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第8節 盗品等に関する罪

I.総 説
(1)意 義
・盗品等関与罪は、財産犯の客体とされた財物(贓物)に関わる犯罪であり、行為態様としては、無償譲受(平成7
年改正前の「収受」)
(256I)
、運搬、保管(同「寄蔵」)
、有償譲受(同「故買」
)、有償処分のあっせん(同「牙保」)
(以上、256II)が挙げられている。
・財産犯(これを本犯という)が先行して行われており、財産侵害としては間接的な点、そのような財産犯を助長し、
その利益に与かるという性質も帯びている点において、これまでの財産犯と性格を異にする。
・独立の財産犯としての構成は比較的新しく、現在の256条のような規定のあり方は旧刑法に由来する。伝統的には、
犯人蔵匿罪の一種として、あるいは、先行する財産犯の事後共犯として構成されていた。
(2)保護法益
a)追求権
・保護法益は、当該「物」の所有者等が有する追求権とするのが判例・通説である。追求権とは、所
有権等の一内容たる物の返還請求権(それに準ずる保護に値する利益を含む)をいう。
・本犯により生じた違法な財産状態を維持することに盗品等関与(贓物)罪の本質を求める違法状態維持説は、本犯
による財産侵害を要件としない点で追及権説と区別される。本罪の財産犯としての性格を重視する立場からは支持
を得られず、また、現在の文言のもとでは採れないと解される。
b)財産犯の助長の阻止
・盗品等関与罪は財産犯を助長する行為の阻止も「目的」としている。これを固有の保護法益と捉えるこ
とは、本罪を物的庇護罪として(も)捉えることとなり疑問が残る。解釈に際しての考慮要素にとどまる。
・本犯たる財産犯は、構成要件に該当し違法であることを必要とする。本犯の責任阻却は影響しない。親
族相盗例に当たる場合も、これを処罰阻却事由と考える立場からは同様。さらに公訴時効にかかる場合など。本犯
が場所的適用範囲外で行われた場合でもよいとする見解も有力である。
・本犯の被害者に保護に値しないと見うるような事情がある場合は、先行する財産犯の成否(違法性の存否)を巡る
それぞれの立場に応じて処理される。違法な財産犯の成立を認めたことは、被害者が一応保護に値すると考えられ
たことを意味し、本罪の成立に関しても、「追求権」の侵害があると評価されるべきであろう。
←本犯の被害者には追求権がないとして本罪の成立を認めないのが多数。
(3)刑 罰
・無償譲受の場合の法定刑は3年以下の懲役であり、有償譲受など他の行為態様と較べてかなり軽い。
・有償譲受等については懲役刑に罰金刑が必要的に併科される。利欲犯的性格を考慮したといわれるが、必要的併科
には疑問も残る。
Ⅱ.盗品等関与罪
(1)客 体
a)財産犯により領得された物
・客体は「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」である(256I)。
・隠匿罪は盗品等保管罪の本犯には当たらない。また、「物」(⇒第1節Ⅲ)に限られる。
・客体は、財産犯により領得されたその「物」のみであり、その売却に得た金銭などは含まれない。
ただし、判例は、小切手を換金した現金や両替された金銭にはなお盗品性を肯定している。
・現行の盗品等関与罪は、財産犯への事後的利益関与を一般的に処罰するものではない点に注意。
b)追求権の存在

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・追及権説においては、以上の「物」に対して所有者等がなお追求権を有していることが必要とされ
る。第三者が動産を即時取得した場合(民192)、加工により所有権を取得した場合(民246I但, II)などはもはや本
罪は成立しない。
(2)行 為
a)無償譲り受け
・盗品等を無償で取得することをいう(256I)。使用貸借や無利息の消費貸借も含む。現実の引渡を要する。
・引渡は占有者の意思に基づくことを要する。追求権侵害の程度に相違はないとする反対説も有力。しかし、
意思に基づかない場合、本犯を助長する作用が認められない。
b)運 搬
・盗品等を場所的に移動させることをいう(256II)。無償でもよい。継続犯と解され、運搬に途中から加わっ
た者も運搬罪の責を負う。
c)保 管
・盗品等を預かり保護・管理することをいう(256II)。無償でもよい。盗品を賃借りしたり、担保として受領
することも含む。現に盗品を受け取ることを要する。
・継続犯であり、判例(最決昭和50・6・12刑集29巻6号365頁)は、保管を始めた後に初めて盗品等の認識に至った
場合でも、その時点以降は保管罪が成立するとする。
d)有償譲り受け
・盗品等を有償で取得することをいう(256II)。買い取りのほか、交換、債務の弁済や利息付の消費貸借なども
含まれる。現実に盗品等の受領を要し、引渡があれば代金未払でも本罪が成立する。
e)有償処分のあっせん
・盗品等を有償で処分することを仲介・斡旋することをいう(256II)。斡旋自体は無償でもよい。
・斡旋の事実があればよく、売買契約等が締結されたことまでは必要でないとするのが判例である。学説では、契約
の成立や物の取得を要求する見解が有力。
(3)主観的要件
a)故 意
・盗品性に対する認識は、財産犯の客体となった物だとの認識で足りる。財産犯の類型や本犯者・被
害者が誰かなどの認識までは不要。追求権がなくなるような事実をとくに認識していない限り、故意の認定
は可能と思われる。未必的認識でよい。
・不法領得の意思は基本的に不要と解される。本罪の実質は追求権侵害と本犯の助長にあるから。
b)所有者に返還する意思
・本犯の被害者に返還する意思のもと、盗品等の譲受や運搬などが行われたケースで、追求権の侵害
が欠けると考えられる場合は、本罪の成立を否定する余地がある。
具体的には、本犯の被害者自身が盗品の取り戻し等を行う場合や、第三者が被害者に無償で返還する意思で本犯か
ら盗品を取得する場合、さらに、前者に近いものとして、被害者から依頼を受けるなど被害者の側に立って本犯と
買い戻し交渉を行う場合など。被害者自身や仲介する第三者が有償で盗品を買い取れば、本犯を助長することにな
るけれども、それのみをもって有償譲り受け罪の成立を認めるべきではないであろう。
・最決平成14・7・1刑集56巻6号265頁/「盗品等の有償処分のあっせんをする行為は、窃盗等の被害者を処分
の相手方とする場合であっても、被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく、窃盗等の犯罪を助
長し誘発するおそれのある行為である」。本犯者の側に立った斡旋の事案。
・一時使用後に本犯に返却する意思で盗品等を無償で譲り受ける場合、保管罪を否定することは可能であろう。

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(4)親族間の特例
a)根 拠
・「配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で」本罪を犯した場
合、刑を免除される(257I)。類型的な責任減少に根拠を求めるのが通説であり、そこからは、親族
関係にない共犯が免除効果を享受しない(257II)のは当然となる。
b)親族関係
・所定の親族関係は民法に基づいて判断される。
・親族関係は、直接の相手方とあれば足るか、本犯者との間にもなければならないかについては、本
犯者との間にも要するとするのが判例(最決昭和38・11・8刑集17巻11号2357頁)である。
←刑の免除事情は直接の相手方との間で生じるのであるから、本犯者との間にも要求する理由はない。必要説がか
つて通説であったが、近時は不要説が有力化している。
・本犯の被害者とも必要か。被害者との親族関係の存在は偶然の事情である。また、所有権等の侵害は間接的で
あり、責任減少も本犯者ないし盗品等関与者との関係から生じる、などから、不要説が支持される。
・本犯が共同正犯で、そのうちの親族に当たる者だけが本罪の相手方のケースでも適用を認めてよいのではないか。
・親族関係に関する錯誤の処理は、刑の免除の根拠をどこに求めるかによる。責任減少と解する立場
からは、責任阻却事由に関する事実の錯誤の取扱に準じることになる。
(5)罪 数
a)本罪の個数
・個数は追求権侵害の数による。
・複数の行為態様に跨る場合、先行する行為の事後処分と見られるならば単純一罪であるが、そうでなければ各態様
につき犯罪が成立したうえで包括して一罪となる。
b)本 犯
・本犯者が本罪に当たる行為を行った場合、本犯者が正犯・共同正犯であれば、不可罰的事後行為と
して本罪は成立しない。
・本犯の教唆犯・幇助犯は盗品等関与罪の正犯たりうる。例えば、窃盗犯のために事前の約束どおり盗品買
い取りの斡旋をすれば、窃盗罪の幇助と併せて有償譲り受け斡旋罪が成立する。なお、本犯の教唆犯・幇助犯に当
たるかは、本犯が既遂になる前の関与かどうかで判断される。本犯の教唆・幇助と盗品等関与罪との関係に
ついて、判例は併合罪とする。
c)他の財産犯
・盗品等を占有者に対する窃盗罪、詐欺罪との関係は、盗品等関与罪は不成立と解する立場からは競
合が生じない。ただし、恐喝罪と並んで無償譲り受け罪を認めた裁判例がある。
・保管中の盗品等の領得につき横領罪を肯定する立場(⇒第6節I(2)c)では、横領罪と保管罪は観念的競合、有償処
分あっせん罪とは包括一罪として処理される。盗品の運搬あるいは保管中に盗品性を認識するに至った場合、運搬
罪や保管罪の成立を認める判例では、後に領得行為に出れば、横領罪が成立し、両罪の観念的競合となる。
・盗品等の売却を斡旋して情を知らない第三者から代金を受け取っても、有償処分あっせん罪として評価され、詐欺
罪には当たらないとした判例(大判大正8・11・19刑録25輯1133頁)がある。しかし、買主の錯誤が重要でないと
はいえず、疑問がある。
d)その他
・他人の罪証を湮滅するために盗品を隠匿したときは、証拠隠滅罪(104)と保管罪の観念的競合、盗
品を賄賂として受け取ったときは、収賄罪と無償譲り受け罪の観念的競合とされる。

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