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体力科学 第 69 巻 第 4 号 335-341(2020)

DOI:10.7600/jspfsm.69.335
資 料

ウォーキングサッカー試合中の運動強度

二宮 友佳 1,宮下 拓麻 2,宮地 元彦 1*,松田 薫二 3,高橋 康輝 2

Exercise intensity during walking football game


Yuka Ninomiya 1, Takuma Miyashita 2, Motohiko Miyachi 1*, Kunji Matsuda 3 and Kouki Takahashi 2
1
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所身体活動研究部,〒162-8636 東京都新宿区戸山 1-23-1 (Department of
Physical Activity Research, National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition, 1-23-1 Toyama, Shinju-
ku-ku, Tokyo 162-8636, Japan)
2
東京有明医療大学大学院保健医療学研究科,〒135-0063 東京都江東区有明 2-9-1 (Graduate School of Health Sciences,
Tokyo Ariake University of Medical and Health Sciences, 2-9-1 Ariake, Koto-ku, Tokyo 135-0063, Japan)
3
公益財団法人日本サッカー協会指導普及部グラスルーツ推進グループ,〒113-0033 東京都文京区本郷3-10-15 (Coachs’
and Grassroots Department, Grassroots Group, Japan Football Association, 3-10-15 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033,
Japan)

Received : April 13, 2020 / Accepted : May 18, 2020

Abstract Walking football was born in United Kingdom around 2011, that is forbidden to
running. In recent years, walking football has become increasingly popular as a sport that di-
verse people can enjoy together. However, it is not clarified exercise intensity and how they
feel after playing walking football. We aimed to determine the intensity when playing walking
football and investigated how mood change. Twenty-six men and women (18 males, 8 females)
out of those who participated in walking football event agreed to the present study. Heart rate
(HR) was measured using wearable device with photoplethysmography when playing walking
football. Metabolic equivalents (METs) was assessed using a triaxial accelerometer worn on the
waist. McGill pain questionnaire was used to assess pain sites and number. To assess change in
mood, short version of physical activity enjoyment scale (sPACES) was used before and after
playing walking football. Borg scale was measured before and after walking football. The HR
and METs were respectively as follows; male, 111.9 ± 11.4 bpm and 4.3 ± 0.6METs; female,
118.6 ± 16.2 bpm and 4.8 ± 0.7METs. There was no significant difference between men and
women in both HR and METs during walking football. The sPACES was indicated significant-
ly positive changes in mood, and Borg scale was significantly increased after playing walking
football, without increasing acute or chronic pain. The walking football is safe and moderate-
intensity sports and induce positive changes in mood.
Jpn J Phys Fitness Sports Med, 69(4): 335-341 (2020)
Keywords : METs, heart rate, accelerometer, wearable device, sPACES

しばである 1, 2).英国では,2011 年頃に中高齢者であっ


緒 言
ても安全に楽しめるサッカーとして,ウォーキングサッ
サッカーを競技として楽しむためには,縦幅が90-120 カーが行われ始めた 3).ウォーキングサッカーはイング
m,横幅が 45-90 m の広いフィールドを平均約 7 METs : ランドで誕生した“歩く”サッカーであり,基本はサッ
Metabolic Equivalents(代謝当量)の強度で走り続ける カーのルールと同じだが,走ることや身体の接触が禁止
体力が必要となる.そのため高齢者など体力が低い者や されている 4).このことから,多様性が認められる社会
心身に何らかの障がいを有する者が,青壮年の体力が高 づくりや,住みやすいまちづくりに役立つツールとして
い競技者や健常者と同じフィールド上で一緒にプレーす 盛んになり,世界的にも広がっている.日本でも 2014 年
ることは難しい.またサッカーでは,ボールの争奪など に公益財団法人日本サッカー協会(JFA)が,全ての人々
に伴う身体接触が,スピードに乗ったランニング中に発 がサッカーを楽しめるような草の根活動をグラスルー
生し,健常者や競技者であっても傷害を負うことがしば ツ宣言として発表し 5),その一環として2016年 4 月より
ウォーキングサッカーの普及を始め,サッカー未経験者
*Correspondence: miyachi@nibiohn.go.jp や運動が苦手な人でも楽しめるスポーツとして,次第に
336 二宮,宮下,宮地,松田,高橋

活動の輪が広がっている. 測定概要 JFA の日本サッカーミュージアムの中にあ


ウォーキングサッカーは歩いて行うため,自分のペー るヴァーチャルスタジアムにて 2019 年 2 月 22 日, 3 月
スで実施できる有酸素性運動であり,筋肉の収縮や関節 15 日, 4 月 12 日, 4 月 26 日の 18:30〜20:30 の計 4 日
の動きも緩徐なので,筋・骨格系への物理的負担も少な 間測定を実施した.本イベントは 1 日 9 試合行われ,試
6)
いと推測される .しかしながら多くのスポーツ活動の 合時間は前後半 4 分間または 5 分間(ハーフタイム約 1
運動強度がMETs 値などの生理的指標を用いて示されて 分間)
,5 人対 5 人の男女混合チームで計 3 チームのリー
いる中,現時点でウォーキングサッカーの運動強度は十 グ戦( 3 回戦)
を行った.対象者の平均の試合出場回数は,
分に明らかにされていない.また,サッカーの魅力の一 5.3±1.1試合であった.コートの広さは, 8 m×20 m で
つとして,仲間と協調し得点を競う点,すなわちゲーム あった.本イベントは,ウォーキングサッカーに関する
性に基づく楽しさが存在し,ウォーキングサッカーを始 専門知識を有する指導者の指導の下で行った.
7)
めたり,続けたりする内発的動機の一つとなっている . 測定手順を以下に記載する.測定日当日,参加者は
先行研究で,ウォーキングやジョギングなどの楽しさに 18:30に会場に集合の後に各自でウォーミングアップを
8)
ついては検討されている が,ウォーキングサッカーを 行った.その後対象者に向けた本研究概要の説明を行う
プレーすることによる楽しさなどの気分の変化について とともに同意を取得し,試合前の質問紙(気分変化, 主
は十分に明らかになっていない.加えて,ウォーキング 観的運動強度, 痛み評価)の記入を実施した.そしてウ
サッカーはルールにより身体接触が禁じられていること エアラブル脈拍計と活動量計を装着した.その後試合が
から,実施に伴う傷害の発生が少ないと予想されるが, 開始され,対象者は前半または後半を途中交代せず連続
ウォーキングサッカー実施前後の傷害や痛みの発生につ で出場することとした.試合後の質問紙は各自の最終出
いても明らかではない. 場試合の直後に記入し,すべての測定が終了した 20:30
ウォーキングサッカーにどのような健康増進効果を期 にウエアラブル脈拍計と活動量計を回収した.
待することができるのか,スポーツとしてどのような魅
力があり安全性は十分なのかを,実際の試合の場面で測 測定項目
定し,明らかにすることは,ウォーキングサッカーを普 運動強度
及・啓発していくための基礎的な情報として重要である ウォーキングサッカーの運動強度は, 3 軸加速度計
と思われる.そこで,ウォーキングサッカーの実際の試 (HJA-750C Active style Pro, OMRON)を用い測定し
合場面における生理的・心理的な運動強度と,実施によ た.この加速度計は,前後方向,左右方向,鉛直方向の
る気分の変化および傷害や痛みの状況に関する基礎資料 各軸方向の加速度を独自のアルゴリズムで処理すること
の収集を目的とした記述的な小規模研究を実施した. によって METs 値を算出する.METs 値とは身体活動に
おけるエネルギー消費量を座位安静時代謝量(酸素摂取
方 法
量で約 3.5 ml/kg/min)で除した値で,運動強度指標の
対象 JFA が主催するウォーキングサッカーイベント ひとつである.測定精度の妥当性に関しては,ダグラス
に参加した成人男女のうち,本人の意思により研究参加 バッグを用いて算出された METs 値と 3 軸合成加速度
への同意が得られた 20 歳代から 60 歳代の成人男女 28 名 の間に高い相関関係(r = 0.93)を認めたことが報告さ
を対象とした.そのうち心拍数データの欠損があった 2 れている 9).被験者は運動中に腰部に本機器を装着し,
名は除外し,最終的に 26 名を解析に用いた(男性 18 名, 10 秒ごとの METs 値を記録した.記録を開始する前に,
年齢:50.2±9.4 歳, 身長:173.7±6.1 cm, 体重:73.7±9.8 本体を専用の通信機器を介してパソコンと接続し専用ソ
2
kg, BMI:24.4±3.0 kg/m , 女性 8 名, 年齢:51.0±13.3歳, フトウェアで被験者の性,年齢,身長,体重といった身
身長:160.8±4.3 cm, 体重:53.7±4.1 kg, BMI:20.8±1.6 体特性を設定した.運動終了後に再びパソコンと接続し,
2
kg/m ).対象者はウォーキングサッカーをプレーする 記録したデータを抽出した.
にあたり支障のない者とした.対象者の競技レベルに関 心拍数の測定はウエアラブル脈拍計(Ionic, Fitbit)を
して,サッカー日本代表経験者が 1 名含まれていたが, 用いて測定した.これはリストバンド型の脈拍計で,光
他の対象者はレクリエーションレベルであると推測され 電式容積脈波記録法にて手首背側で心拍数を推定するも
る.対象者には事前に本研究の内容を十分に説明し,同 のである.光電式容積脈波記録法は,皮膚に照射した光
意を得た上で実験を行なった.なお,本研究はヘルシン がどのくらい血液に吸収されたかを測定することで,動
キ宣言の趣旨に従い,「東京有明医療大学倫理審査委員 脈血管床の容積の時系列変動すなわち脈拍を記録し,変
会」の承認を得て実施した(有明医療大倫理承認第 261 動間隔から 1 秒ごとの心拍数を推定するものである.先
号 承認日 2018 年 7 月26日). 行研究にてトレッドミル運動中の胸部 3 点誘導法による
心電図から算出された心拍数との間に高い一致相関係数
ウォーキングサッカーの強度 337

(rc = 0.89)を認め,妥当性が確認されている 10).初期設 統計処理 結果は全て平均値および標準偏差で表した.


定として,ウエアラブル脈拍計 1 台につき 1 つのスマー 運動強度および心拍数は,フィールドで連続してプレー
トフォンあるいはタブレット端末を用意し,対応する した 4 分間のデータの平均値を解析に用いた.予測最大
Fitbit アプリケーションアカウントを作成した.このア (=208(bpm)- 0.7×年齢 (歳))13) に
心拍数(拍/分:bpm)
カウントは Fitbit のホームページからもアクセスでき, 対する運動中の実測心拍数の割合から % 最大心拍数を算
記録したデータをパソコン上でも確認できる.安静時な 出した.年齢により50歳未満,50歳代,60歳代に群分け
らびに運動中の心拍数計測には本体のエクササイズモー した.年齢別での比較には一元配置分散分析を用い,主
ドを使用した.エクササイズモードで日時情報と心拍数 効果が認められた場合は事後検定として,Bonferroni の
を記録するためには,本体が位置情報を認識する必要が 多重比較検定を行った.性別での比較には,対応の無い
あるため,屋外などで位置情報を認識させた後,被験者 t 検定を用い分析した.試合中に10秒ごとに測定された
に配布した.より正確に心拍数を計測するためにベルト 運動強度, 1 秒ごとに測定された心拍数,% 最大心拍数
をしっかりときつくない程度に締め固定した.計測後, の変化に関して, 1 分ごとの平均値を算出した.これら
対応した Fitbit アカウントからデータを取り出し,試合 の試合中の年代別推移には二元配置反復測定分散分析を
開始前の心拍数の最低値を安静時心拍数として記録し, 用い,事後検定に Bonferroni の多重比較検定を行った.
各試合の開始時刻と終了時刻の間のデータを抽出し,運 同様に,これらの男女別推移には,二元配置反復測定分
動時心拍数の解析に用いた. 散分析を用い,事後検定に Bonferroni の多重比較検定を
行った.二元配置反復測定分散分析は Mauchly の球面
運動に対する主観的評価 性検定を行い,球面性が仮定できなかった場合,Green-
質問紙にて自覚的運動強度(rate of perceived exer- house-Geisser による自由度の修正を行った.sPACES の
tion:RPE)
(Borg スケール)および身体活動エンジョイ 得点率(%)の試合前後での比較は,対応のある t 検定
メントスケールショート版(short version of physical を行い,Borg スケール,sPACES の各項目の試合前後で
activity enjoyment scale:sPACES)8) を試合前および試 の比較には Wilcoxon 符号付順位検定を用いて分析した.
合後に評価した.sPACES はオリジナル版の18項目から 統計学的有意水準は 5 % に設定した.統計ソフトは IBM
5 項目を抜粋したもので,「楽しさ( 1 :楽しい− 7 : SPSS Statistics Ver.23を用いた.運動強度および心拍数
つまらない)」「好き嫌い( 1 :嫌い- 7 :好き)
」「肉体 データは本研究で得られたデータと既知の資料を比較し
的辛さ( 1 :楽である− 7 :辛い)」「エキサイト( 1 : ウォーキングサッカーの運動強度について考察した.
しない− 7 :する)」「イライラ度( 1 :する− 7 :しな
結 果
い)
」の項目を 7 段階で評価した.
「楽しさ」
,「肉体的辛さ」
については, 1 点 = 7 点, 2 点 = 6 点, 3 点 = 5 点, 4 点 被験者身体特性および試合中の平均の運動強度,心拍
= 4 点, 5 点 = 3 点, 6 点 = 2 点, 7 点 = 1 点として 5 項 数,% 最大心拍数を Table 1に示す.運動強度,心拍数,
目の合計点を計算し,満点( 5 項目× 7 点 = 35点)に対 % 最大心拍数において男女で有意な差はなかった.年齢
8)
する得点率を算出した(sPACES(%)) .sPACES の 別の比較では,% 最大心拍数で 50 歳未満と 60 歳代で有
信頼性に関して,思春期から高齢者の男女を対象とした 意差を認めた.
研究で高い信頼性(Cronbach’s α≥ 0.742)が報告されて 試合中 4 分間の運動強度,心拍数,% 最大心拍数の推
8)
いる . 移を Fig. 1に示す.4 分間の試合中の変化に着目すると,
年齢・性の違いを問わず,運動強度は 1 分目から 3 分目
痛みの評価 の間で有意に約 0.5 METs 増加し, 3 分目から 4 分目ま
痛みの評価としてマギル痛み検査表を用いた.これは, では定常状態となった.心拍数は 1 分目から 4 分目の
1975 年に Melzack 11) が考案した疼痛評価のための質問 間に 5 〜10 拍/分程度有意に徐々に増加した.年代別
紙で, 4 つの項目から構成されており 1 )痛みの部位, 推移(Fig. 1 a-c)に関しては,運動強度(F(1.6, 35.9)
2 )痛みの言語表現, 3 )痛みの変化, 4 )現在の痛み = 8.4, p < 0.05),心拍数(F(1.2, 28.5)= 19.3, p < 0.05),%
の強さを回答するものである.長谷川ら 12) により日本 最大心拍数(F(1.2, 28.3)= 19.4, p < 0.05)において,時
語版マギル痛み検査表の信頼性と妥当性が証明されてい 間による有意な主効果が認められた.また % 最大心拍
る.本研究では,痛みの部位と件数のみ調査し,本研究 数において,50 歳未満は 60 歳代よりも有意に低値を示
の目的に適さない他項目は省略した.評価は試合前と試 した(F(2, 23)= 7.3, p < 0.05).性別推移(Fig. 1 d-f)
合後に行った.痛みの部位は頚肩部,腰部,肘部,前腕 に関しては,運動強度(F(1.6, 38.9)= 6.8, p < 0.05),
手部,股関節部,膝部,足部の 7 部位に分類した. 心拍数(F(1.2, 29.5)= 17.3, p < 0.05),% 最大心拍数
(F(1.2, 29.3)= 16.9, p < 0.05)において,時間による有意
338 二宮,宮下,宮地,松田,高橋

Table 1. Subject characteristics and exercise intensity during walking football.


Table 1. Subject characteristics and exercise intensity during walking football.
Sex group Age group
All
Men Women < 50 years 50-59 years ≥ 60 years
(n=26)
(n=18) (n=8) (n=11) (n=10) (n=5)
Age (years) 50.5 ± 10.3 50.2 ± 9.4 51.0 ± 13.3 40.1 ± 6.5‡§ 55.6 ± 3.2†§ 63.0 ± 1.2†‡
Height (cm) 169.7 ± 8.1 173.7 ± 6.1 160.8 ± 4.3* 169.7 ± 9.1 171.6 ± 7.7 166.2 ± 7.5
Weight (kg) 67.5 ± 12.3 73.7 ± 9.8 53.7 ± 4.1* 67.5 ± 13.5 68.8 ± 13.1 65.0 ± 11.7
BMI (kg/m2) 23.3 ± 3.1 24.4 ± 3.0 20.8 ± 1.6* 23.3 ± 2.9 23.3 ± 3.9 23.4 ± 2.6
Resting HR (bpm) 65.0 ± 9.2 64.9 ± 7.6 65.3 ± 12.9 65.3 ± 9.2 64.4 ± 9.3 65.8 ± 11.3
Exercise intensity (METs) 4.5 ± 0.7 4.3 ± 0.6 4.8 ± 0.7 4.2 ± 0.8 4.6 ± 0.5 4.7 ± 0.7
HR (bpm) during games 114.0 ± 12.8 111.9 ± 11.4 118.6 ± 16.2 109.7 ± 8.9 113.3 ± 9.5 124.9 ± 21.7
%HRmax (%) during games 66.2 ± 8.8 64.9 ± 7.5 69.2 ± 11.6 61.0 ± 5.2§ 67.0 ± 5.2 76.2 ± 13.1†
Values are Mean ± SD. * : Significant differences vs. men(p < 0.05). † : Significant differences vs. < 50 years(p < 0.05). ‡ : Signifi-
cant differences vs. 50-59 years(p < 0.05). § : Significant differences vs. ≥ 60 years(p < 0.05). BMI, body mass index ; HR, heart
rate.

Values are Mean ± SD. *: Significant differences vs. men (p<0.05). †: Significant differences vs. < 50 years (p < 0.05). ‡: Significant differences vs. 50-60
years (p < 0.05). §: Significant differences vs. > 60 years (p < 0.05). BMI, body mass index; HR, heart rate.
な主効果が認められた.また運動強度において,男性は ると 10.0 METs にも及ぶと言われ,高強度運動に分類さ
女性より有意に低値を示した(F(1, 24)= 5.5, p < 0.05). れる 14).サッカーの練習として用いられる 4 人対 4 人も
質問紙で得られた結果を Table 2 に示す.RPE は安静 しくは 6 人対 6 人程度の小規模なサッカーでも最大心拍
時の 7 〜 8 から試合後に 12〜14 に上昇し,sPACES の 数の約 80–85 % の運動強度であると報告されている 16).
[楽しさ],
[好き嫌い],
[エキサイト]の項目で試合後に 一方ウォーキングサッカーは,試合人数や試合時間,
好ましい方向に有意な変化を示し,[肉体的な辛さ]は フィールドの広さなどはサッカーよりも小規模で,運動
有意に増加した.[イライラ度]に関しては,試合前後 強度は最大心拍数の約 60-75 %,約 4.0–5.5 METs であっ
で変化しなかった. 5 項目の得点率は試合前より試合後 たことから,通常のサッカーよりも強度が低く,中強度
で有意に増加した.すべての参加者の中で,試合前から に分類される運動であった.
身体のいずれかの部位に痛みを感じていたものは13名お 高齢男性を対象に12週間(週 1 回, 1 時間半/回)ウォー
り,痛みの部位は頸肩部,腰部,前腕手部,膝部,足部 キングサッカーを介入した報告では,対象者の参加率は
であった.試合後に痛みを感じていたものは 7 名となり, 高く,高齢者においても無理なく継続できることが示さ
痛みの部位は頸肩部,腰部,膝部,足部であった. れている 7).中強度の習慣的な身体活動や運動は,高血
圧 17),糖尿病 18),心血管疾患 19) などの発症リスクの低
考 察
下に関与し,健康上に様々な利益をもたらすことが複数
本研究では,29 歳から 66 歳の男女を対象にウォーキ の研究で示されている.このことからウォーキングサッ
ングサッカーの 4 分間の試合中の運動強度および試合前 カーも,ウォーキングなどの一般的な中強度運動と同様
後の気分ならびに痛みを調査した. 4 分間の試合中は運 に,中高齢者に対する健康増進を目的としたスポーツの
動強度,心拍数とも徐々に増加し,平均の運動強度は約 ひとつとして実施できると考えられる.一方で,通常歩
4.0-5.5 METs,% 最大心拍数は約60-75 %,RPE は13-14 行と比較して歩行速度が増加すると下肢筋の筋活動が増
であった.この結果から,ウォーキングサッカーは中強 加し 20),攻守の切り替えなどの方向転換の動きが加わる
度運動であり,一般的なサッカー(7.0 METs)よりも ことが予測されることから,単一方向の動作が主である
強度が低く,ゴルフ(4.8 METs)やトランポリン競技(4.5 ウォーキングなどと比較してウォーキングサッカーで
METs)やウォーキング(4.3 METs)などのスポーツや は,下肢の関節や筋肉にかかる負荷が大きく複合的で,
14)
運動と同等の強度 であることが示された.また,運動 傷害などが発生しやすいことが懸念される.今回の小規
前と比較して運動後には[楽しさ],[好き嫌い],[エキ 模な観察では,ウォーキングサッカー終了後に痛みを訴
サイト]の項目でポジティブな変化を示すとともに,痛 える者や痛みの箇所が増加することはなく,むしろ減少
みを訴える人数や痛みの箇所が増えることはなかった. している.しかし,運動習慣のない高齢者や下肢の可動
一般的なサッカーは11人制,縦幅90–120 m×横幅45- 域が制限されている者がウォーキングサッカーを行う際
90 m のフィールドで,試合時間は前後半 45 分間の合計 は,ルールの徹底,運動強度が上がりすぎないような工
15)
90 分間(ハーフタイム 15 分間)で競技する .メッツ表 夫,外傷発生予防のための適切なウォーミングアップの
にあるサッカーの運動強度は約 7.0 METs で試合ともな 実施などが必要と考える.試合後に痛みを訴える者が減
ウォーキングサッカーの強度 339

(a) (b) (c) *


* *
* * * *
6.0 180 100
* * * * * *
5.5
* *
Exercise intensity (METs)

160 90
5.0
140 80

%HRmax (%)
4.5

HR (bpm)
4.0 120 70

3.5 †
100 60
3.0
Time p < 0.05 Time p < 0.05 Time p < 0.05
80 50
2.5 Age n.s. Age n.s. Age p < 0.05
Time ×age n.s. Time ×age n.s. Time ×age n.s.
2.0 60 40
0 1 2 3 4 0 1 2 3 4 0 1 2 3 4
Time (min) Time (min) Time (min)

< 50 years 50-59 years ≥ 60 years

(d) (e) (f)



* * *
6.0 180 * 100
* *
5.5 * * * *
Exercise intensity (METs)

160
* *
90 * *
5.0
%HRmax (%)

140 80
4.5
HR (bpm)


4.0 120 70

3.5
100 60
3.0
Time p < 0.05 Time p < 0.05 Time p < 0.05
80 50
2.5 Sex p < 0.05 Sex n.s. Sex n.s.
Time ×Sex n.s. Time ×Sex n.s. Time ×Sex n.s.
2.0 60 40
0 1 2 3 4 0 1 2 3 4 0 1 2 3 4
Time (min) Time (min) Time (min)

Men Women

Fig. 1 Change in exercise intensity(a), heart rate(b), %HRmax(c)during walking football by age group. Change in exer-
cise intensity(d), heart rate(e), %HRmax(f)during walking football by sex. *p < 0.05 represented significant differences
among each time point following Bonferroni post hoc test. †p < 0.05 represented significant differences between < 50 years
and ≥ 60 years following Bonferroni post hoc test. ‡p < 0.05 represented significant differences between men and women
following Bonferroni post hoc test.

少した理由として,脳の報酬系に作用する内因性カンナ 加し,ウォーキングサッカーによる一過性の前向きな気
ビノイドの分泌の関与など,運動後に生じる疼痛の軽減 分の変化が見られた.先行研究では,活発に各自のペー
効果 21) が生じたと推測されるが,今後さらなる検討が必 スで行ったトレッドミル上でのウォーキングの楽しさを
要である. sPACES 総合点で評価した場合,中高齢者(45-70 歳)で
身体活動をする上での楽しさや勝ち負けに興奮すると 86.2 % 程度であった 8).ウォーキングサッカー後の楽し
いった気分や感情は,スポーツ参加や継続に対する重要 さの総合点は82.3±9.7 % であり,先行研究でのウォーキ
な内発的動機づけとなると考えられる 22).本研究では, ングの楽しさと同程度であった.
sPACES で評価した[楽しさ],
[好き嫌い],[エキサイ 本研究の新規性と価値は以下の通りである. 1 つ目
ト]の項目ならびに総合評価点が試合前より試合後に増 は,現在 JFA が普及を進めているウォーキングサッカー
340 二宮,宮下,宮地,松田,高橋
Table 2.

Table 2. The change in mood, RPE and the number and location of pain before and af-
ter walking football
before after
Score rate of sPACES (%) 73.3 ± 12.2 82.3 ± 9.7†
sPACES point
Enjoyment 5.1 ± 1.4 6.1 ± 1.6*
Like or dislike 5.3 ± 1.4 6.6 ± 0.8*
Physical feeling 5.8 ± 1.3 4.5 ± 1.5*
Excitement 3.7 ± 1.7 5.7 ± 1.6*
Frustration 5.7 ± 1.5 5.8 ± 1.8

Borg scale 7.7 ± 2.3 12.8 ± 2.8*

The number and location of pain


The total number of subjects with pain (n) 13 7
The total number of pain (n) 17 8
Neck / shoulder 5 1
Lower back 2 2
Elbow 0 0
Forearm / hand 2 0
Hip 0 0
Knee 6 3
Ankle / Foot 2 2
Values are Mean ± SD. †p < 0.05 represented significant differences following paired t-
test(vs. before). *p < 0.05 represented significant differences following Wilcoxon signed
Values
rank are
test Mean
(vs. ± SD. †p
before). < 0.05 represented
Regarding significant
the number differences
and location following
of pain, this paired
study t-test
didn’t(vs.
sta-
tistical
before).analysis.
*p < 0.05sPACES, short
represented versiondifferences
significant of the physical activity
following enjoyment
Wilcoxon scale.
signed rank test (vs.
before). Regarding the number and location of pain, this study didn’t statistical analysis.
sPACES, short version of the physical activity enjoyment scale.
のルールに基づき実際に試合を行った際のデータを収集 謝 辞
したこと, 2 つ目は実際のウォーキングサッカーの試合 本研究の参加に同意して頂いた全ての研究参加者,デー
タ収集に協力して頂いた東京有明医療大学の学生の皆様に
での動きに支障を与えない小型の活動量計やウエアラブ
謝意を表する.
ルといった機器を用いて運動強度や心拍数を定量したこ
と, 3 つ目は生理的な運動強度だけでなく,プレー前後
利益相反自己申告:報告すべき利益相反関係はない.
の気分や痛みの変化などを多面的に定量化したことであ
る.一方,本研究の限界として,20 歳代から 60 歳代ま
で幅広い年齢の男性と女性の参加者のデータを収集した 著者貢献
研究立案は宮地・高橋・松田が,データ取得は全著者が,
が,性別,年齢別のデータ比較を可能とするだけの十分
データ解析は宮下・宮地が,論文草案作成は二宮,宮下,宮
なサンプル数を集めることができなかったため,ウォー 地が,草案レビューは全著者が行った.
キングサッカーの運動強度の参照値としての普遍性が不
十分である.今後,性別・年齢層ごとに十分なサンプル
引用文献
数による代表性を担保した研究の実施や, 1 日 2 時間の
1)Fuller CW, Ekstrand J, Junge A, Andersen TE, Bahr R,
うちの一人あたり 4 〜 6 試合で収集した本研究のような
Dvorak J, Hagglund M, McCrory P, Meeuwisse WH.
一過性のデータだけでなく,数ヶ月あるいはより長期に Consensus statement on injury definitions and data
ウォーキングサッカーを継続的・習慣的に実施した効果 collection procedures in studies of football(soccer)
についての研究の実施が必要である. injuries. Br J Sports Med 40 : 193-201, 2006.
本研究により,ウォーキングサッカーは中強度の楽し 2)Whalan M, Lovell R, McCunn R, Sampson JA. The
incidence and burden of time loss injury in Australian
く安全な運動であることを示唆する基礎的な資料が得ら
men's sub-elite football(soccer): A single season pro-
れた.プレーヤーの背景別のより詳細なデータ収集なら spective cohort study. J Sci Med Sport 22 : 42-47, 2019.
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