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<別添 3>

マラウイ国 教育セクター
開発調査 NIPDEP 後継案件形成の
方向性・アプローチに関する一考察

2005 年 2 月

マラウイ共和国 教育省計画局
教育行政アドバイザー
中山 嘉人
1

<本拙稿の目的>
これまで実施されてきたマ国教育セクター教育行政能力強化支援を目的とした我が国開発調査の成果と
課題をレビューする。
マ国教育セクター地方分権化の経緯、アフリカにおける地方分権化全般に係るキャパシティ・ディベロップ
メント支援におけるこれまでの教訓等、開発調査フェーズ2:NIPDEP 後継案件を検討するにあたり考慮す
べき事項を整理する。
上述2点を踏まえ、『NIPDEP 後継案件』の方向性とアプローチについて考察する。

[目 次]

I. 我が国開発調査によるマ国教育セクター教育行政強化支援の背景 .......................................2
1. 国レベルの地方分権化政策の経緯..................................................................................................... 2

2. 教育セクター・レベルの地方分権化政策の経緯と進捗 ...................................................................... 2

II. 開発調査による支援の成果と課題 ..........................................................................................2


- まとめ -................................................................................................................................................. 4

III. アフリカにおける地方分権化支援の教訓と今後の支援可能性 .............................................5


1. これまでのキャパシティ・ディベロップメント(CD)支援範囲とその限界 .............................................. 5

2. 開発調査 NIPDEP 後の支援範囲の可能性 ....................................................................................... 5

3. 地方分権化支援と SWAP との関係..................................................................................................... 6

4. 地方政府のキャパシティ・ディベロップメント ........................................................................................ 6

5. 中央政府の役割とキャパシティ・ディベロップメント ............................................................................. 6

- まとめ -.................................................................................................................................................... 7

IV. NIPDEP 後継案件の方向性と案件形成アプローチ ..............................................................7


1. 後継案件を検討する上での留意点 ..................................................................................................... 7

2. コンポーネント、対象地域別支援形態 ................................................................................................. 7
1) 支援形態の類型................................................................................................................................................ 7
2) 地域・コンポーネント形態の「メリット/機会」と「デメリット/リスク」.................................................................. 9

3. NIPDEP 後継案件のコンポーネント案 .............................................................................................. 10

2. プロジェクト実施上予想されるリスク.................................................................................................... 12
2

I. 我が国開発調査によるマ国教育セクター教育行政強化支援の背景
1. 国レベルの地方分権化政策の経緯
<国レベル>
• 1998 年 12 月:『National Decentralisation Plan』が国会を通過。
地方分権化により以下の達成を目標とする。
1)民主的な環境を整備。地方レベルで意思決定に人々が参画できるようなガバナンス整備
2)行政の効率化、経済化、コスト削減のための県レベルの行政の二重構造の解消(現場と地方行政)
3)貧困削減のために地方レベルでの説明義務、グッド・ガバナンスの推進
4)地方レベルでの社会経済開発活動への大衆の動員
国会通過後 1998 年 12 月の直後に、『Department of Local Government』を設立。目的は、NDP 進捗の監
督と、『Technical Cooperation Programme (TCP)』の作成。TCP は 2000 年 8 月に『Decentralisation
Implementation Plan (2000-04)』及び『Technical Cooperation Framework』となる。
• 2000 年 8 月:『Decentralisation Implementation Plan (2000-04)』及び『Technical Cooperation Framework』
作成
8つの枠組みからなっており、すべての項目は相互に関連しあっている。
1) 法的枠組み
2) 市民教育
3) 地方政府選挙
4) 行政改革
5) 財政及び会計管理
6) 機能の分権化
7) 地方開発計画

2. 教育セクター・レベルの地方分権化政策の経緯と進捗
<セクター・レベル>
保健、教育、農業の3セクターは、地方分権化推進のモデル・セクターとしてスタート。
• 2001 年 7 月~:教育セクターにおいては、1)初等教育、2)遠隔教育、3)就学前教育、が地方政府レベ
ルに権限委譲される予定だったが延期となる。
• 2002 年 5 月:教育セクター地方分権化会議=>権限委譲の内容、プロセスについての意見交換
その後、毎月の開発パートナー会議で議題に上るも特筆すべき進捗は見られず。
• 2005 年 1 月: 「Devolution of Primary Education to Local Assemblies – Devolution Guidelines」(案)が作
成されるとともに、2005/06 予算策定においては、県教育事務所、政府系中高等学校もコス
ト・センターとなる。

特に、開発調査フェーズ1が開始された 2000 年は国レベルにおける地方分権化関連法案、枠組み案が次々と


発表され、その政策の実施促進支援というのが、本調査による支援の正当性、妥当性とされた。

II. 開発調査による支援の成果と課題
以下の表は、開発調査フェーズ1、フェーズ 2 の目的、主な活動内容、成果、課題をまとめたものである。
3

表1: 我が国開発調査の成果と課題
全国スクールマッピング・マイクロプランニング 全国地方教育支援計画策定調査 (NIPDEP)
(開発調査フェーズ1) (開発調査フェーズ2)
基礎教育に係る県レベルの教育計画策定(マイクロプランニング) 県別教育計画(DEP)の実施促進
マイクロプランニングに関する研修 地方分権化の中での中央、地方レベル教育行政官及び行政組織の教育計
地方分権化パイロット 6 県におけるマイクロプラニング及びデモンストレーショ 画策定能力及び実施能力の向上
目的
ン・プロジェクト DEP 及び PIF に基づいた全国地方教育支援計画の策定
の実施を通して、マラウイ国の基礎教育分野における中央・地方レベルの行政 を通じて持続的な DEPs 実施体制の確立に資する
組織強化、地方教育計画策定・実施のための人材育成に資する
パイロット地区におけるデモンストレーション・プロジェクトの実施 全 33 県教育事務所 DEPs のレビューと改定
マイクロプランニング作成のための研修実施 6パイロット県における教育行政官に対する研修(教育計画、プロジェクト管
主な
教育基礎データマネジメントのための研修実施 理等)
活動
6 パイロット県におけるパイロット・プロジェクト(フェーズ1:39 コンポーネント、
内容
フェーズ2:41 コンポーネント)
DEPs 実施促進マニュアルとしての全国地方教育支援計画書(NDEP)作成
☺ マイクロプランニング(地方教育開発計画)作成のためのシステム構築案作成 ☺ より現実的な活動予算を設定した改定版 DEPs 2005-8(全 33 県)
☺ マイクロプランニング研修マニュアル作成 ☺ 教育セクターの地方分権化促進のための人材育成とパイロット・プロジェクト
成果
☺ PIF サマリーの作成と配布 実施による基礎教育のアクセスと質の向上 (注1)
☺ 地方教育行政官の教育計画立案能力向上 ☺ DEPs 実施体制案の提示
1) 全般 フェーズ1時の課題の中で、地方分権化の進捗について「ガイドライン(案)」の策
教育省側の受身の姿勢 (オーナーシップの欠如)。計画策定・実施ともに 定がなされたこと、EMIS システムの整備においては若干の前進、改善が見られ
ドナーからの支持町となるケースが多々。事業のモニタリング・評価につい るもののその他は依然として根本的な解決には至っていない。それに加え、以下
ても積極的な実施関与がなされてない。 の点が指摘できる。
地方分権化推進について中央政府の役割とその責任、そしてリーダーシッ 地方レベル策定の DEPs と中央・ドナー中心で策定作業を行っている「セク
プが発揮されず、遅々として進まない。 タープラン」との非整合性、特に活動予算。
省内部局が縦割り行政で情報共有、連携のメカニズムがない。また、地方と 本省計画局の実施促進・調整に対するリーダーシップの欠如
の連絡も悪く、教育現場の状況が中央に正確に伝わっていない。 本省各部局(初等教育、中等教育)の DEPs 実施に対する積極的な役割遂
援助事業はドナー主導で進められ、月例定例会議においても課題の解決 行の必要性
課題 のためのアクションがマ国側から積極的に行われない。 各州事務所プランナー(本プロジェクトのコア・トレーナー)による円滑なファ
開発パートナー支援による活動報告書、研修マニュアル、教材等が作成さ シリテーション能力向上の必要性
れているが、教育省による一括管理されず、また情報共有(ナレッジマネジ 地方レベルにおける更なる個人・組織のキャパシティ・ディベロップメントとオ
メント)の意識が低い ーナーシップ強化
2) 人材育成/組織制度 開発パートナー(特にドナー)と NGOs の支援活動調整のハーモナイゼーシ
州・県教育事務所には優秀な人材が配置されているにもかかわらず、彼ら ョンと DEPs 実施支援に対する共通認識
の DEPs 実施促進上の役割が不明確かつその活動を正当に評価するシス
テムが整備されていない。
マイクロプランニングの基礎となる教育データ管理システム(EMIS)が整備
されていない。
4

(注1)NIPDEP パイロットプロジェクト活動成果
フェーズ1(2003 年度) フェーズ2(2004 年度)
教員/行政官研修 教員:3,330 人、学校運営委員会/PTA メンバー:970 人 教員:1,850 人、学校運営委員会/PTA メンバー:1,760 人
学校教室建設 8 ブロック 7 ブロック
教員住宅建設 13 住宅 5 住宅
理科実験室建設 1 実験室 1 実験室
トイレ施設建設 20 トイレ 19 トイレ
彫り抜き井戸 3 2
養殖用池 - 3
学習教材配布 5,170 3,410
机・椅子配布 1,400 セット 1,490 セット
科学セット配布 12 キット 15 キット

- まとめ -
上述表から、以下のことが言える。
これまでの支援を通じ、地方教育行政レベルの教育開発計画能力、実施能力強化はある程度の成果を挙げたとともに教育環境改善がなされたと言える。
教育セクターの地方分権化のガイドラインとなるであろう NDEP と DEPs の実施運営体制についてもパイロット・プロジェクトを通じ、モデル案となるものを経験し、
教育省側に提示することができた。
一方、中央の教育本省のリーダーシップ、イニシアティブが非常に脆弱なため、これまでの経験と教訓を生かした DEPs の持続的な実施体制確立までには至っ
ていない。
開発パートナーが主導権を持ちながら本省レベルを中心に作成している SWAP セクタープランや MTEF の枠組み(トップダウン)と地方レベルから上がってくる
DEPs(ボトムアップ)の 2 つのアプローチをどのように整合性のあるものにしていくか、特に予算計画についてのメカニズムが依然不明であり、それに対して教育
本省が Ministry of Local Government など他関係省庁とどのように役割分担と調整を行っていくのか PS や計画局長の案として表明されつつも、それを実際に
体制として調整するまで環境が整っていない。
5

III. アフリカにおける地方分権化支援の教訓と今後の支援可能性1
1. これまでのキャパシティ・ディベロップメント(CD)支援範囲とその限界
CD概念の推進役を果たしているUNDPは、CDを以下のように定義づけている。
「個人、組織、制度や社会が、個別にあるいは集合的にその役割を果たすことを通じて、問題を解決し、また
目標を設定してそれを達成していく、“能力”(問題処理能力)」2
そしてこのCDは具体的に以下の4つの分野;1)組織改革(Institutional Capacity Development)、2)法機構
改革(Legal Constitutional Reform)、3)財政改革(Financial Fiscal Policy Reform)、4)人事機構改革(Human
Resources)における機能性の拡大を指している。上記のように定義づけることで、キャパシティ・ディベロップメ
ントとは人材の訓練・リソースの量的改善等を超越した意味を含むようになる。
しかし、現実には多くの援助が「キャパシティ・ディベロップメント」という名のもとに専ら「研修や訓練」につぎ
込まれているが、それだけでは正確な意味でのキャパシティは確立されてゆかない。もちろん、現実の援助可
能性を考慮に入れた場合、研修や訓練というのは援助受け入れ側にとっては不都合が最も少ないし、援助側
も受け入れ国政府と摩擦を起こしにくく援助しやすい形態であることは否めない。しかしながら、研修によって
磨かれた人材が持続的に、また効率的に働けるような組織機構・法機構・人事機構そのものの改革を伴う包
括的なキャパシティ・ディベロップメントが必要とされている。

2. 開発調査 NIPDEP 後の支援範囲の可能性


現状での地方分権化関連の協力は、大きくわけて以下の3タイプに分類することができる(平田[2001])。
① 中央―地方制度の改革やキャパシティ・ディベロップメント(行政管理・運営能力強化)支援
② 行財政改革、法改革、公務員組織改革など、NGO を含む市民組織の「参加」及び民主化促進支援
③ 地方におけるインフラ整備、教育、保健、水環境整備、土地改革、農村開発等セクターごとの協力を通じ
て分権化支援

このうち、これまでの開発調査フェーズ1及びフェーズ2は、①のキャパシティ・ディベロップメント支援、特に
地方教育事務所レベルにおける教育計画策定のための能力強化と実施枠組み支援に関わるものであった。
今後、他の援助機関による地方分権化支援動向を概観した上で、日本のマ国教育セクターの地方分権化
支援として有効なものとして検討する中で、地方政府への直接財政支援に関連する分野は避けられないであ
ろう。なぜならば、地方分権化政策がうまく機能するためには、地方政府の財政的能力向上が絶対的に不可
欠であるという現状認識がマ国側にも開発パートナー側の双方に存在しているからである。もちろん、我が国
の協力スキーム、援助モダリティを鑑みるに、『直接財政支援枠組み』という直接的な表現による支援は不可
能であろう。
しかし、これまでの開発調査による支援も、特にフェーズ2によるパイロット・プロジェクトに見られるように
JICAの開発調査チームが財政管理などのプロジェクトマネジメントの面で「中間者」として介在している形態を
とってはいるが、実質的には地方教育開発計画(DEPs)実施のための間接的な『直接財政支援』と『技術協力
支援』の混合型支援だったといえ、これまでのアプローチを継続することで必要とされる地方政府・教育行政

1
この章の考え方は、ほぼ平田[2001]のものを支持し、引用している。
2
これは、DACやCIDAが採用している以下の定義ともほとんど変わらないといえる。 “... the process by which
individuals, groups, organisations, institutions and societies increase their abilities to: (1) perform core functions, solve
problems, define and achieve objectives; and (2) understand and deal with their development needs in a broad context
and in a sustainable manner .”
6

への地方分権化促進に向けた支援は十分に可能といえる。

3. 地方分権化支援と SWAP との関係


一方、SWAPなどの枠組みの中で、地方分権化支援という名目の下、多額の援助資金が中央政府に流れ
たとしても、それが地方政府レベルでどの程度有効に利用できるかという点に最大限の注意が払われなけれ
ばならない。また、マ国中央政府(教育省)レベルにおける教育行政の高い非効率性を考慮すると、地方政府
からドナーへ直接援助を要請できるシステムを確立する必要性についても考慮しなければならない。
しかしながら一般に、地方政府とドナーとの距離がより密接になるような枠組みは、中央官僚や利益団体か
らの政治的圧力が強くなかなか実現することが難しい。こうした場合には、地方政府及び地方教育事務所へ
の財政的支援プログラム(NIPDEP後継案件)は必ず、公務員の態度や意識改革を含む公共部門の管理・運
営能力向上プログラムと抱き合わせで実施されなければならない。
キャパシティ・ディベロップメントの中でも特に公務員の態度・意識改革は長期的視点に立ってのみ可能と
なる。具体的には人事評価記録制度の改善や公正な研修機会分配制度、そしてそれらとリンクさせた昇進・
昇給制度の確立支援を視野に入れなければならない。

4. 地方政府のキャパシティ・ディベロップメント
地方政府の行政能力向上のために最も重要な要素の1つは、リソースである。リソースとはこの場合、財源と
人的資源の2つを指している。地方政府の行政能力を向上させるためには、財源の確保だけでは当然不十分
である。地方政府の行政機構としての能力は、政策を実施する地方官僚の質的・量的効率性にかかっている
からである。彼らは分担された責任を果たすだけの十分な技術・知識・管理能力を有している必要がある。そ
してそれらの能力を発揮できるだけの、適度な裁量の自由が保障されていれば、地方分権化は政府全体の
効率性を改善し、透明性の拡大に貢献することになる。

5. 中央政府の役割とキャパシティ・ディベロップメント
地方分権化が地方政府の行政システムの効率性を高め、市民組織の参加を促し、公共サービスへのアク
セス機会の拡大に貢献するためには、いかなる役割を中央政府が担う必要があるのだろうか。まず第1に、中
央政府は社会の異なるアクターがそれぞれいかなる利害関係を有して、どのように地方分権化の実施プロセ
スに関わってくるのかをしっかり把握しておかなければならない。
同じく中央政府の重要な責任として、地方分権化による負の効果のうち、特に地域間格差拡大の可能性に
十分留意し、この問題に対処できるような政策装置を分権化過程に伴って確立する必要がある。
地方分権化は自動的に政府内部の透明性・効率性・行為責任明確性を高めるわけではない。それらは分
権化というプロセスを利用しながら、特別な努力をもって実現され得る便益である。とくに公務員の一般的な勤
務態度・専門性は中央政府・地方政府の区別なく改善される必要がある。公務員のインセンティブを高めるよ
うな組織改革を実施し、分権化の目指す目的が国家や地方の公務員全体に、十分に把握されるよう留意して
おくことは分権化の成否を決定づける要素となる。
以上のように、中央政府の果たす役割の重要性という視点に立つと、地方分権化支援は地方政府の能力
向上は言うまでもなく、中央政府内部の行政能力の向上なしに語ることはできない。
7

- まとめ -
キャパシティ・ディベロップメントは、「研修や訓練」のみにとどまらず、研修によって磨かれた人材が持続的
に、また効率的に働けるような組織機構・法機構・人事機構そのものの改革を伴う包括的な支援、またはそ
れを可能にする他開発パートナーとの連携協力が必要である。
日本のマ国教育セクターの地方分権化支援として有効なものとして検討する中で、これまで開発調査で行
ってきた地方政府・教育行政への実質、『間接的な直接財政支援』を効果的に活用していくことが望まれ
る。
今後の NIPDEP 後継支援においては、公務員の態度や意識改革を含む公共部門の管理・運営能力向上
プログラムと抱き合わせで実施されなければならない。具体的には人事評価記録制度の改善や公正な研
修機会分配制度、そしてそれらとリンクさせた昇進・昇給制度の確立支援を視野に入れなければならない。
地方分権化を推進するためには地方行政の強化ばかりに重点を置くべきではなく、中央の情報収集、処理
能力及び調整能力を強化する支援もあわせて検討しなければならない。

IV. NIPDEP 後継案件の方向性と案件形成アプローチ


1. 後継案件を検討する上での留意点
具体的な検討を行う前に、案件形成プロセスを取り巻くマ国教育セクターの環境、留意点を以下に整理する3。
これまでの開発調査の知見、経験をどのようにパイロット県以外の他地域、また更には全国展開への
技術的財政的支援をマ国側は期待している。
SWAP の枠組み構築の中で、「プロジェクト」の弱点であるにパイロット地域でしかその有効性を示せ
ないことに批判的な他開発パートナーからも理解を得られる案件形成を留意しなければならない。
1)初等教育、2)就学全教育、3)オープン・クラスについての地方分権化ガイドライン案が作成され、
来年度から、県や政府系中高等学校が予算のコスト・センターとなることが予定されるなど、右政策が
ゆるやかながらも、進んでいることから、地方教育行政の実施能力面でギャップのある分野を積極的
に支援することが必要である。
教育省人的資源開発局(JICA の技術・財政支援)が実施している、「Training Needs Assessment」
(本年 3 月報告書予定)の調査結果からは、各州・県教育事務所によってキャパシティ・ディベロップメ
ントの分野には違いがあり、今後はそのニーズに即した効果的な案件形成が必要である。

2. コンポーネント、対象地域別支援形態
1) 支援形態の類型
案件形成のスコープを検討する際に重要な3要素は「誰に対して」、「何を」、「どこで」行うのか、という
ことである。「誰に対して」を行うかは、「何をするか」によっても変わってくるので、ここではまず、「何を」
「どこで」について検討する。
次ページの図は、縦軸に対象地域(広域、地域重点、限定地域)、横軸にコンポーネント(ハード、ソ
フト、混合)に、各組み合わせによるシナリオを示している。対象地域は、軸の上方へ行くほど対象地域
が広くなり、コンポーネントは、軸の右方にソフト面支援、左方にハード面支援をとり、左右どちらかにぶ
れることで、ソフトとハードの支援割合が変化することを示している。ここで、「広域」とは、県レベルの支
援をほぼ全国の教育行政 33 県、「限定地域」とは、2~3 県を、そして「州/地域重点」とは、全国 6 州

3 これまでの開発パートナーとの協議や NIPDEP の Steering Committee 等で表明されてきた内容。


8

の教育事務所をフォーカルポイントとして、そこを中心に基本的にはカスケード方式で全県を対象とした
協力することを指す。以上から、9 つの組み合わせを考えることができる。

(1)地域 (2)コンポーネント
シナリオ
広域 限定 重点地域 ソフト ハード 混合
1 ● ● 広域ソフト重視支援
2 ● ● 限定地域型ソフト重視支援
3 ● ● 広域型ハード重視支援
4 ● ● 限定地域型ハード重視支援
5 ● ● 広域型混合支援
6 ● ● 州/地域重点型混合支援
7 ● ● 限定地域型混合支援
8 ● ● 州/地域重点型ソフト重視支援
9 ● ● 州/地域重点型ハード重視支援

対象地域
広域(全国/全県)

シナリオ 3 シナリオ5 シナリオ1


広域型 広域型 広域型
ハード重視支援 混合支援 ソフト重視支援



シナリオ9 シナリオ6 シナリオ8 ポ
州/地域重点型 州/地域重点 州/地域重点型 |
ハード重視支援 型混合支援 ソフト重視支援 ネ


ハード ソフト

シナリオ 4 シナリオ 2
シナリオ7
限定地域型 限定地域型
限定地域型
ハード重視支援 ソフト重視支援
混合支援

限定地域
9

2) 地域・コンポーネント形態の「メリット/機会」と「デメリット/リスク」

各組み合わせのメリット、デメリットは以下の表のとおり推察できる。
メリット/機会 デメリット/リスク
「プロジェクト」の欠点 - パイロット地域のみ 投入量とのバランスで、コンポーネントを絞
での効果発現」- というマ国側や他ドナー らない限り、援助効果が不明確となる恐れ
からの批判を避け、プロジェクトの知見を他 がある。
地域に広げていくことができる。 活動実施やモニタリングの際、広域を移動
広域 (例:ケニア SMASSE フェーズ2) しなければならず、その分、本来活動への
地方分権化や SWAP の流れの中でその促 費用に比して間接費部分が増加してしま
進支援に適合する。 う。
案件形成に係るマ国側、ドナー調整の際、 対象地域が広がる分、きめ細かい支援がで
理解や合意を得やすい。 きなくなる可能性がある。
地 「広域」のデメリット部分がメリットに逆転 「広域」のメリット部分がデメリットに逆転。
域 限られた投入量に見合った援助効果が期 プロジェクトに対する教育省及び他ドナー
待できる。 からの理解を得にくくなる可能性がある。
効率的なプロジェクト運営が可能になる。 全国レベルでの議論である地方分権化や
限定
頻繁なモニタリング活動等きめ細かいキャ SWAP 促進に対する直接的な支援となるの
パシティ・ディベロップメント支援活動が期 が不明確になる。
待できる。 地方分権化や SWAP の流れの中でその全
国的な促進支援となり得ない可能性がある
「広域」と「限定」のそれぞれのアプローチの折衷案。
重点 メリットの有効性が減少する分、デメリットによるマイナス面を案件形成に係る協議方法やプロジ
ェクトデザイン次第では補える。
ハード面の支援だけではカバーできない個 目に見えた効果が短期間では測定するの
人、組織、そして地域のキャパシティ・ディ が困難である。
ベロップメント支援が行える。 C/P との間で信頼関係を築いたうえで、柔
ソフト
活動を通じて個人や組織の能力向上に向 軟性と機動性が支援アプローチに求められ

けた内発的動機付けを支援することができ る。

る。

支援の実態・効果がわかりやすい。 学校関係者やコミュニティを含めた教育開

日本の比較優位を示しやすい(質の高い 発支援が行えない。

ハード 施設建設支援)。 信頼できる現地業者を確保できるか否かに

よってプロジェクトの成否がほぼ決まってし

まう。
ソフトとハードの効果的な組み合わせがデ 双方をバランスよくできるコンサルタントや
混合 ザインできれば、支援の相乗効果を期待で 専門家チームを形成できるか、人材確保の
きる。 面で困難が予想される。

以上から、
地域については、

限定型 < 広域型 < 州/重点地域型


と「州/重点地域型」すなわち全国 6 州の教育事務所をフォーカルポイントとして、そこを中心に基本的にはカス
ケード方式で全県を対象とするのが最も望ましいだろう。
また、コンポーネントについては、マ国教育セクターにおいて地域住民参加型の学校運営、教育に対する地
域のリーダーシップ向上が政策的にも奨励されていることも考慮すると、

ハード重視 < ソフト重視 < 混合型


とハードとソフトを組み合わせた「混合型」が最も望ましいといえるだろう。
10

3. NIPDEP 後継案件のコンポーネント案
1) 案件の目標
マ国において、我が国開発調査によって作成された国家県別教育開発計画(NDEP)に基づいて県別教育開発計画(DEPs)を実施するための教育行政
体制及び効率的な行政執行のための組織文化が強化される。
2) ソフト面支援コンポーネント案4
支援コンポーネント 目標とする成果 対象
☑ 各教育行政レベル・部局における業務内容、役割が明確になり、業 本省及び地方教育事務所
1 所管業務内容の明確化支援
務の効率化を促進する。
☑ 各自が TOR を認識するとともにスケジュール管理能力が向上する。 本省及び地方教育行政官
2 個別業務プロセス・マネジメント向上支援 ☑ 各自の業務執行プロセスが効率化される。
☑ 各事務所・部局でチームワーク力が向上する。
☑ 本省と地方教育事務所、同事務所内の部局間における情報共有 本省及び地方教育事務所
3 情報共有システム改善支援
のためのプロセスをレビューし、システムが改善される
☑ 能力と業務態度、実績など人事評価記録制度が整い、公正なキャ 本省人的資源開発局及び
4 人事評価記録制度改善支援
リア開発、昇進昇級がなされる。 地方教育事務所人事課
DEPs と整合性のある教育予算策定に係るプロ ☑ DEPs に基づいた地方からの教育予算計画策定が国レベルの教育 本省計画局、地方教育事務

セス構築支援 予算案と整合性が取れるような予算策定プロセスが構築される。 所計画課
☑ 予算の執行管理能力が強化され、教育予算管理のアカウンタビリ 本省財務局、計画局、方教
6 教育予算管理・アカウンタビリチィ向上支援
ティが向上する。 育事務所財務課
県別教育データ管理システム改善支援 ☑ 県別教育基礎データ(DEMIS)の収集、補正、管理能力が向上す 地方教育事務所

(USAID との連携) る。
☑ DEPs が定期的に改定され、実情に適合した地方教育開発計画が 地方教育事務所
8 DEPs 改定作業支援
策定される
☑ 円滑な DEPs 実施のために、他開発パートナーに向け、DEPs 財政 地方教育事務所及び調整
9 DEPs マ-ケティング支援
支援のためのマ-ケティング活動を支援する。 役として本省計画局
☑ DEPs 改定作業→地方議会の承認→教育省による裁可→予算手 地方教育事務所、地方議
10 DEPs 機能強化支援
当までの流れを構築し、DEPs の機能を強化する。 会、本省

4 効果的かつ効率的な教育行政を実施するための「組織文化」改善を目標としたコンポーネントのみを記した。もちろん、これまで開発調査で実施してきた教育啓蒙活動や現職

教員向けの研修など教育の質向上を目標としたコンポーネントを含むことも十分に考えられる。
11

3) ハード面支援コンポーネント案

支援コンポーネント 目標とする成果 対象
☑ 一クラスあたりの生徒数の減少による教育の質の向上 各小・中学校
1 教室建設 ☑ 住民参加型による地域住民の教育へのオーナーシップ醸成
☑ 教育行政官の建設プロジェクト・マネジメント能力の向上
☑ 教員の教育セクター定着率増加とモチベーション向上による教 各小・中学校
2 教職員住宅 育の質の改善
☑ 教育行政官の建設プロジェクト・マネジメント能力の向上
☑ 保健衛生施設の改善による子供の福祉向上 各小・中学校
3 トイレ建設 ☑ 教育行政官の建設プロジェクト・マネジメント能力の向上
☑ 学習環境改善による教育の質の向上 各小・中学校
4 教室家具配布 ☑ 教育行政官の調達管理能力の向上
☑ 学習環境改善による教育の質の向上 各小・中学校
5 学習教材配布 ☑ 教育行政官の調達管理能力の向上
☑ 教育事務所の業務執行能力の効率化 地方教育事務所
6 オフィス機材調達 ☑ 教育行政官の調達管理能力の向上
☑ 養鶏小屋建設支援などを通じた学校ベースの運営資金調達能 各小・中学校、コミュニティー
7 学校ベースの所得向上活動支援 力の向上
12

2. プロジェクト実施上予想されるリスク
以下は、プロジェクト実施上予想されるリスクである。項目によっては、案件実施自体の正当性、妥当性に関
わるものもあるが、これらをどのようにプロジェクトの内部条件としてデザインしていくかが、案件形成過程で重要
になってくるものと考える。

<マ国側教育行政体制に係る事項>
現計画局長の存在(2006 年 8 月まで契約継続):政策執行の一貫性、継続性、公平性、信頼性に疑問
計画局の調整活動のための体制が脆弱(上と関連)
教育行政組織改革に対するリーダーシップ強化の方向性が不透明
教育省全体としてモニタリング・評価(M&E)体制が未整備
頻繁な人材異動:研修を受け能力向上した人材が別の仕事を任されてしまう。

<事業実施に係る事項>
教育セクターへの予算配分優先度の低下(経済開発に直接資するセクターへの重視)
マ国側の費用負担能力(スタッフへのアローワンス、交通費、宿泊費、プロジェクトオフィスのレンタル費)。
他開発パートナーとの調整、コミットメント
現地建設業者、機材調達業者の質の問題
季節によって異なる資機材の流通状況:必要な時に必要な資機材が入手困難

以上

<参考文献>

平田慈花[2001]『アフリカの地方分権化-南アフリカ共和国の財政地方分権化と予算配分の公正に関する考
察-』(平成12年度 JICA 客員研究員報告書)JICA 国際総合研修所
JICA [2001-2005]マ国教育セクター 開発調査フェーズ1「全国スクールマッピングマイクロプランニング」及び
フェーズ2「全国地方教育開発計画策定支援(NIPDEP)」プログレスレポートなど関係資料
Davies L. & Harver C. [2003] “Educational Decentralisation in Malawi: a study process” Compare, Vol. 33, No. 2
JICA [2002] 『開発課題に関する効果的アプローチ:基礎教育』 JICA 国際総合研修所
McGinn N. & Welsh T. [1999] “Decentralization of education: why, when what and how?” IIEP UNESCO, Paris
MoE [2005] “Devolution of Primary Education to Local Assemblies: Devolution Guidelines”, Ministry of
Education, Malawi, Lilongwe

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