 (1987)

報 文

UDC 620.193.4:669.14.018.8

沸 騰 ぎ酸, 酢 酸 中 に お い て腐 食 したSUS316
ス テ ン レ ス鋼 の 表 面 分 析 ＊

関 根 功 ＊＊,増 子 亜 樹 ＊＊
＊＊東京理科大学理工学部工業化学科

Surface Analysis of Type 316 Stainless Steel Corroded in Boiling

Formic and Acetic Acids*

Isao Sekine** and Aki Masuko**

** Department of Industrial Chemistry, Faculty of Science and Technology,

Science University of Tokyo

The corrosion behavior of Type 316 stainless steel in boiling formic and acetic acid solu-
tions was investigated by scanning electromicroscope (SEM) and surface analysis of X-ray
photoelectron spectorscopy (XPS). In 50o formic acid, intergranular corrosion occurred, and
MoO3, Cu2O and CuO existed in the film produced on the steel surface. But it was considered
that the film is insufficient to inhibit the corrosion. In 100% formic acid, since the film con-
sisting of MoO3, MoO2, Ni2O3 and NiO has somewhat corrosion resistance, the corrosion form
did not show the welldefined intergranular corrosion, but the preliminary step of its intergran-
ular corrosion. In any acetic acid concentration, intergranular corrosion was observed. In
90o acetic acid, unevenness on the steel surface was particularly formed by difference of the
corrosion rate of each grain. But in acetic acid, stable compounds of Cr were produced at
underlayer from the steel surface, and their compounds were supposed to be contributed to the
improvement of corrosion resistance.

Key words: type 316 stainless steel, formic acid, acetic acid

1. 緒 言 3l6鋼 の 腐 食 挙 動 を 知 るた め に腐 食試 験, 分極 曲線 及 び

金 属 の腐 食 に 関 す る従 来 の 研 究 は そ の 多 くが 無 機 酸 中 界 面 イ ン ピー ダ ンス の 測定 を行 つ た。 そ の 結 果, SUS
に お い て行 わ れ て きた。 しか し近 年, 有 機 溶 媒, 特 に 有 316鋼 の 良好 な 耐 食 性 はCr及 びMoが 不動 態 化 に寄

機 酸 に よる腐 食 が 随所 に 見 られ て い るが,そ の腐 食 機 構 与 して い る こ とに基 づ く こ とが わ か つた。 さ らに, 沸 騰

に つ い て は 未 だ 充 分 に 解 明 され て い な い。 例 え ば, アル 状 態 の 場 合 に つ い て も, 腐 食試 験 及 び腐 食試 験 後 の 表面
ミニ ウ ム合 金 の 沸 騰 モ ノ カル ボ ン酸 中 に おけ る 腐 食1), の イ オ ンマ イ ク ロア ナ リ シ ス (IMA), オ ー ジ ェ電子 分
及 び 沸 騰 非 水 酢 酸 中 に お け る フ ェ ライ ト系 ス テ ン レス鋼 光 分 析 (AES) を 行 つた が, この 場 合 の腐 食挙 動 に 関 し
の激 しい 腐 食2)が あ げ られ る。 酒 造 に お い て も蒸 留 塔 底 て は充 分 に解 明す る こ とが で き なか つた。

部 の ア ル コ ール 酸 化 に よ つて 生 じた 有 機 酸 に よ る腐 食 が そ こ で本 研 究 で は, SUS316ス テ ン レス鋼 の 沸騰 ぎ 酸
問 題 とな つて い る。 また, 今 後 普 及 す るで あ ろ うアル コ 及 び 酢 酸 中 に お け る 腐 食 挙 動 を走 査 型 電 子顕 微 鏡
ー ル燃 料 車 に お い て も同 様 な 問 題 を か か え て い る。 前
(SEM), X線 光 電 子 分光 (XPS) に よ つて 詳 細 に 検 討 し
報3)に お い て は, 室 温 に お け る ぎ 酸, 酢 酸 中 で のSUS た。

*腐 食 防 食'86 (東 京) 及 び 第33回 腐食防食討論会

2. 実 験 方 法
(那 覇) で発表
＊＊〒278千 葉 県 野 田 市 山 崎2641 (2641, Yamazaki, 2.1 腐 食 試 験

Noda, Chiba, 278 Japan) 腐 食 試 験 にお け る試 験 片 (50×20×0.8mm) の 前処 理

 760 Boshoku Gijutsu

と して, 800, 1200番 エ メ リー紙 で研 磨 後, ア セ トン中 3. 結果及び考察

超 音 波 洗 浄 に よ り脱 脂 を した。 溶 液 に浸 漬 した期 間 は, 3.1 腐 食 試 験
ぎ酸 中 で は24時 間, 酢 酸 中 で は7日 間 で あ る。 取 り出 Fig. 1に 沸 騰 ぎ酸 及 び 酢 酸 中 に お け るSUS316鋼 の
し後 の後 処 理 と して 硝 酸 に5分 浸 漬 後, アセ トン中 超 音 腐 食試 験 の 結 果 を示 す。 ぎ 酸 の場 合 に は 腐 食 度 は ぎ酸 濃
波 洗 浄 に よ り脱 脂 を 行 つた。 そ の 後 乾燥 し秤 量 した。 度 の増 加 と共 に増 し, 50%で 極 大 を 示 し, そ の 値 は
2.2 SEMに よ る表 面 観 察 137mddと な り, 100%ぎ 酸 に お い て は70mddで あ
SUS316試 験 片 (10×10×0.8mm) を2.1節 と同 様 の つ た。 腐 食試 験 後 の試 験 片 の表 面 は ぎ 酸100%の 場合

前 処 理 を行 つ て溶 液 に浸 漬 した。 試 験 後, 溶 液 か ら取 り は緑 色 を帯 び た黒 色 の皮 膜 で覆 わ れ て お り, そ の他 の濃
出 して後 処 理 前 後 の状 態 をSEM (日立S-430形) を用 度 に お い て は黄 色 の皮 膜 が 生 じて い た。
い て観 察 した。
2.3 XPSに よる表面分析
SUS316試 験 片 (7×7×0.8mm) を2.1節 の腐 食 試 験

と 同様 の前 処 理, 及 び溶 液 へ の浸 漬 後, 試 験 片 を溶 液 か ら
取 り出 し, そ の ま まN2雰 囲気 の容 器 中 で保 存 し, 約1
か 月 後Ar+に よ りエ ッチ ン グを して 深 さ方 向 につ い て

分 析 を 行 つた。 ぎ酸 溶 液 に浸 漬 した 試 験 片 につ い て は8
分 まで エ ッチ ン グ し, 2分 お き計5箇 所 分 析 した。 酢 酸
溶 液 に 浸 漬 した 試 験 片 に つ い て は30秒 まで エ ッチ ン グ
し, 0秒 及 び30秒 エ ッチ ン グ時 の2箇 所 分 析 を 行 つた
。い ず れ の溶 液 に浸 漬 した 試 験 片 に つ い て もC1s, O1s,
Fe2p, Cr2p, Ni2p, Mo3dス ペ ク トル を 測 定 し, 特 に

ぎ 酸 に 浸 漬 した 試 験 片 に つ い て は, Cu2pス ペ ク トル も
測 定 した。 化 合 物 の 同 定 は 島 津製 作 所 の 資 料 (ESCA標
準 化 学 シ フ ト表) に 基 づ い て 行 つた。
2.4 試験片及び腐食試験液の調製 Fig. 1 Corrosion weight loss of Type 316 stain-
す べ て の試 験 に 用 い た 試 験 片, SUS316鋼 の化学組成 less steel in boiling HCOOH for 24 hours
and in boiling CH3COOH for 7 days.
を Table1 に示 す。

酢 酸 の 場 合 で は, 低 濃 度 側 (0∼30%) でSUS316鋼
Table 1 Chemical composition of Type 316 stain- は 腐 食 度, 1∼3mddと 良 好 な 耐 食 性 を 示 した。 しか し
less steel (wto).
40%酢 酸 か ら急 激 に 腐 食 度 が 増 し, 90%酢 酸 で極 大 を

示 し, そ の 値 は20.8mddで あ つた。100%で は低濃度

の 場 合 と同 等 の 腐 食 度 で あ つた。 腐 食 試験 後 の 試験 片 表

面 は, 低 濃 度 の 場 合 に は 金 属 光 沢 を 保 ち 浸 漬 前 とほ とん
ど変 わ らな か つた。40∼80%の 範 囲 で は 黒 色 の皮 膜 に
腐 食 試 験 に 用 い た ぎ酸 及 び 酢 酸 は 前 報4)∼7)に従 つて 蒸 覆 わ れ, 90, 100%で は 試 験 片 表 面 は 灰 白色 と な り,
留 精 製 を 行 つた。100%ぎ 酸 及 び 酢 酸 は蒸 留 精 製 した そ 90%の 場 合 に お い て は 金 属 光 沢 を 残 して い なか つた。
の も の の こ とを 意 味 し, そ の含 水 率 を カ ール フ ィ ッシ ャ 以 上 の こ と よ り, ぎ酸 に 浸 漬 した 試 験 片 に つ い て は,
ー水分滴定装置 (京都 電 子 工 業, Model MK-S) に より 腐 食 度 が 最 大 とな つた50%ぎ 酸 に浸 漬 した 場 合 と, 異
定 量 した。 そ の結 果, ぎ酸 につ いて は 約3,000ppm, 酢 な つた 着 色 皮 膜 が 生 じた100%ぎ 酸 の場 合 の2つ の試

酸 につ い て は100ppm以 下 の 水分 が 含 まれ て い た。 以 験 片 につ い てSEM, XPSに よ り表 面 分 析 を 行 つた。

下100%ぎ 酸 及 び100%酢 酸 と記 述 す る が, 正 確 に は また 酢 酸 の場 合 につ い て は, 腐 食 度 が 急 激 に 増 し, 着
99.7%ぎ 酸, 99.99%酢 酸 で あ る。 ま た文 中 に示 した 腐 色 皮 膜 が 生 じた50%酢 酸 の場 合 と, 腐 食 度 が 最 大 と な

食 試 験 溶 液 の濃 度 は体 積 百 分 率 (VOI%) で あ る。 つた90%酢 酸 に浸 漬 した 場 合, そ れ に 腐 食 度 が 低 下 し

腐 食 試 験 溶 液 を沸 騰 状 態 で2時 間放 置 し脱 気 してか ら た100%酢 酸 に浸 漬 した 試 験 片 につ い て 同 じ くSEM,

試 験 片 を 浸 漬 した。 XPSに よ り表 面 分 析 を 行 つた。

3.2 SEMに よ る 表面 観 察

ぎ酸 に お け る腐 食 試 験 後, 後 処 理 前 の試 験 片 表 面 の
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SEM写 真 をFig. 2に, 後 処理 後 の試 験 片 表面 のSEM

写 真 をFig. 3に 示 す。 腐 食 試験 前 の 試験 片 表 面 は 研 磨

傷 しか 見 られ な い。50%ぎ 酸 に 浸 漬 した 試 験 片 表 面 は
粒 界 の侵 食 が 顕 著 であ つた。100%ぎ 酸 に 浸 漬 した 試 験
片 表 面 に お い て は, 孔 食 が 連 続 した 腐 食 形 態 が 見 られ,

腐 食 試 験 にお け る浸 漬 期 間 を 延 長 した 場 合 は 明 確 な 粒 界
腐 食 に な る傾 向が 見 られ る。 また 後 処 理 を 行 い 着 色 皮 膜
を 除 い た 後 の写 真 (Fig.13)を 見 る と, 50%ぎ 酸 の場
合, 研 磨 傷 が ほ と ん ど な く, 粒 内 も腐 食 して い るの が わ
か る。 以 上 の こ と よ り, 腐 食 試 験 で の50%, 100%ぎ 酸
に お け る腐 食 度 の違 い は, 腐 食 形 態 の 相 違 に よ る もの で
は な く, 腐 食 の進 行 に差 が 生 じた た め と考 え られ る。 腐

食 の進 行 に差 を 生 じさせ た 原 因 と して は, 生 成 した 着 色
皮 膜 の組 成 及 び抵 抗 か あげ られ る。
酢 酸 に お け る腐 食 試 験 後, 後 処 理 前 の試 験 片 表 面 の
SEM写 真 をFig. 4に, 後処 理 後 の もの をFig. 5に

示 す。
50%酢 酸 に浸 漬 した場 合 に は, 粒 界 が 著 し く 侵 食 さ

れ 粒 内 も研 磨 傷 か 消 えか か る程 腐 食 してい る。 後 処 理 後
で は表 面 の腐 食 生 成 物 は除 か れ, 粒 界 の輪 郭 も 明確 に な
つ て い る。
90%酢 酸 に浸 漬 した 場 合 に は 結 晶 粒 ご と に 侵 食 の程

度 か 異 な って お り表面 に 凹 凸 が 生 じて い る。 後処 理 後 で
は腐 食生 成 物 か 除 かれ 輪 郭 が 明確 に な って い る。 結 晶粒
ご とに 凹 凸 が 生 じた原 因 と して は局 部 電 池 の形 成 が 想 定

Fig. 2 SEM micrographs of corroded Type 316 され る。 つ ま りア ノー ドと して働 い た部 分 が 凹部, カ ソ

stainless steel surface in boiling HCOOH ー ドと して働 い た部 分 は 凸部 とな つた と思 わ れ る。
for 24 hours before treatment.

Fig. 3 SEM micrographs of corroded Type 316 Fig. 4 SEM micrographs of corroded Type 316
stainless steel surface in boiling HCOOH stainless steel surface in boiling CH3-
for 24 hours after treatment. COOH for 7 days before treatment.
 762 Boshoku Gijutsu

100%酢 酸 に 浸 漬 した 場 合 には 後 処 理 前 後 で 大 差 は な ま た50%, 90%酢 酸 の場 合 に は 粒 状 の腐 食 生 成 物,

く, 多 少 粒 界 が 明確 に な っ て い る。 試 験 片 表 面 に は粒 界 100%酢 酸 の場 合 に は塊 状 の腐 食 生 成 物 が 確 認 され た。
腐 食 及 び孔 食 が認 め られ た。 これ らは 溶 液 に 難 溶 な た め に 試 験 片 表 面 に 残 つた も の と

考 え られ る。 従 つて粒 界腐 食 の 原 因 の 一 つ で あ るCrの
化 合物, す な わ ちCr23C6と 断 定 す る こ とは で きな い。
3.3 XPSに よ る表 面 分 析

浸 漬前 の状 態, 50%ぎ 酸 に浸 漬 した場 合, 100%ぎ

酸 に浸 漬 した場 合 の試 験 片 表 面 のXPSに よる分 析 結 果

を それ ぞ れFigs. 6∼8に 示 す。 浸 漬 前 の場 合, エ ッチ
ング前 で は い ず れ の金 属 元 素 も酸 化 物 及 び水 酸 化 物 を

作 っ てお り, Ni, Moは 多 少 金 属 と して も検 出 され てい
る。 また30秒 エ ッチ ン グ後 で は い ず れ も 金 属 が 現 れ
て い るが, Crだ け は 酸 化 物 及 び 水 酸 化 物 を 形 成 して い
る。
50%ぎ 酸 の場 合, 最 表 面 ではFe, Cr, Niに 関 して

は顕 著 な ピー クが 見 られ なか った。MoとCuに 関 して
はそ れ ぞれMo6+, Cu+及 びCu2+に 相 当す る ピー クが

見 られ た。2分 エ ッチ ン グ以 降 で は, Feに 関 して は金

Fig. 5 SEM micrographs of corroded Type 316 Fig. 6 Fe2p, Crs2, Ni2p and Mo 3d electron
stainless steel surface in boiling CH3- spectra for Type 316 stainless steel after
COOH for 7 days after treatment. polishing by 1200 grade emery paper.

Fig. 7 Fe2p, Mo3d and Cu2p electron spectra of corroded Type 316 stainless steel in boiling
50% HCOOH for 24 hours.
 Vol. 36, No. 12 763

Fig. 8 Ni2p and Mo 3d electron spectra of corroded Type 316 stainless steel in boiling 1000
HCOOH for 24 hours.

属Fe, Fe2+, Fe3+, Crに 関 して は 金属Cr, Cr3+, Cr6+ れ る。

の ピ ー クが 見 られ, エ ッチ ン グ時 間 と共 に金 属Fe及 び 前 報3)のAESの 結 果 と兼 ね 合 わ せ て 考 え る と,
Crの ピー クが 大 き くな つ て い る。Niに 関 して はNi2+ 100%ぎ 酸 に おい て腐 食 試 験 後 の試 験 片 表 面 にはNiと
の ピー クが 見 られ, これ は エ ッチ ン グ時 間 と共 に大 き く Moが 多 く存 在 し, そ れ ぞ れNi2O3, NiO, MOO3及 び
な つて い る。 またMOとCuに 関 して は, Moは 金属 MoO2と い う形 を と つて い る と考 え られ る。
Mo, Mo4+, Cuは 金 属Cu, Cu+, Cu2+の ピー クが 見 ら 50%, 90%, 100%酢 酸 に7日 間 浸 漬 した 場 合 の試 験 片
れ, エ ッチ ン グ時 間 と共 に 小 さ くな つて い る。 この こ と 表 面 のxPSに よる 分 析 結 果 をFig. 9, 10, 11に 示 す。
は前 報3)で のAESの 結 果 を 含 め て考 え る と, 表 面 に は 50%酢 酸 に お い て, FeはFe3+, CrはCr3+, Moは
MoとCuが 多 く存 在 し て お り, それ ぞれ がMoO3, Mo4+と して 主 に 存 在 し て お り, そ れ らは そ れ ぞ れ
Cu2O及 びCuOと して 存 在 して い る こ とを 示 して い る。 Fe2O3及 びFeOOH, Cr2O3及 びCrOOH, MOO2と 考
100%ぎ 酸 の 場 合, 最 表 面 で はNi, Mo, Cuに 関し え られ る。 た だ し0秒 エ ッチ ン グ時 だ け で は 生成 した化
て, NiはNi3+, MoはMO6+CuはCu+及 びCu2+ 合物 の溶 液 へ の溶 解 な ど も行 われ て お り, 正 確 な試 験 片
に 相 当す る 明確 な ピ ー クが 現 れ て い る。FeとCrに の 表 面状 態 を 知 る こ とは 困難 そ あ りさ らに深 さ方 向 へ の

関 して はそ れ ぞ れ 金 属Fe及 びFe2+, 金 属Cr, Cr3+及 分 析 が必 要 で あ る。

びCr6+に 相 当す る ピ ー ク が 小 さ く現 れ て い る。 これ 90%酢 酸 に 浸 漬 した 場 合 に はFeがFeo, Fe3+, Cr
は 最 表 面 上 の 存 在 量 が 少 ない た め であ る。2分 エ ッチ ン がCr3+, MoがMOo, MO4+, Mo6+と して存 在 して お
グ以 降 で は, Feで は 金 属Fe, Fe2+, Fe3+の ピー クが, り, 100%酢 酸 で は, FeはFeoとFe3+, CrはCroと
Niで はNi2+, MOで は金 属Mo及 びMO4+, Cuで は Cr3+, NiはNi2+とNi3+, MoはMOo, Mo4+及 び

金 属Cu, Cu+, Cu2+の ピー クが それ ぞれ 見 られ, これ Mo6+と して 存 在 して い る。 これ ら各 元 素 の結 合 エ ネル

らは エ ッチ ン グ時 間 の増 加 と共 に小 さ くな つ て い る。 ま ギ ー にお け る化 学 シ フ トの ピ ー ク 位 置 よ り, Fe3+は

たCrに つ い て は金 属Cr, Cr3+に 相 当す る ピー クは小 Fe2O3及 びFeOOH, Cr3+はCr2O3及 びCrOOH, Ni2+

さ く, 皮 膜 内 に 存 在 す るCr量 は比 較 的 少 な い と考 え ら はNiO, Ni3+はNi2O3, MO4+はMOO2, Mo6+はMoO3

Fig. 9 Fe2p, Cr2p and Mo 3d electron spectra of corroded Type 316 stainless steel in boiling
50% CH3COOH for 7 days.
 764 Boshoku Gijutsu

Fig. 10 Fe2p, Cr2p, Ni2p and Mo 3d electron spectra of corroded Type 316 stainless steel in
boiling 90% CH3OOOH for 7 days.

Fig. 11 Fe2p, Cr2p, Ni2p and Mo 3d electron spectra of corroded Type 316 stainless steel
in boiling 100% CH3COOH for 7 days.

と して 存 在 して い る もの と考 え られ る。 以 上 の こ と よ の結 果 で述 べ た よ うに, ぎ酸 の場 合 につ い て は 試 験 片 最
り, 90%, 100%酢 酸 に 浸 漬 した 試 験 片 表 面 層 では 主 に 表 面 上 に はCrの 酸 化 物 あ るい は水 酸 化 物 等 の存 在 量 は
Cr2O3及 びCrOOHが 存 在 し, そ れ をMoO2, MoO3 極 め て 少 ない も の と考 え られ る。 一 方, 酢 酸 の 場 合 に つ
が補 助 す る形 を と つて い る も の と 考 え ら れ る。 特 に い て は 試 験 片 最 表 面 にCrの 酸 化 物 及 び 水 酸 化 物 の存 在
100%酢 酸 に 浸 漬 した試 験 片 に つ い て は, MOO3と さら が 明 らか に認 め られ る。
にNiOの 存 在 が 大 き く, この こ とが90%と100%酢 Fig. 1か ら明 らか な よ う に, 腐 食 度 は ぎ酸 に浸 漬 し

酸 に お け る腐 食 度 の相 違 に多 少 影 響 して い る も の と考 え た 場 合 の方 が 酢 酸 よ りも最 大 値 で100mdd大 き くな つ

られ る。 て い る。 こ の主 な原 因 は上 述 の結 果 に基 づ き表 面 上 に存

以 上 個 々 の金 属 元 素 の存 在 形 態 を独 立 させ て考 え, 記 在 す るCrの 酸 化物 及 び水 酸 化 物 の存 在 量 の相 違 に よる

述 したが, これ らにつ い て は様 々な報 告 が あ る。 例 え ば もの と考 え られ る。 つ ま り酢 酸 の場 合, 試 験 片 表 面 に存

Cr3+に 関 して著 者 らはCr2O3及 びCrOOHと した が, 在 す るCrの 酸 化物 及 び 水酸 化物 の存 在 量 が ぎ酸 の場 合

浅見 らに よる とCrq(OH)3-2xと い う形 を提 出 し て お に 比 べ, 多 い た め に腐 食度 が小 さい と想 定 され る。 しか

り8), これ ら 皮 膜 に つ い て は今 後 さ らに 検 討 す る必 要 が し, 今 回 は 定 量 的 な結 果 は 得 られ て お らず, 今 後, 定 量

あ る。 分 析 を行 い比 較 検 討 す る必 要 が あ る。
3.4 ぎ 酸 及 び 酢 酸 中 にお け るSUS316鋼 の腐食挙動 また 腐 食 形 態 に つ い て は, ほ とん どの場 合 に お い て粒

の違いにっいて 界 腐 食 で あ り, この 原 因 に つ い て も粒 内 及 び粒 界, 粒 界

ぎ酸 及 び酢 酸 中 に浸 漬 した試 験 片 のXPSに よる表 面 近 傍 等, 局 所 分 析 等 を 行 つて 明 確 に す る必 要 が あ る。

分 析 の結 果 を ま とめ た のがTables2, 3で あ る。 ぎ酸
及 び酢 酸 に お け るXPSの 結 果 を比 較 す る と両 者 の相 違 4. 結 論

点 はCr2pの スペ ク トル に見 られ る。3.3節 の表 面 分 析 沸 騰 状 態 の ぎ酸 及 び 酢 酸 に 浸漬 したSUS316鋼 板の

 Vol. 36, No. 12 765

Table 2 Surface state and binding energy obtained from XPS of corroded Type 316 stainless
steel in boiling HCOOH for 24 hours.

Table 3 Surface state and binding energy obtained from XPS of corroded Type 316 stainless
steel in boiling CH3COOH for 7 days.

表 面 をSEMとXPSを 用 い て腐 食 状 態 を 調 べ た 結 果, 100%で はMoとNiが 関 与 し, MoはMoO3及 び

次 の知 見 が 得 られ た。 MOO2, NiはNi2O3と して 存 在 して い る こ とが わ か つ

1) SEMに よる と50%ぎ 酸においては 粒界部分が た。

強 く腐 食 され た 状 態 と な り, 100%ぎ 酸 で は粒 界 部 分 は
こ 3) SEMに よ る と, 50%酢 酸 に お い て は粒 界腐 食 を

微 細 な孔 食 が 連 続 した 形 態 で あ つた。 生 じ, 90%で は結 晶粒 ご とに 侵食 度 が異 な り, そ の た
2) ぎ酸 よ り取 り出 し直 後 の試 験 片 表 面 の 皮 膜 は, め表 面 に 凹 凸 が生 じ, 100%で は粒 界腐 食 に加 え多 少孔
50%ぎ 酸 に お い て はMoとCuが 関与 し, Moは 食 が生 じて い た。
MoO3, CuはCu2OとCuOの 形 で存 在 し て お り, 4) XPSに よ る と, 各酢 酸濃 度 で 表 面 あ る い は下 層
 766 Boshoku Gijutsu

いず れ か でCrの 化 合 物 が 存 在 して お り, MoもMoO2 2) 関根 功, 伊 藤 卓 也, 藤田 剛: 防 食 技 術, 34,

あ るい はMOO3の 安 定 な酸 化 物 と して存 在 し, 腐 食 を 500 (1985).
3) I. Sekine, A. Masuko & K. Senoo: Corrosion,
抑 え て い る も の と考 え られ た。
43, 553 (1987).
4) I. Sekine & A. Chinda, Boshoku Gijutsu, 31,
終 わ りに, XPSに よる表 面 分 析 で ご援 助 いた だ き ま 313 (1982).
した (株) 島津 製 作 所 東 京 分 析 セ ンタ ー の関 口晴 男 氏 に感 5) I. Sekine & A. Chinda: Corrosion, 40, 95 (1984).
6) I. Sekine & K. Senoo: Corros. Sc., 24, 439
謝 致 します。(Received March 13, 1987)
(1984).
7) 関根 功, 小 枝 正 博: 防 食 技 術, 33, 500 (1984).
文 献
8) K. Asami, K. Hashimoto & S. Shimodaira:
1) A. B. McKee & W. W. Binger: Corrosion, 13, Corros. Sci., 18, 151 (1978).
786 (1957).