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堕とされる退魔師・前編

獅子身中の虫

 この街の教会が淫魔の手に堕ちた一件、どうにも腑に落ちない点が多すぎ

る。軟禁されていたマーシュが独自に活動を始めたとはいえ、彼女の一挙一

動は常に監視されていた。教会内部に淫魔や魔物が侵入することは不可能。

人間を操ったとしても、魔術や洗脳の痕跡があればすぐ取り押さえられるは

ずだ。

 内部に淫魔と繋がっている裏切り者がいる。しかもそれなりの地位があり、

自らの意志で奴らに加担した者。昔から大きな権力を持った人間が次に求め
るのは永遠の命。半不老不死である吸血鬼や淫魔は、そういった者と取引す

ることが少なくない。もっとも、大半は最後に見放されて身を滅ぼすことに

なるのだが……

 元来、吸血鬼も淫魔も人間の世界を支配しようとは考えない。そんなこと

よりも彼らは自分の欲望を満たす方が有意義なのだ。だから今までは大きな

問題に発展することはなかった。

 しかし、このウムラウトという淫魔は違う。捕らえたサキュバス、ファト

ハの話によると奴は魔界で権力を得る足がかりのために、こちらの世界にも

勢力を伸ばす算段だとか。

 ファトハからこれ以上の情報は期待できない。早々にウムラウトを排除し

ないと厄介なことになりそうだった。そして、獅子身中の虫も見つけ出さね

ばならない。次に何をしでかすのか、予想もできないのだから……

★★★

 気がつくと、辺り一面が暗闇に覆われた空間に私はひとり立っていた。魔

力の気配から淫魔が創り出した悪夢の世界だとわかる。眠りについたまま意

識だけ飛ばされた? 退魔師団の支部はもちろん結界に守られていて、淫魔

ごときが手出しできるはずはない。
「我が夢の世界へようこそ。強く麗しき神奈。

 既にご存知かと思いますが、僕の名はウムラウト。

 今宵は貴女にご挨拶に参りました」

 暗闇の中から溶けるように現れたインキュバスは、慇懃無礼な態度で私を

頭から爪先まで値踏みするように見据えている。まさか本人が直接やって来

るとは思わなかった。それはつまり、退魔師団の中に奴を手引した裏切り者

がいるということ。思った以上に深刻な状況だが、とりあえず今を凌ぐ必要

がある。

 淫魔と悪夢の中で戦ったことはあるのでこの世界のカラクリはわかってい

る。奴らにとって絶対的に有利な世界。しかし、手も足も出ないわけではな

い。今の私は眠りについた時の格好。しかし精神を集中して霊力を形にする

ことで戦いの装束と愛刀を創り出した。

 夢とは想像の世界。意志と霊力の強さが勝敗をわかつのだ。
<神奈>

レベル:27

状態 :正常

体力 :210

霊力 :330

「……なるほど。流石は最強と名高い退魔師。

 これは一筋縄ではいかないようだ」

★★★
(まさか人間ごときがこれほどの力を持っていたとは……)

 手筈通り神奈を単独で悪夢へと誘い込むことに成功し、後は一方的にいた

ぶるだけだと思っていた。淫魔は自分の創り出した夢の世界では圧倒的に有

利な補正を得て、逆に相手には不利な補正がかかる。自分だけ強化され相手

は弱体化するのだ。例え実際の実力差が倍以上あっても勝てるほどに。

 夢の世界でダメージを負ってもお互い現実の肉体が傷つくことはないが、

霊力や魔力は別だ。でも僕は無尽蔵の魔力で延々と無茶な攻撃を続けられる。

セディーユすら圧倒したこの戦法が、この女には通じなかった。

 もちろん僕が倒されることはない。しかしいつの間にか朝日が昇り、悪夢

の時間は終わりを告げてしまう。勝利を確信していた僕にしてみれば、これ

は明らかな敗北だ。神奈は手の内を見せず防戦一方で、最初から時間切れを

狙っていた。僕の襲撃をある程度予想していたんだ。そしておそらく、この

能力の正体も。

 だが、僕のプライドを傷つけた罪は重い。一度でも悪夢へ招待した人間は、


眠ってさえいれば自由に誘い込むことができる。新たに結界を作っても、 あ

・・
いつを使えば関係ない。もう君に安眠は訪れない。じりじりと少しずつ消耗

させて、隙を見せた時が君の最期だ。

 その時に君がどんな顔をするのか、今から楽しみだよ……
夢の中の戦い・その1

 なぜウムラウトが結界の中にいる私を悪夢へ引きずり込むことができたの

か。調査したところ驚くべき事実が判明した。退魔師団にはいくつかの支部

があり、それぞれ支部長が分担された地域を担当している。

 退魔師団は魔物の驚異から人々を護る目的でつくられた組織だが、規模が

大きくなれば様々な考えの者が現れる。人の世の平和より私利私欲を優先す

る者。退魔の技術を戦いの手段として悪用する者。いつしか組織は一枚岩で

はなくなり、支部間の権力争いまで起きるようになってしまったのだ。

 最初は教会側に裏切り者がいるのかと思っていたが、そうではない。結界

に細工をしてウムラウトの侵入を手助けをした人物。裏切り者は、最悪なこ

とに退魔師団の中にいた。

 おそらく私を近くで監視しているはず。新しく結界を張ってもまた細工さ

れてしまうだろう。手の空いた部下に調査を進めさせているが、すぐに正体

を掴むことは困難だ。しかし、何としてもそれまでウムラウトの攻撃を凌が

ねばならない。

★★★
 色々と結界に手を加えて数日は保ったものの、思った通り、眠りについた

いざな
私は再び悪夢へと 誘 われてしまった。悪夢の中で淫魔を殺すことは難し

く、さらに無尽蔵の魔力を持つウムラウトに対しては、夢が終わるまで耐え

るしか手はない。

 厄介だが、ウムラウトの攻撃は単調で技術も練度も低く、防ぐだけなら容

・・
易だった。しかし、悪夢の中で奴と戦っている私は 眠ることができない。そ

れを知っている奴は、最初から長期戦を挑むつもりのようだ。今は良くても、

回復できない疲労が蓄積すれば徐々にミスが増え、体力や霊力も削られてし

まう。

 このままでは私の敗北は必然。何か、手を打たなければ……

夢の中の戦い・その2

<神奈>

レベル:27

状態 :衰弱

体力 :180
霊力 :270

 眠りが封じられることは思った以上に心身に与える影響が深刻だった。既

いざな
に一週間以上、私は毎日のように悪夢へと 誘 われている。悪夢の中では

現実の体にダメージを受けないものの、不眠による衰弱で体力と霊力はじり

じりと下がり、集中力も目に見えて乱れ始めていた。

 これは通常の不眠とは異なり、実際には眠っているので医学的には健康で、

私を少しずつ蝕む衰弱は呪いに近いもの。減少した体力・霊力は回復できず、

元凶であるウムラウトを倒さない限りこの衰弱が解消することはない。

 私の切り札に魔物をこの刀に封印する奥義があるが、これは生涯で一度の

みの大技。淫魔程度においそれと使うわけにはいかない。

 相変わらず単調なウムラウトの攻撃を捌き、朝が来るのをひたすら待ち続

ける。しかし最初は余裕で避けられた攻撃が段々とぎりぎりになり、少しず

つかすり始めた。それが焦りに繋がり、私の心から冷静さを奪っていく。

 今回のウムラウトはいつもと違い、明らかに何かを狙っている様子だった。

でも私は避けることに必死で気付くことができない。

「……っ!?」

 魔力による波状攻撃を避けて息をついた時、いつの間にかウムラウトが目

の前にまで迫っていた。遠距離から攻撃するのみだった奴の突然の行動に、
私はとっさの判断が追いつかない。

 伸ばしてきた奴の腕を反射的に切り落とすと、その腕が空中でうねうねと

蠢いて赤黒い触手へと変化する。それは驚く私の胸元へと勢いよく飛び込ん

できた。

 触手はまるで触れた部分から溶けるように私の中へ入り込んでいく。触手

の姿が消え去ると同時に、体の奥が燃えるような熱さに包まれ、内側から淫

魔の魔力による侵食が始まった。
「ぅ…あっ………」

 霊力で浄化しようとしても全く効果がない。夢の中で現実の身体を浄化し

ても意味がない。ウムラウトの腕だった触手は私の体ではなく、心に寄生し

ている……つまり、手の出しようがないのだ。

「どうやら説明するまでもなく理解したようだね。

 僕の一部を君の精神に寄生させた。

 本来の君なら寄生させること自体が不可能だったよ。

 じっくり時間をかけて消耗させた成果さ」

 早くも意識が朦朧とし始め、刀を握る手から力が抜けていく。淫らな魔力

の影響で肌が衣服に触れる感覚さえも敏感に感じ取ってしまい、まともに立

つことすら困難だ。この状態は非常に不味い。もはや悠長なことは言っては

いられず、今ここでウムラウトを封じる以外ない。

 私はウムラウトを見据えて奥義の構えを取った。魂凍てつかせる妖刀。魔

神すら封じるその力を淫魔に使うのは、蝿を大砲で吹き飛ばすようなもの。

決まれば不死性すら無意味となる絶対の楔。しかし、ウムラウトはそれを知

っているかのように一気に距離を取ってしまう。

「もう危険を冒して君と夢の中で対峙する必要はない。
 後はただ待つだけでいいんだ。

 ちょうど良くなった頃に、また来るよ」

 ウムラウトはそう言い残すと煙のように消えてしまった。奴の言う通りも

う不用意に姿を見せることはないだろう。次に私の前に現れるのは私が弱り

きって確実に勝てるという時。私は奴を封じるチャンスを失ったばかりか、

まんまと罠にかかってしまったのだ……

淫らな罠

<神奈>

レベル:27

状態 :衰弱、精神寄生

体力 :150

霊力 :240

 退魔師団内部の裏切り者はどうやらかなり権力のある人物らしい。ウムラ

ウトに狙われてから計ったように部下の配置換えが強制され、連携が不十分

なまま矢継ぎ早に任務が与えられた。それは明らかに個々の実力を超えるも

のであり、指揮する立ち場の私がフォローに回らねば到底不可能という有り

様。

 命令を拒否すれば私は任を解かれ、この地域の守りが手薄となり魔物の侵
攻を許してしまう。多くの一般人が犠牲になる可能性を見過ごすことなどで

きない。

 そして厄介なことに、前回ウムラウトの分体が私の精神に寄生した影響な

のか、全身の神経が過敏になって衣服が肌に触れるだけでむず痒い感覚に襲

われた。悪夢に誘われることはなくなったものの、代わりに私自身が淫らに

自慰をする夢を見せられている。段々と夢と現実の区別が曖昧になり、ふと

した拍子に秘所に手を伸ばしてしまいそうになっていた。

 まるで自分が自分でなくなるような感覚。そして自分を変わっていくこと

に、私は底知れぬ恐怖を感じた……

★★★

 サキュバス討伐に向かわせた部下との連絡が途絶えた。事前の調査では十

分に対処できるレベルだったが、調査結果を受け取る前に改竄が行われたの

かもしれない。ともあれ今は一刻を争い、私が救出に向かう以外に手はない。

 部下から最後に連絡があった場所に赴くと、そこは邪教の儀式のような様

相を呈していた。部下だけでなく拐われたであろう一般人も含め、十数人の

男女が淫魔に犯されている淫靡な饗宴。大広間は淫気を大量に含んだ空気に

満たされ、足を踏み入れただけでくらくらする。

 そこには当然、男性の淫魔であるインキュバスの姿もあった。ウムラウト
に比べれば特別な能力もない下級の淫魔。しかし、彼らの逞しいペニスを見

せつけられると妙な気分になってしまう。私はそれを振り切るように、淫魔

たちの殲滅を開始した。

★★★

 数が多くても所詮は低級の淫魔。しかも乱交の最中に奇襲したことでさし

たる抵抗も受けずに倒すことができた。犯されていた部下や一般人は気を失

っているが命に別状はない。適切な治療を施せば後遺症が残ることもないだ

ろう。

 私が気を緩めた瞬間を狙いすましたかのように、背後から何者かが私を羽

交い締めにしてきた。もしインキュバスに襲われでもしたら……しかし、背

後の淫魔はサキュバス。よかったと思う自分と、それを残念だと思う別の自

分がいることに気付いて戦慄する。混乱した私は、サキュバスを振り払う機

会を逸してしまった。

「貴女のこと、彼から訊いてるわよ?

 恐ろしいほど強いのに素晴らしくエッチな体つきね♥

 こっちの感度はどうかしら?♥」

 サキュバスの指が下着の上から秘所に触れる。すっと撫でられただけで甘

く痺れる快感が全身を駆け巡る。力が抜けそうになるのを堪え、私は背後の

サキュバスを一閃しようと霊力を集中させた。しかし……

『抵抗をやめて、武器を手放せ……』

 頭の中にウムラウトの声が響く。同時に意識が遠のき、その声に従うよう
に全身から力が抜けていく。本来なら戦闘中に武器を捨てるなどあり得ない

のに、私はあっさりと愛刀を手放していた。

 カランという刀が地面に落ちた音で我に返った私は、自分のしたことが信

じられなくて呆然としてしまう。その隙にサキュバスの指は下着の中へと入

り込み、そのまま膣内へ挿入されてしまった。

「ひぁっ……♥」

 自分の声とは信じられない淫らな喘ぎ声。慌てて声を抑えようとしても指

が膣内を撫でるように動き回ると、秘所に触れるのとは比べ物にならない快

感が稲妻のように頭の中を突き抜ける。恐怖すら覚えるほどの未知の気持ち

よさ。この甘い誘惑に屈してはいけない。私は意志の力で快感を抑え込もう
として……

『快楽に抗うな。ありのままに受け入れろ……』

「ふあぁっ♥ あっ、ひぅっ……♥」

 またしてもウムラウトの声が響き、私は素直に快感を受け入れてしまう。

視界がぼやけて思考が曖昧になり、膣内をくちゅくちゅ愛撫するサキュバス

の指の動きだけが鮮明に感じられた。挿入される指が二本になり、動きもど

んどん激しくなっていやらしい水音が大きく響く。

 何かが体の奥から急激に上がってくる感覚。それは弾ける直前まで膨れ上

がった絶頂の予兆。淫魔相手に絶頂したら《エナジードレイン》によって退

魔師の力が奪われてしまう。散り散りになった意志を必死にかき集めて耐え

ようとするも、『快楽に抗うな』というウムラウトの言葉に逆らうことは叶

わない。

「んんっ、あぁぁっ――――♥♥」

 あられもない嬌声を大声で叫び、私はあっさりと絶頂してしまった。圧倒

的な気持ち良さと引き換えに力が奪われていく。サキュバスは快感に流され

て陶然としている私の服を脱がし、手足を魔術の枷で拘束する。両足を大き
く開かせると、絶頂でひくひく痙攣する秘所に顔を近づけてクリトリスに舌

を這わせた。

「あはっ、最強と言われた退魔師も所詮はただ女ってわけね。

 二度と戦えないように、快楽で骨抜きにしてあげる♥」

 催淫効果のある唾液を執拗に塗り込まれ、クリトリスがじんじんと熱を持

ってぷっくり腫れ上がる。サキュバスはクリトリスを指先で弄びながら、今

度は膣内に長い舌を挿入し始めた。膣の内部を舐め回されるという初めての

快感と、ねっとり唾液を塗り込まれて感度が高まったことで、全身が燃える

ように熱く滾ってしまう。
 舌の感触だけでは物足りない……そう思った刹那、舌が引き抜かれて代わ

りに指が三本も挿入された。サキュバスは私を見下ろしながらにやりと笑み

を浮かべ、もの凄い速さで上下させ始める。

「ひあぁっ!? やめっ……あっ、あああぁぁ――――♥♥」

 激しく腟内が掻き回され、ぐちゅぐちゅといういやらしい水音が鳴り響く。

催淫効果のある唾液をたっぷり塗り込まれた膣は、最初より数段大きな快感

を生み出して私の頭を蕩けさせた。耐えようと思う間もなく絶頂の波が押し

寄せ、一気に私の意識を飲み込んでしまう。
「あぁ、ああぁぁあっぁぁっ――――♥♥」

 全身をびくびくと痙攣させ、秘所からは噴水のように潮が連続で吹き出す。

口から漏れる嬌声はもはや絶叫となり、もし私を知る者が聞いたとしても本

人だとは思えないだろう。そして力がどんどん吸い取られていく。私の意識

は途方も無い快感に飲まれたまま、降りることを許されず無様に弄ばれ続け

ていた。

「あはは! 本当にすごい力ね!!

 これだけ奪ってもまだまだ余裕があるなんて!!

 ならもっともっと搾り取ってあげるわ♥」
 サキュバスは私に覆い被さって互いの性器を密着させ、まるでセックスす

るように腰を前後してくる。愛液に濡れたクリトリスが擦り合わされ、淫魔

の中で最も濃度の高い催淫作用のある愛液が直接塗り込まれた。

 既に秘所に触れるだけで気持ち良くなるほど高められた私は、ぬるぬるし

た快感によって容易に絶頂へと導かれてしまう。サキュバスにされるがまま、

望むままに力を吸い取られていった……

★★★
<神奈>

レベル:27

状態 :衰弱、催淫、精神寄生

体力 : 70

霊力 :110

「くっ、はぁっ、はぁっ……

 さすがに、一気に奪いすぎたかしら……?」

 自身の限界を越えて力を奪い取ったサキュバスは逆に大きく疲弊していた。

《エナジードレイン》といえど無尽蔵に力を吸収して自分のものにできるわ

けではない。現在の自分の器が溢れるほど奪えば、器はひび割れて壊れてし

まう。

 同じ霊力でもレベルによって数値あたりの強さは大きく変動する。欲をか

いてそれを見誤ったサキュバスは、制御できない自分の中の力が暴走を始め

たことに酷く動揺していた。

「ぅぐ、しまった……これ、まずっ……

 ウ、ウムラウト……!?

 見ているんでしょう? 早く、たす、け……」
 見えない相手に必死に助けを求める姿は先程とは打って変わって哀愁を誘

う。しかし、彼からの返答はサキュバスではなく私に返された。

『退魔師の職務を果たせ』

「っ……!?」

 今まで快楽に流されて逆らえなかった意志が瞬時に明確になる。手足にか

けられた魔術の枷をあっさり解除し、私は落した刀を拾い上げてサキュバス

の首を切り落とした。驚愕の表情を浮かべたまま、支えを失った頭がごろり

と落下する。妖刀に魂を喰われたサキュバスの体は灰となって消えていった

……

★★★

 なぜウムラウトはあのサキュバスにとどめを刺させたのか。奴の意志一つ

に翻弄されるのは釈然としないけれど、淫魔に拐われた部下や一般人は全員

無事に救い出すことができた。

 私自身は力を奪われて疲弊したものの、悪夢の出来事ではないため通常通
り休息によって回復ができる。しかし衰弱の度合いは酷くなる一方で、サキ

ュバスから受けた催淫は治療薬を使っても癒えることはなかった。

 裏切り者の正体は依然として判明せず、状況は良くなるどころか悪化の一

途を辿っている。頼りにしていた梓は長期の任務が与えられて現在はこの街

を離れていた。逆に誠人には何の指示もないのが不気味だ。まるで人質だと

いう無言の圧力のようで、彼に打ち明けることも憚られる。

 そしてもっとも恐ろしいのは、頭の中に響くウムラウトの声に従ってしま

うことに何の疑問も感じない自分自身だった……

裏切り者の正体

<神奈>

レベル:27

状態 :衰弱、催淫、精神寄生

体力 :120

霊力 :190

『体が疼くだろう? 自分の欲望に逆らうな……』

 またしても淫らに自慰をする夢を見せられている。しかし今回は以前まで

とは違ってより感覚が鮮明で、五感の全てが現実と見紛うほどだった。そし

て私はすぐに気付く。これは夢などではなく、現実であることに。
 私の指はまるで別の生き物のように秘所へと伸びて、そのまま膣の中へと

入り込む。サキュバスに弄ばれた時のことを思い出しながら、その指の動き

を真似て膣内を探るように愛撫していった。

「んぅっ……♥」

 抑えられた喘ぎ声が自室に響く。淫らな夢を見せられるならともかく、自

らの意志で自慰をするなどあってはならない。淫魔の快楽に身を委ねること、

それはつまり淫魔を受け入れること。奴らを認めてしまったら、女性として

の本能が逆らえなくなる。私がどれだけ否定しても、それが偽りになってし
まう。

「ぅ……あぁ……♥ だめ、とまら……ふぁっ……♥」

 それでも私はやめられなかった。淫魔の思う壺だとわかっているのに、浅

ましく自慰をする指を止めるこことができない。甘い快感が心地良くて、今

この時はそれ以外のすべてがどうでもよくなっていた。

 完全に夢中になっていた私は部屋の襖が開けられたことにも気付かない。

その人物はにやにやと不気味な笑みを浮かべて私を見下ろしていた。

「っ……!? あ、貴方は……なぜここにっ!?」

 全裸で自慰しているところを男性に見られたこと以上に、その人物が堂々

じゃこう
と姿を見せたことに私は驚愕する。彼の名は 寂光 。退魔師団党首の補佐役

を長年務めている老獪な退魔師だ。表に出てはまずい魔物や悪霊の存在を、

社会から隠匿することにかけて彼の右に出る者はいない。情報操作のため警

察や政治家とも太い繋がりのある寂光は、党首ですらその全貌を掴むことの

できない相手だった。

「偶然そこを通りかかったらあられもない声が聞こえましてね。

 いけませんよ。若い女性が朝からオナニーに耽るなど……」
 私の部屋は最も奥にあるので偶然通りかかることなどあり得ない。寂光こ

そが淫魔と手を組んだ裏切り者だと確信する。しかし、実質的に退魔師団で

最も影響力のあるこの老人が裏切り者という事実は非常に危険だった。

「きひひ、神奈殿の美しい体は目に毒ですなぁ。

 この老いぼれですら年甲斐もなくこんなにさせるとは。

 若い男衆は毎日さぞかし大変でしょう」

 耳障りな笑い声といやらしい視線。咄嗟に衣服で体を隠すものの、寂光は

まるで見通すような粘つく目で私の体を舐め回すようにねめつけてくる。そ

して彼の股間は、齢七十を超えるとは思えないほど大きく隆起していた。当

然のようにその場で服を脱ぎ捨てると、老体には不自然なほど大きく黒々と

したペニスがどろどろしたカウパーを滴らせている。

 明らかに常識を逸したそれは、間違いなく淫魔の力によるものだろう。奴

らと取り引きして手に入れたグロテスクなペニスからは悪臭が立ち籠め、思

わず目を背けたくなるほど醜悪だった。

「さて、事情を理解したなら話は早い。

 抵抗は無駄だと賢い神奈殿ならわかるな?

 あの小僧は前の穴は絶対に使うなとぬかしておったが、

 生憎わしは前より後ろの穴が好みでのぉ……」
 肉体は衰えていても霊力と術を扱う技術に関して寂光に勝る者はそうはい

ない。加えて呪術や魔術にも深い造詣があり、万全とは到底言えない今の私

ではとても敵わなかった。そもそも裏切り者と露見するのを承知で現れたの

だ。仮に私が反抗したり逃げ出しても十分に対処できる確信があるのは間違

いない。

「ひっひ、素直なのはいいことよの。

 無理に洗脳するより気丈なお主のまま犯す方が何倍も高ぶるわ。

 さぁ、四つん這いになってその大きな尻をこっちに向けよ」
 私は言われるままに四つん這いになり、秘所を晒すという屈辱的な格好を

とった。これからこの老人に犯されると思うとおぞましさに吐きそうになる。

しかし彼は人間であって淫魔ではない。魔性の快楽で惑わすことも、淫気に

よって感度を高めることもできないのだ。犯されるのは涙が出るほど屈辱だ

が、ただそれだけでしかない。それなら耐えることはできる。

 寂光は小瓶を取り出すと栓を開けてとろみのある液体をすくい取った。液

体をペニスに塗り付けると、そのまま私のお尻の穴へとあてがう。僅かに熱

を帯びてぬるぬるした気味の悪い感触。それがゆっくりと挿入されていく。

「っ、私は、卑怯者の貴方などに、屈しはしませんっ……!」

「きひっ、焦らずともすぐにわかること。

 前に犯した娘は一分と経たず心が折れてしまったが

 神奈殿はどうでしょうなぁ?」

 ずぐっと抉るように亀頭が腸内に入り込む。もの凄い圧迫感に思わず腰が

前に逃げようとするが、寂光は両手でがっしりとお尻を掴み、ずぶずぶと感

覚を確かめるようにペニスを押し込んでいった。

「うっ、くぅっ……!?」

 あんなに太いものが排泄に使う場所に入るはずがない。しかし根本まで貫
かれても思ったほどの痛みはなく、代わりに得体の知れない奇妙な感覚がじ

わじわと迫り上がってきた。ぬるぬるした箇所がじわりと熱を持って、それ

が徐々に心地よくなっていく。あの液体は媚薬の類だろうか。まるで本来感

じるはずの痛みが快感へと置き換えられるようだった。

「きひひっ! でかいだけあって一発で飲み込んでしまったのぅ。

 まさに尻の穴を犯されるために生まれたような女ではないか。

 じっくり教え込んでやるから正気を失わんでくれよ?」

 ずんずんと奥まで響く激しい抽挿が開始される。力強く押し込まれて腸内

を掻きわけられると、未知の感覚に脳内が甘く痺れた。そして奥まで貫いた

ペニスがずるりと勢いよく引き抜かれる。まるで内蔵がひっくり返されるよ

うな途方もないおぞましさ。しかし痛みはなく、幾度となく繰り返し抜き差

しされる内にそれは明確な快感へと変化していった。
「ひぐっ! この、ていど……なんとも、ありませんっ……!」

 私は口元を引き締めて必死に虚勢を張り続ける。体の反応で寂光には私が

感じていることが一目瞭然だ。それでも心だけはいくら犯そうと穢すことは

できない。それを支えにすればいくらでも耐えられる。

「実に素晴らしい! わしが本気で犯しても折れぬとは!

 だが本当にお主の心は清いままかな?

 そもそも最初から穢れていた、などということはないかのぅ?

 であれば快楽で心が折れないのも道理なのだが」
 いくら言葉で惑わそうとしても、そんな戯言に騙されるわけがなかった。

私は弱き者を守るために戦うと誓った退魔師。これまで多くの人を助け、誠

人や梓のように志を同じくする仲間もたくさんいる。絶対に負けるはずがな

い。

「きひっ、強情な女よ! なら直接見てもらうとしよう。

 快楽に溺れる情けない表情を見れば、納得せざるを得まい」

 寂光が聞き慣れない呪文を唱えると、すぐ目の前に円形の紫の靄が現れた。

その表面にうっすらと何かが浮かび上がってくる。それはよく見知った自分

自身の顔。しかし、その表情は見たこともないものだった。

「ひゃっひゃ! それはお主の心を映す鏡!

 今のお主がどんな顔で犯されているか、目に焼き付けよ!」
 快楽に蕩け、緩みきった表情。お尻を突き上げられるたびに、私と同じよ

うに靄の中の私もゆらゆら揺れる。これが、私……? 寂光を嫌悪するどこ

ろか、無理やり犯されて淫蕩な笑みを浮かべるこれが、今の私の姿……?

 いいや、こんなものは魔術によるまやかしに過ぎない。そんな子供騙しに

惑わされることなど……

『そうではない。目の前の姿こそが真実。目を背けるな……』

 絶望的なタイミングでウムラウトの声。その声に逆らえない。目の前で快

楽に乱れる姿こそが真実だと受け入れてしまう。私の心は最初から穢れてい
たと思い知らされてしまう。

「ひぃっ……!? ああぁっ……♥」

 心だけは穢すことはできない……その前提が否定され、呆然とする私にと

どめとばかりにペニスが激しく突き上げられる。支えを失って縋るものが無

くなった私は、為す術もなく巨大な快楽の波に飲み込まれてしまった。

「あひぃっ♥ おしり、もう、やめっ、ぃあぁぁ……♥♥」

 いつの間にか私は幻のはずだった淫蕩な笑みと同じ表情を浮かべている。

幻が現実にすり替わり、どんな言い訳も逃げ道も完全に断たれてしまう。し

かし、それでも私はまだ堕ちてはいなかった。快楽にその身を打ち震わせ、

淫らな嬌声を大声で叫びながらも、退魔師としての自分に必死にしがみつい

ていた。

「ほう、体は堕落しとるのに心はまだ堕ちぬか。

 まあいい。わしはお主の体を味わえれば満足なのでな。

 後はあの小僧に任せるとしよう。

 しかし尻の穴はわしのもの。所有者の烙印を刻み込んでやろう」

 腸内に深く挿入されたペニスが更にむくむくと膨張する。そして爆発する
ように熱く粘ついた大量の精液が一気に吐き出された。灼熱のマグマの如く

圧倒的な快楽を流し込まれ、私は声を出すこともできないまま絶頂を強制さ

れる。

 ずるとりペニスが引き抜かれると、血と精液でピンク色に染まった体液が

お尻の穴からごぽりと流れ出た。大量に射精したにも関わらず寂光のペニス

は一向に衰えず、マーキングするかのように私の体を精液で汚していく。

 寂光が呪文を唱えると、腸内や体に付着した精液が溶けるように染み込ん

でいった。すると不愉快極まりない悪臭だったペニスから不快感が消え去り、

それどころか異様な陶酔感を覚え恍惚としてしまう。
「やりすぎると小僧が激怒するからこのくらいかのぅ。

 お主にとってわしの精液が甘美に感じるよう呪いを掛けた。

 もう他の人間相手では発情することすら叶わん。

 最も、淫魔のものになる運命のお主には関係なかったか」

 ペニスを鼻先に突きつけられると、陶酔によって頭が真っ白になり何も考

えられなくなった。それが当然のことのように、私は精液と腸液で汚れたペ

ニスに舌を這わせ、喉の奥まで咥え込んで奉仕する。そして半日もの間、衰

えを知らない寂光によって幾度となくお尻の穴を犯され続けた……

To Be Continued...

堕とされる退魔師・中編
堕とされる退魔師

<神奈>

レベル:27

状態 :衰弱、催淫、精神寄生、異常性癖(アナル)

体力 : 80

霊力 : 70

 薄暗い部屋の中にくちゅくちゅという水音と、押し殺した喘ぎ声が響いて

いる。裏切り者の寂光にお尻を犯されてから、本部から私に対して命令され

る任務は急激に減っていった。
 激務から解放され余裕ができたものの、その空白に割り込むように私の秘

所やお尻がじくじくと疼き、自慰を止めることができない。寂光に用意され

た私を犯すための部屋。ここなら誰にも憚ることなく没頭できる。私は任務

に向かう途中に我慢ができなくなり、いけないと思いつつもこの部屋に立ち

寄って自慰に耽っていた。

「ふっ……♥ うぅ、はぁっ……♥」

 お尻の穴には寂光によっておぞましい形状のバイブが挿入されている。球

体がいくつも連なったそれを外すことは禁じられ、排泄の際には奴の許しを

乞わねばならなかった。それには屈辱的な奉仕……手や口、そして胸を使っ

た行為……が常に伴う。快楽だけでなく生理現象まで奴に管理されることは
私のプライドをずたずたにした。

 心の摩耗は衰弱を一気に進行させ、私の体力と霊力を限界まで低下させて

しまう。今の私は通常時とは比べ物にならないほど肉体的、精神的に弱くな

っていた。もうまともに戦うことすら困難になるほどに……

『そろそろ頃合いだな……』

 頭の中に響くウムラウトの声。その言葉の意味に気付くと同時に、部屋の

中央に魔力の渦が集まって人の姿を形成していく。私は咄嗟に妖刀を手にし

てそこに現れた人物に対して構えを取った。
「暫く見ない内に随分と衰えたね、神奈。

 あのじじいにアナルを開発されたのがそんなに堪えたのかな?

 だが安心していい。今日からお前は僕だけのものになる」

 夢の中で私の心に寄生してから一度も姿を見せなかったウムラウトがつい

に姿を現した。それは勝利を確信したからに他ならない。確かに今の私では

奴を撃退するどころか、勝負にすらならない。

 しかし、私には切り札が残されている。魔神すら封じることができる一度

きりの奥義。今の私が使うには霊力を溜める必要があるが不可能ではない。

気取られないよう相手を油断させて、一気に勝負を決めてみせる。

「これ以上じじいに任せては君が腑抜けにされてしまうからね。

 まだ抵抗する余力が残ってる内にこうして参上したわけさ。

 さあ、最後の悪足掻きで僕を楽しませてくれ」

 余裕の笑みで私を見下しているウムラウト。それは寧ろ好都合だった。霊

力が溜まるまで切り札の存在を気付かれるわけにはいかない。私は奴の油断

を誘うため、儚い抵抗を演出することにした。

 霊力を使わず体術のみで斬りかかる。強化されていない身体能力ではウム

ラウトに掠ることすら叶わず、私の剣閃は虚しく何度も空を斬った。そして

あっさりと刀を持つ手が掴み取られ、腹に奴の拳が容赦なく叩き込まれる。

生身の体にその一撃はとてつもない激痛を引き起こした。
「ぐっ……! ごふっ!?」

 右手で宙吊りにされた私の無防備な腹に二度、三度と拳が見舞われる。霊

力で防御すれば大したダメージならない何の変哲もない攻撃で、私は指先一

つ動かせないほど消耗させられてしまった。

「ふふ、もう気は済んだかな?

 それじゃあ苦痛の次はお待ちかねの快楽で攻めようか」

 魔術の枷で両手が拘束され、ウムラウトの手がスカートの中にするりと入
り込む。太ももを撫でながら右手が秘所に、左手がお尻へと伸びた。そこに

は寂光の指示でバイブが挿入されたまま。バイブには寂光以外が抜こうとす

ると激しく振動し、形状が変化して抜けづらくなる仕掛けが施されていた。

「僕の所有物にこんなものは不要だよ。

 さぞ苦しかっただろう? 今、楽にしてあげよう」

 ウムラウトが力を込めるとバイブが不気味な音を立てて振動し始める。そ

して抜かせまいとするかのようにイボ状の突起が逆向きに反り返って腸内に

引っかかり、振動と相まって凄まじい快感をもたらした。
「ぃぎっ!? 抜いちゃ、だめぇっ……!!」

 お尻の穴からグロテスクな球体がずぽん、という空気の混じった情けない

音を立てて次々と引き抜かれていく。犯される感覚とは全く別の内蔵が引っ

張り出されるような感覚。普通ならそんなものに快感など覚えるはずもない

が、寂光によって繰り返し教え込まれたアナルはそれを甘い快感として認識

してしまう。

「なんだ、抜かないでほしいのか?

 それは失礼。それなら元に戻してあげよう」

 半数ほど引き抜かれた球体が今度は逆にまとめて押し込まれていく。一息

に直腸が抉られる衝撃は凄まじく、気が遠くなるほどの快感に頭がおかしく

なりそうだった

「ひぃっ!? ふぐぅっ!! もう、やめ、てぇ……」

「抜いてほしいのか入れてほしいのかはっきりしないね。

 やっぱりこんなものは抜いた方が良さそうだ。

 ゆっくり抜くのが辛いなら、ひと思いにやってあげるよ」

 最初と違い今度は力任せに思い切り引っ張られ、すべての球体が腸液を撒
き散らしながら一気にずるりと引き抜かれた。神経が焼かれるような快感が

一斉に襲いかかり、私は耐えきれず絶頂しながら気を失ってしまった……

★★★

「やあ、神奈の経過は順調かな?」

 目の前には眠らされぐったりした神奈が奇妙な椅子に座らされている。顔

には目と耳を覆い隠すバイザーが取り付けられ、体のラインがくっきり強調

される紫色で毒々しい色合いのボディスーツを着せてあった。

「誰にものを言っているのですか。何の問題もありません。

 ただ、順調ではありますが、まだ時間はかかります。

 普通の退魔師ならとっくに堕ちているというのに……

 まったく大した精神力ですね」

 僕の隣で幼い少女がモニターを見ながら薄い笑みを浮かべている。十歳程

度の少女にしか見えない女、鳳仙と名乗った呪術師の腕は素晴らしい。まず

人間であるにも関わらず淫魔である僕に協力を求めてきたことに驚かされた。

 呪術師としての実力や並のサキュバスを上回る男性を魅了する体質、そし
て科学と医学に呪術を合わせた独自の洗脳術。試しに囚えていた数人の退魔

師を洗脳させてみたが、見事に忠実な下僕に作り変えてしまった。

 人間にしておくには惜しいくらい有能で、価値観や性格、感性も我々淫魔

に近い。ぜひ僕のパートナーになって欲しかったが、どうやら鳳仙は神奈た

ち退魔師連中に因縁があるらしく、あくまで一時的な協力関係ということで

落ち着いた。

「神奈は他の有象無象の凡人とは比較にならない実力者だ。

 だから壊さないよう慎重に頼むよ。

 彼女を味方にした暁には君の欲しがってた退魔師……

 確か、女の方は梓と言ったか。そいつらを君に譲ってやる」

「ええ。私に瀕死の重傷を負わせ、こんな体にしたあの小娘。

 たっぷりお礼をしてあげないと気が済みません。

 どちらかと言うと今は坊や……誠人さんの方が興味ありますが」

 幼い顔で残忍に笑う鳳仙からは決して諦めない憎悪と、歪んだ執着の感情

が見て取れる。梓という女も、誠人という男も間違いなく碌な目にあわない

だろう。この女に目を付けられたばっかりに、気の毒なことだ。

「それで、神奈の常識改変はどの程度進んでいる?」
 神奈には他の退魔師を下僕にしたような直接的な洗脳は行っていない。あ

れは効果が高く時間もかからないが、主に脳の表層に手を加えるため何らか

のショックで洗脳が解ける可能性がある。僕の目的は神奈が心の底から服従

し、自らの意志で淫魔に生まれ変わらせることだ。

 その最低条件として、淫魔は敵だという常識を改変せねばならなかった。

僕を敵と認識している内は、いくら快楽で体を調教しても心を従わせること

はできない。

「深層心理を書き換えるのは難しい上に彼女自身の抵抗も激しい。

 せいぜい二割程度でしょうね。

 多少揺らいではいても、まだ敵意は十分にあります」

 神奈は僕が囚えるまではじじいの手で屈辱的なアナルへの陵辱を繰り返し

受けていた。敵意という点ではじじいに対してもそう変わらないだろう。そ

れなら、僕らしくはないが別のアプローチを試みるのはどうだろうか? そ

れを説明すると、鳳仙はやり方次第で十分に可能だと断言した。ならば試し

てみない手はない。

★★★
 気が付くと衣服はすべて脱がされ、代わりに肌にぴったり張り付いた気味

の悪いスーツを着せられていた。肌が透けそうなほど薄い生地は裸よりも寧

ろいやらしい。

 気絶はしていたものの、奥義のために溜めていた霊力はそのまま保持され

ていた。気を失っている間も微弱だが確実に霊力が集まっており、あと少し

で奥義が使えるようになる。どういうわけか妖刀は部屋の隅に立て掛けてあ

った。

 ウムラウトを封印できれば奴に恭順する者や支持する者もいなくなり、寂
光も大人しくせざるをえないだろう。私の力が戻ったら裏切りの証拠を必ず

明らかにして、罪の裁きを受けさせてみせる。

「目が覚めたかな? 気分はどうだい?」

 扉が音もなく開いてウムラウトがにやにやと私を見つめていた。咄嗟に両

手で体を隠すと、奴は嬉しそうに話し始める。

「そのスーツはとある協力者が提供してくれたものでね。

 見た目に反して高い防御力、耐熱、防刃、防弾の優れものさ。

 そして特別にカスタマイズしたとっておきの機能が……これだ」

 ウムラウトが手元の装置を操作すると、プシュッという音と共に肌のあち

こちでチクリとした僅かな刺激が走った。そして体の奥がじんじんと熱を帯

び出し、ぴりぴりした甘い心地良さがじんわりと全身に広がっていく。

「スーツの内側には極小の針が無数に仕掛けられている。

 針と言っても傷跡は残らないから安心していい。

 その針を通じて特別に調合した媚薬が注入される仕組みだ。

 毒に対する訓練をしている退魔師用の媚薬さ」

 奴が手元のスイッチを切ると媚薬の注入は止まる。ただでさえサキュバス
から受けた催淫によって高められた感度が、媚薬の効果で更に敏感になって

いた。肌にぴったり張り付くスーツの上から勃起した乳首やクリトリス、そ

して滴る愛液で黒く染まった秘所がはっきり見える。ウムラウトは私の様子

に満足するように頷くと、ゆっくりと近づいてきた。

 ウムラウトが震える私を抱き寄せてキスをしてくる。強引に唇を奪われる

かと身を固くしたが、予想に反して奴のキスは繊細で私が拒絶すると唇は離

さないものの、無理やり押し入ってくることはなかった。

 まるでゆっくりと解きほぐすような、優しさすら感じるキスに固く閉じた

唇は徐々に緩んでしまう。そして力なく開いた唇を割り開き、ウムラウトの

舌が入り込んでくる。私の舌にねっとりと絡みつき、淫魔の唾液が優しく塗
り込まれていった。その甘い快感を前に奴の舌を噛み切ってやるという気概

もあっさりと失せて、されるがままになってしまう。

 ウムラウトが唇を離すと、濃密に混ざりあったとろみのある唾液がつーっ

と糸を引いて離れた。

「そう言えば君の男性経験を聞いていなかったな。

 報告によると恋人はいないようだが、好きな男はいるのか?」

 好きな男という言葉に、誠人の顔が一瞬だけ浮かぶ。もちろん彼は恋人で

はない。魔物に襲われているところを助け、もう何年も一緒に暮らしてきた。

お互いに大切な絆で結ばれているが、それは家族という絆。彼は私を姉のよ

うに慕い、私は可愛い弟のように思っている。

 それでも家族以上の好意があることは否定できなかった。セックスはして

いなくても、軽いキスや胸でそういう行為をしたこともある。誠人も同じよ

うな想いを抱いてると、言葉では言わなくても伝わってくる。

 今は誠人が一番大切だが、十代の頃には人並みに恋愛もして将来を誓い合

う恋人もいた。処女を捧げたのもその人で、彼以外に体を許したことはない。

しかし、私と同じ退魔師だった彼も三年前に魔物との戦いで命を落してしま

った。

 私は簡潔に過去に一人だけ恋人がいたと答えた。誠人のことは話すべきで

はない。誠人を巻き込むのは絶対に避けたかった。
「貞操観念など淫魔には何の価値もないものだが……

 たった一人に生涯を捧げる“人間の愛”という感情。

 この僕に真似ができるとは思えないが、少し興味が湧いた」

 淫魔にとって性は獲物から力を奪う手段でしかない。生殖能力を持たない

彼らにとって愛は不要な感情のはずだ。それに興味を持つとはどういうこと

なのだろうか? 先程の強引ではない繊細なキスが頭の中にちらつく。

「愛とは相手を信頼し、互いに思いやる心です。

 一方的に奪うだけの魔物には決して理解できないでしょう。

 そもそも貴方を信用できません」

「信用してもらえないのは当然だ。では僕からの誠意の証として、

 精神への寄生と衰弱の呪いは解除しよう。

 隙を見て反撃したい君にとってこれが一番の懸念点だろう?」

 確かに頭の中にウムラウトの声が響くと、有無を言わさずそれに従ってし

まう。いざ奥義を使う時に“攻撃を止めろ”と囁かれたらその声に抵抗できる

自信が無かった。そして悪夢に誘われてから著しく減少してしまった体力と

霊力。

 それらが解かれるのは私にとって確実な利になる。しかし反撃を承知でそ
んなことをするウムラウトの意図が不明だ。今の私の実力では絶対に負けな

いと高を括っているのか、それとも本当に愛という感情を知りたいだけなの

か……

 どちらにしろ私に選択権はない。少なくとも不利になることはあり得ない

ので、下手なことをしない方が良いだろう。

「これですぐに信用してもらえるとは思っていないさ。

 だが最初の一歩には十分なはずだ。

 さあ、君の心から寄生体を取り出そうか」

 ウムラウトが手をかざすと、私の内部から何かが抜け出していく感覚に襲

われた。異物が取り除かれるのだから歓迎するべきなのに、まるで自分自身

の一部が離れていくような喪失感。

 完全に寄生体が私の心から消え去ると、まるで半身が失われたような激し

い孤独感に苛まれた。そんなはずはない。無理やり寄生させられた奴の寄生

体が無くなって、それがこんな感情に繋がる理由がない。しかし私の震えは

止まらなかった。どんなに理屈を並べてみても、心に感じる喪失感を和らげ

ることができない。

「ふふ、どうした?

 反撃が成功する可能性が上がったのに嬉しくなさそうだね。

 さて、僕なりに“人間の愛”を理解する努力をしてみよう」
 ウムラウトの指が秘所に伸び、ゆっくりと挿入される。サキュバスに弄ら

れた時と似ているが、彼の指は絶頂させる為ではなく、膣の内部を探るよう

に優しく愛撫してくる。喘ぎ声が漏れそうになるのを噛み殺し、私はその緩

やかな快感に抗った。

「やはり経験が少ないから処女同然のようだ。

 これを受け入れるのは大変だよ?」

 私の目の前にウムラウトのぺニスが突き付けられる。寂光のぺニスは奇形

とも言うべきグロテスクで醜悪なものだったので、おぞましさしか感じなか
った。

 ウムラウトのものは太く長いものの一般的なぺニスの形状をしており、男

性経験や愛について語られたせいで、昔の恋人や誠人のぺニスと無意識に比

較してしまう。明らかに彼らより一回り以上大きく、血管が力強く脈動する

様は逞しさすら感じた。

「愛とは相手を思いやる心、と言ったね。

 普通ならこのまま無理やり秘所を貫いて、

 その体に快楽を刻み込んでやるところだけど……」

 秘所にぺニスの先端があてがわれる。激しい痛みか、もしくは暴力的な快

感に備えて身を固くしたが、挿入はとてもゆっくりなものだった。入り口を

割り開くように先端が僅かに押し込まれ、しかしそれ以上一気に貫かれるこ

とはない。

 ペニスをじっくりと馴染ませるように、私の反応を確かめながら少しずつ

膣内に挿入されていく。私が少しでも苦しそうな様子を見せると挿入は止ま

り、落ち着くのを待ってから再び再開された。

 じわじわ挿入されるため、ペニスの大きさやごつごつした形をより鮮明に

感じてしまう。まだ半分も入りきっていない状態でも、ウムラウトの太く逞

しいぺニスの存在感は凄まじかった。
「ようやく半分ほど入ったよ。

 この先はどうやっても最初は痛みを伴うだろうね。

 和らげるためにこれを使わせてもらう」

 ウムラウトが手元のスイッチを押すと、再びチクリとした刺激に次いで甘

い心地良さが全身に広がっていく。体がふわふわとするような浮遊感と共に

思考がぼんやりとし始めた。

 唇を奪われると同時に、ずんっというお腹の奥が深く貫かれる感覚。蕩け

るような気持ち良さが私の頭の中を満たして、膣はウムラウトのペニスを歓

迎するように迎え入れていた。それは体に感じる快楽だけじゃない。まるで
心に感じていた喪失感や孤独感が拭い去られるような、癒されるような充足

感。寂光に無理やり犯された時や、サキュバスに強引に絶頂させられた時と

はまるで違う。

 本当なら絶対にあってはならないのに、媚薬で朦朧とした私はウムラウト

がかつての恋人と重なって見えてしまった。

「ふあっ♥ あぁ……♥ やめ……て……」

 私が止めてと言うと、ウムラウトはあっさりぺニスを引き抜く。膣内をい

っぱいまで押し広げていた圧迫感と共に、充足感や快感も消え去ってしまっ

た。そして私が息を整えるのを見計らって再びぺニスがじわじわと挿入され

ていく。それが何度も繰り返される内に、少しずつ私の膣はウムラウトのぺ

ニスに慣らされていった。

「だいぶ僕のものをすんなり受け入れられるようになったね。

 今度は少し早く動くよ」

 ウムラウトの言葉と同時に、ずんずんと小刻みなリズムの抽挿が始まった。

間を置かず連続で太いぺニスに貫かれ、瞬く間に絶頂へと上らされてしまう。

「ひああぁっ♥ これ以上は、だめぇっ……!?」
 私の言葉でウムラウトの腰の動きがピタリと止まった。絶頂するぎりぎり

のところで、私は淫魔にいかされてはならないと言う思いと、体が求める快

楽との狭間で板挟みになってしまう。極限まで高められた感度の中、再び抽

挿が開始された。もう十秒だって耐えられない。早く、止めてと言わないと

……

 必死に誘惑を振り切ろうとした絶妙なタイミングで、またしてもプシュッ

という音と共に全身の肌から媚薬が注入される。頭の中が微睡んで力が抜け

てしまい、呂律が回らない……

「ぅ……あぁぁ……♥ ふあぁぁ……♥」
「もういきそうだよ? 止めなくていいのかい?

 それとも、やっと僕を受け入れる気になったのかな?」

 もう何も考えられなかった。ひたすら焦らされて体は貪欲にウムラウトに

絶頂させられることを望んでいる。あと数秒でいくことができると、その瞬

間を心待ちにしている。それは私自身の心が望むことと何が違うというのだ

ろう?

 私が絶頂すると同時にウムラウトのペニスが膣の奥を抉り、熱い精液が子

宮の中にどくどくと注ぎ込まれた。恋人とも避妊具なしにセックスはしてい

ない。初めて子宮に受けたのが淫魔の精液だというのに、気を失う寸前に私
に去来した感情は、満たされたという思いだった……

<神奈>

レベル:27

状態 :催淫、異常性癖(アナル)

体力 : 80

霊力 :120

★★★

「たった三日で常識改変がほぼ完成しました。

 もう彼女にとって淫魔の認識は普通の人間と変わりません。

 まさか淫魔が人間相手に愛を語ることが功を奏するとは」

「君が可能だと言ったから試したんだよ?

 神奈は魔物に対して苛烈な敵意を持っている。

 だから一方的に有利な条件を突き付けられて戸惑ったんだ。

 僅かな迷いが隙を生み、簡単な罠にも気付けなかった」

 鳳仙はこちらを振り返って小首をかしげてみせる。男の心理を知り尽くし
て計算された仕草。インキュバスの僕に彼女の特異な体質は効かないが、衝

動的に犯したくなるほど魅力的だ。もっとも、鳳仙は僕に協力を取り付ける

前に他のインキュバスを何人かその幼い体で搾り殺している。少なくとも神

奈を堕とすまでは彼女に手を出すべきじゃない。

「彼女の精神には僕の心の一部を寄生させていたが、

 かなり長期間に及んだせいでかなり定着が進んでいた。

 それを無理やり引き剥がしたから

 まるで自分の一部が無くなったと錯覚したのさ。

 後はその隙間を優しく埋めてやるだけでいい」

「貴方は淫魔というより悪魔と呼ぶのが相応しいですね」

 それはいずれ魔王となる僕にとって褒め言葉だ。とはいえ、このままでは

神奈を完全に堕とすには足りない。敵意を取り除くのはただの前提だ。次は

人間に対する失意を促すのがいいだろう。神奈の恋人は既に死んでいるが、

彼女が好意を寄せる男が一人いる。都合の良いことに、その男はマーシュと

面識があって今もマーシュを必死に捜索しているらしい。

 すべてが順調で僕に追い風となっていた。運命が僕に味方しているとしか

思えない。しかし神は気まぐれで移り気だ。気が変わらぬ内に次の賽を投げ

るとしよう。
★★★

<神奈>

レベル:27

状態 :催淫、異常性癖(アナル)

体力 :190

霊力 :320

「んんっ、はぁ、はぁ…‥♥

 こんなこと、いつまで続けるつもりですか……?」
 ウムラウトに囚われてから今日で一週間。私は毎日のように彼に犯されて

いた。犯されると言っても寂光のような無理やりとは程遠く、淫魔が力を奪

うためのセックスとも違う。それはただ私を気持ち良くさせるための行為。

私の体力と霊力は殆ど全快しており、奥義を使うための武器も手に届く場所

にあった。

 これだけ有利な状況に私を置くということは、それでも対応できる自信を

ウムラウトは持っている。罠があるならその正体を掴むまで下手に動くのは

危険だ。

 そうしている内にただウムラウトとセックスをするだけの日々が過ぎてい

く。最初は私には大きすぎた彼のペニスも、今ではぴったりとその形が収ま
るようになった。行為が終わった後に私に余裕が生まれると、ベッドの中で

キスや愛撫といった後戯が増え、今まで感じたことのない奇妙な充足感を覚

えてしまう。

 もはやウムラウトを明確な敵だとは思えなかった。退魔師としてそんな考

えに至る理由がわからない。もしかして彼が示している愛が本物だと私自身

が感じているのだろうか? だとしたらこれ以上、彼に身を任せるのはまず

い。魔物にも人間性を理解し実践できる者がいるなど、あってはならないの

だ。それは退魔師団の在り方と、今までの私の人生を否定することに繋がる。

「いつまで続けるか? そんなのは決まっている。

 君が僕を受け入れて、僕と共に生きたいと願うまでだ」

 おどけた言い回しのはずが、冗談には聞こえなかった。そして彼の言葉を

完全に否定できない自分に気付いてしまう……

 行動を起こすなら今しかない。私は素早くベッドから抜け出して、部屋の

隅に立て掛けてある妖刀を手に取った。奥義を使う障害となるものは何もな

い。

「それが君の奥の手か。

 だがその前に、君に見てほしいものがある」

 私はウムラウトの言葉を無視して奥義の構えを取った。彼はベッドに座っ
たまま避ける気配も見せない。今なら一秒とかからず彼を封じることができ

る。しかし私が一歩を踏む出す直前、彼の真横に円形の紫の靄が現れた。寂

光が使った魔術による鏡に似たその表面に、思いも寄らない人物の姿が映し

出される。

「確か誠人君と言ったかな?

 話を訊いてみたらマーシュと懇意だったらしくてね。

 必死に探してるようだから会わせてあげたんだ」

 そこに映し出された光景が信じられなかった。誠人とマーシュがお互い裸

で絡み合っている。まるで恋人同士のような深いキスをしながら、獣のよう

に激しいセックスをしていた。
 ウムラウトに囚われてから一度だけマーシュに会ったが、彼女はサキュバ

スにされたわけじゃない。だから誠人を魅了して操ってはいないのに、誠人

は自らマーシュの上に覆い被さって腰を振っている。自分の意志で彼女とセ

ックスをしているのだ。

 私にとって誠人は大切な家族だが、お互いにそれ以上の感情を抱いてると

思っていた。その誠人が、私以外の女性と愛し合っている。そのことに狂お

しいほどの怒りと嫉妬を感じて、そんな自分の醜さに気付いてはっとした。

 自分は淫魔とのセックスに明け暮れていたというのに、どうして他人をそ

んな風に思えるのか。利己的で独占欲に塗れた醜い自分。私に対して真っ直

ぐな愛を語り実践するウムラウトの方がよほど人間らしい。

 私の中の信念が音を立てて崩れ、力強く構えていたはずの妖刀がカランと

地面に落ちた。気付かない内に目からは涙が零れ、いつの間にか歩み寄って

いたウムラウトがそっと拭う。

「一週間に渡って“人間の愛”を君に示してきた。

 しかしどうやら君にとってそれは幻でしかないらしい。

 だから次は“淫魔の愛”で君を縛るものを破壊しようと思う」

 両手がガチリと拘束されて後ろから勢いよくペニスが挿入された。それは

今までとは明らかに異なっている、優しさの欠片もない暴力的な性交。私を

気持ち良くさせる気など微塵もない激しく獰猛なセックス。

 しかし自分の醜さを曝け出された今の私にとって、ウムラウトが叩きつけ
る途方もない快感は救いだった。退魔師としてのしがらみも醜い自分も何も

かも忘れさせてくれる彼に縋りつきたい。恋人や誠人には自分の弱さを見せ

たくなかったが、ウムラウトならそんな私を一蹴して新たな支えを見出して

くれる気がした。

「あああぁぁ、あぁぁっ――♥♥」

 たがが外れたかのように、私は本能のまま今までにない嬌声を上げる。そ

れは互いに思いやる愛では到底味わえない、一方的な略奪の愛。そして淫魔

・・
のセックスで絶頂させられたら当然、 あれが待っている。しかし私は彼に奪

われることを望んでいた。
「ひぅっ♥ ああぁぁあっぁぁっ――♥♥♥♥」

 意識が飛びそうな快感と共に、魂が抜け出ていくようなぞくぞくする感覚。

体力や霊力だけでなく退魔師としての力の根本がごっそり吸い取られていっ

た。

<神奈>

レベル:18

状態 :催淫、異常性癖(アナル)

体力 :140

霊力 :210

「ひぁっ、あぁぁっ、だめぇっ――♥♥」

 長く激しい絶頂が終わらない状態で再び高められていく。抵抗する意志が

ない私は完全にウムラウトの成すがままだった。子宮の奥までずんずんと抉

られて、あっさりと絶頂感が押し寄せてくる。これ以上、致命的な搾取を受

けたら退魔師として復帰することはできないだろう。それでも私は構わなか

った。

「ひぎっ―――ぁ――♥♥」
<神奈>

レベル: 6

状態 :催淫、異常性癖(アナル)

体力 : 50

霊力 : 40

「はぁ――はぁ――♥♥」

 もはや衰弱しきって戦えなくなった時と同じ程度まで私の力は落ち込んで

いる。しかし今度はもう二度と回復することはない。自分を見失って力を奪
い尽くされた私の退魔師としての生命は終わった。そして仮に解放されたと

しても、もう誠人に会うこともできない。私は退魔師の自分だけでなく、大

切な家族の絆まで失ってしまった。

「さて、もう一度絶頂したら君は死ぬ。

 例え生き長らえても退魔師には戻れないだろう。

 そこで提案なんだが、新たな人生を歩む気はないか?」

★★★

 ついにあの神奈が自らの意志で淫魔に生まれ変わることを選んだ。最強の

退魔師が、最強のサキュバスに転生するとは何という皮肉だろうか。これか

ら神奈は多くの退魔師どもを吸い殺すのだ。情け容赦なく徹底的に。

 僕の手の中には反則級のジョーカーが二枚も揃った。神奈とマーシュがい

マーキス デューク
れば 侯爵 どころか 大公 すら倒すことができる。魔王となって魔界を手

中に収める日も近い。

「わざわざ専用のカプセルを用意したのですか?

 こんなもの使わずとも淫魔化できるのでは?」
 鳳仙が興味深げにカプセルに浮かぶ神奈を眺めている。もう彼女も用済み

だが殺してしまうのは惜しい。時が来たら調教して僕の忠実な下僕に仕立て

てやろう。

「彼女の力は僕が殆ど頂いてしまってね。

 普通に淫魔化したらただの搾りカスになってしまう。

 全盛期の力を取り戻させつつ淫魔にするのは手間がかかるのさ」

 加えて、このカプセルは肉体だけでなく魂も完全に書き換えることができ

る。通常の方法で淫魔化した場合は魂が淫魔のものに変貌するまでかなり時
間がかかり、優秀な術者なら人間の心を取り戻させることも可能だ。せっか

く手に入れた神奈を奪い返されたら今までの苦労が水の泡になってしまう。

「貴方は彼女の力まで手に入れたのですか。

 二兎追って三兎も得てしまうとは大したものですね。

 ところで、大丈夫だとは思いますが

 もしこの私にまで手を出そうなどと考えていたら……

 せっかく手に入った城が一夜にして崩れることになりますよ」

 鳳仙の言葉にどきりとした。釘を刺すということは、何らかの保険を用意

していると考えていい。もしかしたら魔界の連中より鳳仙の方が上手なので

はないだろうか? 彼女に関しては対等な関係を維持するのが最善かもしれ

ない……

★★★

「おい、あの報告書は事実なのか?」

 退魔師団のとある支部。その支部長と補佐官は神奈が行方不明になった件

の調査を本部から任命されていた。退魔師の中で神奈の名を知らぬ者はいな
い。おそらく党首と肩を並べる実力者の彼女が、淫魔の手に堕ちたなど誰が

信じられよう。

「疑うなら直接見てもらう方が早いのではありません?」

 女の声に振り返った二人は、その姿を認識することなくバラバラの肉片へ

と変えられていた。厳重な結界と警備に守られた支部長室だが、彼女にとっ

て知り尽くした退魔師団のセキュリティなど無いも同然だ。

「あら? 確か支部長は生け捕りだったかしら?

 あはっ♥ どうしましょう。主さまにお仕置きされちゃう♥」
 瞬く間にいくつもの支部から主戦力の退魔師たちが姿を消した。しかし神

奈がサキュバスになった事実が現場の退魔師たちに通達されることはなかっ

た。

 失態を恐れた上層部の浅はかな対応によって、さらなる悲劇が起きること

になるが、それはまた別の話……

To Be Continued...

退魔師の仕事  堕とされる退魔師・後編

最後の抵抗
 私は誠人を家族として以上に、異性として好意を持っていた。今の今まで

その好意を自覚していなかったのに、人の愛を知らない淫魔に気付かされた

のは皮肉としか言いようがない。そして彼がマーシュと愛を交わす様子を見

せつけられ、自棄になった私はウムラウトが与える力強い快楽と甘い言葉に

逆らうことができなかった。

 淫魔のドレインによって退魔師としての力の根源を根こそぎ奪われ、私は

奇妙な水槽のようなものに入れられている。体が徐々に人ではなくなってい

く感覚。しかし今の私にとっては恐怖よりも期待の方が大きかった。このま

ま人外の魔物に生まれ変われば、この心の苦しさから解放されるのではない

かという期待。

 快楽に身を任せてしまれば私は人間の敵となって多くの退魔師を殺すこと

になる。その中には誠人も含まれるかもしれない。そう思った時、諦めかけ

ていた私の心が僅かに抵抗を示した。無意識の内に魂が穢れぬよう消えゆく

霊力を総動員して結界を作る。体が淫魔へ変わることはもはや避けられない

が、魂だけは守りたい。それはウムラウトにとって大きな誤算となった。
<神奈>

レベル:28

状態 :淫魔化、支配の刻印、異常性癖(アナル)

体力 :280

魔力 :340

★★★

 万全を期すためわざわざ専用のカプセルまで用意したというのに、神奈は
完全に堕ちていなかった。いいや、それどころか魂を結界で守ったことでそ

の心は魔の侵食を受け付けない有り様だ。

 体は期待通りサキュバスへと変貌しており、その力も人間の時の霊力がそ

のまま魔力へ反転してセディーユを超えるほど強大になっている。しかし心

が堕ちていなければ、それは不発弾を懐に抱え込んでいるようなもの。念の

ため埋め込んだ《支配の刻印》によって体の自由は奪っているが、なまじ強

大な力があるため何かの拍子に解けてしまったら危険極まりなかった。

・・
 万が一、僕が得ているマーシュの力の 秘密が知られたら魔界を支配するど

ころか神奈に殺される可能性もある。こちらの不手際を神奈に悟られるのは

まずい。

 幸い体が淫魔化したことで快楽に対する欲求は人間の頃の比ではないのだ。

人の心で淫魔の体が感じる快感に耐え切ることなどできはしない。想い人の

幻という小細工ではなく、僕が主だということをその心に徹底的に刻み込ん

で屈服させてやろう。

★★★

<神奈>

レベル:28
状態 :淫魔化、支配の刻印、異常性癖(アナル)

体力 :210

魔力 : 20

「ふぅっ、ふっ、んんっ……♥」

 暗い牢獄の中。私は複数のインキュバスに代わる代わるアナルを犯されて

いた。寂光に開発されたアナルは淫魔化によってさらに貪欲に感じるように

なり、正気を保っている私の心を責め苛む。

 その一部始終をウムラウトは目の前で寛ぎながら鑑賞していた。何らかの
魔術によってウムラウトの命令に逆らうことができない。彼が足を舐めろと

言えば、私の体は自分の意思に反してその通りに動いてしまう。屈辱ではあ

るが、淫魔に対する怒りや反抗心を奮い立たせる意味では役に立っていると

言えた。

 淫魔となった私は食事も睡眠も必要ない。半不老不死であり、魔力の供給

さえあれば寿命もない魔物の体。最初にぎりぎりまでエナジードレインで魔

力を奪われた後、生きるために必要な分はウムラウトの精液によって賄われ

た。奴に生かされていることも屈辱だが、淫魔の体は際限なく快楽と精液を

求め、せっかく奮い立たせた怒りを忘れさせてしまう。

「そろそろ腹が減っただろう?

 さあ、遠慮せず僕の精液を味わうといい。

 ただし零したらお仕置きだからね」
 私はアナルを犯されたままウムラウトの前まで這っていき、そのペニスに

キスをして口に含んだ。人間の頃は悪臭でしかなかったペニスやカウパーの

匂いも、今ではどんな美食にも勝る芳醇な香りに感じる。これは生き延びて

反撃するために必要なこと……いくらそう言い聞かせてみても、精液を求め

ていやらしくウムラウトのペニスをしゃぶる姿が他人事に思え、自分を見失

いそうになった。

「んぶぅっ……!? じゅる、じゅるるっ……♥」

 喉の奥に勢いよく吐き出される精液を、一滴も零さないよう必死に吸い上
げ飲み込んでいく。しかしその途中で後ろからアナルを犯しているインキュ

バスが、勢いよく叩きつけるように突き上げてきた。精液の味と匂いに恍惚

としかけていた私は突然の激しい快感に耐えきれず、喘ぎ声と一緒に口の中

の精液を漏らしてしまう。

「あぁ、僕の言いつけを守れなかったね。

 それじゃあ、お仕置きといこうか」

 三つ穴の空いた奇妙な台座に、私の首と両手首が固定させられた。格好を

変えただけで飽きもせずまた犯すのかと辟易する。淫魔の体になってから犯
される快感が強くなったとはいえ、何度も繰り返されれば少しずつ慣れて耐

えれるようにもなる。しかしウムラウトは後ろに回らず私の正面に立ち、そ

の手には鋸状の刃が握られていた。

「同じようなお仕置きでは飽きるだろう?

 今回から肉体的な苦痛も織り交ぜていこうと思ってね。

 普通の淫魔の角に痛覚はないが、君のは特別だ。

 角の内側はクリトリスと同じくらい繊細で敏感な感度がある。

 どういう意味かわかるかな?」

 にやにやと笑いながらウムラウトは片手で私の頭を押さえ、角の付け根に

刃をそっと押し当てる。もちろん今まで存在しなかった淫魔の角など意識し

たことはない。しかし力いっぱい刃が引かれた瞬間、その猛烈な激痛に私の

頭は真っ白になった。

「いぎっ!? ひぎゃあぁぁぁぁぁぁっ――――――!!!!」

 硬いものが鋸で削られるガリガリ、ゴリゴリという無機質な音が響き渡り、

頭蓋骨を直接震わせてその不気味な衝撃と切断音が伝わってくる。退魔師と

して拷問の訓練は受けており苦痛への耐性はあったが、角を削られる行為は

それが全く役に立たない完全な未知の痛覚だった。
「あ゛あ゛ぁっ!! おねがっ、ひぐっ、しま……ぃぎっ!?」

 私は恥も外聞もなく涙を流しながら大声で泣き叫び、敵であるウムラウト

に懇願する。しかし奴は手を止めることなく、笑いながら更に強く鋸を引き

絞った。望まないとはいえ私の体の一部がギコギコと冗談のように切断され

ようとしている。

 そしてどんな苦痛とも異なる耐え方のわからない激痛。私の中を恐怖が埋

め尽くしていく。この激痛を与えてくる相手に反抗する気力を根こそぎ奪い

去っていく。それを防ぐ手段など今の私には存在しなかった。

「ひぎ、あぎぃっ!? やめっ、ああああぁっ――――!!!!」
 ゴトリ、と硬いものが落ちる音。同時に激痛が止まり、私は力なくその場

にだらりと崩れ落ちた。股間からは失禁によってジョロジョロと水溜りがで

きる。ウムラウトはおかしくて堪らないといった残忍な笑みで私を見下ろし

ていた。

「今までで一番効果的なお仕置きになったようだ。

 まさか淫魔化しても退魔師の誇りを失わなかった君が

 泣き喚いて失禁までするとは思わなかったよ。

 さて。角はもう一本あるが、どうしようか……?」
 切断した角を拾い上げて見せつけるように弄びながら、ウムラウトは私の

もう片方の角にちらりと視線を向ける。それだけで体が勝手にがくがく震え

上がり、口から出る言葉は以前の私のものとは思えない情けない懇願だった。

奴はその反応に満足したのか、私を台座から外して今度は鎖で宙吊りにする。

「さすがに両方とも切り取ってしまうのは可哀想だね。

 それじゃ代わりにこれを付けてあげよう」

 その手のひらには金属のイヤリングのようなものが二つ乗っていた。リン

グの先端からは細い針が出ており、ウムラウトはおもむろに針を乳首へと近

づける。ブスリという痛みと共に針が乳首を貫通して、そのままカチリとリ

ングが閉じられた。それは乳首につけるピアスらしく、もう片方もどうよう

に装着される。
「ふふっ、似合ってるじゃないか。

 淫魔の体は人間より丈夫だからこういうこともできる」

 ピアスが乱暴に掴まれて思い切り引っ張られた。乳首が千切れそうな痛み。

本来なら難なく耐えられる程度の苦痛でも、恐怖の虜になった今の私を震え

上がらせるには十分だった。

「あぁ……ひぐっ、いたいのは、いやぁ……」

「はははっ! あの凛々しかった神奈がこのザマとはっ!
 痛いのが嫌なら次は気持ち良くしてあげよう。

 僕の支配から永遠に逃れられないよう、徹底的にね……」

「ひぁあぁぁっ……♥♥」

 後ろに回ったウムラウトに勢いよく突き上げられる。全身を貫かれる衝撃

と、それに比例する激しい快感がぼろぼろになった心に刻み込まれていく。

苦痛から逃れたい一心で、私は奴の与える快楽に必死になって縋りついた。

「んんっ、あああぁぁ、あぁぁっ――♥♥」
 ウムラウトの腰の動きはいつもより更に激しく情熱的で、瞬く間に絶頂の

波が襲いかかって来る。ただのセックスではなくエナジードレインによる搾

取の気配。弱りきった今の私から魔力が奪われたら本当に死ぬかもしれない。

しかしされるがままの状態では絶頂を耐えることも、この場から逃げ出すこ

とも叶わなかった。

「ひっ―――ぁ――♥♥♥♥」

 意識が彼方へと吹き飛ばされるような絶頂。そして僅かしか残されていな

い魔力がどんどん吸い取られていく致命的で背徳的な快感。そのまま魂ごと

消滅寸前になり、死をごく間近に感じて……私の中の淫魔の本能が急激に目

覚め始める。

「っ……!? うっ、これ、は……!!」

 ウムラウトの驚愕と快感が入り混じった悲鳴が後ろから聞こえる。淫魔化

してから淫魔の力を意図的に使ったことは一度もない。使い方がわからない

のもそうだが、何より力を使うことで心まで淫魔に近づきそうで、私は頑な

に拒絶していた。しかし命の危機によって、私の体は勝手に魔力を求めて手

・・
近な獲物へと牙を向ける。
「ぐぅっ、あぁ!? す、吸われ……!!」

<神奈>

レベル:28

状態 :淫魔化、支配の刻印、異常性癖(アナル)

体力 :210

魔力 :140

 熱い精液がどくどくと膣内を満たし、同時にウムラウトから抜け出た大量

の魔力が私の中へと吸収されていく。枯渇寸前だった私は貪欲に食事を求め、

射精を促すように腰をゆっくり動かした。たったそれだけの行為にも関わら

ず、あれだけ強気だったウムラウトは苦しそうに、そして気持ち良さそうに

呻き声を漏らす。

「とめろっ! 今すぐ、うぁっ!? や、やめるんだっ!!」

<神奈>

レベル:28

状態 :淫魔化、支配の刻印、異常性癖(アナル)

体力 :210

魔力 :270
 またしてもどくんと大量の精液が溢れ出し、ごっそりと魔力を吸い上げて

いた。鎖で繋がれた私と後ろから犯すウムラウトだが、立ち場は完全に逆転

している。自由に動けるはずのウムラウトは貼り付けられたようにその場か

ら動けない。初めて使うエナジードレインは、奴を見事にとらえて離そうと

しなかった。

 ウムラウトが何らかの魔術を行使するが、私の意図とは関係なくそれは無

力化されてしまう。無意識に奴の魔力を打ち消すほど、魔物としての潜在能

力に大きな差があることを私は未だ自覚していなかった……

<神奈>

レベル:28

状態 :淫魔化、異常性癖(アナル)

体力 :210

魔力 :330

消えゆく意思

「あら? 予定通り神奈をサキュバス化したというのに、

 まだ彼女を掌握できていないのですか?」
 大量の魔力を奪われてまだ回復しきっていない僕の前に、鳳仙が含みのあ

る言葉を投げ掛けてくる。僕の状況をすべて知ってるくせに忌々しいことこ

の上ない。神奈を使って梓と誠人という退魔師を引き渡す予定なので、神奈

を完全な下僕にできないと鳳仙との約束も果たせなかった。

 もし今、鳳仙が痺れを切らして僕を裏切ったりしたら厄介だ。いや、鳳仙

にしてみても、神奈を堕とすことは必須なのは変わらない。癪に触るが、彼

女の手を借りる……利用するのもいいかもしれない。

「実は思った以上に手を焼いていてね。

 もしよければ、君にも協力をお願いしたいんだが……」
 素気なく断られるかと思ったが、鳳仙は以外にも快く応じた。既に彼女は

神奈の深層心理を書き換え、淫魔が敵であるという常識を改変した実績があ

る。

 今の神奈は苦痛による恐怖で僕に従っているが、無意識に《支配の刻印》

を打ち消し、淫魔としての力にも目覚めかけていた。いつ暴走してもおかし

くない危険極まりない神奈を屈服させるより、鳳仙の洗脳術で傀儡に変えて

しまう方がよほど安全だ。

「ところで、マーシュさんをお借りしても?

 神奈にとっては憎き恋敵という事になっているようですが、

 誠人さんの大切な人なので人質として機能します。

 もし暴走しても彼女なら死ぬことはないでしょう?」

 いつの間にかマーシュの能力が把握されているのは気掛かりだが、それく

らいは問題ないだろう。仮に失敗して神奈が暴走したとしても死ぬのは鳳仙

の方だ。お手並み拝見といこう。

★★★
「お初にお目にかかります、元退魔師団幹部の神奈殿。

 私の自己紹介は不要ですね。

 今はウムラウトに協力しているただの呪術師。

 早速ですが、まずはその邪魔な魔力を搾り尽くしましょうか」

ぎしんのうたげ
 鳳仙。かつて誠人に調査を頼んだ 祇神の宴 教団の教祖。梓から逃げら

れたと報告を受けてはいたが、まさかウムラウトと手を組んでいたとは……

「彼女のことも知っていますね?

 誠人さんが大層お気に入りのマーシュさんです。

 あぁ、誠人さんは無事ですからご心配には及びません。

 貴女が抵抗した場合は保証できませんが」

 誠人とマーシュが愛し合っていた光景が脳裏にまざまざと甦る。マーシュ

自身は操られているのか、人形のように光のない瞳をこちらに向けたまま微

動だにしない。彼女が人質なら誠人も彼らの言いなりだろう。どのみち淫魔

の力を自分の意思で使いこなせない今の私では逃げ出すことは不可能だ。

「結構。しかし同性から魔力を搾取する方法はどれも効率が悪い。
 ですから淫魔の体であることを利用させてもらいましょう」

 鳳仙が合図すると彼女の背後から気味の悪い触手が現れた。その先端から

は小さな鋭い針が伸びており、得たいの知れない液体がポタポタとこぼれ落

ちている。触手は迷うことなくその針を私のクリトリスに突き刺した。

 チクリとした僅かな痛みと同時に、針から液体が注入されていく。すると

クリトリスが猛烈に熱くなってみるみる膨張していった。それはまるで勃起

した男性のぺニスのようだ。

「随分と立派なものが生えてきましたね。

 それは魔力を元に体を変質させる一種のウイルスです。

 形だけではなくちゃんと射精もできますよ。

 もっとも精液の原料は貴女の魔力、なのですが。

 早速、試してみましょうか」
「っ……!?」

 私の後ろに回った鳳仙が腫れ上がったクリトリスをそっと握って扱き始め

る。途端に痺れるような甘い快感がクリトリスから全身に広がって、私は声

にならない悲鳴を上げた。

 通常のクリトリスを弄られる時とは比べ物にならない気持ちよさ。手の動

きに合わせて搾り出されるように、先端からカウパーに似た液体が滲み出て

くる。徐々に扱く速度が早くリズミカルになっていき、快感に呼応するよう

に体内の魔力が熱く滾って一点に集まっていくようだった。

「魔力が精液に変換されていくのがわかりますか?
 さあ、そのまま一気に出してしまいましょう。

 気持ちいいですよ、とっても」

 言い終わると同時に、アナルに触手が挿入される。既に体の奥から熱いも

のが漏れ出すギリギリの状態で、アナルまで同時に攻められて耐えられるは

ずもない。

 どくんと熱く脈動しながら、凄まじい快感を伴って精液が吐き出されてい

く。絶頂とは全く異なる搾り取られる気持ちよさと、魔力が精液となって体

内から抜け出ていく喪失感。私は初めてする射精の快感に押し流されて、情

けない喘ぎ声を漏らしながら呆けたように茫然自失してしまった。

<神奈>

レベル:28

状態 :淫魔化、異常性癖(アナル)、巨大陰核

体力 :210

魔力 :270

「たくさん出ましたね。次は彼女に搾り取ってもらいましょう。

 マーシュ、犯してあげなさい。

 思い切り激しく、すべて吸い尽くすようにね」

 マーシュが私の上に腰を下ろして、射精したばかりの腫れ上がったクリト
リスを躊躇なく秘所に挿入させる。膣内の熱くねっとり絡みつく快感に恐怖

を覚え逃げようとしても、後ろの鳳仙がそれを許さない。そしてマーシュは

命令通り、激しく腰を振り始めた。

「ひぅっ!? ぃやあぁぁぁあぁぁっーーーー!!!!」

 神経を直にねぶられるような白熱するほどの快感に全身がびくびくと痙攣

する。まだ射精はしていなくても、マーシュの膣がうねる度に私は何度も絶

頂させられていた。そしてその状態でさらに次々と絶頂させられ、強制的に

昇らされたまま降りることができない。
「ああぁっ!? また、きちゃう……っ!! ひあぁぁっ!!」

 またしてもあの射精感が襲ってきて、耐える間もなく精液が吸い上げられ

てしまう。膣内にどくどくと射精していく快感に私の頭の中は真っ白に染ま

った。射精が終わってもマーシュは容赦なく腰を動かし続け、蕩けるような

気持ちよさと強制的に搾り取られる背徳的な快感が何度も私をよがり狂わせ

る。魔力がある限り永遠に射精できる私は、そうやって空っぽになる寸前ま

で吸われ続けた……

★★★

<神奈>

レベル:28

状態 :淫魔化、異常性癖(アナル)、巨大陰核

体力 :210

魔力 : 30

 快感と引き換えに魔力が奪い尽くされたことによる脱力感が私を包み、も

はや指先一つ動かせず、何も考えられない。鳳仙にキスをされて熟した果実
のような甘い液体が口に流し込まれても、抵抗できずされるままに飲み込ん

でしまう。

「あぁ、飲んでしまいましたね。

 それは私の血で作った耐性をほぼゼロに低下させる秘薬。

 同性や淫魔に対して私の体質は効果ありませんが、

 この秘薬を摂取すれば話は別です。

 私がどういう話をしているかわかりますか?」

 敵であるはずの鳳仙の言葉が段々と心地よく感じてきて、私を抱きとめる

彼女に無意識に身を任せていた。彼女に見つめられると、その瞳に吸い込ま

れるような奇妙な快感を覚え、鳳仙の美しさに心奪われてしまう。まるで信

者が教祖を無条件で心酔するような、疑うことすらできない絶対的な呪縛。

「魔力が尽きているので抵抗もできませんね。

 魔術でも呪術でもない私の魅了は絶対に解けません。

 何しろ私だけのもので対策も治療法も皆無なのですから。

 これで貴女の主はウムラウトではなく、この私……」

 鳳仙……私の主さまが目の前に素足を差し出してくる。かつてウムラウト

にも足を舐めろと命令されたことがあるが、その時とは違い、私は自分の意

思で主さまの足に舌を這わせた。屈辱などという感情は一切ない。むしろ主
さまに触れるだけで多幸感に包まれる。

「最初から私の目的は貴女とマーシュだったのですよ。

 やはり淫魔は些か頭が抜けていますね。

 しかし、まだお二人にはウムラウトに従ってもらいます。

 私の準備にはもうしばらく時間がかかりますから」

サキュバス

 神奈さんが淫魔に拐われたと訊いた時、俺はその事実を信じることができ

なかった。彼女と初めた会ったのは二年前。俺はただの学生で、悪霊や魔物

が実在するなんて知りもしない。目の前で友人が殺される様を見せつけられ、

当時の未熟な俺は何もできなかった。

 後わずかで殺されるというタイミングで神奈さんが現れ、魔物どもを一瞬

で退治してしまった。その美しく凛々しい姿に、俺は淡い恋心を抱いたんだ。

そして自力で退魔師団を探し当てて入団し、今まで必死に修行をしてきた。

 別に神奈さんに告白するとか、そんな大それたことを考えていたわけじゃ

ない。俺は少しでも彼女の助けになれれば、それを実感できるだけで満足だ

った。

「わしも信じられん。だが、本当のことなのだ。

 彼女は退魔師団にとって象徴とも言うべき存在。
 党首もその影響力を考えてこの事実は伏せるべきと判断した。

 しかし、君には話すべきだと思ってな」

 寂光様は沈痛なお面持ちで部下からの報告を俺に話してくれた。なんと捕

らわれている居場所まで掴んでおきながら、党首様は手を出すなと言ってい

るらしい。神奈さんを捕えるほどの相手では、逆に返り討ちにあう可能性が

高い。だからといって何もせず手をこまねいているなど、俺には許せなかっ

た。

「恐らく敵は神奈殿を味方に引き入れるつもりだろう。

 それがどういう意味か、わかるな?

 君に……敵になったかもしれない彼女を助ける事ができるか?」

 俺は迷わずできると答えた。神奈さんなら例えどんな状態になっても、心

まで屈することはない。救出さえできればすぐに治療を受けて元通りになる

はずだ。寂光様は満足そうに頷くと、彼女が捕らわれている場所の詳細を俺

に話してくれた。

 待っていて下さい、神奈さん。もう俺は昔の頼りない男じゃない。今度は

俺があなたを助けてみせます。

★★★
 淫魔のアジトは外から巧妙に隠され、内部は厳重な警備によって守られて

いた。しかし俺は手際よく警備を解除しながら誰にも気取られることなく侵

入に成功する。寂光様の部下はさすがに優秀で、神奈さんが捕えられている

地下牢の大まかな位置は既に判明していた。

 警備している見張りを音もなく無力化させ、ついに彼女がいる牢の前まで

辿り着く。覚悟はしていたが、うずくまる彼女の頭には角があり、その背に

は大きな羽が生えていた。それは間違いなく淫魔……サキュバスと化した姿。

生まれたままの白い肢体と大きな胸に思わず目が吸い寄せられてしまう。今

すぐ駆け寄りたい衝動を押さえ、俺はいつでも応戦できるよう警戒しながら

近づいた。
「……っ、あなた、は……」

 気配に気づいた神奈さんがゆっくり目を開けて俺を見上げる。いきなり襲

ってくることはない。その瞳には確かな意思の光が感じられた。俺が思った

通り、体を淫魔に変えられても彼女の心は人間のままだ。

「神奈さん。俺がわかりますか? すぐここから逃げましょう。

 安心して下さい。まだ治療は間に合いますから」

 神奈さんの様子を確かめると、霊力……いや、魔力が尽きて殆ど動けない
状態みたいだ。彼女をおぶってここから脱出すのはいくら何でも厳しい。俺

が逡巡するのに気付いた神奈さんが、申し訳無さそうに呟く。

「その、こんなこと言うのは申し訳ないんだけれど……

 少しだけ、力を分けてくれませんか……?

 今の私じゃ、足手まといになってしまうから……」

 その言葉の意味に気付いてどきりとした。人間同士でも霊力の受け渡しは

難しく、かなりの高度な技術が必要だ。しかし今の神奈さんなら、そんな技

術がなくても俺の霊力を分け与える簡単な方法がある。

 しかし、相手は神奈さんとはいえ……サキュバスにそういう行為を許して

大丈夫だろうか? いや、何を考えているんだ。彼女にそんな意図があるは

ずないし、これは二人で脱出するために必要なこと。助けに来た俺が躊躇し

てどうするんだ。

「……わかりました。俺は、どうすれば……?」

 言い終わる前に両手を頭の後ろに回して引き寄せられ、キスされる。今ま

で彼女を助けることに必死で意識していなかった、甘い体臭と柔らかな感触

……そして絡みつく舌と催淫作用のある唾液によって、俺の体は燃えるよう

に高ぶった。元々、恋心を抱いていた相手。それがサキュバスとなってその

魅力は抗いようがないほど増している。
 彼女に恋人がいたことは知っていた。その相手が三年前に亡くなったこと

も。俺は彼女に釣り合う男になりたかった。今回のことで、少しでも彼女に

頼れる男だと思ってもらいたかった。

 その彼女が、俺にキスをしている。俺を求めている。敵のアジトの真っ只

中だということや、彼女の瞳が妖しく煌めいていたことも、俺にはどうでも

よかった。

「すごく硬い……私で興奮してくれたの?

 ふふ♥ それじゃぁ君の期待に応えないとね……♥」

 神奈さんは陶然とした表情でそう呟くと、再びキスをしてそのまま押し倒

されてしまう。片手で器用にズボンと下着が脱がされ、ガチガチに勃起した

ペニスが彼女の太ももに触れる。それだけで腰がびくりと震えるほど気持ち

良い快感が全身を貫いた。
「んっ♥ あああぁぁ……♥♥」

 何の抵抗もなくペニスが根本まで飲み込まれる。熱い肉がぎゅうぎゅうと

ペニスを締め付け、途方もない快感に俺は必死に歯を食いしばって悲鳴を抑

えた。神奈さんは俺を見下ろしながら嬉しそうに腰を上下に揺らし始め、大

量のカウパーが結合部から漏れ出してぐちゅぐちゅと音を立てる。

「はぁ……とっても熱くて、大きい……♥

 それに君の顔、すごく気持ち良さそう……♥

 これは力を分ける行為なんだから、我慢しないで?♥」
 そうだ。俺の霊力を神奈さんに分け与えて、ここから脱出するために必要

なこと。退魔師としての本能が力が吸い取られることに無意識に抵抗しよう

とするが、俺は無理やりそれを押し退けて快楽に身を任せた。

 霊力が精液に溶け出していく危険で甘美な感覚。病みつきになりそうな妖

しい快感から目を逸らして、神奈さんと一緒に逃げることだけを考える。す

ぐに精液が上がってくる感覚と共に猛烈な射精感が全身を駆け巡った。

「うっ、あぁっ、でるっ―――!!」

 脱力と弛緩を伴う心地よ過ぎる射精。大量の精液とともに退魔師の力が神

奈さんの中へと吸い出されていく。本来なら直ちにこの場から逃げ出さねば

ならないほど危機的な状況。しかし俺は退魔師の直感をわざと無視して、己

の中の叶わぬ恋心と理想の女性を今だけ手にしているという事実に酔いしれ

た。

 肉欲は際限なく湧き上がり、神奈さんの動きに合わせて腰をガンガンと突

き上げる。恋する女性とひとつになる幸せを噛み締め、俺は何度も何度も射

精を繰り返し、必死に鍛えた力を吐き出し続けた。それが、破滅へ向かう道

だと知りながら……

★★★
「どうですか? 中々の仕上がり具合でしょう?」

 たった今、寂光を通じて偽の情報で誘い込んだ退魔師を神奈が吸い殺して

みせた。あの屈強な精神力を持っていた神奈が、仲間を……守るべき人間を、

躊躇なく殺したのだ。鳳仙の手腕は見事としか言いようがない。

 淫魔化に成功しても心だけは堕ちることの無かった最強の退魔師が、遂に

僕の忠実な手駒となった。素晴らしい。これでもう僕の敵となりうる者は数

えるほどしかいない。魔界の支配者、魔王の玉座がすぐ目の前にある……!!

「まんまと罠に嵌った青年も気の毒ですね。

 しかもアナルで精気を吸い尽くされてしまうなんて。

 まぁ、本人が気持ち良ければさほど違いはないでしょうが」

 赤の他人とは言え、同族が殺されたことも意に介さない鳳仙はやはり人間

より我々に近い。しかし高待遇で眷属に誘っても、目的があるの一点張りで

色よい返事はついぞなかった。いずれ僕が魔界を制した後、人間界も手中に

収めた時にまた誘ってみるとしよう。

 今はそれよりも、僕の力を時代遅れの重鎮連中に知らしめる事が最優先だ。

焦ることはない。無限の魔力、無限の肉体、そして最強のジョーカー。何も

かも僕にとって有利に進んでいる。仕損じることなどありえない。僕の時代
の始まりだ……

「…………。ふふっ……」

END『最後に嗤う者』

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