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薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 14x1X June 2009:37

第 14 回 日本薬剤疫学会学術総会記録

シンポジウム 2
医薬品評価と薬剤疫学 〜患者さんへ真に役立つ医薬品の提供を目指して〜

第一部 医薬品評価に資する情報

製薬協の立場から
―再審査制度のあり方とリスクマネジメント―


高 橋 春 男

From the Position of Japan Pharmaceutical Manufacturers Association(JPMA)


:the Future State of the Reexamination System and Risk Management

Haruo TAKAHASHI

Post-Marketing Surveillance Subcommittee, Drug Evaluation Committee, JPMA
Torii Nihonbashi Bldg., 3-4-1 Nihonbashi-Honcho, Chuo-ku, Tokyo 103-0023, Japan

〈Abstract〉
Since the reexamination system of new drugs has been in place for about thirty years, it is necessary to
reconsider its management. The time from the reexamination application of new drugs until issuance of the
results takes several years recently. General drugs are applied during the reexamination application and
are approved before reconfirmation of the efficacy and safety of new drugs. Therefore, the reexamination
system is not effectively operated. Although the informations for proper use collected from post-marketing
investigations and clinical trials, and spontaneous adverse reaction reports of new drugs, etc. during the
reexamination period are utilized for its safety measures, the plan for effective use is not systematically
managed. We propose an improved plan for a future reexamination system. Further, we propose the
introduction of a risk management plan in Japan;the current one of which lags behind EU and US.

Key words:reexamination system, lagging of reexamination, effective use of post-marketing study, risk
management plan

対応について述べる.
はじめに
新薬審査と市販後の状況の変化
承認時までに得られた新薬の有効性及び安全性
には限界があり,再審査制度により市販後に有効 ઃ.再審査制度の概要
性及び安全性について確認する必要がある.再審 承認時までに得られた新薬の有効性及び安全性
1X
査制度の運用について見直しするとともに,再審 に関する情報は,Rogers が「5 Tooʼs」と述べた
査期間中の適正使用情報の収集・提供ならびに安 ように,限定された患者による成績である.した
全対策の観点から,今日における市販後の課題と がって,市販後の日常診療下において広範な患者

日本製薬工業協会医薬品評価委員会 PMS 部会
エーザイ株式会社臨床研究センター 〒 101-8602 東京都千代田区神田相生町 1 番地 秋葉原センタープ
レイスビル
38 第 14 回 学術総会記録 シンポジウム 2

図 1 承認申請から再審査結果通知までの流れ

に使用された結果,収集された情報に基づいて, 際会議:International Conference on Harmoniza-


有効性及び安全性について再度,確認する必要が tion of Technical Requirements for Registration
ある(再審査制度). of Pharmaceuticals for Human Use)による日米
再審査期間中,収集された当該医薬品の副作用 欧三極の薬事規制の整合化と相俟って,10 年前か
等の安全性や有効性に関する情報及び市販後に実 ら国内と国外のブリッジング試験による外国臨床
施された安全対策を取りまとめて,安全性定期報 試験の外挿,最近では日米欧あるいはアジア国際
告として,承認後 2 年間は 6 カ月ごとに,その後 共同治験の実施など,国際化の波が押し寄せてい
は再審査期間終了まで年に 1 回,報告する.定期 る.ブリッジング試験や国際共同治験により承認
的安全性最新報告(PSUR:Periodic Safety Up- された医薬品は,国内症例が少ない状況で承認さ
date Report)は,当該医薬品に関する世界各国か れることから,市販後に多数の日本人症例を収集
らの安全性情報や安全対策について取りまとめた し,安全性を確認することが求められる.とくに
もので,作成されていれば安全性定期報告に添付 国際共同治験の場合にあっては,世界同時開発・
する.4〜10 年の再審査期間が終了すると,それ 同時申請となり,日本での承認に当たっては外国
までに得られた製造販売後調査・試験や副作用報 での安全性情報にすべてを依存できない場合があ
告等から有効性及び安全性に関する資料を取りま る.
とめて再審査申請を行う.申請後,独立行政法人 この間,市販後においても 1993 年から希少疾
医薬品医療機器総合機構(総合機構)による再審 病用医薬品の指定・承認と原則 10 年間の全例調
査申請資料の適合性調査及び審査を受け,再審査 査の実施を義務付け,新薬の市販直後の安全性確
結果が出される(図 1). 保を目的として 2001 年から市販直後調査が導入
઄.治験と市販後を巡る状況の変化 された.また近年では,抗がん剤や抗リウマチ生
近年,欧米に比べて,新薬の開発及び承認審査 物由来製品等,とくに安全性に懸念のある新薬に
が遅れており(ドラッグ・ラグ),その迅速化が求 ついては流通制限をかけつつ承認条件として全例
められている.ICH(日米 EU 医薬品規制調和国 調査を課すなど,安全性をより重視する方向に状
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表 1 承認審査や市販後を巡る状況

再審査 関連事項

1980 年 再審査制度施行 改正薬事法施行

1985 年 再審査申請第 1 号

1986 年 再審査結果通知第 1 号

1993 年 希少疾病用医薬品及び薬剤疫学的調査が必要 GPMSP 施行


な品目の再審査期間 10 年 希少疾病用医薬品全例調査

1997 年 安全性定期報告 改正薬事法施行,GPMSP 省令化

1998 年 再審査申請資料の適合性調査開始 ICH E5(ブリッジングガイドライン)

1999 年 ブリッジングによる新薬承認第 1 号

2001 年 小児用量設定のための試験・調査計画品目の 市販直後調査


再審査期間延長

2003 年 全例調査(流通制限)

2005 年 改正薬事法施行,GVP,GPSP 省令
ICH E2E(医薬品安全性監視計画)

2006 年 国際共同治験による新薬承認第 1 号

2007 年 新有効成分医薬品の再審査期間を 6 年から 8 国際共同治験に関する基本的考え方(通知)


年に延長

況も変化してきている(表 1). そこで日本製薬工業協会(製薬協)PMS 部会で


は,昨年 9 月に再審査申請から結果通知までの期
再審査制度の運用の見直し
間についてアンケート調査を実施し,PMS 部会
再審査制度は発足以来 30 年近く経過したが, 加盟の 77 社中 72 社(94%)の企業から 291 品目
当初の目的に照らして齟齬がみられるところがあ について回答があった.期間については,「1.申
るので,再審査の目的を再確認するとともに,再 請〜適合性調査まで」
「2.適合性調査〜信頼性保
審査制度の運用の見直しを図る必要がある. 証部長からの適合性調査結果通知まで」「3.適合
ઃ.再審査結果通知の遅延 性調査結果通知〜新薬審査チームから企業への照
再審査制度の発足当初は再審査申請から約 1 年 会」「4.照会〜企業の回答」「5.企業の回答〜再
で 再 審 査 結 果 が 通 知 さ れ て い た.そ の 後, 審査結果通知まで」の 5 つの節目ごとに所要期間
GPMSP(医薬品の市販後調査の実施の基準: を調査した.なお,期間については異常値を排除
Good Post-Marketing Surveillance Practice)の施 するため,平均値ではなく中央値で算出した.表
行により当初は医薬品副作用被害救済・研究振興 2 に示すように,5 ポイントすべて揃っている 65
調査機構の,現在では総合機構の信頼性保証部に 品目,製品全体,直近 5 年間のいずれにおいても
よる再審査申請資料の適合性調査(書面調査及び 再 審 査 申 請 か ら 結 果 通 知 ま で の 期 間 は,ほ ぼ
実地調査)が,また,総合機構の新薬審査チーム 1,200 日(約 3.3 年)を要していた.
による再審査申請資料の審査が行われているが, これ以外に再審査結果が出ていない品目も多数
いずれも時間を要していることから,最近では再 あることから,概ね,再審査結果が出るまで数年
審査申請後数年しないと再審査結果が通知されな を要していることが明らかになった.なお,再審
い(図 1). 査結果通知の遅延により,企業側としても下記の
40 第 14 回 学術総会記録 シンポジウム 2

ようにさまざまな点で対応に苦慮している. અ.再審査結果通知までの期間の短縮及び効率化
再審査結果通知の遅延を解消するために,製薬
再審査申請して数年後に再審査申請資料につい 協 PMS 部会では再審査申請から結果通知までの
て照会事項が来ることによる課題 期間の短縮及び効率化策について検討した.新薬
● 企業側担当者が異動していて照会事項の回答
申請資料の審査業務の効率化のために利用してい
対応に苦慮
る審査の節目ごとの標準作業時間の目標値を設定
● 総合機構側担当者の交代により一度提出した
して管理する「メトリクス管理」を,再審査申請
資料の再提出
● 製造販売後調査業務受託機関(CRO:Con- 後の対応審査業務についても導入することを提案
tract Research Organization)と照会事項の する.そのうえで,現在,数年かかっている期間
再解析の再契約,解析プログラムのバージョ をまずは 2 年間を目標にして,最終的には 1 年間
ンアップによる労力の発生 と段階的に短縮可能と考える.
● CRO や医療機関のデータ保存期間が長くな 具体的な作業の効率化策としては,次の 4 点が
り,保存期間の延長契約等が増大 挙げられる.
●再審査申請から照会事項までに報告された副
① 再審査申請資料の適合性調査の効率化であ
作用症例や安全対策の経緯の取りまとめの照
る.再審査申請資料のうち,安全性に関する

資料の調査に関しては,都道府県による 5 年
再審査終了時の添付文書や医薬品インタビュー
フォームの改訂時期が読めない ごとの製造販売業許可更新時に行われる製
既に最新情報でなく,医療機関へのフィード 造販売後安全管理に関する GVP(医薬品,
バックの意義の低下 医薬部外品,化粧品及び医療機器の製造販売
後 安 全 管 理 の 基 準:Good Vigilance Prac-
tice)適合性調査にウェートをシフトして,
઄.再審査結果が出る前の後発品の承認 提出された安全性資料の信頼性調査に留め,
後発医薬品の承認申請要件としては,先発医薬 再審査適合性調査は製造販売後調査・試験に
品の再審査期間が終了していること,効能・効果 関する GPSP(医薬品の製造販売後の調査及
(有効性及び安全性)に係る再評価の指定中でな び試験の実施の基準:Good Post-marketing
いことが挙げられ,後発医薬品の承認要件として Study Practice)適合性調査に絞り込むこと
は,先発医薬品の再審査期間終了後に承認申請さ により,直近 5 年間では 338 日かかっている
れていること,承認時に物質特許等に抵触してい (表 2)ものを,再審査申請から半年以内に実
2)
ないことが挙げられている .したがって,特許 施する.
期間が終了した医薬品については,後発医薬品は ② 新薬審査チームの拡充(2007 年度から 3 年
先発医薬品の再審査期間が終了していれば承認申 間で 236 名の増員)による,新薬審査集中か
請が可能であり,再審査結果が出ていなくても通 ら再審査申請資料審査へ適正な人員を振り
常,申請から 1 年後に承認され,年 2 回の薬価収 向ける.
載後に販売できる. ③ 使用成績調査,特定使用成績調査や製造販売
再審査結果が出るまでには申請から数年を要し 後臨床試験が完了したら結果をまとめて報
ており,先発医薬品の再審査申請資料による有効 告して評価を行い,再審査申請を待たずに有
性,安全性の再確認がなされていない段階で後発 効性や安全性について必要な措置をとる.
医薬品を承認するのは,制度的に問題がある.再 ④ 再審査期間中の安全対策は安全性定期報告
評価と同様に再審査についても,再審査結果通知 時にとられていることから,再審査申請資料
が出て,有効性,安全性が再確認されるまで後発 自体のスリム化を図るなど,再審査申請資料
品の承認を認めるべきではない. の審査の迅速化・効率化を目指す.
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表 2 再審査申請後の各作業期間ごとの処理件数及びそれに要した時間(日)

.調査〜 .部長通知〜 .最初の照会 .最終回答〜


審査プロセス .申請〜調査
部長通知 最初の照会 〜最終回答 結果通知

すべてデータそろった 65 件
期間(中央値) 180 日 113 日 554 日 38 日 105 日
比率 18.2% 11.4% 56.0% 3.8% 10.6%

製品 ALL
件数 286 件 209 件 119 件 107 件 78 件
期間(中央値) 230 日 98 日 604 日 37.5 日 108.5 日
比率 21.3% 9.1% 56.0% 3.5% 10.1%

直近 5 年
件数 168 件 126 件 53 件 36 件 12 件
期間(中央値) 338 日 89 日 597 日 32 日 68.5 日
比率 30.1% 7.9% 53.1% 2.8% 6.1%


再 適 合 再審査申請→結果通知(中央値)

審 合 終構 65 件 1,206日 照照 結
査 性 了信 果

通性 製品 ALL 1,195日 会会
申 調 知保 直近 5 年 1,189日 事回 通
請 査 証 項答 知



この期間が問題

い医薬品については,再審査期間中に小児に関す
再審査期間中に実施された調査や
る特定使用成績調査等を実施して,小児に対する
試験等の有効活用
有効性及び安全性情報を収集する.しかし,「使
ઃ.適正使用情報,とくに小児に関する情報の活用 用上の注意」の改訂については,再審査結果通知
再審査期間中には副作用発現頻度調査を主目的 を待たないと改訂が難しい状況にあるので,再審
とした使用成績調査だけでなく,小児,高齢者, 査期間中であっても情報が蓄積された段階で「小
妊婦,腎・肝機能障害患者等の治験には組み入れ 児への投与」の項を改訂できるように要望する.
られることの少ない患者に関する調査や承認時を ઄.再審査結果に基づく「効能・効果」や
上回る長期使用に関する調査などの特定使用成績 「用法・用量」の追加
調査,あるいは種々の目的のために製造販売後臨 再審査結果は 1986 年 1 月に第 1 号が通知され
床試験が実施されている.これらの調査・試験結 てから 20 年以上を経過しているが,再審査期間
果,自発報告や文献・学会報告からの副作用症例 中に実施された製造販売後調査・試験結果に基づ
や相互作用等の報告,外国措置報告等に基づいて, いて再審査結果時に「効能・効果」や「用法・用
使用上の注意に未知の「副作用」や「相互作用」 量」が追加された事例は 12 成分と少なく,そのう
等の追加,
「禁忌」や「慎重投与」等の追加・改訂 ち 11 成分は「用法・用量」の追加であり,
「効能・
が安全性定期報告時あるいは随時行われ,医療機 効果」の追加は 1 成分のみであった(表 3).
関に情報伝達されている. 追加されたものの多くは新生児や未熟児等の小
なお,治験時に小児の症例が含まれていないと, 児領域における「用法・用量」の拡大であり,し
承認時の「使用上の注意」の「小児への投与」の かも抗生物質注射剤の事例が多い.小児の用法・
項は,
「小児における安全性は確立していない」と 用量設定試験の検証のために製造販売後臨床試験
設定される.そのうち小児に使用する可能性の高 または治験を実施する場合には,10 年を超えない
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表 3 再審査結果により効能・効果,用法・用量が変更(追加・拡大)になった医薬品

再審査結果
販売名 一般名 変更事項 変更内容 備考
通知日

1 1988/9/6
/ / アルファロール アルファカルシ 用法・用量 未熟児には 1 日 1 回 0.008〜0.018 mg/kg
/ を
液 ドール 経口投与
→未熟児には 1 日 1 回 0.008〜0.1 mg/kg
/ を
経口投与

/ / ブレディニン錠 ミゾリビン
2 1991/12/12 用法・用量 維持量としてミゾリビン 1〜2 mg/kg
/ 相当量 提 出 資 料 よ
/ 相当 り
→維持量としてミゾリビン 1〜3 mg/kg

3 1993/9/8
/ / レスタス錠 フルトプラゼパ 用法・用量 2〜4 mg を 1 日 1 回経口投与 使用成績調
ム →2〜4 mg を 1 日 1〜2 回に分割経口投与 査結果より

4 1994/9/8
/ / モダシン静注用 セフタジジム 用法・用量 小児・未熟児・新生児の用法・用量の追加 臨床データ
より

5 ロセフィン静注 セフトリアキソ 用法・用量 小児・未熟児・新生児の用法・用量の追加 臨床データ


用 ンナトリウム より

6 1996/3/7
/ / アザクタム注射 アズトレオナム 用法・用量 未熟児・新生児の用法・用量の追加 臨床データ
用 より

7 チエナム点滴用 イミペネム・シ 効能・効果 レンサ球菌属 承認時デー


ラスタチンナト →レンサ球菌属,腸球菌 タ,使 用 成
リウム 績調査結果,
筋注用製剤
の 効 能・効
果より

8 リカマイシンド ロキタマイシン 用法・用量 未熟児・新生児の用法・用量の追加 臨床データ


ライシロップ より

9 1996/12/12
/ / フルマリン静注 フロモキセフナ 用法・用量 未熟児・新生児の用法・用量の追加 臨床データ
用 トリウム より

10 1998/3/12
/ / フロリネフ錠 酢酸フルドロコ 用法・用量 通常 1 日 0.02 mg〜0.1 mg を 2〜3 回,なお,提 出 資 料 よ
ルチゾン 新生児では 1 日 0.025 mg,1 歳未満では 1 日 り
0.05 mg を超えないこととする
→通常 1 日 0.02 mg〜0.1 mg を 2〜3 回,な
お,新 生 児,乳 児 に 対 し て は 1 日 0.025〜
0.05 mg より投与を開始することとし,

11 ロメット細粒 レピリナスト 用法・用量 小児での年齢別標準投与量の記載の削除


小児用

12 1999/3/3
/ / 塩酸バンコマイ 塩酸バンコマイ 用法・用量 高齢者の用法・用量の追加 提出資料よ
シン点滴静注用 シン り

範囲で再審査期間を延長するというルールはある 囲で「用法・用量」の拡大を認めるということに
が,GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準:Good なれば,製薬企業や医療関係者へのインセンティ
Clinical Practice)遵守による小児での検証的臨床 ブの付与の点から有用である.なお,上述のよう
試験については比較対照の設定や症例数の確保等 に再審査申請資料は適合性調査を受けており,
が困難な状況にある.「効能・効果」の追加までは データの信頼性については担保されている.厚生
難しいとしても,製造販売後調査・試験において 労働省の小児薬物療法検討会議においても 3 年前
有効性や安全性が確認された場合には,一定の範 から小児の適応外使用について検討しているが,
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そこにおける公知の文献あるいはエビデンスの収 承認時に作成する製造販売後調査等基本計画書
集による小児の「効能・効果」の追加や「用法・ には,E2E における安全性検討事項は安全性に関
用量」の変更の検討とは区別したうえで,再審査 する問題点に,医薬品安全性監視計画は調査・試
申請資料の活用について前向きに再考すべきであ 験計画の概要の欄に盛り込み,それに基づいて使
る. 用成績調査,特定使用成績調査や製造販売後臨床
製造販売後調査や試験結果から得られた適正使 試験を実施している.一方,安全対策としては,
用情報を適時・適切にフィードバックすることは, 医療機関に対する市販直後調査時の「新薬使用上
医師・薬剤師等の医療関係者のみならず,究極的 の注意の解説」の定期的な説明徹底から始まり,
には患者の安全確保に資するものであり,再審査 「使用上の注意の改訂」時の情報伝達,致命的な副
申請資料から得られる情報の更なる有効活用が望 作用発現時の「緊急安全性情報」の配布などが行
まれる. われている.なお,欧米のリスク管理計画の状況
の詳細については,前回の本学会シンポジウムで
新薬のリスク管理計画の導入 6X
古閑が紹介している .
ઃ.日米欧三極のリスク管理計画の現状 ઄.日本版リスク管理計画の策定
ICH E2E ガイドラインによる「医薬品安全性監 EU-RMP では,安全性検討事項に応じた安全
3X
視計画」 が 2005 年に導入されてから 3 年余りが 性監視計画とリスク最小化計画を実行したうえ
経過したが,EU では医薬品安全性監視計画とリ で,とられた安全対策が適切であったのかリスク
スク最小化計画を合わせた「リスク管理計画(EU- の評価を行い,不十分であれば見直しを行うこと
RMP:EU Risk Management Plan)」の提出を承 にしている.
4X
認申請時に義務付けている .E2E では,リスク 製薬協 PMS 部会では,EU-RMP をモデルにし
コミュニケーション,すなわち,安全性情報の伝 て,日本の実情に合わせたリスク管理計画(製造
達・提供については取り扱わないことになってい 販売後安全性管理計画(仮称))について検討して
るが,EU-RMP においては,E2E を第一部,リス いる.上述のように現行の製造販売後調査等基本
クコミュニケーションを含むリスク最小化計画を 計画書においては,調査・試験の実施計画作成を
第二部としている. 前提として安全性検討事項が検討されているため
に,リスクの検討が不十分なまま製造販売後調
EU-RMP の構成
査・試験が実施され,安全性情報の伝達も定型的
第一部(E2E) 安全性検討事項
に実施されている傾向がある.そのため,安全対
医薬品安全性監視計画
策により副作用が低減したかなど,それらが有効
第二部 リスク最小化活動の必要性の評価
リスク最小化計画 に機能したかどうか比較できる有用なデータベー
スが日本には存在しないこともあり,リスクの評
昨年から米国も FDA 再生法(Food and Drug 価については掘り下げが不十分である.効率的な
Administration Amendment Act)の施行により リスク管理計画を立案・実行するためには,日本
必要な品目については,医薬品の安全対策として における薬剤疫学データベースの活用が有用と思
5X
「リスク評価と緩和計画」の提出を求めている . われることから,その早期構築を要望する.
日本においては,新薬の承認審査時に製薬企業
承認から再審査申請までのあるべき姿
と総合機構で製造販売後調査等基本計画書に基づ
く市販後に実施する製造販売後調査・試験ととも 本稿のまとめとして,今後の新薬の承認から再
に,市販後の安全対策について協議しているが, 審査申請までのあるべき姿について提案する.
未だ制度として体系づけられたものとなっていな 新薬の承認申請時に企業から提出した製造販売
い. 後安全性管理計画書案について承認審査の段階で
44 第 14 回 学術総会記録 シンポジウム 2

図 2 承認から再審査申請までのあり方

検討して,承認時までに規制当局と安全性管理計 かっているが,その間に後発品が申請され,再審
画を確定する.その計画に基づいて,市販後に市 査により新薬としての有効性や安全性を再確認さ
販直後調査や副作用自発報告等の副作用情報の収 れる前に後発品が承認されており,再審査制度が
集に努めて安全性定期報告時に報告・検討して, 有効に機能しているとはいえない.また,再審査
必要な安全対策をとる.また,使用成績調査,特 期間中に実施された調査や試験,副作用自発報告
定使用成績調査や製造販売後臨床試験については 等から得られた適正使用情報が安全対策に利用さ
安全性定期報告時にその進¦状況について報告 れているが,有効活用のための計画が体系付けら
し,調査や試験が完了したら結果をまとめて報告 れていない.そこで今後の再審査制度について改
して評価を行い,再審査申請を待たずに有効性や 善策を提言した.さらに欧米に比べて遅れている
安全性について必要な措置をとる.個々の対応は 新薬のリスク管理計画の導入について提言した.
この段階で終了させ,それらの集大成として再審
査申請資料を作成・提出し,審査を受けるように 謝辞
再審査申請後の審査期間についてのアンケート結果をま
すれば,再審査申請資料の審査も効率的に行われ,
とめていただいた製薬協医薬品評価委員会 PMS 部会継続
再審査期間も短縮する(図 2). 課題対応チーム 1 の方々に感謝する.

おわりに

再審査制度が開始されてから 30 年近くを経過 文 献
したので,その運用について再考した.近年,再 1) Rogers AS. Adverse drug events:identification
審査申請してから結果通知が出されるまで数年か and attribution. Drug Intell Clin Pharm 1987;21:
薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 14x1X June 2009:45

915-20. ment Plan(EU-RMPX. Sep. 2008;36-55.


2X 財団法人日本薬剤師研修センター編集.医薬品承認 5X Identification of Drug and Biological Products
申請ガイドブック 2007.薬事日報社.2007;81-2. Deemed to Have Risk Evaluation and Mitigation
3X 平成 17 年 9 月 16 日薬食審査発第 0916001 号.薬食 Strategies for Purposes of the Food and Drug
安発第 0916001 号.医薬品安全監視の計画について Administration Amendments Act of 2007. Federal
4X Volume 9A of the Rules Governing Medicinal Register Mar. 27, 2007;73:16313-4.
Products in the European Union -Guidelines on 6X 古閑晃.3.ファーマコビジランスとリスクマネジ
Pharmacovigilance for Medicinal Products for メント.薬剤疫学 2008;13:47-54.
Human Use-. 3 Requirements for Risk Manage-

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