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「食文化」の商品化の構築のために

Discussions on Commodification of Food Culture


池 田 和 子
Kazuko Ikeda

摘 要
本稿では,
「食文化」の商品化を概念として構築するための,近接分野にみられる商品化概念について検討する。
先行研究としては,観光人類学などにみられる「文化」の商品化に関するものと,おもに農村研究から提起され
た「農村空間」の商品化に関するものを対象とする。これらの先行研究において共通しているのは,商品化はま
なざしの転換を示す視点である。
「食文化」の商品化への応用に関する主な問題点としては,真正性やロカリティ
はより多様化する可能性があり,商品化から再生産への言及は少ないということである。以上をふまえ,
「食文化」
の商品化は,概念としては非商品から商品への移行と,背景としてのまなざしの変化を示すが,そのモビリティ
の高さ,変容可能性の高さから,それに関する議論に再生産や循環のプロセスを盛り込む必要がある。本稿では,
「食文化」が経済活動と文化事象を循環するモデルを想定し,そのなかで文化事象から経済活動に移る切替部分
を「食文化」の商品化と考える。

I.はじめに 利用の地理的範囲が定着し,その場所に根づいてい
く場合がある。また,食品が商品化されることで,
昨今,各地で地域の資源として認識され,活性化 当該商品の流通範囲が変化するだけでなく,その商
の源として期待されている食文化だが,その食は, 品を用いた食の行動が,ある地理的範囲で行われる
いつ,何の契機によって,どのようにして,その場 独特の行動である,と広く認識される可能性もある。
所と結びつけられ,その場所の食文化として認めら 本稿では,食品が売買の対象とは考えられておらず,
れるようになったのだろうか。食品は,加工品,材 食文化の一部として存在する状態と,市場に流通す
料,農産物に関わらず,多くの場合価格の設定され る商品である状態とを行き来する状況を想定し,食
た商品である。池田(2010)は,愛媛県伊予市の削 文化から商品へと切り替わる点を,
「食文化」の商
り節製造を事例とし,産業地域形成に果たす「場所」 品化と捉える。
の役割について考察した。そのなかで,カツオ節利 「食文化」の商品化の研究の学問的価値はなんで
用の文化が日本の食文化と認識されるに至る過程 あろうか。地域文化が経済活動によって変容してい
において,削り節の商品化がひとつの重要な役割を く可能性と,逆にあくまで経済的な目的によって開
担っていることを明らかにした。つまり,当初は特 発され商品が,地域文化の一部となる可能性をもっ
定の地域に限定されていたカツオ節の利用が,削り ていることは,漠然とは理解されている。だが,そ
節の商品化を経て日本全国に広まったのである。こ うした問題意識は学問的領域においてこれまで充
れは,食文化の地理的範囲の変化が,使用する食品 分に検討されてきたとはいい難い。
の商品化を契機として生じていることを意味する。 一方で,観光や地域ブランドなど,現実の経済活
具体的には,削り節が商品化し,その流通範囲が拡 動においては,地域文化の積極的な活用は,ますま
大することなどによって,カツオ節の出汁を取ると す盛んになっている。そうしたなかで地域の文化が,
いう調理行動が広まった,ということである。この 外部の者にも開放されることによって変容するこ
ように,流通範囲の拡大などを通して,食品を利用 とに懸念を抱く者も少なくない。
「食文化」の商品
する地理的範囲に変更が加えられ,変更された食品 化は,これまでの研究の欠落を補う意味でも,領域
横断的な研究としても,現実社会への理解を深める

首都大学東京大学院都市環境科学研究科博士後期課程 意味でも,意義あるものと考えている。つまり,
「食
〒192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1 (9号館)

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文化」の商品化を概念として検討していくことによ したがって,本稿では食文化を「食を地理的範囲と
り,経済と生活文化の接合部分に焦点をあて,研究 結びつけて,その価値を見出し,活用する際に根拠
領域を結びつけ,地域文化活用の実際に貢献しうる となる,または創出され,再生産される物語」と規
だろう。 定する。
本稿では,まず「食文化」の商品化について,仮 「食文化」の商品化における商品とは,価格が付
説を提示したうえで,商品化を概念に含む,近接分 されて市場に流通する事物を指すが,商品化の議論
野の先行研究についてレビューし,そのうちとくに においては,必ずしも新たに売買の対象になるもの
真正性とロカリティについて検討する。先行研究を であるとは限らない。例えば,既に商品として流通
「食文化」の商品化に応用する際の課題を抽出し, している商品に地域の食習慣や由来などの情報を
まとめとして,得られた知見を「食文化」の商品化 改めて付し,それを前面に出すような宣伝活動も,
にいかに取り入れるべきであるか,概念の再検討を 「食文化」の商品化の例として想定する。つまり,
行う。 「食文化」の商品化では,実際に市場に出るモノで
ある商品と,情報である「食文化」の双方を考察す
Ⅱ.
「食文化」の商品化の定義 る必要がある,ということになるだろう。以上を踏
まえ,ここではひとまず「食文化」の商品化を「場
「食文化」の商品化を定義するにあたり,まず「食 所と結びついた食の情報・物語が文化的事象から経
文化」を規定しなければならない。日本の食文化研 済活動に移行する切替点」と定義する。
究は,主に文化人類学や歴史学,家政系の研究者が
リードしてきた。これらの分野における「食文化」 Ⅲ.2 つの商品化
の定義は「いまだに食文化の概念,日本料理の定義
といった基本的な語彙が整理されていない現状」 概念としての「食文化」の商品化を正面から扱っ
(熊倉 2005)で,明確な定義はみられない。石毛 た議論は,管見の限りみられない。しかし,食文化
(2005)は食文化には「原料の生産に始まり,調理, と関わりがある,商品化の議論を 2 つ挙げることが
栄養,生理など食に関するあらゆる事が含まれ」
, できる。1 つは主に観光人類学で議論される「文化」
「食習慣や嗜好もやはり文化の問題」であるとし, の商品化,もう 1 つは農村地理学などを中心とする
それを広義の食文化としている。そのなかで中核を 「農村空間」の商品化である。地域の食文化は,観
なす「食物加工と食行動をめぐる文化」を狭義の食 光の大きな魅力の 1 つであるし(Cohen and Avieli
事文化と称している。 2004)
,地域の農産物やその生産の場などは,宿泊,
ここから想起される広義の食文化の範囲は,非常 体験,観光などさまざまに活用されている。観光は,
に広い。しかし「食文化」の商品化の研究では,食 「食文化」の商品化において,結びつきの強い場面
文化の範囲を,経済活動に活用されるモノとしての の 1 つといえるのではないだろうか。なお,これら
食品と,その経済活動の際に与えられる,食と場所 の商品化は,表 1 のように分類できるだろう。ここ
の結び付きに関する情報に限定したい。この情報が, ではスミス(1991)にならい,観光客をゲスト,観
私たちが一般に地域の食文化と呼ぶものであり,こ 光客を遇する側をホストと呼称する。
れによって商品の稀少性が高まり,商品と場所の結
び付きが正当化され,そのような食文化は,ある地
域が特定の作物やその加工品を開発し販売するた
めの根拠となるのである。食文化となる情報の内容
には,原料生産,加工調理方法,それをいつどのよ
うに食べるかといった食習慣,嗜好などが含まれる。
その際に重要な点として,明示の有無に関わらず,
食文化は領域をともなって示されることを挙げた
い。ある地方の食習慣を紹介すると同時に,当該の
食品を販売することは,商品に地理的なものを含む
情報,または物語を添えているといってよいだろう。

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表 1 商品化論の分類 味を奪ってしまうと強く非難する。彼は,観光の促
概念 視点 目的 文献名 進が「富の不平等配分と,その結果として生じる社
ホスト 文化の意味 安藤(2001) 会階層の分化」によるとし,経済的弱者に置かれた
「文化」
考察 川森(2001) ホストが,観光によってその文化までも破壊される

ゲスト 観光の意味 森本(1998) 状況をあぶりだした。
商品化
考察 一方,マッキーン(1991)はバリの事例から,ホ
ホスト 経済的振興 井口・田林 ストの人々が,観光によって生じる文化変容になす
「農村 (2011) 術もないのではなく,選択的に行っていることを明
空間」 小原(2010) らかにした。彼らは「地元経済を破壊しないで,そ
の ホスト 非経済的な 小金澤(2007) れを国際経済とリンクさせ」
,「保存と経済的必要性
商品化 地域振興を の双方が,近代化のための資金を得るために,彼ら
ゲスト 含む の彫り手,楽士,及び踊り子としての技能を保つこ
とをバリ島の人々に促している」のである。

3.1 「文化」の商品化 これらの主張にみられるのは「観光のインパクト

観光の文脈では,訪問先である地域の文化が,価 によって文化が商品化される際に生じる文化の意

格のともなった商品として,ゲストの消費の対象と (大橋 2001)である。文化の意味


味をめぐる問題」

なる。このような状況を観光人類学では,
「文化」 とは,その文化の持ち主ともいうべき,商品化され

の商品化として捉えられている。つまり,
「文化が た文化の提供者の視点における意味である。川森

観光の資源として利用され,さまざまな文化要素に (2001)は岩手県遠野の語りべホールの事例を通じて,

価格が付けられ,観光商品として観光客の消費の対 用意された観光の場が,ホストの肯定的な自己認識

(大橋 2001)現象をさす。この背景には,
象となる」 の機会となると同時に,ホストの日常生活を外部の

観光産業の成長により,地域文化へのまなざしと, 支配的な力から守る防波堤として機能することを

それにともなう地域文化の変容がある。地域文化へ 明らかにした。語りべホールは,柳田国男『遠野物

のまなざしの変容とは,例えば葛野(1996)にみら 語』のイメージを活用した観光施設であり,そこで

れる,フィンランドのトナカイ遊牧民が北欧の聖ニ は昔話の公演が行われる。だが昔話の演者は,観光

クラウス信仰と結びつき,サンタクロース民族とし 用のホールで柳田国男の話に依拠した昔話をする

てみなされる,といった状況である。地域文化の変 よう,単に押し付けられているのではない。公演の

容とは,後述するグリーンウッド(1991)の事例の 場は,演者自身の記憶と結びついた語りをすること

ように,地域の祝祭が「バスク人としての歴史的ア による自己の表現の場となり,また日常では既に使

イデンティティを意思表示する」儀礼から,観光の われなくなった方言を呼び起こし,活用する機会に

目玉商品のひとつになり,住民が参加しなくなった もなっているのである。

という,意味の変容がある。また,観光用のショー 一方,ゲストにとっての「文化」の商品化はどの

において,ダンスの演出に手を加えるような,可視 ようなものであろうか。ホストからみた「文化」の

的な変容も含まれる。ここでは,観光客を受け入れ 商品化とは異なり,対象となる文化は,必ずしも価

る地元であるホストと,観光客であるゲストにとっ 格をともなうものではないことが指摘できるだろ

ての商品化に大別できる。 う。アーリ(1995)は,
「ツーリズムは記号の収集

まずホストからみた「文化」の商品化は,その理 をともなう」としている。場所とは,彼のいう「観

解が二極化しているといわれている。観光によって 光のまなざし」を向ける対象で,人々はあらかじめ

地域文化が形骸化しその意味を失ってしまう,とい 場所に対し,映画や新聞,テレビなどさまざまな非

う悲観論と,必ずしもそうはならず,観光活動が「伝 観光的実践を通して,普段とはまったく異なる楽し

統を保存し,改革し,そして再創造する過程を強化 みへの期待をつくりあげる。つまりこれらの非観光

(マッキーン 1991)という見解である。
する」 的実践は,人々に記号を提供する。そして人々が実

グリーンウッド(1991)は,スペインの伝統儀式 際の観光で見たものは,そのようにして前もって与

を事例に,文化の商品化が,人々からその本当の意 えられた記号によって解釈されるのである(アーリ
1995)

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森本(1998)は,文化が商品化される状況を,次 を多様化させたことが挙げられる。立川(2005)が
のように表し,旅の空間全てが商品となっているこ 述べるように,これからの農村研究は,農村再生を
とを示唆する。 目指して,これまで注目されてこなかった,
「農村
を消費・受容する農村外部の人々の視点」に注目し,
「商品化された文化」とは,
(中略)ツーリストの鑑 「農村を消費する側の論理を明らかに」することが
賞の対象となる大自然や芸能をも内包し,更にツーリ 求められている。立川(2005)はまた,このような
ストの視線を意識しながら経済的,文化的,社会的活 農業生産以外の観点から農村空間を評価する状況
動をする人々の言動や外観等にも拡大される。これら を,まなざしの概念を用いて明らかにしようとして
の人々の言動や外観等は,必ずしも金銭が直接介在す いる。その問題関心は,農村研究から出発しており,
るとは限らないが,ツーリストに「展示」されたもの 農村における地域活性化の事例と結びついている
(森本 1998)
として消費されている。 ことから,自ずとその視点も観光人類学でいうとこ
ろのホストの側に集中する。
また,訪問先であるホストも,ゲストが抱いてい 「農村空間」の商品化の対象は,食にとどまらず,
るイメージを損なわないような景観の工夫を行い, 農村的なものや農村にあるもの全てが含まれるが,
それは,ゲストのイメージと「部分的に重なり合う 本稿では農産物や加工品など,食品に関連のある範
(森本 1998)
かたちで形成されている」 。つまり,観 囲に限定する。ここに含まれる先行研究は,商品と
光客が形成する場所のイメージを,ホストの方でも しての食や食文化の活用方法において二分できる。
利用し,そのようにして生じた実際の景観は,その それは,
「農村空間」の商品化によって経済的な地
場所らしさをさらに盛り上げていくことになる。 域振興を目指すものと,それも含みながら,非経済
後述するように,ホスト,ゲスト双方において, 的な要素を含んだ地域振興を目指すものである。
この問題意識は真正性の議論に結びつく。ホストの 経済的な地域振興に重きを置く「農村空間」の商
視点からは,文化変容をどのように理解し,評価す 品化は,おもに食の質や安心・安全といったキーワ
るのか,ゲストの視点では,ゲストが観光で求めて ードで語られる。地域ブランドや商品連鎖の地理学
いるのはどのような本物なのか,その真正性の多様 も,ここに含まれる。これは,立川(2005)の方法
性に関わる議論である。 論的分類のうち,
(アクター)ネットワーク論的ア
プローチを取り入れた研究ともいえる。これは
3.2 「農村空間」の商品化 Callon などのアクターネットワーク論の影響を受け
「農村空間」について Woods(2005)は「観光, た,いわば農産物が取り持つネットワークに着目し
投資や農村の物品販売,商品への農村イメージ利用 た研究などである。農産物などの,生産者の顔が見
などを通じ,農村が「売って」
「買う」商品となる えること,地域に根ざしていることが,商品の価値
こと」
,立川(2005)は,
「農村空間のもつ様々な要 となり,それによって地域経済を活性化させること
素(景観,イベント,土地,伝統,社会関係等)が, が期待されている。井口・田林(2011)の静岡市の
消費の対象として,時に既存の文脈と切り離されて 石垣イチゴ地域の事例からは,素朴さも質のひとつ
市場的評価の対象となること」と定義している。こ とみなすことができるだろう。各農家はイチゴ加工
れらの共通点は,従来の農村機能である農業生産に, 品,雑貨類を手づくりし,農家の素朴さ,農村らし
レクリエーションや農業民宿など諸活動の場とし さをアピールしている。実際の食品としての新鮮さ
ての評価が追加されていること,またその空間や諸 や安全性に加え,農村の素朴なイメージを商品に反
活動が売買の対象となっていることである。あくま 映させているのである。
で生産の場であった農村空間は,見るべきもの,遊 非経済的な地域振興をも視野に入れた「農村空
ぶ場所としては何もないと思われていたが,そのこ 間」の商品化は,農村住民の意識高揚や,伝統の継
とが都市にはないものとして,価値を与えられ,開 承をその意図に含む。食育や農村住民の生きがい,
発されてきたのである。 といったキーワードが挙げられるだろう。これらは,
「農村空間」の商品化の背景としては,農村にお 地域主義に結びつくものといえる。ただし,地域主
ける経済的困難と,農村機能への生産者,消費者双 義という用語から一般的に喚起されるような,政治
方の視点が,従前の農業生産一辺倒だった農村空間 性の強いものではない。小金澤(2007)は,食文化

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の安易な地域振興への利用に懸念を示しており, 張する様子と,その意味を考察している。安藤も同
「地域の食文化・食育の価値を地域住民が評価して, 様に,真偽の二項対立に対し,その限界を主張する。
自らが需要者としてそれらを支え,その価値をきち 日本では,真正性の真偽を問う議論は下火といえ
んと評価できる消費者に提供できる体制作りが必 る。
「「真偽」を問うこと自体「時代遅れ」とみなさ
要」と主張する。安易な商品化や認定制度は,もっ れ,あるいは「真偽」の枠を越えてポストモダン観
ぱら市場での商品差別化の道具,価格維持のための 光における文化の混淆性を計る手段と扱われる傾
手段としてのみ機能しかねないと主張する。 (中村 2009)
向が強い」 。この背景には,橋本(2007)
も指摘するように,真正性についての研究がその
Ⅳ.真正性とロカリティ 「捏造」を暴く行為である,とホストの人々に警戒
されてしまう,という実状があると考えられる。た
以下では,
「食文化」の商品化を考察するうえで だし,ここには観光文化を肯定的に評価するものと
重要な 2 つの点について検討したい。真正性とロカ して歓迎される一方で,真正性そのものを不問に付
リティである。先述したとおり,
「食文化」の商品 するものとなり,その背景にある真偽の階層構造と
化においては,明示の有無に関わらず,
「食文化」 いう,暗黙の前提についての内省的な議論までも縮
は場所と食品の組み合わせで示される。それが他の 小することになるおそれがある(中村 2009)

類似した商品との差別化にむすびついているため, 「農村空間」の商品化では,真正性は過去のある
商品化の過程では,開発主体による当該「食文化」 時点の姿に求められ,それを根拠に商品化が進めら
の特徴づけが行われるであろう。そのなかで真正性 れているといえる。
「農村空間」の商品化の過程で
は,ある場所がある商品を売るに値する,という正 は,その商品価値としてルーラリティ(農村らしさ)
当性の根拠に結びつき,ロカリティは場所の情報で が社会的・文化的に構築される。それを正当と価値
もあり,商品の稀少性に関わる。またロカリティで づけるための真正性が必要となるが,その根拠とし
は場所のイメージが商品のイメージにも大きな影 ては,集合的記憶としての歴史が参照される(松井
響を与えるであろう。商品としての食品の真正性と 2011)
。そもそも「農村空間」の商品化の要因のひ
ロカリティは,
「食文化」の商品化には不可欠な要 とつとして,松井(2011)は「農村が都市との相対
素なのである。これらと「食文化」の商品化の実際 的比較において有意な,イデオロギー的美徳の宝庫
の関わりを検討することにより,開発主体がいかな であること」を挙げる。都市にはない,自然環境や
る論理と過程で商品となる「食文化」を形成し,食 伝統的な価値観が維持されている場所として,農村
-場所の関係を構築するのかを明らかにできるだ 空間が商品価値を見出されているのである。ここに
ろう。 は,まず農村空間が,都市との二項対立のもと,時
真正性は,観光人類学の重要なテーマである。観 間的に遅れたものとして認識されているという,暗
光の場でホストやゲストによって追求される本物 黙の前提がある。そのうえで農村には,過去の,懐
らしさを,観光人類学では真正性(本物性,オーセ かしい,都市が失った古きよきもの,と消費者の認
ンティシティ)と呼ぶ(安藤 2001)
。この議論を出 める要素が残されていることが期待されているの
発点に,観光人類学の他のさまざまな概念が提示さ である。そのため,真正性の根拠は,過去に求めら
れてもいる。真正性に関する議論の紹介は,中村 れることになる。
(2009)や安藤(2001)に詳しい。真正性に関して しかし,その参照されるべき過去も,実際は誰に
は,ホストとゲストそれぞれの視点に立った議論が とっても同じものではなく,商品化する主体の論理
展開されている。ゲストに関しては,旅行者が旅に によってさまざまである。農村も「単に過去が保存
求めるのは,真正性の追求か否か,という問いに集 され,映し出される場なのではなく,現在の文脈の
約されるだろう。そこを起点として,現在では,真 中で「過去」が創出され,その内容が争われる社会
偽という二項対立そのものを疑問視する主張が目 (米家 2005)である。つまり,参照され
的構築物」
立つ。橋本(2007)は,観光客が求めるのは「らし るべき場所の歴史も,単一ではなく,主体それぞれ
さ」であると述べている。ホストについては,例え の行う表象の実践なのだと主張する。
ば,安藤(2001)は東北の民俗芸能を事例として, 結果として,ルーラリティは消費者,農村の双方
異なる立場の担い手それぞれが,自らの真正性を主 によって消費を意識した構築,循環,再生産がなさ

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れ,
「農村に付与された一般的なイメージは,正の 同様の意味合いを持つ概念である。これらそれぞれ
(松井 2011)
記号として積極的に利用され」 ,そのう の検討は非常に重要であるが,ここでは広く先行研
えで他の農村との差異化を図るべく,個々のロカリ 究を求める目的から,ロカリティとしておく。ロカ
ティを追求することになるのである。 リティは,先に述べたいずれの商品化においても,
以上,2 つの商品化における真正性に関する議論 真正性のような明示された議論はみられない。しか
をみてきたが,本稿における論点は 2 点あると考え し,
「文化」の商品化では,文化は必然的に領域を
られる。1 つは何をもって真正とするのか,ホスト, ともなうものでもあり,その場所に根づいているこ
ゲスト双方の解釈の多様性であり,いま 1 つは,多 とは当然のこととみなされているのではないだろ
様性の結果として,誰にとっての真正性なのか,と うか。葛野(1996)の事例にみられるように,サミ
いう点である。 人以外の民族の者が「ラップ人」を演じることを問
安藤(2001)にみられるように,
「文化」の商品 題視するように,ロカリティはむしろ真正性の一部
化に関わる主体は多様で,それぞれに自らを本物で として論じられている。その場所との結びつきが,
あるとするための論理をもっている。ゲストも,ス すなわち真正性のひとつの根拠とみなされる。
ミス(1991)が示す観光客の類型にみられるように 「農村空間」の商品化についても,ルーラリティ
多様であり,脚色の全くなされていない,ありのま (農村性,農村らしさ)については,そこに内在す
まの姿を求める者ばかりではない。そのありのまま る都市-農村の二元論への指摘を含めた言及がな
の姿も,突き詰めていけば,過去のどの時点の姿を されているものの,農村間の競争という次元でロカ
以て本物とするのか,主体によって解釈は異なる。 リティの構築について指摘されることは少ない。商
商品化された農村空間も同様で,ホストはそれぞれ 品化過程における農村の記号化によって,農村や農
の論理で商品化を行っている。その際,農村の,真 村空間のダイナミズムや多様性が隠蔽されるとい
正とする部分は維持しつつ,その他の部分は美化や う Woods(2005)の指摘は,個々のロカリティでは
現代的な快適さなどを優先した整備が行われるこ なく一括して農村ロカリティとして論じられる傾
とがある。例えば,古民家を活用し,地元産の食材 向と表裏一体である。ここには,従来の農村研究の
を用いた郷土料理を提供するような宿泊施設であ 特徴も関わっているように思われる。
「農村研究は
っても,下水道を整備し,冷暖房を完備する,とい 社会経済的な変化の消費あるいは結果と結びつい
ったことは珍しくない。真正性は,一義的にはホス た問題を強調しすぎてきた」
(ホガート・ブラー
トにとっての真正性であるだろう。ただしそれはゲ 1998)ために,農村が一様にみなされる傾向にあり,
ストにとっても納得のいく真正性であることが前 個々のロカリティよりもルーラリティとして一括
提となる。商品に対価を支払い,消費するのはほか して考察されたのである。
ならぬゲストであるからだ。商品である以上,ゲス アーリ(1995)はロカリティが「実在的なものあ
トがそこに価値を見出すものでなければならない るいは経験的なものを,ただ単に手短に言い表した
だろう。 もの」ではないと述べ,これを多様な概念であるこ
以上を踏まえると,食文化における真正性の根拠 とを示している。ホガートとブラー(岡橋・澤監
は,その場所と結びついた生産の特徴,例えば生産 訳,1998)では,
「ロカリティは独立した因果的プロ
量,独特の生産方式,生産物の特徴の独自性といっ セスの舞台である」と定義する。これは農村ロカリ
た特徴や,その特徴が過去や現在のある事実に基づ ティの地域差が非ローカルな圧力の差異でのみ説
いていること,その場所に独特の習慣と関わりがあ 明されることに批判を加え,非ローカルな外圧に加
ることなどを挙げることができるだろう。なおかつ えローカルなプロセスとの因果的結び付きを明ら
それが客観的に示されるものであるほど,説得力は かにするものである。Cooke(1989)はロカリティ
高まる。
「食文化」の商品化では,ホスト,ゲスト を,生きられた空間であり,単に自治体の範囲とい
双方における解釈の多様性を克服し,より多くの った政治的領域ではない,文化,経済,社会生活の
人々に商品の真正性を訴えるための1 つの手段とし 領域であると述べる。ただし,
「ロカリティは空間
て,統計などの客観的な指標を用いることも有効で やコミュニティを単純に示したものではなく,社会
はないだろうか。 行為と空間における個人,集団,社会的志向の多様
ロカリティは,場所性,地域性,風土など他にも 性の集まりからなる結果としての行為の総和」であ

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るとも述べている。 魅力のひとつにもなっているのである。
高橋(1999)は「ロカリティは,異なったスケー
ルで作用するさまざまなネットワークによって構 Ⅴ.
「食文化」の商品化への応用に向けた課題
成され,アクターによる政治的・経済的・文化的資
源の利用を通してそのネットワークのなかで異な 「文化」の商品化,
「農村空間」の商品化にみら
って構築される」とする。ロカリティは大小さまざ れる共通点として,まず,概念的には非商品から商
まなスケールのなか,各主体の論理で表象,価値づ 品へのまなざしの転換,つまり,これまでは金銭の
けられ,最終的には物理的に反映される。小原 授受の対象となっていなかったものが,変化したこ
(2010)は,ルーラリティを「外部の主体の背後に とを概念としての商品化としていること,そして,
ある社会や歴史,文化などに影響されながら,農村 その結果,できあがった商品に関わる人々にとって
(田園)景観や農業,農産物など要素だけでなく, の意味も変化しているという点である。これらの先
それら要素の組み合わせによって表象されていく 行研究を「食文化」の商品化に援用する場合に想定
ものである」としている。 される問題はなんであろうか。まず,商品化の意味
まとめると,ロカリティは単なる空間や自然環境 が混在するおそれがあり,明確に区別する必要があ
ではなく,そこに歴史や社会生活といった,人間の る。ここでいう商品化の意味には 2 通りあり,1 つ
行為が関わりあう場であること,物質と表象が絡み 目は概念上の商品化で,先述のように,売買の対象
合いながら景観に反映されること,他の地域スケー ではなかったものから商品への移行である。この背
ルとの関係があり,相対化することによって認識さ 景には,商品化される対象に対する生産者と消費者
れるものであること,を指摘できる。本稿では,こ 双方の評価,視点の変化がともなう。森本(1998)
の特徴をロカリティの定義に準ずることとしたい。 や井口・田林(2011)の事例のように,売買に直接
ここにはある問題が隠れている。それは,つくら 関わりのない部分までもが,その場所らしさを高め
れた商品が担い,代弁,再生産されるロカリティの るよう工夫されていることを考慮すれば,むしろそ
存在は,軽視されているのである。Woods(2005) の評価や視点の変化こそが,商品化には重要な過程
などが,商品化以前に予め消費者のイメージが存在 といえる。つまり,概念上の商品化は,非商品から
することを示しているし,また大橋(2001)は観光 商品への移行と,その背景としてのまなざしの変化
が文化の再構築を要請する,と再生産の可能性に言 である。もう 1 つは商業的な文脈で用いられ,より
及しているが,商品化によって付加されたり明示さ 一般的な意味使用での商品化である。これは大量生
れたりしたロカリティの,再生産への言及はみられ 産や機械生産,既存の流通販売網に乗せるための諸
ない。商品としての食品に関していえば,場所の全 過程である。またコメのように,広義では商品でも,
体,一部を問わず,その場所の範囲内に独特のもの 市場経済化されていなかったものからの転換も含
であれば,ロカリティは場所全体に対し,自明であ まれるだろう。実際に行われている商品化の多くは
るとみなされているとはいえないだろうか。その商 こちらの商品化である。
品がカバー可能な地理的範囲がどこまで及んでい これらの商品化の概念の共通の問題点は,非商品
るのかについては,深く考慮されることなく,開発 から商品に変化するという,一方通行の変化のみを
主体や消費者に柔軟に受容されているのである。例 捉えている点である。商品化により,元の文化に変
えば,カップ入りの即席きつねうどんには粉末スー 化が加えられ,それが新たに文化として定着し,再
プが関東風,関西風と 2 種類あり,販売エリアも二 生産していく可能性というものは,ほとんど考慮さ
分されている。開発企業は調査の結果,風味の東西 れていない。
の分岐点を関ヶ原とし,それをもとに販売エリアを そして,開発主体と,商品化された対象との関係
都道府県レベルで分けている(日清食品 HP)
。分岐 については議論の対象となっているが,商品と地名
点を点としながら,販売エリアは線で区分されるの の示す地理的範囲の関係は,看過されているといえ
である。このような区分の仕方は,間違いとはいえ る。つまり人々と文化の関係,人々の表象の実践は
ないものの,なかには真正性に疑問を持つ消費者も 注目されるが,そこで空間や場所,例えば地名の示
いるだろう。それでも,商品は日本全国で広く受け す地理的範囲がどのように扱われ,生産,再生産さ
入れられ,風味が 2 種類あることが,むしろ商品の れていくのかへの関心は低い。文化の領域が異なれ

- 123 -
ば,当該の文化が誰のものであるのか,アイデンテ た研究がみられる。このようなアプローチによって,
ィティの所在にも関わる。 特定の場所における食の現象が変容する可能性に
さらに商品化の概念を,とくに食文化に用いる場 まで,考察の範囲を拡げることができるのではない
合の問題点として,
「食文化」の特徴について考察 だろうか。他方で,昨今の文化地理学においては,
する。ここでは,記号化と移ろいやすさの二律背反, 生活文化である食文化への注目は低く,生態人類学
という点がまず重要であろう。記号化しやすい,つ に影響を受けた,環境利用と人間の生活との関わり
まり食-場所の関係が固定化しやすい一方,変化も に力点が置かれている(久武 2000)
。食文化は,そ
生じやすい。食文化は,土産物などとして,場所の こに食品がともなわなければ成立しえない。食品の
イメージを伝える記号という側面をもつが,土産物 生産や流通からの,文化的なものへの作用を考察す
や弁当などはとくに,そのもち運び可能性というモ ることは,文化を研究対象とする際の,確からしさ,
ビリティゆえに,他の場所にイメージや情報が伝わ 客観性を高めることにつながっていくと考える。
り,別の場所で変化しながら根づく可能性も秘めて 「食文化」の商品化を検討する際には,少なくと
いる。 も物的な商品の生産,流通,消費と,表象といった
また,内容の変化やアレンジを加えることに対し, 諸側面から検討するべきである。それによって,食
人々が比較的寛容ではないだろうか。その理由につ 品の物的な側面,情報,付加価値として盛り込まれ
いては,今後充分に検討する必要があるが,商品が る「食文化」の諸相や,その根拠や結果として生じ
食品である以上,食味のよいことが重要視されるか るロカリティや真正性が,その場所といかにして結
らであろうか。食嗜好には消費者の多様性だけでな びつき,相互作用していくのか,幅広く考察をして
く,流行や時代の傾向もある。伝統的な和菓子の甘 いくことができる。
みを抑えたり,少人数で食べられるよう大きさを変
更するなども,その一例といえる。そのため,真正 Ⅵ.
「食文化」の商品化の再定義―むすびにか
性やロカリティの厳密さや,開発や購入の際に重要 えて―
視するポイントが,開発主体や消費者によって,他
の文化的事象に比べ,より多様化する可能性がある。 「文化」の商品化,
「農村空間」の商品化,2 つの
これは,観光において食べるという経験の方法が, 先行研究から明らかになったことはまず,商品化の
見ることほど安全ではない(Cohen and Avieli 2004) 語は,概念的には非商品から商品への移行と,その
という指摘とも関わりがあるのではないだろうか。 背景としてのまなざしの変化を表していることで
他には,経済活動との結びつきが特に強いことも ある。ただしそこで実際に行われているのは,祭り
挙げられる。これは商品化の意味の混用とも結びつ や舞踏をショーとして見物料を科すること,農村や
く。
「食文化」の商品化は,現実面では売買の対象 農家の雰囲気を体感するために利用料を払う,とい
ではない文化から,価格のともなう商品への過程や, ったことで,それはすなわち,何らかの商品開発を
もともと商品である食品に,これまでは価値とは考 ともなうのである。しかし,先行研究における研究
えられていなかった,文化的な付加価値や情報が加 対象は,非商品から商品へという,一方の動きのみ
味され,価格に反映される過程などが想定される。 に限定されている。商品化によって生じた新たな文
このことから,特に研究方法として,従来の研究方 化,例えば観光文化や,演出された農村空間が,そ
法である文化地理学的なアプローチに加え,経済地 の後,時間を経ていかに変化していくのだろうか。
理学的なアプローチが有効であることを主張した 本稿の結論として,
「食文化」の商品化は,
「経済
い。商品化の研究には物的,表象面双方の考察が求 活動と文化事象の循環過程の一部であり,文化を経
められている(Cloke 1993)。経済地理学では,地域 済活動に乗せるための切替え点」と規定する。食文
ブランドや食の安心・安全をキーワードとして,場 化は常に変化し,そこには経済,社会活動が深く関
所に根づいた食を対象とした研究がみられること わっている。
「食文化」の商品化は,その研究対象
は既に指摘したが,研究対象として経済活動の領域, として,商品化の状況のみに限定しない。新たに創
経済主体に限定した研究がほとんどである。わずか 出された「食文化」であっても,商品化を経て,関
に清水(2008)において,戦前期におけるキャベツ 連する商品が流通し,時間の経過にしたがって文化
生産の要因を,都市部における食生活の変化に求め 的なものとして場所に根ざしていく過程を含む,循

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環の過程として想定する(図 1)
。 人々に理解され,再生産を繰り返すのである。以上
に述べてきたように,
「食文化」の商品化の研究は,
文化としての食文化と,商品化された「食文化」を
結びつけ,連続的な考察を促すものとなる。

文化化
万人を対象 参考文献
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長期間
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