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研 究ノー ト 2016 年 1 月

研 究ノ一卜
阪大班ウェブディクショナリー 作成までの作業報告
名和隆乾
( 大阪大学 特任研 究員 • 京都光華女子大学 真 宗文化研 究所委嘱 研 究員)

は、『
模本ほか 2014 』出版の為 に作成した W o rd ファ
1 はじめに
イルが既 に手元にある。従 って後述する X M L デ一
このたび『
檟 本 ほか 2014』1が、 ウヱブディクショ タの構造が策定されれば、後はその構造に沿って基
ナリー として公開されることになった。 これに伴っ 本 的 に コピー & ペー ストでデー タが作成できる。 こ
て本稿では、 これを作成するまでの大まかな流れを の段階になれば、技術的には全くの非専 門家であっ
報告する。断 っておくが、報告者を含め阪大班には、 ても一応 は作業可能である。
ウェブ化に関 する専 門家はいない2。 しかしむしろ非 次 に X S L T プログラムについて、 これは大まかに
専 門家が実 際にウェブディクショナリー に携わり、 言えば、一定の構造に沿って記述された X M L デ一
具体 的に何を行い何に苦労 したかを述べることは、 タから、指定した条 件に一致するデー タを、指定し
自身の研 究成果のデジタル化に閨心はあっても、そ た書式で読 み出させるものである。 これにより、『

の具体 的技術に詳しくはない斯学 の研 究者にとって、 本 ほ か 2014 』のレイアウトを再現する。今回の様 に
何ほどか資する所もあるかと思われる。 また識者の 『模 本 ほ か 2014 』の再現という、定まった形式での
方々 からは、阪大班ウェブディクショナリー につい 出力という程であれば、 プログラミングの初歩 的な
て、改善すべき点などご指導頂ければ幸甚である。 条 件分岐やルー プが理解出来 ていれば、比較的容易
以下、 ま ず 【ウェブディクショナリ一公開までの に作成可能であった。そこで今回の報告では XML
大まかな流れ】を報告する。その後、 これを通じて デー タ構造のみを報告し、X S L T プログラムについ
班内 で議論されたいくつかの点を、 【
今後の課題】と ては割愛する。
してまとめる。 以上の様 に、阪大班が行なったのは X M L デー タ、
X S L T プログラムの作成までである。 これ以降の処
2 ウェブディクショナリ一公開までの大
理は高橋氏が行い、阪大班ウヱブディクショナリー
まかな流れ
が公開されることになった。
今 回 の ウ ェ ブ デ ィ ク シ ョ ナ リ ー は 、『擾本ほか
2014 』 を ウ ェブ 上で再現したものである。 この為 X M L デー タ構造の策定
に阪大班が行ったのは、X M L デ ー タと X S L T プロ X M L デー タの作成に先んじて、まずはデー タが従
グラムの作成である。 う一定の構造を策定しなければならない。策定にあ
まず X M L デー タの作成について、元となるデー タ たり、 T E I (Text Encoding Initiative ) の推奨 する

1 擾 本 文 雄 (代 表 )、河 崎 豊 、名 和 隆 乾 、畑 昌 利 、古 川 洋 平 、:_『ブ ッ ダ ゴ ー サ の 著 作 に 至 る パ ー リ 文 献 の 五 位 七 十 五 法 対 応 語 』、
Bibliotheca Indologica et Buddhologica 1 7 , 山喜房佛書林、2014.
2 作 業 は 高 橋 晃 一 氏 (東京大学 )からの全面的な協力のもとに行った。本稿執筆に際しても多くご教 示を頂いた。 同氏には深く感謝
申し上げる。 ただしウェブディクショナリー 及び本稿における稚拙さや不備などは全て阪大班に帰 する。 なお、デー タ入力には、
相原江里子氏(
大阪大学 博士前期課程)からも協力を得た。 この場を借りて感謝申し上げる。
Bauddhakosa Newsletter no.5

ガイドライン(
P 5 ) 、特 に dictionary m o d u le を参 考 設定される意味 1.2.
にした3。X M L はごく簡潔には、デー タを入れ子構 用 例 1.2.1.
造的にマー クアップしていく言語である。一方、辞 用 例 1.2.2.
書も入れ子構造から成ると看做し得る。すなわち下 見出し語 2.
図 の様 に、一冊の辞 書の中では一定の排列で見出し 設定される意味 2.1.
語が並 ぶ。見出し語の下には、意 味 が 1 つ以上設定 用 例 2.1.1.
されて並 ぶ。 そして、設定された意味の根拠 となる 用 例 2.1.2.
用 例 が 1 つ以上並 ぶ4。
設定される意味 2 2 . .

辞 書
見出し S吾1.
設定される意味 1 . 1. 『
模 本 ほ か 2014 』も、おおよそ上記構造を有する。
用 例 1.1.1. そこで『
稷 本 ほ か 2014 』の全見出し語に共通する構
用 例 1 . 1. 2 . 造を抽出し、X M L で記述すると、およそ次に示すサ
ンプルの様 になる。 (
詳細な構造は 8 頁を参 照。)

サンプル

くe n tr y 〉
< f o rm >
< f o rm > 要 素 :見出し語の基本語形に関 する情報。 …①
< /fo rm >
< sense >
< s e n s e > 要 素 :見出し語の語義を決定するための原典
資料に関 する情報。 …②
< /s e n s e >
< n o te > < e n t r y > 要 素 :「見出し語」 「語
^ 〈note 〉 要 素 :漢訳 語に関 する情報。 …③ > 義説 明」 「用例」など、辞 書の一
項目分の情報を収 める。
< n o te tv p e = “ex a m p le ”〉
< n o t e > 要 素 :補足的な用例。 アビダンマ
など。 …④
< /n o te >
< n o te ty p e = “reie re n c e ”
< n o t e > 要 素 :その他の内 容。『複本ほか
2014 』 の 【
参 考】欄の記述に相当 。 …⑤
< /n o te >
< /e n try >

3 X M L は そ の 名 ( Extensible M arkup Language. 「


拡 張可能なマー クアップ言語」)の通り、比較的自由にデー タをマー クアッ
プすることができる。 この仕様 によって柔軟な対 応 が可能である一方、人によってマー クアップが異なることになって、 デー タの
共有が困難になる恐れがある。 そ こ で ひ と ま ず T E I の推奨 するタグセットに従 っておけば、 そうした事態を防ぐことが出来 る。
つまり、 いわばマー クアップの共通のルー ルとして T E I の推奨 するタグセットを利用している。 T E I :P 5 は 以 下 の U R L を参 照。
h t t p : / / w w w .t e i - c . o r g / r e 丄 e a s e / d o c / t e i - p 5 - d o c / e n / ] i 1 : m l /
4 例え ば PW (O tto BÖtlinkgk & Rudolf R oth , »SansArii •付e rh c /i, 7 B de” St. Peterburg, 1855-1875 ) や CPD
(Vilhelm T renckner et a l . , A Critical Pali D ictionary, 3 vols., Copenhagen, 1 9 2 4 -2 0 1 1 ),D OP (M argaret C one, A
■Dicüonary o/jPaii, Oxford, 2001- ) は、基本的に上の図 の様 な構造を取っている。
研 究ノー ト 2016 年 1 月

ウェブディクショナリー 作成に際して今回最も困
難だったのが、全見出し語に共通する構造を導き出 サンプルの説 明
す作業である。策定してみたデー タ構造に、実 際に さてまず、サンプルの最初に < e n tr y > 要素がある。
デー タを作成する過程で不備が見つかる、 というこ 当 該要素が、辞 書でいう 1 つの見出し語のまとまりを
とはしばしばあった。そうなると、大まかな変 更は 表している。 その要素の内 容(
くe n try > ~ < /e n tr y >
なくとも細部を見直さねばならない。更 に 『
稷本ほ で囲 まれる部分)には、子要素7 として要素①〜⑤が
か 2014 』では、各見出し語の執筆者がそれぞれ異な 収 められる。
る、 という事情が加わる。書式に閨する基本的な取
り決めはあったが、細かい点は各見出し語担 当 者に 要素@ < f o r m > 要素について
任されていた。 この様 な場合、全見出し語に共通す 要素 ® は < f o r m > 要素、すなわち見出し語の語
る構造を導き出すのは更に容易でなくなる。 しかし 形を記述する箇所である。語 形 は < o r t h > 要素8内
構造の抽出が適切に済 めば、後は機械的に用例登録 に記述する。パー リ語形かサンスクリット語形かの
していくだけで中身が充実 し、強 力なツー ルと化し 区 別は、 < o r t h > 要素の 1i.xuil:bmぃ属 性の値として
ていくことが期待される。 また、 この様 に一定の構 “pi” (
パー リ語を表す)や “sa” (
サンスクリット語
造のもとにデー タが記述されることで、後から必要 を表す)を記入することで行う9。更に、異 形 (
例え
なデー タを柔軟に取り出すことが出来 る5。以下、本 ば 'v iriy a / v l r i y a ) を併 記する場合は次の様 に記述
稿末のサンプルに沿って、使 用 し た X M L 要素につ する。 (
左下) Z
いて説 明していく6。 (
右上) /

^ < fo r m > 要 素 (
基本語形に関 する情報)------------------------------

< form >


< o rth xm l:lang= “pi” > v in y a < /o rth >
< o rth xm l:lang= “pi” typ(-.'= “variant” >vT riya</orth>
< o rth xm l:lang= “sa” >vT rya</ortli>
< /fo rm >

上記の様 に、 < o r t h > 要素に (Ö type ニ“variant ”属 こ の < n o t e > 要素 の子 要 素 に 位 置す る < c it > 要素
性を加え、要 素 の 内 容 に 異 形 (
v l r i y a ) を記入する。 については次項で詳しく述べる。 _けxiu 丨:la,ng 属 性値
この他、『稷 本 ほ か 2014 』では見出し語の横 に漢訳 “zh” は 「中国 語」を表す。
語 も 併 記 し て い る が 、漢訳 語は訳 語であるから語
形 の 問 題 と は 異 な る 。故に漢訳 語は要素③の様 に 要素②く s e n s e 〉 要素について
< n o t e > 要素とし、< fo r m > 要素とは別に記述する。 次いで要素②のく s e n s e > 要素は、辞 書でいう設

5 しかし同時に、 デー タ構造に内 容が束縛される可能性も考えられる。


6 サンプルではく e n try 〉 要素から開始しているが、本来 ならこれより前にヘッダー などが記述される。本稿ではヘッダー などにつ
いては割愛する。
7 子要素とは、例えばコンピュー タにおいて、 フォル ダ A 内 にファイル B があった場合、 ファイル B はフォルダ A の 「子要素」 と
いった関 係をいう。他にも、フォルダ A はファイル B の 「親要素」など、いくつかの表現があるが、本 稿 で は 「 子要素」の意味が
ご理解頂けていれば充分である。
8 要 素 名 は 、 “orth[ographic form]” に 由 来 す る 。 C f.TEI P5 (s.v .< o rth > :h ttp ://w w w .t e i - c .o r g / r e l e a s e / d o c /
■ te i-p 5 -d o c /e n /h tm l/re f-o rth .lrtm l• 閲 覧 日 : 15 年 1 1 月 14 日)
9 これら言語 に 関 す る 略 号 ( s a や p i , 後 述 す る z h など)は、 ISO 6 3 9 という世界標準規格によるもので 、 TEI P 5 はそれに準拠 し
ている。

5
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定される意味を記述する箇所である。見出し語に対 • < d e f > 要素:定義的用例の原文を記入する箇所。


して意味が複数 設定されていれば、その数 に応 じて 原文中の見出し語は< t e r m > 要素内 に記入する11。
• < s o u r c e > 要素:定義的用例の出典を記入する
< s e n s e > 要素が繰り返される。
箇所。
<sense> 要 素 の 子 要 素 で あ る く cit • < c it ty p e ニ“tr a n s la tio n ”〉 要素:@ xm l:lang=
xmhlaiig ニ“pi” 〉 要素 10に は 、設 定 さ れ た 意 味 の “j a ” 属 性のものと( ix m l:la n g = “e n ” 属 性のものと
根拠 となる用例(
つまり本プロジェクトでいう「
定義 がある。それぞれの要素の内 容として、定義的用例
に対 する和訳 、英訳 を記入する。見出し語に対 する
的用例」)を記述する。 こ の < cit xm l:lang= “pi” >
訳 語は 〈tr a n s la tio n 〉 要素内 に記入する12。 ( 左
要素は、次 の 3 つの子要素から成る:(
右上) / 1
下) 《/

^ くs e n s e > 要 素 (
語義を決定するための原典資料に関 する情報)
< sense >
< c it>
くdef> く!一 - パ ー リ 語 原 典 テ キ ス ト > < /d e f>
< source >
< !一 一 出典に関 する情報 一 一 >
< /source>
くcit type= “translation” xml: lang ニ“ja ” > < ! ----- 上記テキストの和訳 — > < /c it>
くcit t,ype= “translation” xml: laiig = “en” > く!-----上記テキストの英訳 — > < /c it>
< /c it>
< /sen se>

以上によって 1 つのく c i t > 要素が構成される。登 素の子要素として記述するのか。 <sense > 要素の


録 される用例が複数 あれば、その数 に応 じて < c it> 子 要 素 に は 、既 に 述 べ た 様 に 、設定される意味の
要素が繰り返される。 根 拠 とな る 用 例 が 記 述 さ れ ね ば な ら な い 。 しかし
アビダンマの用例は基本的に類語の列挙 に過ぎず、
要素 @ 〈 n o te t y p e = “e x a m p le ”〉要素について 設定される意味の根拠 とならない場合もしばしば
要素③(
漢訳 情報)については上述したので繰り返 ある。 それ故、 < s e n s e > 要 素 で は な く 別 に < note
さず、要素® 、すなわちく note type ニ“example” > type ニ“example” > 要素を設定し、そこにアビダン
要 素 の 説 明 に 移 る 。そ の 子 要 素 に は 上 述 の <cit マの用例を収 めた。
xml:lang= :
“pi” > 要 素 と 同 じ も の が 収 め ら れ る 。
< note ty p e= “example” > 要素には、その文字列か 要 素 ⑤ くn o te t y p e = “referen ce ”〉 について
ら想像される様 に、補足的な用例を記述する。具体 的 要素⑤、すなわち < n o te type= “reference ”〉要素
には、『
稷 本 ほか 2014 』におけるアビダンマの用例が は、『
檟 本ほか 2014 』の [参 考】欄を記述する箇所で
収 められている。何故アビダンマの例を、くsense 〉 ある。当 該箇所の書式は執筆者によって様 々 であり、
要素の子要素ではなくく note ty p e = “example ”> 要 一定の構造化が困難であった。故に当 該要素に関 し

10 要 素 名 く c it> は “cit[ed quotation]” に 由 来 す る 。 Cf. T E I P5 (s.v• くcit> : h tt p ://w w w .te i- c .o r g /r e le a s e /d o c /


t e i - p 5 - d o c /e n /l it m l /r e f - c it .h tm l• 閲 覧 日 : 15 年 1 1 月 15 日)
11 e.G. idha DhiKkhave ariyasvako ra d d h a< term t.vpe=“noun” > v iriy o < /te m i> viharati.
12 e.分. 托鉢修行者達よ、今ここに、 立派な弟子はく translation t.v{)<、 :ニ“noun” fo rm = “ 勇敢さ ” 〉 勇敢さく / tran slatio n 〉 を発 動
し ている者として … ( 報告者註:中略) … 時を過ごします。 ただし、くtran slatio n 〉 タグはバウッダコー シャ . プロジェクトが
独 自に設定したタグである。
研 究ノー ト 2016 年 1 月

ては、T E I ガイドラインに準拠 せず、h tm l の書式で 成が異なってしまっている。通常、見出し語は、同


記述した。 一語根からの派生形であっても、動詞形と名詞形と
上 に 述 べ た 構 造 に 沿 っ て 、『擾 本 ほ か 2014 』の は別々 に挙 げられる。では、『
模本ほか 2014 』のデ一
X M L デー タを作成した。実 際には更に細かい工夫 タを如何に記述するのか。
もあるが、大まかな構造は上述の通りである。 この これには差し当 たり、2 つの対 処 法が考えられる。
様 に し て X M L デー タを作成した後、X S L T プログ 第 1 は通常の辞 書に合わせ、見出し語と同一語形
ラムなどによってレイアウトを行い、 ウェブ上で公 の用例のみを登録 する方法である。第 2 は、語根を
開となる。 < e n tr y > 要素に据え、その下に動詞形や名詞形を登
録 する方法である。 M a y r h o f e r の語源辞 典13がこ
3 今後の課題 れに近い構成を有する。阪大班では今回、後者に近
い方法を採った。 この問題は、デジタル辞 書のデ一
以下では、 ウェブディクショナリー 公開までの作
タ構造が如何なるものであるべきか、 ということと
業を通じて、阪大班の中で議論された点を、今後の
関 連する。今後議論を深めていくべき課題であると
課題としてまとめておく。
考えられる。

デジタル化に関 わる技術の浸透について
質的な課題
今 後 の 課 題 と し て 第 1 に挙 げたいのは、デジタ
今回のウェブディクショナリー 公開は、『檀本ほ
ル化に関 わる技術を浸透させることである。阪大班
か 2014 』 を単 に再現したという程に過ぎない。故に
ウェブディクショナリー の作成は、班内 に専 門家不
現状 程度であれば、P D F で充分との意見も予想され
在の状 態から出発 した。そこでまずは、主に高橋氏
る。 しかしデジタル化した事で、紙幅の制約が無い、
のご指導を通して、他にも書籍やウェブの情報を頼
必要なデー タのみを表示させることが可能、関 連情
りに、技術の習得から行わねばならなかった。 しか
報へのハイパー リンクを張ることが可能、そしてこ
しこの様 な技術習得が、例えば教 育カリキュラムの
れらの継 続 的なアップデー トが可能、等といった利
中に組み込 まれていれば、時間や手間の多くは省け
点がある。 これらを今後活かしていけば、斯学 に少
たことと思われる。 また班内 での議論もより深いも
なからず資することが期待される。 しかし同時に、
のとなったことと思われる。今後、斯学 においてサ
継 続 的なアップデー トが可能である故に、その学 術
ンスクリット語などの習得が当 然であるのと同程度
的信頼 性に関 する議論も必要であると考えられる。
とまで行かずとも、デジタル化に際して技術の習得
に困らない程度には技術を浸透させていくことが、 1
おわりに
つの課題として挙 げられる。
既 に公開されているウヱブサイトの中には、斯学
の研 究を推し進めるのにもはや欠かせないツー ルと
デ一タ構造について
なっているものもある。 また昨今、科研 等の応 募書

擾本ほか 2014 』では、見出し語の意味内 容の提示
類 等 に 「ウェブにて公開予定」との趣旨を記すのはも
に有用であれば、同一語根から派生した動詞形でも
はや常識である。 ところが、そうしたデジタル化を
名詞形でも用例を登録 している。 この手続 きは、当
支える技術について議論されることは、斯学 ではこ
該見出し語のそもそもの意味内 容を決定する手続 き
れまで決して多くはなかった様 に思われる。技術の
としては適切と考えられる。『
檟 本ほか 2014 』は、こ
評価 基準が定まっているのか、 またそれは何が出来 、
の手続 き自体 をも提示している。 しかしこれによっ
何が出来 ないのかといった線引きの議論が何処 まで
て、通 常 の 辞 書 (
例 え ば P W や C P D ,D O P ) とは構

Manfred Mayrhofer, Etymologisches Wörterbuch des Altindoarischen^ 3 Bde., Heidelberg, 1986-2001.


Bauddhakosa Newsletter no.5

進んでいるのかも疑問である。 こうした現状 の背景 素養でない傾向があるのは、近年の目覚 ましい技術


として、 「
デジタル技術は一部専 門家のもの」 という 的進歩 を顧みれば、一面には仕方のないことである。
認識が未だ強 いことが、 1 つには挙 げられる。そう こうした中でバウッダコー シャ • プロジェクトが、仏
した技術に学 習コストを払 うよりはエンドユー ザの 教 用語の現代基準訳 語の提案と併 行して、恐らくは
ままでいて、 自身は専 門たる文献 研 究に専 念したい、 技術の浸透や議論の活性化をも企図 しつつ、学 術的
との思いを抱く斯学 の研 究者は少なくあるまい。一 なウェブディクショナリー の作成に動いている意義
定の年齢 層以上においてデジタル技術が未だ一般的 は大きいものと思われる。

■サンプルの全体 -------------------------------------------------------------------------------------

< entry >


<form >
< o rth xm l:lang= “pi” > く!-----パー リ語形 — > < /o r th >
< o rth xm l:lang= “sa” > < ! —— サンスクリット語开 多— > < /o r th >
< /fo rm >
< sense >
< cit xm l:lang= “pi” >
くd e f > < ! - - 定義的用例 ——> < /d e f >
< so u rc e > < !----- 書 誌 情報 — > < /so u rc e >
くcit xm l:lang= “ja ” ty p e= “translation” 〉く!-----和 訳 — > < / c i t >
くcit xm l:lang= “en” ty p e= “translation” > < ! -----英 訳 — > < / c i t >
< /c it>
< /sen se>
< n o te>
くcit xm l:lang= “zh” ty p e= “translation ”〉
< p > < ! ----- 漢 g尺語— > < / p >
< s o u rc e > < !-----書 誌 情報 — > < /so u rc e >
< /c it>
< /n o te >
< n o te ty p e= “example” >
< cit xm l:lang= “pi’’>
< d e f > < ! -----パー リ文 — > < /d e f>
くsource 〉< ! ------ 書 誌 情報 — > < /so u rc e >
くcit xm l:lang= “ja ” ty p e= “translation” 〉く!-----和 訳 — > < / c i t >
くcit xm l:lang= “en” ty p e= “translation” 〉く!------ 英 訳 — > < / c i t >
< /c it>
< /n o te >
< n o te ty p e= “reference” > < ! ----- 【
參考】欄 — > < /n o te >
研 究ノー ト 2016 年 1 月


仏 教 論理学 • 認識論関 連用語の定義的用例集」の作成に向けて
a の用例を中心に一
—pratyakき
三代舞
( 早稲 田大学 )

2 用例の収 集に使用した文献
1 はじめに
仏 教 論理学 •認識論はインド後期大乗 仏 教 の潮流
本稿は、科学 研 究費補助金基盤研 究(
S ) プロジX の中に位置付けられ、ディダナー ガ(
Dignäga 、陳那、
クト「
仏 教 用語の現代基準訳 語集および定義的用例 ca. 480—5 4 0 ) に始まり、ダルマキー ルテイ(
Dhar-
集 (
バウツダコー シャ) ' の構築」における岩田•山部 makTrti、 法称 、ca_ 600—660 )1によって大成され
研 究班の活動報告である。本班は仏 教 論理学 ■認識 た。 その後の思想家の著作では、仏 教 内 外の他学 派
論における用語の調査を担 当 しており、仏 教 論理学 - との対 話を通じた議論の深まりや解釈 の変 更等は見
認識論関 連用語の定義的用例集作成に向けて準備を られるものの、仏 教 論理学 •認識論の体 系はこの両
進めてきた。作業の総 括として、以下に、用例の収 者の時点でほぼ完成していると言ってよい。彼等が
集に使用した文献 および用語選定における指針を示 仏 教 論理学 ■認識論に関 して体 系的に論じた主な著
し、用例集のサンプルを挙 げる。 作は以下の通りである2。

書名 著者 略号 現在利用可能な資料
1 Nyayamukha ディグナー ガ NM 漢
『因明正理門論』
2 Pramanas amuccav a PS ( 梵)3蔵
3 y äy apraves aka4 シヤンカラスヴアー ミン N Pr 梵蔵 5漢
『因明入正理論』
4 Pramanav arttika ダルマキー ルテイ PV 梵蔵
5 Pramanavims cay a PV in 梵蔵
6 Nyäyabindu NB 梵蔵

両 者の年代については,暫定的に Erich Frauwallner “Landm arks in th e H istory of Indian Logic,” ( W iener Ze 紅sc/iri/t
fü r die Kunde Süd- und Ostasiens, 5 ,1 9 6 1 ,1 2 5 —1 4 8 ) に従 う 。 ダ ル マ キ 一 ル テ ィ に つ い て は 、近年 Helmut Krasser
“Bhäviveka, DharmakTrti and K um ärila” ( 船 山 徹 『中国 印度宗教 史とくに仏 教 史における書物の流通伝 播と人物移動の地域
特性』、平 成 1 9 年 度 〜 平 成 2 2 年 度 科 学 研 究 費 補 助 金 ( 基盤研 究( B ) ) 研 究 成 果 報 告 書 (課 題 番 号 19320010 ) 、 195—2 4 2 ) が、
主にバー ヴィヴエー 力の Mad/iyamafea/ifdaya たäWfoäお よ び それ に 対 す る 註 釈 ThrfcajyäZäの記述に基づいて、バー ヴィヴエー
力がダルマキ一ルティおよび同時代のクマ一リラの説 を知っていたと考え、改 め て 6 世紀中頃という年代設定を提示した。
ディグナー ガおよびダルマキー ルティの著作とその関 連資料については、塚 本 啓 祥 他 『梵 語 仏 典 の 研 究 I V 論書篇』 ( 平楽 寺書店、
1990) 、410—4 4 5 等を參照せよ。
ジネー ンドラブッデイ( Jinendrabuddhi, ca. 710—770 ) による注釈 V'üöZömaZava沉 Pram äpasarm iccaya 成 ;ä (以下 PST)
からの回収 による。一部の章のみが公開されている。
TVyäyapraveゴafca については、著者および書名に関 して異説 がある。 まず著者については、蔵 訳 がディグナ一ガとするのに対 し
て、漢 訳 は その 弟 子 シ ヤ ン カラ ス ヴ ア ー ミ ン (
白aA karasväm in, 商 羯 羅 塞 縛 彌 :商 羯 羅 主 :骨 瑣 主 :天主、ca. 500—5 6 0 ) とす
る。サンスクリット語資料には直接的な手がかりが見つからないものの、ディグナー ガの著作であることが確実 な『因明正理門論』
や P S との内 容比較によれば、別の著者によるものであることが推察される。 また書名については、蔵 訳 および漢文資料に示され
る音写 によれば iVyäyaprave^'a か想定されるのに対 して、イ ン ド に 残 る 写 本 の 奥 書 や 注 釈 中 で 言 及 さ れ る の は ん a
という名称 である。稲 見 [2 0 1 1 :22—2 6 ] に、 これらの問題に関 する研 究史のまとめと新たな考察が提示されている。
蔵 訳 には、サ ンスクリット語原文からの翻 訳 (
N P r T l ) と 漢 訳 か ら の 重 訳 (N P r T 2 ) の二種がある。稲 見 [2 0 1 1 :19—20] が報
Bauddhakosa

スタッフ

研 究代表者 連携研 究者 加藤弘ニ郎( 斎 藤研 究班)


斎 藤明 石井公成( 駒澤大学 仏 教 学 部 • 教 授) 堀内 俊郎( 斎 藤研 究班)
( 東京大学 大学 院人文社会 系研 究科• 教 授) 岩田孝( 早稲 田大学 • 名誉 教 授) 石田尚 敬( 斎 藤研 究班)
「 総 括 + インド大乗 仏 教 経 論」 永ノ尾信悟( 東京大学 • 名誉 教 授) 松田訓典( 斎 藤研 究班)
桂紹隆( 広 島大学 • 名誉 教 授) 一色大悟( 斎 藤研 究班)
研 究分担 者 久間泰賢( 三重大学 人文学 部 • 准教 授) 得能公明( 斎 藤研 究班)
檀本文雄 下 田 正 弘 (東京大学 大学 院人文社会 系研 究科 • 教 授) 新作慶明( 斎 藤研 究班)
( 大阪大学 大学 院文学 研 究科• 教 授) 末木文美士( 東京大学 • 名誉 教 授) 鄭祥教 ( 斎 藤研 究班)
「 初期仏 教 関 連用語」 馬場紀寿 ( 東京大学 東洋文化研 究所• 准教 授) 崔境眞( 斎 藤研 究班)
室寺義仁 丸 井 浩 (東京大学 大学 院人文社会 系研 究科 • 教 授) T h o m a s N e w h a ll( 斎 藤研 究班)
( 滋賀医 科大学 • 教 授) 費 輪 顕 童 (東京大学 大学 院人文社会 系研 究科 • 教 授) 楊 潔 ( 斎 藤研 究班)
「 初期瑜伽行派関 連用語」 渡辺 章悟( 東洋大学 文学 部 • 教 授) 清 水尚 史( 斎 藤研 究班)
佐久間秀範 河崎豊( 複本研 究班)
( 筑波大学 大学 院人文社会 科学 研 究科• 教 授 ) 研 究協力者 畑昌利( 稷本研 究班)
「 瑜伽行唯識思想関 連用語」 C harles M uller 名和隆乾( 稷本研 究班)
宮 崎泉 ( 東京大学 大学 院人文社会 系研 究科• 特任教 授) 古川洋平( 稷本研 究班)
( 京都大学 大学 院文学 研 究科• 准教 授) P ain H arrison 岡田英作( 室寺研 究班)
「 インド中観 思想及びチベット仏 教 思想関 連」 (S ta n fo rd U niv. P rofessor) 高務祐輝( 室寺研 究班)
山部能宜 Jo n a th a n Silk (L eiden U niv. P roiessor) 横 山剛( 宫 崎研 究班)
( 早稲 田大学 大学 院文学 研 究科• 教 授) ツルティム • ケ サ ン ( 大谷大学 • 名誉 教 授) 三代舞( 山部研 究班)
「 仏 教 論理学 • 認識論関 連用語」 永崎研 宣( 人文情報学 研 究所 • 所長) 真 鍋智裕( 山部研 究班)
桜 井宗信 苫 米地等流( 人文情報学 研 究所 • 専 任研 究員) 佐藤晃( 山部研 究班)
( 東北大学 大学 院文学 研 究科• 教 授) 叶 少勇( 北京大学 • 准教 授) 佐々 木亮( 山部研 究班)
「 インド密教 関 連用語」 何歓 歓 ( 浙江大学 • 教 授) 菊谷竜 太( 桜 井研 究班)
高橋晃ー (
斎 藤研 究班)

厂 編 集 1矣自Q ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

昨年 1 1 月下旬にウヱブ版バウッダコー シャを更新し、「
パー リ文献 の五位七十五法対 応 語」を追加いたしました。
これは大阪大学 研 究班の成果である『ブッダゴー ザの著作に至るパー リ文献 の五位七十五法対 応 語』(
2014 年、山喜
房仏 書林)に基づくウェブディクショナリー です。本 誌 (
P P .3 -8 ) に関 連記事を掲 載しております。ご高覧 いただけ
れば幸いに存じます。また、早稲 田大学 研 究班の成果に関 する報告も掲 載しております(
pp.9-19 )。pratyak§a の
訳 語に関 する検 討とダルマキー ルティの認識論• 論理学 の体 系を整理したチャー トは最新の研 究成果です。こちらも
ご参 照下さいますようお願い申し上げます。

B a u d d h a k o 会a N e w s le tte r 第 5 号 ( 2016 年 1 月 14 日発 行)

発 行 兀 :B auddhakosa フロンエクト (The Creation of B auddhakosa : A Treasury of Buddhist Terms


and Illustrative Sentences 【
Grant-m -Aid lor Scientitic Research(S)】 )

〒:L13-0033
東京都文京区 本郷 7 丁 目 3 番 1 号
東京大学 大学 院人文社会 系研 究科•文学 部
インド哲学 仏 教 学 研 究室内
E-m ail:b_kosha@ l .u - to k y o . a c . j p
印刷株式会 社サンワ

Bauddhako 如プロジェクトの研 究成果は、以 下 の U R L よりご覧 いただけます。


httD://www.1 .u-tokyo.ac.jp/~b_kosha/start.index.html

20
科学 研 究費補助金基盤(
S ) プロジヱクト:
________ 仏 教 用語の現代基準訳 語集および定義的用例集(
バウッダコー シャ)の構築

2016 年 1 月

B au ddh a^ osa
N e w sle tte r No.5

目次

活動報告 1
パネル発 表「
煩悩 の根源をめぐって」 .................................................................................................................... 1
ブッダゴー サ著作に基づくパー リ語彙集のウェブ版公開 ...................................................................................... 2

研 究ノ一卜 3
阪大班ウヱブディクショナリー 作成までの作業報告(
名和隆乾) ..................................................................... 3

仏 教 論理 学 • 認識論関 連用語の定義的用例集」の 作 成 に 向 け て (
三代舞) ..................................................9

活動報告

パネル発 表「
煩悩 の根源をめぐって」

2 0 1 5 年 9 月 2 0 日 (日)、高野山大学 で開催され
ま し た 第 6 6 回日本印度学 仏 教 学 会 学 術大会 におい
て、大阪大学 の擾本文雄教 授(
バウッダコー シャプロ
ジェクト研 究分担 者)の主催により、 「
煩悩 の根源を 主催者の檯 本先生。司会 も務められた。
めぐって一v ik a lp a ( 分別)と p r a p a ü c a ( 戯 論)一」
伝 統的には煩悩 の根源は無明や貪瞋痴の三毒とし
と題してパネル発 表を行ないました。 これは例年 11
て説 明されておりましたが、大乗 仏 教 の論師たちは
月ごろに行っておりましたシンポジウムに代わる催
vikalpa ( 分別)や prapaüca (虚 戈論)に着目し煩悩 の
しです。
根源についてより思索を深めていきました。パネル
仏 教 は煩悩 の克服によって涅槃という静 謐な境地
では、初期仏 教 、説 一切有部、般若経 、ナー ガー ル
を目指していたと言っても過言ではないでしよう。
ジュナ、瑜伽行派、および仏 教 認識論の各専 門家が、
そのかぎりにおいて伝 統的な教 団 仏 教 と大乗 仏 教 に
それぞれの分野における分別や戯 論について文献 資
大きな差異はありませんが、煩悩 の根源に何を見て
料に基づいて問題点を解説 し、広 く仏 教 全体 を俯瞰
いたかということは注意深く考える必要があります。
しながら煩悩 の根源について議論しました。パネリ

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