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#29 第20章 資産除去債務-簿記1級商会テキスト第20章 CPAラーニング
#29 第20章 資産除去債務-簿記1級商会テキスト第20章 CPAラーニング
資産除去債務
20 章 第
第1節 基本的な会計処理
1 意義
有形固定資産の除去とは、有形固定資産を用役提供から除外することをいう(一時的に除外する場合を
除く)。除去の具体的な態様としては、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が含まれるが、
転用や用途変更は含まれない。また、当該有形固定資産が遊休状態になる場合は除去に該当しない。
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産
の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。
2 負債発生時
⑴ 資産除去債務の計上時期
資産除去債務(負債)は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生した時に負債
として計上する。通常、除去に関する支出義務は、当該有形固定資産を取得した段階で発生することにな
るので、取得時に計上することになる。
また、有形固定資産は、取得時の支出額に資産除去債務を加えた金額で計上する。
(借) 有 形 固 定 資 産 ×××※1 (貸) 現 金 預 金 ×××※1
資 産 除 去 債 務 ×××※1
※ 有形固定資産:現金預金+資産除去債務
参考 資産除去債務が使用の都度発生する場合
有形固定資産の使用により土地を汚染するような場合に伴う支出義務は、使用に伴って発生するため、使用の都度計上することにな
る。ただし、通常、資産除去債務は有形固定資産の取得時点で発生するものであり、使用の都度発生する場合は極めて例外と考えられる。
⑵ 資産除去債務の算定
資産除去債務は、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金
額(割引価値)で算定する。
除去に要する将来キャッシュ・アウトフロー
資産除去債務=
(1+割引率)n
※ 割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とする。
76
( 第 20 章 - 2 )
第1節 基本的な会計処理
3 決算時
⑴ 除去費用の配分
有形固定資産の帳簿価額に含まれた資産除去債務は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用
年数にわたり、各期に費用配分する。
(借) 減 価 償 却 費 ×××※1 (貸) 減 価 償 却 累 計 額 ×××※1
⑵ 時の経過による資産除去債務の調整
時の経過に伴う資産除去債務の調整額は、発生時の費用として処理し、資産除去債務に加算する。
(借) 利 息 費 用 ×××※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 ×××※1
※ 利息費用:期首資産除去債務×割引率
4 資産除去債務履行時
資産除去債務が履行された場合には、当該支出額と資産除去債務を相殺することになる。
第 章
(借) 資 産 除 去 債 務 ×××※1 (貸) 現 金 預 金 ×××※1
20
資産除去債務
なお、資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払
われた額との差額は、当期の損益として処理する。
(借) 資 産 除 去 債 務 ×××※1 (貸) 現 金 預 金 ×××※1
履 行 差 額 ××× ※1
5 財務諸表の表示
⑴ 資産除去債務の貸借対照表の表示
資産除去債務は、貸借対照表日後1年以内にその履行が見込まれる場合を除き、固定負債の区分に資産
除去債務等の適切な科目名で表示する。
貸借対照表日後1年以内に資産除去債務の履行が見込まれる場合には、流動負債の区分に表示する。
⑵ 資産除去費用の損益計算書の表示
① 資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額の損益計算書の表示
資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額は、損益計算書上、当該資産除去
債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。
② 時の経過による資産除去債務の調整額の損益計算書の表示
時の経過による資産除去債務の調整額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産
の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。
③ 資産除去債務履行時の差額
資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払われ
た額との差額は、損益計算書上、原則として、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額
と同じ区分(上記①と同じ区分)に含めて計上する。ただし、当初の除去予定時期よりも著しく早期に
除去することとなった場合等、当該差額が異常な原因により生じたものである場合には、特別損益とし
て処理する。
77
( 第 20 章 - 3 )
例題1 資産除去債務 重要度 A
以下の資料に基づき、各問に答えなさい。なお、当社の決算日は3月 31 日である。
⑴ 当社は× 4 年4月1日に建物を 6,000 円で取得し、使用を開始した。当該建物は、耐用年数3年、
残存価額ゼロ、定額法により減価償却を行う。
⑵ 当社には上記建物を使用後に除去する法的義務があり、除去する際の支出額は 2,000 円と見積もら
れている。なお、資産除去債務は取得時にのみ発生し、割引率は5%とする。
⑶ × 7 年3月 31 日に建物が除去された。
⑷ 計算上、端数が生じた場合は円未満を四捨五入するものとする。
解答解説(単位:円)
問1
⑴ × 4 年4月 1 日(取得時・発生時)
(借) 建 物 7,728 ※2 (貸) 現 金 預 金 6,000 ※1
資 産 除 去 債 務 1,728 ※1
⑵ × 5 年3月 31 日(決算整理仕訳)
① 減価償却費の計上
(借) 減 価 償 却 費 2,576 ※1 (貸) 減 価 償 却 累 計 額 2,576 ※1
※ 7,728(建物)÷3年(耐用年数)= 2,576
② 利息費用の計上
(借) 利 息 費 用 86 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 86 ※1
※ 1,728(発生時の負債計上額)×5%(割引率)≒ 86
⑶ × 6 年3月 31 日(決算整理仕訳)
① 減価償却費の計上
(借) 減 価 償 却 費 2,576 ※1 (貸) 減 価 償 却 累 計 額 2,576 ※1
② 利息費用の計上
(借) 利 息 費 用 91 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 91 ※1
※ { 1,728(発生時の負債計上額)+ 86(X5 年3月期利息費用)}×5%(割引率)≒ 91
78
( 第 20 章 - 4 )
第1節 基本的な会計処理
⑷ × 7 年3月 31 日(除去時)
① 減価償却費の計上
(借) 減 価 償 却 費 2,576 ※1 (貸) 減 価 償 却 累 計 額 2,576 ※1
② 利息費用の計上
(借) 利 息 費 用 95 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 95 ※1
※ 2,000(除去費用)-{ 1,728(発生時の負債計上額)+ 86(X5 年3月期利息費用)
+ 91(X6 年3月期利息費用)}= 95(最終年度は差額)
③ 建物の除去及び債務の履行
(借) 減 価 償 却 累 計 額 7,728 ※1 (貸) 建 物 7,728 ※1
(借) 資 産 除 去 債 務 2,000 ※1
(貸) 現 金 預 金 2,000 ※1
問2
(借) 資 産 除 去 債 務 2,000 ※1 (貸) 現 金 預 金 2,500 ※1
履 行 差 額 500 ※2
第 章
※1 資産除去債務:2,000(見積額) 20
※2 履行差額:2,500(実際支払額)- 2,000(見積額)= 500
資産除去債務
X4 X5 X6 X7
4/1 3/31 3/31 3/31
79
( 第 20 章 - 5 )
第2節 割引前将来キャッシュ・フローの見積りの
変更
割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の当該見積りの変更による調整額
は、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理する。
割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じ、当該キャッシュ・フローが増加する場
合、新たな負債が発生したと捉えられるため、その時点の割引率を適用する。これに対し、当該キャッシ
ュ・フローが減少する場合、当初計上していた負債がなくなると捉えられるため、負債計上時の割引率を
適用する。
キャッシュ・フローが増加する場合 見積り変更時の割引率
キャッシュ・フローが減少する場合 負債計上時の割引率
以下の資料に基づき、各問に答えなさい。なお、当社の決算日は3月 31 日である。
⑴ 当社は× 4 年4月1日に建物を 6,000 円で取得し、使用を開始した。当該建物は、耐用年数5年、
残存価額ゼロ、定額法により減価償却を行う。
⑵ 当社には上記建物を使用後に除去する法的義務があり、× 4 年4月1日において除去する際の支出
額は 2,000 円と見積もられている。なお、資産除去債務は取得時にのみ発生し、取得後の増減は見積
りの変更によるものである。
⑶ × 5 年3月 31 日に除去時の支出額について見積りを変更し、2,500 円とした。
⑷ 各時点の割引率は次のとおりである。
× 4 年4月1日 5%
× 5 年3月 31 日 4%
× 6 年3月 31 日 3.5%
⑸ 計算上、端数が生じた場合は円未満を四捨五入するものとする。
問1 × 6 年3月期の貸借対照表における建物、減価償却累計額及び資産除去債務の金額を答えなさい。
問2 × 6 年3月期の損益計算書における費用の合計額を答えなさい。
解答解説(単位:円)
⑴ × 4 年4月 1 日(取得時・発生時)
(借) 建 物 7,567 ※2 (貸) 現 金 預 金 6,000 ※1
資 産 除 去 債 務 1,567 ※1
80
( 第 20 章 - 6 )
第2節 割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更
⑵ × 5 年3月 31 日(決算整理仕訳)
① 減価償却費の計上
(借) 減 価 償 却 費 1,513 ※1 (貸) 減 価 償 却 累 計 額 1,513 ※1
※ 7,567(建物)÷5年(耐用年数)≒ 1,513
② 利息費用の計上
(借) 利 息 費 用 78 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 78 ※1
※ 1,567(発生時の負債計上額)×5%(当初割引率)≒ 78
③ 将来CFの見積額の増加による資産除去債務の調整
(借) 建 物 427 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 427 ※1
⑶ × 6 年3月 31 日(決算整理仕訳)
① 減価償却費の計上
第 章
(借) 減 価 償 却 費 1,620 ※1 (貸) 減 価 償 却 累 計 額 1,620 ※1
20
資産除去債務
※2 X5.3 帳簿価額:7,567(当初計上額)- 1,513(減価償却)+ 427(増加額)= 6,481
② 利息費用の計上
(借) 利 息 費 用 99 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 99 ※1
※ { 1,567(発生時の負債計上額)+ 78(X5.3 月期利息費用)}×5%(当初割引率)
+ 427(増加額)×4%(変更時割引率)≒ 99
⑷ 解答の金額
問1
建物:7,567(当初計上額)+ 427(増加額)= 7,994
減価償却累計額:1,513(X5.3 月期減価償却費)+ 1,620(X6.3 月期減価償却費)=△ 3,133
資産除去債務:1,567(発生時の負債計上額)+ 78(X5.3 月期利息費用)+ 427(増加額)
+ 99(X6.3 月期利息費用)= 2,171
問2
費用の合計額:1,620(X6.3 月期減価償却費)+ 99(X6.3 月期利息費用)= 1,719
81
( 第 20 章 - 7 )
X4 X5 X6 X9
4/1 3/31 3/31 3/31
+78(5%) +82(5%)
資産除去債務 1,567 1,645 1,727 2,000
+17(4%)
+427 +444 +500
2,072 2,171 2,500
△1,513
建物(帳簿価額)7,567 6,054
+427
△1,620
6,481 4,861
以下の資料に基づき、各問に答えなさい。なお、当社の決算日は3月 31 日である。
⑴ 当社は× 4 年4月1日に建物を 6,000 円で取得し、使用を開始した。当該建物は、耐用年数5年、
残存価額ゼロ、定額法により減価償却を行う。
⑵ 当社には上記建物を使用後に除去する法的義務があり、× 4 年4月1日において除去する際の支出
額は 2,000 円と見積もられている。なお、資産除去債務は取得時にのみ発生し、取得後の増減は見積
りの変更によるものである。
⑶ × 5 年3月 31 日に除去時の支出額について見積りを変更し、1,500 円とした。
⑷ 各時点の割引率は次のとおりである。
× 4 年4月1日 5%
× 5 年3月 31 日 4%
× 6 年3月 31 日 3.5%
⑸ 計算上、端数が生じた場合は円未満を四捨五入するものとする。
問1 × 6 年3月期の貸借対照表における建物、減価償却累計額及び資産除去債務の金額を答えなさい。
問2 × 6 年3月期の損益計算書における費用の合計額を答えなさい。
解答解説(単位:円)
⑴ × 4 年4月 1 日(取得時・発生時)
(借) 建 物 7,567 ※2 (貸) 現 金 預 金 6,000 ※1
資 産 除 去 債 務 1,567 ※1
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( 第 20 章 - 8 )
第2節 割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更
⑵ × 5 年3月 31 日(決算整理仕訳)
① 減価償却費の計上
(借) 減 価 償 却 費 1,513 ※1 (貸) 減 価 償 却 累 計 額 1,513 ※1
※ 7,567(建物)÷5年(耐用年数)≒ 1,513
② 利息費用の計上
(借) 利 息 費 用 78 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 78 ※1
※ 1,567(発生時の負債計上額)×5%(割引率)≒ 78
③ 将来CFの見積額の減少による資産除去債務の調整
(借) 資 産 除 去 債 務 411 ※1 (貸) 建 物 411 ※1
⑶ × 6 年3月 31 日(決算整理仕訳)
① 減価償却費の計上
(借) 減 価 償 却 費 1,411 ※1 (貸) 減 価 償 却 累 計 額 1,411 ※1
※2
第 章
※1 減価償却費:5,643(X5.3 帳簿価額 )÷4年(残存耐用年数)≒ 1,411
※2 X5.3 帳簿価額:7,567(当初計上額)- 1,513(減価償却)- 411(減少額)= 5,643 20
資産除去債務
② 利息費用の計上
(借) 利 息 費 用 62 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 62 ※1
※ { 1,567(発生時の負債計上額)+ 78(X5.3 月期利息費用)- 411(減少額)}×5%(当初割引率)≒ 62
⑷ 解答の金額
問1
建物:7,567(当初計上額)- 411(減少額)= 7,156
減価償却累計額:1,513(X5.3 月期減価償却費)+ 1,411(X6.3 月期減価償却費)=△ 2,924
資産除去債務:1,567(発生時の負債計上額)+ 78(X5.3 月期利息費用)- 411(減少額)
+ 62(X6.3 月期利息費用)= 1,296
問2
費用の合計額:1,411(X6.3 月期減価償却費)+ 62(X6.3 月期利息費用)= 1,473
X4 X5 X6 X9
4/1 3/31 3/31 3/31
+78(5%)
資産除去債務 1,567 1,645 2,000
△411 △500
+62(5%)
1,234 1,296 1,500
△1,513
建物(帳簿価額)7,567 6,054
△411
△1,411
5,643 4,232
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( 第 20 章 - 9 )
第3節 賃借契約に関連する敷金
建物等の賃借契約において、当該賃借建物等に係る有形固定資産の除去などの原状回復が契約で要求さ
れており、かつ、賃借契約に関する敷金が資産計上されている場合は、資産除去債務の負債計上及びこれ
に対応する除去費用の資産計上に代えて、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理
的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができる。
以下の資料に基づき、必要な仕訳を示しなさい。
⑴ 当社は当期首に建物の賃貸借契約を締結し、敷金 5,000 円を支払った。なお、敷金のうち 2,000 円は、
退去時の原状回復に充てられ、返還されないと認められた。
⑵ 当社の同種の賃貸借建物の平均的な入居期間は5年間である。
⑶ 資産除去債務を計上する方法に代えて、敷金を償却する方法を採用している。
解答解説(単位:円)
⑴ 敷金支払時
(借) 敷 金(資産) 5,000 ※1 (貸) 現 金 預 金 5,000 ※1
⑵ 敷金の償却(決算整理仕訳)
(借) 敷金の償却(費用) 400 ※1 (貸) 敷 金(資産) 400 ※1
※ 2,000(返還されない額)÷5年(平均的な入居期間)= 400
参考 原則的な取扱いによった場合
原則的な取扱いによった場合は、通常どおり資産除去債務を計上する(割引率:2%)。
⑴ 敷金支払時
⑵ 決算整理仕訳
① 減価償却費の計上
② 利息費用の計上
(借) 利 息 費 用 36 ※1 (貸) 資 産 除 去 債 務 36 ※1
※ 1,811(資産除去債務計上額)×2%(割引率)≒ 36
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( 第 20 章 - 10 )