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自学自習システムによるモバイルラーニングの試み

名古屋学院大学 児島完二1 加藤高明2 高橋公生3


kkojima@ngu.ac.jp takaaki@ngu.ac.jp kimio@ngu.ac.jp
1. はじめに
大学への入学方法が多様化するにしたがって、大学生の学力差が拡大している。受験勉強をしたグループ
と推薦入試などで早めに受験を終了したグループに2分されているのでは、という憶測が従来よりなされて
いた。今春、入学時点で基礎学力調査を実施したところ、予想通り2つのグループに分かれていることが明
らかになった。この2極化に対応できなければ、大学教育そのものが成立しなくなる恐れがある。
1つの授業で能力が異なる2つのグループに向けた一斉指導は不可能である。さらに履修者が 100 名を超
えるような大規模講義になるほど、教員側のターゲットは曖昧になる。少人数教育や能力別クラス編成によ
って2極化の問題へ対応する試みもあるが、大教室が一般的に利用されている社会科学系では依然として教
育の難しさが存在する4。名古屋学院大学は経済学と商学の社会科学系学部を擁しており、現場の学生を直視
して、さまざまな教育問題の解決に向けて真剣に取り組んできた。

2. CCS と自学自習システム:成果と課題
名古屋学院大学では、学内の円滑な情報流通を目的として 2002 年度に CCS(キャンパス・コミュニケーシ
ョン・システム)を開発・運用している。Web の各自ポータルサイトで LMS の機能だけでなく、学内情報を
即時に入手・発信できるので、全学生・教職員にとって不可欠な情報ツールとなっている。全科目にポータ
ルが用意されており、学生一人ひとりに向けた呼び出し・連絡が可能で、その効果は児島[2]で確認されてい
る。また、携帯電話との親和性も高く、メールを利用したサービスは学生の満足度もきわめて高い5。
また、CCS はゲーム感覚で 5 択問題に取り組める自学自習システムを内包する。経済学部ではこれをカリ
「経済学基礎知識 1000 題」6として全教員で作問するなど組織的に実施し、
キュラムと連動させるとともに、
教育効果を上げている。これは、学生の2極化への対応として簡単な設問を繰り返し解くことで基礎知識を
確立しようという狙いである。加えて、学生一人ひとりの学習履歴が DB に蓄積されるので個別指導データ
として活用できるとともに、教員が用意した設問レベルの適切性も学生の正答率によって明らかになり、こ
れらが FD 活動につながっている。
これまでの成果として、全学生へのノートパソコン配布と1年次の必修科目での PC 操作実習で、CCS を
プラットフォームとした「教育の情報化」基盤ができている。この環境下で学生に必要なコンテンツを教育
現場からアップし、学生が活用しやすいような工夫(カリキュラム・情報システム)を加えた。経済学部の
基礎科目を中心に「経済学基礎知識 1000 題」が積極的に活用されているが、現在では、学内コンテンツとし
て 3000 問以上が全学生に提供されている。
課題としては、ユーザフレンドリーな操作性を実現しているが、一部の活用しないユーザへのアプローチ
である。IT スキルが十分でない、煩雑・面倒であるといった理由で拒絶した態度をとる学生や教員をどのよ

1
経済学部 准教授
2
教務課 課長
3
学術情報センター 課長
4
大教室における ICT を活用した教育効果については、児島[1]を参照。
5
携帯電話向けサービスの中でもメールによるプッシュ型サービスが重宝されている。これには連絡情報、
呼び出し情報、掲示板があり、学生ユーザ側で選択できる。休講情報や教室変更の情報は学生にとって価値
が高い情報であるため、メールアドレスを変更しても、学生はパソコン画面から自分で設定変更をする。
6
詳細については、児島ほか[3]を参照。
うに振り向けるかという大きな課題が残っている。

3. 携帯電話の活用
自学自習を最も利用させたいのは2極での下位グループの学生である。ここに属する学生の多くは、持続
性が弱かったり、時間をかけるのが苦手であったり、またパソコン操作やインターネットのアクセスが面倒
であると感じている。そこで、このような学生に向けて、アクセシビリティ向上のツールとして携帯電話に
着目した。携帯電話は、モバイルインターネット端末として学生には極めて身近なツールであるので、携帯
サービスを提供することからアクセス数の向上とともに基礎知識の確立を目指した。
2006 年中に携帯電話向け自学自習サービスの概要をまとめ、2007 年 2 月にリリースした。以下、利用画面
によって概要を説明する。

図 1. 携帯メニュー(左)とログイン画面(右)

図1は携帯用の CCS トップページで、CCS の最初


のリリース時から用意されている。メールサービス
とは異なり、プル型情報コンテンツなので学生利用
率は多くない。自学自習は学生用サービスであるこ
とから、学生用メニューからログイン7する。ログイ
ン後の学生用メニューから自学自習を選択すると、
図2左のような自学自習トップ画面が表示される。
自学自習携帯メニューのトップ画面は、3つで構
成される。まず、冒頭に【科目範囲検索】が利用で
きる。携帯サービスを開発する際に、利用者の利便
性を高めるために、自学自習コンテンツごとに検索
用コードを用意した。対面式の授業ではこのコード
を履修者に提示するだけでよい。ここでの検索結果
は図2右上の通りである。科目範囲の詳細が表示さ
れ、そこから設問を解く画面へ進むことができる。
2番目には【履修科目からの一覧】が表示されて
おり、履修科目で用意された設問へすぐにアクセス
できるようにした。すなわち、履修科目で自学自習
の範囲やブックが教員によって指定されている場合、
ここに一覧表示される。(PC のみ)という表示は、
画像などを用いた設問範囲なので携帯サイトでは利 図 2. 自学自習トップ画面 検索結果画面など

7
ユーザの煩わしさを軽減するために PC と携帯の ID、PASS は同じとしている。
用できない。
【挑戦中設問】 【新着設問】 【人気設問】 【ブック一覧】8というリンクを設定し、利用者
一番下には、
の便宜を図っている。この中で、
【挑戦中設問】の画面が図2右下に示されている。携帯電話のアクセシビリ
ティの高さを考慮して、いつでも学習を再開できるよう配慮している。
実際の設問を解く画面と採点結果画面は図3の通りである。

図 3. 出題画面と採点結果画面(左)、ランキング画面(右)

PC での自学自習と同じように問題文と選択肢が表示され、解答を送信するとその結果が直ちに返ってくる。
学生の学習意欲を減衰しないように、正解と誤答のそれぞれにフェイスマークをつけたり、あと何問で1タ
ームクリアできるなどの付帯情報を表示したりしている。また、結果とともに問題の解説へのリンク設定や
ランキングのチェックなどで、自分の学習進度を相対的に比較することが可能である。図3右にあるように
ランキング画面では、自分の順位や自分の学習状況とともにトップ 10 が確認できる。
PC を利用した自学自習との差異は、画面の大きさに制約があるので一問ずつの出題しかできないことであ
る。このように携帯サイトでは PC での機能が制限されることがあるが、基本は同じである。携帯を利用し
た学習履歴データは、PC での自学自習と同様に DB へ蓄積される。

4. 取組の評価と今後の課題
この取組では、自学自習へのアクセシビリティ向上を目的として携帯サイトでのサービスを実現した。自
学自習のモバイル化によって、通学途中や短い空き時間での学習が可能になった。これまで PC が苦手・面
倒と感じる学生の利用率は低調であったが、携帯サイトからのサービス開始でより多くの学生が満足できる
環境を整備した。教員にとっては学生の利用率のアップにつながり、学生の履修履歴や正誤率などさらに多
くの教育支援データが入手できる。この厖大な学習データは、学生の能力に適した設問へ修正するための目
安として活用される。
また、ユーザである学生の声として、以下のようなものがあった。
z パソコンがなくとも利用できるのがよい。
z テスト前に電車の中でも勉強ができる。

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ブック機能とは、教員が授業に関連する設問範囲をまとめ学生に提示する機能である。(2007 年 1 月リリース)
z テストに出題されるとき、自宅にインターネットがなく困っていたので助かる。
z 楽しい画面がよい。
今後の課題としては、まず携帯サイトの周知と活用率の向上である。2007 年 1 月からのリリースなので、
まだ十分に認知されていない。学生に向けには、コンピュータ実習の授業においての実際の活用が有効であ
ると思われる。教員に向けては FD 委員会や IT 活用講習会を通じて広報することが必要で、利用者を増やす
ための組織的な取組が重要になる。その後、ユーザによるアンケートから客観的評価を実施するとともにユ
ーザの要望に応えるようなシステム開発を目指す必要がある。あわせて、携帯サイトに学生がアクセスした
くなるような新しいサービスメニューを追加してゆくことも求められよう。今後、自学自習に加えるべきコ
ンテンツとしては、動画クリップによる解説ビデオである。数年後には普及する HSDPA 端末では、携帯電話
への動画配信が容易になる。設問の解説を文字で読むよりも、ビデオクリップを再生した方が学生にとって
は理解し易い。まず PC 用に解説用動画クリップや音声データを配信できるようにし、次世代へ向けた準備
をしなくてはならない。

5. おわりに
本稿は、多様化する学生の基礎学力を ICT の自学自習によっていかに向上させるかというひとつの試みの
紹介である。特に、2分化された下位グループをターゲットにし、学習環境へのアクセシビリティを高める
という実践例である。その教育効果については、これからデータを元に検証されなければならない。
もはや e ラーニングは実験の段階でなく、教育現場が抱える問題のソリューションとして活用できるレベ
ルに到達している。個々の研究者やグループだけで高度な機能を競い合うのは実用的でなく、学部組織・大
学組織さらには大学連携から多くの教員・学生を取り込み、教育実績を上げることが重要である。この実現
にあたり教育環境の課題として、①資金的問題、②人的資源問題、③制度的問題が障害になることが多い。
①については、TIES9などの優れた LMS がフリーで利用できるので解決される。②については1大学だけで
なく意欲を持った教職員による大学間コミュニティで解決の糸口が、③は実際の教育効果を提示し続けるこ
とにより、有効性の認知を学内外で高めることが障害を取り除く一助になろう。
本格的なユビキタス社会の到来が近づき、モバイル機器も高機能・多様化した製品が市場に出回っている。
携帯電話でのモバイルインターネットが中心であるが、無線 LAN を活用した携帯ゲーム機器が登場し、小学
生から大人までをユーザとして取り込みながら新たな市場を切り拓きつつある。名古屋学院大学では、10 年
以上にわたりノートパソコンによる情報教育を実施してきた。学生用ノート PC には携帯性とともに、コミ
ュニケータとしての役割も持たせてきた。今後は、時代の趨勢を見誤ることなく、21 世紀の「教育の情報化」
のあり方を模索し、実践し続けることがミッションである。するとハードよりもソフト、すなわち教育コン
テンツの量と質がこれまで以上に重要となると考える。

参考文献
[1] 児島完二,「大規模講義における教育支援システム活用の効果」, 『名古屋学院大学論集(社会科学篇)
』,
Vol.42, No.2, pp. 5-67, 2005
[2] 児島完二,「MI を活用した警告システムのアナウンス効果」,『経営情報学会 2005 年春季全国研究発表大
会予稿集』, pp.242-245 , 2005
[3] 児島完二,荻原隆,木船久雄,「経済学基礎知識 1000 題による学部教育の標準化と質保証」,『IT 活用教
育方法研究』
,Vol.9.No.1,pp.11-15,2006

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