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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画論文集 Vol.50 No.

3 2015年 10月
Journal of the City Planning Institute of Japan, Vol.50 No.3, October, 2015

日本における地方都市型ジェントリフィケーションに関する試論:石川県・金沢市での再投資と「目
的地化」の地区分析から
What is the Japanese "Gentrification" in local cities?: Analysis of Reinvestment and "Destination Culture" in
Case Study Areas of Kanazawa, Ishikawa.
内田 奈芳美 *
Naomi Uchida*

This paper discusses what the Japanese "gentrification" is in local cities in Japan. The term
"gentrification"has been debated and there are two major analysis; One is production side, and the
other is consumption side. I pick a case study city, Kanazawa, Ishikawa prefecture to investigate
what is happening in the area by using the gentrification debates as criteria. The criteria of
production side is the situation of reinvestment, and the one on the production side is the degree of
"destination culture". I choose two case study areas, and found that the size of reinvestment affected
the property value, and vise versa, and also affected the quality of place as a destination.
Keywords :Gentrification, Local cities, Destination Culture
ジェントリフィケーション、地方都市、目的地文化

1. 研究の背景と目的 ることを目的とする。
「ジェントリフィケーション」は都市部の変化を示す言 ジェントリフィケーションの背後にある原動力を分析す
葉であるが、その定義や位置づけはこれまでに論議を呼ん る論説について、大きく二つの流れがある。まず、生産サ
できた。1964 年にイギリスの社会学者であるルース・グ イド3)からの説明として、ニール・スミスの論説のよう
ラスが最初にこの言葉を用いたと言われている。彼女はジ に実際の地価と活用した場合の場所の価値の価格差を背景
ェントリフィケーションの意味を「古い住宅の復旧、賃貸 として再投資が起こり、人々ではなく「資本」の都市への
から所有という不動産権利の変化、不動産価格の上昇、中 回帰運動としてジェントリフィケーションが発生するとい
産階級の流入による労働者階級の立ち退きといった複雑な う論説がある 4)。一方で、消費サイドからの説明として、
都市のプロセスである」1) とした。これらの言葉の由来か デヴィッド・レイはニール・スミスの仮説を否定し、 「新
ら、しばらくは住民の立ち退き、居住の変化を指す言葉と しい中産階級は多様性、歴史感覚、景観のアメニティとい
して用いられてきたが、2000 年にはニール・スミスはこ ったものに起因するような場所を探して動く」5) と論じて
の言葉の意味について、 「都市中心部における資本の再投 いる。また、ジェントリフィケーションが起きた結果どう
資」であり「これまでは居住的な側面から用いられてきた なるか。居住以外の土地利用の流入の結果として、シャロ
が、今では変わってきている。ジェントリフィケーション ン・ズーキンは新しい中産階級が流入し、建物の再利用を
という言葉自体が進化している。 」としている 2)。よって、 行うジェントリフィケーションの動きがインナーシティの
本研究ではこのような言葉の使われ方の変化に基づき、 「ジ イメージを変え、消費のための場所としての「目的地文化
ェントリフィケーション」という言葉を、単に居住の高級 (destination culture)
」という新しいイメージを付け加えた
化を意味するものから範囲を拡げ、社会状況に呼応した都 と指摘している 6)。このように、ジェントリフィケーショ
市変化を記述する概念として捉える。その上で、本研究で ンという言葉を巡り、 その背景にある原動力について、
様々
は日本における地方都市型のジェントリフィケーションに な説がこれまで設定されてきた。これらの既往研究から本
着目して「ジェントリフィケーション」の定義の仮説をた 論文では、方法としての再投資と、結果としての地区への
て、その仮説をケーススタディから実態を踏まえて検証す 目的地文化の付加(以下この現象を「目的地化」と呼ぶ 7))
の両側面から設定した対象都市のケーススタディ地区の地
ジェントリフィケーションの原動力
生産サイド:
域変化を読み取ることで、ケーススタディベースでの日本
消費サイド:
地代格差を見越 場所の
した「資本」の アメニティ 言葉の定義
におけるジェントリフィケーションの実態を明らかにす
回帰 連動
Neil Smith Devid Ley 居住の高級化 Ruth Glass る。本論では日本の中でも特に地方都市型のジェントリフ
定義の拡大
Neil Smith
居住以外の土地利用
ィケーションを対象とする。 その理由は以下の通りである。
方法:再投資 結果:目的地文化の付加
Sharon Zukin 第一に日本の地方都市における新たな中心部回帰の動きで
プロセス
ある。これは既往研究 (6) でも今後の日本におけるジェン
図 - 1 「ジェントリフィケーション」 に関する議論
トリフィケーション研究の視点として挙げられていたが、
* 正会員 埼玉大学 人文社会科学研究科 (Saitama University)

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特にコンパクトシティ形成支援 8)によって中心部への回 活発な動きを示している。両側面の動きという観点から、


帰と再投資が今後より促進される可能性がある。第二に、 金沢市を研究対象都市とした。
地方都市の目的地化を分析対象とする背景として、観光立
国に向けた地方への誘客 9)という動きがある。このことは、 2.仮説としての「日本における地方都市型ジェントリフ
地方都市の「目的地化」を促進する動きであると言える。 ィケーション」の定義と評価軸
第三に、 特になぜ地方都市が対象なのかという点に関して、 既往研究から、ジェントリフィケーションの方法として
既往研究では日本におけるジェントリフィケーションに関 の「再投資」という視点、結果としての「目的地化」とい
する研究は大都市部に限られているということがある (6) う視点を持って試論を進める。ジェントリフィケーション
(7)
。一方で諸外国における研究は、ロンドンや NY が多い(2) の結果として「目的地化」に着目するのは、人口減少下に
ながらもフィラデルフィアなど衰退都市(8)と言われると ある日本の地方都市では地域活性化を考える際に定着人口
ころでの局所的現象の研究も行われているため、日本でも だけでなく、交流人口を意識していく必要があるためであ
大都市部のみならず地方都市においても分析概念として有 る。そのことから、居住の高級化ではなく人々が訪れ消費
効ではないかと捉え、本研究では日本ではまだ先行研究が する場となる「目的地化」に着目した。よって本論では日
無い地方都市を対象とした。また、日本におけるジェント 本における地方都市型のジェントリフィケーションとは
リフィケーションの諸外国との相違点として考えられる特 「既存の建物に再投資が起こり、再投資の主体が多様なか
徴は以下の点である。第一に、都市中心部への再投資の判 たちで流入することで『目的地化』すること」であると仮
断基準のあり方である。中心市街地への再投資の判断とし 説を立てた 12)。以下「再投資」と「目的地化」という評
て「地価断層」10)に着目するべきであるとの主張がある。 価軸を用いてケーススタディ地区の分析を行い、仮説を検
日本は社会的階層による分断が比較的小さいことから (10)、 証した上で最後に再定義を示す。
再投資に適する場所の判断を主に「地価断層」のような客
観的・金銭的指標に重点をおいて行うことがより可能であ 3.ケーススタディ地区の位置づけ
り、本研究でも再投資に関しては専ら実態に着目して分析 評価軸は再投資の実態と「目的地化」の実態である。個
を行う。第二の相違点として、日本は木造建築物が多いこ 別の動きを明らかにするため、ケーススタディ地区を二地
とから、特別な価値を持つものでない限り再投資が起きに 区設定した。条件としては、第一に実際に既存の建物に再
くいという点がある (7)。この指摘から、既存の建物に再 投資が起きていること 13)。第二に、 「目的地化」を分析す
投資する価値がある地方都市として、町屋が残る石川県金 るため、最新のガイドブック 14)で観光客が行くべき目的
沢市を試論のための研究対象とした。これは、町屋活用と 地として紹介されていること、第三にニール・スミスの論
いう消費サイドの論理による再投資を促す原動力となる。 を参照し、ジェントリフィケーションが起きやすい場所と
また、金沢市は新幹線が2015年3月に開通し、ホテル して中心の都心軸とは距離があり、再開発事業が行われて
資本の流入などから 「駅前商業地の地価上昇率が全国1位」 いないことを条件とし、これらの条件から二地区を選択し
11)
となった。これは、生産サイドの論理による再投資の た 15)。
(図 -2) 既往研究では、地区単位の分析としては、
サイズの大小はあれどネイバーフッドなどの行政区域がジ
N
0 100 500m


ェントリフィケーションの調査・記述対象地区となってい

金沢駅 る 16)。よって、本研究では行政区域の単位としての町丁
ケーススタディ地区(1) 東山1丁目
東山ひがし地区 範囲をケーススタディ対象地区とし、分析を行った。二地
都心軸 区の特徴は以下の通りである。
ケーススタディ地区(1)
東山ひがし地区
(1)東山ひがし地区(東山1丁目) :この地区は 1820 年
登記簿・ に治安保持を目的とし、茶屋街として新たに造られた 17)。
住宅地図
調査区域 その町割りと茶屋建築、文化が地区内で現在まで継承され
金沢城
ていることから、金沢市内に4箇所ある重要的伝統建造物
ケーススタディ地区(2) 群保全地区(以下「重伝建」 )の1つとなり、2001 年に重
新竪町商店街地区
伝建に指定された後は、 「ひがし茶屋街」として観光拠点
市役所 登記簿・ としての重要な位置を占めている。
21世紀美術館 住宅地図
調査区域 (2)新竪町商店街地区(新竪町3丁目) :新竪町は 1660
ケーススタディ地区(2)
新竪町商店街地区 年頃に河原だった場所を堤防で町地としたことで誕生し、
江戸期から町人の町として商店が並んでいた 18)。当時も
犀川

城下町の中心からは距離があり、現在も中心の商店街ネッ
新竪町3丁目 トワークからは外れているが、 近年町家への再投資が進み、
新たな観光エリアのひとつとして着目されている地区であ
図 - 2 ケーススタディ地区19) る。この二地区について、 評価指標を用いて分析を行った。

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4.研究方法 二地区について評価軸に従って分析を行った。
各地区について、 「再投資」 ・「目的地化」に関する評価 5−1.東山ひがし地区
を行う。各地区の評価材料は表−1の通りである。それぞ (1)評価軸による分析(図−3)
れについて、以下のように調査を行った。 a) 再投資:a)-1 地価の変遷比較:最も近い幹線道路沿
20)
A) 路線価調査 B) 登記簿調査:2014 年 10 月〜 2015 年 い(図−3地点 A・国道 359 号線)と東山ひがし地区(地
3 月にかけて登記簿データを調査した。C) 住宅地図調査 点 B 〜 D)の路線価を比較した 25)。地点Aと東山ひがし地
21) 
D) 文献調査:石川県最大の地方紙である北國新聞と全 区の路線価は、1992-1993 年にピークを迎えた。2014 年
国紙である日本経済新聞の地区に関連した過去の記事を 時の地点Aの路線価はピーク時の 0.15 倍にまで落ち込ん
調査した。E) ガイドブックの調査:各地区に関する記述 だ一方で、東山ひがし地区内のメインストリートである地
を、エリアイメージを反映する「紹介フレーズ」と用途変 点 B の路線価は、2006 年に底を打った後価格上昇を続け、
化を示す「スポット紹介」に分類し、データベース化した 指定容積率は地点 A よりも低いにも関わらず、ピーク時に
14) 
F) ヒアリング:金沢市の関係部局へのヒアリングを行 は 2.65 倍の価格差があった地点Aの路線価と 2007 年か
った 22)。G) 現地調査:データの収集に加えて現地調査を ら完全に逆転していることが分かった。
2014 年4月〜 2015 年2月にかけて行い各データとのすり a)-2 土地の売買と用途変化:登記簿・住宅地図調査に
あわせを行った。 ついては、路線価が最も上昇している東山ひがし地区のメ
インストリート沿いの街区において行った。 (図−2)その
表 - 1 評価指標 結果の分析として、次の四点が挙げられる。
評価軸 指標と評価材料 (1) 売買の波:売買の波として、2001 年以降3度の山
a) 再投資 a)-1 地価の変遷比較 がある。一つは、重伝建指定後の 2002 年である。次に、
A) 路線価調査
a)-2 土地の売買と用途変化 2007 〜 2008 年、そして新幹線開通直前の 2012 〜 2014
B) 登記簿調査
C) 住宅地図調査 年である。これらの動きと連動するように、地点 B の路線
D) 文献調査 (新聞記事等) 価は 2007 年から少しづつ上昇を続けている。
G) 現地調査
a)-3 売買を伴わない用途変化 (2) 用途変化:2013 〜 2014 に売買されたものはデータ上
a)-2 と同様
住宅の用途のままとなっているが、それ以前は売買を伴う
b)-1 エリアイメージの変化 場合、 住宅のまま保たれることは少ない。パターンとして、
b) 目的地化 E) ガイドブックの変遷調査
b)-2 紹介スポットの変化 一度空き家になった後、数年後住宅以外の用途になるとい
E) ガイドブックの変遷調査 う事例が3軒ある。また、茶屋であったところは売買され
表1は「評価指標」を示す。まず「a) 再投資」について、 た場合、全て物販・飲食店等に転用されている。
以下のように三つの指標を設定した。 (3) 県外資本の流入:2007 年以降県外の土地収得者がみ
a)-1 地価の変遷比較:A) 路線価のデータを用いて場所 られる。
の需要を示す指標の一つである路線価の変遷を分析する。 (4) 敷地規模 26) の大きさ:100 平米以上の敷地規模のも
a)-2 土地の売買と用途変化: 「再投資」としての売買を のも売買の対象となっている。
伴う用途変化について、B) 登記簿調査により土地の売買 a)-3 売買を伴わない用途変化:住宅・茶屋から物販な
の実態を把握し、C) 住宅地図調査によって用途変化を明 どへの用途変化は主に重伝建が指定された 2001 年以降に
らかにする。C) で用途変化が明確でない場合、D) の文献 行われている。
調査・E) 現地調査によってデータを補完する 23)。 b)「目的地化」 :b)-1 エリアイメージの変化:エリアイ
a)-3 売買を伴わない用途変化:テナントとしての入居 メージについては「ひがし茶屋街」の紹介フレーズを抽出
など、a)-2 より小規模の再投資の実態として、a)-2 と同 した。変化は三段階に分類される。
様のデータ分析を行う 24)。 ・第一段階「 『目的地化』以前」 :まず 1968 年の時点では
次に「b) 目的地化」について二つの指標を設定した。 目的地として取り上げられていない。1970 年代になり、 「旧
b)-1 エリアイメージの変化:E) の調査を用いて、各ケ 東の廓」として登場するが、その中では近年になって女性
ーススタディ地区が取り上げられたページで用いられてい も行く場所となったとの表現がある。 (図 - 3)
た紹介フレーズを、地区のイメージを表すものとして変化 ・第二段階「情緒というイメージ形成」 :「花街」というイ
を分析する。 メージのもと、1987 年の段階では「格の高さ」という言
b)-2 紹介スポットの変化:E) の調査を用いてケースス 葉があるが、情緒を感じられる場所としてのイメージ形成
タディ地区内に含まれるガイドブックで取り上げられてい が始まった。
たスポットの紹介数、及びスポットを明らかにし、変遷に ・第三段階「ハード面の観光基盤によるイメージ形成」 :
ついて分析を行う。 2000 年代に入り古い建物への再投資が紹介され始めた。
現在は「乙女」や「フォトジェニック」という言葉が多用
5.地区のケーススタディ されている。また、 「情緒」 イメージの魅力と共に 「町家」
「茶

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屋建築」などハード面の魅力が強調されており、既存の建 では現在も残る茶屋公開施設のみが紹介されていた。第三
物への再投資によるハード面の変化の蓄積がイメージの形 段階では爆発的にスポット紹介の数が増加する。特に増え
成に影響していることが分かる。 たのはバー・工芸店(5軒)菓子店・体験施設(4軒)で
b)-2: 紹介スポットの変化:紹介スポットの抽出は「ひ ある。これらがエリアイメージを形成する要因となってお
がし茶屋街」内とした。紹介スポットの変化はエリアイメ り、新しい「歴史的」イメージを形成しつつあることが分
ージの変化と双方向性を持つ。エリアイメージの第二段階 かる。
600
路線価調査
a)-1

( 千円 ) 2001
最高値 重要伝統的
地価の変遷変化

500

凡例
建造物群保全
A 2014 年時点
A:530,000/ ㎡ (1992,1993) B
A 400 地区指定 C A:81,000/ ㎡
D B:205,000/ ㎡ (1992)
C B 300 C:200,000/ ㎡ (1992,1993)
(国指定) D B:130,000/ ㎡
C:100,000/ ㎡
200 D:68,000/ ㎡
1980
100
路線価比較位置図 0 指定容積率 400% 指定容積率 300%
1940~ 1950~ 1960 年代 1970 年代 1980 年代 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
1985 敷地面積:52 ㎡
1966 99 ㎡
1988 193 ㎡

ギャラリー
飲食店
1953 131 ㎡

1945 104 ㎡
a)-2

茶屋 物販
土地の売買と用途の変化

1968 76 ㎡
空き家 飲食店
1956 190 ㎡
茶屋 物販
1981 89 ㎡
物販 飲食店
1949 104 ㎡
茶屋 ギャラリー
1957 70 ㎡
1954 飲食
1964 1969 1984 111 ㎡ 店・
物販 茶屋
1977 購入
52 ㎡ 事業所
1968 66 ㎡
サービス業・住宅 物販
1949 52 ㎡ 凡例:
所有者の変更
1982 99 ㎡  売買(個人)
空き家 展示施設     (法人)
222 ㎡
茶屋  県外の収得者
1944 38 ㎡ 物販
1977 47 ㎡ 喫茶・  相続(個人)
物販  贈与
1989 41 ㎡ ※所有者変更前後の用途、及び  その他
1976 1983 111 ㎡ 空き家 飲食店 用途変更が確認されたものを記述。
空き家 用途変更の実態は住宅地図、 用途
分筆 もしくは文献調査によって  住宅
65 ㎡
2㎡ 確認された時点を示す。  住宅以外
1988 空き地 17 ㎡
飲食店 199 ㎡ ※空き家の場合は 空き家
1987
駐車場 65 ㎡
用途変化

1972 78 ㎡
a)-3

茶屋 物販
売買を伴わない

1978 52 ㎡
喫茶 茶屋 住宅・物販
1961 85 ㎡
1978 64 ㎡ 喫茶
物販
94 ㎡ 1962
事業所 空き家 物販

「目的地化」以前 情緒というイメージ形成 ハード面の観光基盤によるイメージ形成


b)-1
エリアイメージの変化

※( ) 内の 1968: 1979:「旧東 1987:「花街 1990:「三味 2002:「紅殻格 最新ガイドブック:2012~2014


アルファベット 言及無し の郭あたり の艶やかさ や太鼓の音 子の料亭が並 ・「連なる格子戸が素敵 乙女心をくすぐる街」p.16「カメラ
とページ数は (K) で下町の情 が漂う。 」 がどこから ぶ粋人が訪れ 片手に行きたい♪フォトジェニックなひがし茶屋街」p.68(F)
注釈 14)の 緒を味わう」「京都の祇 ともなく流 る町」 「また、 ・「浅野川をはさんで風流が似合う紅柄格子の粋な町」
ガイドブックに (L)p.153 園を思わせ れ古き良き 古い建物の造 (D)p.87
対応 「今では男性 る格の高さ 金沢情緒を りを喫茶店や ・「格子戸の艶やかな町並みにうっとり」p.42「茶屋街の風情
が通うだけ だ。 」 たっぷり見 食事処に生か
でなく、旅 (M)p.52 せるまち」 を感じてフォトジェニック散歩」p.46(C)
している店も ・「江戸時代の面影を残し情緒たっぷり」 (E)p.11
の女性もこ (N)p.112 増えていて」
の美しい町 ・「和情緒あふれる町並みをのんびりおさんぽ」(J)p.24
(P)p.66 ・「紅殻格子に芸妓さん。歴史ある古都の風情を楽しんで。」
並みをもと
「艶やかな雰 (A)p.15
めて回る町
となった」 囲気をそのま ・「独特の茶屋建築が立ち並ぶ整然と美しい町並みが魅力」
(L)p.204 まに残す界 (I)p.58
隈」(O)p.60 ・
「花街の文化を知る」 「格子戸が並び雅な気分に浸る」p.66「町
家でほっこり」p.68(G)
・「乙女ゴコロをくすぐる和の魅力満載」(H)p.32

1968 1979 1987 1990 2002 最新 2012~2014( 紹介数 :48 平均 20/ 冊 )


( 紹介数 :0) ( 紹介数 :1) ( 紹介数 :1) ( 紹介数 :5) ( 紹介数 :12
b)-2

平均 7.5/ 冊 )
紹介スポットの変化

茶屋公開 茶屋公開 茶屋公開施設 A


茶屋公開施設 A 茶屋公開施設 A 茶屋公開施設 C 雑貨店 A 定食屋
施設 A 施設 A 洋食店
洋食店 洋食店 工芸店 A 雑貨店 B 割烹
喫茶店 懐石
茶屋公開施設 B 茶屋公開施設 B 工芸店 B 雑貨店 C
茶屋 金箔店 A そば屋
茶房 A 茶房 A 工芸店 C
宿 金箔店 B 鉄板焼き
ギャラリー・喫茶 ギャラリー・喫茶 工芸店 D
バー A 工芸店 E カフェ A フレンチ店
バー A
紅茶店 体験施設 A カフェ B ビストロ
紅茶店 カフェ・器
アンティーク店 体験施設 B あぶらとり紙
バー B バー B 体験施設 C 麩店 A 金工店
料亭 A バー C 体験施設 D 麩店 B 漆器店
菓子店 B 料亭 B
銀箔 バー D
菓子店 C 甘味 B
菓子店 A バー E 茶房 B
菓子店 D
甘味 A

図 - 3 東山ひがし地区

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(2)小結 続けて 2014 年時点は 1980 年当時の路線価よりも低い最


以上から、まず「再投資」の視点として、売買の波と県 低値になっている。その中でも、B と C の路線価の評価は
外資本の流入とともに、路線価が再上昇した実態が明らか 逆転しており、B 地点は最も下落率が低い。
となった。次に「目的地化」として、ソフトとしてのイメ a)-2 土地の売買と用途変化:登記簿調査・住宅地図調
ージ形成からハード面でのスポット増加によるイメージの 査については、修繕活用されている建物が最も集中してい
形成へと移行し、その結果、本来の場所の歴史からは異な る中心部の3街区について行った。 (図−2)東山ひがし地
るかたちで、例えば「女性向けの場所」など、地区イメー 区と比較すると、土地の売買数は限定される。調査結果の
ジが再解読されてきたことが分かった。新たなイメージ形 分析として、次の点が挙げられる。
成に寄与したハード整備は、主に「お茶屋」 「町屋」であ (1) ファッション関連業の集約:売買された後の変化とし
ったというストーリーを活用した用途変更によるものであ てファッション関連の用途への変換が進んだ。
り、既存の建物への再投資がイメージの形成と連動してい (2) 物販の継続:物販としての用途を継続するパターンが
ると言える。 多い。一軒のみの事象だが、テナントとして物販用途でオ
5−2.新竪町商店街 ープンした後、10年後に物件を収得している例もある。
(1)評価軸による分析(図−4) a)-3 売買を伴わない用途変化:この地区は所有権の動
a) 再投資:a)-1 地価の変遷比較:路線価の最高値はど きが少なく、戦後すぐに収得後は相続によってのみ所有権
の地点も 1992 年であり、Aが最も高い 27)。その後下落を 移転が行われている例が多い。近年の用途変化は売買を伴
600
A ( 千円 ) 1980 路線価調査
a)-1

凡例
500 A
地価の変遷変化

B
400 C
B 最高値 最低値 (2014)
300 A:550,000/ ㎡ (1992) A:79,000/ ㎡
B:480,000/ ㎡ (1992,1993) B:76,000/ ㎡
200
C C:540,000/ ㎡ (1992) C:73,000/ ㎡
100
路線価比較位置図 0
1940~ 1950~ 1960 年代 1970 年代 1980 年代 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
用途の変化

1946 1962
a)-2

物販 製作・
土地の売買と

1945 物販 34 ㎡ 敷地面積:50 ㎡ 購入
サービス業 物販 物販 飲食店
住宅 住宅 住宅
1954 73 ㎡
物販 事業所 物販 1989 82 ㎡
物販 ギャラリー 物販

1945 64 ㎡
物販 1987 駐車場
53 ㎡
物販 物販 物販
1979 59 ㎡
サービス業 物販
a)-3

1968 97 ㎡
売買を伴わない用途変化

物販 サービス業 物販
1975 1986 凡例:
用途
ガレージ ガレージ 住宅 139 ㎡ 駐車場 所有者の変更
 住宅
住宅 物販 物販 物販  売買(個人)
 住宅以外
物販 136 ㎡ 1982 物販     (法人)
住宅  県外の収得者
1957 65 ㎡ 1976  ファッション関連
 相続(個人)
飲食店  贈与 空き家
住宅  その他 住宅
1957 65 ㎡ 1976
サービス業 物販 物販
1969
※所有者変更前後の用途、及び用途変更が確認されたもの
物販 57 ㎡ 駐車場 を記述。用途変更の実態は住宅地図、もしくは文献調査に
1966 1968
85 ㎡ よって確認された時点を示す。
1945・1946 物販 物販
物販 50 ㎡ 物販

「目的地化」以前 店舗種別の特性の強調と『地元』」感
b)-1

1968: 1979: 1987: 1990: 2002:「骨董品 最新ガイドブック:2012~2014


エリアイメージの変化

言及無し 言及無し (L) 言及無し 「レトロ感 やこだわりの ・


「どこか昭和の香りも漂う」 「別名は『骨董通り』 」p.45(I)
(K) (M) 覚」(N)p.67 店など新旧が ・
「雑貨屋や骨董品など個性的なショップが並ぶ」p.60「新竪町
混じった生活 は骨董ストリート」p.61(A)
の町」(P)p.54 ・
「センスが光るお店がズラリ」 「レトロな通りにかわいいお店
「落ち着いた がいっぱいです」 「おしゃれな地元っこが集う商店街に町家を
佇まいの新竪 利用した個性的なお店が増えています。 」p.76(C)
町は、古美術 ・
「骨董屋と、若者向けのブティックが多い」 「石畳風の歩道で
からアン 歩きやすい」 (D)p.73
ティーク、古 ・
「こだわりがある店主たちが営む雑貨屋やアンティークショッ
※( ) 内の 着など穴場的 プなどが金沢で初めて集まった場所。レトロな町の雰囲気も味
アルファベットとページ数は注釈 14)のガイドブックに な店が並ぶ商 わおう。」(F)p.24
対応 店街」 ・
「おしゃれ雑貨があつまる新竪町がいい感じ」(H)p.78
(O)p.54 ・
「ひと際ハイセンスなショップが集まるエリア。地元おしゃれ
さんも御用達ストリートに行ってみよう」(J)p.76

1968 1979 1987 1990 2002( 紹介数 :8 最新 2012~2014( 紹介数 :14 平均 4.2 軒 / 冊 )
b)-2

( 紹介数 :0)( 紹介数 :0)( 紹介数 :0)( 紹介数 :0) 平均 5.5 軒 / 冊 )


紹介スポットの変化

アンティーク A アンティーク A 雑貨店 A 花屋


骨董 A 雑貨店 B 精肉店
骨董 B 雑貨店 C 八百屋
骨董 C 服飾店 A カフェ
骨董 D 服飾店 B
喫茶 着物店
物販 A アクセサリー
飲食店 A 飲食店 A 家具

図 - 4 新竪町商店街地区

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画論文集 Vol.50 No.3 2015年 10月
Journal of the City Planning Institute of Japan, Vol.50 No.3, October, 2015

う動きと同様にファッション関連の用途への変化が多い。 立てた。石川県金沢市の2地区をケーススタディとして、
また、東山ひがし地区と比べて全体的に敷地規模 26) は小 再投資と「目的地化」という視点から評価軸に従って分析
さく、その中でも特に 100 平米を超えるものは、活用は を行った。東山ひがし地区では、再投資による路線価の上
されているが売買はされていない。このようなことから、 昇と「目的地化」が連動しており、新竪町商店街地区では
東山ひがし地区よりも投資規模は小さいことが分かる。 路線価、所有者の変化の少なさ自体が「目的地化」を支え
全体として、路線価がピークの 1/3 となった 2001 年ご て、小規模な再投資が進んでいた。
ろから再投資が進んだことが分かる。ただし、この地区で これらのケーススタディからは、次のようなことが言え
の再投資は物件購入は少なく、テナント入居が主である。 る。第一に、再投資の流入は地価を上昇させた一方、逆に
これに関しては購入しても地価の上昇が期待されない中 地価の下落は再投資を誘発したということである。この場
で、県外資本の流入も無く、小規模な資本の流入が地価の 合、再投資の主体は全く異なる種別のものである。前者は
下落を好機として進んだのではないかと考えられる。 外部資本や土地収得を伴うなど比較的大規模な主体であ
b)「目的地化」:b)-1 エリアイメージの変化:エリアイ り、後者は土地取得を伴わない場合も多い小規模な主体で
メージについては、 「新竪町商店街」を紹介するページに あるが、どちらもジェントリフィケーションを引き起こす
おける記述を抽出した。イメージの変化として、二段階に 主体である。第二に「目的地化」について、再投資の大小
分類される。 と連動して地区イメージが形成されていた。地価の上昇に
・第一段階「 『目的地化』以前」 :新竪町商店街が目的地と つながる土地収得を伴う再投資は、強力な「目的地化」を
して取り上げられたのは 1990 年のガイドブックであり、 引き起こし、目的地となるべく歴史の再解釈ももたらして
それ以前はまったく着目されていなかった。 いた。一方、地価が上がらないことで小規模な主体による
・第二段階「店舗種別の特性の強調と『地元』 」感」 :再投 再投資機会を与えるような地区では、
「目的地化」の質も
「地
資が起き始めた後の 2002 年のガイドブックからは、急激 元」感の強調など、独特の発展を示していた。
に目的地として注目された。ここでは「レトロ」 「旧」と これらの分析から、日本における地方都市型のジェント
いう言葉による歴史的雰囲気の残存に対する強調の言葉が リフィケーションとして、「既存の建物に再投資が起こり、
多用される。また、骨董・雑貨といった店舗が扱う商品に 地価のレベルと連動した動きを持つ再投資の規模の大小
対する紹介が具体的にされており、東山ひがし地区とは異 が『目的地化』の質を規定すること」であると再定義する。
なる店舗種別の個性が強調されている。さらに、特筆すべ もっとも、日本における地方都市型のジェントリフィケー
きは「地元」の人が行く場所であるということの記述であ ションにはもちろんバリエーションがあり、今回のケース
り、 「地元」感が魅力を持つという価値を示している。 スタディ地区だけでは十分でないと考える。今回の試論は、
b)-2 紹介スポットの変化:スポットは「新竪町商店街」 方法としての「再投資」と結果としての「目的地化」とい
内のものを抽出した。2002 年のガイドブック以降複数が う評価軸をジェントリフィケーションの定義に必要なもの
紹介されるようになり、2002 年には骨董店、最新版では であると提示し、その評価方法を示したものである。今後
雑貨店の紹介が数多く行われるようになった。そして他地 は他地区での同様な分析を通して、現代都市の変容を示す
域と異なるのは八百屋や精肉店も取り上げられているとこ ジェントリフィケーションの日本での実態をより鮮明にし
ろである。これらのスポットは「地元」感の演出であり、 ていく必要がある。
そういったスポットが「目的地化」する現象を示している。
謝辞 本論文における調査において竹橋悠さん(当時金沢工業大
(2)小結
学環境・建築学部大学院2年)の協力がありました。ここに記し
以上から、この地区では「再投資」としての売買数は少
て感謝します。また、本研究成果は科学技術研究費(若手 B) に
ないが、テナントを育て個性的な店の集約を生んでいる。 よるものです。
その背景にあるのは東山ひがし地区とは異なり地価の下落
注釈
である。一方、 「目的地化」については「地元」感がある
1)文献 (1)p.5 から引用、翻訳。
消費の場という価値の転換を示しており、それを支えるの 2)2000 年のディクショナリーオブヒューマンジオグラフィにお
は古くから続く、所有者変化の少ない物販であった。この けるニール・スミスによる定義。文献 (1)p.9 から引用、翻訳。
地区は所有者変化が少なく、路線価の上昇を伴わないが、 3)文献 (2) で編者はジェントリフィケーションの論説の分類とし
その事実自体がエリアイメージ変化に見られる独特の「目 て「Production side」と「Consumption side」という章立てをしており、
的地化」を支えている。 これを参照した。
4)文献(3)p.120 参照。
5)文献 (4) No.2137(kindle 版)p.64 から引用、翻訳。
6.まとめ「日本における地方都市型ジェントリフィケー
6) 文献 (5) 日本語訳本 p.311 参照。この中で著者の Zukin 氏は、
ション」とは何か 「目的地文化」は脱工業化社会で消費社会における「新しいはじ
本研究では日本における地方都市型ジェントリフィケー まり」のモデルであると評している。(p.328)
ションとは「既存の建物に再投資が起こり、再投資の主体 7)「目的地文化」は文献 (5) から、人々を惹きつける経験・消費
が流入することで『目的地化』すること」であると仮説を の場となるべく生じる現象であり、その結果として「destination

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画論文集 Vol.50 No.3 2015年 10月
Journal of the City Planning Institute of Japan, Vol.50 No.3, October, 2015

=目的地」になるための現象である。これらの意味を踏まえて、 Urban Studies(2001)) 参照


本文内では「目的地文化」の付加が進むことを「目的地化」と略す。 17)金沢市・歴史建造物整備課発行「金沢市の伝統的建造物群保
8) 国 土 交 通 省「 コ ン パ ク ト シ テ ィ 形 成 支 援 」http://www.mlit. 全地区〜茶屋街〜」(2012) 参照
go.jp/toshi/toshi_machi_tk_000054.html(2015/8/4 閲覧 ) 参照 18)参考文献 (11)p.23-24 参照
9)観光立国推進閣僚会議「観光立国実現に向けたアクション・ 19)金沢市提供地図使用
プログラム 2014 -「訪日外国人 2000 万人時代」に向けて-」(http:// 20)路線価については 2006 年以降は国税庁の提供データ、2005
www.mlit.go.jp/common/001046636.pdf) 参照 (2015/8/3 入手 ) 参照 年以前(1980 年、1990 年〜 2005 年)は石川県立図書館所蔵の金
10)参考文献 (9) p.39 参照。「地価断層」とは周辺に比べて急に路 沢国税局発行「相続税財産評価基準書 ( 石川県 )」を用いた。最
線価が低くなっているところを意味し、リノベーションなどの再 も古いデータは 1980 年のものである。
投資に適する場所の見つけ方であるとしている。 21)1956 年、1968 年、1971 年、1980 年、1985 年、1991 年、1995 年、
11)日本経済新聞「緩和マネー、都市に集中 公示地価、商業地 2001 年、2005 年、2014 年の日本地図編集社、刊広社、及びゼン
下げ止まり 円安で外資にも勢い」(2015/3/19 朝刊)から引用 リン社発行の住宅地図を調査した。1956 年は日本地図編集社発行
12)この場合、都市再開発事業は除く。ニール・スミスの論では の「金沢市住宅明細地図」であり、入手可能な住宅地図の中で最
「研究を、
(既存のストックの改修を含む)ジェントリフィケーショ 古のものである。(石川県立図書館所蔵)
ンと、全面的な新規建設による再開発とを厳密に区別することか 22) 金沢市文化財保護課へ 2014/6/19 にヒアリングをおこなった。
ら始めた」( 文献(3)p.69 から引用 ) としている。本研究では「再 23) 再投資の変遷を分析するため路線価調査のデータがある 1980
投資」は既存の建物への投資であるとする。 年代以降売買が行われたものについては用途変更を伴わなくても
13) 既存の建物の再投資については金沢市中心市街地の現地調査 全て記述する。「既存」建物への再投資という定義から、所有権
を行った。調査では、既存の建築の新規活用に限定し、2014 年6 移転と前後して新築・取り壊されたものについては対象としない。
月に中心市街地の踏査を行い、写真撮影の上、利用種別を整理し、 24) 相続等を経ても用途変更が起きなかったものについては記述
地図上にプロットし、地域における再投資の存在を確認した。 していない。
14)最低2年に一度は改訂されており、2012 年から 2014 年まで 25)現在の指定では、地点 A のみが指定容積率 400% の商業地域、
に最新版として発行されたガイドブックを用いた。「目的地化」 地点 B 〜 D は指定容積率 300% の商業地域である。参考文献 (12)
の定義から、経験・商品の両面を消費する場を表すものとして、 によると 1996 年の用途地域見直しの際に、保存のために「中高
ガイドブックが適切な資料であるためである。使用したガイド 層化防止の対策を講じた」(p.62) 結果であり、それ以前は地点 B
ブックは以下の通りである。 〜 D も同様に指定容積率は 400% であった。
最新ガイドブック 26) 敷地規模は図 - 3,図 - 4内に示す。この数字は登記簿上の
(A) 「ことりっぷ金沢北陸」 旺文社 (2012/3) 2版 数字であり、小数点以下は四捨五入してある。
(B) 「新版乙女の金沢」 マーブルブックス (2012/3/15)
27)Aのみが商業地域(指定容積率 400%) であり、B・C は近隣
(C) 「ココミル 金沢北陸」 JTB パブリッシング (2012/4/1)
(D) 「てくてき歩き金沢 ・ 能登 ・ 北陸」 実業之日本社 (2012/7/11) 第7版
商業地域(指定容積率 300%) である。
(E) 「タビハナ金沢能登北陸」 JTB パブリッシング (2013/8/1) 改訂4版 参考文献
(F) 「トラベラッコ!金沢」 JTB パブリッシング (2013/10/1) (1)Loretta Lees, Tom Slater, Elvin Wyly「Gentrification」
(G) 「たびまる金沢 ・ 能登 ・ 北陸」 旺文社 (2014/1) 3 版 Routledge(2007)
(H) 「まっぷる 金沢 能登 ・ 加賀温泉郷」 旺文社 (2014/3/17)
(2)Loretta Lees, Tom Slater, Elvin Wyly「The Gentrification Reader」
(I) 「楽楽 金沢 ・ 能登 ・ 北陸」 JTB パブリッシング (2014/4/1)
(J) 「るるぶ金沢能登北陸」 JTB パブリッシング (2014/4/1) Routledge(2010)
過去のガイドブック (3)Neil Smith「The New Urban Frontier: Gentrification and the
(K) 「ブルーガイドブックス 能登半島 ・ 金沢 ・ 北陸」 1968 Revanchist City」Routledge(1996)(日本語訳「ジェントリフィケー
実業之日本社
ションと報復都市」原口剛訳(ミネルヴァ書房)(2014))
(L) 「ブルーガイドブックス 131 能登 ・ 金沢 ・ 北陸」 1979
実業之日本社 (4)Japonica Brown-Saracino「The Gentrification Debates」
(M) 「ブルーガイドブックス 能登 ・ 金沢 ・ 北陸」 1987 Routledge(2010)
実業之日本社
(N) 「U ガイド25 金沢」 旺文社 1990 (5)Sharon Zukin「Naked City」Oxford University Press(2010)(日本
(O) 「シティマニュアル 2002 金沢 加賀 能登」 2001 語訳「都市はなぜ魂を失ったか」内田奈芳美、真野洋介訳(講談社)
京阪神エルマガジン社
(2013))
(P) 「パーフェクトガイド金沢 ・ 能登 2001 年版」 2000
旅行読売出版社 (6)藤塚吉浩「ジェントリフィケーション」人文地理46巻5号
15) 最新ガイドブックでエリアとして紹介されている数が最も多 pp.496-514(1994)
「主計町」である ( 登場 9 回)が、紹介ペー
いのが「ひがし茶屋街」 (7)藤塚吉浩「京都市西陣地区におけるジェントリフィケーショ
ジ数の比較から、より取り上げられているページ数の多いひがし ンの兆候」人文地理 44 巻 4 号 pp.495-506(1992)
茶屋街=東山ひがし地区を最も「目的地化」が進む場所としてま (8)Brent D.Ryan「Design After Decline」University of Pennsylvania
ず研究対象に選定した。また、その次に登場回数の多い「にし茶 Press(2012)
屋街」はひがし茶屋街と地区特性が類似していること、「長町武 (9) 清水義次「リノベーションまちづくり」学芸出版社 (2014)
家屋敷地区」は都心軸に近接していることから、ひがし茶屋街と (10)Fielding, A. "Social class segregation in Japanese cities: the case of
比較するためにも地域背景が異なり、また都心軸に近接していな Kyoto." Transactions of the Institute of British Geographers 29(1) pp.64-
いという条件から新竪町商店街(登場 6 回)をもう一つの研究対 84.(2004)
象地区として選定した。 (11) 金沢市新竪町商店街編「新竪町商店街」北國新聞社 (1994)
16)参考文献 (5) 及び参考文献 (2)p.397-410(Tim Butler and Garry (12) 木谷弘司「地方中心都市における土地利用コントロールに関
Robson「Social Capital, Gentrification and Neighbourhood Change in する研究」金沢大学学位論文 (2000)
London: A Comparison of Three South London Neighbourhoods」from

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