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第 3 章-1 刑法1-刑法のきほん

2023.12.6

広義の刑法…犯罪と刑罰に関する規定すべて 例:道交法、会社法(背任罪など)
狭義の刑法…刑法典

1. 刑法の機能と罪刑法定主義

刑法の機能
 社会秩序の維持=一定の行為を犯罪と定め、犯罪に対して刑罰を科すことを国民に示
すことにより、犯罪を予防し、社会秩序の維持を図る。 p.80
 自由の保障=国家による刑罰の濫用を防止する機能。

罪刑法定主義…犯罪と刑罰は、法律によって前もって定められていなければならないとい
う原則。「法律なければ犯罪なし、法律なければ刑罰なし」と表現される。 p.81
←刑罰の人権・生命への影響力の大きさ。かつての罪刑専断主義に対抗して、市民の権利と
自由を守るために主張。

罪刑法定主義の具体的内容
① 成文法として書かれていない不明瞭な慣習法は認められない(慣習刑法の禁止)。
② 行為の後で刑罰法規を設け、遡って処罰することは許されない(遡及処罰の禁止)

③ 恣意的な刑法の適用をしないよう、解釈は厳格に行われなければならず、類推解釈は許

されない(類推解釈の禁止)
④ 「懲役刑 1 日以上」
「禁固期間は反省するまで」のように、身体の拘束期間を国家機関

(刑務所)に委ねるような法定刑の定め方は許されない(絶対的不定期刑の禁止)
⑤ 国民の自由な活動を委縮させたり、官憲が恣意的に処罰したりすることがないよう、刑
罰法規の内容は明確に規定されていなければならない(明確性の原則)

2. 民法と刑法の違い

事例 pp.81-82
 万引きした物を返す、あるいは代金を支払えば、許されるか?
 スリの未遂犯
←損害はなかったから、民法上の損害賠償は問題にならないが、犯罪行為を実行した、ある
いは実行に着手したことにより社会秩序を乱したという意味で、刑法上の責任は発生する。

このように刑法においては損害の回復よりも社会秩序の維持が重視されていたため、刑事
裁判において犯罪被害者は蚊帳の外に置かれていたが、近年は意見陳述、被害者参加制度な
ど被害者への配慮も取り込まれるような改善が進んでいる(p.82 コラム)

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3. 刑法の補充性・断片性

あらゆる「悪い行為」が犯罪として刑罰の対象とされるわけではない。 p.83
←刑罰はきわめて強力な制裁であるため、軽微なものや、刑罰による対応がふさわしくない
ものについては、刑罰の対象とされない。

日本の刑法における刑罰
 死刑(刑 11 条)
 懲役(刑 12 条)…拘禁することにより身体の自由を奪う自由刑。矯正作業が科せられ
る。
 禁錮(刑 13 条)…拘禁することにより身体の自由を奪う自由刑。矯正作業は科されな
い。
 罰金(刑 15 条)…1 万円以上の財産の剥奪を内容とする刑罰。
 拘留(刑 16 条)…ごく軽い罪に対して用いられる自由刑。1 日以上 30 日未満。
 科料(刑 17 条)…1000 円以上 10000 円未満の財産の剥奪を内容とする刑罰。
 没収(刑 19 条;付加刑としてのみ)…凶器、偽造通貨、賄賂などを、社会の安全のた
め、または犯罪による利得防止のため国家が取り上げるという刑事政策上の目的も含
む刑罰。
⇒刑罰による生命・自由・財産の剥奪、社会的評価の喪失

刑法は他の手段によるのでは解決できない場面においてのみ機能=刑法の補充性・断片性
p.84
同じ理由から、すべての犯罪に対して実際に刑罰が科されるわけではない。
例:執行猶予、起訴猶予、微罪処分(ダイバージョン)

4. 故意犯処罰の原則

民法=過失責任の原則
刑法=故意犯処罰の原則(犯罪を故意に行った場合にのみ処罰される)。ただし、過失致死
傷、失火、往来危険など重大犯罪については「特別の規定」により過失犯も処罰対象となる。

故意=犯罪を構成する事実が行為者の頭の中に浮かんでいる状態。違法性の認識がなかっ
たことは故意を否定する根拠にはならない。

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5. <補足>犯罪の成否

恣意性を排除し、客観性・公平性を確保する観点から、犯罪の成否は体系的・分析的に判断
される。

形式的・客観的・一般的判断
① 対象となる行為が条文に示されている構成要件にあたるか(構成要件該当性)
② 当該行為が違法であるか(違法性)
実質的・主観的・個別的判断
③ 行為者に当該行為について責任があるか(有責性)

(1)構成要件該当性

① 構成要件とは?

構成要件…法律が禁止する行為を類型化したもの。ある行為がその類型にあてはまること
を「構成要件に該当する」という。
 通常、刑法は法益侵害行為であっても、よほどの場合にしか処罰しない(刑法の断片性)
(例:借金を返さない者は民法上の債務不履行責任を負うが、犯罪は成立しない)。逆
に、構成要件で、どのような行為が処罰され、また処罰されないかが明確に示され、罪
刑法定主義を具体化している(構成要件の罪刑法定主義機能)。
 人の死という結果をもたらすような行為でも、殺人罪、傷害致死罪、過失致死罪など多

様。構成要件により、個々の犯罪が区別される(構成要件の個別化機能)

構成要件の要素…主体、客体、行為、結果、因果関係、行為の状況など。

殺人罪の場合
「人」を殺す
「殺す」
「故意」に殺す

② 客体

殺人罪(刑第 199 条)の構成要件要素としての客体=「人」


 「人」と「胎児」
例:妊婦の腹を蹴って胎児を死なせた場合。
対象が「胎児」であれば殺人罪ではなく堕胎罪(刑第 212 条)になるが、胎児が妊婦の身
体から外に生まれ出てきたら、もはや胎児ではなく「人」であるから殺人罪になる。
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→胎児はいつから「人」になるのか? 一部露出説(通説)vs 全部露出説

 「人」と「死体」
死んだ人を殺そうとしても、死体損壊罪(刑第 191 条)になるにすぎない。
→人はいつ死んだといえるのか?
従来は心拍停止(心臓の機能停止)
、呼吸停止(肺の機能停止)、瞳孔散大(脳幹の自律機
能停止)の三徴候説であったが、現在では、心臓死を前提としつつ、臓器移植の場合に限り、
脳死(脳幹を含む脳全体の機能が完全に喪失した状態)を死とするようになっているが、疑
問が残る点や異論もある。

③ 実行行為

構成要件要素としての行為(実行行為)=法益侵害の危険のある行為。

例:傷害罪の実行行為要素としての「傷害」の実行行為
 人の身体の完全性を害すること(完全性毀損説)
←頭髪を切ったり、眉をそり落としたりしただけでも傷害の実行行為となる?
 人の生理的機能に障害を生じさせること、健康状態を不良にすること(生理的機能障害
説;多数説)
⇒生理的機能障害説に立つとしても、精神的機能を害する行為をどの程度考慮に入れるの
かについては、各犯罪でさまざまな解釈論・論争あり。

④ 因果関係

因果関係=行為と結果のつながり。当該行為により起きた結果に対してのみ、行為者の責任
が追及される。
 例 1:A が B を殺そうとしてナイフで切りつけたが、その直後、同じように B を殺そ
うと思っていた C が横から B をピストルで撃って即死させた場合、殺人未遂罪とはな
っても、殺人罪(既遂)とはならない。
 例 2:A が B に切りつけた後、B が救急車で病院に運ばれる途中に、交通事故により死
んだ場合、A が B に切りつけさえしなければ、B は救急車に乗ることもなかったから、
A の行為と B の死の間につながりがないとはいえない(条件説)。しかし、交通事故は
まったく偶発的なハプニングであるから、客観的に因果関係があるかどうかは議論と
なりうる(相当因果関係説)。

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(2)違法性阻却事由

構成要件の違法性推定機能→例外的に違法性がなくなる場合のみ刑法上に列挙(違法性阻
却事由・正当化事由)。

 正当業務行為(刑第 35 条)
例:外科医による手術の執刀は、傷害罪の構成要件に該当する行為であるが、職務上の
正当な業務として違法性が阻却される。ボクシングなど格闘技も暴行罪とはならない。
 正当防衛(不正対正)
 緊急避難(正対正)←補充性の原則(自分の法益を守るためには他にとるべき手段がな
く、それが唯一の方法でなければならない)

(3)有責性-責任能力が認められない場合

責任主義=近代以前は一族郎党など関係者がもろとも責任を負わされたり、過失すらない
のに結果責任を負わされたりすることもあったことから、近代以降は「責任なければ刑罰な
し」というのが罪刑法定主義と並ぶ刑法上の大原則となった。

責任能力…自分の行為の是非や善悪を判断し、かつそれに従って行動することができる力。

責任能力が認められない者
 心神喪失者・心身耗弱者(刑 39 条)
 心神喪失…①精神の障害により事物の是非・善悪を弁別する能力、または、②それに従
って行動する能力のない状態。処罰されない。
 心神耗弱…①②の能力が著しく減退した状態にあること。刑が減軽される。
 かつては鑑定医・心理学者等の鑑定結果が重視されていたが、覚醒剤中毒者による犯罪
激増に対する批判を背景に、「法律判断であって専ら裁判所に委ねられるべき問題」で
あり、
「その前提となる生物学的、心理学的要素についても、…究極的には裁判所の評
価に委ねられるべき問題」とされるようになった(最決昭和 58 年 9 月 13 日判時 1100
号 156 頁)

 心神喪失により無罪判決を受けた被告人は、①心神喪失者等医療観察法による医療お
よび観察、または②精神保健福祉法 29 条による措置入院になる。

 刑事未成年者(刑 41 条)
 14 歳未満の者を指す。
 可塑性に富み将来ある年少者には教育による矯正が有意義であるとの立場から、処罰
されない。
 14 歳以上 20 歳未満の者には少年法が適用され、刑罰ではなく、保護処分という教育的
処分が課される。ただし、近年は少年法厳罰化の傾向。
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