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表現  
齋 藤  祐

実用文について考える
講師

■学習のねらい■
文章の内容や形態に応じた表現上の特色に注意して読む。
文章の内容や表現上の工夫を確認し、書き手の意図を捉える。
自分の考えを深めるために話し合う。
学習のポイント
①実用文の種類や特色を理解する
②新聞記事の構成の特色や表現上の工夫を確認する
③新聞記事の内容を理解し、自分なりの意見を持つ
 理解を深めるために
インターネットの普及に伴って、ニュースに触れる機会はむしろ増えている人
も多いと思います。ただ、そのような報道記事がどのような特色を持ち、どのよ
うな構成に基づいて書かれているのかまでは意識していないのではないでしょう
か。今回は、私たちの身のまわりにあふれている「実用文」を取り上げます。
実用文の種類や特色を理解する
実用文とは、新聞記事などの報道や広報の文章、依頼の手紙、紹介の文章、会
議の記録文、
法律の条文など、
社会生活を送るうえで必要とされる文章のことです。
ここでは「契約書」を例に取り上げてその特色を見ていきます。現在、さまざ
まな公的機関が契約書の例文やひな形をインターネット上で公開しています。例
)には「著作権契約書作成
えば文化庁のホームページ( http://www.bunka.go.jp
支援システム」というサービスがあり、このサイトに必要な項目を入力すると出
演契約などの契約書の作成ができるようになっています。このひな形を使って、
春名さんの出演契約書を試作してみました。(次ページ)
契約書においては、当事者を「甲」
「 乙 」 と い う 表 記 で 示 し て い ま す。 こ れ は、
ラジオ学習メモ

契約書の中でお互いの名前が何度も出てくるので、煩雑さを避け、わかりやすく
するために略号になっているのです。次ページの契約書の例では、依頼される側・
金銭等が支払われる側が「甲」
、依頼する側・金銭等を支払う側が「乙」となっ

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ています。
さらに契約書では「第⃝条」というように、箇条書きで示されます。これも、

第 84 回
お互いが内容を誤解することのないよう明確にするという目的があります。
私たちが何気なく使っている日常の話し言葉は、当事者相互が置かれている文

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脈や関係性に依存して成り立っていますから、「あれ」や「それ」などの代名詞

 春名風花(以下「甲」という。と高校講座(以下「乙」という。)
とは、ハンバーガーの会への甲の出演とその実演の利用に関し、以

 乙は、甲に対し、乙が主催する以下のイベントに出演することを

 本契約に定めのない事態が生じた場合は、甲と乙とで誠意をもっ

 この契約を締結した証として契約書2通を作成し、甲乙記名捺印
(1)日時:平成 30 年3月3日 20 時 10 分

   第4条(実演する作品の著作権処理)
(3)イベントの名称:ハンバーガーの会
契約書

   第2条(実演の利用許諾)

の上、それぞれ1通を保持する。
依頼し、甲はこれを承諾した。

   第3条(報酬の支払い)
(4)出演の内容:演劇の上演
下のとおり契約を締結する。

て協議の上、解決にあたる。
   第5条(氏名表示)
         〜略〜

 平成 30 年2月 20 日
(2)場所:渋谷ホール
第1条(出演の依頼)

第6条(協議事項)

の多用や主語の省略、述語をぼかした言いまわしなどが頻繁に起こりますが、契
約書においては、そこに書かれた言葉が字義どおりに「約束」となるわけですか
ら、かかわっている人にとって理解と納得がいくように明文化される必要がある
のです。
このように実用文には、目的に応じた形式や表現の特色があります。大人にな
ると、住むための部屋を借りる際の賃貸契約書、携帯電話の契約書など、身近に
触れる機会が増えます。特色を知り、その働きを正しく知っておくことは自分自
身の一助となるでしょう。
新聞記事の構成の特色や表現上の工夫を確認する
今度は実際の新聞記事を例にとって、構成の特色や表現上の工夫を見ていきま
しょう。
新聞記事は、限られた文字数とスペースで伝えたい内容を正確に示さなければ
なりません。そこでさまざまな表現上の工夫が施されています。
下記は、二〇一〇

読売新聞 2010 年 11 月 16 日夕刊の記事 


年十一月十六日の読
売新聞・夕刊の記事
です。
〝「イトカワ」
の微粒子 確認〟と
ラジオ学習メモ

いう見出しがついて
います。二〇〇三年
に打ち上げられた小

国語総合
惑星探査機「はやぶ
さ」が七年ぶりに地

第 84 回
球に帰還した際のも
のです。

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新聞記事の特色と

いうと、まずは「見出し」です。インターネットの記事では、文章の要約として
一つだけついているのが一般的ですが、新聞記事の場合は、広い紙面を活用して、
一つの記事に複数の見出しがついている場合があります。数だけではなく、文字
の大きさやフォント、配置などにも工夫が見られます。
「イトカワ」の微粒子 確認〟の記事には、このほかにも三つ
今回取り上げた〝
の見出しがついています。それぞれ〝はやぶさ採取1500個〟〝太陽系誕生 謎
に迫る〟
〝日本の宇宙技術アピール〟です。
これらの言葉を眺めると、重要な情報を端的に伝えるために、固有名詞や数字
を積極的に使用しているのがわかります。見出しのつけ方が上手だと、読者は見
出しだけで記事本文の要旨を捉えることができます。
この記事の場合は見出しをつなげると次のような記事の内容であることがわか
ります。
「 イ ト カ ワ 」 の 微 粒 子 が、 探 査 機 は や ぶ さ が 採 取 し た 容 器 か ら
1500個確認された。これによって太陽系誕生の謎に迫ることができ、
日本の宇宙科学技術の高さをアピールすることができる。
いかがでしょう。見出しをつないだだけで、内容がすっと頭に入ってきますね。
報道やメディアにかかわる人々の間で「見出しが書けるようになったら一人前」
と言われるのもこのためです。
続いて、本文の最初の段落を見てみましょう。新聞記事では、本文冒頭の一文
や第一段落には、リードと呼ばれる簡潔な文や文章が置かれています。リードで
は「この記事では何がわかるのか?」ということが簡潔に整理されており、長い
本文の見取り図のような役目を果たしてくれる部分です。
リードにおいては「いつ・どこで・だれが・何を・なぜ・どのように」という
「5W1H」を基本として内容を整えてあります。このリードによって読者はい
ち早く記事の概要をつかめるようになっているのです。また、リードによって読
者の関心を引きつけるという側面もあります。インターネットにおいても、見出
しやリードのつけ方によって関心を持つ人の数が大きく変わるのは皆さんご存じ
の通りです。
もう一つ、新聞記事の構造的な特徴を挙げておきましょう。それは、新聞記事
の組み立てが「逆三角形」になっているということです。逆三角形は、上に底辺、
下に頂点が来ます。それと同じように、新聞
ラジオ学習メモ

記事においては、まず「見出し」によって大
きく結論が示され、
「リード」によってその

(要約)
概要が整理され、さらに「本文」によって出

(要点)
見出し

本文①

本文②

国語総合
来事の詳細がわかるようになっています。ま

説明
補足
リード
ず何があったのかをはっきりと示すことによ

第 84 回
って、記事をできる限り早く把握するうえで
の助けになっているのです。

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この構造は、皆さんが文章を書いたりスピ

ーチをしたりするときにも応用ができます。最も伝えたいことを初めにはっきり
と示したうえで、だんだん細やかなことを話していくと、聞き手に伝わりやすく
なります。
新聞記事の内容を理解し、自分なりの意見を持つ
書かれている内容や表現・構成上の工夫について確認できたら、今度は記事に
ついて自分はどう思うのか、どんなことに興味を持ったのかについてまとめてみ
ましょう。
自分の意見や感想をまとめるときには、自分は何を取り上げるのかということ
を事実として整理し、その点を根拠として自分の感じたこと、考えたことを具体
的に添えると書きやすいでしょう。
「何を取り上げるのか」というところからすでにあなたの主観が働いています。
これがないと、ぼんやりとした曖昧な感想しか言葉としてでてきません。ぜひ、
意識してみてください。
ここまで、新聞記事に即して、表現や構造の特色を見てきました。新聞記事に
限らず、メディアに携わる人は、一本の記事を書くためにさまざまなところに取
材し、事実を確かめた上でわかりやすくまとめています。そのような書き手の奮
闘や執筆意図をちょっとでも想像すると、あらゆる実用文も、どこかの誰か具体
的なひとの手によって形になっているということに気がつけます。
皆さんもぜひ、事実に基づいたわかりやすい文章の書き手、かつ、情報の的確
な受け取り手を目指してください。
おわりに
八十四回にわたって学習してきた『国語総合』も今回で最後です。一年間、現
代文・古文・漢文・表現それぞれの分野に取り組んできました。
国語というのは、どんな勉強をすればよいのかわかりづらい教科だとよく言わ
れます。しかし、言葉を使わなければ考えることもできず、言葉を使わなければ
自己や他者とつながることもできません。言うなれば、「私」の心も「世界」の
姿もすべて、言葉によって支えられているのです。
もちろん、たったいま国語分野で学んだことが、明日すぐに役立つということ
ラジオ学習メモ

ばかりではありません。
それでも、
自分の使う言葉に対する高い感度をもって日々
を過ごしていくうちに、以前は見過ごしていた問題の所在や、同じだと思ってい
た事象の相違に気がつけるようになります。

国語総合
国語は本当に幅広い分野を扱っています。自分の思考の武器であり、母なる言
葉である日本語を、これからも大切にしてください。

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