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租税法Ⅰ 授業レジュメ 第2回 租税法の基礎知識

はじめに
先週の復習
1 租税法=税法は、個人の私生活または社会人として有益な知識を提供する。
ただし、税の知識は、誰も教えてくれない。税のリテラシーは自分で高めるしかない。
というのは、税金は納税申告制度=確定申告制度を採用しているので、自分で計算し
て自分の責任で申告することになっているから。計算して、税金の不明な点は自分で
調べて確定申告するしかない。
2 税法は、①税の知識の部分と②法律(法解釈)の部分がある。税務署=課税庁の見解
が分かりにくい場合、対立する場合があるので、税法の考え方を理解する必要がある。
3 税金は、所得に対して課税するものである。
所得=収入(売上)-経費(コスト) 所得が高いと税金は高くなる。
そうすると、納税者は、所得を減らして税金を低くしたいというインセンティブが働
く。
この場合、売り上げを少なく見せる(つまみ申告)、経費を過剰に計上するという行
為をしたくなる。

一 税法の扱う内容(便宜上先週の事例をも再度掲示します)
事例 個人事業主の寿司屋 A が、毎日の売り上げと経費(仕入などの材料費、人件費、
家賃等)を帳簿につけて、自分で税金を計算して(もちろん税理士さんなどに頼むことも
多い)、3月に税務署で確定申告をした。これに対して、所轄の B 税務署から電話がか
かってきて、「明後日、調査に参りますので、帳簿を見せて下さい。」と言われた。A の
寿司屋を調査した B 税務署は、売り上げを過少に計上している(収入を少なく見せている
~これを「つまみ申告」という。)また、妻に対して支払った給料が高すぎて(18万
円)全額を経費参入できないことを理由として、修正申告(間違った申告を修正してもう
一度申告すること)を求めた。
A は、売り上げをごまかした覚えもないし、妻は毎日働いていて、他のパートさんに比
べると給料は高くないから、妻の給料を全額、経費に算入できるはずだ、として、修正申
告には応じなかった。
修正申告に応じないので、B 税務署長は、更正処分(正しい税額にする=脱税の指摘)
をして、A に対して過少申告加算税を課した。更正処分に納得いかない A は、更正処分の
再審査を B 税務署に請求したところ、棄却裁決(A の主張を受け入れない裁決)を下した
ので、国税不服審判所に審査請求した。

ここでは、次のような税法が問題となる。
1 税金の中身=租税実体法
寿司屋は商売をやっているので、所得税法が適用される。所得税法上、寿司屋の所得
(注収入と所得は異なる。今のところ、所得は税金の計算の対象となる額と考えておく)
は、事業所得に分類される。
事業所得の金額=①総収入金額-②必要経費
(売り上げから商売に必要な費用を引き算すると、所得になると考える。)
事例では、B 税務署は、売り上げをごまかしていると指摘された。これは、①の計算が
誤っていることを示す。パートも雇って、店の規模も大きく、ネット等の口コミを見ると
繁盛店のようであるのに、帳簿上は売り上げが少ないように見える。税務署員は、仕入先
その他を調査してみて、適正な売り上げを計算して、「あるべき売り上げ」を決定する。
②の必要経費は、なんとなく語感から想像できると思うが、収入を得るために係ったコ
ストである。青色申告をしている事業者は、親族が事業を手伝っている場合は、「相当な
金額」の給与を経費にすることができる。ここでは、B 税務署は、相当な金額は、10万
円程度を一般に基準としているので、高いとしている。
所得税法57条1項は、「労務の対価として相当と認められるもの」と定義しているの
で、それについての見解が、税務署と寿司屋 A との間で見解が一致しない。「相当」とは
何かという法解釈が問題となる。

Q 税理士とはどんな仕事?
A 税務署と納税者の橋渡し。税務署にも納税者にも納得してもらう。税法上のアドバイ
スをして、脱税とならないようにする(言い方を替えると節税を指南する。)。法解釈の
違いについて問い合わせる。場合によっては、税務署を説得する。
その他の税理士の仕事~会計指導(今はパソコンソフトが優秀)・経営指導(財務から
アドバイスをする)・法務(相続のアドバイスや実際に発生した遺産相続の手続を行
う。。。この仕事は書類が多く難しい。)
税理士試験の難易度?税理士の科目免除?

2 税金の手続=租税手続法
(1)確定申告 源泉徴収されるサラリーマン以外は、確定申告する義務がある。
サラリーマンは、前述のように、年末調整をして税金の控除を受ける。医療費控除など
は確定申告しなければならない。

(2)税務調査(国税通則法)
通常、税務署は事前に通告して、帳簿等の閲覧を求めることができる。税額の不足(脱
税)を発見したときは、修正申告(税額の誤り・不足を自分で直してもう一度申告するこ
と)を勧奨する。事例のように、A が応じないときは、更正処分(課税処分)をする。こ
の更正処分には、理由を書かなければならない。これは、憲法と行政法で学習した、不利
益処分に対する理由付記である。
Q 税務調査はなぜ行われるか?(P564) 脱税者が多いから。たたけばホコリがでる?
(3)滞納手続(国税徴収法)
納税者が納期限までに税金を納めない場合は、督促し(書面、電話、訪問で口頭でな
ど)、督促しても納付しないときは、差し押さえ、強制的に換価する。
◎滞納手続は、行政法の行政行為のそのものである。

二 様々な租税の実体法~国に支払う税金の中身の法律
1 所得税~個人の収入に対して支払う税金
サラリーマン(給与所得者)または、個人で商売・事業を行っている人が納める税金。
商店街の八百屋、魚屋、プロのスポーツ選手、作家、フリーで仕事をしている人は所得税
を納める。山林や不動産を売った収入も所得税に含まれる。
前期は所得税を中心に説明する。法人税は所得税の応用と考える。

2 法人税~会社の売上に対して支払う税金の法律
会社は、会計の帳簿をしっかり記帳して、売り上げとコストを管理して、税金を払う必
要がある。できるだけ、税金を払わないようにすること(節税)を心がけ、法人税の支払
いの準備をしないと、経営がピンチになる。

3 消費税 個人の消費=買い物、物品購入に対して10%が課税される。(P245)

4 相続税 現在は、基礎控除額=3000万円+600万円×相続人の数を上回らない
と相続税はかからない。

三 憲法と税法
憲法は税金に係る規定をいくつか置いている。
1 30条「国民は、法律に定めるところにより、納税の義務を負う」~納税義務
法律で納税の義務の限界を示している。
・国会で決めるので民意が反映される。
・法律で税金の賦課・徴収を縛る。
・税金版の法律による行政の原理と考える。
Q 法律による行政の原理を説明しなさい。
A ①法律留保の原則
②法律優位の原則

2 84条「あらたに租税を課し、または現行の租税を変更するには、法律または法律の
定める条件によることを必要とする。」~租税法律主義
84条は、30条を別の角度から言い換えたともの考えられる。
先週学習した、租税行政法の3面、実体・手続・争訟は全て法律に基づいて行われるこ
とを示している。

3 憲法14条~租税公平主義
税法の内容と適用にあたっては、平等で公平であることが求められる。
Q 税の不公平とは?逆に平等な税とは何か? どうすれば税の公平を保てるか?
A 見た目が最も平等な税=
見た目が不公平な税=

二 租税法律主義の内容
憲法32条と84条から導かれる租税法律主義はいくつかの内容から構成される。(P
106)
1 課税要件法定主義
どのような場合に、誰に、どのような税金が、どの程度課されるのか、それはどういう
手続で決定され、どのように納税するのか、といった課税に関する事項(課税要件)を法
律で決定しなければならない。国や税務署が法律の根拠もないのに、勝手に税金の内容や
調査手続、納税方法を決めたり、法律の根拠がないのに政令を作ったりしてはならない。

2 課税要件明確主義(詳しくは P 164)
課税要件を法律で規定するだけではなく、その内容を明確にする必要がある。明確にし
ないと、納税者の予測可能性=行動の自由が制限される。これは憲法で学習した明確性の
原則と同じである。恣意的な課税、恣意的な調査を排除するためには、課税要件を明確に
して、課税庁の権限を法で縛る必要がある。
実務における課税要件明確主義は、課税要件をただ法定すればいいというわけではなく 、
できるだけ一義的に定める必要がある。さもないと課税庁の判断を広げ、課税庁に対して
白地委任をしたのと同じになる。
◎不確定概念~「相当の理由」「正当な理由」
例 法人税法34条2項 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の
規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として 政令で定め
る金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

Q なぜ不確定概念が発生するか?
A ケースバイケース、現場の裁量的判断が必要な場合もある。
→はっきりと規定できないが課税しないと不公平な事例もある。
結局、法定安定性・予測可能性(P 107)と税負担の要請をどのように考えるか、と
いう問題になる。実際は、不確定概念は二つのレベルで存在する。(P166)
①解釈で意義を明確にすることが困難なレベル
②法の趣旨・目的に照らせばその意味内容が明確にできるレベル

3 合法性の原則
租税行政庁(税務署)は、法律に違反してはならない。法律に違反して税金を徴収して
はならないし、逆に法律に違反して税金を減免してはならない。法律優位の原則の税法版
である。

4 手続的保障原則
憲法31条以下の適正手続の保障は、税務行政にも及ぶ。判例も川崎民商事件でそれを
認めている。ただし、税務行政には行政手続法は適用除外となっている。

5 遡及立法の禁止
税法制定以前の過去の事実に遡って適用してはならない。何の予告もなく、3年分遡っ
て税率を10%アップしてその分を支払えといわれた場合、納税者の予測可能性が失われ
る。3年前の時点では、税法を信頼して生活していたわけであるから。ただし、納税者に
有利なように、変更することは許される。

6 納税者の権利保護
納税に係る争訟における(①原処分庁への再調査の請求、②国税不服審判所への審査請
求、③課税処分の取り消しを求める訴訟)、納税者の権利保護を保障しなければならない。
三 税法の法源(P108)
Q 法源とは何か?
A どういう形式の法に国民が従わなければならないかという点を示す。税法の法源に該
当することになると、それに従う義務がある。例えば、通達は法源なのか、が実務上も理
論上も大きな問題となる。

1 憲法
30条と84条の課税要件法定主義と14条の租税の公平主義は、税法の立法と解釈の
指導原理になる。

2 法律
税法はもっとも重要な法源である。課税要件は原則として法律で規定されるか、法律の
具体的な委任がなければならない(白紙委任の禁止)。
本法と特別措置法の違いは重要。

3 政令=施行令
内閣が法律の委任に基づいて制定する命令である。一般に施行令と呼ばれている。
所得税→所得税施行令

4 省令=施行規則
財務大臣が法律と施行令を施行するため、または委任されて制定される法源である。一
般に施行規則という。
所得税→所得税施行令→所得税施行規則

5 通達(法源ではない)
通達は、上級行政庁(国税庁長官)が、下級行政庁(国税局、税務署)に対してなす命
令または指令である。この中でも、法令解釈通達が重要な意味を持つ。通達は、行政法で
学んだように、行政組織内部では拘束力があるが、国民と裁判所にはそれに拘束されない。
◎通達は、法源ではないが、実務は通達に基づいて行われるので実際は、通達に事実上
の拘束力がある(P130)。このような通達課税は、租税法律主義に反するのではないか、
という指摘がある(P 136)
Q 通達の機能は何か?
A 税務行政の画一的処理の要請に応えることができる。予測可能性を担保する。

【通達の例】医療費控除(P446)
所得税法73条は、医療費控除を認める。医療費の範囲は、所得税法施行令207条が
詳しく規定する。さらに、所得税法基本通達が具体的に指示する。
〇医療費の範囲(73-3)
次に掲げるもののように、医師、歯科医師、令第 207 条第 4 号《医療費の範囲》に規定
する施術者又は同条第 6 号に規定する助産師(以下この項においてこれらを「医師等」と
いう。)による診療、治療、施術又は分べんの介助(以下この項においてこれらを「診療
等」という。)を受けるため直接必要な費用は、医療費に含まれるものとする。(平 11 課
所 4-25、平 14 課個 2-22、課資 3-5、課法 8-10、課審 3-197、平 19 課個 2-11、課資
3-1、課法 9-5、課審 4-26 改正)
(1) 医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入
所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃借若しくは使
用のための費用で、通常必要なもの
(2) 自己の日常最低限の用をたすために供される義手、義足、松葉づえ、補聴器、義歯等
の購入のための費用
(3) 身体障害者福祉法第 38 条《費用の徴収》、知的障害者福祉法第 27 条《費用の徴収》
若しくは児童福祉法第 56 条《費用の徴収》又はこれらに類する法律の規定により都道府県
知事又は市町村長に納付する費用のうち、医師等による診療等の費用に相当するもの並び
に(1)及び(2)の費用に相当するもの

〇健康診断および美容整形手術のための費用(73-4)
いわゆる人間ドックその他の健康診断のための費用及び容姿を美化し、又は容ぼうを変
えるなどのための費用は、医療費に該当しないことに留意する。ただし、健康診断により
重大な疾病が発見され、かつ、当該診断に引き続きその疾病の治療をした場合には、当該
健康診断のための費用も医療費に該当するものとする。

〇医薬品購入の対価(73-5)
令第 207 条第 2 号に規定する医薬品とは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全
性の確保等に関する法律第 2 条第 1 項《医薬品の定義》に規定する医薬品をいうのである
が、同項に規定する医薬品に該当するものであっても、疾病の予防又は健康増進のために
供されるものの購入の対価は、医療費に該当しないことに留意する。(平 26 課法 10-
14、課個 2-22、課審 5-27 改正)

◎通達で留意すべき点
(1)通達は法律ではないので、国民や裁判所を拘束しない。
(2)通達は税務署の画一的処理の要請から使われているが、その規定に合理性があれ
ば裁判所もそれを参考にする。(通達の積極的側面)
(3)通達の規定と法律の規定がバッティングする場合(裁判官が通達の法解釈が誤っ
てていると考える場合)は、法律の規定が適用される。

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