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日 本 ロ ボ ッ ト学 会 誌Vol.11 No.5, pp. 649∼654, 1993

解 説

移 乗 介 助 ロボ ッ トの 現 状 と課 題

橋 野 賢*

は容 易 と思 わ れ る.
1.は じ め に 一 方 ,寝 た き り患 者 の 日常 生 活 を 介 助 す る作 業 の 中 に

21世 紀 を 目前 に し て,現 在 の 日本 は高 齢 化 人 口比 率 は,ベ ッ ドか ち の抱 き上 げ,抱 き下 ろ しな ど力 を 必要 と

の 急 激 な 増 加 に 直 面 して い る.1990年10月 現 在,65 す る作 業 が 多 く,こ れ ら の力 仕 事 の機 械 に よ る代 替 の希

歳 以 上 の 高 齢 者 が 全 人 口に 占 め る割 合 は12%で あ るが, 望 も根 強 い.こ こ では,力 を 必 要 とす る これ らの作 業 の


21世 紀 前 半 の2014年 に は実 に23%に 達 す る と予 測 さ 省 力 化 を め ざ して 開 発 され た 装 置 の 紹 介 と,例 は少 な い

れ て い る.こ の よ うに短 期 間 の うち に高 齢 人 口比 率 を 上 が ロボ ッ ト化 の 実 例 を 紹 介 す る.

げ た 国 は 歴 史上 か って な く,今 の うち に有 効 な 手 を 打 た
2.移 乗機器の現状
な け れば 日本 は 自壊 の道 を歩 む も の と危 惧 され て い る.
この よ うな 高齢 化 率 の増 加 の ほか に,社 会 環 境 の質 的 な 寝 た き り患 者 の 日常 生 活 に は 入浴,排 泄,摂 食,更 衣,1

変化 も深 刻 な 問題 を提 起 して い る.す なわ ち,核 家 族 化 静 養 な どが 含 まれ るが,介 助 者 が 負担 と感 じる作 業 は入


の増 長,働 く婦 人 の増 加,レ ジ ャー時 間 の増 加 であ り, 浴 と排 泄 で あ る と言わ れ て い る.入 浴 介 助 で は ベ ッ ドか
これ らの傾 向 は 今後 とも続 くも の と思 わ れ る.ま た,寝 らの 抱 き上 げ,移 送,入 浴 補 助 作 業,ベ ッ ドへ の抱 き下

た き り状 態 は病 気 の進 行 を進 め,生 き る気 力 を そ ぐた め, ろ しな ど力 を 必要 とす る作 業 が介 助 者 の負 担 とな って い

日中 は で き るだ け床 を離 れ る こ とが 求 め られ て お り,今 る.ト イ レで排 泄 を行 う場 合 は,入 浴 介 助 と同 じ くらい

以上 の 介助 の質 の 向上 が 期 待 され て い る.し か し,介 助 力 を 必 要 とす る が,そ の上 一 日数 回 とい う頻 度 が 介 助 者


の現 場 を見 てみ る と,寝 た ぎ り高 齢 者 の介 助 は 配 偶 者 が の 負担 とな って い る.一 方,被 介 助 者 も事 の性 質 上 精 神

行 うか,娘 ・婿 夫 婦 の主 に主 婦 に任 され て い るの が 現状 的 負担 を 感 じるた め,重 症 患 者 以 外 は ベ ッ ドで排 泄 を 行


で あ る.現 在 社 会 の経 済 状 況 を 維 持 発 展 しつ つ,高 齢 者 う こ とは少 な い といわ れ て い る.入 浴,排 泄 以 外 の 作 業

及 び身 障 者 に質 の高 い福 祉 を 提 供 す るに は,従 来 の 人手 は あ ま り力 を必 要 とす る も の では な い が,座 位 に させ る

に よる介 助 の他 に一 部 に機 械 を 導 入 して い く こ とが 緊急 た め の抱 き起 こ し作 業 が必 要 であ る.

に必 要 で あ る. この よ うな離 床 作 業 の 内容 は被 介 助 者 の 残 存機 能 に よ

入 院 施 設 にお け る 日常 業 務 の 中 で 自動 化 の 要 望 が 高 い っ て大 き く異 な った も の とな る.四 肢 麻 痺 の 場 合 に は,

も の と して,検 温,血 圧 測 定 が あ る.こ れ らの 作業 は毎 介 助 者 が全 面 的 に力 を 出 さな けれ ば な らな い が,片 麻 痺

日数 回 行 わ れ てお り,看 護 婦 さん の 受 け 持 ち患 者 数 倍 の の場 合 は本 人 が座 位 が とれ るか ど うか,手 す りに つ か ま

時 間 が 確 実 に取 られ る.も し,こ の 作 業 が 自動化 され れ っ て立 位 を サ ポ ー トで き るか ど うか に よ って 必要 とす る

ば,看 護 本 来 の業 務 に さけ る時 間 が増 大 す る.ま た,安 機 能 も変 わ っ て くる.表1は 東 京 都 が定 め た 公的 給 付 制

静 の必 要 な 患 者 の 監 視 や,徘 徊 の 可能 性 の あ る患 者 の監 度 の対 象 とな っ てい る補 助 具 の 一 覧 で あ る.こ の 中 で移

視 に現 在1人 の 看 護 婦 さん が は りつ い て い る が,こ の機 乗 に関 す る も のは ギ ャ ッチ ベ ッ ドと,介 護 用 リフ トで あ

械 化 も望 まれ て い る.こ れ らの作 業 の他 に カ ル テ な ど書 る.こ こ では,現 在 離 床 に 用 い られ て い る用 具 につ い て

類 に まつ わ る雑 務 を 軽 減 化 す る いわ ゆ る ホ ス ピタ ル オ ー 説 明す る.

トメ ー シ ョンが 鋭 意進 め られ て い る.し か し,こ れ ら の <ギ ャ ッチ ベ ッ ド>


これ は 起 き上 が るの が 困難 な人 の た め の ベ ッ ドで,上
作 業 は 肉 体 的 力 を 必 要 と しな い た め,最 近 の マ イ ク ロエ
レク トロ ニ クス技 術 の進 歩 を も っ てす れ ば近 い将 来 実 現 半 身 側 のベ ッ ドの 一 部 が傾 き,座 位 姿勢 を保 持 す る も の
であ る.動 力 は,介 助 者 が 人 力 で行 うも の と,最 近 で は
原稿 受 付1993年4月15日
Review of Transfer System for the Handicapped 電 動 の も のが 普 及 して き た.図1は 「電 動 自立 ベ ッ ド
*機 械技術研 究所 (商 品 名)」(日 本 ア ビ リテ ィー ズ社)と 呼 ばれ る ギ ャッ

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表1東 京都 の公的 制度 による高齢老 日常生活給付用具

図1電 動 自 立 ベ ッ ド1)

構 成 は,ア ー ム サ ポ ー タ,被 介助 者 の足 を のせ る フ ッ ト
レス ト,ひ ざ を サ ポ ー トす る ニ ー パ ッ トで あ り,車 椅 子

な どに 移 動 す る た め に キ ャス タ ー が設 置 され て い る こ と
もあ る.腕 に 力 の あ る被 介助 者 は ア ー ムサ ポ ー タ で支 え
るだ け で 移 乗す る こ とが 可能 で あ る.腕 の力 が弱 い場 合
は,ア ー ム サ ポ ー タ に加 え,体 重 の ほ とん どを支え る補
助 ベ ル トを臀 部 の下 に設 置 す る こ とに よ っ て,ず り落 ち
チ ベ ッ ドで,市 販 さ れ て い る も の の 中 で は最 も機 能 の 高 を 防 止 してい る.図3は,補 助 ベ ル トを 使 用 して 被 介 助
い もの の1つ で あ る.ち な み に価 格 は66.5万 円 で あ る. 者 を立 ち上 が らせ た と ころ で あ る.起 き上 が る と 自動 的
1つ の ボ タ ンを押 し続 け る こ とに よ っ て,背 もたれ の傾 に ペ ダル 近 くに あ る ロッ クがか か り,立 位 を安 定 に保 つ

き,脚 部 の傾 き,垂 直 軸 の まわ りの回 転 を シ ー ケ ンシ 帝 よ うに な って い る.ア ー ムサ ポ ー タ と腕 部 サ ポ ー タ を一


ル に 行 う こ とが で きる.通 常 の ベ ッ ド状 態 に戻 す に は, 体 化 した もの や,キ ャス タ ー の代 わ りに回 転 用 ベ ア リ ン
も う一 つ の ボ タ ンを 押 し続 けれ ば よ い.こ の他 の機 種 で 層 グを 入 れ た もの な どバ リエ ー ショ ンが豊 富 で あ る.

は 床 面 か らの 高 さ 調 節機 能 を有 した もの もあ る. <天井 走 行式 リフ ト>

<移 乗機> 図4に 示 す よ うに,座 位 姿勢 の ま ま上 方 向 に持 ち上 げ,


座 位 か ら立 位,立 位か ら座 位 へ の補 助 機 器 と して移 乗 水 平 方 向 に 移 動 で きる リフ トで あ る.上 下,水 平 方 向 と
機 が 使 用 され る.こ の移 乗 機 は,図2に 示 す よ うに テ コ も電 動 の もの と,上 下 方 向 の み 電 動 で 水平 方 向 は手 動 の
を 利 用 し,介 助 者 の 体重 に よっ て被 介助 者 を立 ち上 が ら も のが あ る.天 井 に走 行 用 の レー ル を設 置 す る必 要 が あ
せ る も の で,手 軽 に使 用 す る こ とが 出 来 る.機 器 の基 本 り,一 般 に 高 価 で あ る.レ ール の タイ プ に は,1次 元の

図2移 乗機で立位姿勢を 図3移 乗 機 の操 作 方 法1) 図4天 井 走 行 式 リフ ト1)


と らせ た とこ ろ1)

JRSJ Vo1.11No.5 50 July,1993


移 乗 介 助 ロボ ッ トの現 状 と 課題 651

(a)1次 元 レール シ ス テ ム (b)面 の 移 動 が 可 能 な レ ール シス テ ム

図5天 井 走 行 式 リ フ トの レ ー ル シ ス テ ム

も の(図5a)と2次 元 平 面 を カバ ー で き る も の(図5 ス ト付 き ス リン グ シ ー ト,椅 子 式 シ ー ト,6支 点 ハ ンモ


b)と が あ る. ッ クシ ー トな ど きめ 細 か い バ リエ ー シ ョンが 用意 さ れ て
〈床 走 行 式 リフ ト〉 い る.

天 井 走 行 式 リフ トは 天 井 に レー ルを 設 置 す る必 要 が あ 〈入 浴 用 リフ ト〉

り,日 本 家 屋 では 困 難 な 点 もあ り,ま た 経 済 的 負 担 も大 介 助 作 業 の うち介 助 者 に と って 負 担 の大 きな作 業 は 入


きい.床 走 行 式 リフ トは,図6の よ うに 電 動 上 下 ア ー ム 浴 作 業 で あ る.図9は 浴 室 に設 置 され た バ ス リフ タ ー の
を 有 した キ ャ ス タ ー付 き移 乗 装 置 であ る.キ ャ ス タ ーの 例 で あ る.図 の例 で は,シ ャ ワー チ ェア に座 った ま ま浴

た め 畳 で の使 用 に は 難 が あ るが,板 の 間 では 問 題 な く使 室 へ 移 動 した後,座 面 と架 台部 分 が着 脱 され,リ フ トの

用 で き る.コ の字 型 の脚 部 は,被 介 助 者 を 抱 き上 げ る時 セ ッ トさ れ た状 態 が示 され て い る.こ の装 置 を使 用 す る

には ハ の字 型 に 開 き,走 行 時 に は 平行 に な る よ うに,介 と,抱 きか かえ た り,乗 せ 換 えた りせ ず に入 浴 介 助 が 可

助 者 が 手 元 の手 動 レバ ーで 調整 でき る.他 の 福 祉機 器 と 能 で あ る.リ フ ト部 分 は,手 動 ハ ン ドルを 回 転 させ る こ

同 じ く,欧 米 か ら輸 入 され た もの が 多 い が,日 本 家屋 に とに よ り上 下 す る.こ の よ うな大 掛 か りな 装 置 は,施 設


は 大 きす ぎ る もの が 多 い.文 献2)で は 日本 人 と 日本 家 な どで は可 能 で あ るが,狭 い一 般 家 庭 では,図10に 示

屋 に 適 した サ イ ズ に再 構 成 した事 例 が報 告 され て い る, す よ うな 入浴 用 ブ ー ス タ ーが 実 用 的 であ る.小 型 エ アポ
また,同 じ文 献 の な か に,転 倒 条件 の考 察 か ら床 走 行 式 ンプか ら送 られ る空 気 で エ アバ ックを 膨 ら ませ る こ とに

リフ トの評 価 基 準 が提 案 さ れ て い る. よ っ て昇 降 す る も の で,浴 そ う内 の 椅 子 の 高 さを浴 そ う


天 井 走行 式1リフ ト,床 走 行 式 リフ トと も,被 介助 者 に 壁 面 と同 じ高 さ に して,人 力 で乗 り移 る もの で あ る.
と って は体 に接 触 す る シー トの選 択 が重 要 で あ る.代 表 <関 節 形 リフ タ>
的 な シ ー トは(1)2点 ベ ル ト式,(2)ス リ ン グシ ー ト 工 場 等 にお い て重 量 物 の持 ち 上 げ に 利 用 さ れ て い る 関

式 で あ る.2点 ベ ル ト式 は,図7の よ うにひ ざ裏 と腋 下 節 形 リフ タを 改 造 して,介 助 用 リフ タに 利用 した報 告 が


に それ ぞれ ベ ル トを通 して つ り下 げ る方 式 で,比 較 的 軽 あ る3).先 に 述 べ た 天 井走 行式 リフ トや床 走 行 式 リフ ト
い症 状 向 きで あ る.ス リン グ シー ト式 は,図8a,図8b は 移 し換 え 途 中 や 移 送 中 に 揺 れ が 発 生 し,そ れ が被 介 助

に示 す よ うに,車 いす に座 った 状 態 や,ベ ッ ドに寝 た 状 者 に 不 安 感 を 与 え る と言 わ れ て い る.本 装置 は そ の点 を


態 か ら安 定 につ 改 善 した も ので,す でに一 部 施設 で利 用 され て い る.重
り下 げ るた め の 力 方 向に 電 動 モ ー タを 使 用 し,水 平方 向 は パ ッシ ブに な
も の で あ る.こ っ て い る.人 間 を 抱 きか かえ る搭 乗 ア ー ムに 関 して は 座

の方 式 も比 較 的

軽 い症 状 向 き で
あ る.頭 を 固定

す る必 要 が あ っ
た り,ず り落 ち
る心 配 の あ る人
に は,バ ックレ 図6床 走 行 式 リ フ ト1) 図72点 ベ ル ト式 シ ー ト例1)

日本ロボ ッ ト学 会 誌11巻5号 51 1993年7月


652 橋 野 賢

図9入 浴用 リフ ト

に 述 べ た ベ ル トを 太 股 の下 に あ て が って持 ち上 げ る こ と
が 出 来 る.ま た,横 臥 姿 勢用 搭 乗 ア ー ム で は足 首,腿,
腰,背 中,頭 の5箇 所 に ベ ル トを使 用 す る こ とにな る.
ベ ル トや シ ー トの 使 用 に お い て は取 付 け方 の容 易 さが 開

発 の 重 要 な ポイ ン トとな る.図11は 試 作 機 の実 験 に基
づ い て 設 計 され た 実用 機 で,ベ ッ ドサ イ ドに 固定 され る

形 式 とな って い る.

3.抱 き 上 げ マ ニ ピ ュ レ ー タ 「メ ル コ ン グ 」

約15年 前,あ る重 度 身 障者 施 設 の看 護 婦 さん の ス ト
ライ キ が 新 聞 に報 じ られ た.そ の原 因 は,被 介 助 者 の ベ
ッ ドか らの 抱 き上 げ 抱 き下 ろ しに伴 う看 護 婦 さん の腰 痛
問 題 であ る と言 わ れ た.重 度 身 障者 の 日常 生活 は 全 て看

護 婦 さん に 委 ね られ て お り,ト イ レ,入 浴,食 事 を 行 う


と き,毎 日数 回 ベ ッ ドか らの 抱 き上 げ 抱 き下 ろ し作 業 が
必 要 であ る.こ の 作 業 は,通 常2∼3人 で行 わ れ る が,
不 安 定 な 中 腰 姿 勢 で 行 わ れ るた め,腰 痛 は 介助 者 の職 業
(a)車 いす で の敷 込 み 方 法 (b)ベ ッ ドで の敷 込 み 方 法
病 と まで い わ れ て い る.最 近 の ベ ッ ドは ます ます 低 くな
図8ス リ ン グ シ ー ト例 η
る傾 向 にあ るた め,介 助 者 に と って は ます ます 辛 い 作業
位 姿 勢 用 と横 臥姿 勢 用 の2種 類 が開 発 され た.座 位 姿 勢
用搭 乗 ア ー ム は,寝 て い る人 の腋 下 か ら ア ー ムを 差 し込
み持 ち 上 げ る方 式 で あ る.持 ち上 げ る途 中 に水 平 方 向 の

分 力 が 寝 て い る人 の 下半 身 側 に働 き,水 平 方 向 に位 置 制
御 を行 わ な くて も 自然 に起 き上 が っ て座 った 位 置 に ア ー
ムの 中 心 が来 る よ うに工 夫 され て い る.こ の状 態 で,先

図11ベ ッ ドサ イ ドに 固 定 され た 関節 形 リ フタ
図10入 浴用 ブースター 設 計 例3)

JRSJ Vo1.11 No.5 52 July,1993


移 乗 介 助 ロポ ッ トの 現 状 と課 題 653

とな って い る.こ の よ うな社 会 問題 を解 決 し,近 く訪 れ を ハ ー ドウ ェ アで実 現 で き る ア クチ ュエ ー タ シス テ ム と


る 高 齢化 社 会 で の ニ ー ズ に工 学 的 に答 え るた め 「メ ル コ して 空 気 圧 を 使 用 して,メ ル コ ン グ2を 試 作 した.メ ル
ン グ」 の研 究 が 始 め られ た4).最 初 に 開 発 され た 「メル コ ン グ2で は人 間 の抱き 上 げ のみ に的 を 絞 った た め ,腰
コ ング1」 は油 圧 駆 動 マ ニ ピ ュ レー タ と電 動全 方 向 移動 の 回転 に相 当す る部 分 と移 動 機 構 を 割 愛 した.空 気 圧 ア

機 構 を 備 え た 自立 ロボ ッ トで あ っ た.「 メル コ ン グ1」 クチ ュエ ー タ と して 単 位 質 量,単 位 断 面 積 あ た りの 力 の


の 開 発 に あ た って 次 の4つ の技 術課 題 が課 さ れ た,1) 大 きな 人 工 筋 であ る ラバ チ ュエ ー タ(商 品名)を 採 用 し
人 間 を抱 き上 げ る こ とが 出来 る よ うな強 力 な マ ニ ピ ュ レ た.ラ バ チ ュエ ー タは 収 縮方 向 の み に 張 力 を発 生 す る機
ー タ,2)狭 い室 内 を 自 由 に走 行 でき る機 構,3)機 械に 構 に な って い るた め,1自 由度 の運 動 を得 る には 拮 抗 型
素 人 な看 護 婦 さん や 患 者 で も操 縦 で き る手 法 及 び マ ンマ に して使 用 す る必 要 が あ る.メ ル コ ング2の 前 後 ・上 下
シ ン対 話 方 式,4)エ ネ ル ギ ー,情 報処 理 の 自立 性 の確 保, 運 動 に は長 さ90cmの ラバ チ ュエ ー タが 使 用 され た.
で あ る.こ れ らの 問 題 を 検 討 した 結果,具 体 的 な開 発 目 上 下 運 動 をつ か さ ど る ラパ チ ュエ ー タ は,手 先 の 最大
標 を 次 の4点 に 絞 った.1)演 算不 要 で制 御 が容 易 な パ 80Kgの 荷 重 に耐 え るた め に2連 シス テ ム とな って い る.
ン タ グ ラ フ リン ク機 構 を 用 い た マ ニ ピ ュ レー タ,2)全 そ のた め,片 腕 の前 後 ・上 下 運 動 の た め に ラパ チ ュエ ー
方 向 移 動機 構,3)簡 易指 令方 式,4)「 省 エ ネ ル ギ ー型 油 タは6本 使 用 され て お り,両 腕,左 右 の運 動 を加 え る と
圧供 給 サ ー ボ 系 の4点 で あ る. 合 計16本 の ラバ チ ュエ ー タが使 用 され て い る.
マ ニ ピ ュ レー タ部 は左 右 両 腕 か ら構 成 され ,各 腕 は 平 手 先 位 置 と張 力 の制 御 の た め に ポ ペ ッ トタ イ プ流 量 制
面 パ ンタ グ ラフを 応 用 した も の で あ る.手 先,支 点,駆 御 バ ル ブが 使 用 され て い る.指 に相 当す る部 分 の構 造 は
動 部 が一 直 線 に配 置 され て い るた め,前 後,上 下 動 作 が メル コ ン グ1と 同 じで あ る が,空 気 圧 の コ ンプ ラ イ ア ン
それ ぞれ 一 個 の ア クチ ュエ ー タ に対 応 し,制 御 を 楽 に し ス が利 用 で きる た め指 先 に は セ ンサ を 設 置 す る必 要 が な
て い る.左 右 動 作 は 平 面 パ ンタ グ ラ フ リン ク全 体 を 架 台 い.ベ ッ ド側 の穴 の入 口を ロー ト状 にす る こ とに よ って
ご と移 動 す る こ と に よ っ て実 現 され た.抱 き上 げ方 式 と 2∼3cmの 位 置 誤 差 が あ って も空 気 圧 と リン クの 弾性 に
しては 被 介 助 者 を 直 接 抱 き上 げ るの が理 想 で は あ る が, よ っ て挿 入 が可 能 であ る.ベ ッ ドの 高 さが 既 知 の場 合,
メ ル コ ン グ では ベ ッ ドの 一 部 に 穴 を あ け,そ こに フ ォ一 位 置 誤 差 は 水 平 方 向に 発 生 す るた め,ベ ッ ドとの 自動 ド
ク状 の 指 を 挿 入 して ベ ッ ドご と被 介助 者 を持 ち上 げ る方 ッキ ング時 は 水 平 方 向 の 空 気 圧 を 調整 して コ ンプ ライ ア
式 を 採 用 して い る.メ ル コ ン グ とベ ッ ドの位 置 合 わ せ 誤 ン スを 低 く設 定 して い る.抱 き上 げ る 際 は重 力方 向 に張

差 を 吸 収す るた め に,手 先 に2次 元 力 セ ンサ が 設 置 され 力 が 必 要 で あ るた め,コ ン プ ライ ア ンス は硬 く設 定 され


て い る.力 の働 いた 方 向 と逆 方 向 に移 動 す る こ とに よ っ る.こ の よ うに方 向 と必 要 な張 力 に よ っ て コ ンプ ラ イ ア
て ク リア ラ ンス の狭 い挿 入 が 可 能 とな った5,6). ンス を ソ フ トウ ェア に て変 更 して い る10,11).
油 圧.マニ ピ ュ レー タは 力 が 強 く,メ ル コ ン グ1の 場 合 重 力方 向 に は安 全 のた め,荷 重 の一 部 を 支 え る シ リン
100Kgま で の人 を抱 き上 げ る こ とが 出来 るが,強 力す ダ ー が設 置 され てお り,最 上 位 点 では サ ーボ 弁 の 流量 を

ぎ る こ とは 対 人 間安 全 性 に は 問題 が あ り,ま た 油 圧 の硬 節 約 す るた め に固 定 用 ノ ック ピンが 設 置 され て い る,手


さは 位 置 誤 差 の 吸 収 に セ ンサ の使 用 を必 要 と しシ ス テ ム のひ ら に相 当す る部 分 に は ベ ッ ドとの ドッキ ン グを確 実
を 複雑 に す る.ま た,油 漏 れ は室 内環 境 を汚 染 す るた め な も の とす るた め に,ミ ニ空 気圧 シ リン ダー を用 い た ホ
に 好 ま し くな い.そ こで,た とえ 暴 走 して も人 間 に危 害 ール ド機 構 を 有 す る.右 手 先 は 抱 き上 げ た被 介助 者 に座

を 加 え な い程 度 に適 度 に強 力 でか つ シ ス テ ムの 柔 らか さ 位 姿 勢 を と らせ るた め に 背 中 の傾 きに倣 うパ ッ シブ な ブ
レーキ 機 構 が 設 置 され て い る.そ のた め被 介 助 者 の頭 部

は メ ル コ ン グか ら見 て常 に 右側 に な けれ ば な らない.

拮 抗 タイ プの駆 動 シス テ ム で は ア クチ ュエ ー タ間 の張
力 が リン ク シ ステ ムへ の駆 動力 とな る.そ のた め,人 間
を 抱 きか か え た場 合,人 間 の重 さ が プ リセ ット張 力 と し
て 最 低 必 要 に な る た め,無 荷 重 の場 合 に比 べ て可 動 範 囲
が狭 ま る とい う欠 点 が あ る.そ のた め,先 に述 べ た 重 力
方 向 の シ リン ダー を プ リセ ッ ト張 力 の低 減 化 に利 用 す る
こ とも可 能 で あ る.

図12は 抱 き上 げ た 状 態 を示 してい る.ベ ッ ドとの 自


図12メ ル コ ン グ2 動 ドッキ ン グ,.抱 き上 げ,背 中 起 こ し,抱 き下 ろ し,な

日本 ロボ ッ ト学 会 誌11巻5号 53 1993年7月
659 橋 野 賢

ど一 連 の動 作 を 実 現 し,1992年3月 東 京青 山 に あ る テ 応 す る も の は,筆 者 の知 るか ぎ り欧 米 にお い て は まだ 開
ピア で開 催 され た ロボ ッ ト展 に出 品 し,デ モ 実 験 も併 せ 発 さ れ て い な い,参 考 文 献12)に よ る と,英 国 サ ル フ ォ
て行 った.現 在,ア クチ ュエ ー タの 非 線 形性 を 解 析 し, ー ド大学 や フ ァル マ ー シス テ ム ズ社 に お い て患 者 移 送 装

省 エ ネ ル ギ ー,乗 り心 地 改 善 の観 点 か ら プ ロ グ ラ ムの 見 置 の概 念 設 計 が行 われ て い る のみ で あ る.
直 しを行 っ て い る ところ であ る.
6.お わ り に
4.介 助移動装置実用化研究
欧 米 に 比 べ て福 祉施 設 を は じめ社 会 資本 の充 実 の遅 れ
メル コ ン グの研 究 と平 行 して介 助 移 動 装 置 の実 用 化 を て い る我 が 国 が急 速 な 高 齢 化 社会 を迎 え る に は得 意 とす

目指 した 実 用 化 研 究 が 通 産 省 か ら民 間 企 業 に依 託 され た. る技 術 力 を 駆 使 す る よ りほ か に な い.し か し,多 品 種 一

依 託 先企 業 に は高 性 能 型,簡 易 型 の2機 種 が 依 託 され, 品 生 産 とな る福 祉 機 器 の 開 発 は 金喰 い 虫 とな る危 険 を有


そ れ ぞ れ 昭和58年 度 か ら63年 度 にわ た っ て第1,第 して い る こ とを 常 に 念 頭 に お い て開 発 を進 め な けれ ば な

2次 試 作 が行 わ れ た.実 用 化 に あた っ て は特 に軽 量 化 が らな い.米 国 に お い て は,機 器 開発 に か か る費用 と開 発

考 慮 され,マ ニ ピ ュ レー タのか わ りに ス ラ イ ドシ ー ツ方 しな い こ とに よ る身 障 者 に か か る費 用 の比 較 が常 に行 わ

式 が 採 用 され た.全 重 量 は,当 初 目標 通 りそれ ぞれ250 れ てい る との こ とで あ る.


Kg,150Kgが 達 成 され た.高 性 能 型 にお い ては,介 助 人 口 の約1/4が 高 齢 者 を 迎 え る とい う2014年 は,戦

者,患 者 本 人 に よ る運 転 の ほ か に無 人運 転 も試 み られ た. 後 団塊 の世 代 が高 齢 者 の仲 間 入 りす る年 で もあ る.戦 後

簡 易 型 は 介 助 者 が 操 作 す る方 式 とさ れ た. の 食料 難 と熾 烈 な受 験 戦 争 を の りき り,現 在 社 会 の中 核

移 載 機 構 は,被 介 助 者 の上 半 身,臀 部,脚 部 に対 応 し を 占 め て い る世 代 が,老 後 も決 して休 ませ て も らえ な い

て3部 分 に分 割 され た.3分 割 に よ って,仰 臥位 か ら座 だ ろ う とい う こ とは ほぼ 確 実 であ る.社 会 の活 性 化 を 維

位,逆 に 座 位 か ら仰 臥 位 に姿 勢 を 自由 に 変 更 す る こ とが 持 し豊 か な老 後 の生 活 を営 む には,今 後20年 の うち に

出来 る(図13参 照).ま た,こ の 移 載機 構 に は ベ ッ ドや 成 し遂 げ な けれ ば な らな い こ とが 山 積 して い る.

便 器 な どへ の患 者 の移 載 を 楽 に 行 うた め に,高 さ調 節 機 参 考 文 献
構 が 設 け られ て い る.高 性 能 型 は,移 動体 本 体,ナ ース 1)'93ア ビ リテ ィーズ介護機器 カタログ
2)井 野秀一他,“介助用床走行式 リフタに関す る総合評価 ”,
ス テ ー シ ョン,ト イ レ,風 呂 を ネ ッ トワー クで接 続 した エル ・エス ・ティ学 会誌,Vol.4,No.4,pp.161-169.
統 括 運 行 管 理 シ ス テ ム に よ って 管 理 され た.評 価 試 験 は 3)長 谷 川健介,“高齢者の介助に適 した 動力 システ ム の研
究”
国 立 身 体 障 害 者 リハ ビ リテ ー シ ョン セ ン タ ーな どで 医 師, 4) Nakano el al.,•gFirst Approach to the Development

看 護 婦,患 者 を 交 え て行 わ れ た.そ の評 価 は 概 ね 良 好 で, of the Patient Care Robot•h, 11th ISIR, 1981, Tokyo.
5)橋 野 賢 他,“ 介 助 移 動 装 置 「メル コ ン グ」 腕 部 の制 御 ”,
「これ が あれ ば 看 護 婦 を続 け られ る」 とい う評 価 を 得 た.
バ イ オ メ カニ ズ ム10,1990.
普 及 に あた っ て は装 6) S. Hashino et al.,•gControl of Patient Care Robot

置 の さ らな る小 型 化 と •g MELKONG•h, 20 th ISIR, 1989.

7)橋 野 賢,“ 介 助 ロボ ッ ト”,日 本 ロボ ッ ト学 会 誌,Vol


低 価 格化 が要 求 され る .8,No.5,1990.
だ ろ う.本 プ ロジ ェ ク 8)橋 野 賢,“ 介 助 用 ロボ ッ トの現 状 と将 来 ”,生 理 人 類 学
会 第24回 大 会,1990.
トの 最終 成 果 報 告 書 で 9)橋 野 賢 他,“ 空 気 圧駆 動 介助 ロボ ッ トの 開 発 ”,第5回
は 普 及 の た め に次 の3 RSJ学 術 講 演 会,1987.
10)橋 野 賢 他,“ 空 気 圧 駆 動 抱 き上 げ マ ニ ピ ュ レー タ の制
点 が 指 摘 され た.1)低
御 ”,第10回RSJ学 術講 演 会,1992.
価 格 で の リー ス,レ ン 11)橋 野 賢 他,“ 空 気 圧 駆 動 抱 き上 げ マ ニ ピ ュ レー タ の制

タ ル制 度 の 採 用,2)病 御 に関 す る研 究 ”,第2回ロボ ッ トシ ンポ ジ ウ ム,1992.


12) Korba,•gInternational Inventory of Robotics Pro-
院,施 設 へ の サ ンプ ル jects in the Healthcare Field•h, 1989, NRCC No.
30379, Canada.
機 無 償 貸 与 に よ る利用
者 の拡 大,3)医 療福祉
橋 野 賢(Satoshi HASHINO)
機 器 と しての 国 の認 定 1973年 九 州 大 学 理 学 部 物 理 系 大 学 院 修 士
に よ る国 庫 補 助 金 の 適 修 了.同 年 通 産 省 機 械 技 術 研 究所 入所.生.

用,な ど であ る. 図13簡 易形介助移動装置 産工 学 部 ロボ ッ ト工 学 課 に 配 属 現 在 ロボ


ッ ト工 学 部 自 律 制 御 課 主 任 研 究 官.1982∼
83年 米 国 パ デ ュ ー大 学 客 員 研 究 員.計 測自
5.欧 米 に お け る 開 発動 向
動 制 御 学 会,バ イ オ メ カニ ズ ム学 会 の 会 員.

メル コ ン グや 依 託 企 業 で開 発 され た 介 助 移 動 装 置 に対 (目 本 ロボ ッ ト学 会正 会 員)

J RSJ Vol.11 No.5 54 July,1993

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