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共謀共同正犯

⽀配型:スワット
2023 年 5 ⽉ 16 ⽇
担当:江本・奥野

1.共謀共同正犯とは
共同正犯における分類

(共同正犯)
第 60 条 2 ⼈以上共同して犯罪を実⾏した者は、すべて正犯とする。

〈意義〉
2 ⼈以上の者が共同して犯罪を実⾏する意思(共同実⾏の意思)のもとに、共同して
実⾏⾏為(共同実⾏⾏為)を⾏うこと

・成⽴要件
① 主観的要件として、複数⼈に共同実⾏の意思が存在すること
(各⾏為者が相互に他⼈の⾏為を利⽤・補充し合って構性要件を実現する意
思のこと、⾏為者間相互に存在することが必要)
② 客観的要件として、共同実⾏の事実が存在すること
(複数⼈が実⾏⾏為を共同して犯罪を実現すること、実⾏⾏為以外の⾏為を
共同して⾏なっても実⾏共同正犯は成⽴しない)

・実⾏共同正犯:共同者全員が実⾏⾏為を分担し合って犯罪を実現する場合
・共謀共同正犯:複数⼈が特定の犯罪を⾏うため、共同実⾏の意思のもとに相互に他
⼈の⾏為を利⽤し合って犯罪を実現するための謀議をし、共謀者の
うちのある者が共同実⾏の意思に基づいてこれを実⾏する場合

共謀共同正犯についてみていく
〈意義〉
2 ⼈以上の者が⼀定の犯罪を実現することを共謀し、共謀者の⼀部の者がその犯罪を
実現した場合には、実⾏⾏為に関与しなかった者も含め共謀者全員について共同正犯
が成⽴すること
⇨共謀に加わっただけの者にも共同正犯を認める点で、実⾏⾏為に出た者を共同正犯
とする実⾏共同正犯と対⽐される

1
⇨共謀共同正犯には共同正犯の成⽴要件である共同実⾏の事実がないが、共謀共同
正犯を認めないと、実⾏を分担しない背後者を教唆犯または従犯として処罰する
しかなく、実⾏⾏為を担当した者を⽀配する重要な役割を演ずる⼤物が存在する
場合等その犯罪の実態に合致せず、不都合な結果となるため共謀共同正犯を認め
る実質的必要性がある

・成⽴要件
① 共同実⾏の意思(正犯意思)
単に共同実⾏の認識があるだけでは⾜りず、他の関与者と協⼒しあって犯
罪を実⾏する意思
② 共謀の事実(いわゆる意思連絡)
(1)2 ⼈以上の者が特定の犯罪を⾏うため相互に他⼈の⾏為を利⽤・補充し
合い、各⾃の犯意を実⾏に移すことを内容とする相談ないし協議を⾏い、
合意に達すること
(2)共謀は事前に⾏われること(事前共謀)は必ずしも必要ではなく、犯
⾏現場での共謀(現場共謀)でもよい
(3)謀議によって、実⾏者の⾏為と同程度の重要な役割を演ずるという対
等な関係、または実⾏者を⾃らの代⾏者として実⾏⾏為の遂⾏を引き受け
させ、それに基づいて犯罪を実⾏させるという⽀配関係が形成されること
を要する
③ 実⾏⾏為
少なくとも共謀者の 1 ⼈が、共謀に基づき実⾏⾏為を⾏うことを要する

2.事例の検討
① 練⾺事件 最⼤判昭 33.5.28, 百選 I No.75
【事案】
甲⼄らは A に暴⾏を加える計画を⽴てた。更に丙らのグループ、丁らのグループも A
の襲撃計画に合流した。その後、丙らのグループが A を襲い、後頭部等を乱打して脳
挫傷により A を死亡させた。

【判旨】
共謀共同正犯が成⽴するには、2 ⼈以上の者が、特定の犯罪を⾏うため、共同意思の
下に⼀体となって互に他⼈の⾏為を利⽤し、各⾃の意思を実⾏に移すことを内容とす
る謀議をなし、よって犯罪を実⾏した事実が認められなければならない。したがって
右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実⾏⾏為に関与

2
しない者でも、他⼈の⾏為をいわば⾃⼰の⼿段として犯罪を⾏ったという意味におい
て、その間刑責の成⽴に差異を⽣ずると解すべき理由はない。さればこの関係におい
て実⾏⾏為に直接関与したかどうか、その分担または役割のいかんは右共犯の刑責じ
たいの成⽴を左右するものではないと解するを相当とする。

共謀者の間に犯罪遂⾏に関する合意が成⽴しているときは、共同して相互に利⽤し合
って結果を実現したという意味で間接正犯における利⽤⾏為と意味的に同じものがあ
るとして正犯性を認めた(=間接正犯類似説)

共謀共同正犯が成⽴、傷害致死罪

② スワット事件 最決平 15.5.1, 百選Ⅰ No.76


【事案】
暴⼒団組⻑である被告⼈が、遊興等のため、上京した際、被告⼈の警護を担当するス
ワットと称されるボディーガード(組員)らと共謀の上、同⼈等に実包の装填されたけ
ん銃 5 丁等を所持させたとして、被告⼈に、けん銃等の所持につき共謀共同正犯が成
⽴するかどうかが問題となった。

【決定要旨】
本件では、スワットらのけん銃 5 丁とこれに適合する実包等の所持について、被告⼈
に共謀共同正犯が成⽴するかどうかが問題となるところ、被告⼈は、スワットらに対
してけん銃等を携⾏して警護するように直接指⽰を下さなくても、スワットらが⾃発
的に被告⼈を警護するために本件けん銃等を所持していることを確定的に認識しなが
ら、それを当然のこととして受け⼊れて認容していたものであり、そのことをスワッ
トらも承知していた。弁護⼈らが主張するように、被告⼈が幹部組員に対してけん銃
を持つなという指⽰をしていた事実が仮にあったとしても、前記認定事実に徴すれ
ば、それは⾃らがけん銃等の不法所持の罪に問われることのないように、⾃分が乗っ
ている⾞の中など⾄近距離の範囲内で持つことを禁じていたにすぎないものとしか認
められない。また、被告⼈とスワットらとの間にけん銃等の所持につき黙⽰的に意思
の連絡があったといえる。そして、スワットらは被告⼈の警護のために本件けん銃等
を所持しながら終始被告⼈の近辺にいて被告⼈と⾏動を共にしていたものであり、彼
らを指揮命令する権限を有する被告⼈の地位と彼らによって警護を受けるという被告
⼈の⽴場を併せ考えれば、実質的には、正に被告⼈がスワットらに本件けん銃等を所
持させていたと評し得るのである。したがって、被告⼈には本件けん銃等の所持につ
いて、B、A、D 及び C らスワット 5 名等との間に共謀共同正犯が成⽴するとした第 1

3
審判決を維持した原判決の判断は、正当である。

具体的な指⽰⾏為等がなくても共謀共同正犯を肯定しうる場合がある1

(1) 本件は、被告⼈の警護のために選ばれた精鋭の者がけん銃を所持して被告⼈を警護
するために⾏われたものであって、被告⼈は組⻑としてこれら実⾏⾏為者に対し圧
倒的に優位な⽀配的⽴場にあり、実⾏⾏為者はその強い影響の下に犯⾏に⾄ったも
のであり、被告⼈はその結果⾃⼰の⾝辺の安全が確保されるという直接的な利益を
得ている

(2) 具体的な謀議⾏為が認められなくても、犯罪を共同して遂⾏することについての合
意が認められ、実⾏⾏為に直接関与しなかった被告⼈についても他⼈の⾏為を⾃⼰
の⼿段として犯罪を⾏なったものとして正犯意思が認められる2

共謀共同正犯が成⽴、銃砲⼑剣類所持等取締法違反

1
ここまで⾠⺒法律研究所「NEW STANDARD TEXT 刑法」p300~310
2
平成 15 年 5 ⽉ 1 ⽇最⾼裁判所第⼀⼩法廷決定要旨における裁判官深澤武久補⾜意⾒よ

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大麻密輸入事件

1,事案の概要【最高裁昭和 57 年 7 月 16 日決定(刑集 36 巻 6 号 695 頁)】


被告人 X は、昭和 55 年 9 月末頃、かつてともにタイ国から大麻を持ち帰ったことのある A
から再び大麻密輸入の計画を持ちかけられた。X は、大麻を入手したい欲求にかられ、A に
対し、自らは執行猶予中の身であるから、その実行を担当することはできないと述べて A の
申し出を断るとともに、代わりの人物を紹介することを約束した。X は、同年 10 月上旬頃、
知人の B に上記事情を明かして協力を求めたところ、B もこれを承諾したので、B を A に
引きあわせ、さらに、その頃 A に対し大麻密輸入の資金の一部として金 20 万円を提供する
とともに、大麻を入手したときにはこの金額に見合う大麻をもらい受けとることを A と約
束した。一方、A は、知人の C を誘い、B を交えて協議した末、C がタイ国現地における大
麻の買付け役、B がこの大麻をタイ国から日本国内に持ち込む運び役とそれぞれ決めた上、
B、C の両名が同月 23 日タイ国へ渡航し、大麻の密輸入を実行した。

2,検討
・大麻の密輸入を行った B、C には大麻取締法 4 条 1 項・24 条と関税法 111 条により処罰
され、大麻密輸入の共同正犯(60 条)が成立する。
・問題は、密輸入の実行行為に参加しなかった X に共謀共同正犯が成立するかである
・共謀共同正犯の成立には犯罪遂行において意思連絡が必要であり、正犯性(犯罪の主役で
あると判断出来る実質が備わっているか)が認められなければ幇助犯(62 条 1 項)が成立
するにとどまる。
・本事案では、X と B との間で大麻を密輸入することが意思連絡されており、正犯性が肯
定されるかどうかが問題となる。

3,決定文
「被告人はタイ国からの大麻密輸入を計画した A からその実行担当者になって欲しい旨頼
まれるや、大麻を入手したい欲求にかられ、執行猶予中の身であることを理由にこれを断っ
たものの、知人の B に対し事情を明かして協力を求め、同人を自己の身代りとして A に引
き合わせるとともに、密輸入した大麻の一部をもらい受ける約束のもとにその資金の一部
(金 20 万円)を A に提供したというのであるから、これらの行為を通じ被告人が右 A 及
び B らと本件大麻密輸入の謀議を遂げたと認めた原判決は、正当である。

→Xに対して正犯性を認め、大麻密輸入の共謀共同正犯が成立するとした

・謀議を遂げた=共謀共同正犯が成立するという意味(これは、共謀共同正犯の指導的判例
とされる『練馬事件判決』において「謀議」という言葉が使用されたことを受けている)

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4,解説
・X は大麻密輸入行為の実行者ではなく、実行者を紹介し、資金を提供したにとどまる
⇒一見すると大麻密輸入の手助け、つまり幇助(
(正犯による犯罪の実行を容易にするための
行為)のように思える

・しかし、問題は幇助にとどまらず、共謀共同正犯の正犯性が認められるのではないかとい
う点にある

*共謀共同正犯の正犯性の考慮要素
①関与者間の人的関係(主従関係か対等な関係か)
②謀議への関与の程度(積極的に発言したか)
③犯罪の遂行に対する寄与度(必要不可欠な準備行為をしたか、単純な機械的作業をしたに
すぎないか)
④犯行の動機・意欲(自ら進んで謀議に加わったか、しぶしぶ参加しただけか)
⑤犯罪から得られた利益の帰属(利益の分配)

↑薬物犯罪や財産犯罪において⑤は実務上重視される傾向にある
本件も密輸入した後に大麻をもらい受ける約束をしていた点が正犯性を考慮する上で重
要な根拠となった

共謀共同正犯の正犯性は上記の事情を総合的に考慮した上で判断され、犯罪を遂行する過
程で実行行為に準ずる「重要な役割」を果たしたと言える場合、或いは、犯罪が「他人の犯
罪」ではなく、「自己の犯罪」であると言える場合に認められるとされる

◎本件の場合、X は大麻密輸入の実行担当者を A に紹介したが、ただの紹介ではなく「自


己の身代わり」の紹介を行った

◎また、X による A への金 20 万円の資金提供は、大麻を密輸入する行為に必要不可欠な、


しかも「大麻をもらい受けるための」行為であった

◎そして、X がこれらの行為に出たのは(「自ら大麻を入手したい」という動機からなるもの
であった

⇒これらの事実からみると、X は大麻密輸入において(「重要な役割」を果たし、X にとって


密輸行為が(「自己の犯罪」であることが明らかであるため、共謀共同正犯の正犯性が肯定さ
れた。1

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5,判例解説(事件の詳細)

2 当審判示
(2)団藤裁判官の意見
『被告人はかなりの大麻吸引歴をもっていたところから( (記録によれば、一年ばかり前か
ら八〇回くらい大麻を吸引していたというから、すでに大麻に対する依存性が生じていた
のではないかと想像される。)
、大麻の密輸入を計画した甲からその実行担当者になってほ
しい旨頼まれると、みずから大麻を入手したい欲求にかられて、本件犯行に及んだこと、ま
た、大麻の一部をもらい受ける約束のもとにその代金に見合う資金を提供していることが
みとめられる。これは被告人にとって本件犯罪が自分のための犯罪でもあったことを示すも
のというべく、それだけでただちに正犯性を基礎づけるには足りないとはいえ、本人がその
犯罪実現の主体となったものとみとめるための重要な指標のひとつになるものというべき
である。そこで、さらに進んで、被告人が本件において果たした役割について考察するのに、
被告人は甲から本件大麻密輸入の計画について実行の担当を頼まれたが、自分は刑の執行
猶予中の身であったので、これはことわり、自分の身代わりとして丙を出したというのであ
る。ところで、丙は被告人よりも五、六歳年少の青年で、被告人がかねてからサーフィンに
連れて行くなどして面倒をみてやっていた者であるが、たまたま被告人と丙は一緒にグァム
島に旅行する計画を立てていたところ台風のために中止になり、丙はせっかく旅券も入手
していたことでもあり外国旅行を切望していた。被告人はそこに目をつけて、
「旅費なしで
バンコックへ行ける話がある」といってタイ国行きを二つ返事で応諾させたのであり、その
際、大麻の密輸入のこともいって、自分の代わりに行くことを承知させたものと認められ
る。このような経過で丙は本件犯行計画に参加し大麻の密輸入を実行するにいたったので
あって、被告人は、単に本件犯行の共謀者の一員であるというのにとどまらず、甲とともに、
本件犯行計画において丙を自分の思うように行動させてこれに実行をさせたものと認める
ことができる。以上のような本件の事実関係を総合して考えると、被告人は大麻密輸入罪の
実現についてみずからもその主体になったものとみるべきであり、私見においても、被告人
は共同正犯の責任を免れないというべきである』

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3 説明
(1)法廷意見について
5 本件における被告人の犯行への関与の態様は、甲から大麻密輸入の話を持ちかけられて、
実行行為者(丙)を紹介し、資金の一部を提供したというものであって、一審判決のいうと
おり、
「幇助的」であることを否定できない。しかし、本判決が指摘するように、被告人が、
執行猶予中の身であるために自ら実行行為者となることを拒ったが、その身代りとして知
人の丙を紹介したものであること、自らも大麻密輸入の欲求にかられており、密輸入した大
麻の一部をもらい受ける約束のもとに、その(代金に見合う)資金を提供したものであるこ
となどの事情があるとすれば、被告人が、これらの行為を通じ、甲及び丙らと、大麻密輸入
という犯罪を行うため「共同意思の下に一体となって...( 各自の意思を実行に移すことを内
容とする謀議」を遂げたという評価を相当とする場合であるといえよう。右のような事実関
係( のもとにおいては、右大麻密輸入という犯罪は、被告人にとって「他人の犯罪」ではな
くて「自己の犯罪」であるということもいえるであろうし、また、被告人が右犯罪を遂行す
る過程において( 「重要な役割」を果たしたといえることも明らかであろう。2

1
ここまで『START(UP! 刑法総論判例 50!』p,110-113
2
【一般財団法人法曹会 最高裁判所判例解説】『〔16〕大麻密輸入の謀議を遂げたものとされた
事例』p,221-232 より抜粋

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