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地方公共団体の権能

1. 総説
(1) 憲法 94 条
○「財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する」
「財産を管理し」:取得・利用・保管・処分
「事務を処理し」:主として非権力的な性格を有する事務の処理
「行政を執行する」:主として権力的な性格を有する事務の処理
○「条例を制定する」
狭義説:議会が制定する条例(自治 14)に限定
広義説:その他長が制定する規則(同 15)を含む
最広義説(多数説):以上の他、各種委員会が制定する規則をも含む。

(2) 地方公共団体の権能の種類
自主組織権:組織編成について自ら決定する権能
自主財政権:活動のために必要な財の調達・管理・運営を自ら決定・実行する権能
自主行政権:担うべき事務の決定・実行の権能
自主立法権:法規定立の権能

2. 自主組織権
(1) 憲法
92 条:地方公共団体の組織に関する事項は法律で定める。
93 条:法律により議事機関として議会を設置、首長制の採用。

(2) 法律
長以外の執行機関として法律に定めるところにより委員会・委員を設置(自治 138 の
4①)
地方議会に議会事務局、事務局に事務局長、書記等を設置(同 138)
議会の定数(同 90・91 条)
教育委員会(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)
人事委員会(地方公務員法)
※ 2003 年の改正→ 都道府県の部局・市町村の部課について法律による規律が緩和され、条例で内部組

織の設置・事務分掌が決定できることとされた(158)。

(3) 権能行使に際しての考慮事項
内部組織の条例による規律 → 事務・事業の簡素・効率的な実施(自治 158②)など。

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3. 自主行政権
(1) 実定法における自主行政権の尊重
行政手続法における配慮(行手 46):地方公共団体による、条例・規則に基づく処分、
行政指導、命令等を定める行為、条例・規則に基づく届出
行政機関情報公開法 25 条:地方公共団体の保有情報につき適用なし。
個人情報保護法では統一した規律を求める動き。

(2) 憲法上の制約
人権の尊重及び平等原則など当然適用

(3) 法律による制約
都道府県公安委員会の権限を規律(風営法)
首長の道路権限を規律(道路法)
「義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例
によらなければならない。」(自治 14②)

(4) 国・他の地方公共団体による制約
地方自治法上の関与法制

(5) 自主行政権による活動の範囲
地方公共団体の収益事業は?
レストラン経営等(収益を住民の福利厚生に役立てる。雇用の創出等を前提)
収益ではないが、交通違反の反則金など

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4. 国政参加権
(1) 意義
国の施策に対する地方公共団体の意見陳述等によって国政の決定過程へ参加
憲法上の権能か否かについて争いあり。肯定説は、憲法 95 条を根拠とする。

(2) 機能
防御機能(地方公共団体の利益保護)と協働機能(国政支援・情報提供機能)

(3) 現行法上の国政参加
地方自治に影響を及ぼす法律・政令その他の事項に関して全国連合組織が総務大臣を経由
して内閣に意見を申し出(自治 263 の 3②)。
地方公共団体に新たな事務・負担を義務付ける国の施策の立案ににつき、全国的連合組織
に通知等の措置(同⑤)。
ばい煙の総量規制の対象地域を定める政令の制定・改廃につき都道府県知事の意見聴取
(大気汚染 5 の 2⑥)

(4) 課題
制度が未整備。
※ 日田市場外車券売場訴訟・大分地判平 15・1・28 判タ 1139 号 83

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5. 自治事務と法定受託事務(地域における事務・自治 2②)
(1) 地方自治法[1999 年改正・2000 年施行]前
① 自治事務の分類
公共事務:固有事務ともいう。本来的に地方公共団体が処理する地域的な事務
上下水道事業、公立学校の設置管理、屎尿処理等
(団体)委任事務:国又は他の公共団体から委任されて処理する事務
保健所の設置・運営、河川の維持管理費用の負担等
行政事務:権力的に処理することが認められた事務
道路の取締り、建築規制等の事務
② 自治事務の問題 公共事務(固有事務)の判別は困難。
③ 機関委任事務
地方公共団体の首長への委任 ← 団体委任と異なる。
旧法別表記載の機関委任事務 561 項目(都道府県の 7~8 割、市町村の 3~4 割)
受任者は委任者の指揮監督に服する(旧自治 150)。
→ 地方自治の本旨に不適合・1999 年廃止
(2) 国と地方の役割分担(役割分担の原則)
① 国と地方公共団体の役割
地方公共団体の役割(自治 1 の 2①)
国の役割(同②) 例 国家の存立に関わる事務(外交・防衛)
全国的に統一して実施すべき国民活動・地方自治に関する基本的
準則に関する事務(公正取引に関する事務)
全国的規模・視点で実施すべき施策・事業の実施(基幹的交通基
盤整備)
② 役割分担の意義
立法上・解釈上の意義(自治 2⑪⑫)
③ 都道府県と市町村の事務
市町村:基礎的な地方公共団体(自治 2③)
都道府県:市町村を包括する広域の地方公共団体(自治⑤)
広域にわたる事務・市町村に関する連絡調整・一般の市町村が処理できない事
務(都道府県は、市町村が単独で行うことが不可能または不適切な事務につい
てのみ補充的に都道府県が処理)。

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(3) 自治事務と法定受託事務の定義
自治事務:「地方公共団体が処理する事務」(自治 2②)のうち、法定受託事務以外のも
の(自治 2⑧)
* 都市計画区域決定、農業振興地域指定、就学校の指定、飲食店営業許可、病院薬局開設許可等(398 件)

法定受託事務:1 号法定受託事務(同⑨Ⅰ)
2 号法定受託事務(同⑨Ⅱ)
* 国政選挙、戸籍事務、旅券交付、生活保護決定・実施等(257 件)

(4) 自治事務と法定受託事務の判別
① 1 号法定受託事務
地方自治法が定めているもの(自治 320)
個別法が定めているもの(自治法別表)
地方自治法施行令が定めているもの(施行令 225)
地方自治法施行令以外の個別の政令が定めるもの(自治法施行令別表)
② 2 号法定受託事務
地方自治法が定めているもの(自治 321)
個別法が定めているもの(自治法別表)
地方自治法施行令が定めているもの(施行令 226)
地方自治法施行令以外の個別の政令が定めているもの(施行令別表)
③ 自治事務[控除法](2⑧)

(5) 自治事務と法定受託事務の差異
① 国の配慮義務
法定事務で自治事務にあたるもの(自治 2⑬)
* 法定事務と随意事務

法定事務:法律又はこれに基づく命令によって、国が地方公共団体に一定の事務の処理を義務付けるも

(必要事務・義務的事務ともいう)。

随意事務:地方公共団体が自らの事務として処理するかどうかを任意に決定できるもの(任意的事務とも

いう)。

② 条例の制定
条例制定の対象(自治 14①・2②):自治事務および法定受託事務の両者含む。
法令に違反してはならない(憲 94、自治 14①)。
③ 議会の権限
議会の監視統制権が自治事務・法定受託事務に及ぶ。ただし、例外的に及ばない範囲に両
者で差異(自治 98・100①)。
議会の条例による議決事項の追加は自治事務にのみ認められる(自治 96②)。

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④ 監査委員の権限
両事務に及ぶ。例外的に及ばない範囲もある(自治 199②)
⑤ 国等の機関による関与
<地方自治法上の関与>
自治事務の場合:「技術的な助言及び勧告」「資料の提出の要求」「是正の要求」「是正
の勧告」。
法定受託事務:「技術的な助言及び勧告」「資料の提出の要求」「是正の指示」「代執
行」(2 号法定受託事務の場合:+「是正の要求」)。
<個別法上の関与>
自治事務への配慮:「代執行」「同意」「許可、認可又は承認」「指示」といった関与が
行われないようにする(自治 245 の 3②・④-⑥)
⑥ 処理基準
大臣・都道府県の執行機関は法定受託事務の処理について基準を定めることができる(自
治 245 の 9)。
自治事務につき規定はない。
⑦ 並行権限を行使する際の方式
自治事務として地方公共団体が処理する事務と同一の内容の事務を法令の定めにより国の
権限に属する事務として処理することが可能(並行権限)。
E.g. 国土利用計画法による規制区域の指定(自治事務):国も指定可能。ただし、処理の
内容を予め地方公共団体に通知(自治 250 の 6)。
⑧ 紛争の処理
地方公共団体の長・執行機関は、国の一定の関与に不服がある場合に国地方係争処理委員
会に審査の申出(自治 250 の 13)。
自治事務は違法性及び不当性の審査、法定受託事務は違法性のみ審査(自治 250 の
14①②)
⑨ 行政不服申立て
法定受託事務に関する処分に対する不服申立て:国に審査請求をすることができる(自治
255 の 2)
自治事務に関する処分に対する不服申立て:特別の法律の規定がない限り、自治事務を処
理する地方公共団体以外の行政主体が審査機関となることはない。
⑩ 法務大臣権限法
国を当事者・参加人とする訴訟:法務大臣が国を代表(法務大臣権限 1)。
争点が第一号法定受託事務の場合:法務大臣は、当該地方公共団体の意見を聞いた上で、
その団体の指名する職員の中から指定するものに当該訴訟を行わせることができる。指定
された者は、法務大臣の指示をうける(同 2)。その他法定受託事務について(同 6 の
2①②・3)。

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※ 日田市場外車券売場訴訟・大分地判平 15・1・28 判タ 1139 号 83
<原告の主張>
「カ 憲法92条及び地方自治法の前記各規定,並びに,国が全国各地における同種事案
において,事実上,地元自治体等の立場を尊重しつつ許可処分をしてきたこと,類似の公
営ギャンブルの制度において,競馬場や馬券売場等の設置につき地元自治体の意思や立場
を尊重する運営が慣行としてなされてきていることを考慮すると,地方公共団体に重大な
利害をもたらす国の権限行使に際しては,その手続において関係地方公共団体の意見を聴
取し,それに配慮することが当然要請され,地方公共団体にはそうした手続的参加権が認
められると解するべきである。そして,この手続的参加権からすると,被告は,原告に対
し,本件許可処分の前に告知,弁解,防御の機会を権利として与えられるべきであったと
ころ,これを怠ったのであるから,原告はその手続的な不利益を争う法律上の利益を有す
る。地方自治法244条の3は,公の施設の区域外設置が関係地方公共団体間の協議によ
るべきことを規定している。そして,場外車券売場の区域外設置についても同条の趣旨を
適用し,地元自治体との協議を不可欠とすると解すべきであるから,そのような協議を受
けるべき原告の地位は,同条を法が形成する法体系において,法律上保護された利益とい
うことができる。
キ さらに,憲法31条は適正手続の保障を定めているところ,この権利は国民の基本的
人権として規定されているものではあるが,性質に反しない限り,一個の権利主体である
地方公共団体にも当然に準用されるべきである。法は,場外車券売場の設置について,地
元自治体の意見の聴取を明文上予定しているわけではないが,従来,その運用においては
その意見聴取がなされてきたという経緯がある。しかし,本件許可処分については,その
運用が全く無視されたのであり,憲法及び新地方自治法における,国と地方公共団体の対
等・平等な関係から考えれば,原告には,その手続的な不利益を争い,憲法が直接保障し
た自治権の侵害を訴える法律上の利益があるといわなければならない。したがって,地方
公共団体である原告は,憲法及び新地方自治法等により保障された自治権という法律上の
利益に基づき,本件訴訟を提起し得る原告適格を有する。」
<判旨>
「場外車券売場設置許可制度の目的は,申請に係る施設の位置,構造及び設備が公安上及
び競輪事業の運営上適当であるか否かを審査することにあると解するのが相当である。そ
して,前記のような場外車券売場設置許可制度の目的,法には,地元自治体の個別的利益
を直接保護することを目的とする明文の規定が存しないばかりか,前記許可制度が地元自
治体の個別的利益を保護する趣旨であることをうかがわせるような規定が存しないこと,
法は場外車券売場の許可基準について具体的に規定することなく,これを命令に委任して
いることからすると,前記許可制度によって,法が一般的公益と別に地元自治体の個別的
利益を保護する趣旨であると解するのは困難である……。したがって,原告が,本件許可

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処分によって侵害されたと主張する権能等は地元自治体の個別的利益として法が保護して
いるということはできない。」

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