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Connecting Markets East & West

青山学院大学
野村證券提供講座

財務分析と企業評価について

野村アセットマネジメント株式会社
企業調査部
相場 繁
STRICTLY PRIVATE AND CONFIDENTIAL
2022年5月20日 © Nomura
目次

➊ 企業の評価とは ➌ 企業評価
評価の目的 株式のファンダメンタル価値
分析の対象 企業の価値とは
株主価値を求める
➋ 財務分析 現在価値の考え方
毎年決まった収入が得られる場合
財務諸表 リスクと割引率
貸借対照表 成長の価値
損益計算書 配当が一定率で成長する場合
キャッシュフロー計算書 内部成長率
財務分析の事例 企業評価と市場での評価
売上高利益率の分析 株式市場での企業評価
資産回転率の分析
資本利益率の分析
デュポン・システム ➍ 最近の動き
経営戦略と財務指標 日米大手企業の財務指標比較
日本企業の財務指標の推移
成長戦略と新株価指数
日本版スチュワードシップ・コード

1
企業の評価とは 評価の目的

企業を取り巻く利害関係者(ステイク・ホルダー)が、企業の経済活動を理解し、評価すること。

株主

銀行 公的機関
企業

取引先 顧客

従業員

(出所)野村アセットマネジメント作成 2
企業の評価とは 分析の対象

企業の評価には様々な情報源が活用できるが、優れた客観性を備える財務諸表は最も重要。

監査 財務諸表 法律

IR・広報資料 インターネット

新聞・テレビ 会社情報誌

企業

(出所)野村アセットマネジメント作成 3
企業の評価とは 決算短信(日立製作所)

(出所) 日立製作所 4
財務分析 財務諸表

主な財務諸表として、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書があります。

期初日 会計期間(事業年度) 期末日


20年4月1日 20年4月1日から21年3月31日まで 21年3月31日 時間の流れ

貸借対照表 損益計算書 貸借対照表


2020年3月31日 2020年度 2021年3月31日

負債
負債
銀行借入や
社債発行で調達
資産 費用
収益 資産
企業が保有
している資産 純資産
株主の出資金と
純資産
過去の利益の蓄積
当期純利益

運用 調達 内部留保
どのような事業に どこからどのように
お金を使っているか お金を集めているか 配当
(出所)野村證券投資情報部作成
5
財務分析 貸借対照表

貸借対照表・・・ある一時点における会社の財産状況を示す決算書

(資産の部) 受取手形及び売掛金:
現金及び預金 500 商品を掛け売りした場合に代金を受け取る権利
受取手形及び売掛金 1,500 (売上債権)。手形を保有する場合は受取手形、
そうでない場合は売掛金。
たな卸資産 1,000
有形固定資産 4,000
たな卸資産:
その他の資産 3,000
資産合計 10,000 在庫として保有している、商品・製品・半製品・原
材料など。

(負債の部) 有形固定資産:
支払手形及び買掛金 1,000 機械、建物、土地など。一方、無形固定資産には、
銀行借入、社債 3,000 特許権やソフトウェアなどがある。
その他の債務 3,000
バ 負債合計 7,000 支払手形及び買掛金:

ン 商品を掛け買いした場合に代金を支払う義務(買
ス 入債務)。手形を振り出している場合は支払手形、
(純資産の部)
そうでない場合は買掛金。
自己資本 2,900
少数株主持分 100
純資産合計 3,000 自己資本:
株主が会社に出資した元手と、過去の利益のう
負債および純資産合計 10,000 ち社内に蓄えたもの等。

単位:億円
(出所)有価証券報告書等より野村アセットマネジメント作成 6
財務分析 損益計算書

損益計算書・・・ある一定期間の会社の収益と費用の状況を示す計算書

売上原価:
売上高 10,000 財やサービスを生み出すために直接必要とした
経費の総称。製品の製造原価と商品の仕入原価
売上原価 6,700
の合計。
売上総利益 3,300

販売費及び一般管理費 1,800 販売費及び一般管理費(販管費):

営業利益 1,500 商品や製品を販売するために直接かかる費用


(販売費)と会社全般の業務の管理活動にかか
営業外収益 100 る費用(一般管理費)の合計額。
営業外費用 600
営業利益:
経常利益 1,000
企業本来の営業活動による利益。
特別利益 100

特別損失 200 経常利益:


税引前当期純利益 900 金融活動による収支も含めた経常的な活動によ
る利益。
法人税等 345

少数株主利益 5 少数株主利益:
当期純利益 550 連結対象子会社の純利益のうち、親会社に帰属
しない部分。
単位:億円
(出所)有価証券報告書等より野村アセットマネジメント作成 7
財務分析 キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書・・・ある一定期間のお金の出入りを示す計算書

税金等調整前当期純利益 900 日常の活動によるお金の増減のことで、本業によって得たお


減価償却費 400 金。その期間の当期純利益に調整を加えるという形で計算
する。
売上債権の増加 △70
(事例)
買入債務の減少 △ 30
商品の販売・・・入金
その他-純額 △ 450
仕入先への支払い・・・出金
営業活動によるキャッシュ・フロー 750
有形固定資産の取得 △ 350
投資(設備投資など)によるお金の増減。
子会社株式の取得 △ 50
(事例)
その他-純額 △ 50 機械の購入・・・出金
投資活動によるキャッシュ・フロー △ 450 土地の売却・・・入金
短期借入金の増加 200
社債の償還 △ 250
財務(資金調達)によるお金の増減。
配当金の支払額 △ 100
(事例)
その他-純額 △ 50
借入金の実行・・・入金
財務活動によるキャッシュ・フロー △ 200
社債の償還・・・出金
配当金の支払・・・出金
現金及び現金同等物の純増減額 100
現金及び現金同等物の期首残高 400
現金及び現金同等物の期末残高 500

単位:億円
(出所)有価証券報告書等より野村アセットマネジメント作成 8
財務分析 具体例①

企業の活動が財務諸表上でどのように表現されるか、具体例で考えてみます。

Tシャツ製造株式会社 Tシャツ製造機械
業務内容:Tシャツの製造販売
会社設立:2020年4月1日
資本金:50万円
発行済株式数:10株
糸 Tシャツ

貸借対照表(B/S) 5月1日 貸借対照表(B/S) 6月1日~10月1日 貸借対照表(B/S)


20年4月1日 糸を現金30万 20年5月1日 Tシャツを製造した 21年3月31日
円で仕入れた

(資産) (資産)
12月1日 (負債)
(負債) 現金20万円 (負債) 製造したTシャツを
現金65万円 銀行借入
現金 100万円で販売した
銀行借入 銀行借入 50万円
50万円 50万円 糸 50万円
30万円
・・・ 糸10万円 (純資産)
(純資産) (純資産)
機械 資本金
機械 3月31日
資本金 資本金 機械 65万円
50万円 50万円 ・販売代金100万円を回収
50万円 50万円 40万円
・給与、家賃、金利、税金
等を支払った
(出所)野村證券投資情報部作成
9
財務分析 具体例②

損益計算書への記載について考えてみましょう。

20年4月1日から21年3月31日までの事業の動き
損益計算書(P/L)
20年4月1日 会社を設立した。 20年4月~21年3月
20年5月1日 原料の糸を30万円で仕入れた。
売上高 100万円
20年6月1日
~10月1日 Tシャツを製造した。 売上原価 50万円
原料費20万円、機械の減価償却費10万円、 売上総利益(粗利) 50万円
労務費他20万円を費用計上。
販管費 20万円
20年12月1日 製造したTシャツを100万円で納入した。
営業利益 30万円
100万円の売上を計上。
営業外費用 5万円
21年3月31日 販売代金を回収した。
販売員の給与、家賃、借入金利息、税金等を支
経常利益 25万円
払った。 税金等 10万円
販売員の給与、家賃などで販管費20万円を計上。
利益 15万円
借入金利息として5万円を計上。
税金等で10万円を計上。

(出所)野村證券投資情報部作成
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財務分析 具体例③ 収益性の分析

企業の収益性を測る主な指標として以下のものがあります。

○売上高と比較する ○資産、株主資本と比較する
・売上高総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高
・自己資本当期純利益率 = 当期純利益 ÷ 純資産
・売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高
・使用総資本当期純利益率
・売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高
= 当期純利益 ÷ 資産
・売上高当期純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高

事例のケースで計算してみると 事例のケースで計算してみると

売上高 100万円 ・損益計算書から

売上原価 50万円 当期純利益 15万円

売上総利益(粗利) 50万円 → 売上高総利益率 50% ・貸借対照表から 負債


販管費 20万円 純資産 65万円
資産
資産 115万円 純利益
営業利益 30万円 → 売上高営業利益率 30% 純資産
営業外費用 5万円
経常利益 25万円 → 売上高経常利益率 25%
税金等 10万円 → 自己資本当期純利益率・・・15万円÷65万円×100=23%

利益 15万円 → 売上高当期利益率 15% → 使用総資本当期純利益率・・・15万円÷115万円×100=13%

(出所)野村證券投資情報部作成
11
財務分析 財務分析の事例

実際の財務諸表を使って財務分析をしてみる。

貸借対照表比較 損益計算書比較
A社 B社 A社 B社
【貸借対照表(2020年度末)】 【損益計算書(2020年度)】
現金及び預金 651 763 売上高 17,855 27,562
売上債権 3,537 4,624 売上原価 10,734 18,062
たな卸資産 1,245 528 売上総利益 7,120 9,500
有形固定資産 6,054 60,890 販売費及び一般管理費 5,837 5,225
その他の資産 7,879 9,252 営業利益 1,283 4,275
資産合計 19,366 76,057 営業外収益 132 209
買入債務 1,304 499 営業外費用 83 864
銀行借入、社債等 4,347 33,032 経常利益 1,332 3,620
その他の債務 4,750 19,476 特別利益 341 667
負債合計 10,401 53,007 特別損失 381 1,134
自己資本 8,811 22,857 税引前当期純利益 1,291 3,153
少数株主持分 154 193 法人税等 600 1,337
純資産合計 8,965 23,050 少数株主利益 1 12
単位:億円 当期純利益 691 1,804
単位:億円

(出所)有価証券報告書等より野村アセットマネジメント作成 12
財務分析 売上高利益率の分析

売上高と比較して収益性を分析する。

A社 B社

販売している商品の利益率が高いかどうかを表す。高い値
売上総利益
売上高総利益率 = 39.9% 34.5% 付けでも売れる魅力的な商品を有していたり、コスト競争
売上高
力が強いと高くなる。

販売費及び一般管理費 営業活動や会社運営の効率性を表す。A社は、販売手数
売上高販管費率 = 32.7% 19.0%
売上高 料、広告宣伝費が多く、高めになっている。

本来の営業活動による利益率であり、本業の収益性が高
営業利益
売上高営業利益率 = 7.2% 15.5% いかどうかを表す。B社の方が、8.3%ポイント高くなってい
売上高
る。

金融収支等も含めた、経常的な活動の収益性が高いかど
経常利益
売上高経常利益率 = 7.5% 13.1% うかを表す。B社は、金利負担が重く、営業利益率に比べ、
売上高
差が縮小している。

法人税等 法人税等の実質的な負担割合を表す。海外子会社の税率
実効税率 = 46.5% 42.4%
税引前当期純利益 の違いや、研究開発減税の効果などによっても異なる。

当期純利益 会社のすべての活動の結果として得られる利益率。
売上高当期純利益率 = 3.9% 6.5%
売上高 B社の方が2.7%ポイント高くなっている。

(出所)有価証券報告書等より野村アセットマネジメント作成 13
財務分析 資産回転率の分析

資産の活用状況を分析する。

A社 B社

売上高 資産全体の活用状況を表す。一般に、高い方が良い。B社
総資産回転率 = (回) 0.92 0.36
総資産 は固定資産が多く、回転率が低くなっている。

総資産 総資産回転率の逆数。一般に、短期間の方が良い。各資
総資産回転期間 = (月) 13.0 33.1
売上高÷12 産の回転期間の合計と一致する。

売上債権 売上債権の回収期間を表す。短い方が資金効率が良い。
売上債権回転期間 = (月) 2.4 2.0
売上高÷12 販売先との交渉力が強いと、短くすることができる。

たな卸資産の回収期間を表す。売上高でなく、コストベース
たな卸資産
たな卸資産回転期間 = (月) 0.8 0.2 で計算する手法もある。製造期間が短く、在庫管理能力が
売上高÷12
高いと、短くなる。

有形固定資産 有形固定資産の回収期間を表す。B社の場合は非常に長
有形固定資産回転期間 = (月) 4.1 26.5
売上高÷12 くなっており、設備負担が重いことが分かる。

買入債務の支払い状況を表す。売上高でなく、仕入額ベー
支払債務
買入債務回転期間 = (月) 0.9 0.2 スで計算する手法もある。長期化すると資金負担が軽くな
売上高÷12
る。

(出所)有価証券報告書等より野村アセットマネジメント作成 14
財務分析 資本利益率の分析

総資産、株主資本と比較して収益性を分析する。

A社 B社

経営資源である総資産を、いかに効率的に活用して利益
総資産当期純利益率 当期純利益
= 3.6% 2.4% に結びつけているかを表す。B社は総資産回転率の低さが
(Return On Assets) 総資産
影響して、ROAは低くなっている。

事業を行う上で、どれだけ負債に依存しているかを表す。
総資産
レバレッジ = (倍) 2.2 3.3 財務的な安全性を見る代表的指標。類似の指標に、自己
自己資本
資本比率(自己資本÷総資産)がある。

自己資本に対してどれだけ利益を上げたかを表す。株主
自己資本当期純利益率 当期純利益
= 7.8% 7.9% にとっては、自分の持ち分がどのようなペースで成長して
(Return On Equity) 自己資本
いけるかを示す最も重要な財務指標。

総資産純利益率

負債

総資産 純利益

自己資本 自己資本純利益率

(出所)有価証券報告書等より野村アセットマネジメント作成 15
財務分析 デュポン・システム

デュポン・システムの枠組みを応用して、A社とB社の違いを分析してみる。

自己資本当期純利益率 総資産当期純利益率 売上高当期純利益率 売上高営業利益率 売上高総利益率

A社 B社 A社 B社 A社 B社 A社 B社 A社 B社

7.8% 7.9% 3.6% 2.4% 3.9% 6.5% 7.2% 15.5% 39.9% 34.5%

売上高経常利益率 売上高販管費率

A社 B社 A社 B社

7.5% 13.1% 32.7% 19.0%

レバレッジ 実効税率 売上債権回転期間

A社 B社 A社 B社 A社 B社

2.2 3.3 46.5% 42.4% 2.4 2.0

総資産回転率 総資産回転期間 たな卸資産回転期間

A社 A社 B社 A社 B社 A社 B社

0.92 0.36 13.0 33.1 0.8 0.2


売上高販管費率が高い

有形固定資産回転期間

B社 A社 B社

有形固定資産回転期間が長い 4.1 26.5

(出所)有価証券報告書等より野村アセットマネジメント作成 16
財務分析 経営戦略と財務指標

個々の経営戦略がどう財務指標に反映され、どういう成果につながるのか。=財務分析

サービスに力を入れて、値段を高めにする。 売上高総利益率↑○
売上高販管費率↑×

店頭商品の値段を引き下げて、たくさん商品を売る。 売上高営業利益率↓×
総資産回転率↑○

新しい物流施設を建てて、在庫管理を効率化する。 たな卸資産回転期間↓○
有形固定資産回転期間↑×

どんな不具合にもすぐに対応できるように交換部品を 売上高総利益率↑○
豊富に持ち、値段は高めにする。 たな卸資産回転期間↑×

お客さんが分割支払いで購入できるよう、自社でロー 売上高当期純利益率↑○
ンを提供する。 総資産回転率↓×

(出所)野村アセットマネジメント作成 17
企業評価 株式のファンダメンタル価値

株価に関する伝統的な二つの立場

 砂上の楼閣学派 ⇒ 「ケインズの美人投票」
 ファンダメンタル価値学派 ⇒ 株式には計算可能な価値がある
バートン・マルキール『ウォール街のランダムウォーカー』

ファンダメンタル価値学派の考え方

実際の株価

推定誤差の範囲

ファンダメンタル価値の中央値

(出所)野村アセットマネジメント作成 18
企業評価 企業の価値とは

企業が保有する資産の総額が企業の価値ではない。

貸借対照表 市場での評価

負債 負債価値

資産
企業価値
純資産
株主価値

企業が保有している資産を 企業が事業を行っている状態
個別に評価したものの総額 で、市場で評価された価値

(出所)野村アセットマネジメント作成 19
企業評価 株主価値を求める

株主価値を求める代表的な二つのアプローチ

「企業価値」を求め、そこから「負債価値」を差し引いて、「株主価値」を
計算する方法

①キャッシュフロー割引モデル ②配当割引モデル
Discounted Cash Flow Model Dividend Discount Model
負債価値

企業価値

株主価値

株式から得られる現金収入(=配当)に基づいて「株主価値」を計算
する方法

(出所)野村アセットマネジメント作成 20
企業評価 現在価値の考え方

金利が5%のとき、100万円を銀行に預ければ1年後には105万円になる。

「現在の100万円の将来価値は105万円である。」
1年後の110万円の現在価値は?
=「1年後の105万円の現在価値は100万円である。」

110万円
105万円 ?
100万円

現在 1年後 現在 1年後

110
現在価値に「割り引く」 現在価値: P   104 .76 万円
1  0.05

割引率

(出所)野村アセットマネジメント作成 21
企業評価 毎年決まった収入が得られる場合

毎年100円の現金を、無期限に受け取ることができる証券がある。
割引率が5%とすると、その価値はいくらになるか?
n年目に受け取る100円の現在価値

年 収入① 割引係数② ①×②


(円) (円)
1 100 1/(1+0.05) = 0.95 95
2 100 1/(1+0.05)^2 = 0.91 91
3 100 1/(1+0.05)^3 = 0.86 86
4 100 1/(1+0.05)^4 = 0.82 82
5 100 1/(1+0.05)^5 = 0.78 78
6 100 1/(1+0.05)^6 = 0.75 75
7 100 1/(1+0.05)^7 = 0.71 71
8 100 1/(1+0.05)^8 = 0.68 68
1 2 3 4 5 年
・ ・ ・・・ ・

毎年の収入:C 、割引率:r として計算すると

C C C C 100
P  ・・・・+    2000 円
1  r (1  r ) 2 (1  r ) n r 0.05
(出所)野村アセットマネジメント作成 22
企業評価 リスクと割引率

株式に対する配当は将来決まった額が支払われるとは限らない。
⇒リスクのある証券の評価

1 2 3 4 5 年

不確実な収入に 確実な収入に リスクに対して


適用される割引率 = 適用される割引率 + 上乗せされる割引率

リスク・プレミアム

(出所)野村アセットマネジメント作成 23
企業評価 成長の価値

不確実性は、「リスク」だけでなく「チャンス」も意味する。

A社株とB社株の割引率は共に10%であるとして、

A社の株式 B社の株式

今期の配当が150円で、 今期の配当が100円で、
その後も同じ金額の配 その後は毎年5%ずつ配
当が続く。 当が増え続ける。

150
P  1500 円
0.1

(出所)野村アセットマネジメント作成 24
企業評価 配当が一定率で成長する場合

今期の配当が100円で、その後は毎年5%ずつ配当が増え続ける株式がある。
割引率が10%とすると、その価値はいくらになるか?
n年目に受け取る配当

年 配当① 割引係数② ①×②


(円) (円)
1 100 1/1.1 = 0.91 91
2 100×(1+0.05) = 105 1/(1.1^2) = 0.83 87
3 100×(1+0.05)^2 = 110 1/(1.1^3) = 0.75 83
4 100×(1+0.05)^3 = 116 1/(1.1^4) = 0.68 79
5 100×(1+0.05)^4 = 122 1/(1.1^5) = 0.62 75
6 100×(1+0.05)^5 = 128 1/(1.1^6) = 0.56 72
7 100×(1+0.05)^6 = 134 1/(1.1^7) = 0.51 69
8 100×(1+0.05)^7 = 141 1/(1.1^8) = 0.47 66
・ ・・・ ・・・ ・
1 2 3 4 5 年

今期の配当:D1 、配当の成長率:g 、割引率:r として計算すると ⇒ 定率成長DDM

D1 D1  (1  g ) D1  (1  g ) n 1 D 100
P  ・・・・  1   2000 円
1 r (1  r ) 2
(1  r ) n
r  g 0.1  0.05
(出所)野村アセットマネジメント作成 25
企業評価 内部成長率

①1年目期初の自己資本が100百万円、②ROE(自己資本当期純利益率)が10%で一定、③当期純利益
の40%を配当として支払い残りの60%を再投資、④発行済み株式数は百万株。

年 期初資本 ROE 純利益 配当性向 配当 再投資 一株当たり配当金


(百万円) (百万円) d (百万円) (百万円) (円)
1 100.0 10% 10.0 40% 4.00 6.00 4.00
+6%
2 106.0 10% 10.6 40% 4.24 6.36 4.24
+6%
3 112.4 10% 11.2 40% 4.49 6.74 4.49
+6%
4 119.1 10% 11.9 40% 4.76 7.15 4.76
+6%
5 126.2 10% 12.6 40% 5.05 7.57 5.05
+6%
6 133.8 10% 13.4 40% 5.35 8.03 5.35
+6%
7 141.9 10% 14.2 40% 5.67 8.51 5.67
+6%
8 150.4 10% 15.0 40% 6.01 9.02 6.01
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

配当性向:d は、配当総額÷当期純利益

内部成長率
g  ROE  (1  d )

(出所)野村アセットマネジメント作成 26
企業評価 企業評価と市場での評価

経営の意思決定⇒市場での評価⇒経営の意思決定 というフィードバック = 市場主義経済

定率成長DDM 内部成長率

D1
P g  ROE  (1  d )
rg

D1
P
r  ROE  (1  d )

市場での評価
経営の意思決定

(出所)野村アセットマネジメント作成 27
企業評価 株式市場での企業評価

企業の価値を測るための主な指標

評価の視点 1株当たりの指標 株価との比較 計算例

・今期の予想1株利益が20円
株価
1株当たり利益 ・現在の株価が300円
株主に帰属する利益 1株当たり利益
額からみてどうか 当期純利益
 株価収益率(PER)
発行済株式数 → 株価収益率は15倍
(=Price Earnings Ratio)

・今期の予想配当金は10円
1株当たり配当金 1株当たり配当
株主への利益分配額 ・現在の株価が300円
からみてどうか 配当金総額 株価

発行済株式数 配当利回り → 配当利回りは3.3%

・前期末の1株当たり純資産が200円
1株当たり純資産 株価 ・現在の株価は300円
株主に帰属する資産 1株当たり純資産
額からみてどうか 純資産

発行済株式数 株価純資産倍率(PBR) →株価純資産倍率は1.5倍
(=Price Book-value Ratio)

(出所)野村證券投資情報部作成 28
企業評価 財務分析と企業評価

財務分析から企業価値算出への流れをみておきましょう。

企業分析
将来利益の予想 Dn

業界環境 企業価値算出

予想利益変動性 リスク・プレミアム
経済環境 など

確率
(予想利益の概念図)
• 定量分析(財務分析)
収益性 利
成長性 益

安定性 など 発


• 定性分析 率
経営力
利益額
経営資源
1年後の予想利益額
戦略 など (平均値)

(出所)野村證券投資情報部作成
29
最近の動き 日米大手企業の財務指標比較

(社数) (社数)
売上高営業利益率 10
自己資本比率
8
平均: 9 日本
7 日本 平均:
日本 14.3% 米国 日本 52.8%
8
6 米国 米国 17.6% 米国 27.8%
7
5 6
4 5
4
3
3
2
2
1 1
0 0
5%未満 5%以上 10%以上 15%以上 20%以上 25%以上 30%以上 20%未満 20%以上 30%以上 40%以上 50%以上 60%以上 70%以上
10%未満 15%未満 20%未満 25%未満 30%未満 30%未満 40%未満 50%未満 60%未満 70%未満
注)金融を除く、日米とも25社。
(社数)
12 自己資本当期純利益率(ROE)
日本  トピックス コア30:東京証券取引所の市場第一部銘柄のうち、時価総額、流動性の特に高い30銘柄で構成
された株価指数。東京証券取引所によって算出・公表される。
10 米国 平均:
指数構成企業(2021年3月2日現在):セブン&アイ・ホールディングス、信越化学工業、花王、武田薬品工業、アステ
日本 10.0% ラス製薬、第一三共、リクルートホールディングス、ダイキン工業、日立製作所、日本電産、ソニー、キーエン
8 米国 25.0% ス、ファナック、村田製作所、トヨタ自動車、本田技研工業、HOYA、任天堂、伊藤忠商事、三井物産、三菱
商事、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、東京海上
ホールディングス、東海旅客鉄道、日本電信電話、KDDI、ソフトバンクグループ
6  ダウ・ジョーンズ工業株30種平均:米S&Pダウ・ジョーンズ社がアメリカを代表する優良30銘柄を選出し、指数
化したもの。
4 指数構成企業( 2021年3月2日現在):ボーイング、ゴールドマン・サックス・グループ、アップル、ザ・ウォルト・ディズニー・カンパ
ニー、トラベラーズ、マイクロソフト、ビザ、キャタピラー、ハネウェルインターナショナル、アメリカン・エキスプレス、JPモルガン・チェース・アンド・カ
ンパニー、ホーム・デポ、ナイキ、ユナイテッドヘルス・グループ、Dow Inc、インテル、アムジェン、マクドナルド、シェブロン、IBM、ウォル
2 マート、3M、Cisco Systems Inc/Delaware、セールスフォース・ドットコム、コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、プロク
ター・アンド・ギャンブル(P&G)、メルク、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス、ベライゾン・コミュニケーションズ

0
(注)2021年3月2日時点に公表されている直近の年度決算。
5%未満 5%以上 10%以上 15%以上 20%以上 25%以上 30%以上 (出所)ブルームバーグデータより野村證券投資情報部作成
10%未満 15%未満 20%未満 25%未満 30%未満
30
トピック 日本企業の財務指標の推移
東証1部企業(除く金融)の純利益、ROE(下段)と売上高当期純利益率(上段)の推移

6%
5%
4%
3%
2%
← 売上高当期純利益率
1%
0%
-1%

(注) 対象は各年度末時点の東証1部上場銘柄、ただし金融を除く。2021年度、2022年度業績は21年11月12日時点の野村證券予想、
ただしアナリストカバレッジ外の銘柄は東洋経済予想で補完。21年度の自己資本は、20年度と同値としている。
(出所)東洋経済、野村證券のデータに基づき野村アセットマネジメント作成。 31
日本企業の財務指標の推移

(兆円) 負債、純資産、自己資本比率の推移 (%) (%) 売上高利益率の推移


1000 50 9 売上高営業利益率
900 45 8 売上高経常利益率
800 負債(左軸) 40 7
売上高当期純利益率
700 純資産(左軸) 35 6
自己資本比率(右軸)
600 30 5
500 25 4
400 20 3
300 15 2
200 10 1
100 5 0
0 0 -1
60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15 60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15
(年度) (年度)

(%)
(兆円) 売上高、経常利益、当期純利益の推移 (兆円)
20 資本利益率の推移
700 60
使用総資本当期純利益率
600 50 15
経常利益(右軸) 株主資本当期純利益率
500 当期純利益(右軸) 40
10
売上高(左軸)
400 30

300 20 5

200 10
0
100 0
-5
0 -10 60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15
60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15 (年度)
(年度)
(出所)財務省「法人企業統計調査」より野村證券投資情報部作成
32
トピック 成長戦略と新株価指数

自由民主党経済再生本部中間提言(2013.5.10)
東証「グローバル300社」インデックスの創設・・・ROE、海外売上比率、海外投資家比率、独立社外取締役の投入、IFRS(国際会計基準)
の導入など、経営の革新性等の面で評価が高い「グローバル300 社」のインデックスを創設。
日本再興戦略(6.15)
「攻め」の企業経営に向けた経営者の思い切った判断をこれまで以上に強力に促すため、株主などのステークホルダーからの経営改善
の働きかけを呼び込む仕組みを導入・・・国内の証券取引所に対し、上場基準における社外取締役の位置付けや、収益性や経営面での
評価が高い銘柄のインデックスの設定など、コーポレートガバナンスの強化につながる取組を働きかける。

日本取引所グループおよび東京証券取引所と日本経済新聞社は新指数を共同開発。2014年1月6日より公表。
新指数の名称 JPX 日経インデックス400 (略称:JPX日経400)

【対象市場】 東証上場銘柄(東証第一部、 二部、マザーズ、JASDAQ)


【選定基準及び銘柄 以下の手順及び基準に従い、銘柄選定を行います。
入れ替え方法】 (1)スクリーニング:直近3年間の売買代金、基準日時点の時価総額上位 ※過去3期営業赤字等の除外
基準有
(2)定量指標によるスコアリング:(1)の上位1000銘柄に対して、①3年平均ROE(40%)、②3年
累積営業利益(40%)、③時価総額(20%)の3項目の順位に応じたスコアを付与、その後各3項目の
ウェイトを加味した合計点によって総合スコア付け。
(3)定性要素による加点:独立した社外取締役(2人以上)、IFRS採用、決算資料の英文開示
(4)加点後、スコアが高い順に400銘柄を選定。 ※バッファルール有(前年度採用銘柄の優先採用)
毎年6月最終営業日を選定基準日とし、毎年8月最終営業日に銘柄定期入れ替えを実施。
【構成銘柄数】 400銘柄
【算出方法】 浮動株調整時価総額加重型(1.5%キャップ付き)
【算出開始日】 平成26年1月6日(月)。(起算日は平成25年8月30日)

(出所)日本取引所グループ、日本経済新聞社「新指数『JPX 日経インデックス400』の算出・公表開始について」(2013年11月6日)より野村アセットマネジメント作成
33
トピック 日本版スチュワードシップ・コード

平成25年6月、いわゆる「第三の矢」としての成長戦略を定める「日本再興戦略」において、「機関投資家が、対話を通じて企業の中長期
的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップコード)」の検討を閣議決定。
「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(座長 神作 裕之 東京大学大学院法学政治学研究科教授)が、平成25年8
月より策定に向けて議論を行い、パブリック・コメント募集を経て、平成26年2月27日に「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュ
ワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」を策定・公表。

「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫

1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべき
である。

4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努め
るべきである。

5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判
断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。

6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対
して定期的に報告を行うべきである。

7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対
話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

(出所)金融庁ホームページより野村アセットマネジメント作成

34
最近の動き ESG

近年、投資先企業におけるESGに係わる課題は、企業が社会の一員として持続的に事業活動を行い、価値を創造してゆくうえで対処す
べき基本的な課題と認識され、投資の視点からも重要視されている。

ESG:環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の概念図

E:環境 G:企業統治
(Environment) (Governance)
温室効果ガス 社外取締役
環境負荷 法令順守

S:社会
(Social)
労働環境
ダイバーシティ

(出所)各種資料より野村アセットマネジメント作成

35

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