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資  料
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海外の安全防災にかかわる法令・規則 (その9)
            一インドネシア編一

ふち    がみ    てつ     じ
淵  上  哲  司*
 企業が海外に進出し現地で操業を開始するためには,設備や施設の安全性について,その設計段階か
ら注意を払っておく必要がある、その際検討すべき基本となるリスクに『火災・爆発・労働災害』の三
っが挙げられる.
 シリーズ第9回目は,「インドネシア」を取り上げ,上記三つのリスクに関する安全防災法令・規則の
種類と概要,その運用実態について紹介する.
 キーワード1インドネシア,防火・防爆,労働安全,法令・規則

て,ASEANの中で最も難解な法体系となっており,
1. インドネシアの法体系、
インドネシア人にとっても難解であるといわれてい
 1・1インドネシア法の特徴 る.

 1・1・1複雑な歴史的背景  1・1・2法の多重構造
 現在,インドネシア国民の90%程度がイスラム教徒  オランダ植民地時代には人種によって別々の法を適
であるが,インドネシア地域においては,過去宗教を 用するという政策が取られ,その結果,西欧人〔日本
異にする多くの王朝が興亡を繰り返しており,インド 人を含む)にはオランダ法,純粋のインドネシア人に
ネシア純粋の慣習法(マレーシアと同様にアダットと はアダット(その土地の慣習法),その他東洋人(華僑
よばれる)には,仏教,ヒンドゥー教,イスラム教, や印僑が中心)にはそれぞれの民族の慣習法が適用さ
純粋原始宗教など多くの要素が複雑に入り組んでいる れるという法の多重構造ができ上がった.
といわれる.  この法の多重構造は,立法や判例により解消される
 今日のインドネシアの大部分は,16世紀初頭から今 方向には向かっているが(例えば,手形,小切手のよ
世紀半ばまで400年以上にわたってオランダの植民地 うにアダットにないものに関しては,純粋のインドネ
であった.したがって,オランダの法律がそのままイ シア人にも西欧の法令・規則が適用される),現在でも
ンドネシア地域に取り入れられたケースもかなりみら 人種別に適用される法が異なるという法の多重構造は
れる. 変わっていない.
 しかし,オランダ法は過去に調査した国のうち,同  1・㍗3 複雑な法令・規則体系
じように植民地としての歴史をもつシンガポール,マ  インドネシアでは,法律が大統領令や省令あるいは
レーシア,オーストラリアにおいて,イギリス法が与 局長通達によって改廃されることが日常的に行われて
えたほどの影響はない. いる.かなり重大な制度変更も局畏通達の形式で行わ
 例えば,商法典の文言はオランダの古い商法典と同 れ,法律の形を取らないのが普通である。したがって,
じであるが,現在では米国におけるリステイトメント 日本のように法律だけをチェックすれば制度の枠組み
と同様,解説書的なものとされており・直説法的拘束 が把握できるというわけではなく,特定の事項に関す
力があるわけではないとされている(1963年9月5日 る規制内容を調べる場合,法律,大統領令,省令,各
の最高裁判所通達による). 種通達のすべてをチェックし,どの法令・規則のどの
 インドネシア法はオランダ植民地時代の影響もあっ 部分が有効かをまず丹念に整理しなければ規制の枠組
みすらわからないのが実状である.
(社)日本損害保険協会安全技術部二〒10/東京都千代田区  また,法律や政令,通達などは過去の法令やほかの
神田淡路町2つ 官庁所轄の法令との連続性や整合性を深く考慮せずに

安 全二1
1学
海外の安全防災にかかわる法令・規則(その9)一インドネシア編
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制定される場合もあり,法令相互間に一見矛盾するよ は旧宗主国のポルトガルなど認めていない国もある)
うな規定がみられることもまれではない・そのため, から成り立っている.
特定の事項に関してどの法令が主として適用されるの  州はさらに2級自治体である県(Kabupaten)や市
かを見極めるのが困難な場合もある・ (Kotamadaya)に分かれる.
 このような複雑な法令・規則の背景が先に述べた法  1・3 インドネシア進出に際して必要な許認可事項
の多重構造とあいまって,インドネシア法を一層わか     と手続きフロー
りにくいものとしている。  1・3唾必要な許認可
 1・1畦 法令の規定内容は,あいまいで担当官の裁量  外国資本がインドネシア国内に投資する際には,大
    の幅が広い きく分けて以下の四つの許認可が必要である.
 インドネシアの法令は大枠や精神のみを定めたもの  (1)投資許可(投資をインドネシア国内で行うこ
であるケースが多く,該当法令が適用される範囲や規    との認可1大統領権限)
制内容に関して具体的な基準を示している場合は少な  (2) 立地許可(その場所に当該投資を行うことの
い(インドネシアでは,トップダウンで法令・規則を    許可1州知事権限)
十分検討する前に法令が出されることが多い).その結  (3)建築許可(その場所に当該建築物を建築する
果,細かい実務的な部分に関しては現場担当官の解釈    許可1県・市の首長権限)
に委ねられる部分が多く,担当官の実質的な裁量の幅  (4) 妨害法許可(公害案件の許可二県・市の首長
はかなり広い.    権限)
 1・1・5 法令・規則ではないスローガンが社会的規範  なお,手続き窓口は一部の業種を除き投資調整庁
     として重要 (BKPM)である.
 インドネシアにおいては,それ自体は法令・規則で  インドネシアヘの外資進出に関する許認可フローは
はないスローガンが社会的規範として重要な役割をは おおむね図1のとおりである.
たしており,法令・規則の解釈や政策運営に大きな影  1・3・2許認可に関連するその他の留意点
響を及ぼしている.そのひとつが「パンチャシラl  インドネシアの外資誘致政策は,国内に資金が流入
Pancasila」とよばれる建国5原則である。パンチャシ するものであればなんでも歓迎するというものではな
ラとはインドネシァ共和国憲法の前文に示されている く,インドネシアの社会・経済の発展に有益と考えら
以下の五つの徳目である. れるものだけを選択して誘致するという基本方針が取
 ・絶対神への信抑(必ずしもイスラム教である必要 られている.
  はない)  そのため前述の許認可事項以外にも,以下(1)
 ・人道主義 ∼(3)のようにいくつか留意しておくべき事項があ
  インドネシアの統一 る.

 ・民主主 義  (1)投資制限されている業種がある
 ・社会正義  インドネシア企業が外資の技術を必要としていない
 「パンチャシラの精神」はインドネシアの政策運営の レベルにある業種や,零細企業が多い業種などには投
あらゆる場面で顔を出し,中でも労使関係に関しては 資制限があるケースが多い.
「パンチャシラ労使関係」が政策運営の基本とされ問題  外資への投資制限の内容はBKPMのネガティブリ
解決の際の指針とされる. ストに記載されているので,確認が必要である.
 パンチャシラのほかにも「ゴドンロヨン:相互扶助」  (2)地域,業種などによっては優遇措置がある
や「ムシャワラ:話し合い」の精神というスローガン  投資が制限されている業種がある一方,インドネシ
がよく使われる.ゴドンロヨンは,もともとは村落共 アの経済開発政策上メリットが大きいと考えられる場
同体内の相互扶助の制度であったが,現在では「親会 合には,投資条件の緩和など各種の優遇措置がとられ
社(元請け会社)はゴドンロヨンの精神に鑑み,子会 る場合がある.
社(下講け会社)の面倒をみるべきである」というよ  例えば,ジャワ島(5州),バリ島(1州)およびス
うに政策運営の際の指針に使われることが多い。 マトラ島の大部分(8州のうち6州)を除く15州への
 1・2 インドネシアの地方自治体 投資,外貨獲得の見地から輸出比率の高い企業などに
 インドネシアは1級自治体である27の州(Provill− は,一定の優遇措置が取られることがある.
siニジャカルタ特別市,ジョグジャカルタ特別市,アチ
ェ自治州を含む.なお,東チモール州の帰属について

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372 海外の安全防災にかかわる法令・規則(その9) インドネシア編

BKPM(投資調整庁)へ提出〔注1)
投資許可申請
BKPMは審査の、ヒで許可すべきと考
える案件につき大統領に承言 思願いを
原則6週間以内 提出する

大統領投資承認書

外資の場合,BKPMD
(州投資調整庁事務所)
資本材輸入マスタ・一リスト 玉虹i也言午貢∫
経由で申請
関税滅免輸入許可申講  本来,立地許可は州
雇用計画書  建築許可は県または
日本人の就労ビザ  市の権限である(漉2)
日本人の労働許可など
建築許可

建言没・轟式運1転 建設期間中もBKPMDへ年2
回状況を報告する義務がある
投資承認から3年以内に ▽
埠紘桑業を開女台する必要力f
菱)る 操業許可申請 BKPMD経由BKPMへ提出

操業開攻台後も年次幸艮告を
本操業開始
BKPMD経由BKPMへ提出

(注1) バタム島に進出する場合は,BKPMではなくBIDAニバタム工業開発庁が投資審査の所轄官庁になる.
また,金融機関など,一部の特殊な業種は窓口が所轄官庁になる.
(注2) インドネシアにおいては,外資系企業には土地の所有が認められておらず,建設権(HGB:Hak Gma
Banguam)または開発権(HGU l Hak Guna Usaha)を取得することになる,HGBやHGUの設定
は,国土庁(BPN)の州事務所で行われる.
       図1 インドネシアヘの外資進出に関する許認可フロー

 (3)製造業の新規進出は,実質的には工場団地に にはKeputusanMenteriとよばれる)をもとに,州
    限られる ごとに異なる特則を作成している.
 インドネシアでも環境保護に対する政策的な取組み  ただし,公共事業省にインタビューした限りでは,
がしだいに厳しくなっており,現在では製造業の進出 高度に都市化が進んだジャカルタ特別市のケースを別
は排水などの監視がしやすい工.場団地内にするように にすれば,国のビルディングコードがほぼそのまま州
BKPMが強く指導している.工場団地の排水規則など のビルディングコードとして採用されているとのこと
は国や州と事前に打合せの上で作成されているため, である (地震の危険が高い地域で構造に関する規制が
進出企業側にとっても工場団地に進出する場合はクリ やや厳しい程度とのこと).
アーすべき基準がわかりやすいというメリットがあ  このビルディングコードは,立地環境から構造,設
る。 備その他に至るまで建築規制にかかわる広い分野を網
羅しているが,規定はかなり単純で解釈の幅の広いも
2.インドネシアの防火・防爆に関する法令・規則
のとなっている.公共事業省でもこの点は認識してい
 インドネシアの防火・防爆に関する法令・規則およ るが,諸外国の規定をそのままの形で輸入して精緻な
び要求事項は表1のとおりである, 体系を作るよりも,経験の中から独自の体系を作り上
 2・1 ビルヂィングコード(Ke夢u撫san Menteri) げる方針であり,またジャカルタのようなごく一部の
 ビルディングコードの担当官庁は公共事業省(Min− 例外を除けば現行の規定で問題はないと考えている.
istry of Public Works)であり,公共事業省が定めた  2・2 労働安全に関連した諸規制
ガイドラインであるNational Building Code(一般的  1972年労働大臣決定158号では,労働者の安全の観

安全工 学
海外の安全防災にかかわる法令・規則(その9〉一インドネシア編一 373

表1 防火・防爆に関する法令・規則および要求事項

建築物の構造に関する 火災感知・警報設備に 消火設備・その他に関


規制 避難設備に関する規制
関する規則 する規則
ビルディングコード 耐火時間 非常口 自動火災感知警報装 ・消火栓

置手動火災報
(1985年公共事業大臣決定2号) 建築材料の耐火性能 非常階段 可搬式消火器
KEPUTUSAN MENTERI 防火扉 …般の回廊 知機 スプリンクラー
No.2/KPTS//985 開口部の間隔 屋外消火栓
・建物隔離壁
離間距離

労働安全面の諸規則

 1972年労働大臣決定158号 ・『定の工場における ・避難訓練 自動火災感知警報装 消火訓練


 KEPUTUSAN MENTERI 不燃材使用 置 可搬式消火器
 No,/581972

表2 構造に関する法令・規則および要求事項

耐火性能に関する規制 防火区画に関する規制 離間距離・その他に関する規制


ビルディングコード‘ 建築物の用途に応じ,A ・防火区画の概念はない. ・建築物の高さに応じて最少3m
(/985年公共事業大臣決定2号)
嘉般甥茗認i世i ・建物仕切壁は屋根より少な (8m以下の建築物の場合)から
KEPUTUSAN MENTERI くとも50cm上に出てい 最大8m以上(40m超の建築
No.2/KPTS/1985 に基本的な耐火時間や耐火 ること 物)の 離間距 離が定められてい
性能の要求が異なる, ・開口部は少なくとも垂直方 る,

向に90cm離れているこ
と.

労働安全面の諸規則
一!

1972年労働大臣決定158号 一定の工場における不燃材i
KEPUTUSAN MENTERI 使用          i
No,158/972               …

点から引火性物質を使用する工場における禁煙,裸火 大臣規則により労働場所には「火災感知・警報装置」
の使用禁止,消火器の設置,建屋を不燃材で建設する もしくは「自動消火設備」の設置が必要である。
ことなどの防火に関する規定をおいている.
4,インドネシアの防火・防爆規制の法令・規則の
 そのほか,石油精製設備,パンヤ綿工場,アセチレ
  運用実態と進出に際しての留意点
ンガスを使用する工場,爆発物を扱う工場,ガス工場,
発電所,圧力容器使用工場などに関して特別の労働安  4・1 法令・規則の運用実態
全規則があり,防火に関する規定が一部設けられてい  4・1・1 実務の運用実態
る。
 (1)許認可手続関連
 日系企業がインドネシアに投資を行う場合には,投
3.インドネシアの防火・防爆にかかわる規制
資許可のほか立地許可,建築許可,操業許可などが必
 3・1 構造,避難設備,火災感知・警報装置,消火設 要になる.投資許可に関しては,BKPM(投資調整庁)
   備に関する法令・規則および要求事項 が「ワンストップサービス」の窓口になっており,投
 「構造」に関しては,耐火時間などに関する規制が 資許可の可否を・決定するが(通常6週間以内),立地許
Keputusan Menteriにより行われているが,居室に関 可や建築許可,操業許可など,州の権限に属するもの
しては防火区画の定めがないのが特徴である(表2)。 に関しては,書類は一一括してBKPMD(州投資調整庁)
 その他,「避難設備」,「火災感知・警報装置」および が受け付ける(こちらは,fワンルーフシステム」とよ
「消火設備」については「構造」と同様,基本的には んでいる)ものの,実際の審査は関係官庁が個別に行
Keputusan Menteriに規定がある(表3∼表5)。 うので,最終的な許可がでるまでに時問がかかり,
 なお,「火災感知・警報装置」については,労働省の BKPMによれば6週間程度かかるとのことである.

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表3 避難設備に関する法令・規則および要求事項

避難手段 非常階段 非常口までの最長距離 表示・照明,その他


ビルディングコード ・避難路の幅は少なく 少なくとも幅120 25m ・非常口の方向がわか
(1985年公共事業大臣決定2号) とも1.8m cm るような表示をする
KEPUTUSANMENTERI 避難路は25mおき 直接非常口に25m こと

No.2/KPTS/1985 に防火扉が必要 以内で接すること ・非常口には照明およ


非常扉は自閉式で 高さ110cm以上の び表示があること
10kgfの力で開閉 手摺りを有すること
できること /段の高さは15∼
・非常扉の幅は0、9m 20cm
以上 ・換気された附室を有
するか2Pa以上加
圧すること

労働安全面の諸規則

1972年労働大臣決定158号 ・避難訓練を行うこと
KEPUTUSANMENTERI
No、1581972

表4 火災感知・警報装置に関する法令・規則および要求事項

自動火災感知警報装置 手動式火災警報装置

ビルディングコード ・工場,事務所,商業ビル,ホテルなどの2階 工場の1階に設置


(1985年公共事業大臣決定2号) 以上の階に設置 ・/85m2以上の事務所ビル,商業施設などに設置

KEPUTUSAN MENTERI ・学校,住宅,寮,礼拝所などは5階以上の階 ・学校,住宅,寮,礼拝所などの2∼4階で375


No,2/KPTS/1985 に設置 m2を超える場合設置
労働安全面の諸規則
 1970年安全法

     1983年労働大臣規則 自動消火設備が設置されていない労働場所は
     PER02 すべて自動火災感知警報装置を設置すること
・空問が壁などで仕切られている場合には,い
ずれの側にも感知器を設置すること.

 例えば,ホテルの操業許可の中にはレストランやバ ルディングコードの担当官庁である公共事業省もその
ーの営業許可,ボイラーやエレベータなどの設備面の 方針である.
許可,防火・防災面の許可など・22種類の許可を含ん  現在のビルディングコードでは,「防火区画の規定を
だもので,管轄宮庁も労働省,工業省,州政府など多 欠いている」,「危険物に対して特別の取扱いを建築・
岐にわたっている. 消防法上要求されていない」など,先進国の基準に慣
 一方,投資許可の方は原則として24日以内に出ると れ親しんだ者からみれば安全基準として必ずしも十分
のことである. な規定をおいているとはいえないが,公共事業省によ
 (2)査察・指導関連 ればいろいろな基準で実際に建築物を建てさせてみて
 現地に進出している建築会社や進出企業によれば, その経験からどのような規制がインドネシアの実状に
建設工事中に消防署の担当者が来ることがあるが,竣 合うかを判断した上で,時問をかけてビルディングコ
工後はほとんど査察・指導はないとのことである. ードの整備を行う方針であるとのことである.
 4・1・2 海外基準・規格の活用状況  そのため,インドネシアでは先進国の基準に合致し
 インドネシアにおいては,海外のどこか特定の国の たものであれば,どこの国の基準を使用して設計して
制度をそのままコピーするのではなく,独自の基準を も認められているのが現状である.
制定することを担当官庁が志向するケースが多い.  したがって,外資系の企業がインドネシアでオフィ
 この点では防火・防爆に関しても例外ではなく,ビ スビルやホテルなどを建設する場合,インドネシアの

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海外の安全防災にかかわる法令・規則(その9) インドネシア編一
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表5 消火設備に関する法令・規則および要求事項

スプリンクラーに関す 可搬式消火器に関する
消火栓に関する規制 その他
る規制 規定

ビルディングコード ・建築物の高さや階数 用途区分クラスA A金属以外の固形 用途区分クラスA


(1985年公共事業大臣決定2一号) に応じて床面積 の建築物(ホテル,事   物火災 (ホテル,事務所,工
KEPUTUSANMENTERI 800∼1000m2に一 務所,工場,商業ビ B液体,気体火災 場,商業ビルなど)
No.2/KPTS/1985 つ必要 ルなど)においては C電気火災 およびクラスB
間仕切りのある場合  4階建てあるいは高 D金属火災 (高層住宅,学校,寄
.ヒ記の2倍以上必要 さ/4m以上の階が の区分に応じた消火 宿舎など)には公共
また,屋外の消火栓 ある場合 器を建築物の用途に 事業省の規格に応じ
は建築物の60∼90 用途区分クラスB 応じ100∼250m2に た避雷針が必要
m間隔で必要 の建築物(高層住宅,  1個設置
学校など)は8階ま ・消火器設置場所には
たは40m以上の階 褒示が必要
がある場合に設置
・公共事業省所轄のイ
ンドネシア規格に準
拠すること

労働安全面の諸規則
 1970年安全法

 1980年労働大臣規則 ・可搬式消火器をアク
 Per041Men/1980 セスしやすいところ
に設置し,設置場所
を表示すること
・想定される火災の種
類に応じた可搬式消
火器を設置すること

 1972年労働大臣決定158号 消火訓練を行うこと
 KEPUTUSAN MENTERI
 No.1581972

基準をあまり考慮、することなく母国の基準で設計する 覚からすれば安全対策上若干疑問を感じるような建築
のが普通になっている. 物であっても特に問題とされることなく営業している
 また,場合によっては母国の墓準だけでなく先進諸 ケースも多い。
国のいろいろな基準の中から,各部分ごとに有利な基  例えば,地元資本のある大手小売店チェーンの場合,
準を選んで採用し,建築コストを削減するというよう 入居しているビルにはじめからついている場合を除け
なことも行われている. ば,スプリンクラーはまったくついておらず,非常口
 4・2 実務上の留意点 の表示も売り場や部屋の中のどの位置からでも見える
 4・2・1法令・規則の運用はフレキシブルである ようにはなっていない.
 ビルディングコードの規定内容は比較的簡単な内容  このようなケースはインドネシアではごく普通にみ
に限られており,そのため現場での解釈の幅が広く, られるが,同チェーンの安全管理担当者によれば,予
フレキシブルな運用が可能である.前記4・/・2項のよ 算面の制約からやむなくしていることであるという.
うに日本の基準に従って設計していればインドネシア  ビルディングコードの管轄官庁である公共事業省で
のビルディングコードはほとんど意識しなくても問題 も,外資系企業に関してはインドネシアの現行の規定
なく建築許可を得ることができる. で許される最低限のものではなく・むしろそれぞれの
 4・2・2 地元企業の建築物よりも高いレベルの安全 母国の規格に従った建築物を建てることを期待してい
    対策が期待されている る。

 インドネシアにおいてはビルディングコード自体が  4・2・3インフラストラクチャーの状況が目本とは
現在整備の途上にあることや,解釈・運用がフレキシ     大きく異なる
ブルであることが相まって,地元企業には日本人の感  インドネシアは現在,産業インフラの充実に注力し

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376 海外の安全防災にかかわる法令・規則(その9)一インドネシア編

ており,しだいに改善されつつあるというものの,日 に関してもいえるため,工場などの安全管理体制を検
本の感覚で考えることができる域までには達しておら 討する場合には注意が必要である.
ず,実際に防火体制を検討する場合には注意が必要で
5.インドネシアの労働安全にかかわる法令規則
ある。

 例えば,以下のとおりである.  5・1 インドネシアの労働安全に関する法令・規則
 (1)電力需給は逼迫している  インドネシアの労働安全関連事項の所轄官庁は,労
 インドネシアでは,電力需給は改善されつっあるも 働省(Ministry of Manpower)である.
のの依然として供給不足の状態が続いており,場合に  労働省は,労働安全関連の法令を制定する権限を有
よっては電力庁(通商PLN)から電力供給できない旨 するほか,労働監督官による査察・指導も行っている.
通告を受けることがある.実際に,PLNから貿電する  5・1・1 ユニ  業   シ去

予定で着工していたオフィスビルが,途中で100%自  工業法は,工業施設に対して操業ライセンスを要求
家発電とするように設計変更を余儀なくされたケース するとともに,政府による工荘および製品の安全に関
もある.また,かつてよりは改善されているとはいう して指導・監督を行う旨規定している.
ものの依然として停電は多く,買電で電気を賄う場合  5・1・2 安全に関する1970年法律1号(1貌0年安全
も停電時の安全対策を十分に考えた設備にしておくこ     法)
とが安全対策上必要である.  1910年の安全法に代わるものとして制定された労
 (2)水道の圧力が安定していない 働安全関係の基本法で,あらゆる労働場所について適
 インドネシアでは,水道は基本的にオランダ占領時 用される.
代のものが使われており,老朽化が進んでいるため,  この法律の第3条1項では,
水道の圧力が安定していない.したがって,火災発生  ・労災事故の危険を減らすこと
時に水道や公共の消火栓から直接消火用の水を取って  ・火災予防,火災による危険の現状および消火
も,十分な圧力が得られないことが多い.  ・爆発防止
 (3)都市の規模に比べて,消防署の設備が十分で  ・火災その他の危険からの避難手段の提供
    ない などが求められているほか,第5条で安全査察官およ
 インドネシアでは予算上の制約もあり,昔よりは改 び安全技術者にっいて,第10条で安全・健康委員会に
善しているものの,消防署の設備が十分でないケース ついて規定されている.
が多い.例えば,日系企業も数多く進出している.工業  なお,この法律が制定された1月12日は職業安全衛
団地があるジャカルタ郊外のタンゲランの町の消防署 生の日に指定されており,毎年1月は労働安全月間と
に消防車が入ったのはつい最近のことであり,消防車 して労働安全にかかわる種々のイベントがある.
のない市町村も多い。人口800万人以上といわれるジ  5・1・31930年蒸気規則
ャカルタの場合も自前ではなかなか消防車などの設備  ボイラー規則に相当する命令で,多くの法令規則が
を整備しきれないとのことで,日本から贈られた消防 新しくなっている中,この部分だけはオランダ統治時
車が主力になっている. 代のものがそのまま残っている.
 したがって,日本のように短時間のうちに消防車や  おもな規定内容は,ボイラーなどの圧力容器に関す
梯子車が何台も来て火災を消し止めたり,内部の人間 る形式証明,設置許可,事故時の報告などである.
を救出したりすることを前提に考えることはできな  か1・4防火・消火に関する想72年勇働大臣決定
い.     158号
 実際,水道の圧力が安定しないことや慢性的な交通  1970年安全法の下に出された労働大臣決定の一つ
渋滞の影響もあって,インドネシアでは一旦火災が発 で,保護具の支給,新規採用の労働者に対して労働場
生した場合には,焼け落ちることにより自然消火する 所に存する危険を十分説明すること,引火性物質を使
まで鎮火しないことが多いとのことである。 用する工場における裸火使用の禁止や消火器の設置な
 (4)地域によっては機械のメンテナンス体制を検 どの義務を定めている.
    討する必要がある  ただし,規定内容は抽象的で具体的にどのような場
 インドネシアでは,地域や機械の種類によっては十 合にどういう設備・器具が必要であるかまでは規定し
分メンテナンス体制が整っていないため,機械に対す ていない.
る十分な信頼性が保てない場含がある.
 このことは一般の産業機械に限らず,防災関連機器

安 全 工 学
海外の安全防災にかかわる法令・規則(その9)一インドネシア編
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 5・2 インドネシアの労働安全規則の運用実態と進 安全キャンペーン(労働安全衛生月間に種々のイベン
   出に際しての留意点 トや講習会などがある)の実施などには力をいれてい
 5・2・1 パンチャシラ労使関係 る.

 前述のようにインドネシアの労働政策は「パンチャ  5・2・3進出上の留意点
シラ労使関係」を政策運営の基本としており,「ゴドン  インドネシアの労働安全対策は現在整備途上にある
ロヨン」(相互扶助)や「ムシャワラ」(話し合い)の こともあり,法令およびその運用は日本と比較すれば
精神ということがよくいわれ,法令規則により白黒を あまり厳しいとはいえない.
はっきりつけるということは一一般に好まれない.した  その影響もあってか,労働者サイドも労災の危険に
がって,場合によっては一方的な主張にもある程度譲 対する意識が十分でないケースもあり,安全器具や保
歩しなければならないケースもある, 護具などを使用したがらない労働者も多いといわれ
 5・2・2 査察・指導の実態 る.したがって,進出に当たってはまず労働者に十分
 インドネシアでは1970年安全法に基づき,労働省の な安全教育を施すことが重要になる.
安全査察官が事業所の安全衛生の状態に関して査察を
行っている. 6.おわりに
 労働省では,安全査察官による査察制度の充実を第’  本稿では,インドネシアにおける安全防災規制の概
5次5か年計画のテーマの一つとし・制度の充実に務 略について紹介した。なお,本稿は(社)日本損害保
めているものの,東西5000km余りにわたる国土をカ 険協会が1993年度に調査した「海外の安全防災に係わ
バーするには現状人員が大幅に不足しており,日系企 る法令・規則に関する調査・研究報告書一インドネシ
業のようにおおむね労働環境が良好な企業に対して実 ア編一一」をまとめたものであり,詳細については報告
際に査察が入るケースはまれである. 書をご覧いただきたい.(連絡先103−5256−2642)
 一方,社内の労働安全衛生に関する委員会作りや,

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図書紹介
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化学プロセスの安全に関する訪欧調査団報告書

(安全工学協会,A4判,100頁,1993年6月発行,定価4000円)

 本報告書は1992年にイタリアで開催された第7回 取り組み状況がまとめられている.特に,反応危険を
Loss Prevention Symposiumの参加を機会に10名か 評価するに当たっての各社の試験装置の質と保有台数
らなる調査団によりイタリア,スイス,フランスの研 ならびにチバガイギー社の大規模な屋外爆発試験場と
究機関,化学・医薬品会社を訪問し各社の危険性評価 試験装置については傾注に値するものであり,トップ
および安全管理について調査結果をまとめた報告 書で クラスの企業が反応危険・爆発危険に関し基礎試験を
ある.訪問先は,イタリアの国立燃焼研究所,モンテ 重要視していることが理解できよう.
ジソン,スイスのサンド,ロシュ,チバガイギー,フ  なお,本書は種々の都含により発行が遅れたものの,
ランスのローヌプラン,エアリキッドといった世界の 各社の安全環境に対する理念に変化はないものと考え
トップクラスの研究機関・企業である.調査内容とし ると,わが国それぞれの企業における理念,実状と対
て,各社の安全環境に対するポリシー,安全管理組織 比する上でも参考になる書といえよう.(高木伸夫〉
の概要,反応危険性評価およびプロセス危険性評価の

、Vo/,34No,5(1995)

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