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宗教法人のスパルタ式でエロティックな女子学園教育

ドダイ

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タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン

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︻小説タイトル︼
 宗教法人のスパルタ式でエロティックな女子学園教育
︻Nコード︼

1
 N0770FE
︻作者名︼
 ドダイ
︻あらすじ︼
  農耕生活を理想に掲げる宗教法人、川端会。農耕生活のために
は多くの信者が力を合わせなくてはいけない。そこでは、忍耐と自
己犠牲、そして女性が多くの子供を産むことが推奨される。
 教祖・川端悟道は、こうした理想を早いうちから叩き込むために、
全寮制の川端会女子小中学園、通称﹁川女﹂を設立した。そこでは
法も人権も無視したスパルタ式教育が行われているが、信者たちは
娘にそのような教育を受けさせることを誇りにしていて、抗議など
行われない無法地帯となっている。
 そんなところに放り込まれた少女たちは、虐待、場合によっては
性的虐待ともいうべき教育を受ける、逃げ場のない地獄の中で育つ
のだ。
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序章
﹁イチ!ニ!イチ!ニ!﹂
 やや幼い少女たちの掛け声が響き渡る。10歳くらいだろうか。
 ここは中部地方の山村。
 もともと過疎化して小学校も廃校となっていたこの村に、新たに
かわばたかい
宗教法人﹁川端会﹂を経営母体とする﹁川端会女子小中学園﹂が開
校したのは、12、3年前のことだった。
 その校庭から聞こえてくるのは、生徒たちの体育のかけ声だろう。
 高齢化が進んでいた農村に子供の声が戻ってきたのは、喜ばしい
ことだ。
 だが、この体育の風景を見た者は、いくつかの異常な点に気が付

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いたに違いない。
 例えば、もう12月だというのに、子供たちが全員、半そで半ズ
ボンであること。
 あるいは、子供たちがあまりにも見事な隊列を組み、力の限り掛
け声を出していること。普通の小学生ならば、行進も掛け声も、ま
じめにやらない子も多いだろうに。川端会の子供たちは、80人ほ
どだろうか、一糸乱れぬ軍隊式の動作で行進し、顔をゆがめるほど
の大声で掛け声をかけている。
 そして、この行進がもう1時間近く続いていること。これもいさ
さか奇妙だ。運動会の時期でもあるまいに、普通の体育の授業なら
ば、行進など準備運動のついでにやるものだろう。
 奇妙なことはもう一つある。
 校庭の校舎側に立って、周回し続ける少女たちを見守る体育教師。
 中年のベテラン教師は竹刀を手にしている。このご時世には珍し
いことだ。今時、体罰などやれば保護者からの苦情は避けられない
はずではないか。
﹁とまれ!﹂
﹁ぜんたぁい!とまれ!﹂
﹁イチ!ニ!﹂
 隊列がちょうど目の前にきたとき、教師が子供たちに停止を命じ
た。

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 すぐに隊列の先頭の小柄な少女が号令をかけ、みながピタリと停
止する。
﹁小原ぁ!なんだ今の行進は!腕が下がっとる!﹂
 教師は、隊列の中ほどの、いちばんかわいらしい顔立ちをした少
女を怒鳴りつけた。
 はっきりいって、その少女の腕の振りが特に鈍かった、とはいえ
ないだろう。1時間の行進で、どの子にも疲れが見えていた。
 だが、この教師の怒声で、気を付けの姿勢で待機していた隊列全
体が、ビクリと震える。

 小原と呼ばれた少女は、真横にいる教師の方を振り向かず、その
ままの姿勢で謝罪した。
﹁はい!すみませんでした!﹂
﹁指導!﹂
 教師が、杖代わりにしていた竹刀を肩に乗せなおして、少女に告
げる。
﹁ご指導お願いします!﹂
 少女は、決められている答えを返すと、すぐに教師に背を向けた。
 そのまま、自分で体操服の半ズボンと下着をずりおろす。そして、

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地面に両手をついてつま先立ちになる。
 むき出しの少女の尻が高く上がった。
 数秒の沈黙。
 場の緊張感が高まり、他の生徒たちも息をのむ。自分が罰の対象
ではないというのに、汗だくの顔に恐怖が浮かんでいる。
 屈辱的な姿勢をとった少女は、迫る痛みをただ待つことに耐えら
れずに、目を閉じた。楽な姿勢ではないから、行進で疲れた手足が
震えてくる。
バシィィィン!
﹁キャァ!﹂
 ついに教師は、遠慮のない一撃を尻に打ち込んだ。
 少女は悲鳴を抑えられない。
 隊列の他の少女たちは、何かを察したように表情を曇らせた。唇
を噛んだ子もいる。

﹁情けない声を出すな!!もう一発!﹂
﹁はい!ご指導お願いします!﹂
 教師は追加の刑を宣告した。
 少女は既に覚悟ができていたのだろうか、再び自ら竹刀の一撃を
請う。

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バシィィン!
﹁⋮⋮っ!﹂
 今度はなんとか耐えきったようだ。
﹁戻れ!﹂
﹁はい!ご指導ありがとうございました!﹂
 少女は、罰に対する礼を述べて、急いで姿勢を戻す。
 それを待たずに、教師は全員に告げた。
﹁今日の体育を終わる。次回も行進だ。今日のようなふぬけた態度
であれば、次は全員に指導だ。覚えておけ!﹂
﹁はい!﹂
 少女たちは、全員、力の限り返事をする。
﹁解散!﹂
 教師の声と、チャイムの音が鳴り始めるのは、ほとんど同時だっ
た。
 だが、少女たちにはホッとする間もない。
 体育の授業が終わったら、次の授業のために全力疾走で教室に戻

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らなければならないことになっているからだ。
 全員が去った校庭には、つかの間の静寂が訪れた。
︱︱︱︱宗教法人﹁川端会﹂が設立されたのは、二十数年前のこと
だ。
ごどう
 教祖・川端悟道は、﹁人類は自然から離れすぎた。今こそ土と共
に生きるべきである﹂というスローガンを掲げて、信者たちとの共
同生活に入った。
 現代社会と全くかかわりを断とうとしたわけではない。だが、そ
の理想は、あくまで農耕生活にある。その理想の中には、一項目と
して、﹁男女は協力して多くの子孫をなすべきである﹂というもの
も含まれていた。
 彼の理想に共感した信者たちは次第に増えていき、現在では3万
人を超えるという。
 しかし、川端会の理想を実現する道は簡単ではなかった。
 数万人が農耕によって共同生活を行うためには、大規模な土地を
確保しなければならない。
 また、現代社会で農業だけで自給自足をするのは難しい。
 生活必需品を購入できるだけの資金を農業によって確保するため
には、現代的な設備を導入して、採算性を向上させなければならな
い。そのためには、また資金が必要だ。
 川端会への入信にあたっては、入信希望者の財産を寄付すること
が要求されたが、それだけでは必要な金額を調達できない。
 悟道は、一気にその理想を実現することは不可能であることを知
っていた。

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 だから彼は、入信の時点で職業を持っている者に対して、その職
業を続けたまま、少しずつ協同農場での作業に参加することを推奨
した。
 今でも、農場にいる﹁本信者﹂よりも、一般社会に残って時折農
業に参加する﹁在家信者﹂の数のほうが少し多い。
 しかし、一方では、彼は農耕生活の理想を完全に実現するための
計画を考えていた。
 信者たちは、不必要な高等教育など受けることなく、直ちに農耕
に入り、子をなすことが望ましい。
 そして、農耕生活には忍耐と共同が必要であり、教団が存続する
ためには信者たちの規律が必要だ。
 そのような生活に耐えるためには、早いうちから、つまり義務教
育の段階から、厳しい訓練に服さしめるべきである。
 そうはいっても、現実には、必要なだけの資金の調達にはまだま
だ時間がかかるだろう。
 そこで悟道は、次のような段階を踏むことにした。
 将来、高い稼得能力を見込まれる男子については、家庭教育では
川端会の理想を教えて入信させるが、学校教育は通常のものを受け
させる。できるだけ高等教育を受けさせた後、現在の在家信者と同
様に、一般的な職業について金銭を獲得し、会に寄付させるのであ
る。いずれ十分な設備が完成すれば、男子についても川端会特別の
学校教育を受けさせる予定だ。
 これに対して女子については、一般的に、就職させても高額の給
料を期待できない。
 むしろ、学校教育の段階でも、川端会流のやり方を叩き込んでお
いた方が将来に役立つ。

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 こうして、土地を確保できた過疎地に、川端会女子小中学園、通
かわじょ
称川女が設立された。
 小学1年生からの全寮制であり、彼女たちは幼いながら、親から
引きはがされて厳しい共同生活を送る。
 その全生活を通して、川端会の理想と、忍耐と自己犠牲の精神を
叩き込まれるのだ。
 ここを卒業しても、高校以上への進学者はほとんどいない。そん
なことは推奨されていないからだ。
 それに、学園では、一応、免許を持った教員の手によって小学校
と中学校のカリキュラムを終えることになっているが、教育のメイ
ンはむしろ、寮生活にあるといってもいい。だから、もし普通に高
校入試を受けさせても、まともな高校には合格できない生徒が多い
だろう。
 そんな授業の中では、体育が、この学校でのスパルタ方式を最も
よく体現するものだった。
 この学校に娘を入学させることは信者の憧れであり、入学希望者
の数は、開学以来、常に、1学年80人の定員を上回っている。
 どんな人権無視がなされようとも、親たちはそれを娘のために誇
りにこそ思うけれども、抗議することなどない。
 だが、この学校で、少女たちは、ほとんど人格を破壊するような
地獄の苦しみと、洗脳にも匹敵するような過酷な教育を受けること
となるのである。それは、一般の目で見れば、教育というよりも虐
待に近い。
 そして、ただの虐待ではない。﹁産めよ増やせよ﹂式の川端会の
理想と、忍耐・自己犠牲の精神が融合したとき、学園にはエロティ
シズムが顕現するのだ⋮⋮。

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川女の洗礼
﹁美優、学園では先生方のいうことを聞いて、しっかりやりなさい﹂
 半年前、最後に母からかけられた言葉だ。
 次に会えるのは正月だろう。
 田島美優は、この4月に小学1年生として川女に入学した。
 川女の入学試験は、ごく簡単な知能テストと面接だ。川端会の教
団内部での親の地位も関係しているらしい。
 美優自身は知能も容姿も平均より少し上といったところで、両親
は10年以上の在家信者だったから、合格するのに問題はなかった。

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 受験の時は両親の付き添いがあったが、入学のときは、付き添い
は最寄り駅までだった。
 母は、集合の目印の旗を持って立っていた女の先生に挨拶をして、
幼い彼女に上のように言い残し、去っていった。
 美優は不安でいっぱいで、周りにいる同級生の子たちと話をした
かった。しかし、先生が﹁私語をしてはいけません﹂と繰り返し注
意したので、誰も口を開かないままだった。
 川女に到着したのは、駅から1時間近くも専用のバスに揺られた
後だった。
 小学生の遠足ならトランプでもするところだが、その車内は無言
だった。美優はずっと両手を握りしめていた。
 学園の周りには何もなく、いちばん近い民家でもバスで20分は
離れていただろう。


 ﹁これから入学式を始めます。まず、皆さんには着替えをしても
らいます。﹂
 バスを降りて美優たちを校庭の校舎側まで案内すると、先生はそ
う言い渡した。
 校庭の反対側には、既に全校生徒が気を付けの姿勢で立っている。
みな半そでの体操服だ。
 その傍には先生たちもいる。教師の男女比は、同じくらいのよう
だ。
 ﹁全員、服を脱いで整列しなさい。私物の持ち込みは禁止してい

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たはずですが、カバンを持ち込んでいる子がいるようですね?その
中身も全て外に出しなさい。﹂

 少女たちは戸惑いを隠せなかった。しかし、次の瞬間。
 パァァァン!

 偶然にも先生の一番近くにいた小柄な少女が、平手を食らって地
面に張り倒されていた。
 ﹁早くしなさい!次は手ではなくて竹刀で殴ります。痛いですよ。
﹂ 

 先生の声は、今まで美優の人生で聞いたことのないほどの迫力だ
った。
 殴られた少女は泣きかかっていたが、あまりの恐怖に声を殺して
いた。他の少女たちも、半泣きになりながら服を脱いだ。
 どこまで脱げばよいのか迷っていると、また罵声が飛んだ。
 ﹁全てです。全て脱ぎなさい。早く!﹂
 当然だが、人前で裸になる経験はない。
 恥ずかしさと恐怖と、まだ4月の山の寒さで手が震える。何とか
服を脱いで、美優たちは裸になって整列した。

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 ﹁持ち物がある人は、なぜそれを持ち込んだのか説明しなさい。﹂
 そう命令が下ったが、まだ幼い子供たちは、恐ろしさのためにな
かなか口を開くことができない。
 先生はいら立ちを隠そうともせず、カバンを持ち込んでいた少女
の一人を張り倒した。
 ﹁病気で薬を持ち込んだ人は、その薬だけを出しなさい。他の物
は、全てこのごみ袋に入れなさい。﹂
 先生が言い終わる前に、5年生か6年生くらいの上級生が、ごみ
袋をもって走り寄ってきた。
 ﹁他の人も、自分の服を全てごみ袋にいれなさい。あなたたちは
もうそれを着ることはありません。終わったら、禁止された持参品
があった人だけ立っていなさい。他の人は正座。﹂
 上級生があっという間に80人分の新入生の服と持参品を回収し
た。
 立っている新入生は、20人ほどだった。
 美優は裸で砂の上に正座する。

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 ﹁いいですか?あなたたちは、この学園で命令に反抗することは
許されません。本当なら、﹃懲罰﹄が入るところです。でも、最初
だから特別に、﹃指導﹄だけで勘弁してあげます。﹂
 美優たちには、先生の言葉の意味がわからないところがあった。
 戸惑う少女たちに構わず、説明が続けられた。
 ﹁今から先生があなたたちのところを回ります。立っている人は、
一人ずつ名前を名乗って、地面に両手をつきなさい。その格好で、
﹃ご指導お願いします﹄というのです。﹂
 そういいながら、先生はさっそく立っている一人の少女に近づい
た。
 ﹁名乗りなさい。﹂
 ﹁な、中村ミキ⋮⋮です。﹂
 ﹁もっと大きな声で!あそこにいる上級生にも全員に聞こえるよ
うに!﹂ 
 ﹁中村ミキです!﹂
 パシィィィン!
 ﹁声が小さいと言っているでしょう!何度でもやり直しをさせま

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すよ!﹂
 先生は、容赦なくミキの頬を張った。
 既に涙を流していたミキは、それからさらに2回、全力で叫び直
して、ようやく許された。
 先生に促されて、すぐに指導の姿勢をとる。先生と上級生たちに
向かって、尻が高く突き出される。

 ﹁グスッ⋮⋮ごしどう、おねがいしますっ!!﹂
 これ以上よけいに殴られないようにと、ミキは全力で声を上げた。
 その尻に、先生が竹刀を叩き付けた。
 ミキが悲鳴を上げ、一拍置いて、真っ赤な筋が浮かび上がる。

 ﹁今回は特別に許しますが、指導のとき、情けない悲鳴を上げな
いように!指導してもらったら、﹃ご指導ありがとうございました﹄
とお礼を言いなさい。﹂
 ﹁ヒック、ヒッ⋮⋮。ごしろうありがとうございましたぁ!﹂ 
 ミキは泣いていてろれつが回らなくなっていたが、必死に何とか
それだけ言い終えると、正座することを許された。 
 美優は、自分が余計な物を持ち込んでいなくて本当に良かった、
と安堵した。

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 20人、順番に﹁指導﹂を終えると、先生は美優たちに起立を命
じた。
 さっきとは別の上級生が、小さな布袋と運動靴がたくさん入った
かごを持って走ってくる。袋の中には、ゼッケンの代わりに名前が
印刷された半そでの体操服と、粗末な下着が、それぞれ2着入って
いた。
 ﹁あなたたちの私物は、今日からこれだけです。30秒以内に着
替えなさい。﹂

 美優たちは、全力で急いで服を着た。﹁指導﹂を受けた子は、下
着を着る際の尻の痛みに顔をしかめたが、そんなことは言っていら
れなかったようだ。
 美優たちは、こうして川女の洗礼を受けたのだった。
 そのあとは、ごく平穏に入学式が行われた。
 来賓である川端悟道からも訓示があった。
 ﹁みなさんは、将来の川端会を担うのです。みんながこの大地か
ら収穫を得て暮らすためには、今日入学するみなさんが、それぞれ、
忍耐と規律、自己犠牲を身につけなければなりません。そして、将
来は一生懸命に働いて、たくさんの子供を産み育てるのです。﹂

 それは、美優が子供のころから両親に聞かされてきたことと同じ
であったから、幼いながらに、正しいことなんだと受け止めること

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ができた。
︱︱︱︱入学式が終わると、美優たちは学園の寮に案内された。
 一つの大部屋に、80人全員と、3年生の先輩80人が寝起きす
る。
 広さは100畳敷きだが、畳は敷かれていない。板間の上で生活
するのだ。
 もちろん、プライバシーなどは皆無だ。
 ﹁上級生のお姉さんのいうことは、きちんとききなさい。上級生
は、後輩をきちんと指導しなさい。誰か一人が決まりを破ったら、
連帯責任とします。それでは、3年生の代表は寮のルールを説明し
なさい。﹂
 先生がいいおわると、3年生の中でも大柄なお姉さんが、寮の決
まりを教えてくれた。
 私語をしてはいけないこと。
 けんかをしたら、両方が罰をうけること。
 許可なく外出してはいけないこと。
 食事は当番で作ること。
 ときどき所持品検査があること。
 選択は手洗いですること。
 もし服が2着とも汚れてしまったら、裸で過ごさないといけない
こと。
 布団はなく、毛布1枚を先輩と2人で分け合うこと。その組み合
わせは毎日変わること。
 おねしょなどで毛布を汚したら、2人とも﹁指導﹂を受けて、1
週間毛布なしになること。

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 風呂やシャワーは生徒は使ってはいけなくて、校庭の水道で体を
洗い、走って乾かすこと。
﹁それでは、もう寝なさい。先生はいつもすぐ隣の部屋にいます。
何かあれば報告しなさい。﹂
 上級生の説明が終わると、先生はそう言い残して部屋を出て行っ
た。
 美優は、その夜はこれからの生活への恐怖でよく眠れなかった。
しかし、学園の恐ろしさは、まだまだ序の口なのだった。   
  
  
課外活動
 学園にきて半年が経ち、1年生たちもいくらか川女になじんでき
た。
 最初のうちは、夜の大部屋で毎日のようにホームシックのすすり
泣きが聞こえたものだ。しかし、そのたびに、うるさくて眠れない
同部屋の3年生に無言で体をつねられて、今ではすっかり静かにな
った。
 昼間も、ビンタされたり、﹁指導﹂を受けたり、それどころか最
初は服を脱がされるだけで泣き出す子もいたのだが、先生の容赦な
い暴力によって、なんとか我慢できるようになっていた。
 この学園の教育の中心は、授業よりもむしろ課外活動にあるとい
っていい。

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 授業そのものは、体育以外は、普通の小中学校とそれほど変わり
ないからだ。ただ、教科書と筆記用具は共有で、ノートは教室のロ
ッカーにしまわれている。
 疲労と睡眠不足のせいで、みんなの集中力は高いとはいえない。
それでも恐怖のおかげで大体は起きていられるのだが、ときどき、
居眠りをして授業中に﹁指導﹂を受ける子がいた。一回の授業で二
度﹁指導﹂を受けて、そのまま裸で立たされて授業を受けさせられ
る子も見たことがある。
 課外活動は、もっと辛いものが多い。
 1年生は授業が早く終わるので、日が暮れるまで延々と校庭を駆
け足させられるなどは、まだやさしいものだ。夏は確かに辛いが、
途中から感覚がマヒして、何も感じなくなってくる。
 精神的に負担のある活動の方が辛く感じられた。
 美優のクラスの今日の課外活動は、そのタイプの活動、﹁反省﹂
だ。
 これは週に一回ぐらい行われるので、既に、今までに何回もやっ
たことがある。
 何を反省するのかは、事前には決められていない。
 校庭に整列し、一人ずつ先生に指名されると、自分が悪いことを
したと思うことを叫んで、みんなに謝罪しなければいけない。
 謝罪の後は、﹁指導﹂を受けることになる。
 特に謝るべきことを思いつかなくても、何かいわなくてはいけな
い。
 以前、ミキが、今日は反省することはありません、と叫んだこと
があったが、大変なことになった。
 ﹁生意気だ﹂というので、いつもの﹁指導﹂ではなく裸で立つよ

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う命令され、男性教師に全身を何十発も竹刀で滅多打ちにされた。
倒れても許してもらえず、無理やり起こされて、倒れたことを理由
にまた殴られた。
 ミキが体中真っ赤な筋だらけになると、教師は、今度は平手を体
中に叩き付けた。これも相当痛かったようで、この日のミキは今ま
でで一番大きな声で泣き叫んでいた。最後には結局、生意気な態度
をとったことを謝罪させられ、指導を受けて終わりとなった。
 それ以来、みんな震えあがって、作り話をしてでも謝罪するよう
になっている。ただ、あまりにわざとらしい作り話は、見破られて
指導が追加されることもあるので、慎重さが必要だ。
 ﹁謝罪﹂は土下座して行うが、先生から、声が小さいとか、心が
こもっていないとかいった文句を付けられることがしばしばある。
 そのたびに、平手打ちや蹴りを食らって、もう一度最初からやり
直さなければならない。
 はじめて﹁反省﹂の課外活動が行われたとき、美優も、10回以
上やり直しをさせられた。
 美優だけではなく全員がこの調子だったので、そのとき﹁反省﹂
の活動を終えたのは、日付が変わるころになっていた。
﹁次!田島!﹂
 ついに美優の番が来た。
 何を謝るべきか、必死で考える。幸い、今週は作り話をしなくて
も、謝ることを思いついた。
﹁はい!⋮⋮。私は昨日、国語の授業で何度も答えを間違えて、授

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業を遅らせてみんなに迷惑を掛けました!﹂
 そこまでいうと、美優は土下座して、音が聞こえそうな勢いで頭
を地面につけ、力の限り声を出す。
﹁すみませんでした!!!﹂
﹁⋮⋮。反省しろ!﹃指導﹄っ!﹂
﹁はい!ご指導お願いします!﹂
 美優は、一度で﹁謝罪﹂を許してもらえたことに安堵しつつ、い
そいで立ち上がる。
 ためらいなく体操服の半ズボンと下着を下ろし、両手を地面につ
けて尻を突き出す。指導を受ける体勢だ。
バシィィィン!
﹁ヒッ⋮⋮。ご指導ありがとうございました!!﹂
﹁次、中田!﹂
 衝撃に耐えられず、思わず声が漏れてしまったので、美優は一瞬

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焦った。一年生ではよくあることだ。
 体育の授業などでは許されず、やり直しになることも多い。
 今回は大目に見てもらえたようだ。美優はホッと息をついて、服
装を正し、気を付けの姿勢に戻った。 
 実は、教師の側から見れば、﹁反省﹂活動の目的は、自分の悪い
ところだけを強調させることで、少女たちの自尊心を破壊し、従順
さを植え付けることにある。
 だから、最初の一回、何度も何度も反省と謝罪をやり直させて幼
い少女たちを一種の洗脳状態に置いたとき、この課外活動の目的は、
半分は既に達成されているのだった。
 あとは、洗脳状態が解けないように、定期的にこの活動を行って
徐々に強化していけばいい。
 それだけの目的なら、教師たちもあまり長引かせずに早く寝たい
のだ。
 なぜなら、朝は早いのだから。
︱︱︱︱翌朝
 少女たちの起床は朝4時30分、夏でもまだ暗い時間だ。秋にも
なれば、夜中といってもいい。
 部屋には電気が通っていないので、暗い中、すぐに毛布を片付け
て付属農場へ向かう。
 川端会女子小中学園は、農耕生活を理想とする宗教法人川端会の
いわば下部組織なので、当然、農業知識の伝達に力を入れている。
 美優たちも、毎日、小学校の授業の前後に田畑の手伝いをする。
 これだけなら、普通の農家の娘と変わらないように聞こえるのだ

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が、川女の場合はやや常軌を逸したスパルタ式だった。
 農場には、放棄された耕作地を買い受けて、小規模ながら、水田、
野菜を植えた段々畑、数種類の果樹、そして鶏・豚・乳牛の畜産場
が設けられている。
 少女たちは、朝食までに、手分けしてこれらの作業を済まさなけ
ればならない。
 10月にもなれば、半そでで活動するのは辛い時間だが、教師た
ちがあちこちで目を光らせている。
 一言でも﹁寒い﹂などと漏らそうものなら、直ちに﹁指導﹂の対
象となって竹刀を受けなければならない。
﹁1年!草むしり!まだ終わらんのか!﹂
﹁はい!すみません!﹂
 1年生たちには簡単な作業が割り当てられるが、慣れないので進
行が遅い。
 それで少し手間取っていると、苛立った教師たちの罵声を浴びな
ければならない。
 声をそろえてすぐ全力で謝罪しなければならない、というのは、
この半年で少女たちが学んだことだ。
 ぐずぐずしていると連帯責任で、1年生と3年生が全員朝食を抜
かれることになる。
 土まみれの体を必死に動かしながら、作業を進める。

24
 やがては上級生のように手際よく進められるようになるのだろう。
それまでは、ときおり教師たちのビンタを受けながら、やり方を教
わらなくてはいけない。
 この学園では、平手打ちや蹴り程度では﹁体罰﹂のうちに入らな
いのだ。
 水やり、餌やり、草むしりなど、朝の日課の作業を終えたら、素
早く寮に戻って朝食の準備をする。
 とはいっても、手の込んだものではないので、準備の時間はたい
してかからない。今では、美優たちも簡単に当番をこなすことがで
きる。
 献立はたいてい、麦入り飯と野菜の味噌汁、日によって卵がつく
程度だからだ。
 これは朝昼晩、ほとんど変わりない。しかし、こんな粗末な食事
でも、少女たちのほとんど唯一の楽しみなのだ。
 だから、﹁飯抜き﹂はただ殴られるよりもかなり重い部類の懲罰
になる。
 育ち盛りの少女たちには、食事はやや物足りなく感じられるが、
もちろん、文句などこぼそうものなら﹁指導﹂では済まないだろう。
 私語は禁止されているので、みな無言で飯をかきこみ、急いで片
付けをする。
 これから、川女の一日が始まるのだ。
25
いじめの犯人
 最悪だ。
 3年生は1年生と同室で面倒をみることになっているが、どうや
ら1年の子たちが今日の朝の作業に遅れたらしい。
 こういうミスは、3年生がきちんと面倒を見なかったということ
で連帯責任になる。

 夕方の農作業が終わった後、体育教師の江藤が3年生全員を肯定
に呼びつけたので、楓たちは彼の前で整列していた。
 江藤は大学まで剣道の経験者で、学園で一番竹刀の威力が高いこ
とで恐れられている。
 楓たちは、彼の怒号で状況を理解した。
 今朝、1年生は3年生と一緒に部屋を出たはずだが、集合場所が

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別だったので、走るのが間に合わなかったのだろう。
﹁お前たちの指導がなっていないから、こういうことになる!全員、
2列になって向かい合え!﹂
﹁ハイッ!﹂
 3年生にもなると、教師たちの指導にも慣れてくる。
 少女たちは、この学園にきて大体2年も経てば、教師の指示は何
でも聞くようになっている。
 2列に向かい合わされたということは、今日は﹁相互指導﹂だろ
う。
 改めて向かい合うと、みんな服がボロボロだ。
 入学したときに支給された体操服は、薄黒く汚れが染みついてい
るだけではなく、もうサイズが合わなくなって、おへそが出ている
子も多い。
 頑丈な素材でできているとはいえ、あちこち破れて穴が開いてお
り、靴のつま先も剥がれている。
 新しい体操服は4年生にならないと支給されないから、もう少し
の間は、大事に着ないといけない。 

 だが、楓の正面で向かい合った相手、田中アキコは、様子が少し
違っていた。
 彼女は、靴を履いているほかは全裸だ。

27
 学園の規則で、服が汚れて2着とも洗濯が間に合わなかったとき
は、裸で過ごさなければならない。
 なので、梅雨の季節などは、何人かが裸で過ごすことも多いのだ
が、今は冬だ。
 裸なのはアキコ一人、ガタガタと震えている。
 実は、アキコは少し前から、常に全裸なのだ。
 彼女は運動神経が悪く、農作業や体育の授業で、いつも遅れては
﹁指導﹂を受けていた。
 それだけならいいのだが、﹁指導﹂が重なると、教師たちは学年
全体の連帯責任にしてしまうのだ。
 アキコのおかげで、3年近くの間に何十発も尻を殴られた同級生
たちは、アキコをいじめるようになった。
 私語が禁止されているので、楓たちはクラスメイトではあっても
ほとんど会話したことがない。
 しかし、アキコに対するいじめは、そうは思えないほど見事な連
携だった。
 成績優秀で、自分が連帯責任の理由にはならない子の怒りほど、
強かった。楓は主犯の一人だ。

 学園の教師たちは目を光らせていて、露骨ないじめはできない。
 体育の授業のときに、ちょっとしたスキを捉えて、わざとぶつか
って転ばせる。アキコはもともと転ぶことが多かったので、教師に
はなかなか気づかれない。
 農作業のときに、木の枝をひっかけて擦り傷を作らせる。
 洗濯して干している服や下着を、風で落ちたように見せかけて地
面に落として踏みつける。
 作業を命令されたとき、巧妙に、アキコが最も過酷で汚れる仕事
に割り当てられるように仕向ける。

28
 そうこうしているうちに、まずアキコの体操服の上着が2着とも
破れて着られなくなった。
 次は、体操ズボンとパンツが集中的に狙われて、間もなく破れた。
 それでも、彼女はボロボロのズボンと下着をはいてしばらく頑張
っていたが、あまりに汚いという理由で、教師の手で没収されて捨
てられてしまった。感情がマヒした少女も、このときはさすがに恥
ずかしさと悲しみで泣いてしまい、﹁指導﹂を受けることになった。
 それから、アキコはしばらくキャミソールだけで生活していたが、
それもなくなるのに時間はかからなかった。
 さすがに教師も気が付いたが、普段からトロいアキコが嫌われて
いたこともあり、﹁服を大切にしなかった﹂という理由でさんざん
殴られたのはアキコの方だった。
 アキコは、﹁ごめんなさい、ごめんなさい﹂といつものように泣
きながら謝った。
 それ以来、アキコに服はなく、あと半年ほどはそのまま過ごさな
ければならない。
 ただし、先生たちもどうやら真実はうすうすわかっていたらしく、
﹁他の者に対してこういうことがないように、みな助け合うように﹂
という説教が、学年全体に向かって行われた。いってみれば、アキ
コは学年全体のターゲットとして都合がよいので見捨てられたよう
なものだ。
﹁相互指導!はじめ!﹂
 少しぼんやりしていたところに、江藤の号令がかかった。
 相互指導とは、少女たちが二人一組になって、お互いの顔を交互

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に平手で殴りあうことだ。
 乱闘ではなくて、きちんと順番に殴らなければならない。

 順番だから平等といっても、相手によって力の強弱がある。
 大体同じ体格の相手と組むように配慮されるのだが、今日の相手
がアキコなのはラッキーだった。 
 アキコは身長も大きいし、3年生なのにもう少しだけ胸が膨らみ
かけている。
 でも、体の動きは遅く、力は弱いので、アキコのビンタは痛くな
い。
﹁ひとつ!﹂
 パシン! 
﹁ふたつ!﹂
 パッシーン!!
 江藤の号令に合わせて、少女たちが交互に殴り合う。
 全力で張り倒すことが推奨されているので、倒れる少女もいるが、
すぐに起き上がる。
 アキコは精いっぱいやっているが、やはり大して痛くない。
 10回ほど繰り返したあと、江藤が楓たちの方に近づいてきた。
 反射的に、恐怖で二人の身がすくむ。
 江藤が来ている理由は分からなかったが、楓は殴られることを覚
悟した。

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﹁田中!それでは指導にならん!お前の気合が足らんからだ!﹂
﹁す、すみません!﹂
﹁二人とも指導!﹂
 古村の口から、楓が恐れていた言葉が出た。
 しかし、既に予期していたので、楓は素早く反応する。
﹁はい、ご指導よろしくお願いします!﹂
﹁は、はい、ご指導よろしくお願いします!﹂
 アキコの反応は一瞬遅れたが、なんとか怒られずに済んだようだ。
 楓は、すっかり小さくなってきつくなったズボンと、対照的にゴ
ムが伸びてゆるゆるになった下着を下ろし、﹁指導﹂の体勢をとる。
 アキコはもともと裸だから、ただ両手を地面につけてつま先立ち
すればいい。
パァァァン!!
パァァァン!!

 江藤の鋭い攻撃が二人を襲った。

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 楓は唇を噛んで何とか耐えた。
 正面を見ると、アキコは﹁ヒャアッ!﹂と悲鳴を上げてしまった
ようで、指導の追加を言い渡されて力なく従っていた。
パァァァン!!

﹁ご指導、ありがとうございました!﹂
 二撃目はアキコもなんとか我慢できたようだ。
 二人は息をそろえて礼を述べて、江藤は去っていく。
 その間、相互指導は止まっていた。
 周りの少女たちは、二人を心配する素振りを見せるでもなく、無
表情で立ち尽くしている。
 下手な動きをすれば、自分たちが酷い目にあわされることを知っ
ているからだ。
 姿勢を直した後、アキコはこちらを見て、申し訳なさそうに目を
伏せた。
 だが、楓の心は収まらない。自分には落ち度がないのに、よりに
よって江藤の竹刀を受けることになってしまったのだから。
 しばらくは尻の痛みが残り、明日は教室の椅子に座るのが辛いだ
ろう。
 ただでは置かない、と思った。
 アキコも、楓の怒りは察しているようだ。

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 だが、詫びることすら許されないアキコは、ただ寒そうに、体を
震わせるだけだった。
︱︱︱︱夜、少女たちは、校庭裏で水浴びをして体を洗った。
 雪こそまだ降っていないが、山の冬は身を切るように冷たい。
 誰もが、顔を白くさせて震え、コンクリートの上で行進をして、
体が乾くのを待つ。
 疲れでフラフラで、倒れそうな子もいる。女性教師が容赦なく、
早く体を乾かすよう急かす。
 ようやく服を着られる状態になると、楓たちはみな急いで服を着
た。
 半そで・半ズボンの夏服しかないとはいえ、何もない状態とは比
べ物にならない。
 そう、アキコのように。

 アキコは涙目になっていたが、その理由を知っているのは楓だけ
だった。
 水浴びのとき、全員揃えて靴を脱ぐのだが、アキコは自分の運動
靴が見当たらなくて探しているはずだ。
 実は、楓が教師の目を盗んで、一瞬のうちにアキコの靴を自分の
服に隠したのだった。
 腹が膨らんで怪しいが、寮の部屋まではみな走って帰るので、何
とかごまかすことができるだろう。

 寒空の下、いつまでも裸で泣きながら靴を探しているトロいアキ
コをおいて、少女たちはいっせいに部屋に向かって走る。
 水浴びは順番だから、アキコもじきに次の学年に追い払われるだ
ろう。

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︱︱︱︱翌朝、朝の農作業の時、楓は、アキコの靴を農場の水路に
放り捨てた。
 靴をなくしたアキコは、あまりにも物を粗末にしたという罪で、
ついに﹁懲罰﹂を受けることになったらしい。楓たちの学年では初
めてのことだ。
 いい気味だ、と楓は思った。
校外遠足:初めての男女交流会
 川女の生徒は、小等部の2年生までは、極力、外部との接触を避
けて徹底的な管理教育を施される。
 外出は近親の死亡の場合にしか許されない。
 正月でさえ、帰省が許されるのは高学年になってからだ。

 しかし、3年生になると、学園の外とのかかわりが徐々に始めら
れる。
 その手始めが遠足だ。
 1・2年生の遠足は、真夏に、学園のある過疎地の山で、ハイキ
ングと称したトレーニングをやらされるだけだった。楽しみにして
いる生徒はいないといってよく、楓にとっても、辛かった思い出し
かない。

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 これに対して、3年生の遠足は進級直前に行われる。そして、約
3年ぶりに、山の下の土を踏むことができるのだ。
 向かう先は、川端会の保有する共同農場。まだ信者全員が暮らせ
るだけの農地と設備は確保できていないが、20年をかけて、それ
なりの規模にまで広がっている。
 だが、行われるのは単なる農場見学ではない。
 男女交流会だ。
 子孫繁栄は川端会の教義の一つであり、本来ならば男女交流は普
段から促進したいところである。実際、青年期の信者のためには、
教団主催の交流イベントが多数開かれる。
 しかし、少年・少女の世代では、それが難しい。資金不足のため
に、男性信者にはまだできるだけ高等教育を受けさせる必要があり、
一足先に川端会の理想教育を始めた女子とは、物理的に距離があり
すぎるからだ。
 その妥協策が、小等部3年生から行われる男女交流会だ。各学年
ごとに時期をずらして行われるこのイベントには、信者の子女が多
数参加する。交流会に息子や娘を参加させることは、川端会エリー
トにとって名誉なことだからだ。
 川端会信者の子供であれば誰でも参加できるわけではない。川女
の側では、教師からの評価が悪いと参加することができない。最近
﹁懲罰﹂を受けたアキコは、今回は不参加だ。それでも、生徒の大
半は、交流会に参加することが許される。信者の息子たちは、みな
それぞれ普通の学校に通っているが、そのうち品行がよく、何らか
の成績が優秀な者、親の教団への貢献が高い者などが選抜されて、
100名程度が参加する。そして、さまざまな理由で川女には入学

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できなかった女子も、成績や容姿、そして教団への忠誠度などによ
る厳しい選抜を経て、男女が同数になるように20名程度が参加す
る。
 交流会に向けて、楓たちは厳しい準備作業を課されてきた。
 一番辛かったのは、親睦が早く深まるようにという名目で行われ
た、笑顔の練習である。
 教師たちは、少女たちにさまざまな命令を下して、それを全て笑
顔でこなすよう訓練した。
 例えば、二人組になってお互いの体中をつねりあう。どれだけ痛
くても、笑顔を崩してはならない。
 あるいは、お互いに相手の悪口をいうように命じる。ときには、
教師自身が、歯並びが悪いとか足が短いなどといった、少女たちの
コンプレックスを一人一人指摘していった。これに対しては、笑顔
で謝罪することさえ強制された。楓も、江藤先生に﹁お前は脚が太
い﹂といわれて、﹁そんなのどうしようもないのに⋮⋮﹂と思いつ
つ、﹁脚が太くてごめんなさい﹂と笑顔で謝る練習を何度もさせら
れた。
 もちろん、笑顔に心がこもっていない、などの理由で、何人もの
生徒が﹁指導﹂の餌食にあった。
 少女たちはこの特訓に耐え抜いた。それもこれも、学園の外に出
たいという健気な一心からである。たとえ自由行動の時間がなくと
も、この閉鎖空間の外の空気を吸うことができるというだけで、た
まらなく魅力的だったのだ。
 そして今日、ようやくその交流会の日が来た。

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︱︱お昼前、バスと電車を乗り継いで3時間かけ、交流会の場所で
ある共同農場公民館に到着した。
 他の子たちは少し早く集合するよういわれていたらしく、既に到
着している。
 特に私語の禁止などはされていないようで、笑顔でお互いに話し
ている姿が見える。中にはもともと知り合いだった子たちのグルー
プもできているようだ。
 楓は、特に女の子たちの姿に衝撃を受けた。当たり前だが、サイ
ズの合わないボロボロの体操服と運動靴で来ている子などいない。
親たちが、わが子の晴れ舞台のために身なりを整えてやったのだろ
う。髪型も服装もおしゃれで、化粧している子さえいる。だいたい、
全員が暖かそうな上着を着ている。
 楓たちは、へその出た体操服の半そでを着て、裾の破れた半ズボ
ンをはき、みんなおそろいの肩までの髪型で、飾り一つ、持ち物一
つなく、みんなの横に整列した。
 既に到着していた﹁外﹂の子たちは、奇怪なものを見る目でこち
らを見ている。﹁うわっ、やばいなあいつら﹂などという男子の声
も聞こえる。楓はみじめさに泣きそうになった。楓だけではなく、
川女の生徒全員の空気が沈んでいる。
﹁それじゃあ、みんな到着したようだから、交流会を始めましょう
か。まず、男女一列ずつで、みんな背の順に並んでくださいね。﹂
 どうやら、川女の女教師として楓たちを引率してきた小和田先生
が、この交流会を仕切るようだ。傍には江藤先生の姿もあり、二人
とも大きな荷物を背負っている。
 学園では聞いたこともないような柔らかい声で、みんなに指示を
出す。

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 みんなが子供らしい動きで列を作るのを、川女の子たちは恐怖で
ひやひやしながら待っていた。幸い、いつものように﹁指導﹂が飛
んでくることはない。
﹁今度からはみんなで組を作ってもらいますが、今日ははじめてな
ので、この背の順の隣の人と組んでもらうことにします。最初に、
おたがい自己紹介をしてください。﹂ 
﹁えっと⋮⋮。三浦リョウです。﹂
﹁古村楓です、よろしくお願いします。﹂
 自己紹介を済ますと、小和田先生からすぐに次の指示があった。
 列を作ったまま、二人で手をつないで先生たちについてくるよう
に、と。
 男子と手をつなぐのは初めてで照れ臭かったが、素直に従う。リ
ョウはこちらを見て、やはり照れたように、笑いかけてくれた。楓
は何となくホッとした気分になる。
 農場の水路に沿って15分ほど上流に歩いていると、農作業をし
ている信者たちに何度もすれ違った。
 そのたびに、みんなであいさつをした。川女でやる張り裂けそう
な挨拶ではなく、子供らしい、柔らかい挨拶だ。川女の生徒たちに
とっては、これだけで新鮮だった。
 交流会中は、組になった相手の子と話しても構いませんよ、とい
われていたが、いつもの私語禁止の癖がぬけなくて、なかなか会話

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が続かない。

 そうこうするうちに、やがて農業用水路は自然の川に合流した。
 さらにしばらく歩いて、少し浅瀬になった場所で、先生たちは立
ち止まった。

﹁この向こう岸に渡れば、広場になっているところがあります。そ
こまで行きましょう。﹂

 ﹁外﹂の子供たちがざわつく。
 水の深さは足首ぐらいまでしかないが、靴や靴下は濡れてしまい
そうだ。
﹁服を濡らす心配はいりませんよ。先生たちは袋をたくさん持って
きましたから、女の子は服と靴を脱いでこの中に入れてください。
男の子はしばらく待ってくださいね。﹂
 そういうと、江藤が女子の列に小さい袋を配り始めた。全部まと
めたら、大きな袋に入れて保管しておくようだ。
 ﹁えっ、うそ⋮⋮。﹂﹁マジ?﹂などという声が聞こえてくる。
 川女の子たちも、さすがに、男子の前で服を脱ぐのは恥ずかしい。
恥ずかしいが、命令に従う習慣には逆らえず、モゾモゾと服を脱い
で袋に入れる。あちこちで、男子の息をのむ声が聞こえる。楓も、
リョウの視線を感じて顔が赤くなった気がした。顔を直視すること
ができず、うつむいて手を差し出す。リョウは慌てたように手をつ
なぎ直してくれた。

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 ﹁外﹂の女子たちはそれどころではない。普通の教育を受けて育
ったら、小学校3年生にもなると、男子の前で裸になるなんて耐え
られないことだ。
 しかし、彼女たちも一応は川端会の信者である。両親も、それな
りに厳格な教育を施している家庭が多いし、そういう家庭の娘を選
抜してきている。川女の生徒たちが﹁見本﹂を示しおわると、おず
おずと服を脱ぐ子も出てきた。

 それでも、なかなか動かない少女が4, 5人いるようだ。
 既に裸になった女子たちが震えているのを見ても、なかなか動き
出すことができない。
 気が付けば、小和田先生まで裸になっていた。確か30歳前後だ
ったと思うが、大人の女性の体と肌を、惜しげもなくさらしている。
﹁あら、恥ずかしがりの子がいるようですね?仕方ありません。今
日は川端会のイベントの日ですから、江藤先生に川女流の﹁指導﹂
をしていただきましょうか。﹂

 その言葉が終わらないうちに、江藤が素振りを始めた。
 空気を切り裂くその音だけで、少女たちを威嚇するには十分だっ
た。ようやく観念して女子全員が裸になるまでに、10分ほどかか
っただろうか。
 寒さに慣れていない﹁外﹂の子供たちは、既に唇を紫にしている。
﹁それじゃあ、女子はお馬さんになってください。男子はその上に
乗って進みましょうね。男の子の足が濡れないように、できるだけ
手足を伸ばして背中を高くするんですよ。﹂

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 見本を示すように、小和田先生が四つん這いになり、﹁どうぞ乗
ってください﹂と江藤に声をかける。江藤は遠慮なく小和田先生の
背中に乗った。
 服と靴を濡らさないだけなら女子が靴を脱いで男子を﹁おんぶ﹂
するだけでもいいようなものだが、これも川端会の交流の一環なの
だろう。

﹁リョウくん、ど、どうぞ乗ってください。﹂
﹁あ、うん⋮⋮。﹂
 楓もリョウに声をかけ、リョウは少し遠慮がちにその背中に乗る。
 リョウの手が肩に触れて、ひんやりとした感触があった。

 少しフラフラしながら川を渡り、馬のまま小和田先生についてい
くと、すぐに広場のような場所に出た。
﹁交流会を続けますよ。まず、男の子は女子の体をよく見て、何か
コメントしてあげてください。﹂
 先生の指示で、男子たちはペアの相手の体をまじまじと見る。
 ﹁外﹂の子たちは思わず胸と性器を手でかばい、楓たちでさえも
恥ずかしさで身をすくめる。男子が服を着たままというのが、羞恥

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心をあおる。
 しかし、江藤の指示で、手足を広げた﹁大﹂の字の姿勢を取らさ
れてしまった。
﹁小和田先生、少し肌のハリが落ちてきましたな。﹂
﹁そうなんです。ごめんなさいね。﹂
 江藤のコメントに、小和田先生が笑顔で答える。
﹁えっと⋮⋮。﹂
 リョウが沈黙してしまって、楓たちの間には気まずい空気が流れ
た。
﹁あ、脚が太くてごめんなさい。﹂
 楓は沈黙に耐えられずに、思わず自分からいってしまった。練習
通りの、完璧な笑顔での謝罪だ。
﹁い、いや⋮⋮。そんなことはないよ、かわいいよ。﹂

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 とっさに出た社交辞令とはわかっているが、リョウがフォローを
入れてくれる。余計恥ずかしくなって、楓はうずくまりたかった。
﹁じゃあ次は、スキンシップで仲良くなりましょうね。男の子は、
なでたり、もんだり、くすぐったりしてあげてください。ときどき
なら、つねったり、叩いたりしてもいいですよ﹂
 小和田先生の言葉に合わせて、江藤がその体を実際にいじりまわ
している。

 リョウは、おずおずと手を伸ばすと、﹁大﹂の字になっている楓
の脇腹をさすった。
 くすぐったさと恥ずかしさで思わずビクリと震える。リョウの手
は、上に、下に、おなかに、背中にと回される。
 川女の少女たちにとっても、男子に体を触られるのは初めての経
験で、みな顔を赤くしている。
 ﹁外﹂の子などは、泣き出してしまった子さえいる。その子のペ
アの男子は戸惑って動きを止めたが、先生に促されて、スキンシッ
プを続けた。
﹁だ、大事なところも触ってあげるんですよ。⋮⋮っ。﹂
 いいながら、小和田先生の目は妖しく潤んでいるようだ。
 江藤先生を手本にしながら、男子たちが手を動かす。もう集団的
な興奮状態になっているようだ。
 女子の方は、冷たい感触の違和感とくすぐったさを感じるだけだ。

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 さすがに楓もあまりの羞恥で体が熱くなり、泣き出しそうだった
が、何とかこらえた。
﹁少し遅くなったけど、そろそろお昼ご飯にしましょうか。﹂
 しばらくして、先生からまた指示があり、スキンシップはようや
く中断された。
 あらかじめ広場に運ばれていた弁当が配られる。普通の仕出し弁
当だが、学園の感覚ではごちそうといっていい。
 広場に座って、仲良く食事が始まった。気が付かないうちにお昼
はずいぶん過ぎていて、そういえばおなかがすいている。
 肌寒さは隠せなかったが、普段の生活のことや家族のことなど、
会話は弾んだ。スキンシップのおかげで、ずいぶん距離が縮まった
気がする。こんなに人と話したのは久しぶりだった。

 食事を終えると、元の集合場所に帰る、という指示が出る。
 しかし、その前に最後のスキンシップがあった。
﹁最後に、ペアの人はしっかり抱き合ってください。キスをして、
今日のお礼をいいましょうね。﹂
﹁リョウくん、今日はありがとう。﹂
﹁こちらこそ、今日はありがとう。﹂

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 二人は、小学生らしいぎこちないキスをして、別れを惜しんだ。
 今日会ったばかりなのに、もう恋人のような気がする。
 また川を渡り、手をつないで集合場所に帰る途中にも、胸が切な
く痛むようだった。
﹁今日の交流会はどうでしたか?来年には、またこのようなイベン
トがありますよ。また会えるように、お互い、普段の生活もしっか
り頑張りましょうね。﹂
 先生からの締めくくりの挨拶を受けて、交流会は終わり、楓たち
は学園という牢獄に戻るのだった。
 交流会の内容は、学年が進むごとに変わっていくという。楓は、
来年もリョウに会えることを祈りながら、バスの中で眠りについた。
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この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。

宗教法人のスパルタ式でエロティックな女子学園教育
https://novel18.syosetu.com/n0770fe/

2018年12月9日01時10分発行

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PDF小説ネット発足にあたって
 PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
たんのう
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。

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