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特集「レアメタルのリサイクル関連技術と最前線」
粉砕・分級と湿式処理による
リチウムイオン電池のリサイクル
蓬 莱 賢 一1 芝 田 隼 次1 村 山 憲 弘1 古屋仲茂樹2 新 苗 正 和3
1関西大学環境都市工学部エネルギー・環境工学科
2独立行政法人産業技術総合研究所環境管理技術研究部門リサイクル基盤技術研究グループ
3山口大学大学院理工学研究科環境共生系専攻
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 78, No. 7 (2014), pp. 250257
Special Issue on RecycleRelated Technologies of Rare Metals, and Their Frontier
2014 The Japan Institute of Metals and Materials
Kenichi Horai1, Junji Shibata1, Norihiro Murayama1, Shigeki Koyanaka2 and Masakazu Niinae3
1Department of Chemical, Energy and Environmental Engineering, Faculty of Environmental and Urban Engineering,
Kansai University, Suita 5648680
2Advanced Recycling Technology Research Group, Research Institute for Environmental Management Technology,
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba 3058569
3Department of Environmental Science and Engineering, Graduate School of Science and Engineering, Yamaguchi University,
Ube 7558611
Lithium ion battery (LIB) is composed of valuable metals such as Li, Co, Ni and Cu, and less valuable metals of Al and Fe.
The toxic and flammable electrolyte, LiPF6, and organic solvents, propylene carbonate (PC), ethylene carbonate (EC) and
dimethyl carbonate (DC) are used for an electrolytic solution. By this reason, the treatment process should have crushing, clas-
sifying and hydrometallurgical treatments after burning LIB at about 500° C.
The recycling technology of used LIB has been investigated in order to recover rare metals such as Li, Co and Ni with the
combination process of crushing, classifying and hydrometallurgical treatments. The burnt LIB used for PC was employed in this
research. Then, the physical treatments consisting of crushing, classifying and magnetic separation, and the chemical treatments
containing acid leaching, hydroxide precipitation, solvent extraction and carbonate precipitation methods were applied. The oper-
ating conditions for several treatments were clarified. [doi:10.2320/jinstmet.JA201402]
(Received January 16, 2014; Accepted March 3, 2014; Published July 1, 2014)
(2010 年)を占めている.
1. 緒 言 LIB の正極材には LiCoO2, LiMn2O4, LiNiO2 などのリチ
ウム金属酸化物が用いられているため, LIB の需要増加に
リチウムイオン電池(以下 LIB )はノートパソコンや携帯 伴い Li や Co などのレアメタルが大量に必要となる.レア
電話などのモバイル機器への搭載が主流であったが,近年で メタルは価格変動が激しく資源の偏在が問題となっているこ
はハイブリッド車や電気自動車などの高容量かつ高電圧を要 とから, LIB 廃棄物からレアメタルを回収・再利用するリ
する製品にも用いられるようになった.ハイブリッド車およ サイクル技術に対する関心は高い38).
び電気自動車の世界の生産量は 2020 年には 600 万台にまで 二次電池,特に LIB のリサイクルは難しい.用いられる
拡大し,それに伴い LIB の需要が急激に増加すると予測さ 金属成分が多く, Al 箔や Cu 箔に電極材料がコーティング
れている1,2).このような LIB の急激な需要の拡大に伴い, されているからである.携帯電話やパソコンの電源に用いら
大量に廃棄される使用済み LIB の適切な処理方法が必要と れてきた LIB がハイブリッド車や電気自動車に搭載される
なる. ようになり, LIB の需要は急増している.三菱自動車のア
LIB はエネルギー密度が高い,サイクル寿命が長い,自 イミーブやアメリカ・シリコンバレーのテスラ社の電気自動
己放電性が低い,作動電圧が高いなどの特長を持つ. LIB 車は初期の電気自動車である.テスラ社のスポーツカーには
は鉛蓄電池,ニッケルカドミウム電池,ニッケル水素電池に 18650 型の小型 LIB (正極剤, LiNixCoyO2 )が 7000 個用いら
比べて性能が優れており,二次電池市場のシェアの約 5 割 れ,電池価格だけで 600 万円ほどしたのは驚きであった.
第 7 号 粉砕・分級と湿式処理によるリチウムイオン電池のリサイクル 251
2. リチウムイオン電池の前処理法
物と混合して最終的な粒度分布を評価した.分級後の粉砕産 離・回収できる.この表より,強磁性体である Fe と Ni の
物の物理選別は,磁力選別機(レアアースロール,日本エ 大半が粗粒子または磁着物として回収され,正極剤である
リーズマグネチックス)で行った8). Co と Li についてもほとんどが磁着物として挙動することが
Fig. 1 は,二軸せん断破砕機と高速ハンマーミル併用によ わかる. Cu は非磁着物であるが,全体の 7.9 は磁着物と
る PC 用 LIB 破砕産物に含まれる金属成分の積算ふるい下 して回収される.これは破砕機内で,銅箔が LiCoO2 粒子を
分布(粒子径と積算ふるい下質量百分率)を示している.ハン 巻き込むことによって,一部が磁性体として挙動するためで
マー周速度は粉砕原料に与える衝撃力を決定する因子であ ある.2.36 mm 以上の粒度で Al はすべてが非磁着物として
り,高いほど粉砕能力は高い.金属成分はハンマー周速度が 挙動するのに対して, 2.36 mm 以下では磁着物として挙動
高いほど細かく粉砕され,微粒子の産物側に多く分配される する割合が高くなる.上述のように,高速ハンマーミルを用
傾向がある.鉄製容器や銅箔をなるべく大きな粒径の破砕産 いた破砕ではアルミ箔からの LiCoO2 の剥離性は必ずしも十
物として残し,ふるい下への混入を少なくするためにはハン 分ではない.粒径の大きなアルミ粒子は慣性力が磁力を上回
マー速度は遅くした方がよく,この試験機ではハンマー周速 り非磁着物となり,粒径の小さなアルミ粒子は付着している
度 10 m/s が適している.アルミ箔は銅箔よりも破砕されや LiCoO2 に作用する磁力が慣性力を上回り磁着物になると考
すく,ハンマー周速度に関係なくアルミ箔は 80 以上が えられる.
1.00 mm 以下の粒子径に分布する.Li, Co, Al の分布が 1.00 Table 1 の結果を基にして, PC 用 LIB 粉砕物からの主要
mm 以 下 の 細 粒 側 で 高 い こ と か ら ア ル ミ 箔 と 正 極 剤 の 金属の分離に適切な選別フローを適用すると Fig. 2 の結果
LiCoO2 の剥離性はよくない.こうした状況はハンマー周速 が得られる.ふるい分けによって, 1.68 mm 以上, 1.68 ~
度を変化させても大きく変わらない. 0.42 mm,0.42 mm 以下の 3 粒度区分に分級後に,1.68 mm
二軸せん断破砕機と高速ハンマーミルを併用した破砕では, 以上の粒子群の磁着物を Fe 濃縮物として,1.68 mm 以上と
1.00 mm 以上の粗粒域で容器金属と銅箔に粒度差を与えや 1.68 ~ 0.42 mm の粒子群の非磁着物を Cu 濃縮物として,
すく,これらの間の選択破砕性に優れている.高速ハンマー 1.68 ~ 0.42 mm の粒子群の磁着物と 0.42 mm 以下の粒子群
ミルは,小型のハンマーを用いていることから衝撃力が比較 を Co 濃縮物として回収する.Fe 濃縮物中の Fe の回収率は
的小さく,容器金属の破砕が十分に進行しないと考えられ 88.2 ,品位は 96.7 となる. Cu 濃縮物中の Cu の回収率
る.一方,アルミ箔や銅箔は容器に比べて薄くて強度が弱い は 69.1,品位は 81.3である.Co 濃縮物中の Co と Li の
ために高速ハンマーミルの弱い衝撃力でも容易に粉砕され 回収率はそれぞれ 99.2 , 96.4 であり,後工程の湿式処
る.また,正極・負極剤のほとんどすべては, 1.00 mm 以 理においてこれらを分離・回収するための前処理としては十
下の微細粒域に入ることがわかった. 分な値である. Co 濃縮物中には Ni の 62.8 , Cu の 28.5
焼成・粉砕物に磁力選別を適用した.微粒域と粗粒域にお が存在しているが,これらも湿式処理工程で回収できる可能
いて比較的高い選択破砕性を示した PC 用 LIB について, 性がある.Fe 濃縮物は製鉄所で,Cu 濃縮物は銅製錬所で利
分級と磁力選別による金属成分の分離・濃縮について検討し 用できそうな組成である .
た. Table 1 は,二軸せん断ミルと高速ハンマーミル(ハン ここで用いた二軸せん断ミルと高速ハンマーミルを併用し
マー周速度 10 m/s)の併用による PC 用 LIB 破砕物の粒子群 た粉砕・破砕方法を適用すると,Fe と Cu と Ni の金属材料
を磁選分離したときの結果であり,各粒度区分での主要金属 を粗粒子として残し,正極剤と負極剤を微粒子として分ける
元素の分配率を示している.例えば,破砕物に含まれる Co ことが可能になる.
の全質量のうち, 0.42 mm のふるい下に分配される割合が
75.0 で あ り , 磁 選 機 で 磁 着 物 に 回 る も の と 合 わ せ る と 3. ふるい下産物(Co 濃縮物)の湿式処理
99.8 が分離・回収できる.同様に, Li については 0.42
mm のふるい下に分配される割合が 79.0 であり,磁選機 Co 濃縮物からの有価物の分離回収には,酸浸出水酸化物
で磁着物として回収されるものと合わせると 96.9 が分 沈殿法溶媒抽出法炭酸塩沈殿法からなる湿式処理法を適用
Fig. 2 Separation process and recovery of Fe, Cu and Co from milled PC LIB.
Fig. 4 Extraction of Mn2+, Co2+, Ni2+ and Li+ with D2EHPA and PC88A from aqueous solution.
Fig. 5 Extraction isotherm of Mn2+ with 1.0 mol・dm-3 D2EHPA at pH 3.0, and stripping isotherm of Mn2+ from D2EHPA with
1.0 mol・dm-3 H2SO4.
第 7 号 粉砕・分級と湿式処理によるリチウムイオン電池のリサイクル 255
mol / dm3 硫酸による Mn の剥離等温線は Fig. 5 に示すよう で,向流 2 段抽出,流量比(水相/有機相) 2.0 の条件で可能
である.抽出等温線は,水溶液中の金属イオン濃度を変化さ であることがわかる.剥離工程では回収率 95の設定で向
せて,一定濃度の抽出剤 D2EHPA を用いて pH3 で抽出試 流 2 段剥離,流量比(有機相/水相) 2.0 の条件で十分である
験を行うことによって得た.抽出等温線を作成すると,いろ ことがわかる.
いろな装置設計上の情報を得ることができる.図中に次の 4 Co の分離回収は,同様に Co の抽出等温線と剥離等温線
つの点を書き込むと,操作線を引くことができる.◯
原料水 を作成して解析すると,抽出条件と剥離条件を得ることがで
相中の金属イオン濃度,◯
回収率(有機相に抽出回収する割 きる.Fig. 6 に Co の抽出等温線と剥離等温線を示した.抽
出
合),その結果出口水相中の金属イオン濃度が決まる,◯ 出工程は,入口水相中の Co イオン濃度 16.8 g/dm3,回収率
口有機相の金属濃度,一般的には高い方が好ましい,◯
入口 95 などの設定で向流 3 段抽出,流量比(水相/有機相) 1.0
有機相中の金属濃度,通常は 0 である.条件◯
と◯
は設計 の条件となり,剥離工程は回収率 95 などの設定で向流 2
者が決めねばならない.得られた 4 つの点を抽出等温線上 段剥離,流量比(有機相/水相) 1.0 の条件ということがわか
に書き込んで,直線で結ぶと操作線となる.Mn の抽出等温 る.いま,1 日の処理液量が 5 m3 の Co 含有水溶液を上記の
線と剥離等温線を作成して解析すると,抽出工程では入口水 条件で処理すると考えると,ミキサーセトラー抽出装置の寸
相中の Mn イオン濃度 4.7 g / dm3 ,回収率 95 ,出口有機 法は以下のように計算できる. 24 時間運転を想定すると,
相の Mn 濃度 9.4 g/dm3,入口有機相中の Mn 濃度 0 の設定 日量 5 m3 の処理は 3.5 L/ min の水溶液の通液である.操作
Fig. 6 Extraction isotherm of Co2+ with 1.0 mol・dm-3 PC88A at pH 4.3, and stripping isotherm of Co2+ from PC88A with 1.0
mol・dm-3 H2SO4.
Fig. 7 Extraction isotherm of Ni2+ with 1.0 mol・dm-3 PC88A at pH 5.5, and stripping isotherm of Ni2+ from PC88A with 1.0
mol・dm-3 H2SO4.
256 日 本 金 属 学 会 誌(2014) 第 78 巻