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長恨歌

この項目では、漢詩について記述しています。その他の用法については「長恨歌
(曖昧さ回避)」をご覧ください。

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「長恨歌」(ちょうごんか)は、中国唐の詩人、白居易によって作
られた長編の漢詩である。唐代の玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードを
歌い、平安時代以降の日本文学にも多大な影響を与えた。806年
(元和元年)、白居易が盩 県(陝西省周至県)尉であった時の
作。七言古詩(120句)。

目次  [非表示] 
1 1 あらすじ
2 2 詩の内容
3 3 史実との相違
4 4 楊貴妃の美
5 5 日本文学への影響
6 6 脚注
7 7 関連項目
あらすじ [編集]

漢の王は長年美女を求めてきたが満足しえず、ついに楊家の娘を手
に入れた。それ以来、王は彼女にのめりこんで政治を忘れたばかり
でなく、その縁者を次々と高位に取り上げる。

その有様に反乱(安史の乱)が起き、王は宮殿を逃げ出す。しかし
楊貴妃をよく思わない兵は動かず、とうとう王は兵をなだめるため
に楊貴妃殺害を許可する羽目になる。

反乱が治まると王は都に戻ったが、楊貴妃を懐かしく思い出すばか
りでうつうつとして楽しまない。道士が術を使って楊貴妃の魂を捜
し求め、苦労の末、ようやく仙界にて、今は太真と名乗る彼女を見
つけ出す。

太真は道士に、王との思い出の品とメッセージをことづける。それ
は「天にあっては比翼の鳥[1]のように」「地にあっては連理の枝[2]
のように」、かつて永遠の愛を誓い合った思い出の言葉だった。

詩の内容 [編集]

漢皇重色思傾國、御宇多年求不得 - 漢の皇帝は美女を得たいと望ん
でいた。しかし長年の治世の間に求めても得ることができなかっ
た。
楊家有女初長成、養在深閨人未識 - 楊家の娘はようやく一人前にな
るころである。深窓の令嬢として大切に育てられ、周囲には知られ
ていなかった。
天生麗質難自棄、一朝選在君王側 - 天性の美は自然と捨て置かれ
ず、ある日選ばれて王の側に上がった。
回眸一笑百媚生、六宮粉黛無顏色 - 視線をめぐらせて微笑めば百の
媚態が生まれる。これには後宮の美女の化粧顔も色あせて見えるほ
どだ。
春寒賜浴華清池、温泉水滑洗凝脂 - 春まだ寒いころ、華清池の温泉
を賜った。温泉の水は滑らかに白い肌を洗う。
侍兒扶起嬌無力、始是新承恩澤時 - 侍女が助け起こすとなよやかで
力ない。こうして晴れて皇帝の寵愛を受けたのであった。
雲鬢花顏金歩搖、芙蓉帳暖度春宵 - やわらかな髪、花のような顔、
歩みにつれて金のかんざしが揺れる。芙蓉模様のとばりは暖かく、
春の宵を過ごす。
春宵苦短日高起、從此君王不早朝 - 春の宵はあまりに短く、日が高
くなって起き出す。これより王は早朝の執政を止めてしまった。
承歡侍宴無閒暇、春從春遊夜專夜 - 王の意を受けて宴に侍って途切
れる暇もない。春には春の遊びに従い、夜は夜で王の側に一人で侍
る。
後宮佳麗三千人、三千寵愛在一身 - 後宮には三千人の美女がいた
が、三千人分の寵愛をいまや一身に受けている。
金屋妝成嬌侍夜、玉樓宴罷醉和春 - 金の御殿で化粧を凝らして、艶
めかしく夜も侍る。玉楼での宴が果てた後、春のような気分に酔
う。
姊妹弟兄皆列士、可憐光彩生門戸 - 彼女の縁戚はみな列士となり、
輝かしい栄光が一族に訪れた。
遂令天下父母心、不重生男重生女 - 遂には世間の親たちの心も、男
児の誕生より女児の誕生を喜ぶようになった。
驪宮高處入青雲、仙樂風飄處處聞 - 驪山の離宮は高所にあって雲に
隠れるほどである。天上の音楽が風に乗ってあちこちから聞こえ
る。
緩歌慢舞凝絲竹、盡日君王看不足 - のびやかな歌や踊り、笛や琴の
音も美しく、王は終日眺めて見飽きることがなかった。
漁陽鼙鼓動地來、驚破霓裳羽衣曲 - 突如、漁陽の陣太鼓が地を揺る
がして迫り、霓裳羽衣[3]の曲を楽しむ日々は砕け散った。

九重城闕煙塵生、千乘萬騎西南行 - 王宮の奥にも煙と粉塵が立ち上
る。車や騎兵の大軍は西南を目指していった。
翠華搖搖行復止、西出都門百餘里 - かわせみの羽で飾った天子の御
旗はゆらゆらと進んでは止まり、都の西門を出て百里のあたり[4]ま
で来た。
六軍不發無奈何、宛轉蛾眉馬前死 - もはや軍は進もうとせず、如何
ともしがたく、優美な眉の美女は天子の馬前で死したのであった。
花鈿委地無人收、翠翹金雀玉搔頭 - 花のかんざしは地に落ちて拾い
上げるものもなく、かわせみや金の雀、宝玉の髪飾りも同様であっ
た。
君王掩面救不得、回看血涙相和流 - 王は顔を覆うばかりで助けるこ
ともできず、振り返る目からは血の涙が流れた。
黄埃散漫風蕭索、雲棧縈紆登劍閣 - 黄色い砂塵が舞い、風がものさ
びしく吹きすさぶ。雲にかかるほどの険しい道を剣閣へと登る。
峨嵋山下少人行、旌旗無光日色薄 - 峨嵋山のふもとには道行く人も
少ない。天子の御旗も今は光なく、日の光さえ弱々しい。
蜀江水碧蜀山青、聖主朝朝暮暮情 - 蜀江の水は深緑色、蜀山は青々
としている。王は朝も夕も彼女を恋い慕って嘆いた。
行宮見月傷心色、夜雨聞鈴腸斷聲 - 仮御所の月を見れば心が痛み、
夜に雨音を聞けば断腸の思いである。
天旋日轉迴龍馭、到此躊躇不能去 - 世情が変わって天子の御車も方
向を転じて都を目指す。しかし心が引かれてこの地[5]を立ち去るこ
とができない。
馬嵬坡下泥土中、不見玉顏空死處 - 馬嵬の坂の泥の中に、もはやか
つての玉のように美しい顔は見ることができず、その跡がむなしく
残るばかり。
君臣相顧盡霑衣、東望都門信馬歸 - 君臣は互いに振り返りながら旅
の衣を涙で濡らし、東に都の門を望みながら馬に任せて帰る。
歸來池苑皆依舊、太液芙蓉未央柳 - 帰ってきてみれば池も庭もみな
元のままで、太液池の芙蓉も未央宮の柳も変わりないのである。
芙蓉如面柳如眉、對此如何不涙垂 - 芙蓉の花は彼女の顔のよう、柳
は彼女の眉のようで、これを見てどうして涙を流さずにおられよう
か。
春風桃李花開夜、秋雨梧桐葉落時 - 春風に桃李の花が夜開き、秋雨
に桐の葉が落ちる。
西宮南苑多秋草、宮葉滿階紅不掃 - 西の宮殿の南の庭には秋草が繁
り、落ちた葉がきざはしを赤く埋め尽くしても掃き清めるものもな
い。
梨園弟子白髮新、椒房阿監青娥老 - かつての梨園の弟子もすっかり
白髪が増え、椒房の女官もすっかり年をとった。
夕殿螢飛思悄然、孤燈挑盡未成眠 - 夕方の宮殿に蛍が飛ぶのを見て
も悄然として考える。ひとつ残った灯りをともしきってもまだ眠り
に就くことができない。
遲遲鐘鼓初長夜、耿耿星河欲曙天 - 時を告げる鐘鼓は遅々として夜
の長さを思い知らせる。天の川はうっすら光って空は明けようとし
ている。
鴛鴦瓦冷霜華重、翡翠衾寒誰與共 - おしどりの瓦は冷え冷えとして
霜が真っ白に積もる。かわせみの夜具は冷え切っていて共に休む人
もない。
悠悠生死別經年、魂魄不曾來入夢 - 遥か遠く生死を分けてから幾年
月、彼女の魂魄が会いに来て夢に現れることもない。

臨邛道士鴻都客、能以精誠致魂魄 - 臨邛の道士が都に旅人として訪
れており、精を込めて祈ることで魂魄を招くことができた。
為感君王輾轉思、遂敎方士殷勤覓 - 王が眠れぬ夜を重ねていること
を案じていた人々は、彼に念入りに捜し求めるようにしたのであ
る。
排空馭氣奔如電、升天入地求之徧 - 空を切って気流をとらえ雷のご
とく天駆け、天に昇り地に入ってくまなく捜し求める。
上窮碧落下黄泉、兩處茫茫皆不見 - 上は空の窮みまで、下は黄泉ま
で探したが、どちらもただ茫々として果てなく見つけることができ
ない。
忽聞海上有仙山、山在虚無縹緲閒 - そのうち海上に仙人の山がある
と聞き及ぶ。山は何もないところにぽつんと在った。
樓閣玲瓏五雲起、其中綽約多仙子 - 楼閣は玲瓏として美しく五色の
雲が起こっている。その中にたおやかな仙女がたくさんいた。
中有一人字太眞、雪膚花貌參差是 - その一人は名を太真といった。
雪のような肌、花のような容貌、どうやら彼女らしい。
金闕西廂叩玉扃、轉敎小玉報雙成 - 金の御殿の西の棟に宝玉の扉を
叩いて訪れ、小玉や双成に取次を頼んだ。
聞道漢家天子使、九華帳裏夢魂驚 - 漢の天子の使いと聞いて、幾重
もの美しいとばりの中で彼女の魂が夢から覚めた。
攬衣推枕起裴回、珠箔銀屏 迤開 - 衣装をまとい枕を押しやって起
き上がり、しばらく躊躇してから玉の や銀の屏風が次々に開かれ
た。
雲鬢半偏新睡覺、花冠不整下堂來 - 雲のような髪は少し崩れて目覚
めたばかりの様子。花の冠も整えないまま堂に降りてきた。
風吹仙袂飄 舉、猶似霓裳羽衣舞 - 風が吹いて仙女の袂はひらひら
と舞い上がり、霓裳羽衣の舞を舞っているようだった。
玉容寂寞涙闌干、梨花一枝春帶雨 - 玉のような美しい顔は寂しげ
で、涙がぽろぽろとこぼれる。梨の花が一枝、雨に濡れたような風
情である。
含情凝睇謝君王、一別音容兩渺茫 - 思いのこもった眼差しで、君王
に謝辞を述べた。あの別れ以来、声も姿も両共に遠いものとなりま
した。
昭陽殿裏恩愛 、 萊宮中日月長 - 昭陽殿での恩愛も絶え、 莱宮
の中で過ごした時間も長くなりました。
回頭下望人寰處、不見長安見塵霧 - 振り返って人間世界を見下ろし
てみても、長安は見えず、霧や塵もやが広がるばかり。
唯將舊物表深情、鈿合金釵寄將去 - 今はただ思い出の品によって私
の深情を示したいのです。螺鈿の小箱と金のかんざしを形見にお持
ちください。
釵留一股合一扇、釵擘黄金合分鈿 - かんざしの脚の片方と小箱の蓋
をこちらに残しましょう。かんざしの小金を裂き小箱は螺鈿を分か
ちましょう。
但敎心似金鈿堅、天上人閒會相見 - 金や螺鈿のように心を堅く持っ
ていれば、天上と人間界とに別れた私たちもいつかまた会えるで
しょう、と。
臨別殷勤重寄詞、詞中有誓兩心知 - 別れに際し、ていねいに重ねて
言葉を寄せた。その中に、王と彼女の二人だけにわかる誓いの言葉
があった。
七月七日長生殿、夜半無人私語時 - それは七月七日の長生殿、誰も
いない真夜中に親しく語り合った時の言葉だった。
在天願作比翼鳥、在地願爲連理枝 - 天にあっては願わくは比翼の鳥
となり、地にあっては願わくは連理の枝となりましょう、と。
天長地久有時盡、此恨綿綿無 期 - 天地は悠久といえどもいつかは
尽きることもある。でもこの悲しみは綿々と続いて絶える時はこな
いだろう。

史実との相違 [編集]
■ 詩中では玄宗と楊貴妃を直接叙述するのではなく、漢の武帝
と李夫人の物語に置き換えている。これは現王朝に遠慮しての
こととする見解がある[6]。
■ 楊貴妃はそもそもは玄宗の子の一人、寿王李瑁の妃であっ
た。『新唐書』玄宗紀によれば、玄宗は息子の妻を自分のも
のとするため、いったん彼女を女道士にして、息子との縁を
絶った後に後宮に迎えている。太真は楊貴妃の道士時代の名
である。

楊貴妃の美 [編集]
■ 「温泉水滑洗凝脂」「雪膚」 - 温泉の水がなめらかに凝脂を
洗う、と表現されるように、むっちりとした白い肌の持ち主
だった。 
■ 「雲鬢花顏」「花貌」「芙蓉如面柳如眉」 - ふんわりとした
髪の生え際、芙蓉の花のような顔だち、柳のようなほっそり
とした眉、など顔のパーツも重要であったようだ。
■ 「侍兒扶起嬌無力」「金歩搖」 - 侍女に助け起こされてもぐっ
たり、歩くに連れてかんざしがしゃらしゃらと揺れる、と
いった感じで、北宋ごろから流行しだした纏足という習慣に
も見られるように、いかにもなよなよとした頼りなげな様子
が女性らしいしぐさとして愛されたらしい。

日本文学への影響 [編集]
■ 『源氏物語』桐壺の巻 - 桐壺帝と桐壺更衣の悲恋の描写に
は、長恨歌を髣髴とさせる部分がたくさんある。当時の貴族
層の誰もが知る長恨歌のエピソードを、紫式部は上手く平安
王朝風に置き換えて、物語に取り入れた。
■ 『枕草子』 - 清少納言は「梨の花の美は中国でも絶賛されてい
た」と考えていた。おそらく長恨歌の中の「梨花一枝春帶
雨」の表現を踏まえてのことと思われる。しかし実は梨の花
の美を称えた表現は、中国の詩でも他にはあまり見られな
い。

脚注 [編集]
1. ^ 「比翼の鳥」とは、2羽の体の片方ずつがくっついて、1羽になった鳥であ
る。お互いの気を合わせないと飛ぶこともできない。
2. ^ 「連理の枝」とは、地上から生えた2本の木の枝が、1つにくっついている
様子を表す。「比翼の鳥」同様、仲のよい様子の例えに使われる。
3. ^ 玄宗が作ったといわれる曲。
4. ^ 馬嵬駅のあたり。
5. ^ 馬嵬駅のこと。
6. ^ 中国文学者の川合康三は、白居易の詩と同時に作られた陳鴻の伝奇小説
「長恨歌伝」が、冒頭で「玄宗」と直接記してあることから、この見解は明
らかな誤りであるとしている。『白楽天―官と隠のはざまで』(岩波新
書、2010年)より。

関連項目 [編集]
■ Wikisource - 長恨歌(中文版)
■ 霓裳羽衣の曲
■ 漢詩
■ 中国文学
■ 詩人一覧

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